(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】音響機器のシミュレート方法、音響機器のシミュレート装置、および音響機器のシミュレートシステム
(51)【国際特許分類】
G10K 15/00 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
G10K15/00 L
G10K15/00 M
(21)【出願番号】P 2022568015
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2020046308
(87)【国際公開番号】W WO2022123775
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 多伸
(72)【発明者】
【氏名】水野 賀文
(72)【発明者】
【氏名】川島 慶彦
(72)【発明者】
【氏名】大下 隼人
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/035255(WO,A1)
【文献】特開2016-105246(JP,A)
【文献】特開平01-314097(JP,A)
【文献】特開2012-182553(JP,A)
【文献】特開2010-226332(JP,A)
【文献】BENSA, Julien et al.,Parameter fitting for piano sound synthesis by physical modeling,The Journal of the Acoustic Society of America,2005年06月28日,Vol.118, No.1,第495-504頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 15/00-15/12
G10H 1/00
H04R 3/00- 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力した音信号に信号処理を施して出力する音響機器の入出力特性をモデル化した標準モデルを取得し、
前記音響機器と同じ種類の対象音響機器の少なくとも1つのパラメータを設定し
、測定用の音信号を前記対象音響機器に入力し、前記対象音響機器において設定された前記パラメータで信号処理された後の前記測定用の音信号を受信して、前記対象音響機器に入力した前記音信号および前記対象音響機器から受信した前記音信号に基づいて前記対象音響機器の入出力特性を測定し、
測定された前記入出力特性を用いて前記標準モデルを補正し、前記対象音響機器の入出力特性をモデル化した個別モデルを作成する、
音響機器のシミュレート方法。
【請求項2】
前記少なくとも1のパラメータは、複数のパラメータを含み、
前記測定は、前記複数のパラメータのうちそれぞれのパラメータについて行なう、
請求項1に記載の音響機器のシミュレート方法。
【請求項3】
前記個別モデルは、測定された前記入出力特性を用いて深層学習により作成する、
請求項1または請求項2に記載の音響機器のシミュレート方法。
【請求項4】
前記標準モデルは予め第1深層学習により作成され、
前記個別モデルは、前記第1深層学習により作成された前記標準モデルを第2深層学習により補正することで作成する、
請求項3に記載の音響機器のシミュレート方法。
【請求項5】
前記測定は、音楽信号を用いる、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の音響機器のシミュレート方法。
【請求項6】
前記測定は、測定信号を用いる、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の音響機器のシミュレート方法。
【請求項7】
前記パラメータの変更を受け付けるための前記対象音響機器に設けられた操作子を、モータを用いて移動させる、
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の音響機器のシミュレート方法。
【請求項8】
入力した音信号に信号処理を施して出力する音響機器の入出力特性をモデル化した標準モデルを取得する標準モデル取得部と、
前記音響機器と同じ種類の対象音響機器の少なくとも1つのパラメータを設定し
、測定用の音信号を前記対象音響機器に入力し、前記対象音響機器において設定された前記パラメータで信号処理された後の前記音信号を受信して、前記対象音響機器に入力した前記音信号および前記対象音響機器から受信した前記音信号に基づいて前記対象音響機器の入出力特性を測定する測定部と、
測定された前記入出力特性を用いて前記標準モデルを補正し、前記対象音響機器の入出力特性をモデル化した個別モデルを作成する個別モデル作成部と、
を備えた音響機器のシミュレート装置。
【請求項9】
前記少なくとも1のパラメータは、複数のパラメータを含み、
前記測定は、前記複数のパラメータのうちそれぞれのパラメータについて行なう、
請求項8に記載の音響機器のシミュレート装置。
【請求項10】
前記個別モデルは、測定された前記入出力特性を用いて深層学習により作成する、
請求項8または請求項9に記載の音響機器のシミュレート装置。
【請求項11】
前記標準モデルは予め第1深層学習により作成され、
前記個別モデルは、前記第1深層学習により作成された前記標準モデルを第2深層学習により補正することで作成する、
請求項10に記載の音響機器のシミュレート装置。
【請求項12】
前記測定は、音楽信号を用いる、
請求項8乃至請求項11のいずれか1項に記載の音響機器のシミュレート装置。
【請求項13】
前記測定は、測定信号を用いる、
請求項8乃至請求項12のいずれか1項に記載の音響機器のシミュレート装置。
【請求項14】
前記パラメータの変更を受け付けるための前記対象音響機器に設けられた操作子を移動させるモータを備えた、
請求項8乃至請求項13のいずれか1項に記載の音響機器のシミュレート装置。
【請求項15】
入力した音信号に信号処理を施して出力する音響機器のシミュレート装置および測定デバイスを備えた音響機器のシミュレートシステムであって、
前記シミュレート装置は、前記音響機器の入出力特性をモデル化した標準モデルを取得し、
前記測定デバイスは、前記音響機器と同じ種類の対象音響機器の少なくとも1のパラメータを設定し
、測定用の音信号を前記対象音響機器に入力し、前記対象音響機器において設定された前記パラメータで信号処理された後の前記音信号を受信して、前記対象音響機器に入力した前記音信号および前記対象音響機器から受信した前記音信号に基づいて前記対象音響機器の入出力特性を測定し、
前記シミュレート装置は、測定された前記入出力特性を用いて前記標準モデルを補正し、前記対象音響機器の入出力特性をモデル化した個別モデルを作成する、
音響機器のシミュレートシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の一実施形態は、音響機器のシミュレート方法、音響機器のシミュレート装置、および音量機器のシミュレートシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高調波歪みの発生量を高調波次数毎に周波数に応じて変化させることができるアナログ音響機器のシミュレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アナログ音響機器は、同じ種類であっても個体差により、それぞれ異なる音色の音を出力する。したがって、ある音響機器をモデル化しても、同じ種類の他の音響機器の音とは異なるモデルになる。
【0005】
この発明の一実施形態は、機器毎の固有の音をモデル化することができる音響機器のシミュレート方法、音響機器のシミュレート装置、および音響機器のシミュレートシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係る音響機器のシミュレート方法は、音響機器の入出力特性をモデル化した標準モデルを取得し、前記音響機器と同じ種類の対象音響機器の少なくとも1のパラメータを設定して前記対象音響機器の入出力特性を測定し、測定された前記入出力特性を用いて前記標準モデルを補正し、前記対象音響機器の入出力特性をモデル化した個別モデルを作成する。
【発明の効果】
【0007】
この発明の一実施形態は、機器毎の固有の音をモデル化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】シミュレートシステム1の構成を示すブロック図である。
【
図2】測定デバイス14をアナログ音響機器15に取り付けた場合の外観概略図である。
【
図3】測定デバイス14の構成を示すブロック図である。
【
図4】情報処理端末11の構成を示すブロック図である。
【
図5】情報処理端末11、サーバ12、および測定デバイス14の動作を示すフローチャートである。
【
図6】
図6(A)は、標準モデル900の信号処理ブロックを示す概念図であり、
図6(B)は、個別モデル950の信号処理ブロックを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、音響機器のシミュレートシステム1の構成を示すブロック図である。本実施形態の音響機器のシミュレートシステム1は、情報処理端末11、サーバ12、測定デバイス14、およびアナログ音響機器15を備えている。情報処理端末11は、インターネット13を介してサーバ12と接続されている。
【0010】
情報処理端末11は、利用者の用いるパーソナルコンピュータまたはスマートフォン等の情報処理装置からなる。アナログ音響機器15は、例えばアナログアンプやアナログエフェクタ等の音響機器である。利用者は、測定デバイス14をアナログ音響機器15に取り付ける。測定デバイス14は、アナログ音響機器15の入出力特性を測定するためのデバイスである。
【0011】
図2は、測定デバイス14をアナログ音響機器15に取り付けた場合の外観概略図である。この例のアナログ音響機器15は、音信号を歪ませるアナログエフェクタである。アナログ音響機器15は、入力端子(IN)、出力端子(OUT)、摘まみ151、およびスライダ152を備えている。入力端子および出力端子は、アナログオーディオ端子である。摘まみ151は、この例では歪みの強さのパラメータ(Drive)に対応する。スライダ152は、音量のパラメータ(Vol.)に対応する。
【0012】
測定デバイス14は、出力端子(OUT)101、入力端子(IN)102、サーボモータ141、およびサーボモータ142を備えている。測定デバイス14は、出力端子101を介してアナログ音響機器15の入力端子にアナログ音信号を出力する。測定デバイス14は、入力端子102を介してアナログ音響機器15の出力端子からアナログ音信号を入力する。
【0013】
サーボモータ141は、摘まみ151に取り付けられる。サーボモータ141は、摘まみ151を回転させることで、歪みのパラメータを任意の値に調整する。サーボモータ142は、ラック143を介してスライダ152に取り付けられる。サーボモータ142は、ピニオンギヤを備えている。サーボモータ142は、ピニオンギヤを介してラック143を直線的に移動させる。サーボモータ142は、ラック143を介してスライダ152を移動させることで、音量のパラメータを任意の値に調整する。なお、モータ142は、クランク機構により回転運動を直線運動に変換することでスライダ152を移動させてもよい。
【0014】
情報処理端末11は、例えばUSB等の通信線を介して測定デバイス14に接続される。情報処理端末11は、測定デバイス14に測定信号を送信する。情報処理端末11は、測定デバイス14を介して測定用の音信号をアナログ音響機器15に入力し、信号処理後の音信号を受信する。情報処理端末11は、測定デバイス14に送信した音信号と受信した信号処理後の音信号に基づいてアナログ音響機器15の入出力特性を測定する。
【0015】
図3は、測定デバイス14の構成を示すブロック図である。測定デバイス14は、出力端子101、入力端子102、CPU103、USBI/F104、フラッシュメモリ105、RAM106、モータコントローラ107、サーボモータ141、およびサーボモータ142を備えている。
【0016】
CPU103は、測定デバイス14の動作を制御する制御部である。CPU103は、記憶媒体であるフラッシュメモリ105に記憶された所定のプログラムをRAM106に読み出して実行することにより各種の動作を行なう。例えば、CPU103は、モータコントローラ107を介してサーボモータ141およびサーボモータ142を制御し、アナログ音響機器15のパラメータを任意の値に調整する。
【0017】
USBI/F104は、情報処理端末11に接続される。USBI/F104は、情報処理端末11から第1のデジタル音信号を受信する。第1のデジタル音信号は、測定用の音信号である。測定用の音信号は、例えばホワイトノイズ、TSP(Time Stretched Pulse)、あるいはトーンバースト等の測定信号である。また、測定用の音信号は音楽信号であってもよい。
【0018】
CPU103は、第1のデジタル音信号を第1のアナログ音信号に変換し、出力端子101を介してアナログ音響機器15に出力する。CPU103は、入力端子102を介してアナログ音響機器15から第2のアナログ音信号を受信する。CPU103は、受信した第2のアナログ音信号を第2のデジタル音信号に変換する。CPU103は、第2のデジタル音信号を、USBI/F104を介して情報処理端末11に送信する。
【0019】
図4は、情報処理端末11の構成を示すブロック図である。情報処理端末11は、表示器301、ユーザI/F302、USBI/F303、フラッシュメモリ304、RAM305、通信I/F306、およびCPU307を備えている。
【0020】
表示器301は、利用者に種々の情報を表示する。ユーザI/F302は、利用者の操作を受け付ける。なお、ユーザI/F302は、表示器301にタッチパネルとして積層されていてもよい。USBI/F303は、測定デバイス14に第1のデジタル音信号を送信する。また、USBI/F303は、測定デバイス14から第2のデジタル音信号を受信する。通信I/F306は、ネットワークを介してサーバ12と通信する。 CPU307は、記憶媒体であるフラッシュメモリ304に記憶されているプログラムをRAM305に読み出して、所定の機能を実現する。
図4に示す様に、CPU307は、機能的に、標準モデル取得部171、測定部172、および個別モデル作成部173を構成する。これら構成は、CPU307が読み出すアプリケーションプログラムの機能的構成として実現される。標準モデル取得部171は、サーバ12から標準モデル900を取得する。測定部172は、測定デバイス14を介してアナログ音響機器15の入出力特性を測定する。個別モデル作成部
173は、アナログ音響機器15の入出力特性をモデル化した個別モデルを作成する。
【0021】
図5は、情報処理端末11、サーバ12、および測定デバイス14の動作を示すフローチャートである。まず、利用者は、情報処理端末11のユーザI/F302を介して、アナログ音響機器15の機種を選択し、測定のリクエストを行う(S11)。例えば、CPU307は、アプリケーションプログラムにより、表示器301にアンプの機種名の一覧を表示する。利用者は、表示された一覧から自身の利用している機種を選択する。あるいは、CPU307は、歪み、イコライザ、あるいはコンプレッサ等の代表的なエフェクタの名称を表示器301に表示してもよい。利用者は、表示されたエフェクタの名称から、自身の利用しているエフェクタの名称を選択する。
【0022】
サーバ12は、リクエストを受信する(S21)。サーバ12は、リクエストに含まれている機種を示す情報に対応する標準モデル900を取得する(S22)。標準モデル900とは、ある機種のアナログ音響機器の標準的な入出力特性を、デジタル信号処理ブロックでモデル化したものである。
【0023】
図6(A)は、標準モデル900の信号処理ブロックを示す概念図である。標準モデル900は、標準フィルタブロック901と適応フィルタブロック902と、を有する。標準フィルタブロック901および適応フィルタブロック902は、それぞれアナログ回路(抵抗、ダイオード、コンデンサ、真空管、あるいはコイル等の電子部品で構成される回路)の電気特性をデジタルフィルタでシミュレートした信号処理ブロックである。
図6(A)では、説明を容易にするために標準フィルタブロック901および適応フィルタブロック902はそれぞれ1つのみ示し、2つのフィルタブロックが直列に接続されている例を示す。ただし、標準モデル900は、実際には多数の信号処理ブロックを有し、様々な接続態様を有するデジタルフィルタ回路である。
【0024】
これらの信号処理ブロックは、予めアナログ音響機器のメーカにおいて、実際のアナログ回路の電気特性をシミュレートすることで作成される。あるいは、標準モデルは、複数の測定条件でアナログ音響機器の入出力特性(例えばインパルス応答)を測定することで作成してもよい。この様な標準モデルは、サーバ12のデータベースに蓄積されている。
【0025】
標準フィルタブロック901は、アナログ音響機器の摘まみやスライダ等のパラメータの変化に依存しないデジタルフィルタであり、例えば包絡線抽出フィルタ(エンベロープフォロワ)等を含む。適応フィルタブロック902は、アナログ音響機器のパラメータの変化に応じてフィルタ係数が変化するデジタルフィルタである。標準フィルタブロック901および適応フィルタブロック902は、非線形フィルタであってもよいし、線形フィルタであってもよい。
【0026】
サーバ12は、データベースから取得した標準モデル900を情報処理端末11に送信する(S23)。情報処理端末11は、当該標準モデル900を受信する(S12)。これにより、情報処理端末11の標準モデル取得部171は、標準モデル900を取得する。
【0027】
情報処理端末11の測定部172は、測定デバイス14に測定用の音信号を送信して測定を指示する(S13)。測定デバイス14は、測定の指示を受信すると(S31)、アナログ音響機器15のパラメータを設定する(S32)。
【0028】
測定デバイス14は、アナログ音響機器15に測定デバイス14を取り付けた時の摘まみ151およびスライダ152の値を基準値として設定する。例えば、利用者は、パラメータの値を、最もよく使うパラメータの値に設定してから、測定デバイス14を取り付け、情報処理端末11のユーザI/F302を介して測定の開始を指示する。
【0029】
測定デバイス14は、測定用の音信号をアナログ音響機器15に入力し、アナログ音響機器15から信号処理後の音信号を受信する(S33)。測定用の音信号は、上述の様に例えばホワイトノイズ等の測定信号、あるいは音楽信号である。測定信号の場合、例えばレベルの異なる複数の測定信号のそれぞれについて測定を行なう。音楽信号の場合、例えば内容の異なる複数の音楽信号のそれぞれについて測定を行なう。
【0030】
測定デバイスは、アナログ音響機器15の全てのパラメータの値について測定を行なったか否かを判断する(S34)。全てのパラメータの値について測定を行なっていない場合、S32に戻り、パラメータを設定する。
【0031】
測定デバイス14は、サーボモータ141およびサーボモータ142を制御することで、アナログ音響機器15の各パラメータについて、最小値から最大値まで、最小分解能の各値に順次設定することができる。サーボモータ141およびサーボモータ142の回転位置と摘まみ151の回転位置およびスライダ152のスライド位置の関係は、例えば以下の様にして求める。
【0032】
音響機器のメーカは、DriveおよびVol.の最小値、最大値、および分解能等の情報をサーバ12のデータベースに登録している。情報処理端末11は、DriveおよびVol.の最小値、最大値、および分解能等の情報をサーバ12から取得する。あるいは、例えば、利用者は、情報処理端末11のユーザI/F302を介して、Driveの最小値、最大値、および分解能等の情報を入力してもよい。また、例えば、利用者は、情報処理端末11のカメラ(不図示)を用いて摘まみ151およびスライダ152を撮影してもよい。情報処理端末11は、画像処理により摘まみ151およびスライダ152の最大値、最小値、分解能、および現在の位置を認識することもできる。
【0033】
測定デバイス14は、情報処理端末11から各パラメータの最小値、最大値、および分解能等の情報を受信する。測定デバイス14は、サーボモータ141を左右に回転させ、右回転時に停止した位置を最小値に対応付け、左回転時に停止した位置を最大値に対応付ける。同様に、測定デバイス14は、サーボモータ142を左右に回転させ、右回転時に停止した位置を最大値に対応付け、左回転時に停止した位置を最小値に対応付ける。そして、測定デバイス14は、分解能の情報と回転角度とを対応付ける。これにより、測定デバイス14は、サーボモータ141およびサーボモータ142を回転させることで、各パラメータについて、最小値から最大値まで最小分解能の各値に設定することができる。
【0034】
また、例えば、利用者は、情報処理端末11のカメラ(不図示)を用いて測定デバイス14を取り付けた状態の摘まみ151およびスライダ152を撮影してもよい。情報処理端末11は、画像処理により摘まみ151およびスライダ152の最大値、最小値、分解能、および現在の位置を認識する。測定デバイス14は、情報処理端末11から摘まみ151およびスライダ152の最大値、最小値、分解能、および位置情報を取得し、サーボモータ141およびサーボモータ142の回転角度と、摘まみ151およびスライダ152に位置との関係を求める。
【0035】
なお、パラメータの値は利用者により手動で変更してもよい。情報処理端末11は、あるパラメータの値での測定が終了した後、表示器301にパラメータの値の変更を促す表示を行なう。利用者は、摘まみ151またはスライダ152を操作してパラメータの値を変更する。その後、利用者は、情報処理端末11のユーザI/F302を操作して次のパラメータの値での測定指示を行なってもよい。あるいは、情報処理端末11は、カメラ(不図示)で撮影した摘まみ151およびスライダ152の画像に次のパラメータ値のガイドを重畳して表示してもよい。
【0036】
測定デバイス14は、各パラメータの値について、音量の異なる複数の測定信号または種類の異なる複数の音楽信号を用いて測定を繰り返す。測定デバイス14は、全てのパラメータの値について測定を行なったと判断した場合、アナログ音響機器15から受信した音信号(測定結果)を情報処理端末11に送信する(S35)。ただし、測定結果は、全てのパラメータの値について測定を行った後に送信する必要はない。測定結果は、例えば、ある測定信号または音楽信号を用いて測定を行った後に逐次送信してもよい。
【0037】
情報処理端末11は、測定結果を受信する(S14)。情報処理端末11の個別モデル作成部173は、測定結果に基づいて標準モデルを補正し、アナログ音響機器15の入出力特性をモデル化した個別モデルを作成する(S15)。
【0038】
個別モデルは、測定を行なった対象音響機器(アナログ音響機器15)の入出力特性を表現する様に、標準モデルを補正したモデルである。
図6(B)に示す様に、個別モデル950は、例えば、標準モデル900の出力を補正フィルタブロック951で補正したモデルである。個別モデル作成部173は、音量の異なる複数の測定用の音信号をそれぞれについて、個別モデル950に入力した場合の出力結果と、測定デバイス14を介して測定した測定結果と、の差分を求め、当該差分が最小となる様なフィルタ係数を補正フィルタブロック951に設定する。これにより、補正フィルタブロック951は、音量に依存する周波数特性を表現する。アナログ音響機器15は、パラメータの変化により非線形に入出力特性が変化する。補正フィルタブロック951は、アナログ音響機器15の複数のパラメータ(摘まみ151およびスライダ152)の組み合わせのそれぞれの値毎に設けられる。したがって、補正フィルタブロック951は、標準モデル900とアナログ音響機器15との入出力特性の差を補正するフィルタとなる。
【0039】
あるいは、個別モデル作成部
173は、
図6(A)に示した適応フィルタブロック902のフィルタ係数を補正することで標準モデル900の出力を補正し、当該補正した標準モデル900を個別モデル950としてもよい。この場合、補正フィルタブロック951は不要である。個別モデル作成部173は、音量の異なる複数の測定用の音信号をそれぞれについて、個別モデル950に入力した場合の出力結果と、測定デバイス14を介して測定した結果と、の差分を求める。個別モデル作成部173は、当該差分が最小となる様なフィルタ係数を所定の適応アルゴリズムにより求め、適応フィルタブロック902のフィルタ係数を補正する。
【0040】
これにより、個別モデル作成部173は、利用者の所有するアナログ音響機器15の固有の音を表現した個別モデル950を作成する。
【0041】
情報処理端末11は、作成した個別モデル950をサーバ12に送信する(S16)。サーバ12は、個別モデル950を受信し(S24)、データベースに登録する(S25)。
【0042】
利用者は、情報処理端末11等の情報処理装置を利用することで、サーバ12のデータベースに登録された個別モデル950をいつでもダウンロードして利用することができる。これにより利用者は、アナログ音響機器15を持ち運ぶことなく、必要な場所および必要なタイミングでアナログ音響機器15と同じ入出力特性を持つ仮想的なアンプやエフェクタを利用することができる。
【0043】
標準モデルおよび個別モデルは、ディープニューラルネットワーク(以下、DNNと称する。)等の所定のアルゴリズムを用いたフィルタであってもよい。DNNのフィルタは、予め構築される。例えば、音響機器のメーカは、種類の異なる大量の音楽信号を測定用の音信号として標準的な音響機器に入力し、出力信号を正解として、音響機器の入出力特性を深層学習させる。
【0044】
音響機器のメーカは、まずパラメータを固定して、種類の異なる大量の音楽信号を入力し、音響機器の入出力特性を深層学習させる。その後、音響機器のメーカは、パラメータの値を変更する場合、パラメータの変化に影響しないフィルタ処理ブロックの学習を制限する制限付き深層学習を行なう。音響機器のメーカは、この様にしてDNNによる標準モデルを作成する。
【0045】
個別モデル作成部173は、
図6(B)に示した様に、標準モデル900の出力を補正する補正フィルタブロック951を学習させる。この場合、補正フィルタブロック951もDNNのフィルタである。個別モデル作成部173は、DNNによる補正フィルタブロック951を深層学習させることで、個別モデル950を作成する。個別モデル作成部173は、種類の
異なる複数の音楽信号を個別モデル950に入力した場合の出力結果と、測定デバイス14を介して測定した測定結果と、の差分を求め、当該差分が最小となる様に補正フィルタブロック951を学習させる。なお、DNNによる学習を行なう場合には、異なる種類の大量の音楽信号を入力し、測定結果を正解として学習させることが好ましい。ただし、補正フィルタブロック951の学習は、標準モデル900を個別モデル950に補正する処理であるため、標準モデル900を作成する場合の学習に比べて演算負荷は著しく低い。
【0046】
あるいは、個別モデル作成部173は、
図6(A)に示した適応フィルタブロック902を再度深層学習させることで標準モデル900の出力を補正し、当該補正した標準モデル900を個別モデル950としてもよい。この場合、摘まみ151およびスライダ152のパラメータに関わる適応フィルタブロック902以外の学習を制限する制限付き学習を行なう。
【0047】
以上の様に、個別モデル950は、深層学習により作成してもよい。特に、個別モデル作成部173は、音響機器のメーカにより予め第1深層学習により作成された標準モデル900を、パラメータに関わる制限付きの第2深層学習により補正することで個別モデル950を作成することが好ましい。これにより、本実施形態のシミュレートシステム1は、個別モデル950を作成する際の演算負荷を低減することができる。
【0048】
本実施形態では、情報処理端末11がサーバ12と通信し、標準モデルを取得して、個別モデルを作成する例を示した。すなわち、本実施形態では、音響機器のシミュレート装置の一例として、情報処理端末11を示した。しかし、例えば測定デバイス14が通信機能を有し、サーバ12と通信し、標準モデルを取得して、個別モデルを作成してもよい。この場合、測定デバイス14が音響機器のシミュレート装置としても機能する。また、サーバ12が測定デバイス14に測定用の音信号を送信して測定結果を受信し、測定結果に基づいて個別モデルを作成してもよい。この場合、サーバ12が音響機器のシミュレート装置として機能する。
【0049】
本実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0050】
1…シミュレートシステム
11…情報処理端末
12…サーバ
13…インターネット
14…測定デバイス
15…アナログ音響機器
101…出力端子
102…入力端子
103…CPU
104…USBI/F
105…フラッシュメモリ
106…RAM
107…モータコントローラ
141…サーボモータ
142…サーボモータ
152…スライダ
171…標準モデル取得部
172…測定部
173…個別モデル作成部
301…表示器
302…ユーザI/F
303…USBI/F
304…フラッシュメモリ
305…RAM
306…通信I/F
307…CPU
900…標準モデル
901…標準フィルタブロック
902…適応フィルタブロック
950…個別モデル
951…補正フィルタブロック