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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】引抜き試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20241126BHJP
   G01N 3/08 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
G01N3/00 M
G01N3/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022007983
(22)【出願日】2022-01-21
(65)【公開番号】P2023106945
(43)【公開日】2023-08-02
【審査請求日】2024-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智彦
(72)【発明者】
【氏名】吉次 真一
(72)【発明者】
【氏名】志水 克成
(72)【発明者】
【氏名】宗田 昇大
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-107000(JP,A)
【文献】特開2011-106971(JP,A)
【文献】中国実用新案第210066841(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00
G01N 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に埋め込まれているとともに前記コンクリート構造物から突き出て配列された複数本の棒材の列の両脇において前記棒材の列に沿って延び、互いに離間するとともに互いに固定された一対の長尺材と、
前記一対の長尺材の間において、前記一対の長尺材から前記棒材への挟持方向に前記棒材をそれぞれ挟み込み、前記挟持方向における厚さが前記コンクリート構造物に近づくにつれて漸減する複数の対の楔型治具と、
前記一対の長尺材の間において、前記挟持方向に前記棒材及び前記対の楔型治具をそれぞれ挟み込み、前記挟持方向における厚さが前記コンクリート構造物から離れるにつれて漸減する複数の対の楔型土台と、
前記一対の長尺材を前記コンクリート構造物から離間させる方向の荷重を前記一対の長尺材に付与する荷重付与部と、を備える
引抜き試験装置。
【請求項2】
前記一対の長尺材を互いに近づける方向に前記一対の長尺材を締め付ける締結具を更に備える
請求項1に記載の引抜き試験装置。
【請求項3】
前記一対の楔型治具の互いに向き合う面に溝がそれぞれ形成され、前記溝が互いに向き合って、前記棒材が前記溝に収容され、前記棒材が前記溝の内面の間に挟み込まれる
請求項1又は2に記載の引抜き試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引抜き試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物に埋設された鉄筋がコンクリート構造物から引抜けないように設計するために、鉄筋の引抜き耐力を予め確認することが必要である。そこで、例えば特許文献1,2に開示された引抜き試験装置が用いられて鉄筋の引抜き試験が行われる。特許文献1,2に開示された引抜き試験装置は、単数の鉄筋に引張荷重を付与するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3048994号公報
【文献】特許第5464581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、通常、複数本の鉄筋がコンクリート構造物に埋設されている。鉄筋の間の間隔が狭いと、群効果が生じる。群効果とは、複数本の鉄筋がコンクリート構造物を介して互いに影響を及ぼし合い、これら鉄筋が1つの群として働くことをいう。
【0005】
複数本の鉄筋の群効果の影響を調べるためには、これら鉄筋が均等に引張荷重を同時に付与される必要がある。しかしながら、特許文献1,2の引抜き試験装置は、複数本の鉄筋に均等な引張荷重を同時に付与することができない。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、コンクリート構造物から突き出た複数本の鉄筋等の棒材に均等な引張荷重を同時に付与することができる引抜き試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するための引抜き試験装置は、コンクリート構造物に埋め込まれているとともに前記コンクリート構造物から突き出て配列された複数本の棒材の列の両脇において前記棒材の列に沿って延び、互いに離間するとともに互いに固定された一対の長尺材と、前記一対の長尺材の間において、前記一対の長尺材から前記棒材への挟持方向に前記棒材をそれぞれ挟み込み、前記挟持方向における厚さが前記コンクリート構造物に近づくにつれて漸減する複数の対の楔型治具と、前記一対の長尺材の間において、前記挟持方向に前記棒材及び前記対の楔型治具をそれぞれ挟み込み、前記挟持方向における厚さが前記コンクリート構造物から離れるにつれて漸減する複数の対の楔型土台と、前記一対の長尺材を前記コンクリート構造物から離間させる方向の荷重を前記一対の長尺材に付与する荷重付与部と、を備える。
【0008】
以上によれば、複数の対の楔型治具が一対の長尺材の間において複数の鉄筋をそれぞれ挟み込み、複数の対の楔型土台が一対の長尺材の間において複数の対の楔型治具をそれぞれ挟み込み、挟持方向における楔型土台の厚さがコンクリート構造物から離れるにつれて漸減し、挟持方向における楔型治具の厚さがコンクリート構造物に近づくにつれて漸減するため、荷重付与部が荷重を一対の長尺材に付与すると、これら対の楔型治具がこれら棒材をそれぞれ挟み込むクランプ力が増大する。そのため、楔型治具と棒材との間の滑りが発生せず、荷重付与部の付与荷重が複数の棒材に均等な引張荷重として同時に作用する。よって、複数の棒材の群効果がこれら棒材の引抜き耐力に及ぼす影響を調べることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、荷重付与部の付与荷重が複数の棒材に均等な引張荷重として同時に作用し、複数の棒材の群効果がこれら棒材の引抜き耐力に及ぼす影響を調べることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】引抜き試験装置の斜視図である。
図2】引抜き試験装置の側面図である。
図3図2に示すIII-III面を矢印方向に見て示す断面図である。
図4図2に示すIV-IV面を矢印方向に見て示す断面図である。
図5】鉄筋、対の楔型治具及び対の楔型土台の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているところ、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0012】
1. 鉄筋及びコンクリート構造物
図1は、複数本の鉄筋90に引張荷重を付与する引抜き試験装置1の斜視図である。図2は、この引抜き試験装置1の側面図である。図3は、図2に示すIII-III面を矢印方向に見て示す断面図である。図4は、図2に示すIV-IV面を矢印方向に見て示す断面図である。図5は、引抜き試験装置1の対の楔型土台40及び対の楔型治具50の斜視図である。
【0013】
複数本の鉄筋90は、鋼製の棒材である。これら鉄筋90は、コンクリート構造物99に一部埋め込まれているとともに、コンクリート構造物99から突き出て起立している。これら鉄筋90は、間隔を置いて一列に直線状に配列されて、互いに平行となっている。鉄筋90の周面には、複数の凸状の節91が鉄筋90の周方向に沿って設けられているとともに、鉄筋90の長手方向に間隔を置いて設けられている。なお、以下では、鉄筋90の列に沿う方向を前後方向とする。
【0014】
コンクリート構造物99は、例えば基礎、梁、スラブ、フーチング、港湾構造物、堤体、建屋、発電設備、変電設備、建物、高架橋といった土木又は建築の建造物である。
【0015】
2. 引抜き試験装置の構成
(1) 引抜き試験装置の概要
引抜き試験装置1は、複数本の鉄筋90に同時に引張荷重を付与して、荷重制御のもと引張荷重を増大させる装置である。引抜き試験装置1は、引張荷重の増大中に引張荷重を記録するとともに、引張荷重による鉄筋90の変位を計測して記録する。引抜き試験装置1が引張荷重を付与する鉄筋90の本数は、図に示す例では3であるが、これに限るものではなく、複数であればよい。
【0016】
引抜き試験装置1は、2体の油圧ジャッキ10、ベース板20、一対の溝型鋼30、複数の補強鋼板35,37、複数のボルトナット締結具36,38、複数対の楔型土台40、複数対の楔型治具50、複数の鋼板60、変位センサ80及び制御装置85を備える。
【0017】
(2) 油圧ジャッキ
図1及び図2に示すように、荷重付与部としての油圧ジャッキ10は、コンクリート構造物99上において、鉄筋90の列の先頭の前と最後尾の後ろにそれぞれ配置されている。油圧ジャッキ10は、コンクリート構造物99から反力を取って、ベース板20及び溝型鋼30を持ち上げるアクチュエーターである。これにより、油圧ジャッキ10は、ベース板20及び溝型鋼30をコンクリート構造物99から離間させる方向の荷重をベース板20及び溝型鋼30に付与する。
【0018】
図1及び図2に示すように、油圧ジャッキ10はシリンダ11及びロッド12を有する。ロッド12は、シリンダ11に対して進出可能且つ引き込み可能に取り付けられている。シリンダ11は、コンクリート構造物99上において、鉄筋90の列の先頭の前と最後尾の後ろにそれぞれ配置されている。シリンダ11は、ロッド12の進出方向及び引き込み方向が鉄筋90の長手方向に対して平行となるように、コンクリート構造物99上に設置されている。シリンダ11は、油圧によりロッド12を上方に進出させたり、下方に引き込ませたりする。
【0019】
なお、油圧ジャッキ10の数は、図に示す例では2であるが、これに限るものではなく、1又は3以上であってもよい。また、油圧ジャッキ10の配置も図に示す例に限るものではなく、例えば油圧ジャッキ10が隣り合う鉄筋90の間に配置されていてもよい。
【0020】
(3) ベース板
図1及び図2に示すように、ベース板20は、帯板状に形作られた鋼板である。ベース板20は、油圧ジャッキ10のロッド12及び鉄筋90に対して垂直な姿勢で、これらロッド12の先端に取り付けられている。ベース板20は、これらのロッド12の先端の間に架け渡されている。ベース板20は、鉄筋90がそれぞれ貫通する複数の貫通孔21を有する。ベース板20は、油圧ジャッキ10から直接荷重を受ける。
【0021】
(4) 溝型鋼
図1及び図2に示すように、溝型鋼30は長尺材である。溝型鋼30は、その長手方向に直交する断面形状がコ字状に形作られている。溝型鋼30は、互いに平行な帯板状のフランジ31,32と、フランジ31,32の長辺の間に設けられた帯板状のウエブ33からなる。フランジ31,32の間のスペースがチャネル34となっている。
【0022】
これら溝型鋼30はそれらの長手方向が互いに平行となるように配置されている。図3及び図4に示すように、これら溝型鋼30のウエブ33はこれらウエブ33の間に間隔を置いて互いに対向し、これら溝型鋼30のチャネル34は互いに反対を向いている。
【0023】
これら溝型鋼30は、ベース板20上において鉄筋90の列の両脇において鉄筋90の列に沿って延びて、互いに離間している。これら溝型鋼30はベース板20上に取り付けられている。具体的に、溝型鋼30のフランジ32は、貫通孔21の列及び鉄筋90の列の脇においてベース板20の上に積み重ねられて、ボルト等の留め具22によってベース板20に固定されている。これら溝型鋼30は、ベース板20に取り付けられることによって、互いに固定されている。これら溝型鋼30の間、つまりウエブ33の間の領域は、複数本の鉄筋90が上下に通される空間であって、複数対の楔型土台40及び複数対の楔型治具50が配置される空間である。
【0024】
これら溝型鋼30は、ベース板20と同様に、油圧ジャッキ10のロッド12の先端の間に架け渡されている。溝型鋼30は、油圧ジャッキ10から荷重を受ける。
【0025】
以下、溝型鋼30から鉄筋90への方向を挟持方向という。
【0026】
(5) 補強鋼板及び締結具
図1図4に示すように、複数の補強鋼板35,37は、チャネル34内において、それぞれ複数のボルトナット締結具36,38によってウエブ33に張り付けられて固定されている。補強鋼板35は、それぞれ貫通孔21及び鉄筋90の脇に配置されている。補強鋼板37は、溝型鋼30の長手方向の端部に配置されている。補強鋼板35,37は、溝型鋼30のウエブ33を補強する。
【0027】
ボルトナット締結具36は、一方の溝型鋼30のウエブ33及び補強鋼板35から他方の溝型鋼30のウエブ33及び補強鋼板35まで架け渡されている。ボルトナット締結具36は、一方の溝型鋼30のウエブ33及び補強鋼板35と、他方の溝型鋼30のウエブ33及び補強鋼板35とを互いに近づけるように、これらを締め付ける。同様に、ボルトナット締結具38も、一方の溝型鋼30のウエブ33及び補強鋼板37と、他方の溝型鋼30のウエブ33及び補強鋼板37とを互いに近づけるように、これらを締め付ける。
【0028】
ボルトナット締結具36,38が一対の溝型鋼30を締め付けることによって、これら溝型鋼30が互いに固定されている。
【0029】
(6) 楔型土台
図3図5に示すように、各楔型土台40は楔型に形作られ、各楔型土台40の厚さは楔型土台40の基端から先端に向かうにつれて漸減する。各楔型土台40の基端の面41が楔型土台40の立面42に対して垂直であり、各楔型土台40のテーパー面43が基端の面41及び立面42に対して鋭角を成している。楔型土台40の先端とは、テーパー面43と立面42によって挟まれる角部をいう。楔型土台40の厚さとは、テーパー面43と立面42の間の距離をいう。
【0030】
複数対の楔型土台40は、一方の溝型鋼30のウエブ33と他方の溝型鋼30のウエブ33との間に配置されている。各楔型土台40は、その先端が上方に向けられ、且つ、その基端がベース板20に向けられた姿勢となって、ベース板20の上に載置されている。また、各楔型土台40は、その厚さ方向が挟持方向となる姿勢となっている。そのため、挟持方向における楔型土台40の厚さは、コンクリート構造物99から離れるにつれて漸減する。
【0031】
各対の楔型土台40は、それらの間に貫通孔21及び鉄筋90を置いて、挟持方向に互いに離間している。各対の楔型土台40の立面42が互いに反対を向き、各対の楔型土台40のテーパー面43が互いに向かい合っている。そのため、各対の楔型土台40のテーパー面43の間には、テーパー面43の間の幅が底に向かうにつれて漸減するテーパー状スペースが形成される。
【0032】
各楔型土台40の基端の面41は、ベース板20に面接触する。各楔型土台40の立面42は、溝型鋼30のウエブ33に面接触する。各楔型土台40のテーパー面43は、一対の溝型鋼30の間の中央部から溝型鋼30のウエブ33に向かって上りに傾斜する。
【0033】
(7) 楔型治具
図3図5に示すように、各楔型治具50は楔型に形作られ、各楔型治具50の厚さは楔型治具50の基端から先端に向かうにつれて漸減する。各楔型治具50の基端の面51が楔型治具50の立面52に対して垂直である。各楔型治具50のテーパー面53が基端の面51及び立面52に対して鋭角を成している。楔型治具50の先端とは、テーパー面53と立面52によって挟まれる角部をいう。楔型治具50の厚さとは、テーパー面53と立面52の間の距離をいう。
【0034】
各楔型治具50の立面52には、丸溝54が楔型治具50の先端から基端にまで形成されている。丸溝54の内面には、複数の周方向溝55が丸溝54の長手方向に間隔を置いて形成されている。
【0035】
各対の楔型治具50の立面52が互いに対向し、各対の楔型治具50の丸溝54がこれらの間に鉄筋90を置いて互いに向かい合っている。各対の楔型治具50は、楔型治具50の先端が下方に向けられ、且つ、楔型治具50の基端がベース板20に向けられた姿勢で、各対の楔型土台40のテーパー面43の間に嵌め込まれている。また、各対の楔型治具50は、楔型治具50の厚さ方向が挟持方向となる姿勢で、各対の楔型土台40のテーパー面43の間に嵌め込まれている。そのため、挟持方向における楔型治具50の厚さは、コンクリート構造物99に近づくにつれて漸増する。
【0036】
各対の楔型治具50はこれらの間に各鉄筋90を挟持方向に挟み込んでいる。具体的に、各鉄筋90が各対の楔型治具50の丸溝54に収容されて、各対の楔型治具50の丸溝54の内面がこれらの間に各鉄筋90を挟持方向に挟み込んでいる。各楔型治具50のテーパー面53が各楔型土台40のテーパー面43に面接触しているため、各対の楔型土台40が下方に押し込まれることによって、各対の楔型治具50が各鉄筋90を挟み込むクランプ力が生じる。
【0037】
鉄筋90が対の楔型治具50の丸溝54に挿入された状態では、鉄筋90の節91が周方向溝55に引っ掛かる。
【0038】
(8) 鋼板
図1に示すように、各対の鋼板60は、隣り合う対の楔型土台40の間の領域において、ボルトナット締結具36の締め付け方向に重ねられた状態で、溝型鋼30のウエブ33の間に挟み込まれている。鋼板60にはボルトナット締結具36が通される貫通孔が形成されており、ボルトナット締結具36による締付力によって鋼板60が溝型鋼30のウエブ33の間に挟み込まれている。
各対の鋼板70は、溝型鋼30の両端部において、ボルトナット締結具38の締め付け方向に重ねられた状態で、溝型鋼30のウエブ33の間に挟み込まれている。鋼板70にはボルトナット締結具38が通される貫通孔が形成されており、ボルトナット締結具38による締付力によって鋼板70が溝型鋼30のウエブ33の間に挟み込まれている。
【0039】
(9) 変位センサ
図1及び図2に示すように、変位センサ80は、溝型鋼30に設けられている。変位センサ80は、配線(図示略)を介して制御装置85に接続されている。変位センサ80は、油圧ジャッキ10の進出方向及び引き込み方向における溝型鋼30の変位を計測する。変位センサ80は、溝型鋼30の変位の計測値を表す信号を制御装置85に転送する。
【0040】
(10) 制御装置
図1に示すように、制御装置85は、CPU、RAM、GPU、記憶装置、入力装置及び表示装置等を有するコンピューターである。制御装置85は、配線を介して油圧ジャッキ10に接続される。制御装置85は、油圧ジャッキ10がベース板20及び溝型鋼30をコンクリート構造物99から離間させる方向の油圧ジャッキ10の付与荷重を制御する。制御装置85は、油圧ジャッキ10の付与荷重を周期的に記憶装置に記録する。また、制御装置85は、油圧ジャッキ10の付与荷重の周期的な記録に同期して、変位センサ80によって計測された変位を記憶装置に記録する。
【0041】
3. 引抜き試験方法
引抜き試験装置1を用いた引抜き試験方法について説明すると共に、引抜き試験装置1の動作について説明する。
【0042】
(1) セッティング
まず、作業者が引抜き試験装置1を組み立てて、引抜き試験装置1を鉄筋90にセッティングする。例えば、引抜き試験装置1の組み立て順序は次の通りである。
【0043】
油圧ジャッキ10がコンクリート構造物99上において鉄筋90の列の先頭の前と最後尾の後ろにそれぞれ設置される。
【0044】
次に、鉄筋90がベース板20の貫通孔21にそれぞれ通され、ベース板20が油圧ジャッキ10のロッド12の先端に取り付けられる。
【0045】
次に、一対の溝型鋼30のウエブ33が互いに向き合って平行になった状態で、これら溝型鋼30が鉄筋90の列の両脇のベース板20上に留め具22によって固定される。
【0046】
次に、各対の鋼板60が溝型鋼30のウエブ33の間の隙間のうち、隣り合う鉄筋90の間の領域に挿入されて、溝型鋼30のウエブ33の間に挟み込まれる。
【0047】
次に、各対の鋼板70が溝型鋼30の各端部において溝型鋼30のウエブ33の間の隙間に挿入されて、溝型鋼30のウエブ33の間に挟み込まれる。
【0048】
次に、複数の補強鋼板35がチャネル34内においてウエブ33に張り付けられ、ボルトナット締結具36が一方の溝型鋼30のウエブ33及び補強鋼板35から鋼板60を貫通して、他方の溝型鋼30のウエブ33及び補強鋼板35まで架け渡される。そして、ボルトナット締結具36が締められて、ボルトナット締結具36が一方の溝型鋼30のウエブ33及び補強鋼板35と、他方の溝型鋼30のウエブ33及び補強鋼板35とを互いに近づけるように、これらを締め付ける。これにより、溝型鋼30のウエブ33がこれらの間に対の鋼板60を挟み込む挟持力が生じる。同様に、複数の補強鋼板37がチャネル34内においてウエブ33に張り付けられ、ボルトナット締結具38が一方の溝型鋼30のウエブ33及び補強鋼板37と、他方の溝型鋼30のウエブ33及び補強鋼板37とを互いに近づけるように、これらを締め付ける。これにより、溝型鋼30のウエブ33がこれらの間に対の鋼板70を挟み込む挟持力が生じる。
【0049】
次に、各対の楔型土台40が各鉄筋90の両脇においてベース板20に載置される。この際、各対の楔型土台40の基端の面41がベース板20に面接触され、テーパー面43が互いに向かい合い、立面42が溝型鋼30のウエブ33に面接触される。
【0050】
次に、各対の楔型治具50の立面52がこれらの間に鉄筋90を置いて互いに対向し、各対の楔型治具50の先端を下方に向けられる。そして、各対の楔型治具50は各対の楔型土台40のテーパー面43の間に差し込まれる。これにより、鉄筋90が楔型治具50の丸溝54の内面の間に挟み込まれ、楔型治具50のテーパー面53が楔型土台40のテーパー面43に面接触する。各対の楔型治具50が下方に押し込まれ、各対の楔型治具50が各鉄筋90を挟持方向に挟み込むクランプ力が生じる。また、各鉄筋90の節91が各対の楔型治具50の周方向溝55に引っ掛かる。楔型治具50が鉄筋90に対して鉄筋90の長手方向に滑らない。
【0051】
次に、変位センサ80が溝型鋼30に設けられる。また、変位センサ80及び油圧ジャッキ10が配線を介して制御装置85に接続される。
【0052】
なお、引抜き試験装置1の組み立て順序は上述のような工程順に限るものではない。
【0053】
(2) 荷重付与
制御装置85は、油圧ジャッキ10を作動させる。油圧ジャッキ10のロッド12はシリンダ11から進出し、油圧ジャッキ10はコンクリート構造物99から反力を取って、ベース板20及び溝型鋼30をコンクリート構造物99から離間させる方向の荷重をベース板20及び溝型鋼30に付与する。そのため、上向きの荷重が各対の楔型土台40に与えられ、各対の楔型治具50が各鉄筋90を挟み込むクランプ力が増大する。それゆえ、各対の楔型治具50が各鉄筋90に対して各鉄筋90の長手方向に滑らない。
【0054】
各対の楔型治具50が強いクランプ力で各鉄筋90を挟み込むため、油圧ジャッキ10からベース板20及び溝型鋼30に付与される荷重は引張荷重として各鉄筋90に同時に作用する。
【0055】
油圧ジャッキ10による荷重の付与中、制御装置85は、油圧ジャッキ10を制御して、油圧ジャッキ10の付与荷重を静的に増大させる。従って、各鉄筋90の引張荷重が静的に増大する。
【0056】
油圧ジャッキ10による荷重の付与中、制御装置85は、油圧ジャッキ10の付与荷重を周期的に記憶装置に記録する。また、制御装置85は、油圧ジャッキ10の付与荷重の周期的な記録に同期して、変位センサ80によって計測された変位を記憶装置に記録する。
【0057】
鉄筋90の引張荷重が引抜き耐力に到達すると、これらの鉄筋90がコンクリート構造物99から引抜かれる。そのため、溝型鋼30が急激に変位し、変位センサ80によって計測される変位が急激に上昇する。
【0058】
鉄筋90が引抜かれたら、制御装置85は、油圧ジャッキ10を停止する。これにより、引抜き試験が終了する。引抜き試験後、制御装置85は、計測変位が急激に上昇する際の付与荷重を選択して、その付与荷重を鉄筋90の引抜き耐力と特定する。このように特定された引抜き耐力は、複数の鉄筋90の群効果の影響を受けたものである。よって、このように特定した引抜き耐力は、基礎などに鉄筋を密に配置する際の設計に利用することができる。
【0059】
4. 有利な効果
(1) 以上に説明したように、本実施形態に係る引抜き試験装置1は、コンクリート構造物99に埋め込まれているとともにコンクリート構造物99から突き出て配列された複数本の鉄筋90の列の両脇において鉄筋90の列に沿って延び、互いに離間するとともに互いに固定された一対の溝型鋼30と、一対の溝型鋼30の間において、一対の溝型鋼30から鉄筋90への挟持方向に鉄筋90をそれぞれ挟み込み、前記挟持方向における厚さがコンクリート構造物99に近づくにつれて漸減する複数の対の楔型治具50と、一対の溝型鋼30の間において、前記挟持方向に鉄筋90及び対の楔型治具50をそれぞれ挟み込み、前記挟持方向における厚さがコンクリート構造物99から離れるにつれて漸減する複数の対の楔型土台40と、一対の溝型鋼30をコンクリート構造物99から離間させる方向の荷重を一対の溝型鋼30に付与する油圧ジャッキ10と、を備える。
よって、複数対の楔型治具50が複数本の鉄筋90をそれぞれ挟み込むクランプ力が増大する。そのため、楔型治具50と鉄筋90との間の滑りが発生せず、油圧ジャッキ10の付与荷重が複数の鉄筋90に均等な引張荷重として同時に作用する。よって、複数の鉄筋90の群効果がこれら鉄筋90の引抜き耐力に及ぼす影響を調べることができる。
【0060】
(2) また、本実施形態に係る引抜き試験装置1は、一対の溝型鋼30を互いに近づける方向に一対の溝型鋼30を締め付けるボルトナット締結具36,38を更に備える。
これにより、対の楔型治具50が鉄筋90を挟み込むクランプ力の緩和を防止できる。
【0061】
(3) また、本実施形態に係る引抜き試験装置1において、鉄筋90が対の楔型治具50の丸溝54に収容されて、丸溝54の内面の間に挟み込まれるため、鉄筋90の収まりが良い上、楔型治具50と鉄筋90との間の滑りを防止できる。
【0062】
(4) また、本実施形態に係る引抜き試験装置1において、一対の溝型鋼30が複数の鉄筋90、複数対の楔型治具50及び複数対の楔型土台40を挟み込みため、一対の溝型鋼30は複数の鉄筋90の引抜きに供用される。よって、引抜き試験装置1の部品数の削減が図られる。
【0063】
5. 変形例
(1) 棒材は鉄筋90に限るものではない。例えば、複数の鉄筋90に代えて複数のアンカーボルトがコンクリート構造物99に埋設されている場合、鉄筋90の場合と同様に、引抜き試験装置1がこれらアンカーボルトに同時に引張荷重を付与してもよい。この場合、各楔型治具50の丸溝54の内面には、アンカーボルトの外周面の雄ねじに噛み合うねじ溝が形成されている。
【0064】
(2) 長尺材は溝型鋼30に限るものではない。例えば、溝型鋼30に代えてアングル鋼、H型鋼、角鋼管が採用されてもよい。
【符号の説明】
【0065】
30…溝型鋼(長尺材)
40…楔型土台
50…楔型治具
90…鉄筋(棒材)
99…コンクリート構造物
図1
図2
図3
図4
図5