(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】消毒用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/32 20060101AFI20241126BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241126BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20241126BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241126BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241126BHJP
A61P 31/02 20060101ALI20241126BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20241126BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20241126BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20241126BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
A61K47/32
A61K47/10
A61K47/14
A61K9/08
A61K45/00
A61P31/02
A61K8/81
A61K8/34
A61K8/37
A61Q19/10
(21)【出願番号】P 2022503309
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006125
(87)【国際公開番号】W WO2021172162
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2020030149
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】原 真左夫
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 俊輔
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-080401(JP,A)
【文献】特開2018-080279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A61Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位
と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに基づく構成単位とのモル比が9:1~2:1であるMPC共重合体を0.001質量%~5質量%、低級アルコールを5質量%~90質量%、及び
ポリオキシエチレン脂肪酸エステルを0.01質量%~10質量%含有し、前記MPC共重合体が、重量平均分子量が800,000~1,800,000のMPC共重合体bからなる、消毒用組成物。
【請求項2】
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに基づく構成単位とのモル比が9:1~2:1であるMPC共重合体を0.001質量%~5質量%、低級アルコールを5質量%~90質量%、及びポリオキシエチレン脂肪酸エステルを0.01質量%~10質量%含有し、前記MPC共重合体が、重量平均分子量が10,000~400,000のMPC共重合体a及び重量平均分子量が800,000~1,800,000のMPC共重合体bからなる、消毒用組成物。
【請求項3】
前記低級アルコールが、エタノール及びイソプロパノールからなる群より選択される1種以上である、請求項1
又は2に記載の消毒用組成物。
【請求項4】
さらに、殺菌剤を0.01質量%~5質量%含有する請求項1
~3のいずれか1項に記載の消毒用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用感に優れる消毒用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病原性ウイルスや細菌類による感染症の拡大が懸念されており、各種感染防止関連製品の開発が行われている。中でも消毒用組成物は、手指に塗布するだけで殺菌消毒できる利点を有し、広く普及している。
消毒用組成物においては、幅広い殺菌スペクトルを持たせ、また殺菌力を高めるために、特定の殺菌成分を配合したり、組成物のpHを特定領域に調整するといった工夫がなされてきた。
殺菌力を維持するとともに、速乾性やべたつきのなさといった使用感の改良を目的として、エタノール等の低級アルコールを高含有量で含有する殺菌剤組成物において、増粘剤の種類や、組成物のpHを特定領域に調整するといった工夫がなされている。たとえば、カルボキシビニルポリマーをアルカリ金属水酸化物で中和し、特定の分子量を有するポリオキシエチレングリコールにより、組成物の白濁を防止したゲル状の手指殺菌剤が提案されている(特許文献1)。
【0003】
しかし、上記の消毒用組成物は、pHが中性領域ではなかったり、低級アルコールを比較的多量に含有したりするために、医療関係者のように、消毒用組成物を使用する頻度が高い場合には、手荒れを生じるおそれがあった。それゆえ、消毒用組成物に手荒れ防止効果を付与するために、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール等の保湿剤を配合したり(特許文献2)、水溶性多価アルコールと脂肪酸トリグリセリドを配合する(特許文献3)など、さらなる工夫がなされてきた。
また昨今、塗布部位が分かりやすく、塗り広げやすいという利点から、泡状の手指消毒組成物が利用されている。泡状の手指消毒組成物は起泡剤として脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を含み、メッシュを通じてポンプより吸い上げられ、微細な泡の集合体として吐出される。泡状の手指消毒組成物にも、塗布性および速乾性を目的として低級アルコールが配合されるが、低級アルコールは消泡剤でもあるため、吐出した手指消毒組成物の泡の持続性が悪く、手指に塗り広げる前に消泡する、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-144146号公報
【文献】特開2004-155712号公報
【文献】特開2011-219410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、手荒れ防止などの観点から、皮膚に塗布した際にしっとり感があり、かつ吐出した際の泡の持続性を有する消毒用組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、特定の分子量の2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)に基づく構成単位を含む共重合体(以下「MPC共重合体」と表記することがある)、低級アルコールおよび脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を特定量含有する消毒用組成物とすることにより、しっとり感を有しながら、該消毒用組成物の泡の持続性を向上でき、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の消毒用組成物は、以下の[1]~[3]の通りである。
【0008】
[1]2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位を含むMPC共重合体を0.001質量%~5質量%、低級アルコールを5質量%~90質量%、及び脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を0.01質量%~10質量%含有し、前記MPC共重合体が、重量平均分子量が10,000~400,000のMPC共重合体a及び重量平均分子量が800,000~1,800,000のMPC共重合体bからなる群から選択される1種以上の共重合体からなる、消毒用組成物。
[2]前記低級アルコールが、エタノール及びイソプロパノールからなる群より選択される1種以上である、[1]に記載の消毒用組成物。
[3]さらに、殺菌剤を0.01質量%~5質量%含有する[1]又は[2]に記載の消毒用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、泡として吐出した際に泡の持続性に優れ、塗布した際にしっとり感を有する消毒用組成物を提供することができる。なお、しっとり感とは、消毒用組成物を塗布した後に、皮膚上に湿り気が保持されているような感触(保湿性に優れる感触)をいう。
従って、本発明の消毒用組成物に殺菌剤を含有させ、手指等に使用した場合には、消毒用組成物を塗布ムラなく塗ることができ、優れた殺菌効果と手荒れ等と防止効果を併せ持つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[消毒用組成物]
本発明の消毒用組成物は、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位を含むMPC共重合体を0.001質量%~5質量%、低級アルコールを5質量%~90質量%、及び脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を0.01質量%~10質量%含有し、前記MPC共重合体が、重量平均分子量が10,000~400,000のMPC共重合体a及び重量平均分子量が800,000~1,800,000のMPC共重合体bからなる群から選択される1種以上の共重合体からなる、消毒用組成物である。
以下に本発明の詳細を説明する。
【0011】
(MPC共重合体)
本発明の消毒用組成物は、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)に基づく構成単位を含むMPC共重合体を含有する。MPC共重合体は、MPCに基づく構成単位と、MPC以外のモノマーに基づく構成単位を含む共重合体である。MPC以外のモノマーに基づく構成単位としては、後述する疎水性単量体に基づく構成単位が好ましい。
【0012】
<MPCに基づく構成単位>
MPCに基づく構成単位は、下記の式(1)で表される。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル」とは、「アクリロイルまたはメタクリロイル」を意味する。
【0013】
【化1】
式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を示す。
【0014】
<疎水性単量体に基づく構成単位>
該疎水性単量体に基づく構成単位としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリルアミド誘導体等に基づく構成単位が例示される。
【0015】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルに基づく構成単位は、下記の式(2)で表される。ここで、「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸またはメタクリル酸」を意味する。
【0016】
【化2】
式(2)中、R
2は水素原子またはメチル基を示し、R
3は炭素数1~24のアルキル基を示す。
【0017】
式(2)中、R3で示されるアルキル基は、炭素数1~24の直鎖または分岐のアルキル基であり、アルキル基の水素原子の一部が置換されていてもよい。
炭素数1~24の直鎖または分岐のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、2-エチルヘキシル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ベヘニル等が例示される。
従って、式(2)で表される(メタ)アクリル酸アルキルエステルに基づく構成単位としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニル等に基づく構成単位が挙げられる。
【0018】
また、式(2)におけるR3で示されるアルキル基は、アルキル基の水素原子の一部が置換されてもよい。例えば、アルキル基の水素原子の一部が、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、第4級アンモニオ基などにより置換されていてもよい。
従って、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに基づく構成単位として、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロデシル等、上記式(2)中、R3で示されるアルキル基がジアルキルアミノ基やハロゲン原子等で置換されている(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、R3で示されるアルキル基が、ヒドロキシル基および第4級アンモニオ基で置換された構造を有する2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドに基づく構成単位も、疎水性単量体に基づく構成単位として例示される。
【0019】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルに基づく構成単位は、上記した中でも、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドに基づく構成単位であることが好ましく、中でもメタアクリル酸ブチルに基づく構成単位であることが好ましい。
【0020】
(メタ)アクリルアミド誘導体に基づく構成単位は、下記の式(3)で表される。ここで、「(メタ)アクリルアミド」とは、「アクリルアミドまたはメタクリルアミド」を意味する。
【0021】
【化3】
(式中、R
4は水素原子またはメチル基を示し、R
5およびR
6はそれぞれ独立にメチル基またはエチル基を示し、mは1~3の整数を示す。)
【0022】
本発明の目的には、(メタ)アクリルアミド誘導体に基づく構成単位として、N,N-ジメチルアミノエチルアクリルアミド、またはN,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドに基づく構成単位を含む共重合体が好ましい。
【0023】
本発明においては、MPC共重合体として、MPCに基づく構成単位と、上記疎水性単量体に基づく構成単位を1種または2種以上含む共重合体を用いることができる。
本発明の目的には、疎水性単量体に基づく構成単位として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに基づく構成単位、および(メタ)アクリルアミド誘導体に基づく構成単位からなる群より選択される1種または2種以上を含む共重合体が好ましく用いられる。
【0024】
MPCに基づく構成単位と、上記疎水性単量体に基づく構成単位のMPC共重合体中におけるそれぞれの含有量の比([MPCに基づく構成単位]:[疎水性単量体に基づく構成単位])(n1:n2)は、モル比にて9:1~2:1であり、好ましくは8:1~7:3であり、より好ましくは6:1~3:1である。
【0025】
MPC共重合体の重合形態は特に限定されず、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよいが、ランダム共重合体が好ましい。
また、MPC共重合体は、MPCに基づく構成単位および疎水性単量体に基づく構成単位以外に、他の構成単位を含む共重合体であってもよいが、MPCに基づく構成単位および疎水性単量体に基づく構成単位のみからなる共重合体であることが好ましい。
他の構成単位は、通常共重合体の構成単位となり得るものから、本発明の効果に影響を与えない範囲で適宜選択することができる。
他の構成単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸アリル等の(メタ)アクリル酸のアルケニルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸の環状アルキルエステル;(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のヘテロ環で置換されたアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の芳香族基を含有する(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸イソボルニル等の(メタ)アクリル酸とモノテルペンアルコールとのエステル;(メタ)アクリル酸グリシジル;スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン系単量体;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体等に基づく構成単位を挙げることができる。
これら他の構成単位は1種または2種以上を含むことができ、MPC共重合体中におけるその含有量は、MPCに基づく構成単位および疎水性単量体に基づく構成単位の合計量に対して40モル%以下であり、好ましくは20モル%以下であり、より好ましくは0モル%である。
【0026】
本発明におけるMPC共重合体は、重量平均分子量が10,000~400,000のMPC共重合体a及び重量平均分子量が800,000~1,800,000のMPC共重合体bからなる群から選択される1種以上の共重合体からなる。すなわち、本発明のMPC共重合体は、上記したMPC共重合体aであってもよいし、MPC共重合体bであってもよいし、MPC共重合体a及びMPC共重合体bの両方からなるものであってもよい。
MPC共重合体が、上記MPC共重合体a及び共重合体bのいずれの成分も含まない場合、例えばMPC共重合体が、重量平均分子量400,000超800,000未満の共重合体である場合は、消毒用組成物を泡として吐出した際に泡の持続性が低下する。また、MPC共重合体が、重量平均分子量が10,000未満の共重合体である場合は、消毒用組成物の保湿性が低下する場合があり、MPC共重合体が、重量平均分子量が1,800,000より大きい共重合体である場合は、沈殿物が生じ、消毒用組成物を皮膚などへ均一に塗布することが困難となる恐れがある。
【0027】
MPC共重合体aの重量平均分子量は、好ましくは30,000~300,000、より好ましくは50,000~200,000である。
MPC共重合体bの重量平均分子量は、好ましくは900,000~1,600,000、より好ましくは1,000,000~1,400,000である。
なお、MPC共重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定され、ポリエチレングリコール換算の分子量で示される。GPCは、以下の条件で測定される。
<測定条件>
GPCシステム:高速液体クロマトグラフィーシステムCCP&8020シリーズ(東ソー株式会社製)
カラム:OHpak SB-802.5HQ(昭和電工社製)、及びOHpak SB-806HQ(昭和電工社製)を直列に接続
展開溶媒:20mM りん酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)
検出器:示差屈折率検出器
分子量標準:EasiVial PEG/PEO(Agilent Technologies社製)
流速:0.5mL/分
測定時間:70分
カラム温度:45℃
サンプル:得られた共重合体を終濃度0.1重量%となるよう展開溶媒で希釈した。
【0028】
本発明の消毒用組成物におけるMPC共重合体の含有量は、0.001質量%~5質量%であり、泡の持続性及び保湿効果を向上させる観点から、0.005質量%~14質量%であることが好ましく、0.01~3質量%であることがより好ましく、0.2~2質量%であることがさらに好ましい。
MPC共重合体の含有量が0.001質量%未満であると、消毒用組成物において保湿効果が十分でない場合があり、MPC共重合体の含有量が5質量%を超えると、沈殿物が生じる場合がある。
MPC共重合体が、上記したMPC共重合体a及びMPC共重合体bからなる場合は、MPC共重合体aとMPC共重合体bの配合比(MPC共重合体a/MPC共重合体b:重量比)は、好ましくは0.1~10であり、より好ましくは0.3~3であり、さらに好ましくは0.5~2である。
【0029】
MPC共重合体は、公知の製造方法により製造することができる。
たとえば、MPCおよび(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の疎水性単量体、ならびに必要に応じて上記他の構成単位に相当する単量体を含む単量体混合物を、ラジカル重合開始剤の存在下、窒素等の不活性ガス雰囲気下において、溶液重合等の公知の方法により重合させて製造することができる。
その際の各単量体の含有量比は、MPC共重合体中における各構成単位の含有量比に相当する比とすればよい。
MPC共重合体は、上記した重合方法により製造して用いることもできるが、水や多価アルコールの溶液もしくは分散液として市販されている製品を用いることもできる。
【0030】
本発明の消毒用組成物には、上記したMPC共重合体は1種を選択し、単独で含有させてもよく、2種以上を選択し、組み合わせて含有させることもできる。
本発明の消毒用組成物に含有させるMPC共重合体の形態としては、粉末等の固形状、溶液、分散液等の液状のいずれでもよい。
【0031】
(低級アルコール)
本発明の消毒用組成物に含有される低級アルコールは、炭素数が5以下の一価のアルコールであり、MPC共重合体や殺菌剤を溶解させることができ、皮膚に対して使用可能なものであれば、特に制限なく用いることができるが、炭素数が3以下である一価アルコールが好ましく、炭素数が2または3である一価アルコールがより好ましい。
本発明において好適に用いられる低級アルコールとしては、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等が挙げられ、エタノールおよびイソプロパノールがより好適に用いられる。
本発明において、低級アルコールは1種を単独で用いてもよく、または2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
本発明の消毒用組成物に低級アルコールを含有させると、消毒用組成物の界面張力が低下して、皮膚や医療器具の凹凸部位に組成物が広がりやすくなるため、皮膜形成時の均一性が向上し、皮膚に対して均一に塗布しやすくなる。
本発明の消毒用組成物における低級アルコールの含有量は、5質量%~90質量%であり、好ましくは10質量%~70質量%であり、好ましくは15質量%~50質量%であり、好ましくは20質量%~40質量%である。
低級アルコールの含有量が5質量%未満であると、形成される皮膜にムラが生じ、均一に塗布できない場合がある。一方、低級アルコールの含有量が90質量%を超えると、MPC共重合体による保湿効果が得られない場合がある。
【0033】
(脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤)
本発明の消毒用組成物に含有される脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ソルビタンエステルなどを挙げることができる。このうち、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルが好ましく、その中でも特に、ステアリン酸ポリオキシル40の使用が好ましい。
本発明の消毒用組成物には、脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を選択し、混合して用いてもよい。本発明の消毒用組成物における脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤の含有量は、殺菌剤の種類等により適宜設定され得るが、通常0.01質量%~10質量%であり、好ましくは0.01質量%~0.5質量%である。
【0034】
(水)
本発明の消毒用組成物は、水を含有することが好ましい。本発明の消毒用組成物の調製に際し、上記した低級アルコールを、水との混合溶媒として用いることにより、皮膚に対するMPC共重合体の密着性を向上させることができるため、好ましい。これは組成物の乾燥時において、低級アルコールと水の蒸散速度が異なることから、MPC共重合体の疎水性基を皮膚表面に効果的に配向させることができるためである。
本発明の消毒用組成物に含有させる水としては、化粧品用または医薬品用等として一般的に用いられる水を用いることができ、イオン交換水、精製水、注射用水等を用いることが好ましい。
本発明の消毒用組成物における水の含有量は、好ましくは1質量%~89質量%であり、より好ましくは15質量%~85質量%である。
水の含有量が1質量%未満である場合、もしくは89質量%を超える場合には、皮膚に対するMPC共重合体の密着性が低下することがあるため、好ましくない。
【0035】
(殺菌剤)
本発明の消毒用組成物は、殺菌剤を含有することが好ましい。殺菌剤としては、病原性を有する微生物を死滅させ、または増殖を抑制し得る薬剤であり、皮膚の消毒に使用することができるものであれば特に制限されない。
殺菌剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等のカチオン性界面活性剤;塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等の両性界面活性剤;グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン等のビグアナイド系化合物;ヨウ素イオン、ヨードホルム、ポビドンヨード等のハロゲン(ヨウ素)化合物;銀イオン等の銀系無機化合物;クレゾール、イソプロピルメチルフェノール等のフェノール系化合物等が挙げられる。
殺菌活性と皮膚に対する低刺激性等の観点からは、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン等が好ましく用いられる。
本発明の消毒用組成物には、殺菌剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を選択し、混合して用いてもよい。
本発明の消毒用組成物における殺菌剤の含有量は、殺菌剤の種類等により適宜設定され得るが、通常0.01質量%~5質量%であり、好ましくは0.01質量%~0.05質量%である。
【0036】
(湿潤剤)
また、本発明の消毒用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、湿潤剤を含有することができる。
湿潤剤としては、たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、イソプレングリコール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、イソペンチルジオール等の二価アルコール;グリセリン;ジグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン縮合物;ソルビトール、キシリトール、マルチトール、マンニトール、エリスリトール等の糖アルコール等、ポリオール系化合物類が挙げられ、1種を単独で、または2種以上の混合物として用いることができる。
これら湿潤剤の中でも、皮膚への馴染みの良さから、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールおよびグリセリンがより好ましく用いられる。
本発明の消毒用組成物における湿潤剤の含有量は、本発明の効果を損なうことのない範囲で選択され、0.01質量%~10質量%とすることが好ましい。
【0037】
本発明の消毒用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに、消毒用組成物等外用剤に一般的に使用される添加剤を含有させてもよい。
かかる添加剤としては、たとえば、増粘剤、噴射剤、有機酸、酸化防止剤、安定剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、香料、色素、色材等が挙げられる。これらの添加剤は、目的に応じて、1種または2種以上を選択し、含有させることができる。
【0038】
本発明の消毒用組成物は、上記したMPC共重合体、脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤、低級アルコールに、必要に応じて、殺菌剤、水、湿潤剤や一般的な他の添加剤を加えて適宜混合し、均一として製造することができる。
【0039】
本発明の消毒用組成物は、液状、ペースト状等の半固形状等の形態で提供され得る。
使用時の簡便さや安全性等の観点からは、本発明の消毒用組成物は、液状の形態とし、フォーマーポンプ付き容器またはエアゾール容器に充填した泡吐出型等の製品とすることが好ましい。
本発明の消毒用組成物をたとえば手指の消毒に用いる場合には、消毒用組成物を適量(0.5mL~3mL程度)取り、手に擦り込みながら塗布した後、乾燥させて使用することができる。
【0040】
本発明の消毒用組成物は、吐出した際に泡の持続性に優れ、吐出した際にしっとり感を有する。それゆえ、本発明の消毒用組成物に殺菌剤を含有させて手指等に使用した場合には、塗布ムラなく均一に塗ることができ、保湿効果と殺菌効果を併せ持つことができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0042】
[実施例1~11、比較例1~3]
表1に示す処方に従って、実施例1~11および比較例1~3の各消毒用組成物を下記の通り調製した。
精製水にMPC重合体の粉末を添加し、均一になるまで攪拌した。次いで低級アルコールとしてエタノール、脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤としてステアリン酸ポリオキシル40および殺菌剤として塩化ベンザルコニウムを添加し、均一になるまで攪拌し、消毒用組成物100gを調製した。
該消毒用組成物について、しっとり感及び泡の持続性について後述するとおり評価し、結果を表1及び2に示した。
実施例・比較例で使用した各成分については以下に示すとおりである。
<MPC共重合体a>
MPC共重合体(1)としては、MPC・メタクリル酸ブチル共重合体(MPCおよびメタクリル酸ブチルの共重合組成比[MPC/メタクリル酸ブチル](モル比)=80/20、重量平均分子量=87,000)を用いた。
MPC共重合体(2)としては、MPC・メタクリル酸ブチル共重合体(MPCおよびメタクリル酸ブチルの共重合組成比[MPC/メタクリル酸ブチル](モル比)=80/20、重量平均分子量=150,000)を用いた。
<MPC共重合体b>
MPC共重合体(4)としては、MPC・メタクリル酸ブチル共重合体(MPCおよびメタクリル酸ブチルの共重合組成比[MPC/メタクリル酸ブチル](モル比)=80/20、重量平均分子量=1,210,000)を用いた。
<その他のMPC共重合体>
MPC共重合体(3)としては、MPC・メタクリル酸ブチル共重合体(MPCおよびメタクリル酸ブチルの共重合組成比[MPC/メタクリル酸ブチル](モル比)=80/20、重量平均分子量=600,000)を用いた。
【0043】
<脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤>
脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤として、ステアリン酸ポリオキシル40を用いた。
<低級アルコール>
低級アルコールとしてエタノールを用いた。
<殺菌剤>
殺菌剤として、塩化ベンザルコニウムを用いた。
【0044】
また、ステアリン酸ポリオキシル40、エタノールおよび塩化ベンザルコニウムとしては、外用剤用として市販されている一般的な原料を用いた。
【0045】
上記実施例および比較例の各消毒用組成物について、しっとり感および泡の持続性を下記の通り評価した。
(1)しっとり感の評価
実施例および比較例の各消毒用組成物を皮膚に塗布した際のしっとり感については、25才~55才の男女パネラー20名による官能評価により評価した。
即ち、室温25℃、相対湿度40%の環境下で、各パネラーに消毒用組成物のそれぞれを2mL手に取らせ、手指に10回擦り込ませた後、指で指先を触らせ、しっとり感を下記評価基準により評価させた。パネラー20名の評価点の合計点を算出し、下記判定基準により、しっとり感の判定を行った。
<評価基準>
しっとりする:2点
ややしっとりする:1点
しっとりしない:0点
<判定基準>
31点~40点:A;しっとり感のある消毒用組成物である
21点~30点:B;ややしっとり感のある消毒用組成物である
20点以下:C;しっとり感の感じられない消毒用組成物である
【0046】
(2)泡の持続性の評価
実施例および比較例の各消毒用組成物を容器に入れ、ポンプフォーマー(M1ポンプフォーマー255/200メッシュ, 大和製罐(株)製)を取り付けた。室温25℃、相対湿度40%の環境下で、キムタオル(日本製紙クレシア(株)製)上5cmの距離から、泡の面積が4.5±0.5cm2となるように吐出し、吐出から90秒後の泡の大きさを測定した。この測定を3回繰り返し、3回の測定値の平均値を算出した。下記判定基準により、泡の持続性の判定を行った。
<判定基準>
1.0cm2以上:A;泡の持続性に優れる消毒用組成物である
0.8cm2以上、1.0cm2未満:B;泡の持続性にやや優れる消毒用組成物である
0.8cm2未満:C;泡の持続性が十分とは言えない消毒用組成物である
【0047】
【0048】
【0049】
表1に示されるように、本発明の実施例1~11の各消毒用組成物は、しっとり感がありかつ泡の持続性に優れると評価された。MPC共重合体を0.5質量%含有する実施例2、実施例3、実施例5、実施例6、実施例8及び実施例9の消毒用組成物においては、特にしっとり感と泡の持続性に優れることが認められた。
これに対し、MPC共重合体を含有しない比較例1の消毒用組成物では、しっとり感のない消毒剤であり及び泡の持続性に欠ける消毒剤と評価された。MPC共重合体を含有するものの、MPC共重合体の平均分子量が特定の分子量外である比較例2~3の消毒用組成物では、しっとり感のある消毒剤であるが、泡の持続性に欠けていると評価された。これは、特定の分子量外のMPC共重合体は、表面張力が比較的低いため、消毒剤が泡として吐出された際、微細な泡を囲い込むことができず、泡の持続性に劣っていたためと考えられる。
【0050】
実施例および比較例の各消毒用組成物についての上記評価結果より、本発明の消毒用組成物は、MPC共重合体を含有しない比較例の消毒用組成物に比べて、泡の持続性及びしっとり感のいずれにも優れることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上、詳述したように、本発明により、しっとり感があり、かつ泡として吐出した際の泡の持続性に優れる消毒用組成物を提供することができる。
本発明の消毒用組成物を手指等に使用した場合には、吐出した際に塗布しやすいため使用感に優れ、手荒れ等を防ぐことができる。