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特許7593538化合物、有機薄膜、光電変換素子、撮像素子、光センサー及び固体撮像装置
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  • 特許-化合物、有機薄膜、光電変換素子、撮像素子、光センサー及び固体撮像装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】化合物、有機薄膜、光電変換素子、撮像素子、光センサー及び固体撮像装置
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/60 20230101AFI20241126BHJP
   C09B 57/12 20060101ALI20241126BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20241126BHJP
   H10K 30/85 20230101ALI20241126BHJP
   H10K 39/32 20230101ALI20241126BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20241126BHJP
   H10K 101/30 20230101ALN20241126BHJP
【FI】
H10K30/60
C09B57/12
H01L27/146 C
H01L27/146 E
H10K30/85
H10K39/32
H10K85/60
H10K101:30
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024556025
(86)(22)【出願日】2024-04-08
(86)【国際出願番号】 JP2024014314
【審査請求日】2024-09-19
(31)【優先権主張番号】P 2023069028
(32)【優先日】2023-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 俊成
(72)【発明者】
【氏名】高村 達郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 雅大
(72)【発明者】
【氏名】山本 崇史
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-233117(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2023/0113862(US,A1)
【文献】特開2011-081379(JP,A)
【文献】PubChem,2021年09月16日,[オンライン], [検索日 2024.05.14], インターネット: <URL:https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/substance/
【文献】PATIL, Hemlata et al.,Donor-Acceptor-Donor Modular Small Organic Molecules Based on the Naphthalene Diimide Acceptor Unit for Solution-Processable Photovoltaic Devices,Journal of ELECTRONIC MATERIALS,2014年06月03日,Vol. 43, No. 9, 2014,pp.3243-3254,DOI: 10.1007/s11664-014-3243-x
【文献】MANDAL, Kalyanashis et al.,Synthesis, optical and redox attributes of core-/ bay-substituted thionated NDIs, PDIs and their diverse radical anions,Journal of Materials Chemistry C,2023年08月18日,2023, 11,pp.12543-12549,DOI: 10.1039/d3tc02187d
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-99/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
(Xは、酸素原子又はNRであり、
、R、R、R、R及びRは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、シアノ基、カルボキシ基、ニトロ基、並びに、置換していてもよい、直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アリールオキシ基、アルキルスルホニル基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、アリール基、カルボキシアミド基、カルボアルコキシ基、カルボアリールオキシ基、アシル基、及び1価の複素環基からなる群より選択され、且つ、隣接した任意のR、R、R、R、R及びRは、縮合脂肪族環又は縮合芳香環の一部であってもよい。2つのR、R、R、R、R及びXは、互いに同一であっても異なっていてもよい。前記縮合脂肪族環及び縮合芳香環は、炭素以外の1つ又は複数の原子を含んでいてもよい。)
で表される化合物を含む、有機薄膜
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物の、密度汎関数法により得られる最低空軌道のエネルギー準位が、-6.00eV以上-3.40eV以下である、請求項1に記載の有機薄膜
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物の、密度汎関数法により得られる最低空軌道のエネルギー準位と最高被占軌道のエネルギー準位との差が3.00eV以上4.00eV以下である、請求項1に記載の有機薄膜
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物は光電変換素子用材料である、請求項1に記載の有機薄膜
【請求項5】
光吸収帯の極大吸収波長を450nm以下に有する、請求項に記載の有機薄膜。
【請求項6】
第1電極膜と、第2電極膜と、前記第1電極膜と前記第2電極膜との間に位置する光電変換膜と、を備える光電変換素子であって、
前記光電変換膜が、請求項に記載の有機薄膜を含む、光電変換素子。
【請求項7】
前記光電変換膜が、光電変換層と補助層と、を含み、
前記補助層が、前記有機薄膜のみからなる、又は、前記有機薄膜を含む複数の膜からなる、請求項に記載の光電変換素子。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の光電変換素子を備える、撮像素子。
【請求項9】
前記光電変換素子を2つ以上積層してなる、請求項に記載の撮像素子。
【請求項10】
請求項6又は7に記載の光電変換素子を複数アレイ状に配置してなる、撮像素子。
【請求項11】
請求項に記載の撮像素子を備える、光センサー。
【請求項12】
請求項に記載の撮像素子を備える、固体撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化合物、有機薄膜、光電変換素子、撮像素子、光センサー及び固体撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可視光を光電変換して電気信号に変換する技術が知られており、例えば撮像素子に利用されている。そのような撮像素子は、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ及びCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサのような固体撮像装置に備えられる。近年、固体撮像装置では、画素サイズの縮小化が進んでおり、それに対応するための有機光電変換膜が検討されている。例えば、特許文献1及び特許文献2では、サブフタロシアニンとイミド類とから構成される有機光電変換膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-32754号公報
【文献】特表2018-512423号公報
【文献】特表2014-506736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固体撮像装置には、高い分光選択性及び高いS/N比の両立が求められている。そのため、固体撮像装置は、高い外部量子効率(External Quantum Efficiency:EQE)及び低い暗電流特性を有することが望まれている。そのような両立を可能にするのに、光電変換部と電極部との間に、電子輸送層及び正孔ブロッキング層、及び/又は、正孔輸送層及び電子ブロッキング層を配置する手法が知られている。ここで、有機エレクトロニクスデバイスの分野で広く用いられている電子輸送層、正孔ブロッキング層及び電子ブロッキング層等は、デバイスを構成する膜において、電極又は導電性を有する膜とそれ以外の膜との界面に配置される。それらの層は、それぞれ正孔又は電子の逆移動を制御して不必要な正孔又は電子の漏れを調整する役割を果たす。そのような層に用いられる材料として、例えば特許文献3には、1,4,5,8-ナフタレン-テトラカルボン酸二無水物(NTCDA)を用いた例が示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献3に開示されたものを始めとする従来の正孔ブロッキング層及び電子ブロッキング層では、暗時におけるリーク電流を抑制することに更に改善の余地がある。
【0006】
本発明は、暗時におけるリーク電流を抑制でき、特に光電変換素子材料に有用である新規な化合物、及び、光電変換素子材料、並びに、その化合物を含む有機薄膜、光電変換素子、撮像素子、光センサー及び固体撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記のとおりである。
[1]
下記式(1):
【化1】
(Xは、酸素原子又はNRであり、
、R、R、R、R及びRは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、シアノ基、カルボキシ基、ニトロ基、並びに、置換していてもよい、直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アリールオキシ基、アルキルスルホニル基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、アリール基、カルボキシアミド基、カルボアルコキシ基、カルボアリールオキシ基、アシル基、及び1価の複素環基からなる群より選択され、且つ、隣接した任意のR、R、R、R、R及びRは、縮合脂肪族環又は縮合芳香環の一部であってもよい。2つのR、R、R、R、R及びXは、互いに同一であっても異なっていてもよい。前記縮合脂肪族環及び縮合芳香環は、炭素以外の1つ又は複数の原子を含んでいてもよい。)
で表される化合物。
[2]
前記式(1)で表される化合物の、密度汎関数法により得られる最低空軌道のエネルギー準位が、-6.00eV以上-3.40eV以下である、上記の化合物。
[3]
前記式(1)で表される化合物の、密度汎関数法により得られる最低空軌道のエネルギー準位と最高被占軌道のエネルギー準位との差が3.00eV以上4.00eV以下である、上記の化合物。
[4]
光電変換素子用材料である、上記の化合物。
[5]
上記の化合物を含む、有機薄膜。
[6]
光吸収帯の極大吸収波長を450nm以下に有する、上記の有機薄膜。
[7]
第1電極膜と、第2電極膜と、前記第1電極膜と前記第2電極膜との間に位置する光電変換膜と、を備える光電変換素子であって、
前記光電変換膜が、上記の光電変換素子用材料を含む、光電変換素子。
[8]
第1電極膜と、第2電極膜と、前記第1電極膜と前記第2電極膜との間に位置する光電変換膜と、を備える光電変換素子であって、
前記光電変換膜が、上記の有機薄膜を含む、光電変換素子。
[9]
前記光電変換膜が、光電変換層と補助層と、を含み、
前記補助層が、前記有機薄膜のみからなる、又は、前記有機薄膜を含む複数の膜からなる、上記の光電変換素子。
[10]
上記の光電変換素子を備える、撮像素子。
[11]
前記光電変換素子を2つ以上積層してなる、上記の撮像素子。
[12]
上記の光電変換素子を複数アレイ状に配置してなる、撮像素子。
[13]
上記の撮像素子を備える、光センサー。
[14]
上記の撮像素子を備える、固体撮像装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特に光電変換素子材料に有用である新規な化合物、及び、光電変換素子材料、並びに、その化合物を含む有機薄膜、光電変換素子、撮像素子、光センサー及び固体撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の光電変換素子の一例を部分的に示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0011】
(化合物)
本実施形態の化合物は、下記式(1):
【化2】
で表される(以下、この化合物を「化合物(1)ともいう。」。ここで、Xは、酸素原子又はNRであり、R、R、R、R、R及びRは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、シアノ基、カルボキシ基、ニトロ基、並びに、置換していてもよい、直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アリールオキシ基、アルキルスルホニル基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、アリール基、カルボキシアミド基、カルボアルコキシ基、カルボアリールオキシ基、アシル基、及び1価の複素環基からなる群より選択され、且つ、隣接した任意のR、R、R、R、R及びRは、縮合脂肪族環又は縮合芳香環の一部であってもよい。2つのR、R、R、R、R及びXは、互いに同一であっても異なっていてもよい。前記縮合脂肪族環及び縮合芳香環は、炭素以外の1つ又は複数の原子を含んでいてもよい。
【0012】
このような化合物(1)は、暗時におけるリーク電流を抑制でき、特に光電変換素子材料として優れた特性を示すものである。その要因は定かではないが、本発明者らは下記のように考えている。ただし、要因は下記に限定されない。すなわち、化合物(1)が分子構造中に2つのアリールオキシ基を有し、2つのアリールオキシ基がナフチル基に対して対角に位置することで、化合物(1)の最低空軌道のエネルギー準位が下がり、暗時におけるリーク電流を抑制できる。また、化合物(1)は2つのアリールオキシ基を有することで、結晶性が低くなり、エネルギー準位の近い安定な複数の構造を持ちやすくなるため、固体として規則性の高い分子配列を取り難くなる。これにより、薄膜中の部分的な凝集により起こる得る膜厚の乱れ及び電気的な短絡(ピンホール)の発生を抑制することができる。さらに化合物(1)は、2つのアリールオキシ基を有しない時と比較すると、薄膜において、層方向に対して低い分子配向性を有することから、高い電子輸送性が得られ、光電変換素子材料として優れた特性が得られる。
【0013】
ハロゲン原子としては、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)及びヨウ素原子(I)が挙げられる。
【0014】
直鎖のアルキル基としては、アルキル基における炭素数が1~12である直鎖のアルキル基であってもよく、例えば、メチル基(Me)、エチル基(Et)、n-プロピル基(n-Pr)、n-ブチル基(n-Bu)、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基及びn-ドデシル基が挙げられる。これらの中では、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、炭素数が1~3である直鎖のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基であるとより好ましく、メチル基あると更に好ましい。
【0015】
分岐のアルキル基としては、アルキル基における炭素数が1~12である分岐のアルキル基であってもよく、例えば、イソプロピル基(i-Pr)、sec-ブチル基(s-Bu)、tert-ブチル基(t-Bu)、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基及びイソドデシル基が挙げられる。また、直鎖又は分岐のアルキル基は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、フッ素原子のようなハロゲン原子、ベンジル基、ナフチル基及びフェノキシ基のような芳香環を有する1価の基、アルコキシ基、アミノアルキル及びチオアルキル基のようなヘテロ原子を有する1価の基、ピリジル基のような複素環を有する1価の基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、並びにチオール基が挙げられる。
【0016】
環状のアルキル基としては、アルキル基における炭素数が3~10である環状のアルキル基であってもよく、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基及びシクロオクチル基が挙げられる。また、環状のアルキル基はその環の中に窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子のようなヘテロ原子を有してもよい。そのような環状のアルキル基としては、例えば、ピロリジニル基、オキサゾリジニル基、ピラゾリジニル基、チアゾリジニル基、イミダゾリジニル基、ジオキソフラニル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロチオフェニル基、ピペラジニル基、ジオキサニル基、及びモルホニル基が挙げられる。さらに、環状のアルキル基に、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基及びチオール基のような1価の基が結合してもよい。
【0017】
チオアルキル基(-SR;以下、Rはアルキル基を示す。)及びチオアリール基(-SAr;以下、Arはアリール基を示す。)としては、アルキル基における炭素数が1~12であるチオアルキル基及びアリール基における炭素数が6~16であるチオアリール基であってもよい。また、チオアルキル基及びチオアリール基は更に、アミノ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、チオアルキル基のような置換基を有していてもよい。そのようなチオアルキル基及びチオアリール基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、トルイルチオ基、アミノフェニルチオ基、ヒドロキシフェニルチオ基、フルオロフェニルチオ基、ジメチルフェニルチオ基、及びメチルチオフェニルチオ基が挙げられる。
【0018】
アリールスルホニル基(-SO-Ar)としては、アリール基における炭素数が6~16であるアリールスルホニル基であってもよく、例えば、フェニルスルホニル基、トルエンスルホニル基、ジメチルベンゼンスルホニル基、メシチレンスルホニル基、オクチルベンゼンスルホニル基、及びナフタレンスルホニル基が挙げられる。
【0019】
アリールオキシ基(-O-Ar)としては、アリール基における炭素数が6~16であるアリールオキシ基であってもよい。また、アリールオキシ基は、シアノ基、フッ素原子のようなハロゲン原子、ヒドロキシ基、メトキシ基のようなアルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、チオール基、及びアリールオキシ基のような置換基を更に有していてもよい。そのようなアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、シアノフェノキシ基、メチルシアノフェノキシ基、ジメチルシアノフェノキシ基、フルオロシアノフェノキシ基、ジシアノフェノキシ基、メトキシシアノフェノキシ基、トリシアノフェノキシ基、シアノナフトキシ基、ジシアノナフトキシ基、2-メチルフェノキシ基、3-メチルフェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、フルオロメチルフェノキシ基、ジメチルフェノキシ基、3-ヒドロキシフェノキシ基、フルオロ-3-ヒドロキシフェノキシ基、2-ヒドロキシフェノキシ基、フルオロ-2-ヒドロキシフェノキシ基、メトキシフェノキシ基、エトキシフェノキシ基、フルオロフェノキシ基、パーフルオロフェノキシ基、ジメトキシフェノキシ基、アミノフェノキシ基、N,N-ジメチルアミノフェノキシ基、チオフェノキシ基、(トリフルオロメチル)フェノキシ基、ナフトキシ基、メトキシナフトキシ基、フルオロナフトキシ基、及びフェノキシフェノキシ基が挙げられる。
【0020】
アルキルスルホニル基(-SO-R)としては、アルキル基の炭素数が1~12であるアルキルスルホニル基であってもよく、例えば、メシル基、エチルスルホニル基、及びn-ブチルスルホニル基が挙げられる。
【0021】
アルキルアミノ基(ここで、アルキルアミノ基は、-NHR又は-NRであり、2つのRは互いに同一であっても異なっていてもよい。)としては、アルキル基の炭素数が1~12であるアルキルアミノ基であってもよく、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、n-ペンチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基、n-ヘプチルアミノ基、n-オクチルアミノ基、n-ノニルアミノ基、n-デシルアミノ基、n-ドデシルアミノ基、イソプロピルアミノ基、sec-ブチルアミノ基、tert-ブチルアミノ基、イソペンチルアミノ基、sec-ペンチルアミノ基、3-ペンチルアミノ基、ネオペンチルアミノ基、イソヘキシルアミノ基、イソヘプチルアミノ基、イソオクチルアミノ基、イソノニルアミノ基、イソデシルアミノ基及びイソドデシルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、及びイソプロピルエチルアミノ基が挙げられる。
【0022】
アリールアミノ基(ここで、アリールアミノ基は、-NHAr又は-NArであり、2つのArは互いに同一であっても異なっていてもよい。)としては、アリール基の炭素数が6~16であるアリールアミノ基であってもよく、例えば、アニリル基、トルイジニル基、ジメチルアニリル基、イソプロピルアリニル基、t-ブチルアニリル基、フルオロアニリル基、トリフルオロメチルアニリル基、ビス(トリフルオロメチル)アニリル基、ピリジルアミノ基、メチルピリジルアミノ基、フルオロピリジルアミノ基、ピリミジルアミノ基、及びビフェニルアミノ基が挙げられる。
【0023】
アルコキシ基(-OR)としては、炭素数1~12のアルコキシ基であってもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブチロキシ基、n-ペントキシ基、n-ヘキソキシ基、n-ヘプトキシ基、n-オクトキシ基、n-ノノキシ基、n-デコキシ基及びn-ドデコキシ基、イソプロポキシ基、sec-ブチロキシ基、tert-ブチロキシ基、イソペントキシ基、sec-ペントキシ基、3-ペントキシ基、ネオペントキシ基、イソヘキソキシ基、イソオクトキシ基、イソノノキシ基、イソデコキシ基、及びイソドデコキシ基が挙げられる。
【0024】
アシルアミノ基(-NH-COR又は-NH-COAr)としては、アルキル基における炭素数が1~12又はアリール基における炭素数が6~16であってもよく、フッ素原子のようなハロゲン原子、アルコキシ基、及びシアノ基のような置換基を有していてもよい。そのようなアシルアミノ基としては、例えば、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、メチルベンゾイルアミノ基、ジメチルベンゾイルアミノ基、メトキシベンゾイルアミノ基、シアノベンゾイルアミノ基、及びビス(トリフルオロメチル)ベンゾイルアミノ基が挙げられる。
【0025】
アシルオキシ基(-O-COR又は-O-COAr)としては、アルキル基における炭素数が1~12又はアリール基における炭素数が6~16であってもよい。アシルオキシ基は、更に、フッ素原子のようなハロゲン原子、及びシアノ基のような置換基を有していてもよく、芳香環内に窒素原子のようなヘテロ原子を有していてもよい。そのようなアシルオキシ基としては、例えば、ベンゾイルオキシ基、トルオイルオキシ基、ジメチルベンゾイルオキシ基、シアノベンゾイルオキシ基、フルオロベンゾイルオキシ基、ビス(トリフルオロメチル)ベンゾイルオキシ基、ピリジンカルボキシ基、及びメチルピリジンカルボキシ基が挙げられる。
【0026】
アリール基(-Ar)としては、炭素数6~16のアリール基であってもよい。アリール基は、更に、アミノ基、ヒドロキシ基、チオール基、フッ素原子のようなハロゲン原子、ニトロ基、及びシアノ基のような置換基を有していてもよく、芳香環内に窒素原子のようなヘテロ原子を有していてもよい。そのようなアリール基としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、メトキシフェニル基、ジメトキシフェニル基、トリメトキシフェニル基、メトキシメチルフェニル基、アミノフェニル基、ジアミノフェニル基、アミノメチルフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、ヒドロキシメチルフェニル基、ヒドロキシエチルフェニル基、チオフェニル基、メチルチオフェニル基、ジチオフェニル基、フルオロフェニル基、フルオロメチルフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、パーフルオロフェニル基、フルオロ(トリフルオロメチル)フェニル基、ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、シアノフェニル基、メチルシアノフェニル基、ジメチルシアノフェニル基、ジシアノフェニル基、メトキシシアノフェニル基、トリシアノフェニル基、ジシアノフェニル基、メチルシアノピリジル基、(トリフルオロメチル)シアノピリジル基、ジメチルシアノピリジル基、ジシアノピリジル基、メトキシシアノピリジル基、トリシアノピリジル基、シアノピリジル基、ナフチル基、ニトロフェニル基、ジニトロフェニル基、ニトロフルオロフェニル基、メチルナフチル基、エチルナフチル基、ジメチルナフチル基、トリメチルナフチル基、メトキシナフチル基、ジメトキシナフチル基、トリメトキシナフチル基、アミノナフチル基、ジアミノナフチル基、アミノメチルナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ジヒドロキシナフチル基、ヒドロキシメチルナフチル基、ヒドロキシエチルナフチル基、チオナフチル基、メチルチオナフチル基、ジチオナフチル基、フルオロナフチル基、トリフルオロメチルナフチル基、パーフルオロナフチル基、ジ(トリフルオロメチル)ナフチル基、ビフェニル基、シアノビフェニル基が挙げられる。
【0027】
カルボキシアミド基(ここで、カルボキシアミド基は、-CO-NH、-CO-NHR、-CONRであり、2つのRは互いに同一であっても異なっていてもよく、-CONHAr、又は-CONArであり2つのArは互いに同一であっても異なっていてもよい。)としては、アルキル基における炭素数が1~12又はアリール基における炭素数が6~16であるカルボキシアミド基であってもよく、例えば、ジメチルカルボキシアミド基及びジフェニルカルボキシアミド基が挙げられる。
【0028】
カルボアルコキシ基、カルボアリールオキシ基(-COOR又は-COOAr)としては、アルキル基における炭素数が1~12又はアリール基における炭素数が6~16であるカルボアルコキシ基であってもよく、例えば、カルボメトキシ基、カルボフェノキシ基が挙げられる。
【0029】
1価の複素環基としては、炭素数3~14の1価の複素環基であってもよく、例えば、フラニル基、チエニル基、ピロリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、トリアゾリル基、オキサゾリル基、ジオキサゾリル基、イソオキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、チアジアゾリル基、トリアゾリル基、インドリル基、インドリニル基、インドリジニル基、インダゾリニル基、インドレニニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、カルバゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ピリジニル基、ジアジニル基、オキサジニル基、チアジニル基、ジオキシニル基、ジチエニル基、トリアジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、シンノニル基、フタラジニル基、キナゾリニル基、ナフチリジニル基、プリニル基、プテリジニル基、アクリジニル基、フェナントリジニル基、フェナントロリニル基、キサンテニル基、フェノキサジニル基、チアントレニル基、モルホリニル基及びフェナジニル基が挙げられる。
【0030】
本実施形態の化合物(1)において、特に限定されないが、R、R、R、R及びRは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、シアノ基、カルボキシ基、ニトロ基、並びに、置換していてもよい、直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アリールオキシ基、アルキルスルホニル基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、アリール基、カルボキシアミド基、カルボアルコキシ基、カルボアリールオキシ基、アシル基、及び1価の複素環基からなる群より選択されるものであると好ましく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、及び置換していてもよい、直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基からなる群より選択されるものであるとより好ましく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換されていないアルキル基及びハロゲン原子で置換されたアルキル基からなる群より選択されるものであると更に好ましく、シアノ基及び置換されていないアルキル基からなる群より選択されるものであると特に好ましく、シアノ基であると極めて好ましい。化合物(1)が上述した構造を有することで、暗時におけるリーク電流をより抑制することができる。
【0031】
本実施形態において、R、R、R、R及びRは、同一であっても、異なっていてもよい。本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、特に限定されないが、R、R、R、R及びRから選択される少なくとも2つが同一であることが好ましく、R、R、R、R及びRから選択される少なくとも4つが同一であることがより好ましい。なお、化合物(1)において2つあるR、R、R、R、Rは、互いに同一であっても異なっていてもよく、互いに同一であることが好ましい。
【0032】
本実施形態の化合物(1)は、特に限定されないが、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、R、R、R、R及びRの少なくとも1つが水素原子ではないことが好ましく、R、R、R、R及びRの少なくとも1つが、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、及び置換していてもよい、直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基からなる群より選択されるものであるとより好ましい。さらに、R、R、R、R及びRの少なくとも1つが、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換されていないアルキル基及びハロゲン原子で置換されたアルキル基からなる群より選択されるものであると更に好ましく、R、R、R、R及びRの少なくとも1つが、シアノ基及び置換されていないアルキル基からなる群より選択されるものであると特に好ましく、R、R、R、R及びRの少なくとも1つが、シアノ基であると極めて好ましい。
【0033】
本実施形態の化合物(1)は、特に限定されないが、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、R、R、R、R及びRの少なくとも2つが水素原子であることが好ましく、R、R、R、R及びRの少なくとも2つ又は少なくとも3つが水素原子であることがより好ましく、R、R、R、R及びRの少なくとも4つが水素原子であることが特に好ましい。
【0034】
本実施形態において、R、R、R、R及びRの少なくとも4つが水素原子である場合、特に限定されないが、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、R、R、R及びRが水素原子であることが好ましい。
【0035】
また、R、R、R及びRが水素原子である場合、Rは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、シアノ基、カルボキシ基、ニトロ基、並びに、置換していてもよい、直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アリールオキシ基、アルキルスルホニル基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、アリール基、カルボキシアミド基、カルボアルコキシ基、カルボアリールオキシ基、アシル基、及び1価の複素環基からなる群より選択されるものであると好ましく、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、及び置換していてもよい、直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基からなる群より選択されるものであるとより好ましく、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換されていないアルキル基及びハロゲン原子で置換されたアルキル基からなる群より選択されるものであると更に好ましく、シアノ基及び置換されていないアルキル基からなる群より選択されるものであると特に好ましく、シアノ基であると極めて好ましい。
【0036】
本実施形態の化合物(1)において、Xは酸素原子又はNRであり、2つあるXは互いに同一であっても異なっていてもよく、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、互いに同一であることが好ましい。XがNRである場合、特に限定されないが、Rは、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、シアノ基、カルボキシ基、ニトロ基、並びに、置換していてもよい、直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アリールオキシ基、アルキルスルホニル基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、アリール基、カルボキシアミド基、カルボアルコキシ基、カルボアリールオキシ基、アシル基、及び1価の複素環基からなる群より選択されるものであると好ましく、置換していてもよい、直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基、アリール基、及び1価の複素環基からなる群より選択されるものであるとより好ましく、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、及び、ハロゲン原子で置換されたアルキル基からなる群より選択される基で置換していてもよいアリール基であると特に好ましい。化合物(1)が上述した構造を有することで、暗時におけるリーク電流をより抑制することができる。なお、化合物(1)において2つあるXがいずれもNRである場合、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、2つあるRは互いに同一であっても異なっていてもよく、互いに同一であることが好ましい。
【0037】
本実施形態の化合物(1)の密度汎関数法により得られる最低空軌道(LUMO:Lowest Unoccupied Molecular Orbital)のエネルギー準位は、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、-6.00eV以上-3.40eV以下であることが好ましく、-5.50eV以上-3.45eV以下であることがより好ましい。なお、このエネルギー準位は、-6.00eV以上-3.80eV以下であってもよく、-5.50eV以上-3.80eV以下であってもよい。本実施形態の化合物(1)について、密度汎関数法を用いた分子シミュレーション(例えば、Gaussian社製量子化学計算プログラムGaussianを用いた分子シミュレーション)により構造最適化を行い、化合物(1)の最低空軌道のエネルギー準位を求めることができる。また、本実施形態の化合物(1)の密度汎関数法により得られる最低空軌道のエネルギー準位は、R~Rを変更することにより調節されてもよい。最低空軌道のエネルギー準位を上記範囲内にする観点で、R、R、R、R及びRの少なくとも1つは電子吸引性基であることが好ましく、Rは電子吸引基で置換されたアリール基であることが好ましい。
【0038】
本実施形態の化合物(1)の密度汎関数法により得られる最高被占軌道(HOMO:Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位は、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、-8.00eV以上-6.00eV以下であることが好ましく、-7.90eV以上-6.10eV以下であることがより好ましい。本実施形態の化合物(1)について、密度汎関数法を用いた分子シミュレーション(例えば、Gaussian社製量子化学計算プログラムGaussianを用いた分子シミュレーション)により構造最適化を行い、最高被占軌道のエネルギー準位を求めることができる。また、本実施形態の化合物(1)の密度汎関数法により得られる最高被占軌道のエネルギー準位は、特に限定されないが、R1~Rを変更することにより調節されてもよい。最高被占軌道のエネルギー準位を上記範囲内にする観点で、特に限定されないが、R、R、R、R及びRの少なくとも1つは電子吸引性基であることが好ましく、Rは電子吸引基で置換されたアリール基であることが好ましい。
【0039】
本実施形態の化合物(1)の密度汎関数法により得られる最低空軌道のエネルギー準位と最高被占軌道のエネルギー準位との差(eV)([最高被占軌道のエネルギー準位]-[最低空軌道のエネルギー準位])は、3.00eV以上4.00eV以下であることが好ましい。エネルギー準位の差を上記範囲内にすることで、光電変換素子材料に使用した際に、暗時におけるリーク電流を低減できる傾向にある。
【0040】
本実施形態の化合物(1)は、分子量が好ましくは400以上であり、より好ましくは430以上であり、更に好ましくは450以上である。分子量が400以上であると、化合物(1)を用いた有機薄膜の製造プロセス上の加熱操作や高温の使用環境で起こり得る分子の熱運動に起因した物性変化をより抑制できる。また、特に化合物(1)を真空蒸着にて形成する場合、化合物(1)の分子量は好ましくは1000以下であり、より好ましくは950以下であり、更に好ましくは900以下である。分子量が1000以下であると、化合物(1)の有機薄膜を真空蒸着にて形成する際の昇華に必要な熱エネルギーをより低く抑えることができる。それにより、化合物(1)が熱劣化せず、良好な薄膜を形成できる。ただし、溶液塗布によって薄膜形成を行う場合、そのような問題は生じ難いため、化合物(1)の分子量が1000より大きくてもよい。
【0041】
本実施形態の化合物(1)は、不活性ガス雰囲気下における加熱による重量減少の重量比率が加熱前の5%以内になる温度(以下、「5%重量減少温度」と呼ぶこともある)が200℃以上であることが好ましく、より好ましくは250℃以上である。5%重量減少温度が200℃以上である場合、化合物(1)を用いた有機薄膜の製造プロセス上の加熱操作や高温の使用環境で起こり得る分子の熱運動に起因した物性変化をより抑制できる。5%重量減少温度は、示差熱分析により測定することができる。
【0042】
本実施形態の化合物(1)は、例えば後述のように合成することによって得られるものである。合成により得られる生成物(100質量%)において、化合物(1)の含有率が90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは93質量%、更に好ましくは97質量%以上である。化合物(1)の含有率が90質量%以上であることにより、化合物(1)を光電変換素子に用いる際に意図しない不純物によって生じる不純物準位へのキャリアのトラップをより有効かつ確実に避けることができる。その結果、キャリアの再結合を抑えて、より優れた性能を有する光電変換素子を得ることができる。含有率の測定は、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー及び元素分析等が挙げられるが、公知の方法であればよい。
【0043】
以下に、本実施形態の化合物(1)において、2つあるXの両方又はいずれか一方がNRである場合の、R、R、R、R、R及びRの好ましい組み合わせを示す。ただし、化合物(1)はこれらに限定されない。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【0044】
【化9】
【0045】
以下に、本実施形態の化合物(1)において、Xが酸素原子である場合の、R、R、R、R及びRの好ましい組み合わせを示す。ただし、化合物(1)はこれらに限定されない。
【化10】
【0046】
以下に化合物(1)の具体例を示す。ただし、化合物(1)はこれらに限定されない。
【化11】
【化12】
【0047】
【化13】
【化14】
【0048】
本実施形態の化合物(1)は、下記式:
【化15】
で表される化合物であることが特に好ましい。このような化合物は4つのシアノ基を有することで、暗時におけるリーク電流を抑制でき、特に光電変換素子材料として優れた特性を示すものである。その理由としては、以下のことが考えられる。このような化合物は、最低空軌道のエネルギー準位が下がると共に最高被占軌道のエネルギー準位も下がり、低い最低空軌道のエネルギー準位を保ちながら高いエネルギーギャップを有する。これにより、上記の化合物は、暗時におけるリーク電流を抑制でき、光電変換素子材料として優れた特性が得られると考えられる。ただし、理由はこれに限定されない。
【0049】
化合物(1)は、例えば、下記のスキームにより合成することができる。
【化16】
【0050】
より具体的には、例えば市販の化合物(α)からの側鎖付加反応により、Xが酸素原子である化合物(1)を得ることができる。また、さらにイミド反応を行うことで、XがNRである化合物(1)を得ることができる。あるいは、市販の化合物(α)をイミド化した中間体を経て、側鎖付加反応を行うことで、XがNRである化合物(1)を得ることができる。なお、イミド反応において試薬の当量を調整することにより、式(1)において2つあるXの一方が酸素原子、もう一方がNRである化合物を得ることができる。より具体的には、イミド化は、例えばOrganic Electronics,63,250(2018)に記載の方法で合成することができる。また、R~Rが導入された化合物を用いて側鎖付加反応を行ってもよく、側鎖付加反応を行った後にR~Rを導入してもよい。側鎖付加反応は、カップリング反応や、Asian Journal of Organic Chemistry,2,779(2013)に記載の方法で進めることができる。
【0051】
(光電変換素子用材料)
本実施形態の化合物(1)は、光電変換素子材料として用いられる。より具体的には、後述する光電変換素子における各層に含まれる材料として用いられる。その中でも、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、化合物(1)は、補助層に含まれることが好ましく、電子輸送層及び正孔ブロッキング層のうち少なくとも一方に含まれることがより好ましい。
【0052】
また、本実施形態の化合物(1)は、感光材料としてそのまま用いることができ、他の材料と混合して感光用の組成物として用いることもできる。感光用の組成物における化合物(1)の含有量は、その組成物の全量に対して、50質量%以上であってもよい。また、その含有量は、95質量%以下であってもよく、90質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。上記感光用の組成物における化合物(1)以外の材料は、通常の感光用の組成物に含まれるものであれば特に限定されない。そのような材料としては、例えば、後述するn型半導体材料、p型半導体材料、及び光吸収材料が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0053】
(有機薄膜)
本実施形態の有機薄膜は、本実施形態の化合物(1)又は上記光電変換素子用材料を含む。このような有機薄膜は、一般的な乾式成膜法や湿式成膜法により作製することができる。具体的には真空プロセスである抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング及び分子積層法、溶液プロセスであるキャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング並びにスプレーコーティング等のコーティング法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷並びに凸版印刷等の印刷法、及びマイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法が挙げられる。一般的に光電変換素子用材料は、加工の容易性という観点から化合物を溶液状態で塗布するようなプロセスで用い得ることが望ましい。ただし、有機薄膜を積層するような光電変換素子の場合、塗布溶液が下層の膜を侵す恐れがあるため、抵抗加熱蒸着のような乾式成膜法が好ましい。
【0054】
例えば、乾式成膜法においては、本実施形態の光電変換素子用材料、及び必要に応じて光電変換素子の用途に応じたその他の材料を混合して組成物とし、組成物を真空下で基材や他の膜の上へ蒸着することにより、有機薄膜を得ることができる。また、湿式成膜法においては、本実施形態の光電変換膜、及び必要に応じて光電変換素子の用途に応じたその他の材料を溶媒と共に混合して液状の組成物とし、基材や他の膜の上にコーティングして印刷し、更に乾燥することにより、有機薄膜を得ることができる。
【0055】
本実施形態の有機薄膜は、本実施形態の光電変換素子用材料である化合物(1)以外の材料を含んでもよい。本実施形態の有機薄膜における化合物(1)の含有量は、光電変換素子用材料として用いるのに必要な性能が発現する限り、特に限定されない。例えば化合物(1)の含有量は、有機薄膜の全量に対して、50質量%以上であってもよいが、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、80質量%以上であると好ましく、90質量%以上であるとより好ましく、95質量%以上であると更に好ましい。化合物(1)の含有量の上限は、100質量%であってもよい。本実施形態の有機薄膜が、化合物(1)以外の材料を含む場合、その材料は、通常の光電変換素子用材料として用いられるものであれば特に限定されない。そのような材料としては、例えば、後述するn型半導体材料、p型半導体材料、及び光吸収材料、並びにドーピング材料と呼ばれる酸化モリブデン、アルカリ金属、及びアルカリ金属化合物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0056】
有機薄膜の厚さは、それぞれの物質の抵抗値・電荷移動度にもよるので限定することはできないが、通常は0.5nm以上5000nm以下であり、1nm以上1000nm以下であってもよく、5nm以上500nm以下であってもよい。
【0057】
本実施形態の有機薄膜は、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、光吸収帯の極大吸収波長を450nm以下に有することが好ましい。
【0058】
(光電変換素子)
本実施形態の光電変換素子は、入射光量に応じた電荷を発生させ、発生した電荷蓄積のためのコンデンサ(以下、「蓄積部」ともいう。)や、読み出しのためのトランジスタ回路(以下、「読み出し部」ともいう。)等を経て光電変換素子外部へ出力するものをいう。ここで、光電変換素子は、対向する一対の電極間に入射光の少なくとも一部を吸収する光電変換膜を配置したものであって、電極の上方から光が光電変換素子に入射されるものをいう。また、光電変換膜は、赤外域の入射光の少なくとも一部を吸収する材料を含有した感光性の薄膜であって、光の入射の結果、正孔と電子を発生するものである。また、本実施形態の光電変換素子は、赤外域の入射光量に応じた電荷を発生する光電変換素子(以下、「赤外光電変換素子」ともいう。)を有してもよく、ここで、赤外光電変換素子は、対向する一対の電極間に赤外光を吸収する光電変換膜(以下、「赤外光電変換膜」ともいう。)を配置したものであって、電極の上方から光が赤外光電変換素子に入射されるものをいう。また、赤外光電変換膜は、赤外域の入射光の少なくとも一部を吸収する材料(以下、「赤外吸収材料」ともいう。)を含有した感光性の薄膜であって、光の入射の結果、正孔と電子を発生するものである。
【0059】
本実施形態の光電変換素子を、適宜図1を参照しながら説明する。光電変換素子100は、第1電極膜である下部電極102と、第2電極膜である上部電極106と、下部電極102と上部電極106との間に位置する光電変換膜110とを備える。光電変換素子100は、上部電極106の光電変換膜110とは反対側に、通常は絶縁性である基材101を備えてもよい。
【0060】
下部電極102及び上部電極106は、光電変換膜110が正孔輸送性又は電子輸送性を有する場合、該光電変換膜110から正孔を取り出してこれを捕集したり、電子を取り出して、これを吐出したりする役割を果たすものである。これらの電極として用い得る材料は、ある程度の導電性を有するものであれば特に限定されないが、隣接する光電変換膜110との密着性、電子親和力、イオン化ポテンシャル及び安定性等を考慮して選択することが好ましい。電極として用い得る材料としては、例えば、酸化錫(NESA)、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)及び酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物;金、銀、白金、クロム、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル及びタングステン等の金属:ヨウ化銅及び硫化銅等の無機導電性物質;ポリチオフェン、ポリピロール及びポリアニリン等の導電性ポリマー;並びに炭素が挙げられる。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0061】
第1電極膜である下部電極102は、光透過性を有する導電膜からなり、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)からなる。下部電極102を構成する材料としては、ITOに限定されず、例えば、ドーパントを添加した酸化スズ(SnO)系材料、及び、亜鉛酸化物(ZnO)にドーパントを添加した酸化亜鉛系材料が挙げられる。酸化亜鉛系材料としては、例えば、ドーパントとしてアルミニウム(Al)を添加したアルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、ガリウム(Ga)を添加したガリウム亜鉛酸化物(GZO)、及び、インジウム(In)を添加したインジウム亜鉛酸化物(IZO)が挙げられる。あるいは、下部電極102を構成する材料としては、例えば、CuI、InSbO、ZnMgO、CuInO、MgIN、CdO、及びZnSnOも挙げられる。下部電極102の厚さは、例えば、5nm以上3000nm以下であり、5nm以上500nm以下であってもよく、10nm以上300nm以下であってもよい。
【0062】
第2電極膜である上部電極106は、下部電極102と同様の光透過性を有する導電膜により構成されていてもよく、アルミニウムのように光電変換素子の電極に通常用いられる金属により構成されていてもよい。また、固体撮像素子を1つの画素として用いた固体撮像装置では、この上部電極106が画素毎に分離されていてもよいし、各画素に共通の電極として形成されていてもよい。上部電極106の厚さは、例えば、5nm以上3000nm以下であり、5nm以上500nm以下であってもよく、10nm以上300nm以下であってもよい。
【0063】
第1電極膜及び第2電極膜のような電極に用いる材料の導電性も、光電変換素子の受光を必要以上に妨げなければ特に限定されないが、光電変換素子の信号強度及び消費電力の観点からできるだけ導電性が高いことが好ましい。例えば、透明性の電極として、シート抵抗値が300Ω/□以下の導電性を有するITO膜であれば、電極として十分機能する。ただし、数Ω/□程度(例えば、5~9Ω/□)の導電性を有するITO膜を備えた基板の市販品も入手可能であり、このような高い導電性を有する基板が望ましい。
【0064】
ITO膜を用いる場合の電極の厚さは導電性を考慮して任意に選択することができるが、通常5nm以上3000nm以下、好ましくは10nm以上300nm以下である。ITOなどの膜を形成する方法としては、従来公知の蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法及び塗布法が挙げられる。基板上に設けられたITO膜には必要に応じUV-オゾン処理やプラズマ処理を施してもよい。
【0065】
また、検出する波長の異なる光電変換膜を複数積層する場合、それぞれの光電変換膜の間に用いられる電極の膜は、それぞれの光電変換膜が検出する光以外の波長の光を透過させる必要がある。そのような観点から、その電極の膜には入射光の90%以上を透過する材料を用いることが好ましく、95%以上の光を透過する材料を用いることがより好ましい。なお、上記電極の膜は、上記の一対の電極以外の電極の膜である。
【0066】
また、本実施形態における光電変換素子の下部に更に赤外光、あるいは異なる可視光域の光を感知する可視光電変換部を設ける場合、上記光電変換素子に用いる電極は、その可視光及び赤外光の透過率が90%以上であると好ましく、95%以上であるとより好ましい。
【0067】
このような条件を満たす電極の材料としては、可視光及び赤外光に対する透過率が高く、抵抗値が小さい透明導電性酸化物(TCO;Transparent Conducting Oxide)が好ましい。電極として金などの金属薄膜も用いることができるが、透過率を90%以上にしようとすると抵抗値が極端に増大する。したがって、電極としてはTCOが好ましい。TCOとして、特に、ITO、IZO、AZO、FTO、SnO、TiO及びZnOが好ましい。
【0068】
電極を形成する方法は特に限定されず、電極材料との適性を考慮して適宜選択することができる。透明電極を用いる場合、その形成方法として、具体的には、印刷方式及びコーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法及びイオンプレーティング法等の物理的方式、CVD及びプラズマCVD法等の化学的方式が挙げられる。また、電極の材料がITOのような透明導電性金属酸化物である場合、その形成方法として、例えば、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、化学反応法(例えば、ゾル-ゲル法等)、及びその金属酸化物の分散物を塗布する方法が挙げられる。さらに、ITOのような透明導電性金属酸化物の膜に、UV-オゾン処理及びプラズマ処理を施すこともできる。
【0069】
光電変換膜110は、本実施形態の光電変換素子用材料を含むものであってもよく、上記の有機薄膜を含むものであってもよい。より具体的には、例えば、光電変換膜110は、光電変換層104と、その光電変換層104の下部電極膜102側に位置する第1補助層103と、光電変換層104の上部電極膜106側に位置する第2補助層105とを備える。なお、図1に示す光電変換膜110は第1補助層103と第2補助層105とを備えるが、光電変換膜がそれらの補助層のうちいずれか一方のみを備えるものであってもよい。あるいは、光電変換膜がいずれの補助層をも備えず、光電変換層104のみを備えるものであってもよい。光電変換膜が補助層を備えない場合、光電変換層104が上記の有機薄膜であり、光電変換膜が補助層を備える場合、光電変換層104及び補助層のうち少なくとも一方が上記の有機薄膜である。ただし、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、補助層が本実施形態の光電変換素子用材料を含む上記有機薄膜であることが好ましい。
【0070】
光電変換層104は、一般的に光電変換層として用いられる有機半導体膜であってもよく、上記の有機薄膜であってもよい。また光電変換層110において、それらの有機半導体膜及び有機薄膜は1層又は複数の層であってもよい。1層である場合、p型有機半導体膜、n型有機半導体膜、又はそれらの混合膜(以下、「バルクヘテロ構造」であってもよい。)が用いられる。一方、複数の層である場合、層の数は2~10層程度であってもよく、p型有機半導体膜、n型有機半導体膜、又はそれらの混合膜(以下、「バルクヘテロ構造」であってもよい。)のいずれかを積層した構造であり、層間にバッファ層が挿入されていてもよい。
【0071】
本実施形態における光電変換層104は、本実施形態の光電変換素子用材料を含んでも含まなくてもよく、本実施形態の光電変換素子用材料以外の材料を含んでもよい。その中でも光電変換層104は、有機p型半導体、有機n型半導体、及び光吸収材料のうち少なくとも1種以上を含むことが、所望の波長の入射光エネルギーをより効率よく電気信号に変換することができるので好ましい。その中でも、光吸収材料に対して、有機p型半導体であれば電子を供与しやすい(すなわち、イオン化ポテンシャルが小さい)ものであるか、有機n型半導体であれば電子を受容しやすい(すなわち、電子親和力の大きい)ものであることが、入射光エネルギーを更により効率よく電気信号に変換することができるので好ましい。ここで、イオン化ポテンシャル(HOMO準位)は光電子収量分光法、あるいは光電子分光法にて測定した値を指す。また、電子親和力(LUMO準位)は近赤外分光スペクトルの最長波長吸収端からエネルギーバンドギャップ値を算出し、上記HOMO準位より差し引いて求めた値、あるいは逆光電子分光法にて測定した値を指す。
【0072】
有機半導体膜を用いる場合、その膜は1層であってもよく2層以上であってもよい。有機半導体膜は、有機p型半導体膜であっても、有機n型半導体膜であっても、光吸収材料膜であっても、又はそれらの混合膜(バルクヘテロ構造)であってもよい。特に、有機半導体膜は、バルクヘテロ接合構造層を有するのが好ましい。このような場合、光電変換膜にバルクへテロ接合構造を含有させることにより、光電変換膜のキャリア拡散長が短いという欠点を補い、光電変換効率を向上させることができる。
【0073】
光電変換層104の厚さは、例えば、0.5nm以上5000nm以下であってもよく、1nm以上1000nm以下であってもよく5nm以上500nm以下であってもよい。
【0074】
以下、有機半導体につき詳述する。
【0075】
有機p型半導体は、ドナー性有機半導体(以下、「ドナー性有機化合物」ともいう。)であり、主に正孔輸送性有機化合物に代表され、電子を供与しやすい性質がある有機化合物をいう。さらに詳しくは、2つの有機材料を接触させて用いたときにイオン化ポテンシャルの小さい方の有機化合物をいう。したがって、ドナー性有機化合物としては、電子供与性のある有機化合物であれば、いずれの有機化合物も使用可能である。
【0076】
そのようなドナー性有機化合物としては、例えば、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物、ピラゾリン化合物、スチリルアミン化合物、ヒドラゾン化合物、トリフェニルメタン化合物、カルバゾール化合物、ポリシラン化合物、チオフェン化合物、フタロシアニン化合物、シアニン化合物、メロシアニン化合物、オキソノール化合物、ポリアミン化合物、インドール化合物、ピロール化合物、ピラゾール化合物、ポリアリーレン化合物、縮合芳香族炭素環化合物(例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)、及び含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体が挙げられる。なお、これらに限らず、上記したように、アクセプター性有機化合物として用いた有機化合物よりもイオン化ポテンシャルの小さい有機化合物であれば、ドナー性有機半導体として用いられ得る。
【0077】
有機n型半導体は、アクセプター性有機半導体(以下、「アクセプター性有機化合物」ともいう。)であり、主に電子輸送性有機化合物に代表され、電子を受容しやすい性質がある有機化合物をいう。さらに詳しくは、2つの有機化合物を接触させて用いたときに電子親和力の大きい方の有機化合物をいう。したがって、アクセプター性有機化合物としては、電子受容性のある有機化合物であれば、いずれの有機化合物も使用可能である。
【0078】
そのようなアクセプター性有機化合物としては、例えば、縮合芳香族炭素環化合物(例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体、フラーレン誘導体)、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する5~7員のヘテロ環化合物(例えば、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、イソキノリン、プテリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、テトラゾール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、プリン、トリアゾロピリダジン、トリアゾロピリミジン、テトラザインデン、オキサジアゾール、イミダゾピリジン、ピラリジン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、ジベンズアゼピン、及びトリベンズアゼピン)、ポリアリーレン化合物、フルオレン化合物、シクロペンタジエン化合物、シリル化合物、及び含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体が挙げられる。なお、これらに限らず、上記したように、ドナー性有機化合物として用いた有機化合物よりも電子親和力の大きな有機化合物であれば、アクセプター性有機半導体として用いられる。
【0079】
光吸収材料は、可視光域、特に450nm以上650nm以下の範囲に極大光吸収波長を有する化合物である。光吸収材料の極大光吸収波長における吸収強度は、ドナー性有機化合物又はアクセプター性有機化合物の有する極大光吸収波長における吸収強度より大きいことが望ましい。そのような吸収強度を有することにより光吸収材料の極大光吸収波長で選択的に入射光を吸収することができる。入射光が光吸収材料へ吸収されてフォトンが励起子となった後、ドナー性有機化合物とアクセプター性有機化合物との界面において、励起子分離を起こすことで、ホール及び電子のキャリアを効率的に発生させることができる。
【0080】
そのような光吸収材料としては、一般的に色素と呼ばれる化合物を用いることができる。例えば、フタロシアニン誘導体、サブフタロシアニン誘導体、キナクリドン誘導体、ポルフィリン誘導体、ナフタレンもしくはペリレン誘導体、フタロペリレン誘導体、スチリル誘導体、シアニン誘導体、ヘミシアニン誘導体、メロシアニン誘導体、ロダシアニン誘導体、オキソノール誘導体、ヘミオキソノール誘導体、クロコニウム誘導体、スクアリリウム誘導体、アザメチン誘導体、アリーリデン誘導体、アゾ誘導体、アゾメチン誘導体、メタロセン誘導体、フルギド誘導体、フェナジン誘導体、フェノチアジン誘導体、ポリエン誘導体、アクリジン誘導体、アクリジノン誘導体、ジフェニルアミン誘導体、トリフェニルアミン、ナフチルアミンおよびスチリルアミンなどのトリアリールアミン誘導体、キノフタロン誘導体、フェノキサジン誘導体、クロロフィル誘導体、ローダミン誘導体、ジフェニルメタンもしくはトリフェニルメタン誘導体、キサンテン誘導体、アクリジン誘導体、フェノキサジン誘導体、キノリン誘導体、オキサジン誘導体、チアジン誘導体、キノン誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、インジゴもしくはチオインジゴ誘導体、ピロール誘導体、ピリジン誘導体、ジピリン誘導体、インドール誘導体、ジケトピロロピロール誘導体、クマリン誘導体、フルオレン誘導体、フルオレノン誘導体、フルオランテン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、カルバゾール誘導体、フェニレンジアミン誘導体、ベンジジン誘導体、フェナントロリン誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾリン誘導体、チアゾリン誘導体、トリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チオフェン誘導体、セレノフェン誘導体、シロール誘導体、ゲルモール誘導体、スチルベン誘導体、フェニレンビニレン誘導体、ペンタセン誘導体、ルブレン誘導体、チエノチオフェン誘導体、ベンゾジチオフェン誘導体、キサンテノキサンテン誘導体、及びフラーレン誘導体が挙げられる。なお、これらに限らず、上記したように、ドナー性有機化合物又はアクセプター性有機化合物の有する極大光吸収波長における吸収強度より、吸収強度が大きい化合物であれば、光吸収材料として用いられる。また、光吸収材料は、ドナー性有機化合物又はアクセプター性有機化合物としての役割を兼ねることもできる。
【0081】
第1補助層103は、例えば、正孔ブロッキング層及び電子輸送層のうち少なくとも1つを備える。第1補助層103がそれらのうち2つを備える場合、通常は、光電変換層104側から順に、電子輸送層及び正孔ブロッキング層の順に積層される。電子輸送層は、光電変換層104で発生した電子を第1電極102へ輸送する役割と、電子輸送先の第1電極102から光電変換層104に正孔が移動するのをブロックする役割とを果たす。正孔ブロッキング層は、第1電極102から光電変換層104への正孔の移動を妨げ、光電変換層104内での再結合を防ぎ、暗電流を低減し、ノイズを低減しダイナミックレンジを拡大する役割を果たす。また、1つの層が、正孔ブロッキング層及び電子輸送層の両方の機能を有していてもよい。
【0082】
第2補助層105は、例えば、電子ブロッキング層及び正孔輸送層のうち少なくとも1つを備える。第2補助層105がそれらのうち2つを備える場合、通常は、光電変換層104側から順に、正孔輸送層及び電子ブロッキング層の順に積層される。正孔輸送層は、発生した正孔を光電変換層104から第2電極106へ輸送する役割と、正孔輸送先の第2電極106から光電変換層104に電子が移動するのをブロックする役割とを果たす。電子ブロッキング層は、第2電極106から光電変換層104への電子の移動を妨げ、光電変換層104内での再結合を防ぎ、暗電流を低減し、ノイズを低減してダイナミックレンジを拡大する役割を果たす。また、1つの層が、電子ブロッキング層及び正孔輸送層の両方の機能を有していてもよい。
【0083】
本実施形態の光電変換素子用材料は、これらの第1補助層103及び第2補助層105のいずれにも含まれ得るが、第1補助層103に含まれると好ましい。本実施形態の光電変換素子において、これらの第1補助層103及び第2補助層105のうち、第1補助層103が上記有機薄膜を含むと好ましい。また、本実施形態の光電変換素子用材料は、第1補助層103において正孔ブロッキング層及び電子輸送層のうち少なくとも一方に含まれるとより好ましい。本実施形態の光電変換素子において、正孔ブロッキング層及び電子輸送層のうち少なくとも一方が上記有機薄膜であると好ましい。これらにより、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏することができる。
【0084】
以下、補助層における各層に含まれ得る本実施形態の光電変換素子用材料以外の材料について説明する。
【0085】
正孔輸送層の材料としては、固体撮像素子などの光電変換素子における正孔輸送層として知られているものであれば特に限定されず、例えば、ポリアニリン及びそのドープ材料、国際公開第2006/019270号に記載のシアン化合物が挙げられる。
【0086】
正孔輸送層を構成する材料として、より具体的には、セレン、ヨウ化銅(CuI)等のヨウ化物、層状コバルト酸化物等のコバルト錯体、CuSCN、酸化モリブデン(MoO等)、酸化ニッケル(NiO等)、4CuBr・3S(C)及び有機正孔輸送材が挙げられる。これらのうち、ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化銅(CuI)が挙げられる。層状コバルト酸化物としては、例えば、AxCoO(ここで、Aは、Li、Na、K、Ca、Sr又はBaを示し、0≦X≦1である。)が挙げられる。また、有機正孔輸送材としては、例えば、ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、(PEDOT;例えば、スタルクヴイテック社製の商品名「BaytronP」)等のポリチオフェン誘導体、2,2’,7,7’-テトラキス-(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレン(spiro-MeO-TAD)等のフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ジフェニルアミン誘導体、ポリシラン誘導体、及びポリアニリン誘導体が挙げられる。さらには、正孔輸送層の材料として、例えば、CuInSe及び硫化銅(CuS)等の1価の銅を有する化合物半導体、リン化ガリウム(GaP)、酸化ニッケル(NiO)、酸化コバルト(CoO)、酸化鉄(FeO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化モリブデン(MoO)、及び酸化クロム(Cr)が挙げられる。
【0087】
また、正孔輸送層が、光電変換膜のLUMO準位よりも高いLUMO準位を有するものであると、光電変換膜で生成した電子の電極側への移動を抑制する整流効果を有する、電子ブロッキング機能が付与されるので好ましい。このような正孔輸送層は電子ブロッキング層とも呼ばれる。
【0088】
電子ブロッキング層を構成する材料のうち、低分子の有機化合物としては、例えば、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン(TPD)及び4,4’-ビス[N-(ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル(α-NPD)等の芳香族ジアミン化合物、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、テトラヒドロイミダゾール、ポリアリールアルカン、ブタジエン、4,4’,4”トリス(N-(3-メチルフェニル)N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)、ポルフィリン、テトラフェニルポルフィリン銅、フタロシアニン、銅フタロシアニン及びチタニウムフタロシアニンオキサイド等のポルフィリン化合物、トリアゾール誘導体、オキサジザゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、並びにシラザン誘導体が挙げられる。また、高分子の有機化合物としては、例えば、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、インドール、ピレン、ピロール、ピコリン、チオフェン、アセチレン及びジアセチレン等の重合体、並びにその誘導体が挙げられる。電子供与性化合物でなくとも、十分な正孔輸送性を有する化合物であれば、電子ブロッキング層を構成する材料として用いることは可能である。さらに、電子ブロッキング層を構成する材料のうち、無機化合物としては、例えば、酸化カルシウム、酸化クロム、酸化クロム銅、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化ガリウム銅、酸化ストロンチウム銅、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化インジウム銅、酸化インジウム銀及び酸化イリジウム等の金属酸化物、セレン、テルル及び硫化アンチモンが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0089】
正孔輸送層の厚さは、暗電流を抑制し、かつ、光電変換効率の低下を防止する観点から、10nm以上300nm以下であると好ましく、30nm以上250nm以下であるとより好ましく、50nm以上200nm以下であると更に好ましい。
【0090】
正孔輸送層及び電子ブロッキング層を形成する方法としては従来知られているものであってもよく、真空蒸着法のような乾式成膜法、及び溶液塗布法のような湿式成膜法のいずれであってもよいが、塗布面をレベリングできる観点から、好ましくは湿式成膜法である。乾式製膜法としては、例えば、真空蒸着法のような蒸着法及びスパッタ法が挙げられる。蒸着は、物理蒸着(PVD)及び化学蒸着(CVD)のいずれでもよいが、真空蒸着等の物理蒸着が好ましい。湿式成膜法としては、例えば、インクジェット法、スプレー法、ノズルプリント法、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、ダイコート法、ロールコート法、バーコート法及びグラビアコート法が挙げられる。
【0091】
電子輸送層を構成する材料としては、固体撮像素子などの光電変換素子における電子輸送層として知られているものであれば特に限定されず、例えば、オクタアザポルフィリン、及びp型半導体のパーフルオロ体(例えば、パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニン等)、フラーレン、フラーレン誘導体(例えば、[6,6]-Phenyl-C61-Butyric Acid Methyl Ester;PCBM等)、ペリレン、インデノインデン及びインデノインデン誘導体のような有機化合物、酸化チタン(TiO等)、酸化ニッケル(NiO)、酸化スズ(SnO)、酸化タングステン(WO、WO、W等)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb等)、酸化タンタル(Ta等)、酸化イットリウム(Y等)、及びチタン酸ストロンチウム(SrTiO等)のような無機酸化物が挙げられる。電子輸送層は、多孔質のものであってもよく、緻密なものであってもよく、それらを積層する場合は、光電変換膜の側から多孔質の電子輸送層及び緻密な電子輸送層の順に積層して設けられると好ましい。
【0092】
また、電子輸送層が、光電変換膜のHOMO準位よりも低いHOMO準位を有するものであると、光電変換膜で生成した正孔の対向電極側への移動を抑制する整流効果を有する、正孔ブロッキング機能が付与されるので好ましい。このような電子輸送層は正孔ブロッキング層とも呼ばれる。
【0093】
正孔ブロッキング層を構成する材料としては、例えば、1,3-ビス(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾリル)フェニレン(OXD-7)等のオキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、バソクプロイン、バソフェナントロリン、及びこれらの誘導体、トリアジン化合物、トリアゾール化合物、トリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、ビス(4-メチル-8-キノリナート)アルミニウム錯体、シロール化合物、ポルフィリン系化合物、DCM(4-ジシアノメチレン-2-メチル-6-(4-(ジメチルアミノスチリル))-4Hピラン)等のスチリル系化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等のn型半導体材料、酸化チタン、酸化亜鉛及び酸化ガリウム等のn型無機酸化物、並びに、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム及びフッ化セシウム等のアルカリ金属フッ化物が挙げられる。さらには、アルカリ金属化合物を有機半導体分子にドープしたものも、対向電極との電気的接合を改善する機能を有するので好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0094】
電子輸送層の厚さは、暗電流を抑制し、かつ、光電変換効率の低下を防止する観点から、10nm以上300nm以下であると好ましく、30nm以上250nm以下であるとより好ましく、50nm以上200nm以下であると更に好ましい。
【0095】
電子輸送層及び正孔ブロッキング層を形成する方法としては従来知られているものであってもよく、真空蒸着法のような乾式成膜法、及び溶液塗布法のような湿式成膜法のいずれであってもよいが、塗布面をレベリングできる観点から、好ましくは湿式成膜法である。乾式製膜法としては、例えば、真空蒸着法のような蒸着法及びスパッタ法が挙げられる。蒸着は、物理蒸着(PVD)及び化学蒸着(CVD)のいずれでもよいが、真空蒸着等の物理蒸着が好ましい。湿式成膜法としては、例えば、インクジェット法、スプレー法、ノズルプリント法、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、ダイコート法、ロールコート法、バーコート法及びグラビアコート法が挙げられる。
【0096】
本実施形態の光電変換素子は、第1補助層103と下部電極102との間に、第1補助層103とは別の補助層を単層又は2層以上で備えてもよい。そのような補助層としては、例えば、下部電極102から第1補助層103への正孔注入性を向上する正孔注入層が挙げられる。正孔注入層を構成する材料としては、例えば、フタロシアニン誘導体、m-MTDATA(4,4’,4’’-トリス[フェニル(m-トリル)アミノ]トリフェニルアミン)のようなスターバーストアミン類、PEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))等のポリチオフェン及びポリビニルカルバゾール誘導体のような高分子系の材料が挙げられる。この補助層の厚さは、第1補助層103と同様であってもよい。
【0097】
本実施形態の光電変換素子は、第2補助層105と上部電極106との間に、第2補助層105とは別の補助層を単層又は2層以上で備えてもよい。そのような補助層としては、例えば、上部電極106から第2補助層105への電子注入性を向上する電子注入層、及び電子輸送層が挙げられる。電子注入層を構成する材料としては、例えば、セシウム、リチウム及びストロンチウムなどの金属、並びにフッ化リチウムが挙げられる。電子輸送層を構成する材料としては、上記と同様のものであってもよい。また、この補助層の厚さは、第2補助層105と同様であってもよい。
【0098】
本実施形態の光電変換素子は、上述の各層の他、それらの層の間に位置する層間接触改良層及び結晶化防止層のうちの少なくとも1つを備えてもよい。
【0099】
層間接触改良層は、上部電極106の成膜時にその直近下部の膜、例えば光電変換膜110、に与えられるダメージを軽減する機能を果たす。特に上部電極106の成膜に用いる装置中に存在する高エネルギー粒子、例えばスパッタ法ならば、スパッタ粒子や2次電子、Ar粒子、酸素負イオンなどが直近下部の膜に衝突することで変質し、リーク電流の増大や感度の低下など性能劣化が生じる場合がある。これを防止する一つの方法として、直近下部の膜の上層に層間接触改良層を設けることが好ましい。層間接触改良層の材料は、銅フタロシアニン、NTCDA、PTCDA、[ジピラジノ[2,3-F:2’,3’-H]キノキサリン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル](HATCN)、アセチルアセトネート錯体、BCPなどの有機物、有機-金属化合物や、MgAg、MgOなどの無機物が好ましく用いられる。層間接触改良層の厚さは、光電変換膜の構成、電極の膜厚などにより適切な範囲が異なるが、特に可視域に吸収をもたない材料を選択すること、あるいは薄い厚さで用いる観点から、2nm以上500nm以下であると好ましい。
【0100】
上述のとおり、本実施形態の光電変換素子には、発生した電荷蓄積のためのコンデンサである蓄積部や、読み出しのためのトランジスタ回路である読み出し部が、導電材料からなる接続部を介して接続される。また、必要に応じて、光電変換素子は、保護膜等の外気からの保護構造、強度保持のための基板や集光のためのマイクロレンズ等を含む。
【0101】
読み出し部は、光電変換膜で発生した電荷に応じた信号を読み出すために設けられる。読み出し部は、例えばCCD、CMOS回路、又はTFT回路等で構成されており、好ましくは絶縁層内に配置された遮光層によって遮光されている。読み出し回路は、それに対応する電極と接続部を介して電気的に接続されている。なお、読み出しに必要な量の電荷を確保するため、コンデンサ等で構成する蓄積部を電極と接続部との間に介してもよい。接続部は、絶縁層に埋設されており、電極(例えば透明電極又は対向電極)と読み出し部とを電気的に接続するためのプラグ等である。このように構成された部材が固体撮像素子である場合、光が入射すると、この光が光電変換膜に入射し、ここで電荷が発生する。発生した電荷のうちの電子は、一方の電極で捕集(及び蓄積)され、もう一方の電極で正孔が捕集される。その量に応じた電圧信号が読み出し部によって固体撮像素子外部に出力される。
【0102】
(撮像素子)
本実施形態の撮像素子は、本実施形態の光電変換素子を備えるものであれば、それ以外の構成は従来の撮像素子と同様であってもよい。例えば、本実施形態の撮像素子は、本実施形態の光電変換素子をアレイ状に多数配置して備えるものである。すなわち、光電変換素子をアレイ状に多数配置することによって、入射光量に加え入射位置情報をも示す固体撮像素子を構成する。
【0103】
本実施形態の撮像素子は、本実施形態の光電変換素子を1つ備えるものであってもよく、2つ以上積層してなるものであってもよい。本実施形態の光電変換素子を2つ以上積層してなる場合、それぞれの光電変換素子が互いに異なる波長帯域の光を選択的に検出して光電変換を行うものであってもよい。例えば、本実施形態の光電変換素子を3つ以上積層してなる場合、少なくとも1つが緑の色信号を取得し、別の少なくとも1つが青の色信号を取得し、別の少なくとも1つが赤の色信号を取得し、更に別の少なくとも1つが赤外光の色信号を取得するものであってもよい。これにより、撮像素子は、カラーフィルタを用いることなく一つの画素において複数種類の色信号を取得することができる。また、本実施形態の光電変換素子で検出する色信号以外の色信号は、従来知られるシリコンフォトダイオードを有するデバイスで感知してもよい。
【0104】
撮像素子において、より光源近くに配置された光電変換素子が、光源側から見てその背後に配置された別の光電変換素子の吸収波長を遮蔽しない(すなわち、透過する)場合、複数の光電変換素子やシリコンフォトダイオードを有するデバイスを積層してもよい。
【0105】
撮像素子において、光電変換素子は、成形容易さの観点から、隣り合う各光電変換素子同士の間で構造的な区切りを持たない同一平面上の薄膜として、一部が構成されていてもよい。
【0106】
本実施形態の撮像素子は、さらに基板を含んでいてもよい。基板は、その上に各層を積層して撮像素子を製造するために用いられたり、撮像素子の機械的強度を高めるために用いられたりする。基板の種類は特に制限されず、例えば、半導体基板、ガラス基板及びプラスチック基板が挙げられる。
【0107】
(光センサー)
本実施形態の光センサーは、本実施形態の撮像素子を備えるものであればよく、それ以外の構成は従来の光センサーと同様であってもよい。この光センサーは、本実施形態の撮像素子において光を受光し、その光の受光量に応じた電気信号を出力することができる。
【0108】
(固体撮像装置)
本実施形態の固体撮像装置は、本実施形態の撮像素子を備えるものであればよく、それ以外の構成は従来の固体撮像装置と同様であってもよい。本実施形態の固体撮像装置は、例えば、CMOSイメージセンサであってもよく、半導体基板上に、撮像エリアとしての画素部とを備え、更に、この画素部の周辺領域あるいは垂直下に、行走査部と水平選択部と列走査部とシステム制御部とを有する周辺回路部を備えてもよい。上記画素部が本実施形態の撮像素子を有する。
【0109】
本実施形態の光電変換素子は、本実施形態の光電変換素子用材料を用いることにより、下記の利点がある。すなわち、本実施形態の光電変換素子は、短絡したりピンホールが発生したりし難くなるので、暗電流値が低くなる。その結果、本実施形態の光電変換素子は、(特に暗時において)優れたリーク防止性を有する。さらに、本実施形態の光電変換素子は、高い明暗比を示しやすくなる傾向にあり、その場合は、より優れたリーク防止性を有する。また、本実施形態の光電変換素子は、光電変換素子用材料が凝集し難いにも関わらず正孔や電子の輸送性にも優れるので、光電変換効率が高くなる。さらに、本実施形態の光電変換素子は、本実施形態の光電変換素子用材料を用いることにより、耐熱性も良好なものとなり、製造プロセス上及び実用環境下での耐久性が向上する。
【実施例
【0110】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、合成した化合物は、必要に応じて更に昇華による精製を行った。
【0111】
<合成例1>
【化17】
【0112】
1.5gの2,6-ジブロモナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物(東京化成工業製)、4-シアノフェノール(東京化成工業製)1.0g、及びイソキノリン(東京化成工業製)7mLの混合物を180℃にて5時間撹拌した。次いで、室温に冷却した後、メタノールを添加して、析出していた混合物をろ過した。更に、メタノールで洗浄して化合物(2)を得た。
【0113】
【化18】
1.0gの化合物(2)、及び4-アミノベンゾニトリル(東京化成工業製)0.5g(化合物(2)に対して2.1モル当量)を酢酸(東京化成工業製)10mLに添加して得られた混合物を125℃にて8時間撹拌した。その後、室温に冷却し、メタノールを添加して、析出していた混合物をろ過した。更に、メタノールで洗浄して化合物(3)を得た。そのNMR測定の結果を下記に示す。
HNMR(500MHz,DMSO-d6):8.35(s,2H),8.02(d,4H),7.91(d,4H),7.63(d,4H),7.21(d,4H)
【0114】
<合成例2>
【化19】
【0115】
4-シアノフェノールに代えてm-クレゾール(富士フィルム和光純薬製)を用いた以外は合成例1と同様にして、化合物(4)を得た。そのNMR測定の結果を下記に示す。
HNMR(500MHz,DMSO-d6):8.06(s,2H),8.02(d,4H),7.65(d,4H),7.37(m,1H),7.11(d,1H),7.00(s,1H),6.96(dd,1H),2.32(s,6H)
【0116】
<合成例3>
【化20】
【0117】
2.0gの1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(以下、「化合物(5)」という。(東京化成工業製))、及びアニリン(東京化成工業製)1.5g(化合物(5)に対して2.2モル当量)を酢酸(東京化成工業製)15mLに添加して得られた混合物を125℃還流にて8時間撹拌した。その後、室温に冷却し、そこにメタノールを添加して、析出していた混合物をろ過した。更に、メタノールで洗浄した後、ピリジンを添加して5分間攪拌した。次いで、ろ過した後にメタノールで洗浄し、昇華精製を経て白色の固体である化合物(6)を得た。そのNMR測定の結果を下記に示す。
HNMR(500MHz,DMSO-d6):8.73(s,4H),7.58~7.45(m,10H)
【0118】
<合成例4>
【化21】
【0119】
6.0gの化合物(5)、イソキノリン(東京化成工業製)6.1g(化合物(5)に対して2.1モル当量)、及び4-アミノベンゾニトリル(東京化成工業製)6.6g(化合物(5)に対して2.5モル当量)をm-クレゾール(東京化成工業製)90mLに添加して得られた混合物を180℃にて8時間撹拌した。その後、室温に冷却し、そこにメタノールを添加して、析出物をろ過した。さらに、メタノールで洗浄した後、炭酸カリウム水溶液を添加して5分間攪拌した。次いで、ろ過した後に水、メタノールで洗浄し、昇華精製を経て白色の固体である化合物(7)を得た。そのNMR測定の結果を下記に示す。
HNMR(500MHz,HFIP-d2):8.93(s,4H),8.77(dm,4H),7.55(dm,4H)
【0120】
[化合物の結晶性評価]
合成した化合物の結晶性を評価した。結晶性評価には、デスクトップX線回折装置((株)リガク製、製品名(MiniFlex600))を用いた。X線源をCuKαとし、スキャン速度20°/minにて得られたスペクトルからX線回折(XRD)最大ピーク強度を測定した。結果を表1に示す。なお、最大ピーク強度は、化合物(4)の値を1とした場合の相対値で示す。
【0121】
[有機薄膜及び光電変換素子の作製と評価]
下記の実施例及び比較例において、有機薄膜及び光電変換素子は蒸着機を用いて作製し、大気下で電流電圧の印加測定をした。作製した光電変換素子を計測チャンバーに設置し、電流電圧の印加測定をした。電流電圧の印加測定には、半導体パラメータアナライザ(ケースレー社製)を用いた。射光の照射は、光源装置(朝日分光社製、製品名(PVL-3300))を用い、照射光波長550nm、照射光半値幅20nmの条件にて行った。明暗比は光照射した場合の電流値を暗所での電流値で除した値である。
【0122】
(実施例1)
ITO透明導電ガラス(ジオマテック(株)製ITO、厚さ100nm)に、光電変換層としてホウ素サブフタロシアニンクロリド(シグマアルドリッチ製の精製品、純度>99%、LUMO:-2.6eV、エネルギー準位の差:2.7eV)を厚さ100nmで真空成膜し、その上に補助層1としてトリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq)の昇華精製品(東京化成工業製)を抵抗加熱真空蒸着により厚さ25nmで成膜した。次いで、補助層2として化合物(3)を抵抗加熱真空蒸着により厚さ25nmで成膜した。次いで、補助層2の上に、電極としてアルミニウムを厚さ100nmで真空成膜にて作製し、光電変換素子を得た。
得られた光電変換素子について、ITO及びアルミニウムを電極として5Vの電圧を印加して暗所での電流値と光照射時の電流値を測定した。その測定結果から明暗比を算出した。結果を表1に示す。なお、暗電流値は、後述の比較例1における値を1とした場合の相対値で示す。
【0123】
(実施例2)
化合物(3)に代えて化合物(4)を用いた以外は実施例1と同様にして、単層の有機薄膜及び電変換素子を作製した。得られた光電変換素子について、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0124】
(比較例1)
化合物(3)に代えて化合物(5)を用いた以外は実施例1と同様にして、単層の有機薄膜及び電変換素子を作製した。得られた光電変換素子について、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0125】
(比較例2)
化合物(3)に代えて化合物(6)を用いた以外は実施例1と同様にして、単層の有機薄膜及び電変換素子を作製した。得られた光電変換素子について、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0126】
(比較例3)
化合物(3)に代えて化合物(7)を用いた以外は実施例1と同様にして、単層の有機薄膜及び電変換素子を作製した。得られた光電変換素子について、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0127】
【表1】
【0128】
表1に示す結果より、本発明の光電変換素子は、暗電流値が低い値を示すことから、(特に暗時において)優れたリーク防止性を有することが分かった。特に、実施例1においては、XRD最大ピーク強度が小さいことから結晶性が低く、低いLUMOを有し、かつエネルギー準位の差が大きいことから、高い明暗比を示し、より優れたリーク防止性を有することが分かった。以上のことから、本発明の化合物は、光電変換素子用材料、特に、光電変換素子の電子輸送層及び正孔ブロッキング層に含まれる材料として好適なことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の化合物(1)を含む光電変換素子用材料を用いることにより、正孔又は電子のリーク防止性や輸送性、さらには耐熱性や可視光透明性等の要求特性に優れた光電変換素子を提供できる。したがって、本発明の化合物(1)、光電変換素子用材料、有機薄膜及び光電変換素子は、そのような特性が要求される分野において、産業上の利用可能性がある。具体的には、固体撮像素子として、セキュリティ用カメラ、車載用カメラ、無人航空機用カメラ、農業用カメラ、産業用カメラ、内視鏡用カメラのような医療用カメラ、ゲーム機用カメラ、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話用カメラ、上記以外のモバイル機器用カメラにおける撮像素子;ファクシミリ、スキャナー及びコピー機等における画像読み取り素子;並びに、バイオ及び化学センサー等における光センサー等に産業上の利用可能性がある。また、エレクトロルミネッセンスを利用したディスプレイとして、テレビモニター、タッチモニター、デジタルサイネージ、ウェアラブルディスプレイ、電子ペーパー、モビリティ用途におけるヘッドアップディスプレイ等に産業上の利用可能性がある。
【0130】
本出願は、2023年4月20日出願の日本特許出願(特願2023-069028)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0131】
100…光電変換素子、101…基材、102…下部電極、103…第1補助層、104…光電変換層、105…第2補助層、106…上部電極、110…光電変換膜。
【要約】
下記式(1):
【化1】
(Xは、酸素原子又はNRであり、R~Rは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基、アリール基等である。)
で表される化合物。
図1