(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】アンテナ装置、給電装置、及び給電方法
(51)【国際特許分類】
H01Q 3/36 20060101AFI20241126BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20241126BHJP
H02J 50/23 20160101ALI20241126BHJP
【FI】
H01Q3/36
H01Q21/06
H02J50/23
(21)【出願番号】P 2020151849
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正明
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-136918(JP,A)
【文献】特開2014-120816(JP,A)
【文献】国際公開第2013/080285(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 3/36
H01Q 21/06
H02J 50/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、
前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向において調節する位相調節部と、
魚眼レンズを通じて画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部によって取得される画像に含まれるマーカの前記画像取得部に対する第1位置を、前記第1軸及び前記第2軸を含む第1平面上の極座標における第2位置に変換する位置導出部と、
前記第2位置に基づいて、前記第1位置を前記第1軸と第3軸とを含む第2平面に投影した投影位置の前記第2平面内での前記第3軸に対する仰角を取得する仰角取得部と、
前記複数のアンテナ素子から前記マーカの位置にある受電装置にそれぞれ送電する際の複数の位相であって、前記受電装置が前記複数のアンテナ素子から受電する位相が揃うように調整された複数の位相を表す位相データを複数の前記仰角に応じた複数セット分だけ格納する格納部と、
前記格納部から前記仰角取得部によって取得される仰角に応じた前記位相データを読み出し、読み出した前記位相データに基づいて前記アレイアンテナが放射するビームの方向が前記第2平面内で前記仰角になるように前記位相調節部を制御する制御部と
、
前記仰角取得部によって取得される仰角がゼロ度のときに、前記画像取得部によって取得される画像に基づいて、前記画像取得部から前記マーカまでの距離を推定する距離推定部と
を含
み、
前記格納部は、前記複数セット分の前記位相データを前記画像取得部から前記マーカまでの複数種類の距離に応じて複数格納しており、
前記制御部は、前記距離推定部によって推定される距離と、前記仰角取得部によって取得される仰角とに応じた前記位相データを前記格納部から読み出し、読み出した前記位相データに基づいて前記位相調節部を制御する、アンテナ装置。
【請求項2】
前記画像取得部によって取得される画像に含まれるマーカの重心の位置に基づいて、前記第2軸方向における前記画像取得部と前記マーカとの位置ずれを検出する位置ずれ検出部をさらに含み、
前記距離推定部は、前記位置ずれ検出部によって検出される位置ずれの度合に応じて補正された前記画像に基づいて、前記画像取得部から前記マーカまでの距離を推定する、請求項
1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記仰角取得部は、前記第2位置を前記第1軸に写像した写像位置の座標を前記魚眼レンズの焦点距離で除算した値を、前記仰角として求める、請求項1
又は2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記写像位置の座標は、前記極座標における動径に偏角の余弦を乗算した値で表される、請求項
3に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記複数のアンテナ素子は、前記第2軸方向に沿って伸びる複数のサブアレイにグループ分けされており、
前記位相調節部は、前記複数のサブアレイにそれぞれ接続され、前記送電信号の位相をサブアレイ毎に調整する複数の位相シフタである、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、
電波発生源と、
前記アレイアンテナと前記電波発生源との間に設けられ、前記電波発生源から前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向において調節する位相調節部と、
魚眼レンズを通じて画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部によって取得される画像に含まれるマーカの前記画像取得部に対する第1位置を、前記第1軸及び前記第2軸を含む第1平面上の極座標における第2位置に変換する位置導出部と、
前記第2位置に基づいて、前記第1位置を前記第1軸と第3軸とを含む第2平面に投影した投影位置の前記第2平面内での前記第3軸に対する仰角を取得する仰角取得部と、
前記複数のアンテナ素子から前記マーカの位置にある受電装置にそれぞれ送電する際の複数の位相であって、前記受電装置が前記複数のアンテナ素子から受電する位相が揃うように調整された複数の位相を表す位相データを複数の前記仰角に応じた複数セット分だけ格納する格納部と、
前記格納部から前記仰角取得部によって取得される仰角に応じた前記位相データを読み出し、読み出した前記位相データに基づいて前記アレイアンテナが放射するビームの方向が前記第2平面内で前記仰角になるように前記位相調節部を制御する制御部と
、
前記仰角取得部によって取得される仰角がゼロ度のときに、前記画像取得部によって取得される画像に基づいて、前記画像取得部から前記マーカまでの距離を推定する距離推定部と
を含
み、
前記格納部は、前記複数セット分の前記位相データを前記画像取得部から前記マーカまでの複数種類の距離に応じて複数格納しており、
前記制御部は、前記距離推定部によって推定される距離と、前記仰角取得部によって取得される仰角とに応じた前記位相データを前記格納部から読み出し、読み出した前記位相データに基づいて前記位相調節部を制御する、給電装置。
【請求項7】
第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、
電波発生源と、
前記アレイアンテナと前記電波発生源との間に設けられ、前記電波発生源から前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向において調節する位相調節部と、
魚眼レンズを通じて画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部によって取得される画像に含まれるマーカの前記画像取得部に対する第1位置を、前記第1軸及び前記第2軸を含む第1平面上の極座標における第2位置に変換する位置導出部と、
前記第2位置に基づいて、前記第1位置を前記第1軸と第3軸とを含む第2平面に投影した投影位置の前記第2平面内での前記第3軸に対する仰角を取得する仰角取得部と、
前記複数のアンテナ素子から前記マーカの位置にある受電装置にそれぞれ送電する際の複数の位相であって、前記受電装置が前記複数のアンテナ素子から受電する位相が揃うように調整された複数の位相を表す位相データを複数の前記仰角に応じた複数セット分だけ格納する格納部と
、
前記仰角取得部によって取得される仰角がゼロ度のときに、前記画像取得部によって取得される画像に基づいて、前記画像取得部から前記マーカまでの距離を推定する距離推定部と
を含む給電装置において、
前記格納部は、前記複数セット分の前記位相データを前記画像取得部から前記マーカまでの複数種類の距離に応じて複数格納しており、
前記格納部から前記仰角取得部によって取得される仰角に応じた前記位相データを読み出し、読み出した前記位相データに基づいて前記アレイアンテナが放射するビームの方向が前記第2平面内で前記仰角になるように前記位相調節部を制御
し、
前記距離推定部によって推定される距離と、前記仰角取得部によって取得される仰角とに応じた前記位相データを前記格納部から読み出し、読み出した前記位相データに基づいて前記位相調節部を制御する、給電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置、給電装置、及び給電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、無線送電装置であって、飛行体に搭載された無線受電装置に給電用のエネルギビームを送出するビーム送出部と、前記無線受電装置の受電効率を高めるための制御情報を取得する情報取得部と、前記制御情報に基づいて、前記無線受電装置の受電効率が高まるように前記エネルギビームの制御を行う制御部とを有することを特徴とする無線送電装置がある。送電アンテナとしてアレイアンテナを用いてもよいことが記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アレイアンテナの複数のアンテナ素子から送電して無線受電装置が受電する場合に、従来の無線送電装置のように無線受電装置が飛行体に搭載されている場合には、無線送電装置(給電装置)と無線受電装置(受電装置)との間には十分な距離がある。このため、複数のアンテナ素子と受電装置との間の距離差は無視できる程度であり、複数のアンテナ素子から同一のターゲットに送電しても受電装置が受電する際に受信位相ずれは小さく殆ど問題にならない。
【0005】
しかしながら、受電装置と給電装置との間の距離が数メートル程度と近距離である場合には、複数のアンテナ素子から同一のターゲットに送電すると、受電装置が受電する際には送電距離の差が大きく受電位相ずれが大きくなるため、合成の受電電力が低減されるという問題が生じうる。
【0006】
そこで、近距離でも受電装置が効率的に受電できるように送電可能なアンテナ装置、給電装置、及び給電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態のアンテナ装置は、第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向において調節する位相調節部と、魚眼レンズを通じて画像を取得する画像取得部と、前記画像取得部によって取得される画像に含まれるマーカの前記画像取得部に対する第1位置を、前記第1軸及び前記第2軸を含む第1平面上の極座標における第2位置に変換する位置導出部と、前記第2位置に基づいて、前記第1位置を前記第1軸と第3軸とを含む第2平面に投影した投影位置の前記第2平面内での前記第3軸に対する仰角を取得する仰角取得部と、前記複数のアンテナ素子から前記マーカの位置にある受電器にそれぞれ送電する際の複数の位相であって、前記受電器が前記複数のアンテナ素子から受電する位相が揃うように調整された複数の位相を表す位相データを複数の前記仰角に応じた複数セット分だけ格納する格納部と、前記格納部から前記仰角取得部によって取得される仰角に応じた前記位相データを読み出し、読み出した前記位相データに基づいて前記アレイアンテナが放射するビームの方向が前記第2平面内で前記仰角になるように前記位相調節部を制御する制御部とを含む。
【発明の効果】
【0008】
近距離でも受電装置が効率的に受電できるように送電可能なアンテナ装置、給電装置、及び給電方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】アレイアンテナ110の極座標系を示す図である。
【
図5】アンテナ装置100A及び給電装置100の効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のアンテナ装置、給電装置、及び給電方法を適用した実施形態について説明する。
【0011】
<実施形態>
図1は、実施形態の給電装置100を示す図である。給電装置100は、アレイアンテナ110、フェーズシフタ120、マイクロ波発生源130、カメラ140、及び制御装置150を含む。実施形態のアンテナ装置100Aは、給電装置100からマイクロ波発生源130を除いたものである。
【0012】
以下では、XYZ座標系を用いて説明する。平面視とはXY平面視のことである。また、X軸は第1軸の一例であり、Y軸は第2軸の一例であり、Z軸は第3軸の一例である。また、XY平面は第1平面の一例であり、XZ平面は第2平面の一例である。
【0013】
アレイアンテナ110は、一例としてN個のサブアレイ110Aにグループ分けされている。N個のサブアレイ110Aの1番目(#1)からN番目(#N)を示す。ここで、Nは2以上の整数であるが、
図1には一例としてNが4以上の偶数である形態を示す。N個のサブアレイ110Aは、X軸方向に配列されており、各サブアレイ110Aは、一例として4つのアンテナ素子111を含む。このため、アレイアンテナ110は、一例として4N個のアンテナ素子111を含む。アンテナ素子111は、平面視で矩形状のパッチアンテナである。アレイアンテナ110は、アンテナ素子111の-Z軸方向側にグランド電位に保持されるグランド板を有していてもよい。なお、一例として、4N個のアンテナ素子111の位置の中心は、XYZ座標系の原点と一致している。また、各サブアレイ110Aが含むアンテナ素子111の数は、2個以上であればよく、二次元的に配置されていればよい。
【0014】
以下では、
図1に加えて
図2を用いて説明する。
図2は、実施形態の給電装置100を示す図である。
図2では、図面を見やすくするためにXYZ座標系の原点をずらして示すが、以下では
図1に示すようにXYZ座標系の原点が4N個のアンテナ素子111の位置の中心と一致しているものとして説明する。また、
図2には、各サブアレイ110Aについて、X軸の-Y軸方向側に隣接する1つのアンテナ素子111を示す。また、
図2には、制御装置150に含まれる構成要素と、マーカ50A及び受電装置50Bを示す。マーカ50A及び受電装置50Bは、一例としてトンネルの内壁51に固定されている。アンテナ装置100A及び給電装置100は、一例として、作業車両に搭載してトンネル内を走行しながら、トンネルの内壁51に取り付けられたマーカ50Aを検出して、受電装置50Bに向けて送電を行う。
【0015】
また、
図2では、マーカ50Aは、XZ平面視においてZ軸から角度θbの方向に存在する。
図2では説明の便宜上、XYZ座標系をずらして示すが、XYZ座標系の原点が4N個のアンテナ素子111の位置の中心と一致しているため、角度θbは、XZ平面内でXYZ座標系の原点とマーカ50Aとを結ぶ直線がZ軸となす角度である。角度θbは、XZ平面を+Y軸方向側から見て、+X方向側に振れているときを正の値で示し、-X方向側に振れているときの値を負の値で示す。
【0016】
フェーズシフタ120は、N個のサブアレイ110Aに対応してN個設けられており、N個のフェーズシフタ120は、それぞれN個のサブアレイ110Aのアンテナ素子111に接続されている。各サブアレイ110Aの中では、4つのアンテナ素子111は、1つのフェーズシフタ120に並列に接続されている。フェーズシフタ120は、位相調節部の一例である。
【0017】
各サブアレイ110Aの中では、4つのアンテナ素子111には同一の位相の送電信号が供給される。また、N個のフェーズシフタ120がN個のサブアレイ110Aにそれぞれ出力する送電信号の位相は互いに異なる。このため、4N個のアンテナ素子111から放射される電波が形成するビームの角度(仰角)をXZ平面内で制御することができる。
【0018】
4N個のアンテナ素子111から放射される電波が形成するビームは、アレイアンテナ110が出力するビームと同義である。また、アレイアンテナ110が出力するビームは、アンテナ装置100A及び給電装置100が出力するビームと同義である。
【0019】
マイクロ波発生源130は、N個のフェーズシフタ120に接続されており、所定の電力のマイクロ波を供給する。マイクロ波発生源130は、電波発生源の一例である。マイクロ波の周波数は、一例として915MHzである。なお、ここでは給電装置100がマイクロ波発生源130を含む形態について説明するが、マイクロ波に限られるものではなく、所定の周波数の電波であればよい。
【0020】
カメラ140は、X方向においてはN/2番目のサブアレイ110Aと、N/2+1番目のサブアレイ110Aとの間に配置され、Y軸方向においては、各サブアレイに含まれる4つのアンテナ素子111のうちの+Y軸方向側から2番目のアンテナ素子111と3番目のアンテナ素子111との間に配置される。カメラ140は、魚眼レンズ141及びカメラ本体142を有する。カメラ140は、画像取得部の一例である。
図2では、カメラ本体142を撮像部142Aと画像処理部142Bとに分けて示す。
【0021】
魚眼レンズ141は、等距離射影方式を採用したレンズである。魚眼レンズ141の中心の位置は、一例として、4N個のアンテナ素子111の中心及びXYZ座標系の原点と一致している。カメラ本体142は、カメラ140のうち魚眼レンズ141以外の部分であり、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサを含むカメラ、又は、赤外線カメラであってもよい。
【0022】
カメラ140は、魚眼レンズ141を通じてマーカ50Aを含む画像を取得し、画像データを制御装置150に出力する。マーカ50Aは、アンテナ装置100A及び給電装置100が出力するビームを照射したいターゲットである受電用のアンテナを有する受電装置50Bに取り付けられている。アンテナ装置100A及び給電装置100は、カメラ140で取得した画像に含まれるマーカ50Aの位置を求め、受電装置50Bに向けてビームを照射する。
【0023】
カメラ本体142は、撮像部142Aと画像処理部142Bを有する。撮像部142Aは、撮像素子を含み、魚眼レンズ141を通じて撮像を行うことによって、画像データを取得する部分である。画像処理部142Bは、撮像部142Aによって取得された画像データに対して2値化処理等の画像処理を行い、ピクセルインデックスを制御装置150に出力する。ピクセルインデックスは、マーカ50Aの撮像画面上の位置を示すXY座標値(アドレス)である。
【0024】
制御装置150は、位置導出部151、仰角取得部152、位置ずれ検出部153、距離推定部154、制御部155、及びメモリ156を有する。制御装置150は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリを含むコンピュータによって実現される。位置導出部151、仰角取得部152、位置ずれ検出部153、距離推定部154、制御部155は、制御装置150が実行するプログラムの機能(ファンクション)を機能ブロックとして示したものである。また、メモリ156は、制御装置150のメモリを機能的に表したものである。
【0025】
ここで、位置導出部151、仰角取得部152、位置ずれ検出部153、距離推定部154、制御部155、メモリ156については、
図1及び
図2に加えて
図3を用いて説明する。
図3は、アレイアンテナ110の極座標系を示す図である。
図3には、給電装置100のうちのアレイアンテナ110のサブアレイ110Aと、各サブアレイ110Aに含まれるアンテナ素子111と、アレイアンテナ110から出力されるビーム115とを示し、これら以外の構成要素を省略する。また、
図3には、XY平面に平行な平面1上における極座標系を示す。
【0026】
また、XYZ座標系におけるマーカ50Aの位置をP1とし、原点Oと位置P1を結ぶ線分の仰角をθ、方位角をφとする。仰角は+Z軸方向に対する角度であり、方位角は+X方向に対する角度であり、+Z軸方向側から見た平面視で時計回りを正の値とする。また、位置P1をXZ平面に投影した位置P1aと原点Oとを結ぶ線分の仰角をθaとする。
【0027】
位置P1は、第1位置の一例であり、位置P1aは、投影位置の一例である。また、原点OはXYZ座標系の基準点の一例である。
【0028】
アンテナ装置100A及び給電装置100は、アレイアンテナ110が出力するビーム115の仰角をXZ平面内でのみ制御する。これは、アレイアンテナ110がY軸方向に同相給電を行っているためY軸方向では固定のビームとなっておりZ軸を0度とする仰角方向にビームを振ることができることと、受電装置50Bの位置がXZ平面からあまりずれていない(例えば、YZ平面内でのZ軸に対する仰角で±30度以内程度)ことを想定している。このような位置にある受電装置50Bであれば、ビーム115の仰角をXZ平面内で制御するだけで、アレイアンテナ110の制御部の規模を抑えつつ、受電装置50Bにビーム115を効率的に照射できるからである。
【0029】
位置導出部151は、画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスに基づいて位置マーカ画像の重心を計算する。画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスは、魚眼レンズ141を通じて得た等距離射影の画像を表す。この画像処理により、カメラ140によって取得される画像に含まれるマーカのアレイアンテナ110に対する位置P1は、XY平面上の極座標における位置P2に変換される。このようにして位置導出部151は、位置P2を導出する。位置P1は、位置導出部151によって計算される重心の位置である。位置P2は、第2位置の一例である。
【0030】
位置P2は、原点Oからの動径rと偏角φによって表される。動径rは、魚眼レンズ141の焦点距離をfLとすると、r=fLθで表される。偏角φは方位角φと同一である。位置導出部151は、上述の画像処理によって、動径rをX軸に写像したr・cosφを求める。位置導出部151は、位置P2を表すデータを仰角取得部152に出力する。
【0031】
仰角取得部152は、位置P2をX軸に写像した写像位置P2aのX座標(r・cosφ)を魚眼レンズ141の焦点距離fLで除算した値(r・cosφ/fL)を、仰角θaとして取得(計算)する。このようにして仰角θaを取得できる理由については後述する。仰角取得部152は、仰角θaを距離推定部154と制御部155に出力する。
【0032】
位置ずれ検出部153は、画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスに基づいてマーカ50Aの形状及び重心を求め、マーカ50Aが存在する範囲内における重心の位置に基づいて、Y軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれを検出する。魚眼レンズ141の中心の位置は、一例として、4N個のアンテナ素子111の中心及びXYZ座標系の原点と一致しているため、一例として、カメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じていない場合の重心のY軸方向の位置をY=0とすればよい。位置ずれ検出部153は、求めたマーカ50Aの存在範囲内における重心のY軸方向の位置がY=0であればカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれは生じていないと判定する。また、位置ずれ検出部153は、求めたマーカ50Aの存在範囲内における重心のY軸方向の位置がY=0でなければカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じていると判定し、位置ずれを検出する。位置ずれ検出部153は、検出結果を距離推定部154に出力する。なお、重心の位置は、位置導出部151から取得してもよい。
【0033】
距離推定部154は、仰角取得部152によって計算される仰角θaがゼロ度(0度)のときに、カメラ140の画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスの数に基づいて、魚眼レンズ141の中心からマーカ50Aまでの距離を推定する。仰角θaが0度であることは、Z軸方向においてマーカ50Aが魚眼レンズ141の正面に存在する(マーカ50Aの重心がZ軸上に存在する)ことを意味する。
【0034】
距離推定部154は、仰角θaが0度であるときの魚眼レンズ141の中心からマーカ50Aまでの対向距離rFDを推定する。対向距離rFDは、カメラ140に対してマーカ50AがZ軸上で対向したときの距離である。
【0035】
例えば、Z軸上においてカメラ140とマーカ50Aとを複数種類の距離で隔てた場合に画像処理部142Bが取得した複数の2値化されたピクセルインデックスの数を予めメモリ156に格納しておく。そして、距離推定部154は、仰角θaがゼロ度(0度)のときに、カメラ140の画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスの数をカウントし、メモリ156に格納された複数の対向距離rFDに対応する複数のリファレンスデータと比較することで、仰角θaが0度のときにおける魚眼レンズ141の中心からマーカ50Aまでの対向距離rFDを推定する。対向距離rFDによってピクセルインデックスの数が異なるため、ピクセルインデックスの数に基づいて、対向距離rFDを推定することができる。
【0036】
なお、仰角θaがゼロ度(0度)のときにカメラ140の画像処理部142Bから複数回にわたってピクセルインデックスが出力される場合は、複数のピクセルインデックスの数の平均に基づいて対向距離rFDを推定すればよい。
【0037】
また魚眼レンズ141を用いているため、カメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じている場合には、カメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じていない場合と比べると、同じ対向距離rFDであってもピクセルインデックス数が小さくなる。このため、位置ずれ検出部153がY軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じていると判定した場合には、距離推定部154は、Y軸方向における位置ずれに対してピクセルインデックス数が変化する度合を表すデータを予めメモリ156に格納しておき、Y軸方向の位置ずれの度合に応じて補正したピクセルインデックス数を用いて、対向距離rFDを推定すればよい。
【0038】
制御部155は、アレイアンテナ110が放射するビームの方向がXZ平面内で仰角θaになるようにフェーズシフタ120における位相のシフト量を制御する。仰角θaは、仰角取得部152によって取得される。また、制御部155は、マイクロ波発生源130の出力制御、及び、カメラ140の撮影制御等を行う。
【0039】
制御部155は、フェーズシフタ120における位相のシフト量の制御については具体的に次のように行う。制御部155は、距離推定部154によって推定される対向距離rFDと、仰角取得部152によって取得される仰角θaとに応じた位相データをメモリ156から読み出し、読み出した位相データに基づいてN個のフェーズシフタ120における位相のシフト量を制御する。
【0040】
ここで、受電装置50Bのアンテナが効率的に受電するには、N個のサブアレイ110Aから受電装置50Bのアンテナが受電する際の送電信号の位相が等しいことが理想的である。ところで、アンテナ装置100A及び給電装置100は、アレイアンテナ110から例えば3mから7m程度の近距離に位置する受電装置50Bに送電信号を送電する。トンネルの内壁51に取り付けられた受電装置50Bに送電する場合には、角度θbが0度の状態においてアレイアンテナ110から受電装置50Bまでの距離は、約3m~約5m程度である。
【0041】
このような近距離での送電を想定しているため、N個のサブアレイ110Aの各々から受電装置50Bのアンテナまでの距離の相対的な差は比較的大きく、N個のサブアレイ110Aが同一のターゲットに送電すると、受電装置50BのアンテナがN個のサブアレイ110Aから受電する送電信号の位相は揃わず、受電装置50Bは効率的に受電できなくなる。N個のサブアレイ110Aの各々から受電装置50Bのアンテナまでの距離の差は、角度θbと、N個のサブアレイ110Aから受電装置50BのアンテナまでのZ軸方向の距離とによって異なる。
【0042】
そこで、アンテナ装置100A及び給電装置100は、受電装置50BのアンテナがN個のサブアレイ110Aから受電する送電信号の位相が揃うように、N個のサブアレイ110Aの各々が送電する際の位相を調整するための位相データを用いる。ここでは、一例として、アンテナ装置100A及び給電装置100が移動するにつれて仰角θaが+70度から-70度に変化する際に送電を行うことを想定して、1度刻みでN個のサブアレイ110Aの位相のシフト量を調整可能な複数セット分の位相データを用意する。各位相データは、ある1つの仰角θaに対応してN個のサブアレイ110Aにそれぞれ接続されるN個のフェーズシフタ120に設定するN個の位相のシフト量を含む。このような位相データを仰角θaの+70度から-70度までの範囲について1度刻みで141セット用意したのが、ある対向距離r
FDについての複数セット分の位相データである。また、複数の対向距離r
FDの各々に応じてN個のサブアレイ110Aの位相のシフト量を調整可能にするために、複数セット分の位相データを複数の対向距離r
FDの分だけ用意する。なお、位相データは、角度θbに基づいて作成されるデータであるため、
図2には複数セット分の位相データψ
3(θb)~ψ
7(θb)をθbを用いて示す。制御部155は、仰角θaと等しい角度θbについての複数セット分の位相データを用いればよい。
【0043】
制御部155は、距離推定部154によって推定される対向距離rFDに応じた複数セット分の位相データを用いて、複数セット分の位相データの中から仰角取得部152によって取得される仰角θaに等しい角度θb用の位相データを用いて、N個のフェーズシフタ120における位相のシフト量を制御する。
【0044】
メモリ156は、位置導出部151、仰角取得部152、制御部155が処理を行う際に実行するプログラム、プログラムの実行に伴い利用するデータ、プログラムの実行によって生じるデータ、及び、カメラ140が取得する画像データ等を格納する。また、メモリ156は、複数の対向距離rFDの各々について複数セット分の位相データを格納する。一例として、3m、4m、・・・、7mの5種類の対向距離rFDについて、仰角θaが+70度から-70度までの範囲について1度刻みで141セットの位相データを格納する。
【0045】
次に、仰角θaを求める方法について説明する。
【0046】
仰角θaは、方位角φと仰角θを用いると、位置P1と位置P1aの幾何学的関係から次式(1)で求めることができる。
【0047】
【数1】
式(1)を展開すると、式(2)が得られる。
【0048】
【数2】
ここで、仰角θが十分に小さい場合にはtanθ≒θであり、方位角φが十分に小さい場合にはcosφ≒1であり、方位角φが90度に近い場合にはcosφ≒0であるので、式(2)は次式(3)に変形できる。
【0049】
【数3】
すなわち、受電装置50Bの位置がXZ平面からあまりずれていない場合には、仰角θaは式(3)のように近似することができる。
【0050】
また、上述したように、魚眼レンズ141の焦点距離をfLとすると、動径rは次式(4)で表される。
【0051】
【数4】
式(3)、(4)より、仰角θaは次式(5)で表すことができる。
【0052】
【数5】
このように、式(5)を用いて、仰角θaを近似的に求めることができる。
【0053】
次に、位相データの求め方について説明する。
図4は、位相データの求め方を説明する図である。
図4には、カメラ140の魚眼レンズ141、マーカ50A、受電装置50B、及びN個のアンテナ素子111を示す。各アンテナ素子111は、N個のサブアレイ110Aに含まれる4個のアンテナ素子111のうちの1個である。マーカ50Aの位置は、受電装置50Bの位置と等しい。
【0054】
図4に示すように、N個のサブアレイ110Aからマーカ50Aまでの距離をr1~rNとする。ここでは、説明を簡易化するためにY軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれは無いものとする。4N個のアンテナ素子111の中心は、XYZ座標系の原点と一致しているため、4N個のアンテナ素子111の中心の座標は(X,Y,Z)=(0,0,0)である。また、Y軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれは無く、対向距離はr
FDであり、魚眼レンズ141から見た受電装置50Bの角度はθbであるため、受電装置50Bの位置は、(X,Y,Z)=(r
FD・tanθb,0,r
FD)と表すことができる。ここで、魚眼レンズ141から受電装置50Bまでの距離をr
refとすると、距離r
refは次式(6)で表すことができる。
【0055】
【0056】
N個のアンテナ素子111のうちのi番目のアンテナ素子111の位置を(X,Y,Z)=(di,0,0)とすると、i番目のアンテナ素子111から受電装置50Bまでの距離riは次式(7)で表すことができる。
【0057】
【0058】
このため、魚眼レンズ141から受電装置50Bまでの距離rrefと、i番目のアンテナ素子111から受電装置50Bまでの距離riとの経路差τiは、次式(8)で表すことができる。
【0059】
【0060】
経路差τiはメートル単位であるため、使用するマイクロ波の波長λに換算して位相差ψi を計算すると次式(9)で表すことができる。
【0061】
【0062】
式(9)で表される位相差の符号を反転させた-ψrFDi(θb)をi番目のアンテナ素子111が送電する際にフェーズシフタ120に設定する位相とし、N個のサブアレイ110Aについて複数の仰角θaに対応した複数セット分の位相データを準備して、メモリ156に格納すればよい。また、複数の対向距離rFDについての複数セット分の位相データを準備して、メモリ156に格納すればよい。このような複数セット分の位相データを用いることにより、N個のサブアレイ110Aから送電する送電信号を同一位相で受電装置50Bに到達させることができる。複数の角度θbに対応した複数セット分の位相データは、次式(10)で表される。
【0063】
【0064】
制御部155は、仰角θaに対応する角度θbの位相データを用いて、N個のサブアレイ110Aにそれぞれ接続されるN個のフェーズシフタ120におけるシフト量を設定すればよい。
【0065】
図5は、アンテナ装置100A及び給電装置100の効果を説明する図である。
図5には対向距離r
FDが4m、アンテナ装置100A及び給電装置100を搭載した車両の速度が80km/hの場合に受電装置50Bのアンテナが受電したアンテナ利得を示す図である。横軸は時間を表し、0秒は仰角θaが0度になる時刻を表し、-300秒は仰角θaが+70度になる時刻を表し、+300秒は仰角θaが-70度になる時刻を表す。すなわち、横軸の時間は仰角θaに相当する。
【0066】
また、
図5には、アンテナ装置100A及び給電装置100で対向距離と仰角に基づく位相データを用いてフェーズシフタ120におけるシフト量を調整した場合のアンテナ利得を実線で示し、比較用に仰角のみに基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得を破線で示す。仰角のみに基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得は、N個のサブアレイ110Aに接続されるN個のフェーズシフタ120におけるシフト量を仰角θaに応じた値に設定した場合に受電装置50Bで得られるアンテナ利得である。
【0067】
図5に示すように、対向距離と仰角に基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得は、仰角のみに基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得よりも大きいか又は同等であり、0秒に近い時間帯ほど(仰角θaの絶対値が小さいほど)対向距離と仰角に基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得と、仰角のみに基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得との差が大きくなった。仰角θaが0度に近いほど、N個のサブアレイ110Aと受電装置50Bとの距離が短くなり、対向距離と仰角に基づく位相データによるN個のサブアレイ110Aの個別の位相制御の効果が顕著になったものと考えられる。
【0068】
以上のように、アレイアンテナ110のビームの仰角をXZ平面内でのみ制御する場合には、等距離射影によって得られた位置P1をXY平面に平行な平面上における極座標に変換して位置P2を求め、さらに位置P2をX軸に写像した写像位置P2aのX座標(r・cosφ)を魚眼レンズ141の焦点距離fLで除算することで、仰角θa(=r・cosφ/fL)を求める。
【0069】
そして、制御部155が仰角θaに対応する角度θbの位相データを用いて、N個のサブアレイ110Aにそれぞれ接続されるN個のフェーズシフタ120におけるシフト量を設定すればよい。アンテナ装置100A及び給電装置100の移動に伴う仰角θaの変化に応じた位相データを用いてN個のフェーズシフタ120におけるシフト量を制御すれば、アンテナ装置100A及び給電装置100が移動しながら、N個のサブアレイ110Aから受電装置50Bのアンテナに常に同一位相の送電信号を送電することができる。
【0070】
したがって、近距離でも受電器が効率的に受電できるように送電可能なアンテナ装置100A、及び、給電装置100を提供することができる。
【0071】
また、複数セット分の位相データが複数の対向距離rFDの分だけメモリ156に格納されており、距離推定部154が対向距離rFDを推定するので、対向距離rFDに応じた複数セット分の位相データを用いてN個のサブアレイ110Aにそれぞれ接続されるN個のフェーズシフタ120におけるシフト量を設定することができる。このため、受電装置50BまでのZ軸方向の距離に応じた複数セット分の位相データを用いることで、受電装置50BまでのZ軸方向の距離に応じて近距離でも受電器が効率的に受電できるように送電可能なアンテナ装置100A、及び、給電装置100を提供することができる。なお、例えば、対向距離rFDに応じた複数セット分の位相データが存在しない場合には、推定した対向距離rFDに最も近い対向距離rFDに応じた位相データを使用すればよい。
【0072】
また、位置ずれ検出部153がY軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれを検出し、位置ずれが生じている場合は、距離推定部154がメモリ156からY軸方向における位置ずれに対してピクセルインデックス数が変化する度合を表すデータを読み出し、Y軸方向の位置ずれの度合に応じて補正したピクセルインデックス数を用いて対向距離rFDを推定する。このため、Y軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じている場合には、制御部155は、補正されたピクセルインデックス数を用いて推定した対向距離rFDに応じた複数セット分の位相データを用いることで、Y軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じていても受電装置50BまでのZ軸方向の距離に応じて近距離でも受電器が効率的に受電できるように送電可能なアンテナ装置100A、及び、給電装置100を提供することができる。
【0073】
また、アンテナ装置100A、及び、給電装置100は、アレイアンテナ110が出力するビームの仰角をXZ平面内でのみ制御するため、仰角をXZ平面内とYZ平面内の両方で制御する場合に比べてフェーズシフタ120の数が4分の1で済む。このため、アンテナ装置100A、及び、給電装置100を安価に実現することができる。
【0074】
なお、以上では、魚眼レンズ141の中心が4N個のアンテナ素子111の中心と一致している形態について説明した。しかしながら、魚眼レンズ141の中心は、4N個のアンテナ素子111の中心からずれていてもよい。この場合には、位置ずれの分だけアレイアンテナ制御位相計算の座標原点をずらせばよい。あるいは、マーカ50Aと受電アンテナをその位置ずれ分だけ離して設置してもよい。
【0075】
また、以上では、制御装置150が位置ずれ検出部153を有する形態について説明したが、例えば、カメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じないことが分かっているような場合には、制御装置150が位置ずれ検出部153を含まずに、距離推定部154は位置ずれに対応した補正を行わなくてもよい。
【0076】
また、以上では、制御装置150が距離推定部154を有する形態について説明したが、例えば、対向距離rFDが一定であることが分かっているような用途では、制御装置150は距離推定部154及び位置ずれ検出部153を含まずに、メモリ156に1種類の対向距離rFDに応じた複数セット分の位相データを格納しておけばよい。
【0077】
図6は、給電装置100の適用例を示す図である。給電装置100は、一例として車両に搭載されており、トンネルの内壁51にはターゲットとしてのアンテナ20が設けられている。アンテナ20にはマーカ50Aと受電装置50Bとが取り付けられている。マーカ50Aは、再帰性反射板又はミラーボール等である。トンネルの内壁51と車両との間の距離は通過するトンネル毎に異なる。但し、同一トンネル内ではトンネルの内壁と車両との距離はほぼ一定とみなせる。
【0078】
車両が+X方向に走行する際に、カメラ140でマーカ50Aの位置をXY平面に平行な平面上における極座標に変換し、さらにX軸に写像した写像位置(P2aに相当する写像位置)のX座標(r・cosφ)を魚眼レンズ141の焦点距離fLで除算して仰角θa(=r・cosφ/fL)を求めることができる。そして、仰角θaの変化に応じた位相データをメモリ156から読み出してN個のフェーズシフタ120におけるシフト量を制御すれば、アンテナ装置100A及び給電装置100が移動しながら、N個のサブアレイ110Aから受電装置50Bのアンテナ20に常に同一位相の送電信号を送電することができる。同一位相の送電信号は、ビームとしてアンテナ20に照射される。
【0079】
また、例えば、#1のマーカ50Aの仰角θaがゼロ度(0度)のときに、カメラ140の魚眼レンズ141の中心からからマーカ50Aまでの対向距離を推定することができる。そして、#2のマーカ50Aの受電装置50Bのアンテナ20に対して送電信号を送電するとき、対向距離と仰角に基づく位相データをメモリ156から読み出してN個のフェーズシフタ120におけるシフト量を制御すれば、さらにアンテナ利得を向上させることができる。
【0080】
例えば、トンネルの内壁51に取り付けてあるジェットファンや標識等のインフラ構造物を内壁51に固定する固定部にアンテナ20と、固定部のボルト等の緩みを監視するセンサと、レクテナと、無線通信モジュールとを設けておき、車両で走行しながら給電装置100からアンテナ20にビームを放射すると、アンテナ20に接続されたレクテナが電力を発生して無線通信モジュールを起動し、無線通信モジュールがセンサの出力を表す信号を放射し、車両側で受信することにより、走行しながらインフラ構造物の固定状態を検査することができる。
【0081】
この場合に、アレイアンテナ110で無線通信モジュールがセンサの出力を表す信号を受信してもよい。
【0082】
また、XZ平面からずれたアンテナ20の位置からX軸に写像した写像位置(P2aに相当する写像位置)のX座標(r・cosφ)を求め、X座標(r・cosφ)を魚眼レンズ141の焦点距離fLで除算した値(r・cosφ/fL)を仰角θaとして使用してビームを制御するので、X軸方向に走行する車両がY軸のプラスマイナスのどちらかにシフトとしている場合でも、その位置ずれを吸収して仰角θaを求めることができる。
【0083】
また、ここでは
図6を用いて給電装置100(アンテナ装置100A)がトンネルの内壁51に設けられた無線通信モジュールと通信する形態について説明したが、無線通信モジュールはトンネルの内壁51に設けられているものに限らず、様々な場所等に設置されていてよい。このようにすれば、給電装置100(アンテナ装置100A)を通信装置として利用することができる。
【0084】
以上、本発明の例示的な実施形態のアンテナ装置、給電装置、及び給電方法について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0085】
100 給電装置
110 アレイアンテナ
110A サブアレイ
111 アンテナ素子
120 フェーズシフタ
130 マイクロ波発生源
140 カメラ
141 魚眼レンズ
150 制御装置
151 位置導出部
152 仰角取得部
153 位置ずれ検出部
154 距離推定部
155 制御部
156 メモリ