(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】車両換気システム
(51)【国際特許分類】
B60H 1/24 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
B60H1/24 661A
B60H1/24 661C
(21)【出願番号】P 2022022448
(22)【出願日】2022-02-16
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河内 諒
(72)【発明者】
【氏名】井ノ口 貴章
(72)【発明者】
【氏名】吉松 潤一
(72)【発明者】
【氏名】一色 義基
【審査官】安島 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-143226(JP,A)
【文献】特開2009-223514(JP,A)
【文献】特開2015-030431(JP,A)
【文献】特開2021-054136(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0134112(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0024728(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00 - 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車内を強制換気する換気装置と、
車両に搭乗している乗員数を検知する乗員センサと、
前記車内のCO
2濃度を検知するCO
2センサと、
少なくとも前記乗員センサで検知された乗員数および前記CO
2センサで検知されたCO
2濃度に基づいて、今後の換気スケジュールを決定し、決定された前記換気スケジュールに従って前記換気装置に前記車内の強制換気を指示するコントローラと、
を備え
、
前記換気スケジュールは、一回目の強制換気を開始するまでの時間である初回待機時間と、1回の強制換気を実行完了した後に次の強制換気を開始するまでの時間である換気間隔時間と、1回の強制換気の継続時間である換気継続時間と、含んでおり、
前記コントローラは、前記換気スケジュールの決定の直前に検知されたCO
2
濃度である初期濃度と前記乗員数とに基づいて前記初回待機時間を決定し、少なくとも前記乗員数に基づいて換気間隔時間と換気継続時間とを決定する、
ことを特徴とする車両換気システム。
【請求項2】
請求項
1に記載の車両換気システムであって、
前記コントローラは、さらに、前記車両の走行速度も考慮して、前記換気継続時間を決定する、ことを特徴とする車両換気システム。
【請求項3】
請求項
1または2に記載の車両換気システムであって、
前記コントローラは、さらに、前記換気装置における風量の設定値も考慮して、前記換気継続時間を決定する、ことを特徴とする車両換気システム。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1項に記載の車両換気システムであって、
前記コントローラは、前記乗員数が変化した場合、前記換気スケジュールを再算出する、ことを特徴とする車両換気システム。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項に記載の車両換気システムであって、さらに、
乗員から目的地を指定された場合に、前記目的地までの走行ルートを算出するナビゲーション装置を備え、
前記コントローラは、前記走行ルートに、強制換気に不適な不適エリアが含まれている場合、前記不適エリアでの強制換気の換気量が低下するように、前記換気スケジュールを修正する、
ことを特徴とする車両換気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、車内の強制換気を自動的に行う車両換気システムを開示する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車内のCO2濃度が高いと、乗員の覚醒度が低下することが知られている。また、換気が不足すると、感染症の感染リスクが増加する。そこで、空調装置の外気導入機能等を利用して、車内を適度に強制換気することが求められる。しかし、乗員が、CO2濃度を正確に把握することは難しい。そのため、乗員が手動で強制換気を行った場合、強制換気のタイミングを正確に把握できず、換気量が過大となり、冷暖房の効率が低下したり、換気量が不足して、覚醒度の低下や感染症の感染リスクの増加を招いたりしていた。
【0003】
そこで、従来から、車内の強制換気を自動的に実行する車両換気システムが知られている。例えば、特許文献1には、運転手を撮像した画像に基づいて運転手の覚醒度を特定するとともに、CO2センサ(特許文献1では「CO2濃度測定器」と呼んでいる)で車内のCO2濃度を検知し、覚醒度が閾値以下かつCO2濃度が第一基準値未満の場合には、空調装置の運転モードを車内循環から外気導入に切り替えて、車内を自動的に強制換気するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1では、車内のCO2濃度を、CO2センサによって計測している。しかし、CO2センサだけでは、車内のCO2濃度を適切に検知できず、ひいては、換気のタイミングや換気量を適切に判断できないおそれがある。すなわち、CO2センサの時間応答性によっては、車内の実際のCO2濃度が検知結果に反映されるまでに、時間がかかることがある。また、特許文献1では、非分散型赤外分光方式のCO2センサを用いているが、かかるCO2センサは、赤外線光源の劣化や、赤外線の光路上に設けられた反射部材の劣化、受光素子の特性変化等に起因して、測定精度が低下する。また、一般に、車内のCO2濃度は、一様ではなく、場所によって、バラつきが存在するが、一つのCO2センサでは、こうしたCO2濃度の分布を把握することはできない。そのため、一つのCO2センサでの検知結果に応じて強制換気を行う技術では、適切なタイミングで強制換気が行えず、換気量が不足したり、換気量が過大になったりするおそれがあった。
【0006】
もちろん、こうした問題は、時間応答性に優れたCO2センサを、車内の複数個所に分散して配置するとともに、これらCO2センサの校正を定期的に行うことで解消できる。しかし、時間応答性に優れた、高価なCO2センサを複数設けることは、大幅なコストアップを招く。また、一般的なユーザが、CO2センサの校正を定期的に行うことは難しい。
【0007】
そこで、本明細書では、車内を自動的に、より適切に強制換気する車両換気システムを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示する車両換気システムは、車内を強制換気する換気装置と、車両に搭乗している乗員数を検知する乗員センサと、前記車内のCO2濃度を検知するCO2センサと、少なくとも前記乗員センサで検知された乗員数および前記CO2センサで検知されたCO2濃度に基づいて、今後の換気スケジュールを決定し、決定された前記換気スケジュールに従って前記換気装置に車内の強制換気を指示するコントローラと、を備える、ことを特徴とする。
【0009】
予め換気スケジュールを決定し、この換気スケジュールに従って、強制換気を実行することで、CO2センサの検知誤差の影響を受けにくくなるため、より適切に強制換気を実行できる。
【0010】
この場合、前記換気スケジュールは、一回目の強制換気を開始するまでの時間である初回待機時間と、1回の強制換気を実行完了した後に次の強制換気を開始するまでの時間である換気間隔時間と、1回の強制換気の継続時間である換気継続時間と、含んでおり、前記コントローラは、前記換気スケジュールの決定の直前に検知されたCO2濃度である初期濃度と前記乗員数とに基づいて前記初回待機時間を決定し、少なくとも前記乗員数に基づいて換気間隔時間と換気継続時間とを決定してもよい。
【0011】
初回待機時間の決定にのみCO2センサの検知結果を利用し、換気間隔時間、換気継続時間の決定にCO2センサの検知結果を利用しない構成とすることで、CO2センサの検知誤差の影響を受けにくくなるため、より適切に強制換気できる。
【0012】
また、前記コントローラは、さらに、前記車両の走行速度も考慮して、前記換気継続時間を決定してもよい。また、前記コントローラは、さらに、前記換気装置における風量の設定値も考慮して、前記換気継続時間を決定してもよい。
【0013】
かかる構成とすることで、より適切な換気継続時間を導くことができるため、結果として、より適切に強制換気を実行できる。
【0014】
また、前記コントローラは、前記乗員数が変化した場合、前記換気スケジュールを再算出してもよい。
【0015】
乗員数が変化した場合は、CO2濃度の増減少速度も変化する。したがって、乗員数が変化した場合に、換気スケジュールを再算出することで、乗員数に応じたタイミングで適切に強制換気を実行できる。
【0016】
さらに、乗員から目的地を指定された場合に、前記目的地までの走行ルートを算出するナビゲーション装置を備え、前記コントローラは、前記走行ルートに、強制換気に不適な不適エリアが含まれている場合、前記不適エリアでの強制換気の換気量が低下するように、前記換気スケジュールを修正してもよい。
【0017】
かかる構成とすることで、不適エリア、例えば、トンネルや、悪臭発生施設の近傍等での強制換気の実行が抑制されるため、他の車両の排気ガスを多く含んだ空気や悪臭が車内に入り込むことを効果的に抑制できる。結果として、乗員の快適性をより向上できる。
【発明の効果】
【0018】
本明細書で開示する車両換気システムによれば、車内を自動的に、より適切に強制換気できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】車両換気システムの構成を示す模式図である。
【
図2】濃度増加プロファイルの一例を示す図である。
【
図3】濃度減少プロファイルの一例を示す図である。
【
図4】乗員数が5人の濃度増加プロファイルおよび濃度減少プロファイルを抜き出した図である。
【
図6】換気制御の流れを示すフローチャートである。
【
図7】乗員数が5人の濃度増加プロファイルおよび濃度減少プロファイルに参考となる記号を付加した図である。
【
図8】走行ルートに基づいて修正された換気スケジュールの一例を示す図である。
【
図9】風量ごとのCO
2濃度の減少プロファイルを記録した濃度減少プロファイルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して車両換気システム10の構成について説明する。
図1は、車両換気システム10の構成を示す模式図である。この車両換気システム10は、車両に搭載され、車内の空気を自動で強制換気する。ここで、「強制換気」とは、モータ等の機械を用いて強制的に空気を動かして換気することを意味する。以下の説明では、「強制換気」のことを、単に「換気」と呼ぶ。また、以下では、ドアや窓の隙間から自然に空気が流入出する現象を「自然換気」と呼び、強制換気とは区別して扱う。
【0021】
車両換気システム10は、空調装置12と、CO2センサ14と、乗員センサ16と、コントローラ20と、を備えている。空調装置12は、車内を調温する装置である。この空調装置12は、車内を換気する換気装置としても機能する。空調装置12は、「内気循環」と「外気導入」という2つの動作モードで動作する。内気循環は、車内の空気(以下「内気」という)を空調装置12に取り込んで調温したうえで、車内に出力する動作モードである。この内気循環によれば、車内温度を効率的に調整できるため消費電力量を抑制できる一方で、換気量が不足し、車内のCO2濃度が上昇しやすい。外気導入は、内気に替えて、または、加えて、車外の空気(以下「外気」という)を空調装置12に取り込んで調温したうえで、車内に出力する動作モードである。この外気導入によれば、車内の温度調節に要する消費電力量が増加しやすい一方で、強制的に換気が行えるため、車内のCO2濃度の上昇を抑制できる。こうした空調装置12は、従来から広く知られているため、当該空調装置12の具体的構成の説明は省略する。
【0022】
CO
2センサ14は、車内におけるCO
2濃度を検知するセンサである。例えば、CO
2センサ14は、非分散型赤外(NDIR:Nondispersive Infrared)方式のセンサである。NDIR方式は、CO
2が、特定の周波数の赤外線を吸収することを利用した測定方式である。NDIR方式では、赤外線を出力する光源と、赤外線の光量を検知する受光素子と、の間に測定対象のガスを供給し、受光素子で受光した赤外線の光量に基づいてガス内のCO
2量を特定する。CO
2センサ14で検知されたCO
2濃度(以下「検知濃度Cd」という)は、コントローラ20に送信される。なお、
図1では、CO
2センサ14を、ステアリングコラムの下部に設けているが、CO
2センサ14の位置や個数は、適宜、変更されてもよい。したがって、CO
2センサ14は、他の箇所、例えば、車両の側部ドア等に取り付けられてもよい。また、CO
2センサ14は、一つに限らず、複数設けられてもよい。CO
2センサ14が複数存在する場合、コントローラ20は、複数のCO
2センサ14で得られた複数の検出値を統計処理した値、例えば、複数の検出値の最大値や平均値、中間値等を、検知濃度Cdとして取り扱ってもよい。
【0023】
乗員センサ16は、車両に乗車する人の数を検知するセンサである。かかる乗員センサ16は、例えば、座席の座面に設けられた着座センサを含む。着座センサは、複数の座席それぞれに設けられ、座面にかかる圧力に基づいて、座席への人の着座の有無を判断する圧力センサである。この場合、コントローラ20は、着座が検知された座席の数に基づいて、乗員数を判断してもよい。また、乗員センサ16は、さらに、シートベルトの装着の有無を検知するベルトセンサを含んでもよい。この場合、コントローラ20は、着座センサで着座が検知され、かつ、ベルトセンサでシートベルトの装着が検知された座席の数を、乗員数として判断する。かかる構成とすることで、座席に、重量のある荷物が載置された場合に誤って人がいると誤判定することを防止できる。また、別の形態として乗員センサ16は、車内を撮像するカメラを含み、コントローラ20は、当該カメラで撮像された画像に基づいて乗員の数を判断してもよい。乗員センサ16で検知された乗員数(以下「検知人数Nd」という)は、コントローラ20に送信される。
【0024】
コントローラ20は、空調装置12の駆動を制御する。より具体的には、コントローラ20は、検知人数Ndおよび検知濃度Cdに基づいて換気スケジュールを決定し、この換気スケジュールに基づいて、空調装置12に、動作モードの切り替えを指示する。かかるコントローラ20は、物理的には、プロセッサ22とメモリ24とを有したコンピュータである。この「コンピュータ」には、コンピュータシステムを一つの集積回路に組み込んだマイクロコントローラも含まれる。また、プロセッサ22とは、広義的なプロセッサを指し、汎用的なプロセッサ(例えばCPU:Central Processing Unit、等)や、専用のプロセッサ(例えばGPU:Graphics Processing Unit、ASIC:Application Specific Integrated Circuit、FPGA:Field Programmable Gate Array、プログラマブル論理デバイス、等)を含むものである。メモリ24は、データを記憶するもので、半導体メモリ(例えばRAM、ROM、ソリッドステートドライブ等)および磁気ディスク(例えば、ハードディスクドライブ等)の少なくとも一つを含んでもよい。こうしたコントローラ20は、物理的に離間された2以上のコンピュータを組み合わせて構成されてもよい。
【0025】
次に、車両換気システム10による換気制御について説明する。一般に、車内のCO2濃度が高い場合、車両の乗員(例えば運転手等)の覚醒度が低下することが知られている。また、換気が不足し、CO2濃度が上昇すると、感染症の感染リスクが増加する。したがって、乗員の覚醒度を高く維持したり、感染症の感染拡大を防止したりするためには、十分に換気が行われる必要がある。一方で、空調装置12を外気導入で駆動し、外気を取り入れると、その分、調温に要する電力量が増加する。したがって、CO2濃度を一定以下に抑えつつ、消費電力量を抑制するためには、車内のCO2濃度に応じて、内気循環と外気導入とを適度に切り替えることが求められる。
【0026】
そこで、本例の車両換気システム10は、車内を適切に換気できるように、検知人数Ndおよび検知濃度Cdに基づいて、今後の換気スケジュールを決定し、この換気スケジュールに従って、空調装置12の動作モードを自動的に切り替える。換気スケジュールは、例えば、車両のシステムを起動したタイミングで算出され、乗員数の変化が検知されれば、再算出される。
【0027】
コントローラ20は、換気スケジュールを算出するために、予め、濃度増加プロファイルおよび濃度減少プロファイルを記憶している。
図2は、濃度増加プロファイル26の一例を示す図であり、
図3は、濃度減少プロファイル28の一例を示す図である。濃度増加プロファイル26は、空調装置12を内気循環で動作させた場合における、車内のCO
2濃度の経時変化を示すデータである。CO
2濃度の増加速度は、乗員数によって異なるため、濃度増加プロファイル26には、CO
2濃度の経時変化が乗員数ごとに記録されている。
図2は、定員7人の車両で用いられる濃度増加プロファイル26の例であり、曲線L1は、乗員数が1人の場合における、内気循環時のCO
2濃度の経時変化を示している。また、曲線L2は、乗員数が2人の場合におけるCO
2濃度の経時変化を示している。以下、同様に、曲線L3からL7は、乗員数が3人から7人の場合それぞれでの、CO
2濃度の経時変化を示している。
【0028】
濃度増加プロファイル26は、車内のCO2濃度が、外気濃度C0から、所定の最大濃度Cmaxに達するまで、あるいは、規定の最大時間が経過するまでの、経時変化を記録している。なお、外気濃度C0は、一般的な外気のCO2濃度であり、通常、400ppmである。また、最大濃度Cmaxは、後述する第二基準濃度Csより高い値であり、例えば、2000ppm超過の値である。
【0029】
こうした濃度増加プロファイル26は、車種ごと、かつ、乗員数ごとに、予め実験を行い、その実験結果に基づいて作成される。実験では、実験車両に人を載せ、実験車両の内部のCO2濃度をCO2センサで定期的に検知する。この実験で使用するCO2センサは、一般車両に搭載されるCO2センサ14よりも、高価で高精度のセンサでもよい。また、実験では、一般車両よりも、多数のCO2センサを、車内の複数個所に分散配置してもよい。いずれにしても、本例では、事前に、内気循環時のCO2濃度の経時変化を、正確に測定し、その結果に基づいて、濃度増加プロファイル26を作成する。
【0030】
なお、
図2から明らかな通り、内気循環の際、乗員数が多いほど、CO
2濃度は、急峻に増加する。また、CO
2濃度の増加に伴い、CO
2濃度の増加速度は、徐々に鈍化してくる。また、乗員数が少ない場合、CO
2濃度は、最大濃度Cmaxに到達する前に、特定の値で平衡化する。例えば、乗員数が一人の場合、CO
2濃度は、値Ca付近でほぼ一定となる。これは、乗員が吐き出す単位時間当たりのCO
2量と、自然換気で排出されるCO
2量と、が釣り合うためと考えられる。すなわち、内気循環の場合でも、車両に存在する僅かな隙間を介して空気が入れ替わる自然換気が発生している。この自然換気により、車内から車外に放出される単位時間当たりの空気量は、ほぼ一定であるが、この一定量の空気に含まれるCO
2量は、CO
2濃度が高くなるほど多くなる。一方、乗員が単位時間当たりに吐き出すCO
2量は、ほぼ一定である。そのため、車内のCO
2濃度が高くなるにつれて、自然換気で排出されるCO
2量が、乗員が排出するCO
2量に近づき、CO
2濃度の増加速度が緩慢になる。乗員数が少ない場合には、最大濃度Cmaxに達する前に、乗員が吐き出すCO
2量と、自然換気で排出されるCO
2量と、が釣り合い、CO
2濃度がほぼ一定となる。
【0031】
次に、
図3を参照して濃度減少プロファイル28について説明する。濃度減少プロファイル28は、空調装置12を外気導入で動作させた場合における、車内のCO
2濃度の経時変化を示すデータである。濃度増加プロファイル26と同様に、濃度減少プロファイル28には、CO
2濃度の経時変化が乗員数ごとに分けて記録されている。
図3は、定員7人の車両で用いられる濃度減少プロファイル28の一例であり、曲線L1からL7は、乗員数が1人から7人の場合それぞれでの、CO
2濃度の経時変化を示している。また、濃度増加プロファイル26と同様に、濃度減少プロファイル28には、車内のCO
2濃度が、最大濃度Cmaxから外気濃度C0に変化するまでの経時変化が記録されている。こうした、濃度減少プロファイル28は、濃度増加プロファイル26と同様に、予め実験を行い、その実験結果に基づいて作成される。
【0032】
図3から明らかな通り、外気導入、すなわち、強制換気を実行した場合、乗員数が少ないほど、CO
2濃度は急峻に低下する。また、CO
2濃度の低下に伴い、CO
2濃度の減少速度は、徐々に鈍化してくる。
【0033】
なお、
図2、
図3は、グラフ形式の濃度増加プロファイル26および濃度減少プロファイル28を例示したが、濃度増加プロファイル26および濃度減少プロファイル28は、CO
2濃度の経時変化を示すのであれば、その形式は、適宜、変更されてもよい。したがって、濃度増加プロファイル26および濃度減少プロファイル28は、CO
2濃度の経時変化を示すテーブル形式でもよいし、CO
2濃度の経時変化の近似曲線を表す数式でもよい。
【0034】
コントローラ20は、濃度増加プロファイル26および濃度減少プロファイル28を参照して換気スケジュールを決定する。例えば、コントローラ20は、乗員センサ16で取得された検知人数Ndを、濃度増加プロファイル26および濃度減少プロファイル28に照らし合わせることで、内気循環と外気導入との切り替えのタイミングを予測する。具体的には、コントローラ20は、検知人数Ndを濃度増加プロファイル26に照らし合わせ、内気循環の場合に、車内のCO2濃度が、第一基準濃度Cfから第二基準濃度Csに到達するまでの時間を予測する。ここで、第二基準濃度Csは、換気を開始する基準となる濃度であり、例えば、2000ppmである。第一基準濃度Cfは、換気を停止する基準となる濃度であり、通常、外気濃度C0より高く、第二基準濃度Csより低い値である。第一基準濃度Cfから第二基準濃度Csに達するまでに要する時間は、一度換気を実行完了した後に次の換気を開始するまでの時間を表している。以下では、この時間を「換気間隔時間」と呼ぶ。
【0035】
また、コントローラ20は、検知人数Ndを、濃度減少プロファイル28に照らし合わせることで、車内のCO2濃度が、第二基準濃度Csに達した後、外気導入に切り替えてから、第一基準濃度Cfに到達するまでの時間を予測する。この時間は、換気を開始してから終了するまでの時間を表しており、以下では、この時間を「換気継続時間」と呼ぶ。
【0036】
さらに、コントローラ20は、換気スケジュールの算出の直前に取得された検知濃度Cdを初期濃度Ciとして取得し、この初期濃度Ciと検知人数Ndを、濃度増加プロファイル26に照らし合わせて、内気循環の際、車内のCO2濃度が、初期濃度Ciから第二基準濃度Csに達するまでの時間を予測する。この時間は、最初に換気を開始するまでの時間を表しており、以下では、これを「初回待機時間」と呼ぶ。
【0037】
コントローラ20は、上述の換気間隔時間、換気継続時間、初回待機時間がそれぞれ予測できれば、これらを組み合わせて、換気スケジュールを作成する。換気スケジュールでは、まず、初回待機時間だけ内気循環を実行し、続いて、換気継続時間だけ外気導入(すなわち換気)を実行する。さらに、その後は、換気間隔時間分の内気循環と、換気継続時間分の外気導入と、を繰り返す。
【0038】
この換気スケジュール30の一例について、
図4、
図5を参照して説明する。
図4は、乗員数が5人の濃度増加プロファイル26および濃度減少プロファイル28を抜き出した図である。また、
図5は、乗員数が5人の場合に作成される換気スケジュール30の一例を示す図である。
図5の上段は、作成された換気スケジュール30であり、
図5の下段は、当該換気スケジュール30に従って換気した場合の車内のCO
2濃度の経時変化である。また、換気スケジュール30の作成直前が時刻t0であり、当該時刻t0における検知濃度Cdが、初期濃度Ciである。
【0039】
初期濃度Ciを
図4の濃度増加プロファイル26に照らし合わせると、初期濃度Ciから第二基準濃度Csに達するまでの時間、すなわち、初回待機時間は、taとなる。この場合、
図5に示すように、時刻t0から初回待機時間taが経過する時刻t10までの間は、内気循環が選択される。
【0040】
また、
図4の濃度減少プロファイル28に照らし合わせると、外気導入にすれば、第二基準濃度Csから第一基準濃度Cfに達するまでの時間、すなわち、換気継続時間は、tbとなる。この場合、
図5に示すように、時刻t10から換気継続時間tbが経過する時刻t20までの間、外気導入が選択され、この間、車内の換気が実行される。
【0041】
また、
図4の濃度増加プロファイル26に照らし合わせると、内気循環で、第一基準濃度Cfから第二基準濃度Csに増加するまでの時間、すなわち、換気間隔時間は、tcとなる。この場合、
図5に示すように、時刻t20から換気間隔時間tcが経過する時刻t30までの間、内気循環が選択される。また、時刻t30以降は、換気継続時間tbの外気導入と、換気間隔時間tcの内気循環とが繰り返される。換気スケジュール30が作成できれば、コントローラ20は、この換気スケジュール30に従って、空調装置12の動作を制御する。なお、
図5では、換気スケジュール30をタイミングチャートとして描画しているが、換気の開始および終了タイミングを把握できるのであれば、かかるタイミングチャートは作成されなくてもよい。例えば、コントローラ20は、初回待機時間と、換気間隔時間と、換気継続時間と、を算出すれば、タイミングチャートを作成せずに、それらの値を、換気スケジュール30として記憶してもよい。
【0042】
以上の通り、本例では、初期濃度Ciおよび検知人数Ndを、濃度増加プロファイル26および濃度減少プロファイル28に照らし合わせて、車内のCO2濃度が第一基準濃度Cfと第二基準濃度Csとの間で増減するような、換気スケジュール30を、予め、作成する。そして、この作成された換気スケジュール30に従って、空調装置12の動作モードを切り替えている。かかる構成とすることで、車内のCO2濃度に応じた換気を、適度な頻度および換気量で実行できるため、消費電力量を抑えつつ、車内のCO2濃度の過度な上昇を防止できる。
【0043】
なお、
図2を参照して説明した通り、乗員数が少ない場合、例えば、乗員数が一人の場合、長時間、内気循環を継続しても、CO
2濃度は、第二基準濃度Csに達しない。そのため、このような場合、外気導入を実行することなく、内気循環だけを行うような換気スケジュール30を作成してもよい。この場合、空調に要する消費電力量を効果的に抑制できる。また、感染症の感染リスクは、平均的なCO
2濃度の時間平均値が低いほど、低下できる。そこで、乗員数が少なく、第二基準濃度Csに達する前にCO
2濃度が平衡化する場合でも、定期的に換気を実行するような換気スケジュール30を作成してもよい。例えば、換気間隔時間を30分、換気継続時間を5分として換気スケジュール30を作成してもよい。かかる構成とすることで、CO
2濃度の時間平均をより低く抑えることができるため、感染症の感染リスクをより低減できる。
【0044】
また、CO2濃度の上昇速度および減少速度は、乗員数に応じて変化する。したがって、コントローラ20は、乗員数の変化が検知された場合には、変化後の乗員数に応じた換気スケジュール30を再算出する。
【0045】
ところで、上述した通り、本例の車両換気システム10は、CO2センサ14を有している。そのため、換気スケジュール30を作成するのではなく、CO2センサ14で、車内のCO2濃度を定期的に検知し、その検知結果に基づいて、換気の要否を判断することも考えられる。しかしながら、通常、コストの都合上、一般車両に搭載されるCO2センサ14の性能や個数は、ある程度、限定される。そのため、一般車両に搭載されるCO2センサ14は、時間応答性や精度が乏しく、かかるCO2センサ14では、車内のCO2濃度を、正確かつリアルタイムに検知することは難しかった。また、車内のCO2濃度は、均一ではなく、場所ごとにバラつきがある。CO2センサ14の数が少ない場合、こうしたCO2濃度の分布を把握できず、結果として、換気のタイミングを適切に判断できないおそれがある。さらに、通常、CO2センサ14としては、NDIR方式のセンサが採用されるが、こうしたセンサは、センサ内に組み込まれた赤外線光源の劣化や、光路途中に設けられた反射部材の劣化、受光素子の特性変化等に起因して、検出誤差が生じる。こうした検出誤差を防止するためには、定期的な校正処理が必要であるが、一般的な車両のユーザがこうした校正処理を実行することは難しい。以上のような事情があるため、一般車両に搭載されたCO2センサ14による検出値だけに基づいて、換気の要否を決定した場合、換気量が不足したり、換気量が過大となったりするおそれがあった。
【0046】
一方、本例では、予め、高精度かつ複数のCO2センサを用いて、CO2濃度の濃度増加プロファイル26および濃度減少プロファイル28を取得し、これに基づいて、換気スケジュール30を決定している。そのため、CO2センサ14を利用した場合と比べて、長期間、正確に換気のタイミングを把握できる。また、本例によれば、CO2センサ14への通電は、換気スケジュール30の作成直前だけで足りる。換言すれば、本例によれば、初期濃度Ci取得以外のタイミングでは、CO2センサ14への通電を遮断でき、CO2センサ14への通電時間を大幅に低減できるため、CO2センサ14の通電時間の増加に伴う劣化をより効果的に防止できる。
【0047】
図6は、車両換気システム10による換気処理の流れを示すフローチャートである。
図6に示す通り、コントローラ20は、車両のシステムが起動されれば、まず、CO
2センサ14で検知された検知濃度Cdを、初期濃度Ciとして取得する(S10)。また、コントローラ20は、乗員センサ16での検知結果を、検知人数Ndとして取得する(S12)。続いて、コントローラ20は、得られた初期濃度Ciおよび検知人数Ndを、濃度増加プロファイル26および濃度減少プロファイル28に照らし合わせて、換気スケジュール30を算出する(S14)。
【0048】
換気スケジュール30が作成できれば、以降、コントローラ20は、当該換気スケジュール30に従い、空調装置12の動作を制御する(S16~S24)。すなわち、コントローラ20は、換気スケジュール30に従い、換気の要否を判断し(S16)、換気が必要な場合には、空調装置12を外気導入に切り替える(S18)。一方、換気が不要な場合には、コントローラ20は、空調装置12を内気循環で動作させる(S20)。また、コントローラ20は、乗員数の変化の有無も監視する(S22)。乗員数に変化があった場合には、ステップS10に戻り、換気スケジュール30を再算出する。一方、乗員数に変化がない場合には、車両システムが終了されない限り、換気スケジュール30に従った処理(S16~S24)を繰り返す。
【0049】
なお、これまで説明した構成は一例であり、少なくとも、検知人数Ndおよび初期濃度Ciに基づいて、換気スケジュール30を作成するのであれば、その他の構成は、適宜、変更されてもよい。例えば、車両換気システム10は、さらに、ナビゲーション装置18(
図1参照)を備え、このナビゲーション装置18で算出された走行ルートに応じて、換気スケジュール30を修正してもよい。
【0050】
具体的に説明すると、一般に、トンネルの内部は、車外の空気品質が悪いため、換気には適さない。また、悪臭が発生しやすい施設(例えば畜産施設やごみ処理場等)の近くで、外気を車内に取り込んだ場合、車内に悪臭が入り込み、快適性を損なう。
【0051】
そこで、コントローラ20は、ナビゲーション装置18で算出された走行ルートに基づいて、トンネル内および悪臭発生施設の近傍等、換気に適さない不適エリアでは換気を実行しないように、換気スケジュール30を修正してもよい。
【0052】
この換気スケジュール30の修正の一例について
図5、
図7、
図8を参照して説明する。
図7は、乗員数が5人の濃度増加プロファイル26および濃度減少プロファイル28に、参考となる記号を付加した図である。
図8は、換気スケジュール30の修正の様子を示す図である。
図8の上段は、修正後の換気スケジュール30であり、
図8の下段は、修正後の換気スケジュール30に従って換気した場合の車内のCO
2濃度の経時変化である。
【0053】
ナビゲーション装置18で走行ルートを予測した結果、
図5、
図8においてハッチングを施した時間範囲、すなわち、時刻t46~t53の期間、トンネル(すなわち不適エリア)を走行することが予測されたとする。この場合、コントローラ20は、この時刻t46~t53の期間における換気量が少なくなるように、換気スケジュール30を修正する。
【0054】
具体的に説明すると、
図5に示す、修正前の換気スケジュール30は、車両がトンネル内に位置する時刻t50から時刻t53の期間、換気実行を予定している。そこで、この場合、コントローラ20は、時刻t50から時刻t53までの時間te分の換気を、トンネルに入る時刻t46の前に実行するように、換気スケジュール30を修正する。すなわち、
図8に示すように、トンネル入口に到着する時刻t46から時間teだけ遡った時刻t43に換気を開始する。この場合、時刻t40から時刻t43までの時間tfの間に、CO
2濃度は、C3まで増加する。その後、時刻t43から時刻t46までの時間teの間、換気を実行することで、CO
2濃度は、C2まで低下する。つまり、トンネルの入口に到達する時刻t46において、CO
2濃度はC2まで低下している。その後、内気循環でトンネルを走行した場合、トンネルの出口に到達する時刻t53の時点でのCO
2濃度は、第二基準濃度Csよりも低いC4である。CO
2濃度が、第二基準濃度Csに達するのは、時刻t46から時間tgが経過した時刻t55である。この時刻t55になれば、外気導入に切り替え、換気を実行する。時刻t55以降は、再び、換気間隔時間tcの内気循環と、換気継続時間tbの外気導入とを交互に繰り返す。
【0055】
なお、
図8の例では、不適エリアの走行時間が短いため、不適エリアにおける換気を完全に無くすことができている。しかし、不適エリアの距離や渋滞状況によっては、車両の不適エリアでの滞留時間が、換気間隔時間tcよりも長くなり、不適エリア内においても換気を実行せざるを得ない場合もある。その場合であっても、不適エリアへの進入直前に、換気を実行し、車内CO
2濃度を十分に低下させた状態で、不適エリアに進入することで、不適エリア内における換気の回数を減らすことができる。つまり、本例によれば、換気に適さない不適エリアにおける換気量を減らすことができる。
【0056】
また、これまでの説明では、空調装置12の風量を一定としているが、空調装置12の風量は、適宜、変更される。風量が変更されれば、その分、CO
2濃度の減少速度、ひいては、換気継続時間も変更される。そこで、コントローラ20は、予め、空調装置12の風量ごとの濃度減少プロファイル28を記憶しておき、風量が変更されれば、換気継続時間を変更してもよい。
図9は、風量ごとのCO
2濃度の減少プロファイルを記録した濃度減少プロファイル28の一例である。
図9において、曲線F5_1~F5_4は、乗員数が5人で、風量1~4におけるCO
2濃度の経時変化を示している。なお、風量1、風量2,風量3,風量4は、この順番で徐々に風量が増加する。
図9から明らかな通り、外気導入時におけるCO
2濃度は、風量が増加するほど、急峻に減少し、第二基準濃度Csから第一基準濃度Cfに到達するまでの時間、すなわち、換気継続時間も、風量が増加するほど、短縮される。コントローラ20は、風量が変更された場合には、この濃度減少プロファイル28を参照して、換気スケジュール30における換気継続時間を修正してもよい。
【0057】
また、外気導入時におけるCO2濃度の減少速度は、車両の走行速度によっても変化する。すなわち、風量が同じであっても、車両の走行速度が速いほど、CO2濃度の減少速度は速くなり、換気継続時間は短縮される。そこで、コントローラ20は、車速に応じて、換気スケジュール30における換気継続時間を修正してもよい。
【0058】
また、これまでの説明では、換気を開始する第二基準濃度Csと、換気を停止する第一基準濃度Cfの値を一定としているが、これらの値は、乗員の指示に応じて、あるいは、状況に応じて自動的に、変化する可変値としてもよい。例えば、乗員が選択できる選択肢として、CO2濃度の低下を重視する「換気重視モード」と、消費電力量の抑制を重視する「経済モード」と、を用意しておき、乗員が、「経済モード」を選択した場合、「換気重視モード」を選択した場合に比べて、第一基準濃度Cfおよび第二基準濃度Csの少なくとも一方の値を高くしてもよい。かかる構成とすることで、経済モードの場合には、換気重視モードの場合に比べて、換気の総量が少なくなるため、車内の温度調節に要する消費電力量を抑制できる。また、乗員数が一人の場合、当然であるが、同乗者がいないため、同乗者から感染症が感染するリスクは、ゼロである。換言すれば、乗員数が一人の場合、CO2濃度が増加しても、感染症の感染リスクは増加しない。そこで、乗員数が一人の場合は、乗員数が複数の場合に比べて、第一基準濃度Cfおよび第二基準濃度Csの少なくとも一方の値を高くしてもよい。また、これまでの説明では、車内の温度を調整する空調装置12を換気装置として用いているが、換気装置は、車内を強制換気できるのであれば、空調装置12とは別の装置でもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 車両換気システム、12 空調装置(換気装置)、14 CO2センサ、16 乗員センサ、18 ナビゲーション装置、20 コントローラ、22 プロセッサ、24 メモリ、26 濃度増加プロファイル、28 濃度減少プロファイル、30 換気スケジュール。