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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュールの運転方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/02 20060101AFI20241126BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20241126BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20241126BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B01D63/02
C02F1/44 D
B01D61/14 500
B01D69/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022562384
(86)(22)【出願日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2022036600
(87)【国際公開番号】W WO2023054648
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2021160479
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 憲太郎
(72)【発明者】
【氏名】金森 智子
(72)【発明者】
【氏名】橘 高志
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/115769(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/184097(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0059412(US,A1)
【文献】特開2014-188439(JP,A)
【文献】特開2014-124579(JP,A)
【文献】特開2009-247977(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109420433(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原液を中空糸膜の外表面側に供給することでクロスフローろ過を行う工程であって、原液の粘度μとろ過液の粘度μの比がμ/μ≧1.5であり、かつ原液の流速vとろ過液の流速vの流速比が0.02≦v/v≦0.3であるろ過工程を含むことを特徴とする中空糸膜モジュールの運転方法であって、
前記原液の粘度μ および前記ろ過液の粘度μ は、それぞれ下記に示す方法で測定される、中空糸膜モジュールの運転方法
粘度の測定方法:前記ろ過工程の実運転時と同じ温度、せん断速度において管内径D 、管長L の細管に流速v で前記原液または前記ろ過液を通液させた際の、管入口圧力P と管出口圧力P より、下記式(5)を用いて粘度μを測定する。
【数1】
【請求項2】
前記ろ過工程において、前記原液の粘度μが3.0mPa・s以上であることを特徴とする
請求項1に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
【請求項3】
前記ろ過工程において、前記原液の溶存性有機炭素濃度が1,000mg/L以上100,000mg/L以下であることを特徴とする
請求項1または2に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
【請求項4】
前記中空糸膜が限外ろ過膜であることを特徴とする
請求項1または2に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
【請求項5】
前記中空糸膜の破断時荷重が500gf/本(4.90N/本)以上であることを特徴とする
請求項1または2に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
【請求項6】
前記ろ過工程において、前記原液の粘度μと前記原液の流速vがv≦-0.135μf+3.0の関係を満たすことを特徴とする
請求項1または2に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
【請求項7】
前記中空糸膜の内径Dが300μm≦D≦1000μmであることを特徴とする
請求項1または2に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
【請求項8】
前記中空糸膜モジュールの充填率が25%以上45%以下であることを特徴とする
請求項1または2に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
【請求項9】
前記中空糸膜の膜長が0.50m以上2.00m以下であることを特徴とする
請求項1または2に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
【請求項10】
前記中空糸膜の内表面から外表面に向かって洗浄液を流す逆流洗浄工程をさらに有し、
前記中空糸膜の外表面の孔径φが0.005μm≦φ≦0.02μmであり、
前記中空糸膜の内表面の孔径φと前記外表面の孔径φの比がφ/φ>50であることを特徴とする
請求項1または2に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過用中空糸膜モジュールの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分離膜を用いた膜ろ過は、飲料水製造、浄水処理若しくは排水処理等の水処理分野に加えて、近年では微生物や培養細胞の培養を伴う発酵分野、医薬分野、又は、食品飲料分野等、様々な方面へと適用範囲が広がっている。分離膜の中でも、中空糸膜モジュールを用いた膜ろ過は、処理水量の大きさ、洗浄の容易さ等から、多くの分野で用いられている。
【0003】
水処理分野では比較的清澄な原液をろ過するケースが多いのに対し、発酵、医薬、食品飲料分野においては、濁度や粘度が高い原液を扱うケースが多い。濁度や粘度が高い場合には、水処理分野で採用されることの多い全量ろ過運転を適用しようとすると、中空糸膜の閉塞、いわゆるファウリングが急速に進行する。そのため、これらの分野では、ファウリングを低減可能なクロスフローろ過運転が行われる。クロスフローろ過運転とは、中空糸膜表面に平行な原液の流れを常に作用させ、その内の一部をろ過するという方法である。
【0004】
この方法では、中空糸膜表面に平行な流れの作用により中空糸膜表面への濁質蓄積を予防しながら運転できるため、ファウリングを大幅に低減することが可能となる。分離膜の適用用途拡大に伴い、濁度や粘度が高い原液に対して、クロスフローろ過により安定的に運転する技術へのニーズが高まっている。
【0005】
濁度や粘度が高い原液をクロスフローろ過する場合には、原液を中空糸膜の外表面側に導入する外圧型や、中空糸膜の内表面側に導入する内圧型のいずれも用いられる。例えば特許文献1や2には、限外ろ過膜を用いた内圧クロスフローろ過により高粘度液を濾過する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、濁度や粘度が高い原液を内圧クロスフローろ過する場合、原液の流路サイズが外圧型と比較して小さいことから、流路の閉塞や、原液流れによる圧力損失が大きくなることがあり、その対策として中空糸膜の内径を太くする必要が生じる。その結果、中空糸膜モジュールの膜面積が小さくなり、中空糸膜モジュールのろ過量が低下することになる。そのため、このような原液には外圧クロスフローろ過が適する場合が多い。
【0007】
特許文献3には油水分離用途に外圧クロスフローろ過を適用する方法が、特許文献4には酵母培養液を外圧クロスフローろ過する方法が開示されている。特許文献3では、外圧クロスフローろ過における流路の閉塞を抑制するために、中空糸膜間の寸法平均値を広く取ることが好ましい旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特開2020-146645号公報
【文献】日本国特開平10-42851号公報
【文献】日本国特開2010-36183号公報
【文献】国際公開第2017/209150号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高粘度液を外圧クロスフローろ過する場合に、増粘成分が分離膜で阻止されることで原液側の粘度とろ過液側の粘度に差が生じ、中空糸膜モジュールの原液導入側における膜間差圧と原液導出側の膜間差圧の差(以下膜間差圧差と表記)が大きくなる。その結果、膜間差圧が大きい原液導入側の中空糸膜の閉塞が早くなり、中空糸膜モジュール全体の膜間差圧の上限に到達するまでの時間が短くなることで、洗浄頻度が増えるという課題があった。そのため、原液側とろ過液側で粘度差が生じるような場合に、膜間差圧差を小さくして、閉塞速度を抑制する運転技術が望まれていた。
【0010】
特許文献1では、原液の粘度増加による中空糸膜の閉塞を抑制するために、逆圧洗浄排水を原液に戻すことで、濾過流量を高いレベルで維持できる方法が開示されている。特許文献2では、中空糸の目詰まりを抑制し、かつ大きな透過流束を得るために、循環濾過時のレイノルズ数を制御する方法が開示されている。特許文献3では、外圧循環式とした場合、被処理液の流れで中空糸膜の膜面の汚れを剥ぎ取ることができ、被処理液の非水溶性油分含有量や懸濁物質の濃度が高くても膜面の汚れや目詰まりを抑制しながら濾過を継続させることができる旨が記載されている。特許文献4では、酵母培養液を外圧クロスフローろ過する際に、高強度の中空糸膜を用いることで、中空糸膜の破断なく運転できる旨が記載されている。
【0011】
しかしながらいずれの特許文献にも、原液とろ過液の粘度差に起因する膜間差圧差を小さくする方法については開示されていない。そこで本発明は、外圧クロスフローろ過において、原液とろ過液に粘度差が生じる場合に、膜間差圧差を小さくして、閉塞速度を抑制し、洗浄頻度を下げることができる中空糸膜モジュールの運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の中空糸膜モジュールの運転方法を提供する。
<1>原液を中空糸膜の外表面側に供給することでクロスフローろ過を行う工程であって、原液の粘度μとろ過液の粘度μの比がμ/μ≧1.5であり、かつ原液の流速vとろ過液の流速vの流速比が0.02≦v/v≦0.3であるろ過工程を含むことを特徴とする中空糸膜モジュールの運転方法。
<2>前記ろ過工程において、前記原液の粘度μが3.0mPa・s以上であることを特徴とする<1>に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
<3>前記ろ過工程において、前記原液の溶存性有機炭素濃度が1,000mg/L以上100,000mg/L以下であることを特徴とする<1>または<2>に記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
<4>前記中空糸膜が限外ろ過膜であることを特徴とする<1>~<3>のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
<5>前記中空糸膜の破断時荷重が500gf/本(4.90N/本)以上であることを特徴とする<1>~<4>のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
<6>前記ろ過工程において、前記原液の粘度μと前記原液の流速vがv≦-0.135μf+3.0の関係を満たすことを特徴とする<1>~<5>のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
<7>前記中空糸膜の内径Dが300μm≦D≦1000μmであることを特徴とする<1>~<6>のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
<8>前記中空糸膜モジュールの充填率が25%以上45%以下であることを特徴とする<1>~<7>のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
<9>前記中空糸膜の膜長が0.50m以上2.00m以下であることを特徴とする<1>~<8>のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
<10>前記中空糸膜の内表面から外表面に向かって洗浄液を流す逆流洗浄工程をさらに有し、前記中空糸膜の外表面の孔径φが0.005μm≦φ≦0.02μmであり、前記中空糸膜の内表面の孔径φと前記外表面の孔径φの比がφ/φ>50であることを特徴とする<1>~<9>のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの運転方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、外圧クロスフローろ過において、原液とろ過液に粘度差が生じる場合に、膜間差圧差を小さくして閉塞速度を抑制し、洗浄頻度を下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の中空糸膜モジュールの一形態を示す、概略図である。
図2図2は、クロスフローろ過が適用される膜ろ過ユニットの一形態を示す、概略フロー図である。
図3図3は、中空糸膜モジュール内の圧力分布をシミュレーションするためのモデルを示す、概略図である。
図4図4は、細管式粘度計を用いた粘度測定の一形態を示す、概略フロー図である。
図5図5は、シミュレーションを検証するための膜ろ過ユニットの一形態を示す、概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の中空糸膜モジュールの一形態を示す概略図である。以下、本明細書において、「上」、「下」等の方向は、図面に示す状態に基づいており、便宜的なものであって、図1において、ろ過液導出口3側を上方向、原液導入口2側を下方向として説明する。
【0017】
本発明の中空糸膜モジュール10は、原液導入口2と、ろ過液導出口3と、原液導出口4と、を有する容器1に、中空糸膜5が充填されている。中空糸膜5は、その両端部が第1ポッティング部8、第2ポッティング部9に包埋されており、第1ポッティング部8、第2ポッティング部9は容器1に固定されている。第1ポッティング部8に包埋された中空糸膜5の下端部は封止されている。また、第1ポッティング部8は原液導入口2から導入された原液を通液するための複数の貫通孔を備えている。一方、第2ポッティング部9に包埋された中空糸膜5の上端部は開口された状態で包埋されている。
【0018】
原液導入口2、ろ過液導出口3及び原液導出口4は、容器1と配管(不図示)を接続する円筒形のノズルであり、同じく円筒形の容器1に開口した状態で固定されている。原液導入口2は容器1の下端部に接続し、ろ過液導出口3は上端部に接続される。原液導出口4は容器1の側面に接続され、第2ポッティング部9付近に備えられる。これらの素材は樹脂製、金属製いずれも使用することができる。
【0019】
容器1に充填される中空糸膜5は、液体の分離機能を備える、中空の糸状の膜である。中空糸膜5は、容器1の軸方向と、中空糸膜5の軸方向が平行になるように充填される。軸方向とは、容器1の長さ方向及び中空糸膜5の長さ方向のことである。
【0020】
複数の中空糸膜が接着剤により固定された第1ポッティング部8と第2ポッティング部9とは、束ねられた中空糸同士の間隙が、いわゆる接着剤である、ポッティング樹脂を主成分とするポッティング剤で充填された部位をいう。ポッティング部は、中空糸膜束の端部に形成されることが好ましい。
【0021】
ポッティング剤の主成分となるポッティング樹脂としては、中空糸膜との接着性、耐熱性及び化学的耐久性に優れる、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂又はシリコーン樹脂が好ましい。またポッティング剤は、例えば、ポッティング樹脂以外にシリカ、タルク、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、ガラス又はゴム等の添加材を含んでいても構わない。
【0022】
第1ポッティング部8は中空糸膜5の原液導入口側端部に形成される。中空糸膜5の原液導入口側端部は封止されていることが好ましい。原液導入口側端部が封止されることで、中空部をながれるろ過液流れが1方向となり、中空糸膜5のろ過液側において、原液導入口側端部とろ過液導出口側端部に圧力差を生じさせることができる。ここで、封止されるとは、中空糸膜5の内部を流れる液が、封止された端部からは導出されない状態のことである。
【0023】
第1ポッティング部8は容器1に固定されるが、原液導入口2から導入される原液を通液するための複数の貫通孔を有しており、貫通孔を通じて原液が中空糸膜5に導入される。貫通孔の形状、数に指定はなく、通液する原液流量に応じて、抵抗や流れムラの発生を抑えるべく適宜設けられる。
【0024】
第1ポッティング部8は、原液流れによって第1ポッティング部8が浮上しないよう位置固定されていればよく、容器1に接着固定したり、取り外しが可能なカートリッジ構造としてもよい。位置固定の方法は特に指定はなく、容器1と第1ポッティング部8間を位置固定する構造や、第2ポッティング部9と第1ポッティング部8間を位置固定する構造など適宜選定できる。
【0025】
また第1ポッティング部8は、中空糸膜5の原液導入口側端部が封止されていれば必須ではなく、中空糸膜束同士をポッティング剤で固定するいわゆる固定端ではなく、ポッティング剤で固定されない自由端としてもよい。自由端とは、中空糸膜同士がポッティング剤で固定されておらず、自由に可動できる状態である。この場合、中空糸膜5の原液導入口側端部を封止する方法としては、ポッティング剤を中空糸膜5の中空部に注入して封止する方法や、端部を熱で溶着して封止する方法などが適用できる。
【0026】
次に第2ポッティング部9は、中空糸膜5のろ過液導出口側端部に形成され、中空糸膜5のろ過液導出口側端部を開口した状態で固定する。開口した状態とは、中空糸膜の内部を流れる液が開口した端部から導出される状態のことである。
【0027】
第2ポッティング部9は容器1に固定されているが、原液とろ過液を液密に分離できるのであれば、第2ポッティング部9と容器1を接着固定したり、いわゆるカートリッジタイプのように中空糸膜を着脱できる構造としてもよい。カートリッジタイプの場合には、第2ポッティング部9と容器1を、Oリングなどを介して接続してもよい。
【0028】
以上の構造を備えた中空糸膜モジュールにおいては、容器1の内部は、中空糸膜5と第2ポッティング部9によって、原液が充填される原液側空間6と、ろ過液が充填されるろ過液側空間7に分離されており、原液側空間6は中空糸膜5の外表面が接する空間、ろ過液側空間7は中空糸膜5の内表面が接する空間となっている。
【0029】
本発明は、原液導入口2及び原液導出口4は原液側空間6に、ろ過液導出口3はろ過液側空間7に接続しているいわゆる外圧型中空糸膜モジュールに適用される発明となる。
【0030】
次に、図1に示す中空糸膜モジュールを用いた運転方法について図2を用いて説明する。
【0031】
図2は膜ろ過ユニットのフロー図である。原液タンク12より供給ポンプ14にて原液が容器1に供給される。原液導入口2より容器1内に導入された原液は、図1に示した第1ポッティング部8の貫通孔を通り、原液側空間6を中空糸膜5の軸方向に平行な流れで送液される。その後、原液導出口4より容器1から導出される。
【0032】
クロスフローろ過運転は、ろ過流量の10~30倍程度の流量で循環することにより、流れのせん断効果で、膜表面に原液由来の膜閉塞成分が蓄積することを防止でき、安定したろ過が可能になる運転方法である。特に膜表面に蓄積する閉塞成分が多い原液をろ過するのに適した運転方法である。
【0033】
また、ろ過液流量計32で観測されるろ過液流量が一定となるように運転される場合が多い。クロスフローろ過運転では、原液導入圧力計41と原液導出圧力計42で観測される原液導入圧力P1と原液導出圧力P2の平均値と、ろ過液導出圧力計43で観測されるろ過液導出圧力P3との差を平均膜間差圧と呼び、平均膜間差圧が所定圧力に到達するまで、運転が継続される。
【0034】
外圧クロスフローろ過運転では原液側空間6での原液流れにより、原液側空間6に高い圧力損失が生じる。そのため、中空糸膜5の原液導入側端部には高い原液側圧力がかかるため、当該箇所の負荷は高くなる。一方、中空糸膜内部のろ過液側空間7についてもろ過液同様に圧力損失が生じる。原液流れと比較してろ過液流れは遅くなるが、原液側空間6の流路と比較してろ過液側空間7の流路が小さいことから、ろ過液側空間7にも比較的高い圧力損失が生じる。その結果、中空糸膜5の原液導入口側端部では、原液側圧力とろ過液側圧力がともに高くなることで、膜間差圧が大きくなることを抑制できるという特徴がある。
【0035】
しかしながら、原液とろ過液の粘度が異なる場合、特に原液中の増粘成分が分離膜により原液側空間に保持され、ろ過液の粘度が原液よりも小さくなる場合には、ろ過液側空間7の圧力損失が原液側空間6の圧力損失と比較して小さくなる。その結果、中空糸膜5の原液導入口側端部において、原液側圧力が高く、ろ過液側圧力が小さくなり、当該箇所の膜間差圧が大きくなる傾向にある。そのため、中空糸膜5の原液導入口側端部ではろ過液導出口側端部と比較して過剰な液量をろ過していることになり、ファウリングが促進する要因となっていた。
【0036】
この問題に対し、鋭意検討の結果、外圧クロスフローろ過を行う中空糸膜モジュールにおいて、原液側の流速とろ過液側の流速を所定の範囲内に制御することで、中空糸膜軸方向の膜間差圧差を抑制できることを見出し、本中空糸膜モジュールの運転方法の発明に至った。
【0037】
すなわち、本発明の中空糸膜モジュールの運転方法においては、ろ過工程として、原液を中空糸膜の外表面側に供給することでクロスフローろ過を行うに際して、原液の粘度μとろ過液の粘度μの比がμ/μ≧1.5であるとき、原液の流速vとろ過液の流速vの流速比が0.02≦v/v≦0.3となるように運転する。
【0038】
原液の粘度μとろ過液の粘度μの比(ろ過液の粘度μに対する原液の粘度μの比率)μ/μが1.5以上となると、ろ過液側空間7の圧力損失が原液側空間6の圧力損失と比較して小さくなるが、原液の流速vとろ過液の流速vの流速比(原液の流速vに対するろ過液の流速vの比率)を0.02≦v/v≦0.3に制御することで、必要なろ過液流量を確保してろ過コストを抑えつつ、原液側とろ過液側の圧力損失を均質化でき、ファウリングの進行を抑制できる。
【0039】
より詳細には、v/v≧0.02であることで、μ/μが1.5以上となる場合においても、原液側の圧力損失とろ過液側の圧力損失との差を小さくすることができ、膜間差圧差の増大を抑えることができる。その結果、ファウリングを抑制することができる。さらに、v/v≧0.02であることで、ろ過液流量が過剰に小さくならず、必要なろ過液流量を確保できるので、膜本数を低減でき、ろ過コストを抑制できる。一方、v/v≦0.3であることで、ろ過液流量よりも原液の循環流量が過剰に小さくなることを抑制することができるので、膜表面に原液由来の膜閉塞成分が蓄積することを防止するための、必要な原液流れを確保することができる。その結果、ファウリングの進行を防止することができる。好ましくは0.02≦v/v≦0.2であり、さらに好ましくは0.03≦v/v≦0.15である。
【0040】
原液の流速vとろ過液の流速vの測定方法について、図1、2をもとに説明する。原液の流速vは濃縮液流量計31で測定される濃縮液流量Qを、中空糸膜モジュール10の原液側空間6の流路面積Sで割ることで算出する。原液側空間の流路面積Sは、容器1の断面積から容器1に挿入される中空糸膜5の総断面積を差し引いた値である。容器1の内径をD、中空糸膜5の外径をD、中空糸膜5の本数をNとすると、下記式(1)にて計算される。
【0041】
【数1】
【0042】
ろ過液の流速vは、ろ過液流量計32で測定されるろ過液流量Qを、ろ過液側空間7の流路面積Sで割ることで算出する。ろ過液側空間7の流路面積Sは中空糸膜5の内径をDとすると、下記式(2)にて計算される。
【0043】
【数2】
【0044】
原液の流速vについては、濃縮液流量Qの代わりに、原液導入口2と供給ポンプ14の間に供給液流量計を設け、測定される供給液流量Qを使用しても良い。この場合も原液の流速vは同様に計算される。
【0045】
原液の粘度μとろ過液の粘度μは、温度によりその値が大きく変化するため、原液温度計51にて測定される原液温度における粘度を測定することが好ましい。さらに、原液やろ過液の流れによるせん断で粘度が変化する場合もあるため、運転中の流れによるせん断速度γを付与した際の粘度を測定することが好ましい。
【0046】
せん断速度γは、流速vと流路直径Dから下記式(3)にて簡易的に計算する。ろ過液側空間7の流路直径Dは中空糸膜5の内径Dとなる。一方、原液側空間6の流路直径Dは形状が複雑であることから、下記式(4)にて計算される相当直径を流路直径Dとする。
【0047】
【数3】
【0048】
【数4】
【0049】
粘度の測定方法については、細管式粘度計を用い、実運転と同じ温度、せん断速度において測定された粘度を本発明における粘度とする。すなわち、管内径D、管長Lの細菅に流速vで流体を通液させた際の、管入口圧力Pと管出口圧力Pより、下記式(5)を用いて粘度μを測定する手法である。上記式(3)を用い、実運転時のせん断速度と、細菅式粘度計におけるせん断速度が同じになるように細菅内の流速vを設定し、粘度を測定する。
【0050】
【数5】
【0051】
細菅式粘度計については、管の温調ならびに管入口出口の圧力が測定できるものであれば特に限定されず、市販、自作の装置いずれも使用できる。
【0052】
また、粘度は運転を継続すると変化する場合もあるが、少なくとも運転開始初期の原液の粘度μとろ過液の粘度μの比がμ/μ≧1.5であることが好ましい。運転開始初期とは、新品の中空糸膜モジュールに原液を導入して始めてろ過を開始するタイミングや、ろ過して閉塞した中空糸膜モジュールを薬液洗浄し、透水性を回復させた後に、改めて原液を導入してろ過を開始するタイミングである。運転開始初期に粘度差が生じている場合に、原液の流速vとろ過液の流速vの流速比が0.02≦v/v≦0.3となるように運転することが、目詰まりの進行を抑制する観点で好ましい。
【0053】
また、原液の流速vは0.30m/s≦v≦1.80m/sであることが好ましい。v≧0.30m/sであることで、原液流れの作用による中空糸膜表面への濁質蓄積を抑制することができ、ファウリングの進行を抑制できる。v≦1.80m/sであることで、原液側空間6の圧力損失を抑えられるので、中空糸膜5の原液導入口側端部にかかる原液側圧力を抑制でききる。その結果、当該箇所の負荷を低減でき、結果としてファウリングの進行を抑制できる。原液の流速vは0.50m/s≦v≦1.50m/sであることが好ましく、0.70m/s≦v≦1.30m/sであることがさらに好ましい。
【0054】
ろ過液の流速vは0.006m/s≦v≦0.30m/sであることが好ましい。v≧0.006m/sであることで、ろ過液側空間7の圧力損失を高めることができ、原液側空間6との圧力損失差を小さくできる。さらには、ろ過フラックス自体も高くできることから、必要な膜モジュール本数を削減することができる。v≦0.30m/sであることで、ろ過液側空間7の圧力損失が過剰に高くなることを防止でき、原液側空間6との圧力損失差を小さくすることができる。ろ過液の流速vは0.01m/s≦v≦0.25m/sであることが好ましく、0.03m/s≦v≦0.20m/sであることがさらに好ましい。
【0055】
中空糸膜モジュールを用いて原液をクロスフローろ過運転する期間の全てにおいて、原液の流速vとろ過液の流速vの流速比を0.02≦v/v≦0.3となるよう制御するのが好ましいが、運転開始初期にこの範囲内に制御することが特に好ましい。運転を継続するに従い、ファウリングが進行することで中空糸膜5の軸方向の膜間差圧差が緩和されていく。原液の流速vとろ過液の流速vの流速比を、運転開始から上記範囲外で運転した場合、閉塞が早くなって緩和の速度も速くなるため、ファウリングを抑制するためにも、特に運転開始初期に原液の流速vとろ過液の流速vの流速比を制御することが重要となる。
【0056】
原液の流速vとろ過液の流速vは、供給ポンプ14,濃縮液弁21、ろ過液弁22を調整することで制御できる。原液の流速vは供給ポンプ14の回転数や濃縮液弁21で調整できる。ろ過液の流速vは膜間差圧や原液の流速に影響を受ける。膜間差圧は原液側空間6の圧力とろ過液側空間7の圧力差であるため、供給ポンプ14の回転数や濃縮液弁21、ろ過液弁22の開度を調整することで制御可能である。供給ポンプ14、濃縮液弁21、およびろ過液弁22をPID制御(Proportional-Integral-Differential control)することで、原液流量およびろ過液流量を一定とすることができる。
【0057】
次に、本発明の中空糸膜モジュールの運転方法は、原液の粘度μが3.0mPa・s以上となる原液に適用することが好ましい。清澄なろ過液の場合、ろ過液粘度が1.0mPa・s程度となるため、3.0mPa・s以上の原液では、ろ過液の粘度μとの差が生じ、本発明の運転方法の効果が発現しやすくなる。一方、原液の粘度μが高くなりすぎると原液側空間6の圧力損失が高くなり運転が困難になることから、100.0mPa・s以下の原液に適用するのが良い。好ましくは30.0mPa・s以下の原液に適用することであり、さらに好ましくは10.0mPa・s以下の原液に適用することである。
【0058】
本発明の中空糸膜モジュールの運転方法を適用する原液については特に限定されず、原液の粘度μとろ過液の粘度μの比μ/μが1.5以上となる種々の原液に適用できるが、溶存性有機炭素(DOC)濃度が1,000mg/L以上100,000mg/L以下であることが好ましい。DOC濃度が1,000mg/L以上の場合、増粘成分が多く含まれており、本発明の中空糸膜モジュールの運転方法を適用することで、ファウリング進行の抑制効果が高い原液である。DOC濃度が5,000mg/L以上、さらには10,000mg/L以上の原液に適用することが好ましい。
【0059】
DOC濃度は、サンプルを孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過した液について全有機炭素(TOC)濃度を測定することで求められる。TOC濃度は全炭素(TC)から無機炭素(IC)を差し引いて算出するTC-IC法や、サンプルに酸を加えて曝気し、曝気後の液の全炭素を測定することでTOC濃度を算出するNPOC法などを用いて測定することができる。原液に揮発性有機炭素を多く含む場合にはTC-IC法を用いて測定するのが好ましい。
【0060】
また、本発明の中空糸膜モジュールに搭載される中空糸膜5については、原液の粘度μとろ過液の粘度μの比μ/μが1.5以上となるよう分離できれば特に限定されず、孔径が大きいものから精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜など種々の膜に適用することができるが、ナノろ過膜や逆浸透膜では、原液流れやろ過液流れにより生じる圧力損失よりも、膜を原液が透過する際の圧力損失が極めて大きく、原液側空間6やろ過液側空間7の圧力損失の影響が小さくなることから、精密ろ過膜や限外ろ過膜を適用することが好ましい。また、原液の粘度を高める増粘成分は、原液中に溶解している高分子量成分であることが多いことから、溶解している高分子量成分を分離可能な限外ろ過膜を適用することが好ましい。
【0061】
精密ろ過膜と限外ろ過膜については、種々の定義があるが、本発明においては以下のように定義する。すなわち、孔径が0.1μm以上10μm以下の分離膜を精密ろ過膜とし、孔径が0.1μmより小さく、分画分子量が1,000Da以上の分離膜を限外ろ過膜、分画分子量が1,000Daより小さい分離膜をナノろ過膜、逆浸透膜とする。
【0062】
次に、本発明で用いる中空糸膜5は、強力(破断時荷重)が500gf/本以上であることが好ましい。外圧式クロスフローろ過では、一例として図1に示すように、中空糸膜モジュール10の原液導入口2から原液を中空糸膜モジュール10に導入した後、原液導出口4から導出するが、原液導出口4から導出される際に原液の流れが90°転回することとなる。そのため、原液導出口4付近では中空糸膜5に対して中空糸膜5の長さ方向に垂直なせん断力が付与される。
【0063】
本発明においては、中空糸膜5の強力が500gf/本(4.90N/本)以上あることで、本願が想定するクロスフロー流速により生じるせん断に対し、糸切れや膜損傷などを抑制できることを見出した。
【0064】
強力とは、引っ張り試験機などにより中空糸膜5を軸方向に伸張させていき、破断した時点で付与していた荷重(gf)である。このときの測定温度は、実際の運転時の原液温度である。中空糸膜5の強力は、好ましくは600gf/本(5.88N/本)以上であり、さらに好ましくは700gf/本(6.86N/本)以上である。
【0065】
強力の測定方法は、特に限定されるものではないが、例えば、雰囲気温度を制御できる引っ張り試験機を用い、測定長さ50mmの試料を引っ張り速度50mm/分で引っ張り、試料を変えて5回以上行い、破断強度の平均値を求めることで測定することができる。
【0066】
さらに、本発明の中空糸膜モジュールの運転方法では、原液の流速vと原液の粘度μfがv≦-0.135μf+3.0の関係を満たすことが好ましい。原液の流速vは数1にて算出される値であり、単位はm/sである。原液の粘度μは実際に運転される温度における粘度であり、単位はmPa・sである。
【0067】
原液の流速v≦-0.135μf+3.0であることで、原液導出口4付近にて原液流れにより中空糸膜5に対して付与されるせん断力が大きくなることを防止でき、糸切れや膜損傷が生じる危険性を低減できる。好ましくはv≦-0.135μf+2.5であり、さらに好ましくはv≦-0.135μf+2.3である。
【0068】
中空糸膜モジュール10に装填される中空糸膜5の寸法について、外径Dは600μm≦D≦2000μmであることが好ましい。D≦2000μmであることで、中空糸膜モジュール当たりの膜面積が過剰に小さくならず、モジュール当たりのろ過液流量を確保できる。また、D≧600μmであることで、原液と中空糸膜の接触面積が増えることによって、原液側空間の圧力損失が過剰に高くなることを抑制できる。外径Dは900μm≦D≦1800μmであることが好ましく、1000μm≦D≦1500μmであることがさらに好ましい。
【0069】
中空糸膜5の内径Dは、300μm≦D≦1000μmであることが好ましい。300μm≦D≦1000μmであることで、ろ過液側空間7の圧力損失を適切な範囲に制御でき、中空糸膜5の長さ方向における膜間差圧差を小さくすることができる。400μm≦D≦900μmが好ましく、500μm≦D≦800μmがさらに好ましい。
【0070】
中空糸膜5の外径D、内径Diは、中空糸膜5を片刃などで軸方向に垂直な面で切断し、断面を顕微鏡などの方法で観察して外円ならびに内円の直径を測定する。外円もしくは内円が扁平している場合には、最も直径が長い部分の長さ(長径)と、最も直径が短い部分の長さ(短径)を測定し、両者を平均して算出する。好ましくは中空糸膜モジュール10に装填される中空糸膜5を任意に切り取り、10本以上の中空糸膜の外径、内径を平均した値を用いるのがよい。
【0071】
中空糸膜モジュール10に装填される中空糸膜5の充填率Mは、25%≦M≦45%であることが好ましい。25%≦M≦45%とすることで、モジュール当たりの膜面積を確保しつつ、原液側の圧力損失を適切な範囲に制御できる。充填率Mは、好ましくは28%≦M≦42%であり、さらに好ましくは30%≦M≦40%である。
【0072】
充填率Mは、容器1の内径D、中空糸膜5の外径D、中空糸膜5の本数Nより下記式(6)にて算出する。容器1内に、中空糸膜5以外に原液側空間6に存在する部材がある場合には、その部材の容器1の軸方向に垂直な断面積を計算し、中空糸膜5の専有面積Sに加えて計算する。
【0073】
【数6】
【0074】
膜長Lは、中空糸膜5が容器1に充填された状態で、実際にろ過に使用される部分、すなわち、中空糸膜5の外表面が原液と接する部分の、容器1に平行な向きの長さとなる。図1においては、中空糸膜5のうち、第1ポッティング部8の第2ポッティング部側端面から、第2ポッティング部9の第1ポッティング部側端面までの中空糸膜の長さとなる。第1ポッティング部8や第2ポッティング部9に包埋された中空糸膜の長さはここでは考慮しない。
【0075】
本発明においては、膜長Lが0.50m≦L≦2.00mであることが好ましい。0.50m≦L≦2.00mであることで、、中空糸膜モジュールの膜面積を確保しつつ、原液側空間6の圧力損失が過剰に大きくなることを抑制し、ファウリングの進行を防止できる。膜長Lは0.70m≦L≦1.50mが好ましく、0.80m≦L≦1.20mであることがさらに好ましい。
【0076】
中空糸膜5がいわゆるU字型で充填され、第2ポッティング部9のみに両端部が開口した状態で包埋された中空糸膜モジュールの場合には、膜長Lは、実際にろ過に使用される中空糸膜の長さの半分、すなわち、中空糸膜の外表面が原液と接する部分の糸の長さの半分となる。
【0077】
第1ポッティング部8がなく、中空糸膜5の原液導入口側端部が自由端である場合には、自由端の内、接着剤や熱による封止処理が施されていない部分から、第2ポッティング部9の原液導入口側端面までの長さとなる。
【0078】
また中空糸膜5が捲縮、もしくはよじれている場合においても、膜長Lは、中空糸膜のうち実際にろ過に使用される部分、すなわち、中空糸膜の外表面が原液と接する部分の、容器1に平行な向きの長さとして測定してよい。
【0079】
次に、本発明の中空糸膜モジュールの運転方法は、上述したろ過工程に加えて、好ましくは、中空糸膜の内表面側から外表面側に向かって洗浄液を流す逆流洗浄工程をさらに有し、かつ、中空糸膜の外表面の表面孔径φが0.005μm≦φ≦0.02μmであり、中空糸膜の内表面の表面孔径φと外表面の表面孔径φの比がφ/φ>50であることが好ましい。
【0080】
一般的にろ過運転では、中空糸膜表面の細孔より大きな成分は中空糸膜5の表面に堆積する。また、原液中に含まれる中空糸膜表面の細孔よりも小さい成分は細孔内に入り込む。これにより、膜表面と膜内部が目詰まりを起こすことになる。外圧クロスフローろ過では、クロスフローろ過運転によって生じる流れにより、膜表面に堆積する成分が取り除かれる。
【0081】
膜内部の目詰まりを解消するために、中空糸膜の内表面側から外表面側に向かって、洗浄液を流す逆流洗浄工程が行われることが好ましい。逆流洗浄工程は、例えばろ過液タンク13から圧縮ガスやポンプ等を用いて、中空糸膜モジュール10のろ過液側空間7に洗浄液を通液し、原液側空間6に流れ出てくる洗浄液を、中空糸膜モジュール10の外部に排出するといった工程である。
【0082】
しかしながら、逆流洗浄のみでは膜内部まで侵入した成分を全て取り除くことは難しく、長期間の運転では、膜の目詰まりが進行して薬品による洗浄を行う必要がある。薬品による洗浄は膜の強度劣化を誘発し、膜の長期間使用の妨げとなる。
【0083】
さらに、本発明のようにろ過液の粘度が原液よりも小さくなる場合、特に原液中の目詰まり成分が中空糸膜により原液側空間に保持され、膜表面に付着することで、主に膜表面と表面近傍の細孔内に目詰まり成分が蓄積しやすい。
【0084】
この問題に対し、鋭意検討の結果、外圧クロスフローろ過を行う中空糸膜モジュールにおいて、中空糸膜の外表面の孔径と、内表面と外表面の孔径比を制御した中空糸膜を用いることで、特によく逆流洗浄の効果が表れ、長期間の安定したろ過が可能であることを見出した。
【0085】
中空糸膜の外表面の表面孔径φが0.005μm≦φ≦0.02μmであることが好ましい。0.005μm≦φ≦0.02μmであることで、必要なろ過液量を確保できる孔径を有しながら、膜内部に目詰まり成分が侵入することを抑制できる。孔径φは、0.005μm≦φ≦0.009μmであることがさらに好ましく、0.005μm≦φ≦0.008μmであることが特に好ましい。
【0086】
本発明における表面孔径は以下の方法で求める。中空糸膜の外表面ならびに内表面を走査型電子顕微鏡(SEM)もしくは透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察した画像を、フリーソフト「ImageJ」を使って二値化する。二値化する際は、Subtract Backgroundにて1pixelとしてCreate Backgroundした後、Threshold(二値化の閾値)で条件:RenyiEntropyを選択する。得られた二値化画像において、Analyze ParticlesでAreaを選択することで、各孔の面積を求め、各孔を円と仮定して直径を算出する。表面孔径は孔百個以上の孔径を平均して求める。
【0087】
また、表面に凹凸などがあり、二値化により孔を選別することが困難な場合には、後述する断面孔径より表面孔径を求めても良い。その場合、表面から20μm以内の深さの断面孔径を表面孔径とする。
【0088】
また、中空糸膜のろ過液と接する面である内表面の孔径φと原液と接触する面である外表面φの孔径の比(外表面φの孔径に対する内表面の孔径φの比率)φ/φはφ/φ>50であることが好ましい。φ/φ>50であることで、膜表面近傍の洗浄液の流速を高くすることができ、膜表面や表面近傍の細孔内に目詰まり成分が蓄積しやすい、原液とろ過液に粘度差がある原液においても、表面近傍の洗浄効果を特に高めることができる。φ/φ>60であることが好ましく、φ/φ>70であることが特に好ましい。また、φ/φは値が大きいほど、逆流洗浄による中空糸膜の洗浄回復性が高くなるため、上限は特に限定されないが、例えば1000以下、好ましくは700以下である。
【0089】
逆流洗浄工程で用いる洗浄液は、純水やろ過液など、原液よりも粘度の低い液体を用いることで、洗浄効果を発揮しやすく、好ましい。逆流洗浄工程はクロスフローろ過運転中、停止後などに行うことができ、その頻度も運転中の状況により適宜設定すればよい。
【0090】
本発明の中空糸膜5は単層の中空糸膜でも良いが、2層以上積層された複合中空糸膜が、φ/φを大きく取りやすく好ましい。この場合、外表面側の層の透過係数Lpと内表面側の層の透過係数Lpについて、Lp≧Lpであることが好ましい。透過係数Lpは水の通り易さの指標であり、下記式(7)で表され、透過係数が大きいほど水が通りやすく、小さいほど通りにくいことを示す。式(7)は例えばJournal of Chemical Engineering of Japan(Vol.15,No.3 (1982) pp.200~205)に記載されている。上述した文献では、断面孔径は直径ではなく半径で、空隙率は開口率で表記されているが、同じ意味で使用している。なお、後述する純水透過性能Kは透過係数Lpと同じく水の通り易さの指標であるが、純水透過性能Kが透水性の測定結果から算出されたものであるのに対し、透過係数Lpは分離膜のミクロな構造から算出されたものである点が異なる。透過係数Lpは各層における水の通り易さを比較することにのみ用いる。
【0091】
【数7】
【0092】
ここでφは断面孔径(μm)、Aは空隙率(-)、μは水の粘度(Pa・s)、Hは厚み(μm)である。
【0093】
内表面側の層の透過係数Lpが外表面側の層の透過係数Lpより大きいことで、逆流洗浄したした際に、内表面側の層を通過する洗浄液の圧力損失を小さくすることができ、目詰まり成分が蓄積しやすい外表面側の層に作用する圧力を高くすることができ、洗浄効果が高まる。
【0094】
本発明の断面孔径は以下の方法で求めることができる。観察用断面試料は、市販の凍結組織切片作成用包埋剤を用いて包埋した中空糸膜を、クライオウルトラミクロトームを用いて、低温で多孔質膜を厚み100nmで切片を採取し、室温で1晩真空乾燥を行って得る。中空糸膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)もしくは透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、各層の画像を得る。層の構造が膜厚方向に対称な構造であれば、層の中心部分の画像を取得し、層の構造が膜厚方向に非対称な構造であれば、最も緻密な孔径を有する領域の画像を取得する。その後、フリーソフト「ImageJ」を使って二値化する。二値化する際は、Threshold(二値化の閾値)で条件:Minimumを選択する。得られた二値化画像において、Analyze ParticlesでAreaを選択することで、各孔の面積を求め、各孔を円と仮定して直径を算出する。断面孔径は百個以上の細孔の孔径を平均して求める。
【0095】
空隙率Aについても、上述した中空糸膜断面の二値化画像より求めることができ、算出した孔の面積の合計値を観察した画像のうち、中空糸膜を含む全面積で割ることで空隙率を算出する。
【0096】
なお透過係数Lpは、本発明においては膜厚方向に10μm間隔の領域で算出するものとし、断面孔径ならびに空隙も10μm間隔の領域で算出した値を用いる。また、各層の構造が膜厚方向に対称である場合には、透過係数Lpは膜厚方向で各層の中心に位置する領域で算出した透過係数Lpを当該層のLpとし、各層の構造が膜厚方向に非対称である場合には、透過係数Lpは膜厚方向で断面孔径が最も緻密な領域で算出した透過係数Lpを当該層のLpとする。
【0097】
また、外表面側の透過係数の小さな層の厚みH、内表面側の透過係数の大きな層の厚みHが、H/H≦1.0となることが好ましい。H/H≦1.0であることで、透過係数の小さな層で生じる圧力損失を小さくすることができる。その結果、目詰まり成分が蓄積しやすい外表面側の層に作用する圧力を高くすることができ、洗浄効果が高まる。H/Hが小さすぎると、増粘成分を阻止するための分離機能が低下するため、0.04≦H/H≦0.5が好ましく、0.1≦H/H≦0.4がより好ましい。
【0098】
外表面側の、孔径が小さく透過係数の小さな層としては、微細な孔を形成しやすい三次元網目構造層が好適である。一方内表面側の、孔径が大きく透過係数の大きな層としては、粗大な孔を形成しやすくかつ、高い強度を有する球状構造層が好適である。そのため、2層から構成される複合中空糸膜としては、内表面側に球状構造層が設けられ、外表面側に三次元網目構造層が設けられることが好ましい。
【0099】
内表面側に球状構造層が設けられ、外表面側に三次元網目構造層が設けられた複合中空糸膜においては、三次元網目構造層の厚みは、上述した洗浄効果の観点や増粘成分の阻止性の観点から、20μm以上120μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以上80μm以下である。三次元網目構造層の厚みが20μm未満となる場合には、増粘成分の阻止率が低下する可能性がある。120μmよりも厚い場合には、透過抵抗が大きくなりすぎることで、洗浄効果の低下、ならびに透水性の低下を引き起こす場合がある。
【0100】
また、球状構造層の厚みも、上述した洗浄効果の観点や中空糸膜の強度ならびに透水性の観点から、好ましくは120μm以上500μm以下、より好ましくは200μm以上300μm以下である。
【0101】
三次元網目構造層の形成には、後述する液―液型熱誘起相分離法や非溶媒誘起相分離法を用いることができ、球状構造層の形成には固―液型熱誘起相分離法を用いることができる。
【0102】
中空糸膜5の材料となる高分子としては、例えば、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、ポリプロピレン若しくはポリ-4-メチルペンテン-1等のオレフィン系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体若しくはテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等のフッ素含有ポリマー、酢酸セルロース等のセルロース系ポリマー、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート又はポリビニルアルコール系ポリマーが挙げられる。得られる中空糸膜の耐熱性、物理的強度及び化学的耐久性を高めるため、フッ素樹脂系高分子、ポリエーテルスルホン又はポリスルホンが好ましいが、膜にかかる負荷の大きいクロスフローろ過用中空糸膜モジュールにおいては、強度に優れるフッ素樹脂系高分子が好ましい。
【0103】
また、中空糸膜5のファウリングを低減するために親水性高分子を含んでいても良い。具体的には、ビニルアルコール、エチレングリコール、ビニルピロリドン、メタクリル酸、アリルアルコール、セルロース、酢酸ビニルを含む重合体が挙げられる。さらに、親水性基を含有する共重合体ポリマーとしては、ケン化度が99%未満のポリビニルアルコールやビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合ポリマー、ビニルピロリドン・ビニルカプロラクタム共重合ポリマー、ビニルピロリドン・ビニルアルコール共重合ポリマー、などが挙げられる。
【0104】
以下に本発明の中空糸膜モジュールの製造方法について説明する。
【0105】
(中空糸膜の製造方法)
本発明における中空糸膜の製造方法について、一例としてフッ素樹脂系高分子を用いた中空糸膜の製造方法を示す。フッ素樹脂系高分子を用いた中空糸膜の製法としては、熱誘起相分離法や非溶媒誘起相分離法など種々の製法を用いることができる。以下、熱誘起相分離法を用いた製造方法を示す。
【0106】
フッ素樹脂系高分子を、フッ素樹脂系高分子の貧溶媒または良溶媒に、結晶化温度以上の比較的高温で溶解することで、フッ素樹脂系高分子溶液(つまり、フッ素樹脂系高分子を含有する製膜原液)を調製する。
【0107】
製膜原液中の高分子濃度が高いと、高い強度を有する多孔質中空糸膜が得られる。一方で、高分子濃度が低いと、多孔質中空糸膜の空隙率が大きくなり、純水透過性能が向上する。このため、フッ素樹脂系高分子の濃度は、20重量%以上60重量%以下であることが好ましく、30重量%以上50重量%以下であることがより好ましい。
【0108】
本明細書において、貧溶媒とは、フッ素樹脂系高分子を60℃以下の低温では、5重量%以上溶解させることができないが、60℃以上かつフッ素樹脂系高分子の融点以下(例えば、高分子がフッ化ビニリデンホモポリマー単独で構成される場合は178℃程度)の高温領域で5重量%以上溶解させることができる溶媒である。良溶媒とは、60℃未満の低温領域でもフッ素樹脂系高分子を5重量%以上溶解させることができる溶媒であり、非溶媒とは、フッ素樹脂系高分子の融点または溶媒の沸点まで、フッ素樹脂系高分子を溶解も膨潤もさせない溶媒と定義する。
【0109】
ここで、フッ素樹脂系高分子の貧溶媒としてはシクロヘキサノン、イソホロン、γ-ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド等およびそれらの混合溶媒が挙げられる。良溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル等およびそれらの混合溶媒が挙げられる。非溶媒としては、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o-ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体およびそれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0110】
中空糸膜の形成工程においては、温度変化により相分離を誘起する熱誘起相分離法を利用して、フッ素樹脂系高分子を含有する製膜原液から、中空糸膜を得る。熱誘起相分離法には、主に2種類の相分離機構が利用される。一つは高温時に均一に溶解した高分子溶液が、降温時に溶液の溶解能力低下が原因で高分子濃厚相と高分子希薄相に分離し、その後構造が結晶化により固定される液-液相分離法である。もう一つは高温時に均一に溶解した高分子溶液が、降温時に高分子の結晶化が起こり高分子固体相と溶媒相に相分離する固-液相分離法である。
【0111】
前者の方法では主に三次元網目構造が、後者の方法では主に球状組織で構成された球状構造が形成される。本発明の中空糸膜の製造には特に指定はないが、強度が求められるクロスフローろ過用の中空糸膜としては、後者の相分離機構が好ましく利用される。よって、固-液相分離が誘起される高分子濃度および溶媒が選択される。
【0112】
具体的な方法としては、上述の製膜原液を多孔質中空糸膜紡糸用の二重管式口金の外側の管から吐出しつつ、中空部形成液体を二重管式口金の内側の管から吐出する。こうして吐出された製膜原液を冷却浴中で冷却固化することで、多孔質な中空糸膜を得る。
【0113】
次に、口金から吐出されたフッ素樹脂系高分子溶液を冷却する冷却浴について説明する。冷却浴には、濃度が50~95重量%の貧溶媒あるいは良溶媒と、濃度が5~50重量%の非溶媒からなる混合液体を用いることが好ましい。さらに貧溶媒としては高分子溶液と同じ貧溶媒を用いることが好ましく採用される。また、中空部形成液体には、冷却浴同様、濃度が50~95重量%の貧溶媒あるいは良溶媒と、濃度が5~50重量%の非溶媒からなる混合液体を用いることが好ましい。さらに貧溶媒としては高分子溶液と同じ貧溶媒を用いることが好ましく採用される。以上の方法で得られるフッ素樹脂系高分子からなる中空糸膜を延伸させてもよい。延伸倍率や延伸温度は、所望の孔径、寸法、純水透過性能によって適宜選定される。
【0114】
本発明の中空糸膜モジュールに充填される中空糸膜を得る場合、中空糸膜の内外径は主に二重管式口金の口金径や、製膜原液および中空部形成液体の吐出量を調整することで制御可能である。すなわち、内外径の大きな中空糸膜は、径の大きな二重管式口金を使用する、もしくは製膜原液ならびに中空部形成液体の吐出量を増加させることで得られる。また延伸倍率、延伸温度を変化させることでも寸法を調整可能である。
【0115】
複合中空糸膜を得る方法としては、複数の層を同時に形成させる方法と、単層の中空糸膜上にその他の層を順に形成させる方法がある。前者としては、例えば多重管式口金を用いて、複数の樹脂溶液を複合成型する方法などがある。また、後者としては例えば上記工程の後に得られた中空糸膜に、その他の層を形成する樹脂溶液を塗布した後、ノズルやスリットコータで掻き取り形成させる方法、あるいはその他の層を形成する樹脂溶液をスプレーコーティングする方法などがある。この中でも、その他の層を形成する樹脂溶液を塗布し、その後掻き取り成形し固化させる方法が簡便であり好ましい。
【0116】
上記方法での複合分離膜の製造において、その他の層を形成する樹脂溶液は特に限定されないが、分離膜表面の改質や緻密化を目的とした場合には、三次元網目状構造が好ましく用いられる。球状構造と三次元網目状構造からなる複合分離膜の場合、三次元網目状構造を形成させるためには、非溶媒誘起相分離法を利用することができる。ここで非溶媒誘起相分離とは、樹脂溶液を非溶媒に接触させることにより固化せしめる相分離である。
【0117】
非溶媒誘起相分離法を利用する場合、樹脂溶液の溶媒としては、樹脂の良溶媒が好ましく、例えばポリフッ化ビニリデン系樹脂の良溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン等の低級アルキルケトン、エステル、アミド等およびその混合溶媒が挙げられる。ここで良溶媒とは、60℃未満の低温でもポリフッ化ビニリデン系樹脂を5重量%以上溶解させることが可能な溶媒である。
【0118】
また、非溶媒は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点または溶媒の沸点まで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を溶解も膨潤もさせない溶媒と定義する。ここでポリフッ化ビニリデン系樹脂の非溶媒としては、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o-ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体およびその混合溶媒などが挙げられる。
【0119】
(中空糸膜モジュールの作製)
中空糸膜モジュールの種類は、容器1と中空糸膜5を接着剤で固定する容器一体型モジュールと、容器1と中空糸膜5は接着剤で固定されず、中空糸膜5が容器1から着脱可能なカートリッジ型モジュールに分けられる。
【0120】
容器一体型モジュールにおいては、複数の中空糸膜5を容器1に挿入し、中空糸膜5の端部と容器1を接着剤で固定する。カートリッジ型モジュールにおいては、中空糸膜を専用の治具などに挿入して接着剤で膜同士を接着し、容器1とは固定しない。
【0121】
どちらの方法においても、中空糸膜5を固定用の治具や容器、またはその両方に挿入し、接着剤を流し込んで固定する。中空糸膜同士の間隙に接着剤を充填する方法としては、例えば、遠心力を利用してポッティング剤を浸透させる遠心ポッティング法、又は、接着剤を自然流動により浸透させる静置ポッティング法が挙げられる。また接着剤を注型用の型に注入し、中空糸膜同士の間隙に充填させても構わない。
【0122】
接着剤で固定された中空糸膜端部を開口させる場合には、接着剤を流し込んだ際に接着剤が中空糸膜中空部に流入しないよう中空糸膜5の端部をあらかじめ封止しておき、接着剤で固定する。封止の方法としては中空部のみに接着剤を注入する方法や熱、溶媒による溶着などが挙げられる。端部を封止した中空糸膜5を接着剤で固定した後、封止部より他端側を、中空糸膜5の断面方向にカットすることで開口させることが可能である。中空糸膜端部を封止せず接着剤で固定すれば、接着剤が中空糸膜5の中空部に流入するため、当該端部は封止される。
【0123】
本発明においては、中空糸膜5の両端を接着剤で固定する方法を採用してもよいが、中空糸膜5の原液導入口側端部については、接着剤で固定しない自由端としてもよい。
【0124】
(中空糸膜モジュールの圧力分布シミュレーション)
本発明の中空糸膜モジュールの運転方法の効果を検証すべく、中空糸膜モジュール内の圧力分布をシミュレーションすることで、実験で検討できない範囲を検討した。
【0125】
図3にシミュレーションのためのモデル概要を示す。図3の(a)に1本の中空糸膜5と、原液ならびにろ過液の流れを示している。図3中、原液は網掛けされた矢印により、ろ過液は白抜きの矢印により示されている。中空糸膜5の原液導入口側端部をn=0、ろ過液導出口側端部の位置をn=kとする。中空糸膜5の原液導入口側端部は封止、ろ過液導出口側端部は開口しており、ろ過液はすべてろ過液導出口側端部より導出される。ここで中空糸膜5を軸方向にΔlずつメッシュ化した際の、微小区間nにおける液の流れを図3の(b)に示す。nは0以上の整数であり、kは1以上の自然数である。微小区間nにおいては、微小区間n-1より導出されるろ過液と、微小区間nにおいて膜によりろ過されたろ過液とが合流する。その結果、微小区間nより導出されるろ過液流量Qi,nとしては、微小区間n-1より導出されるろ過液量をQi,n-1、微小区間nにおいて膜によりろ過されたろ過液量をQp,nとすると、下記式(8)のようになる。なお、Qi,-1は存在せず、Qi,0=Qp,0である。kは50以上が好ましく、100以上がより好ましい。また、原液導入口側端部から微小区間nまでの膜長をlとする。l=0であり、l=Lである。
【0126】
【数8】
【0127】
微小区間nにおけるろ過液流量Qp,nは、微小区間nにおける原液側圧力Po,nとろ過液側圧力Pi,n、膜面積A、膜ろ過抵抗R、ならびにろ過を行う温度におけるろ過液の粘度μより、下記式(9)~(11)より計算される。Rは、ミニチュアモジュールにて純水透過性能Kを測定した際のろ過流束J(=透過量(m)/ろ過時間(hr)/有効膜面積(m))、膜間差圧ΔP及び粘度μより計算され、ろ過開始初期は中空糸膜5の軸方向で一様であるとする。
【0128】
【数9】
【0129】
【数10】
【0130】
【数11】
【0131】
微小区間nにおける原液側圧力Po,nについては、原液導入圧力Po,0と、原液流れにより生じる圧力損失ΔP×lを考慮し、下記式(12)より計算される。実際には原液の一部が膜によってろ過されるため、循環流量としては中空糸膜5の軸方向で変化することになるが、循環流量に対してろ過される流量が小さいために無視できる。そのため、本モデルでは原液流れにより生じる、軸方向の単位長さ当たりの圧力損失ΔPは位置によらず一定として計算する。
【0132】
【数12】
【0133】
単位長さ当たりの圧力損失ΔPについては、原液側空間6の相当直径D、原液の粘度μより、下記式(13)~(14)にて圧力損失ΔPを計算する。なおρは原液密度、Dは容器1の内円の直径、τは原液側流路の形状補正係数である。
【0134】
【数13】
【0135】
【数14】
【0136】
微小区間nにおけるろ過液側圧力Pi,nについては、中空糸膜5の内部を流れる際の圧力損失より計算される。ここでは中空糸膜5の内部を流れるろ過液のレイノルズ数Rei,nを算出し、微小区間nからろ過液導出口側端部までの圧力損失を積分して算出する。vp、nは微小区間nにおけるろ過液の流速である。ここでは内部を流れる流れが層流であるとした場合の計算方法を下記式(15)~(16)に示す。
【0137】
【数15】
【0138】
【数16】
【0139】
ここでは便宜上Pi,k=0とし、中空糸膜5より得られるろ過液流量Qi,kが下記式(17)を満たすようPo,0を調整することで、中空糸膜5の原液側、ろ過液側の圧力分布が計算される。なお、Jは設定したろ過流束を示す。
【0140】
【数17】
【0141】
このように計算して得られる圧力分布より、微小区間nにおける原液側圧力Po,nとPi,nの差が、その区間での膜間差圧ΔPm,nである。本発明の中空糸膜モジュールの運転方法においては、中空糸膜5の軸方向の膜間差圧差であるΔPm,k-ΔPm,0が50kPa以下となることが好ましい。
【実施例
【0142】
以下に具体的な実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、本発明に関する各種パラメータは上記の方法を用いて測定した。
【0143】
(純水透過性能の測定)
純水透過性能Kは中空糸膜3本からなる、中空糸膜の膜長が0.1mのミニチュアモジュールを作製して測定した。温度25℃、ろ過差圧16kPaの条件下に、逆浸透膜ろ過水の外圧全量ろ過を10分間行い、透過量(m)を求めた。その透過量(m)を単位時間(h)および有効膜面積(m)あたりの値に換算し、さらに(50/16)倍することにより、圧力50kPaにおける値に換算することで純水透過性能Kを求めた。有効膜面積は、本発明においては中空糸膜5の外表面のうち、実施にろ過に使用される部分の面積である。
【0144】
(強力の測定)
強力は引っ張り試験機(TENSILON(登録商標)/RTM-100、東洋ボールドウィン株式会社製)を用い、測定長さ50mmの試料を、25℃の雰囲気中で引っ張り速度50mm/分で、試料を変えて5回以上試験し、平均値を算出した。
【0145】
(粘度の測定)
図4に示す装置を用いて粘度を測定した。恒温水槽15内に原液タンク12、細管16を設置し、原液を細管16に送液ならびに返送できるようフッ素チューブで接続した。細管16には内径2.0mm、管長1.0mのフッ素チューブを用いた。細管の両端に管入口圧力計45と管出口圧力計46を接続した。恒温水槽15内に水をはり、原液を実運転時と同等の温度に温調した。
【0146】
その後、実運転で使用する中空糸膜モジュールの流路直径Dと流速vよりせん断速度を求め、実モジュールのせん断速度γと同等のせん断速度となるよう細管に送液する原液の流速vを設定した。設定した流速vで原液を送液し、測定される管入口圧力P1ならびに管出口圧力P2から、式(5)を用いて粘度を算出した。
【0147】
(孔径の測定)
中空糸膜を25℃で1晩、真空乾燥した後、SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製;S-5500)を用いて、3万~10万倍の倍率で観察した。多孔質膜の表面を観察したSEMで得た画像を、フリーソフト「ImageJ」を使って二値化した。二値化する際は、Subtract Backgroundにて1pixelとしてCreate Backgroundした後、Threshold(二値化の閾値)で条件:RenyiEntropyを選択した。得られた二値化画像において、Analyze ParticlesでAreaを選択することで、各孔の面積を求め、各孔を円と仮定して直径を算出した。表面孔径は、千個以上の孔の孔径を平均して求めた
【0148】
断面孔径は、市販の凍結組織切片作成用包埋剤(ティシュー・テック社製;O.C.T.コンパウンド)を用いて包埋した中空糸膜を、クライオウルトラミクロトーム(Leica製;FC7)を用いて、-40℃で多孔質膜を表面と垂直な向きに100nmの厚みの切片を採取し、室温で1晩真空乾燥を行った。中空糸膜の断面をSEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製;S-5500)、もしくはTEM(日本電子社製;JEM-1400Plus)で観察し、画像を得て、フリーソフト「ImageJ」を使って二値化した。二値化する際は、Threshold(二値化の閾値)で条件:Minimumを選択した。得られた二値化画像において、Analyze ParticlesでAreaを選択することで、各孔の面積を求め、各孔を円と仮定して直径を算出した。断面孔径は、千個以上の孔の孔径を平均して求めた。
【0149】
(中空糸膜の製造)
(参考例1)
まず始めに、重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KF1300、重量平均分子量:41.7万、数平均分子量:22.1万)39重量%とγ-ブチロラクトン61重量%を150℃で溶解し、原料液としてのポリマー溶液を得た。
【0150】
得られたポリマー溶液の加圧および吐出には、二重管式口金と、その口金につながれた配管と、その配管上に配置された2つのギヤーポンプとを備える装置を用いた。ギヤーポンプ間の配管内で、上記原料液を、2.5MPaに加圧しながら、100~103℃で15秒間滞留させた。その後、二重管式口金の内側の管からγ-ブチロラクトン85重量%水溶液を吐出しながら、外側の管から原料液を吐出した。γ-ブチロラクトン85重量%水溶液からなる温度5℃の冷却浴中に原料液を20秒間滞留させ、固化させた。ついで、95℃の水中にて、上記で得られた中空糸膜を1.5倍に延伸し、支持層を得た。
【0151】
上記で得られた支持層に機能層を塗布して複合膜を得た。機能層には、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを12重量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社、CA435-75S)を7.2重量%、N-メチル-2-ピロリドンを80.8重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。
【0152】
この製膜原液を球状構造からなる中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに、水100%からなる凝固浴中で凝固させて球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。得られた中空糸膜は、外径が1.30mm、内径が0.75mm、純水透過性能が0.4m/hr、強力が1010g/本であった。また、外表面の孔径φは二値化したSEM画像より0.006μmと算出され、内表面の孔径φiは断面孔径より0.6μmと算出され、φ/φは100であった。
また、球状構造層の厚みLiは0.225mmであった。
【0153】
(参考例2)
参考例1において、機能層の製膜原液を凝固させる凝固浴の温度を調整し、外表面の孔径が0.010μmとなる中空糸膜を作製した。この時、外径は1.30mm、内径は0.75mm、純水透過係数は0.6m/hr、強力は1010g/本であり、φ/φは60であった。
【0154】
(参考例3)
重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを12重量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社、CA435-75S)を7.2重量%、N-メチル-2-ピロリドンを80.8重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。
【0155】
二重管式口金の外側の管から調整した高分子溶液を、二重管式口金の内側の管から水100%からなる注入液を吐出しながら、水100%からなる凝固浴中で凝固させて三次元網目構造の層からなる中空糸膜を作製した。得られた中空糸膜は、外径が1.30mm、内径が0.75mm、純水透過性能が0.5m/hr、強力が230g/本、外表面の孔径φが0.008μmであり、φ/φが1.13であった。
【0156】
(中空糸膜モジュールの製造)
得られた中空糸膜5を長さ1.2mにカットし、30質量%グリセリン水溶液に1時間浸漬後、風乾した。その後シリコーン接着剤(東レ・ダウコーニング社製、SH850A/B、2剤を質量比が50:50となるように混合したもの)で中空糸膜のろ過液導出口側端部を目止めした。
【0157】
その後、図1に示すように容器1(内径97.6mm、長さ1100mm)に前述の中空糸膜5を、目止めしたろ過液導出口側端部がろ過液導出口3側にくるように充填した。容器1の側面のろ過液導出口3側には原液導出口4が備えられている。
【0158】
続いて、容器1の原液導入口2側に第1ポッティング部形成治具を、ろ過液導出口3側に第2ポッティング部形成治具を取り付けた。第1ポッティング部形成治具には、原液を原液側空間6に導入するための貫通孔を開口させるため、直径7mm、長さ100mmのピンを、中空糸膜5の軸方向と同方向に挿入した。
【0159】
ポッティング剤として、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(ハンツマン社製、LST868-R14)と脂肪族アミン系硬化剤(ハンツマン社製、LST868-H14)を質量比が100:30となるように混合し、合計800g(片端当たり400g)をポッティング剤投入器に入れた。
【0160】
続いて遠心成型機を回転させ、ポッティング剤を両端の第1ポッティング部形成治具および第2ポッティング部形成治具に充填して第1ポッティング部8および第2ポッティング部9を成形し、ポッティング剤を硬化させた。遠心成型機内の温度は35℃、回転数は300rpm、遠心時間は5時間とした。
【0161】
硬化後、第1ポッティング部形成治具、第2ポッティング部形成治具及びピンを抜き取り、室温で24時間硬化させた後、第2ポッティング部9の端部をチップソー式回転刃でカットし、中空糸膜5のろ過液導出口側端面を開口させた。
【0162】
続いて容器1に原液導入口2を備えた下部キャップと、ろ過液導出口3を備えた上部キャップを取り付け、中空糸膜モジュールとした。このとき、中空糸膜の膜長Lは1.0m、充填率Mは40%、膜面積は9.2mであった。
【0163】
(ろ過試験)
上記で得られた中空糸膜モジュールを用いたろ過試験には、図2に示したろ過ユニットを使用した。原液タンク12の容積は200Lであり、供給ポンプ14を稼働させて原液を中空糸膜モジュールに導入し、一部をろ過してろ過液タンク13にろ過液を送液した。ろ過されなかった原液は、原液導出口4から原液タンク12に全て還流した。ろ過液タンク13に送液されたろ過液は、都度ポンプにて原液タンク12に返送し、原液タンクの水位が減らないよう制御した。
【0164】
ろ過は定流量で行い、膜の閉塞に伴い膜間差圧を上昇させた。なお、ここでの膜間差圧は原液導入圧力計41で測定される原液導入圧力と、原液導出圧力計42で測定される原液導出圧の平均値から、ろ過液導出圧力計43で測定されるろ過液導出圧を差し引くことで算出した。ろ過液導出圧は20kPaに固定して運転し、膜間差圧の上昇速度は、膜面積当たりのろ過量(m/m)が0.1m/mとなるまでに上昇した膜間差圧を0.1m/mで割った値(単位はkPa/mで以後表記)とした。
【0165】
(参考例4)
上記式(8)~(17)に示したシミュレーションが実際の中空糸膜モジュールの圧力分布をどの程度正確に予測できるか検証した。
【0166】
検証には、上記で得られた中空糸膜を用い、上記とは異なる別の中空糸膜モジュールを作成した。容器1としては内径が6mmのフッ素チューブを使用し、上記で得られた中空糸膜15本を膜長Lが1.0mとなるように、両端を開口した状態でポッティングした。このときの充填率Mは32%であった。図5に示すように、原液導入口2と原液導出口4はチューブの側面に接続しており、原液導入口2より導入された原液が容器1内を中空糸膜5の軸方向に平行な方向に流れ、原液導出口4より導出される。このとき、原液導入圧力計41により測定される圧力を原液導入圧力Po,0とし、原液導出圧力計42により測定される圧力を原液導出圧力Po,kとした。
【0167】
一方ろ過液側については、開口した両端のそれぞれに圧力計が接続しており、ろ過液タンク13に接続する配管に備えられた、ろ過液導出圧力計43により測定される圧力をろ過液導出圧力Pi,kとし、他端側のろ過液導入圧力計44により測定される圧力をろ過液導入圧力Pi,0とした。
【0168】
本願の中空糸膜モジュール10においては、図1に示すように、中空糸膜5のろ過液導出口側端部は開口しており、原液導入口側端部は封止される。そのため、式(16)に示すPi,nのうち、n=0の位置であるろ過液導入圧力Pi,0を実測できない。そのため、本シミュレーションの検証用として、両端が開口したミニチュアモジュールを作製し、Pi,0を測定した。なお、Pi,0を測定するろ過液導入圧力計44が接続する空間は封止されており、ろ過液はろ過液導入圧力計44側には導出しないことから、ミニチュアモジュールの圧力分布と中空糸膜モジュール10の圧力分布は同等の分布を示す。
【0169】
本ミニチュアモジュールを用い、ろ過試験を行った。試験にはポリエチレングリコール(分子量2,000,000、富士フィルム和光純薬性)を蒸留水に溶解させた0.3wt%水溶液を原液として用いた。原液はスターラーで1晩攪拌して溶解させ、溶解後の原液の粘度を25℃で測定したところ、粘度は5.0mPa・sであった。
【0170】
原液を供給ポンプ14でミニチュアモジュールに供給し、クロスフローろ過を行った。このときの運転条件は原液の流速が1.0m/s、ろ過液の流速が0.045m/s(ろ過流束0.4m/d相当)であった。また原液の温度は25℃であった。本運転条件でろ過を開始し、ろ過開始直後の各圧力を測定してΔPm,0、ΔPm,kを算出した。本試験中に回収したろ過液についても粘度を同様の方法で測定したところ、粘度は1.0mPa・sであった。
【0171】
さらに式(8)~(17)を用い、シミュレーションからもΔPm,0、ΔPm,kを算出した。シミュレーションにはミニチュアモジュールの製作に使用した中空糸膜5の各種パラメータを入力した。またろ過液導出圧力Po,kについては、ミニチュアモジュールの試験から得られた測定値を使用して計算した。またΔlは10mm、原液側流路の形状補正係数τは1.0とした。
【0172】
測定値とシミュレーション値を比較した結果、表1に示すようにΔPm,0、ΔPm,kは同等の値を示し、本シミュレーションが膜間差圧を精度よく予測できることを確認した。
【0173】
【表1】
【0174】
(実施例1)
参考例1の中空糸膜を装填した中空糸膜モジュールを用い、ポリエチレングリコール水溶液を使用してろ過を行った。ポリエチレングリコール水溶液は、蒸留水にポリエチレングリコール(分子量2,000,000、富士フィルム和光純薬製)を0.3wt%となるよう調整し、原液とした。このときの原液の温度は25℃で、粘度は5.0mPa・sであった。
【0175】
原液の流速vが1.0m/s、ろ過液の流速vが0.03m/s(ろ過流束としては0.3m/d相当)となるよう調整し、ろ過を開始した。その結果、表2に示すように膜間差圧の上昇速度は230kPa/mであり、膜間差圧の上昇を抑制しながら運転できた。また、ろ過開始直後のろ過液粘度は1.0mPa・sであった。
【0176】
【表2】
【0177】
また、実際のろ過試験と並行して、シミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。計算方法は参考例1に記載の方法と同様の方法で行った。その結果、中空糸膜5の軸方向の膜間差圧差ΔPm,0-ΔPm,kは43kPaと低い値であった。
【0178】
(実施例2)
ろ過液の流速vを0.05m/s(ろ過流束としては0.5m/d相当)となるよう調整した以外は、実施例1に記載の方法と同様の方法でろ過試験ならびにモジュール内圧力分布シミュレーションを実施した。
【0179】
その結果、表2に示すように膜間差圧の上昇速度は250kPa/mとなり、膜間差圧の上昇を抑制しながら運転できた。この時の膜間差圧差ΔPm,0-ΔPm,kは43kPaと低い値であった。
【0180】
(実施例3)
ろ過液の流速vを0.11m/s(ろ過流束としては1.0m/d相当)となるよう調整した以外は、実施例1に記載の方法と同様の方法でろ過試験ならびにモジュール内圧力分布シミュレーションを実施した。
【0181】
その結果、表2に示すように膜間差圧の上昇速度は265kPa/mとなり、膜間差圧の上昇を抑制しながら運転できた。この時の膜間差圧差ΔPm,0-ΔPm,kは41kPaと低い値であった。
【0182】
(実施例4)
実施例1と同様の中空糸膜モジュールを用い、ポリエチレングリコール水溶液を使用してろ過を行った。ポリエチレングリコール水溶液は、蒸留水にポリエチレングリコール(分子量2,000,000、富士フィルム和光純薬製)を0.45wt%となるよう調整し、原液とした。このときの原液の温度は25℃で、粘度は10.0mPa・sであった。
【0183】
原液の流速vが0.5m/s、ろ過液の流速vが0.05m/s(ろ過流束としては0.5m/d相当)となるよう調整し、ろ過を開始した。その結果、表2に示すように膜間差圧の上昇速度は260kPa/mであり、膜間差圧の上昇を抑制しながら運転できた。また、ろ過開始直後のろ過液粘度は1.4mPa・sであった。
【0184】
また、実際のろ過試験と並行して、シミュレーションによるモジュール内圧力分布の計算を行った。計算方法は参考例1に記載の方法と同様の方法で行った。その結果、中空糸膜5の軸方向の膜間差圧差ΔPm,0-ΔPm,kは42kPaと低い値であった。
【0185】
(実施例5)
実施例1と同様の中空糸膜モジュールを用い、ゼラチン水溶液を使用してろ過を行った。ゼラチン水溶液は、蒸留水に対しゼラチンの濃度が0.4wt%となるよう調整し、原液とした。このときの原液の温度は60℃で、粘度(μ)は3.5mPa・sであった。
【0186】
原液の流速vが1.0m/s、ろ過液の流速vが0.03m/s(ろ過流束としては0.3m/d相当)となるよう調整し、ろ過を開始した。その結果、表3に示すように膜間差圧の上昇速度は260kPa/mであり、膜間差圧の上昇を抑制しながら運転できた。また、ろ過開始直後のろ過液粘度は1.1mPa・sであり、μ/μは3.2であった。
【0187】
膜間差圧が初期比で1.5倍に到達した時点でろ過を終了し、純水をろ過液側から200kPaで加圧し15秒間逆流洗浄を行った。逆流洗浄後に原液の流速vが1.0m/s、ろ過液の流速vが0.03m/s(ろ過流束としては0.3m/d相当)でゼラチン水溶液をろ過したところ、膜間差圧は初期比の1.1倍にまで回復し、逆流洗浄の効果を確認できた。
【0188】
【表3】
【0189】
(実施例6)
参考例2の中空糸膜を装填した中空糸膜モジュールを作製し、ゼラチン水溶液を使用してろ過を行った。ゼラチン水溶液は、実施例5と同様のものを用いた。
【0190】
原液の流速vが1.0m/s、ろ過液の流速vが0.03m/s(ろ過流束としては0.3m/d相当)となるよう調整し、ろ過を開始した。その結果、表3に示すように膜間差圧の上昇速度は280kPa/mであり、膜間差圧の上昇を抑制しながら運転できた。また、ろ過開始直後のろ過液粘度は1.2mPa・sであり、μ/μは2.9であった。
【0191】
膜間差圧が初期比で1.5倍に到達した時点でろ過を終了し、純水をろ過液側から200kPaで加圧し15秒間逆流洗浄を行った。逆流洗浄後に原液の流速vが1.0m/s、ろ過液の流速vが0.03m/s(ろ過流束としては0.3m/d相当)でゼラチン水溶液をろ過したところ、膜間差圧は初期比の1.1倍にまで回復し、逆流洗浄の効果を確認できた。
【0192】
(実施例7)
参考例3の中空糸膜を装填した中空糸膜モジュールを作製し、ゼラチン水溶液を使用してろ過を行った。ゼラチン水溶液は、実施例5と同様のものを用いた。
【0193】
原液の流速vが1.0m/s、ろ過液の流速vが0.03m/s(ろ過流束としては0.3m/d相当)となるよう調整し、ろ過を開始した。その結果、表3に示すように膜間差圧の上昇速度は290kPa/mであり、膜間差圧の上昇を抑制しながら運転できた。また、ろ過開始直後のろ過液粘度は1.1mPa・sであり、μ/μは3.2であった。
【0194】
膜間差圧が初期比で1.5倍に到達した時点でろ過を終了し、純水をろ過液側から200kPaで加圧し15秒間逆流洗浄を行った。逆流洗浄後に原液の流速vが1.0m/s、ろ過液の流速vが0.03m/s(ろ過流束としては0.3m/d相当)でゼラチン水溶液をろ過したところ、膜間差圧は初期比の1.4倍に増加しており、逆流洗浄の効果を確認できなかった。孔径の比であるφ/φが小さいことにより逆流洗浄の効果が低減したと考えられた。
【0195】
(比較例1)
原液の流速vを0.5m/s、ろ過液の流速vを0.16m/s(ろ過流束としては1.5m/d相当)となるよう調整した以外は、実施例1に記載の方法と同様の方法でろ過試験ならびにモジュール内圧力分布シミュレーションを実施した。
【0196】
その結果、表2に示すように膜間差圧の上昇速度は420kPa/mとなり、膜間差圧の上昇速度は速い結果となった。この時の膜間差圧差ΔPm,0-ΔPm,kは10kPaと低い値であったが、ろ過液流速に対して原液流速が遅く、膜表面へのファウラント蓄積が進み、膜間差圧の上昇が早くなったと考えられた。
【0197】
(比較例2)
原液の流速vを2.0m/s、ろ過液の流速vを0.10m/s(ろ過流束としては0.1m/d相当)となるよう調整した以外は、実施例1に記載の方法と同様の方法でろ過試験ならびにモジュール内圧力分布シミュレーションを実施した。
【0198】
その結果、表2に示すように膜間差圧の上昇速度は370kPa/mとなり、膜間差圧の上昇速度は高かったこの時の膜間差圧差ΔPm,0-ΔPm,kは87kPaと高く、さらにはろ過液の一部が原液側に逆流する逆ろ過が生じていたと推定され、効率の悪いろ過であった。また、ろ過流束が小さく、実施例1と比較して3倍の中空糸膜モジュール本数が必要と算出されたことから、ろ過コストが高くなる条件であった。
【0199】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本出願は、2021年9月30日付で出願された日本特許出願(特願2021-160479)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0200】
本発明の中空糸膜モジュールの運転方法は、飲料水製造、浄水処理若しくは排水処理等の水処理分野に加えて、近年では微生物や培養細胞の培養を伴う発酵分野、医薬分野、又は、食品飲料分野等における原液の膜ろ過に、好ましく適用される。
【符号の説明】
【0201】
1 容器
2 原液導入口
3 ろ過液導出口
4 原液導出口
5 中空糸膜
6 原液側空間
7 ろ過液側空間
8 第1ポッティング部
9 第2ポッティング部
10 中空糸膜モジュール
12 原液タンク
13 ろ過液タンク
14 供給ポンプ
15 恒温水槽
16 細管
21 濃縮液弁
22 ろ過液弁
31 濃縮液流量計
32 ろ過液流量計
41 原液導入圧力計
42 原液導出圧力計
43 ろ過液導出圧力計
44 ろ過液導入圧力計
45 管入口圧力計
46 管出口圧力計
51 原液温度計
図1
図2
図3
図4
図5