(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】通信システム、受信機、歪み検出装置、方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 10/61 20130101AFI20241126BHJP
H04B 10/2507 20130101ALI20241126BHJP
H04J 14/06 20060101ALI20241126BHJP
H03H 21/00 20060101ALI20241126BHJP
H03H 17/02 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H04B10/61
H04B10/2507
H04J14/06
H03H21/00
H03H17/02 601Z
(21)【出願番号】P 2022558840
(86)(22)【出願日】2021-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2021016026
(87)【国際公開番号】W WO2022091452
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2020180884
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.公開の事実 ■発行日 令和2年8月3日 ■刊行物 Optics Express, Vol.28,Issue 16,pp.23478-23494 ■公開者 有川 学(Manabu Arikawa)、林 和則(Kazunori Hayashi)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度 総務省「新たな社会インフラを担う革新的光ネットワーク技術の研究開発(課題III)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】有川 学
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-141294(JP,A)
【文献】特開2019-047261(JP,A)
【文献】特開2019-041285(JP,A)
【文献】米国特許第09692521(US,B1)
【文献】FLUDGER, Chirs R. S. et al.,Transmitter Impairment Mitigation and Monitoring for High Baud-Rate, High Order Modulation Systems,ECOC 2016; 42nd European Conference on Optical Communication,IEEE,2016年12月05日,pp.256-258
【文献】RIOS-MULLER, Rafael et al.,Blind Receiver Skew Compensation and Estimation for Long-Haul Non-Dispersion Managed Systems Using Adaptive Equalizer,Journal of Lightwave Technology,IEEE,2014年12月04日,pp.1315-1318
【文献】DA SILVA, Edson Porto et al.,Widely Linear Equalization for IQ Imbalance and Skew Compensation in Optical Coherent Receivers,Journal of Lightwave Technology,IEEE,2016年06月07日,Volume: 34, Issue: 15,pp. 3577 - 3586
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/61
H04B 10/2507
H04J 14/06
H03H 21/00
H03H 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝送路を介して送信された信号をコヒーレント受信するコヒーレント受信回路と、
受信機において前記信号に生じる受信機内歪みを補償する第1のWL(Widely Linear)フィルタと、前記信号に含まれる歪みを補償する1以上のフィルタを含むフィルタ層と、前記信号を送信する送信機において前記信号に生じる送信機内歪みを補償する第2のWLフィルタとが縦列に接続されたフィルタ群と、
前記フィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、前記第1のWLフィルタ及び前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する係数更新手段と、
前記フィルタ係数の収束後、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて受信機内歪みを検出する第1の歪み検出手段と、
前記フィルタ係数の収束後、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて送信機内歪みを検出する第2の歪み
検出手段とを備える受信機。
【請求項2】
前記コヒーレント受信回路が受信する信号は、偏波多重信号であり、
前記コヒーレント受信回路は、第1の偏波のローカルオシレータ光に対する同相成分及び直交成分を示す信号と、第2の偏波のローカルオシレータ光に対する同相成分及び直交成分を示す信号とを出力する請求項1に記載の受信機。
【請求項3】
前記第1の歪み検出手段は、前記同相成分と前記直交成分との間の平均信号強度の不一致を示すIQインバランス、前記同相成分と前記直交成分との間の時間ずれを示すIQスキュー、及び前記同相成分と前記直交成分との間の直交ずれを示すIQ位相ずれの少なくとも1つを、前記受信機内歪みとして検出する請求項2に記載の受信機。
【請求項4】
前記第1の歪み検出手段は、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数を周波数領域の信号に変換する信号変換手段を含み、前記変換された周波数領域の信号に基づいて、前記IQインバランス、前記IQスキュー、及び前記IQ位相ずれの少なくとも1つを検出する請求項3に記載の受信機。
【請求項5】
前記第2の歪み検出手段は、前記同相成分と前記直交成分との間の平均信号強度の不一致を示すIQインバランス、前記同相成分と前記直交成分との間の時間ずれを示すIQスキュー、及び前記同相成分と前記直交成分との間の直交ずれを示すIQ位相ずれの少なくとも1つを、前記送信機内歪みとして検出する請求項2から4何れか1項に記載の受信機。
【請求項6】
前記第2の歪み検出手段は、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を周波数領域の信号に変換する信号変換手段を含み、前記変換された周波数領域の信号に基づいて、前記IQインバランス、前記IQスキュー、及び前記IQ位相ずれの少なくとも1つを検出する請求項5に記載の受信機。
【請求項7】
伝送路を介して信号を送信する送信機と、
請求項1から6何れか1項に記載の受信機とを備える通信システム。
【請求項8】
伝送路を介して送信された信号をコヒーレント受信する受信機において前記信号に生じる受信機内歪みを補償する第1のWL(Widely Linear)フィルタと、前記信号に含まれる歪みを補償する1以上のフィルタを含むフィルタ層と、前記信号を送信する送信機において前記信号に生じる送信機内歪みを補償する第2のWLフィルタとが縦列に接続されたフィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、前記第1のWLフィルタ及び前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する係数更新手段と、
前記フィルタ係数の収束後、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて受信機内歪みを検出する第1の歪み検出手段と、
前記フィルタ係数の収束後、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて送信機内歪みを検出する第2の歪み
検出手段とを備える歪み検出装置。
【請求項9】
伝送路を介して送信された信号をコヒーレント受信する受信機において前記信号に生じる受信機内歪みを補償する第1のWL(Widely Linear)フィルタと、前記信号に含まれる歪みを補償する1以上のフィルタを含むフィルタ層と、前記信号を送信する送信機において前記信号に生じる送信機内歪みを補償する第2のWLフィルタとが縦列に接続されたフィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、前記第1のWLフィルタ及び前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御し、
前記フィルタ係数の収束後、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて受信機内歪みを検出し、
前記フィルタ係数の収束後、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて送信機内歪みを検出する歪み検出方法。
【請求項10】
伝送路を介して送信された信号をコヒーレント受信する受信機において前記信号に生じる受信機内歪みを補償する第1のWL(Widely Linear)フィルタと、前記信号に含まれる歪みを補償する1以上のフィルタを含むフィルタ層と、前記信号を送信する送信機において前記信号に生じる送信機内歪みを補償する第2のWLフィルタとが縦列に接続されたフィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、前記第1のWLフィルタ及び前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御し、
前記フィルタ係数の収束後、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて受信機内歪みを検出し、
前記フィルタ係数の収束後、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて送信機内歪みを検出する処理をプロセッサに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、通信システム、受信機、歪み検出装置、歪み検出方法、及びコンピュータ可読媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信では、高スペクトル利用効率を実現するため、高次のQuadrature amplitude modulation(QAM)などの多値変調方式が採用されている。コヒーレント受信技術の導入以来、光ファイバ伝送路で蓄積する波長分散のデジタル信号処理による受信側での一括した補償など、柔軟な等化処理が可能となった。しかしながら、一般的に、高次の多値変調信号は歪みに脆弱であり、送受信機内のコンポーネントの不完全性等に起因する歪みが、高多値化を進める上での新たなボトルネックとなりつつある。
【0003】
上記問題に対処するためには、高精度な等化処理、又は事前のコンポーネントの高精度の校正が必要とされる。一般的に、歪みの高精度の校正を行うためには、実際に生じている歪みの高精度の検出が必要となる。受信機が高精度な等化処理を備えた場合であっても、生じている歪みの高精度の検出能力は、システム上脆弱な箇所、或いは異常な箇所を特定する手段を提供し、システムの安定化に貢献する。
【0004】
以下では、特に送受信機内で生じる歪みの検出に着目する。一般的なコヒーレント通信システムにおいて、送受信機内では、主に、同相(I)成分と直交(Q)成分との間の平均信号強度の不一致(IQインバランス)、IQ成分間の時間ずれ(IQスキュー)、及びIQ成分間の直交ずれ(IQ位相ずれ)が生じる。
【0005】
歪み検出の方法の一つとして、歪みの補償に使用される適応等化フィルタの収束後のフィルタ係数を用いて歪みを検出する方法が知られている。適応等化では、フィルタ出力が所望の性質に近づくように、フィルタ係数が逐次的に制御される。適応等化において、フィルタ係数は、フィルタ出力と所望の性質との差分の大きさを損失関数として、勾配降下法に基づき、損失関数を最小化するように、逐次的に制御される。
【0006】
理想的には、適切に制御が収束した後のフィルタは、歪みを補償するような応答となっている。別の言い方をすれば、収束後のフィルタ係数には、補償された歪みの情報が含まれている。このような、適応等化フィルタの収束後のフィルタ係数を用いた歪み検出手法を、送信機、又は受信機内の歪みへ適用した例が報告されている。
【0007】
関連技術として、非特許文献1は、送信機内歪みを補償するフィルタから送信機内歪みを検出することを開示する。
図12は、送信機内歪み補償と送信機内歪み検出を行うデジタル信号処理を示す。デジタル信号処理は、一般的な偏波多重コヒーレント通信システムにおいて使用されるフィルタを含む。フィルタは、受信機内歪み補償フィルタ501、波長分散補償フィルタ502、偏波変動補償(偏波分離と呼ばれることもある)フィルタ503、キャリア位相補償フィルタ504、及び送信機内歪み補償フィルタ505を含む。
【0008】
上記フィルタには、X及びYの2つの偏波の、それぞれローカルオシレータ光に対する同相(I)成分、及び直交(Q)成分の、計4つの実数の受信信号系列が入力される。受信機内歪み補償フィルタ501、波長分散補償フィルタ502、キャリア位相補償フィルタ504、及び送信機内歪み補償フィルタ505は、偏波ごとに受信機内歪み、波長分散、キャリア位相、及び送信機内歪みを補償する。一方、偏波変動補償フィルタ503は、2つの偏波を両方扱う。
【0009】
上記フィルタのうち、受信機内歪み補償フィルタ501、及び波長分散補償フィルタ502は、準静的なフィルタである。受信機内歪み補償フィルタ501、及び波長分散補償フィルタ502には、歪みの物理モデルなどに基づいて用意された係数が使用される。受信機内歪み補償フィルタ501、及び波長分散補償フィルタ502の係数は、シンボルごとの時間的粒度で適応的には制御されない。一方、偏波変動補償フィルタ503、及び送信機内歪み補償フィルタ505は、それぞれ係数更新部510及び520を使用して、各々の出力に基づいて係数が適応的に制御される。キャリア位相補償フィルタ504については、補償量は時間的に変化するものの、キャリア位相補償フィルタ504の係数は、パイロット信号を使用した方法などを用いて、別途算出される。
【0010】
図13は、偏波変動補償を行う適応フィルタを示す。偏波変動補償フィルタ503において、X及びY偏波それぞれのIQ成分は、複素数変換部601を用いて複素数信号に変換される。偏波変動補償フィルタ503は、複素数信号2入力2出力の複素数係数2×2Multiple-Input and Multiple-Output(MIMO)フィルタとして構成される。偏波変動補償フィルタ503は、例えば2×2のFinite impulse response(FIR)フィルタ602を含む。FIRフィルタ602が出力する複素数信号は、逆変換部603を用いて、X及びY偏波それぞれのIQ成分に変換される。
【0011】
係数更新部510は、各FIRフィルタ602の係数を更新する。フィルタ係数更新のアルゴリズムの例として、Constant modulus algorithm(CMA)や、Decision directed least mean square(DDLMS)がよく知られている。係数更新部510は、フィルタ出力と所望の性質との差分の大きさを損失関数として用いる。係数更新部510は、フィルタ出力が所望の性質に近づくように、確率的勾配降下法に基づき、損失関数を最小化するようにフィルタ係数を更新する。
【0012】
例えば、CMAでは、出力の振幅の所望の値との差分の大きさが損失関数として使用される。一般的なFIRフィルタのような線形フィルタであれば、この損失関数はフィルタ係数に関して微分可能であり、その勾配が計算できる。係数更新部510は、損失関数のフィルタ係数に関する勾配を用いて、損失関数を確率的に最小化する方向に係数を更新する。
【0013】
図14は、送信機内歪み補償フィルタの部分を示す。主要な送信機内歪みであるIQインバランス、IQスキュー、及びIQ位相ずれは、IQ成分のそれぞれに異なる効果をもたらす。このため、
図13に示されるような一般的な複素数信号入力複素数係数MIMOフィルタでは、IQインバランス、IQスキュー、及びIQ位相ずれを補償できない。非特許文献1では、送信機内歪み補償フィルタ505に、送信機内歪み補償のための適応MIMOフィルタが用いられる。送信機内歪み検出部550を用いて、送信機内歪み補償のための適応MIMOフィルタのフィルタ係数から送信機内歪みが検出される。
【0014】
図15は、送信機内歪み補償フィルタに使用される適応MIMOフィルタを示す。適応MIMOフィルタ610は、IQ成分それぞれを入力とし、それらを独立に扱う実信号2入力2出力の実係数2×2MIMOフィルタとして構成される。適応MIMOフィルタ610は、例えば2×2のFIRフィルタ611を含む。送信機内歪み補償フィルタ505は、X及びY偏波のそれぞれに対応して、2つの適応MIMOフィルタ610を有する。
【0015】
係数更新部520は、各FIRフィルタ611の係数を更新する。送信機内歪み補償フィルタ505における係数の適応制御は、偏波変動補償フィルタ503における係数の適応制御と同様でよい。送信機内歪み検出部550は、適応MIMOフィルタ610の係数から送信機内歪みを検出する。例えば、IQインバランスは、非特許文献1に記載されている。
【0016】
非特許文献1では、フィルタが受信機内歪み補償フィルタ501(
図12を参照)を含む。この受信機内歪み補償フィルタ501は、既知の歪みを補償するためのフィルタであり、適応的に係数が制御されるフィルタではない。仮に、この受信機内歪み補償フィルタ501の係数を一般的な適応制御を使用して更新したとする。受信機内歪み補償フィルタ501は一連のフィルタの最初の段に配置されているため、その出力にはまだ補償されていない歪みが多く残っている。このため、受信機内歪み補償フィルタ501の直接の出力に基づいて、フィルタの係数を適応制御することは困難である。受信機内歪みの適応的な補償と歪み検出には、別のアプローチが必要である。
【0017】
別の関連技術として、非特許文献2は、受信機内歪みを補償するフィルタから受信機内歪みを検出することを開示する。
図16は、受信機内歪み補償と受信機内歪み検出とを行うデジタル信号処理を示す。デジタル信号処理は、個別波長分散補償フィルタ701、Widely Linear(WL)偏波変動補償フィルタ702、及びキャリア位相補償フィルタ703を有する。個別波長分散補償フィルタ701は、波長分散を補償する。個別波長分散補償フィルタ701は、波長分散による歪みを補償する際に、IQ成分間で混合が生じないように、IQ成分ごとに独立して個別波長分散補償を行う。
【0018】
波長分散の補償後、WL偏波変動補償フィルタ702は、偏波変動補償と、受信機内歪み補償とを行う。WL偏波変動補償フィルタ702は、適応WL4×2MIMOフィルタを含む。
図17は、WL偏波変動補償フィルタ702に用いられるWL4×2MIMOフィルタを示す。WL4×2MIMOフィルタ620は、4×2=8個の複素係数フィルタ623を有する。4×2の複素係数フィルタは、4×2×2=16個の実係数フィルタとみなせる。
【0019】
WL MIMOフィルタ620には、非特許文献3に記載されるように、複素数信号とその複素共役とが入力される。X偏波のIQ成分、及びY偏波のIQ成分は、それぞれ複素数変換部621において、X偏波の複素数データ及びY偏波の複素数データに変換される。また、変換されたX偏波の複素数データ及びY偏波の複素数データは、それぞれ、複素共役変換部622においてX偏波の複素共役データ、及びY偏波の複素共役データに変換される。X偏波の複素数データ、Y偏波の複素数データ、X偏波の複素共役データ、及びY偏波の複素共役データは、WL MIMOフィルタ620の複素係数フィルタ623に入力される。複素係数フィルタ623が出力する複素数信号は、逆変換部624を用いて、X及びY偏波それぞれのIQ成分に変換される。
【0020】
なお、WL4×2MIMOフィルタは、4×4=16個の実係数フィルタを有する実信号入力実係数4×4MIMOフィルタと等価である。本開示において、複素数信号とその複素共役とを入力とする複素数係数MIMOフィルタと、それと等価な実信号入力実係数MIMOフィルタとをまとめてWL MIMOフィルタと呼ぶ。この文脈では、通常の複素数信号入力複素数係数MIMOフィルタは、Strictly linear(SL)MIMOフィルタと呼ばれる。
【0021】
係数更新部710は、WL偏波変動補償フィルタ702、つまりWL MIMOフィルタの各フィルタの係数を更新する。係数の適応制御は、前述した制御と同様である。受信機内歪み検出部750は、WL MIMOフィルタの係数から、受信機内歪みを検出する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【文献】Chris R. S. Fludger and Theo Kupfer, “Transmitter impairment mitigation and monitoring for high baud-rate, high order modulation systems”, ECOC 2016; 42nd European Conference on Optical Communication, 18-22 September, 2016
【文献】Rafael Rios-Muller, et. al., “Blind Receiver Skew Compensation and Estimation for Long-Haul Non-Dispersion Managed Systems Using Adaptive Equalizer”, Journal of Lightwave Technology (Volume: 33, Issue: 7, April 1, 1 2015), 04 December, 2014
【文献】Edson Porto da Silva, et. al., “Widely Linear Equalization for IQ Imbalance and Skew Compensation in Optical Coherent Receivers”, Journal of Lightwave Technology (Volume: 34, Issue: 15, Aug.1, 1 2016), 07 June 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上記したように、送信機内歪み及び受信機内歪みを、それぞれ適応フィルタを用いて補償し、適応フィルタの係数から歪みを検出する方法が知られている。しかしながら、一般的に、送信機内の歪み、及び受信機内の歪みは同時に生じる。このことは、関連技術における歪み検出の方法の適用を難しくする。前述のように、
図12では、受信機内歪み補償フィルタ501の直後では、フィルタ出力に他の歪みが残っているため、受信機内歪み補償フィルタ501の直接の出力を基にしたフィルタの適応制御が難しい。同様に、
図16の場合では、仮にキャリア位相補償フィルタ703の後段に
図12のように送信機内歪み補償フィルタ505が配置されたとしても、WL偏波変動補償フィルタ702の直後では送信機内歪みが補償されてない。このため、WL偏波変動補償フィルタの係数の適応制御の精度は劣化する。
【0024】
非特許文献1において、仮に、受信機において受信機内歪みが高精度に校正されていれば、送信機内歪み検出部550は、送信機内歪み補償フィルタ505から送信機内歪みを精度よく検出できる。また、非特許文献2において、仮に、送信機において送信機内歪みが高精度に校正されていれば、受信機内歪み検出部750は、WL偏波変動補償フィルタ702から受信機内歪みを精度よく検出できる。しかしながら、あらかじめ高精度に校正された送信機又は受信機を用意することは、歪み検出にあたって大きなコストの増加を招き、現実的ではない。
【0025】
本開示は、上記事情に鑑み、コストを増大させずに、送信機内の歪み、及び受信機内の歪みを精度よく検出することができる通信システム、受信機、歪み検出装置、歪み検出方法、及びコンピュータ可読媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記目的を達成するために、本開示は、第1の態様として、伝送路を介して送信された信号をコヒーレント受信するコヒーレント受信回路と、受信機において前記信号に生じる受信機内歪みを補償する第1のWLフィルタと、前記信号に含まれる歪みを補償する1以上のフィルタを含むフィルタ層と、前記信号を送信する送信機において前記信号に生じる送信機内歪みを補償する第2のWLフィルタとが縦列に接続されたフィルタ群と、前記フィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、前記第1のWLフィルタ及び前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する係数更新手段と、前記フィルタ係数の収束後、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて受信機内歪みを検出する第1の歪み検出手段と、前記フィルタ係数の収束後、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて送信機内歪みを検出する第2の歪み推定手段とを備える受信機を提供する。
【0027】
本開示は、第2の態様として、伝送路を介して信号を送信する送信機と、前記送信された信号を受信する受信機とを備え、前記受信機は、前記信号をコヒーレント受信するコヒーレント受信回路と、前記受信機において前記信号に生じる受信機内歪みを補償する第1のWLフィルタと、前記信号に含まれる歪みを補償する1以上のフィルタを含むフィルタ層と、前記送信機において前記信号に生じる送信機内歪みを補償する第2のWLフィルタとが縦列に接続されたフィルタ群と、前記フィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、前記第1のWLフィルタ及び前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する係数更新手段と、前記フィルタ係数の収束後、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて受信機内歪みを検出する第1の歪み検出手段と、前記フィルタ係数の収束後、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて送信機内歪みを検出する第2の歪み推定手段とを備える、通信システムを提供する。
【0028】
本開示は、第3の態様として、伝送路を介して送信された信号をコヒーレント受信する受信機において前記信号に生じる受信機内歪みを補償する第1のWLフィルタと、前記信号に含まれる歪みを補償する1以上のフィルタを含むフィルタ層と、前記信号を送信する送信機において前記信号に生じる送信機内歪みを補償する第2のWLフィルタとが縦列に接続されたフィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、前記第1のWLフィルタ及び前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する係数更新手段と、前記フィルタ係数の収束後、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて受信機内歪みを検出する第1の歪み検出手段と、前記フィルタ係数の収束後、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて送信機内歪みを検出する第2の歪み推定手段とを備える歪み検出装置を提供する。
【0029】
本開示は、第4の態様として、伝送路を介して送信された信号をコヒーレント受信する受信機において前記信号に生じる受信機内歪みを補償する第1のWLフィルタと、前記信号に含まれる歪みを補償する1以上のフィルタを含むフィルタ層と、前記信号を送信する送信機において前記信号に生じる送信機内歪みを補償する第2のWLフィルタとが縦列に接続されたフィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、前記第1のWLフィルタ及び前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御し、前記フィルタ係数の収束後、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて受信機内歪みを検出し、前記フィルタ係数の収束後、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて送信機内歪みを検出する歪み検出方法を提供する。
【0030】
本開示は、第5の態様として、伝送路を介して送信された信号をコヒーレント受信する受信機において前記信号に生じる受信機内歪みを補償する第1のWLフィルタと、前記信号に含まれる歪みを補償する1以上のフィルタを含むフィルタ層と、前記信号を送信する送信機において前記信号に生じる送信機内歪みを補償する第2のWLフィルタとが縦列に接続されたフィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、前記第1のWLフィルタ及び前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御し、前記フィルタ係数の収束後、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて受信機内歪みを検出し、前記フィルタ係数の収束後、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて送信機内歪みを検出する処理をプロセッサに実行させるためのプログラムを格納するコンピュータ可読媒体を提供する。
【発明の効果】
【0031】
本開示に係る通信システム、受信機、歪み検出装置、歪み検出方法、及びコンピュータ可読媒体は、コストを増大させずに、送信機内の歪み、及び受信機内の歪みを精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1A】本開示に係る通信システムを概略的に示すブロック図。
【
図2】本開示の一実施形態に係る信号伝送システムを示すブロック図。
【
図3】復調と歪み検出を行うデジタル信号処理の基本構成を示すブロック図。
【
図4】デジタル信号処理の具体例を示すブロック図。
【
図5】多層フィルタ構成におけるフィルタ係数の係数更新量の算出を示すブロック図。
【
図6】受信機内歪み検出部の構成例を示すブロック図。
【
図7】送信機内歪み検出部の構成例を示すブロック図。
【
図8】光受信機における歪み補償と歪み検出の動作手順を示すフローチャート。
【
図9A】受信機内歪みについてのシミュレーション結果を示すグラフ。
【
図9B】受信機内歪みについてのシミュレーション結果を示すグラフ。
【
図9C】受信機内歪みについてのシミュレーション結果を示すグラフ。
【
図10A】送信機内歪みについてのシミュレーション結果を示すグラフ。
【
図10B】送信機内歪みについてのシミュレーション結果を示すグラフ。
【
図10C】送信機内歪みについてのシミュレーション結果を示すグラフ。
【
図11】変形例において使用される光受信機を示すブロック図。
【
図12】送信機内歪み補償と送信機内歪み検出を行うデジタル信号処理を示すブロック図。
【
図13】偏波変動補償を行う適応フィルタを示すブロック図。
【
図14】送信機内歪み補償フィルタの部分を示すブロック図。
【
図15】送信機内歪み補償フィルタに使用される適応MIMOフィルタを示すブロック図。
【
図16】受信機内歪み補償と受信機内歪み検出とを行うデジタル信号処理を示すブロック図。
【
図17】WL4×2MIMOフィルタを示すブロック図。
【
図18】コンピュータ装置の構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本開示の実施の形態の説明に先立って、本開示の概要を説明する。
図1Aは、本開示に係る通信システムを概略的に示す。通信システム10は、送信機11、及び受信機15を有する。送信機11と受信機15とは、伝送路13を介して相互に接続されている。送信機11は、伝送路13を介して信号を送信する。受信機15は、送信機11から送信された信号を、伝送路13を介して受信する。
【0034】
図1Bは、受信機15の概略的な構成を示す。受信機15は、コヒーレント受信回路21、フィルタ群22、係数更新手段26、第1の歪み検出手段27、及び第2の歪み検出手段28を有する。コヒーレント受信回路21は、伝送路13(
図1Aを参照)を介して送信された信号をコヒーレント受信する。コヒーレント受信回路21は、コヒーレント受信した信号をフィルタ群22に出力する。
【0035】
フィルタ群22は、縦列に接続された、第1のWLフィルタ23、フィルタ層24、第2のWLフィルタを含む。第1のWLフィルタ23は、受信機15において信号に生じる受信機内歪みを補償する。フィルタ層24は、信号に含まれる歪みを補償する1以上のフィルタを含む。第2のWLフィルタ25は、送信機11(
図1Aを参照)において信号に生じる送信機内歪みを補償する。
【0036】
係数更新手段26は、フィルタ群22から出力される出力信号と、その所定値(所望の状態)との差分に基づいて、第1のWLフィルタ23及び第2のWLフィルタ25のフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する。第1の歪み検出手段27は、フィルタ係数の収束後、第1のWLフィルタ23のフィルタ係数に基づいて受信機内歪みを検出する。第2の歪み検出手段28は、フィルタ係数の収束後、第2のWLフィルタ25のフィルタ係数に基づいて送信機内歪みを検出する。
【0037】
本開示では、係数更新手段26は、フィルタ群22の最終段である第2のWLフィルタ25が出力する出力信号と、所望状態との差分に基づいて、誤差逆伝播法を用いて、第1のWLフィルタ23及び第2のWLフィルタ25のフィルタ係数を適応的に制御する。フィルタ係数の適応制御が収束した状態において、第1のWLフィルタ23のフィルタ係数は、受信機内歪みを補償できるフィルタ係数に制御され、第2のWLフィルタ25のフィルタ係数は、送信機内歪みを補償できるフィルタ係数に制御される。このため、第1の歪み検出手段27は、適応制御された第1のWLフィルタ23のフィルタ係数から、受信機内歪みを検出できる。また、第2の歪み検出手段28は、適応制御された第2のWLフィルタ25のフィルタ係数から、送信機内歪みを検出できる。本開示では、送信機及び受信機の一方において、歪みが高精度に校正されていなくても、受信機内歪み及び送信機内歪みを検出できる。また、本開示は、あらかじめ高精度に校正された送信機又は受信機を用意する必要がないため、コストを増大させずに、受信機内歪み及び送信機内歪みを高精度に検出することができる。
【0038】
以下、本開示の実施の形態を詳細に説明する。
図2は、本開示の一実施形態に係る信号伝送システムを示す。本実施形態において、信号伝送システムは、偏波多重QAM方式が採用され、コヒーレント受信を行う光ファイバ通信システムであることを想定する。光ファイバ通信システム100は、光送信機110、伝送路130、及び光受信機150を有する。光ファイバ通信システム100は、例えば光海底ケーブルシステムを構成する。光ファイバ通信システム100は、
図1Aに示される通信システム10に対応する。光送信機110は、
図1Aに示される送信機11に対応する。伝送路130は、
図1Aに示される伝送路13に対応する。光受信機150は、
図1Aに示される受信機15に対応する。
【0039】
光送信機110は、複数の送信データを、偏波多重光信号に変換する。光送信機110は、符号化部111、予等化部112、DAC(Digital analog converter)113、光変調器114、及びLD(Laser diode)115を有する。符号化部111は、データを符号化する。符号化部111は、例えば、X偏波(第1の偏波)及びY偏波(第2の偏波)のin-phase(I)成分、及びquadrature(Q)成分の4系列の信号を出力する。
【0040】
予等化部112は、符号化された4系列の信号に対し、光送信機内のデバイスの歪みなどをあらかじめ補償する予等化を実施する。DAC113は、予等化が実施された4系列の信号を、それぞれアナログ電気信号に変換する。
【0041】
LD115は、CW(Continuous wave)光を出力する。光変調器114は、LD115から出力されたCW光を、DAC113から出力される4系列の信号に応じて変調し、偏波多重された光信号を生成する。光変調器114は、例えば偏波多重QAM信号を生成する。光変調器114は、伝送路130に偏波多重された光信号を送出する。
【0042】
伝送路130は、光送信機110から出力された偏波多重光信号を光受信機150に伝送する。伝送路130は、光ファイバ132、及び光増幅器133を有する。光ファイバ132は、光送信機110から送信された光信号を導波する。光増幅器133は、光信号を増幅し、光ファイバ132における伝搬損失を補償する。光増幅器は133、例えば、エルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA:erbium doped fiber amplifier)として構成される。伝送路130は、複数の光増幅器133を含み得る。
【0043】
光受信機150は、LD151、コヒーレント受信機152、ADC(Analog digital converter)153、復調部154、復号部155、及び歪み推定部156を有する。光受信機150において、復調部(復調器)154、復号部(復号器)155、及び歪み推定部156など回路は、例えばDSP(digital signal processor)などのデバイスを用いて構成され得る。
【0044】
LD151は、ローカルオシレータ光となるCW光を出力する。コヒーレント受信機152は、偏波ダイバーシティ型コヒーレント受信機として構成される。コヒーレント受信機152は、LD151から出力されるCW光を用いて、光ファイバ132を伝送された光信号に対してコヒーレント検波を実施する。コヒーレント受信機152は、コヒーレント検波されたX偏波及びY偏波のI成分及びQ成分に相当する4系列の受信信号(電気信号)を出力する。コヒーレント受信機152は、
図1Bに示されるコヒーレント受信回路21に対応する。
【0045】
ADC153は、コヒーレント受信機152から出力される受信信号をサンプリングし、受信信号をデジタル領域の信号に変換する。復調部154は、ADC153でサンプリングされた4系列の受信信号に対してデジタル信号処理を行い、受信信号を復調する。復号部155は、復調された信号に対して復号を行い、送信されたデータを復元する。歪み推定部156は、受信機内歪み、及び送信機内歪みを検出する。
【0046】
図3は、復調と歪み検出を行うデジタル信号処理の基本構成を示す。デジタル信号処理は、第1のWLフィルタ161、フィルタ層162、第2のWLフィルタ163、損失関数計算部164、係数更新部165、受信機内歪み検出部166、及び送信機内歪み検出部167を有する。第1のWLフィルタ161、フィルタ層162、第2のWLフィルタ163、損失関数計算部164、係数更新部165は、
図2に示される復調部154に含まれ得る。受信機内歪み検出部166及び送信機内歪み検出部167は、歪み推定部156に含まれる。
【0047】
デジタル信号処理において、第1のWLフィルタ161、フィルタ層162、及び第2のWLフィルタ163は、入力信号に対して縦列に接続されて配置される。フィルタ層162は、入力信号に含まれる歪みを補償する1以上のフィルタを含む。第1のWLフィルタ161、フィルタ層162、及び第2のWLフィルタには、ADC153(
図2を参照)から出力される、各偏波のIQ成分に相当する4系統の受信信号(XI、XQ、YI、及びYQ)が入力される。第1のWLフィルタ161は、フィルタ層162、及び第2のWLフィルタ163は、
図1Bに示されるフィルタ群22に含まれる第1のWLフィルタ23、フィルタ層24、及び第2のWLフィルタ25に対応する。
【0048】
損失関数計算部164は、最終段のフィルタである第2のWLフィルタ163の出力信号と、所望状態との差分に基づいて、損失関数を計算する。係数更新部165は、損失関数に基づいて、誤差逆伝播法により、少なくとも第1のWLフィルタ161、及び第2のWLフィルタ163の係数を適応制御する。係数更新部165は、
図1Bに示される係数更新手段26に対応する。
【0049】
受信機内歪み検出部166は、係数の適応制御の収束後、第1のWLフィルタ161のフィルタ係数から受信機内歪みを検出する。送信機内歪み検出部167は、係数の適応制御の収束後、第2のWLフィルタ163のフィルタ係数から送信機内歪みを検出する。受信機内歪み検出部166は、
図1Bに示される第1の歪み検出手段27に対応する。送信機内歪み検出部167は、
図1Bに示される第2の歪み検出手段28に対応する。
【0050】
なお、受信機内歪み検出部166及び送信機内歪み検出部167を含む歪み推定部156(
図2を参照)の機能は、Personal Computer(PC)などのコンピュータ装置を用いて実現されてもよい。例えば、復調部154はPCと接続するためのインタフェースを有しており、歪み推定部156として機能するPCは、インタフェースを通じて、第1のWLフィルタ161及び第2のWLフィルタ163のフィルタ係数などの情報を取得してもよい。
【0051】
図4は、デジタル信号処理の具体例を示す。デジタル信号処理は、受信機内歪み補償フィルタ171、波長分散補償フィルタ172、偏波変動補償フィルタ173、キャリア位相補償フィルタ174、送信機内歪み補償フィルタ175、損失関数計算部176、係数更新部177、受信機内歪み検出部178、及び送信機内歪み検出部179を有する。
【0052】
図4において、受信機内歪み補償フィルタ171は、
図3に示される第1のWLフィルタ161に対応する。波長分散補償フィルタ172、偏波変動補償フィルタ173、及びキャリア位相補償フィルタ174は、
図3に示されるフィルタ層162に含まれるフィルタに対応する。送信機内歪み補償フィルタ175は、
図3に示される第2のWLフィルタ163に対応する。損失関数計算部176及び係数更新部177は、それぞれ
図3に示される損失関数計算部164及び係数更新部165に対応する。受信機内歪み検出部178及び送信機内歪み検出部179は、それぞれ
図3に示される受信機内歪み検出部166及び送信機内歪み検出部167に対応する。
【0053】
光ファイバ通信システムで生じる、波長分散、偏波変動/偏波モード分散、周波数/位相オフセットの効果は、全て複素(MIMO)フィルタで表すことができ、これらは可換である。すなわち、これらを補償する機能ブロックは、SL(MIMO)フィルタで実現され、ブロック間の順序を気にする必要がない。しかしながら、IQスキュー、またそれを補償するWL(MIMO)フィルタは、一般にはこれらと可換でない。したがって、IQスキューを含めてブロックごとに歪みを補償する場合には、その順序が重要となる。
【0054】
光ファイバ通信システムを考えると、歪みは、(1)送信機における歪み、(2)光ファイバ中の現象(波長分散、偏波変動/偏波モード分散)、(3)周波数オフセット、(4)受信機における歪み、といった順序で生じる。ここで、(2)と(3)の間は、光ファイバ中の非線形効果を無視すれば、可換である。本開示では、歪みが生じる順序と可換性を考慮し、受信機内歪み補償、波長分散補償、偏波変動補償、キャリア位相補償、及び送信機内歪み補償を、この順で行うフィルタが用いられる。
【0055】
受信機内歪み補償フィルタ171は、光受信機150(
図2を参照)内で生じる信号歪みを補償する。波長分散補償フィルタ172は、光ファイバ伝送中に、波長分散に起因して生じる信号歪みを補償する。偏波変動補償フィルタ173は、光ファイバ伝送中に、偏波状態変動及び偏波モードの分散に起因して生じる信号歪みを補償する。キャリア位相補償フィルタ174は、送信光信号のキャリアと受信側のローカルオシレータ光との間の周波数オフセット及び位相オフセットに起因して生じる信号歪みを補償する。送信機内歪み補償フィルタ175は、光送信機110内で生じる信号歪みを補償する。
【0056】
損失関数計算部176は、上記した一連のフィルタの最終段である送信機内歪み補償フィルタ175の出力と所望状態との差分を損失関数として計算する。係数更新部177は、各フィルタの係数を、損失関数を最小化するように更新する。ここで、
図12及び
図16に示される関連技術では、適応等化されるフィルタの係数は、そのフィルタの出力に基づいて更新される。これに対し、本開示では、多層に配置されたフィルタの最終段の出力に基づいて、前段のフィルタを含む各段のフィルタの係数が更新される。受信機内歪み検出部178は、受信機内歪み補償フィルタ171から受信機内歪みを検出し、送信機内歪み検出部179は、送信機内歪み補償フィルタ175から送信機内歪みを検出する。
【0057】
受信機内歪み補償フィルタ171、波長分散補償フィルタ172、偏波変動補償フィルタ173、キャリア位相補償フィルタ174、送信機内歪み補償フィルタ175には、補償する歪みの特徴を考慮した構成のフィルタが選択される。ここでは、各フィルタにFIRフィルタが用いられるとする。
【0058】
受信機内歪み補償フィルタ171及び送信機内歪み補償フィルタ175は、WLフィルタを用いて構成されており、原理的には偏波間の混合を考慮しなくともよい。このため、受信機内歪み補償フィルタ171及び送信機内歪み補償フィルタ175は、偏波ごとに配置された、2つのWL 2×1 FIRとして構成されるものとする。受信機内歪み補償フィルタ171及び送信機内歪み補償フィルタ175において、各FIRフィルタの係数は適応的に制御される。
【0059】
波長分散補償フィルタ172は、偏波ごとに配置された2つのSLでMIMOなしの(1×1)FIRフィルタとして構成される。波長分散補償フィルタ172において、各FIRフィルタの係数は固定係数として取り扱われる。偏波変動補償フィルタ173は、2×2FIRフィルタとして構成される。偏波変動補償フィルタ173において、各FIRフィルタの係数は適応的に制御される。
【0060】
キャリア位相補償フィルタ174は、偏波ごとに配置された、2つのSL 1×1 1タップFIRフィルタとして構成される。キャリア位相補償フィルタ174が補償する位相は、最終段のフィルタである送信機内歪み補償フィルタ175の出力に基づいて、図示しない方法で別途算出される。補償する位相の算出には、一般的なM乗法や、仮判定を用いたデジタルPhase locked loop(PLL)を用いることができる。キャリア位相補償フィルタ以外の、それぞれのFIRフィルタのタップ数は、補償される歪みに応じて個別に選ばれる。
【0061】
係数更新部177は、確率的勾配降下法により、最終段のフィルタ出力に基づいて算出される損失関数を最小化するように各フィルタの係数を更新する。各フィルタの係数の更新には、損失関数の、それぞれのフィルタ係数に関する勾配が必要となる。フィルタ係数に関する勾配は、以下に説明するように、誤差逆伝播によって計算できる。
【0062】
まず、L(Lは3以上の整数)段のフィルタが縦列に接続されていることを考える。
図4の例では、L=5である。時刻k(kは整数)のl(1≦l≦L)段目のフィルタ出力(出力ベクトル)をu
i
[l][k]とし、l段目のフィルタ入力(入力ベクトル)をu
i
[l-1][k]とする。i=1,2は、それぞれの偏波を表す。以下の説明は、iの値を、2×モード数まで拡張することで、空間多重の場合などにも容易に拡張できる。入力ベクトルの長さをM
in
[l]とし、出力ベクトルの長さをM
out
[l]とした場合、入力ベクトル及び出力ベクトルは下記式1及び2で表される。
【数1】
【数2】
上記式において、「T」は転置を表す。
【0063】
l段目のフィルタがSL MIMOフィルタの場合(1×1の場合も含む)、M
[l]タップのFIRフィルタ係数(係数ベクトル)h
ij
[l]は、下記式3で表されるとする。
【数3】
l段目のフィルタの入力(入力ベクトル)を
【数4】
とすると、出力サンプルは、下記式5で表される。
【数5】
ここで、「
+」はエルミート共役を表す。
【0064】
上記式5から、下記式6が得られる。
【数6】
「*」は複素共役を表し、H
ij
[l]は、下記式7で表される。
【数7】
式6を変形すると、下記式8が得られる。
【数8】
式8において、U
j
[l-1]は、下記式9で表される。
【数9】
また、M
[l]は、下記式10で表される。
【数10】
【0065】
l段目のフィルタがWL MIMOフィルタの場合(2×1の場合も含む)、式3で表されるh
ij
[l]と、下記式11で表されるh
*ij
[l]がフィルタ係数(係数ベクトル)となる。
【数11】
出力サンプルは、下記式12で表される。
【数12】
上記と同様に、H
*ij
[l]を
【数13】
とすると、式12は下記式14に変形できる。
【数14】
【0066】
初段(l=1)のフィルタの入力(入力ベクトル)を、
【数15】
とする。最終段であるL段目のフィルタ出力ではM
out
[L]=1であり、
【数16】
であるとする。y
i[k]は、x
i[k]から前述の式を用いて算出される。損失関数φは、最終段のフィルタ出力、すなわちy
i[k]から構築される。損失関数は、CMA又はDDLMSなどの方法を用いて構築できる。例えば、損失関数の生成にCMAが用いられる場合、下記式17で表される、フィルタ出力の振幅の所望値rとの間の誤差の大きさが損失関数として用いられる。
【数17】
それぞれのフィルタ係数は、上記損失関数を最小化するように、確率的勾配降下法を用いて更新される。
【0067】
本実施形態において、フィルタ係数は複素数値をとる。従って、Wirtingerの微分の方法を考えるのがよい。損失関数φを最小化するようにフィルタ係数ξ
*を更新するためには、
【数18】
とすればよい。上記式18において、αは更新の大きさを制御するステップサイズである。本実施形態において考える、縦列に接続された多層のフィルタは、前述の式のように全体が微分可能な構成である。このため、誤差逆伝播の方法を用いて、それぞれのフィルタ係数に関する勾配を計算でき、従って、フィルタ係数は、効率的勾配降下法で更新可能となる。
【0068】
Wirtingerの微分の方法により、ある複素変数zと、その複素共役z
*とは、独立なものと扱われて計算される。フィルタ最終段の出力について、前述のCMAの損失関数が用いられる場合、勾配は、
【数19】
【数20】
【数21】
である。これが、損失関数の最終段のL段目のフィルタ出力に関する勾配となる。
【0069】
誤差逆伝播を用いて、l段目のフィルタ出力に関する損失関数の勾配から、損失関数のl段目のフィルタ係数、及びフィルタ入力に関する勾配が以下のように計算できる。l段目のフィルタがSL MIMOフィルタの場合、微分を計算すると、微分は、
【数22】
【数23】
【数24】
となる。l段目のフィルタがWL MIMOフィルタの場合、微分を計算すると、微分は、
【数25】
【数26】
【数27】
【数28】
となる。
【0070】
上記した式を用いて、l段目のフィルタの出力に関する損失関数の勾配から、誤差逆伝播によって、損失関数の、l段目のフィルタ係数、及びフィルタ入力に関する勾配が計算される。l段目のフィルタ係数を適応的に制御する場合は、式18に従って係数が更新される。l段目のフィルタ係数を固定的に扱う場合は、l段目のフィルタではフィルタ入力に関する勾配を計算すればよい。このような処理を、最終段のL段目から繰り返すことで、初段である1段目のフィルタまでの全ての係数に関して、損失関数の勾配が計算され、フィルタ係数の更新量が算出される。
【0071】
図5は、多層フィルタ構成におけるフィルタ係数の係数更新量の算出を示す。係数更新部177は、勾配導出部191-195と、係数更新量計算部201、203、及び205とを含む。勾配導出部191は、1段目のフィルタである受信機内歪み補償フィルタ171(
図4を参照)に対応して配置される。勾配導出部192は、2段目のフィルタである波長分散補償フィルタ172に対応して配置される。勾配導出部193は、3段目のフィルタである偏波変動補償フィルタ173に対応して配置される。勾配導出部194は、4段目のフィルタであるキャリア位相補償フィルタ174に対応して配置される。勾配導出部195は、5段目のフィルタである送信機内歪み補償フィルタ175に対応して配置される。
【0072】
勾配導出部195は、損失関数φ(yi,yi
*)の5段目のフィルタである送信機内歪み補償フィルタ175の出力に関する勾配を計算する。勾配導出部195は、計算した損失関数の出力に関する勾配から、損失関数の、送信機内歪み補償フィルタ175の入力であるui
[4]に関する勾配を計算する。また、勾配導出部195は、損失関数の出力に関する勾配から、損失関数の、送信機内歪み補償フィルタ175のフィルタ係数hi
[5]*、h*i
[5]*に関する勾配を計算する。係数更新量計算部205は、損失関数のフィルタ係数に関する勾配に基づいて、送信機内歪み補償フィルタ175のフィルタ係数の更新量を計算する。
【0073】
勾配導出部194は、勾配導出部195から、勾配導出部195で計算された、損失関数の5段目のフィルタの入力ui
[4]に関する勾配を取得する。5段目のフィルタの入力ui
[4]は、4段目のフィルタであるキャリア位相補償フィルタ174の出力ui
[4]と等しい。勾配導出部194は、損失関数の出力ui
[4]に関する勾配から、4段目のフィルタであるキャリア位相補償フィルタ174の入力ui
[3]に関する勾配を計算する。
【0074】
勾配導出部193は、勾配導出部194から、勾配導出部194で計算された、損失関数の4段目のフィルタの入力ui
[3]に関する勾配を取得する。4段目のフィルタの入力ui
[3]は、3段目のフィルタである偏波変動補償フィルタ173の出力ui
[3]と等しい。勾配導出部193は、損失関数の出力ui
[3]に関する勾配から、3段目のフィルタであるキャリア位相補償フィルタ174の入力ui
[2]に関する勾配を計算する。また、勾配導出部193は、損失関数の出力に関する勾配から、損失関数の、偏波変動補償フィルタ173のフィルタ係数hij
[3]*に関する勾配を計算する。係数更新量計算部203は、損失関数のフィルタ係数に関する勾配に基づいて、偏波変動補償フィルタ173のフィルタ係数の更新量を計算する。
【0075】
勾配導出部192は、勾配導出部193から、勾配導出部193で計算された、損失関数の3段目のフィルタの入力ui
[2]に関する勾配を取得する。3段目のフィルタの入力ui
[2]は、2段目のフィルタである波長分散補償フィルタ172の出力ui
[2]と等しい。勾配導出部192は、損失関数の出力ui
[2]に関する勾配から、2段目のフィルタである波長分散補償フィルタ172の入力ui
[1]に関する勾配を計算する。
【0076】
勾配導出部191は、勾配導出部192から、勾配導出部192で計算された、損失関数の2段目のフィルタの入力ui
[1]に関する勾配を取得する。2段目のフィルタの入力ui
[1]は、1段目のフィルタである受信機内歪み補償フィルタ171の出力ui
[1]と等しい。勾配導出部191は、損失関数の出力ui
[1]に関する勾配から、1段目のフィルタである受信機内歪み補償フィルタ171の入力ui
[0]に関する勾配を計算する。また、勾配導出部191は、損失関数の出力ui
[1]に関する勾配から、損失関数の、受信機内歪み補償フィルタ171のフィルタ係数hi
[1]*、h*i
[1]*に関する勾配を計算する。係数更新量計算部201は、損失関数のフィルタ係数に関する勾配に基づいて、受信機内歪み補償フィルタ171のフィルタ係数の更新量を計算する。
【0077】
なお、2段目のフィルタである波長分散補償フィルタ172のフィルタ係数は、補償される蓄積波長分散量Dから、下記式29を用いて決定される。
【数29】
上記式29において、λは光信号の波長を示し、cは光速を示す。4段目のフィルタであるキャリア位相補償フィルタ174については、係数は、下記式30を用いて決定される。
【数30】
式30において、θ
i[k]は、前述のように、最終段のフィルタ出力に基づいて決定される。
【0078】
以上のように、適応的に制御される受信機内歪み補償フィルタ171、偏波変動補償フィルタ173、及び送信機内歪み補償フィルタ175の係数を、最終段のフィルタの出力を所望の状態に近づけるように更新することが可能となる。最終段のフィルタの出力に基づくこれらフィルタの適応制御は、「Adaptive equalization of transmitter and receiver IQ skew by multi-layer linear and widely linear filters with deep unfolding(Vol. 28, No. 16 / 3 August 2020 / Optics Express 23478)」に記載されている。
【0079】
係数の適応制御の収束後の第1のWLフィルタ161(
図3を参照。
図4における受信機内歪み補償フィルタ171に対応)は、受信機内の歪みの情報を含んでいる。また、係数の適応制御の収束後の第2のWLフィルタ163(
図4における送信機内歪み補償フィルタ175に対応)は、送信機内の歪みの情報を含んである。ある意味では、これらフィルタの係数は、理想的には歪みの逆応答を示す。
【0080】
以下では、説明簡略化のため、送信機及び受信機内でそれぞれ生じるIQインバランス、IQスキュー、及びIQ位相ずれについて、フィルタ係数から歪みの情報を抽出する例を説明する。IQインバランス、IQスキュー、及びIQ位相ずれは、周波数依存性を有していないものとする。
【0081】
まず、偏波ごとの複素数信号とその複素共役とを入力とした、WL 2×1フィルタを考える。入力する複素数信号をx(t)、出力をy(t)とし、WL 2×1フィルタのインパルス応答をh(t)、h
*(t)とする。フィルタの入出力関係は、下記式31で表される。
【数31】
ここで、「★」は畳み込み積分を表す。
【0082】
一方、このWL 2×1フィルタと等価となる、IQ成分を入力とした実信号入力実係数2×2フィルタにおける入出力関係は、下記式32で表される。
【数32】
ここで、例えば、
【数33】
である。周波数領域で考えると、
【数34】
となる。送信機及び受信機内で生じる主な歪みであるIQインバランス、IQスキュー、及びIQ位相ずれを考えるためには、IQ成分が明示的に表れる表示(IQ表示)で考えるのがよい。2つの関係は、非特許文献3に記載されるように、下記式35で表される。
【数35】
ここで、
【数36】
であり、Iは単位行列である。
【0083】
次いで、送信機及び受信機内歪みのモデルを考える。IQインバランスの周波数応答は、aをインバランスを表す指標として、下記式37でモデル化できる。
【数37】
同様に、IQスキューの周波数応答は、τをスキュー量として、下記式38でモデル化できる。
【数38】
IQ位相ずれの周波数応答は、φをIQ成分間の直交からの位相ずれ、θを任意の位相回転として、下記式39でモデル化できる。
【数39】
【0084】
式37-39からわかるように、H
IQimbとH
IQskewとは交換可能であるが、これらとH
IQphaseとは交換可能ではない。コヒーレント光通信システムにおいては、送信機内ではIQインバランス、及びIQスキューの後に、IQ位相ずれが生じる。従って、送信機内で生じる歪みは、
【数40】
となる。一方、受信機内では、IQ位相ずれの後に、IQインバランス、及びIQスキューが生じる。従って、受信機内で生じる歪みは、
【数41】
となる。このように送信機及び受信機内歪みでは、IQインバランス、IQスキュー、及びIQ位相ずれの順序が異なるが、これを考慮すれば、それぞれの歪みモデルが得られる。
【0085】
前述のように、理想的には、適応フィルタの収束後の係数は、歪みの逆応答となる。従って、適応フィルタが適切に収束した場合、受信機内歪み補償フィルタ171のIQ表示での応答は、
【数42】
となることが期待される。送信機内歪み補償フィルタ175のIQ表示での応答は、
【数43】
となることが期待される。ここで、cは何らかの定数を表す。
【0086】
上記の場合、インバランスの指標a、IQスキュー量τ、及びIQ位相ずれφは、周波数0成分と所定のある周波数Δω成分から、以下のように算出することができる。受信機内歪み補償フィルタ171のIQ表示での周波数応答の、II成分、IQ成分、QI成分、及びQQ成分をそれぞれ、H
II
[1](ω)、H
IQ
[1](ω)、H
QI
[1](ω)、H
QQ
[1](ω)とする。受信機内歪みについて、IQインバランスの指標aは、下記式48により計算できる。
【数44】
IQスキュー量τは、下記式49により計算できる。
【数45】
IQ位相ずれφは、下記式50により計算できる。
【数46】
【0087】
同様に、送信機内歪みについて、IQインバランスの指標aは、下記式51により計算できる。
【数47】
IQスキュー量τは、下記式52により計算できる。
【数48】
IQ位相ずれφは、下記式53により計算できる。
【数49】
【0088】
図6は、受信機内歪み検出部の構成例を示す。受信機内歪み検出部178(
図4を参照)は、FFT(fast Fourier transform)部211-214、IQスキュー検出部215、IQインバランス検出部216、及びIQ位相ずれ検出部217を含む。FFT部211は、受信機内歪み補償フィルタ171の係数のII成分h
II
[1]を周波数領域の信号H
II
[1]に変換する。FFT部212は、受信機内歪み補償フィルタ171の係数のIQ成分h
IQ
[1]を周波数領域の信号H
IQ
[1]に変換する。FFT部213は、受信機内歪み補償フィルタ171の係数のQI成分h
QI
[1]を周波数領域の信号H
QI
[1]に変換する。FFT部214は、受信機内歪み補償フィルタ171の係数のQQ成分h
QQ
[1]を周波数領域の信号H
QQ
[1]に変換する。
【0089】
IQインバランス検出部216には、FFT部211-214から、II成分の周波数0成分HII
[1](0)、IQ成分の周波数0成分HIQ
[1](0)、QI成分の周波数0成分HQI
[1](0)、及びQQ成分の周波数0成分HQQ
[1](0)が入力される。IQインバランス検出部216は、式48を用いて、受信機におけるIQインバランスを示す指標aを計算する。
【0090】
IQスキュー検出部215には、FFT部211からII成分の所定周波数Δω成分HII
[1](Δω)が入力され、FFT部214からQQ成分の周波数Δω成分HQQ
[1](Δω)が入力される。IQスキュー検出部215は、式49を用いて、受信機におけるIQスキューτを計算する。
【0091】
IQ位相ずれ検出部217には、FFT部211-214から、II成分の周波数0成分HII
[1](0)、IQ成分の周波数0成分HIQ
[1](0)、QI成分の周波数0成分HQI
[1](0)、及びQQ成分の周波数0成分HQQ
[1](0)が入力される。IQ位相ずれ検出部217は、式50を用いて、受信機におけるIQ位相ずれφを計算する。
【0092】
図7は、送信機内歪み検出部の構成例を示す。送信機内歪み検出部179(
図4を参照)は、FFT部221-224、IQスキュー検出部225、IQインバランス検出部226、及びIQ位相ずれ検出部227を含む。FFT部221は、送信機内歪み補償フィルタ175の係数のII成分h
II
[5]を周波数領域の信号H
II
[5]に変換する。FFT部222は、送信機内歪み補償フィルタ175の係数のIQ成分h
IQ
[5]を周波数領域の信号H
IQ
[5]に変換する。FFT部223は、送信機内歪み補償フィルタ175の係数のQI成分h
QI
[5]を周波数領域の信号H
QI
[5]に変換する。FFT部224は、送信機内歪み補償フィルタ175の係数のQQ成分h
QQ
[5]を周波数領域の信号H
QQ
[5]に変換する。
【0093】
IQインバランス検出部226には、FFT部221-224から、II成分の周波数0成分HII
[5](0)、IQ成分の周波数0成分HIQ
[5](0)、QI成分の周波数0成分HQI
[5](0)、及びQQ成分の周波数0成分HQQ
[5](0)が入力される。IQインバランス検出部226は、式51を用いて、送信機におけるIQインバランスを示す指標aを計算する。
【0094】
IQスキュー検出部225には、FFT部221からII成分の所定周波数Δω成分HII
[5](Δω)が入力され、FFT部224からQQ成分の周波数Δω成分HQQ
[5](Δω)が入力される。IQスキュー検出部225は、式52を用いて、送信機におけるIQスキューτを計算する。
【0095】
IQ位相ずれ検出部227には、FFT部221-224から、II成分の周波数0成分HII
[5](0)、IQ成分の周波数0成分HIQ
[5](0)、QI成分の周波数0成分HQI
[5](0)、及びQQ成分の周波数0成分HQQ
[5](0)が入力される。IQ位相ずれ検出部227は、式53を用いて、送信機におけるIQ位相ずれφを計算する。
【0096】
なお、受信機内歪み及び送信機内歪みについて、IQスキューとIQインバランス検出については、受信機内歪み検出部178と送信機内歪み検出部190とで算出方法が異なる。これは、前述した送信機及び受信機内の歪みの順序の起因したモデルの違いが反映されているためである。
【0097】
続いて動作手順を説明する。
図8は、光受信機における歪み補償と歪み検出の動作手順(歪み検出方法)を示す。係数更新部177(
図4を参照)は、受信機内歪み補償フィルタ171、偏波変動補償フィルタ173、及び送信機内歪み補償フィルタ175のフィルタ係数を適応制御する(ステップS1)。係数更新部177は、ステップS1では、最終段のフィルタである送信機内歪み補償フィルタ175の出力に基づいて計算される損失関数を用いて、フィルタ係数を更新する。
【0098】
係数の適応制御の収束後、受信機内歪み検出部178は、受信機内歪み補償フィルタ171からフィルタ係数を取得する(ステップS2)。受信機内歪み検出部178は、取得したフィルタ係数に基づいて、受信機内歪みを検出する(ステップS3)。受信機内歪み検出部178は、ステップS3では、例えば、IQスキュー、IQインバランス、及びIQ位相ずれの少なくとも1つを検出する。受信機内歪み検出部178は、例えばフィルタ係数を周波数領域の信号に変換し、変換した周波数領域の信号を用いて、IQスキュー、IQインバランス、及びIQ位相ずれの少なくとも1つを検出する。
【0099】
係数の適応制御の収束後、送信機内歪み検出部179は、送信機内歪み補償フィルタ175からフィルタ係数を取得する(ステップS4)。送信機内歪み検出部179は、取得したフィルタ係数に基づいて、送信機内歪みを検出する(ステップS5)。送信機内歪み検出部79は、ステップS5では、例えば、IQスキュー、IQインバランス、及びIQ位相ずれの少なくとも1つを検出する。送信機内歪み検出部179は、例えばフィルタ係数を周波数領域の信号に変換し、変換した周波数領域の信号を用いて、IQスキュー、IQインバランス、及びIQ位相ずれの少なくとも1つを検出する。ステップS2及びS3と、ステップS4及びS5とは、並列に実施できる。
【0100】
本実施形態では、受信信号に対して縦列に接続された複数のフィルタの初段に、第1のWLフィルタ161(
図3を参照)が配置され、最終段に、第2のWLフィルタ163が配置される。第1のWLフィルタ161の係数、及び第2のWLフィルタ163の係数は、最終段の第2のWLフィルタ163の出力に基づいて適応的に制御される。係数の適応制御が収束した場合、第1のWLフィルタ161は受信機内歪みを補償するフィルタとして機能し、第2のWLフィルタ163は送信機内歪みを補償するフィルタとして機能する。受信機内歪み検出部166は、第1のWLフィルタ161の係数から、受信機内で生じるIQスキュー、IQインバランス、及びIQ位相ずれを検出する。送信機内歪み検出部167は、第2のWLフィルタの係数から、送信機内で生じるIQスキュー、IQインバランス、及びIQ位相ずれを検出する。このようにすることで、光受信機150(
図2を参照)内の歪み推定部156は、係数の適応制御の収束後のフィルタ係数から、送信機内歪み及び受信機内歪みを、同時に、それぞれを切り分けて検出することができる。
【0101】
本発明者は、受信機内歪み検出及び送信機内歪み検出の効果を検証するために、シミュレーションを行った。シミュレーションでは、32Gbaud偏波多重QPSK(Quadrature Phase-Shift Keying)信号に、100kmのシングルモードファイバ伝搬に相当する波長分散と偏波状態の回転とを与え、コヒーレント受信するモデルを用いた。また、送信機及び受信機内において、正規分布に従うランダムなIQインバランス、IQスキュー、及びIQ位相ずれ(周波数依存性なし)を同時に付与し、上記で説明した復調と歪み検出とを行うデジタル信号処理を行った。
【0102】
図9A-Cは、受信機内歪みについてのシミュレーション結果を示す。
図9Aにおいて、横軸は、シミュレーションにおいて受信機内で付与されたIQスキュー(ピコ秒)を表し、縦軸は、受信機内歪み補償フィルタ171から検出されたIQスキューを表す。X偏波の信号について、受信機内で付与されたIQスキューと、検出されたIQスキューとの関係をプロットすると、
図9Aに示されるグラフが得られた。
【0103】
図9Bにおいて、横軸は、シミュレーションにおいて受信機内で付与されたIQインバランス(その指標)を表し、縦軸は、受信機内歪み補償フィルタ171から検出されたIQインバランスを表す。X偏波の信号について、受信機内で付与されたIQインバランスと、検出されたIQインバランスとの関係をプロットすると、
図9Bに示されるグラフが得られた。
【0104】
図9Cにおいて、横軸は、シミュレーションにおいて受信機内で付与されたIQ位相ずれ(度)を表し、縦軸は受信機内歪み補償フィルタ171から検出されたIQ位相ずれを表す。X偏波の信号について、受信機内で付与されたIQ位相ずれと、検出されたIQ位相ずれとの関係をプロットすると、
図9Cに示されるグラフが得られた。
【0105】
図10A-Cは、送信機内歪みについてのシミュレーション結果を示す
図10Aにおいて、横軸は、シミュレーションにおいて送信機内で付与されたIQスキュー(ピコ秒)を表し、縦軸は、送信機内歪み補償フィルタ175から検出されたIQスキューを表す。X偏波の信号について、送信機内で付与されたIQスキューと、検出されたIQスキューとの関係をプロットすると、
図10Aに示されるグラフが得られた。
【0106】
図10Bにおいて、横軸は、シミュレーションにおいて送信機内で付与されたIQインバランス(その指標)を表し、縦軸は、送信機内歪み補償フィルタ175から検出されたIQインバランスを表す。X偏波の信号について、送信機内で付与されたIQインバランスと、検出されたIQインバランスとの関係をプロットすると、
図10Bに示されるグラフが得られた。
【0107】
図10Cにおいて、横軸は、シミュレーションにおいて送信機内で付与されたIQ位相ずれ(度)を表し、縦軸は送信機内歪み補償フィルタ175から検出されたIQ位相ずれを表す。X偏波の信号について、送信機内で付与されたIQ位相ずれと、検出されたIQ位相ずれとの関係をプロットすると、
図10Cに示されるグラフが得られた。
【0108】
図9A及び
図10Aを参照すると、IQスキューについて、送信機内及び受信機内で付与されたIQスキューとそれぞれにおいて検出されたIQスキューとはほぼ一致していることがわかる。また、
図9B及び
図10Bを参照すると、IQインバランスについて、送信機内及び受信機内で付与されたIQインバランスとそれぞれにおいて検出されたIQインバランスとはほぼ一致していることがわかる。シミュレーションの結果、受信機内のIQスキュー及びIQインバランスと、送信機内のIQスキュー及びIQインバランスとを、それぞれを、同時に、切り分けて検出することが可能であることが確認できた。
【0109】
IQ位相ずれについては、
図9C及び
図10Cに示されるように、算出時に現れるコサイン関数の対称性から、付与された位相の符号については検出できていない。しかしながら、送信機内及び受信機内で付与された位相の絶対値を適切に検出できていることが確認できた。シミュレーションの結果、受信機内のIQ位相ずれと、送信機内のIQ位相ずれとを、それぞれを、同時に、切り分けて検出することが可能であることが確認できた。このように、本実施形態では、あらかじめ高精度に校正された送信機又は受信機を用意しなくても、受信機内歪み及び送信機内歪みを、切り分けて検出することができる。
【0110】
なお、上記実施形態係る歪み検出では、適応多層フィルタにおいて、受信機内歪みと送信機内歪みとがそれぞれ別のフィルタを用いて補償されることを前提としている。波長分散、及び周波数オフセットの存在と、その送受信機内歪みとの非可換性がこの前提を助けるが、一方で、複数のフィルタが協同して1つの歪みに対処するようなことがないことを完全に保証してはいない。しかしながら、以下の工夫によって、切り分けを進めることができる。
【0111】
適応多層フィルタでは、それぞれのフィルタの係数更新のステップサイズに個別の値を設定することも可能である。送受信機内のスキューは、適応的な制御を必要とするにしても運用中に大きくは変化しないことを考える。このことから、受信機内歪み補償フィルタ、及び送信機内歪み補償フィルタの係数更新に使用されるステップサイズは、偏波変動補償フィルタの係数更新に使用されるステップサイズより小さな値に設定されることが適切であると考えられる。あるいは、まず偏波変動補償フィルタを適応制御し、その後、受信機内歪み補償フィルタ、及び送信機内歪み補償フィルタを順次適応制御してもよい。その場合、複数のフィルタの協同動作が抑制され、受信機内歪み補償と送信機内歪み補償を切り分けることができる。
【0112】
上記実施形態では、
図3又は
図4に示されるデジタル信号処理におけるフィルタが復調部154内に実装されることを想定した例を説明した。しかしながら、本開示はこれには限定されない。変形例として、
図3又は
図4に示されるデジタル信号処理の一部又は全てが、復調部154とは異なるハードウェアに実装されていてもよい。
【0113】
図11は、変形例において使用される光受信機を示す。光受信機150aは、歪み推定部156を有していない点で、
図2に示される光受信機150と相違する。光受信機150aには、歪み推定部156の機能を有するPC160が接続される。PC160には、ADC153が出力する4系統の受信信号が分岐される。PC160は、
図3又は
図4に示されるデジタル信号処理を実施する。
図3又は
図4に示されるデジタル信号処理のうち、受信機内歪み検出部及び送信機内歪み検出部以外の機能については、専用のハードウェアで実装されていてもよい。変形例においては、受信機内歪み補償、及び送信機内歪み補償の機能を有していない光受信機150aを用いた場合でも、受信機内歪み及び送信機内歪みを検出できる。
【0114】
図18は、上記PC160として用いられ得るコンピュータ装置の構成例を示す。コンピュータ装置400は、制御部(CPU:Central Processing Unit)410、記憶部420、ROM(Read Only Memory)430、RAM(Random Access Memory)440、通信インタフェース(IF:Interface)450、及びユーザインタフェース460を有する。
【0115】
通信インタフェース450は、ADC153が出力する4系統の受信信号が入力されるインタフェースである。ユーザインタフェース460は、例えばディスプレイなどの表示部を含む。また、ユーザインタフェース460は、キーボード、マウス、及びタッチパネルなどの入力部を含む。
【0116】
記憶部420は、各種のデータを保持できる補助記憶装置である。記憶部420は、必ずしもコンピュータ装置400の一部である必要はなく、外部記憶装置であってもよいし、ネットワークを介してコンピュータ装置400に接続されたクラウドストレージであってもよい。
【0117】
ROM430は、不揮発性の記憶装置である。ROM430には、例えば比較的容量が少ないフラッシュメモリなどの半導体記憶装置が用いられる。CPU410が実行するプログラムは、記憶部420又はROM430に格納され得る。記憶部420又はROM430は、CPU410に歪み補償及び検出を行う処理を実施させるための各種プログラムを記憶する。
【0118】
CPU(プロセッサ)410に、歪み補償及び検出を行う処理を行わせるためのプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記憶媒体を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、又はハードディスクなどの磁気記録媒体、例えば光磁気ディスクなどの光磁気記録媒体、CD(compact disc)、又はDVD(digital versatile disk)などの光ディスク媒体、及び、マスクROM、PROM(programmable ROM)、EPROM(erasable PROM)、フラッシュROM、又はRAMなどの半導体メモリを含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体を用いてコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバなどの有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0119】
RAM440は、揮発性の記憶装置である。RAM440には、DRAM(Dynamic Random Access Memory)又はSRAM(Static Random Access Memory)などの各種半導体メモリデバイスが用いられる。RAM440は、データなどを一時的に格納する内部バッファとして用いられ得る。CPU410は、記憶部420又はROM430に格納されたプログラムをRAM440に展開し、実行する。CPU410は、データなどを一時的に格納できる内部バッファを有してもよい。
【0120】
以上、本開示の実施形態を詳細に説明したが、本開示は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に対して変更や修正を加えたものも、本開示に含まれる。
【0121】
例えば、上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
【0122】
[付記1]
伝送路を介して送信された信号をコヒーレント受信するコヒーレント受信回路と、
受信機において前記信号に生じる受信機内歪みを補償する第1のWL(Widely Linear)フィルタと、前記信号に含まれる歪みを補償する1以上のフィルタを含むフィルタ層と、前記信号を送信する送信機において前記信号に生じる送信機内歪みを補償する第2のWLフィルタとが縦列に接続されたフィルタ群と、
前記フィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、前記第1のWLフィルタ及び前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する係数更新手段と、
前記フィルタ係数の収束後、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて受信機内歪みを検出する第1の歪み検出手段と、
前記フィルタ係数の収束後、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて送信機内歪みを検出する第2の歪み推定手段とを備える受信機。
【0123】
[付記2]
前記コヒーレント受信回路が受信する信号は、偏波多重信号であり、
前記コヒーレント受信回路は、第1の偏波のローカルオシレータ光に対する同相成分及び直交成分を示す信号と、第2の偏波のローカルオシレータ光に対する同相成分及び直交成分を示す信号とを出力する付記1に記載の受信機。
【0124】
[付記3]
前記第1の歪み検出手段は、前記同相成分と前記直交成分との間の平均信号強度の不一致を示すIQインバランス、前記同相成分と前記直交成分との間の時間ずれを示すIQスキュー、及び前記同相成分と前記直交成分との間の直交ずれを示すIQ位相ずれの少なくとも1つを、前記受信機内歪みとして検出する付記2に記載の受信機。
【0125】
[付記4]
前記第1の歪み検出手段は、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数を周波数領域の信号に変換する信号変換手段を含み、前記変換された周波数領域の信号に基づいて、前記IQインバランス、前記IQスキュー、及び前記IQ位相ずれの少なくとも1つを検出する付記3に記載の受信機。
【0126】
[付記5]
前記第2の歪み検出手段は、前記同相成分と前記直交成分との間の平均信号強度の不一致を示すIQインバランス、前記同相成分と前記直交成分との間の時間ずれを示すIQスキュー、及び前記同相成分と前記直交成分との間の直交ずれを示すIQ位相ずれの少なくとも1つを、前記受信機内歪みとして検出する付記2から4何れか1つに記載の受信機。
【0127】
[付記6]
前記第2の歪み検出手段は、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を周波数領域の信号に変換する信号変換手段を含み、前記変換された周波数領域の信号に基づいて、前記IQインバランス、前記IQスキュー、及び前記IQ位相ずれの少なくとも1つを検出する付記5に記載の受信機。
【0128】
[付記7]
前記第1のWLフィルタ及び前記第2のWLフィルタは、それぞれ、前記第1の偏波及び前記第2の偏波のそれぞれについて前記同相成分及び前記直交成分を複素数データに変換した複素数信号と該複素数信号の複素共役とを入力とするWL4×2MIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)フィルタを有する付記2から6何れか1つに記載の受信機。
【0129】
[付記8]
前記第1のWLフィルタ及び前記第2のWLフィルタは、それぞれ、前記第1の偏波及び前記第2の偏波のそれぞれについて前記同相成分及び前記直交成分を入力とする実係数4×4MIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)フィルタを有する付記2から6何れか1つに記載の受信機。
【0130】
[付記9]
前記フィルタ層に含まれる1以上のフィルタは、前記伝送路において前記信号に生じた補償する付記1から8何れか1つに記載の受信機。
【0131】
[付記10]
前記フィルタ層は、縦列に接続された、波長分散補償フィルタ、偏波変動補償フィルタ、及びキャリア位相補償フィルタを含む付記1から9何れか1つに記載の受信機。
【0132】
[付記11]
前記係数更新手段は、更に、前記差分に基づいて、前記偏波変動補償フィルタのフィルタ係数を適応的に制御する付記10に記載の受信機。
【0133】
[付記12]
伝送路を介して信号を送信する送信機と、
前記送信された信号を受信する受信機とを備え、
前記受信機は、
前記信号をコヒーレント受信するコヒーレント受信回路と、
前記受信機において前記信号に生じる受信機内歪みを補償する第1のWL(Widely Linear)フィルタと、前記信号に含まれる歪みを補償する1以上のフィルタを含むフィルタ層と、前記送信機において前記信号に生じる送信機内歪みを補償する第2のWLフィルタとが縦列に接続されたフィルタ群と、
前記フィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、前記第1のWLフィルタ及び前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する係数更新手段と、
前記フィルタ係数の収束後、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて受信機内歪みを検出する第1の歪み検出手段と、
前記フィルタ係数の収束後、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて送信機内歪みを検出する第2の歪み推定手段とを備える、通信システム。
【0134】
[付記13]
前記送信機は、偏波多重信号を送信し、
前記コヒーレント受信回路は、第1の偏波のローカルオシレータ光に対する同相成分及び直交成分を示す信号と、第2の偏波のローカルオシレータ光に対する同相成分及び直交成分を示す信号とを出力する付記12に記載の通信システム。
【0135】
[付記14]
前記第1の歪み検出手段は、前記同相成分と前記直交成分との間の平均信号強度の不一致を示すIQインバランス、前記同相成分と前記直交成分との間の時間ずれを示すIQスキュー、及び前記同相成分と前記直交成分との間の直交ずれを示すIQ位相ずれの少なくとも1つを、前記受信機内歪みとして検出する付記13に記載の通信システム。
【0136】
[付記15]
前記第1の歪み検出手段は、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数を周波数領域の信号に変換する信号変換手段を含み、前記変換された周波数領域の信号に基づいて、前記IQインバランス、前記IQスキュー、及び前記IQ位相ずれの少なくとも1つを検出する付記14に記載の通信システム。
【0137】
[付記16]
前記第2の歪み検出手段は、前記同相成分と前記直交成分との間の平均信号強度の不一致を示すIQインバランス、前記同相成分と前記直交成分との間の時間ずれを示すIQスキュー、及び前記同相成分と前記直交成分との間の直交ずれを示すIQ位相ずれの少なくとも1つを、前記受信機内歪みとして検出する付記13に記載の通信システム。
【0138】
[付記17]
前記第2の歪み検出手段は、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を周波数領域の信号に変換する信号変換手段を含み、前記変換された周波数領域の信号に基づいて、前記IQインバランス、前記IQスキュー、及び前記IQ位相ずれの少なくとも1つを検出する付記16に記載の通信システム。
【0139】
[付記18]
伝送路を介して送信された信号をコヒーレント受信する受信機において前記信号に生じる受信機内歪みを補償する第1のWL(Widely Linear)フィルタと、前記信号に含まれる歪みを補償する1以上のフィルタを含むフィルタ層と、前記信号を送信する送信機において前記信号に生じる送信機内歪みを補償する第2のWLフィルタとが縦列に接続されたフィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、前記第1のWLフィルタ及び前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する係数更新手段と、
前記フィルタ係数の収束後、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて受信機内歪みを検出する第1の歪み検出手段と、
前記フィルタ係数の収束後、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて送信機内歪みを検出する第2の歪み推定手段とを備える歪み検出装置。
【0140】
[付記19]
前記伝送路を介して送信される信号は、偏波多重信号であり、
前記受信機は、第1の偏波のローカルオシレータ光に対する同相成分及び直交成分を示す信号と、第2の偏波のローカルオシレータ光に対する同相成分及び直交成分を示す信号とを生成する付記18に記載の歪み検出装置。
【0141】
[付記20]
前記第1の歪み検出手段は、前記同相成分と前記直交成分との間の平均信号強度の不一致を示すIQインバランス、前記同相成分と前記直交成分との間の時間ずれを示すIQスキュー、及び前記同相成分と前記直交成分との間の直交ずれを示すIQ位相ずれの少なくとも1つを、前記受信機内歪みとして検出する付記19に記載の歪み検出装置。
【0142】
[付記21]
前記第1の歪み検出手段は、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数を周波数領域の信号に変換する信号変換手段を含み、前記変換された周波数領域の信号に基づいて、前記IQインバランス、前記IQスキュー、及び前記IQ位相ずれの少なくとも1つを検出する付記20に記載の歪み検出装置。
【0143】
[付記22]
前記第2の歪み検出手段は、前記同相成分と前記直交成分との間の平均信号強度の不一致を示すIQインバランス、前記同相成分と前記直交成分との間の時間ずれを示すIQスキュー、及び前記同相成分と前記直交成分との間の直交ずれを示すIQ位相ずれの少なくとも1つを、前記受信機内歪みとして検出する付記19に記載の歪み検出装置。
【0144】
[付記23]
前記第2の歪み検出手段は、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を周波数領域の信号に変換する信号変換手段を含み、前記変換された周波数領域の信号に基づいて、前記IQインバランス、前記IQスキュー、及び前記IQ位相ずれの少なくとも1つを検出する付記22に記載の歪み検出装置。
【0145】
[付記24]
前記フィルタ群を更に有する付記18から23何れか1つに記載の歪み検出装置。
【0146】
[付記25]
伝送路を介して送信された信号をコヒーレント受信する受信機において前記信号に生じる受信機内歪みを補償する第1のWL(Widely Linear)フィルタと、前記信号に含まれる歪みを補償する1以上のフィルタを含むフィルタ層と、前記信号を送信する送信機において前記信号に生じる送信機内歪みを補償する第2のWLフィルタとが縦列に接続されたフィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、前記第1のWLフィルタ及び前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御し、
前記フィルタ係数の収束後、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて受信機内歪みを検出し、
前記フィルタ係数の収束後、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて送信機内歪みを検出する歪み検出方法。
【0147】
[付記26]
伝送路を介して送信された信号をコヒーレント受信する受信機において前記信号に生じる受信機内歪みを補償する第1のWL(Widely Linear)フィルタと、前記信号に含まれる歪みを補償する1以上のフィルタを含むフィルタ層と、前記信号を送信する送信機において前記信号に生じる送信機内歪みを補償する第2のWLフィルタとが縦列に接続されたフィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、前記第1のWLフィルタ及び前記第2のWLフィルタのフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御し、
前記フィルタ係数の収束後、前記第1のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて受信機内歪みを検出し、
前記フィルタ係数の収束後、前記第2のWLフィルタのフィルタ係数に基づいて送信機内歪みを検出する処理をプロセッサに実行させるためのプログラム。
【0148】
この出願は、2020年10月28日に出願された日本出願特願2020-180884を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0149】
10:通信システム
11:送信機
13:伝送路
15:受信機
21:コヒーレント受信回路
22:フィルタ群
23:第1のWLフィルタ
24:フィルタ層
25:第2のWLフィルタ
26:係数更新手段
27:第1の歪み検出手段
28:第2の歪み検出手段
100:光ファイバ通信システム
110:光送信機
111:符号化部
112:予等化部
113:DAC
114:光変調器
115:LD
130:伝送路
132:光ファイバ
133:光増幅器
150:光受信機
151:LD
152:コヒーレント受信機
153:ADC
154:復調部
155:復号部
156:歪み推定部
160:PC
161:第1のWLフィルタ
162:フィルタ層
163:第2のWLフィルタ
164:損失関数計算部
165:係数更新部
166:受信機内歪み検出部
167:送信機内歪み検出部
171:受信機内歪み補償フィルタ
172:波長分散補償フィルタ
173:偏波変動補償フィルタ
174:キャリア位相補償フィルタ
175:送信機内歪み補償フィルタ
176:損失関数計算部
177:係数更新部
178:受信機内歪み検出部
179:送信機内歪み検出部
191-195:勾配導出部
201、203、205:係数更新量計算部
211-214、221-224:FFT部
215、225:IQスキュー検出部
216、226:IQインバランス検出部
217、227:IQ位相ずれ検出部