(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20241126BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20241126BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H01L29/78 652K
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 658E
H01L29/78 658A
H01L29/78 658G
H01L29/78 658F
(21)【出願番号】P 2021537693
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(86)【国際出願番号】 JP2020028479
(87)【国際公開番号】W WO2021024810
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2019143975
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 康太郎
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-012677(JP,A)
【文献】特開2014-222734(JP,A)
【文献】特開2016-018860(JP,A)
【文献】特開2018-182032(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135147(WO,A1)
【文献】特開2019-096794(JP,A)
【文献】国際公開第2013/114477(WO,A1)
【文献】特開2015-156429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/423
H01L 21/336
H01L 21/316
H01L 21/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲートトレンチが設けられた主面を有する炭化珪素基板と、
前記炭化珪素基板上のゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上のゲート電極と、
を有し、
前記ゲートトレンチは、前記主面に連なる内面を有し、
前記ゲート絶縁膜は、
前記内面上に設けられた第1部分と、
前記主面上に設けられ、前記第1部分に連なる第2部分と、
を有し、
前記ゲート電極は、
前記第1部分を介して前記ゲートトレンチ内に設けられた基部と、
前記基部及び前記第2部分上に設けられ、前記第2部分に接する傘部と、
を有し、
前記ゲートトレンチの長手方向に垂直な方向からの断面視で、
前記傘部の最大幅は、前記ゲートトレンチの開口端における幅より大きく、
前記傘部の側面は、前記傘部が前記ゲート絶縁膜に接する位置と前記ゲート電極の幅が最大となる位置との間で前記主面に向けて凸状の曲面となっており、
前記傘部の幅は、前記傘部の幅が最大となる位置よりも前記主面側で、前記最大幅より小さい炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記曲面の曲率半径は、前記ゲート絶縁膜の厚さの10%以上20%以下である請求項
1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記ゲート絶縁膜は、炭素を含有する請求項1
または請求項
2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記傘部の側面及び上面に接し、前記ゲート絶縁膜とは組成が異なる絶縁膜を有する請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記ゲートトレンチは、面方位{0-33-8}を有するトレンチ側面を含む請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
前記傘部の側面の前記ゲート電極の幅が最大となる位置と前記主面との間の距離は、5nm以上15nm以下である請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項7】
ゲートトレンチが設けられた主面を有する炭化珪素基板と、
前記炭化珪素基板上のゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上のゲート電極と、
を有し、
前記ゲートトレンチは、前記主面に連なる内面を有し、
前記ゲート絶縁膜は、
前記内面上に設けられた第1部分と、
前記主面上に設けられ、前記第1部分に連なる第2部分と、
を有し、
前記ゲート電極は、
前記第1部分を介して前記ゲートトレンチ内に設けられた基部と、
前記基部及び前記第2部分上に設けられ、前記第2部分に接する傘部と、
を有し、
前記ゲートトレンチの長手方向に垂直な方向からの断面視で、
前記傘部の最大幅は、前記ゲートトレンチの開口端における幅より大きく、
前記傘部の幅は、前記傘部の幅が最大となる位置よりも前記主面側で、前記最大幅より小さく、
前記傘部の側面の前記ゲート電極の幅が最大となる位置と前記主面との間の距離は、5nm以上15nm以下である炭化珪素半導体装置。
【請求項8】
主面を有する炭化珪素基板を準備する工程と、
前記主面に、前記主面に連なる内面を備えるゲートトレンチを形成する工程と、
前記炭化珪素基板上に、前記内面上に設けられる第1部分と、前記主面上に設けられ、前記第1部分に連なる第2部分と、を有するゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜上に、前記第1部分を介して前記ゲートトレンチ内に設けられた基部と、前記基部及び前記第2部分上に設けられ、前記第2部分に接する疑似傘部と、を有する疑似ゲート電極を形成する工程と、
前記疑似傘部の熱酸化を行うことにより、前記疑似ゲート電極から、前記基部と、前記基部及び前記第2部分上に設けられ、前記第2部分に接する傘部と、を有するゲート電極を形成する工程と、
を有し、
前記熱酸化後において、前記ゲートトレンチの長手方向に垂直な方向からの断面視で、
前記傘部の最大幅は、前記ゲートトレンチの開口端における幅より大きく、
前記傘部の幅は、前記傘部の幅が最大となる位置よりも前記主面側で、前記最大幅より小さい炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記疑似ゲート電極を形成する工程と、前記疑似傘部を熱酸化する工程との間に、
前記ゲート絶縁膜のエッチングを行う工程を有し、
前記エッチング後において、前記ゲート絶縁膜の縁は、前記疑似傘部の縁より内側に後退している請求項8に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭化珪素半導体装置およびその製造方法に関する。
【0002】
本出願は、2019年8月5日出願の日本出願第2019-143975号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0003】
炭化珪素基板の一方の主面にゲートトレンチが形成され、ゲートトレンチ内から主面の上方まで延出するようにゲート電極が設けられ、炭化珪素基板とゲート電極との間にゲート絶縁膜が設けられた炭化珪素半導体装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本開示の炭化珪素半導体装置は、ゲートトレンチが設けられた主面を有する炭化珪素基板と、前記炭化珪素基板上のゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜上のゲート電極と、を有し、前記ゲートトレンチは、前記主面に連なる内面を有し、前記ゲート絶縁膜は、前記内面上に設けられた第1部分と、前記主面上に設けられ、前記第1部分に連なる第2部分と、を有し、前記ゲート電極は、前記第1部分を介して前記ゲートトレンチ内に設けられた基部と、前記基部及び前記第2部分上に設けられ、前記第2部分に接する傘部と、を有し、前記ゲートトレンチの長手方向に垂直な方向からの断面視で、前記傘部の最大幅は、前記ゲートトレンチの開口端における幅より大きく、前記傘部の幅は、前記傘部の幅が最大となる位置よりも前記主面側で、前記最大幅より小さい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その4)である。
【
図6】
図6は、第1の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その5)である。
【
図7】
図7は、第1の実施形態の変形例に係る炭化珪素半導体装置の構成を示す断面図である。
【
図8】
図8は、第2の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図9】
図9は、第2の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図10】
図10は、第2の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
従来の炭化珪素半導体装置では、近年の更なる高耐圧化の要請に十分に応えることが困難である。
【0008】
そこで、本開示は、ゲート絶縁膜の絶縁耐圧を向上できる炭化珪素半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によれば、ゲート絶縁膜の絶縁耐圧を向上できる。
【0010】
実施するための形態について、以下に説明する。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。本明細書中の結晶学的記載においては、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。また結晶学上の指数が負であることは、通常、”-”(バー)を数字の上に付すことによって表現されるが、本明細書中では数字の前に負の符号を付している。
【0012】
〔1〕 本開示の一態様に係る炭化珪素半導体装置は、ゲートトレンチが設けられた主面を有する炭化珪素基板と、前記炭化珪素基板上のゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜上のゲート電極と、を有し、前記ゲートトレンチは、前記主面に連なる内面を有し、前記ゲート絶縁膜は、前記内面上に設けられた第1部分と、前記主面上に設けられ、前記第1部分に連なる第2部分と、を有し、前記ゲート電極は、前記第1部分を介して前記ゲートトレンチ内に設けられた基部と、前記基部及び前記第2部分上に設けられ、前記第2部分に接する傘部と、を有し、前記ゲートトレンチの長手方向に垂直な方向からの断面視で、前記傘部の最大幅は、前記ゲートトレンチの開口端における幅より大きく、前記傘部の幅は、前記傘部の幅が最大となる位置よりも前記主面側で、前記最大幅より小さい。
【0013】
本発明者の鋭意検討により、ゲート絶縁膜の絶縁破壊の原因の一つとして、ゲート電極のアライメントずれにより、ゲート電極の側面とトレンチの上端との間の距離が設計値よりも小さい場合があることが明らかになった。従来の炭化珪素半導体装置の構造では、ゲート電極のゲート絶縁膜に接する部分でゲート電極の幅が最大になっているため、ゲート電極の側面の下端に電界が集中しやすい。このため、ゲート電極の側面とゲートトレンチの上端との間の距離が設計値よりも小さくなると、ゲートトレンチの開口端の角部近傍との間でゲート絶縁膜に過度の電界が印加され、十分な絶縁耐圧が得られないことがある。一方、ゲート電極に上記傘部が含まれる場合には、ゲート電極の傘部の幅が、傘部の幅が最大となる位置よりも主面側で、最大幅より小さいため、ゲート電極の側面の下端での電界集中を緩和できる。従って、製造プロセス中にアライメントずれによりゲート電極の側面とゲートトレンチの開口端との間の距離が設計値よりも小さくなっても、電界集中の緩和によって絶縁破壊が抑制され、ゲート絶縁膜の絶縁耐圧を向上できる。
【0014】
〔2〕 〔1〕において、前記傘部の側面は、前記傘部が前記ゲート絶縁膜に接する位置と前記ゲート電極の幅が最大となる位置との間で前記主面に向けて凸状の曲面となっていてもよい。傘部がゲート絶縁膜に接する位置とゲート電極の幅が最大となる位置との間で第2部分の側面が主面に向けて凸状の曲面であると、ゲート電極の幅が最大となる部分より上方の部分にかけて傾斜の変化が緩やかになり、電界集中が緩和されやすい。
【0015】
〔3〕 〔2〕において、前記曲面の曲率半径は、前記ゲート絶縁膜の厚さの10%以上20%以下であってもよい。曲面の曲率半径が10%以上20%以下であると、適度に電界集中が緩和される。
【0016】
〔4〕 〔1〕~〔3〕において、ゲート絶縁膜は、炭素を含有してもよい。炭化珪素基板の熱酸化により、炭素を含有するゲート絶縁膜を形成できる。
【0017】
〔5〕 〔1〕~〔4〕において、前記傘部の側面及び上面に接し、前記ゲート絶縁膜とは組成が異なる絶縁膜を有してもよい。ゲート電極の熱酸化によりゲート絶縁膜とは組成が異なる絶縁膜を形成できる。
【0018】
〔6〕 〔1〕~〔5〕において、前記ゲートトレンチは、面方位{0-33-8}を有するトレンチ側面を含んでもよい。ゲートトレンチが、面方位{0-33-8}を有するトレンチ側面を含むと、ゲートトレンチの側面において良好な移動度が得られ、チャネル抵抗を低減できる。
【0019】
〔7〕 〔1〕~〔6〕において、前記傘部の側面の前記ゲート電極の幅が最大となる位置と前記主面との間の距離は、5nm以上15nm以下であってもよい。この距離が5nm以上15nm以下であると、簡便な処理により優れた絶縁耐圧を得られる。
【0020】
〔8〕 本開示の他の一態様に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は、主面を有する炭化珪素基板を準備する工程と、前記主面に、前記主面に連なる内面を備えるゲートトレンチを形成する工程と、前記炭化珪素基板上に、前記内面上に設けられる第1部分と、前記主面上に設けられ、前記第1部分に連なる第2部分と、を有するゲート絶縁膜を形成する工程と、前記ゲート絶縁膜上に、前記第1部分を介して前記ゲートトレンチ内に設けられた基部と、前記基部及び前記第2部分上に設けられ、前記第2部分に接する疑似傘部と、を有する疑似ゲート電極を形成する工程と、前記疑似傘部の熱酸化を行うことにより、前記疑似ゲート電極から、前記基部と、前記基部及び前記第2部分上に設けられ、前記第2部分に接する傘部と、を有するゲート電極を形成する工程と、を有し、前記熱酸化後において、前記ゲートトレンチの長手方向に垂直な方向からの断面視で、前記傘部の最大幅は、前記ゲートトレンチの開口端における幅より大きく、前記傘部の幅は、前記傘部の幅が最大となる位置よりも前記主面側で、前記最大幅より小さい。
【0021】
疑似傘部の熱酸化では、疑似傘部のゲート絶縁膜と接する部分の近傍において優先的に酸化が進行し、疑似傘部がゲート絶縁膜に接する部分での幅が、最大幅より小さくなる。このため、ゲート電極の側面の下端での電界集中を緩和できる。従って、製造プロセス中にアライメントずれによりゲート電極の側面とトレンチの上端との間の距離が設計値よりも小さくなっても、電界集中の緩和によって絶縁破壊が抑制され、ゲート絶縁膜の絶縁耐圧を向上できる。
【0022】
〔9〕 〔8〕において、前記疑似ゲート電極を形成する工程と、前記疑似傘部を熱酸化する工程との間に、前記ゲート絶縁膜のエッチングを行う工程を有し、前記エッチング後において、前記ゲート絶縁膜の縁は、前記疑似傘部の縁より内側に後退していてもよい。疑似傘部の熱酸化の前にゲート絶縁膜の縁を疑似傘部の縁より内側に後退させておくことで、疑似傘部と主面との間で疑似ゲート電極をより広範囲にわたって酸化させることができ、絶縁耐圧をより向上できる。
【0023】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態について詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0024】
〔第1の実施形態〕
まず、本開示の第1の実施形態について説明する。第1の実施形態は、いわゆる縦型の炭化珪素半導体装置に関する。
図1は、第1の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の構成を示す断面図である。
【0025】
図1に示すように、第1の実施形態に係る炭化珪素半導体装置100は、炭化珪素基板1と、ソース電極16と、ドレイン電極30と、ソース配線19と、ゲート絶縁膜40と、ゲート電極50と、層間絶縁膜45とを主に有している。炭化珪素基板1は、炭化珪素単結晶基板11と、炭化珪素エピタキシャル層2とを含んでいる。炭化珪素エピタキシャル層2は、炭化珪素単結晶基板11上に設けられている。炭化珪素基板1は、第1主面10と、第2主面20とを有している。第2主面20は、第1主面10の反対側にある。炭化珪素エピタキシャル層2は第1主面10を構成する。炭化珪素単結晶基板11は第2主面20を構成する。
【0026】
第1主面10は、たとえば(000-1)面または(000-1)面に対して8°未満のオフ角で傾斜した面である。オフ角は、6°以下であってもよいし、4°以下であってもよい。オフ角は、2°以上であってもよい。炭化珪素単結晶基板11および炭化珪素エピタキシャル層2は、たとえばポリタイプ4Hの六方晶炭化珪素である。炭化珪素単結晶基板11は、たとえば窒素(N)などのn型不純物を含みn型の導電型を有する。
【0027】
ドレイン電極30は、第2主面20に設けられている。ドレイン電極30は、炭化珪素単結晶基板11の導電型に応じて、n型の場合たとえばニッケルシリサイド(NiSi)、p型の場合たとえばチタンアルミニウム(TiAl)を含む材料により構成されている。ドレイン電極30は、n型、p型に関わらず、たとえばチタンアルミニウムシリコン(TiAlSi)を含む材料により構成されていてもよい。
【0028】
炭化珪素基板1は、ドリフト領域12と、ボディ領域13と、ソース領域14と、コンタクト領域18とを主に含んでいる。ドリフト領域12は、たとえば窒素などのn型不純物を含み、n型の導電型(第1導電型)を有する。ドリフト領域12のn型不純物の濃度は、たとえば7×1015cm-3程度である。炭化珪素単結晶基板11のn型不純物の濃度は、ドリフト領域12のn型不純物の濃度よりも高くてもよい。
【0029】
ボディ領域13は、ドリフト領域12上にある。ボディ領域13は、ドリフト領域12に接している。ボディ領域13は、たとえばアルミニウム(Al)などのp型不純物を含み、p型の導電型(第2導電型)を有する。ゲート絶縁膜40と対向するボディ領域13の領域において、チャネルが形成可能である。
【0030】
ソース領域14は、ボディ領域13上にある。ソース領域14は、ボディ領域13と接する。ソース領域14は、ボディ領域13によってドリフト領域12から隔てられている。ソース領域14は、たとえば窒素またはリン(P)などのn型不純物を含んでおり、n型の導電型を有する。ソース領域14は、第1主面10の一部を構成している。ソース領域14のn型不純物の濃度は、ドリフト領域12のn型不純物の濃度よりも高くてもよい。
【0031】
コンタクト領域18は、たとえばボディ領域13と、ソース領域14とに接している。コンタクト領域18は、たとえばアルミニウムなどのp型不純物を含んでおり、p型の導電型を有する。コンタクト領域18が含むp型不純物の濃度は、ボディ領域13が含むp型不純物の濃度よりも高くてもよい。コンタクト領域18は、ボディ領域13と第1主面10とを繋いでいる。コンタクト領域18は、第1主面10の一部を構成していてもよい。なお、上記各不純物領域におけるn型不純物またはp型不純物の濃度は、たとえば二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectrometry:SIMS)法により測定可能である。
【0032】
第1主面10には、ゲートトレンチ6が設けられている。たとえば、第1主面10は、平坦部5を有し、ゲートトレンチ6は、トレンチ側面3と、底面4とを備えた内面6Aを有している。ゲートトレンチ6は、トレンチ側面3と、底面4とにより規定されている。トレンチ側面3は、平坦部5に連なる。つまり、内面6Aは第1主面10に連なる。トレンチ側面3は、ボディ領域13とソース領域14を貫通してドリフト領域12に至っている。底面4は、トレンチ側面3に連なる。底面4は、ドリフト領域12に位置している。
【0033】
ゲートトレンチ6の長手方向に垂直な方向からの断面視において、ゲートトレンチ6は、たとえばUの字状の形状を有している。すなわち、断面視において、トレンチ側面3は、平坦部5に対してほぼ垂直であり、底面4は、平坦部5とほぼ平行である。ソース領域14とボディ領域13とドリフト領域12とは、ゲートトレンチ6のトレンチ側面3を構成している。ドリフト領域12は、ゲートトレンチ6の底面4を構成している。
【0034】
ゲート絶縁膜40は、内面6A及び第1主面10上に設けられている。ゲート絶縁膜40は、ゲート電極50と炭化珪素基板1とを隔てる。ゲート絶縁膜40は、たとえば炭化珪素の熱酸化膜である。ゲート絶縁膜40は、たとえば二酸化珪素(SiO2)及び炭素(C)を含む材料により構成されている。ゲート絶縁膜40中の炭素の割合は、たとえば10質量%以上90質量%以下である。ここでいう炭素の割合は、たとえばSIMS法により測定可能である。
【0035】
ゲート絶縁膜40の厚さは、たとえば20nm以上80nm以下程度である。ゲート絶縁膜40は、トレンチ側面3において、ソース領域14と、ボディ領域13と、ドリフト領域12と接している。ゲート絶縁膜40は、底面4において、ドリフト領域12と接している。ゲート絶縁膜40は、内面6A上に設けられた第1部分41と、第1主面10上に設けられ、第1部分41に連なる第2部分(フランジ部)42とを有する。
【0036】
ゲート電極50は、たとえばリンなどの不純物を含むポリシリコンにより構成されている。リンなどの不純物は、たとえば閾値電圧の調整のために含まれている。ゲート電極50は、断面視で、Tの字型の断面形状を有する。すなわち、ゲート電極50は、ゲートトレンチ6内の基部51と、基部51上の傘部52とを有する。傘部52は、面内方向でゲートトレンチ6の両側に張り出し、ゲート絶縁膜40の第2部分42を覆う。面内方向とは、炭化珪素基板1の厚さ方向に垂直な面内の方向である。傘部52の側面53の下端は第2部分42に接する。側面53は、傘部52の上端から下方に向かうほど面内方向で基部51から離間する上側傾斜部54と、ゲート絶縁膜40の第2部分42との接触部57から上方に向かうほど面内方向で基部51から離間する下側傾斜部55とを有する。
【0037】
ゲート電極50の幅は、上側傾斜部54と下側傾斜部55との境界56の高さで最大となっている。つまり、ゲート電極50は、境界56の高さにゲート電極50の最大の幅WG1を有する。また、境界56の高さでの幅WG1は、ゲートトレンチ6の上端における開口幅WTより大きい。下側傾斜部55において、側面53は第2部分42との接触部57から上方に向かうほど面内方向で基部51から離間するため、ゲート電極50の接触部57での幅WG2は幅WG1より小さい。すなわち、傘部52の幅は、傘部52の幅が最大となる位置よりも第1主面10側で、最大の幅WG1より小さい。後述のように、上側傾斜部54および下側傾斜部55はゲート電極50の熱酸化により形成されてもよく、下側傾斜部55は、たとえば接触部57と境界56との間で第1主面10に向けて凸状の曲面となっている。この凸状の曲面の曲率半径は、好ましくはゲート絶縁膜40の厚さの10%以上20%以下である。曲率半径がゲート絶縁膜40の厚さの10%未満では、ゲート電極50の最大の幅WG1を有する境界56がゲート絶縁膜40に近すぎて、優れた絶縁耐圧を得にくい場合がある。また、曲率半径がゲート絶縁膜40の厚さの20%超では、上側傾斜部54および下側傾斜部55がゲート電極50の熱酸化により形成されている場合に、ゲート電極50の熱酸化が過剰であるおそれがある。例えば、ゲート電極50の熱酸化の際にゲート絶縁膜40とボディ領域13との界面に新たに酸素原子が到達してボディ領域13が更に酸化され、この界面の特性が劣化しているおそれがある。より好ましくは、下側傾斜部55の凸状の曲面の曲率半径は、ゲート絶縁膜40の厚さの15%以上20%以下である。具体的には、下側傾斜部55の凸状の曲面の曲率半径は、たとえば5nm以上15nm以下であり、好ましくは10nm以上15nm以下である。
【0038】
境界56において側面53は緩やかな凸状の曲面となっていることが好ましい。境界56の近傍で側面53の傾斜が急激に変化する場合、境界56の近傍に電界が集中しやすいためである。基部51は第1部分の一例であり、傘部52は第2部分の一例である。炭化珪素基板1の厚さ方向において、ゲート電極50の第1主面10よりゲートトレンチ6の底側に位置する部分の厚さは、たとえばゲート電極50の厚さの60%以上90%以下である。
【0039】
傘部52の側面53と上面58とに接する被覆絶縁膜60が形成されている。被覆絶縁膜60は、たとえばリンなどの不純物を含むポリシリコンの熱酸化膜である。被覆絶縁膜60は、たとえば二酸化珪素およびリンなどの不純物を含む材料により構成されている。傘部52と平坦部5との間で、被覆絶縁膜60はバーズビークの形状を有する。境界56と平坦部5との間には、被覆絶縁膜60およびゲート絶縁膜40が存在し、境界56と平坦部5との間の距離Lは、好ましくは5nm以上15nm以下であり、より好ましくは10nm以上15nm以下である。距離Lが5nm未満では、ゲート電極50の最大の幅WG1を有する境界56がゲート絶縁膜40に近すぎて、優れた絶縁耐圧を得にくい場合がある。距離Lを15nm超とするには、煩雑な処理が必要になるおそれがある。
【0040】
層間絶縁膜45は、被覆絶縁膜60およびゲート絶縁膜40に接して設けられている。層間絶縁膜45は、たとえば二酸化珪素を含む材料により構成されている。層間絶縁膜45及び被覆絶縁膜60は、ゲート電極50とソース電極16とを電気的に絶縁している。
【0041】
ソース電極16は、第1主面10に接している。具体的には、ソース電極16は、第1主面10においてソース領域14に接している。ソース電極16は、コンタクト領域18と接していてもよい。ソース電極16は、たとえばチタン(Ti)と、アルミニウムと、珪素(Si)とを含む材料により構成されている。ソース電極16は、たとえばソース領域14とオーミック接合している。ソース配線19は、ソース電極16に接している。ソース配線19は、たとえばアルミニウムを含む材料により構成されている。
【0042】
次に、第1の実施形態に係る炭化珪素半導体装置100の製造方法について説明する。
図2~
図6は、第1の実施形態に係る炭化珪素半導体装置100の製造方法を示す断面図である。
【0043】
まず、
図2に示すように、炭化珪素基板1が準備される。たとえば昇華法を用いて炭化珪素単結晶基板11が準備される。炭化珪素単結晶基板11の最大径は、たとえば100mm以上であり、好ましくは150mm以上である。次に、炭化珪素単結晶基板11上にエピタキシャル層が形成される。たとえば原料ガスとしてシラン(SiH
4)とプロパン(C
3H
8)との混合ガスを用い、キャリアガスとしてたとえば水素ガス(H
2)を用い、ドーパントガスとしてアンモニア(NH
3)を用いた化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法により、炭化珪素単結晶基板11上にドリフト領域がエピタキシャル成長により形成される。
【0044】
次に、イオン注入が実施される。ドリフト領域12の表面に対して、たとえばアルミニウムなどのp型不純物がイオン注入される。これにより、ドリフト領域12と接するボディ領域13が形成される。次に、ボディ領域13に対して、たとえばリンなどのn型不純物がイオン注入される。これにより、n型の導電型を有するソース領域14が形成される。ソース領域14は、第1主面10を構成する。ソース領域14が含むn型不純物の濃度は、ボディ領域13が含むp型不純物の濃度よりも高い。次に、ソース領域14に対して、たとえばアルミニウムなどのp型不純物がイオン注入されることにより、コンタクト領域18が形成される。
【0045】
次に、炭化珪素基板1にイオン注入された不純物を活性化するため活性化アニールが実施される。活性化アニールの温度は、好ましくは1500℃以上1900℃以下である。活性化アニールの時間は、たとえば30分程度である。活性化アニールの雰囲気は、好ましくは不活性ガス雰囲気であり、たとえばアルゴン(Ar)雰囲気である。
【0046】
次に、
図3に示すように、ゲートトレンチ6が形成される。たとえば、ソース領域14およびコンタクト領域18から構成される第1主面10上に、ゲートトレンチ6が形成される位置上に開口を有するマスクが形成される。そして、マスクを用いて、ソース領域14の一部と、ボディ領域13の一部と、ドリフト領域の一部とがエッチングにより除去される。エッチングの方法としては、たとえば反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)、特に誘導結合プラズマ反応性イオンエッチング(Inductively Coupled Plasma Reactive Ion Etching:ICP-RIE)を用いることができる。具体的には、たとえば反応ガスとして六フッ化硫黄(SF
6)またはSF
6と酸素(O
2)との混合ガスを用いた誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングを用いることができる。ゲートトレンチ6の形成後、マスクが除去される。
【0047】
次に、ゲート絶縁膜40が形成される。たとえば、炭化珪素基板1が、酸素を含む雰囲気中において、たとえば1300℃以上1400℃以下の温度で加熱される。これにより、第1部分41と第2部分42とを備えたゲート絶縁膜40が形成される。第1部分41は、底面4においてドリフト領域12と接し、かつトレンチ側面3においてドリフト領域12と、ボディ領域13と、ソース領域14とに接する。炭化珪素基板1の熱酸化により形成されるゲート絶縁膜40は、たとえば二酸化珪素及び炭素を含む。ゲート絶縁膜40がCVD法などの他の方法により形成されてもよい。ゲート絶縁膜40が熱酸化により形成された場合、炭化珪素基板1の一部がゲート絶縁膜40に取り込まれる。このため、以降の処理では、熱酸化後のゲート絶縁膜40と炭化珪素基板1との間の界面に第1主面10、内面6Aが若干移動したものとする。一方、ゲート絶縁膜40がCVD法等の堆積法により形成された場合、炭化珪素基板1はゲート絶縁膜40に取り込まれないため、第1主面10、内面6Aの位置は移動しない。
【0048】
ゲート絶縁膜40の形成後に、一酸化窒素(NO)ガス雰囲気中において炭化珪素基板1に対して熱処理(NOアニール)が行われてもよい。NOアニールにおいて、炭化珪素基板1が、たとえば1100℃以上1300℃以下の条件下で1時間程度保持される。これにより、ゲート絶縁膜40とボディ領域13との界面領域に窒素原子が導入される。その結果、界面領域における界面準位の形成が抑制されることで、チャネル移動度を向上させることができる。なお、窒素原子の導入が可能であれば、NOガス以外のガス(たとえばN2O)が雰囲気ガスとして用いられてもよい。NOアニールの後にさらに、雰囲気ガスとしてアルゴン(Ar)を用いるArアニールが行われてもよい。Arアニールの加熱温度は、たとえば上記NOアニールの加熱温度以上である。Arアニールの時間は、たとえば1時間程度である。これにより、ゲート絶縁膜40とボディ領域13との界面領域における界面準位の形成がさらに抑制される。
【0049】
次に、疑似ゲート電極50Xが形成される。たとえば、減圧化学気相成長(Low Pressure Chemical Vapor Deposition:LPCVD)法によりポリシリコン膜の堆積が行われ、その後にポリシリコン膜のドライエッチングが行われる。この時点で、疑似ゲート電極50Xは、基部51および疑似傘部52Xを有し、疑似傘部52Xの側面53Xは疑似傘部52Xの上端から下方に向かうほど面内方向で基部51から離間する傾斜面となっている。
【0050】
次に、
図4に示すように、被覆絶縁膜60が形成される。たとえば、疑似ゲート電極50Xが、酸素を含む雰囲気中において、たとえば850℃以上950℃以下の温度で加熱される。また、雰囲気中の酸素の割合は、たとえば10体積%以上100体積%以下であり、80体積%以上90体積%以下であることが好ましい。これにより、疑似ゲート電極50Xから、基部51と、傘部52とを有するゲート電極50が形成されるとともに、傘部52の側面53と上面58とに接する被覆絶縁膜60が形成される。側面53Xの酸化の進行は一様ではなく、第2部分42との接触部57の近傍において優先的に酸化が進行する。この結果、側面53に、接触部57から上方に向かうほど面内方向で基部51から離間する下側傾斜部55が形成される。また、優先的な酸化の影響を受けない部分では、酸化がほぼ一様に進行して、傘部52の上端から下方に向かうほど面内方向で基部51から離間する上側傾斜部54が形成される。疑似ゲート電極50Xの熱酸化により形成される被覆絶縁膜60は、たとえば二酸化珪素およびリンなどの不純物を含む。
【0051】
この結果、ゲート電極50の幅は、上側傾斜部54と下側傾斜部55との境界56の高さで最大となる。つまり、傘部52は、境界56の高さにゲート電極50の最大の幅WG1を有するようになる。また、境界56の高さでの幅WG1は、ゲートトレンチ6の上端における開口幅WTより大きい。下側傾斜部55において、側面53は接触部57から上方に向かうほど面内方向で基部51から離間するため、ゲート電極50の接触部57での幅WG2は幅WG1より小さくなる。すなわち、傘部52の幅は、傘部52の幅が最大となる位置よりも第1主面10側で、最大の幅WG1より小さくなる。
【0052】
また、側面53Xの酸化の進行の程度は連続的に変化し、側面53の下側傾斜部55は、たとえば接触部57と境界56との間で第1主面10に向けて凸状の曲面となる。この結果、傘部52と平坦部5との間で、被覆絶縁膜60がバーズビークの形状を有する。また、境界56においても側面53は凸状の曲面となる。
【0053】
次に、
図5に示すように、層間絶縁膜45が形成される。たとえば、ゲート電極50および被覆絶縁膜60を覆い、かつゲート絶縁膜40と接するように層間絶縁膜45が形成される。層間絶縁膜45は、たとえばCVD法により形成される。層間絶縁膜45は、たとえば二酸化珪素を含む材料により構成されている。次に、ソース領域14およびコンタクト領域18上に開口部が形成されるように、層間絶縁膜45およびゲート絶縁膜40の一部がエッチングされる。これにより、コンタクト領域18およびソース領域14がゲート絶縁膜40から露出する。
【0054】
次に、
図6に示すように、ソース電極16およびソース配線19が形成される。具体的には、第1主面10においてソース領域14およびコンタクト領域18に接するソース電極16が形成される。ソース電極16は、たとえばスパッタリング法により形成される。ソース電極16は、たとえばTi、AlおよびSiを含む材料により構成されている。次に、合金化アニールが実施される。具体的には、ソース領域14およびコンタクト領域18と接するソース電極16が、たとえば900℃以上1100℃以下の温度で5分程度保持される。これにより、ソース電極16の少なくとも一部が、炭化珪素基板1が含む珪素と反応してシリサイド化する。これにより、ソース領域14とオーミック接合するソース電極16が形成される。次に、ソース電極16と電気的に接続されるソース配線19が形成される。ソース配線19は、ソース電極16および層間絶縁膜45上に形成される。
【0055】
次に、第2主面20において、ドレイン電極30が形成される。ドレイン電極30は、たとえばNiSiを含む材料により構成されている。ドレイン電極30を構成する材料は、たとえばスパッタリングにより形成される。次に、スパッタリングにより形成された材料に対してレーザーアニールが行われる。これにより、ドレイン電極30を構成する材料が合金化する。なお、レーザーアニールによる合金化のかわりに、加熱処理、例えば急速加熱処理(Rapid Thermal Annealing:RTA)による処理による合金化が行われてもよい。ドレイン電極30の形成前に炭化珪素基板1の裏面が研磨されてもよい。
【0056】
このようにして、第1の実施形態に係る炭化珪素半導体装置100を製造できる。
【0057】
第1の実施形態に係る炭化珪素半導体装置100では、ゲート電極50の接触部57での幅WG2が、上側傾斜部54と下側傾斜部55との境界56の高さでの幅WG1より小さい。このため、傘部52の側面53の下端での電界集中を緩和することができる。従って、製造プロセス中にゲート電極50のアライメントずれによりゲート電極50の側面53とゲートトレンチ6の上端との間の距離が設計値より小さくなっても、優れた絶縁耐圧を得られる。
【0058】
また、下側傾斜部55はゲート電極50の熱酸化により容易に凸状の曲面とすることができる。そして、下側傾斜部55が凸状の曲面となっていると、側面53の傾斜の変化が緩やかであり、電界集中をより緩和できる。
【0059】
更に、ゲート絶縁膜40と傘部52との間に、たとえばゲート電極50の熱酸化により形成される被覆絶縁膜60が存在するため、ゲート絶縁膜40に印加される電界をより緩和できる。
【0060】
また、上記の製造方法によれば、ゲート電極50のアライメントずれが生じても、適切な幅を有し、電界集中を抑制できるゲート電極50と被覆絶縁膜60とを容易に形成できる。
【0061】
〔第1の実施形態の変形例〕
次に、第1の実施形態の変形例について説明する。変形例は、ゲートトレンチの断面形状の点で第1の実施形態と相違する。
図7は、第1の実施形態の変形例に係る炭化珪素半導体装置の構成を示す断面図である。
【0062】
第1の実施形態に係る炭化珪素半導体装置100では、断面視において、ゲートトレンチ6がUの字状の形状を有しているのに対し、変形例に係る炭化珪素半導体装置101では、断面視において、ゲートトレンチ6がVの字状の形状を有している。すなわち、炭化珪素半導体装置101では、断面視において、ゲートトレンチ6の幅が底面4に向かってテーパ状に狭まるようにトレンチ側面3が傾斜している。トレンチ側面3は、たとえば(000-1)面に対して52°以上72°以下傾斜している。トレンチ側面3は、たとえば{0-33-8}面を含む。底面4は、平坦部5とほぼ平行である。
【0063】
他の構成は第1の実施形態と同様である。
【0064】
変形例に係る炭化珪素半導体装置101によっても、炭化珪素半導体装置100と同様の効果を得られる。更に、トレンチ側面3が(000-1)面に対して適切な範囲で傾斜しているため、トレンチ側面3において良好な移動度が得られ、チャネル抵抗を低減できる。
【0065】
〔第2の実施形態〕
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、製造方法の点で第1の実施形態と相違している。また、製造方法の相違に基づき、第2の実施形態は、ゲート電極50及び被覆絶縁膜60の構成の点でも第1の実施形態と相違している。以下、第2の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法について説明しながら、第2の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の構成についても説明する。
図8~
図10は、第2の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【0066】
まず、第1の実施形態と同様にして、疑似ゲート電極50Xの形成までの処理が行われる(
図3参照)。次に、
図8に示すように、平坦部5上のゲート絶縁膜40の一部が除去される。具体的には、平坦部5上のゲート絶縁膜40のうち、疑似ゲート電極50Xから露出している部分と、疑似ゲート電極50Xの疑似傘部52Xと平坦部5との間で疑似傘部52Xの両側部近傍の部分とが除去され、疑似傘部52Xと平坦部5との間にゲート絶縁膜40の一部が残される。つまり、ゲート絶縁膜40の縁が疑似傘部52Xの縁より内側に後退する。この結果、疑似傘部52Xの下面59の一部が露出する。ゲート絶縁膜40の疑似傘部52Xと平坦部5との間で除去される部分の割合は、たとえば1%~5%程度である。ゲート絶縁膜40の一部は、たとえばウェットエッチングにより除去される。ウェットエッチングのエッチング溶液には、たとえばフッ酸(HF)が用いられる。
【0067】
次に、
図9に示すように、被覆絶縁膜60が形成される。たとえば、疑似ゲート電極50Xが、酸素を含む雰囲気中において、たとえば850℃以上950℃以下の温度で加熱される。また、雰囲気中の酸素の割合は、たとえば10体積%以上100体積%以下であり、80体積%以上90体積%以下であることが好ましい。これにより、疑似ゲート電極50Xから、基部51と、傘部52とを有するゲート電極50が形成されるとともに、傘部52の側面53と上面58とに接する被覆絶縁膜60が形成される。側面53Xの酸化の進行は一様ではなく、第2部分42との接触部57の近傍において優先的に酸化が進行する。この結果、側面53に、接触部57から上方に向かうほど面内方向で基部51から離間する下側傾斜部55が形成される。また、優先的な酸化の影響を受けない部分では、酸化がほぼ一様に進行して、傘部52の上端から下方に向かうほど面内方向で基部51から離間する上側傾斜部54が形成される。この結果、側面53に上側傾斜部54と下側傾斜部55とが形成される。また、平坦部5も酸化されるため、ゲート絶縁膜40が、再度、ソース領域14およびコンタクト領域18に接する部分を含むようになる。
【0068】
第2の実施形態では、被覆絶縁膜60の形成の前に、疑似傘部52Xと平坦部5との間でゲート絶縁膜40の一部が除去されている。このため、被覆絶縁膜60は、第1の実施形態と比較して、基部51により近く入り込む。つまり、被覆絶縁膜60は、第1の実施形態と比較して先端がより深く形成されたバーズビークの形状を有する。
【0069】
次に、
図10に示すように、第1の実施形態と同様にして、層間絶縁膜45の形成以降の処理が行われる。
【0070】
このようにして、第2の実施形態に係る炭化珪素半導体装置200を製造できる。
【0071】
第2の実施形態に係る炭化珪素半導体装置200では、炭化珪素基板1の厚さ方向にて、傘部52と平坦部5との間で被覆絶縁膜60をより広範囲にわたって形成できるため、絶縁耐圧をより向上できる。
【0072】
以上、実施形態について詳述したが、特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0073】
1:炭化珪素基板
2:炭化珪素エピタキシャル層
3:トレンチ側面
4:底面
5:平坦部
6:ゲートトレンチ
6A:内面
10:第1主面
11:炭化珪素単結晶基板
12:ドリフト領域
13:ボディ領域
14:ソース領域
16:ソース電極
18:コンタクト領域
19:ソース配線
20:第2主面
30:ドレイン電極
40:ゲート絶縁膜
41:第1部分
42:第2部分
45:層間絶縁膜
50:ゲート電極
50X:疑似ゲート電極
51:基部
52:傘部
52X:疑似傘部
53、53X:側面
54:上側傾斜部
55:下側傾斜部
56:境界
57:接触部
58:上面
59:下面
60:被覆絶縁膜
100、101、200:炭化珪素半導体装置