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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/00 20060101AFI20241126BHJP
   C10M 133/12 20060101ALI20241126BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20241126BHJP
   F16C 33/76 20060101ALI20241126BHJP
   H02K 5/173 20060101ALI20241126BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20241126BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20241126BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20241126BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20241126BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20241126BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20241126BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20241126BHJP
   C10M 105/18 20060101ALN20241126BHJP
   C10M 115/08 20060101ALN20241126BHJP
   C10M 129/26 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
C10M169/00
C10M133/12
F16C19/06
F16C33/76 Z
H02K5/173 A
C10N20:02
C10N10:02
C10N10:04
C10N40:02
C10N30:06
C10N30:00 Z
C10N50:10
C10M105/18
C10M115/08
C10M129/26
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020145104
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039847
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(73)【特許権者】
【識別番号】390022275
【氏名又は名称】株式会社ニッペコ
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(72)【発明者】
【氏名】川村 隆之
(72)【発明者】
【氏名】田中 新樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 稔
(72)【発明者】
【氏名】天利 裕行
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-036385(JP,A)
【文献】特開平11-166191(JP,A)
【文献】特開2004-124035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 1/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と増ちょう剤とを含むグリース組成物であって、
前記基油が、合成炭化水素油とエーテル油を含み、40℃における動粘度が120mm/s以上の混合油であり、
前記増ちょう剤は、ジイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応して得られるジウレア化合物であり、前記モノアミン成分が、脂肪族モノアミンおよび脂環式モノアミンであり、前記基油と前記増ちょう剤との合計量100質量部に対して12質量部~15質量部含まれ、
前記グリース組成物は、JIS K 2220に準拠して測定される混和ちょう度が200~240であり、20℃で固体の有機酸金属塩を含み、
前記有機酸金属塩が、炭素数2~18の有機カルボン酸のナトリウム塩またはカルシウム塩であり、
前記グリース組成物は、分子構造内に硫黄およびリンを含む添加剤を含まないことを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
前記グリース組成物はアミン系酸化防止剤を更に含み、該アミン系酸化防止剤がN-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミンであることを特徴とする請求項1記載のグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物に関し、特に、サーボモータやエンコーダなどの回転電気機械用転がり軸受に用いられるグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
サーボモータは、位置や速度などの検出器を備え、高精度な位置決めや、きめ細かい回転速度制御が可能であることから、工作機械やロボット用途を中心に需要が増加している。このうち、ロボット向けサーボモータは、関節部の駆動に用いられる場合が多く、関節部の軸速度や加減速度を高めるため、小型、高出力が求められる。小型化を図るため、転がり軸受の近傍に検出器やブレーキが配置されるが、軸受内部のグリースの一部飛沫が検出器やブレーキに付着すると、検出精度や制動性の低下を招くため、グリースには低発塵性が求められる。
【0003】
発塵は、転がり軸受の回転に伴う発熱と軸受内部の圧力上昇により、グリースの一部が蒸発または飛散し、軸受外部へ放出されることで生じる。発塵を抑制するためには、グリースの基油の粘度を高めて表面張力を大きくすることや、グリース中の基油の量を減らすことが有効である。しかしその反面、転がり面や滑り面への基油の供給(回り込み)が不十分となりやすく、軸受の過大昇温や、転がり面または滑り面の面荒れ、摩耗などの損傷を招くおそれがある。
【0004】
従来、低発塵性を目的としたグリース組成物が種々検討されている。例えば、特許文献1では、40℃における動粘度が30mm/s~180mm/sであり、かつ、合成炭化水素油およびエーテル油から選ばれる少なくとも1種が配合された基油と、ウレア化合物からなる増ちょう剤とを含み、更に非金属元素のみからなる添加剤をグリース全量の0.1~1重量%配合してなるグリース組成物が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、正逆回転するモータに組み込まれる転がり軸受ユニットにおいて、エンコーダの近傍に配設される転がり軸受が、合成炭化水素油およびエーテル油から選ばれる少なくとも1種からなり、かつ、40℃における動粘度が80mm/s~120mm/sである基油を含有するグリース組成物を封入してなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-166191号公報
【文献】特開2010-127344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、モータの小型化・高出力化に伴い、その軸受の使用環境は高温になるケースが増えており、発塵には不利な環境での使用が増えている。また、低発塵性が要求される転がり軸受においても、耐摩耗性やグリース寿命といった耐久性も求められる。特許文献1に記載されているグリース組成物は、半導体製造設備などのクリーンルーム内で使用される転動装置用であり、高温下での発塵性や耐久性については検討されておらず、これらの点で懸念がある。また、特許文献2に記載されているグリース組成物は、正逆回転するモータ用の軸受ユニットに用いられるものであり、基油およびその動粘度を単に規定するだけでは、耐摩耗性やグリース寿命の面で不十分な場合が考えられる。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性や寿命の低下を抑えつつ、低発塵性を実現できるグリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のグリース組成物は、基油と増ちょう剤とを含むグリース組成物であって、上記基油が、合成炭化水素油とエーテル油を含み、40℃における動粘度が120mm/s以上の混合油であり、上記増ちょう剤は、脂肪族ジウレア化合物および脂環式ジウレア化合物であり、上記基油と上記増ちょう剤との合計量100質量部に対して12質量部~15質量部含まれ、上記グリース組成物は、JIS K 2220に準拠して測定される混和ちょう度が200~240であり、20℃で固体の有機酸金属塩を含むことを特徴とする。
【0010】
上記有機酸金属塩が、ナトリウム塩またはカルシウム塩であることを特徴とする。また、上記有機酸金属塩が、炭素数2~18の有機カルボン酸の金属塩であり、上記グリース組成物は、分子構造内に硫黄およびリンを含む添加剤を含まないことを特徴とする。
【0011】
上記グリース組成物はアミン系酸化防止剤を更に含み、該アミン系酸化防止剤がN-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン(PIPA)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のグリース組成物は、基油が、合成炭化水素油とエーテル油を含み、40℃における動粘度が120mm/s以上の混合油であり、増ちょう剤は、脂肪族ジウレア化合物および脂環式ジウレア化合物であり、基油と増ちょう剤との合計量100質量部に対して12質量部~15質量部含まれ、混和ちょう度が200~240であり、20℃で固体の有機酸金属塩を含むので、耐摩耗性や寿命の低下を抑えつつ、低発塵性を実現できる。具体的には、所定の基油および所定の増ちょう剤の組み合わせに対して、20℃で固体の有機酸金属塩を添加することにより、基油の表面張力に影響せず、かつ、基油の供給が不足し、摩耗が懸念される場合に、有機酸金属塩が融解し、極圧剤として鋼表面を保護することができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のグリース組成物を封入してなる転がり軸受の一例である深溝玉軸受の断面図である。
図2】本発明のグリース組成物を封入してなる転がり軸受を適用したサーボモータの概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のグリース組成物は、所定の動粘度を有する基油と、所定の増ちょう剤と、添加剤とを含み、その添加剤が20℃で固体の有機酸金属塩を含むことを特徴としている。
【0015】
本発明のグリース組成物に用いる基油は、合成炭化水素油とエーテル油を含み、40℃における動粘度が120mm/s以上の混合油である。この動粘度は、混合油の動粘度であり、40℃において120mm/s~160mm/sが好ましく、125mm/s~140mm/sがより好ましい。
【0016】
合成炭化水素油としてはポリ-α-オレフィン油(PAO油)がより好ましい。PAO油は、α-オレフィンまたは異性化されたα-オレフィンのオリゴマーまたはポリマーの混合物である。α-オレフィンの具体例としては、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、1-ドコセン、1-テトラドコセンなどが挙げられ、通常はこれらの混合物が使用される。
【0017】
エーテル油としては、例えば、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、アルキルトリフェニルエーテル油、アルキルテトラフェニルエーテル油などが挙げられる。これらの中でも、高温での耐久性の点から、アルキルジフェニルエーテル油が好ましく、アルキルジフェニルエーテル油が基油(混合油)全体の50質量%以上含まれることがより好ましい。アルキルジフェニルエーテル油としては、モノアルキルジフェニルエーテル油、ジアルキルジフェニルエーテル油、ポリアルキルジフェニルエーテル油などが挙げられる。
【0018】
本発明に用いる基油は、合成炭化水素油とエーテル油のみの混合油でもよく、更に他の油を添加した混合油でもよい。他の油としては、通常、転がり軸受に用いられるものであれば、特に制限なく用いることができる。例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などの鉱油、エステル油、シリコーン油、フッ素油などが挙げられる。
【0019】
本発明のグリース組成物に用いる増ちょう剤は、脂肪族ジウレア化合物および脂環式ジウレア化合物の混合物である。これらジウレア化合物は、ジイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応して得られる。脂肪族ジウレア化合物は、モノアミン成分としての脂肪族モノアミンとジイソシアネート成分とから得られ、脂環式ジウレア化合物は、モノアミン成分としての脂環式モノアミンとジイソシアネート成分とから得られる。ジイソシアネート成分としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜などが挙げられる。脂肪族モノアミンとしては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどが挙げられる。脂環式モノアミンとしては、シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。本発明に用いる増ちょう剤における脂肪族ジウレア化合物の含有量は、脂環式ジウレア化合物の含有量よりも多いことが好ましい。
【0020】
基油に増ちょう剤としてジウレア化合物を配合してベースグリースが得られる。ジウレア化合物を増ちょう剤とするベースグリースは、基油中でジイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応させて作製する。増ちょう剤は、基油と増ちょう剤との合計量100質量部に対して12質量部~15質量部含まれる。
【0021】
本発明のグリース組成物に用いる有機酸金属塩は、有機カルボン酸、アルキルベンゼンスルホン酸などの有機スルホン酸、アルキル硫酸などの有機硫酸、アルキルホスホン酸などの有機ホスホン酸、アルキルホスフィン酸などの有機ホスフィン酸などの置換基を有する脂肪族化合物または芳香族化合物と、金属イオンとの塩である。上記有機酸金属塩は、20℃で固体、つまり融点が20℃をこえていればよく、有機酸金属塩を構成する有機酸や金属イオンは、適宜選択できる。有機酸金属塩の融点は100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。
【0022】
有機酸金属塩を構成する金属としては、上記有機酸と塩を形成することができるものであればよく、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、アルミニウムなどを用いることができる。金属塩として好ましくはナトリウム塩またはカルシウム塩であり、より好ましくはナトリウム塩である。
【0023】
有機酸金属塩を構成する上記有機酸は、分子構造中の脂肪族基または芳香族基にハロゲン基や、水酸基、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、エポキシ基などの置換基を有していてもよい。また、上記有機酸は、分子構造内に硫黄原子およびリン原子を含まないことが好ましく、構成原子が炭素原子、水素原子、窒素原子、および酸素原子の中から選択される原子であることがより好ましい。このような有機酸として、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-ヒロドキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などの炭素数2~18の有機カルボン酸が挙げられ、中でも炭素数10~18の有機カルボン酸が好ましく、さらに、置換基を有しない直鎖状の有機カルボン酸がより好ましい。
【0024】
本発明に用いる有機酸金属塩として、具体的には、酢酸ナトリウム(融点324℃)、酢酸カルシウム(融点160℃)、ステアリン酸ナトリウム(融点220℃)、ステアリン酸カルシウム(融点179℃)などを用いることができる。
【0025】
グリース組成物における有機酸金属塩の配合量は、基油と増ちょう剤との合計量100質量部に対して、0.5質量部~5質量部が好ましく、0.5質量部~3質量部がより好ましく、1質量部~3質量部がさらに好ましい。
【0026】
本発明のグリース組成物は、添加剤として、更に酸化防止剤を含むことが好ましい。酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などを用いることができ、これらの中でもアミン系酸化防止剤を用いることが好ましく、例えば、フェニル-1-ナフチルアミン、ジフェニル-p-フェニレンジアミン、ジピリジルアミン、フェノチアジン、N,N’-ジイソプロピル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、ジアルキルジフェニルアミン(DDPA)などが挙げられる。
【0027】
また、グリース組成物には、必要に応じて、防錆剤や、エステル、アルコールなどの油性剤といったその他の添加剤を添加することができる。例えば、グリース自体の防錆性能を確保するため、防錆剤を添加することが好ましい。防錆剤としては、特に限定されないが、エステル系防錆剤が好ましい。エステル系防錆剤としては、ソルビタン、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ショ糖、グリセリンなどの多価アルコールと、オレイン酸、ラウリル酸などのカルボン酸との部分エステルや、コハク酸ハーフエステルなどが挙げられる。エステル系防錆剤の配合量は、基油と増ちょう剤との合計量100質量部に対して0.2質量部~0.6質量部含まれることがより好ましい。
【0028】
本発明のグリース組成物は、分子構造内にリン原子やイオウ原子を含む添加剤を含まないことが好ましい。後述の実施例で示すように、これらの添加剤を含むことで、基油の表面張力が低下する結果が得られ、その結果、発塵量が増大する傾向がある。このような添加剤として、例えば、トリクレジルホスフェートなどのリン酸エステルや、トリクレジルホスファイトなどの亜リン酸エステル、チオホスフェート、チオホスファイト、アルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、アルキルジチオリン酸モリブデン(MoDTP)、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)などの極圧剤が挙げられる。
【0029】
本発明のグリース組成物の混和ちょう度(JIS K 2220)は、200~240の範囲にある。発塵量を抑制する観点では、混和ちょう度は200~220の範囲にあることが好ましい。
【0030】
本発明のグリース組成物を封入してなる転がり軸受について図1に基づいて説明する。図1は深溝玉軸受の断面図である。転がり軸受1は、外周面に内輪軌道面2aを有する内輪2と内周面に外輪軌道面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間に複数個の転動体4が配置される。この転動体4は、保持器5により保持される。また、内・外輪の軸方向両端開口部8a、8bがシール部材6によりシールされ、少なくとも転動体4の周囲に上述のグリース組成物7が封入される。図1のシール部材6は、内径リップがシール溝内部で接触する接触形のシール部材である。内輪2、外輪3および転動体4は鉄系金属材料からなり、グリース組成物7が転動体4との軌道面に介在して潤滑される。
【0031】
転がり軸受1において、内輪2、外輪3、転動体4、保持器5などの軸受部材を構成する鉄系金属材料は、軸受材料として一般的に用いられる任意の材料であり、例えば、高炭素クロム軸受鋼(SUJ1、SUJ2、SUJ3、SUJ4、SUJ5など;JIS G 4805)、浸炭鋼(SCr420、SCM420など;JIS G 4053)、ステンレス鋼(SUS440Cなど;JIS G 4303)、高速度鋼(M50など)、冷間圧延鋼などが挙げられる。
【0032】
また、シール部材6は、金属製またはゴム成形体単独でよく、あるいはゴム成形体と金属板、プラスチック板、またはセラミック板との複合体であってもよい。耐久性、固着の容易さから、図1に示すようにゴム成形体と金属板との複合体が好ましい。ゴム成形体の材質としては、ニトリルゴム(NBR)、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが用いられ、ゴム成形体には可塑剤が含まれる。
【0033】
可塑剤は、公知の可塑剤の中から適宜選択して使用することができるが、エステル系可塑剤を使用することが好ましい。エステル系可塑剤としては、例えば、フタル酸ジ-n-オクチル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニルなどのフタル酸エステル系可塑剤や、アジピン酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸エステル系可塑剤などのエステル化合物が挙げられる。これらの中でも、発塵量を抑える観点から、トリメリット酸エステル系可塑剤がより好ましい。トリメリット酸エステル系可塑剤は、下記式(1)で表される。
【化1】
式(1)において、R、R、Rは同一であっても異なってもよい。好ましくは同一である。また、R、R、Rは炭素数が7~9の脂肪族1価アルコール残基であることが好ましい。この脂肪族1価アルコール残基は、直鎖状アルキル基であっても分岐状アルキル基であってもよい。具体的には、トリメリット酸トリ-n-オクチル、トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシルなどが挙げられる。トリメリット酸エステル系可塑剤としては、レオルーブLTM、レオルーブTM10(FMC製)などを用いることができる。
【0034】
ゴム成形体には、上記の可塑剤に加えて、必要に応じて、難燃剤、滑剤、安定剤、充填剤、発泡剤、酸化防止剤、加工助剤、中和剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、分散剤、増粘剤、金属劣化防止剤、防カビ剤、流動調整剤などの公知の各種添加剤を配合することもできる。
【0035】
図1では軸受として玉軸受について例示したが、本発明のグリース組成物を封入してな 転がり軸受は、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト針状ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受などとしても使用できる。
【0036】
本発明のグリース組成物を封入してなる転がり軸受を、サーボモータに適用した構成を図2により説明する。図2に示すようにサーボモータ11は、ロータ12と、ステータ13と、シャフト14と、シャフト14の反負荷側にロータ12の角度を読み取るエンコーダ15とを有する。シャフト14は、負荷側に配置された転がり軸受16と、反負荷側に配置された転がり軸受1によって支持されている。本発明のグリース組成物を封入してな 転がり軸受1は、エンコーダ15の近傍に配置されるものの、軸受からの発塵量が抑えられるため、エンコーダ15による検出精度の低下を防ぐことができる。
【0037】
本発明のグリース組成物を封入してなる転がり軸受は、サーボモータに限らず、低発塵性が要求される、他の回転電気機械にも使用される。例えば、発電機や、スピンドルモータ、ステッピングモータ、ファンモータなどのサーボモータ以外の電動機が挙げられる。
【実施例
【0038】
表1および表2に示す組成のグリース組成物をそれぞれ調整した。表1および表2中、基油と増ちょう剤と添加剤の含有量は、ベースグリース(基油+増ちょう剤)に対する含有率(質量%)を示している。なお、表1の実施例1~8のグリース組成物は、添加剤として、有機酸金属塩およびアミン系酸化防止剤のみが配合されている。なお、表1および表2中のDDPAには、ジオクチルジフェニルアミンを用いた。また、表1下記の1)~9)は、表2においても同じである。
【0039】
<発塵試験>
各グリース組成物をそれぞれ、接触形のシール部材を備える深溝玉軸受6900(内径10mm×外径22mm×幅6mm)に封入して、試験用軸受を作製した。実施例8以外のシール部材には、可塑剤としてフタル酸エステル系可塑剤(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)を含むNBRを使用し、実施例8のシール部材には、可塑剤としてトリメリット酸エステル系可塑剤(レオルーブLTM、FMC製、40℃における動粘度53mm/s)を含むNBRを使用した。得られた試験用軸受を、雰囲気温度120℃、6000min-1、200時間で内輪回転させた。試験用軸受の軸方向両端にガラス板を配置し、軸受から飛散したグリース組成物を付着させた。発塵量は、試験後のガラス板の重量から試験前のガラス板の重量を差し引くことで求めた。発塵量の評価について、3mg以下を◎印、3mgより大きく4mg以下を○印、4mgより大きく6mg以下を△印、6mgより大きいのを×印として表1および表2に併記する。
【0040】
<フレッチング摩耗試験>
各グリース組成物についてボールオンディスク型往復動試験機を用いて、摩耗試験を行った。鋼材平板(20mm角で厚さ5mm)型試験片に各グリース組成物を塗布し、SUJ2製の鋼球1個(7/16inch)を98Nの荷重で押し当て、振幅0.47mm、振動数30Hzで8時間の微小往復摺動をさせた。この試験後の鋼材平板の摩耗深さ(μm)を測定した。摩耗深さの評価について、3μm以下を◎印、3μmより大きく5μm以下を○印、5μmより大きく10μm以下を△印、10μmより大きいのを×印として表1および表2に併記する。
【0041】
<グリース寿命試験>
各グリース組成物をそれぞれ、深溝玉軸受6204(内径20mm、外径47mm、幅14mm)に1.8g封入して、試験用軸受を作製した。得られた試験用軸受を、軸受外輪の外径部温度180℃、アキシアル荷重67N、ラジアル荷重67Nの条件下で、10000min-1の回転速度で回転させて、焼き付きに至るまでの時間を測定した。グリース寿命時間の評価について、300時間以上を◎印、230時間以上300時間未満を○印、150時間以上230時間未満を△印、150時間未満を×印として表1および表2に併記する。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
なお、表1中の発塵量の評価について、実施例8は発塵量が2mg以下であり、他の◎印の試験例よりも、発塵性の面でより優れる結果になった。
【0045】
表1および表2に示すように、PAO油およびエーテル油を含み、所定の動粘度を有する基油と、脂肪族ジウレア化合物および脂環式ジウレア化合物を含む増ちょう剤と、有機酸金属塩とを組み合わせた実施例1~8は、いずれの試験でも良好な結果を示した。比較例2や比較例6と比べると、有機酸金属塩が、特に耐摩耗性やグリース寿命の向上に寄与していることが分かる。20℃で固体の有機酸金属塩を添加することにより、基油の表面張力に影響せず、かつ、基油の供給が不足し、摩耗が懸念される場合に、有機酸金属塩が融解し、極圧剤として鋼表面を保護するためと考えられる。有機酸金属塩として、発塵量の面ではステアリン酸金属塩がより良好な結果を示し(実施例1、4、6、7)、耐摩耗性の面ではナトリウム塩がより良好な結果を示した(実施例4、5)。
【0046】
添加剤としてZnDTPを添加した比較例1、比較例4、比較例10は耐摩耗性やグリース寿命は比較的良好であったものの、発塵量が増大する結果になった。別途、JIS
K2241に準拠した表面張力試験を行ったところ、40℃における動粘度が47mm/sのPAO油単体の表面張力が29.8mN/mであったのに対して、該PAO油に対してZnDTPを2質量%添加した試験油の表面張力は26mN/mであった。この結果より、ZnDTPを添加することで発塵量が増大した原因としては、表面張力の減少が考えられる。TCPの場合も同様に表面張力が減少した結果、発塵量が増大したと考えられる(比較例3)。
【0047】
また、シール部材として、トリメリット酸エステル系可塑剤を含むNBRを使用した場合(実施例8)、フタル酸エステル系可塑剤を含むNBRを使用した場合(実施例3)に比べて発塵量が減少した。フタル酸エステル系可塑剤に比べて、トリメリット酸エステル系可塑剤の方が低揮発性(高沸点)であり、その結果、可塑剤自体の蒸発が抑えられ、発塵量が減少したと考えられる。このように、耐熱NBRのシール部材により低発塵性が向上している。
【0048】
以上より、本発明のグリース組成物は、所定の基油および所定の増ちょう剤の組み合わせ、具体的には、耐熱性に優れ表面張力が大きい基油、所定の増ちょう剤、低揮発/離油となる組合せに、20℃で固体の有機酸金属塩を添加することにより、基油の表面張力に影響せず、かつ、基油の供給が不足し、摩耗が懸念される場合に、有機酸金属塩が融解し、極圧剤として鋼表面を保護できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のグリース組成物は、耐摩耗性や寿命の低下を抑えつつ、低発塵性を実現できるので、特に低発塵性が要求されるサーボモータやエンコーダなどの回転電気機械用転がり軸受に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 転がり軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 グリース組成物
8a、8b 開口部
11 サーボモータ
12 ロータ
13 ステータ
14 シャフト
15 エンコーダ
16 転がり軸受
図1
図2