(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】電子部品搭載基板およびその製造方法、電子部品被覆シート並びに積層シート
(51)【国際特許分類】
H05K 3/28 20060101AFI20241126BHJP
H01L 23/28 20060101ALI20241126BHJP
H01L 21/56 20060101ALI20241126BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H05K3/28 C
H05K3/28 F
H05K3/28 G
H01L23/28 E
H01L21/56 R
C09D201/00
(21)【出願番号】P 2023128861
(22)【出願日】2023-08-07
【審査請求日】2024-04-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100124936
【氏名又は名称】秦 恵子
(72)【発明者】
【氏名】日野 光晴
(72)【発明者】
【氏名】松戸 和規
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/168723(WO,A1)
【文献】特開2014-095041(JP,A)
【文献】特開2022-000683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/00 - 3/46
H01L 23/28
H01L 21/56
C09D 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に搭載された電子部品と、前記電子部品および前記基板の少なくとも一部を覆う被覆層と、を備える電子部品搭載基板の前記被覆層を形成するための電子部品被覆シートであって、
(i)
常温の前記電子部品被覆シートを
、当該電子部品被覆シートのTg~Tg+40℃の
温度下に投入し、当該温度で引張速度50mm/分で測定する破断伸びが800~2000%であり、
(ii)
常温の前記電子部品被覆シートを
、当該電子部品被覆シートのTg~Tg+40℃の
温度下に投入し、当該温度で引張速度1000mm/分で測定する破断伸びが500~1500%であり、更に、
(iii)前記電子部品被覆シートを、JIS Z1707に準拠した突き刺し試験で測定した23℃における単位膜厚あたりの突刺し強度が10~200N/mmである、電子部品被覆シート。
【請求項2】
常温の前記電子部品被覆シートを
、当該電子部品被覆シートのTg~Tg+40℃の
温度下に投入し、当該温度で引張速度50mm/分で測定するヤング率E
50と、
常温の前記電子部品被覆シートを
、当該電子部品被覆シートのTg~Tg+40℃の
温度下に投入し、当該温度で引張速度1000mm/分で測定するヤング率E
1000との比E
1000/E
50が0.8以上である、請求項1に記載の電子部品被覆シート。
【請求項3】
熱硬化性樹脂と、硬化性化合物を含有し、
前記硬化性化合物は、
3官能以上であって、N原子を有する硬化性化合物(c1)、並びに
2官能であって、N原子を有しない硬化性化合物(c2)、を含有する請求項1に記載の電子部品被覆シート。
【請求項4】
支持層、および請求項1に記載の電子部品被覆シートを備える積層シート。
【請求項5】
前記支持層と前記電子部品被覆シートの間に離型層を有する請求項4記載の積層シート。
【請求項6】
前記支持層の
TgをTg
2と
し、前記電子部品被覆シートの
TgをTg
1
としたときに、
|Tg
2-Tg
1|≦20℃
の関係にある、請求項4記載の積層シート。
【請求項7】
基板と、前記基板上に搭載された電子部品と、前記電子部品および前記基板の少なくとも一部を覆う被覆層とを備える電子部品搭載基板であって、
前記被覆層は、請求項1~3のいずれかに記載の電子部品被覆シートを用いて形成された層である電子部品搭載基板。
【請求項8】
基板と、前記基板上に搭載された電子部品と、前記電子部品および前記基板の少なくとも一部を覆う被覆層とを備える電子部品搭載基板の製造方法であって、
請求項1~3のいずれかに記載の電子部品被覆シートを用いて前記被覆層を形成する被覆工程を有し、
前記被覆工程をTOM成形法、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プレス成形法、射出成形法のいずれか一つの方法により行う電子部品搭載基板の製造方法。
【請求項9】
基板と、前記基板上に搭載された電子部品と、前記電子部品および前記基板の少なくとも一部を覆う被覆層とを備える電子部品搭載基板の製造方法であって、
請求項4~6のいずれかに記載の積層シートを用いて前記被覆層を形成する被覆工程と、
前記被覆工程後に、前記積層シートのうちの前記被覆層以外の層を除去する工程とを有し、
前記被覆工程をTOM成形法、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プレス成形法、射出成形法のいずれか一つの方法により行う電子部品搭載基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子部品搭載基板およびその製造方法に関する。また、電子部品被覆シートおよび積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
基板に搭載されたICチップ等の電子部品は、被覆層により保護されている。被覆層により、基板の折り曲げ耐性を高めたり、物理的衝撃、或いは温度変化等から保護したりしている。
【0003】
被覆層の形成は、従来のコンフォーマルコーティングに代わり、熱溶融性の電子部品被覆シートに置き換わりつつある。例えば、特許文献1には、基板上に実装された電子部品を熱硬化性樹脂組成物からなるシートで被覆し、加熱硬化する電子部品の封止方法が開示されている。特許文献2には、絶縁層と電磁波シールド層を備える封止用フィルムの製造方法が開示されている。封止用フィルムは、軟化点における伸び率が150~3500%であり、電子部品搭載基板に形成される凹凸に対応する凹凸を予め備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-054363号公報
【文献】特開2019-021757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
立体形状にフィルムを貼付する方法として、例えば、TOM成形(Three dimension Overlay Method:3次元表面被覆成形)法が知られている。TOM成形法は、凹凸形状に追随するように被覆することができ、加飾性、絶縁性などの各種機能を付与できるので、自動車の内装部品などの加飾用途として利用されている。TOM成形法は立体形状の被覆に適しているので、電子部品搭載基板の被覆層としても有望である。しかし、電子部品はサイズが小さい上、形状・高さの異なる電子部品が過密に搭載されるので、被覆層の皺、破断などの被覆不良が生じやすい。被覆不良は外観不良のみならず、品質劣化、性能劣化を招来する。絶縁性が求められる被覆層の場合、電子部品搭載基板の絶縁不良が生じる原因となり得る。また、電磁波シールド性が求められる被覆層の場合、シールド特性の低下が生じ得る。軽薄短小化により、これらの問題はより深刻になり得る。また、被覆層の形成位置ズレを防止できれば、被覆が必要な領域に限定して被覆するなどの選択肢も可能となる。更に、汎用性を格段に高めることも期待できる。
なお、上記においてはTOM成形における問題点において述べたが、真空成形用、圧空成形用、真空圧空成形用、プレス成形用、射出成形用等においても同様の課題が生じ得る。
【0006】
本開示は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、皺および破断を改善でき、且つ被覆位置のズレを抑制できる品質の優れた被覆層を形成できる電子部品被覆シート、積層シート並びに前記被覆層を有する電子部品搭載基板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、以下の態様において、本開示の課題を解決し得ることを見出し、本開示を完成するに至った。
[1]: 基板と、前記基板上に搭載された電子部品と、前記電子部品および前記基板の少なくとも一部を覆う被覆層と、を備える電子部品搭載基板の前記被覆層を形成するための電子部品被覆シートであって、
(i)前記電子部品被覆シートを常温から電子部品被覆シートのTg~Tg+40℃の雰囲気下に投入し、当該温度で引張速度50mm/分で測定する破断伸びが800~2000%であり、
(ii)前記電子部品被覆シートを常温から電子部品被覆シートのTg~Tg+40℃の雰囲気下に投入し、当該温度で引張速度1000mm/分で測定する破断伸びが500~1500%であり、更に、
(iii)前記電子部品被覆シートを、JIS Z1707に準拠した突き刺し試験で測定した23℃における単位膜厚あたりの突刺し強度が10~200N/mmである、電子部品被覆シート。
[2]: 前記電子部品被覆シートを常温から電子部品被覆シートのTg~Tg+40℃の雰囲気下に投入し、当該温度で引張速度50mm/分で測定するヤング率E50と、
前記電子部品被覆シートを常温から電子部品被覆シートのTg~Tg+40℃の雰囲気下に投入し、当該温度で引張速度1000mm/分で測定するヤング率E1000との比E1000/E50が0.8以上である、[1]に記載の電子部品被覆シート。
[3]: 熱硬化性樹脂と、硬化性化合物を含有し、前記硬化性化合物は、3官能以上であって、N原子を有する硬化性化合物(c1)、並びに
2官能であって、N原子を有しない硬化性化合物(c2)、を含有する[1]または[2]に記載の電子部品被覆シート。
[4]: 支持層、および[1]~[3]のいずれかに記載の電子部品被覆シートを備える積層シート。
[5]: 前記支持層と前記電子部品被覆シートの間に離型層を有する[4]に記載の積層シート。
[6]: 前記支持層のガラス転移温度Tg2と前記電子部品被覆シートのTg1が、
|Tg2-Tg1|≦20℃
の関係にある、[4]または[5]に記載の積層シート。
[7]: 基板と、前記基板上に搭載された電子部品と、前記電子部品および前記基板の少なくとも一部を覆う被覆層とを備える電子部品搭載基板であって、
前記被覆層は、[1]~[3]のいずれかに記載の電子部品被覆シートを用いて形成された層である電子部品搭載基板。
[8]: 基板と、前記基板上に搭載された電子部品と、前記電子部品および前記基板の少なくとも一部を覆う被覆層とを備える電子部品搭載基板の製造方法であって、
[1]~[3]のいずれかに記載の電子部品被覆シートを用いて前記被覆層を形成する被覆工程を有し、前記被覆工程をTOM成形法、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プレス成形法、射出成形法のいずれか一つの方法により行う電子部品搭載基板の製造方法。
[9]: 基板と、前記基板上に搭載された電子部品と、前記電子部品および前記基板の少なくとも一部を覆う被覆層とを備える電子部品搭載基板の製造方法であって、[4]~[6]のいずれかに記載の積層シートを用いて前記被覆層を形成する被覆工程と、前記被覆工程後に、前記積層シートのうちの前記被覆層以外の層を除去する工程とを有し、前記被覆工程をTOM成形法、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プレス成形法、射出成形法のいずれか一つの方法により行う電子部品搭載基板の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、皺および破断を改善でき、且つ被覆位置のズレを抑制できる品質の優れた被覆層を形成できる電子部品被覆シート、積層シート並びに前記被覆層を有する電子部品搭載基板およびその製造方法を提供できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る電子部品搭載基板の一例を示す模式的断面図。
【
図2】第1実施形態に係る電子部品被覆シートの一例を示す模式的断面図。
【
図3】第1実施形態の製造工程の一例を示す模式的断面図。
【
図4】第1実施形態の製造工程の一例を示す模式的断面図。
【
図5】第1実施形態の製造工程の一例を示す模式的断面図。
【
図6】第2実施形態に係る電子部品被覆シートの一例を示す模式的断面図。
【
図7】第3実施形態に係る積層シートおよび製造工程の一例を示す模式的断面図。
【
図8】第4実施形態に係る積層シートの一例を示す模式的断面図。
【
図10】第5実施形態に係る電子部品搭載基板の一例を示す模式的断面図。
【
図11】第5実施形態に係る積層シートの一例を示す模式的上面図。
【
図12】実施例に係る電子部品が搭載された基板の一例を示す模式的側面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を適用した実施形態の一例について説明する。各実施形態は、任意に組み合わせられる。なお、以降の図における各部材のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、これに限定されるものではない。また、本明細書において「任意の数A~任意の数B」なる記載は、当該範囲に数Aが下限値として、数Bが上限値として含まれる。また、シート、フィルムは同義とする。更に、本明細書において特定する数値は、実施形態または実施例に開示した方法により求められる値である。また、各成分は特に言及しない限り、一種単独でも二種以上を併用してもよい。
【0011】
1.第1実施形態
1-1.電子部品搭載基板
図1に、本開示の第一実施形態に係る電子部品搭載基板の模式的断面図の一例を示す。第一実施形態の電子部品搭載基板10は、同図に示すように、基板1と、基板1上に搭載された電子部品2と、被覆層3とを備える。
【0012】
基板1は、電子部品2を搭載可能であり、且つ各用途の成形プロセスに耐え得る基板であればよく。任意に選択できる。基板1には、電極・配線パターン、ビア(不図示)等を任意に設けることができる。基板はリジッド性を有するものでも、フレキシブル性を有するものでもよい。例えば銅箔等からなる導電パターンが表面および/又は内部に形成されたワークボード、実装モジュール基板、プリント配線板、ビルドアップ法等により形成されたビルドアップ基板が挙げられる。
【0013】
電子部品2は、基板1の主面上に搭載される。電子部品を複数搭載する場合、それぞれの形状および高さは同一でも、異なっていてもよい。電子部品2の具体例として、ICチップ、積層セラミックチップコンデンサ(MLCC)、インダクタ、サーミスタが挙げられる。
【0014】
被覆層3は、電子部品2の上面から側面、更に、基板1の一主面の露出面全体に亘り被覆されている。つまり、電子部品2の搭載によって形成された段差部(凹凸部)に追随するように被覆され、基板1の一主面上の露出面全体に被覆層3が設けられている。被覆層3は、本開示の電子部品被覆シート(以下、本被覆シートともいう)を用いて形成される。本被覆シートから被覆層3を形成する方法は限定されないが、3次元表面被覆工法であるTOM(Three dimension Overlay Method)成形法、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プレス成形法、射出成形法のいずれか一つの方法が好適である。これらの中でも、本被覆シートはTOM成形用として特に好適である。
【0015】
被覆層3は単層または複層より形成される。被覆層は、ニーズに応じて機能を付与できる。例えば、絶縁層、導電層、熱伝導層、防水層、遮蔽層、着色層、難燃層、ハードコート層、加飾層等により構成できる。例えば、単層または複層の絶縁層、単層または複層の導電層、絶縁層/導電層の被覆層が挙げられる。基板1の主面の露出面を被覆層3により保護する他、
図1に示すように基板1の側面を被覆層3により保護してもよい。
【0016】
図1の例においては、基板1の一主面上に電子部品2を搭載する例を説明したが、基板の両主面に電子部品を搭載し、基板の両主面を被覆層により被覆してもよい。また、基板1の主面の露出面全体ではなく、後述する第5実施形態の電子部品搭載基板のように部分的に被覆層を設けてもよい。
【0017】
1-2.電子部品被覆シート
本開示の電子部品被覆シート(本被覆シート)は、上述の通り、電子部品搭載基板の被覆層を形成するためのシートである。本被覆シートは、電子部品を物理的に保護すると共に、特定の機能を付与できる。本被覆シートの好適例として、絶縁性を有する絶縁性シート、電磁波シールド層などとして機能する導電性シート、電子部品の熱を放熱する熱伝導性シート、電子部品が視認されないようにする或いは遮光する遮蔽シート、電子部品を湿気から保護する防湿性シート、加飾された加飾シート、難燃性が付与された難燃性シート、ハードコート性が付与された保護シート、これらの任意の組合せの機能を備えたシートが例示できる。複数の機能を有する被覆シートの好適例として、絶縁性と熱伝導性を兼ね備える被覆シート、絶縁性と遮蔽性を兼ね備える被覆シート、導電性と遮蔽性を兼ね備える被覆シート、絶縁性と防湿性を兼ね備える被覆シートが挙げられる。
【0018】
本被覆シートは、単層であっても複層であってもよい。複層とする場合、同一機能を有する層を複数積層してもよいし、機能の異なる層を積層してもよい。例えば、絶縁層/導電層、絶縁層/ハードコート層、絶縁層/防水層、熱伝導層/絶縁層の積層構成を有する被覆シートが例示できる。
【0019】
図2に、第一実施形態に係る電子部品被覆シートの一例の模式的断面図を示す。第1実施形態の被覆シート4は、同図に示すように、絶縁層31と導電層32の積層構成を有する。電子部品2側に絶縁層31を配置して電子部品を絶縁保護し、その上層に設けられた導電層32により例えば電磁波シールド性を付与できる。導電層32と基板1のグランド(不図示)とをピン(不図示)などにより電気的に接続してもよい。上記態様に代えて、導電層32を電子部品2側に配置し、その上層に絶縁層31を配置してもよい。
【0020】
本被覆シートは、被覆層の前駆体物品であり、以下の(i)~(iii)を満たす。複層の場合には、それぞれの層が(i)~(iii)を満たしている必要はなく、被覆シートにおいて(i)~(iii)を満たしていればよい。
(i)電子部品被覆シートを常温からTg~Tg+40℃の雰囲気下に投入し、当該温度で引張速度50mm/分で測定したときの破断伸びが800~2000%である。
(ii)電子部品被覆シートを常温からTg~Tg+40℃の雰囲気下に投入し、当該温度で引張速度1000mm/分で測定したときの破断伸びが500~1500%である。
(iii)電子部品被覆シートを、JIS Z1707に準拠した突き刺し試験で測定した23℃における単位膜厚あたりの突刺し強度が10~200N/mmである。
なお、本開示のTgは本実施例の方法により得られる値である。また、「Tg~Tg+40℃」は、電子部品被覆シートの特性を示すための条件であって、被覆層を形成するときの温度をこの範囲に限定するものではない。また、上記(i)~(iii)の数値は、後述する実施例に記載の方法・条件で行ったときの値である。
【0021】
破断伸びとは、本被覆シートの引っ張り試験を行った場合に、被覆シートが破断した後の永久伸びの値をいう。破断伸びの値は、JISK7161:1994により規定された方法により行った。
【0022】
本被覆シートにおいて上記(i)の破断伸びを800%以上とし、且つ上記(ii)の破断伸びを500%以上とすることにより、被覆シートの伸びを良好にし、被覆層の破れを抑制できる。一方、上記(i)の破断伸びを2000%以下とし、且つ上記(ii)の破断伸びを1500%以下とすることにより皺の発生を抑制できる。
本被覆シートにおいて上記(i)および(ii)を満たすための制御は、本被覆シートを形成する組成物の硬化性化合物の種類により調整できる。具体的には、硬化性化合物の官能基数、当量により調整できる。また、組成物中の硬化性化合物の含有率によっても調整できる。更に、フィラーの種類、量、粒子径によっても調整できる。また、可塑剤、それ自体反応性の無い不活性な(イナートな)樹脂やオリゴマー、などの架橋に寄与しない柔軟性調整剤によっても調整できる。
【0023】
突刺し強度とは、JIS Z1707に準拠(23℃)した突き刺し試験で得られた値であり、具体的には、ステンレス棒(直径1mm)を被覆シートに対して垂直に降下させて被覆シートが破れたときの強度である。単位膜厚あたりの突刺し強度は、前記突刺し強度を電子部品被覆シートの厚みで除したものである。単位膜厚あたりの突刺し強度が上記(iii)を満たすことで、電子部品のエッジ部などにおける被覆シートの破断を効果的に防止し、品質の優れた被覆シートを提供できる。
【0024】
上記(iii)を満たすための制御は、本被覆層の架橋密度により容易に調整できる。本被覆シートを形成するための組成物中の硬化性化合物の官能基数、当量を調整する方法が好適である。硬化性化合物は2官能以上であることが好ましく、3~4官能の硬化性化合物を含有することがより好ましい。前記組成物の硬化性化合物の含有率によっても調整できる。更に、フィラーの種類、量、粒子径によっても調整できる。また、可塑剤、それ自体反応性の無い不活性な(イナートな)樹脂やオリゴマー、などの架橋に寄与しない柔軟性調整剤の種類によっても調整できる。
【0025】
上記(i)、(ii)を満たすことにより、TOM成形等の減圧工程時に生じる被覆層の皺の発生を効果的に抑制できる。更に、上記(i)、(ii)を満たし、更に(iii)を満たすことにより、被覆シートに熱および応力が加えられたとき、或いは電子部品搭載基板が衝撃を受けたときなどに、エッジ部におけるシートの破断を効果的に防止できる。また、積層位置のズレを抑制できる。これらの結果、被覆シートの品質を格段に高めることができる。また、外観不良を効果的に改善できる。このため、本被覆シートによれば、高さの異なる電子部品を搭載した基板等も含めて、優れた品質の被覆層を有する電子部品搭載基板を提供できる。
【0026】
上記(i)の破断伸びは、被覆層の破れ抑制、皺抑制の観点から900~1700%がより好ましく、1000~1500%が更に好ましい。900%以上とすることにより、被覆シートの強度をより高めて、被覆層の破れをより効果的に防止できる。
上記(ii)の破断伸びは、被覆層の破れ抑制、皺抑制の観点から650~1400%がより好ましく、800~1300%が更に好ましい。上記(iii)の単位膜厚あたりの突刺し強度は、被覆層の破れ抑制の観点から50~170N/mmがより好ましく、70~150N/mmが更に好ましい。
【0027】
本被覆シートが熱硬化性樹脂を含む場合、電子部品被覆シートの加熱による硬化プロセスを経て被覆層となる。電子部品被覆シートは表面保護のために、片面あるいは両面に剥離性シートを具備していてもよい。
【0028】
また、本被覆シートは、被覆層の破れ抑制、被着体への追従性向上の観点から、常温にある本被覆シートをTg~Tg+40℃の雰囲気下に投入し、当該温度で引張速度50mm/分で測定するヤング率E50は1~18GPaが好ましく、3~15GPaがより好ましく、6~12GPaが更に好ましい。同じく常温にある本被覆シートをTg~Tg+40℃の雰囲気下に投入し、当該温度で引張速度1000mm/分で測定するヤング率E1000は2~20GPaが好ましく、4~18GPaがより好ましく、6~15GPaが更に好ましい。高速引張時のヤング率を前記範囲とすることによりTOM成形時等にシートが撓まず、皺が抑制できると考えられる。
【0029】
ヤング率を上記範囲に調整する方法は、例えば、架橋密度により調整できる。具体的には、本被覆シートを形成するための組成物中の硬化性化合物の官能基数、当量の調整により行うことができる。また、前記組成物の硬化性化合物の含有率によっても調整できる。更に、フィラーの種類、量、粒子径によっても調整できる。また、可塑剤、それ自体反応性の無い不活性な(イナートな)樹脂やオリゴマー、などの架橋に寄与しない柔軟性調整剤の種類によっても調整できる。
【0030】
ヤング率E1000とヤング率E50の比E1000/E50は0.8以上が好ましい。比E1000/E50は0.9以上がより好ましい。比E1000/E50の上限値は1.4以下が好ましく、1.3以下がより好ましい。比E1000/E50を前述の範囲とすることにより、電子部品の凹凸部、特にエッジにおけるシートの破断を防止し、外観不良をより効果的に防止できる。
【0031】
本被覆シートのTgは被覆層の破れ抑制、皺抑制の観点より0~80℃の範囲が好ましく、15~45℃がより好ましい。被覆シートが複層の場合には、各層のTgが前記範囲であることが好ましい。複層の場合のTgは、Tgが最も高い層のTgを基準とする。
【0032】
本被覆シートの厚みは、用途により適宜設計し得る。薄型化が求められている用途には、電子部品の上面および側面を被覆する本被覆シートの厚みは、10~1000μmの範囲が好ましく、15~500μmであることがより好ましく、20~250μmであることが更に好ましい。
【0033】
本被覆シートを絶縁層とする場合、表面抵抗値が1.0×107Ω/□以上であることが好ましく、1.0×108Ω/□以上であることがより好ましく、1.0×109Ω/□以上であることがさらに好ましい。本被覆シートを導電層とする場合、表面抵抗値が1.0×105Ω/□以下であることが好ましく、1.0×103Ω/□以下であることがより好ましく、1.0×102Ω/□以下であることがさらに好ましい。
【0034】
本被覆シートは、バインダー成分を含む。バインダー成分は、被覆層の基体となる成分である。バインダー成分に用いる樹脂として、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂およびこれらの混合物が例示できる。これらの樹脂と架橋する硬化性化合物もバインダー成分に含まれる。熱硬化性樹脂は、自己架橋する熱硬化性樹脂の他、硬化性化合物と反応可能な熱硬化性樹脂が好適である。これらを組み合わせてもよい。バインダー樹脂としては、熱硬化性樹脂と硬化性化合物の組合せが好適である。硬化性化合物を用いる場合、硬化性化合物と反応可能な反応性官能基を有する熱硬化性樹脂が好ましい。バインダー樹脂は1種単独または2種類以上を併用できる。
【0035】
熱硬化性樹脂は、硬化性化合物、或いは自己架橋する反応性の官能基を有する。官能基は、フェノール性水酸基、酸無水物基、メトキシメチル基、カルボキシ基、アミノ基、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリン基、オキサジン基、アジリジン基、チオール基、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、ブロック化カルボキシ基、シラノール基等が挙げられる。
【0036】
熱硬化性樹脂は、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルアミド樹脂、ポリエーテルエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、アミノ樹脂、ポリ乳酸樹脂、オキサゾリン樹脂、シリコーン樹脂およびフッ素樹脂が挙げられる。高温耐性を高める観点からは、これらの中でも、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂およびポリアミド樹脂が好適である。
【0037】
熱硬化性樹脂の酸価は、エッジ被覆性を向上させる観点から3~30mgKOH/gが好ましい。より好ましくは4~20mgKOH/gであり、5~10mgKOH/gが更に好ましい。
【0038】
硬化性化合物は、熱硬化性樹脂と反応可能な官能基を有している。前記官能基は複数有することが好ましい。硬化性化合物は、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、ポリカルボジイミド化合物、アジリジン化合物、酸無水物基含有化合物、ジシアンジアミド化合物、芳香族ジアミン化合物等のアミン化合物、フェノールノボラック樹脂等のフェノール化合物、有機金属化合物が例示できる。硬化性化合物は、樹脂であっても低分子化合物でもよい。硬化性化合物として樹脂を用いる場合、熱硬化性樹脂と硬化性化合物の区別は、含有量の多い方を熱硬化性樹脂とし、含有量の少ない方を硬化性化合物とする。硬化性化合物は、1種単独または2種以上を併用できる。
【0039】
被覆層の皺および破断を効果的に抑制する観点から、3官能以上であって、N原子を有する硬化性化合物(c1)(以下、硬化性化合物(c1)ともいう)と、2官能であって、官能基にN原子を含有しない硬化性化合物(c2)(以下、硬化性化合物(c2)ともいう)との組み合わせが好適である。硬化性化合物(c1)を用いることにより硬化プロセス前の硬化反応をある程度促進させ、TOM成形等において被覆シートの伸長時の破断を効果的に防止できる。一方、硬化性化合物(c2)を用いることにより、架橋密度を抑え、架橋を緩やかに進行させられるので、TOM成形時等の破断伸びを良好に保つことができる。
【0040】
硬化性化合物(c1)の好適例として3官能以上のグリシジルアミン、3官能以上のアジリジンが挙げられる。また、硬化性化合物(c2)の好適例として2官能のエポキシ化合物が例示できる。
【0041】
3官能以上のグリシジルアミンとしては、炭素数6~20で、2~4個の活性水素原子をもつ芳香族アミン(アニリンおよびトルイジン等)とエピクロルヒドリンとの反応で得られるN-グリシジル化物等が挙げられる。具体的には、テトラグリシジルアミンフェニルメタン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、テトラグリシジル-m-キシレンジアミンも好適である。市販品としては、スミエポキシELM-100、ELM-120(住友化学工業社製)、MY721(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、三菱ガス化学(株)製の商品名TETRAD-X、TETRAD-C、日本化薬(株)製の商品名GANが例示できる。
【0042】
3官能以上のアジリジンとしては、トリメチロールプロパントリス(3-(2-メチル-1-アジリジル)プロピオン酸)エステル、トリメチロールプロパントリス(3-(1-アジリジル)プロピオン酸)エステル、ペンタエリスリトールトリス(3-(2-メチル-1-アジリジル)プロピオン酸)エステル、ペンタエリスリトールトリス(3-(1-アジリジル)プロピオン酸)エステル、ジペンタエリスルトールトリス(3-(1-アジリジル)プロピオン酸)エステルおよびソルビトールトリス(3-(1-アジリジル)プロピオン酸)エステル等の3官能アジリジン;ペンタエリスリトールテトラキス(3-(1-アジリジル)プロピオン酸)エステル、ソルビトールテトラキス(3-(1-アジリジル)プロピオン酸)エステルおよびジトリメチロールプロパンテトラキス(3-(1-アジリジル)プロピオン酸)エステル等の4官能アジリジン;ソルビトールペンタキス(3-(1-アジリジル)プロピオン酸)エステルおよびジペンタエリスリトールペンタキス(3-(1-アジリジル)プロピオン酸)エステルが等の5官能アジリジン;ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-(1-アジリジル)プロピオン酸)エステルおよびソルビトールヘキサキス(3-(1-アジリジル)プロピオン酸)エステル等の6官能アジリジンが挙げられる。
【0043】
2官能のエポキシ化合物としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールEジグリシジルエーテル、ビスフェノールZジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ビスフェノールADジグリシジルエーテル、ビスフェノールアセトフェノンジグリシジルエーテル、ビスフェノールトリメチルシクロヘキサンジグリシジルエーテル、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、テトラメチルビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラメチルビスフェノールFジグリシジルエーテル、テトラ-t-ブチルビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラメチルビスフェノールSジグリシジルエーテル等のビスフェノール系ジグリシジルエーテル類;ビフェノールジグリシジルエーテル、テトラメチルビフェノールジグリシジルエーテル、ジメチルビフェノールジグリシジルエーテル、テトラ-t-ブチルビフェノールジグリシジルエーテル等のビフェノール系ジグリシジルエーテル類;ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ジヒドロアントラセンジグリシジルエーテル、メチルハイドロキノンジグリシジルエーテル、ジブチルハイドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、メチルレゾルシンジグリシジルエーテル等のベンゼンジオール系ジグリシジルエーテル類;ジヒドロアントラハイドロキノンジグリシジルエーテル、ジヒドロキシジフェニルエーテルジグリシジルエーテル、チオジフェノールジグリシジルエーテル、ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル等の芳香族系ジグリシジルエーテル類;前記ビスフェノール系ジグリシジルエーテル類、ビフェノール系ジグリシジルエーテル類、ベンゼンジオール系ジグリシジルエーテル類および芳香族系ジグリシジルエーテル類から選ばれるジグリシジルエーテル類の芳香環に水素を添加したエポキシ化合物;アジピン酸、コハク酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、ダイマー酸等の種々のカルボン酸類と、エピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,5-ペンタンジオールジグリシジルエーテル、ポリペンタメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,7-ヘプタンジオールジグリシジルエーテル、ポリヘプタメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,8-オクタンジオールジグリシジルエーテル、1,10-デカンジオールジグリシジルエーテル、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル等の鎖状構造のみからなる(ポリ)アルキレングリコールジグリシジルエーテル類;1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル等の環状構造を有するアルキレングリコールジグリシジルエーテル類が挙げられる。市販品としては、DIC製のEPICLON830、840、850、860、1050、2050、3050、4050、7050、HM-091、101、ナガセケムテックス製デナコールEX-211、212、252、711、721が例示できる。
【0044】
熱プレス等において、エポキシ化合物のエポキシ基が、熱硬化性樹脂のカルボキシ基や水酸基と熱架橋することにより、架橋構造を得ることができる。エポキシ化合物として、常温(25℃)で液状のエポキシ化合物も好適である。具体例としては、三井化学社製の「R140P」(エポキシ当量188)、ダウケミカル社製の「DER383」、ジャパンエポキシレジン社製の「エピコート#807」(エポキシ当量170)等の液状ビスフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0045】
硬化性化合物(c1)の含有量は、100質量部の熱硬化性樹脂rに対して0.1~7質量部が好ましく、0.2~5質量部が好ましい。また、硬化性化合物(c2)の含有量は、100質量部の熱硬化性樹脂rに対して1~50質量部が好ましく、5~30質量部がより好ましい。また、硬化性化合物(c2)/硬化性化合物(c1)の比は3~150であることが好ましく、3~50がより好ましい。上記範囲とすることで、被覆層に強固な架橋構造が形成すると共に、被覆層の過剰な硬化を抑制し、凹凸形状に対する追随性を高めることができる。更に、TOM成形法等において、皺および破断を効果的に抑制できる被覆層を形成できる。
【0046】
本被覆シートは、更に、フィラーを含んでいてもよい。絶縁性が求められる場合には絶縁性フィラーを、導電性が求められる場合には導電性フィラーを、電磁波吸収性が求められる場合には電磁波吸収フィラーを用いる。フィラーの形状は適宜選定できる。例えば、フレーク状、針状、球状、デンドライト状、繊維状フィラーが挙げられる。形状の異なるフィラーを併用してもよい。好適例として、フレーク状フィラーとデンドライト状フィラーの組合せが挙げられる。
【0047】
フィラーの平均粒子径D50は1~100μmが好ましく、2~80μmがより好ましい。更に好ましくは3~50μmであり、特に好ましくは5~20μmである。樹枝状導電性フィラーの平均粒子径D50の好ましい範囲も同様に、2~100μmが好ましく、2~80μmがより好ましい。更に好ましくは3~50μmであり、特に好ましくは5~20μmである。
【0048】
フィラーの含有量は、被覆層の破れ抑制、皺抑制の観点から本被覆シート100質量%に対して1~50質量%含むことが好ましく、1.5~35質量%含むことがより好ましい。複層の場合には、n層のフィラーの含有率×n層の膜厚/(被覆層全体の膜厚)、の全層の合計(但し、nは2以上の整数)が1~50質量%含むことが好ましく、1.5~35質量%含むことがより好ましい。
【0049】
絶縁性フィラーは、例えば、シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素マグネシウム、炭化ケイ素、チタニア、ガラス、セラミック等の非金属無機フィラーが挙げられる。絶縁性フィラーは、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0050】
導電性フィラーは、金属フィラー、導電性セラミックスフィラーおよびそれらの混合物が例示できる。金属フィラーは、金、銀、銅、ニッケル等の金属粉、ハンダ等の合金粉、銀コート銅粉、金コート銅粉、銀コートニッケル粉、金コートニッケル粉のコアシェル型フィラーが例示できる。優れた導電特性を得る観点から、銀を含有する導電性フィラーが好ましい。コストの観点からは、銀コート銅粉が特に好ましい。
【0051】
電磁波吸収フィラーとして、例えば、鉄、Fe-Ni合金、Fe-Co合金、Fe-Cr合金、Fe-Si合金、Fe-Al合金、Fe-Cr-Si合金、Fe-Cr-Al合金、Fe-Si-Al合金等の鉄合金、Mg-Znフェライト、Mn-Znフェライト、Mn-Mgフェライト、Cu-Znフェライト、Mg-Mn-Srフェライト、Ni-Znフェライト等のフェライト系物質並びに、カーボンフィラーなどが挙げられる。カーボンフィラーは、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノナノチューブからなるフィラー、グラフェンフィラー、グラファイトフィラーおよびカーボンナノウォールが例示できる。
【0052】
本被覆シートは、柔軟性調整剤を含んでいてもよい。柔軟性調整剤により、被覆シートの成形加工時の皺、破れを改善できる。柔軟性調整剤としては、可塑剤、イナートな熱可塑性樹脂が例示できる。
【0053】
前記可塑剤として、例えば脂肪酸エステル、フタル酸エステル、芳香族多価カルボン酸エステル、ポリエステルが挙げられる。
脂肪酸エステルとしては、トリメリット酸トリオクチル(TOTM)、三菱ガス化学トレーディング社製、ブチルステアレート、ユニスターM-9676、ユニスターM-2222SL、ユニスターH-476、ユニスターH-476D、パナセート800B、パナセート875、パナセート810(以上、日油製)、DBA、DIBA、DBS、DOA、DINA、DIDA、DOS、BXA、DOZ、DESU(以上、大八化学製)が例示できる。フタル酸エステルとしては、DMP、DEP、DBP、#10、BBP、DOP、DINP、DIDP(以下、大八化学製)、PL-200、DOIP(以上、シージーエスター製)、サンソサイザーDUP(新日本理化製)が例示できる。芳香族多価カルボン酸エステルとしては、TOTM(大八化学製)、モノサイザーW-705(大八化学製)、UL-80、UL-100(ADEKA製)が例示できる。ポリエステルとしては、ポリサイザーTD-1720、ポリサイザーS-2002、ポリサイザーS-2010(以上、DIC製)、BAA-15(大八化学製)が例示できる。
これらの中でも、DMP、DEP、DBP、DOP、DINP、DIDP、TOTMがより好ましい。可塑剤は1種単独、若しくは2種以上を併用して用いられる。
【0054】
前記イナートな熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン・アクリル系樹脂、ジエン系樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリマー、フッ素樹脂が例示できる。特に限定するものではないが、耐熱性の観点から、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリマー、フッ素樹脂がより好ましい。
【0055】
更に、本被覆シートは、基材との密着性向上のために粘着付与樹脂を含んでいてもよい。粘着付与樹脂とは、粘着力を補助的に向上させる成分であって、重量平均分子量が5,000未満であり、上記熱可塑性樹脂、バインダー樹脂とは区別されるものである。粘着付与樹脂としては、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、脂環式系石油樹脂、および芳香族系石油樹脂が例示できる。
【0056】
本被覆シートは、更に、着色剤、難燃剤、滑剤、ブロッキング防止剤等を含んでいてもよい。難燃剤としては、例えば、ハロゲン含有難燃剤、りん含有難燃剤、窒素含有難燃剤、無機難燃剤等が挙げられる。滑剤としては、例えば、脂肪酸エステル、炭化水素樹脂、パラフィン、高級脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪族アルコール、金属石鹸、変性シリコーン等が挙げられる。ブロッキング防止剤としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、ポリメチルシルセスキオサン、ケイ酸アルミニウム塩等が挙げられる。
【0057】
図2の例においては、絶縁層31/導電層32の複層からなる被覆シートの例を挙げたが、前述した通り、単層の被覆シートであってもよいし、同一機能の複層からなる被覆シートであってもよい。また、第一の層の任意の位置に第二の層をパターン形成してもよい。例えば、導電層32の任意の位置に絶縁層31をパターン形成した被覆シートを用いることにより、基板1の一主面の露出面の全体に導電層32を形成し、絶縁保護が必要な箇所に絶縁層31を有する被覆層を形成できる。本被覆シートによれば、被覆一のズレを効果的に防止できるので、被覆シートの設計自由度を格段に高めることができる。
【0058】
1-3.電子部品被覆シートの製造方法
本被覆シートの製造方法は、特に限定されないが、例えば、被覆層を形成する上記バインダー樹脂等の材料を溶媒等に溶解させた組成物を、剥離シートに塗布する方法が挙げられる。塗布方法として、例えば、グラビアコート方式、キスコート方式、ダイコート方式、リップコート方式、コンマコート方式、ブレード方式、ロールコート方式、ナイフコート方式、スプレーコート方式、バーコート方式、スピンコート方式、ディップコート方式、又は、各種印刷方式が挙げられる。複層の場合には、ラミネート法、易接着剤を介して積層する方法等、公知の方法を適用できる。
【0059】
1-4.電子部品被覆シートの用途
本被覆シートは、電子部品搭載基板の被覆に特に好適に用いることができるが、その他の被覆対象物品を被覆するために用いてもよい。本被覆シートを使用した電子部品搭載基板は、液晶ディスプレイ、タッチパネル等のほか、ノートPC、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末等の電子機器に備えることが好ましい。
【0060】
1-5.電子部品搭載基板の製造方法
本被覆シートを用いる電子部品搭載基板の製造方法としてTOM成形の一例について説明する。但し、本電子部品搭載基板の製造方法は以下に限定されない。本被覆シートをTOM成形法以外の方法(例えば、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プレス成形法、射出成形法)により被覆層を形成してもよい。例えば、特許第7193031号に記載の方法により本被覆シートから被覆層を形成できる。
【0061】
本電子部品搭載基板の製造方法は、1以上の電子部品を基板上に搭載する工程(工程A)、所定のサイズにカットした電子部品被覆シートを用意する工程(工程B)、本被覆シート又は本被覆シートが積層された本積層シートを用いて被覆層を形成する被覆工程(工程C)等を経て、本開示の電子部品被覆シートから形成される被覆層により被覆保護した電子部品搭載基板が得られる。以下、工程Cについて
図3~
図5の模式的製造工程図を用いて説明する。
【0062】
まず、下部空間21と上部空間22を有するボックス20内の下部空間21のステージ5に電子部品2が搭載された基板1を配置する。次いで、上部空間22と下部空間21との間を仕切るように被覆シート4を仕切り板6上に配置する(
図3参照)。そして、ボックス20内を真空状態とし、被覆シート4のTg周辺まで加熱源7により加熱して被覆シート4を軟化させる。Tg周辺とは、例えばTg±20℃の範囲である。なお、被覆シート4が複層の場合には、Tgが最も高い層のTgを基準とする。なお、被覆シート4を固定できればよく、仕切り板に代えてシートを挟む固定治具などを用いてもよい。
【0063】
加熱源7による加温により被覆シート4のTg周辺温度に近づくにつれ、被覆シート4の平坦性が失われてうねりが出現する(
図4参照)。更に、加熱を続けると、被覆シート4のうねりが低減して自重により被覆シート4が中央部を中心にしなるようになる(
図5参照)。この状態まで被覆シート4の加熱を行うことにより、被覆層に皺が生じるのを効果的に防止して品質を高めることができる。また、基板1および電子部品2への被覆層の密着性を高めるために、電子部品2が搭載された基板1を載置するステージ5の加温が好ましい。加温により、連続生産時の生産効率を高める効果が得られる。ステージ5の加温時の温度は、例えば、50~120℃である。ステージ5の加温時の温度は、Tg±20℃の範囲であることが、連続生産性向上の観点から好ましい。
【0064】
必要に応じて、下部空間21に設置されたステージ5を上方に移動させ、被覆シート4の一部と電子部品2の上面とを接触または近接させる。その後、被覆シート4の表面を上部空間22から大気または圧縮空気によって加圧する。すると、被覆シート4が、電子部品2が搭載された基板1の凹凸形状の表面に沿って追随する。次いで余剰の本被覆シートを除去する。バインダー樹脂として熱硬化性樹脂を用いている場合には熱硬化処理を、光硬化性樹脂を用いている場合には光硬化処理を行う。これらの工程を経て、
図1に示すような、被覆層3を有する電子部品搭載基板10が得られる。
【0065】
上記方法によれば、被覆面積に合わせて本被覆シートをカットすればよく、電子部品の形状、配置などによらずに汎用的に電子部品が搭載された基板に被覆層を形成できる。また、全面に被覆シートを被覆して被覆層を形成した後に余剰の被覆層をカットするので、被覆シートと電子部品が搭載された基板との精密な位置合わせが不要であるというメリットを有する。
【0066】
本被覆シートによれば、上記(i)~(iii)を満たすことにより、軽薄短小化された電子部品に対しても品質の高い被覆層を形成できる。TOM成形法によれば、本被覆シートを熱により加熱して軟化した状態で圧力差を利用して、3次元凹凸形状に追随させることができるため、生産性を格段に向上させることができる。
【0067】
2.第2実施形態
第2実施形態に係る電子部品被覆シートについて説明する。第2実施形態に係る電子部品被覆シートは、後述するように層構成において第1実施形態と相違するが、基本的な構成・製造方法は第1実施形態と同一である。なお、以降の図において、前出と同一の要素・部材は適宜、同一の符号を付す。
【0068】
図6に、第2実施形態に係る電子部品被覆シートの一例の模式的断面図を示す。電子部品被覆シート4aは、いずれも絶縁層である第一層41,第二層42,第三層43がこの順に積層されている。第一層41、第二層42および第三層43は、それぞれ独立に、互いに同一機能を有する層であっても、異なる機能を有する層であってもよい。第一層、第二層および第三層の好適な成分、配合量、層の特性は第1実施形態と同様である。
【0069】
電子部品と対向するように配置される第一層41は、反りを低減し、埋め込み性を向上させる役割を担う設計が好ましい。第二層42は、TOM成形等において電子部品の立体形状への追随性を高めると共に、反りを低減する設計が好ましい。このため、第一層および第二層の硬化性化合物に液状エポキシ化合物を含むことが好ましい。
【0070】
液状エポキシ化合物とは、25℃において液体となるエポキシ化合物をいう。好適例として、例えばjER(登録商標(以下省略))YL980、jERYL983U、jER152、jER630、jERYX8000(以上商品名、三菱化学(株)製)、EPICLON(登録商標)、HP-4032(以上商品名、DIC(株)製)が挙げられる。液状エポキシ化合物は1種単独または2種以上を併用して用いられる。
【0071】
第三層43は、主として膜厚を調整する役割の他、硬度を最適化し、被覆シートの耐久性を高める役割を担う設計が好ましい。耐久性を高めるためにフィラーを含むことが好ましい。
【0072】
第2実施形態によれば、3層構成とすることにより、各層の設計自由度を高めて、被覆層の高機能化を図ることができる。その結果、被覆シート4aと電子部品2等との接合面の密着性を高めると共に追随性を高め、被覆層の皺の発生および被覆層のエッジ部等における破断を効果的に防止できる。
【0073】
第2実施形態においては、3層構成からなる被覆シートの例を挙げたが、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で単層、複層(2層、4層以上)とすることができる。
【0074】
3.第3実施形態
第3実施形態に係る電子部品搭載基板の製造方法は、本被覆シートを有する積層シートを用いる点等において第1実施形態の製造方法と相違するが、電子部品搭載基板の基本的な構造、基本的な製造方法は第1実施形態と同一である。
【0075】
図7に、第3実施形態に係る電子部品搭載基板の製造工程の一例を示す模式図を示す。第1実施形態においては、被覆シート4を仕切り板6に載置していたが、第3実施形態では積層シート50を仕切り板6に載置する。積層シート50は、支持層8と、支持層8上に形成された被覆シート4を有する。被覆シート4のサイズは、被覆層を形成するために必要なサイズとする。この方法によれば、被覆層を形成後に不要な部分をカットする工程を省略することが可能となる。
【0076】
積層シート50の製造方法は限定されないが、支持層8の所望の位置に被覆シート4を貼付する方法が簡便である。好適な方法として、支持層8に被覆シート4を加熱して仮貼付する方法が例示できる。支持層8は、製造工程時に固定(本例においては仕切り板6に載置して固定)する役割と、被覆シートを支持する役割を有する。支持層は、被覆層形成後に剥離される点から剥離層ともいえる。積層シート50を第1実施形態と同様の方法により電子部品2が搭載された基板1に被覆して被覆層3を形成し、その後、支持層8を剥離することにより電子部品搭載基板が得られる。
【0077】
支持層8は上記機能を有していればよく特に限定されない。好適例として、ポリ塩化ビニル(PVC),ポリオレフィン等が挙げられる。支持層8の厚みは、被着体への追従性向上の観点から5~500μmが好ましく、10~250μmがより好ましい。支持層8のTgは、被着体への追従性向上の観点から30~90℃が好ましく、40~80℃がより好ましい。被覆シート4のTg1と、支持層8のTg2は
|Tg2-Tg1|≦20℃
の関係にあることが好ましい。この範囲とすることにより、電子部品等による凹凸形状に対する追随性をより効果的に高められる。より好ましくは
|Tg2-Tg1|≦10℃
である。支持層のTg2は、樹脂の種類、その作製条件により調整できる。ボックス20内の温度は、Tg1とTg2のうち高い方±20℃の範囲に設定することが好ましい。
【0078】
電子部品が搭載された基板と、被覆シートとの位置合わせは、公知の方法を制限なく適用できる。例えば、支持層のマークをステージのマークと合わせることにより精密な位置合わせを行うことができる。
【0079】
第3実施形態に係る被覆シートによれば、ボックス20の仕切り板6に載置できるサイズの被覆シート4を用いる必要がないので、被覆シート4のロスを無くしてコスト削減を図ることができる。また、電子部品が搭載された基板のサイズなどに応じて被覆シート4aを所望のサイズに調整できるので汎用性を格段に高めることができる。また、支持層8により被覆シート4を支持できるので、被覆層の薄膜化を実現しやすいというメリットがある。
【0080】
4.第4実施形態
第4実施形態に係る積層シートは、支持層8と被覆シート4aの間に離型層9を有する点において、離型層9を有しない第3実施形態の積層シートと相違する。
図8に、第4実施形態に係る積層シートの一例を示す模式的平面図を、
図9に
図8のIX-IX切断部断面図を示す。これらの図に示すように、支持層8、離型層9、被覆シート4aがこの順に積層されている。各層の面積は、支持層8>離型層9>被覆シート4aであり、上面視において、被覆シート4aの外側に離型層9の額縁領域があり、離型層9の外側に支持層8の額縁領域がある。支持層8は、仕切り板6に載置できるサイズであり、被覆シート4aは被覆層を形成する最適サイズとする。そして、離型層9は、被覆層形成後に剥離しやすさを考慮して被覆シート4aの端部より延在された領域を有する。離型層9の好適例として、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等が挙げられる。
【0081】
離型層9の厚みは、例えば5~1000μm程度である。被着体への追従性向上の観点から5~500μmが好ましく、10~250μmがより好ましい。離型層9のTgは-50~50℃が好ましく、-20~20℃がより好ましい。
【0082】
第4実施形態によれば離型層9を用いることにより、支持層8と被覆シート4aとの密着を効果的に防止し、被覆層3の損傷を防止して製造歩留まりを高められる。また、支持層8の材料の選択肢を格段に増やすことが可能となる。また、積層位置ズレを効果的に改善できる。
【0083】
5.第5実施形態
第5実施形態においては、電子部品搭載基板の一主面の一部に被覆層を設けている点において、電子部品搭載基板の一主面の全面に被覆層を設けている第一実施形態と相違する。
図10に、第5実施形態に係る電子部品搭載基板の一例の模式的断面図を示す。電子部品搭載基板11に設けられた被覆層3aは、基板1および電子部品2の一主面の露出面の一部に被覆されている。部分的に被覆された被覆層3aは、例えば、第3実施形態または第4実施形態の積層シートを用いて形成できる。
【0084】
第5実施形態の電子部品搭載基板によれば、保護が必要な位置に被覆層を容易に形成できる。また、第3実施形態または第4実施形態の積層シートを用いることにより、位置ズレを効果的に防止できる。また、
図11に示すように、支持層8上に、複数の被覆シート4を積層してもよい。この方法によれば、電子部品搭載基板に求められる機能に応じて、必要な機能を有する複数の被覆層3を所望の位置に一括して形成できる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例、比較例を挙げて本開示を詳細に説明するが、本開示は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の「部」および「%」は、それぞれ「質量部」および「質量%」に基づく値である。
【0086】
A.被覆シート
実施例で使用した原料を以下に示す。
A-1.熱硬化性樹脂
[熱硬化性樹脂r1の合成]
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管、減圧設備を備えたガラス製フラスコにテレフタル酸166部、アジピン酸146部、3-メチル-1,5-ペンタンジオール212部およびエチレングリコール25部を仕込み、窒素ガスを通じながら攪拌した。常圧下で徐々に昇温し、200~230℃にて約8時間反応させ酸価43の液状物を得た。次いでテトラ-n-ブトキシチタン0.01部を仕込み、窒素置換後、密閉下で180℃にて30分間攪拌した。次いで230℃、5mmHgにて2時間反応させ、酸価1.1、水酸基価114.2、分子量982のポリエステルジオールを得た。
【0087】
次いで、攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に、前記ポリエステルジオールを734部、ジメチロールプロピオン酸23.9部、トルエンジイソシアネート219部、およびトルエン242部を仕込み、窒素雰囲気下50℃で8時間反応させた。これに、トルエン1200部を加えて、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液を得た。
【0088】
次に得られたウレタンプレポリマー溶液を70℃に加温し、その温度を保ちながら、1,3-ジアミノプロパン20.0部、ベンジルアミン3.1部、2-プロノール600部およびトルエン961部を混合した溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、70℃にて更に6時間反応させることで、分子量(Mw)が130,000、酸価が10mgKOH/g、Tgが20℃、固形分が25%であるポリウレタン系樹脂を得た。
【0089】
A-2.硬化性化合物
硬化性化合物(c1):多官能エポキシ樹脂「TETRAD-X」、三菱ガス化学社製
硬化性化合物(c2):エポキシ樹脂「jER828」、2官能、三菱ケミカル社製
【0090】
A-3.柔軟性調整剤
可塑剤p1:トリメリット酸トリオクチル、三菱ガス化学トレーディング社製
A-4.フィラー
フィラーf1:シリカ「ウルトラシルU360」(DBP吸油量:220mL/100g、体積抵抗率:1.6×1016Ω・cm)NANOCYL社製
【0091】
B.支持層
支持層X1:ポリ塩化ビニル粉末(日本ゼオン社製)を溶融圧延法にて作製したポリ塩化ビニルシート、Tg:76℃
支持層X2:ポリ塩化ビニル粉末(日本ゼオン社製)を溶媒法にて作製したポリ塩化ビニルシート、Tg:54℃
【0092】
C.離型層
離型層Y1:共押出法プロテクトフィルム エルテックMX 157N3U、日本マタイ社製、Tg:-1℃
【0093】
D.測定方法
D-1.ガラス転移温度Tg
各実施例および比較例の測定試料(電子部品被覆シート)、離型層および支持層をJIS K7198に準拠して、動的粘弾性測定装置DVA-200(アイティー計測制御株式会社製)にてTgを測定した。測定は、各例の電子部品被覆シートを0.5cm×3cmにカットし、剥離フィルムを剥がしたものを用いた。変形様式は引張で、歪み0.08%、周波数10Hz、昇温速度10℃/minで測定される損失正接(tanδ)の主分散ピークの現れる温度をTgとした。
【0094】
D-2.破断伸びおよびヤング率
後述する方法により得た各実施例・比較例の剥離フィルム付電子部品被覆シートを幅20mm×長さ60mmの大きさに切断した。次いで、剥離フィルムを剥離することにより被覆シートからなる測定試料(電子部品被覆シート)を得た。各測定試料(被覆シート)を常温からTg+40℃の雰囲気下(大気中、50%RH)に投入し、その1分後に当該温度で引張速度50mm/分、相対湿度50%の条件下、小型卓上試験機EZ-TEST(島津製作所社製)を用いて、有効引っ張りサイズ20×23mmで引っ張り試験を実施し、引張速度50mm/分の破断時の伸び率を求めた。また、前記引っ張り試験時の応力-ひずみ曲線において、降伏点以前の線形領域の接線を求め、ヤング率E50とした。
同様に、被覆シートを常温からTg+40℃の雰囲気下に投入し、その1分後に当該温度で引張速度1000mm/分、相対湿度50%の条件下、有効引っ張りサイズ20×23mmで引っ張り試験を実施し、引張速度1000mm/分の破断時の伸び率を求めた。更に、前記装置で同様の方法にて、試験速度を1000mm/分のヤング率E1000を求めた。
【0095】
D-3.突刺し強度
各実施例および比較例の電子部品被覆シート(100mm×100mm)を用意し、JIS Z1707に準拠した突き刺し試験で測定した23℃における単位膜厚あたりの突刺し強度を求めた。具体的には、直径80mmの開口部を有するサンプル設置治具に挟み、測定プローブとして直径1mmのステンレス棒(長さ17mm)を備えたTE-1003低温高温槽付剥離試験機II型(テスター産業社製)に設置した。測定温度23℃の条件にて、100mm/分の速度でプローブを電子部品被覆シートに陥入させ、破断時の強度を記録し、突刺し強度とした。得られた突刺し強度の値を電子部品被覆シートの厚みで除することで単位膜厚あたりの突き刺し強度αを算出した。
【0096】
D-4.膜厚
電子部品搭載基板における被覆層の厚みは、研磨法によって断面出しを行い、レーザー顕微鏡で電子部品の上面領域における最も厚みのある箇所の膜厚を測定した。異なる電子部品搭載基板の断面出しのサンプル5つについて同様に測定し、その平均値を厚みとした。
【0097】
E.電子部品被覆シートおよび積層シートの作製
[実施例1]
熱硬化性樹脂r1(固形分)を100部、硬化性化合物c1を2部、硬化性化合物c2を20部、柔軟性調整剤を5部、およびフィラーf1を22.4部、容器に仕込み、不揮発分濃度が45質量%になるようトルエン:イソプロピルアルコール(質量比2:1)の混合溶剤を加え、ディスパーで10分攪拌することで組成物を得た。この組成物を乾燥厚みが70μmになるようにドクターブレードを使用して剥離フィルム(離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム、厚み50μm)に塗工した。次いで、100℃で2分間乾燥することで実施例1の剥離フィルム付電子部品被覆シートを得た。
得られた剥離フィルム付電子部品被覆シートを60mm四方に切断した後、剥離フィルムを剥がし、剥離フィルムが積層されていた面に、剥離機能を有する支持層X1(300mm四方)をラミネート積層することで、実施例1に係る積層シート(支持層付き電子部品被覆シート)を得た。電子部品被覆シートは、平面視上、支持層X1の中央部に配置した。
【0098】
[実施例2~18、比較例1~5]
表1~3の配合量を変更した以外は同様の方法により、実施例2~18、比較例1~5に係る積層シート(支持層付き電子部品被覆シート)を得た。
【0099】
[実施例19]
熱硬化性樹脂r1(固形分)100部、硬化性化合物c1を2部、硬化性化合物c2を20部、柔軟性調整剤を5部、フィラーf1を22.4部、容器に仕込み、不揮発分濃度が45質量%になるようトルエン:イソプロピルアルコール(質量比2:1)の混合溶剤を加えディスパーで10分攪拌することで組成物を得た。この組成物を乾燥厚みが70μmになるようにドクターブレードを使用して剥離フィルム(離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム、厚み50μm)に塗工した。そして、100℃で2分間乾燥することで、剥離フィルム/第一層αの積層体を得た。
【0100】
次いで、熱硬化性樹脂r1(固形分)100部、硬化性化合物c1を6.7部、硬化性化合物c2を20部、柔軟性調整剤を5部、およびフィラー1を23.3部、容器に仕込み、不揮発分濃度が45質量%になるようトルエン:イソプロピルアルコール(質量比2:1)の混合溶剤を加えディスパーで10分攪拌することで組成物を得た。得られた組成物を、乾燥厚みが70μmになるようにドクターブレードを使用して、剥離フィルム/第一層αの第一層α上に塗工することにより第二層βを得た。そして、100℃で2分間乾燥することで、剥離フィルム/第一層α/第二層βの積層体を得た。
【0101】
得られた剥離フィルム/第一層α/第二層βの積層体を60mm四方に切断した後、剥離フィルムを剥がし、剥離フィルムが積層されていた面に、剥離機能を有する支持層X1(300mm四方)を実施例1と同様の方法でラミネート積層することで、実施例19の積層シート(支持層/第一層α/第二層β)を得た。第一層α/第二層βが電子部品被覆シートに該当する。
【0102】
[実施例20]
実施例19の配合量を変更した以外は同様の方法により、実施例20の積層シートを得た。
【0103】
[実施例21]
熱硬化性樹脂r1(固形分)100部、硬化性化合物c1を6.7部、硬化性化合物c2を20部、柔軟性調整剤を5部、フィラー1を23.3部、を容器に仕込み、不揮発分濃度が45質量%になるようトルエン:イソプロピルアルコール(質量比2:1)の混合溶剤を加えディスパーで10分攪拌することで得た。この組成物を、乾燥厚みが70μmになるようにドクターブレードを使用して、剥離フィルム/第一層α/第二層βの第二層β上に第三層γを形成した。そして、100℃で2分間乾燥することで、剥離フィルム/第一層α/第二層β/第三層γからなる積層体を得た。
得られた剥離フィルム/第一層α/第二層β/第三層γからなる積層体を60mm四方に切断した後、剥離フィルムを剥がし、剥離フィルムが積層されていた面に剥離層として支持層X1(300mm四方)をラミネート積層することで、実施例21の支持層/第一層α/第二層β/第三層γの積層シートを得た。
【0104】
[実施例22]
表4の配合量を変更した以外は実施例21と同様の方法により、実施例22の積層シートを得た。
【0105】
[実施例23]
支持層X1に替えて、支持層X2の積層体を用いた以外は、実施例21と同様の所作によって、実施例23の積層シート(支持層X2/第一層α/第二層β/第三層γ)を得た。
【0106】
[実施例24]
支持層X2と第一層αの間に離型層Y1を積層した以外は、実施例23と同様の所作によって、実施例24の積層シート(支持層X2/離型層Y1/第一層α/第二層β/第三層γ)を得た。
【0107】
F.試験用基板の作製
ガラスエポキシからなる基板上に、モールド封止された電子部品(1cm×1cm)を5×5個アレイ状に搭載した基板を用意した。基板の厚みは0.3mmであり、モールド封止厚、即ち基板上面からモールド封止材の頂面までの高さ(部品高さ)Hは0.7mmである。その後、部品同士の間隙である溝に添ってハーフダイシングを行い、電子部品が搭載された基板を得た(
図12参照)。ハーフカット溝深さは0.8mm(基板1に記載の鎖延長のカット溝深さは0.1mm)、ハーフカット溝幅は200μmとした。電子部品が搭載された領域を中心とする6cm×6cmの端部に線を引き、ずれ評価用の領域を特定した。
【0108】
G.評価
G-1.TOM適性
各実施例および比較例の積層シートの電子部品被覆シートの部分(6cm×6cm)と試験用基板上のずれ評価用の領域(6cm×6cm)のパターン位置が重なるように試料を配置し、TOM成形機(布施真空社製)を用いて、設定温度Tg+40でオーバーレイ成形を行った。そして、剥離層(支持層、または支持層+離型層)を剥離した後に180℃で60分ポストベークを行い、電子部品搭載基板を得た。得られた電子部品搭載基板の外観について、皺、破れの観点で以下の基準で評価した。
【0109】
G-2.皺
電子部品搭載基板上の電子部品被覆層に存在する皺の個数、長さを測定し、以下の基準で評価した。
++++:皺の個数が0~2個であり、且つ各皺の長さが3mm未満である。
+++:皺の個数が0~2個であり、且つ各皺の長さが3mm以上、5mm未満である。
++:皺の個数が3~10個であり、且つ各皺の長さが3mm未満である。
+:皺の個数が3~10個であり、且つ各皺の長さが3mm以上、5mm未満である。(実用レベル)
NG:皺の個数が11個以上である、または各皺の長さが5mm以上である。
【0110】
G-3.破れ
電子部品搭載基板上の電子部品被覆層に存在する破れの個数を数え、以下の基準で評価した。
++++:破れの個数が0~1個である。
+++:破れの個数が2~5個である。
++:破れの個数が6~10個である。
+:破れの個数が11~15個である。(実用レベル)
NG:破れの個数が16個以上である。
【0111】
G-4.積層位置ずれ
試験用基板上のずれ評価用の領域に対して、電子部品被覆層が最もはみ出して積層された部分の端部からずれ評価用の領域端部までの距離を測定した、そのズレ量に基づき、以下の基準で評価した。
++++:ズレ量が1mm未満である。
+++:ズレ量が1mm以上、3mm未満である。
++:ズレ量が3mm以上、5mm未満である。
+:ズレ量が5mm以上、7mm未満である。(実用レベル)
NG:ズレ量が7mm以上である。
【0112】
G-5.離型性
各実施例および比較例の積層シートを25mm×100mmにカットし、電子部品被覆シート側に厚さ75μmのポリイミドフィルム(「カプトン300H」東レデユポン社製)を重ね合わせ、80℃でラミネート処理した。次いで、得られた試料を、引張試験機を用いて、剥離速度50mm/分で剥離層と電子部品被覆シート間で剥離し、剥離力を測定した。結果は以下の基準で評価した。
++++:剥離層と電子部品被覆シートの界面で剥離でき、且つ剥離力が1N/cm以下。
+++:剥離層と電子部品被覆シートの界面で剥離でき、且つ剥離力が1N/cmより大きく、2N/cm以下。
++:剥離層と電子部品被覆シートの界面で剥離でき、且つ剥離力が2N/cmより大きく、3N/cm以下。
+:剥離層と電子部品被覆シートの界面で剥離でき、且つ剥離力が3N/cmより大きい。(実用レベル)
NG:剥離層と電子部品被覆シートの界面で剥離できない。
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
破断伸びが(i)において800%未満、および/又は(ii)において500%未満である被覆シートは、比較例1、2、5に示すように、加工時に破れにおいて課題があることが確認された。一方、破断伸びが(i)において2000%越え、(ii)において1500%越えである被覆シートは、比較例3に示すように、加工時に皺において課題があることが確認された。これに対し、上述した(i)~(iii)を全て満たす本実施例の被覆シートは、加工時の皺および破れの抑制に優れ、積層位置ズレ、離型性にも優れることが確認された。
【符号の説明】
【0118】
1:基板
2:電子部品
3:被覆層
4:電子部品被覆シート
5:ステージ
6:仕切り板
7:加熱源
8:支持層
9:離型層
10,11:電子部品搭載基板
20:ボックス
21:下部空間
22:上部空間
31:絶縁層
32:導電層
41:第一層
42:第二層
43:第三層
50~52:積層シート
【要約】 (修正有)
【課題】皺の発生、破断を改善でき、且つ被覆位置のズレを抑制できる品質の優れた被覆層を形成できる電子部品被覆シート、並びに被覆層を有する電子部品搭載基板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基板1と、電子部品2と、被覆層3とを備える電子部品搭載基板10の被覆層3を形成するためのTOM成形用等の電子部品被覆シートであって、当該被覆シートは、Tg~Tg+40℃における引張速度50mm/分で測定する破断伸びを800~2000%、Tg~Tg+40℃における引張速度1000mm/分で測定する破断伸びを500~1500%、JIS Z1707に準拠した突き刺し試験で測定した23℃における単位膜厚あたりの突刺し強度を10~200N/mmとする。
【選択図】
図1