(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】液滴吐出ヘッド、画像形成装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/145 20060101AFI20241126BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20241126BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20241126BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B41J2/145
B41J2/18
B41J2/16 301
B41J2/14 607
(21)【出願番号】P 2022529187
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2020021816
(87)【国際公開番号】W WO2021245802
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉持 裕介
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-107232(JP,A)
【文献】特開2017-65249(JP,A)
【文献】特開2012-96500(JP,A)
【文献】特開2002-307686(JP,A)
【文献】特開2002-254646(JP,A)
【文献】特開平10-86375(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0236537(US,A1)
【文献】特開2018-30340(JP,A)
【文献】特開2014-24292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴が吐出される吐出孔を有する吐出部と、
前記吐出孔に対応して設けられ、前記吐出孔に吐出されるための液体の流路領域を構成し、かつ、圧力室である吐出流路部と、
を備え、
前記吐出孔は、前記吐出流路部の前記流路領域を分割した複数の領域のうち、前記液体の流路抵抗が最大となる第1領域以外の第2領域
であって、前記第1領域よりも前記液体の攪拌効果が高い第2領域に配置されている、
液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第2領域は、前記複数の領域のうち、前記液体の流路抵抗が最小となる領域である、
請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記複数の領域の各境界は、前記吐出流路部の前記流路領域の中心点を通る、
請求項1または請求項2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
液滴が吐出される吐出孔を有する吐出部と、
前記吐出孔に対応して設けられ、前記吐出孔に吐出されるための液体の流路領域を構成する吐出流路部と、
を備え、
前記吐出孔は、前記吐出流路部の前記流路領域を分割した複数の領域のうち、前記液体の流路抵抗が最大となる第1領域以外の第2領域に配置されており、
前記複数の領域の各境界は、前記吐出流路部の前記流路領域の中心点を通る、
液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記吐出流路部の流路領域は、前記吐出流路部以外の1以上の他流路部と連通しており、
前記複数の領域のそれぞれにおける前記液体の流路抵抗は、前記1以上の他流路部に基づく流路抵抗である、
請求項1~4の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
液滴が吐出される吐出孔を有する吐出部と、
前記吐出孔に対応して設けられ、前記吐出孔に吐出されるための液体の流路領域を構成する吐出流路部と、
を備え、
前記吐出孔は、前記吐出流路部の前記流路領域を分割した複数の領域のうち、前記液体の流路抵抗が最大となる第1領域以外の第2領域に配置されており、
前記吐出流路部の流路領域は、前記吐出流路部以外の1以上の他流路部と連通しており、
前記複数の領域のそれぞれにおける前記液体の流路抵抗は、前記1以上の他流路部に基づく流路抵抗である、
液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記複数の領域は、前記1以上の他流路部の数よりも多い数の領域を有する、
請求項5または請求項6に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
前記複数の領域の境界は、前記1以上の他流路部と交差しない、
請求項5~7の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッドと、
前記液滴吐出ヘッドに液体を供給する液体供給部と、
を備える画像形成装置。
【請求項10】
液滴が吐出される吐出孔を有する吐出部と、前記吐出孔に対応して設けられ、前記吐出孔に吐出されるための液体の流路領域を構成し、かつ、圧力室である吐出流路部と、を備える液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記吐出流路部の前記流路領域を複数の領域に分割する工程と、
前記液体の流路抵抗が最大となる第1領域以外の第2領域
であって、前記第1領域よりも前記液体の攪拌効果が高い第2領域を決定する工程と、
前記吐出孔を前記第2領域に配置する工程と、
を有する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッド、画像形成装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット式の画像形成装置において、インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)内でインクを循環させる構成が知られている。例えば、インクジェットヘッドと、インクタンクとの間でインクを循環させる構成においては、ノズル(吐出孔)等が設けられた吐出流路部(例えば、圧力室等)に、インクがインクタンクから供給され、吐出孔から吐出されつつ、吐出流路部と連通する他の流路部(例えば、排出路)から排出されてインクタンクに戻される。
【0003】
また、特許文献1に記載の構成では、液滴吐出ヘッドで液体を循環させる構成が開示されている。この構成では、液体の流路部において液体の流れの方向が変化する領域に吐出孔が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、吐出流路部では、他の流路部の方に液体が流れていくので、吐出流路部内の一部の領域によっては、液体の流れが悪い、いわゆるデッドスペースとなる領域が存在する。
【0006】
そのため、当該デッドスペースに吐出孔が配置された場合、吐出孔付近における液体の循環による攪拌効果が弱くなり、ひいては吐出孔における吐出不良が発生するおそれがあった。
【0007】
本発明の目的は、吐出孔付近における液体の循環による攪拌効果が弱まることを抑制し、ひいては吐出孔における吐出不良が発生することを抑制することが可能な液滴吐出ヘッド、画像形成装置および製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、
液滴が吐出される吐出孔を有する吐出部と、
前記吐出孔に対応して設けられ、前記吐出孔に吐出されるための液体の流路領域を構成し、かつ、圧力室である吐出流路部と、
を備え、
前記吐出孔は、前記吐出流路部の前記流路領域を分割した複数の領域のうち、前記液体の流路抵抗が最大となる第1領域以外の第2領域であって、前記第1領域よりも前記液体の攪拌効果が高い第2領域に配置されている。
【0009】
本発明に係る画像形成装置は、
上記の液滴吐出ヘッドと、
前記液滴吐出ヘッドに液体を供給する液体供給部と、
を備える。
【0010】
本発明に係る製造方法は、
液滴が吐出される吐出孔を有する吐出部と、前記吐出孔に対応して設けられ、前記吐出孔に吐出されるための液体の流路領域を構成し、かつ、圧力室である吐出流路部と、を備える液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記吐出流路部の前記流路領域を複数の領域に分割する工程と、
前記液体の流路抵抗が最大となる第1領域以外の第2領域であって、前記第1領域よりも前記液体の攪拌効果が高い第2領域を決定する工程と、
前記吐出孔を前記第2領域に配置する工程と、
を有する。
【0011】
本発明によれば、吐出孔付近における液体の循環による攪拌効果が弱まることを抑制し、ひいては吐出孔における吐出不良が発生することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る画像形成装置の概略構成を示す図である。
【
図2】画像形成装置の主要な機能構成を示すブロック図である。
【
図5】
図4のX1-X1線におけるヘッドチップの断面図である。
【
図6】
図4のX2-X2線におけるヘッドチップの断面図である。
【
図9】圧力室内における吐出孔の配置の一例を説明するための図である。
【
図10】圧力室内における吐出孔の配置の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る画像形成装置1の概略構成を示す図である。
【0014】
画像形成装置1は、記録媒体Pに対する画像の記録を行うインクジェット式の画像形成装置である。画像形成装置1は、給紙部10と、画像形成部20と、排紙部30と、制御部40とを備える。
【0015】
画像形成装置1は、制御部40による制御下で、給紙部10に格納された記録媒体Pを画像形成部20に搬送し、画像形成部20で記録媒体P上にインクを吐出して画像を記録し、画像が記録された記録媒体Pを排紙部30に搬送する。
【0016】
詳しくは、画像形成装置1は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色についてそれぞれ所定の記録階調数で記録媒体P上に色を重ねて出力することで当該記録媒体P上にカラー画像を記録する。
【0017】
記録媒体Pとしては、普通紙や塗工紙といった紙のほか、布帛又はシート状の樹脂等、表面に着弾したインクを定着させることが可能な種々の媒体を用いることができる。
【0018】
給紙部10は、記録媒体Pを格納する給紙トレー11と、給紙トレー11から画像形成部20に記録媒体Pを搬送して供給する媒体供給部12とを有する。媒体供給部12は、内側が2本のローラーにより支持された輪状のベルトを備え、このベルト上に記録媒体Pを載置した状態でローラーを回転させることで記録媒体Pを給紙トレー11から画像形成部20へ搬送する。
【0019】
画像形成部20は、搬送部21と、受け渡しユニット22と、加熱部23と、ヘッドユニット24と、照射部25と、デリバリー部27などを有する。
【0020】
搬送部21は、円筒状の搬送ドラム211の搬送面上に載置された記録媒体Pを保持し、搬送ドラム211が、記録媒体Pの幅方向に延びた回転軸(円筒軸)を中心に回転して周回移動することで搬送ドラム211上の記録媒体Pを搬送面に沿った搬送方向に搬送する。
【0021】
搬送ドラム211は、その搬送面上で記録媒体Pを保持するための図示しない爪部及び吸気部を備える。記録媒体Pは、爪部により端部が押さえられ、かつ吸気部により搬送面に吸い寄せられることで搬送面に保持される。
【0022】
受け渡しユニット22は、給紙部10の媒体供給部12と搬送部21との間の位置に設けられ、媒体供給部12から搬送された記録媒体Pの一端をスイングアーム部221で保持して取り上げ、受け渡しドラム222を介して搬送部21に引き渡す。
【0023】
加熱部23は、受け渡しドラム222の配置位置とヘッドユニット24の配置位置との間に設けられ、搬送部21により搬送される記録媒体Pが所定の温度範囲内の温度となるように当該記録媒体Pを加熱する。加熱部23は、例えば、赤外線ヒーター等を有し、制御部40から供給される制御信号に基づいて赤外線ヒーターに通電して当該赤外線ヒーターを発熱させる。
【0024】
ヘッドユニット24は、記録媒体Pが保持された搬送ドラム211の回転に応じた適切なタイミングで、搬送ドラム211の搬送面に対向するインク吐出面に設けられたノズル開口部から記録媒体Pに対してインクを吐出することにより画像を記録する。
【0025】
ヘッドユニット24は、複数のインクジェットヘッド100(
図3参照)を有しており、インクジェットヘッド100におけるインク(液滴)の吐出面と搬送面とが所定の距離だけ離隔されるように配置される。インクジェットヘッド100は、本発明の「液滴吐出ヘッド」に対応する。
【0026】
本実施の形態の画像形成装置1では、Y,M,C,Kの4色のインクにそれぞれ対応する4つのヘッドユニット24が記録媒体Pの搬送方向上流側からY,M,C,Kの色の順に所定の間隔で並ぶように配列されている。つまり、各ヘッドユニット24は、それぞれが異なる複数種類のインクを吐出可能に構成されている。
【0027】
ヘッドユニット24は、画像の記録時には位置が固定されて用いられ、記録媒体Pの搬送に応じて搬送方向の異なる位置に所定の間隔(搬送方向間隔)で順次インクを吐出していくことで、シングルパス方式で画像を記録する。
【0028】
照射部25は、搬送部21の幅に亘って配置され、搬送部21に載置された記録媒体Pに対して電磁波(例えば、波長395nmの紫外線)を照射して記録媒体P上に吐出されたインクを硬化させて定着させる。照射部25は、搬送方向についてヘッドユニット24の配置位置からデリバリー部27の受け渡しドラム271の配置位置までの間において搬送面と対向して配置される。
【0029】
デリバリー部27は、内側が2本のローラーにより支持された輪状のベルトを有するベルトループ272と、記録媒体Pを搬送部21からベルトループ272に受け渡す円筒状の受け渡しドラム271とを有し、受け渡しドラム271により搬送部21からベルトループ272上に受け渡された記録媒体Pをベルトループ272により搬送して排紙部30に送出する。
【0030】
排紙部30は、デリバリー部27により画像形成部20から送り出された記録媒体Pが載置される板状の排紙トレー31を有する。
【0031】
図2は、画像形成装置1の主要な機能構成を示すブロック図である。画像形成装置1は、制御部40と、ヘッドユニット駆動部50と、搬送駆動部60と、画像処理部70と、入出力インターフェース80と、インク供給部90とを備える。
【0032】
制御部40は、CPU41(Central Processing Unit)、RAM42(Random Access Memory)、ROM43( Read Only Memory)および記憶部44を有し、画像形成装置1の全体動作を統括制御する。
【0033】
CPU41は、ROM43に記憶された各種制御用のプログラムや設定データを読み出してRAM42に記憶させ、当該プログラムを実行して各種演算処理を行う。
【0034】
RAM42は、CPU41に作業用のメモリー空間を提供し、一時データを記憶する。RAM42は、不揮発性メモリーを含んでいてもよい。
【0035】
ROM43は、CPU41により実行される各種制御用のプログラムや設定データ等を格納する。なお、ROM43に代えてEEPROM( Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)やフラッシュメモリー等の書き換え可能な不揮発性メモリーが用いられてもよい。
【0036】
記憶部44には、入出力インターフェース80を介して図示しない外部装置から入力されたプリントジョブ及び当該プリントジョブにより記録される画像の画像データ等が記憶される。記憶部44としては、例えばHDD( Hard Disk Drive)が用いられ、また、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などが併用されてもよい。
【0037】
ヘッドユニット駆動部50は、制御部40の制御に基づいてヘッドユニット24の記録素子に対して適切なタイミングで画像データに応じた駆動信号を供給することにより、ヘッドユニット24のノズルから画像データの画素値に応じた量のインクを吐出させる。
【0038】
搬送駆動部60は、制御部40から供給される制御信号に基づいて、搬送ドラム211に設けられた搬送ドラムモーターに駆動信号を供給して搬送ドラム211を所定の速度およびタイミングで回転させる。また、搬送駆動部60は、制御部40から供給される制御信号に基づいて媒体供給部12、受け渡しユニット22、及びデリバリー部27を動作させるためのモーターに駆動信号を供給して、記録媒体Pの搬送部21への供給及び搬送部21からの排出を行わせる。
【0039】
画像処理部70は、記憶部44に記憶された画像データに対して所定の画像処理を行って、得られた画像データを記憶部44に記憶させる。この画像処理には、画像データに図示しない補正テーブル等を適用して画像データを補正する補正処理の他、色変換処理、階調補正処理、擬似中間調処理などが含まれる。
【0040】
入出力インターフェース80は、外部装置(例えば、パーソナルコンピューター)の入出力インターフェースと接続され、制御部40と外部装置との間のデータの送受信を媒介する。入出力インターフェース80は、例えば各種シリアルインターフェース、各種パラレルインターフェースのいずれか、または、これらの組み合わせで構成される。
【0041】
インク供給部90は、図示しないインクタンク、供給タンク、循環タンクおよびポンプ等を有しており、ヘッドユニット24のインクジェットヘッド100にインク(液体)を供給する。インク供給部90は、本発明の「液体供給部」に対応する。
【0042】
インク供給部90は、ポンプを制御されることにより、インクタンク内のインクを、供給タンクを介してインクジェットヘッド100に供給する。また、インク供給部90は、インクジェットヘッド100から排出されたインクを、循環タンクを介してインクタンクに戻す。つまり、インク供給部90のインクタンクとインクジェットヘッド100との間でインクが循環する。
【0043】
次に、ヘッドユニット24における各インクジェットヘッド100の詳細構造について説明する。
図3は、インクジェットヘッド100の断面図である。
【0044】
上記したように、ヘッドユニット24は、複数のインクジェットヘッド100を有する。
図3に示すように、インクジェットヘッド100は、ヘッドチップ101およびマニホールド102等を有する。
【0045】
マニホールド102は、ヘッドチップ101に供給するインクを貯留するものであり、ヘッドチップ101の上側に設けられている。また、マニホールド102は、ヘッドチップ101にインクを供給し、かつ、ヘッドチップ101から排出されたインクを回収可能に構成されている。
【0046】
マニホールド102は、図示しないインクタンクから供給されたインクをヘッドチップ101に供給して、ヘッドチップ101から回収したインクをインクタンクに戻す。これにより、インクがインクジェットヘッド100とインクタンクとの間を循環する。
【0047】
ヘッドチップ101は、左右方向に長尺な略四角柱状の部材であり、マニホールド102から内部にインクが供給されて、当該インクを記録媒体Pに吐出する。ヘッドチップ101は、圧力室基板110と、流路スペーサー基板120と、ノズル基板130とが、上から順に積層されて構成されている。
【0048】
図4、
図5および
図6に示すように、圧力室基板110には、圧力室111、空気室112およびインク排出路113等が設けられている。圧力室111および空気室112は、左右方向に交互に配置されるように多数設けられ、前後方向に例えば4列で設けられている。
【0049】
圧力室111は、略矩形状の断面を有し、上下方向に沿って形成されている。圧力室111は、圧力室基板110および流路スペーサー基板120にまたがって設けられ、圧力室基板110および流路スペーサー基板120を上下方向に貫通している。
【0050】
圧力室基板110の上側には、インクジェットヘッド100にインクタンク(不図示)から供給されたインクが貯留されるマニホールド102が設けられている。圧力室111には、マニホールド102におけるインクの貯留部分と連通しており、当該貯留部分から供給されたインクが貯留されるようになっている。
【0051】
空気室112は、圧力室111よりもやや大きい略矩形状の断面を有し、上下方向に沿って圧力室111と平行になるように形成されている。空気室112は、圧力室111とは異なり、インク貯留部とは連通していない。そのため、空気室112内にはインクが流れ込まないようになっている。
【0052】
圧力室111と空気室112とは、圧電材料によって形成された隔壁114により隔てられている。隔壁114には、図示しない駆動電極が設けられており、当該駆動電極に電圧が印加されると、隣接する圧力室111間の隔壁114がシアモード型の変位を繰り返すことで、圧力室111内のインクに圧力が加えられる。
【0053】
インク排出路113は、圧力室基板110において圧力室111および空気室112が設けられた部分を避けるように設けられており、第1インク排出路113Aおよび第2インク排出路113Bを有する。
【0054】
第1インク排出路113Aは、左右方向に延びており、圧力室基板110の前端部、中央部および後端部に3つ設けられている。圧力室基板110の下面における第1インク排出路113Aに対応する部分は、開放されている。第1インク排出路113Aは、開放された部分で、後述する流路スペーサー基板120の排出流路121と連通しており、圧力室111内のインクを排出するための流路を構成する。
【0055】
第2インク排出路113Bは、上下方向に延びて圧力室基板110を貫通しており、圧力室基板110の右端部で第1インク排出路113Aと連通して設けられている。
【0056】
第2インク排出路113Bは、圧力室基板110の上側に設けられたマニホールド102の排出液室と連通している。第2インク排出路113Bは、第1インク排出路113Aに排出されたインクを排出液室に排出するための流路を構成する。
【0057】
図7に示すように、流路スペーサー基板120には、上記の圧力室111と、排出流路121とが設けられている。排出流路121は、圧力室111に貯留されたインクが排出される流路であり、圧力室111から分岐して第1インク排出路113Aと連通している。
【0058】
また、排出流路121は、インク排出効率の観点から1つの圧力室111に2つ以上設けられることが好ましい。
【0059】
図8に示すように、ノズル基板130には、複数の吐出孔131が設けられている。複数の吐出孔131は、ノズル基板130を上下方向に貫通しており、複数の圧力室111のそれぞれに対応する位置にそれぞれ設けられている。ノズル基板130は、本発明の「吐出部」に対応する。
【0060】
次に、ノズル基板130の吐出孔131の配置位置について説明する。
図9および
図10は、圧力室111内における吐出孔131の配置の一例を説明するための図である。
【0061】
圧力室111は、インクが供給されて吐出孔131を介してインクを吐出しつつ、インクを排出流路121を介して排出するインクの流路領域を構成する。圧力室111は、本発明の「吐出流路部」に対応する。排出流路121は、本発明の「他流路部」に対応する。
【0062】
圧力室111では、排出流路121の方に液体が流れていくので、圧力室111の所定の領域によっては、インクの流れが悪くなるデッドスペースとなる領域が存在する。当該デッドスペースでは、インクの循環による攪拌効果が弱くなるので、当該デッドスペースに吐出孔131が配置された場合、吐出孔131において上記攪拌効果が得られず、ひいては吐出孔131における吐出不良となるおそれがある。
【0063】
そのため、本実施の形態では、吐出孔131は、圧力室111を分割した複数の領域のうち、インクの流路抵抗が最大となる第1領域以外の第2領域に配置されている。具体的には、吐出孔131は、複数の領域のうち、インクの流路抵抗が最小となる第2領域に配置されている。
【0064】
例えば、
図9に示すように、圧力室111に1つの排出流路121が設けられていたとする。流路抵抗は、排出流路121に基づいて算出可能である。具体的には、流路抵抗は、以下のハーゲンポアズイユの式を示す式(1)に基づいて算出可能である。
【0065】
R=8πηL/(SΦ)・・・(1)
【0066】
式(1)におけるRは流路抵抗[Pa・s/m3]であり、ηはインク粘度[Pa・s]である。また、Lはインクチャネルの長さ[m]であり、Sは流路断面積[m2]である。また、Φは等価流路断面積[m2]である。
【0067】
ここで、圧力室111を2つの領域A1,A2に分割する。領域A1は、排出流路121が配置された領域である。領域A2は、排出流路121が配置されていない領域である。領域A1と領域A2の境界線D1は、例えば圧力室111の中心点Cを通る縦方向に平行な線であり、排出流路121と交差しない線である。
【0068】
領域A1の流路抵抗は、排出流路121の寸法を式(1)に当てはめることで決定され、例えばR1とする。領域A2の流路抵抗は、排出流路121が存在しないので、流路断面積が0であること等に基づき、無限大と決定される。
【0069】
この場合、流路抵抗が最小となる領域は、流路抵抗がR1となる領域A1であるので、吐出孔131は、領域A1に配置される。
【0070】
また、圧力室111を分割する領域の数は、2以上の数であっても良い。例えば、
図10に示すように、圧力室111に4つの排出流路121A,121B,121C,121Dが設けられていたとする。
【0071】
排出流路121Aは、圧力室111の左辺の下部に設けられている。排出流路121Bは、圧力室111の下辺の左部に設けられている。排出流路121Cは、圧力室111の右辺の下部に設けられている。排出流路121Dは、圧力室111の上辺の左部に設けられている。
【0072】
この場合、例えば圧力室111を4つの領域B1,B2,B3,B4に分割する。圧力室111は、中心点Cを通る境界D1,D2によって分割されているとする。境界D1は、
図9と同様に縦方向に平行な線である。境界D2は、横方向に平行な線である。境界D1,D2は、各排出流路121A,121B,121C,121Dと交差しない。
【0073】
領域B1は、圧力室111の左下の領域である。領域B2は、圧力室111の右下の領域である。領域B3は、圧力室111の右上の領域である。領域B4は、圧力室111の左上の領域である。
【0074】
領域B1には、2つの排出流路121A,121Bが設けられている。領域B2には、1つの排出流路121Cが設けられている。領域B3には、排出流路が設けられていない。領域B4には、1つの排出流路121Dが設けられている。
【0075】
各排出流路121A,121B,121C,121Dの流路抵抗は同じであり、例えばR2であるとする。領域B1には、2つの排出流路121A,121Bが設けられているので、これらの合成抵抗は、2つの抵抗が並列に接続されているのと等しいので、1/(1/R2+1/R2)=R2/2となる。領域B2および領域B4には、1つの排出流路121C,121Dがそれぞれ設けられるので、各流路抵抗はR2となる。領域B3には、排出流路が設けられていないので、流路抵抗は無限大となる。
【0076】
この場合、流路抵抗が最小となるのは、流路抵抗がR2/2となる領域B1であるので、吐出孔131は、領域B1に配置される。
【0077】
このように、本実施の形態では、流路抵抗が大きくなるデッドスペースとなる領域を避けて吐出孔131を配置することができるので、吐出孔131付近において液体の循環による攪拌効果が弱まることを抑制することができる。
【0078】
次に、本実施の形態に係るインクジェットヘッド100(ヘッドチップ101)の製造方法について説明する。なお、以下の説明では、ノズル基板130における吐出孔131を製造する方法についてのみ説明することとし、それ以外の部分の製造については公知の方法と同様である。
【0079】
まず、ノズル基板130における圧力室111に対応する部分を複数の領域に分割する。ここで、複数の領域の各境界は、圧力室111の中心点を通ることが望ましい。このようにすることで、各領域を均等に分割することが可能となる。
【0080】
また、分割する領域の数は排出流路の数以上の数とすることが望ましい。分割領域の数が少ない、つまり各領域が比較的広いと、吐出孔131を配置可能な範囲が広がるため、その領域内であっても、排出流路に近い部分と、排出流路から離れた部分とで液体の流れに差が生じやすい。そして、排出流路から離れた部分に吐出孔131を配置すると、当該部分が、デッドスペースが存在する領域との境界に近い位置であるような場合、吐出孔131付近における液体の攪拌効果が弱まる可能性がある。
【0081】
そのため、排出流路の数に応じて分割する領域の数を増やす、つまり、各領域を狭くすることで、領域内で液体の流れに差が生じることを低減して、液体の攪拌効果の高い位置に吐出孔131を配置することが可能となる。
【0082】
また、領域の境界は、排出流路121と交差しない位置であることが好ましい。こうすることで、排出流路に基づく流路抵抗をどちらの領域に配分するかを決める手間が省けて各領域の流路抵抗を算出しやすくすることが可能となる。
【0083】
次に、圧力室111内の各領域の流路抵抗を算出して、流路抵抗が最小となる領域を決定する。なお、流路抵抗の算出方法については、上記の式(1)に限定されず、様々な方法を適用しても良い。また、領域内の排出流路の数で流路抵抗の大小を決定しても良い。
【0084】
そして、決定した領域に吐出孔131を形成する。こうすることで、圧力室111におけるデッドスペースが存在する領域を容易に回避することができる。
【0085】
以上のように構成された本実施の形態によれば、圧力室111におけるデッドスペースが存在する領域を避けて、吐出孔131を配置することができる。その結果、吐出孔131付近において液体の循環による攪拌効果が弱まることを抑制することができ、ひいては吐出孔131における吐出不良の発生を抑制することができる。
【0086】
また、流路抵抗が最小となる領域に吐出孔131を配置するので、吐出孔131付近における液体の循環による攪拌効果を高めることができ、ひいては吐出孔131における吐出不良の発生を抑制することができる。
【0087】
また、圧力室111内を分割した複数の領域の一つ、つまり、比較的広い範囲の領域内に吐出孔131を配置するので、インクの流れが変更される個所に吐出孔を設ける構成のような、吐出孔を設ける位置を限定する構成と比較して、製造誤差による影響をさほど受けることなく、吐出孔131を形成することができる。その結果、製造誤差に起因する吐出孔131付近におけるインクの攪拌効果のバラツキを抑制することができる。
【0088】
また、流路抵抗に基づいて吐出孔131の位置を設計段階で決定することができるので、インクジェットヘッド100の製造を簡易にすることができる。
【0089】
なお、上記実施の形態では、流路抵抗が最小となる領域に吐出孔131を配置していたが、本発明はこれに限定されず、流路抵抗が最大となる領域(第1領域)以外の領域(第2領域)である限り、どの領域であっても良い。ただし、吐出孔131付近のインクの攪拌効果の観点から、流路抵抗が最小となる領域であることが好ましい。
【0090】
また、上記実施の形態では、複数の領域の各境界が圧力室111の中心点を通っていたが、本発明はこれに限定されず、圧力室の中心点を通っていなくても良い。ただし、吐出孔を配置しやすくすることに基づいて各領域をある程度広くする観点から、複数の領域の境界が圧力室の中心点を通ることが好ましい。
【0091】
また、上記実施の形態では、インクジェットヘッド100がシアモードの構造を有していたが、本発明はこれに限定されず、例えばベンドモードの構造等、他の構造であっても良い。
【0092】
また、上記実施の形態では、圧力室が吐出流路部であったが、インクジェットヘッドが上記実施の形態以外の他の構造である場合、吐出孔が設けられる流路部を吐出流路部としても良い。
【0093】
その他、上記実施の形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。例えば、上記実施の形態で説明した各部の形状、サイズ、個数および材料はあくまで一例であり、適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 画像形成装置
10 給紙部
11 給紙トレー
12 媒体供給部
20 画像形成部
21 搬送部
22 受け渡しユニット
23 加熱部
24 ヘッドユニット
25 照射部
27 デリバリー部
30 排紙部
31 排紙トレー
100 インクジェットヘッド
101 ヘッドチップ
102 マニホールド
110 圧力室基板
111 圧力室
112 空気室
113 インク排出路
113A 第1インク排出路
113B 第2インク排出路
114 隔壁
120 流路スペーサー基板
121 排出流路
130 ノズル基板
131 吐出孔