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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】超硬合金および切削工具
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/08 20060101AFI20241126BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20241126BHJP
   C22C 1/051 20230101ALN20241126BHJP
【FI】
C22C29/08
B23B27/14 B
C22C1/051 G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023567015
(86)(22)【出願日】2023-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2023020055
【審査請求日】2024-06-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山川 隆洋
(72)【発明者】
【氏名】山西 貴翔
(72)【発明者】
【氏名】引地 将仁
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-094277(JP,A)
【文献】特開2010-248561(JP,A)
【文献】特開2010-248560(JP,A)
【文献】特開2022-158173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/04- 1/059
C22C 29/00-29/18
B23B 27/00-29/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1相と、第2相と、第3相と、を含む超硬合金であって、
前記第1相は、複数の炭化タングステン粒子からなり、
前記超硬合金の前記第1相の含有率は、65体積%以上85体積%以下であり、
前記炭化タングステン粒子の算術平均径aは、0.5μm以上2.0μm以下であり、
前記算術平均径aと、前記炭化タングステン粒子の粒径の標準偏差bとは、下記式Iの関係を示し、
b<0.49a+0.063 式I
前記式Iにおいて、aおよびbの単位はμmであり、
前記算術平均径aと、前記炭化タングステン粒子の個数基準での10%累積粒径cとは、下記式IIの関係を示し、
c>0.34a+0.098 式II
上記式IIにおいて、aおよびcの単位はμmであり、
前記第2相は、コバルトからなり、
前記超硬合金のコバルト含有率は、3質量%以上15質量%以下であり、
前記第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなり、
前記第3相は、炭化タングステンを含まず、
前記超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率は、2質量%以上8質量%以下である、超硬合金。
【請求項2】
前記超硬合金の断面の反射電子像に対して二値化処理を行い得られた第1画像において、前記第1相からなる第1領域と、前記第2相および前記第3相からなる第2領域と、が存在し、
前記第1画像において、前記第2領域の算術平均径dは、0.3μm以上0.9μm以下であり、
前記反射電子像は、前記超硬合金の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて5000倍で撮影して得られる、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項3】
前記炭化タングステン粒子の算術平均径aは、0.8μm以上1.6μm以下である、請求項1または請求項2に記載の超硬合金。
【請求項4】
前記超硬合金のコバルト含有率は、4質量%以上11質量%以下である、請求項1または請求項に記載の超硬合金。
【請求項5】
請求項1または請求項に記載の超硬合金を備える切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超硬合金および切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化タングステン(WC)を主成分とする硬質相と、鉄族元素を主成分とする結合相とを備える超硬合金が、切削工具の素材に利用されている。特許文献1に記載される超硬合金では、硬質相として、WCを主成分とする硬質相に加え、タングステン(W)と、W以外の金属元素とを含む炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも一種の複合化合物からなる相を備え、WC粒子と複合化合物粒子とを結合させることで耐欠損性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-20541号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の超硬合金は、
第1相と、第2相と、第3相と、を含む超硬合金であって、
前記第1相は、複数の炭化タングステン粒子からなり、
前記超硬合金の前記第1相の含有率は、65体積%以上85体積%以下であり、
前記炭化タングステン粒子の算術平均径aは、0.5μm以上2.0μm以下であり、
前記算術平均径aと、前記炭化タングステン粒子の粒径の標準偏差bとは、下記式Iの関係を示し、
b<0.49a+0.063 式I
前記式Iにおいて、aおよびbの単位はμmであり、
前記算術平均径aと、前記炭化タングステン粒子の個数基準での10%累積粒径cとは、下記式IIの関係を示し、
c>0.34a+0.098 式II
上記式IIにおいて、aおよびcの単位はμmであり、
前記第2相は、コバルトからなり、
前記超硬合金のコバルト含有率は、3質量%以上15質量%以下であり、
前記第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなり、
前記第3相は、炭化タングステンを含まず、
前記超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率は、2質量%以上8質量%以下である、超硬合金である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、切削加工において被削材の難削化が進んでいる。さらに、加工能率の向上の要求から、切削速度、送り量および切り込み量が増加するなど、加工条件が厳しくなっている。
【0006】
そこで、本開示は、工具材料として用いた場合に、耐摩耗性および耐欠損性に優れ、長い工具寿命を有することのできる切削工具を提供することのできる超硬合金、ならびに、長い工具寿命を有する切削工具を提供することを目的とする。
【0007】
[本開示の効果]
本開示によれば、工具材料として用いた場合に、耐摩耗性および耐欠損性に優れ、長い工具寿命を有することのできる切削工具を提供することのできる超硬合金、ならびに、長い工具寿命を有する切削工具を提供することが可能となる。
【0008】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の超硬合金は、
第1相と、第2相と、第3相と、を含む超硬合金であって、
前記第1相は、複数の炭化タングステン粒子からなり、
前記超硬合金の前記第1相の含有率は、65体積%以上85体積%以下であり、
前記炭化タングステン粒子の算術平均径aは、0.5μm以上2.0μm以下であり、
前記算術平均径aと、前記炭化タングステン粒子の粒径の標準偏差bとは、下記式Iの関係を示し、
b<0.49a+0.063 式I
前記式Iにおいて、aおよびbの単位はμmであり、
前記算術平均径aと、前記炭化タングステン粒子の個数基準での10%累積粒径cとは、下記式IIの関係を示し、
c>0.34a+0.098 式II
上記式IIにおいて、aおよびcの単位はμmであり、
前記第2相は、コバルトからなり、
前記超硬合金のコバルト含有率は、3質量%以上15質量%以下であり、
前記第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなり、
前記第3相は、炭化タングステンを含まず、
前記超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率は、2質量%以上8質量%以下である、超硬合金である。
【0009】
本開示の超硬合金は、工具材料として用いた場合に、耐摩耗性および耐欠損性に優れ、長い工具寿命を有することのできる切削工具を提供することができる。
【0010】
(2)上記(1)において、前記超硬合金の断面の反射電子像に対して二値化処理を行い得られた第1画像において、前記第1相からなる第1領域と、前記第2相および前記第3相からなる第2領域と、が存在し、
前記第1画像において、前記第2領域の算術平均径dは、0.3μm以上0.9μm以下であってもよい。前記反射電子像は、前記超硬合金の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて5000倍で撮影して得られる。
【0011】
これによると、適度な粒度の第2領域が存在することによって、超硬合金の耐摩耗性が向上する。第2領域の粒度が小さい場合、切削加工時、脱落による摩耗が進みやすい傾向がある。第2領域の粒度が大きい、つまり存在場所にバラツキがある場合、偏摩耗が進みやすく、耐摩耗性が低下しやすい傾向がある。
【0012】
(3)上記(1)または(2)において、前記炭化タングステン粒子の算術平均径aは、0.8μm以上1.6μm以下であってもよい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0013】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記超硬合金のコバルト含有率は、4質量%以上11質量%以下であってもよい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0014】
(5)本開示の切削工具は、上記(1)から(4)のいずれかに記載の超硬合金を備える切削工具である。本開示の切削工具は、耐摩耗性および耐欠損性に優れ、長い工具寿命を有することができる。
【0015】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の超硬合金の具体例を、以下に説明する。
【0016】
本開示において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0017】
本開示において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
【0018】
本開示において、数値範囲下限及び上限として、それぞれ1つ以上の数値が記載されている場合は、下限に記載されている任意の1つの数値と、上限に記載されている任意の1つの数値との組み合わせも開示されているものとする。例えば、下限として、a1以上、b1以上、c1以上が記載され、上限としてa2以下、b2以下、c2以下が記載されている場合は、a1以上a2以下、a1以上b2以下、a1以上c2以下、b1以上a2以下、b1以上b2以下、b1以上c2以下、c1以上a2以下、c1以上b2以下、c1以上c2以下が開示されているものとする。
【0019】
[実施形態1:超硬合金]
本開示の一実施形態(以下「実施形態1」とも記す。)に係る超硬合金は、
第1相と、第2相と、第3相と、を含む超硬合金であって、
前記第1相は、複数の炭化タングステン粒子からなり、
前記超硬合金の前記第1相の含有率は、65体積%以上85体積%以下であり、
前記炭化タングステン粒子の算術平均径aは、0.5μm以上2.0μm以下であり、
前記算術平均径aと、前記炭化タングステン粒子の粒径の標準偏差bとは、下記式Iの関係を示し、
b<0.49a+0.063 式I
前記式Iにおいて、aおよびbの単位はμmであり、
前記算術平均径aと、前記炭化タングステン粒子の個数基準での10%累積粒径cとは、下記式IIの関係を示し、
c>0.34a+0.098 式II
上記式IIにおいて、aおよびcの単位はμmであり、
前記第2相は、コバルトからなり、
前記超硬合金のコバルト含有率は、3質量%以上15質量%以下であり、
前記第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなり、
前記第3相は、炭化タングステンを含まず、
前記超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率は、2質量%以上8質量%以下である、超硬合金である。
【0020】
本開示の超硬合金は、工具材料として用いた場合に、耐摩耗性および耐欠損性に優れ、長い工具寿命を有することのできる切削工具を提供することができる。この理由は明らかではないが、以下の通りと推察される。
【0021】
(i)本開示の超硬合金は、複数の炭化タングステン粒子(以下、「WC粒子」とも記す。)からなる第1相を65体積%以上85体積%以下含む。炭化タングステン粒子は、高い硬度および高い熱伝導率を有する。よって、本開示の超硬合金も、高い硬度および高い熱伝導率を有し、該超硬合金を備える切削工具は、優れた耐摩耗性を有することができる。
【0022】
(ii)本開示の超硬合金は、コバルトを3質量%以上15質量%以下含む。コバルトは高い靭性を有する。よって、本開示の超硬合金も、高い靭性を有し、該超硬合金を備える切削工具は、優れた耐欠損性を有することができる。
【0023】
(iii)本開示の超硬合金は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなる第3相を含む。第3相は、超硬合金の耐反応性および耐酸化性を向上させることができる。よって、該超硬合金を備える切削工具は、耐反応性および耐酸化性が向上し、これによって耐摩耗性が向上する。
【0024】
(iv)本開示の超硬合金において、炭化タングステン粒子の算術平均径aは、0.5μm以上2.0μm以下であり、算術平均径aと、炭化タングステン粒子の粒径の標準偏差bとは、下記式Iの関係を示す。
b<0.49a+0.063 式I
標準偏差bは、算術平均径aと正の相関を有する。式Iを満たす炭化タングステン粒子は、算術平均径aの大小にかかわらず、粒径が高い均一性を有することを示す。
本開示の超硬合金において、炭化タングステン粒子の算術平均径aと、炭化タングステン粒子の個数基準での10%累積粒径cとは、下記式IIの関係を示す。
c>0.34a+0.098 式II
式IIを満たす炭化タングステン粒子は、算術平均径aの大小にかかわらず、微粒子が少ないことを示す。
炭化タングステン粒子の粒径が式Iおよび式IIを満たす場合、超硬合金組織において、炭化タングステン粒子は、均一に存在することができる。本開示の超硬合金では、炭化タングステン粒子が均一に存在しているため、切削加工に伴い発生する切削熱が、炭化タングステン粒子を経由して切削工具の外部へ放出されやすい。よって、本開示の超硬合金を備える工具は、熱伝導率が向上し、刃先温度の上昇しやすい高速加工においても、熱的摩耗が生じにくく、優れた耐摩耗性を有することができる。
【0025】
<第1相>
≪第1相の組成≫
実施形態1の超硬合金において、第1相は、複数の炭化タングステン粒子からなる。ここで、炭化タングステン粒子には、「純粋なWC粒子(不純物元素が一切含有されないWC、不純物元素の含有量が検出限界未満であるWCも含む。)」だけではなく、「本開示の効果を損なわない限りにおいて、内部に不純物を含むWC粒子」も含まれる。不純物は、例えば、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、硫黄(S)が挙げられる。
【0026】
≪超硬合金の第1相の含有率≫
実施形態1の超硬合金において、超硬合金の第1相の含有率は、65体積%以上85体積%以下である。超硬合金の第1相の含有率の下限は、硬度向上の観点から、65体積%以上であり、66体積%以上でもよく、70体積%以上でもよく、72体積%以上でもよく、75体積%以上でもよい。超硬合金の第1相の含有率の上限は、靭性向上の観点から、85体積%以下であり、84体積%以下でもよく、80体積%以下でもよく、78体積%以下でもよい。超硬合金の第1相の含有率は、70体積%以上80体積%以下でもよく、72体積%以上84体積%以下でもよい。
【0027】
本開示において、超硬合金の第1相の含有率は、以下の手順で測定される。
(A1)超硬合金の任意の表面または任意の断面を鏡面加工する。鏡面加工の方法としては、例えば、ダイヤモンドペーストで研磨する方法、集束イオンビーム装置(FIB装置)を用いる方法、クロスセクションポリッシャー装置(CP装置)を用いる方法、およびこれらを組み合わせる方法が挙げられる。
【0028】
(B1)超硬合金の加工面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「S-3400N」)で撮影して反射電子像を得る。反射電子像を6枚準備する。6枚の反射電子像の撮影領域はそれぞれ異なる。撮影箇所は任意に設定することができる。条件は、観察倍率5000倍、加速電圧10kVとする。
【0029】
(C1)上記(B1)で得られた6枚の反射電子像を画像解析ソフトウェア(ImageJ、version 1.51j8:https://imagej.nih.gov/ij/)でコンピュータに取り込み、二値化処理を行い、6枚の二値化処理後の画像を得る。二値化処理は、画像を取り込んだのちに、コンピュータ画面上の「Make Binary」との表示を押すことにより、画像解析ソフトウェアに予め設定された条件で実行される。二値化処理後の画像において、第1相からなる第1領域と、第2相および第3相からなる第2領域とは、色の濃淡で識別できる。例えば、二値化処理後の画像において、第1相は黒色領域で示され、第2相および第3相は白色領域で示される。
【0030】
(D1)得られた6枚の二値化処理後の各画像中に縦25.3μm×幅17.6μmの矩形の測定視野を1つ設定する。上記画像解析ソフトウェアを用いて、6つの測定視野のそれぞれにおいて、測定視野の全体を分母として第1相の面積百分率(面積%)を測定する。
【0031】
(E1)6つの測定視野で得られた第1相の面積百分率(面積%)の平均を算出する。本開示において、6つの測定視野で得られた第1相の面積百分率(面積%)の平均を、超硬合金の第1相の含有率(体積%)とする。
【0032】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、上記測定を測定視野の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきは少なく、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0033】
≪炭化タングステン粒子の算術平均径a≫
実施形態1の超硬合金において、炭化タングステン粒子の算術平均径aは、0.5μm以上2.0μm以下である。本開示において、炭化タングステン粒子の算術平均径aとは、超硬合金の表面または断面で測定されるWC粒子の円相当径の個数基準の算術平均を意味する。WC粒子の算術平均径aが0.5μm以上であると、超硬合金を用いた切削工具において、使用に伴う脱落摩耗が生じ難い。WC粒子の算術平均径aが2.0μm以下であると、超硬合金は優れた抗折力を有し、超硬合金を用いた切削工具は、優れた耐欠損性を有することができる。
【0034】
WC粒子の算術平均径aの下限は、脱落摩耗抑制の観点から、0.50μm以上でもよく、0.60μm以上でもよく、0.70μm以上でもよく、0.80μm以上でもよい。WC粒子の算術平均径aの上限は、抗折力向上の観点から、2.00μm以下でもよく、1.80μm以下でもよく、1.60μm以下でもよく、1.40μm以下でもよい。WC粒子の算術平均径aは、0.50μm以上2.00μm以下でもよく、0.60μm以上1.80μm以下でもよく、0.70μm以上1.60μm以下でもよく、0.80μm以上1.60μm以下でもよく、0.80μm以上1.40μm以下でもよい。
【0035】
本開示において、炭化タングステン粒子の算術平均径aは、下記(A2)~(B2)の手順で測定される。
(A2)超硬合金の第1相の含有率の測定方法に記載の(A1)~(C1)と同一の方法で6枚の二値化処理後の画像を得る。
【0036】
(B2)得られた6枚の二値化処理後の各画像中に縦25.3μm×幅17.6μmの矩形の測定視野を1つ設定する。画像解析ソフトウェア(ImageJ、version 1.51j8:https://imagej.nih.gov/ij/)を用いて、6つの測定視野中の全ての炭化タングステン粒子(第1相)のそれぞれについて、円相当径(Heywood径:等面積円相当径)を測定する。
【0037】
(C2)6つの測定視野中の炭化タングステン粒子のうち、円相当径が0.22μm以下の炭化タングステン粒子を除くすべての炭化タングステン粒子に基づき、円相当径の個数基準の算術平均値を算出する。本開示において、該算術平均値が、WC粒子の算術平均径aに該当する。算術平均径aを算出するにあたり、円相当径が0.22μm以下の炭化タングステン粒子を除外する理由は、本発明者らが測定したところ、円相当径が0.22μm以下の粒子は、画像解析において誤って炭化タングステン粒子として検出されたノイズに該当する場合が多いことが確認されたたためである。
【0038】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、上記測定を、測定視野の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきは少なく、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0039】
≪炭化タングステン粒子の算術平均径aと炭化タングステン粒子の粒径の標準偏差bとの関係≫
実施形態1の超硬合金において、炭化タングステン粒子の算術平均径aと、炭化タングステン粒子の粒径の標準偏差bとは、下記式Iの関係を示す。
b<0.49a+0.063 式I
式Iにおいて、aおよびbの単位はμmである。
【0040】
超硬合金に含まれる複数の炭化タングステン粒子の粒径が式Iの関係を満たすことは、炭化タングステン粒子の算術平均径aの大小にかかわらず、炭化タングステン粒子の粒径が高い均一性を有することを示す。算術平均径aと標準偏差bとは、粒径の均一性の向上の観点から、下記式I-Aおよび式I-Bの関係を示してもよい。
b<0.49a+0.061 式I-A
b<0.49a+0.059 式I-B
【0041】
本開示において、炭化タングステン粒子の粒径の標準偏差bは、以下の手順で測定される。炭化タングステン粒子の算術平均径aの測定方法に記載の(A2)~(B2)と同一の方法で、6つの測定視野中の全ての炭化タングステン粒子(第1相)のそれぞれについて、円相当径(Heywood径:等面積円相当径)を測定する。6つの測定視野中の炭化タングステン粒子のうち、円相当径が0.22μm以下の炭化タングステン粒子を除くすべての炭化タングステン粒子に基づき、以下の式より、炭化タングステン粒子の粒径の標準偏差bを算出する。
【0042】
【数1】
【0043】
実施形態1の超硬合金において、炭化タングステン粒子の算術平均径aと、炭化タングステン粒子の個数基準での10%累積粒径cとは、下記式IIの関係を示す。
c>0.34a+0.098 式II
式IIにおいて、aおよびcの単位はμmである。本開示において、炭化タングステン粒子の個数基準での10%累積粒径cとは、炭化タングステン粒子の個数基準の累積粒度分布における、小径側からの累積10%粒子径を意味する。
【0044】
超硬合金に含まれる複数の炭化タングステン粒子の粒径が式IIの関係を満たすことは、炭化タングステン粒子の算術平均径aの大小にかかわらず、微小炭化タングステン粒子が少ないことを示す。算術平均径aと、10%累積粒径cとは、微小炭化タングステン粒子が減少するという観点から、下記式II-Aおよび式II-Bの関係を示してもよい。
【0045】
c>0.34a+0.099 式II-A
c>0.34a+0.100 式II-B
【0046】
本開示において、炭化タングステン粒子の個数基準での10%累積粒径cは、以下の手順で測定される。炭化タングステン粒子の算術平均径aの測定方法に記載の(A2)~(B2)と同一の方法で、6つの測定視野中の全ての炭化タングステン粒子(第1相)のそれぞれについて、円相当径(Heywood径:等面積円相当径)を測定する。6つの測定視野中の炭化タングステン粒子のうち、円相当径が0.22μm以下の炭化タングステン粒子を除くすべての炭化タングステン粒子に基づき、個数基準での10%累積粒径cを求める。
【0047】
実施形態1の超硬合金は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなる第3相を含む。ここで、第3相は炭化タングステンを含まない。第3相は、超硬合金の耐反応性および耐酸化性などの向上を目的として添加される。しかし、第3相は熱伝導率が低いため、第3相を含む超硬合金は、例えば高速加工などの刃先温度の上がりやすい切削条件で用いられた場合、刃先が高温となり、熱的摩耗が進行しやすく、切削工具の耐摩耗性が低下する傾向がある。実施形態1の超硬合金では、炭化タングステン粒子の粒度分布が上記式Iおよび式IIに満たすため、超硬合金組織において、炭化タングステン粒子は、均一に存在することができ、切削加工に伴い発生する切削熱が、炭化タングステン粒子間を経由して切削工具の外部へ放出されやすい。よって、本開示の超硬合金を備える工具は、第3相を含みながらも、熱伝導率が向上し、熱的摩耗が生じにくく、優れた耐摩耗性を有することができる。
【0048】
<第2相>
≪第2相の組成≫
実施形態1の超硬合金において、第2相は、コバルトからなる。第2相は、第1相を構成する炭化タングステン粒子同士を結合させる結合相である。
【0049】
本開示において、「第2相はコバルト(Co)からなる」とは、「本開示の効果を損なわない限りにおいて、第2相がコバルトとともに不純物を含む」場合も含まれる。不純物は、例えば、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、モリブデン(Mo)、硫黄(S)、アルミニウム(Al)が挙げられる。
【0050】
≪超硬合金のコバルト含有率≫
実施形態1の超硬合金において、超硬合金のコバルト含有率は、3質量%以上15質量%以下である。超硬合金のコバルト含有率の下限は、靭性向上の観点から、3質量%以上であり、4質量%以上でもよく、5質量%以上でもよく、6質量%以上でもよい。超硬合金のコバルト含有率の上限は、硬度向上の観点から、15質量%以下であり、11質量%以下でもよく、9質量%以下でもよい。超硬合金のコバルト含有率は、4質量%以上11質量%以下でもよく、5質量%以上9質量%以下でもよい。
【0051】
本開示において、超硬合金のコバルト含有率は、コバルト滴定法により測定される。コバルト滴定法は、日本機械工具工業会規格(TAS0054:2017)またはISO3909:1976に準拠して行われる。具体的には以下の手順で行われる。超硬合金からなる試料を粉砕し、49メッシュの篩を通す。試料を硝酸、フッ化水素酸に溶解し、クエン酸アンモニウム及びアンモニア水を加えた後、白金及び飽和カロメル(タングステン)電極を用い、フェリシアン化カリウム(赤血塩)で電位差滴定を行う。測定装置は、東亜ディーケーケー社製「AUT-501」を用いる。
【0052】
<第3相>
≪第3相の組成≫
実施形態1の超硬合金において、第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなる。第3相は、炭化タングステンを含まない。第3相は、超硬合金の耐反応性および耐酸化性を向上させることができる。よって、該超硬合金を備える切削工具は、耐反応性および耐酸化性が向上する。
【0053】
本開示において、「第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなる。」とは、「本開示の効果を損なわない限りにおいて、第3相が不純物を含む」場合も含まれる。不純物は、例えば、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、モリブデン(Mo)、硫黄(S)、アルミニウム(Al)が挙げられる。
【0054】
第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも2種の元素を含んでいてもよい。
【0055】
第3相は、例えば、炭化チタン(TiC)、炭化タンタル(TaC)、炭化ニオブ(NbC)、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)、炭窒化ジルコニウム(ZrCN)、炭化ジルコニウム(ZrC)およびこれらの化合物由来の固溶体からなる群より選択される少なくとも1種を含むことができる。固溶体としては、例えば、WTiCN、WTiTaCN、WTiTaNbZrCNが挙げられる。
【0056】
本開示において、第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなり、かつ、第3相は、炭化タングステンを含まないことは、以下の手順で確認される。
【0057】
(A3)超硬合金の任意の位置をイオンスライサ(装置:日本電子社製 IB09060CIS(商標))を用いて薄片化し、厚さ30~100nmのサンプルを作製する。イオンスライサの加速電圧は、薄片化加工では6kV、仕上加工では2kVである。
【0058】
(B3)上記サンプルを走査透過型電子顕微鏡(STEM)(装置:日本電子社製のJFM-ARM300F(商標))にて50000倍で観察することによってSTEM-HAADF(high-angle annular dark field scanning transmission electron microscope)像を得る。STEM-HAADF像の撮影領域は、サンプルの中央部、すなわち、超硬合金の表面近傍などバルク部分とは明らかに性状が異なる部分を含まない位置(撮像領域がすべて超硬合金のバルク部分となる位置)に設定する。測定条件は、加速電圧200kVである。
【0059】
(C3)STEM-HAADF像中に存在する第3相に対してSTEMに付属するEDX(STEM-EDX)により、スポット分析を実行し、第3相を構成する元素を定量する。スポットサイズは第3相毎に、第3相のみを含む範囲に設定する。構成元素を定量化した結果、以下の(a)および(b)を満たす場合、第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなることが確認される。
(a)第3相に、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、が存在する。
(b)第3相に、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、タングステン、炭素および窒素以外の不純物元素が確認されない、または、これらの不純物元素含有率が0.1質量%未満である。
【0060】
第3相に対して、上記EDX(STEM-EDX)によりスポット分析を実行した結果、タングステンと炭素のみが検出され、タングステンと炭素の合計質量に対する炭素の含有率が約6.1質量%である場合、第3相が炭化タングステンを含むと判断される。換言すれば、第3相に対して、上記EDX(STEM-EDX)によりスポット分析を実行した結果、タングステンおよび炭素以外の元素が確認される場合、第3相は炭化タングステンを含まないと判断される。
【0061】
≪超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率≫
実施形態1の超硬合金において、超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率は、2質量%以上8質量%以下である。超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率の下限は、耐反応性および耐酸化性向上の観点から、2質量%以上であり、3質量%以上でもよく、4質量%以上でもよい。超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率の上限は、超硬合金の熱伝導率向上の観点から、8質量%以下であり、7質量%以下でもよく、6質量%以下でもよい。超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率は、2質量%以上8質量%以下であり、3質量%以上7質量%以下でもよく、4質量%以上6質量%以下でもよい。ここで、第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも2種の元素を含んでいてもよい。本開示において、超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率とは、超硬合金がチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの全てを含む場合は、これらの全ての元素の合計含有率を意味し、超硬合金が、チタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムからなる群より選ばれる1種以上3種以下の元素を含む場合は、含まれる元素の合計含有率を示す。
【0062】
本開示において、超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率は、ICP発光分光分析法により測定される。本開示において、ICP発光分析の測定装置は、島津製作所製「ICPS-8100」(商標)を用いる。
【0063】
<第2領域の算術平均径>
実施形態1の超硬合金において、超硬合金の断面の反射電子像に対して二値化処理を行い得られた第1画像において、第1相からなる第1領域と、第2相および第3相からなる第2領域と、が存在し、第1画像において、第2領域の算術平均径dは、0.3μm以上0.9μm以下であってもよい。反射電子像は、超硬合金の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて5000倍で撮影して得られる。第2領域の算術平均径dの下限は、粒子脱落抑制による耐摩耗性向上の観点から、0.3μm以上でもよく、0.4μm以上でもよく、0.5μm以上でもよい。第2領域の算術平均径dの上限は、偏摩耗抑制による耐摩耗性向上の観点から、0.9μm以下でもよく、0.8μm以下でもよく、0.7μm以下でもよい。第2領域の算術平均径dは、0.4μm以上0.8μm以下でもよく、0.5μm以上0.7μm以下でもよい。
【0064】
本開示において、第2領域の算術平均径dは、下記(A4)~(B4)の手順で測定される。
(A4)超硬合金の第1相の含有率の測定方法に記載の(A1)~(C1)と同一の方法で6枚の二値化処理後の画像を得る。
【0065】
(B4)得られた6枚の二値化処理後の各画像中に縦25.3μm×幅17.6μmの矩形の測定視野を設定する。画像解析ソフトウェア(ImageJ、version 1.51j8:https://imagej.nih.gov/ij/)を用いて、6つの測定視野中の全ての第2領域のそれぞれについて、円相当径(Heywood径:等面積円相当径)を測定する。6つの測定視野中の全ての第2領域に基づき、円相当径の個数基準の算術平均値を算出する。本開示において、該算術平均値が、第2領域の算術平均径dに該当する。
【0066】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、上記測定を、測定視野の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきは少なく、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0067】
≪クロム含有率≫
実施形態1の超硬合金は、クロム(Cr)を含むことができる。クロムは炭化タングステン粒子の粒成長抑制作用を有する。超硬合金において、コバルトの質量に対するクロムの質量の百分率は、0%以上8%以下であってもよい。これによると、得られた超硬合金中に、原料の微小WC粒子がそのまま残存することを効果的に抑制でき、かつ、粗大粒の発生を効果的に抑制でき、工具寿命が向上する。超硬合金において、コバルトの質量に対するクロムの質量の百分率が8%を超えると、クロムのコバルトへの固溶限界を超え、超硬合金中にクロムが炭化物などの形態で析出し、超硬合金の耐欠損性が悪化する傾向がある。
【0068】
超硬合金において、コバルトの質量に対するクロムの質量の百分率の上限は、耐欠性向上の観点から、7%以下でもよく、6%以下でもよい。超硬合金において、コバルトの質量に対するクロムの質量の百分率の下限は、粗大粒発生の抑制の観点から、1%以上でもよく、2%以上でもよい。超硬合金において、コバルトの質量に対するクロムの質量の百分率は、1%以上7%以下でもよく、2%以上6%以下でもよい。
【0069】
超硬合金のクロム含有率は、ICP発光分光分析法により測定される。
【0070】
≪ジルコニウム含有率≫
実施形態1の超硬合金は、ジルコニウム(Zr)を含むことができる。ジルコニウムは超硬合金の高温硬度を向上させる作用を有する。超硬合金において、コバルトの質量に対するジルコニウムの質量の百分率は、0%以上6%以下でもよい。これによると、超硬合金の高温硬度が向上するため、工具寿命が向上する。超硬合金において、コバルトの質量に対するジルコニウムの質量の百分率が6%を超えると、ジルコニウムのコバルトへの固溶限界を超え、超硬合金中にジルコニウムが炭化物などの形態で析出し、超硬合金の耐欠損性が悪化する傾向がある。
【0071】
超硬合金において、コバルトの質量に対するジルコニウムの質量の百分率の上限は、耐欠損性と高温硬度向上のバランスの観点から、5%以下でもよく、4%以下でもよい。超硬合金において、コバルトの質量に対するジルコニウムの質量の百分率の下限は、高温硬度向上の観点から、0.5%以上でもよく、1%以上でもよい。超硬合金において、コバルトの質量に対するジルコニウムの質量の百分率は、0.5%以上5%以下でもよく、1%以上4%以下でもよい。
【0072】
超硬合金のジルコニウム含有率は、ICP発光分光分析法により測定される。
【0073】
<超硬合金の組成>
実施形態1の超硬合金は、第1相と、第2相と、第3相と、を含む。実施形態1の超硬合金は、第1相と、第2相と、第3相と、からなってもよい。本開示の効果を損なわない限りにおいて、実施形態1の超硬合金は、第1相、第2相および第3相に加えて、その他の相を含むことができる。その他の相としては、例えばクロムの炭化物が挙げられる。本開示の効果を損なわない限りにおいて、実施形態1の超硬合金は、第1相、第2相および第3相に加えて、不純物を含むことができる。不純物は、例えば、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、硫黄(S)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、が挙げられる。超硬合金の不純物の含有率(不純物を構成する元素が2種類以上の場合は、それらの合計濃度。)は、0.1質量%未満でもよい。超硬合金の不純物の含有率は、ICP発光分光分析法により測定することができる。
【0074】
<超硬合金の製造方法>
実施形態1の超硬合金は、例えば、原料粉末の準備工程、混合工程、成形工程、焼結工程、冷却工程を前記の順で行うことにより製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0075】
≪原料粉末の準備工程≫
原料粉末の準備工程では、超硬合金を構成する材料の全ての原料粉末を準備する。原料粉末として、第1相の原料である炭化タングステン粉末、第2相の原料であるコバルト(Co)粉末、第3相の原料である炭化チタン(TiC)粉末、窒化チタン(TiN)粉末、炭化タンタル(TaC)粉末、炭化ニオブ(NbC)粉末、炭化ジルコニウム(ZrC)粉末(以下、これらをまとめて「第3相原料粉末」とも記す。)を準備する。必要に応じて、粒成長抑制剤として、炭化クロム(Cr)粉末を準備することができる。これらの原料粉末は、市販のものを用いることができる。
【0076】
炭化タングステン粉末(以下、「WC粉末」とも記す。)としては、粒径が均一な炭化タングステン粉末を準備する。具体的には、平均粒径が1.5μm以上6.0μm以下であり、粒径の分布が、体積基準での10%累積粒径d10と、体積基準での90%累積粒径d90との比d10/d90が0.2以上0.5以下であるWC粉末を準備する。本開示において、WC粉末に含まれる各WC粒子の粒径は、FSSS(Fisher Sub-Sieve Sizer)法により測定される。FSSS法に用いる測定機器は、Fisher Scientific社製の「Sub-Sieve Sizer モデル95」(商標)である。WC粉末の粒径の分布は、マイクロトラック社製の粒度分布測定装置(商品名:MT3300EX)を用いて測定される。
【0077】
コバルト粉末の平均粒径は、0.5μm以上3.0μm以下とすることができる。第3相原料粒子の平均粒径は、0.5μm以上4.0μm以下とすることができる。炭化クロム粉末の平均粒径は、1.0μm以上2.0μm以下とすることができる。本開示において、これらの粉末の平均粒径は、FSSS(Fisher Sub-Sieve Sizer)法により測定される平均粒径を意味する。該平均粒径は、Fisher Scientific社製の「Sub-Sieve Sizer モデル95」(商標)を用いて測定される。
【0078】
≪混合工程≫
混合工程において、準備工程で準備した各原料粉末を混合して混合粉末を得る。混合粉末の各原料粉末の含有率は、超硬合金の第1相、第2相および第3相の各成分の含有率を考慮して、適宜調整される。
【0079】
混合方法としては、混合後の混合粉末において、WC粉末の粒径が均一な状態を維持できる方法を用いる。具体的には、ボールミルを用い、従来よりもメディア径を小さくし、回転数を小さくし、混合時間を短くする。これにより、WC粒子の粉砕を抑制することができる。メディア径は、例えば、5mm以上10mm以下とすることができる。回転数は、例えば、15rpm以上30rpm以下とすることができる。混合時間は、例えば、15時間以上36時間以下とすることができる。混合時間が15時間未満であると、混合不足により、超硬合金中に空隙が発生しやすい。
【0080】
粉砕力が強い混合方法(例えば、アトライタ)を用いると、原料のWC粉末の粒径が均一であっても、混合によりWC粒子全体が微細に粉砕され、混合後のWC粉末の粒径が微細になり、焼結時の粒成長により粗大粒子が発生する。よって、本実施形態の製造方法では、粉砕力が強い混合方法は採用しない。
【0081】
混合工程の後、必要に応じて混合粉末を造粒してもよい。混合粉末を造粒することで、後述する成形工程の際にダイまたは金型へ混合粉末を充填し易い。造粒には、公知の造粒方法が適用でき、例えば、スプレードライヤー等の市販の造粒機を用いることができる。
【0082】
≪成形工程≫
成形工程は、混合工程で得られた混合粉末を所定の形状に成形して、成形体を得る工程である。成形工程における成形方法および成形条件は、一般的な方法および条件を採用すればよく、特に問わない。所定の形状としては、例えば、切削工具形状とすることが挙げられる。
【0083】
≪焼結工程≫
焼結工程において、成形工程で得られた成形体を焼結して、超硬合金を得る。本開示の超硬合金の製造方法においては、焼結温度は1380℃以上1500℃以下とすることができる。これによると、超硬合金中のWC粒子の粒径を均一にすることができる。また、微小WC粒子および粗大WC粒子の発生が抑制される。
【0084】
焼結温度が1380℃未満であると、超硬合金中に空隙が発生し、超硬合金の耐欠損性が低下する。焼結温度が1500℃超であると、粒成長によりWC粒子が粗大化し、WC粒子の粒径が不均一となる。
【0085】
≪冷却工程≫
冷却工程は、焼結完了後の超硬合金を冷却する工程である。冷却条件は一般的な条件を採用すればよく、特に問わない。
【0086】
[実施形態2:切削工具]
実施形態2の切削工具は、実施形態1の超硬合金を備える。実施形態2の切削工具は、少なくとも実施形態1の超硬合金からなる刃先を含むことができる。本開示において、刃先とは、切削に関与する部分を意味し、超硬合金において、その刃先稜線と、該刃先稜線から超硬合金側への距離が0.5mm以内である領域を意味する。
【0087】
切削工具としては、例えば、切削バイト、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切り工具、リーマまたはタップ等を例示できる。
【0088】
実施形態2の超硬合金は、これらの工具の全体を構成していてもよいし、一部を構成するものであってもよい。ここで「一部を構成する」とは、任意の基材の所定位置に実施形態2の超硬合金をロウ付けして刃先部とする態様等を示している。
【0089】
実施形態2の切削工具は、超硬合金からなる基材の表面の少なくとも一部を被覆する硬質膜を更に備えてもよい。硬質膜としては、例えば、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンド、AlまたはTiCNからなる膜を用いることができる。硬質膜は化学気相成長法(CVD法)により成膜されたCVD膜であってもよい。
【実施例
【0090】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0091】
<超硬合金の作製>
≪準備工程≫
原料粉末として、表1の「原料粉末」欄に示す組成の粉末を準備した。炭化タングステン(WC)粉末は、平均粒径および粒径の分布の異なるものを複数準備した。WC粉末の平均粒径、および、d10/d90は、それぞれ表1の「原料粉末」の「WC」の「平均粒径(μm)」、「d10/d90」欄に示される通りである。
【0092】
コバルト(Co)粉末の平均粒径は1.2μmであり、炭化クロム(Cr)粉末の平均粒径は1.5μmであり、炭化チタン(TiC)粉末の平均粒径は1.5μmであり、窒化チタン(TiN)粉末の平均粒径は2.0μmであり、炭化タンタル(TaC)粉末の平均粒径は1.0μmであり、炭化ニオブ(NbC)粉末の平均粒径は1.1μmであり、炭化ジルコニウム(ZrC)粉末の平均粒径は1.5μmである。
【0093】
≪混合工程≫
各原料粉末を表1の「原料」の「質量%」欄に示される配合量で混合し、混合粉末を作製した。表1の「原料」欄の「質量%」とは、原料粉末の合計質量に対する、各原料粉末の質量の百分率を示す。混合はボールミルを用いて行った。メディア径は8mmとした。各試料での回転数および混合時間は表2の「混合」の「回転数」および「時間」欄に記載の通りである。得られた混合粉末をスプレードライ乾燥して造粒粉末とした。
【0094】
【表1】
【0095】
≪成形工程≫
得られた造粒粉末をプレス成形して、チップ形状の成形体を作製した。
【0096】
≪焼結工程≫
成形体を焼結炉に入れ、真空中、表2の「焼結」の「温度」および「時間」欄に示される温度および時間で焼結した。
【0097】
≪冷却工程≫
焼結完了後、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中、徐冷して、超硬合金を得た。
【0098】
【表2】
【0099】
<超硬合金の評価>
≪超硬合金の組成≫
各試料の超硬合金について、超硬合金の第1相含有率、超硬合金のコバルト含有率、超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率を測定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載の通りである。結果を表3の「超硬合金」の「第1相含有率」、「Co含有率」、「Ti,Ta,Zr,Nb合計含有率」欄に示す。「Ti,Ta,Zr,Nb含有率」との記載は、必ずしも、各試料がTi、Ta、ZrおよびNbの全てを含むことを示すものではない。
【0100】
≪炭化タングステン粒子の算術平均径a、標準偏差b、10%累積粒径c≫
各試料の超硬合金について、炭化タングステン粒子の算術平均径a、標準偏差b、10%累積粒径cを測定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載の通りである。結果を表3の「第1相」の「WC粒子」の「算術平均径a」、「標準偏差b」、「10%累積粒径c」欄に示す。
【0101】
各試料の「算術平均径a」、「標準偏差b」、「10%累積粒径c」に基づき、各試料において、下記式Iおよび式IIの関係を満たすか否かを確認した。
b<0.49a+0.063 式I
c>0.34a+0.098 式II
結果を表3の「式I」および「式II」欄に示す。「式I」において、「Yes」は式Iの関係を満たすこと示し、「No」は式Iの関係を満たさないことを示す。「式II」において、「Yes」は式IIの関係を満たすこと示し、「No」は式IIの関係を満たさないことを示す。
【0102】
≪第2相の組成≫
全ての試料において、第2相はコバルトからなることが確認された。
【0103】
≪第3相の組成≫
各試料において、第3相に含まれる元素を、STEM-EDXにより特定した。具体的な特定方法は、実施形態1に記載の通りである。結果を表4の「第3相」の「組成」欄に示す。全ての試料において、第3相は表4に記載の元素からなること、および、第3相は炭化タングステンを含まないことが確認された。
【0104】
≪第2領域の算術平均径d≫
各試料において、第2領域の算術平均径dを測定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載の通りである。結果を表4の「第1画像」の「第2領域」の「算術平均径d」欄に示す。
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【0107】
<切削試験1>
各試料の切削工具(工具型番:CNMG120408N-GU(住友電工ハードメタル社製))を用いて以下の条件で旋削加工を行い、15分間切削後の切削工具の逃げ面側の平均摩耗量Vb(mm)を測定した。平均摩耗量Vb(mm)が小さいほど、耐摩耗性が優れており、工具寿命が長いことを示す。切削試験1では、平均摩耗量Vb(mm)が0.35mm以下の場合、耐摩耗性が優れており、工具寿命が長いと判断される。結果を表5の「切削試験1」欄に示す。
【0108】
≪切削条件≫
被削材:S45C
加工:丸棒外径旋削
切削速度:350m/min
送り量:0.25mm/rev
切込み量:2.0mm
切削液:水溶性切削油
上記の切削条件は、高速加工に該当する。
【0109】
<切削試験2>
各試料の切削工具(工具型番:CNMG120408N-GU(住友電工ハードメタル社製))を20個準備し、これらを用いて以下の条件で旋削加工を行い、20秒間切削時の破損率(%)を測定した。破損率が小さいほど、耐欠損性が優れており、工具寿命が長いことを示す。切削試験2では、破損率が25%以下の場合、工具寿命が長いと判断される。結果を表5の「切削試験2」欄に示す。
【0110】
≪切削条件≫
被削材:SCM440(溝付き丸棒)
加工:溝付き丸棒外径断続旋削
切削速度:120m/min
送り量:0.15mm/rev
切込み量:2.0mm
切削液:なし
【0111】
本実施例において、切削試験1において、平均摩耗量Vbが0.35mm以下であり、かつ、切削試験2において、破損率が25%以下の場合、工具寿命が長いと判断される。
【0112】
【表5】
【0113】
<考察>
試料1~試料22の超硬合金および切削工具は実施例に該当する。試料101~112の超硬合金および切削工具は比較例に該当する。試料1~試料22は、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有し、切削試験1および切削試験2のいずれにおいても、長い工具寿命を示した。試料101、試料104~試料106、試料108、試料109、および試料112は、耐摩耗性が不十分であり、切削試験1において、工具寿命が不十分であった。試料102、試料103、試料107、試料110および試料111は、耐欠損性が不十分であり、切削試験2において、工具寿命が不十分であった。
【0114】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【要約】
第1相と、第2相と、第3相と、を含む超硬合金であって、前記第1相は、複数の炭化タングステン粒子からなり、前記超硬合金の前記第1相の含有率は、65体積%以上85体積%以下であり、前記炭化タングステン粒子の算術平均径aは、0.5μm以上2.0μm以下であり、前記算術平均径aと、前記炭化タングステン粒子の粒径の標準偏差bとは、下記式Iの関係を示し、
b<0.49a+0.063 式I
前記式Iにおいて、aおよびbの単位はμmであり、
前記算術平均径aと、前記炭化タングステン粒子の個数基準での10%累積粒径cとは、下記式IIの関係を示し、
c>0.34a+0.098 式II
上記式IIにおいて、aおよびcの単位はμmであり、
前記第2相は、コバルトからなり、前記超硬合金のコバルト含有率は、3質量%以上15質量%以下であり、前記第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなり、前記第3相は、炭化タングステンを含まず、前記超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率は、2質量%以上8質量%以下である、超硬合金。