(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】エスカレータの制御装置
(51)【国際特許分類】
B66B 31/00 20060101AFI20241126BHJP
B66B 25/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B66B31/00 C
B66B25/00 D
(21)【出願番号】P 2024011184
(22)【出願日】2024-01-29
【審査請求日】2024-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成田 岳人
(72)【発明者】
【氏名】谷口 友宏
(72)【発明者】
【氏名】濱口 萌子
(72)【発明者】
【氏名】水戸 陵人
(72)【発明者】
【氏名】立岡 利茂弥
(72)【発明者】
【氏名】山田 真太郎
【審査官】板澤 敏明
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-179875(JP,A)
【文献】特開2015-168552(JP,A)
【文献】特開2015-140219(JP,A)
【文献】特開2020-64821(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0098195(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏段上の利用者についての当該踏段に対する相対速度を歩行速度として検出する歩行速度検出部と、
前記歩行速度検出部が前記歩行速度を検出した場合に、その歩行速度に応じて、前記踏段の速度を第1目標速度になるように調整する調速処理部と、
を備え、
前記第1目標速度は、前記歩行速度が速くなるに従って、前記踏段の調整後の速度が遅くなるように設定される、エスカレータの制御装置。
【請求項2】
前記踏段上を歩く利用者の人数を歩行人数として検出する歩行人数検出部、
を更に備え、
前記歩行速度検出部が前記歩行速度を検出した場合であって、且つ、前記歩行人数検出部が検出した前記歩行人数が第1閾値より大きい場合、又は、前記踏段上で止まっている利用者の人数についての当該歩行人数に対する割合が第2閾値より小さい場合に、前記調速処理部は、前記踏段の速度を前記第1目標速度になるように調整し、
前記歩行速度検出部が前記歩行速度を検出した場合であって、且つ、前記歩行人数検出部が検出した前記歩行人数が前記第1閾値より小さい場合、又は、前記踏段上で止まっている利用者の人数についての当該歩行人数に対する割合が前記第2閾値より大きい場合には、前記調速処理部は、前記踏段の速度を、前記第1目標速度より速い第2目標速度になるように調整する、請求項1に記載のエスカレータの制御装置。
【請求項3】
前記エスカレータには、前記踏段ごとに発生した荷重を検出する荷重センサが設けられており、
周回する前記踏段を一列に並べた場合の当該踏段の順番を示す第1インデックスと、所定の時間幅を時系列に並べた場合の当該時間幅の順番を示す第2インデックスとで指定される要素を含んだ2次元配列を用いて、前記所定の時間幅が経過するごとに、その時間幅が経過するまでの間に前記荷重センサによって検出される荷重についての当該時間幅の開始時点からの変化量が当該時間幅内の何れかの時点で何れかの踏段において第3閾値より大きくなった場合には、そのような荷重の変化が生じた踏段に対応する要素に検出情報を格納する、荷重検出処理部、
を更に備え、
前記歩行速度検出部は、前記検出情報が格納された要素についての前記2次元配列内での分布に基づいて、前記歩行速度を検出する、請求項1又は2に記載のエスカレータの制御装置。
【請求項4】
前記歩行速度検出部は、前記2次元配列において前記検出情報が格納された要素のうちの、前記第1インデックスの方向又は前記第2インデックスの方向において当該要素どうしが隣接して繋がることによって形成された前記要素の纏まりごとに、その纏まりを1つの要素群とした上で、当該要素群内の要素数が第4閾値より大きい場合であって、且つ、その要素群内の要素の並びを見たときに、前記第2インデックスの方向において2つ以上の要素が隣接した隣接部分がある場合であり、更には、その隣接部分が、時間の経過に伴って前記第1インデックスの方向へ移動している場合に、前記要素群内の要素数と、前記第1インデックスの方向において当該要素群が占めているインデックス数とに基づいて、前記歩行速度を求める、請求項3に記載のエスカレータの制御装置。
【請求項5】
踏段上で歩く利用者の人数を歩行人数として検出する歩行人数検出部と、
前記歩行人数検出部が検出した前記歩行人数に応じて前記踏段の速度を調整する調速処理部と、
を備える、エスカレータの制御装置。
【請求項6】
前記エスカレータには、前記踏段ごとに発生した荷重を検出する荷重センサが設けられており、
周回する前記踏段を一列に並べた場合の当該踏段の順番を示す第1インデックスと、所定の時間幅を時系列に並べた場合の当該時間幅の順番を示す第2インデックスとで指定される要素を含んだ2次元配列を用いて、前記所定の時間幅が経過するごとに、その時間幅が経過するまでの間に前記荷重センサによって検出される荷重についての当該時間幅の開始時点からの変化量が当該時間幅内の何れかの時点で何れかの踏段において所定閾値より大きくなった場合には、そのような荷重の変化が生じた踏段に対応する要素に検出情報を格納する、荷重検出処理部、
を更に備え、
前記歩行人数検出部は、前記検出情報が格納された要素についての前記2次元配列内での分布に基づいて、前記歩行人数を検出する、請求項5に記載のエスカレータの制御装置。
【請求項7】
前記歩行人数検出部は、前記2次元配列において前記検出情報が格納された要素のうちの、前記第1インデックスの方向又は前記第2インデックスの方向において当該要素どうしが隣接して繋がることによって形成された前記要素の纏まりごとに、その纏まりを1つの要素群とした上で、その要素群内の要素の並びを見たときに、前記第2インデックスの方向において2つ以上の要素が隣接した隣接部分がある場合であり、且つ、その隣接部分が、時間の経過に伴って前記第1インデックスの方向へ移動している場合に、当該隣接部分の要素数に基づいて前記歩行人数を求める、請求項6に記載のエスカレータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレータの制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータの制御技術として、特許文献1には、エスカレータに乗った利用者が踏段上で止まらずに歩いていることが検出された場合に、踏段の速度を、ある一定の速度まで低下させて遅くする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のように踏段の速度を単に遅くしただけでは、歩いている利用者が、降口に速く到達するために更に速く歩こうとする状況や、後からエスカレータに乗ってきた利用者も同様に速く歩こうとする状況を招き得る。
【0005】
そこで本発明の目的は、エスカレータにおいて踏段上で利用者が歩かない状況を作り出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る第1の制御装置は、エスカレータの制御装置であり、次のような構成を備える(態様1)。制御装置は、歩行速度検出部と、調速処理部と、を備える。歩行速度検出部は、踏段上の利用者についての当該踏段に対する相対速度を歩行速度として検出する。調速処理部は、歩行速度検出部が歩行速度を検出した場合に、その歩行速度に応じて、踏段の速度を第1目標速度になるように調整する。そして、この第1目標速度は、歩行速度が速くなるに従って、踏段の調整後の速度が遅くなるように設定される。
【0007】
利用者の歩行速度を検出して踏段の速度を遅くした場合には、その利用者が、降口に速く到達するために更に速く歩こうとする状況や、後からエスカレータに乗ってきた利用者も同様に速く歩こうとする状況を招き得る。上記態様1によれば、そのような状況が生じた場合には、そのときの歩行速度を新たに検出することができ、その歩行速度に応じて踏段の速度を更に遅くすることができる。これにより、踏段上を歩く利用者に対して、自身が歩くことによって踏段の速度が遅くなっていることに気付かせることが可能になる。
【0008】
上記態様1に係る制御装置は、次のような構成を備えていてもよい(態様2)。制御装置は、踏段上を歩く利用者の人数を歩行人数として検出する歩行人数検出部、を更に備える。そして、歩行速度検出部が歩行速度を検出した場合であって、且つ、歩行人数検出部が検出した歩行人数が第1閾値より大きい場合、又は、踏段上で止まっている利用者の人数についての当該歩行人数に対する割合が第2閾値より小さい場合に、調速処理部は、踏段の速度を第1目標速度になるように調整する。一方、歩行速度検出部が歩行速度を検出した場合であって、且つ、歩行人数検出部が検出した歩行人数が第1閾値より小さい場合、又は、踏段上で止まっている利用者の人数についての当該歩行人数に対する割合が第2閾値より大きい場合には、調速処理部は、踏段の速度を、第1目標速度より速い第2目標速度になるように調整する。
【0009】
上記態様2によれば、歩行人数が多い場合、又は、踏段上で止まっている利用者の人数の割合が小さい場合には、踏段の速度を第1目標速度まで遅くすることができ、それより、歩いていた利用者が、踏段の速度が遅くなったことに気付いて止まり、その結果として、歩行人数が減った場合、又は、踏段上で止まっている利用者の人数の割合が大きくなった場合には、踏段の速度を、第2目標速度まで速めることができるようになる。これにより、歩く利用者が少ない場合、又は、少なくなった場合には、踏段の速度を遅くすることによって生じる利用者への影響(踏段上に止まってエスカレータを利用している利用者にとって降口に到着するまでの時間が長くなるという影響)をできるだけ減らすことが可能になる。
【0010】
エスカレータには、踏段ごとに発生した荷重を検出する荷重センサが設けられていてもよい。そのようなエスカレータにおいて、上記態様1又は2に係る制御装置は、次のような構成を備えていてもよい(態様3)。制御装置は、荷重検出処理部を更に備える。荷重検出処理部は、周回する踏段を一列に並べた場合の当該踏段の順番を示す第1インデックスと、所定の時間幅を時系列に並べた場合の当該時間幅の順番を示す第2インデックスとで指定される要素を含んだ2次元配列を用いて、所定の時間幅が経過するごとに、その時間幅が経過するまでの間に荷重センサによって検出される荷重についての当該時間幅の開始時点からの変化量が当該時間幅内の何れかの時点で何れかの踏段において第3閾値より大きくなった場合には、そのような荷重の変化が生じた踏段に対応する要素に検出情報を格納する。そして、歩行速度検出部は、検出情報が格納された要素についての2次元配列内での分布に基づいて、歩行速度を検出する。
【0011】
態様3によれば、荷重の変化の検出位置(荷重の変化が検出された踏段に対応する第1インデックスの番号)についての、利用者が踏段上を歩くことよって生じる時間的な変化を、2次元配列において、検出情報が格納された要素の分布として捉えることができるようになる。そして、そのような2次元配列を用いることにより、そこに現れる分布の特徴から利用者の歩行状態(歩行速度など)を捉えることができるようになる。
【0012】
上記態様3に係る制御装置において、歩行速度検出部は、次のような構成を備えていてもよい(態様4)。歩行速度検出部は、2次元配列において検出情報が格納された要素のうちの、第1インデックスの方向又は第2インデックスの方向において当該要素どうしが隣接して繋がることによって形成された要素の纏まりごとに、その纏まりを1つの要素群とした上で、(1)当該要素群内の要素数が第4閾値より大きい場合であって、且つ、(2)その要素群内の要素の並びを見たときに、第2インデックスの方向において2つ以上の要素が隣接した隣接部分がある場合であり、更には、(3)その隣接部分が、時間の経過に伴って第1インデックスの方向へ移動している場合に、要素群内の要素数と、第1インデックスの方向において当該要素群が占めているインデックス数とに基づいて、歩行速度を求める。
【0013】
態様4によれば、利用者が歩いていることを示す特徴を持った要素群(分布)を抽出することができ、更には、その要素群の形状(ここでは要素数とインデックス数を指標とする形状)と歩行速度との間に関係性があることを利用して、当該要素群が示す要素数とインデックス数から利用者の歩行速度を精度良く算出することができるようになる。
【0014】
本発明に係る第2の制御装置は、エスカレータの制御装置であり、次のような構成を備える(態様5)。制御装置は、歩行人数検出部と、調速処理部と、を備える。歩行人数検出部は、踏段上で歩く利用者の人数を歩行人数として検出する。調速処理部は、歩行人数検出部が検出した歩行人数に応じて踏段の速度を調整する。
【0015】
上記態様5によれば、歩行人数を検出することによって踏段の速度を遅くするといった制御が可能になる。これにより、踏段上を歩く利用者が、自身が歩くことによって踏段の速度が遅くなっているということに気付いて踏段上に止まる、といったことを期待できるようになる。
【0016】
一方、踏段の速度を遅くすることにより、踏段上に止まっていた利用者が歩き始めるという状況を招き得る。上記態様5によれば、そのような状況が生じることによって歩行人数が増えた場合には、そのときの歩行人数を新たに検出することができ、その歩行人数に応じて踏段の速度を更に遅くすることができる。これにより、踏段上を歩く利用者に対して、自身が歩くことによって踏段の速度が遅くなっていることに気付かせることが可能になる。
【0017】
エスカレータには、踏段ごとに発生した荷重を検出する荷重センサが設けられていてもよい。そのようなエスカレータにおいて、上記態様5に係る制御装置は、次のような構成を備えていてもよい(態様6)。制御装置は、周回する踏段を一列に並べた場合の当該踏段の順番を示す第1インデックスと、所定の時間幅を時系列に並べた場合の当該時間幅の順番を示す第2インデックスとで指定される要素を含んだ2次元配列を用いて、所定の時間幅が経過するごとに、その時間幅が経過するまでの間に荷重センサによって検出される荷重についての当該時間幅の開始時点からの変化量が当該時間幅内の何れかの時点で何れかの踏段において所定閾値より大きくなった場合には、そのような荷重の変化が生じた踏段に対応する要素に検出情報を格納する。そして、歩行人数検出部は、検出情報が格納された要素についての2次元配列内での分布に基づいて、歩行人数を検出する。
【0018】
態様6によれば、荷重の変化の検出位置(荷重の変化が検出された踏段に対応する第1インデックスの番号)についての、利用者が踏段上を歩くことよって生じる時間的な変化を、2次元配列において、検出情報が格納された要素の分布として捉えることができるようになる。そして、そのような2次元配列を用いることにより、そこに現れる分布の特徴から歩行人数を捉えることができるようになる。
【0019】
上記態様6に係る制御装置において、歩行速度検出部は、次のような構成を備えていてもよい(態様7)。歩行速度検出部は、2次元配列において検出情報が格納された要素のうちの、第1インデックスの方向又は第2インデックスの方向において当該要素どうしが隣接して繋がることによって形成された要素の纏まりごとに、その纏まりを1つの要素群とした上で、(1)その要素群内の要素の並びを見たときに、第2インデックスの方向において2つ以上の要素が隣接した隣接部分がある場合であり、且つ、(2)その隣接部分が、時間の経過に伴って第1インデックスの方向へ移動している場合に、当該隣接部分の要素数に基づいて歩行人数を求める。
【0020】
態様7によれば、利用者が歩いていることを示す特徴を持った要素群(分布)を抽出することができ、更には、隣接部分の長さ(ここでは当該隣接部分の要素数を指標とする長さ)と歩行人数との間に関係性があることを利用して、その隣接部分の要素数から歩行人数を精度良く算出することができるようになる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、エスカレータにおいて踏段上で利用者が歩かない状況を作り出すことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態に係るエスカレータの全体構成を示した概念図である。
【
図2】第1実施形態で用いられる(A)2次元配列、(B)速度検出用データ、及び(C)調速用データをそれぞれ示した概念図である。
【
図3】1人の利用者が踏段上を歩いている場合に得られる2次元配列の変化を示した概念図である。
【
図4】
図3の右下図の状態から利用者が更に速く歩き出した場合に得られる2次元配列の変化を示した概念図である。
【
図5】第2変形例に係るエスカレータの全体構成を例示した概念図である。
【
図6】2人の利用者が踏段上を連なって歩いている場合に得られる2次元配列の変化を示した概念図である。
【
図7】第2変形例で用いられる調速用データを示した概念図である。
【
図8】第3変形例で用いられる調速用データを示した概念図である。
【
図9】
図3の右下図の状態から止まっていた利用者が歩き始めた場合に得られる2次元配列の変化を示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[1]第1実施形態
[1-1]エスカレータの全体構成
図1は、第1実施形態に係るエスカレータの全体構成を例示した概念図である。エスカレータは、環状に連結されたM個の踏段Sと、当該踏段Sを周回させる駆動機構1と、当該駆動機構1を制御する制御装置2と、を備える。また、エスカレータは、乗口Bcから降口Bdまで利用者を安全に搬送するための構成として、踏段Sの左右に設置される欄干(不図示)や、踏段Sと同じ速度で周回する移動手摺り(不図示)などを備える。
【0024】
M個の踏段Sは、そのうちの乗口Bcから降口Bdまでの間で露出した部分が常に階段状となるように構成されている。そして本実施形態では、踏段Sごとに、その踏段Sに発生した荷重を検出する荷重センサWが設けられている。
【0025】
駆動機構1は、乗口Bcから降口Bdへ向かう踏段Sの速度Vsを調整できるように構成されている。具体的には、駆動機構1は、M個の踏段Sを周回させるためのモータ(不図示)を備え、そのモータの回転速度をインバータ制御で調整できるように構成されている。また、駆動機構1は、モータの回転方向を切り替えること(正逆の切替え)により、エスカレータの運行状態を、昇り用として運行させる場合と降り用として運行させる場合との間で選択的に切り替えられるように構成されている。
図1の例では、エスカレータを昇り用として運行させた場合が示されている。尚、以下に説明する内容(制御装置2が実行する制御処理を含む)は、エスカレータを降り用として運行させる場合にも同様に適用することができる。
【0026】
制御装置2は、記憶部21と制御部22とを備える。そして本実施形態では、制御装置2は、エスカレータにおいて踏段S上で利用者が歩かない状況を作り出すべく、それを可能にするための制御処理として、荷重検出処理と、歩行速度検出処理と、調速処理と、を実行する。尚、これらの処理の詳細については後述する。
【0027】
記憶部21は、ROMやRAMなどの記憶デバイスで構成される部分であり、記憶部21には、制御装置2が行う制御処理に必要な情報が保存される。本実施形態では、そのような情報として、2次元配列Dp、速度検出用データDq、及び調速用データDr1が記憶部21に保存される。ここで、2次元配列Dpは、荷重検出処理において、どの踏段Sでいつ荷重の変化が検出されたかを記録しておくためのデータである。速度検出用データDqは、歩行速度検出処理において、踏段S上の利用者を対象にした速度検出(後述する歩行速度Vwの検出)に使用されるデータである。調速用データDr1は、調速処理において、踏段Sの速度Vsを調整する際の目標速度の決定(後述する第1目標速度V1の決定)に使用されるデータである。以下、2次元配列Dpの詳細について説明する。尚、速度検出用データDq及び調速用データDr1の詳細については後述する。
【0028】
図2(A)は、本実施形態で用いられる2次元配列Dpを示した概念図である。この図に示されるように、2次元配列Dpは、M個の踏段Sを一列に並べた場合の当該踏段Sの順番を示す第1インデックスJ1(J1=1、2、・・・、M)と、時間の経過を表す第2インデックスJ2(J2=1、2、・・・)とで指定される要素E(J1、J2)を含んだ配列である。具体的には以下のとおりである。
【0029】
第1インデックスJ1は、M個の踏段Sについて、何れか1つの踏段Sを1番目(J1=1)にして、そこから周回方向へ順にナンバリングしたものである。尚、
図1中の拡大図には、1番目(J1=1)の踏段SがS(1)で示され、2番目以降(J1=2、3、・・・、M)の踏段SがS(2)、S(3)、・・・、S(M)で示されている。第2インデックスJ2は、所定の時間幅Tdが経過するごとに直近で経過した時間幅Tdを最も新しい1番目(J2=1)の時間幅Tdとして、それ以前に経過した時間幅Tdを過去に向けて時系列に並べたときの、当該時間幅Tdの順番を示したものである。従って、2次元配列Dpでは、所定の時間幅Tdが経過するごとに、要素E(J1、J2)に格納されたデータが1列左へスライドしていくことになる。
【0030】
そして、所定の時間幅Tdが経過するごとに、その時間幅Tdが経過するまでの間に荷重センサWによって検出される荷重についての当該時間幅Tdの開始時点からの変化量(一例として、当該変化量の絶対値)が当該時間幅Td内の何れかの時点で何れかの踏段Sにおいて所定閾値Wz(特許請求の範囲に記載の「第3閾値」。例えば20kgなど)より大きくなった場合には、そのような荷重の変化が生じた踏段S(以下、当該踏段Sを「踏段S(d)」と呼ぶことにする)に対応する第1インデックスJ1の番号(J1=J1(d))とJ2=1とで指定される要素E(J1=J1(d)、J2=1)に、所定閾値Wzより大きい荷重の変化が検出されたことを示す検出情報Uxが格納される(
図2(A)参照)。
図2(A)の例では、要素Eに格納される検出情報Uxが丸印によって示されている。
【0031】
また、2次元配列Dp内に格納されている元のデータ(検出情報Ux)は、所定の時間幅Tdが経過するごとに1列左へスライドしていく(例えば、
図3の上段左図から上段右図への変化参照)。そして本実施形態では、過去に遡って所定の期間内のデータだけが2次元配列Dpに保持され、その期間よりも過去のものは2次元配列Dpから順次消去されていく。
図2(A)の例では、第2インデックスJ2が示す順番が5番目までのデータが2次元配列Dpに保持される場合が示されている。従って、5番目よりも過去のデータについては順次消去されていくことになる(例えば、
図3の下段左図から下段右図への変化参照)。
【0032】
制御部22は、荷重検出処理、歩行速度検出処理、及び調速処理を実行する部分であり、制御部22には、それらの処理をそれぞれ行う処理部として、荷重検出処理部221、歩行速度検出部222、及び調速処理部223が構築される(
図1参照)。
【0033】
具体的には、制御部22は、CPUやMPUなどの処理デバイスで構成され、当該制御部22によってプログラムが実行されることにより、上記の処理部がソフトウェアで実現される。このプログラムは、制御装置2へのインストール前においては、携帯可能な記憶媒体(例えば、フラッシュメモリ等)に読取可能な状態で保存されていてもよいし、他のサーバなどにダウンロード可能な状態で保存されていてもよい。尚、上記の処理部は、プログラムの実行によってソフトウェアで実現される場合に限らず、制御装置2に構築された処理回路(制御部22)によってハードウェアで実現されてもよい。
【0034】
[1-2]エスカレータで実行される制御処理
<荷重検出処理>
荷重検出処理では、制御部22は、ある時点(例えば、制御処理を開始した時点)から所定の時間幅Tdが経過するごとに、その時間幅Tdが経過するまでの間に荷重センサWによって検出される荷重についての当該時間幅Tdの開始時点からの変化量が当該時間幅Td内の何れかの時点で何れかの踏段Sにおいて所定閾値Wzより大きくなった場合には、そのような荷重の変化が生じた踏段S(d)に対応する第1インデックスJ1の番号(J1=J1(d))とJ2=1で指定される要素E(J1=J1(d)、J2=1)に、検出情報Uxを格納する。
【0035】
ここで、荷重の変化が検出されたか否かの判断期間である時間幅Tdの長さは、次のように設定される。踏段S上を1人の利用者が歩いている場合において、その利用者の片足が1つの踏段Sに載っているときの荷重が、連続する2つの時間幅Tdのどちらでも荷重センサWによって検出される一方で、連続する3つの時間幅Tdの全てで検出されるということにはならないように、時間幅Tdの長さが設定される。一例として、1人の利用者が1段登るのに要する平均時間Tvを用いて、時間幅Tdを、Tv<Td<2×Tvの範囲で設定することができる。尚、時間幅Tdを長くし過ぎると、片足が1つの踏段Sに載っているときの荷重が1つの時間幅Tdでしか検出されなくなり、逆に時間幅Tdを短くし過ぎると、片足が1つの踏段Sに載っているときの荷重が、連続する3つ以上の時間幅Tdで検出されてしまうことになる。
【0036】
このように時間幅Tdが設定されることにより、荷重検出処理では、1人の利用者が踏段S上を歩いた場合に、以下のような2次元配列Dpを得ることができるようになる。
【0037】
図3は、1人の利用者が踏段S上を歩いた場合に得られる2次元配列Dpの変化を示した概念図である。この図に示されるように、1人の利用者が踏段S上を歩いた場合、2次元配列Dp内には、検出情報Uxが格納された要素E(以下、当該要素Eを「要素Ew」と呼ぶことにする)の分布として、第1インデックスJ1の方向又は第2インデックスJ2の方向において当該要素Ewどうしが隣接して繋がることによって形成された要素Ewの纏まり(以下、この纏まりを1つの「要素群Gw」と呼ぶことにする)が現れることになる(
図3の上段右図~下段右図参照)。また、その纏まり(要素群Gw)には、利用者が歩いていることを示す特徴として、第2インデックスJ2の方向において2つ以上の要素Ewが隣接した隣接部分Hrが現れ、更には、その隣接部分Hrが、時間の経過に伴って第1インデックスJ1の方向へ移動していく様子が現れることになる。
【0038】
このように、荷重検出処理によれば、荷重の変化の検出位置(荷重の変化が検出された踏段S(d)に対応する第1インデックスJ1の番号)についての、利用者が踏段S上を歩くことよって生じる時間的な変化を、2次元配列Dpにおいて、要素群Gw(要素Ewの分布)として捉えることができるようになる。そして、そのような2次元配列Dpを用いることにより、そこに現れる要素群Gw(要素Ewの分布)の特徴から利用者の歩行状態(以下に説明する歩行速度Vwなど)を捉えることができるようになる。また、詳細については第2変形例で説明するが、2次元配列Dpに現れる要素群Gw(要素Ewの分布)の特徴からは歩行人数Qwをも捉えることができるようになる。
【0039】
<歩行速度検出処理>
歩行速度検出処理では、制御部22は、上記荷重検出処理の実行によって得た2次元配列Dpに基づいて、踏段S上の利用者についての当該踏段Sに対する相対速度(以下、当該相対速度を「歩行速度Vw」と呼ぶことにする)を検出する。具体的には、制御部22は、ある程度の大きさの要素群Gwが2次元配列Dp内に現れた場合において、その要素群Gw(要素Ewの分布)から既述の2つの特徴(隣接部分Hrが現れるという特徴と、それが第1インデックスJ1の方向へ移動していく様子が現れるという特徴)を捉えることができた場合に、それらの特徴を利用して歩行速度Vwを検出する。より具体的には以下のとおりである。
【0040】
制御部22は、2次元配列Dp内に要素群Gwが現れた場合、その要素群Gwについて、以下に示す条件(1)~(3)が何れも満たされているか否かを判断する。
【0041】
(1)要素群Gw内の要素数Nwが所定閾値Nz(特許請求の範囲に記載の「第4閾値」。一例として、Nz=8)より大きいという条件、
(2)要素群Gw内の要素Ewの並びを見たときに、第2インデックスJ2の方向において2つ以上の要素Ewが隣接した隣接部分Hrがあるという条件、
(3)上記(2)の条件が満たされている場合において、更に、隣接部分Hrが、時間の経過に伴って第1インデックスJ1の方向へ移動しているという条件。
【0042】
そして制御部22は、着目している要素群Gwについて上記条件(1)~(3)が何れも満たされていると判断した場合、その要素群Gw内の要素数Nwと、第1インデックスJ1の方向において当該要素群Gwが占めているインデックス数Ni(荷重の変化が検知された踏段Sの数)とに基づいて、歩行速度Vwを求める。ここで、インデックス数Niは、第1インデックスJ1の方向についての要素群Gwの拡がりを示すものであり、所定の期間(ここでは、1≦J2≦5の期間。即ち、所定の時間幅Tdの5つ分の期間)内で利用者が踏段Sを何段移動したのかを示す。従って、このインデックス数Niを要素数Nwと組み合わせて用いることにより、それらの組合せ(Nw、Ni)に対して、1人の利用者が歩いているときの歩行速度Vwを精度良く対応付けることが可能になる。
【0043】
具体的には、制御部22は、記憶部21に保存されている速度検出用データDq(
図2(B)参照)を用いて歩行速度Vwを求める。
図2(B)は、本実施形態で用いられる速度検出用データDqを示した概念図である。この図の例では、要素数Nwとインデックス数Niの組合せ(Nw、Ni)ごとに、その組合せが要素群Gwに現れたときの歩行速度Vwとして、過去の履歴などから予め推定された値が対応付けられている。そして、制御部22は、上記条件(1)~(3)を満たした要素群Gwが示す組合せ(Nw、Ni)を用いて、その組合せに対応する歩行速度Vwを速度検出用データDqから抽出する。
【0044】
このような速度検出用データDq(
図2(B)参照)が用いられることにより、例えば、
図3の中段右図の要素群Gwからは(Nw、Ni)=(8、5)が抽出される。この場合、それに対応する歩行速度Vwとして、Vw=1.0m/sが速度検出用データDqから抽出される。また、
図3の下段左図や下段右図の要素群Gwからは(Nw、Ni)=(10、6)が抽出される。この場合も、それに対応する歩行速度Vwとして、Vw=1.0m/sが速度検出用データDqから抽出される。
【0045】
一方、着目した要素群Gwが上記条件(1)~(3)を満たしている場合であっても、その要素群Gwが示す組合せ(Nw、Ni)が、速度検出用データDq内の組合せ(Nw、Ni)の何れとも合致しない場合が起こり得る。例えば、着目した要素群Gwから(Nw、Ni)=(8、7)が抽出されるような場合が想定される。このような場合、制御部22は、要素群Gwから抽出した要素数Nw及びインデックス数Niをそれぞれ用いて、当該要素数Nwに対応する歩行速度Vwと、当該インデックス数Niに対応する歩行速度Vwとを速度検出用データDqから個別に抽出し、それら2つの歩行速度Vwのうちの速いほうの速度を、着目している要素群Gwに対応する利用者(歩いている利用者)の歩行速度Vwとして抽出することができる。例えば、制御部22は、要素群Gwから(Nw、Ni)=(8、7)を抽出した場合には、それを用いて速度検出用データDqから、Ni=8に対応するVw=1.0m/sと、Ni=7に対応するVw=1.2m/sとを抽出し、それらのうちの速いほうのVw=1.2m/sを、着目している要素群Gwに対応する歩行速度Vwとして抽出することができる。このように速いほうの歩行速度Vwで利用者が歩いていると仮定することにより、以下に説明する調整処理において踏段Sの速度Vsを遅くする方向へ制御できるようになる。
【0046】
尚、制御部22は、計算式 Vw=F(Nw、Ni)(Fは、(Nw、Ni)とVwとの相関関係を表す関数)を用いて、要素数Nwとインデックス数Niとから歩行速度Vwを求めてもよい。
【0047】
このような歩行速度検出処理によれば、利用者が歩いていることを示す特徴を持った要素群Gw(要素Ewの分布)を抽出することができ、更には、その要素群Gwの形状(ここでは要素数Nwとインデックス数Niを指標とする形状)と歩行速度Vwとの間に関係性があることを利用して、当該要素群Gwが示す要素数Nwとインデックス数Niから利用者の歩行速度Vwを精度良く算出することができるようになる。
【0048】
そして制御部22は、この歩行速度検出処理にて歩行速度Vwを検出できた場合、以下に説明する調速処理を実行する。
【0049】
<調速処理>
調速処理では、制御部22は、歩行速度検出処理で検出した歩行速度Vwに応じて、踏段Sの速度Vsを第1目標速度V1になるように調整する。
【0050】
具体的には、制御部22は、記憶部21に保存されている調速用データDr1(
図2(C)参照)を用いて、歩行速度検出処理で検出した歩行速度Vwから第1目標速度V1を決定し、その第1目標速度V1になるように踏段Sの速度Vsを調整する。
図2(C)は、本実施形態で用いられる調速用データDr1として、歩行速度Vwと第1目標速度V1との関係をグラフで示した概念図である。この図の例では、第1目標速度V1は、歩行速度Vwが速くなるに従って、踏段Sの調整後の速度Vsが段階的に遅くなるように、ステップ関数のグラフを用いて設定されている。尚、第1目標速度V1は、踏段Sの調整後の速度Vsが徐々に遅くなるように直線又は曲線のグラフを用いて設定されてもよい。
【0051】
このような調速用データDr1(
図2(C)参照)が用いられることにより、歩行速度検出処理で検出された歩行速度VwがVw=1.0m/sであった場合には、第1目標速度V1はV1=20m/minに決定され、その目標速度になるように踏段Sの速度Vsが調整される。
【0052】
そして、制御部22は、上述した荷重検出処理、歩行速度検出処理、及び調速処理を、繰り返し実行する(具体的には、ある時点(例えば、制御処理を開始した時点)から所定の時間幅Tdが経過するごとに実行する)。これにより、そのときの利用者の歩行速度Vwに応じて踏段Sの速度Vsが調整される。
【0053】
ここで、利用者の歩行速度Vwを検出して踏段Sの速度Vsを遅くした場合には、その利用者が、降口Bdに速く到達するために更に速く歩こうとする状況や、後からエスカレータに乗ってきた利用者も同様に速く歩こうとする状況を招き得る。上述した本実施形態の制御処理によれば、そのような状況が生じた場合には、そのときの歩行速度Vwを新たに検出することができる。
【0054】
図4は、
図3の右下図の状態から利用者が更に速く歩き出した場合に得られる2次元配列Dpの変化を示した概念図である。この図に示されるように、利用者が更に速く歩き出した場合、2次元配列Dp内には、要素群Gw(要素Ewの分布)として、第1インデックスJ1の方向への拡がりが
図3の右下図よりも大きくなったものが現れることになる。換言すれば、要素群Gwとして、インデックス数Niが
図3の右下図よりも大きくなったものが現れることになる。従って、そのような要素群Gwからは、速くなった歩行速度Vwが歩行速度検出処理にて算出されやすくなる(
図2(B)参照)。
【0055】
例えば、
図4の上段右図の要素群Gwからは(Nw、Ni)=(12、8)が抽出される。この場合、それに対応する歩行速度Vwとして、Vw=1.2m/sが速度検出用データDq(
図2(B)参照)から抽出される。また、
図4の下段左図の要素群Gwからは(Nw、Ni)=(13、9)が抽出される。この場合、それに対応する歩行速度Vwとして、Vw=1.4m/sが速度検出用データDqから抽出される。
【0056】
そして、制御部22は、速くなった歩行速度Vwを新たに検出した場合には、調速処理において、その歩行速度Vwに応じて踏段Sの速度Vsを更に遅くすることができる(
図2(C)参照)。
【0057】
例えば、歩行速度検出処理で検出された歩行速度VwがVw=1.2m/sであった場合には、第1目標速度V1は、調速用データDr1(
図2(C)参照)からV1=10m/minに決定され、その目標速度になるように踏段Sの速度Vsが調整される。また、歩行速度検出処理で検出された歩行速度VwがVw=1.4m/sであった場合には、第1目標速度V1は、調速用データDr1からV1=5m/minに決定され、その目標速度になるように踏段Sの速度Vsが調整される。このように、本実施形態の制御処理によれば、踏段Sの速度Vsを、歩行速度Vwに応じて段階的に遅くしていくことができる。
【0058】
これにより、踏段S上を歩く利用者に対して、自身が歩くことによって踏段Sの速度Vsが遅くなっていることに気付かせることが可能になる。そして、制御部22は、上記条件(1)~(3)を見たす要素群Gwが2次元配列Dp内に現れなくなった場合(即ち、踏段S上を歩く利用者がいなくなった場合)には、踏段Sの速度Vsをデフォルトの速度Vd(
図2(C)参照)に戻す。このようにして、エスカレータにおいて踏段S上で利用者が歩かない状況を作り出すことが可能になる。
【0059】
[1-3]変形例
[1-3-1]第1変形例
第1変形例は、上記第1実施形態の変形例である。上記第1実施形態では、上述した条件(1)~(3)を満たす要素群Gwから要素数Nwとインデックス数Niの組合せ(Nw、Ni)を抽出し、更に当該組合せ(Nw、Ni)から歩行速度Vwを求めた上で、その歩行速度Vwから第1目標速度V1を決定していた。これに代えて、本変形例では、上述した条件(1)~(3)を満たす要素群Gwから要素数Nwとインデックス数Niの組合せ(Nw、Ni)を抽出すること自体を歩行速度Vwの検出と考えて、当該組合せ(Nw、Ni)から直接的に第1目標速度V1を決定してもよい。
【0060】
具体的には、調速用データDr1として、
図2(C)のようなグラフに代えて、要素数Nwとインデックス数Niの組合せ(Nw、Ni)ごとに第1目標速度V1を対応付けたものを用いることができる。そして制御部22は、歩行速度検出処理において、上述した条件(1)~(3)を満たす要素群Gwから要素数Nwとインデックス数Niの組合せ(Nw、Ni)を抽出し、その後、調速処理において、当該組合せ(Nw、Ni)に対応付けられている第1目標速度V1を調速用データDr1から抽出し、その第1目標速度V1を用いて踏段Sの速度Vsを調整してもよい。
【0061】
[1-3-2]第2変形例
第2変形例は、上記第1実施形態の変形例である。
図5は、第2変形例に係るエスカレータの全体構成を例示した概念図である。本変形例では、制御部22は、踏段S上を歩く利用者の人数を歩行人数Qwとして検出する歩行人数検出処理を更に実行した上で、調速処理では、歩行速度検出処理で検出した歩行速度Vwに加えて、歩行人数検出処理で検出した歩行人数Qwを更に用いて、踏段Sの速度Vsを調整する。そして
図5には、歩行人数検出処理を行う歩行人数検出部224が制御部22に構築された場合が示されている。尚、歩行人数検出部224は、他の処理部(荷重検出処理部221など)と同様、ソフトウェアで実現されてもよいし、ハードウェアで実現されてもよい。以下、歩行人数検出処理及び調速処理の詳細について説明する。
【0062】
<歩行人数検出処理>
歩行人数検出処理では、制御部22は、上記歩行速度検出処理にて条件(1)~(3)を何れも満たすと判断できた要素群Gwから歩行人数Qwを求める。具体的には、要素群Gw内にある隣接部分Hr(時間の経過に伴って第1インデックスJ1の方向へ移動している隣接部分Hr)の要素数Nhに基づいて歩行人数Qwを求める。
【0063】
ここで、上記第1実施形態でも説明したように、荷重の変化が検出されたか否かの判断期間である時間幅Tdの長さは、次のように設定される。踏段S上を1人の利用者が歩いている場合において、その利用者の片足が1つの踏段Sに載っているときの荷重が、連続する2つの時間幅Tdのどちらでも荷重センサWによって検出される一方で、連続する3つの時間幅Tdの全てで検出されるということにはならないように、時間幅Tdの長さが設定される。
【0064】
従って、複数の利用者が踏段S上を歩いた場合には、2次元配列Dp内に、隣接部分Hrの要素数Nhが3つ以上になった要素群Gwが現れることになる。
【0065】
図6は、2人の利用者が踏段S上を連なって歩いている場合に得られる2次元配列Dpの変化を示した概念図である。この図に示されるように、2人の利用者が踏段S上を連なって歩いている場合には、1人目の利用者に続いて2人目の利用者が踏段S上を歩くため、2次元配列Dp内には、要素群Gwとして、歩いている利用者の人数分だけ、第2インデックスJ2の方向への拡がりが
図3よりも大きくなったものが現れることになる。具体的には、歩いている利用者の人数が2人である場合、要素群Gwとして、隣接部分Hrの要素数Nhが3つになったものが現れやすくなる。そして、歩いている利用者の人数が3人以上である場合には、隣接部分Hrの要素数Nhが4つ以上になったものが現れやすくなる。
【0066】
このように歩いている利用者の人数に応じて隣接部分Hrの要素数Nhが変化することを利用して、制御部22は、隣接部分Hrの要素数Nhが2つである場合には、歩行人数Qwは1人であると判断でき、隣接部分Hrの要素数Nhが3つである場合(
図6参照)には、歩行人数Qwは2人であると判断でき、隣接部分Hrの要素数Nhが4つ以上である場合には、歩行人数Qwは3人以上であると判断できる。
【0067】
このような歩行人数検出処理によれば、利用者が歩いていることを示す特徴を持った要素群Gw(要素Ewの分布)を用いることにより、その要素群Gwに現れる隣接部分Hrの長さ(ここでは当該隣接部分Hrの要素数Nhを指標とする長さ)と歩行人数Qwとの間に関係性があることを利用して、その隣接部分Hrの要素数Nhから歩行人数Qwを精度良く算出することができるようになる。
【0068】
<調速処理>
調速処理では、制御部22は、歩行速度検出処理で検出した歩行速度Vwに加えて、歩行人数検出処理で検出した歩行人数Qwを更に用いて、踏段Sの速度Vsを調整する。具体的には、制御部22は、歩行人数検出処理で検出した歩行人数Qwが所定閾値Qz(特許請求の範囲に記載の「第1閾値」)より大きいか否かを判断する。ここで、所定閾値Qzは、歩行人数Qwが多い場合には、踏段S上を歩く利用者に対して、自身が歩くことによって踏段Sの速度Vsが遅くなっていることに気付かせる、ということを優先し、逆に、歩行人数Qwが少ない場合には、踏段Sの速度Vsを遅くすることによって生じる利用者への影響(踏段S上に止まってエスカレータを利用している利用者にとって降口Bdに到着するまでの時間が長くなるという影響)をできるだけ減らす、ということを優先できるように決められる。
【0069】
そして、制御部22は、「歩行人数Qwが所定閾値Qzより大きい」と判断した場合には、踏段S上を歩く利用者に対して、自身が歩くことによって踏段Sの速度Vsが遅くなっていることに気付かせるべく、歩行速度検出処理で検出した歩行速度Vwに応じて、踏段Sの速度Vsを第1目標速度V1になるように調整する。
【0070】
一方、制御部22は、「歩行人数Qwが所定閾値Qzより小さい」と判断した場合には、踏段Sの速度Vsを遅くすることによって生じる利用者への影響(踏段S上に止まってエスカレータを利用している利用者にとって降口Bdに到着するまでの時間が長くなるという影響)をできるだけ減らすべく、踏段Sの速度Vsを、歩行速度検出処理で検出した歩行速度Vwに対応する第1目標速度V1よりも速い第2目標速度V2になるように調整する。
【0071】
具体的には、第2目標速度V2についても、第1目標速度V1と同様、歩行速度Vwとの関係をグラフで示した調速用データDr2(
図7参照)を記憶部21に保存しておくことができる。尚、
図7では、第2目標速度V2との比較のために、第1目標速度V1が一点鎖線で示されている。そして、制御部22は、記憶部21に保存されている調速用データDr2を用いて、歩行速度検出処理で検出した歩行速度Vwから第2目標速度V2を決定し、その第2目標速度V2になるように踏段Sの速度Vsを調整することができる。
【0072】
尚、制御部22は、歩行速度検出処理で検出した歩行速度Vwに対応する第1目標速度V1を用いて、そこに1より大きい所定倍率(例えば1.2)を掛けることによって第2目標速度V2を求めてもよい。
【0073】
また、制御部22は、歩行人数検出処理で検出した歩行人数Qwが所定閾値Qzより大きいか否かを判断することに代えて、踏段S上で止まっている利用者の人数についての歩行人数Qwに対する割合Rcが所定閾値Rz(特許請求の範囲に記載の「第2閾値」)より小さいか否かを判断してもよい。そして、制御部22は、「割合Rcが所定閾値Rzより小さい」と判断した場合には、踏段Sの速度Vsを第1目標速度V1になるように調整し、「割合Rcが所定閾値Rzより大きい」と判断した場合には、踏段Sの速度Vsを第2目標速度V2になるように調整してもよい。
【0074】
第2変形例によれば、歩行人数Qwが多い場合、又は、踏段S上で止まっている利用者の人数の割合Rcが小さい場合には、踏段Sの速度Vsを第1目標速度V1まで遅くすることができ、それより、歩いていた利用者が、踏段Sの速度Vsが遅くなったことに気付いて止まり、その結果として、歩行人数Qwが減った場合、又は、踏段S上で止まっている利用者の人数の割合Rcが大きくなった場合には、踏段Sの速度Vsを、第2目標速度V2まで速めることができるようになる。これにより、歩く利用者が少ない場合、又は、少なくなった場合には、踏段Sの速度Vsを遅くすることによって生じる利用者への影響(踏段S上に止まってエスカレータを利用している利用者にとって降口Bdに到着するまでの時間が長くなるという影響)をできるだけ減らすことが可能になる。
【0075】
尚、このように歩行人数Qw又は踏段S上で止まっている利用者の人数の割合Rcをも考慮して踏段Sの速度Vsを調整する構成については、上述した第1変形例にも適用できる。その場合、調速用データDr2としては、
図7のようなグラフに代えて、要素数Nwとインデックス数Niの組合せ(Nw、Ni)ごとに第2目標速度V2を対応付けたものを用いることができる。
【0076】
[2]第2実施形態
第1実施形態では、制御部22が、歩行速度検出処理で歩行速度Vwを検出し、その歩行速度Vwに応じて踏段Sの速度Vsを第1目標速度V1になるように調整したのに対し、第2実施形態では、制御部22は、歩行速度検出処理に変えて、第2変形例で説明した歩行人数検出処理を実行することによって歩行人数Qwを検出し、その歩行人数Qwに応じて踏段Sの速度Vsを調整する。
【0077】
具体的には、歩行人数Qwごとに第1目標速度V1が対応付けられた調速用データDr3(
図8参照)が記憶部21に保存される。この調速用データDr3では、第1目標速度V1は、歩行人数Qwが多くなるに従って、踏段Sの調整後の速度Vsが遅くなるように設定される。そして、制御部22は、この調速用データDr3を用いて、歩行人数検出処理で検出した歩行人数Qwから第1目標速度V1を決定し、その第1目標速度V1になるように踏段Sの速度Vsを調整する。
【0078】
第2実施形態によれば、歩行人数Qwを検出することによって踏段Sの速度Vsを遅くするといった制御が可能になる。これにより、踏段S上を歩く利用者が、自身が歩くことによって踏段Sの速度Vsが遅くなっているということに気付いて踏段S上に止まる、といったことを期待できるようになる。
【0079】
一方、踏段Sの速度Vsを遅くすることにより、踏段S上に止まっていた利用者が歩き始めるという状況を招き得る。本実施形態によれば、そのような状況が生じることによって歩行人数Qwが増えた場合には、そのときの歩行人数Qwを新たに検出することができる。
【0080】
図9は、
図3の右下図の状態から止まっていた利用者が歩き始めた場合に得られる2次元配列Dpの変化を示した概念図である。この図に示されるように、踏段S上に止まっていた利用者が歩き始めた場合、その利用者は、最初に歩いていた利用者に続いて踏段S上を歩くため、2次元配列Dp内には、要素群Gw(要素Ewの分布)として、新たに歩き始めた利用者の分だけ、第2インデックスJ2の方向への拡がりが
図3の右下図よりも大きくなったものが現れることになる。換言すれば、要素群Gwとして、隣接部分Hrの要素数Nhが
図3の右下図よりも大きくなったものが現れることになる。従って、そのような要素群Gwからは、増えた歩行人数Qwが歩行人数検出処理にて算出されやすくなる。
【0081】
そして、制御部22は、増えた歩行人数Qwを新たに検出した場合には、調速処理において、その歩行人数Qwに応じて踏段Sの速度Vsを更に遅くすることができる。これにより、踏段S上を歩く利用者に対して、自身が歩くことによって踏段Sの速度Vsが遅くなっていることに気付かせることが可能になる。そして、制御部22は、第1実施形態で説明した条件(1)~(3)を見たす要素群Gwが2次元配列Dp内に現れなくなった場合(即ち、踏段S上を歩く利用者がいなくなった場合)には、踏段Sの速度Vsをデフォルトの速度Vdに戻す。このようにして、エスカレータにおいて踏段S上で利用者が歩かない状況を作り出すことが可能になる。
【0082】
上述の実施形態及び変形例の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態や変形例ではなく、特許請求の範囲によって示される。更に、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0083】
また、上述の実施形態や変形例からは、発明の対象として、エスカレータの制御装置2に限らず、当該制御装置2で実行される制御処理やプログラムなどが個々に抽出されてもよいし、それらの一部が部分的に抽出されてもよい。また、制御装置2を備えたエスカレータの一部又は全部が、発明の対象として抽出されてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 駆動機構
2 制御装置
S 踏段
W 荷重センサ
21 記憶部
22 制御部
Bc 乗口
Bd 降口
Dp 2次元配列
Dq 速度検出用データ
Dr1、Dr2、Dr3 調速用データ
E、Ew 要素
Gw 要素群
Hr 隣接部分
J1 第1インデックス
J2 第2インデックス
Ni インデックス数
Nw、Nh 要素数
Nz 所定閾値
Qw 歩行人数
Qz 所定閾値
Rc 割合
Rz 所定閾値
Td 時間幅
Tv 平均時間
Ux 検出情報
V1 第1目標速度
V2 第2目標速度
Vd デフォルトの速度
Vs 踏段の速度
Vw 歩行速度
Wz 所定閾値
221 荷重検出処理部
222 歩行速度検出部
223 調速処理部
224 歩行人数検出部
【要約】
【課題】エスカレータにおいて踏段上で利用者が歩かない状況を作り出す。
【解決手段】エスカレータの制御装置は、歩行速度検出部と、調速処理部と、を備える。歩行速度検出部は、踏段上の利用者についての当該踏段に対する相対速度を歩行速度として検出する。調速処理部は、歩行速度検出部が歩行速度を検出した場合に、その歩行速度に応じて、踏段の速度を第1目標速度になるように調整する。そして、この第1目標速度は、歩行速度が速くなるに従って、踏段の調整後の速度が遅くなるように設定される。
【選択図】
図1