IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社島津製作所の特許一覧

<>
  • 特許-質量分析装置 図1
  • 特許-質量分析装置 図2
  • 特許-質量分析装置 図3
  • 特許-質量分析装置 図4
  • 特許-質量分析装置 図5
  • 特許-質量分析装置 図6
  • 特許-質量分析装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/06 20060101AFI20241126BHJP
   H01J 49/10 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H01J49/06 700
H01J49/10 500
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023559435
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2022032136
(87)【国際公開番号】W WO2023084868
(87)【国際公開日】2023-05-19
【審査請求日】2024-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2021183038
(32)【優先日】2021-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 知義
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-236066(JP,A)
【文献】特開2002-8584(JP,A)
【文献】国際公開第2019/202719(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をプラズマによりイオン化するプラズマイオン源と、
イオン化された試料を質量分析する質量分析部と、
前記プラズマイオン源と前記質量分析部との間に配置されたサンプリング部と、を備え、
前記サンプリング部は、
サンプリングコーンと、
前記サンプリングコーンよりも前記質量分析部側に配置されたスキマーコーンと、を含み、
前記スキマーコーンを冷却するためのベースと、
前記スキマーコーンの外縁の少なくとも一部を前記ベースに固定するための押さえ部材と、をさらに備え
前記押さえ部材と前記スキマーコーンとは、互いに異なる熱伝導性を有する材料によって構成され、
前記押さえ部材は、前記スキマーコーンよりも熱伝導性が低い材料によって構成される、質量分析装置。
【請求項2】
前記スキマーコーンよりも前記質量分析部側に設置された引込電極をさらに備え、
前記引込電極は、イオン化された試料を通過させるための開口を有し、
前記スキマーコーンの外縁は、前記サンプリングコーン、前記スキマーコーン、および前記引込電極の軸方向と交わる面において、前記開口を覆う位置まで延伸している、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
試料をプラズマによりイオン化するプラズマイオン源と、
イオン化された試料を質量分析する質量分析部と、
前記プラズマイオン源と前記質量分析部との間に配置されたサンプリング部と、を備え、
前記サンプリング部は、
サンプリングコーンと、
前記サンプリングコーンよりも前記質量分析部側に配置されたスキマーコーンと、を含み、
前記スキマーコーンを冷却するためのベースと、
前記スキマーコーンの外縁の少なくとも一部を前記ベースに固定するための押さえ部材と、をさらに備え、
前記押さえ部材は、前記スキマーコーンの外縁の複数の面と接することにより、前記スキマーコーンを前記ベースに固定する、質量分析装置。
【請求項4】
試料をプラズマによりイオン化するプラズマイオン源と、
イオン化された試料を質量分析する質量分析部と、
前記プラズマイオン源と前記質量分析部との間に配置されたサンプリング部と、を備え、
前記サンプリング部は、
サンプリングコーンと、
前記サンプリングコーンよりも前記質量分析部側に配置されたスキマーコーンと、を含み、
前記スキマーコーンを冷却するためのベースと、
前記スキマーコーンの外縁の少なくとも一部を前記ベースに固定するための押さえ部材と、をさらに備え、
前記スキマーコーンおよび前記押さえ部材の一方側に凹部が形成され、
前記スキマーコーンおよび前記押さえ部材の他方側に凸部が形成され、
前記押さえ部材は、前記凹部に前記凸部がはめ込まれた状態で前記ベースに固定されることにより、前記スキマーコーンを前記ベースに固定する質量分析装置。
【請求項5】
前記押さえ部材は、前記スキマーコーンの外縁の全周を前記ベースに固定する、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICP(Inductively Coupled Plasma)質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置には、ICP質量分析装置と呼ばれるものがある。ICP質量分析装置は、プラズマによって溶液サンプル中に含まれる測定対象元素をイオン化させ、その結果生じたイオンをサンプリング部を介して真空中に引き込み、質量分析計によって測定を行う(たとえば、特許文献1を参照)。サンプリング部は、円錐形をした、サンプリングコーンおよびスキマーコーンを含む。サンプリングコーンおよびスキマーコーンは、7000℃程度に達するプラズマを直接吹き付けられるため、高温に耐える材料で作成される必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-241625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スキマーコーンの材料として金属が採用される場合、スキマーコーンは、金属の塊から削り出される。このことから、スキマーコーンの製造のために加工費がかさみ、これにより、質量分析装置全体としての製造コストを押し上げる要因となっていた。
【0005】
本発明は、係る実情に鑑み考え出されたものであり、その目的は、質量分析装置の製造コストを低減するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある局面に従う質量分析装置は、試料をプラズマによりイオン化するプラズマイオン源と、イオン化された試料を質量分析する質量分析部と、前記プラズマイオン源と前記質量分析部との間に配置されたサンプリング部と、を備え、前記サンプリング部は、サンプリングコーンと、前記サンプリングコーンよりも前記質量分析部側に配置されたスキマーコーンと、を含み、前記スキマーコーンを冷却するためのベースと、前記スキマーコーンの外縁の少なくとも一部を前記ベースに固定するための押さえ部材と、をさらに備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示のある局面に従うと、質量分析装置の製造コストが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の質量分析装置の構成を概略的に示す図である。
図2】質量分析装置100の一部を拡大して示す図である。
図3】ユニット9の斜視図である。
図4】ユニット9の縦断面図である。
図5】ユニット9の分解斜視図である。
図6】押さえ部材91がスキマーコーン7を冷却ジャケットベース92に固定している状態での、凸部7X近傍の断面を示す図である。
図7】スキマーコーン7と引込電極8との間の位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0010】
[質量分析装置の構成]
図1は、本実施形態の質量分析装置の構成を概略的に示す図である。図1に示された質量分析装置100は、ICP質量分析装置である。
【0011】
質量分析装置100は、イオン化室1、第1真空室2、第2真空室3、および第3真空室4を含む。イオン化室1は、略大気圧であり電気的に接地されている。第1真空室2は、イオン化室1側から順に真空度が高くなるように構成されている。第1真空室2内は、ロータリポンプにより真空排気される。第2真空室3および第3真空室4内は、ロータリポンプおよびターボ分子ポンプにより真空排気される。
【0012】
イオン化室1の内部には、ICPイオン源5が配設されている。なお、図1に示されたICPイオン源5の構成は単なる一例であり、様々な変形が可能である。
【0013】
ICPイオン源5は、プラズマトーチ51を含む。プラズマトーチ51は、ネブライズガスにより霧化した液体試料が流通する試料管、該試料管の外周に形成されたプラズマガス管、および当該プラズマガス管の外周に形成された冷却ガス管を含む。
【0014】
プラズマトーチ51の試料管の入口端には、液体試料をプラズマトーチ51に導入するオートサンプラ52が設けられている。そのほかに、図示しないものの、試料管にはネブライズガスを供給するネブライズガス供給源が接続され、プラズマガス管にはプラズマガス(例えばArガス)を供給するプラズマガス供給源が接続され、冷却ガス管には冷却ガスを供給する冷却ガス供給源が接続されている。
【0015】
第1真空室2は、略円錐形状であるサンプリングコーン6と、同じく略円錐形状であるスキマーコーン7との間に形成されている。サンプリングコーン6およびスキマーコーン7は、いずれもその頂部にイオン通過口を有する。スキマーコーン7は、たとえば、CuまたはNiなどの金属によって構成される。第1真空室2は、ICPイオン源5から供給されるイオンを後段へと送るとともに溶媒ガス等を排出するためのインターフェイスとして機能する。
【0016】
図1に示される3軸(X,Y,Z)のうち、X軸は、イオンの進行方向を表す。
第2真空室3内には、スキマーコーン7側(イオンが入射する側)から順に、引込電極8、イオンを収束させるためのイオンレンズ10、コリジョンセル11、およびエネルギ障壁形成用電極15が配置されている。引込電極8、イオンレンズ10、および、エネルギ障壁形成用電極15は、いずれも、イオンを通過させるための略円形状の開口が形成された円盤状の電極である。引込電極8の開口は、図2において、開口81として示されている。
【0017】
コリジョンセル11の入口側には、イオン通過開口121が形成された入口電極12、コリジョンセル11の出口側には同様にイオン通過開口131が形成された出口電極13が配置されている。コリジョンセル11の内部には、イオン光軸18に平行に配置された複数本のロッド電極を含む、多重極(例えば八重極)型のイオンガイド14が配設されている。
【0018】
第3真空室4内には、プリロッド電極とメインロッド電極とを含む四重極マスフィルタ16と、イオン検出器17と、が配置されている。
【0019】
ガス供給部19は、ガス供給管を通してコリジョンセル11の内部にコリジョンガス又はリアクションガスを供給する。コリジョンガスはHe(または、別の不活性ガス)であり、リアクションガスは水素、アンモニア等の反応性ガスである。
【0020】
電圧発生部20は、質量分析装置100内の各部に印加する電圧を発生するものであるが、図1では、図面が煩雑になるのを避けるために、一部の電圧供給線のみが描かれている。なお、電圧発生部20は、所定の電圧の直流電圧を発生する複数の直流電圧発生部と、所定振幅および所定周波数である高周波電圧を発生する複数の高周波電圧発生部と、を含む。
【0021】
電圧制御部21は、制御部22の制御の下で、電圧発生部20から各部へ印加される電圧の大きさと、印加のタイミングとを制御する。
【0022】
制御部22は、分析の実行のために、質量分析装置100内の各部を統括的に制御する。制御部22は、入力部23や表示部24などを介したユーザインターフェイスの機能も有する。データ処理部25は、イオン検出器17で得られた検出信号をデジタル化するアナログデジタル(AD)変換器を含み、収集されたデータを処理してマススペクトルを作成する等の処理を実行する。
【0023】
一実現例では、制御部22、電圧制御部21、および、データ処理部25は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、および、外部記憶装置などを含むパーソナルコンピュータによって実現される。質量分析装置100における制御は、予めインストールされた所定のプログラムをCPUが実行することによって実現され得る。
【0024】
[質量分析装置の分析動作の一例]
図2は、質量分析装置100の一部を拡大して示す図である。以下に、質量分析装置100の分析動作の一例を説明する。以下の説明では、質量分析装置100の分析対象のイオンは正イオンであるとする。なお、分析対象のイオンが負イオンであっても、各部へ印加する電圧の極性等を適宜変更することで、以下の説明における分析と同様の分析が可能であることは明らかである。
【0025】
分析開始前の待機状態では、第1真空室2、第2真空室3、および第3真空室4はそれぞれ真空排気された状態である。入力部23を介してユーザから分析開始の指示がなされると、または、予め設定された自動分析プログラムに従って自動的に分析開始が指示されると、制御部22は分析準備作業を開始する。
【0026】
分析準備作業では、制御部22はガス供給部19を動作させ、所定のガスをコリジョンセル11内に連続的にまたは間欠的に供給し始める。供給されるガスの種類は分析モードにより異なり、コリジョンモードでは例えばHeガス、リアクションモードでは例えばHガスである。
【0027】
コリジョンセル11内にガスを供給し始めても、該ガスがコリジョンセル11内に充満されて安定するまでにはある程度の時間を要し、それまで実質的な分析を行うことはできない。この期間が分析準備期間である。
【0028】
制御部22からの指示を受けて、電圧制御部21は、このとき、ICPイオン源5で生成される不所望のイオンが持つ初期エネルギよりも高い電位障壁がスキマーコーン7と引込電極8との間に形成されるべく、引込電極8に所定電圧値の正の直流電圧を印加するように電圧発生部20を制御する。「不所望のイオン」とは、主として、ICPイオン源5で使用されるプラズマガス由来のイオンであり、プラズマガスがArである場合、Ar、Ar2+などである。この「不所望のイオン」が持つ初期エネルギはそのほど大きくないので、一般に、引込電極8に印加される電圧は+数V程度である。
【0029】
電圧制御部21は、また、制御部22の指示の下で、コリジョンセル11の入口電極12に所定電圧値の正の直流電圧を印加するように電圧発生部20を制御する。このときに入口電極12に印加される電圧は、例えば+数十V~二百V程度である。
【0030】
電圧制御部21は、また、制御部22の指示の下で、コリジョンセル11内のイオンガイド14に、通常の分析時に比べて大きな振幅値の高周波電圧を印加するように電圧発生部20を制御する。
【0031】
電圧制御部21は、さらに、コリジョンセル11の出口電極13に、通常の分析時に比べて大きな所定電圧値の負の直流電圧を連続的に又はパルス的に印加するように電圧発生部20を制御する。このとき、イオンガイド14に印加される高周波電圧の振幅値は例えば50V以上、出口電極13に印加される直流電圧は例えば-100V程度(通常分析時には-10~-十数V程度)である。
【0032】
上述したように引込電極8に印加される直流電圧により、引込電極8の近傍には、イオンと同極性の電場による電位障壁が形成される。ICPイオン源5で生成され、サンプリングコーン6のイオン通過口(開口61)およびスキマーコーン7のイオン通過口(開口71)を経て第2真空室3に入ったプラズマガス等に由来するイオンは、上記電位障壁で堰き止められる。そのため、スキマーコーン7と引込電極8との間の領域31にはイオンが滞留し、イオンの密度が高くなる。
【0033】
ICPイオン源5からは、上記のようなイオンのみならず、プラズマガス由来の反応性中性粒子やブラズマガス分子も真空領域中に侵入しようとする。ところが、領域31のイオン密度は高いため、スキマーコーン7の開口71を通過した反応性中性粒子やガス分子はイオンに接触し易い。イオンに接触した反応性中性粒子やガス分子は軌道を変え、周囲の電極等に衝突して消滅したり或いは第2真空室3内から外部へ排出されたりする。そのため、反応性中性粒子やガス分子がコリジョンセル11の入口にまで到達しにくくし、コリジョンセル11の内部に入り込む反応性中性粒子やガス分子の量を減らすことができる。
【0034】
上述したようにコリジョンセル11の入口電極12に印加される電圧により、イオンレンズ10と入口電極12との間の領域32にはプラズマガス等に由来するイオンと同極性の電場が形成される。そのため、ICPイオン源5から第1真空室2を経て第2真空室3へと導入され、領域32を通過してしまったイオンは、入口電極12の手前で押し戻される。これにより、プラズマガス等に由来する不所望のイオンのコリジョンセル11内へ侵入を一層低減することができる。
【0035】
なお、反応性中性粒子や分子は、電荷を有さないので、領域32に形成される電場の作用では除去されないが、上述したように、反応性中性粒子や分子は領域31を通過しにくいので、コリジョンセル11の内部に入り込む反応性中性粒子やガス分子の量は少なくて済む。
【0036】
プラズマガス等に由来するイオンの一部は、領域31および領域32のいずれをも通過してコリジョンセル11内に入り込むことがある。また、プラズマガス等に由来する反応性中性粒子や分子の一部が上記2つの領域を通過してコリジョンセル11内に入り、コリジョンセル11内でガスと接触して不所望のイオンになることがある。外部から入り込んだイオンおよびコリジョンセル11内で発生したイオンは、コリジョンセル11内に存在するガスに接触してエネルギを減じ、イオンガイド14により形成される高周波電場に捕捉される。このときの高周波電場は通常の分析時よりも強いため、イオンはイオン光軸18近傍の比較的狭い領域33に収束される。
【0037】
上述したようにコリジョンセル11の出口電極13には、捕捉されるイオンと逆極性の比較的高い電圧が印加されている。そのため、領域33に滞留したイオンは、出口電極13への印加電圧による強い電場によって誘引され、出口電極13のイオン通過開口131を経てコリジョンセル11から排出される。
【0038】
すなわち、分析実行前の分析準備期間中には、ICPイオン源5とコリジョンセル11との間で、該コリジョンセル11への不所望のイオンおよび不所望の反応性中性粒子の侵入が抑止される。一方、コリジョンセル11に入ってしまった不所望のイオン、およびコリジョンセル11内で生成された不所望のイオンは、コリジョンセル11の外部へ迅速に排出される。このようにして、質量分析装置100では、分析準備期間中に、コリジョンセル11内にイオンが滞留しにくくなっている。
【0039】
制御部22は、ガス供給部19から供給されるガスがコリジョンセル11内に十分に充満するように予め定められた所定の待ち時間が経過するまで待つ。コリジョンセル11内に導入されたガスは、入口電極12および出口電極13のそれぞれの開口121,131から漏出する。このため、コリジョンセル11内にできるだけ均一な密度でガス分子が充満する状態にするには待ち時間は長いほうがよい。一例としては、ガス導入開始からの待ち時間を40秒以上とするとよい。
【0040】
所定の待ち時間が経過すると、電圧制御部21は、イオンを引き込むような所定電圧値の負の直流電圧を引込電極8に印加するように、電圧発生部20を制御する。また、電圧制御部21は、コリジョンセル11の入口電極12にも所定の電圧値である負の直流電圧を印加するように、電圧発生部20を制御する。また、電圧制御部21は、コリジョンセル11内のイオンガイド14に、分析対象である成分(目的成分)に応じた所定の振幅値の高周波電圧を印加するように、電圧発生部20を制御する。また、電圧制御部21は、コリジョンセル11の出口電極13に電位障壁形成用の所定の電圧を印加するように、電圧発生部20を制御する。
【0041】
その後、質量分析装置100では分析が実施される。一実現例では、電圧制御部21は、目的成分から由来するイオンが通過するように、四重極マスフィルタ16への印加電圧を設定する。そして、質量分析装置100では、各部へ印加された電圧が静定するのに必要な時間(例えば数msec程度)が経過したあと、目的とする試料成分のイオンの強度が検出される。
【0042】
例えばコリジョンモードでは、ICPイオン源5で生成された試料成分由来のイオンは、プラズマガス由来の不所望のイオンとともに、コリジョンガスが充満されているコリジョンセル11内に導入される。導入されたイオンは、コリジョンガスと繰り返し衝突し、そのエネルギが減衰する。衝突断面積が大きなイオンほどコリジョンセルとの衝突の機会が多く、エネルギの減衰が大きい。通常、プラズマガス由来のイオンの衝突断面積は目的成分から由来するイオンの衝突断面積よりも大きいため、プラズマガス由来のイオンのほうが運動エネルギが小さくなる。そのため、プラズマガス由来のイオンはコリジョンセル11の出口に形成されている電位障壁を乗り越えにくい。こうして運動エネルギ弁別法によりプラズマガス等に由来する不要なイオンを除去して、主として試料成分のイオンを四重極マスフィルタ16に送り込んで分析することができる。
【0043】
上述したように、分析開始前である分析準備期間中に、コリジョンセル11内には殆どイオンが存在しない状態となっているため、目的成分から由来するイオンに対する分析を開始する時点で、コリジョンセル11の内部に滞留しているイオンの空間電荷効果は殆どない。そのため、分析の際に、目的成分から由来するイオン(コリジョンセル11内に導入される)の軌道が、上記空間電荷効果の影響を受けることがない。これにより、当該イオンは、正常な軌道に従ってコリジョンセル11を通過して四重極マスフィルタ16に導入される。これにより、最終的にイオン検出器17に到達する目的成分から由来するイオンの量が増加され、高い分析感度を実現することができる。また、試料成分由来のイオンの軌道が上記空間電荷効果の影響を受けないので、イオン強度のドリフトも軽減でき、さらには試料成分の種類によるドリフトのばらつきも軽減できる。
【0044】
なお、上記説明では、コリジョンセル11内にガスの供給を開始してからガスがコリジョンセル11内に十分に充満して分析を開始するまでの分析準備期間中の全期間に亘り、コリジョンセル11内にイオンが滞留しないように各部への印加電圧を設定していた。しかしながら、必ずしも、分析準備期間中の全期間に亘り、そうした電圧設定を継続して行う必要はない。なお、コリジョンモードではなく、リアクションモードでも基本的な動作は上記と同様とされ得る。
【0045】
[スキマーコーンおよびその近傍の構造]
図3図7を参照して、スキマーコーン7およびその近傍の要素の構造を説明する。図3図7のそれぞれに示される3軸(X,Y,Z)は、図1に示された3軸に対応する。
【0046】
図3は、ユニット9の斜視図である。ユニット9は、スキマーコーン7および引込電極8を含む。ユニット9は、さらに、板体90および押さえ部材91を含む。押さえ部材91は、リング形状を有する。
【0047】
図4は、ユニット9の縦断面図である。図5は、ユニット9の分解斜視図である。図4に主に示されるように、板体90と引込電極8との間には、冷却ジャケットベース92が配置されている。
【0048】
スキマーコーン7は、その外縁部を押さえ部材91によって冷却ジャケットベース92に押さえられることにより、冷却ジャケットベース92に固定されている。より具体的には、押さえ部材91は、ネジ91A,91Bによって冷却ジャケットベース92に固定されることにより、スキマーコーン7を冷却ジャケットベース92に固定させる。これにより、スキマーコーン7は、開口71を介してイオンを通過させるという機能を維持しつつ、冷却ジャケットベース92によって冷却され得る。
【0049】
スキマーコーン7の外縁が押さえ部材91によって冷却ジャケットベース92に固定されることにより、スキマーコーン7全体の外径が従来より小さくされ得る。これにより、スキマーコーン7を構成する材料を少なくすることができ、スキマーコーン7の製造コストが低減され得る。また、スキマーコーン7の外径が小さくなることにより、スキマーコーン7の切り出しのための加工費が抑えられ、これによっても、スキマーコーン7の製造コストが低減され得る。スキマーコーン7の製造コストの低減により、質量分析装置100全体の製造コストも低減され得る。
【0050】
押さえ部材91は、スキマーコーン7の外縁の少なくとも一部を冷却ジャケットベース92に固定していればよい。なお、図5に主に示されるように、押さえ部材91がスキマーコーン7の外縁の全周を冷却ジャケットベース92に固定することにより、スキマーコーン7はより確実に冷却ジャケットベース92に固定され得る。
【0051】
図5に主に示されるように、スキマーコーン7の表面には凸部7Xが形成されている。
図6は、押さえ部材91がスキマーコーン7を冷却ジャケットベース92に固定している状態での、凸部7X近傍の断面を示す図である。
【0052】
図6に示されるように、押さえ部材91は、凸部7Xに対応する位置に、凹部91Xを有する。押さえ部材91は、凸部7Xが凹部91Xにはめ込まれた状態で、スキマーコーン7を冷却ジャケットベース92に固定する。
【0053】
これにより、スキマーコーン7の固定に、スキマーコーン7にネジ穴を形成する必要が無い。ネジ穴の形状は、洗浄が困難であり、また、洗浄時に利用される硝酸などの洗浄剤によって劣化し得る。ネジ穴が必要とされないことにより、スキマーコーン7の洗浄が容易になり、また、ネジ穴の劣化によるスキマーコーン7の固定の不安定化が回避され得る。なお、スキマーコーン7側に凹部が形成され、押さえ部材91側に凸部が形成されてもよい。
【0054】
図5および図6(特に、枠F11,F12および枠F21,F22)に示されるように、押さえ部材91は、スキマーコーン7の、X軸に沿う面およびY軸に沿う面と接している。すなわち、押さえ部材91は、スキマーコーン7の複数の面と接している。
【0055】
これにより、押さえ部材91は、スキマーコーン7の開口71以外で、より多い面積で、スキマーコーン7と接することができる。したがって、スキマーコーン7から押さえ部材91への熱伝導が促進される。
【0056】
さらに、図5および図6(特に、枠F21,F22)に示されるように、押さえ部材91は、スキマーコーン7の外縁部においても、X軸に沿う面およびY軸に沿う面と接している。すなわち、スキマーコーン7の外縁部は段差を有し、押さえ部材91の外縁部も、スキマーコーン7の段差に対応するように段差を有している。
【0057】
これにより、スキマーコーン7と押さえ部材91とが当接する面積がより多くなり、スキマーコーン7から押さえ部材91への熱伝導が促進される。
【0058】
質量分析装置100では、押さえ部材91とスキマーコーンとは、互いに異なる熱伝導性を有する材料によって構成され得る。これにより、スキマーコーン7から押さえ部材91への熱の移動態様が、それぞれの材料の選択によって調整され得る。
【0059】
一実現例では、押さえ部材91は、スキマーコーン7よりも熱伝導性が高い材料によって構成される。たとえば、押さえ部材91は銅によって構成され、スキマーコーン7はニッケルによって構成される。これにより、スキマーコーン7から押さえ部材91への熱の移動が促進され、スキマーコーン7の先端部(開口71)の温度の低下が促進され得る。これにより、質量分析装置100は、開口71の温度が低くされることに適した試料を測定対象とし得る。
【0060】
一実現例では、押さえ部材91は、スキマーコーン7よりも熱伝導性が低い材料によって構成される。たとえば、押さえ部材91はSUSまたは真鍮によって構成され、スキマーコーン7はニッケルによって構成される。これにより、スキマーコーン7から押さえ部材91への熱の移動が抑制され、スキマーコーン7の開口71が高温で維持され得る。これにより、質量分析装置100は、開口71の温度が高く維持されることに適した試料を測定対象とし得る。
【0061】
図7は、スキマーコーン7と引込電極8との間の位置関係を示す図である。図7には、YZ平面でのスキマーコーン7と引込電極8との間の位置関係が示される。YZ平面は、サンプリングコーン6、スキマーコーン7、および引込電極8の軸方向と交わる面の一例である。サンプリングコーン6、スキマーコーン7、および引込電極8の軸方向とは、イオンの主な進行方向を意味する。
【0062】
図7に示されるように、YZ平面において、スキマーコーン7の外縁は、引込電極8の開口81より外側に位置している。すなわち、スキマーコーン7の外縁は、引込電極8の開口81を覆う位置まで延伸している。これにより、スキマーコーン7によって、引込電極8からの放電が抑えられ得る。
【0063】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0064】
(第1項) 一態様に係る質量分析装置は、試料をプラズマによりイオン化するプラズマイオン源と、イオン化された試料を質量分析する質量分析部と、前記プラズマイオン源と前記質量分析部との間に配置されたサンプリング部と、を備え、前記サンプリング部は、サンプリングコーンと、前記サンプリングコーンよりも前記質量分析部側に配置されたスキマーコーンと、を含み、前記スキマーコーンを冷却するためのベースと、前記スキマーコーンの外縁の少なくとも一部を前記ベースに固定するための押さえ部材と、をさらに備えていてもよい。
【0065】
第1項に記載の質量分析装置によれば、質量分析装置の製造コストが低減される。
(第2項) 第1項に記載の質量分析装置は、前記スキマーコーンよりも前記質量分析部側に設置された引込電極をさらに備え、前記引込電極は、イオン化された試料を通過させるための開口を有し、前記スキマーコーンの外縁は、前記サンプリングコーン、前記スキマーコーン、および前記引込電極の軸方向と交わる面において、前記開口を覆う位置まで延伸していてもよい。
【0066】
第2項に記載の質量分析装置によれば、スキマーコーンによって、引込電極からの放電が抑制され得る。
【0067】
(第3項) 第1項または第2項に記載の質量分析装置において、前記押さえ部材は、前記スキマーコーンの外縁の複数の面と接することにより、前記スキマーコーンを前記ベースに固定してもよい。
【0068】
第3項に記載の質量分析装置によれば、スキマーコーンからベースへの熱の移動が促進され得る。
【0069】
(第4項) 第1項~第3項のいずれか1項に記載の質量分析装置において、前記スキマーコーンおよび前記押さえ部材の一方側に凹部が形成され、前記スキマーコーンおよび前記押さえ部材の他方側に凸部が形成され、前記押さえ部材は、前記凹部に前記凸部がはめ込まれた状態で前記ベースに固定されることにより、前記スキマーコーンを前記ベースに固定してもよい。
【0070】
第4項に記載の質量分析装置によれば、スキマーコーンは、ネジ穴を形成されることなく、押さえ部材によって固定され得る。
【0071】
(第5項) 第1項~第4項のいずれか1項に記載の質量分析装置において、前記押さえ部材と前記スキマーコーンとは、互いに異なる熱伝導性を有する材料によって構成されてもよい。
【0072】
第5項に記載の質量分析装置によれば、スキマーコーンから押さえ部材への熱の移動態様が、それぞれの材料の選択によって調整され得る。
【0073】
(第6項) 第5項に記載の質量分析装置において、前記押さえ部材は、前記スキマーコーンよりも熱伝導性が高い材料によって構成されてもよい。
【0074】
第6項に記載の質量分析装置によれば、質量分析装置は、スキマーコーンの開口の温度が低くされることに適した試料を測定対象とし得る。
【0075】
(第7項) 第5項に記載の質量分析装置において、前記押さえ部材は、前記スキマーコーンよりも熱伝導性が低い材料によって構成されてもよい。
【0076】
第7項に記載の質量分析装置によれば、質量分析装置は、スキマーコーンの開口の温度が高く維持されることに適した試料を測定対象とし得る。
【0077】
(第8項) 第1項~第7項のいずれか1項に記載の質量分析装置において、前記押さえ部材は、前記スキマーコーンの外縁の全周を前記ベースに固定してもよい。
【0078】
第8項に記載の質量分析装置によれば、スキマーコーンは、より確実に、押さえ部材によって固定され得る。
【0079】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、実施の形態中の各技術は、単独でも、また、必要に応じて実施の形態中の他の技術と可能な限り組み合わされても、実施され得ることが意図される。
【符号の説明】
【0080】
1 イオン化室、2 第1真空室、3 第2真空室、4 第3真空室、5 ICPイオン源、6 サンプリングコーン、7 スキマーコーン、7X 凸部、8 引込電極、9 ユニット、10 イオンレンズ、11 コリジョンセル、12 入口電極、13 出口電極、14 イオンガイド、15 エネルギ障壁形成用電極、16 マスフィルタ、17 イオン検出器、18 イオン光軸、19 ガス供給部、20 電圧発生部、21 電圧制御部、31,32,33 領域、51 プラズマトーチ、52 オートサンプラ、61,71,81 開口、90 板体、91 押さえ部材、91A,91B ネジ、91X 凹部、92 冷却ジャケットベース、100 質量分析装置、121,131 イオン通過開口。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7