(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】造粒物の製造方法および光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 9/06 20060101AFI20241126BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20241126BHJP
B29C 41/36 20060101ALI20241126BHJP
B29C 41/12 20060101ALI20241126BHJP
B29K 23/00 20060101ALN20241126BHJP
B29K 33/04 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
B29B9/06
B29C48/305
B29C41/36
B29C41/12
B29K23:00
B29K33:04
(21)【出願番号】P 2022572070
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2021044612
(87)【国際公開番号】W WO2022138094
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2024-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2020216666
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 真治
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-16964(JP,A)
【文献】特開2020-166194(JP,A)
【文献】特開昭54-45365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 9/06
B29C 48/305
B29C 41/36
B29C 41/12
B29K 23/00
B29K 33/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系樹脂およびシクロオレフィン系樹脂からなる群より選ばれる一以上の樹脂を含み、嵩密度が0.01~0.25g/cm
3である破砕物を準備する工程と、
前記破砕物を、(50~Tg)℃(Tgは、前記樹脂のガラス転移温度)の温度下で、摩擦熱により溶融させて、嵩密度が0.26~0.45g/cm
3である造粒物を得る工程とを含む、
造粒物の製造方法。
【請求項2】
前記破砕物は、前記樹脂を含むフィルムの返材を破砕して得られる、
請求項1に記載の造粒物の製造方法。
【請求項3】
前記温度が(50~Tg)℃となるように、前記破砕物を冷却する、
請求項1または2に記載の造粒物の製造方法。
【請求項4】
前記摩擦熱による溶融は、50~100℃で行う、
請求項1~3のいずれか一項に記載の造粒物の製造方法。
【請求項5】
前記造粒物のアスペクト比は、4~50である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の造粒物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の造粒物の製造方法で造粒物を得る工程と、
前記造粒物を溶融させるか、または、溶剤に溶解させて、膜状物を得る工程とを含む、
光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記膜状物を得る工程は、
前記造粒物を溶剤に溶解させて、ドープを得る工程と、
前記ドープを支持体上に流延した後、乾燥および剥離して膜状物を得る工程とを含む、
請求項6に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造粒物の製造方法および光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ(OLED)、μLEDなどのディスプレイには、通常、偏光板が用いられている。偏光板は、偏光子と、それを保護する機能や光学補償機能を有する光学フィルムとを含む。
【0003】
そのような光学フィルムの製造工程では、端部がスリットされた耳部や規格外品などが発生することがある。これらの材料を有効活用するとともに、廃棄物を削減して光学フィルムの製造効率を高める観点から、フィルム製造時にスリットされた耳部や規格外品となったフィルム(返材)を再利用することが検討されている。
【0004】
ところで、フィルムなどの破砕物は嵩密度(見かけ比重)が小さいため、ハンドリングしにくい。そのため、破砕物は、ペレット化(造粒)して使用されることがある。
【0005】
ペレット化の方法としては、新品のペレットの製造方法と同様に、250℃程度の高温で破砕物を溶融する方法や、破砕物を摩擦熱により造粒する方法などが知られている。特許文献1では、フィルムなどの返材の破砕物を摩擦熱により造粒(または溶融)して、新品のペレットと同程度まで嵩密度を低くした造粒物を得る方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、光学フィルムは、高い光学的安定性(リタデーションの湿度依存性)や寸法安定性(寸法の湿度依存性)を有することが求められている。シクロオレフィン系樹脂や(メタ)アクリル系樹脂を含むフィルムは、従来のセルロースエステル系樹脂を含むフィルムと比べてリタデーションの湿度依存性や寸法の湿度依存性が良好であることから、使用されつつある。
【0008】
しかしながら、これらの樹脂を含むフィルムの破砕物は、従来のセルロースエステル系樹脂を含むフィルムの破砕物と比べて嵩高く、ハンドリングしにくい(移送や保管がしにくい)という問題があった。また、これらのフィルムの破砕物を、特許文献1で示される条件で造粒(200℃程度の高温の摩擦熱を生じさせて造粒)すると、造粒物の樹脂が熱劣化しやすいという問題があった。
【0009】
また、得られる造粒物のアスペクト比が小さいことなどに起因して、造粒物の嵩密度が高くなったり、溶融不足により十分な造粒が行えなかったりすると、空送時に造粒物が配管の内壁面などに付着しやすい。そのような配管を用いて、品種の異なる材料を用いてフィルムを作製すると、配管の内壁面に付着した造粒物やその成分が異物として混入しやすいという問題もあった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、熱による材料の劣化や異物混入を抑制しつつ、ハンドリング性に優れた造粒物の製造方法およびそれを用いた光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の造粒物の製造方法およびそれを用いた光学フィルムの製造方法に関する。
【0012】
本発明の造粒物の製造方法は、(メタ)アクリル系樹脂およびシクロオレフィン系樹脂からなる群より選ばれる一以上の樹脂を含み、嵩密度が0.01~0.25g/cm3である破砕物を準備する工程と、前記破砕物を、(50~Tg)℃(Tgは、前記樹脂のガラス転移温度)の温度下で、摩擦熱により溶融させて、嵩密度が0.26~0.45g/cm3である造粒物を得る工程とを含む。
【0013】
本発明の光学フィルムの製造方法は、本発明の造粒物の製造方法で造粒物を得る工程と、前記造粒物を溶融させるか、または、溶剤に溶解させて、膜状物を得る工程とを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱による材料の劣化や異物混入を抑制しつつ、ハンドリング性に優れた造粒物の製造方法およびそれを用いた光学フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、破砕・造粒装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記の通り、シクロオレフィン系樹脂や(メタ)アクリル系樹脂を含むフィルムは、セルロースエステル系樹脂を含むフィルムと比べて切断しにくく(破砕しにくく)、破砕物も嵩高くなりやすい。この原因は明らかではないが、シクロオレフィン系樹脂や(メタ)アクリル系樹脂は、セルロースエステル系樹脂と比べて靭性が高いことや、低極性であるため静電気を生じやすいことによると考えられる。
【0017】
これに対し、1)フィルムの破砕物を摩擦熱により溶融して造粒するとともに、そのときの温度を一定以下にすること、2)得られる造粒物の嵩密度が低くなりすぎないように、溶融・造粒条件をさらに調整することにより、造粒物の樹脂の熱劣化や品種切り替え時の異物混入を抑制できることを見出した。
【0018】
この理由は明らかではないものの、以下のように考えられる。
摩擦熱による造粒は、一般的な溶融による造粒とは異なり、破砕物同士の接触部分に局所的に熱がかかるため、破砕物全体は高温になりにくい。さらに、摩擦熱による溶融温度を適度に低くする(樹脂のTg以下にする)ことで、破砕物に加わる熱を、造粒に必要な最低限に止めることができる。それにより、熱劣化に起因する樹脂の分子量の低下や着色を抑制できる。また、造粒物の嵩密度を従来よりも高めにすることで、空送時などにおいて配管の内壁面に付着しにくいため、品種切り替え時に配管の内壁面に付着した造粒物が混入することによる異物混入も抑制できる。なお、摩擦熱による溶融とは、好ましくは融点よりも低い温度で半溶融状態にすることをいう。
【0019】
摩擦熱による溶融温度は、任意の方法で調整することができる。溶融温度は、例えば、後述する
図1の破砕・造粒装置10の摩擦熱による溶融ゾーン(圧縮部Bや移送部C)の流路(スクリューとシリンダ内壁面との隙間)の幅や長さ、(溶融時の)冷却処理、破砕物の供給速度(処理速度)などによって調整することができる。造粒物の嵩密度は、例えば、摩擦熱による溶融温度や造粒物のアスペクト比などにより調整することができる。
【0020】
本発明は、このような樹脂フィルムの返材を用いて、造粒物を製造する方法に関する。そこで、まず、造粒物の原料となる樹脂フィルム(返材)について説明する。
【0021】
1.返材について
返材は、光学フィルムなどの樹脂フィルムの製造工程で切り落とされた端材や規格外品などである。光学フィルムの製造工程では、切り落とされた端部分や、巻き乱れなどによる不良品が発生することがある。これらは、製品とはならないものの、材質には問題はないため、再利用することができる。
【0022】
光学フィルムは、シクロオレフィン系樹脂または(メタ)アクリル系樹脂を含む。
【0023】
(シクロオレフィン系樹脂)
シクロオレフィン系樹脂は、ノルボルネン系単量体に由来する構造単位を含む重合体である。ノルボルネン系単量体は、下記式(1)で表される。
【化1】
【0024】
式(1)のR1~R4は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、または極性基を表す。
【0025】
ハロゲン原子の例には、フッ素原子、塩素原子などが含まれる。
【0026】
炭化水素基は、炭素原子数が1~10、好ましくは1~4、より好ましくは1または2の炭化水素基である。炭化水素基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基が含まれる。炭化水素基は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはケイ素原子を含む連結基(例えばカルボニル基、イミノ基、エーテル結合、シリルエーテル結合、チオエーテル結合など)の2価の連結基をさらに有していてもよい。
【0027】
極性基の例には、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリロキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、およびメチレン基などの連結基(-(CH2)n-、nは1以上の整数)を介してこれらの基が結合した基が含まれる。中でも、アルコキシカルボニル基およびアリールオキシカルボニル基が好ましく、アルコキシカルボニル基がより好ましい。
【0028】
中でも、R1~R4のうち少なくとも1つは、極性基であることが好ましい。極性基を有するノルボルネン系単量体に由来する構造単位を含むシクロオレフィン系樹脂は、例えば溶液流延法で製膜する際に、溶剤に溶解させやすく、得られるフィルムのガラス転移温度を高めやすい。一方、溶融製膜法では、極性基を有するノルボルネン系単量体に由来する構造単位を含まないシクロオレフィン系樹脂であってよい。
【0029】
また、R1~R4のうち、R1およびR2の両方(またはR3およびR4の両方)は、水素原子であってもよい。
【0030】
式(1)のpは、0~2の整数を示す。光学フィルムの耐熱性を高める観点では、pは、1~2であることが好ましい。
【0031】
式(1)で表されるノルボルネン系単量体のうち、極性基を有するノルボルネン系単量体の例には、以下のものが含まれる。
【0032】
【0033】
極性基を有しないノルボルネン系単量体の例には、以下のものが含まれる。
【化3】
【0034】
ノルボルネン系単量体に由来する構造単位の含有量は、シクロオレフィン系樹脂を構成する全構造単位に対して50~100モル%でありうる。
【0035】
シクロオレフィン系樹脂は、ノルボルネン系単量体に由来する構造単位と共重合可能な他の単量体に由来する構造単位をさらに含んでいてもよい。共重合可能な他の単量体の例には、(上記ノルボルネン系単量体が極性基を有する場合は)極性基を有しないノルボルネン系単量体や、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、ジシクロペンタジエンなどのノルボルネン骨格を有しないシクロオレフィン系単量体が含まれる。
【0036】
シクロオレフィン系樹脂の重量平均分子量Mwは、特に制限されないが、2万~30万であることが好ましく、3万~25万であることがより好ましく、4万~20万であることがさらに好ましい。シクロオレフィン系樹脂のMwが上記範囲にあると、成形加工性を損なうことなく、フィルムの機械的特性を高めうる。
【0037】
シクロオレフィン系樹脂のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。具体的には、東ソー社製HLC8220GPCを用いて、以下の条件で測定することができる。
(測定条件)
溶離液:THF
カラム:東ソー社製 TSKgel GMHXL×2本
流速:1.0mL/min
試料濃度:0.1質量%
注入量:100μL
検出器:RI
検量線:標準ポリスチレン
カラム温度:40℃
【0038】
シクロオレフィン系樹脂のガラス転移温度Tgは、通常、110℃以上であることが好ましく、110~350℃であることがより好ましく、120~250℃であることがより好ましい。シクロオレフィン系樹脂のTgが110℃以上であると、十分な耐熱性が得られやすく、350℃以下であると、成形加工時のシクロオレフィン系樹脂の熱劣化を抑制しうる。
【0039】
Tgは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS K 7121-2012またはASTM D 3418-82に準拠した方法で測定することができる。
【0040】
((メタ)アクリル系樹脂)
(メタ)アクリル系樹脂は、メチルメタクリレートに由来する構造単位を含む重合体であることが好ましい。当該重合体は、メチルメタクリレートと共重合可能なモノマーに由来する構造単位をさらに含んでもよい。
【0041】
メチルメタクリレートと共重合可能な他のモノマーの例には、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどのメチルメタクリレート以外の炭素原子数1~18のアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸などのα,β-不飽和酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸;スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン類;無水マレイン酸;マレイミド、N-フェニルマレイミドなどのマレイミド類;グルタル酸無水物などが含まれる。
【0042】
メタクリル酸メチル由来の構造単位の含有量は、上記重合体を構成する全構造単位に対して50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0043】
(メタ)アクリル系樹脂のTgは、90℃以上であることが好ましく、100~150℃であることがより好ましい。(メタ)アクリル系樹脂のTgが上記範囲内であると、光学フィルムの耐熱性を高めやすい。(メタ)アクリル系樹脂のTgは、前述と同様の方法で測定されうる。
【0044】
(メタ)アクリル系樹脂のMwは、40万~300万であることが好ましく、50万~200万であることがより好ましい。(メタ)アクリル系樹脂のMwが上記範囲であると、フィルムに十分な機械的強度を付与しうる。(メタ)アクリル系樹脂のMwは、前述と同様の方法で測定されうる。
【0045】
シクロオレフィン系樹脂または(メタ)アクリル系樹脂の含有量は、光学フィルムに対して50質量%以上であることが好ましく、70~99質量%であることがより好ましい。
【0046】
(他の成分)
光学フィルムは、必要に応じて他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、ゴム粒子、マット剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが含まれる。
【0047】
ゴム粒子は、フィルムに可撓性を付与しうる。ゴム粒子は、ゴム状重合体(架橋重合体)を含むグラフト共重合体である。ゴム状重合体の例には、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、およびオルガノシロキサン系架橋重合体が含まれる。中でも、メタクリル系樹脂との屈折率差が小さく、光学フィルムの透明性が損なわれにくい観点では、(メタ)アクリル系架橋重合体が好ましく、アクリル系架橋重合体(アクリル系ゴム状重合体)がより好ましい。
【0048】
マット剤は、光学フィルムの表面に凹凸を形成し、滑り性を付与しうる。マット剤としては、無機粒子や樹脂粒子などでありうる。無機粒子の例には、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウムなどの微粒子が含まれ、好ましくは二酸化ケイ素粒子である。
【0049】
酸化防止剤は、特に制限されないが、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤などを用いることができる。
【0050】
(厚み)
光学フィルムの厚みは、特に制限されないが、例えば5~100μm、好ましくは5~40μm程度である。
【0051】
次に、上記返材を用いて造粒物を製造する方法について説明する。
【0052】
2.造粒物の製造方法
本発明の造粒物の製造方法は、1)上記樹脂を含む破砕物を準備する工程と、2)得られた破砕物を摩擦熱により溶融させて、造粒物を得る工程とを含む。
【0053】
1)の工程について
本工程では、上記樹脂を含む破砕物を準備する。
【0054】
樹脂を含む破砕物は、上記の通り、光学フィルムなどの樹脂フィルムの返材の破砕物であることが好ましい。返材の厚みは、光学フィルムの厚みと同じである。
【0055】
樹脂フィルムの破砕は、破砕時に発生して破砕物が受ける熱が少なくなるような条件、すなわち、得られるフィルム片の嵩密度が適度に低くなるような条件で行うことが好ましい。
【0056】
具体的には、得られる破砕物の嵩密度は、0.01~0.25g/cm3であることが好ましい。得られる破砕物の嵩密度が0.25g/cm3以下であると(すなわち、破砕物が大きめであると)、破砕時の負荷やそれによる発熱を少なくし、破砕時の熱による破砕物の劣化やそれによる着色を抑制しやすい。破砕物の嵩密度が0.01g/cm3以上であると、破砕物が大きすぎないため、造粒を行いやすい。得られる破砕物の嵩密度は、上記観点から、0.07~0.18g/cm3程度であることがより好ましい。
【0057】
破砕物の嵩密度は、以下の方法で測定することができる。
容量が100mLの容器に、破砕物をすりきり一杯に充填し、充填した破砕物(または造粒物)の質量を測定する。この測定を10回行い、容量との関係から平均の嵩密度を算出する。なお、容器に充填する際に、タッピングは行わないものとする。
【0058】
破砕物の大きさは、嵩密度が上記範囲を満たす程度であればよく、特に制限されないが、一辺の長さが2~8mm程度の略正方形(またはそれと同面積の矩形状)であることが好ましい。破砕物の一辺の長さが2mm以上であると、破砕物の嵩密度を低くしやすいため、嵩密度を上記範囲に調整しやすい。破砕物の一辺の長さが8mm以下であると、破砕物が大きすぎないため、この後の摩擦熱による溶融を行いやすい。破砕物の大きさは、上記観点から、一辺の長さが3~7mm程度の略正方形(またはそれと同面積の矩形状)であることがより好ましい。
【0059】
破砕物を平均目開き1mmのメッシュにて2分間ふるいにかけたときに分取される比率(%)(分取率)は、特に制限されないが、例えばふるいにかける前の破砕物の総量に対して10質量%以下でありうる。分取率が10質量%以下である破砕物は、緩やかな条件で破砕されており、破砕時の負荷が適度に小さいため、破砕時の発熱による樹脂の熱劣化などをより抑制しやすい。破砕物の分取率(%)は、上記観点から、ふるいにかける前の破砕物の総量に対して5質量%以下であることがより好ましい。
【0060】
破砕物の嵩密度、大きさおよび分取率は、破砕条件により調整することができる。破砕物の嵩密度、大きさ、分取率を上記範囲内とするためには、破砕時の発熱を少なくすること(破砕時に返材が受ける熱を少なくすること)、具体的には、破砕時の負荷を小さくしたり、除熱したりして、破砕時の発熱を少なくすることが好ましい。
【0061】
樹脂フィルムの破砕は、任意の方法で行うことができる。例えば、樹脂フィルムの破砕は、固定刃と回転刃との間に返材を挟み込んで破砕することにより行うことができる。
【0062】
2)の工程について
次いで、得られた破砕物に摩擦熱を生じさせて、その熱により破砕物を溶融または融着させる。
【0063】
摩擦熱による溶融は、(50~Tg)℃(Tgは、樹脂のガラス転移温度)で行うことが好ましい。摩擦熱による溶融温度が50℃以上であると、破砕物を半溶融状態としうるため、嵩密度が低減された造粒物が得られやすい。溶融温度がTg℃以下であると、破砕物が高温になりすぎず、樹脂の熱劣化を抑制しうるため、樹脂の分子量の低下や造粒物の着色を抑制することができる。また、造粒物を用いて得られる再生フィルムの黄変などをさらに抑制する観点では、溶融温度は、50~100℃であることがより好ましく、60~100℃であることがさらに好ましい。
【0064】
溶融温度は、摩擦熱による溶融時の雰囲気温度として測定されうる。例えば、後述の
図1の破砕・造粒装置10では、(造粒のための)摩擦熱による溶融工程の下流側の雰囲気温度として測定することができる(後述の
図2参照)。
【0065】
溶融温度は、例えば破砕物に加える摩擦の大きさや摩擦を加える時間(滞留時間)、冷却処理などにより行うことができる。後述の破砕・造粒装置10を用いる場合、溶融温度は、破砕物の供給速度や圧縮部Bや移送部Cにおける流路の幅や長さ、温度調整部(冷却手段)による冷却または徐熱の度合い(冷却温度)などにより調整することができる。溶融温度を低くする場合は、例えば破砕・造粒装置10の圧縮部Bや移送部Cの流路の幅は適度に大きくし、長さは適度に短くすることが好ましい。また、装置内外の温度調整部(冷却手段)による冷却温度を低くしたり、破砕物の供給速度を小さくしたりすることが好ましい。特に、破砕物の溶融温度が上記範囲内となるように、温度調整部(冷却手段)により冷却することが好ましい。
【0066】
また、摩擦熱により溶融させた破砕物を、所定の大きさ(または長さ)にさらに切断してもよい。
【0067】
(造粒物の物性)
造粒物の嵩密度は、破砕物の嵩密度よりも高いことが好ましい。具体的には、造粒物の嵩密度は、破砕物の嵩密度よりも高く、かつ(再生品ではなく)新品のペレットの嵩密度よりも低いこと(例えば新品のペレットの嵩密度の80%以下)が好ましい。具体的には、造粒物の嵩密度は、0.26~0.45g/cm3であることが好ましい。造粒物の嵩密度が0.26g/cm3以上であると、空送や保管がしやすく、ハンドリング性を高めることができる。造粒物の嵩密度が0.45g/cm3以下であると、造粒時に過度な熱が加わっていないため、造粒物の樹脂の熱劣化を抑制でき、造粒物を構成する樹脂の分子量の低下や着色を抑制することができる。また、そのような造粒物を用いて得られる再生フィルムも、良好な機械的特性や光学特性を維持しうる。造粒物の嵩密度は、上記観点から、0.35~0.45g/cm3であることがより好ましい。造粒物の嵩密度は、破砕物の嵩密度と同様の方法で測定することができる。
【0068】
造粒物の嵩密度は、破砕物の嵩密度の150~1500%程度でありうる。
【0069】
造粒物の嵩密度は、溶融温度や造粒物のアスペクト比によって調整することができる。造粒物の嵩密度を適度に低くするためには、溶融温度は適度に低くすることが好ましく、造粒物のアスペクト比は適度に大きくすることが好ましい。
【0070】
造粒物のアスペクト比は、造粒物の嵩密度が上記範囲を満たし、かつ求められるハンドリング性に応じて適宜設定されうる。造粒物のアスペクト比は、例えば4~50であることが好ましい。アスペクト比が4以上であると、例えば空送時に配管の内壁面に付着しにくいため、品種切り替え時の異物混入を抑制しやすく、50以下であると、造粒物の嵩密度が高くなりすぎないため、移送や保管のハンドリング性が損なわれにくい。造粒物のアスペクト比は、上記観点から、4~20であることがより好ましい。造粒物のアスペクト比は、造粒物の短軸の長さに対する長軸の長さの比の平均値(平均アスペクト比)をいう。
【0071】
造粒物のアスペクト比は、以下の方法で測定することができる。
まず、任意の100個の造粒物のそれぞれについて、カメラで撮影した画像から、造粒物の長軸と短軸の長さを測定し、アスペクト比(長軸の長さ/短軸の長さ)を算出する。長軸は、撮影画像における造粒物像の輪郭の中で最も離れた2点を結んだ線分とし、短軸は、長軸に垂直な直線と輪郭の交点を結んだ線分のうち最も長い線分とする。そして、得られたアスペクト比の平均値を「アスペクト比」とする。
【0072】
造粒物のアスペクト比は、破砕・造粒装置10から押し出される紐状の樹脂の切断長さや径(または破砕・造粒装置10の押出口22の内径)により調整することができる。
【0073】
造粒物のYIは、得られるフィルムの着色を少なくする観点では、小さいことが好ましい。具体的には、造粒物のYIは、1.0以下であることが好ましく、0.6以下であることがより好ましい。
【0074】
造粒物のYIは、分光測色計(例えばコニカミノルタ社製の分光測色計CM-3700d)を用いて、光源としてD65(色温度6504K)を用い、視野角10°の条件で測定することができる。
【0075】
摩擦熱による造粒は、任意の方法で行うことができる。例えば、摩擦熱による造粒は、例えばスクリューを有する押し出し装置などで行うことができる。
【0076】
上記1)および2)の工程は、別の装置でそれぞれ行ってもよいし、連続した1つの装置で行ってもよい。連続した1つの装置としては、例えば特開昭54-45365号公報に記載されている装置と同様のものを使用することもできる。以下の実施の形態では、上記1)および2)の工程を、連続した1つの装置で行う例を示す。
【0077】
図1は、本実施の形態における破砕・造粒装置10の構成を示す断面図である。
図2は、
図1の要部の拡大図である。
【0078】
図1に示されるように、破砕・造粒装置10は、シリンダ20と、その内部に回転可能に配置されたスクリュー30と、切断部40と、分離部50と、温度調整部60とを含む。
【0079】
シリンダ20は、樹脂フィルムなどの返材70が供給される供給口21と、シリンダ20で圧縮された返材70が押し出される押出口22とを有する。
【0080】
スクリュー30は、回転軸31と、その周囲に配置されたカッタースクリュー32A、ミキシングスクリュー32B、およびコンベアスクリュー32Cとを有する。すなわち、破砕・造粒装置10は、スクリュー30に沿って、供給口21側から順に、返材70を破砕する破砕部A(カッタースクリュー32Aに対応する領域)と、破砕物を圧縮して摩擦熱を生じさせる圧縮部B(ミキシングスクリュー32Bに対応する領域)と、摩擦熱により返材を溶融および移送する移送部C(コンベアスクリュー32Cに対応する領域)とを有する。
【0081】
破砕部Aにおける、カッタースクリュー32Aは、例えば条スクリュー状に形成された回転刃でありうる。カッタースクリュー32Aに対応するシリンダ20の内壁面には、刃先がカッタースクリュー32Aと近接するように複数の固定刃23が配置されている。そして、シリンダ20内に供給された返材70が、固定刃23とカッタースクリュー32Aにより切断される。
【0082】
圧縮部Bにおける、ミキシングスクリュー32Bに対応するシリンダ20は、その内径が送り方向に小さくなるようなテーパー状に形成されている。ミキシングスクリュー32Bは、シリンダ20に合わせてテーパー状に形成されており、例えば多条のスクリューを有しうる。そして、返材70が、シリンダ20とミキシングスクリュー32Bの間の流路を通る過程で圧縮され、摩擦熱が発生する。
【0083】
移送部Cにおける、コンベアスクリュー32Cは、例えば発熱が少なくなるような形状の多条スクリュー状に形成されている。そして、半溶融状態でミキシングスクリュー32Bから送られた返材70に、一定の推進力を与え、押出口22から紐状に押し出される。
【0084】
すなわち、上記1)の工程は破砕部Aで行い、上記2)の工程の摩擦熱による溶融は、圧縮部Bおよび移送部Cで行うことができる。そして、本発明では、上記2)の工程における摩擦熱による溶融時の溶融温度を、上記の範囲、すなわち、50~Tg(℃)に調整する。
図1で示される破砕・造粒装置10では、溶融温度は、押出口22の近傍に配置された熱電対24により測定することができる(
図2参照)。
【0085】
溶融温度は、上記の通り、例えば破砕物の供給速度(スクリューの回転数など)や圧縮部Bのテーパーの角度、圧縮部B(または移送部C)におけるミキシングスクリュー32B(またはコンベンションスクリュー32C)とシリンダ20の内壁面との間の流路の幅W1(またはW2)や送り方向の長さL1(またはL2)、装置内外の冷却などによって調整することができる。溶融温度を低くする場合は、例えば破砕物の供給速度は小さくすることが好ましく、シリンダ20のテーパーの角度は小さくすることが好ましく、スクリュー32B(または32C)とシリンダ20の内壁面との間の隙間の幅C1(またはC2)は大きくすることが好ましく、隙間の送り方向の長さL1(またはL2)は短くすることが好ましい。また、後述する温度調整部60により、シリンダ20およびスクリュー30の温度を調整する(冷却する)ことも好ましい。
【0086】
切断部40は、シリンダ20の押出口22近傍に配置され、押し出された紐状の返材72を所定の長さに切断する。切断部40は、特に制限されないが、例えば切断刃41を有する。
【0087】
分離部50は、切断部40で切断して得られた造粒物が再融着したものを分離させる。分離部50は、特に制限されないが、冷却ブロワーなどの冷却または送風手段51と、フィンを有する回転円板52とを有する。
【0088】
温度調整部60は、シリンダ20およびスクリュー30を適切な温度に調整するための冷却装置でありうる。温度調整部60は、例えばシリンダ20の外部から作用させる冷却ジャケット61と、スクリュー30の内部から作用させる通水手段62とを含む。
【0089】
このように構成された破砕・造粒装置10では、樹脂フィルムなどの返材70が、返材供給部1から、シリンダ20内に投入される。投入された返材70は、破砕部Aにおいて、カッタースクリュー32A(回転刃)とシリンダ20の固定刃23によって切断されて破砕物となり、圧縮部Bへ送り出される。
【0090】
圧縮部Bへ送られた返材70(破砕物)は、テーパー状に縮径したシリンダ20とミキシングスクリュー32Bとの隙間を通ることにより圧縮された状態でミキクングされ、適度な摩擦熱が発生する。その摩擦熱により、返材70(破砕物)は、半溶融状態となり、移送部Cへ送り出される。
【0091】
移送部Cへ半溶融状態で送り出された返材70は、シリンダ20とコンベアスクリュー32Cとの間の隙間を移動しながら適度に融着し、半融着状態でシリンダ20の先端部の押出口22から押し出される。
【0092】
なお、圧縮部Bおよび移送部Cでは、熱電対24で測定される溶融温度が上記範囲となるように、圧縮部Bや移送部Cにおける造粒条件(スクリューとシリンダ20の内壁面との間の隙間の大きさや長さ)、返材70の供給速度、温度調整部60による冷却などが行われる。
【0093】
紐状に押し出された返材70は、切断部40により所定の長さ(アスペクト比)の粒状に切断されて、造粒物(粒状物)となる。得られた造粒物は、熱により再融着することがあるが、分離部50で冷却風が当てられることにより分離する。それにより、適度な嵩密度を有する造粒物を、排出口53から連続的に回収することができる。
【0094】
次に、得られた造粒物を用いて、光学フィルム(再生品)を製造する方法について説明する。
【0095】
3.光学フィルムの製造方法
本発明の光学フィルムの製造方法は、2-1)上記製造方法で造粒物を得る工程と、2-2)得られた造粒物を用いて膜状物を得る工程とを含む。
【0096】
2-1)の工程について
上記製造方法で造粒物を得る。
【0097】
2-2)の工程について
得られた造粒物を用いて、膜状物を得る。膜状物は、任意の方法で得ることができ、溶融流延法で得てもよいし、溶液流延法で得てもよい。
【0098】
(溶融流延法)
溶融流延法では、造粒物の熱溶融物を流延した後、冷却固化させて、流延膜を得る。具体的には、A1)造粒物の熱溶融物を流延した後、冷却固化する工程、および、必要に応じてA2)得られた膜状物を延伸する工程を経て得ることができる。
【0099】
A1)の工程では、準備した造粒物を、それぞれ二軸押出機などで溶融混練した後、流延ダイから流延させる。溶融流延における熱溶融温度は、樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg+30)~(Tg+70)℃としうる。
【0100】
A2)の工程では、延伸は、求められる光学特性に応じて行えばよく、幅方向(TD方向)、搬送方向(MD方向)、斜め方向のうち一以上の方向に延伸することが好ましい。
【0101】
延伸倍率は、求められる光学性能に応じて設定され、例えば低位相差のフィルムとして機能させる観点では、1.01~1.3倍とすることができる。延伸倍率は、(延伸後のフィルムの延伸方向大きさ)/(延伸前のフィルムの延伸方向大きさ)として定義される。延伸温度(延伸時の乾燥温度)は、(Tg-20)~(Tg+30)℃であることが好ましい。
【0102】
(溶液流延法)
溶液流延法では、造粒物を溶剤に溶解させた溶液(ドープ)を流延した後、乾燥させて、流延膜を得る。具体的には、B1)造粒物を含むドープを準備する工程、B2)得られたドープを支持体上に流延した後、乾燥および剥離して膜状物を得る工程、および必要に応じてB3)得られた膜状物を延伸する工程を経て製造されうる。
【0103】
B1)の工程では、造粒物を溶剤に溶解させて、ドープを調製する。用いられる溶剤は、少なくともシクロオレフィン系樹脂を溶解させうる有機溶媒(良溶媒)を含む。良溶媒の例には、メチレンクロライドなどの塩素系有機溶媒や;酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフランなどの非塩素系有機溶媒が含まれ、好ましくはメチレンクロライドである。用いられる溶媒は、流延膜の支持体からの剥離性を高める観点などから、メタノール、エタノールなどの炭素原子数1~4の脂肪族アルコールなどの貧溶媒をさらに含んでいてもよい。
【0104】
B2)の工程では、得られたドープを、例えば流延ダイから吐出させて、支持体上に流延する。次いで、支持体上に流延されたドープから溶媒を蒸発させた後、剥離して膜状物を得る。
【0105】
B3)の工程では、得られた膜状物を延伸する。延伸倍率や延伸温度は、上記A2)の工程と同様としうる。
【0106】
このようにして得られる光学フィルムは、偏光板の保護フィルム(位相差フィルムなどを含む)として好ましく用いることができる。
【0107】
(光学フィルムの物性)
光学フィルムの全光線透過率は、十分な光透過性を有していれば特に制限されないが、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、88%以上であることがさらに好ましい。光学フィルムの全光線透過率は、JIS K7361-1:1997に準拠して測定することができる。
【0108】
光学フィルムの再生前後のYIの差は、0.1未満であることが好ましく、0.05未満であることがより好ましく、0.03未満であることがさらに好ましい。光学フィルムの再生前後のYIの差は、再生前の光学フィルム(返材)のYI0と、(造粒物を用いて製造した)再生後の光学フィルムのYI1の差(YI1-YI0)として求めることができる。YIは、上記と同様の方法で測定することができる。
【実施例】
【0109】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0110】
1.光学フィルム(返材)の材料
(1)樹脂
シクロオレフィン系樹脂(COP):
下記構造単位を含むシクロオレフィン系樹脂(Tg:165℃、Mw:15万)
【化4】
【0111】
(メタ)アクリル系樹脂(Acr):
MMA/N-フェニルマレイミド/2-エチルヘキシルアクリレート共重合体(Tg:120℃、Mw:200万)
【0112】
樹脂のTgおよびMwは、以下の方法で測定した。
【0113】
(Tg)
樹脂のTgは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS K 7121-2012に準拠して測定した。
【0114】
(Mw)
樹脂のMwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー社製HLC8220GPC)を用いて、以下の条件で測定した。
(測定条件)
溶離液:THF
カラム:東ソー社製 TSKgel GMHXL×2本
流速:1.0mL/min
試料濃度:0.1質量%
注入量:100μL
検出器:RI
検量線:標準ポリスチレン
【0115】
(2)ゴム粒子
ゴム粒子(カネカ社製カネエースM210、平均一次粒子径R:200nm)
【0116】
(3)添加剤
Irganox 1076(BASFジャパン社製)(酸化防止剤)
【0117】
2.光学フィルム(返材)の作製
<フィルムA-1の作製>
(添加剤溶液の調製)
メチレンクロライド95質量部を密閉容器に投入し、撹拌しながらIrganox 1076(BASFジャパン社製)(酸化防止剤)を0.00145質量部加えた。その後、ディゾルバーで50分間撹拌混合した。得られた混合液を、高圧分散装置(商品名:超高圧ホモジナイザーM110-E/H、Microfluidics Corporation 製)に通し、175MPaで1回処理した後、日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、添加剤溶液(酸化防止剤が0.0015質量%)を得た。
【0118】
(ドープの調製)
次いで、下記組成のドープを調製した。まず、加圧溶解釜にメチレンクロライドおよびエタノールを添加した。次いで、加圧溶解タンクに、シクロオレフィン系樹脂(COP-1)のペレットを撹拌しながら投入した後、上記調製した添加剤溶液を投入し、撹拌しながら、完全に溶解または分散させた。得られた溶液を、(株)ロキテクノ製のSHP150を使用して濾過し、下記組成のドープを得た。
シクロオレフィン系樹脂(COP):100質量部
メチレンクロライド:220質量部
エタノール:35質量部
添加剤溶液:200質量部
【0119】
(製膜)
ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したドープ中の残留溶媒量が30質量%になるまで溶媒を蒸発させた。次いで、剥離張力128N/mで、ステンレスベルト支持体から剥離し、膜状物を得た(剥離時の膜状物の残留溶媒量は30質量%)。剥離したフィルムを多数のローラーで搬送させながら、得られた膜状物を、テンターにて、(Tg+15)℃(本例では140℃)の条件で幅方向に30%延伸した。延伸開始時の膜状物の残留溶媒量は10質量%であった。その後、ロールで搬送しながら、(Tg-20)℃で更に乾燥させた後、厚み40μmのフィルムA-1(シクロオレフィン系樹脂フィルム)を得た。得られたフィルムA-1を、レーザーカッターでスリットして、返材とした。
【0120】
<フィルムA-2の作製>
流延量を変更した以外はフィルムA-1と同様にして、厚み15μmのフィルムA-2(シクロオレフィン系樹脂フィルム)を得た。
【0121】
<フィルムA-3の作製>
(ゴム粒子分散液の調製)
11.3質量部のゴム粒子R1と、200質量部のメチレンクロライドとを、ディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マイルダー分散機マイルダー分散機(大平洋機工株式会社製)を用いて1500rpm条件下で分散し、ゴム粒子分散液を得た。
【0122】
(ドープの調製)
次いで、下記組成のドープを調製し、それを用いた以外はフィルムA-1と同様の方法で厚み40μmのフィルムA-3((メタ)アクリル系樹脂フィルム)およびその返材を得た。
(メタ)アクリル系樹脂:100質量部
メチレンクロライド:220質量部
エタノール:35質量部
ゴム粒子分散液:200質量部
【0123】
3.造粒物の製造および評価
<試験1>
(返材の破砕)
得られた返材を、
図1の破砕・造粒装置10の破砕部Aにて破砕し、サイズが2mm角(2mm×2mm)で、嵩密度が0.10g/cm
3のフィルム片(破砕物)を得た。
【0124】
(摩擦熱による溶融および造粒)
図1の破砕・造粒装置10の圧縮部Bおよび移送部Cにて、破砕物を摩擦熱により溶融(造粒)させた。造粒(溶融)は、温度調整部60による冷却(通水による冷却)を行いながら実施した。摩擦熱による溶融温度は、
図1の破砕・造粒装置10の押出口22付近に配置したK型熱電対(熱電対24)により測定した。
【0125】
次いで、破砕・造粒装置10から紐状に押し出された樹脂を、造粒物の嵩密度が表1に示される値となるように所定の長さに切断して、造粒物を得た。
【0126】
<試験2~6>
温度調整部60による冷却温度(水の温度)を変えることにより、造粒条件(摩擦熱による溶融温度)を表1に示されるように変更した以外は試験1と同様にして、造粒した。
【0127】
<試験7および8>
造粒条件(処理速度)を表1に示されるように変更した以外は試験1と同様にして、造粒した。
【0128】
<試験9、10および12>
造粒物のアスペクト比が表1に示される値となるように切断長さを変更した以外は試験4と同様にして、造粒した。
【0129】
<試験11>
造粒物のアスペクト比が表1に示される値となるように切断長さを変更した以外は試験1と同様にして、造粒した。
【0130】
<試験13>
返材の種類(フィルム片の厚み)を表1に示されるものに変更した以外は試験4と同様にして、造粒した。
【0131】
<試験14>
返材の種類(樹脂の種類)と造粒条件(溶融温度)を表1に示される値となるように変更した以外は試験4と同様にして、造粒した。溶融温度は、温度調整部60による冷却温度を変えることにより調整した。
【0132】
<試験15>
造粒条件(溶融温度)と造粒物のアスペクト比を表1に示されるように変更した以外は試験14と同様にして、造粒した。溶融温度は、温度調整部60による冷却温度を変えることにより調整した。
【0133】
<評価>
試験1~15で用いた造粒前後の嵩密度、造粒物のアスペクト比および樹脂の分子量、ならびに造粒物を用いて作製したフィルムの特性(着色、異物混入の有無)を、以下の方法で評価した。
【0134】
(1)嵩密度
容量が100mLの容器に、破砕物(または造粒物)をすりきり一杯に充填し、充填した破砕物(または造粒物)の質量を測定した。この測定を10回行い、容量との関係から平均の嵩密度を算出した。なお、容器に充填する際に、タッピングは行わなかった。
【0135】
(2)造粒物のアスペクト比
造粒物のアスペクト比は、以下の手順で測定した。
まず、任意の100個の造粒物のそれぞれについて、カメラで撮影した画像から、造粒物の長軸と短軸の長さを測定し、アスペクト比(長軸の長さ/短軸の長さ)を算出した。長軸は、撮影画像における造粒物像の輪郭の中で最も離れた2点を結んだ線分とし、短軸は、長軸に垂直な直線と輪郭の交点を結んだ線分のうち最も長い線分とした。そして、得られたアスペクト比の平均値を「アスペクト比」とした。
【0136】
(3)造粒物の樹脂の分子量
造粒前の樹脂のMwの測定方法と同様にして、造粒後の樹脂のMwを測定した。
そして、以下の基準に基づいて評価した。
〇:Mwの低下量が(造粒前のMwに対して)20%未満
×:Mwの低下量が(造粒前のMwに対して)20%以上
【0137】
(4)フィルムの特性
(再生フィルムの作製)
樹脂として、得られた造粒物を用いた以外はフィルムA-1~A-3の製造方法と同様にして、厚み40μmの再生フィルムを得た。
【0138】
(評価)
(4-1)YI
再生前のフィルム(新品フィルム)のYI0と再生後のフィルム(再生フィルム)のYI1とを、それぞれコニカミノルタ社製の分光測色計CM-3700dを用いて、光源としてD65(色温度6504K)を用い、視野角10°の条件で測定した。
そして、以下の基準に基づいて評価した。
◎:YIの増加量(YI1-YI0)が0.03未満
〇:YIの増加量(YI1-YI0)が0.03以上0.05未満
△:YIの増加量(YI1-YI0)が0.05以上0.1未満
×:YIの増加量(YI1-YI0)が0.1以上
△以上であれば許容範囲とした。
【0139】
(4-2)異物混入
(フィルムBの作製)
酸化防止剤を配合しなかった以外はフィルムA-1~3と同様にして、厚み40μmのフィルムBおよびその返材を得た。
【0140】
(返材の破砕および造粒)
得られた返材を試験1と同様の方法および条件で破砕し、破砕物を摩擦熱により溶融させて造粒した以外は試験1と同様の方法および条件で造粒物を得た。
【0141】
(再生フィルムBの作製)
(1)配管洗浄あり
フィルムA-1の造粒物を空送した後の配管内を洗浄した後、当該配管内にフィルムBの造粒物を空送させた以外は、再生フィルムA-1と同様にして再生フィルムB-1を作製した。
【0142】
(2)配管洗浄なし
フィルムA-1の造粒物を空送した後の配管内を洗浄せずに、当該配管内にフィルムBの造粒物を空送させた以外は、再生フィルムA-1と同様にして再生フィルムB-2を作製した。
【0143】
(評価)
再生後のフィルムB-1(配管洗浄あり)のYI1と、再生後のフィルムB-2(配管洗浄なし)のYI2とをそれぞれ上記と同様の方法で測定した。そして、以下の基準に基づいて、異物混入による影響を評価した。
◎:YIの増加量(YI2-YI1)が0.03未満
〇:YIの増加量(YI2-YI1)が0.03以上0.05未満
△:YIの増加量(YI2-YI1)が0.05以上0.1未満
×:YIの増加量(YI2-YI1)が0.1以上
△以上であれば許容範囲とした。
【0144】
試験1~15で得られた造粒物の評価結果を表1に示す。
【0145】
【0146】
表1に示されるように、Tg以下の低温で摩擦熱による溶融を行い、かつ造粒物の嵩密度が0.6g/cm3以下(新品のペレットに対して80%以下)に調整した試験2~5、8~10および13~14の造粒物は、熱劣化に起因する樹脂の分子量低下や着色を低減でき、品種切り替え時の異物混入も抑制できることがわかる。
【0147】
これに対し、Tgを超える高温で摩擦熱による溶融を行い、かつ造粒物の嵩密度を0.6g/cm3超(新品のペレットに対して90%)に調整した試験1、11(試験11は、特許文献1の条件に相当)および15の造粒物は、熱劣化に起因する樹脂の分子量低下や着色が生じるだけでなく、品種切り替え時の異物混入も生じることがわかる。
【0148】
なお、試験6において異物混入が生じた理由は明らかではないが、造粒温度が低すぎて、破砕物の一部が造粒前の破砕物の状態のまま残り、配管等の内壁面に付着したものが混入したためと考えられる。
【0149】
本出願は、2020年12月25日出願の特願2020-216666に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【符号の説明】
【0150】
10 破砕・造粒装置
20 シリンダ
21 供給口
22 押出口
23 固定刃
24 熱電対
30 スクリュー
31 回転軸
32A カッタースクリュー
32B ミキシングスクリュー
32C コンベアスクリュー
40 切断部
41 切断刃
50 分離部
51 冷却ブロワー
52 回転円板
60 温度調整部
61 冷却ジャケット
62 通水手段
70 返材
A 破砕部
B 圧縮部
C 移送部
W1、W2 (流路の)幅
L1、L2 (流路の)長さ