(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】パワー半導体モジュールおよび電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H01L 25/07 20060101AFI20241126BHJP
H01L 25/18 20230101ALI20241126BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20241126BHJP
【FI】
H01L25/04 C
H02M7/48 Z
(21)【出願番号】P 2021152614
(22)【出願日】2021-09-17
【審査請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】ミネベアパワーデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 徹
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 大介
(72)【発明者】
【氏名】安井 感
(72)【発明者】
【氏名】串間 宇幸
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-18137(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163612(WO,A1)
【文献】特開2017-17283(JP,A)
【文献】特開2013-138234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 25/07
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電位端子と、
前記高電位端子に電気的に接続された第1の導体板と、
前記第1の導体板にドレインまたはコレクタが接続された複数の半導体チップと、
前記複数の半導体チップのソースまたはエミッタに接続され、前記第1の導体板に対向して配置された第2の導体板と、
前記第2の導体板に電気的に接続された低電位端子と、
前記複数の半導体チップのソースまたはエミッタの電位を検出するセンス端子と、を有するパワー半導体モジュールであって、
前記高電位端子と前記第1の導体板と前記センス端子とが設けられた第1の基板と、
前記第1の基板に対向して配置され、前記第2の導体板が設けられた第2の基板と、
前記センス端子に電気的に接続され、前記第1の基板と前記第2の基板との間の間隔を保ちつつ、前記第1の基板側から前記第2の基板の前記第2の導体板へ電気的に接続するセンス用スペーサ導体と、を有し、
前記複数の半導体チップに対して1つの前記センス用スペーサ導体が対応し、
前記高電位端子は、前記第1の基板の第1の辺に設けられ、
前記センス用スペーサ導体と前記複数の半導体チップとが前記第1の辺に対して同じ側に配置されており、
前記センス用スペーサ導体と前記第1の辺との間の最短距離は、前記複数の半導体チップのうち前記高電位端子に一番近い半導体チップと前記第1の辺との間の最短距離よりも小さい
ことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項2】
前記第1の導体板を一つの主面に配置する前記第1の基板としての第1の絶縁基板を有し、
前記第2の導体板を一つの主面に配置する前記第2の基板としての第2の絶縁基板を有し、
前記第1の絶縁基板と第2の絶縁基板は、前記第1の導体板と前記第2の導体板が対向するよう配置され、
前記センス端子は、前記第1の導体板と電気的に絶縁され、前記第1の絶縁基板上の前記第1の導体板と同じ主面に配置され、前記第2の導体板と対向する第3の導体板に電気的に接続され、
前記センス端子は、前記第3の導体板と前記第2の導体板間の距離を保ちつつ、前記第3の導体板を介して前記第2の導体板と電気的に接続する前記センス用スペーサ導体を経由して前記第2の導体板に接続される
ことを特徴とする請求項1に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項3】
前記高電位端子は、前記第1の絶縁基板の第1の辺において、前記第1の導体板に接続され、
前記センス用スペーサ導体と前記高電位端子との間の最短距離は、前記複数の半導体チップのうち前記高電位端子に一番近い半導体チップと前記高電位端子との間の最短距離よりも小さい
ことを特徴とする請求項2に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項4】
前記センス用スペーサ導体と前記第1の辺との間の最短距離は、前記複数の半導体チップのうち前記高電位端子に一番近い半導体チップと前記第1の辺との間の最短距離よりも小さい
ことを特徴とする請求項3に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項5】
前記第2の導体板において、
前記複数の半導体チップが電気的に接続される位置は、
前記センス用スペーサ導体が電気的に接続される位置と、
前記低電位端子が電気的に接続される位置の間にある
ことを特徴とする請求項1に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項6】
前記高電位端子と、前記センス用スペーサ導体と、前記複数の半導体チップと、前記低電位端子の平面的な位置関係は、
前記高電位端子が前記第1の導体板に電気的に接続される位置から見て、
前記センス用スペーサ導体、
前記複数の半導体チップ、
前記低電位端子が前記第2の導体板に電気的に接続される位置、の順になっている
ことを特徴とする請求項1に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項7】
前記センス端子と、ゲート端子は、
前記高電位端子とともに、
前記第1の基板の第1の辺に設けられる
ことを特徴とする請求項1に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項8】
前記ゲート端子は、前記第1の基板上の前記第1の導体板と同じ主面側に配置される複数の導体板によって構成される第1のゲート配線導体板群と複数のボンディングワイヤを介して、前記複数の半導体チップのゲート電極に電気的に接続される
ことを特徴とする請求項7に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項9】
前記ゲート端子から与えられるゲート駆動電圧は、前記複数の半導体チップのそれぞれのゲート電極に対して、異なった電圧レベルで与えられ、
ゲート電流が、前記複数の半導体チップのそれぞれのゲート電極に流入する場合には、
前記複数の半導体チップの前記高電位端子に近い側の半導体のスイッチング素子には高い電圧レベルで、
前記複数の半導体チップの前記高電位端子に遠く前記低電位端子に近い側の半導体のスイッチング素子には低い電圧レベルで与えられ、
前記ゲート電流が、前記複数の半導体チップのそれぞれのゲート電極から流出する場合には、
前記複数の半導体チップの前記高電位端子に近い側の半導体のスイッチング素子には低い電圧レベルで、
前記複数の半導体チップの前記高電位端子に遠く前記低電位端子に近い側の半導体のスイッチング素子には高い電圧レベルで与えられる
ことを特徴とする請求項7に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項10】
一対以上の上下アームを有する主回路と、
前記上下アームを駆動する駆動回路と、を備える電力変換装置であって、
前記上下アームは、請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載のパワー半導体モジュールを有することを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体モジュールおよび電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機器や電気鉄道車両、自動車、家電などの電力制御やモータ制御に、パワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のスイッチング素子や、フリーホイールダイオード等のダイオード素子などの半導体素子(半導体チップ)を複数個用いて一つのモジュールに搭載したパワー半導体モジュールが使用されている。パワー半導体モジュールは、同一基板上に配置された複数のパワー半導体チップを多並列接続して構成する。
【0003】
近年では、パワー半導体チップの材料にGaN(窒化ガリウム)やSiC(炭化珪素)が用いられ、Si(シリコン)を用いた半導体素子に比較してスイッチング速度の高速性や動作温度の高温性などの利点を活用しつつある。現状では、GaNやSiCの素子は素子サイズが小さいため、所定の電流容量を満足するパワー半導体モジュールを構成するためには複数のパワー半導体チップを並列接続してモジュール内の絶縁基板に実装する必要がある。また、パワー半導体モジュールを搭載する電力変換回路の体積を低減するためにはモジュールの小型化を図りながら、モジュールの信頼性を向上するために搭載するパワー半導体チップの動作時の温度を抑える必要がある。
【0004】
特許文献1には、パワー半導体チップで生じる損失による自己発熱を抑えるために、パワー半導体チップのコレクタ電極を電気的に接続する第1導体板とエミッタ電極を電気的に接続する第2導体板を用い、第1と第2の導体板はそれぞれパワー半導体チップとの固着側とは反対方向に伝熱面を設けて放熱性能を向上させるパワー半導体モジュールが記載されている。
【0005】
特許文献2には、複数のパワー半導体素子を格納するサブモジュ―ルを複数用い、サブモジュ―ル内ではドレイン導体20とソース導体10の二つの導体によって複数のパワー半導体チップが挟まれて実装されており、ソース導体10からはその電位を電気的に伝えるセンス機能を果たす突出部11が各チップ毎に設けられており、その突出部11は、ドレイン導体20とソース導体10間の物理的距離を等しく規定するスペーサ構造としての役割も果たす特徴を有するパワー半導体装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-67897号公報
【文献】特開2019-169666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のパワーモジュールにあっては、特許文献1の
図13、
図17のように突出したスペーサ形状の細い突起を有する交流導体板318を用いて直流正極導体板315の端部(一辺)よりも外側に設けられた上アーム信号導体324U2と金属接合材料160により接続する構造であったため、交流導体板318自体のサイズが大きくなると共に、交流導体板318の位置決めに高い精度が必要となり、製造歩留まりが低下するおそれがある。また、導体板の形状は限定される。
【0008】
特許文献2に記載のパワーモジュールにあっては、パワー半導体装置の組立性を向上できるものの、その小型化には課題がある。すなわち、組立性の向上のためにサブモジュールには、例えば4つの半導体素子に対して4つのソース導体10の突出部11が設けられる。そのため、4つ分の突出部11を接続するためのスペースが必要であり、サブモジュ―ルに必要な平面面積は4つの半導体素子に必要な面積に比較して大きくなる。センス配線以外にも、ゲート駆動信号を半導体素子へ伝達するためのゲート配線の面積も必要となる。このため、特許文献2の構成では、サブモジュ―ルの面積が増大する課題がある。
【0009】
さらに、複数のパワー半導体チップを並列接続して動作させるためには、そのゲート駆動信号に不要なノイズ電圧やノイズ電流が重畳しないようにパワー半導体モジュールを設計する必要がある。そのうち、ソースセンス端子は、ゲート信号端子と対に用いる重要な端子である。そのため、ソースセンス端子は、大きなスイッチング電流が流れない部位に配線してノイズ電圧の重畳を抑制することが広く知られている。一方、特許文献2に記載の装置は、サブモジュ―ルを複数組み合わせ、ソースを流れる大電流を、ソース外側導体110を介して流す構造である。従って、サブモジュ―ルのみに着目するとソースセンス機能を有する突起11はあるものの、ソース導体10自体には大電流が流れてしまう構造であるため、突起11には大電流とその経路のインピーダンスによって生じるノイズ電圧が重畳する課題がある。
【0010】
また、特許文献1および特許文献2に記載された、2枚の導体で複数のパワー半導体チップを挟む構造を有するパワー半導体モジュールにおいて、ゲート駆動電圧へのノイズ電圧重畳を低減する施策、およびパワー半導体モジュールの面積を小型化する施策については触れられていない。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ゲート駆動電圧へのノイズ電圧重畳を低減できるエミッタセンス端子またはソースセンス端子の配線経路を採用しつつ、小型なパワー半導体モジュールおよび電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のパワー半導体モジュールは、高電位端子と、前記高電位端子に電気的に接続された第1の導体板と、前記第1の導体板にドレインまたはコレクタが接続された複数のパワー半導体チップと、前記複数の半導体チップのソースまたはエミッタに接続され、前記第1の導体板に対向して配置された第2の導体板と、前記第2の導体板に電気的に接続された低電位端子と、前記複数の半導体チップのソースまたはエミッタの電位を検出するセンス端子と、を有する半導体モジュールであって、前記高電位端子と前記第1の導体板と前記センス端子とが設けられた第1の基板と、前記第1の基板に対向して配置され、前記第2の導体板が設けられた第2の基板と、前記センス端子に電気的に接続され、前記第1の基板と前記第2の基板との間の間隔を保ちつつ、前記第1の基板側から前記第2の基板の前記第2の導体板へ電気的に接続するセンス用スペーサ導体と、を有し、前記複数の半導体チップに対して1つの前記センス用スペーサ導体が対応し、前記高電位端子は、前記第1の基板の第1の辺に設けられ、前記センス用スペーサ導体と前記複数の半導体チップとが前記第1の辺に対して同じ側に配置されており、前記センス用スペーサ導体と前記第1の辺との間の最短距離は、前記複数の半導体チップのうち前記高電位端子に一番近い半導体チップと前記第1の辺との間の最短距離よりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ゲート駆動電圧へのノイズ電圧重畳を低減できるエミッタセンス端子またはソースセンス端子の配線経路を採用しつつ、小型なパワー半導体モジュールおよび電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施形態のパワー半導体モジュールの概略構成を示す平面図である。
【
図3】比較例のパワー半導体モジュールの概略構成を示す平面図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態のパワー半導体モジュールの構成のうち、半導体スイッチング素子を便宜上例にとって作成した電気的な特性を示す等価回路である。
【
図6】比較例のパワー半導体モジュールの構成のうち、半導体スイッチング素子を便宜上例にとって作成した電気的な特性を示す等価回路である。
【
図7】本発明の第1の実施形態と比較例のパワー半導体モジュールの動作波形の解析結果の一例を示すターンオフ波形図である。
【
図8】本発明の第1の実施形態と比較例のパワー半導体モジュールの動作波形の解析結果の一例を示すターンオン波形図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態のパワー半導体モジュールの概略構成を示す平面図である。
【
図12】本発明の第3の実施形態のパワー半導体モジュールを備える電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態のパワー半導体モジュールについて説明する。本実施形態では、2枚の絶縁基板を用いて構成するパワー半導体モジュールの大きさ、すなわち占有面積を低減するための構成について説明する。また、本実施形態では、モジュール内部に搭載した半導体スイッチング素子のゲート駆動信号の基準電位を検知するセンス配線に発生するノイズ電圧やノイズ電流を低減してゲート制御性を安定にし、スイッチング時の損失を削減できる効果について説明する。
【0016】
[概略構成]
図1は、本発明の第1の実施形態のパワー半導体モジュール200の概略構成を示す図であり、パワー半導体モジュール200を上方からみた平面図である。
図2は、
図1のA-A’矢視断面図である。各図面において同一の構成あるいは類似の機能を備えた構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
なお、
図1の平面図では、本来上層の部品があるため見えない下層の部品配置について、便宜上、上層の部品を透過させた前提でその配置を明示することを、予め述べておく。
図1では、高電位を印加する端子(上アームの直流のP端子または下アームの交流のAC端子)と、半導体スイッチング素子群(半導体チップ群)と、低電位を印加する端子(上アームの交流のAC端子または下アームの直流のN端子)とで構成するアーム回路を二つ直列接続する2in1構成の配置を示している。
【0017】
《上アーム回路構成》
[断面構造]
本発明の第1の実施形態のパワー半導体モジュール200は、対向配置(ここでは、絶縁基板10(第1の基板,第1の絶縁基板)を下側、絶縁基板20(第2の基板,第2の絶縁基板)を上側とし、これらを上下に配置)された2枚の絶縁基板10,20を用いて構成する。
図1および
図2において、部品を図示しない空隙は、絶縁性を有する樹脂で充填される。以降の説明では、空隙については特に必要がない限り説明を省略する。
【0018】
図1および
図2に示すように、パワー半導体モジュール200の下側に配置する絶縁基板10は、絶縁層18の上面(主面)に導体層11(第1の導体板)、12等、下面に導体層19を有し、パワー半導体モジュール200の上側に配置する絶縁基板20は、絶縁層28の上面に導体層29、下面(主面)に導体層21(第2の導体板)、22等を有する。
【0019】
絶縁基板10と絶縁基板20は、導体層11(第1の導体板)と導体層21(第2の導体板)が対向するよう配置される(主面同士が対向するように配置される)。
【0020】
複数の半導体スイッチング素子のうち、
図2に示す半導体スイッチング素子31~34(複数の半導体チップ)を例にとって説明する。半導体スイッチング素子31~34は、一方の平面上に電極301を配置し、他方の平面上に電極302と制御電極303を配置することで、電極301から電極302の縦方向に向かって電流が流れる。この電流のオン・オフは、電極302の電位を基準に、制御電極303に印加される電圧によって制御される。半導体スイッチング素子31~34がMOSFET型の素子である場合には、電極301はドレイン電極、電極302はソース電極、制御電極303はゲート電極である。
【0021】
パワー半導体モジュール200の所定の定格電流を満足するために、複数の半導体スイッチング素子31~34が備えられ、絶縁基板10の導体層11に電極301を電気的に接続するよう配置される。
【0022】
スペーサ導体41~44は、絶縁基板10の平面に鉛直方向に高さを有する導体形状を有し、半導体スイッチング素子31~34の電極302と絶縁基板20の下面の導体層21との間を電気的に接続する。スペーサ導体41~44は、機械的なスペーサとして半導体スイッチング素子31~34の電極302から絶縁基板20の下面の導体層21との間隙の距離を決める。スペーサ導体41~44と電極302および導体層21との電気的接続には、半田や焼結材料を用いた接合技術等を用いる。
図1に示す半導体スイッチング素子35~38、スペーサ導体45~48についても同様の構成となっている。接合技術に関しては後述するスペーサ導体71、72、81、82についても同様である。
【0023】
スペーサ導体71、72、81(後記)、82(後記)は、スペーサ導体41~44と同様に、絶縁基板10の平面に鉛直方向に高さを有する導体形状を有する。スペーサ導体71、81は、それぞれ絶縁基板10の導体層12、15Bと、絶縁基板20の導体層21との間を電気的に接続する。また、スペーサ導体72、82は、それぞれ絶縁基板20の導体層13、17Bと、絶縁基板20の導体層22との間を電気的に接続する。
図2に示すスペーサ導体71と72は、絶縁基板10の導体層と絶縁基板20の導体層を電気的に接続し、スイッチング時の大電流の経路となる導体である。
【0024】
まずは上アーム回路に着目して説明すると、本実施形態は、センス用スペーサ導体81を備えることを特徴とする。
センス用スペーサ導体81は、センス端子6に電気的に接続され絶縁基板10(第1の基板)と絶縁基板20(第2の基板)との間の間隔を保ちつつ、絶縁基板10側から絶縁基板20の導体層21(第2の導体板)へ電気的に接続する。
【0025】
センス用スペーサ導体81は、センス用スペーサ導体として用い、センス端子6に電気的に接続する絶縁基板10の導体層15B(第3の導体板)と、絶縁基板20の導体層21とを電気的に接続する。センス用スペーサ導体81は、導体層15B、ボンディングワイヤ100、導体層15Aを介してセンス端子6に電気的に接続されている。センス用スペーサ導体81は、電気的な経路となることのほかに、絶縁基板10と絶縁基板20との間の間隔を平行に保つための機械構造である。センス用スペーサ導体81の機能と配置について詳細に後述する。
【0026】
[主端子の接続]
図1および
図2に示すように、主端子1は、絶縁基板10の導体層11に電気的に接続され、その接続方法は半田やメタルボンディング等の手段によるもので、特に限定するものではない。主端子2は、絶縁基板10の導体層12に電気的に接続され、スペーサ導体71を介して絶縁基板20の導体層21(第2の導体板)に電気的に接続されている。主端子3は、絶縁基板10の導体層13に電気的に接続され、スペーサ導体72を介して絶縁基板20の導体層22に電気的に接続されている。
ここで、主端子1は、直流のP端子であり、主端子2は、交流のAC端子であり、主端子3は、直流のN端子である。上アームの場合は、主端子1が高電位端子となり、主端子2が低電位端子となる。下アームの場合は、主端子2が高電位端子となり、主端子3が低電位端子となる。
【0027】
上アーム回路に着目して説明すると、主端子1と主端子2は、同一の絶縁基板10に接続されている。電気的な接続の観点からは、例えば、主端子2が絶縁基板20の導体層21に接続されても問題はない。しかし、主端子の接続の工程が、絶縁基板10に対する第1の工程と、絶縁基板20に対する第2の工程との2回に分かれるために工程が増すことになる。複数の主端子や制御端子は、その製造コスト低減のために、一体化したリードフレーム部品として供給されることが多く、絶縁基板との接続工程は、その工数の削減の観点から、同一の絶縁基板への接続が望ましい。したがって、本実施形態では、
図2に示すように、主端子1と主端子2は同一の絶縁基板に接続する構造を採る。なお、下アーム回路に用いられる主端子2と主端子3の関係についても同様である。
【0028】
[平面構成]
図1は、パワー半導体モジュール200を上方から平面視した図である。説明の都合上、絶縁基板20のうち絶縁層28と導体層29を図示せず、導体層21、22の外形を破線で図示する。また、絶縁基板10のうち、絶縁層18の下面の導体層19も図示しない。
【0029】
図1では、高電位を印加する端子と、半導体スイッチング素子群と、低電位を印加する端子とで構成するアーム回路を二つ直列接続する2in1構成の配置を示している。
【0030】
本発明(本実施形態)の基本的な効果は、一つのアーム回路を例に採って説明できる。このために、上アーム回路について、高電位を印加する端子として主端子1を、複数の半導体スイッチング素子として素子31~38の8素子を、低電位を印加する端子として主端子2を、半導体スイッチング素子の制御端子としてゲート端子5とセンス端子6(ソースセンス端子)を例に採り説明する。
半導体スイッチング素子の種別は、限定されるものではないが、本実施形態では、SiC-MOSFETを例に採って説明する。
【0031】
センス端子6と、ゲート端子5は、主端子1(高電位端子)とともに、絶縁基板10の辺E(第1の辺)に設けられる。主端子2は、絶縁基板10の辺Eに対向する辺E’に設けられる。
【0032】
半導体スイッチング素子31~38は、ゲート配線14Cを中心に挟む鏡像の位置関係で配置されており、8つの半導体スイッチング素子31~38のゲート電極が中心に集合するようチップの向きを決めている。ゲート端子5は、絶縁基板10上の導体層14Aに電気的に接続され、ボンディングワイヤ99を介して、導体層14Bを中継導体としながら、ゲート配線14Cに接続される。ゲート配線14Cでは、主端子1の方向と主端子2の方向へと分かれてゲート電位が供給され、ボンディングワイヤ91~98によって半導体スイッチング素子31~38のゲート電極へ接続される。
【0033】
ゲート端子5は、複数の半導体スイッチング素子31~38のそれぞれのゲート電極に対して、等しい電気遅延時間で接続される。
【0034】
[センス用スペーサ導体81]
<センス端子6>
センス端子6は、絶縁基板10の導体層11(第1の導体板)と電気的に絶縁され、絶縁基板10上の導体層11と同じ主面に配置された導体層15Aに接続され、ボンディングワイヤ100、導体層15B(第3の導体板)、センス用スペーサ導体81を経由して絶縁基板20の導体層21(第2の導体板)に電気的に接続される。
【0035】
センス用スペーサ導体81が配置される平面的な位置(導体層15Bと導体層21に接続される平面的な位置)によって、センス端子6が検知するソースセンス電位へのノイズ電圧やノイズ電流の重畳の度合いが大きく異なる。
センス用スペーサ導体81が導体層15Bと導体層21に配置される位置によって、ソースセンス端子が検知するソースセンス電位へのノイズ電圧やノイズ電流の重畳の度合いが大きく異なる。
【0036】
<センス用スペーサ導体81の配置>
図1の符号B,C,D,E,F,Gは、センス用スペーサ導体81の配置位置を説明するための辺B、距離C、距離D、辺E、距離F、距離Gをそれぞれ示す。
図1の符号Bに示す辺Bは、高電位を与える主端子1(高電位端子)が導体層11(第1の導体板)に接続する端面を示す。主端子1は、長尺の矩形形状であるため、モジュール内側方向の端部の端面が、導体層11(第1の導体板)に接続する辺Bとなる。
図1の符号Cは、絶縁基板10の導体層11(第1の導体板)の辺Bから辺Bに最も近い半導体スイッチング素子38までの最短距離(センス用スペーサ導体81と主端子1との間の最短距離)を示す。
【0037】
図1の距離Dは、辺Bから、センス用スペーサ導体81までの最短距離(複数の半導体スイッチング素子31~38のうち主端子1に一番近い半導体スイッチング素子38と主端子1との間の最短距離)を示す。
辺Eは、絶縁基板10の一辺(第1の辺)であり、辺E側に主端子1が設けられている。距離Fは、センス用スペーサ導体81と辺Eとの間の最短距離を示す。距離Gは、複数の半導体スイッチング素子31~38のうち主端子1に一番近い半導体スイッチング素子38と辺Eとの間の最短距離を示す。
【0038】
本実施形態では、複数の半導体スイッチング素子31~38に対して1つのセンス用スペーサ導体81が対応し、センス用スペーサ導体81と複数の半導体チップ31~38とが辺Eに対して同じ側に配置されているとともに、距離Fが距離Gよりも小さい構成としている。このような位置にセンス用スペーサ導体81を配置することで、センス端子6が検知するソースセンス電位に主電流によるノイズ電圧やノイズ電流が重畳する度合いを小さくできる。
また、同様の理由により、本実施形態では、距離Dは、距離Cよりも小さいことが望ましい。
【0039】
センス用スペーサ導体81の数が多すぎると、センス端子6が検知するソースセンス電位に主電流によるノイズ電圧やノイズ電流が重畳しやすくなるため、複数の半導体スイッチング素子31~38(複数の半導体チップ)に対して1つのセンス用スペーサ導体81が対応すればよく、本実施形態では、センス用スペーサ導体81の個数は、複数の半導体スイッチング素子の数に依らない。特に、一つのセンス用スペーサ導体81が、一つのアーム回路に対応する配置となればよい。
【0040】
<絶縁基板20とセンス用スペーサ導体81の配置>
絶縁基板20の導体層21(第2の導体板)において、複数の半導体スイッチング素子31~38が当該導体層21に電気的に接続される位置は、センス用スペーサ導体81が電気的に接続される位置と、主端子2(低電位端子)が電気的に接続される位置(主端子2が絶縁基板10側に設けられている場合はスペーサ導体71の位置)の間にある。
【0041】
また、主端子1(高電位端子)と、センス用スペーサ導体81と、複数の半導体スイッチング素子31~38と、主端子2(低電位端子)の位置関係は、主端子1が絶縁基板10の導体層11(第1の導体板)に電気的に接続される位置から見て(
図2を参照して側面視すれば)、センス用スペーサ導体81、複数の半導体スイッチング素子31~38、主端子2が絶縁基板20の導体層21(第2の導体板)に電気的に接続される位置(主端子2が絶縁基板10側に設けられている場合はスペーサ導体71の位置)、の順になっている。
【0042】
以上、上アーム回路構成について説明した。以下、下アーム回路構成について述べる。下アーム回路構成は、上アーム回路構成と同様であり、重複箇所の説明を省略する。
【0043】
《下アーム回路構成》
[断面構造]
図1に示すように、複数の半導体スイッチング素子のうち、
図1に示す下アーム回路構成の半導体スイッチング素子51~58は、上アーム回路構成の半導体スイッチング素子31~38の場合と同様に、つまり、下アーム回路構成でも、一方の平面上に
図2の電極301と同様の電極を配置し、他方の平面上に
図2の電極302と同様の電極と電極303と同様の電極を配置する。これにより、下アーム回路構成でも、上アーム回路構成で電極301から電極302の縦方向に向かって電流が流れると説明したのと同様の電流が流れる。この電流のオン・オフは、下アーム回路構成でも、上アーム回路構成で電極302の電位を基準に、制御電極303に印加される電圧によって制御されると説明したのと同様になる。
【0044】
下アーム回路構成のスペーサ導体61~68でも上アーム回路構成と同様で、絶縁基板10の平面に鉛直方向に高さを有する導体形状を有し、半導体スイッチング素子51~58の電極302と絶縁基板20の下面の導体層22(
図1参照)との間を電気的に接続する。ここで、下アーム回路の場合は、導体層21に代えて、導体層22に接続される点で、上アーム回路の場合とは異なっている。スペーサ導体61~68は、機械的なスペーサとして半導体スイッチング素子51~58の電極302から絶縁基板20の下面の導体層22との間隙の距離を決める。
【0045】
スペーサ導体72(
図1参照)、82は、スペーサ導体61~68と同様に、絶縁基板10の平面に鉛直方向に高さを有する導体形状を有し、絶縁基板10(
図2参照)の導体層13、17Bと、絶縁基板20の導体層22との間を電気的に接続する。
【0046】
センス用スペーサ導体82は、センス端子9に電気的に接続する絶縁基板10の導体層17B(第3の導体板)と、絶縁基板20の導体層22とを電気的に接続する。センス用スペーサ導体82は、導体層17B、ボンディングワイヤ100A、導体層17Aを介してセンス端子9に電気的に接続されている。センス用スペーサ導体82は、電気的な経路となることのほかに、絶縁基板10と絶縁基板20との間の間隔を平行に保つための機械構造である。
【0047】
[平面構成]
半導体スイッチング素子51~58は、ゲート配線16Cを中心に挟む鏡像の位置関係で配置されており、8つの半導体スイッチング素子51~58のゲート電極が中心に集合するようチップの向きを決めている。ゲート端子8は、絶縁基板10上の導体層16Aに電気的に接続され、ボンディングワイヤ109を介して、導体層16Bを中継導体としながら、ゲート配線16Cに接続される。ゲート配線16Cでは、主端子2の方向と主端子3の方向へと分かれてゲート電位が供給され、ボンディングワイヤ101~108によって半導体スイッチング素子51~58のゲート電極へ接続される。
【0048】
[ソースセンス用スペーサ導体82]
センス用スペーサ導体82が配置される平面的な位置(導体層17Bと導体層22に接続される平面的な位置)によって、センス端子9が検知するソースセンス電位へのノイズ電圧やノイズ電流の重畳の度合いが大きく異なる。
【0049】
センス用スペーサ導体82と主端子2との位置関係は、センス用スペーサ導体81と主端子1との位置関係と同様である。すなわち、センス用スペーサ導体81の配置位置を説明するために用いた辺B、距離C、距離D、辺E、距離F、距離Gは、センス用スペーサ導体82の配置位置を説明するための辺B’、距離C’、距離D’、辺E’、距離F’、距離G’にそれぞれ対応し、同様の関係にある。
【0050】
[パワー半導体モジュール200の効果]
以下、上述のように構成されたパワー半導体モジュール200の効果について説明する。
本発明(本実施形態)によって得られる2つの効果について説明する。
【0051】
<スイッチング損失の低減>
本発明(本実施形態)によって得られる2つの効果のうち、スイッチング損失の低減効果を
図3および
図4に示す比較例を参照して説明する。
ここでは、上アーム回路構成を例に採り説明する。
【0052】
図3は、比較例のパワー半導体モジュール200Aの概略構成を示す図であり、比較例のパワー半導体モジュール200Aを上方からみた平面図である。
図4は、
図3のA-A’矢視断面図である。
図1および
図2と同一構成部分には、同一の符号を付し、重複する部分について説明を省略する。
比較例のパワー半導体モジュール200Aは、
図1に示すパワー半導体モジュール200の絶縁基板、半導体スイッチング素子、導体層、スペーサ導体の機能が同じである。
比較例のパワー半導体モジュール200Aは、
図1に示すパワー半導体モジュール200と、センス端子6からのソースセンス配線経路が異なっている。
【0053】
図3および
図4に示すように、比較例のパワー半導体モジュール200Aは、ソースセンス端子6が、絶縁基板10上に配置した導体層12に電気的に接続される。比較例のパワー半導体モジュール200Aは、センス用スペーサ導体81を有しないために、絶縁基板20上の導体層21で得られる複数の半導体スイッチング素子のソースセンス電位は、スペーサ導体71を介して絶縁基板10上の導体層12へ電気的に接続して得る。
【0054】
このため、比較例のパワー半導体モジュール200Aでは、導体層12をソースセンス端子6から凡そ基板の縦寸法程度の長い距離を引き回す(後記
図6のセンス端子6の信号線引き回し参照)ことになり、複数の半導体スイッチング素子に流入出する大電流の主電流が流れる導体層11と導体層21からの磁気的結合(後記
図6の相互インダクタンスM参照)によるノイズ電流が印加されやすくなる。
【0055】
また、検知できるソースセンス電位は、複数の半導体スイッチング素子のソース電極から流出した主電流が絶縁基板20上の導体層21の寄生抵抗や寄生インダクタを含む寄生インピーダンスによって生じるノイズ電圧が重畳した後のソースセンス電位を検知することになる。
さらに、解決課題で述べたように、主端子の接続の工程を簡略化するために、主端子は同一の絶縁基板上の導体層に接続することが製造コスト上の望まれるために、複数の半導体スイッチング素子のソース電極から流出した主電流は、スペーサ導体71を通流する際に、スペーサ導体71で生じる寄生インピーダンスの影響も受ける。
【0056】
図5および
図6を参照して、<スイッチング損失の低減>効果の具体的な説明を行う。
・本実施形態のパワー半導体モジュール200
図5は、本実施形態のパワー半導体モジュール200(
図1および
図2参照)の構成のうち、半導体スイッチング素子31~34を便宜上例にとって作成した電気的な特性を示す等価回路である。
図5の等価回路において、高電位を印加する主端子1に対し、半導体スイッチング素子31~34のドレインが接続され、そのソースは低電位を印加する主端子2に接続される。半導体スイッチング素子31~34のゲート制御は、ゲート端子5とセンス端子6によって制御される。
図5中の回路図には、
図1および
図2の構造に起因して発生する寄生インピーダンスZを配置している。
ソースセンス端子6が検知するソース電位に着目して説明する。
半導体スイッチング素子31~34から流出する主電流Isは、主端子2に向けて流れるために、寄生インピーダンスZ33、Z32、Z31そしてZ71を流れる。これにより、寄生インピーダンスとその通流電流で決まるノイズ電圧Vnoise1が発生してしまう。
【0057】
Vnoise1=(Is34)×Z33
+(Is33+Is34)×Z32
+(Is32+Is33+Is34)×Z31
+(Is31+Is32+Is33+Is34)×Z71
ここで、Is31~Is34は、半導体スイッチング素子31~34のソース電流を示す。
【0058】
本実施形態のパワー半導体モジュール200は、
図1および
図2の構成を採ることによって、
図5の等価回路に示すように、ソースセンス端子6の電位は、半導体スイッチング素子34のソース電極の接続位置から、小さな寄生インピーダンスZ81を経由するのみで得ることができる。ソースセンス端子6に流れる電流は、ゲート駆動電流Igの帰還電流となるため、その電流の大きさはIgと等しく、前記の半導体スイッチング素子31~34から流出する主電流Isに対して多くとも1/100(それ以下)であるために小さな電流量といえる。
【0059】
ソースセンス端子6のセンス電位に重畳するノイズ電圧Vnoise2は、
Vnoise2=Ig×Z81
となり、Vnoise1と比較して小さいことが分かる。この特徴は、前述のように、2枚の絶縁基板を用いて構成するパワー半導体モジュール200において、センス用スペーサ導体81を、前記所定の位置関係に配置することによって得られる効果である。
【0060】
・比較例のパワー半導体モジュール200A
図6は、比較例のパワー半導体モジュール200A(
図3および
図4参照)の構成のうち、半導体スイッチング素子31~34を便宜上例にとって作成した電気的な特性を示す等価回路である。
図6の等価回路に示すように、ソースセンス端子6が検知するソースセンス電位には、前述のVnoise1が重畳してしまう。また、すべての磁気的結合を網羅するものではないが、ソース端子6を接続する引きまわし配線(導体層12の一部)によるインピーダンスZ12Aに対し、半導体スイッチング素子31~34のソース電流が流れる配線(導体層21)のインピーダンスZ31~Z33からの相互インダクタンスによる磁気的結合(
図6の相互インダクタンスM参照)、そして、
図6に図示しない半導体スイッチング素子31~34のドレイン電流が流れる配線経路(導体層11)からの相互インダクタンスによる磁気的結合、によって、ソースセンス端子6を流れる電流にはノイズ電流が重畳することが分かる。
【0061】
・本実施形態と比較例のパワー半導体モジュールのスイッチング時の波形の比較
本発明の<スイッチング損失の低減>効果の一例を、スイッチング時の波形の比較によって説明する。
図7および
図8は、本実施形態のパワー半導体モジュール200(
図1および
図2参照)および比較例のパワー半導体モジュール200A(
図3および
図4参照)を模擬して計算回路を構築し、その計算回路を用いてダブルパルススイッチングを行った場合の波形の一例である。
【0062】
図7は、本実施形態と比較例のパワー半導体モジュールの動作波形の解析結果の一例を示すターンオフ波形図である。
図8は、本実施形態と比較例のパワー半導体モジュールの動作波形の解析結果の一例を示すターンオン波形図である。
図7および
図8横軸は時間T、の左縦軸は、主端子1-主端子2間の電圧Vds[V],主端子2から流出するソース電流の総和Is[A]を示し、右縦軸はゲート端子5とソースセンス端子6間の差電圧Vgs[V]を示す。また、横軸のグリッドの時間幅は100[ns]である。
図7および
図8の波形を見る場合、楕円とその矢印方向の縦軸を参照するものとする。
【0063】
図7および
図8において、実線で示す特性は本実施形態の
図1および
図2のパワー半導体モジュール200の計算回路を用いた場合の特性を示し、破線で示す特性は比較例の
図3および
図4のパワー半導体モジュール200Aの計算回路を用いた場合の特性を示す。
【0064】
図7には、スイッチング事象のうち、ターンオフのタイミングの波形の動きを示す。Vgsは、
図1および
図2で示すゲート端子5とソースセンス端子6間の差電圧の過渡波形を示し、Vdsは、主端子1と主端子2間の差電圧の過渡波形を示している。また、Isは、主端子2を流出するソース電流の総和の過渡波形を示している。
図7では、Vgsの波形において差異が発生し、
図7中のハッチング部位(「ノイズ電圧」Vn参照)で示す電圧が異なっていることが分かる。その影響が、VdsとIsの変化に影響しており、破線で示す
図6の比較例の計算回路を用いた特性は、VdsとIsが共に緩やかに変化する。このため、
図6の比較例の計算回路を用いた特性は、
図5の本実施形態の計算回路を用いた特性に対して、ターンオフ時のスイッチング損失(損失電力;VdsとIsの積の積分)が大きくなることが分かる。
【0065】
同様の見方で、
図8に示すターンオン波形について述べる。
ターンオン波形では、Vgs波形における実線と破線との差異がより大きく示されており、
図8中のハッチング部位(「電圧波形の劣化」Vd参照)で示す電圧の差異を確認できる。これに伴い、
図7に示すターンオフ波形と同様に、VdsとIsが共に緩やかに変化し、特にVdsに関しては大きなノイズ電圧が重畳していることが分かる。したがって、ターンオン波形においても、
図6の比較例の計算回路を用いた特性は、
図5の本実施形態の計算回路を用いた特性に対して、ターンオン時のスイッチング損失が大きくなることが分かる。
このように、本実施形態のパワー半導体モジュール200(
図1および
図2参照)は、センス用スペーサ導体の適用とその配置位置によって、スイッチング損失の低減を可能することができる。
【0066】
<モジュールの小型化>
本発明のもう一つの利点であるモジュールの小型化についても、例示によって定量的に効果を述べる。
図1に付記した本実施形態のパワー半導体モジュール200の絶縁基板10の横寸法(紙面の左右方向)をX1とし、縦寸法(紙面の上下方向)をY1とする。同様に、
図3に付記した比較例のパワー半導体モジュール200Aの絶縁基板10の横寸法(紙面の左右方向)をX2とし、縦寸法(紙面の上下方向)をY2とする。ここで、Y1とY2は同じ寸法を取り得るが、横寸法については、
図3の比較例のパワー半導体モジュール200Aの絶縁基板10の横寸法X2は、ソースセンス用の配線の引き回し部(導体層12A)の配置により、本実施形態のパワー半導体モジュール200の絶縁基板10の横寸法X1に対して大きくなる。
【0067】
例えば、1.2kVの絶縁耐圧を定格とするパワー半導体モジュールの標準的な配線パターンの幅と、パターン間の絶縁距離を考慮すると、X1はX2を基準にして92%に縮小できる効果が得られる。絶縁基板10の寸法は、絶縁基板20より大きく設計した場合に、モジュールの寸法を決定する支配的な寸法となることから、本発明を適用することにより、パワー半導体モジュールのサイズを小さくすることができると言える。
【0068】
本発明の効果を本実施形態に適用した場合の効果を整理すると、下記の通りである。
(1)半導体スイッチング素子を搭載する絶縁基板の面積を低減できる。
(2)上記(1)の絶縁基板を搭載するパワー半導体モジュールのサイズを小型化できる。
(3)ソースセンス端子の検知信号におけるノイズ電圧とノイズ電流を低減することにより、良好なスイッチング波形を取得して、そのスイッチング損失を低減することができる。
【0069】
[効果]
以上説明したように、本実施形態に係る半導体モジュール200は、主端子1と、主端子1に電気的に接続された導体層11(第1の導体板)と、第1の導体板11にドレイン301またはコレクタが接続された複数の半導体スイッチング素子31~38(複数の半導体チップ)と、複数の半導体スイッチング素子31~38のソースまたはエミッタに接続され、導体層11に対向して配置された導体層21(第2の導体板)と、導体層21に電気的に接続された主端子2と、複数の半導体スイッチング素子31~38のソースまたはエミッタの電位を検出するセンス端子6と、を有する半導体モジュールであって、主端子1と導体層11とセンス端子6とが設けられた絶縁基板10(第1の基板,第1の絶縁基板)と、絶縁基板10に対向して配置され、導体層21が設けられた絶縁基板20(第2の基板,第2の絶縁基板)と、センス端子6に電気的に接続され、絶縁基板10と絶縁基板20との間の間隔を保ちつつ、絶縁基板10側から絶縁基板20の導体層21へ電気的に接続するセンス用スペーサ導体81と、を有し、複数の半導体スイッチング素子31~38に対して1つのセンス用スペーサ導体81が対応し、主端子1は、絶縁基板10の第1の辺に設けられ、センス用スペーサ導体81と複数の半導体スイッチング素子31~38とが第1の辺に対して同じ側に配置されており、センス用スペーサ導体81と第1の辺との間の最短距離は、複数の半導体スイッチング素子31~38のうち主端子1に一番近い半導体チップ31と第1の辺との間の最短距離よりも小さい構成を採る。
【0070】
また、半導体モジュール200は、センス端子6は、導体層11(第1の導体板)と電気的に絶縁され、絶縁基板10(第1の基板,第1の絶縁基板)上の導体層11と同じ主面に配置され、導体層21(第2の導体板)と対向する第3の導体板15Bに電気的に接続され、センス端子6は、第3の導体板15Bと第2の導体板21間の距離を保ちつつ、第3の導体板15Bを介して導体層21と電気的に接続するセンス用スペーサ導体81を経由して導体層21に接続される。
【0071】
また、主端子1は、絶縁基板10の第1の辺において、導体層11に接続され、センス用スペーサ導体81と主端子1との間の最短距離は、複数の半導体チップ31~38のうち主端子1に一番近い半導体チップ38と主端子1との間の最短距離よりも小さい。
【0072】
従来のように複数の半導体チップ毎にゲート/ソースセンス駆動配線を引き回すと、配線占有面積が増大し、モジュール基板が増大する、または搭載チップ数が減少する。これに対して、本実施形態は、複数の半導体チップに対して共通のソースセンス配線を設け、センス専用のセンス用スペーサ導体81を介してソース電極用導体へ接続する。これにより、配線部の小面積化、すなわち、ゲート/ソースセンス配線の短距離かつ簡素化を実現でき、基板の小型化を図ることができる。
【0073】
また、スイッチング時の駆動信号へのノイズ電圧は、過渡的な大電流が寄生RやLを有する経路に流れて発生する。本実施形態は、センス用スペーサ導体81は、ソース電極用導体の主電流が流れない部位、かつ、半導体チップより主端子1(高電位端子)に近い部位(センス用スペーサ導体81の配置位置が高電位から低電位経路に流れる最も高電位側に配置)に接続することで、ノイズ電圧の影響を軽減させることができる。
【0074】
また、センス端子6に接続されるセンス用スペーサ導体81を、主端子1(高電位端子)から半導体スイッチング素子31~38までの経路よりも近い位置に設けることで、主端子1から各半導体スイッチング素子31~38に流れる電流によるノイズ電圧がソースセンス電圧に乗ってしまう影響を小さくできる。
【0075】
その結果、モジュールの小型化と駆動信号へのスイッチングノイズの低減による低スイッチ損失化の利点が同時に得られる。本発明を導入した小型SiCモジュールを搭載したEV用及び産業用電力変換装置に適用して好適である。
【0076】
(第2の実施形態)
図9は、本発明の第2の実施形態のパワー半導体モジュール200Bの概略構成を示す図であり、パワー半導体モジュール200Bを上方からみた平面図である。
図10は、
図9のA-A’矢視断面図である。
図1および
図2と同一構成部分には同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
なお、
図9の平面図では、本来上層の部品があるため見えない下層の部品配置について、便宜上、上層の部品を透過させた前提でその配置を明示する。
【0077】
[概略構成]
本実施形態のパワー半導体モジュール200Bは、
図1および
図2に示すパワー半導体モジュール200に対し、ゲート端子5,8に電気的に接続する絶縁基板10上の配線の経路と構成が異なる。すなわち、パワー半導体モジュール200Bは、
図1および
図2に示すパワー半導体モジュール200のゲート配線14Cおよびこのゲート配線14Cにボンディングワイヤ99で接続される絶縁基板10上の導体層14Aの構成が異なる。
【0078】
[平面構造]
図9に示すように、パワー半導体モジュール200Bは、
図1に示すパワー半導体モジュール200のボンディングワイヤ100,100Aが、ボンディングワイヤ111,112に置き換えられている。
【0079】
・上アーム回路構成
パワー半導体モジュール200Bは、ゲート端子5が、導体層14Aに電気的に接続され、導体層14Aはボンディングワイヤ99を介してゲート配線導体層14Cへと接続される。ゲート配線導体層14Cは、ボンディングワイヤ94と98を介して半導体スイッチング素子34と38のゲート電極にそれぞれ電気的に接続される。
【0080】
一方、半導体スイッチング素子33と37のゲート電極は、ゲート抵抗121Aを介してゲート配線導体層14Cと接続したゲート配線導体層14Dに、ボンディングワイヤ93と97を介して接続される。
【0081】
すなわち、ゲート配線導体層14Cとゲート配線導体層14Dとは、ゲート抵抗121Aを介して直列に接続されており、ゲート配線導体層14Cは、ボンディングワイヤ94と98とを介して半導体スイッチング素子34と38のゲート電極に接続され、ゲート配線導体層14Dは、ボンディングワイヤ93と97を介して半導体スイッチング素子33と37のゲート電極に接続される。
【0082】
同様に、半導体スイッチング素子32と36のゲート電極は、ゲート抵抗121Bを介してゲート配線導体層14Dと接続したゲート配線導体層14Eに、ボンディングワイヤ94と96を介して接続される。また、半導体スイッチング素子31と35のゲート電極は、ゲート抵抗121Cを介してゲート配線導体層14Eと接続したゲート配線導体層14Fに、ボンディングワイヤ91と95を介して接続される。
【0083】
・下アーム回路構成
パワー半導体モジュール200Bは、ゲート端子8が、導体層16Aに電気的に接続され、導体層16Aはボンディングワイヤ109を介してゲート配線導体層16Cへと接続される。ゲート配線導体層16Cは、ボンディングワイヤ101と105を介して半導体スイッチング素子51と55のゲート電極にそれぞれ電気的に接続される。
【0084】
一方、半導体スイッチング素子52と56のゲート電極は、ゲート抵抗122Aを介してゲート配線導体層16Cと接続したゲート配線導体層16Dに、ボンディングワイヤ102と106を介して接続される。
【0085】
同様に、半導体スイッチング素子53と57のゲート電極は、ゲート抵抗122Bを介してゲート配線導体層16Dと接続したゲート配線導体層16Eに、ボンディングワイヤ103と107を介して接続される。また、半導体スイッチング素子54と58のゲート電極は、ゲート抵抗122Cを介してゲート配線導体層16Eと接続したゲート配線導体層16Fに、ボンディングワイヤ104と108を介して接続される。
【0086】
上アーム回路構成を例に採りパワー半導体モジュール200Bの回路動作を説明する。
図9および
図10の構成を採ることによって、導体層14Cから導体層14Fのゲート駆動信号の電位は、各導体層を流れるゲート駆動電流Igの値と、ゲート抵抗121A~121Cとのよって発生する電位差の影響を受けて変化する。例として、半導体スイッチング素子31~34のゲート電位をVg31~Vg34とすると、その電位の大小関係は、スイッチング動作中において、ゲート端子5を流れるゲート電流Igが半導体スイッチング素子に流れ込む方向の場合には、
Vg34 > Vg33 > Vg32 > Vg31
の関係が生ずるように設定可能となる。
【0087】
図11は、
図9および
図10の構成を簡略化した等価回路である。
図11に示すように、ゲート抵抗121A~121Cによる電圧降下により、上記のVg31~Vg34の電位の大小関係が得られる。各半導体スイッチング素子のソース電位は、Vs31~Vs34で示す場合に、ソース電流が寄生インピーダンスZ31~Z33を通流するために、
Vs34 > Vs33 > Vs32 > Vs31
の関係が生じる。
【0088】
したがって、ゲート電位Vg31~Vg34に上記電位を発生させることにより、各半導体スイッチング素子のゲート・ソース間電圧Vgs31~Vgs34の偏差を小さくすることができる。
図9および
図10の構成を採ることによって、複数の半導体スイッチング素子のVgs偏差を小さく抑制することが可能となり、各半導体スイッチング素子を流れる電流の大小の偏差を低減することができる。
【0089】
なお、ゲート端子5を流れるゲート電流Igが半導体スイッチング素子から流出する方向の場合には、
Vg34 < Vg33 < Vg32 < Vg31
の関係が生じ、この場合も同様の効果を奏する。
【0090】
さらに、パワー半導体モジュール200Bは、絶縁基板10の面積に関する視点では、
図1および
図2におけるゲート引き回し導体層(14A、14B、16A、16B)を削除できることから、一層の面積の削減が可能となる。
【0091】
図3の比較例で付記した絶縁基板10の横寸法(紙面の左右方向)をX2と、縦寸法(紙面の上下方向)をY2を基準とすると、
図9に示した寸法Y3とY2は同じ寸法、または14B、16Bを削除した分だけY3はY2より小さい寸法となり、横寸法については
図9のX3はX2に対して小さく設定できる。同様に、例えば、1.2kVの絶縁耐圧を定格とするパワー半導体モジュールの標準的な配線パターンの幅と、パターン間の絶縁距離を考慮すると、X3はX2を基準にして83%に縮小できる効果が得られる。絶縁基板10の寸法は、絶縁基板20より大きく設計した場合に、モジュールの寸法を決定する支配的な寸法となることから、本発明に第2の実施形態示す構成を適用することにより、パワー半導体モジュールのサイズを小さくすることができると言える。
【0092】
このため、第2の実施形態(
図9および
図10)の構成は、第1の実施形態(
図1および
図2)に比較して、下記の特有の効果がある。
(1)ソースセンス端子の検知信号におけるノイズ電圧とノイズ電流を低減しつつ、ゲート・ソース間電圧の偏差を低減することにより、各半導体スイッチング素子を流れる電流の大小の偏差をより低減することができる。
(2)半導体スイッチング素子を搭載する絶縁基板の面積をより低減できる。
(3)(2)記載の絶縁基板を搭載するパワー半導体モジュールのサイズを小型化できる。
と言える。
【0093】
このように、パワー半導体モジュール200Bは、ゲート端子5が、絶縁基板10上の導体層11(第1の導体板)と同じ主面側に配置される複数の導体板によって構成される導体層14C~14F(ゲート配線導体板群)と複数のボンディングワイヤ91~98を介して、複数の半導体スイッチング素子31~38のゲート電極に電気的に接続される。
【0094】
例えば、ゲート端子5から与えられるゲート駆動電圧は、複数の半導体チップ31~38のそれぞれのゲート電極に対して、異なった電圧レベルで与えられ、ゲート電流が、複数の半導体チップ31~38のそれぞれのゲート電極に流入する場合には、複数の半導体チップの主端子1に近い側の半導体のスイッチング素子には高い電圧レベルで、複数の半導体チップ31~38の主端子1に遠く主端子2に近い側の半導体のスイッチング素子35には低い電圧レベルで与えられ、ゲート電流が、複数の半導体チップ31~38のそれぞれのゲート電極から流出する場合には、複数の半導体チップ31~38の主端子1に近い側の半導体のスイッチング素子には低い電圧レベルで、複数の半導体チップ31~38の主端子1に遠く主端子2に近い側の半導体のスイッチング素子35には高い電圧レベルで与えられる。
【0095】
一般的に、パワー半導体モジュールでは、スイッチング時のVgs駆動信号をノイズ電圧を抑制して各チップに供給する必要ある。本実施形態では、ゲート配線上に電位差を設けることで、各チップのVgsを均等化することができる。これにより、第1の実施形態の効果、すなわち面積小、駆動信号ノイズ低減に加え、チップ均等動作の効果を得ることができる。
【0096】
(第3の実施形態)
図12は、本発明の第3の実施形態のパワー半導体モジュールを備える電力変換装置の構成を示すブロック図である。本実施形態は、バッテリー250と、電力変換装置260と、負荷となる電動機270によって構成される電気自動車の車軸を駆動する3相交流電動機に適用した例である。
【0097】
本実施形態の電力変換装置260は、2in1のパワー半導体モジュール200(200a、200b、200c)によって構成される一相分のレグ回路3つと、コンデンサ240と、制御回路230とを備えている。なお、電力変換装置260は、交流の相数に等しいゲート駆動回路210(210a、210b、210c)を備えている。
電力変換装置260は、コンデンサ240により主電圧(Vcc)を保持し、制御回路230により生成された各パワー半導体モジュール200内の半導体スイッチング素子のゲート駆動信号は、ゲート駆動回路210a,210b,210cを介して各パワー半導体モジュール200へと入力される。
レグ回路220a,220b,220cは、それぞれ第1相のインバータレグ、第2相のインバータレグ、第3相のインバータレグを構成する。各インバータレグの出力が電動機270と接続される。
【0098】
本実施形態では、レグ回路220a,220b,220cは、同じ回路構成を有している。そこで、レグ回路220aを例に採って回路構成について説明する。
レグ回路220aは、パワー半導体モジュール200aによって構成される一対の上下アームと、パワー半導体モジュール200aをオン・オフ制御するゲート駆動回路210aと、を備えている。
【0099】
パワー半導体モジュール200aは、ハーフブリッジ回路の一つのレグ回路を構成する。主端子として、主端子1と、主端子2と、主端子3とを有し、補助端子として、上アーム用に、ドレイン電圧をセンスするドレインセンス端子4と、ゲート端子5と、ソースセンス端子6と、を有し、下アーム用に、ドレインセンス端子7と、ゲート端子8と、ソースセンス端子9と、を有する。
【0100】
本実施形態によれば、電力変換装置260に搭載されるパワー半導体モジュール200に、第1の実施形態のパワー半導体モジュール200または第2の実施形態のパワー半導体モジュール200Bのいずれかで説明したパワー半導体モジュールが用いられている。
【0101】
電力変換装置260は、パワー半導体モジュール200,200Bを備えることにより、電力変換装置260やそれを含んで構成する電気自動車用モータ駆動システムを小型化することができる。
【0102】
また、パワー半導体モジュール200,200Bに内蔵するソースセンス経路に重畳するノイズ電圧やノイズ電流を低減できるため、パワー半導体モジュール200,200Bは、前記比較例のモジュール構成に比較して、スイッチング損失を低減することができる。これにより、電力変換装置260やそれを含んで構成する電気自動車用モータ駆動システムを、小型化することができ、かつ、その低損失化を図ることができる。
【0103】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。例えば、上記の実施形態は本発明に対する理解を助けるために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0104】
例えば、パワー半導体モジュール200を構成する部材の寸法や絶縁距離はその応用に応じて任意でよい。
さらに、パワー半導体モジュール200を構成する半導体スイッチング素子のチップ配置は図示した形態に限定するものではない。
【0105】
また、上下アームを同一のパワー半導体モジュール200に搭載する実施例について、その一方のアーム回路に注目して説明を行ったが、他方のアーム回路も同様の効果を有し、2in1構成にすることによる効果の減少は無い。むしろ、2in1構成を採ることによって、パワー半導体スイッチング素子を流れる主電流の向きが、近接する導体層間で逆方向に流れる効果によって、寄生インダクタンスが減少する付帯的な効果が得られることは広く知られており、高性能のパワー半導体モジュールの提供の視点では、好適な事例を示唆している。
【0106】
パワー半導体モジュール200としては、MOSFETのほか、JFET型(Junction Field Effect Transistor)等のユニポーラデバイスや、IGBTなどのバイポーラデバイスのいずれでもよい。なお、デバイスに応じて、主端子やセンス端子の名称が、上述の「ドレイン」および「ソース」に代えて、「コレクタ」および「エミッタ」と呼称される。
【0107】
また、パワー半導体モジュールを構成する形態は、実施例で示したパワー半導体モジュール200による2in1や、1つのアーム回路で構成する1in1タイプのモジュールの他、3つ以上のパワー半導体モジュール200を用いた三相フルブリッジ回路でもよい。
【0108】
また、本パワー半導体モジュール1を適用する電力変換装置は、電気自動車用モータ駆動システムの他、太陽光発電装置におけるPCS(Power Conditioning System)や鉄道車両電気システム等にも適用できる。
【符号の説明】
【0109】
1 主端子
2 主端子
3 主端子
4,7 センス端子(ドレインセンス端子)
5,8 ゲート端子
6,9 センス端子(ソースセンス端子)
10 絶縁基板(第1の基板,第1の絶縁基板)
11 導体層(第1の導体板)
14C~14F 導体層(ゲート配線導体板群)
15B、17B 導体層(第3の導体板)
16B 絶縁層(中継導体)
16C ゲート配線
18 絶縁層
19 導体層
20 絶縁基板(第2の基板,第2の絶縁基板)
21 導体層(第2の導体板)
28 絶縁層
29 導体層
31~38,51~58 半導体スイッチング素子(半導体チップ)
41~48,71,72,61~68 スペーサ導体
81,82 センス用スペーサ導体
91~99,101~109,110 ボンディングワイヤ
121,122 ゲート抵抗
200,200B パワー半導体モジュール
210 ゲート駆動回路
220 レグ回路
230 制御回路
240 コンデンサ
250 バッテリーもしくは電源回路
260 電力変換装置
270 電動機
301 半導体チップのドレイン電極
302 半導体チップのソース電極
303 半導体チップのゲート電極
B,B’ 辺
C,C’ 距離
D,D’ 距離
E,E’ 辺
F,F’ 距離
G,G’ 距離