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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】注入器
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/31 20060101AFI20241126BHJP
   A61C 5/62 20170101ALI20241126BHJP
   A61M 5/315 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
A61M5/31 500
A61C5/62
A61M5/315 512
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018118257
(22)【出願日】2018-06-21
(65)【公開番号】P2019217105
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-05-13
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(73)【特許権者】
【識別番号】000206185
【氏名又は名称】大成化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】笠場 秀人
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】塩井 博之
(72)【発明者】
【氏名】八穴 啓史
(72)【発明者】
【氏名】中塚 稔之
(72)【発明者】
【氏名】小川 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】戸倉 寿子
【合議体】
【審判長】佐々木 正章
【審判官】村上 哲
【審判官】安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-160636(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0137263(US,A1)
【文献】特開2003-210578(JP,A)
【文献】国際公開第2017/044112(WO,A1)
【文献】特開2003-135487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/31
A61M 5/315
A61C 5/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端を有する円筒状のバレルと、
前記バレル内に収容される可動体と、
前記可動体に対して離間可能に接触するプランジャと、を有し、
前記可動体が、
前端と後端とを有し、前記バレルの内径に比べて小さい外径の円筒状の第1部分と、前記第1部分から前記前端に向かって外径が減少する形状の第2部分とを含む本体、
前記本体の前端よりも前記バレルの先端側に位置し、前記バレルの内周面に対して外周端が密接する円盤状のシール体、および
前記本体の前記第1部分からバレルの内周面に向かって突出する少なくとも1つの突出部を備え、
前記可動体の中心軸から前記少なくとも1つの突出部の先端までの距離が、前記シール体の外径の半分に比べて小さく、
前記シール体が、前記本体の前記第2部分に取り付けられる中央部分と、前記可動体が自由状態のときに前記本体の前記第2部分から離れている外周側部分とを含み、
前記プランジャが、前端から突出するガイドピンを備え、
前記可動体の前記本体が、後端から延在して前記本体内で終端し、且つ前記シール体までは延在しておらず、前記ガイドピンを進退可能に収容する非貫通穴状のガイド穴を備え、
前記ガイドピンの外径が、前記ガイド穴の内径に比べて小さく、
前記可動体が前記バレル内に位置するときに前記プランジャが後退すると、前記可動体を前記バレル内に残した状態で、前記プランジャが前記可動体から離間する、注入器。
【請求項2】
前記少なくとも1つの突出部が、フランジであって、
前記フランジの外径が前記シール体の外径に比べて小さい、請求項1に記載の注入器。
【請求項3】
前記フランジの外径が、前記バレルの内径に比べて小さい、請求項2に記載の注入器。
【請求項4】
前記シール体と前記フランジとの間の距離が、前記シール体の外径に比べて大きい、請求項2または3に記載の注入器。
【請求項5】
前記プランジャが、前記前端に平坦面状の接触面を備え、
前記可動体が、前記後端に前記プランジャの接触面に接触する平坦面状の後端面を備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の注入器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、流動体を注入するための注入器が知られている。例えば特許文献1に記載された注入器は、流動体を吐出口を介してバレル外部に必要量押し出した後において、バレル内部に残る流動体が吐出口を介して勝手に漏出しないように、いわゆる流動体の「後垂れ」が生じないように構成されている。
【0003】
具体的には、特許文献1に記載された注入器の場合、プランジャの前端に、円盤状のシール体が一体的に設けられている。シール体の外周端がバレルの内周面に密接している。
【0004】
プランジャがバレルの吐出口に向かって前進すると、円盤状のシール体が閉傘状に弾性変形しつつ流動体を吐出口に押し進める。プランジャが停止すると、シール体が閉傘状から円盤状に戻る。このとき、シール体の外周端が接触するバレルの内周面の位置は変わらずにシール体の中央部が吐出口から離れる方向にシフトする。その結果、流動体がシール体に向かって引き寄せられ、流動体の後垂れが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-135487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、バレルの内周面に密接するシール体がバレル外部に抜け落ちることを抑制するために、シール体とプランジャとが離間可能に接触する注入器が求められている。これにより、プランジャを後退させてもシール体が後退することなくバレル内に留まる。その結果、バレルの基端側から該バレル内の流動体に空気が侵入することが抑制される。また、シール体が後退することによって生じる吐出口からの空気侵入も抑制される。
【0007】
そこで、本発明は、流動体の後垂れを抑制することができる注入器において、シール体とプランジャとを離間可能に接触させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、本開示の一態様によれば、
円筒状のバレルと、
前記バレル内に収容される可動体と、
前記可動体に対して離間可能に接触するプランジャと、を有し、
前記可動体が、
前記バレルの内径に比べて小さい外径を備える本体、
前記本体に設けられ、前記バレルの内周面に対して外周端が密接する円盤状のシール体、および
前記本体からバレルの内周面に向かって突出する少なくとも1つの突出部を備え、
前記可動体の中心軸から前記少なくとも1つの突出部の先端までの距離が、前記シール体の外径の半分に比べて小さい、注入器が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、流動体の後垂れを抑制することができる注入器において、シール体とプランジャとを離間可能に接触させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態1に係る注入器の外観図
図2】実施の形態1に係る注入器の部分断面図
図3】実施の形態1に係る注入器におけるバレルの断面図
図4図3に示すバレルの拡大断面図
図5】実施の形態1に係る注入器における可動体の斜視図
図6図5に示す可動体の部分断面図
図7】実施の形態1に係る注入器におけるプランジャの外観図
図8A】プランジャおよび可動体が停止した状態のバレルの拡大断面図
図8B】プランジャおよび可動体がバレルの先端に向かって移動中のバレルの拡大断面図
図8C】プランジャが可動体から離れる方向に移動中のバレルの拡大断面図
図8D】プランジャのバレルからの抜け落ちが周回溝によって制限されている状態のバレルの拡大断面図
図9】本発明の実施の形態2に係る注入器におけるバレルの先端側部分の拡大断面図
図10】実施の形態2に係る注入器におけるバレルの基端側部分の拡大断面図
図11】本発明の実施の形態3に係る注入器の部分断面図
図12図11に示すA-A線に沿った注入器の断面図
図13】可動体をバレルに収容するときのストッパを示すバレルの拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施の形態に係る注入器は、円筒状のバレルと、前記バレル内に収容される可動体と、前記可動体に対して離間可能に接触するプランジャと、を有し、前記可動体が、前記バレルの内径に比べて小さい外径を備える本体、前記本体に設けられ、前記バレルの内周面に対して外周端が密接する円盤状のシール体、および前記本体からバレルの内周面に向かって突出する少なくとも1つの突出部を備え、前記可動体の中心軸から前記少なくとも1つの突出部の先端までの距離が、前記シール体の外径の半分に比べて小さい。
【0012】
このような態様によれば、流動体の後垂れを抑制することができる注入器において、シール体とプランジャとを離間可能に接触させることができる。
【0013】
前記少なくとも1つの突出部がフランジであってもよい。この場合、前記フランジの外径が前記シール体の外径に比べて小さくされる。
【0014】
前記フランジの外径が、前記バレルの内径に比べて小さくてもよい。これにより、フランジは、バレルの内周面に強く接触することなく、すなわち摩擦力がほぼゼロの状態で従動することができる。
【0015】
前記シール体と前記フランジとの間の距離が、前記シール体の外径に比べて大きくてもよい。これにより、可動体が傾くことが抑制される。
【0016】
前記プランジャがその前端に平坦面状の接触面を備え、前記可動体が前記プランジャの接触面に接触する平坦面状の後端面を備えてもよい。これにより、プランジャによって可動体を傾けることなく押し進めることができる。
【0017】
前記プランジャが前記接触面から突出するガイドピンを備え、前記可動体が、前記後端面に前記ガイドピンを進退可能に収容するガイド穴を備えてもよい。ガイドピンがガイド穴によってガイドされることにより、可動体の後端面とプランジャの接触面とが適切に接触することができる。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1に係る注入器の外観図であって、図2は注入器の部分断面図である。
【0020】
図1および図2に示すように、注入器10は、例えばペースト状の流動体を収容するバレル12と、バレル12内に移動可能に収容された可動体14と、可動体14を押し進めるためのプランジャ16とを有する。また、注入器10は、バレル12の先端12aに取り付けられるノズルチップ18と、バレル12の基端12bに回転可能に嵌装されるフィンガーグリップ20とを有する。
【0021】
図3はバレルの断面図であって、図4図3に示すバレルの拡大断面図である。
【0022】
図3に示すように、バレル12は、中心軸C1を備える円筒状部材であって、例えば樹脂材料から作製されている。また、バレル12は、先端12aに吐出口12cを備えるとともに、基端12bにフランジ部12dを備える。バレル12の先端12aにノズルチップ18が取り付けられることにより、吐出口12cは、ノズルチップ18における外部に連通するノズル内流路に接続する。フランジ部12dは、バレル12の基端側部分に回転可能に嵌装されたフィンガーグリップ20の抜け落ちを防止するストッパとして機能する。
【0023】
さらに、図4に示すように、バレル12の内周面12eにおける基端側部分には、周回溝12fが形成されている。周回溝12fが形成されている理由については後述する。
【0024】
図5は可動体の斜視図であって、図6は可動体の部分断面図である。
【0025】
図5に示すように、可動体14は、中心軸C2を備える概略円筒状の部材である。また、可動体14は、弾性変形可能な、例えば樹脂材料から作製されている。具体的には、可動体14は、バレル12に比べて弾性変形しやすい材料から作製されている。
【0026】
また、可動体14は、本体14aと、本体14aに設けられたシール体14bと、本体14aに設けられたフランジ14cとを備える。
【0027】
可動体14の本体14aは、円筒状であって、図4に示すバレル12の内径d1に比べて小さい外径d2を備える。そのため、可動体14がバレル12内に収容された状態のとき、本体14aとバレル12の内周面12eとの間に隙間が生じる。
【0028】
可動体14のシール体14bは、円盤状であって、バレル12の内周面12eに対して外周端が摺動可能に且つ流体密に密接する。なお、シール体14bと本体14aは、一部品として一体化されているが、シール体14bと本体14aは別部品であってもよい。
【0029】
また、シール体14bは、バレル12の内周面12eに対して外周端が流体密に密接するために、バレル12の内径d1に比べて大きい外径d3を備える。なお、シール体14bの外径d3は、可動体14の本体14aの外径d2に比べて大きい。
【0030】
さらに、シール体14bは、本体14aの前端(バレル12の先端12a側の端)にその中央部分が取り付けられている。さらに、シール体14bの外周側部分は、自由状態であるとき(バレル12の外部に可動体14が存在するとき)、本体14aから離れている。
【0031】
可動体14のフランジ14cは、本体からバレル12の内周面に向かって突出する突出部であって、本体14aの後端(バレル12の基端12b側の端)に設けられている。また、フランジ14cは、シール体14bの外径d3に比べて小さい外径d4を備える。なお、本実施の形態1の場合、フランジ14cの外径d4は、バレル12の内径d1に比べて小さく、本体14aの外径d2に比べて大きい。このようなフランジ14cが可動体14に設けられている理由については後述する。
【0032】
可動体14はまた、プランジャ16と離間可能に接触するために、その中心軸C2に直交する平坦面状の後端面14dを備えるとともに、その後端面14dに非貫通穴状のガイド穴14eを備える。
【0033】
図7は、プランジャの外観図である。
【0034】
図7に示すように、プランジャ16は、バレル12内に収容された可動体14をバレル12の先端12a(すなわち吐出口12c)に向かって押し進めるための部材であって、中心軸C3を備え、例えば樹脂材料から作製されている。また、プランジャ16は、可動体14に対して離間可能に接触するように構成されている。
【0035】
具体的には、プランジャ16は、その前端側(バレル12の先端12a側)に、可動体14と接触する接触部16aを備える。接触部16aは、バレル12の内径d1に比べて小さい外径d5を備える。また、接触部16aは、可動体14の平坦面状の後端面14dと面接触する平坦面状の接触面16bを備える。
【0036】
また、プランジャ16は、その接触部16aの接触面16bから突出するガイドピン16cを備える。ガイドピン16cは、可動体14の後端面14dとプランジャ16の接触面16bとが面接触している状態のとき、可動体14のガイド穴14eに収容される。ガイドピン16cの外径d6は、可動体14のガイド穴14eに対して進退可能に収容されるために、図6に示すガイド穴14eの内径d7に比べて小さい。このようなガイドピン16cがガイド穴14eにガイドされることにより、プランジャ16の接触面16bが可動体14の後端面14dに対して適切に面接触することができる。すなわち、可動体14の中心軸C2とプランジャ16の中心軸C3とが実質的に同一直線上に配置された状態で、可動体14とプランジャ16とが互いに接触することができる。その結果、プランジャ16は、可動体14を傾けることなくバレル12の先端12aに向かって押し進めることができる。
【0037】
このようなプランジャ16によれば、プランジャ16を前進させることによって可動体14をバレル12の先端12aに向かって押し進めることができる。また、プランジャ16を後退させるだけで、可動体14とプランジャ16とを互いに離間させることができる。
【0038】
プランジャ16は、シール体14bがバレル12の内周面12eに密接している状態の可動体14に対して固定されていないために、バレル12から抜け落ちる可能性がある。例えば、ノズルチップ18が下に位置する状態の注入器10があって、ユーザがプランジャ16のみを掴んで注入器10を持ち上げると、バレル12が自重によってプランジャ16から抜け落ちる可能性がある。
【0039】
このようなプランジャ16のバレル12からの抜け落ちを抑制するために、図7に示すように、ストッパ16dがプランジャ16に設けられている。
【0040】
本実施の形態1の場合、ストッパ16dは、プランジャ16の中心軸C3を挟んで対向するように、2つ設けられている。また、2つのストッパ16dそれぞれは、プランジャ16に取り付けられた固定端16eと、バレル12の径方向(バレル12の中心軸C1に対して直交する方向)に変位可能な自由端16fを備える弾性変形可能な板ばね状部材である。なお、本実施の形態1の場合、ストッパ16dとプランジャ16は、一部品として一体化されている。
【0041】
本実施の形態1の場合、ストッパ16dの自由端16fは、固定端16eに対してバレル12の基端12b側に位置する。また、自由端16fは、固定端16eに比べて、プランジャ16の中心軸C3から離れている。すなわち、ストッパ16dは、バレル12の先端12a側から基端12b側に向かって、またバレル12の内周面12eに向かって延在する。
【0042】
図7に示すように、2つのストッパ16dの自由端16f間の距離L1は、自由状態であるとき(プランジャ16がバレル12の外部に存在するとき)、バレル12の内径d1に比べて大きい。そのため、プランジャ16のストッパ16dがバレル12内に位置するとき、2つのストッパ16dそれぞれは、バレル12の内周面12eにより、それぞれの自由端16fが互いに接近するように弾性変形する。それにより、ストッパ16dの自由端16fは、バレル12の内周面12eに対して、バレル12の径方向に弾性接触する。その結果、バレル12とストッパ16dの自由端16fとの間に摩擦力が生じ、バレル12からのプランジャ16の抜け落ちが抑制される。なお、ここで言う「弾性接触」は、弾性変形中の物体の一部が、その物体が元の形状に復元する復元方向に他の物体に接触していることを意味する。
【0043】
ストッパ16dの弾性力は、すなわちバレル12の内周面12eとストッパ16dの自由端16fとの間の摩擦力は、ノズルチップ18が下に位置する注入器10の姿勢であってプランジャ16のみをユーザが掴んでいるときにバレル12が抜け落ちない程度、または、ノズルチップ18が上に位置する注入器10の姿勢であってバレル12のみをユーザが掴んでいるときにプランジャ16が抜け落ちない程度である。また、この弾性力(すなわち摩擦力)は、ユーザがプランジャ16をバレル12の先端12aに向かって押し進めることが可能な程度である。このような弾性力(すなわち摩擦力)を実現するために、バレル12とストッパ16dの材料、ストッパ16dの形状などが適切に選択されている。
【0044】
このようなストッパ16dによれば、バレル12の内周面12eに凸部を設けることなく、プランジャ16がバレル12から抜け落ちることを抑制することができる。そのため、可動体14をバレル12内に収容するときに、シール体14bが内周面12eに設けられた凸部によって損傷することがない。
【0045】
また、このようなストッパ16dによれば、バレル12の内周面12e上の任意の位置でプランジャ16を固定することができる。その結果、注入器10は、高いユーザビリティを備えることができる。
【0046】
さらに、本実施の形態1の場合には、2つのストッパ16dがプランジャ16の中心軸C3を挟んで対向配置されているために、プランジャ16の中心軸C3をバレル12の中心軸C1に位置合わせすることができる。
【0047】
ストッパ16dの自由端16fがバレル12の内周面12eに対して弾性接触しているものの、ユーザがプランジャ16を後退させれば、自由端16fが内周面12e上を摺動し、最終的にはプランジャ16はバレル12から抜け落ちる。このようなユーザによる抜け落ちに対処するために、図4に示すように、バレル12の内周面12eにおける基端12bの近傍部分に周回溝12fが形成されている。この周回溝12fにストッパ16dの自由端16fが係合する(嵌り落ちる)ことにより、プランジャ16のバレル12の基端側への移動が規制され、その結果、プランジャ16のバレル12からの抜け落ちが抑制される。
【0048】
なお、プランジャ16をバレル12内に収容するときに、ストッパ16dの自由端16fが周回溝12fに引っ掛かり、プランジャ16をバレル12の先端12aに向かってスムーズに移動させることができない可能性がある。その対処として、図4に示すように、周回溝12fは、その底部からバレル12の先端12aに向かって延在しつつ内周面12eに対して傾斜するスロープ面12gを備える。このスロープ面12gにより、周回溝12fに落ちた自由端16fは内周面12e上に戻ることができる。その結果、ストッパ16dの自由端16fは、引っ掛かることなく、周回溝12fを通過することができる。
【0049】
また、このスロープ面12gは、可動体14をバレル12内に収容するときに、可動体14のシール体14bが周回溝12fに引っ掛かることも抑制することができる。これにより、周回溝12fによるシール体14bの損傷を抑制することができる。
【0050】
ここからは、図8A図8Dを参照しつつ、本実施の形態1に係る注入器10の動作を説明しつつ、注入器10のさらなる特徴について説明する。
【0051】
図8Aは、プランジャおよび可動体が停止した状態のバレルの拡大断面図である。
【0052】
図8Aに示すように、可動体14のシール体14bがバレル12の内周面12eに流体密に密接することにより、流動体Fが、バレル12の基端側から外部に漏れることなく、バレル12内に収容されている。
【0053】
図8Bは、プランジャおよび可動体がバレルの先端に向かって移動中のバレルの拡大断面図である。
【0054】
図8Bに示すように、可動体14の後端面14dとプランジャ16の接触面16bとが互いに接触した状態で、可動体14は、プランジャ16によってバレル12の先端12aに向かって押し進められる。可動体14の移動中、シール体14bは弾性変形する。具体的には、シール体14bの外周端とバレル12の内周面12eとの間に生じる摩擦力により、シール体14bの外周側部分が本体14aに接近するようにシール体14bが弾性変形する。このように弾性変形した状態でシール体14bは移動し、流動体Fを吐出口12cに向かって押し進める。
【0055】
図8Cは、プランジャが可動体から離れる方向に移動中のバレルの拡大断面図である。
【0056】
図8Cに示すように、プランジャ16が可動体14から離れる方向、すなわちバレル12の基端側に移動すると、可動体14はプランジャ16から離れ、そのままバレル12内で停止する。
【0057】
可動体14が停止してすぐに、シール体14bは、図8Aに示すように、その外周側部分が本体14aから離れた状態の元の形状に戻る(復元する)。このとき、シール体14bの外周端が接触するバレル12の内周面12e上の接触位置は変わらずに、可動体14全体がバレル12の基端側に後退する。その結果、ノズルチップ18内の流動体Fがシール体14bに向かって引き寄せられ、流動体Fの後垂れが抑制される。
【0058】
シール体14bのバレル12に対する接触位置は変わらずにシール体14bの復元によって可動体14がバレル12の基端側に後退するためには、プランジャ16も同時に後退する必要がある。すなわち、シール体14bの復元力が、プランジャ16のストッパ16dの自由端16fとバレル12の内周面12eとの間の摩擦力を上回る必要がある。そのために、シール体14bの材料、シール体14bの形状などが適切に選択されている。
【0059】
上述したようにシール体14bのバレル12に対する接触位置は変わらずにシール体14bの復元によって可動体14が後退するとき、フランジ14cがバレル12の内周面12eに沿って従動する。これにより、可動体14は、バレル12の中心軸C1の延在方向に後退することができる。フランジ14cがない場合、可動体14がバレル12の中心軸C1に対して傾いた方向に後退し、それにより、可動体14が、その後端面14dの外縁の一部がバレル12の内周面12eに接触する姿勢、すなわち傾いた姿勢になる可能性がある。可動体14が傾くと、シール体14bとバレル12の内周面12eとの間の密着性が部分的に弱まり、流動体Fがバレル12の基端側に漏れる可能性がある。
【0060】
なお、本実施の形態1の場合、可動体14のフランジ14cの外径d4が、バレル12の内径d1に比べて小さい。これにより、フランジ14cは、バレル12の内周面12eに強く接触することなく、すなわち摩擦力がほぼゼロの状態で従動することができる。これに代わって、可動体14のフランジ14cの外径d4をバレル12の内径d1と等しくまたは大きくてもよい。ただし、シール体14bとバレル12との間の摩擦力に比べて、フランジ14cとバレル12との間の摩擦力が小さい必要がある。さもなくば、シール体14bの復元およびその復元による可動体14の後退が実行できないからである。
【0061】
また、本実施の形態1の場合、図6に示すように、可動体14において、シール体14bとフランジ14cとの間の距離L2は、シール体14bの外径d3に比べて大きくされている。それにより、シール体14bの復元によって可動体14が後退するとき、可動体14が傾きにくい(距離L2が外径d3に比べて小さい場合に比べて)。
【0062】
図8Cに示すように、可動体14から離間したプランジャ16は、ストッパ16dによってバレル12から抜け落ちることなく、バレル12内に収容された状態で維持される。
【0063】
図8Dは、プランジャのバレルからの抜け落ちが周回溝によって制限されている状態のバレルの部分拡大断面図である。
【0064】
図8Dに示すように、ユーザの引っ張りによってバレル12の基端側に後退中のプランジャ16は、そのストッパ16dの自由端16fが周回溝12fに係合することによって制止される。その結果、プランジャ16のバレル12からの抜け落ちが抑制される。
【0065】
以上のような本実施の形態1によれば、流動体の後垂れを抑制することができる注入器において、シール体とプランジャとを離間可能に接触させることができる。
【0066】
(実施の形態2)
本実施の形態2は、プランジャに設けられたストッパの形態が異なる点を除いて、上述の実施の形態1と実質的に同一である。したがって、異なる点を中心に、本実施の形態2について説明する。また、上述の実施の形態1における構成要素と実質的に同一の本実施の形態2における構成要素には、同一の符号が付されている。
【0067】
図9は、本実施の形態2に係る注入器におけるバレルの先端側部分の拡大断面図である。また、図10は、バレルの基端側部分の拡大断面図である。
【0068】
図9に示すように、本実施の形態2に係る注入器110において、プランジャ116は、ストッパ116dを備える。ストッパ116dは、プランジャ116に取り付けられた固定端116eと、バレル12の内周面12eに弾性接触する自由端116fとを備える板ばね状部材である。
【0069】
本実施の形態2の場合、上述の実施の形態1のストッパ16dと異なり、ストッパ116dにおいて、自由端116fは、固定端116eに対してバレル12の先端側に位置する。そのため、可動体14の後端面14dと接触するプランジャ116の接触面116bが、図8Dに示す上述の実施の形態1に比べて、ストッパ116dの自由端116fに近い。
【0070】
したがって、図10に示すように、ストッパ116dの自由端116fがバレル12の周回溝に係合しているとき、プランジャ116の接触面116bが、バレル12の基端12bのより近くに配置される。言い換えると、その接触面116bに後端面14dが接触する可動体14も、バレル12の基端12bのより近くに配置される。その結果、バレル12内により多くの流動体を収容することができる。
【0071】
このような本実施の形態2も、上述の実施の形態1と同様に、流動体の後垂れを抑制することができる注入器において、シール体とプランジャとを離間可能に接触させることができる。
【0072】
(実施の形態3)
上述の実施の形態1の場合、プランジャのバレルからの抜け落ちを抑制するストッパは、プランジャに設けられている。これと異なり、本実施の形態3の場合、ストッパはバレルに設けられている。したがって、この異なるストッパを中心に、本実施の形態3について説明する。また、上述の実施の形態1における構成要素と実質的に同一の本実施の形態3における構成要素には、同一の符号が付されている。
【0073】
図11は、本実施の形態3に係る注入器の部分断面図である。また、図12は、図11に示すA-A線に沿った注入器の断面図である。さらに、図13は、可動体をバレルに収容するときのストッパを示すバレルの拡大断面図である。なお、図11において、ノズルチップとフィンガーグリップの図示は省略されている。
【0074】
図11および図12に示すように、本実施の形態3に係る注入器210において、プランジャ216にはストッパは設けられていない。その代わりに、図12に示すように、バレル212に、互いに対向し合う一対のストッパ212fが設けられている。
【0075】
具体的には、本実施の形態3の場合、ストッパ212fは、バレル212の基端212bから延在するように形成された2本のスリット212gに挟まれたバレル212の部分で構成されている。これにより、2本のスリット212gの根元部分に挟まれたバレル212の部分が、ストッパ212fの固定端212hとなる。また、一対のストッパ212fそれぞれの自由端212iの内側には、プランジャ216に弾性接触する爪212jが設けられている。すなわち、ストッパ212fは、固定端212hがバレル212に取り付けられ、自由端212iが(爪212jを介して)プランジャ216に弾性接触する板ばね状部材(バレル212と一体化された板ばね状部材)である。
【0076】
一対のストッパ212fの爪212j間の距離は、プランジャ216のシャフト部216bの外径に比べて小さくされている。これにより、一対の爪212jがプランジャ216のシャフト部216bを挟持する。その結果、プランジャ216のバレル212からの抜け落ちが抑制される。
【0077】
ユーザの引っ張りによってバレル212の基端212b側に後退中のプランジャ216は、可動体14と接触する接触部216aが爪212jに接触することにより、制止される。その結果、プランジャ216のバレル212からの抜け落ちが抑制される。
【0078】
なお、図13に示すように、バレル212内に可動体14を収容するとき、1対のストッパ212fは、その自由端212iが互いに離間するように弾性変形される。これにより、ストッパ212fの爪212jにシール体14bが接触することなく、可動体14をバレル212内に収容することができる。
【0079】
このような本実施の形態3も、上述の実施の形態1と同様に、流動体の後垂れを抑制することができる注入器において、シール体とプランジャとを離間可能に接触させることができる。
【0080】
以上、3つの実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されない。
【0081】
例えば、上述の実施の形態1の場合、図8Aに示すように、可動体14の平坦面状の後端面14dとプランジャ16の平坦面状の接触面16bが離間可能に接触する。すなわち、可動体14とプランジャ16は平面接触するように構成されている。しかしながら、本発明の実施の形態はこれに限らない。例えば、可動体がその後端に半円球状の凹部を備え、この凹部に係合できる半円球状の凸部をプランジャが備えてもよい。
【0082】
また、上述の実施の形態1の場合、図6に示すように、可動体14において、フランジ14cは、本体14aの後端に設けられている。フランジは、後端以外の本体の部分に設けられてもよい。ただし、可動体の傾きを抑制するためには、シール体とフランジは離れているのが好ましい。
【0083】
フランジに関して言えば、可動体の本体の周方向に等間隔で設けられた少なくとも3つの突出部であれば、フランジの代わりとして機能することができる。この場合、可動体の中心軸から少なくとも1つの突出部の先端までの距離が、シール体の外径の半分に比べて小さくされる。
【0084】
すなわち、本発明の実施の形態に係る注入器は、広義には、円筒状のバレルと、前記バレル内に収容される可動体と、前記可動体に対して離間可能に接触するプランジャと、を有し、前記可動体が、前記バレルの内径に比べて小さい外径を備える本体、前記本体に設けられ、前記バレルの内周面に対して外周端が密接する円盤状のシール体、および前記本体からバレルの内周面に向かって突出する少なくとも1つの突出部を備え、前記可動体の中心軸から前記少なくとも1つの突出部の先端までの距離が、前記シール体の外径の半分に比べて小さい、注入器である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、流動体を注入するための注入器であって、シール体とプランジャとが離間可能に接触する注入器であれば適用可能である。
【符号の説明】
【0086】
10 注入器
12 バレル
12e 内周面
14 可動体
14a 本体
14b シール体
14c 少なくとも1つの突出部(フランジ)
16 プランジャ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11
図12
図13