(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】成膜方法及び電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/18 20060101AFI20241126BHJP
B05D 5/12 20060101ALI20241126BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20241126BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241126BHJP
H01C 1/032 20060101ALI20241126BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20241126BHJP
【FI】
B05D1/18
B05D5/12 B
B05D7/00 K
B05D7/24 303A
B05D7/24 302Z
B05D7/24 303E
H01C1/032
H01G13/00 321F
(21)【出願番号】P 2023052942
(22)【出願日】2023-03-29
(62)【分割の表示】P 2020022340の分割
【原出願日】2020-02-13
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087985
【氏名又は名称】福井 宏司
(72)【発明者】
【氏名】久保田 博信
(72)【発明者】
【氏名】大島 知也
(72)【発明者】
【氏名】星野 悠太
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特許第7256478(JP,B2)
【文献】特表2013-530908(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0071863(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
H01C1/00-1/16
H01G13/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素体の表面に
、長鎖アルキル基及びエポキシ基から選ばれる1以上の官能基で修飾された金属酸化物を含む被膜層を成膜する成膜方法であって、
反応容器内に前記素体を投入する素体投入工程と、
前記反応容器内に、
前記官能基で修飾された金属アルコキシド又は
前記官能基で修飾された金属アルコキシド前駆体を投入する金属アルコキシド投入工程と、
前記反応容器内に、前記金属アルコキシドの加水分解を促進する触媒を投入する触媒投入工程と、
前記金属アルコキシドを加水分解及び脱水縮合して前記素体の表面に前記被膜層を成膜する成膜工程と、を備え、
前記触媒投入工程、前記素体投入工程、及び前記金属アルコキシド投入工程の順で行う
成膜方法。
【請求項2】
前記反応容器内に溶媒を投入する溶媒投入工程を備え、
前記溶媒投入工程は、前記金属アルコキシド投入工程及び前記触媒投入工程の少なくともいずれかの工程よりも先に行う
請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記成膜工程では、前記反応容器内を撹拌する
請求項1又は請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記金属アルコキシドとして、オルトケイ酸テトラエチルを含む
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項5】
素体と、前記素体の表面を覆う
層であって長鎖アルキル基及びエポキシ基から選ばれる1以上の官能基で修飾された金属酸化物を含む被膜層と、前記素体の内部に内蔵されて前記素体の表面から露出する部分を有する内部電極と、前記素体上に設けられて前記被膜層を貫通する貫通部を介して前記内部電極と接続している外部電極と、を備えた電子部品を製造する方法であって、
反応容器内に前記内部電極を内蔵した
前記素体を投入する素体投入工程と、
前記反応容器内に、前記官能基で修飾された金属アルコキシド又は前記官能基で修飾された金属アルコキシド前駆体を投入する金属アルコキシド投入工程と、
前記反応容器内に、前記金属アルコキシドの加水分解を促進する触媒を投入する触媒投入工程と、
前記金属アルコキシドを加水分解及び脱水縮合して、前記内部電極のうちの前記素体の表面から露出する部分を覆うように、前記素体の表面に前記被膜層を成膜する成膜工程と、
前記被膜層上に導電体ペーストを塗布する導電体塗布工程と、
前記被膜層を硬化させるとともに、前記導電体ペーストを焼成して前記素体上に前記外部電極を形成する硬化工程と、
を備え、
前記素体投入工程は、前記金属アルコキシド投入工程及び前記触媒投入工程の少なくともいずれかの工程よりも先に行い、
前記硬化工程では、カーケンドール効果により前記内部電極と前記外部電極とを接続するように前記貫通部を形成する
電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成膜方法及び電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の電子部品は、素体と、素体の内部に配置される内部電極と、素体の外部に露出するとともに内部電極と接続される外部電極と、を備えている。そして、素体の表面は、被膜層で覆われている。この電子部品において被膜層は、液状又はスラリー状のコーティング剤を、素体に塗布することで形成される。そして、コーティング剤は、アルミニウムやケイ素などを含むアルコキシド法によって調製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電子部品の成膜方法において、コーティング剤は、金属アルコキシドと触媒とが混合されたゾル状やゲル状になっている。したがって、コーティング剤が調製されてから素体に塗布されるまでの間に金属アルコキシドの加水分解及び脱水縮合等の反応が進行してしまう。その結果、コーティング剤内において、反応が進んだ部分と反応があまり進んでいない部分とが生じて、金属アルコキシドの重合度にばらつきが生じることがある。このように重合度のばらつきが生じたコーティング剤を用いて素体に被膜層を形成すれば、その被膜層の品質にもばらつきが生じることになる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本開示の一態様は、素体の表面に、長鎖アルキル基及びエポキシ基から選ばれる1以上の官能基で修飾された金属酸化物を含む被膜層を成膜する成膜方法であって、反応容器内に前記素体を投入する素体投入工程と、前記反応容器内に、前記官能基で修飾された金属アルコキシド又は前記官能基で修飾された金属アルコキシド前駆体を投入する金属アルコキシド投入工程と、前記反応容器内に、前記金属アルコキシドの加水分解を促進する触媒を投入する触媒投入工程と、前記金属アルコキシドを加水分解及び脱水縮合して前記素体の表面に前記被膜層を成膜する成膜工程と、を備え、前記触媒投入工程、前記素体投入工程、及び前記金属アルコキシド投入工程の順で行う成膜方法である。
【0006】
上記課題を解決するため、本開示の一態様は、素体と、前記素体の表面を覆う層であって長鎖アルキル基及びエポキシ基から選ばれる1以上の官能基で修飾された金属酸化物を含む被膜層と、前記素体の内部に内蔵されて前記素体の表面から露出する部分を有する内部電極と、前記素体上に設けられて前記被膜層を貫通する貫通部を介して前記内部電極と接続している外部電極と、を備えた電子部品を製造する方法であって、反応容器内に前記内部電極を内蔵した前記素体を投入する素体投入工程と、前記反応容器内に、前記官能基で修飾された金属アルコキシド又は前記官能基で修飾された金属アルコキシド前駆体を投入する金属アルコキシド投入工程と、前記反応容器内に、前記金属アルコキシドの加水分解を促進する触媒を投入する触媒投入工程と、前記金属アルコキシドを加水分解及び脱水縮合して、前記内部電極のうちの前記素体の表面から露出する部分を覆うように、前記素体の表面に前記被膜層を成膜する成膜工程と、前記被膜層上に導電体ペーストを塗布する導電体塗布工程と、前記被膜層を硬化させるとともに、前記導電体ペーストを焼成して前記素体上に前記外部電極を形成する硬化工程と、を備え、前記素体投入工程は、前記金属アルコキシド投入工程及び前記触媒投入工程の少なくともいずれかの工程よりも先に行い、前記硬化工程では、カーケンドール効果により前記内部電極と前記外部電極とを接続するように前記貫通部を形成する電子部品の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
被膜層の品質のばらつきを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、成膜方法及び電子部品の製造方法を、図面を参照して説明する。なお、図面は、理解を容易にするために構成要素を拡大して示している場合がある。構成要素の寸法比率は実際のものと、又は別の図面中のものと異なる場合がある。
【0010】
先ず、電子部品について説明する。
図1に示すように、電子部品は、例えば、回路基板等に実装される表面実装型の負特性サーミスタ部品10である。負特性サーミスタ部品10は、温度が上がると抵抗値が上がる電子部品として機能する。負特性サーミスタ部品10は、素体20を備えている。
【0011】
素体20は、正四角柱状であり、正方形の一辺の長さよりも中心軸線CA方向の長さが長くなっている。素体20の材質は、マンガン、ニッケル、コバルト等を成分とする酸化物を焼成したセラミックスとなっている。なお、以下の説明では、素体20の中心軸線CA方向を長さ方向Ldとする。また、長さ方向Ldに直交する高さ方向Td及び幅方向Wdを次のように規定する。すなわち、高さ方向Tdは、長さ方向Ldに垂直な方向のうち、負特性サーミスタ部品10が回路基板に実装された状態で回路基板の主面と垂直な方向である。幅方向Wdは、長さ方向Ldに垂直な方向のうち、負特性サーミスタ部品10が回路基板に実装された状態で回路基板の主面と平行な方向である。
【0012】
素体20の表面は、長さ方向Ldの第1端側の端面である第1端面20Aと、長さ方向Ldの第1端とは反対の第2端側の端面である第2端面20Bと、4つの側面に大別される。4つの側面は、幅方向Wdの第1端側に位置する第1側面20Cと、幅方向Wdの第1端とは反対の第2端側に位置する第2側面20Dと、高さ方向Tdの上側に位置する上側面20Eと、高さ方向Tdの下側に位置する下側面20Fと、で構成されている。
【0013】
図2に示すように、素体20の内部には、2つの長方形板状の第1内部電極21と、2つの長方形状の第2内部電極22とが内蔵されている。第1内部電極21の材質及び第2内部電極22の材質は、銀である。第1内部電極21及び第2内部電極22は、厚み方向の両面が素体20の第1側面20C及び第2側面20Dに対して略平行となるように配置されている。
【0014】
第1内部電極21の長さ方向Ldの寸法、すなわち第1内部電極21の長手方向の寸法は、素体20の長さ方向Ldの寸法より小さくなっている。
図1に示すように、第1内部電極21の高さ方向Tdの寸法、すなわち第1内部電極21の短手方向の寸法は、素体20の高さ方向Tdの寸法の略3分の2となっている。また、第2内部電極22は、第1内部電極21と同一の形状となっている。
【0015】
図2に示すように、幅方向Wdにおいて第1内部電極21と第2内部電極22とが互い違いに配置されている。すなわち、幅方向Wdの第1端側から、第1内部電極21、第2内部電極22、第1内部電極21、第2内部電極22の順に幅方向Wdに並んで配置されている。この実施形態では、各内部電極22間の距離は等しくなっている。
【0016】
2つの第1内部電極21及び2つの第2内部電極22は、いずれも、高さ方向Tdにおいて素体20の中央に配置されている。その一方で、第1内部電極21は、長さ方向Ldにおいて第1端側に寄せて配置されているとともに、第2内部電極22は、長さ方向Ldにおいて第2端側に寄せて配置されている。
【0017】
具体的には、第1内部電極21の長さ方向Ldの第1端側の端面は、素体20の長さ方向Ldの第1端面20Aと面一になっていて、素体20から露出している。その一方で、第1内部電極21の長さ方向Ldの第2端側の端面は、素体20の内部に埋没していて外部に露出していない。一方、第2内部電極22の長さ方向Ldの第2端側の端面は、素体20の長さ方向Ldの第2端面20Bと面一になっていて、素体20から露出している。その一方で、第2内部電極22の長さ方向Ldの第1端側の端面は、素体20の内部に埋没していて外部に露出していない。
【0018】
図1に示すように、素体20の表面は、被膜層30によって覆われている。この実施形態では、被膜層30は素体20の表面のすべてを覆っている。被膜層30は、金属酸化物からなっており、本実施形態では、被膜層30は、二酸化ケイ素のセラミックスからなっている。また、被膜層30の厚さは、数十nmとなっている。なお、
図2においては、被膜層30の厚さを誇張して図示している。
【0019】
図1に示すように、素体20のうちの長さ方向Ldにおける第1端側部分上には、第1外部電極41が積層されている。具体的には、第1外部電極41は、素体20の第1端面20Aと、4つの側面20C~20Fの長さ方向Ldの第1端側の一部を覆う、5面電極である。この実施形態では、第1外部電極41は、被膜層30の表面に積層されている。第1外部電極41の材質は銀とパラジウムとからなる合金である。
【0020】
素体20のうちの長さ方向Ldにおける第2端側部分上には、第2外部電極42が積層されている。具体的には、第2外部電極42は、素体20の第2端面20Bと、4つの側面20C~20Fの長さ方向Ldの第2端側の一部を覆う、5面電極である。この実施形態では、第1外部電極41は、被膜層30の表面に積層されている。第2外部電極42の材質は、第1外部電極41と同じ銀とパラジウムとからなる合金である。
【0021】
第2外部電極42は、4つの側面20C~20F上において、第1外部電極41にまでは至っておらず、第1外部電極41に対して中心軸線CA方向に離れて配置されている。そして、素体20の4つの側面20C~20F上において長さ方向Ldの中央部は、第1外部電極41及び第2外部電極42が積層されてなく被膜層30が露出している。なお、
図1及び
図2では、第1外部電極41及び第2外部電極42は、二点鎖線で図示している。
【0022】
図2に示すように、第1外部電極41と第1内部電極21における長さ方向Ldの第1端側の端面とは、被膜層30を貫通する第1貫通部51を介して接続されている。なお、詳細は後述するが、第1貫通部51は、負特性サーミスタ部品10の製造過程において、第1内部電極21を構成する銀が第1外部電極41側へと延びることによって形成される。また、第2外部電極42と第2内部電極22における長さ方向Ldの第2端側の端面とは、被膜層30を貫通する第2貫通部52を介して接続されている。第2貫通部52も、第1貫通部51同様に、負特性サーミスタ部品10の製造過程において、第2内部電極22を構成する銀が第2外部電極42側へと延びることによって形成される。なお、
図2では、第1内部電極21と第1貫通部51とを境界のある別の部材として図示しているが、実際には両者の間には明確な境界は存在しない。この点、第2貫通部52についても同様である。また、
図1においては、第1貫通部51の図示を省略する。
【0023】
次に、負特性サーミスタ部品10の製造方法について説明する。
図3に示すように、負特性サーミスタ部品10の製造方法は、溶媒投入工程S10と、触媒投入工程S12と、素体投入工程S14と、金属アルコキシド投入工程S16と、成膜工程S18と、乾燥工程S20と、導電体塗布工程S22と、硬化工程S24と、を有する。
【0024】
被膜層30を形成する前に、素体20を予め準備する。具体的には、第1内部電極21及び第2内部電極22の端部の一部が素体20の表面から露出する部分を有するように、第1内部電極21及び第2内部電極22を複数のセラミック層間に挟みつつセラミック層を積層させる。これにより、素体20の内部に第1内部電極21及び第2内部電極22を配置させる。そして、複数のセラミック層と、第1内部電極21及び第2内部電極22と、を圧着して、未焼成のセラミック積層体を形成する。その後、このセラミック積層体を焼成することで、素体20が形成される。そして、被膜層30の成膜を開始する。
【0025】
被膜層30を成膜するにあたっては、先ず、溶媒投入工程S10を行う。
図4に示すように、溶媒投入工程S10では、反応容器60内に、溶媒70として2-プロパノールを投入する。
【0026】
図3に示すように、溶媒投入工程S10の次に、触媒投入工程S12を行う。
図5に示すように、触媒投入工程S12では、反応容器60内の溶媒70の撹拌を開始する。次に、反応容器60内に、触媒を含む水溶液80としてアンモニア水を投入する。この実施形態において触媒は、水酸化物イオンであり、後述する金属アルコキシド90の加水分解を促進する触媒として機能している。
【0027】
図3に示すように、触媒投入工程S12の次に、素体投入工程S14を行う。
図6に示すように、素体投入工程S14では、反応容器60内に、上述したように予め準備した複数の素体20を投入する。
【0028】
図3に示すように、素体投入工程S14の次に、金属アルコキシド投入工程S16を行う。
図7に示すように、金属アルコキシド投入工程S16では、反応容器60内に、金属アルコキシド90として液状のオルトケイ酸テトラエチルを投入する。なお、オルトケイ酸テトラエチルは、テトラエトキシシランと呼称されることもある。本実施形態においては、金属アルコキシド投入工程S16において投入する金属アルコキシド90の量は、素体投入工程S14において投入した素体20の表面積を基に算出している。具体的には、素体20の表面に形成する被膜層30を形成するために必要な素体20の1個当たりの金属アルコキシド90の量に、素体投入工程S14において投入した素体20の数を乗算して算出している。
【0029】
図3に示すように、金属アルコキシド投入工程S16の次に、成膜工程S18を行う。具体的には、上述した触媒投入工程S12で開始した溶媒70の撹拌を、金属アルコキシド投入工程S16によって金属アルコキシド90が反応容器60内に投入されてから、所定時間だけ続ける。これにより、金属アルコキシド90が、触媒である水酸化物イオンによって加水分解する。金属アルコキシド90が加水分解すると、加水分解された金属アルコキシド90が、素体20の表面に付着する。そして、素体20の表面に付着した金属アルコキシド90同士が脱水縮合して被膜層30が形成される。また、成膜工程S18においては、素体20は溶液内に没しているので、当該素体20の表面全体に被膜層30が形成される。この成膜工程S18の段階では、被膜層30はゾル状である。なお、本実施形態においては、溶媒投入工程S10と、触媒投入工程S12と、素体投入工程S14と、金属アルコキシド投入工程S16と、成膜工程S18とによって、素体20に被膜層30を成膜する成膜方法が構成されている。
【0030】
成膜工程S18の次に、乾燥工程S20を行う。乾燥工程S20では、成膜工程S18において所定時間だけ撹拌を続けた後に、素体20を反応容器60から取り出して、乾燥させる。これにより、ゾル状の被膜層30は乾燥され、ゲル状の被膜層30となる。
【0031】
乾燥工程S20の次に、導電体塗布工程S22を行う。
図8に示すように、導電体塗布工程S22では、被膜層30の表面のうち、素体20の長さ方向Ldにおける第1端側部分と第2端側部分の2箇所に導電体ペーストPを塗布する。具体的には、導電体ペーストPは、第1端面20Aの全域と4つの側面20C~20F上の一部の被膜層30を覆うように塗布される。また、導電体ペーストPは、第2端面20Bの全域と4つの側面20C~20F上の一部の被膜層30を覆うように塗布される。
【0032】
図3に示すように、導電体塗布工程S22の次に、硬化工程S24を行う。具体的には、硬化工程S24は、本実施形態においては加熱工程となっている。硬化工程S24では、被膜層30及び導電体ペーストPが塗布された素体20を加熱する。これにより、ゲル状の被膜層30から水が気化することで、
図1に示すように、素体20の表面を覆う被膜層30が焼成され、硬化する。それとともに、第1外部電極41及び第2外部電極42が焼成される。このように、導電体塗布工程S22と硬化工程S24とによって、外部電極形成工程が構成されている。つまり、本実施形態において硬化工程S24は、被膜層30を硬化させる工程としてだけではなく、外部電極形成工程の一部工程も兼ねている。
【0033】
本実施形態においては、硬化工程S24における加熱の際に、第1内部電極21と第1外部電極41との拡散速度の違いから生じるカーケンドール効果により、パラジウムを含む第1外部電極41側に、第1内部電極21側に含まれる銀が引き寄せられる。これにより、第1内部電極21から第1外部電極41に向かって第1貫通部51が被膜層30を貫通して延びることで、第1内部電極21と第1外部電極41とが接続する。この点、第2内部電極22と第2外部電極42とを接続する第2貫通部52においても同様である。
【0034】
次に、上述した製造方法によって製造した負特性サーミスタ部品10と、比較例の負特性サーミスタ部品とについて、被膜層の品質のばらつきを、被膜層の膜厚のばらつきに基づいて評価した。
図9に示す比較例の負特性サーミスタ部品は、触媒を含む水溶液80と金属アルコキシド90とを予め混合した状態のコート液を、素体20の表面に塗布し、上記実施例と同様に、乾燥工程S20、導電体塗布工程S22及び硬化工程S24を行った。
【0035】
図9に示すように、比較例の負特性サーミスタ部品は、照射光を照射させた状態で顕微鏡にて観察すると、被膜層30の表面に干渉縞が確認できた。被膜層30の厚さが数十nm程度である場合には、被膜層30の厚さが異なると干渉縞が観察される。すなわち、比較例の負特性サーミスタ部品の被膜層30上には、干渉縞が視認できるため、被膜層30の厚さがばらついていることがわかる。
【0036】
一方で、
図10に示すように、上記実施形態の製造方法によって製造した負特性サーミスタ部品10は、照射光を照射させた状態で顕微鏡にて観察すると、被膜層30の表面に干渉縞が発現しなかった。そのため、本実施形態における負特性サーミスタ部品10の被膜層30は、比較例の負特性サーミスタ部品と比べて、被膜層30の膜厚のばらつきが小さく均一であることが分かる。
【0037】
次に、上記実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)上記実施形態によれば、金属アルコキシド投入工程S16の際には、反応容器60内に素体20がある状態で、金属アルコキシド90の加水分解が触媒によって開始される。そのため、加水分解した金属アルコキシド90が過度に脱水縮合するよりも先に素体20の表面に付着しやすい。その結果、金属アルコキシド90の反応が進んだ部分と反応があまり進んでいない部分とが生じる前に、素体に被膜層30を形成できるため、被膜層30の品質のばらつきを抑制できる。よって、被膜層30から形成される被膜層30の膜厚のばらつきも抑制できる。
【0038】
(2)上記実施形態によれば、溶媒投入工程S10を、触媒投入工程S12及び金属アルコキシド投入工程S16のいずれよりも先に行っている。そのため、金属アルコキシド90と触媒を含む水溶液80とが混ざる際には既に反応容器60内には溶媒70が含まれている。よって、加水分解した金属アルコキシド90が、素体20の表面に均一に付着しやすい。
【0039】
(3)上記実施形態によれば、溶媒投入工程S10後から、反応容器60内を撹拌している。そして、成膜工程S18においても反応容器60内を撹拌している。そのため、金属アルコキシド90と触媒を含む水溶液80とを均一に混合できる。その結果、加水分解した金属アルコキシド90が均一の速度で脱水縮合することで、同程度の重合度となりやすい。
【0040】
(4)上記実施形態では、反応容器60内に溶媒70が含まれており、さらに撹拌されることで金属アルコキシド90が箇所に拘わらず略均一の速度で脱水縮合できる。上記実施形態では、複数の素体20が反応容器60内に投入されている。そのため、素体20内での被膜層30の膜厚のばらつきのみならず、素体20間での被膜層30の膜厚のばらつきも抑制できる。
【0041】
(5)仮に、金属アルコキシド90が反応容器60内に含まれている状態で、触媒を含む水溶液80を反応容器60内に投入すると、水溶液80を投入した際に触媒の密度が高い箇所で局所的に金属アルコキシド90の反応が進む虞がある。上記実施形態によれば、触媒投入工程S12は、金属アルコキシド投入工程S16よりも先に行っている。そのため、金属アルコキシド投入工程S16において金属アルコキシド90を反応容器60内に投入する際には、既に触媒を含む水溶液80が反応容器60内に存在する。よって、金属アルコキシド90が反応容器60内に存在する状態で触媒を含む水溶液80を投入するよりも、金属アルコキシド90を投入した際の局所的な反応を抑制できる。
【0042】
(6)上記実施形態によれば、金属アルコキシド90としてオルトケイ酸テトラエチルを用いている。金属がケイ素である金属アルコキシド90は、反応速度が比較的に遅いため、反応速度を一定に制御しやすい。
【0043】
(7)上記実施形態によれば、素体投入工程S14の後に、金属アルコキシド投入工程S16を行っている。そのため、素体投入工程S14において投入した素体20に対して、被膜層30を形成するために必要な金属アルコキシド90の量が、金属アルコキシド投入工程S16を行う前に算出できる。例えば、素体投入工程S14において投入した素体20の表面積に対して、形成する被膜層30の膜厚となるだけの金属アルコキシド90の量を算出できる。そのため、必要以上に金属アルコキシド90を消耗せずに済む。
【0044】
上記実施形態は以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態において、電子部品の製造方法として上記成膜方法が適用される電子部品は、負特性サーミスタ部品10に限られない。例えば、負特性以外のサーミスタ部品であってもよいし、積層コンデンサ部品やインダクタ部品であってもよい。少なくとも、素体20と、素体20の表面を覆う被膜層30と、を備えている電子部品であれば、上記実施形態の成膜方法を電子部品の製造方法として適用できる。
【0045】
・上記実施形態において、素体20の材質は、上記実施形態の例に限られない。例えば、素体20の材質は、マンガン-亜鉛フェライトや、銅-亜鉛フェライトであってもよい。また、素体20の材質は、樹脂であってもよい。
【0046】
・上記実施形態において、素体20の形状は、上記実施形態の例に限られず、円柱状であってもよいし、多角形状であってもよい。また、素体20は、巻線型のインダクタ部品のコアであってもよい。例えばコアは、柱状の巻芯部と、巻芯部の各端部に設けられた鍔部とから構成されており、コアの形状は、いわゆるドラムコア形状であってもよい。巻線型のインダクタ部品の場合には、素体20であるコアに被膜層30と第1外部電極41と第2外部電極42とが形成された状態となっている硬化工程S24の後に、さらに導電性のワイヤを巻回すことで、インダクタ部品を製造できる。
【0047】
・上記実施形態において、被膜層30の膜厚は、数十nmに限られず、数十μmであってもよい。なお、被膜層30の膜厚が数十nmであると、照射光による干渉縞の有無によって、膜厚のばらつきを評価しやすい。被膜層30の膜厚をより大きくするためには、例えば金属アルコキシド投入工程S16及び成膜工程S18を複数回繰り返せばよい。
【0048】
・上記実施形態において、第1内部電極21及び第2内部電極22の形状は、対応する第1外部電極41及び第2外部電極42との電気的導通を確保できる形状であれば問わない。また、第1内部電極21及び第2内部電極22の数は問わず、第1内部電極21の数が1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0049】
・上記実施形態において、第1内部電極21と第1外部電極41との材料の組み合わせは、上記実施形態の例に限られない。一方が、銀を含み、他方がパラジウムを含む組み合わせであれば、上述したカーケンドール効果を得ることができる。この点、第2内部電極22と第2外部電極42との材料の組み合わせにおいても同様である。
【0050】
また、第1内部電極21と第1外部電極41との材料の組み合わせは、銀及びパラジウムに限られず、カーケンドール効果を得られなくてもよい。この場合には、成膜工程S18の後に、第1内部電極21が露出するように、例えば素体20の第1端面20A側を研磨して被膜層30の一部を物理的に除去し、その後に乾燥工程S20及び導電体塗布工程S22を行えばよい。これにより、導電体ペーストPを第1内部電極21に直接塗布することができるため、第1内部電極21と第1外部電極41とを接続することができる。この点、第2内部電極22と第2外部電極42との材料の組み合わせにおいても同様である。
【0051】
・上記実施形態において、第1外部電極41の配置箇所は、上記実施形態の例に限られない。例えば、第1外部電極41が実装面となる下側面20Fにのみ配置されてもよいし、下側面20Fから第1端面20Aにかけて配置されていてもよい。この点、第2外部電極42についても同様である。
【0052】
・上記実施形態において、外部電極形成工程は、上記実施形態の例に限られない。例えば、成膜工程S18の後に、加熱処理をすることで被膜層30を硬化させた後に、導電体塗布工程S22及び硬化工程S24を行うことで、第1外部電極41及び第2外部電極42を形成してもよい。また例えば、上述した変更例のように、第1内部電極21の一部が素体20から露出しており、露出している部分に、めっき工法によって第1外部電極41を形成してもよい。
【0053】
・上記実施形態において、硬化工程S24は、被膜層30と導電体ペーストPとを同時に硬化させる工程に限られない。例えば、導電体ペーストPが紫外線照射によって硬化される材料であるならば、被膜層30を硬化させる硬化工程として、加熱工程を行い、導電体ペーストPを硬化させる工程として紫外線照射をしてもよい。
【0054】
・上記実施形態において、乾燥工程S20によって充分に水が気化することで被膜層30が硬化されてもよい。この場合、乾燥工程S20が被膜層30を硬化させる硬化工程として機能する。
【0055】
・上記実施形態において、素体投入工程S14は、触媒投入工程S12より先に行ってもよい。また、素体投入工程S14を触媒投入工程S12より先に行う場合には、金属アルコキシド投入工程S16は、触媒投入工程S12や素体投入工程S14より先に行ってもよい。素体投入工程S14は、金属アルコキシド投入工程S16及び触媒投入工程S12の少なくともいずれかの工程よりも先に行えばよい。
【0056】
・上記実施形態において、溶媒投入工程S10において投入する溶媒70は、上記実施形態の例に限られず、金属アルコキシド90を相応に分散できる液体であればよい。
・上記実施形態において、溶媒投入工程S10は、触媒投入工程S12や素体投入工程S14の後に行ってもよい。溶媒投入工程S10は、金属アルコキシド投入工程S16及び触媒投入工程S12の少なくともいずれかの工程よりも先に行えばよい。また、溶媒投入工程S10を省いてもよい。この場合、例えば、触媒を含む水溶液80に含まれる水の量が相応に多ければ、金属アルコキシド90は液相で反応する。また、触媒を含む水溶液80が溶媒70としての有機溶媒と混合された状態で投入されてもよい。
【0057】
・上記実施形態において、触媒投入工程S12の際に反応容器60内の撹拌を開始したが、反応容器60内の撹拌は、少なくとも成膜工程S18において行われていれば、金属アルコキシド90の反応速度を一定にしやすい。また、反応容器60内の撹拌については、攪拌翼を回転させることで撹拌してもよいし、反応容器60を回転などさせて転倒混和させることで撹拌してもよい。さらに、反応容器60内の撹拌は省いてもよい。例えば、溶媒70に対する金属アルコキシド90の割合が相応に小さければ、金属アルコキシド90が充分に分散して反応速度が相応に小さくなり得る。
【0058】
・上記実施形態において、触媒を含む水溶液80はアンモニア水であり、触媒は水酸化物イオンとしたが、触媒はこれに限られない。塩基性の水溶液であれば、上記実施形態のアンモニア水と同様に、金属アルコキシド90の加水分解を触媒できるし、酸性の水溶液であっても金属アルコキシド90の加水分解を触媒できる。さらに、中性の水溶液であっても、当該水溶液に加水分解を触媒できるイオンなどが含まれていればよい。
【0059】
・上記実施形態において、触媒は、触媒を含む水溶液80として投入されるとして説明したが、触媒を含む固体状の化合物と水とを別々に反応容器60内に投入してもよく、この場合には触媒が反応容器60内に生成されたことによって、触媒が反応容器60内に投入されたとみなせる。また例えば、触媒を含む固体状の化合物を反応容器60内に投入し、加水分解に必要な水としては空気中の水分を用いてもよい。
【0060】
・上記実施形態において、金属アルコキシド90は、オルトケイ酸テトラエチルに限られない。例えば、金属アルコキシド90に含まれる金属は、チタン、ジルコニウム、アルミニウム等を用いてもよい。なお、金属アルコキシド90に含まれる金属がケイ素であると、他の金属と比べて、反応速度が遅いため、金属アルコキシド90の反応速度を一定に制御しやすい。また、金属アルコキシド90のアルコキシ基についても、メトキシ基やプロポキシ基等を用いてもよいし、カップリング剤のように長鎖アルキル基やエポキシ基等の官能基が修飾されていてもよい。さらに、金属アルコキシド90に含まれる金属に対する配位数についても、4配位に限られず、3配位や2配位であってもよい。
【0061】
・上記実施形態において、金属アルコキシド投入工程S16では、金属アルコキシド90に代えて、金属アルコキシド90を生成するための前駆体を含む溶液を投入してもよい。反応容器60外で金属アルコキシド90を生成してから、反応容器60内に投入しなくても、反応容器60内において金属アルコキシド90を生成してもよい。例えば、金属アルコキシド90は、金属塩とアルコールとが反応することにより生成される。そのため、金属アルコキシド前駆体である金属塩とアルコールとが反応容器60内に投入されて、これらが反応することで金属アルコキシド90が生成されたことによっても、金属アルコキシド90が反応容器60内に投入されたとみなせる。
【0062】
・上記実施形態においては、成膜方法は、電子部品における素体20に対して成膜しているが、成膜する素体は、電子部品を構成するものに限られない。例えば、素体は、基板であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
10…負特性サーミスタ
20…素体
30…被膜層
41…第1外部電極
42…第2外部電極
60…反応容器
70…溶媒
80…水溶液
90…金属アルコキシド
S10…溶媒投入工程
S12…触媒投入工程
S14…素体投入工程
S16…金属アルコキシド投入工程
S18…成膜工程
S20…乾燥工程
S22…導電体塗布工程
S24…硬化工程