(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/08 20060101AFI20241126BHJP
B60K 6/442 20071001ALI20241126BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20241126BHJP
B60W 10/26 20060101ALI20241126BHJP
B60W 20/15 20160101ALI20241126BHJP
B60L 50/61 20190101ALI20241126BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20241126BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20241126BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20241126BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/442
B60K6/46
B60W10/26 900
B60W20/15
B60L50/61
B60L3/00 S
B60L15/20 J
B60L58/12
(21)【出願番号】P 2023566034
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2021045565
(87)【国際公開番号】W WO2023105760
(87)【国際公開日】2023-06-15
【審査請求日】2024-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】矢倉 洋史
(72)【発明者】
【氏名】安部 洋則
(72)【発明者】
【氏名】半田 和功
【審査官】熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-46919(JP,A)
【文献】特開2017-165373(JP,A)
【文献】特開2013-110912(JP,A)
【文献】特開2021-40378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/08
B60K 6/442
B60K 6/46
B60W 10/26
B60W 20/15
B60L 50/61
B60L 3/00
B60L 15/20
B60L 58/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに連結されたジェネレータの発電電力とバッテリに蓄えられている電池電力とを併用してモータを駆動することでシリーズ走行を実施するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記バッテリから引き出し可能な電力の最大値として、所定時間以下の短時間に使用される短時間電池出力と、前記短時間電池出力よりも値が小さく前記所定時間を超えて使用されうる長時間電池出力とを設定する設定部と、
前記シリーズ走行において、前記短時間電池出力及び前記長時間電池出力のいずれか一方と前記発電電力とを使用して前記モータの最大出力を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記短時間電池出力をフル活用した状態から前記長時間電池出力へと使用対象を切り替える前に、前記短時間電池出力に余力が残るように前記モータの最大出力を現在の前記発電電力及び前記短時間電池出力の和よりも減少させた状態にした上で、前記長時間電池出力へと前記使用対象を切り替える
ことを特徴とする、ハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記短時間電池出力を使用する際に、前記ジェネレータの最大発電電力及び前記長時間電池出力の和を上限として、前記モータの最大出力を制御する
ことを特徴とする、請求項1記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、現在の前記発電電力及び前記短時間電池出力の和と前記ジェネレータの最大発電電力及び前記長時間電池出力の和とのうち、値が小さい一方を前記モータの最大出力とする
ことを特徴とする、請求項1または2記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記設定部は、前記バッテリの充電率が第一充電率以下である場合に、前記バッテリの充電率が前記第一充電率を超える場合と比較して、前記長時間電池出力を小さく設定する
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記設定部は、前記バッテリの充電率が前記第一充電率よりも小さい第二充電率以下である場合に、前記バッテリの充電率が前記第二充電率を超える場合と比較して、前記短時間電池出力を小さく設定する
ことを特徴とする、請求項4記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記設定部は、前記バッテリの温度が第一下限温度以下または第一上限温度以上である場合に、前記バッテリの温度が前記第一下限温度を超えかつ前記第一上限温度未満である場合と比較して、前記長時間電池出力を小さく設定する
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
前記設定部は、前記バッテリの温度が前記第一下限温度よりも低い第二下限温度以下または前記第一上限温度よりも高い第二上限温度以上である場合に、前記バッテリの温度が前記第二下限温度を超えかつ前記第二上限温度未満である場合と比較して、前記短時間電池出力を小さく設定する
ことを特徴とする、請求項6記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項8】
前記設定部は、走行モードに応じて前記短時間電池出力を設定する
ことを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記長時間電池出力を使用する際に、少なくとも前記短時間電池出力に相当する前記電池電力を常に前記バッテリに確保するとともに、前記短時間電池出力に相当する前記電池電力が前記バッテリに確保されなくなる前に前記エンジンを駆動することで前記ジェネレータに前記バッテリを充電させる
ことを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、シリーズ走行を実施するハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリーズ走行を実施するハイブリッド車両に搭載されるバッテリの出力管理において、要求出力がバッテリの定格出力を超えた場合に、一時的にバッテリ出力を定格出力よりも高くする技術が知られている。この種の技術では、基本的にはバッテリが長時間にわたって安定的に供給しうる定格出力に基づき、バッテリ出力が管理される。一方、そのバッテリ出力が不足するような場合に限り、定格出力よりも高い出力が一時的にバッテリから引き出されるように制御される。このような制御により、バッテリ保護性能を維持しつつ、車両の加速性能を改善しうる(例えば、日本特許第4207829号公報,国際公開第2008/090875号参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4207829号公報
【文献】国際公開第2008/090875号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような制御において、定格出力よりも高い出力を使用しうる時間は、バッテリ保護性能を考慮して比較的短く設定される。したがって、その時間が経過した時点で、バッテリ出力が定格出力まで低下することになる。これにより、車両が急激に失速したような感覚を運転者に与えることがあり、ドライブフィーリングを低下させやすいという課題がある。このようなフィーリングの悪化は、一時的に上昇させたバッテリ出力と定格出力との差が大きいほど顕著となる。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、ドライブフィーリングを改善できるようにしたハイブリッド車両の制御装置を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示のハイブリッド車両の制御装置は、以下に開示する態様または適用例として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。
開示の制御装置は、エンジンに連結されたジェネレータの発電電力とバッテリに蓄えられている電池電力とを併用してモータを駆動することでシリーズ走行を実施するハイブリッド車両の制御装置であって、設定部と制御部とを備える。
前記設定部は、前記バッテリから引き出し可能な電力の最大値として、所定時間以下の短時間に使用される短時間電池出力と、前記短時間電池出力よりも値が小さく前記所定時間を超えて使用されうる長時間電池出力とを設定する。
前記制御部は、前記シリーズ走行において、前記短時間電池出力及び前記長時間電池出力のいずれか一方と前記発電電力とを使用して前記モータの最大出力を制御する。また、前記制御部は、前記短時間電池出力をフル活用した状態から前記長時間電池出力へと使用対象を切り替える前に、前記短時間電池出力に余力が残るように前記モータの最大出力を現在の前記発電電力及び前記短時間電池出力の和よりも減少させた状態にした上で、前記長時間電池出力へと切り替える。
【発明の効果】
【0007】
開示のハイブリッド車両の制御装置によれば、短時間電池出力から長時間電池出力への使用対象の切り替え前に、モータの最大出力を現在の発電電力及び短時間電池出力の和よりも減少させることで、モータの最大出力の減少による失速感を緩和してドライブフィーリングを改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ハイブリッド車両及びその制御装置を示すブロック図である。
【
図2】(A),(B)は、短時間SOP(短時間電池出力)及び長時間SOP(長時間電池出力)の特性を説明するためのグラフである。
【
図3】(A)~(C)は、モータ最大出力の変化を説明するためのグラフである。
【
図4】(A),(B)は、低SOC時の制御内容を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
開示のハイブリッド車両の制御装置は、以下の実施例によって実施されうる。
【実施例】
【0010】
[1.装置構成]
図1は、実施例の制御装置7及び制御装置7が適用される車両1の構成を例示するブロック図である。車両1は、駆動源としてのエンジン2及びモータ4と発電装置としてのジェネレータ3と蓄電装置としてのバッテリ6とが搭載されたハイブリッド車両(ハイブリッド電気自動車,HEV)またはプラグインハイブリッド車両(プラグインハイブリッド電気自動車,PHEV)である。プラグインハイブリッド車両とは、バッテリ6に対する外部充電が可能なハイブリッド車両を意味する。プラグインハイブリッド車両には、外部充電設備からの電力が送給される充電ケーブルを差し込むための充電口(インレット)が設けられる。
【0011】
エンジン2は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。エンジン2の駆動軸には、少なくともエンジン2の駆動力を利用して発電する機能を持つジェネレータ3(発電機)が連結される。ジェネレータ3の発電電力(発電出力)は、モータ4の駆動やバッテリ6の充電に用いられる。エンジン2とジェネレータ3とを繋ぐ動力伝達経路上には、図示しない変速機構が介装されうる。なお、車両1を走行させる電動機としての機能を兼ね備えたジェネレータ3を適用してもよい。
【0012】
モータ4は、バッテリ6に蓄えられている電池電力やジェネレータ3の発電電力を用いて車両1を走行させる機能と、回生発電によって生じる電力をバッテリ6に充電する機能とを兼ね備えたモータジェネレータ(電動機兼発電機)である。バッテリ6は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素電池などの二次電池である。モータ4の駆動軸は、車両1の駆動輪に連結される。モータ4と駆動輪とを繋ぐ動力伝達経路上には、図示しない変速機構が介装されうる。
【0013】
エンジン2とモータ4とを繋ぐ動力伝達経路上には、クラッチ5が介装される。エンジン2はクラッチ5を介して駆動輪に接続され、モータ4はクラッチ5よりも駆動輪側に配置される。また、ジェネレータ3はクラッチ5よりもエンジン2側に接続される。クラッチ5が切断(解放)されると、エンジン2及びジェネレータ3が駆動輪に対して非接続の状態となり、モータ4が駆動輪に対して接続された状態となる。したがって、例えばモータ4のみを作動させることで、いわゆるEV走行(モーター単独走行)が実現される。これに加えて、エンジン2を作動させてジェネレータ3に発電させることで、いわゆるシリーズ走行が実現される。
【0014】
一方、クラッチ5が接続(締結)されると、エンジン2,ジェネレータ3,モータ4の三者が駆動輪に対して接続された状態となる。したがって、例えばエンジン2のみを作動させることで、いわゆるENG走行(エンジン単独走行)が実現される。これに加えて、モータ4やジェネレータ3を駆動することで、いわゆるパラレル走行が実現される。なお、車両1は少なくともシリーズ走行が可能なハイブリッド車両であればよく、他の走行態様(EV走行,ENG走行,パラレル走行)は適宜省略されうる。
【0015】
エンジン2,ジェネレータ3,モータ4,クラッチ5,バッテリ6の作動状態は、制御装置7によって制御される。制御装置7は、少なくともシリーズ走行を実施するためのコンピュータ(電子制御装置,ECU)であり、プロセッサ(演算処理装置)及びメモリ(記憶装置)を内蔵する。制御装置7が実施する制御の内容(制御プログラム)は、メモリに保存されてプロセッサで実行される。本実施例の制御装置7は、車両1のシリーズ走行に際し、ジェネレータ3の発電電力とバッテリ6に蓄えられている電池電力とを併用してモータ4を駆動する制御を実施する。
【0016】
[2.制御構成]
図1に示すように、制御装置7には、上記の制御を実施するための要素として、設定部8と制御部9とが設けられる。これらの要素は、制御装置7の機能を便宜的に分類して示したものであり、ソフトウェア(プログラム)やハードウェア(電子制御回路)で実現されうる。これらの要素は、一つのソフトウェアまたはハードウェアに一体化されてもよいし、複数のソフトウェア及びハードウェアに分散化されてもよい。例えば、バッテリ6を管理するためのバッテリECU(いわゆるBMU)にこれらの要素を内蔵させてもよいし、車両1のパワートレインを管理するための車両ECU(いわゆるHEV―ECUやPHEV―ECU)にこれらの要素を内蔵させてもよく、あるいは、これらの要素を複数のECUに分散させて設けてもよい。
【0017】
設定部8は、モータ4を駆動するためにバッテリ6から引き出して使用することのできる電力[kW]の最大値として、短時間SOP(短時間電池出力,短時間State Of Power)と長時間SOP(長時間電池出力,長時間State Of Power)との二種類の電池出力を設定するものである。短時間SOPは、所定時間以下の比較的短い時間に使用されることが想定された電池出力である。短時間SOPを使用可能な所定時間のスケール(時間の長さの度合い)は、例えば数秒程度である。これに対して長時間SOPは、上記の所定時間を超えて、比較的長時間(例えば数十秒以上)にわたって使用されることが想定された電池出力であって、短時間SOPよりも値が小さく設定される。長時間SOPは、一般的なバッテリ6の定格出力に相当するパラメータであると理解してもよい。
【0018】
短時間SOP,長時間SOPの各々の値は、あらかじめ設定された固定値であってもよいし、バッテリ6の作動状態(充電率SOC,健全度SOH,入出力電流,電圧,温度等)や車両1の走行状態(走行モード,車速,外気温,アクセル開度等)に応じて設定される可変値であってもよい。また、短時間SOPを使用できる所定時間についても同様であり、あらかじめ設定された固定値であってもよいし、バッテリ6の作動状態や車両1の走行状態に応じて設定される可変値であってもよい。
【0019】
図2(A)は、バッテリ6の充電率と短時間SOP及び長時間SOPとの関係を例示するグラフである。二点鎖線は短時間SOPを表し、破線は長時間SOPを表す。この例では、バッテリ6の充電率が第一充電率A
1を超える場合と比較して、第一充電率A
1以下である場合に、長時間SOPの値が小さく設定されている。一方、短時間SOPは、バッテリ6の充電率が第一充電率A
1よりも小さい第二充電率A
2以下まで落ち込んだ場合に、その値が小さく設定されている。言い換えれば、短時間SOPは、長時間SOPと比較してより厳しい条件で(バッテリ6の充電率がより低い状態になって初めて)値が小さく設定されている。
【0020】
図2(B)は、バッテリ6の温度と短時間SOP及び長時間SOPとの関係を例示するグラフである。この例では、バッテリ6の温度が第一下限温度B
1から第一上限温度C
1までの範囲内にある場合と比較して、第一下限温度B
1以下または第一上限温度C
1以上である場合に、長時間SOPの値が小さく設定されている。一方、短時間SOPは、バッテリ6の温度が第一下限温度B
1よりも低い第二下限温度B
2以下になった場合や、第一上限温度C
1よりも高い第二上限温度C
2以上になった場合に、その値が小さく設定されている。言い換えれば、短時間SOPは、長時間SOPと比較してより厳しい条件で(バッテリ6の温度が過剰に低下または上昇した状態になって初めて)値が小さく設定されている。
【0021】
車両1の走行モードに応じて短時間SOPや長時間SOPを設定する場合には、その走行モードに適した車両1のレスポンスが得られやすくなるように各々の値を設定してもよい。例えば、エコモード,ノーマルモード,スポーツモードの三種類の走行モードを備えた車両1において、エコモード時の短時間SOP,長時間SOPを比較的小さく設定し、スポーツモード時の短時間SOP,長時間SOPを比較的大きく設定してもよい。なお、走行モードは、乗員により手動で選択されるものであってもよいし、車両1の走行状態に応じて自動的に選択されるものであってもよい。
【0022】
エコモードとは、車両1の運動性能よりもコストが重視される走行モードである。エコモードでは、例えば所定のアクセル開度に応じて設定される要求出力をノーマルモード時よりも小さく設定することで、エネルギー効率重視の走行(燃費や電費に優れた走行)が実現される。このようなエコモード時の短時間SOP,長時間SOPをノーマルモード時よりも小さくすることで、バッテリ6の充電率が維持されやすくなり、エネルギー効率がさらに改善されうる。
【0023】
スポーツモードとは、コストよりも車両1の運動性能が重視される走行モードである。スポーツモードでは、例えば所定のアクセル開度に応じて設定されるドライバー要求出力をノーマルモード時よりも大きく設定することで、スポーティーな走行(躍動感や敏捷性に優れた走行)が実現される。このようなスポーツモード時の短時間SOP,長時間SOPをノーマルモード時よりも大きくすることで、加速レスポンスがさらに改善され、車両1の運動性能が向上しうる。
【0024】
制御部9は、シリーズ走行において、短時間SOP及び長時間SOPのいずれか一方とジェネレータ3の発電電力とを使用してモータ4の最大出力を制御するものである。短時間SOPは、例えばドライバー要求出力に対して長時間SOPが不足している場合(発電電力及び長時間SOPの和がドライバー要求出力に満たない場合)や、エンジン2の始動直後等に使用されうる。また、ドライバー要求出力が比較的小さい場合には、長時間SOPが使用される。
【0025】
好ましくは、制御部9が長時間SOPを使用する際に、少なくとも短時間SOPに相当する電池電力を常にバッテリ6に確保する制御を実施する。すなわち、バッテリ6に充電されている電池電力が短時間SOPに相当する電池電力を下回るおそれがある場合にはそうなる前に、制御部9がエンジン2を駆動することでジェネレータ3にバッテリ6を充電させる制御を実施する。このような制御を実施すれば、制御部9がいつでも短時間SOPに相当する電池電力を使用してモータ4を駆動できるようになる。
【0026】
また、制御部9は、短時間SOPから長時間SOPへと使用対象を切り替える前に、モータ4の最大出力を調整して現在の発電電力及び短時間SOPの和よりも減少させる制御を実施する。つまり、短時間SOPの役目を長時間SOPへと引き継ぐ際に、短時間SOPをフル活用した状態からいきなり長時間SOPへと切り替えるのではなく、短時間SOPに余力が残るようにあえてモータ4の最大出力を減少させた状態にした上で、長時間SOPへと切り替える制御を実施する。この制御について、
図3(A)~(C)を用いて詳述する。
【0027】
図3(A)~(C)は、車両1のシリーズ走行での発進時におけるモータ最大出力の経時変化を例示するグラフである。ここでは、アクセルペダルが運転者によってフルストロークで踏み込まれ、ドライバー要求出力が比較的大きな値で設定されている(実モータ出力がモータ最大出力にほぼ等しく制御されている)ものとする。
図3(A)の時刻T
0は、アクセルペダルが踏み込まれた時刻(またはそのアクセル操作によってエンジン2が始動し、ジェネレータ3による発電が開始された時刻)である。図中にハッチングで示すジェネレータ3の発電電力は、エンジン2及びジェネレータ3の回転速度が上昇するにつれて増加する。また、時刻T
2にはエンジン2の回転速度が所定の定格値に達する。これにより、時刻T
2以後のジェネレータ3の発電電力は最大発電電力となる。
【0028】
ここで、長時間SOPを用いて車両1を発進させることを検討すると、モータ4を駆動するために使用可能な出力の最大値は、破線グラフで示すように、現在の(その時点の)発電電力と長時間SOPとの和に相当する値となる。したがって、時刻T0~T2間におけるモータ出力が不足し、良好な加速レスポンスが得られない。これに対し、長時間SOPよりも大きな値を持つ短時間SOPを用いて車両1を発進させることを検討すると、モータ4を駆動するために使用可能な出力の最大値は、二点鎖線グラフで示すように、現在の(その時点の)発電電力と短時間SOPとの和に相当する値となる。したがって、時刻T0~T2間における加速レスポンスが改善される。
【0029】
一方、短時間SOPの使用時間は所定時間以下であることが想定されており、長時間にわたって使い続けることはできない。そのため、少なくとも所定時間が経過する前に、短時間SOPから長時間SOPへと使用対象が切り替えられることになる。この切り替えに際し、単に短時間SOPの使用を停止して長時間SOPの使用を開始したのでは、太実線グラフで示すように切り替え時にモータ最大出力が急激に減少し、運転者に失速感(いわゆるトルク抜け感)を覚えさせてしまう。失速感の大きさは、短時間SOPと長時間SOPとの差が大きいほど顕著となる。なお、
図3(A)では時刻T
2に短時間SOPから長時間SOPへの切り替えがなされた場合の挙動を示しているが、切り替えのタイミングが異なる時刻であっても失速感は発生しうる。
【0030】
このような課題に対し、本実施例では、短時間SOPから長時間SOPへの切り替えに先立ってモータ4の最大出力が調整される。すなわち、
図3(B),(C)の時刻T
2よりも前に、モータ最大出力(太実線グラフ)を現在の発電電力及び短時間SOPの和(二点鎖線グラフ)よりも減少させる制御が実施される。これにより、短時間SOPから長時間SOPへの切り替えの前後におけるモータ最大出力の変動が小さくなり、失速感が抑制または解消される。
【0031】
好ましくは、短時間SOPを使用する際に、ジェネレータ3の最大発電電力及び長時間SOPの和を上限として、制御部9がモータ4の最大出力を制御する。すなわち、
図3(B),(C)の時刻T
2以前におけるモータ最大出力の上限値が、時刻T
2以後における破線グラフの値に制限されるように、モータ4の最大出力を制御する。このような制御を実施した場合には、短時間SOPから長時間SOPへの切り替え時にモータ最大出力が減少しなくなるため、失速感の発生が防止される。
【0032】
また、短時間SOPから長時間SOPへの切り替えに際し、制御部9がモータ4の最大出力をジェネレータ3の最大発電電力及び長時間SOPの和に漸近させる制御を実施してもよい。例えば、
図3(B)に示す通り、時刻T
2以前における太実線グラフが時刻T
2以後における破線グラフに対して滑らかに接続されるように、モータ4の最大出力を制御する。このような制御を実施した場合には、短時間SOPから長時間SOPへの切り替えの前後でモータ最大出力が変動しなくなるため、失速感だけでなくトルク変動が防止されてドライブフィーリングが改善される。
【0033】
あるいは、短時間SOPから長時間SOPへの切り替えに際し、制御部9がモータ4の最大出力をジェネレータ3の最大発電電力及び長時間SOPの和に一致させる制御を実施してもよい。例えば、
図3(C)に示す通り、時刻T
2以前から太実線グラフが時刻T
2以後における破線グラフと同一直線をなすように、モータ4の最大出力を制御する。このような制御を実施した場合にも、短時間SOPから長時間SOPへの切り替え時におけるトルク変動が防止され、ドライブフィーリングが改善される。
【0034】
なお、この制御は、現在の発電電力及び短時間SOPの和とジェネレータ3の最大発電電力及び長時間SOPの和とを算出し、値が小さい一方をモータ4の最大出力に設定することで容易に実現可能である。すなわち、
図3(B),(C)の時刻T
2以前における二点鎖線グラフ上の値と時刻T
2以後における破線グラフ上の値とを常時算出し、ミニマム取りの処理を行うことでモータ最大出力(太実線グラフ)を決定すればよい。
図3(C)の時刻T
1以前は前者の値が小さく、時刻T
1以後は後者の値が小さくなっている。このような制御により、時刻T
2の前後でのトルク変動が確実かつ容易に防止される。
【0035】
図4(A),(B)は、
図3(C)と比較して長時間SOPが小さい場合の制御を説明するためのグラフである。例えば、
図2(A)に示すような特性を用いて長時間SOPの値を設定する際に、バッテリ6の充電率が第一充電率A
1未満である場合には、長時間SOPの値が小さくなる。これにより、低SOC時の長時間SOP(細破線グラフ)は、高SOC時の長時間SOP〔
図3(C)と同じ破線グラフ〕と比較して下方へ移動する。したがって、ジェネレータ3の発電電力が最大となる時刻T
2におけるモータ4の最大出力は、
図3(C)に示す場合よりも小さくなる。言い換えれば、時刻T
2における二点鎖線グラフの値と細破線グラフの値との差が大きくなるため、単に短時間SOPの使用を停止して長時間SOPの使用を開始したのでは、強い失速感が生じかねない。
【0036】
これに対して本実施例の制御部9によれば、短時間SOPから長時間SOPへと使用対象を切り替える前に、モータ4の最大出力が現在の発電電力及び短時間SOPの和よりも小さく制御されるため、上記の失速感が緩和される。また、モータ4の最大出力をジェネレータ3の最大発電電力及び長時間SOPの和に一致させる制御を実施した場合には、
図4(B)に示す通り、時刻T
2以前から太実線グラフが時刻T
2以後における破線グラフと同一直線状となる。したがって、時刻T
2前後でのトルク変動が防止され、ドライブフィーリングが改善される。
【0037】
なお、
図4(B)において、ジェネレータ3の最大発電電力及び長時間SOPの和が現在の発電電力及び短時間SOPの和よりも小さくなる時刻T
1′は、
図3(C)における時刻T
1よりも前の(時刻T
0に近い)時刻となる。したがって、
図4(B)の制御では、モータ最大出力が増加する時間の長さ(時刻T
0~T
1′間の時間)が
図3(C)の制御よりも短く、モータ最大出力自体の値も小さい。一方、
図4(B)の時刻T
0~T
1′間におけるモータ最大出力の値や増加勾配は、
図3(C)の時刻T
0~T
1間におけるモータ最大出力の値や増加勾配とほぼ同等な値となる。このように、
図4(B)の制御は、時刻T
1′以後の「加速の伸び」については
図3(C)の制御に及ばないものの「加速レスポンス」については
図3(C)の制御に匹敵する。
【0038】
[3.効果]
(1)上述の通り、本実施例の制御装置7(ハイブリッド車両の制御装置)には、設定部8と制御部9とが設けられる。設定部8は、バッテリ6から引き出し可能な電力の最大値として、所定時間以下の短時間に使用される短時間SOP(短時間電池出力)と、短時間SOPよりも値が小さく所定時間を超えて使用されうる長時間SOP(長時間電池出力)とを設定する。制御部9は、シリーズ走行において、短時間SOP及び長時間SOPのいずれか一方と発電電力とを使用してモータ4の最大出力を制御する。また、制御部9は、短時間SOPから長時間SOPへと使用対象を切り替える前に、モータ4の最大出力を現在の発電電力及び短時間SOPの和よりも減少させる制御を実施する。
【0039】
このように、長時間SOPだけでなく短時間SOPを使用してモータ4の最大出力を制御することで、ジェネレータ3で生成される発電電力の上昇の遅れによるモータ4の出力不足を短時間SOPで補うことができ、車両1の加速レスポンスを改善できる。また、短時間SOPから長時間SOPへと使用対象を切り替える前に、モータ4の最大出力を現在の発電電力及び短時間SOPの和よりも減少させることで、モータ4の最大出力の減少による失速感を緩和でき、ドライブフィーリングを改善できる。
【0040】
(2)本実施例の制御部9は、短時間SOPを使用する際に、ジェネレータ3の最大発電電力及び長時間SOPの和を上限として、モータ4の最大出力を制御しうる。このような制御により、短時間SOPから長時間SOPへの切り替えの前後におけるモータ最大出力の減少を防止できる。したがって、運転者に失速感を覚えさせるおそれがなくなり、ドライブフィーリングをさらに改善できる。
【0041】
また、本実施例の制御部9は、短時間SOPから長時間SOPへの切り替えに際し、制御部9がモータ4の最大出力をジェネレータ3の最大発電電力及び長時間SOPの和に漸近させる制御を実施しうる。例えば、
図3(B)に示す通り、時刻T
2以前における太実線グラフが時刻T
2以後における破線グラフに対して滑らかに接続されるように、モータ4の最大出力が制御される。このような制御により、短時間SOPから長時間SOPへの切り替えの前後におけるモータ最大出力の変動を防止できる。したがって、失速感だけでなくトルク変動による違和感の発生を防止でき、ドライブフィーリングをさらに改善できる。
【0042】
(3)本実施例の制御部9は、現在の発電電力及び短時間SOPの和とジェネレータ3の最大発電電力及び長時間SOPの和とのうち、値が小さい一方をモータ4の最大出力として設定しうる。例えば、
図3(C)に示す通り、時刻T
2以前における太実線グラフが時刻T
2以後における破線グラフと同一直線をなすように、モータ4の最大出力が制御される。このような制御においても、短時間SOPから長時間SOPへの切り替えの前後におけるモータ最大出力の変動を防止でき、ドライブフィーリングをさらに改善できる。また、モータ4の最大出力をジェネレータ3の最大発電電力及び長時間SOPの和に漸近させる制御と比較して、モータ4の最大出力が一定となる期間が長くなることから、走行安定性を向上させることができる。
【0043】
(4)上記の実施例では、
図2(A)に破線で示すように、バッテリ6の充電率が第一充電率A
1以下である場合に、バッテリ6の充電率が第一充電率A
1を超える場合と比較して、長時間SOPが小さく設定されうる。このように、充電率が低下した場合に長時間SOPを小さく設定することで、バッテリ6の性能低下を抑制できる。またこのとき、短時間SOPを保ちつつ長時間SOPのみを小さく設定すれば、加速レスポンスの悪化を抑制しつつ、バッテリ6の性能低下を抑制できる。
【0044】
(5)
図2(A)に二点鎖線で示すように、バッテリ6の充電率が第一充電率A
1よりも小さい第二充電率A
2以下である場合に、短時間SOPを小さく設定してもよい。すなわち、長時間SOPと比較してより厳しい条件で(バッテリ6の充電率がより低い状態になった場合に)短時間SOPに制限を加えるようにしてもよい。このような設定により、車両1の加速レスポンスの悪化を防止しつつ、効率よくバッテリ6の性能低下を抑制できる。
【0045】
(6)上記の実施例では、
図2(B)に破線で示すように、バッテリ6の温度が第一下限温度B
1以下または第一上限温度C
1以上である場合に、バッテリ6の温度が第一下限温度B
1を超えかつ第一上限温度C
1未満である場合と比較して、長時間SOPが小さく設定されうる。このように、バッテリ6の温度が所定の温度範囲から外れた場合に長時間SOPを小さく設定することで、バッテリ6の性能低下を抑制できる。またこのとき、短時間SOPを保ちつつ長時間SOPのみを小さく設定すれば、加速レスポンスの悪化を抑制しつつ、バッテリ6の性能低下を抑制できる。
【0046】
(7)
図2(B)に二点鎖線で示すように、バッテリ6の温度が第一下限温度B
1よりも低い第二下限温度B
2以下、または、第一上限温度C
1よりも高い第二上限温度C
2以上である場合に、短時間SOPを小さく設定してもよい。すなわち、長時間SOPと比較してより厳しい条件で(バッテリ6の温度が高すぎる状態や低すぎる状態になった場合に)短時間SOPに制限を加えるようにしてもよい。このような設定により、車両1の加速レスポンスの悪化を防止しつつ、効率よくバッテリ6の性能低下を抑制できる。
【0047】
(8)上記の実施例では、走行モードに応じて短時間SOPや長時間SOPが設定されうる。例えば、スポーツモード時の短時間SOP,長時間SOPをノーマルモード時の短時間SOP,長時間SOPよりも大きく設定することで、加速レスポンスを改善することができ、車両1の運動性能を向上させることができる。なお、長時間SOPと比較して短時間SOPは、加速初期におけるレスポンスに大きな影響を与えうる。したがって、スポーツモード時の短時間SOPを増大させることで、ドライブフィーリングを飛躍的に改善できる。反対に、レスポンスがあまり重視されないエコモードにおいては、短時間SOPを減少させることで、バッテリ6の電力の浪費を抑えることができ、エネルギー効率を改善することができる。
【0048】
(9)本実施例では、長時間SOPを使用する際に、少なくとも短時間SOPに相当する電池電力を常にバッテリ6に確保する制御が実施されうる。また、短時間SOPに相当する電池電力がバッテリ6に確保されなくなる前にエンジン2を駆動することでジェネレータ3にバッテリ6を充電させる制御が実施されうる。このように、短時間SOPに相当する電池電力を常にバッテリ6に保存しておくことで、例えばドライバー要求出力の急増に対していつでも短時間SOPを使用できるようになり、車両1の加速レスポンスを常時改善できるようになる。したがって、ドライブフィーリングをさらに改善できる。
【0049】
[4.その他]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、本実施例の各構成は、必要に応じて取捨選択でき、あるいは、適宜組み合わせることができる。
【0050】
上記の実施例では、クラッチ5を介してエンジン2とモータ4とが接続されるパワートレインを有する車両1を例示したが、エンジン2とモータ4とを完全に分離して設け、クラッチ5を省略してもよい。少なくとも、シリーズ走行を実施する車両1であれば、上記の制御装置7を適用することで上述の実施形態と同様の制御を実現でき、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本件は、ハイブリッド車両の製造産業に利用可能であるとともに、ハイブリッド車両に搭載される制御装置の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 車両
2 エンジン
3 ジェネレータ
4 モータ
5 クラッチ
6 バッテリ
7 制御装置
8 設定部
9 制御部