(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞、疾患治療剤及び微小粒子
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20241126BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20241126BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20241126BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20241126BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P1/16
A61P37/02
C12N5/0775
(21)【出願番号】P 2018043227
(22)【出願日】2018-03-09
【審査請求日】2021-02-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、再生医療実用化研究事業「ヒト成体間葉系幹細胞の再生医療実現のためのゲノム科学に基づく品質管理と体内動態研究」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】倉田 隼人
(72)【発明者】
【氏名】石井 強
(72)【発明者】
【氏名】落谷 孝広
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】北田 祐介
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/117585(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0330047(US,A1)
【文献】特開2016-138092(JP,A)
【文献】国際公開第2014/200068(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/090509(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/110425(WO,A1)
【文献】日本輸血細胞治療学会誌,2013年,第59巻,第3号,p.450-456
【文献】STEM CELLS,2004年,22,p.1346-1355
【文献】Regen. Med.,2017,Vol.12,No.2,p.153-167
【文献】Frontiers in Immunology,2013,Vol.4,Article 203
【文献】Stem Cell Res. Ther.,2014,Vol.5,No.3,#76
【文献】MSC-derived exosomes: a novel possible treatment for liver fibrosis,Rijksuniversiteit Groningen,2016,<https://fse.studenttheses.ub.rug.nl/14921/1/Essay_exosomen_liver_fibrosis__1.pdf>
【文献】Experimental & Molecular Medicine,2017,Vol.49,e346
【文献】独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構研究評価委員会,「ヒト幹細胞産業応用促進基盤技術開発/ヒト幹細胞実用化に向けた評価基盤技術の開発」中間評価報告書,2013年,目次,p.1~6,p.III-5-1~III-5-26,<https://www.nedo.go.jp/content/100564213.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
A61P
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪組織由来間葉系幹細胞並びに/又はmiR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634のマイクロRNAを含むその培養上清を含有する免疫性疾患又は肝疾患治療剤であって、上記脂肪組織由来間葉系幹細胞が、37℃、酸素濃度0.5%~2.0%の条件下で72時間培養して得られた脂肪組織由来間葉系幹細胞であり、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634のマイクロRNAが、通常酸素濃度(大気中濃度)下において10%FBS含有DMEM培地による培養
を行った場合と比較して高発現であることを特徴とする、
免疫性疾患又は肝疾患治療剤。
【請求項2】
上記マイクロRNAが、
脂肪組織由来間葉系幹細胞由来の微小粒子中に含まれる、請求項1に記載の
免疫性疾患又は肝疾患治療剤。
【請求項3】
上記微小粒子が、エクソソームである、請求項2に記載の
免疫性疾患又は肝疾患治療剤。
【請求項4】
脂肪組織由来間葉系幹細胞に由来する微小粒子
を含有する免疫性疾患又は肝疾患治療剤であって、
上記脂肪組織由来間葉系幹細胞が、37℃、酸素濃度0.5%~2.0%の条件下で72時間培養して得られた脂肪組織由来間葉系幹細胞であり、上記微小粒子がmiR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634のマイクロRNAを含む
、免疫性疾患又は肝疾患治療剤。
【請求項5】
上記脂肪組織由来間葉系幹細胞が、被験体に対して同種異系である、請求項
1から4のいずれかに記載の免疫性疾患又は肝疾患治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞、疾患治療剤及び微小粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
末期の心不全、冠動脈疾患(CAD)、不整脈、肥大型心筋症及び、先天性心疾患の治療として、心臓移植が行われている。また、同様に、血液癌(白血病、リンパ腫、骨髄腫)及び原発性免疫不全症、再生不良性貧血、骨髄異形成等の血液疾患の治療では造血幹細胞、末期の腎不全の治療には腎臓、肝硬変、劇症肝壊死、肝細胞癌、小児における胆道閉鎖及び代謝疾患、原発性硬化性胆管炎等の胆汁うっ滞性及び自己免疫性肝炎等の非うっ滞性の疾患では肝臓、呼吸機能低下又は呼吸不全の患者には肺、糖尿病患者には膵島もしくは膵島細胞、腹壁破裂、ヒルシュスプルング病、自己免疫性腸炎等の腸障害、腸管膜の血栓塞栓症又は広範囲のクローン病等により腸切除を行い、吸収不良のある患者には小腸の移植が行われている。その他、皮膚同種移植、軟骨移植、骨移植、角膜移植及び胎児胸腺移植片の移植も行われている。これらの臓器等の移植後の合併症としては、拒絶反応が大きな問題となっている。特に超急性拒絶反応は、移植後48時間以内に移植片抗原に対する既存の補体結合抗体によって起こる反応であり、移植片除去以外に効果的な治療法はないため、新規治療法の開発が望まれている。
【0003】
一方、免疫性疾患として、自己免疫性肝炎が知られている。この自己免疫性肝炎には、急性と慢性の両方の臨床症状があるが、何らかの機序により自己の肝細胞に対する免疫学的寛容が破綻して生じる自己免疫疾患である。その発症誘因として、先行する感染症や薬剤の関与も示唆されている。日本の自己免疫性肝炎患者数は約2万人程度であり、そのうち慢性自己免疫性肝炎は慢性肝炎の約1.8%を占めるとされる。自己免疫性肝炎による死亡例の約30%は、診断から半年以内の死亡例であり、診断時の急性肝不全に対する処置が、予後の改善に重要とされる(非特許文献1参照)。また、慢性自己免疫性肝炎では、炎症の慢性化により肝再生と結合組織の新生が繰り返された結果、コラーゲンを主体とする細胞外マトリックスの増加(肝線維化)がみられ、肝硬変に進展する。この肝硬変が、症状の出ない代償期から、更に高度な線維化を伴う非代償期へ進行した場合には、既存の薬剤・治療法では十分に対処することができないのが現状である。そのため従来とは作用機序の異なる新規治療薬の開発が望まれている。
【0004】
間葉系幹細胞は、Friedenstein(1982)によって初めて骨髄から単離された多分化能を有する前駆細胞である(非特許文献2参照)。間葉系幹細胞は、骨髄、臍帯、脂肪等の様々な組織に存在することが明らかにされており、間葉系幹細胞移植は、様々な難治性疾患に対する新しい治療方法として、期待されている(特許文献1~2参照)。最近では、脂肪組織、胎盤、臍帯、卵膜などの胎児付属物の間質細胞に同等の機能を有する細胞が存在することが知られている。従って、間葉系幹細胞を間質細胞(Mesenchymal Stromal Cell)と称することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-157263号公報
【文献】特表2012-508733号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】肝臓専門医テキスト、pp.205-208、株式会社南江堂、2013年3月30日発行
【文献】Pittenger F.M.et. al., Science 284,pp.143-147(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のような状況の中、免疫性疾患及び肝疾患の新規治療剤及び新規治療方法を提供することを目的とする。
【0008】
上記課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明者らは、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上のマイクロRNAを高発現する間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem(Stromal) Cell;MSC)及び、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上のマイクロRNAを高発現する間葉系幹細胞由来微小粒子が、免疫性疾患及び肝疾患の治療に有効であることを見出し、本発明を完成させた。本発明によれば、免疫性疾患及び肝疾患の治療のために有効な治療剤を提供できる。すなわち本発明の要旨は、以下の通りである。
【0009】
[1]miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上のマイクロRNAが高発現であることを特徴とする、間葉系幹細胞。
[2]上記マイクロRNAが、間葉系幹細胞由来の微小粒子中に含まれる、[1]に記載の間葉系幹細胞。
[3]上記微小粒子が、エクソソームである、[2]に記載の間葉系幹細胞。
[4]他家由来である、[1]から[3]のいずれかに記載の間葉系幹細胞。
[5]脂肪組織由来である、[1]から[4]のいずれかに記載の間葉系幹細胞。
[6][1]から[5]のいずれかに記載の間葉系幹細胞及び/又はその培養上清を含有する疾患治療剤。
[7][1]から[5]のいずれかに記載の間葉系幹細胞由来の微小粒子を含有する疾患治療剤。
[8]上記疾患が、免疫性疾患又は肝疾患である、[6]又は[7]に記載の疾患治療剤。
[9]miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上のマイクロRNAが高発現であることを特徴とする微小粒子。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、免疫性疾患及び肝疾患の新規治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の間葉系幹細胞由来微小粒子における各マイクロRNAの発現を従来の間葉系幹細胞由来微小粒子との比較により示す図である。
【
図2】本発明の間葉系幹細胞の、自己免疫性肝炎モデルマウスに対する治療効果を示す図である(AST)。
【
図3】本発明の間葉系幹細胞の、自己免疫性肝炎モデルマウスに対する治療効果を示す図である(ALT)。
【
図4】本発明の微小粒子の、自己免疫性肝炎モデルマウスに対する治療効果を示す図である(AST)。
【
図5】本発明の微小粒子の、自己免疫性肝炎モデルマウスに対する治療効果を示す図である(ALT)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の間葉系幹細胞、微小粒子及び疾患治療剤について詳細に説明する。
【0013】
[間葉系幹細胞]
本発明の間葉系幹細胞は、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上のマイクロRNAが高発現であることを特徴とする。
【0014】
マイクロRNA(miRNA)は、約22塩基長の、タンパク質をコードしないnon-coding RNA遺伝子である。それぞれのmiRNAは、相補的又は一部相補的なメッセンジャーRNAに対して発現抑制を惹起し、1種類のmiRNAが複数の遺伝子の発現制御に関与する。このmiRANにかかわる遺伝子発現調節機構は、さまざまな生命現象・生命機能・疾患等と関連するとされる(実験医学別冊 原理からよくわかるリアルタイムPCR完全実験ガイド等参照)。
【0015】
なお、本発明において、マイクロRNAが高発現であるとは、従来の培養条件下で得られる細胞と比較して、そのマイクロRNAの発現量が高いことをいい、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上発現していることをいう。ここで、従来の培養条件としては、例えば10%FBS含有DMEM培地による培養等が挙げられる。
【0016】
本発明の間葉系幹細胞は、従来の間葉系幹細胞に比べ、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上のマイクロRNAを高発現していればよく、好ましくは二つ以上、より好ましくは三つ以上、さらに好ましくは四つ以上、特に好ましくは五つ以上、より特に好ましくは六つ以上、最も好ましくはこれらすべてのマイクロRNAを高発現している。具体的には、本発明の間葉系幹細胞は、従来の培養条件下(例えば、10%FBS含有DMEM培地による培養)で得られる間葉系幹細胞に比べて、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上のマイクロRNAを1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上発現している。
【0017】
本発明の間葉系幹細胞は、上記マイクロRNAを、細胞内の微小粒子中に含有している。この微小粒子は、間葉系幹細胞内で生産され、間葉系幹細胞から放出される、電子顕微鏡で確認することができるサイズの小胞である。微小粒子のサイズとしては、平均粒子径が約1nm以上1,000nm以下であり、10nm以上500nm以下であることが好ましく、30nm以上200nm以下であることが更に好ましい。ここで、平均粒子径とは、動的光散乱法又は電子顕微鏡での測定による各粒子の直径の平均値である。上記微小粒子は、生体分子を囲む脂質二重層を有することができる。また、上記微小粒子としては、例えば、膜粒子、膜小胞、微小胞、ナノ小胞、微小小胞体(microvesicles、平均粒子径30~1,000nm)、エクソソーム様小胞、エクソソーム(exosome、平均粒子径30~200nm)、エクトソーム様小胞、エクトソーム(ectosome)又はエキソベシクル等が挙げられ、好ましくはエクソソームである。異なる種類の間葉系幹細胞由来の微小粒子は、細胞内起源、スクロース中での微小粒子の密度、形状、沈降速度、脂質組成、タンパク質マーカー及び分泌の様式(即ち、シグナル(誘導性)後又は自発的(構成的))に基づいても区別される。微小粒子は、例えば、密度勾配遠心法では、1.0~1.5g/mL、好ましくは1.1~1.3g/mLに分画される。さらに、微小粒子はその構成脂質としてフォスファチジルセリン、コレステロール、スフィンゴミエリン及びセラミドのいずれかを含有する。
【0018】
上記微小粒子は、マイクロRNA以外にタンパク質、脂肪酸、その他の核酸等を含む。
【0019】
上記タンパク質、脂肪酸としては、例えば、IL-10、HGF(Hepatocyte Growth Factor)、アポリポプロテインA-2(Apolipoprotein A-2)、色素上皮由来因子(Pigment epithelium-derived factor(PEDF)、SERPINF1)、ハプトグロビン(Haptoglobin)、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、イソペンタデカン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、マルガリン酸、Isoheptadecanoic acid、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、ノナデシル酸、イソノナデシル酸、アラキジン酸、11Z-eicosenoic acid、Dihomo-γ-linolenic acid、アラキドン酸、エルカ酸、13Z, 16Z-Docosadienoic acid、13Z, 16Z,19Z-Docosadienoic acid、アドレン酸、Clupanodonic acid等、好ましくはIL-10、HGF、アポリポプロテインA-2(Apolipoprotein A-2)、色素上皮由来因子(Pigment epithelium-derived factor(PEDF)、SERPINF1)、ハプトグロビン(Haptoglobin)、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、イソペンタデカン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、マルガリン酸、Isoheptadecanoic acid、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、アラキジン酸、11Z-eicosenoic acid、アラキドン酸、エルカ酸、13Z, 16Z-Docosadienoic acid、更に好ましくはIL-10、HGF、アポリポプロテインA-2(Apolipoprotein A-2)、色素上皮由来因子(Pigment epithelium-derived factor(PEDF)、SERPINF1)、ハプトグロビン(Haptoglobin)、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、Isoheptadecanoic acid、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、ノナデシル酸、エルカ酸、13Z, 16Z-Docosadienoic acid、特に好ましくはIL-10、HGF、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、13Z, 16Z-Docosadienoic acidが挙げられ、これらを含む微小粒子であることが好ましい。
【0020】
本発明において間葉系幹細胞とは、間葉系に属する一種以上の細胞(骨細胞、心筋細胞、軟骨細胞、腱細胞、脂肪細胞など)、好ましくは二つ以上の細胞、より好ましくは三つ以上の細胞への分化能を有し、当該能力を維持したまま増殖できる細胞を意味する。本発明において用いる間葉系幹細胞なる用語は、間質細胞と同じ細胞を意味し、両者を特に区別するものではない。また、単に間葉系細胞と表記される場合もある。間葉系幹細胞を含む組織としては、例えば、脂肪組織、臍帯、骨髄、臍帯血、子宮内膜、胎盤、羊膜、絨毛膜、脱落膜、真皮、骨格筋、骨膜、歯小嚢、歯根膜、歯髄、歯胚等が挙げられる。例えば脂肪組織由来間葉系幹細胞とは、脂肪組織に含有される間葉系幹細胞を意味し、脂肪組織由来間質細胞と称してもよい。これらのうち、免疫性疾患及び肝疾患の治療に対する有効性の観点、入手容易性の観点等から、脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、胎盤由来間葉系幹細胞、歯髄由来間葉系幹細胞が好ましく、脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞がより好ましく、脂肪組織由来間葉系幹細胞が最も好ましい。
【0021】
本発明における間葉系幹細胞は、処置される対象(被検体)と同種由来であってもよいし、異種由来であってもよい。本発明における間葉系幹細胞の種として、ヒト、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、ラビット、マウス、ラットが挙げられ、好ましくは処置される対象(被検体)と同種由来細胞である。本発明における間葉系幹細胞は、処置される対象(被検体)に由来、すなわち自家細胞であってもよいし、同種の別の対象に由来、すなわち他家細胞であってもよい。好ましくは他家細胞である。
【0022】
間葉系幹細胞は同種異系の被験体に対しても拒絶反応を起こしにくいため、あらかじめ調製されたドナーの細胞を拡大培養して凍結保存したものを、本発明の疾患治療剤における間葉系幹細胞として使用することができる。そのため、自己の間葉系幹細胞を調製して用いる場合と比較して、商品化も容易であり、かつ安定して一定の効果を得られ易いという観点から、本発明における間葉系幹細胞は、同種異系であることがより好ましい。
【0023】
本発明において間葉系幹細胞とは、間葉系幹細胞を含む任意の細胞集団を意味する。当該細胞集団は、少なくとも20%以上、好ましくは、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、93%、96%、97%、98%又は99%が間葉系幹細胞である。
【0024】
本発明において脂肪組織とは、脂肪細胞、及び微小血管細胞等を含む間質細胞を含有する組織を意味し、例えば、哺乳動物の皮下脂肪を外科的切除又は吸引して得られる組織である。脂肪組織は、皮下脂肪より入手され得る。後述する脂肪組織由来間葉系幹細胞の投与対象と同種動物から入手されることが好ましく、ヒトへ投与することを考慮すると、より好ましくは、ヒトの皮下脂肪である。皮下脂肪の供給個体は、生存していても死亡していてもよいが、本発明において用いる脂肪組織は、好ましくは、生存個体から採取された組織である。個体から採取する場合、脂肪吸引は、例えば、PAL(パワーアシスト)脂肪吸引、エルコーニアレーザー脂肪吸引、又は、ボディジェット脂肪吸引などが例示され、細胞の状態を維持するという観点から、超音波を用いないことが好ましい。
【0025】
本発明において臍帯とは、胎児と胎盤を結ぶ白い管状の組織であり、臍帯静脈、臍帯動脈、膠様組織(ウォートンジェリー;Wharton’s Jelly)、臍帯基質自体等から構成され、間葉系幹細胞を多く含む。臍帯は、本発明の疾患治療剤を使用する被験体(投与対象)と同種動物から入手されることが好ましく、本発明の疾患治療剤をヒトへ投与することを考慮すると、より好ましくは、ヒトの臍帯である。
【0026】
本発明において骨髄とは、骨の内腔を満たしている柔組織のことをいい、造血器官である。骨髄中には骨髄液が存在し、その中に存在する細胞を骨髄細胞と呼ぶ。骨髄細胞には、赤血球、顆粒球、巨核球、リンパ球、脂肪細胞等の他、間葉系幹細胞、造血幹細胞、血管内皮前駆細胞等が含まれている。骨髄細胞は、例えば、ヒト腸骨、長管骨、又はその他の骨から採取することができる。
【0027】
本発明において、脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞といった各組織由来間葉系幹細胞とは、それぞれ脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞といった各組織由来間葉系幹細胞を含む任意の細胞集団を意味する。当該細胞集団は、少なくとも20%以上、好ましくは、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、93%、96%、97%、98%又は99%が、脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞といった各組織由来間葉系幹細胞である。
【0028】
本発明における間葉系幹細胞は、上記miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上を高発現することに加えて、例えば、成長特徴(例えば、継代から老化までの集団倍加能力、倍加時間)、核型分析(例えば、正常な核型、母体系統又は新生児系統)、フローサイトメトリー(例えば、FACS分析)による表面マーカー発現、免疫組織化学及び/又は免疫細胞化学(例えば、エピトープ検出)、遺伝子発現プロファイリング(例えば、遺伝子チップアレイ;逆転写PCR、リアルタイムPCR、従来型PCR等のポリメラーゼ連鎖反応)、miRNA発現プロファイリング、タンパク質アレイ、サイトカイン等のタンパク質分泌(例えば、血漿凝固解析、ELISA、サイトカインアレイ)、代謝産物(メタボローム解析)、本分野で知られている他の方法等によって、特徴付けられてもよい。
【0029】
(間葉系幹細胞及び間葉系幹細胞由来微小粒子の調製方法)
miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上が高発現の間葉系幹細胞及び間葉系幹細胞由来微小粒子の調製方法は特に限定されないが、例えば以下のようにして調製することができる。すなわち、脂肪組織、臍帯、骨髄等の組織から、当業者に公知の方法に従って、間葉系幹細胞を分離、培養し、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634のいずれかに特異的に結合する抗体を用いて、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上を高発現する細胞及び微小粒子をセルソーター、磁気ビーズ、超遠心、試薬等で分離することにより取得することができる。また、特定の培地を用いた培養により、間葉系幹細胞におけるmiR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上のマイクロRNAの発現を誘導することで、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上のマイクロRNAが高発現の間葉系幹細胞及び間葉系幹細胞由来微小粒子を取得することもできる。この誘導によって得られる細胞集団及び微小粒子において、細胞集団及び微小粒子の50%以上がmiR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上のマイクロRNAが高発現であることが好ましく、70%以上がmiR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上のマイクロRNAが高発現であることがより好ましく、80%以上がmiR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上のマイクロRNAが高発現であることがさらに好ましく、90%以上がmiR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上のマイクロRNAが高発現であることが特に好ましく、実質的にmiR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上のマイクロRNAが高発現な均一な細胞集団及び微量粒子であることが最も好ましい。以下に、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上のマイクロRNAが高発現である間葉系幹細胞及び微量粒子の調製方法を具体的に説明する。
【0030】
間葉系幹細胞は、当業者に周知の方法により調製することができる。以下に、一つの例として、脂肪組織由来間葉系幹細胞の調製方法を説明する。脂肪組織由来間葉系幹細胞は、例えば米国特許第6,777,231号に記載の製造方法によって得られて良く、例えば、以下の工程(i)~(iii)を含む方法で製造することができる:
(i) 脂肪組織を酵素による消化により細胞懸濁物を得る工程;
(ii) 細胞を沈降させ、細胞を適切な培地に再懸濁する工程;ならびに
(iii) 細胞を固体表面で培養し、固体表面への結合を示さない細胞を除去する工程。
【0031】
工程(i)において用いる脂肪組織は、洗浄されたものを用いることが好ましい。洗浄は、生理学的に適合する生理食塩水溶液(例えばリン酸緩衝食塩水(PBS))を用いて、激しく攪拌して沈降させることによって行い得る。これは、脂肪組織に含まれる夾雑物(デブリとも言い、例えば損傷組織、血液、赤血球など)を組織から除去するためである。したがって、洗浄及び沈降は一般に、上清からデブリが総体的に除去されるまで繰り返される。残存する細胞は、さまざまなサイズの塊として存在するので、細胞そのものの損傷を最小限に抑えながら解離させるため、洗浄後の細胞塊を、細胞間結合を弱めるか、又は破壊する酵素(例えば、コラゲナーゼ、ディスパーゼ又はトリプシンなど)で処理することが好ましい。このような酵素の量及び処理期間は、使用される条件に依存して変わるが、当技術分野で既知である。このような酵素処理に代えて、又は併用して、細胞塊を、機械的な攪拌、超音波エネルギー、熱エネルギーなどの他の処理法で分解することができるが、細胞の損傷を最小限に抑えるため、酵素処理のみで行うことが好ましい。酵素を用いた場合、細胞に対する有害な作用を最小限に抑えるために、適切な期間をおいた後に培地等を用いて酵素を失活させることが望ましい。
【0032】
工程(i)により得られる細胞懸濁物は、凝集状の細胞のスラリー又は懸濁物、ならびに各種夾雑細胞、例えば赤血球、平滑筋細胞、内皮細胞、及び線維芽細胞を含む。従って、続いて凝集状態の細胞とこれらの夾雑細胞を分離、除去してもよいが、後述する工程(iii)での接着及び洗浄により、除去可能であることから、当該分離、除去は割愛してもよい。夾雑細胞を分離、除去する場合、細胞を上清と沈殿に強制的に分ける遠心分離によって達成しえる。得られた夾雑細胞を含む沈殿は、生理学的に適合する溶媒に懸濁させる。懸濁状の細胞には、赤血球を含む恐れがあるが、後述する個体表面への接着による選択により、赤血球は除外されるため、溶解する工程は必ずしも必要ではない。赤血球を選択的に溶解する方法として、例えば、塩化アンモニウムによる溶解による高張培地又は低張培地中でのインキュベーションなど、当技術分野で周知の方法を使用することができる。溶解後、例えば濾過、遠心沈降、又は密度分画によって溶解物を所望の細胞から分離してもよい。
【0033】
工程(ii)において、懸濁状の細胞において、間葉系幹細胞の純度を高めるために、1回もしくは連続して複数回洗浄し、遠心分離し、培地に再懸濁してもよい。この他にも、細胞を、細胞表面マーカープロファイルを基に、又は細胞のサイズ及び顆粒性を基に分離してもよい。
【0034】
再懸濁において用いる培地は、間葉系幹細胞を培養できる培地であれば、特に限定されないが、このような培地は、基礎培地に、血清を添加する、及び/又は、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、亜セレン酸ナトリウム、コレステロール、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロール等の1つ以上の血清代替物を添加して作製してもよい。これらの培地には、必要に応じて、さらに脂質、アミノ酸、タンパク質、多糖、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等の物質を添加してもよい。
【0035】
上記基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、MCDB201培地及びこれらの混合培地等が挙げられる。
【0036】
上記血清としては、例えば、ヒト血清、ウシ胎児血清(FBS)、ウシ血清、仔ウシ血清、ヤギ血清、ウマ血清、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、ラット血清等が挙げられるがこれらに限定されない。血清を用いる場合、基礎培地に対して、5v/v%から15v/v%、好ましくは、10v/v%を添加してもよい。
【0037】
上記脂肪酸としては、リノール酸、オレイン酸、リノレイン酸、アラキドン酸、ミリスチン酸、パルミトイル酸、パルミチン酸、及びステアリン酸等が例示されるが、これらに限定されない。脂質は、フォスファチジルセリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルコリン等が例示されるが、これらに限定されない。アミノ酸は、例えば、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、L-アスパラギン、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-グリシンなどを含むがこれらに限定されない。タンパク質は、例えば、エコチン、還元型グルタチオン、フィブロネクチン及びβ2-ミクログロブリン等が例示されるが、これらに限定されない。多糖は、グリコサミノグリカンが例示され、グリコサミノグリカンのうち特に、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸等が例示されるが、これらに限定されない。増殖因子は、例えば、血小板由来増殖因子(PDGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、結合組織増殖因子(CTGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)等が例示されるが、これらに限定されない。本発明において得られる脂肪由来間葉系幹細胞を細胞移植に用いるという観点から、血清等の異種由来成分を含まない(ゼノフリー)培地を用いることが好ましい。このような培地は、例えば、PromoCell社、Lonza社、Biological Industries社、Veritas社、R&D Systems社、Corning社及びRohto社などから間葉系幹細胞(間質細胞)用として予め調製された培地として提供されている。
【0038】
続いて、工程(iii)では、工程(ii)で得られた細胞懸濁液中の細胞を分化させずに固体表面上で、上述の適切な細胞培地を使用して、適切な細胞密度及び培養条件で培養する。本発明において、「固体表面」とは、本発明における脂肪組織由来間葉系幹細胞の結合・接着を可能とする任意の材料を意味する。特定の態様では、このような材料は、その表面への哺乳類細胞の結合・接着を促すように処理されたプラスチック材料である。固体表面を有する培養容器の形状は特に限定されないが、シャーレやフラスコなどが好適に用いられる。非結合状態の細胞及び細胞の破片を除去するために、インキュベーション後に細胞を洗浄する。
【0039】
本発明では、最終的に固体表面に結合・接着した状態で留まる細胞を、脂肪組織由来間葉系幹細胞の細胞集団として選択することができる。
【0040】
選択された細胞について、本発明における脂肪組織由来間葉系幹細胞であることを確認するために、表面抗原についてフローサイトメトリー等を用いて従来の方法で解析してもよい。さらに、各細胞系列に分化する能力について検査してもよく、このような分化は、従来の方法で行うことができる。
【0041】
本発明における間葉系幹細胞は、上述の通り調製することができるが、次の特性を持つ細胞として定義してもよい;
(1)標準培地での培養条件で、プラスチックに接着性を示す、
(2)表面抗原CD44、CD73、CD90が陽性であり、CD31、CD45が陰性であり、及び
(3)培養条件にて骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞に分化可能。
【0042】
上記工程(iii)によって得られた間葉系幹細胞から、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634を高発現している細胞を、セルソーター、磁気ビーズ等を用いた免疫学的手法により選択的に分離することで、取得することができる。また、 miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634の発現を誘導できる特定の培地による培養を行うことにより、間葉系幹細胞における各miRNA発現を誘導し、効率的にmiR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634高発現の間葉系幹細胞及び間葉系幹細胞由来微小粒子を取得することもできる。さらに、上記工程(iii)によって得られた間葉系幹細胞を、低酸素培養等の特定の培養条件下で培養を行うことにより、間葉系幹細胞における各miRNA発現を誘導し、効率的にmiR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634高発現の間葉系幹細胞及び間葉系幹細胞由来微小粒子を取得することもできる。上記低酸素培養の条件としては、酸素濃度約0%から5%が好ましく、0.2%から3%がより好ましく、0.5%から2%がさらに好ましく、1%前後が特に好ましい。
【0043】
上記調製した間葉系幹細胞をトリプシン・EDTA溶液等により処理して得られた細胞懸濁液を遠心(室温、400G、5分)して上清を除去する。細胞にStaining Buffer(1%BSA-PBS)を加え、1×106cells/500uLとなるように調製し、ピペッティングにより細胞懸濁液濃度を均一にした後、新しい1.5mLマイクロチューブに50uLずつ分注する。分注した細胞懸濁液に1次抗体(Mouse anti human TFPI、Sekisui diagnostics社製、ADG4903)を5~20μg/mLの濃度で添加し懸濁した後に、遮光・冷蔵下で30分間~1時間反応させる。Staining Buffer1mLで3回洗浄を行った後に、Staining Bufferを加え50uLとし、2次抗体(Anti Mouse IgG alexar488、Thermofisher scientific社製、A21202)を1~10μg/mLの濃度で添加し懸濁した後に、遮光・冷蔵下で30分間~1時間反応させる。Staining Buffer1mLで3回洗浄を行った後に、PI Buffer(Staining buffer14.4mLにPropidium iodide solution(SIGMA社製、P4864)28.8μLを添加して調製)300uLを加えてよく懸濁し、セルストレーナ付チューブに通し、fluorescence activated cell sorting(FACS)で分離を行うことができる。
【0044】
(間葉系幹細胞の凍結保存)
本発明における間葉系幹細胞は、疾患治療効果を備えていれば、適宜、凍結保存及び融解を繰り返した細胞であってもよい。本発明において、凍結保存は、当業者に周知の凍結保存液へ間葉系幹細胞を懸濁し、冷却することによって行い得る。懸濁は、細胞をトリプシンなどの剥離剤によって剥離し、凍結保存容器に移し、適宜、処理した後、凍結保存液を加えることによって行い得る。
【0045】
凍結保存液は、凍害防御剤として、DMSO(Dimethyl sulfoxide)を含有していてもよいが、DMSOは、細胞毒性に加えて、間葉系幹細胞を分化誘導する特性を有することから、DMSO含有量を減らすことが好ましい。DMSOの代替物として、グリセロール、プロピレングリコール又は多糖類が例示される。DMSOを用いる場合、5%~20%の濃度、好ましくは5%~10%の濃度、より好ましくは10%の濃度を含有する。この他にも、WO2007/058308に記載の添加剤を含んでもよい。このような凍結保存液として、例えば、バイオベルデ社、日本ジェネティクス株式会社、リプロセル社、ゼノアック社、コスモ・バイオ社、コージンバイオ株式会社、サーモフィッシャーサイエンティフィック社などから提供されている凍結保存液を用いてもよい。
【0046】
上述の懸濁した細胞を凍結保存する場合、-80℃~-100℃の間の温度(例えば、-80℃)で保管することで良く、当該温度に達成しえる任意のフリーザーを用いて行い得る。特に限定されないが、急激な温度変化を回避するため、プログラムフリーザーを用いて、冷却速度を適宜制御してもよい。冷却速度は、凍結保存液の成分によって適宜選択しても良く、凍結保存液の製造者指示に従って行われ得る。
【0047】
保存期間は、上記条件で凍結保存した細胞が融解した後、凍結前と同等の性質を保持している限り、特に上限は限定されないが、例えば、1週間以上、2週間以上、3週間以上、4週間以上、2か月以上、3か月以上、4か月以上、5か月以上、6か月以上、1年以上、又はそれ以上が挙げられる。より低い温度で保存することで細胞障害を抑制することができるため、液体窒素上の気相(約-150℃以下から-180℃以下)へ移して保存してもよい。液体窒素上の気相で保存する場合、当業者に周知の保存容器を用いて行うことができる。特に限定されないが、例えば、2週間以上保存する場合、液体窒素上の気相で保存することが好ましい。
【0048】
融解した間葉系幹細胞は、次の凍結保存までに適宜、培養してもよい。間葉系幹細胞の培養は、上述した間葉系幹細胞を培養できる培地を用いて行われ、特に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃の培養温度で、CO2含有空気の雰囲気下で行われてもよい。CO2濃度は、約2~5%、好ましくは約5%である。培養において、培養容器に対して適切なコンフルエンシー(例えば、培養容器に対して、50%から80%を細胞が占有することが挙げられる)に達した後に、細胞をトリプシンなどの剥離剤によって剥離し、別途用意した培養容器に適切な細胞密度で播種して培養を継続してもよい。細胞を播種する際において、典型的な細胞密度として、100細胞/cm2~100,000細胞/cm2、500細胞/cm2~50,000細胞/cm2、1,000~10,000細胞/cm2、2,000~10,000細胞/cm2などが例示される。特定の態様では、細胞密度は2,000~10,000細胞/cm2である。適切なコンフルエンシーに達するまでの期間が、3日間から7日間となるように調整することが好ましい。培養中、必要に応じて、適宜、培地を交換してもよい。
【0049】
凍結保存した細胞の融解は、当業者に周知の方法によって行い得る。例えば、37℃の恒温槽内又は湯浴中にて静置又は振とうすることによって行う方法が例示される。
【0050】
本発明の間葉系幹細胞は、いずれの状態の細胞であってもよいが、例えば培養中の細胞を剥離して回収された細胞でもよいし、凍結保存液中に凍結された状態の細胞でもよい。拡大培養して得られる同ロットの細胞を小分けして凍結保存したものを使用すると、安定して同様の作用効果が得られる点、取扱い性に優れる点等において好ましい。凍結保存状態の間葉系幹細胞は、使用直前に融解し、凍結保存液に懸濁したまま輸液もしくは培地等の溶液に直接混合してもよい。また、遠心分離等の方法により凍結保存液を除去してから輸液もしくは培地等の溶液に懸濁してもよい。ここで、本発明における「輸液」とは、ヒトの治療の際に用いられる溶液のことをいい、特に限定されないが、例えば、生理食塩水、日局生理食塩液、5%ブドウ糖液、日局ブドウ糖注射液、リンゲル液、日局リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、1号液(開始液)、2号液(脱水補給液)、3号液(維持液)、4号液(術後回復液)等が挙げられる。
【0051】
[間葉系幹細胞由来の微小粒子]
本発明の間葉系幹細胞由来の微小粒子は、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上が高発現であることを特徴とする。
【0052】
本発明の間葉系幹細胞由来の微小粒子は、他の微小粒子に比べ、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上を高発現していればよいが、具体的には、本発明の間葉系幹細胞由来の微小粒子は、従来の培養条件下(例えば、10%FBS含有DMEM培地による培養)で得られる微小粒子に比べて、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上を高発現していればよい。好ましくは従来の培養条件下で得られる間葉系幹細胞に比べ1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上発現している。なお、本発明の間葉系幹細胞由来の微小粒子は、他の微小粒子に比べ、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上を高発現していればよいが、好ましくは二つ以上、より好ましくは三つ以上、さらに好ましくは四つ以上、特に好ましくは五つ以上、より特に好ましくは六つ以上、最も好ましくはこれらすべてのマイクロRNAを高発現している。
【0053】
本発明における微小粒子は、間葉系幹細胞から得られる微小粒子であり、間葉系幹細胞により産生される。本発明における間葉系幹細胞由来の微小粒子は、間葉系幹細胞中に含まれるものでもよく、間葉系幹細胞培養上清中に含まれるものでもよく、間葉系幹細胞中もしくは間葉系幹細胞培養上清から単離された微小粒子でもよい。すなわち、本発明における間葉系幹細胞由来の微小粒子は、いかなる形態であってもよく、微小粒子自体であることは勿論、微小粒子を含有又は分泌する能力を有する間葉系幹細胞の形態であってもよい。微小粒子の単離方法としては、超遠心法、精密濾過法、抗体による捕捉、マイクロ流体システムの利用等が挙げられる。単離された微小粒子は、間葉系幹細胞等の細胞を含んでいてもよく、また、間葉系幹細胞培養培地を含んでいてもよい。
【0054】
本発明における間葉系幹細胞由来の微小粒子は、間葉系幹細胞を上述の培地を用いて培養して得られる培養上清から回収することができる。培養上清を回収する場合には、例えば、間葉系幹細胞を培養容器中でサブコンフルエント又はコンフルエントの状態にし、新しい培地へと交換してから、更に1~5日間培養を行って、その培養上清を回収することができる。この培養上清を、本発明の肝疾患もしくは免疫性治療剤として用いることもできるが、微小粒子を超遠心分離法、密度勾配遠心法、各種微小粒子分離キット等により分離して、それを本発明の免疫性疾患治療剤もしくは肝疾患治療剤の材料として用いることもできる。
本発明の免疫性疾患及び肝疾患治療剤は、上記微小粒子に加えて、上記微小粒子を包含する、又は分泌する能力を有する間葉系幹細胞自体を含んでいてもよい。なお、免疫性疾患及び肝疾患治療剤が上記微小粒子を包含する、又は分泌する能力を有する間葉系幹細胞を含む場合には、上記間葉系幹細胞を含むことで、同時に上記微小粒子を含むという要件を満たすこととなるとも解釈できる。
【0055】
本発明における間葉系幹細胞由来の微小粒子の具体的な説明は、上述の本発明の間葉系幹細胞の項における、間葉系幹細胞が細胞内に含有している微小粒子の説明を適用することができる。
【0056】
[免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤]
本発明の免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤は、上述した本発明のmiR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上のマイクロRNAを高発現する間葉系幹細胞(mesenchymal stem(stromal) cell;MSC)又は、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634からなる群より選ばれる一つ以上のマイクロRNAを高発現する間葉系幹細胞由来微小粒子を含有する。本発明の免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤によると、免疫性疾患及び肝疾患を改善することができる。本発明の免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤が含む間葉系幹細胞及び間葉系幹細胞由来微小粒子については、上記間葉系幹細胞及び間葉系幹細胞由来の微小粒子の項の説明を適用できる。
【0057】
本発明の免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記間葉系幹細胞もしくは間葉系幹細胞由来微小粒子以外に、その用途や形態に応じて、常法に従い、薬学的に許容される担体や添加物を含有させてもよい。このような担体や添加物としては、例えば、等張化剤、増粘剤、糖類、糖アルコール類、防腐剤(保存剤)、殺菌剤又は抗菌剤、pH調節剤、安定化剤、キレート剤、油性基剤、ゲル基剤、界面活性剤、懸濁化剤、結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、発泡剤、流動化剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、溶解補助剤、抗酸化剤、甘味剤、酸味剤、着色剤、呈味剤、香料又は清涼化剤等が挙げられるが、これらに限定されない。代表的な成分として例えば次の担体、添加物等が挙げられる。
【0058】
担体としては、例えば、水、含水エタノール等の水性担体が;等張化剤(無機塩)としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等が;多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が;増粘剤としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が;糖類としては、例えば、シクロデキストリン、ブドウ糖等が;糖アルコール類としては、例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等(これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい)が;防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、トロメタモール、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、塩酸ポリヘキサニド(ポリヘキサメチレンビグアニド)等)、グローキル(ローディア社製商品名)等が;pH調節剤としては、例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン-アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、硫酸マグネシウム、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等が;安定化剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等が;油性基剤としては、例えば、オリーブ油、トウモロコシ油、大豆油、ゴマ油、綿実油等の植物油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が;水性基剤としては、例えば、マクロゴール400等が;ゲル基剤としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、ガム質等が;界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート80、硬化ヒマシ油、グリセリン脂肪酸エステル、セスキオレイン酸ソルビタン等が;懸濁化剤としては、例えば、サラシミツロウや各種界面活性剤、アラビアゴム、アラビアゴム末、キサンタンガム、大豆レシチン等が;結合剤としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等が;賦形剤としては、例えば、ショ糖、乳糖、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等が;滑沢剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、タルク等が;崩壊剤としては、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム等が;発泡剤としては、例えば、炭酸水素ナトリウム等が;流動化剤としては、例えば、メタケイ酸アルミン酸ナトリウム、軽質無水ケイ酸等が、それぞれ挙げられる。
【0059】
本発明の免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤は、目的に応じて種々の形態、例えば、固形剤、半固形剤、液剤等の様々な剤形で提供することができる。例えば、固形剤(錠剤、粉末、散剤、顆粒剤、カプセル剤等)、半固形剤[軟膏剤(硬軟膏剤、軟軟膏剤等)、クリーム剤等]、液剤[ローション剤、エキス剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、注射剤(輸液剤、埋め込み注射剤、持続性注射、用時調製型の注射剤を含む)、透析用剤、エアゾール剤、軟カプセル剤、ドリンク剤等]、貼付剤、パップ剤等の形態で利用できる。また、本発明の免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤は、油性又は水性のビヒクル中の溶液又は乳液等の形態でも利用できる。さらに、本発明の免疫性疾患及び肝疾患治療剤は噴霧により、患部に適用することもでき、本発明の免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤は噴霧した後に患部でゲル化もしくはシート化される形態でも利用できる。本発明の免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤は上記間葉系幹細胞をシート状又は立体構造体とした後に、患部に適用することもできる。
【0060】
本発明の免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤は、生理食塩水、日局生理食塩液、5%ブドウ糖液、日局ブドウ糖注射液、リンゲル液、日局リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液、1号液(開始液)、2号液(脱水補給液)、3号液(維持液)、4号液(術後回復液)等の輸液、又は、DMEM等の細胞培養培地を用いて、懸濁もしくは希釈して用いることができ、好ましくは生理食塩液、5%ブドウ糖液、1号液(開始液)で、より好ましくは5%ブドウ糖液、1号液(開始液)で懸濁もしくは希釈して用いることができる。
【0061】
本発明の免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤が液剤である場合、免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤のpHは、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではないが、一例として、2.5~9.0、好ましくは3.0~8.5、より好ましくは3.5~8.0となる範囲が挙げられる。
【0062】
本発明の免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤が液剤である場合、免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明の組成物の浸透圧比の一例として、好ましくは0.7~5.0、より好ましくは0.8~3.0、さらに好ましくは0.9~1.4となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500~650℃で40~50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0063】
本発明の免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤の対象への投与経路は、経口投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、髄腔内投与、腹腔内投与、舌下投与、経直腸投与、経腟投与、眼内投与、経鼻投与、吸入、経皮投与、インプラント、臓器表面への噴霧及びシート等の貼付による直接投与等が挙げられるが、本発明の免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤の有効性の観点から、好ましくはインプラント、肝動脈内投与、静脈内投与及び臓器表面への噴霧及びシート等の貼付による直接投与であり、対象者の負担の軽減の観点から、より好ましくは静脈内投与である。
【0064】
本発明の免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤において、その用量(投与量)は、患者の状態(体重、年齢、症状、体調等)、及び本発明の免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤の剤形等によって異なりうるが、十分な免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤の治療効果を奏する観点からは、その量は多い方が好ましい傾向にあり、一方、副作用の発現を抑制する観点からはその量は少ない方が好ましい傾向にある。通常、成人に投与する場合には、細胞数として、1x103~1x1012個/回、好ましくは1x104~1x1011個/回、より好ましくは1x105~1x1010個/回、さらに好ましくは5x106~1x109個/回である。また、患者の体重あたりの投与量としては、1x10~5x1010個/kg、好ましくは1x102~5x109個/kg、より好ましくは1x103~5x108個/kg、さらに好ましくは1x104~5x107個/kgである。なお、本用量を1回量として、複数回投与してもよく、本用量を複数回に分けて投与してもよい。
【0065】
本発明の免疫性疾患治療剤及び肝疾患治療剤は、1又は2以上の他の薬剤と共に投与してもよい。他の薬剤としては、免疫性疾患の治療薬として用いることができる任意の剤を薬剤が挙げられ、たとえば、アブシキシマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、バシリキシマブ、セツキシマブ、ダクリズマブ、エファリズマブ、ゲムツズマブ、イブリツモマブ、インフリキシマブ、メポリズマブ、OKT3、オマリズマブ、パリビズマブ、ペキセリズマブ、リツキシマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ等のモノクローナル抗体、アレファセプト、デニロイキンジフチトクス、エタネルセプト等の融合蛋白、アナキンラ等の可溶性サイトカインレセプター、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、IL-2、IL-11、エリスロポエチン、G-CSF、GM-CSF等のサイトカイン、シクロスポリン、アザチオプリン、ミゾリビン、タクロリムス水和物、グスペリムス塩酸塩、ミコフェノール酸モフェチル、エベロリムス等が挙げられる。また、他の薬剤として、肝臓の治療薬として用いることができる任意の剤を薬剤が挙げられ、たとえば、B型肝炎治療薬(ラミブジン、アデホビル、エンテカビル、テノホビル等)、インターフェロン製剤(インターフェロンα、インターフェロンα-2b、インターフェロンβ、ペグインターフェロンα-2a、ペグインターフェロンα-2b等)、C型肝炎治療薬(リバビリン、テラピレビル、シメプレビル、バニプレビル、ダクラタスビル、アスナプレビル、ソホスブビル等)、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム等)、抗凝固剤(乾燥濃縮人アンチトロンビンIII、ガベキサートメシル酸塩、トロンボモデュリンα等)、解毒剤(エデト酸カルシウム二ナトリウム水和物、グルタチオン、ジメチカプロール、チオ硫酸ナトリウム水和物、スガマデスクナトリウム等)、人血清アルブミン、肝臓抽出エキス、ウルソデオキシコール酸、グリチルリチン酸、アザチオプリン、ベザフィーブラート、アミノ酸(グリシン、L-システイン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-バリン、L-トレオニン、L-セリン、L-アラニン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-トリプトファン、L-リシン、L-ヒスチジン、L-アルギニン及びこれらの塩等)、ビタミン(トコフェロール、フラビンアデニンジヌクレオチド、リン酸チアミンジスルフィド、ピリドキシン、シアノコバラミン及びこれらの塩等)、抗生物質(スルバクタムナトリウム、セフォペラゾンナトリウム、メロペネム水和物、塩酸バンコマイシン等)等が挙げられる。
【0066】
本発明の間葉系幹細胞又は間葉系幹細胞由来微小粒子は様々な免疫性疾患、免疫障害に用いることができるが、具体的疾患としては、移植片対宿主病(GVHD)、続発性免疫不全症、原発性免疫不全疾患、B細胞の欠損、T細胞不全、BおよびT細胞複合欠損、NK細胞欠損、食細胞欠損、古典経路における補体欠損、MBL経路における補体欠損、代替経路における補体欠損、補体調節蛋白欠損、補体レセプター欠損等の免疫不全疾患、毛細血管拡張性運動失調症、チェディアックー東症候群、慢性肉芽腫性疾患、一般変異型免疫不全症、ディ・ジョージ症候群、高IgE症候群、高IgM症候群、IgA欠損症、白血球接着欠乏症、重症複合免疫不全症、一過性低ガンマグロブリン血症、ヴィスコットーオールドリッチ症候群、X連鎖無ガンマグロブリン血症(ブルトン病)、X連鎖リンパ球増殖性症候群(ダンカン症候群)、ZAP-70欠損症、血管性浮腫、遺伝性血管性浮腫、アレルギー性鼻炎、食物性アレルギー、アナフィラキシー、自己免疫疾患、薬物過敏症、肥満細胞症等のアレルギー性疾患及び過敏性疾患が挙げられる。
【0067】
本発明の間葉系幹細胞もしくは、間葉系幹細胞由来微小粒子は様々な肝疾患、肝障害
に用いることができるが、具体的疾患としては、自己免疫性肝炎、劇症肝炎、慢性肝炎、ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease(NAFLD))、非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis(NASH))、非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver (NAFL))、肝線維症、肝硬変、肝癌、脂肪肝、薬剤アレルギー性肝障害、ヘモクロマトーシス、ヘモジデローシス、ウィルソン病、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、胆道閉鎖、肝膿瘍、慢性活動性肝炎、慢性持続性肝炎等の肝疾患が挙げられる。
【実施例】
【0068】
以下に本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
[脂肪由来間葉系幹細胞の調製及び培養]
脂肪由来間葉系幹細胞(ロンザジャパン(株)、P#:PT-5006)を37℃、低酸素濃度(1%)下で72時間培養し、低酸素濃度培養脂肪組織由来間葉系幹細胞を得た。また、培養上清より、低酸素濃度培養処理脂肪組織由来間葉系幹細胞由来微小粒子を得た。微小粒子のマイクロRNAの含量をマイクロアレイ法により測定したところ、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634の含有量が、通常酸素濃度(大気中濃度)下で培養した間葉系幹細胞由来微小粒子に比べて、上昇していることが明らかとなった。結果を
図1に示す。
【0070】
(実施例2)
[自己免疫性肝炎モデルマウスを用いた治療効果の確認]
マウス(BALB/cA、日本クレア)にコンカナバリンA(sigma-aldrich)を20mg/kg、単回投与する事で、自己免疫性肝炎を誘発した。この自己免疫性肝炎を誘発したマウスに、実施例1で得られたmiR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634を高発現した脂肪由来間葉系幹細胞(hASC-H)及び、通常の脂肪由来間葉系幹細胞(hASC)を1×10
6細胞単回静脈内投与し、肝障害の評価を行った。なお、比較対象として、細胞を投与しない動物(Control)と健常動物(Normal)を設けた。肝障害のマーカーの測定結果を
図2(AST)及び
図3(ALT)に示す。なお、AST及びALTはそれぞれ、トランスアミナーゼ測定キットにより測定した。
【0071】
図2及び3に示すとおり、健常マウス(Normal)と比較して、肝障害のマーカーである、AST及びALTはコンカナバリンAを投与することにより上昇した(Control)。これに対して、通常の脂肪由来間葉系幹細胞(hASC)を投与することにより、その上昇は顕著に抑制されたが、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634を高発現した脂肪由来間葉系幹細胞(hASC-H)を投与することにより、さらに肝炎抑制効果が高まった。以上より、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634を高発現した脂肪由来間葉系幹細胞は、通常脂肪由来間葉系幹細胞に比べて、自己免疫性肝炎治療効果が顕著に増加することが明らかとなった。
【0072】
(実施例3)
[微小粒子の調製及び自己免疫性肝炎治療効果の検討]
前述と同様に調製した脂肪由来間葉系幹細胞の培養上清を回収し、回収した培養上清をフィルター(0.22μm、メルクミリポア)でろ過した後、遠心(35,000rpm、70分、4℃、BECKMAN Optima XE-90)により微小粒子を回収した。得られた微小粒子の平均粒子径は、145±4.5nmであった(平均±標準誤差、n=3)。
【0073】
得られたmiR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634を高発現した脂肪由来間葉系幹細胞(hASC-H)及び通常の脂肪由来間葉系幹細胞(hASC)由来の微小粒子、それぞれExo(hASC-H)及びExo(hASC)を実施例2と同様に、自己免疫性肝炎を誘発したマウスに、それぞれ0.4μg投与して、肝障害の評価を行った。なお、比較対象として、微小粒子を投与しない動物(Control)と健常動物(Normal)を設けた。肝障害のマーカーの測定結果を
図4(AST)及び
図5(ALT)に示す。なお、AST及びALTはそれぞれ、トランスアミナーゼ測定キットにより測定した。
【0074】
図4及び5に示すとおり、健常マウス(Normal)と比較して、肝障害のマーカーである、AST及びALTはコンカナバリンAを投与することにより上昇した(Control)。これに対して、脂肪由来間葉系幹細胞由来微小粒子Exo(hASC)を投与することにより、その上昇は顕著に抑制されたが、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634を高発現した脂肪由来間葉系幹細胞由来微小粒子Exo(hASC-H)を投与することにより、さらに抑制効果が高まった。以上より、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634を高発現した脂肪由来間葉系幹細胞由来微小粒子は、通常脂肪由来間葉系幹細胞由来微小粒子に比べて、自己免疫性肝炎治療効果が顕著に増加することが明らかとなった。
【0075】
以上の結果から、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634を高発現した脂肪由来間葉系幹細胞及び、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634を高発現した脂肪由来間葉系幹細胞由来微小粒子は、免疫性疾患及び肝疾患に対する顕著な治療効果を有することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634を高発現した脂肪由来間葉系幹細胞及び、miR‐210-3p、miR‐6846-5p、miR‐6757-3p、miR‐23c、miR‐195‐5p、miR‐129-2-3p、miR‐129-1-3p及びmiR‐634を高発現した脂肪由来間葉系幹細胞由来微小粒子は、免疫性疾患及び肝疾患に対して、顕著な治療効果を示す治療薬として好適に用いられる。