(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】ツメ固定装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 7/04 20060101AFI20241126BHJP
B23B 31/16 20060101ALI20241126BHJP
B23Q 3/06 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B23Q7/04 J
B23B31/16 D
B23Q3/06 304J
(21)【出願番号】P 2022026966
(22)【出願日】2022-02-24
【審査請求日】2024-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 修介
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-136587(JP,A)
【文献】特開2009-39812(JP,A)
【文献】特表2013-541426(JP,A)
【文献】実開昭58-70805(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2010/0156016(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 7/04、3/06
B23B 31/16
B25B 1/24
B25J 15/04
B65G 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地側にあるワークを一対のツメにより天側から把持するチャック装置において、地側から前記チャック装置に連結されて前記ツメを地側からワンタッチで着脱可能にするツメ固定装置(100)であって、
一方が前記ワークを把持する把持部(10)であり、他方が平板部(15)であるツメ(1)と、
挿通部(30)と、第1嵌着部(351)と、第2嵌着部(352)とを有する基部(3)と、
ばね(50)と、一端が出力部(552)であるアーム(55)とを有し、前記基部に設けられ、前記ツメをばね力で固定するクランプ(5)と、
を備え、
前記平板部は、端部側に前記平板部の第1被案内部(159)と直交して突出する第1嵌合部(151)を有し、前記把持部側に前記第1嵌合部とは反対方向に突出する第2嵌合部(152)を有し、
前記挿通部は、天地方向に延びた第1案内部(301)及び第2案内部(302)と、天地方向に対し傾斜して延びた第1斜面部(303)及び第2斜面部(304)とを有し、前記第1斜面部及び前記第1案内部は天側にあり、前記第2斜面部及び前記第2案内部は地側にあり、前記第1斜面部と前記第2案内部との境界である稜線に沿ってエッジ部(F)が形成されており、
作業者が前記出力部からのばね力の出力を停止させて前記ツメを前記第2斜面部側から前記第1斜面部に向かって挿入し、前記出力を再開させると、前記出力部が前記平板部を前記第2嵌合部の反対側から押して前記第2嵌合部を前記第2嵌着部に嵌着させ、同時に前記エッジ部を支点に前記平板部を回転させて前記第1嵌合部を前記第1嵌着部に嵌着させるツメ固定装置。
【請求項2】
前記クランプの前記アームはさらに入力部(551)を他端に有し、水平方向に延び、水平面に沿って回転可能に設けられており、かつ、前記入力部は前記ばねに押され、前記出力部はばね力により前記第2嵌着部に向けて押されるように設けられている、請求項1に記載のツメ固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャック装置のツメ固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械は、外部ワークを把持するためのチャック装置を備え、複数のツメでワークを把持固定して加工を行う。3個以上のツメを有することも少なくない。またワークの大きさや形状に応じて複数種類のツメを交換することが求められる。
【0003】
一方、ツメは複数のボルトで締結固定されることが通例であり、ツメの交換にはボルトを締めたり緩めたりする作業が不可欠なため、ツメの交換を頻繁に行う現場では交換作業により設備稼働率が大幅に低下する。
【0004】
この問題を解決するため、ツメ交換を容易にするチャック装置が提案されている。例えば、特許文献1には「チャック爪手段を単一構造のワンタッチで装脱自在の構成」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のチャック装置にしても、ツメをボルト固定する以上、ボルトを締めたり緩めたりする作業を要することには変わりなく、文字通りワンタッチでのツメ交換の実現には至っていない。
【0007】
本発明は、この点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、ワンタッチでツメを着脱可能なチャック装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、地側にあるワークを一対のツメにより天側から把持するチャック装置において、地側からチャック装置に連結されてツメを地側からワンタッチで着脱可能にするツメ固定装置(100)であって、ツメ(1)と、基部(3)と、クランプ(5)とを備える。
【0009】
ツメは、一方がワークを把持する把持部(10)であり、他方が平板部(15)である。基部は、挿通部(30)と、第1嵌着部(351)と、第2嵌着部(352)とを有する。クランプは、ばね(50)と、一端が出力部(552)であるアーム(55)とを有し、基部に設けられ、ツメをばね力で固定する。
【0010】
平板部は、端部側に平板部の第1被案内部(159)と直交して突出する第1嵌合部(151)を有し、把持部側に第1嵌合部とは反対方向に突出する第2嵌合部(152)を有する。
【0011】
挿通部は、天地方向に延びた第1案内部(301)及び第2案内部(302)と、天地方向に対し傾斜して延びた第1斜面部(303)及び第2斜面部(304)とを有し、第1斜面部及び第1案内部は天側にあり、第2斜面部及び第2案内部は地側にあり、第1斜面部と第2案内部との境界である稜線に沿ってエッジ部(F)が形成されている。ここで、第1案内部は第1嵌着部の一部であり、第2案内部は第2嵌着部の一部である。
【0012】
作業者が出力部からのばね力の出力を停止させてツメを第2斜面部側から第1斜面部に向かって挿入し、出力を再開させると、出力部が平板部を第2嵌合部の反対側から押して第2嵌合部を第2嵌着部に嵌着させ、同時にエッジ部を支点として平板部を回転させて第1嵌合部を第1嵌着部に嵌着させる。
【0013】
好ましくは、クランプのアームはさらに入力部(551)を他端に有し、水平方向に延び、水平面に沿って回転可能に設けられており、かつ、入力部がばねに押され、出力部がばね力により第2嵌着部に向けて押されるように設けられている。
【0014】
(効果)
本発明は、アームの一端を押してばねを押し戻すだけでツメの着脱が可能なため、ツメ交換がきわめて容易になり、設備稼働率を高める。また単純な構成により設備が簡素化される。これにより、多様化する異種製品を同一設備で生産する標準化思想の具体化に役立つと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下に示す実施形態は、上方から垂下されたチャック装置900に対し、一対のツメ固定装置100が互いに対向するようにスライド可動に取り付けられ、ツメが天側から地側に置かれたワークWに接近し、把持し、持ち上げ、搬送する場面で用いることを想定したものである。
【0017】
(一実施形態)
一実施形態を
図1と
図2に示す。本発明は、一対のツメ1により地側にあるワークWを天側から把持するチャック装置900において、地側からチャック装置900に連結され、地側からツメ1をワンタッチで着脱可能にするツメ固定装置100であって、ツメ1と、基部3と、クランプ5とを備えている。
【0018】
一対のツメ固定装置100は、それぞれ基部3とクランプ5とが組み合わされ、
図1のように左右対称に形成されている。この「基部3+クランプ5」がチャック装置900に連結されている。ツメ固定装置100は、このように「基部3+クランプ5」を基本構成とし、基部にツメ1を装着し、使用する。
図2の左側にはツメ1が装着されたツメ固定装置100を、
図2の右側にはツメ1が取り外されたツメ固定装置100を示す。
【0019】
図2の右下に、取り外されたツメ1の正面図を示す。ツメ1は、一方がワークWを把持するための把持部10であり、他方は平板部15である。平板部15は端部側(天側)に平板部15の第1被案内部159と直交して突出する第1嵌合部151を有し、把持部10側(地側)に第1嵌合部151とは反対方向に突出する第2嵌合部152を有する。第1嵌合部151は後述の第1嵌着部351に嵌合し、第2嵌合部152は後述の第2嵌着部352に嵌合する。
【0020】
図3に、左右一対の「基部3+クランプ5」を示す。クランプ5は、ばね50とアーム55とを有し、基部3に設けられ、ツメ1をばね力で固定する。本実施形態では、ばね50は押しばね(圧縮コイルばね)で構成され、クランプ5のアーム55は水平方向に延びており、水平面に沿って回転可能なように、天地方向に沿ったクランプ軸Pに固定されている。アーム55の入力部551がばね50に押され、アーム55の出力部552が第2嵌着部352に押し付けられるように配置されている。
【0021】
図4に基部3の構成を示す。
図4は挿通部30、連結部33及びアーム55の出力部552を含む面で切った断面図であり、アーム55の出力部552は浮いてみえるが、実際には基部3に(クランプ5として)連結されている。本実施形態では、基部3は、挿通部30と、連結部33と、第1嵌着部351と、第2嵌着部352とを有する。挿通部30と連結部33はボルトで接合され、また連結部33側でチャック装置900にボルト固定される(図示なし)。
【0022】
続けて
図4を参照する。挿通部30は、天地方向に延びた第1案内部301及び第2案内部302と、天地方向に対し傾斜して延びた第1斜面部303及び第2斜面部304とを有する。第1案内部301及び第1斜面部303は天側にあり、第2案内部302及び第2斜面部304は地側にある。第1斜面部303と第2案内部302との境界である稜線に沿ってエッジ部Fが形成される。なお、第1案内部301は第1嵌着部351の一部、第2案内部302は第2嵌着部352の一部である。
【0023】
[着脱方法]
ここで、
図5~8を参照し、
図3右側の「基部3+クランプ5」を例にとり、ツメ1の着脱方法を説明する。各図の上側には(a)として、ばね50及びアーム55の動きを示す。各図の下側には(b)として、
図4の断面図を用い、(a)の状態のときのツメ1と「基部3+クランプ5」の対応関係を示す。以下、取り付け時は
図5→
図6→
図7→
図8の順に進み、取り外し時は
図8→
図7→
図6→
図5の順に進む。
【0024】
<取り付け工程>
まず取り付け工程について説明する。
図5に、最初の状態すなわちツメ1が取り外された状態を示す。この状態では、アーム55にはばね50のばね力のみが働いている(
図5(a))。このとき、アーム55の出力部552は、ツメ1の挿通部30への進入路(
図5(b)の点線部分)を部分的に閉塞し(
図5(b))、ツメ1の挿通部30への進入を阻んでいる。
【0025】
図6に、アーム55の入力部551を作業者が指で押し(図示なし)、ばね50を圧縮させた状態を示す。こうすることにより、アーム55の出力部552がクランプ軸Pを中心に回転して隙間を生じるため(6(a))、ツメ1の挿通部30への進入路(
図6(b)の点線部分)が閉塞されなくなり(6(b))、ツメ1が挿入可能となる。
【0026】
図7に、作業者がアーム55の入力部551を手で押し続けたまま(
図7(a))、ツメ1の把持部10を把持し(図示なし)、地側から挿通部30に進入させて第2斜面部304及び第1斜面部303に沿って奥まで差し込んだ状態(
図7(c))を示す。このように、ツメ1を奥まで差し込むとツメ1の第2嵌合部152周辺が第2嵌着部352周辺に引っ掛かって止まる。
【0027】
図8に、作業者が押し続けていた入力部551から手を離した状態を示す。このとき、ばね50のばね力により、入力部551の位置が最初の状態(
図8(a))に復帰すると同時に、挿入されたツメ1を第2嵌合部152の反対側から押し続け、第2嵌合部152を第2嵌着部352に嵌着させる(
図8(b))。このとき、エッジ部Fを回転支点として平板部15が起き上がるため、第1嵌合部151も第1嵌着部351に嵌着する。
【0028】
以上により、(1)「第1嵌合部151+第1嵌着部351」、(2)「第1嵌合部152+第2嵌着部352」の各組合せからなる2点(以下、「固定ポイント」という)を介してツメ1が挿通部30に安定的に固定される。同時に、出力部552は、第1斜面部303と第2斜面部304が挿通路30に形成する「斜め通路」を遮断することでツメ1をより脱落しにくくさせている。
【0029】
<取り外し工程>
次に取り外し工程について説明する。取り外し工程では、取り付け工程とは逆の順序で各ステップを行う。最初、
図8の状態でツメが装着されている。作業者が入力部551を指で押すとばね50が圧縮され、同時に出力部552が押し付けられていたツメ1の平板部15から離れる(
図7)。これにより出力部552は「斜め通路」を部分的に閉塞しなくなるため、作業者は把持部10を把持してツメ1を「固定ポイント」から取り外し、「斜め通路」を通して地側に引き抜く(
図6)。その後、入力部551から手を離せば、圧縮されていたばね50がばね力で復元し、出力552が「斜め通路」を部分的に閉塞する状態に戻る(
図5)。
【0030】
[第1実施形態の効果]
チャック装置ではツメをボルト固定することが多く、締結作業に一定の時間がかかっていた。本発明によれば、アームの一端を押してばねを押し戻すだけで、ワンタッチでツメの着脱が可能となるため、ワークの大きさや形状に応じて、ツメの交換作業がきわめて迅速になり、設備稼働率を高めるほか、単純な構成で実現されるため、設備が簡素化される。よって多様化する異種製品を同一設備で生産する標準化思想の具体化にも役立つことが期待される。
【0031】
(その他の実施形態)
上記の実施形態はばねの弾性力を利用した固定方式を採用しているが、本発明はこれに限られない。ばねの種類及び形状、アームの形状、支点の位置等の変更によるさまざまなバリエーションを構成することが可能である。
【0032】
以上、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、さまざまな形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0033】
100 ツメ固定装置、900 チャック装置
1 ツメ
10 把持部
15 平板部、151 第1嵌合部、152 第2嵌合部、159 第1被案内部
3 基部
30 挿通部
301 第1案内部、302 第2案内部、303 第1斜面部、304 第2斜面部
351 第1嵌着部、352 第2嵌着部
39 連結部
5 クランプ
50 ばね
55 アーム、551 入力部、552 出力部
F エッジ部、W ワーク