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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】背景光を低減した光合波器
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/12 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
G02B6/12 331
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020036933
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2021140006
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-11-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】300081763
【氏名又は名称】セーレンKST株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】姫野 明
(72)【発明者】
【氏名】堀井 浩一
(72)【発明者】
【氏名】勝山 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 祥治
(72)【発明者】
【氏名】中尾 慧
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-195603(JP,A)
【文献】米国特許第06212307(US,B1)
【文献】国際公開第2019/111401(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12- 6/14
G02B 6/26- 6/27
G02B 6/30- 6/34
G02B 6/42- 6/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長の異なる複数の光をそれぞれの導波路から入力し、前記複数の光を方向性結合器によって合波した多重光を出力する光合波器であって、前記方向性結合器を2個以上、5個以下使用し、前記方向性結合器の捨てポートから出力される余剰光を反射する反射溝によって背景光を低減し、前記光合波器の反射溝から出力端面までのクラッド層が、出力ポート周辺の部分を残して除去されていることを特徴とする光合波器。
【請求項2】
前記余剰光を反射する角度が、光合波器の入力端面から出力端面への入力光方向に対し、60°~120°である請求項1に記載された光合波器。
【請求項3】
前記反射溝の底面に金属薄膜を形成している請求項1~のいずれか1つに記載された光合波器。
【請求項4】
前記波長の異なる複数の光が、少なくとも赤色光、緑色光および青色光を含む請求項1~のいずれか1つに記載された光合波装置。
【請求項5】
前記請求項1~のいずれか1つに記載された光合波装置を含む画像投影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像投影装置に用いられる光合波器であって、複数の可視または近赤外領域の波長を有する光源からの光をそれぞれの導波路から入力し、前記複数の光を方向性結合器によって合波した多重光を出力する光合波器に関する。特に、少なくとも赤色光、緑色光および青色光を用いる場合には通常のディスプレイ装置に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
従来、眼鏡型端末や携帯プロジェクタ等の画像投影装置に用いられる小型の光合波器であって、赤色光(R)、緑色光(G)および青色光(B)のRGB3原色の光を入力し、方向性結合器を用いて合波した多重光を出力する光合波器が知られている(例えば特許文献1~3を参照)。
これら光合波器の出力端面において、出力ポートから所望の多重光が出力されるが、多重光以外にも、方向性結合器における出力ポート以外の導波路出力である捨てポートから、合波に寄与しなかった余剰光が不要な背景光として出力されるため、光合波器の小型化を行う場合、出力された画像の品質が劣化する問題があった。
具体的には、従来の光合波器では、捨てポートの終端から光合波器の出力端面まで伝搬方向に一定の距離を保つか、或いは捨てポートを湾曲させながら、出力ポートとの距離を徐々に離隔する構成が知られているが、十分な効果を得るためには、回路サイズを大きくする必要があった。また、例え捨てポートを十分に引き離しても、出力ポートの周辺クラッド部には回路各所から発生する余剰光が混入するため、背景光の出力強度が増大し、出力された多重光の画像が不鮮明になる等の品質劣化が発生する問題があった。
【0003】
また、前記背景光を低減する手段、方法について、捨てポートから出力される余剰光を抑制する導波路として導波路の幅等がテーパ状に変化したテーパ導波路、不要な光を回折させるグレーティング導波路、不要な光を共振させるリング共振器型導波路等が提案されている(特許文献4を参照)。
しかし、前記手段、方法では背景光を十分に低減することは困難であり、また、光合波器の小型化を行うことも困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-035877号公報
【文献】特開2013-195603号公報
【文献】特開2018-124394号公報
【文献】特開昭61-284707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、背景光を低減すると共に小型化された光合波器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
波長の異なる複数の光をそれぞれの導波路から入力し、前記複数の光を方向性結合器によって合波した多重光を出力する光合波器であって、前記方向性結合器の捨てポートから出力される余剰光を反射する反射溝によって背景光を低減することを特徴とする光合波器を提供する。
ここで、前記波長の異なる複数の光は、単一光を出力する光源を複数用いると共に、それぞれの光源が出力する単一光の波長が異なることで実現される。
また、方向性結合器は2個以上使用するが、小型化するためには5個以下の使用が好ましく、3個以下の使用がさらに好ましい。6個以上使用すると光合波器の小型化が困難となる。
前記方向性結合器は、1個または2個の入力ポート、および2個の出力ポートを有する方向性結合器であり、出力ポートは多重光の合波に寄与する光を出力するポートと多重光の合波に寄与しない余剰光を出力するポートに分けられ、複数の方向性結合器を接続して用いる場合もあるが、最終的に多重光の合波に寄与しない余剰光を出力するポートを捨てポートという。
【0007】
前記余剰光を反射する角度が、光合波器の入力端面から出力端面への入力光方向に対し、60°~120°であることが好ましい。また、80°~100°であることが特に好ましい。
60°未満であると、入力光方向への反射が大きく、画像の品質に影響が出る可能性があり、120°を超えると、背景光の低減が困難となる可能性がある。
【0008】
前記光合波器の反射溝から出力端面までのクラッド層が、出力ポート周辺の部分を残して除去されていることが好ましい。出力ポート周辺の部分以外のクラッド層が除去されている場合、余剰光をより効率よく低減することが可能である。
【0009】
前記反射溝の底面に金属薄膜を形成していることが好ましい。金属薄膜を形成している場合、余剰光をさらに効率よく低減することが可能である。
前記金属薄膜に用いる金属は、金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)等公知の金属を用いることができる。また、前記金属薄膜の製造方法は、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)等公知の製造方法を用いることができる。
【0010】
前記波長の異なる複数の光が、少なくとも赤色光、緑色光および青色光を含むことが好ましい。
ここで、他の波長の異なる光として、黄色光、橙色光、藍色光、紫色光等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0011】
前記光合波装置を含む画像投影装置を提供する。
ここで、前記画像投影装置は、眼鏡型端末や携帯型プロジェクタ等の小型画像投影装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、波長の異なる複数の光をそれぞれの導波路から入力し、前記複数の光を方向性結合器によって合波した多重光を出力する光合波器であって、前記方向性結合器の捨てポートから出力される余剰光を反射する反射溝によって背景光を低減する良好な特性を維持しながら、光合波器の小型化を実現できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)は本発明の実施例1における光合波器の平面図であり、(b)は前記合波器の出力端面側から見た正面図である。
図2】(a)は本発明の実施例2における光合波器の平面図であり、(b)は前記合波器の出力端面側から見た正面図である。
図3】(a)は本発明の実施例3における光合波器の平面図であり、(b)は前記合波器の出力端面側から見た正面図である。
図4】(a)は本発明の実施例3における光合波器の反射溝の底面に金属薄膜を形成した場合の反射溝部分を拡大した平面図であり、(b)は本発明の実施例4における光合波器の反射溝の底面に金属薄膜を形成した場合の反射溝部分を拡大した平面図である。
図5】(a)は本発明に対する比較例1における光合波器の平面図であり、(b)は前記合波器の出力端面側から見た正面図である。
図6】(a)は本発明に対する比較例2における光合波器の平面図であり、(b)は前記合波器の出力端面側から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
図1(a)は本発明の実施例1における光合波器の平面図であり、(b)は前記合波器の出力端面6側から見た正面図である。光合波器の入力端面1においてレーザーダイオード等の光源を用いて、RGB3原色の光をそれぞれの導波路2から入力し、前記RGB3原色の光を3個の方向性結合器によって合波した多重光を出力端面6の出力ポート4から出力する。導波路2は基板7上のクラッド8の中にフォトリソグラフィー法等の公知の製造方法によって設けられる。
光導波路の製造方法等については、特許文献2に詳細な製造方法および構造が記載されている。さらに一般的な光導波路の構造として、コア寸法が1×1~5×5μm程度の範囲の値であり、コアとクラッドの比屈折率差が0.3~3.0%程度の範囲の値を適切に選択することにより製造することも可能である。なお、コア寸法については、断面が正方形であることに限定されず、半円形等の他の形状であってもよい。
そして、方向性結合器における出力ポート4以外の導波路における余剰光は、前記クラッド8に設けられた立方体形状の反射溝3の反射面によって全反射され、捨てポート5から出力されることにより、出力ポート4から出力する多重光の画像品質に影響する背景光を低減する。
ここで、捨てポート5が複数ある場合、少なくとも1つの捨てポート5に反射溝3が形成されていれば本発明の範囲に含まれる。
【0015】
反射溝3は、クラッド8における所定の部分をエッチング加工等の公知の方法で加工される。反射溝3の形状は特に限定されないが、余剰光を全反射するためには反射面が平面に近い構造であることが重要である。
捨てポート5を終端に有する導波路の長さは、少なくとも反射溝3の反射面の手前まであればよい。この場合、捨てポート5から出力された余剰光は、前記反射面で反射されるが、出力ポート4から離れた方向への分散光となるため、背景光を低減する効果を十分に有する。
また、余剰光が全反射するためには、前記反射面に対する余剰光の入射角が「sinθc=(n2/n1)であり、θc=arcsin(n2/n1)(ここで、n1:導波路2の屈折率、n2:反射溝3の屈折率であり、n1>n2である。)」で表される臨界角θcより大きいことが条件である。
【0016】
例えば、n1=1.45、n2=1(空気)の場合、θc=43.6°と算出される。
余剰光の入射角の調整は、反射溝3における反射面の傾き角度によって行うことができる。前記反射面の傾き角度を光合波器の入力端面から出力端面への入力光方向に対し、45°とすることにより、前記入力光方向と同一方向である余剰光の反射面への入射角を43.6より大きい45°にすることができる。
そうすると、入射角と反射角は等しいことから、この場合、余剰光の入射に対し、90(45×2=90)°で反射するため、余剰光を反射する角度は、光合波器の入力端面から出力端面への入力光方向に対し、90°となる。
【0017】
図2(a)は本発明の実施例2における光合波器の平面図であり、(b)は前記合波器の出力端面6側から見た正面図である。実施例1とは、反射溝3の形状が三角柱であると共に、光合波器の出力端面6までのクラッド層8が、出力ポート4周辺の部分を残して除去されている点で異なっている。
出力ポート4周辺の部分を残してクラッド層8が除去されていることにより、背景光をより効率よく低減することができる。
【0018】
図3(a)は本発明の実施例3における光合波器の平面図であり、(b)は前記合波器の出力端面6側から見た正面図である。実施例1とは反射溝3の形状が変則的な五角形であると共に、光合波器の出力端面6までのクラッド層8が、出力ポート4周辺の部分を残して除去されている点で異なっている。
出力ポート4周辺の部分を残してクラッド層8が除去されていることにより、背景光をより効率よく低減することができる。
なお、図2および図3に示す反射溝3の形状は、あくまで一例であってこれに限定されるものではない。少なくとも図1(a)の反射溝3における反射面と同様の作用、機能を有する反射面を備えた形状であれば本発明の範囲に含まれる。
【0019】
図4(a)は本発明の実施例3における光合波器の反射溝3の底面に金属薄膜9を形成した場合の反射溝3から出力端面6までの部分を拡大した平面図であり、(b)は本発明の実施例4における光合波器の反射溝3の底面に金属薄膜9を形成した場合の反射溝3から出力端面6までの部分を拡大した平面図である。
反射溝3の底面に金属薄膜9を形成することにより、背景光をさらに効率よく低減することができる。
また、図示はされていないが、前記金属薄膜9を反射溝3における反射面に形成することもできる。金属薄膜9を形成した前記反射面はさらに効率よく余剰光を反射し、背景光を低減することができる。
【0020】
図5(a)は本発明に対する比較例1における光合波器の平面図であり、(b)は前記合波器の出力端面側から見た正面図である。
光合波器の出力端面6において、多重光の出力ポート4以外に、方向性結合器における出力ポート4以外の導波路出力である捨てポート5終端から、合波に寄与しなかった余剰光が分散光となり、不要な背景光として出力される。この場合、光合波器の小型化を目的として、前記捨てポート5と出力端面6の距離を小さくすると、多重光の出力強度に対する背景光の出力強度が相対的に増大して多重光の画像品質が劣化する。この画像劣化が実用上問題ないレベルになるまで、背景光の出力強度を低減するには、前記捨てポート5と出力端面6までの距離を一定以上大きくする必要があることから、比較例1の光合波器を小型化することには限界がある。
【0021】
図6(a)は本発明に対する比較例2における光合波器の平面図であり、(b)は前記合波器の出力端面側から見た正面図である。
光合波器の出力端面6において、多重光の出力ポート4以外に、方向性結合器における出力ポート4以外の導波路出力を湾曲させながら、出力ポート4との距離を徐々に離隔して構成された捨てポート5から余剰光が出力される。
ここで、捨てポート5を多重光の出力ポート4から離隔した方が、多重光の画像品質が向上する。
また、湾曲した導波路の曲げ半径が小さい場合、湾曲した導波路界面において、クラッドに対する余剰光の入射角が臨界角より小さくなり、全反射することができなくなるため、漏れた光が背景光を発生させ、多重光の画像品質が劣化する。
したがって、捨てポート5を多重光の出力ポート4から離隔すると共に、クラッドに対する余剰光の入射角を臨界角より大きくして全反射させるため、湾曲した導波路の曲げ半径を一定以上大きくする必要があることから、比較例2の光合波器を小型化することには限界がある。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、波長の異なる複数の光をそれぞれの導波路から入力し、前記複数の光を方向性結合器によって合波した多重光を出力する光合波器であって、前記方向性結合器の捨てポートから出力される余剰光を反射する反射溝によって背景光を低減することが可能となる。また、前記光合波器の小型化を実現する。
【符号の説明】
【0023】
1 光合波器の入力端面
2 導波路
3 反射溝
4 多重光の出力ポート
5 方向性結合器の捨てポート
6 光合波器の出力端面
7 光合波器の基板
8 クラッド
9 金属薄膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6