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特許7593399復号装置、復号方法、プログラム、符号化装置、符号化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】復号装置、復号方法、プログラム、符号化装置、符号化方法
(51)【国際特許分類】
   H03M 7/30 20060101AFI20241126BHJP
   G06F 3/01 20060101ALI20241126BHJP
   A63F 13/285 20140101ALI20241126BHJP
【FI】
H03M7/30 Z
G06F3/01 560
A63F13/285
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022517551
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2021011494
(87)【国際公開番号】W WO2021220659
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2024-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2020079874
(32)【優先日】2020-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹田 裕史
(72)【発明者】
【氏名】錦織 修一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 志朗
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 高弘
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-239430(JP,A)
【文献】国際公開第2011/027535(WO,A1)
【文献】特開2008-123431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 7/30
G06F 3/01
A63F 13/285
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって、前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間の触覚信号について、第1のビットレートによる符号化を行って得られた第1の符号化データを復号する第1復号部と、
前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間の触覚信号について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行って得られた第2の符号化データを復号する第2復号部と、を備える
復号装置。
【請求項2】
前記第1の符号化データを復号することで得られた第1の波形データと、前記第2の符号化データを復号することで得られた第2の波形データとを結合する結合部を備える
請求項1に記載の復号装置。
【請求項3】
前記結合部は、前記第1の波形データと前記第2の波形データの結合部分についてクロスフェード処理を施す
請求項2に記載の復号装置。
【請求項4】
触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって、前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間の触覚信号について、第1のビットレートによる符号化を行って得られた第1の符号化データを復号し、
前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間の触覚信号について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行って得られた第2の符号化データを復号する
復号方法。
【請求項5】
触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって、前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間の触覚信号について、第1のビットレートによる符号化を行って得られた第1の符号化データを復号する機能と、
前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間の触覚信号について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行って得られた第2の符号化データを復号する機能と、を情報処理装置に実行させる
プログラム。
【請求項6】
触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間と、前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間と、を判定する判定部と、
前記第1信号区間の触覚信号について、第1のビットレートによる符号化を行う第1符号化部と、
前記第2信号区間の触覚信号について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行う第2符号化部と、を備える
符号化装置。
【請求項7】
前記判定部は、触覚信号に付加された前記第1信号区間及び前記第2信号区間の区分情報に基づいて前記第1信号区間及び前記第2信号区間を判定する
請求項6に記載の符号化装置。
【請求項8】
前記判定部は、触覚信号の波形解析を行った結果に基づいて前記第1信号区間及び前記第2信号区間を判定する
請求項6に記載の符号化装置。
【請求項9】
前記判定部は、触覚信号の振幅変化率に基づいて前記第1信号区間及び前記第2信号区間を判定する
請求項6に記載の符号化装置。
【請求項10】
前記第2符号化部は、前記第2信号区間について前記第1信号区間に対する符号化よりも変換長が長い符号化方式による符号化を行う
請求項6に記載の符号化装置。
【請求項11】
前記第2符号化部は、前記第2信号区間についてパラメトリック符号化を行う
請求項6に記載の符号化装置。
【請求項12】
前記第1信号区間及び前記第2信号区間を判定するために用いる第1バッファメモリと、
前記判定の結果に応じて前記第2信号区間に対して符号化を行うために用いる第2バッファメモリと、を備える
請求項10に記載の符号化装置。
【請求項13】
触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間と、前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間と、を判定し、前記第1信号区間の触覚信号について、第1のビットレートによる符号化を行い、前記第2信号区間の触覚信号について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行う
符号化方法。
【請求項14】
触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間と、前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間と、を判定する機能と、
前記第1信号区間の触覚信号について、第1のビットレートによる符号化を行う機能と、
前記第2信号区間の触覚信号について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行う機能と、を情報処理装置に実行させる
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は符号化された触覚信号を復号する復号装置とその復号方法、及び復号装置のプログラムと、触覚信号を符号化する符号化装置とその符号化方法、及び符号化装置のプログラムとに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ユーザが装着する装置が振動して、ユーザに触覚刺激を与える技術が開発されている。ここで、触覚刺激とは、振動現象などにより触覚をユーザに感じさせる物理現象をいう。また、触覚刺激を発生させることを触覚提示と称する。
【0003】
触覚提示を行う技術は、種々の分野の機器で利用されている。例えば、スマートフォン等のタッチパネルを備える端末装置では、タッチパネルがユーザからのタッチ操作に応じて振動し、ユーザの指に触覚刺激を与えることにより、タッチパネルに表示されたボタン等へのタッチ感を表現することが可能となる。また、例えば、ヘッドホンなどの音楽リスニング装置では、音楽再生に合わせて触覚刺激を与えることにより、再生中の音楽における重低音を強調することが可能となる。また、例えば、コンピュータゲームやVR(Virtual Reality)などを提供する装置では、コントローラを用いた操作やコンテンツのシーンに応じて、当該コントローラなどを振動させ、触覚刺激を与えることにより、ユーザのコンテンツに対する没入感を向上させることが可能となる。
【0004】
また、外部装置から受信した触覚信号に基づいてユーザに触覚刺激を与える技術が開発されている。例えば、下記特許文献1では、受信した信号に基づいて、振動の周波数や振幅を変化させながらユーザに触覚刺激を与える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-202486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、ユーザの身体における複数の部位に対し触覚提示を行う際に、ユーザの各部位に対応したチャンネルごとに触覚信号を用意する必要があることを考える。この場合、触覚刺激を与える部位の数を増加させるに従って、必要となる触覚信号の総データ量が増加する状況が想定される。また、触覚信号が含む振動の周波数の幅が広くなる場合でも、必要となる触覚信号の総データ量は増加する。そのため、触覚信号の送受信に用いられるネットワークの輻輳状態などにより、触覚信号の送受信の遅延が発生し得る。
【0007】
本技術は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、伝送データ量の削減と触覚再現性の確保の両立が図られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本技術に係る復号装置は、触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって、前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間の触覚信号について、第1のビットレートによる符号化を行って得られた第1の符号化データを復号する第1復号部と、前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間の触覚信号について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行って得られた第2の符号化データを復号する第2復号部と、を備えるものである。
これにより、接触信号区間中の重要区間についてのみ高ビットレートによる符号化がされ、それ以外の区間について低ビットレートによる符号化がされた触覚符号化データを適切に復号することができ、データ量の削減と触覚再現性の確保の両立が図られるようにすることが可能となる。
【0009】
上記した本技術に係る復号装置は、前記第1の符号化データを復号することで得られた第1の波形データと、前記第2の符号化データを復号することで得られた第2の波形データとを結合する結合部を備えることが考えられる。
これにより、各波形データが一つの波形データに統合される。
【0010】
上記した本技術に係る復号装置において、前記結合部は、前記第1の波形データと前記第2の波形データの結合部分についてクロスフェード処理を施すことが考えられる。
これにより、第1の波形データと第2の波形データが滑らかに結合される。
【0011】
また、本技術に係る復号方法は、触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって、前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間の触覚信号について、第1のビットレートによる符号化を行って得られた第1の符号化データを復号し、前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間の触覚信号について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行って得られた第2の符号化データを復号する復号方法である。
このような復号方法によっても、上記した本技術に係る復号装置と同様の作用が得られる。
【0012】
さらに、本技術に係る第1のプログラムは、触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって、前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間の触覚信号について、第1のビットレートによる符号化を行って得られた第1の符号化データを復号する機能と、前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間の触覚信号について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行って得られた第2の符号化データを復号する機能と、を情報処理装置に実行させるプログラムである。
このような本技術に係る第1のプログラムにより、上記した本技術に係る復号装置が実現される。
【0013】
本技術に係る符号化装置は、触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間と、前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間と、を判定する判定部と、前記第1信号区間の触覚信号について、第1のビットレートによる符号化を行う第1符号化部と、前記第2信号区間の触覚信号について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行う第2符号化部と、を備えるものである。
これにより、接触信号区間中の重要区間についてのみ高ビットレートによる符号化が行われ、それ以外の区間は低ビットレートによる符号化が行われる。
【0014】
上記した本技術に係る符号化装置において、前記判定部は、前記触覚信号に付加された前記第1信号区間及び前記第2信号区間の区分情報に基づいて前記第1信号区間及び前記第2信号区間を判定することが考えられる。
これにより、第1信号区間及び第2信号区間の判定にあたり波形解析の処理が不要とされる。
【0015】
上記した本技術に係る符号化装置において、前記判定部は、前記触覚信号の波形解析を行った結果に基づいて前記第1信号区間及び前記第2信号区間を判定することが考えられる。
これにより、第1信号区間と第2信号区間に個別の符号化を施すにあたり、接触信号に第1信号区間と第2信号区間の区別情報を付加しておく必要がなくなる。
【0016】
上記した本技術に係る符号化装置において、前記判定部は、前記触覚信号の振幅変化率に基づいて前記第1信号区間及び前記第2信号区間を判定することが考えられる。
これにより、触覚信号の波形について急峻な変化を伴う第1信号区間を適切に判定可能となる。
【0017】
上記した本技術に係る符号化装置において、前記第2符号化部は、前記第2信号区間について前記第1信号区間に対する符号化よりも変換長が長い符号化方式による符号化を行うことが考えられる。
これにより、第2信号区間における第2の符号化データのデータ量が削減される。
【0018】
上記した本技術に係る符号化装置において、前記第2符号化部は、前記第2信号区間についてパラメトリック符号化を行うことが考えられる。
これにより、第2信号区間における第2の符号化データのデータ量が削減される。
【0019】
上記した本技術に係る符号化装置において、前記第1信号区間及び前記第2信号区間を判定するために用いる第1バッファメモリと、前記判定の結果に応じて前記第2信号区間に対して符号化を行うために用いる第2バッファメモリと、を備えることが考えられる。
これにより、第1信号区間に対する符号化よりも変換長が長い第2信号区間の触覚信号について、第1バッファ処理部でバッファリングしきれなかった触覚信号を、第2バッファ処理部によりバッファリングすることが可能となる。
【0020】
また、本技術に係る符号化方法は、触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間と、前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間と、を判定し、前記第1信号区間の触覚信号について、第1のビットレートによる符号化を行い、前記第2信号区間の触覚信号について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行う符号化方法である。
このような符号化方法によっても、上記した本技術に係る符号化装置と同様の作用が得られる。
【0021】
さらに、本技術に係る第2のプログラムは、触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間と、前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間と、を判定する機能と、前記第1信号区間の触覚信号について、第1のビットレートによる符号化を行う機能と、前記第2信号区間の触覚信号について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行う機能と、を情報処理装置に実行させるプログラムである。
このような本技術に係る第2のプログラムによち、上記した本技術に係る符号化装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本技術の実施形態における触覚再現システムの構成例を示す図である。
図2】実施形態の符号化装置の構成例を示す図である。
図3】実施形態の再生装置の構成例を示す図である。
図4】実施形態の復号装置の構成例を示す図である。
図5】実施形態の触覚再現システムの使用例を示す図である。
図6】実施形態の人間の触覚感度の目安となる振動検出閾値曲線を示す図である。
図7】実施形態の触覚信号の振動波形を示す図である。
図8】実施形態の符号化部の機能構成例を示す図である。
図9】実施形態の触覚符号化データのデータフォーマットの構成例を示す図である。
図10】実施形態の符号化手法を実現するための処理を示すフローチャートである。
図11】実施形態の触覚符号化データのデータフォーマットの構成例を示す図である。
図12】実施形態の符号化手法を実現するための処理を示すフローチャートである。
図13】実施形態の結合部によるクロスフェード処理の説明図である。
図14】実施形態の復号手法を実現するための処理を示すフローチャートである。
図15】実施形態の結合部によるクロスフェード処理の詳細を示す図である。
図16】実施形態の結合部によるクロスフェード処理の詳細を示す図である。
図17】実施形態の第1の適用例の構成例を示す図である。
図18】実施形態の第2の適用例の構成例を示す図である。
図19】実施形態の第3の適用例の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本技術の実施形態について上記の図面を参照して説明する。図面の記載は、一度説明した構成は以降同一の符号を付して説明を省略することがある。また、図面は模式的なものであり、本技術を説明するにあたり必要な要部及びその周辺の構成を抽出して示しているものとする。なお、図面に記載された各構造の厚みと平面寸法の関係、比率等は一例に過ぎず、本技術の技術的思想を逸脱しない範囲であれば設計などに応じて種々な変更が可能である。
【0024】
以下、実施の形態を次の順序で説明する。
<1.触覚再現システムの概要>
<2.符号化装置の構成>
<3.再生装置の構成>
<4.復号装置の構成>
<5.触覚再現システムの使用例>
<6.実施形態としての触覚再現手法>
[6-1.触覚信号の伝送に係る課題]
[6-2.符号化手法]
[6-3.復号手法]
<7.第1の適用例>
<8.第2の適用例>
<9.第3の適用例>
<10.まとめ>
<11.本技術>
【0025】
ここで、本明細書においては以下のように各用語を定義する。
触覚刺激:例えば振動現象等、触覚を人に知覚させるための物理的現象。
触覚提示:触覚刺激を発生させること。
触覚信号:例えば振動波形を表す信号等、触覚刺激のパターンを表す信号。
受触者:触覚提示を受ける人。
触覚特性:人間の触覚に関する特性。部位(手、顔、足等)によって異なる。
触覚感度:触覚刺激を主観的にどの程度の強度と捉えるかの感度。人体における受容器や部位によって異なる。触覚感度が高いとは、触覚信号を知覚しやすいこと。
触覚符号化データ:触覚信号を符号化したデータ。下位概念としてストリーム、フレームがある。触覚符号化データには、後述する第1の符号化データ及び第2の符号化データが含まれる。
【0026】
<1.触覚再現システムの概要>
図1は、本技術に係る実施形態としての符号化装置2及び復号装置3を含んで構成される触覚再現システム1の構成例を示している。
【0027】
先ず、本実施形態において、触覚再現を実現するための環境としては、対象とする触覚情報(触覚刺激)をセンシングして得られる触覚信号を符号化し、該符号化により得られた触覚符号化データDcを収録する収録環境と、触覚符号化データDcを復号して得られる触覚信号に基づいて触覚情報を再現する再現環境とに分けられる。
【0028】
図示のように、触覚再現システム1は、収録環境において、複数の触覚センサ5とそれら触覚センサ5が接続された符号化装置2とを備えると共に、再現環境において、触覚符号化データDcを取得可能に構成された再生装置4と、再生装置4と無線通信可能に構成された復号装置3と、復号装置3と接続された複数の触覚提示装置6とを備えている。
【0029】
触覚センサ5は、触覚刺激のセンシングを行うセンサであり、本例では、ピエゾピックアップや加速度センサ等の振動センサが用いられる。触覚センサは、センシングの対象物、すなわち本例では人体に接触させることで、振動や運動を電圧変化として出力する。
本例において、各触覚センサ5は符号化装置2に対して有線接続されており、各触覚センサ5は対象物としての人体のそれぞれ異なる部位に装着されて各部位に生じる触覚刺激をセンシングする。
なお、各触覚センサ5を装着する部位は人体に限られず、触覚再現システム1において用いられる道具等に装着することとしてもよい。このときに各触覚センサ5は、対象物としての道具に装着された各部位に生じる触覚刺激をセンシングする。
【0030】
符号化装置2は、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のコンピュータ装置を備えて構成され、各触覚センサ5による検出信号(触覚信号)について所定のデータフォーマットに従った符号化を行い、該符号化により得られる触覚符号化データDcを例えば内部に設けられた記憶デバイスに収録する。
【0031】
再生装置4は、CPUやDSP等のコンピュータ装置を備えて構成され、取得した触覚符号化データDcを復号装置3に送信する。例えば、収録環境において収録された触覚符号化データDcは、インターネット等の所要のネットワークを介して再生装置4に取得させる。或いは、触覚符号化データDcは可搬型の記録媒体に収録し、該記録媒体を介して再生装置4に触覚符号化データDcを取得させることもできる。
【0032】
復号装置3は、再生装置4より受信した触覚符号化データDcを復号し、該復号により得られた触覚信号に基づいて各触覚提示装置6を駆動する。
【0033】
触覚提示装置6は、触覚刺激を発生させるデバイスとされ、本例ではバイブレータやアクチュエータ等の振動デバイスが用いられる。
本例では、各触覚提示装置6は、受触者の人体におけるそれぞれ異なる部位に装着され、それぞれ対応する触覚センサ5でセンシングされた触覚刺激を再現するようにされる。
【0034】
ここで、本例では、各触覚提示装置6は復号装置3に対して有線接続されており、図中の破線により囲った部分、すなわち復号装置3と各触覚提示装置6とが、受触者に対して装着される部分とされる。
【0035】
触覚再現システム1としては、再生装置4に復号装置3の機能を与えて、再生装置4と各触覚提示装置6とを有線接続する構成とすることも可能であるが、その場合には、触覚提示装置6を装着した受触者に煩わしさを与える虞がある。この煩わしさは、触覚刺激を与える部位の数が多くなるに従って増すことが予想される。
図1に示す触覚再現システム1の構成により、そのような煩わしさを受触者に与えてしまうことの防止を図ることができる。
【0036】
図1に示す触覚再現システム1は、触覚センサ5を装着された人物によって知覚される各部位の触覚を、受触者において再現するシステムとして、両者が遠隔に配置された場合にも対応可能なシステムとして構成されている。
【0037】
<2.符号化装置の構成>
図2は、符号化装置2の内部構成例を説明するための図である。なお、図2では符号化装置2の内部構成例と共に図1に示した各触覚センサ5を併せて示している。
【0038】
図示のように符号化装置2は、複数の増幅器21と複数のA/D(Analog/Digital)コンバータ22、及び前処理部23、符号化部24、制御部25、記憶部26、通信部27、バス28を備えている。前処理部23、符号化部24、制御部25、記憶部26、及び通信部27はバス28を介して接続され、互いにデータ通信可能とされている。
【0039】
各触覚センサ5の検出信号は、それぞれ対応する一つの増幅器21に入力されて適切なダイナミックレンジに調整された後、対応する一つのA/Dコンバータ22にそれぞれ入力されてA/D変換(アナログ/デジタル変換)される。
【0040】
A/D変換された各検出信号(つまり部位ごとの触覚信号)は、前処理部23に入力される。前処理部23においては、ノイズ除去や触覚センサ5のセンサ特性の校正などの各種デジタル信号処理が行われる。前処理部23による信号処理を施された各触覚信号は、符号化部24に入力される。
【0041】
符号化部24は、例えばDSPで構成され、入力された各触覚信号を所定のデータフォーマットに従って符号化し、上述した触覚符号化データDcを得る。
なお、本実施形態としての触覚信号の符号化の詳細については改めて説明する。
【0042】
制御部25は、例えばCPU、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有するマイクロコンピュータを備えて構成され、ROMに記憶されたプログラムに従った処理を実行することで符号化装置2の全体制御を行う。
例えば、制御部25は、通信部27を介して外部装置との間でのデータ通信を行う。
【0043】
通信部27は、インターネット等のネットワークを介した外部装置との間でのデータ通信を行うことが可能に構成されており、制御部25は、該通信部27を介して、ネットワークに接続された外部装置との間でデータ通信を行うことが可能とされている。特に、符号化部24で得られた触覚符号化データDcを通信部27を介して外部装置に送信させることが可能とされる。
【0044】
記憶部26は、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の記憶デバイスを包括的に表したものであり、符号化装置2において各種のデータ記憶に用いられる。例えば記憶部26には、制御部25による制御に必要なデータが記憶される。また、制御部25の制御に基づき、符号化部24で得られた触覚符号化データDcを記憶部26に記憶させることもできる。
【0045】
<3.再生装置の構成>
図3は、再生装置4の内部構成例を示した図である。図示のように再生装置4は、制御部41、通信部42、メディアドライブ43、記憶部44、及び無線通信部45を備えると共に、これらの各部を互いにデータ通信可能に接続するバス46を備えている。
【0046】
制御部41は、例えばCPU、ROM、RAM等を有するマイクロコンピュータを備えて構成され、再生装置4の全体制御を行う。
【0047】
通信部42は、インターネット等のネットワークを介した外部装置との間でのデータ通信を行うことが可能に構成されている。
【0048】
制御部41は、該通信部42を介して、ネットワークに接続された外部装置との間でデータ通信を行うことが可能とされている。特に、ネットワーク上のサーバ装置等の外部装置より、触覚符号化データDcを通信部42によって受信させることが可能とされる。
【0049】
メディアドライブ43は、可搬型の記録媒体を着脱可能に構成され、装着された記録媒体に対するデータの書き込み及び読み出しが可能とされたリーダ/ライタ部として構成されている。メディアドライブ43が対応する記録媒体としては、例えば、メモリカード(例えば可搬型のフラッシュメモリ)や光ディスク記録媒体等を挙げることができる。このメディアドライブ43により、可搬型の記録媒体に記録された触覚符号化データDcの読み出しが可能とされる。
【0050】
記憶部44は、例えばHDDやSSD等の記憶デバイスを包括的に表したものであり、再生装置4において各種のデータ記憶に用いられる。例えば記憶部44には、制御部41による制御に必要なデータが記憶される。また、制御部41の制御に基づき、メディアドライブ43により読み出された触覚符号化データDcや、通信部42により外部装置から受信した触覚符号化データDcを記憶部44に記憶させることもできる。
【0051】
無線通信部45は、例えばBluetooth(登録商標)等の所定通信方式による近距離無線通信を行う。
【0052】
ここで、制御部41は、上記した全体制御の一部として、触覚符号化データDcについての通信部42による受信やメディアドライブ43による読み出しを実行させるための制御を行う。また、制御部41は、これら通信部42やメディアドライブ43経由で得られる触覚符号化データDcを、無線通信部45により復号装置3に送信させる制御を行う。
【0053】
<4.復号装置の構成>
図4は、復号装置3の内部構成例を説明するための図であり、復号装置3の内部構成例と共に各触覚提示装置6を併せて示している。
【0054】
図示のように復号装置3は、複数の増幅器31と複数のD/A(Digital/Analog)コンバータ32、及び結合部33、復号部34を備えると共に、制御部35、無線通信部36、記憶部37、及びバス38を備えている。結合部33、復号部34、制御部35、無線通信部36、及び記憶部37はバス38を介して接続され、互いにデータ通信可能とされている。
【0055】
制御部35は、例えばCPU、ROM、RAM等を有するマイクロコンピュータを備えて構成され、復号装置3の全体制御を行う。
【0056】
無線通信部36は、例えばBluetooth等、再生装置4における無線通信部45との間で通信が可能な方式による近距離無線通信を行う。再生装置4から送信された触覚符号化データDcは無線通信部36により受信される。
【0057】
記憶部37は、例えば符号化装置2の記憶部26や再生装置4の記憶部44等と同様の記憶デバイスとされ、制御部35等が用いる各種データの記憶に用いられる。
【0058】
復号部34は、無線通信部36を介して入力される触覚符号化データDcについて、後述する手法で復号を行い、部位ごとの触覚信号を得る。復号部34で得られた部位ごとの触覚信号は結合部33に入力される。
【0059】
結合部33は、入力された部位ごとの触覚信号について、必要に応じて触覚提示装置6の校正や所定のフィルタ処理等の信号処理を施す。
なお、本実施形態としての触覚符号化データDcの復号の詳細については改めて説明する。
【0060】
結合部33を経た各触覚信号は、それぞれ対応する一つのD/Aコンバータ32に入力されてD/A変換(デジタル/アナログ変換)された後、それぞれ対応する一つの増幅器31で適切なダイナミックレンジに調整され、対応する一つの触覚提示装置6に出力される。
これにより、各触覚提示装置6が触覚信号に基づき駆動され、検出環境においてセンシングの対象とした触覚刺激を受触者に対して与えることができる(つまり触覚情報を再現することができる)。
【0061】
なお、上記では触覚信号に関してのみ言及したが、触覚信号と共に音声信号や映像信号を収録して、受触者に触覚情報と共に音や映像を提供する構成とすることもできる。
【0062】
<5.触覚再現システムの使用例>
映像に加えて、触覚提示も行うコンテンツを再生することを考える。図5は、触覚再現システム1の使用例についての説明図である。
【0063】
図5において、コンテンツ制作時に、映像に加えて、触覚収録者61に装着した触覚センサ5(図中では、胴体用の触覚センサ5b、手指用の触覚センサ5h、足用の触覚センサ5fとしている)で収録した触覚信号(胴体の触覚信号62、手指の触覚信号63、足の触覚信号64)を符号化装置2で符号化した触覚符号化データDcを、映像と同期して収録することでコンテンツ65として再生装置4の記憶部44に保存する。
【0064】
再生時には、記憶部44からコンテンツ65を無線通信部45を通じて復号装置3に送信し、無線通信部36にて受信したコンテンツ65を復号部34にて復号する。これにより、受触者69が装着した触覚提示装置6(図中では、胴体用の触覚提示装置6b、手指用の触覚提示装置6h、足用の触覚提示装置6fとしている)に対応した触覚信号(胴体の触覚信号66、手指の触覚信号67、足の触覚信号68)を触覚提示装置6を通じて提示することが可能となる。
【0065】
映像内で実際に触覚提示する場面としては、例えば登場人物が殴打する(殴打される)、銃で撃つ(撃たれる)、爆風を受ける、地面の揺れを感じる場面などが挙げられる。
図中では、実際のコンテンツ65内での触覚信号の例として、胴体用、手指用、足用それぞれの触覚信号の波形例50が示されている。波形例50では触覚収録者61の胴体、手指、足の三つの部位に装着した触覚センサ5(触覚センサ5b、触覚センサ5h、触覚センサ5f)によって得られた触覚信号が示されている。
【0066】
時系列順に説明すると、まず触覚収録者61が銃で相手を撃つシーンで弾丸発射による反動に起因する振動が手指に発生、その後に相手も銃で触覚収録者の胴体めがけて撃つシーンで、銃撃を受けた胴体の衝撃に起因する振動が胴体に発生、その後に地震が発生するシーンで地面の振動が足、胴体、手指に徐々に伝播している。例えばこのようなコンテンツを再生することで、受触者69は映像・音声に加えて振動による触覚再現で高品位のリアリティを感じることができる。
【0067】
<6.実施形態としての触覚再現手法>
[6-1.触覚信号の伝送に係る課題]
以下、実施形態としての触覚再現手法について説明する。
先ず、実施形態としての触覚再現手法は、人間の触覚特性に着目した手法となる。
人間の触覚感度の目安として、図6に示す振動検出閾値曲線が報告されている。なお図中において、横軸は周波数、縦軸は触覚刺激(振動:ここでは変位)の大きさを表す。図6の振動検出閾値曲線は、”Four channels mediate the mechanical aspects of touch S.J. , Bolanowski 1988”での実験結果に基づくものである。
図示する振動検出閾値曲線は、人間がその振動を触覚として感じるか感じないか、つまり触覚感度を実験によって調べた一例である。人間は、この曲線より小さい振動は触覚として知覚することができない。
【0068】
図6からも理解されるように、一般的に人間の触覚感度が最も高い周波数は200Hz程度とされる。そのため、振動を発生させる装置やアプリケーションは、200Hz程度までの振動が発生するように設計されることが多い。
【0069】
一方、図6の結果には示されていないが、人間は1kHz程度までの周波数の振動を触覚として感じられることが通常に知られている。人間は、1kHz程度の周波数成分が存在する振動と存在しない振動とを、互いに異なる触覚として感じることができる。
例えば、ボトルのコルク栓を抜いた際に発生する振動は、数kHzまでの周波数の振動を含む。ユーザは、触覚を提示する装置から当該振動を数百Hz程までの振動として伝えられた場合、当該振動をボトルのコルク栓を抜いた際の触覚として十分に現実感を持って感じることができない。
従って、より現実感のある触覚をユーザに与えるためには、1kHz程度までの周波数を含む振動により触覚提示を行う必要がある。
【0070】
しかしながら、信号が含む周波数の幅が広くなるに従って当該信号のデータ量が増大するため、信号の送受信の遅延が発生する可能性が高くなる。すなわち、触覚の質を向上させると、触覚を然るべきタイミングで提示させることができない状況が発生し得る。
【0071】
信号の送受信及び触覚提示の遅延について、具体例を挙げながら説明する。
先ず、触覚信号のデータ量について説明する。触覚信号が装置間で伝送される場合、先ずデジタルデータに変換される。デジタルデータの容量は、単位時間当たりに要するビット数、すなわちビットレートBで表される。因みに、触覚感度は振動の周波数だけでなく振幅にも依存する。例えば、上述した図6の実験結果では、人間が感じられる振動の振幅は50dB(-20dB~30dB)程度以上、周波数が1000Hz程度であると示されている。なお、以下、実際に人間が感じる触覚情報の分布を考慮し、振動の振幅が70dB程度であると考える。
【0072】
触覚信号がLPCM(Linear Pulse Code Modulation)を用いてデジタルデータ化される場合、1ビットで表現できる振動の振幅は6dBである。つまり、振動の振幅の70dBでは12ビット必要となる。一方、振動の周波数が1000Hzである場合、サンプリング周波数は倍の2000Hz必要となり、ビットレートB0は、下記[式1]で求められる。

B0=12bit/sample×2000sample/sec=24kbit/sec・・・[式1]
【0073】
この値自体は、例えば音声信号の代表的フォーマットであるCD(Compact Disc)のビットレート=700kbps/chと比べると非常に小さいため、この触覚信号を何らかのシステムに付加的に組み込んだとしても大きな問題となる可能性は少ないように見える。
【0074】
しかしながら、先に示したように人間が感じることのできる触覚信号の帯域は数kHzまでに及ぶことが分かっている。例えば触覚信号を2000Hzまで再現する場合、ビットレートは[式1]に比べて2倍の48kbit/secとなる。
【0075】
また、触覚は視覚(二つの目)と聴覚(二つの耳)と違って人体表面のあらゆる場所に存在している。両手の指先だけを考えても10か所あり、これらすべての触覚信号を扱おうとすれば、ビットレートはさらに10倍の480kbit/secとなる。指の関節ごと、手の平と場所を増やしてくとビットレートは飛躍的に増大してしまう。
【0076】
さらに、触覚信号は基本的に一次元信号であるが、振動という物理現象は3軸(x、y、z)で捉えることができる。これを全て扱おうとすると、さらに3倍の1440kbit/secというビットレートが必要となるが、この値はオーディオCDの1411kbit/secを超える大きなものとなる。
【0077】
このように、必要となる触覚信号の総データ量は、触覚刺激の再現性の向上や触覚刺激を与えるユーザの部位の数の増加に伴って増大する。そして、総データ量の増大が、触覚信号の伝送を行うネットワークシステムにとって大きな負荷になる。
【0078】
ここで、触覚において重要な「手でモノをなぞる」という動作によって発生する振動を考える。この動作は、人間が対象物に接触し、その後に手を対象物の表面に沿って動かし、最後に手を対象物から離す、という3つの段階に分けられる。この一連の動作に伴って発生する振動波形に着目すると、「接触の瞬間」と「離れる瞬間」は時間的に非常に短いが、急峻な強度変化を伴う。一方、物体表面に沿って手を動かしている間の振動波形は比較的長い時間スケールを持ち、かつ定常的である。
【0079】
本明細書においては、人間が対象物に接触し、その後に手を対象物の表面に沿って動かし、最後に手を対象物から離すまでといった、触覚信号を得ようとする部位が対象物と接触している状態を接触状態とする。また、触覚信号を得ようとする部位が対象物と接触していない状態を非接触状態とする。
【0080】
また、「手でモノをなぞる」という一連の動作に伴って発生する触覚信号の区間、即ち触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間を接触信号区間とする。
このとき当該接触信号区間のうち、「手が対象物に接触する瞬間」や「手が対象物から離れる瞬間」といった、対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間を第1信号区間とする。また当該接触信号区間のうち、「手を対象物に添えている状態」や「手を対象物の表面に沿って動かしている状態」といった、第1信号区間を除く信号区間を第2信号区間とする。
【0081】
図7は、人間が手78で対象物79をなぞったときの触覚信号の振動波形70を示す図である。
振動波形70は、シーン71に示す手78が対象物79から離れた状態から、シーン72に示す手78が対象物79に接触した瞬間に、信号区間73のように急峻なパルス波形が観測される。物体の固さや、自身がどの程度の速度で対象物79に接触したか、などの知覚には、この「接触の瞬間」の振動強度、タイミング、ピッチ、波形の減衰率などが影響することが知られている。
この手78と対象物79の接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間73は第1信号区間とされる。この信号区間73は時間的に非常に短い。
【0082】
一方、このあとシーン75に示すように、手78を対象物79上で動かしたことで、緩やかな振幅変化を伴う信号区間74の波形が観測される。この間の振動は対象物79のつるつる、ざらざらといったテクスチャー知覚に影響し、波形のピッチと振幅が重要とされる。
このように手78と対象物79の接触状態が維持された状態の信号区間74は第2信号区間とされる。
【0083】
最後に、シーン76に示すように、手78を対象物79から離したときは、対応する信号区間77の波形は時間的に短く急峻な強度変化を伴い、信号区間73の接触時の波形の近い性質を持つと推測される。この手78と対象物79の接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間77は第1信号区間とされる。
【0084】
上記の信号区間73、信号区間74及び信号区間77の一連の信号区間が、触覚信号中における対象物79との接触状態を示す接触信号区間200とされる。
【0085】
ここで信号を強度の急変化がある信号区間73及び信号区間77(第1信号区間)と、定常的な信号区間74(第2信号区間)とに分けたとき、第1信号区間の方が知覚の性質上保存すべき特徴が多くかつ複雑であるため、AAC(Advanced Audio Codec)のような波形符号化やFLAC(Free Lossless Audio Codec)のような可逆圧縮符号化など、比較的ビットレートの高い高品質符号化方式を採用することが望ましい。
【0086】
一方後者の定常的な第2信号区間は、時間変化が穏やかなため長い時間の信号をまとめて符号化しても情報の損失が少なく、また保存すべき特徴も少なく単純である。よって圧縮率の高いCELP(Code Excited Linear Prediction)、HVXC(Harmonic Vector Excitation Coding)のような信号のエネルギー再現を重視したものや、先述の保存すべき特徴量から同等の信号を合成するパラメトリック符号化のような、高品質符号化方式よりも低ビットレートの低品質符号化方式でも人間にとっては劣化に気付きにくいと予想される。
【0087】
よって信号区間73及び信号区間77のように時間的には短い区間をよく再現するために、時間的に長い信号区間74までも高品質符号化方式によって符号化すると、触覚信号全体としては冗長な情報量をもち、圧縮効率が低下することとなる。このような圧縮効率の低下による総データ量が増大も触覚信号の送受信の遅延を招く要因となる。
【0088】
また、遅延の要因としては、上記のような総データ量以外の他の要因も考えられる。
例えば、触覚信号が無線通信により伝送される場合に、伝送路上での妨害などにより触覚信号の触覚符号化データDcのロスが生じることが想定される。データロスが発生した場合、送信側の装置からデータの再送信が行われ、受信側でデータの受信が完了する時間の遅延が生じ得る。すなわち、再送信されるデータの容量が増大するに従って、データロスに応じたデータの再送信に要する時間が増大し、結果、触覚信号の送受信が正常に完了するまでの時間がより遅延し得る。
【0089】
このように、触覚信号の伝送が完了するまでの時間に遅延が生じると、触覚の再現性が低下し得る。具体的には、触覚刺激が然るべきタイミングでユーザ(受触者)に与えられないために、映像や音などの他の感覚に関するコンテンツと触覚刺激との同期が取られない状況が発生し得る。
【0090】
次に、上述した状況を考慮した、具体的な無線通信方式の適用に関して説明する。
触覚提示を行う装置は、ユーザに接触するように設置されるため、装置重量の観点から一般的に他の装置とは無線で通信することが望まれる。しかしながら、例えばWi-Fi(登録商標)などの広帯域無線方式を用いる場合、装置のバッテリは消費電力の観点から大型化するため、ユーザの利便性の低下が想定される。また、Wi-Fiを用いる場合、一般的に送信側装置の信号の送信要求から受信側装置の受信処理までの手続きに処理時間を要するため、他の無線方式と比較して、より大きな遅延が発生し得る。
【0091】
一方、Bluetoothなどの近距離無線方式の場合、他の無線方式と比較して低消費電力及び低遅延で通信を行うことが可能であり、触覚信号の伝送に適していると考えられる。しかしながら、近距離無線方式では、一度に伝送できるデータ量の許容量が他の無線方式と比較して少ない。例えば、映像や音などとの同期を行いながら触覚刺激をユーザに与えるコンテンツの伝送において、触覚信号の伝送に割り当てられる通信容量が十分でない状況が想定される。
【0092】
また、インターネットを介して映像や音声をストリーミングするサービスにおいて、追加でさらに触覚もユーザに伝える場合、例えば、ネットワークの回線状況に応じたQoS(Quality of Service)機能により、触覚信号の伝送に割り当てられる通信容量が十分でなくなる状況が想定される。
【0093】
本実施形態では、上記の事情に鑑み、触覚再現性をできるだけ棄損することなく伝送データ量を削減することで、触覚信号の低遅延化と触覚再現性の低下抑制との両立を図ることを目的とする。
【0094】
[6-2.符号化手法]
図8は、符号化部24が有する機能を示す機能ブロック図である。図示のように、符号化部24は、信号入力部80、第1バッファ処理部86、判定部82、第1符号化部83、第2バッファ処理部87、第2符号化部84及び符号化信号出力部85を有する。
【0095】
信号入力部80には、符号化すべき触覚信号81が前処理部23から入力される。
第1バッファ処理部86は、第1信号区間及び第2信号区間を判定するために用いる第1バッファメモリを有し、信号入力部80に入力された触覚信号81をバッファリングする。
【0096】
判定部82は、例えば図7に示すように、触覚信号中における接触信号区間200の一部区間であって対象物79と手78の接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間(信号区間73、77)と、接触信号区間200のうち第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間(信号区間74)と、を判定する。
【0097】
判定部82は、例えば触覚信号81の波形解析を行った結果に基づいて第1信号区間を判定する。また判定部82は、第1信号区間以外の信号区間を第2信号区間と判定する。
【0098】
第1信号区間の判定における波形解析の代表的なものは、触覚信号の振幅変化率に基づく信号の立ち上がり検出である。この信号の立ち上がりは既知の信号処理手法により実施される。
【0099】
ここで判定部82は、信号強度変化率、周波数スペクトル、その他信号処理分野において既知のアタック検出を行うことで、第1信号区間を判定することができる。
また判定部82は、他の各種センサによる対象物と触覚センサの距離又は接触の有無の認識に基づいて第1信号区間を判定することもできる。
また判定部82は、クリエイタ(作業者)の付与したメタデータ(符号化品質のフラグ付け)などを用いて符号化方式の決定を行っても良い。
さらに判定部82として、多数の振動信号によって機械学習を行い、入力波形から自動で対象区間を判定できるようにした判定機器を用いても良い。
【0100】
判定部82による第1信号区間の判定は、触覚において人間と対象物79の接触の瞬間と離れる瞬間に対応する信号一般に本技術の効果を拡張できる。
触覚信号81の全体または一部が第1信号区間であると判定された場合、判定部82は、一部であればその区間を、全体であれば触覚信号81全体を第1符号化部83に送る。
また判定部82は、触覚信号81のうち第1符号化部83に送られなかった第2信号区間を第2バッファ処理部87に送る。
【0101】
第1符号化部83は、判定部82から受信した第1信号区間の触覚信号について、高ビットレートの符号化方式による符号化を行い、第1の符号化データ(触覚符号化データDc)を生成する。なお、以下の説明においては、高ビットレートによる符号化方式を高品質符号化方式とも表記する。
ここで第1信号区間において利用される高品質符号化方式は、信号のパルスの高さ、幅やタイミング、エネルギーの変化率など、複雑な波形情報を高い時間分解で復元できるような比較的ビットレートの高い方式が望ましい。例えばAACのような波形符号化やFLACのような可逆圧縮符号化などがあてはまる。
【0102】
第2バッファ処理部87は第2バッファメモリを有し、判定部82による信号区間の判定結果に応じて入力される信号をバッファリングする。
第2符号化部84は、第2バッファ処理部87によりバッファリングされた第2信号区間の信号について、第1信号区間における高品質符号化方式よりも低いビットレートによる符号化方式による符号化を行い、第2の符号化データ(触覚符号化データDc)を生成する。なお、以下の説明においては、高品質符号化方式よりも低いビットレートによる符号化方式を低品質符号化方式とも表記する。
【0103】
ここで第2信号区間において利用される低品質符号化方式には、エネルギーやピッチといった少数のパラメータを長い時間フレームを用いて符号化することが望ましい。よって圧縮率の高いCELP、HVXCのような信号のエネルギー・ピッチ再現を重視したものや、先述の保存すべき特徴量から同等の信号を合成するパラメトリック符号化方式があてはまる。
これらのパラメータについて、例えばエネルギーは信号f[n]の実効値として下記[式2]などを計算することによって得られる。
【0104】
【数1】


【0105】
また、ピッチを取得する代表的な手法は、下記[式3]に示すような信号の自己相関関数のピーク点m_0を求め、それに対応する時間の逆数をピッチ周波数とするものである。
【0106】
【数2】


【0107】
符号化信号出力部85は、第1符号化部83が生成した第1の符号化データと、第2符号化部84が生成した第2の符号化データとを出力する。
【0108】
図9は、触覚符号化データDcのデータフォーマットの例を示している。図9では触覚符号化データDcの1フレーム分のデータフォーマットを例示している。
【0109】
付帯情報として信号に付加するフレームヘッダの先頭には識別子100が格納され、領域101に信号のサンプリング周波数、領域102に信号の量子化精度が記録される。また領域103にはこのデータについて高品質符号化方式と低品質符号化方式のどちらにより符号化されたかを識別する符号化方式ID(Identification)が格納される。例えば高品質符号化方式であれば「0」を、低品質符号化方式であれば「1」が格納される。領域104にはこのフレームに含まれる信号のサンプル数が格納され、領域105には信号データが格納される。
【0110】
図10のフローチャートを参照し、上記により説明した実施形態としての符号化手法を実現するための処理手順の例を説明する。図10に示す処理は、1フレーム分の触覚符号化データDcを生成する処理であり、フレームごとに繰り返し実行される。
なお、符号化部24による符号化手法を実現するための処理は、ソフトウェア処理として実現することができる。或いはハードウェア、又はソフトウェアとハードウェアの組み合わせにより実現することができる。
【0111】
まず符号化部24は、ステップS110において、前処理部23から符号化すべき触覚信号を取得する。
ステップS110に続くステップS111で符号化部24は、第1信号区間及び第2信号区間を判定するために、取得した触覚信号をバッファリングする。これは、上述した第1バッファ処理部86に対応した処理となる。
【0112】
ステップS111に続くステップS112で符号化部24は、取得した触覚信号の信号区間が高品質符号化方式を用いて符号化を行う第1信号区間であるか、低品質符号化方式による符号化を行う第2信号区間であるか、を判定する。
【0113】
このとき符号化部24は、例えば触覚信号の振幅変化率と所定の閾値との比較に基づいて、図7の信号区間73に示すような信号の立ち上がりや、信号区間77に示すような信号の立ち下がりを判定する。符号化部24は、このような信号の立ち上がりや、立ち下がりを検知した信号区間を第1信号区間として判定する。また、信号の立ち上がりや、立ち下がりを検知しない信号区間を第2信号区間として判定する。
【0114】
また符号化部24は、触覚信号の周波数スペクトルを用い、周波数成分毎に分解した触覚信号の強度分布に基づいて信号の立ち上がりや立ち下がりを判定することもできる。
【0115】
また符号化部24は、触覚信号81に付加された第1信号区間及び第2信号区間の区分情報に基づいて第1信号区間及び前記第2信号区間を判定することもできる。区分情報は、例えば前述のようにクリエイタの作業によりメタデータとして付与される。
【0116】
ここで、第1信号区間及び前記第2信号区間の判定に、触覚信号に付加されたメタデータを利用する例について述べる。
図11は、触覚符号化データDcのデータフォーマットの例を示している。図11では符号化部24に入力する触覚信号の1フレーム分のデータフォーマットを例示している。またここではデータフォーマットの一例としてWAVEファイルを用いる。
【0117】
WAVEファイルには先頭の領域130にサンプリング周波数や量子化精度、チャンネル数などのフォーマット情報を含むヘッダ情報が格納され、領域131に信号データが格納されている。
【0118】
本実施形態ではこのデータの末尾に高品質符号化方式による符号化を行う第1信号区間、又は低品質符号化方式による符号化を行う第2信号区間を決定するメタデータを付与している。なお、以下の説明では、高品質符号化方式による符号化を高品質符号化、低品質符号化方式による符号化を低品質符号化とも表記する。
【0119】
ここでは、高品質符号化を行う対象のチャンネルについて、第1信号区間の開始点および終了点のファイル先頭からサンプル数を付与する例を示す。領域132に高品質符号化を行う対象のチャンネルIDを、領域133に開始サンプル数を格納し、領域134に高品質符号化を行う終了サンプル数を格納する。高品質符号化を行う第1信号区間が複数ある場合は、領域132、133、134の組を区間の数だけ追加しても良い。
【0120】
このとき符号化部24は、図10のステップS112において、符号化対象として入力された信号の末尾データ(領域132、133、134)をあらかじめ確認しておき、現在バッファリングされた信号区間がそのメタデータによって指定された信号区間であるかどうかの判定を行う。
【0121】
高品質符号化を行う第1信号区間と判定すると、符号化部24はステップS112からステップS113に処理を進め、第1信号区間に対して高品質符号化を行う。即ち、符号化部24は、低品質符号化よりも高ビットレートの符号化方式による符号化を行う。
【0122】
ステップS113に続きステップS114で符号化部24は、高品質符号化方式に対応した符号化方式IDを付与した第1の符号化データを生成する。
その後、符号化部24はステップS118に処理を進める。
【0123】
一方、ステップS112で高品質符号化を行う第1信号区間以外の第2信号区間と判定すると、符号化部24は、ステップS115に処理を進め、触覚信号を低品質符号化が実行可能となるまでバッファリングを行う。
【0124】
本実施形態では高品質符号化の方が変換長が短く、低品質符号化は高品質符号化よりも変換長が長い。よって、高品質符号化が不要と判断された段階ではまだ低品質符号化が可能なほどに触覚信号がバッファリングされていない場合がある。
そのため符号化部24は、ステップS115において、低品質符号化に応じたサンプル数の触覚信号をバッファリングする。これは、上述した第2バッファ処理部87に対応した処理となる。
【0125】
ステップS115に続きステップS116で符号化部24は、第2信号区間に対して低品質符号化を行う。即ち、符号化部24は、高品質符号化よりも低ビットレートの符号化方式による符号化を行う。
【0126】
ステップS116に続きステップS117で符号化部24は、低品質符号化の符号化方式に対応した符号化方式IDを付与した第2の符号化データを生成する。
その後、符号化部24はステップS118に処理を進める。
【0127】
ステップS118で符号化部24は、信号全体を符号化したか否か、即ち触覚信号の全チャンネルについて第1の符号化データ及び第2の符号化データを生成する処理を終えたか否かを判定する。
【0128】
全信号区間の処理が終了していない場合、符号化部24はステップS111に処理を戻す。これにより次の区間について1フレーム分と同様の処理が実行される。
一方、全信号区間分の処理が終了した場合、符号化部24は図11に示す一連の処理を終える。符号化部24は、チャンネルが複数である場合は全チャンネルについて図11に示す処理を実行する。
【0129】
なお、本実施形態では低品質符号化方式の変換長が高品質符号化方式よりも長い例について説明したが、本技術は、低品質符号化方式と高品質符号化方式の変換長が等しい場合にも適用することが可能である。
【0130】
この場合、符号化部24はステップS111におけるバッファリングを常に変換長に等しいサンプル数で行うようにし、かつ1度にバッファリングされた信号ごとに符号化品質を1種類のみ適用するようにする。これにより、図12に示すように、ステップS116での低品質符号化による符号化前のステップS115で行われるバファリングが不要となる。このように低品質符号化と高品質符号化の変換長を等しくすることで、符号化部24の処理負担が軽減される。
【0131】
[6-3.復号手法]
図4を用いて復号装置3における結合部33及び復号部34の機能について説明する。
復号部34は、第1復号部34a及び第2復号部34bを有する。
【0132】
第1復号部34aは、接触信号区間の一部区間である第1信号区間について、高品質符号化を行って得られた第1の符号化データを復号する。第1復号部34aは、第1の符号化データを復号することで得られた第1の波形データを結合部33に送信する。
【0133】
第2復号部34bは、第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間について、低品質符号化を行って得られた第2の符号化データを復号する。第2復号部34bは、第2の符号化データを復号することで得られた第2の波形データを結合部33に送信する。
【0134】
結合部33は、第1の符号化データを復号することで得られた第1の波形データと、第2の符号化データを復号することで得られた第2の波形データとを結合する。
【0135】
結合部33は、現在出力中の波形データが、現在復号した出力待ちの波形データと異なる符号化方式によって符号化されたものであったかを判定する。
符号化方式が共通するものであった場合、結合部33は、その符号化方式の手法にのっとり信号を適切に後処理し、出力する。具体的にこの後処理では、出力待ちの波形データと出力中の波形データとについてその符号化方式で通常に行われる結合処理を行い、後述のクロスフェードを伴う結合処理は行わない。
【0136】
一方、符号化方式が異なるものであった場合、両者の間で信号のサンプル数や端部の取り扱いなどが異なる可能性があり、そのまま出力すると不快な不連続波形が生じる可能性がある。そこで異なる符号化方式で符号化されていた波形データに続いて復号データを出力する場合、結合部33は、両者がなめらかにつながるように信号処理を行う。
【0137】
結合部33は、例えば互いに異なる符号化方式により符号化されていた第1の波形データと、第2の波形データの結合部分にクロスフェード処理を施す。
図13に示すように、高品質符号化されていた第1の波形データ91と低品質符号化されていた第2の波形データ92とを続けて出力する際に、第1の波形データ91と第2の波形データ92が重なる区間93を設け、その区間の合計が「1」になるような係数を乗じて加算することで、第1の波形データ91と第2の波形データ92を出力波形94として滑らかに繋ぐことが可能である。これは、低品質符号化されていた第2の波形データ92と高品質符号化されていた第1の波形データ91とを続けて出力する場合も同様である。
【0138】
なお、結合部33は、第1の符号化データと第2の波形データを結合する処理にクロスフェード処理以外の既知の処理を用いてもよい。
【0139】
図14のフローチャートを参照し、上記により説明した実施形態としての復号手法を実現するための処理手順の例を説明する。図14に示す処理は、1フレーム分の触覚符号化データDcを復号して触覚信号を得る処理であり、フレームごとに繰り返し実行される。
なお、復号装置3による符号化手法を実現するための処理は、ソフトウェア処理として実現することができる。或いはハードウェア、又はソフトウェアとハードウェアの組み合わせにより実現することができる。
【0140】
まず復号装置3の復号部34は、ステップS140において、触覚符号化データDcを取得する。ステップS140に続くステップS141で復号部34は、触覚符号化データDcから符号化方式IDを取得する。
【0141】
ステップS141に続くステップS142で復号部34は、取得した符号化方式IDに基づいて、触覚符号化データDcが高品質符号化方式により符号化された第1の符号化データであるか、又は低品質符号化方式により符号化された第2の符号化データであるかを判定する。
【0142】
符号化方式IDが高品質符号化方式による符号化を示すものである場合、復号部34はステップS142からステップS143に処理を進め、高品質符号化方式に対応した復号方式で第1の符号化データを復号する。復号部34は、第1の符号化データを復号することにより得られた第1の波形データを結合部33に送信する。
その後、復号部34はステップS143からステップS145に処理を進める。
【0143】
一方、符号化方式IDが低品質符号化方式による符号化を示すものである場合、復号部34はステップS142からステップS144に処理を進め、低品質符号化方式に対応した復号方式で第2の符号化データを復号する。復号部34は、第2の符号化データを復号することにより得られた第2の波形データを結合部33に送信する。
その後、復号部34はステップS144からステップS145に処理を進める。
【0144】
復号装置3の結合部33は、ステップS145において、現在、復号部34により復号した出力待ちの波形データと、現在出力中の波形データとの符号化方式が異なっているか否かを判定する。
符号化方式が異なっている場合、結合部33は、ステップS145からステップS146に処理を進め、互いの波形データの結合部分に図9に示したようなクロスフェード処理を施す。
【0145】
ここで図15及び図16を参照して結合部33が実行するクロスフェード処理の詳細について説明する。
図15に示すように、結合部33は、図14のステップS143又はステップS144で復号された復号信号150をバッファリングなどによって1フレーム分遅延させるブロック151に通過させる。
【0146】
ここで結合部33はブロック151に通過させることで得られた遅延信号(出力待ちの波形データ)と最新の復号信号150(現在出力中の波形データ)の比較を行う。
遅延信号と復号信号150の符号化方式が共通である場合、結合部33は図15のように遅延信号に対して最新の復号信号150を通常の結合処理で結合し、触覚出力147を生成する。図中の加算部155は、このようにして遅延信号に対して復号信号150を結合することを意味している。
【0147】
ここで遅延信号と復号信号150の符号化方式が異なる場合、結合部33は、図16に示すクロスフェード処理を行う。遅延信号と復号信号150には、フレーム間で互いに重複する部分が余白として設けられている。この余白部分を結合用余白部分とする。
【0148】
クロスフェード処理では、復号信号150に乗算するクロスフェード関数152と、遅延信号に乗算するクロスフェード関数153が用いられる。このクロスフェード関数152、153のフェードインおよびフェードアウト部には、三角窓、ハニング窓など、合計が「1」になっている任意の窓関数が利用可能である。クロスフェード関数152は、結合用余白部分において時間経過に応じて「0」から「1」に遷移し、結合用余白部分以降は「1」を維持する関数である。またクロスフェード関数153は、結合用余白部分において時間経過に応じて「1」から「0」に遷移する関数である。
【0149】
結合部33は、復号信号150にクロスフェード関数152を乗算部156で乗算し、遅延信号にクロスフェード関数153を乗算部157で乗算する。結合部33は、これらの乗算結果同士を加算部158で加算することで触覚出力147を生成する。
【0150】
図14のステップS146でクロスフェード処理を行った後、結合部33はステップS147に処理を進める。
【0151】
符号化方式が異なっていない、即ち、現在受信した波形データと次に受信する波形データの符号化形式が共通する場合、結合部33は、ステップS146のクロスフェード処理を行うことなく、ステップS147に処理を進める。これは一般に符号化方式は、元々変換単位のつなぎ目においても信号がなめらかに繋がるように設計されており、さらに追加で信号をつなぐ処理をする必要がないからである。
【0152】
結合部33は、ステップS147において、復号した触覚信号を出力する。
ステップS147に続くステップS148で復号部34は、全ての触覚符号化データDcを復号したかどうか、即ち触覚信号の全信号区間について触覚符号化データDcについて復号処理を終えたか否かを判定する。
【0153】
全信号区間の処理が終了していない場合、復号部34はステップS140に処理を戻す。これにより残りの区間について1フレーム分と同様の処理が実行される。
一方、全信号区間の処理が終了した場合、復号部34は図14に示す一連の処理を終える。復号部34は、チャンネルが複数である場合は全チャンネルについて図14に示す処理を実行する。
【0154】
<7.第1の適用例>
本技術の第1の適用例として、図17に示すような映像と音声に加え、触覚として振動も視聴者に提示する触覚付き映画を考える。
【0155】
まず作成の段階で、映像・音声に加えて振動の収録も行う。この収録は、例えば俳優160の体に取り付けた触覚センサ161(触覚センサ5)を用いて、映画の登場人物が感じる振動を収録する。他の例では、収録現場の床などに設置し、環境に発生した振動を収録する。
【0156】
こうして収録された振動波形は、符号化装置162(符号化装置2)において符号化される。符号化の詳細は図8、10、12を用いて述べた通りで、信号の解析やメタ情報の利用などを伴う符号化品質の制御を経て、信号強度の急変化を伴う区間は高品質符号化方式で、それ以外の区間は低品質符号化方式で符号化される。映像と音声も既知の方法によって符号化された後、映像・音声・振動の符号化データは、DVD(Digital Versatile Disc)などに代表されるストレージ163に保存される。
【0157】
例えば登場人物が壁を手でなぞったとき、触れた瞬間は時間変化の大きい振動波形であるため高品質符号化が望ましく、そのあと手を壁にそって動かしている間は低品質符号化で十分である。
【0158】
よって、俳優160の手に取り付けた触覚センサ161により触覚信号を入力する場合は、その触覚信号に既知の信号処理手法を適用して立ち上がりを検出し、その区間(第1信号区間)のみ高品質符号化を行う。またはクリエイタが、撮影した画像を見ながら、壁に触れた瞬間であると感じさせたいときにそのようなメタ情報を触覚信号に付与しても良い。この場合、図8の判定部82においてこのメタ情報を検出し、その箇所の触覚信号のみ高品質符号化を行う。
これにより、壁に触れた瞬間のみ高品質符号化し、それ以外は低品質符号化した触覚符号化データDcができる。
【0159】
また他の例として、映画の撮影時には壁に触れた振動を収録しないが、クリエイタがいかにも壁に触れたように感じられる波形を設計してもよい。この場合でも、上記同様、信号処理手法やクリエイタが別途付与するメタ情報により符号化方式の決定が可能である。
【0160】
視聴者164はこのストレージ163から再生機165によって映画を鑑賞する。このとき再生機165は映像・音声は既知の方法で既知の映像・音声出力装置から復号・出力を行う。
【0161】
振動信号も図14で述べた方法で復号装置166(復号装置3)において復号を行い、振動出力装置167から振動信号を出力する。つまり符号化時に付与した符号化方式IDに応じて区間毎に信号を復号し、必要に応じてなめらかな信号になるよう信号切り替え処理を行い、復号信号として出力する。
【0162】
このとき出力する振動信号の系統数はストレージに保存された系統数に応じて複数でも良いし、視聴者164の所有する装置数に応じて調整しても良い。この調整には既知のチャンネル数変換手法が利用できる。
【0163】
この実施例において、振動データの保存に必要とするストレージを節約することが可能である。これにより、ストレージコストの低下、更なる振動の多チャンネル化や高解像度化の実現、映像や音声に使用できるストレージの増大などの効果が得られる。
【0164】
<8.第2の適用例>
本技術の第2の適用例として、図18に示すようなユーザ174の操作などを全てエッジ176からクラウド172へ送信し、それによる映像・音声・触覚の変化を全てクラウド172上で計算・処理し、それらをエッジ176(ユーザ174の元)へ送信し再生するクラウドゲームを考える。
【0165】
一般的な家庭用ゲーム、つまりユーザ174の手元にマシンが存在し、ユーザ174のボタン操作などはマシンに送られ、そこで処理された各種信号が、有線あるいはごく近距離の無線によって各種出力装置へ送信される例は、上記第1の適用例で説明した触覚付き映画と同じ問題・構成・効果になるため説明を省略する。
【0166】
クラウドゲームにおいてはエッジ176に高機能な計算機が存在しないため、複雑なユーザ操作の解釈やそれによるフィードバックの合成・調整は全てクラウド172で行われ、その結果である映像・音声・触覚といった大容量データがクラウド172からエッジ176まで送信される。
【0167】
このときクラウド172からエッジ176までの通信帯域が十分確保されていない場合、エッジ176側ではノイズや信号の途切れなどが発生し、ユーザ体験を大きく損なう。また触覚における振動は、同一の物体に触れても触り方によって変化するため、それらを別々の信号として保存する場合は膨大なストレージが必要になる。基準となる信号のみ保存し物体や触り方に応じて変調させる手法も考えられるが、出力される信号の品質が高いのは前者であると予想される。
【0168】
第2の適用例について説明する。映像と音声は既知の手法で取り扱うことを想定し、本適用例では触覚についてのみ説明する。まずゲームの作成段階で、収録あるいは合成された振動信号170(触覚信号)が用意される。例えばこれは、銃を撃った振動、ドアを開けた振動、壁をなぞった振動、肩を叩かれた振動などである。また心臓の鼓動のような、実際には知覚しにくい振動でも良い。これらの信号それぞれを符号化装置171(符号化装置2)において符号化する。
【0169】
この符号化においてはこれまで述べた通り、品質制御とそれに応じた区間毎の符号化方式の適用が行われる。こうして得られた触覚符号化データDcをクラウド172内のストレージ173に保存する。
【0170】
次にユーザ174がこのゲームをプレイする際、まずコントローラ175からユーザ174の操作が入力され、エッジ176からクラウド172に送信される。クラウド172ではユーザ174の操作を送受信部177において受信、制御部178において認識し、ストレージ173から出力すべき振動信号の触覚符号化データDcを選択し読み出す。
読み出された触覚符号化データDcはそのままエッジ176へ送信され、エッジ176において復号装置179(復号装置3)で復号、振動出力装置1710から出力される。
【0171】
これにより、記録する触覚符号化データDcの情報量削減によりクラウド172上でのストレージ容量の削減が可能である。またデータを符号化したまま通信しエッジ176側で復号することで通信データ量が削減でき、クラウド172とエッジ176間の通信帯域が狭くとも、ユーザ174はクラウドゲームにおいて振動信号によるリアルな触覚体験を楽しむことができる。
この適用例は復号処理が符号化方式IDの読み取りとそれに応じた復号のみであるため単純であり、エッジ176側に高機能な計算機を必要としない点もメリットである。
【0172】
第2の適用例の変形例として、通信帯域に応じて符号化品質を調整することもできる。ストレージ173から読み出した触覚符号化データDcをそのまま送受信部177から送信する前に、制御部178がクラウド172とエッジ176の間の通信帯域情報を取得する。
【0173】
現在の通信環境が良好であれば、そのまま触覚符号化データDcを送受信部177から送信する。一方通信環境が悪い場合、読み出した触覚符号化データDcを再度符号化装置171にて符号化を行う。このとき制御部178によって、通信環境に応じた新たな触覚符号化データDcを与える。
【0174】
例えば壁をなぞる振動信号の触覚符号化データDcを送信する際に通信環境が悪いと判断された場合、壁に沿って手を動かしている間の低品質符号化を行う第2信号区間において、より長い時間フレームで符号化しパラメータの更新頻度を下げるなどの手法によって、多少品質を犠牲にしてでもデータ量を更に小さくすることが可能である。
【0175】
本技術の第2の適用例においては、高品質符号化を行う第1信号区間と低品質符号化を行う第2信号区間を人間の知覚特性に根拠に分けているため、このような調節を人間の知覚を保ったまま行いやすい。例えば上記の調節は、元々時間分解能が重要でないとされている区間を対象としているため、パラメータ更新頻度の調整を行っても影響が限定的と考えられる。
【0176】
<9.第3の適用例>
本技術の第3の適用例として、図19に示すようなインターネットを通じた通信販売において、商品180の手触りを振動として再生してユーザ186に商品180の触覚情報も感じさせる例を考える。例えばユーザ186はショッピングサイトで商品を調べ、詳細情報として手元の振動装置1810から振動を出力させ、それを商品180の手触りとして確かめることが出来る。
【0177】
まず商品180の手触りを記録するため、振動センサ181(触覚センサ5)を用いて様々な触り方をしたときの振動を記録する。このとき、触る動作の繰り返しに例えばロボットアーム182などを用いても良い。
【0178】
振動センサ181で取得した振動信号データは触り方別にそれぞれ符号化装置183において符号化される。この符号化方法はこれまで述べた通りで、この適用例ではロボットアーム182に別途接触センサ184(触覚センサ5)を取り付け、その情報を元に符号化の品質制御を行う。
例えばロボットアーム182が商品180に触れた瞬間と商品180から離れた瞬間は接触センサ184によって特定できる。
【0179】
そしてその瞬間から一定時間は信号の時間変化が急峻であると予測されるため、その区間は高精度符号化を行う第1信号区間とする。この場合接触センサ184の情報によって品質制御が完了するため、信号処理が不要である。そしてこれらの触覚符号化データDcをストレージ185に保存する。
【0180】
次にユーザ186による再生リクエストを送受信部187で受信し、制御部188によってストレージ185から適切な触覚符号化データDcを読み出し、ユーザ186側へ送信する。受信したユーザ186側で復号装置189(復号装置3)において触覚符号化データDcを復号し、ユーザ186の持つ振動装置1810から振動を再生する。
【0181】
これにより、ユーザ186はインターネット越しに商品180の手触りを感じることができる。加えて本適用例の効果により、データ容量が削減されているため振動データのダウンロードも短時間で済み、ウェブページの負荷も小さくなるため、ユーザ体験の質を損ないにくい。
【0182】
<10.まとめ>
以上の実施形態における復号装置3は、触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間200の一部区間であって、当該対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間(例えば信号区間73、77)について、第1のビットレートによる符号化(高品質符号化)を行って得られた第1の符号化データを復号する第1復号部34aと、接触信号区間200のうち第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間(例えば信号区間74)について、第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化(低品質符号化)を行って得られた第2の符号化データを復号する第2復号部34bと、を備える(図4図7図14のS140からS144参照)。
接触信号区間中の重要区間についてのみ高ビットレートによる符号化(高品質符号化)がされ、それ以外の区間について低ビットレートによる符号化(低品質符号化)がされた触覚符号化データDcを復号することで、データ量の削減と触覚再現性の確保の両立が図られるようにすることが可能となる。
従って、触覚再現性をできるだけ棄損することなく触覚符号化データDc全体の伝送データ量が削減されたデータを低遅延で受信することができる。よって、受触者に遅延を感じさせずに高品位の触覚を体感させることができる。
【0183】
実施形態の復号装置3は、第1の符号化データを復号することで得られた第1の波形データと、第2の符号化データを復号することで得られた第2の波形データとを結合する結合部33を備える(図4図14のS145、S146参照)。
これにより、各波形データが一つの波形データに統合される。
従って、各波形データを別出力することによる不快な不連続波形の発生防止を図ることができ、触覚再現性を高めることができる。
【0184】
実施形態の復号装置3において、結合部33は、第1の波形データと第2の波形データの結合部分についてクロスフェード処理を施す(図14のS146、図15図16参照)。
これにより、第1の波形データと第2の波形データが滑らかに結合される。
従って、各波形データを別出力することによる不快な不連続波形の発生防止を図ることができ、触覚再現性を高めることができる。
【0185】
また実施形態における復号方法は、触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって、当該対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間(例えば信号区間73、77)について、第1のビットレートによる符号化(高品質符号化)を行って得られた第1の符号化データを復号し、前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間(例えば信号区間74)について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化(低品質符号化)を行って得られた第2の符号化データを復号する復号方法である。
【0186】
このような実施形態としての復号方法によっても上記した実施形態としての復号装置3と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0187】
また実施形態における符号化装置2は、触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間200の一部区間であって当該対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間(例えば信号区間73、77)と、接触信号区間200のうち第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間(例えば信号区間74)と、を判定する判定部82と、当該第1信号区間について、第1のビットレートによる符号化(高品質符号化)を行う第1符号化部83と、当該第2信号区間について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化(低品質符号化)を行う第2符号化部84と、を備える(図7図8図10参照)。
接触信号区間中の重要区間についてのみ高ビットレートによる符号化が行われ、それ以外の区間は低ビットレートによる符号化が行われることで、データ量の削減と触覚再現性の確保の両立が図られるようにすることが可能となる。
従って、触覚再現性をできるだけ棄損することなく触覚符号化データDc全体の伝送データ量を削減することができる。よって、触覚信号の知覚上の質を保ったまま低遅延で触覚符号化データDcを伝送することができる。
【0188】
実施形態の符号化装置2において、判定部82は、触覚信号に付加された第1信号区間及び第2信号区間の区分情報に基づいて第1信号区間及び第2信号区間を判定する(図10のS112、図11参照)。
これにより、第1信号区間及び第2信号区間の判定にあたり波形解析などの処理が不要とされる。
従って、第1信号区間及び第2信号区間を判定するための符号化装置2の処理負担を軽減することができるため、より効率のよい符号化処理を行うことが可能となる。
【0189】
実施形態の符号化装置2において、判定部82は、触覚信号の波形解析を行った結果に基づいて第1信号区間及び第2信号区間を判定する(図10のS112参照)。
これにより、第1信号区間と第2信号区間に個別の符号化を施すにあたり、接触信号に第1信号区間と第2信号区間の区別情報を付加しておく必要がなくなる。
従って、各信号区間について区分情報を付加した接触信号を作成する作業者の負担を軽減することができる。
【0190】
実施形態の符号化装置2において、判定部82は、触覚信号の振幅変化率に基づいて第1信号区間及び第2信号区間を判定する(図10のS112参照)。
これにより、触覚信号の波形について急峻な変化を伴う第1信号区間を適切に判定可能となる。
従って、データ量の削減と触覚再現性の確保の両立を適切に図ることができる。
【0191】
実施形態の符号化装置2において、第2符号化部84は、第2信号区間について第1信号区間に対する符号化よりも変換長が長い符号化方式による符号化を行う(図10のS116参照)。
これにより、第2信号区間における第2の符号化データのデータ量が削減される。
従って、触覚符号化データDc全体の伝送データ量を削減することができる。
【0192】
実施の形態の符号化装置2において、第2符号化部84は、第2信号区間についてパラメトリック符号化を行う(図10のS116参照)。
これにより、第2信号区間における第2の符号化データのデータ量が削減される。
従って、触覚符号化データDc全体の伝送データ量を削減することができる。
【0193】
実施の形態の符号化装置2において、第1信号区間及び第2信号区間を判定するために用いる第1バッファメモリと、前記判定の結果に応じて前記第2信号区間に対して符号化を行うために用いる第2バッファメモリと、を備える(図8図10のS111、S115参照)。
これにより、第1信号区間に対する符号化よりも変換長が長い第2信号区間の触覚信号について、第1バッファ処理部86でバッファリングしきれなかった触覚信号を、第2バッファ処理部87によりバッファリングすることが可能となる。
従って、変換長の長い第2信号区間にバッファリング期間を合わせる必要がなくなるため、第1信号区間の触覚信号に対する高品質符号化の処理時間が遅延することを防止することができ、符号化処理の効率を向上させることができる。
【0194】
また実施形態における符号化方法は、触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間200の一部区間であって当該対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間(例えば信号区間73、77)と、接触信号区間200のうち第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間(例えば信号区間74)と、を判定し、第1信号区間について、第1のビットレートによる符号化(高品質符号化)を行い、当該第2信号区間について、第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化(低品質符号化)を行う符号化方法である。
【0195】
このような実施形態としての符号化方法によっても上記した実施形態としての符号化装置2と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0196】
ここで、これまで説明した復号装置3や符号化装置2による機能は、例えばCPU、DSP等によるソフトウェア処理として実現することができる。該ソフトウェア処理は、プログラムに基づき実行される。
【0197】
実施形態としての第1のプログラムは、触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって、前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間について、第1のビットレートによる符号化を行って得られた第1の符号化データを復号する機能と、前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行って得られた第2の符号化データを復号する機能と、を情報処理装置に実行させるプログラムである。
このような第1のプログラムによって、上記した実施形態としての復号装置3を実現することができる。
【0198】
実施形態としての第2のプログラムは、触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間と、前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間と、を判定する機能と、前記第1信号区間ついて、第1のビットレートによる符号化を行う機能と、前記第2信号区間について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行う機能と、を情報処理装置に実行させるプログラムである。
このような第2のプログラムによって、上記した実施形態としての符号化装置2を実現することができる。
【0199】
上記のような第1、第2のプログラムは、コンピュータ装置等の機器に内蔵されている記録媒体や、CPUを有するマイクロコンピュータ内のROM等に予め記録しておくことができる。
或いはまた、フレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、MO(Magnet optical)ディスク、DVD、ブルーレイディスク(Blu-ray Disc(登録商標))、磁気ディスク、半導体メモリ、メモリカードなどのリムーバブル記録媒体に、一時的あるいは永続的に格納(記録)しておくことができる。このようなリムーバブル記録媒体は、いわゆるパッケージソフトウェアとして提供することができる。
また、第1、第2のプログラムは、リムーバブル記録媒体からパーソナルコンピュータ等にインストールする他、ダウンロードサイトから、インターネット、LAN(Local Area Network)などのネットワークを介してダウンロードすることもできる。
【0200】
また、第1、第2のプログラムによれば、実施形態の復号装置や符号化装置の広範な提供に適している。例えば、パーソナルコンピュータ、携帯型情報処理装置、携帯電話機、ゲーム機器、AV(Audio Visual)機器等にプログラムをダウンロードすることで、当該パーソナルコンピュータ等を、本技術の復号装置や符号化装置として機能させることができる。
【0201】
<11.本技術>
また本技術は以下のような構成も採ることができる。
(1)
触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって、前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間について、第1のビットレートによる符号化を行って得られた第1の符号化データを復号する第1復号部と、
前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行って得られた第2の符号化データを復号する第2復号部と、を備える
復号装置。
(2)
前記第1の符号化データを復号することで得られた第1の波形データと、前記第2の符号化データを復号することで得られた第2の波形データとを結合する結合部を備える
上記(1)に記載の復号装置。
(3)
前記結合部は、前記第1の波形データと前記第2の波形データの結合部分についてクロスフェード処理を施す
上記(2)に記載の復号装置。
(4)
触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって、前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間について、第1のビットレートによる符号化を行って得られた第1の符号化データを復号し、
前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行って得られた第2の符号化データを復号する
復号方法。
(5)
触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって、前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間について、第1のビットレートによる符号化を行って得られた第1の符号化データを復号する機能と、
前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行って得られた第2の符号化データを復号する機能と、を情報処理装置に実行させる
プログラム。
(6)
触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間と、前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間と、を判定する判定部と、
前記第1信号区間ついて、第1のビットレートによる符号化を行う第1符号化部と、
前記第2信号区間について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行う第2符号化部と、を備える
符号化装置。
(7)
前記判定部は、前記触覚信号に付加された前記第1信号区間及び前記第2信号区間の区分情報に基づいて前記第1信号区間及び前記第2信号区間を判定する
上記(6)に記載の符号化装置。
(8)
前記判定部は、前記触覚信号の波形解析を行った結果に基づいて前記第1信号区間及び前記第2信号区間を判定する
上記(6)又は(7)に記載の符号化装置。
(9)
前記判定部は、前記触覚信号の振幅変化率に基づいて前記第1信号区間及び前記第2信号区間を判定する
上記(6)から(8)の何れかに記載の符号化装置。
(10)
前記第2符号化部は、前記第2信号区間について前記第1信号区間に対する符号化よりも変換長が長い符号化方式による符号化を行う
上記(6)から(9)の何れかに記載の符号化装置。
(11)
前記第2符号化部は、前記第2信号区間についてパラメトリック符号化を行う
上記(6)から(10)の何れかに記載の符号化装置。
(12)
前記第1信号区間及び前記第2信号区間を判定するために用いる第1バッファメモリと、
前記判定の結果に応じて前記第2信号区間に対して符号化を行うために用いる第2バッファメモリと、を備える
上記(10)に記載の符号化装置。
(13)
触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間と、前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間と、を判定し、前記第1信号区間ついて、第1のビットレートによる符号化を行い、前記第2信号区間について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行う
符号化方法。
(14)
触覚信号中における対象物との接触状態を示す信号区間である接触信号区間の一部区間であって前記対象物との接触状態と非接触状態との境界を含む信号区間である第1信号区間と、前記接触信号区間のうち前記第1信号区間を除く信号区間である第2信号区間と、を判定する機能と、
前記第1信号区間ついて、第1のビットレートによる符号化を行う機能と、
前記第2信号区間について、前記第1のビットレートよりも低ビットレートによる符号化を行う機能と、を情報処理装置に実行させる
プログラム。
【0202】
最後に、本開示に記載された効果は例示であって限定されるものではなく、他の効果を奏するものであってもよいし、本開示に記載された効果の一部を奏するものであってもよい。
また本開示に記載された実施の形態はあくまでも一例であり、本技術が上述の実施の形態に限定されることはない。従って、上述した実施の形態以外であっても本技術の技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計などに応じて種々の変更が可能なことはもちろんである。なお、実施の形態で説明されている構成の組み合わせの全てが課題の解決に必須であるとは限らない。
【符号の説明】
【0203】
1 触覚再現システム
2 符号化装置
3 復号装置
24 符号化部
33 結合部
34 復号部
34a 第1復号部
34b 第2復号部
82 判定部
83 第1符号化部
84 第2符号化部
86 第1バッファ処理部
87 第2バッファ処理部
200 接触信号区間
図1
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