(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】塗料用色材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20241126BHJP
C09D 7/41 20180101ALI20241126BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/41
(21)【出願番号】P 2020178523
(22)【出願日】2020-10-26
【審査請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 利幸
(72)【発明者】
【氏名】山口 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 敬和
(72)【発明者】
【氏名】坂井 美紀
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-249527(JP,A)
【文献】特開2012-214740(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111363189(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110003882(CN,A)
【文献】SAKAI, M. et al.,Colorful photonic pigments prepared by using safe black and white materials,ACS Sustainable Chemistry Engineering,2019年,Vol.7, No.17,p.14933-14940
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C09C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素色と構造色とによる発色を呈する塗料用色材の製造方法であって、
Feを含む溶液に粒径が揃ったコア粒子が懸濁した液、および、タンニン酸を含む液を、水を主成分とする液に交互に投入して混合することによって、前記コア粒子によって形成されるコア部と、前記コア部の周囲に形成されたタンニン酸鉄を含む色素層と、を有し、前記構造色の波長に応じた粒径を有する色材粒子を含む混合液を得る第1工程と、
前記色材粒子を洗浄する第2工程と、
前記混合液の液性を調整することで、前記発色を調整する工程と、を備え、
前記発色を調整する工程において、青みが強くなるように前記発色を調整する場合に前記液性を酸性に調整し、赤みが強くなるように前記発色を調整する場合に前記液性を中性または塩基性に調整する、塗料用色材の製造方法。
【請求項2】
色素色と構造色とによる発色を呈する塗料用色材の製造方法であって、
Feを含む溶液に粒径が揃ったコア粒子が懸濁した液、および、タンニン酸を含む液を、水を主成分とする液に交互に投入して混合することによって、前記コア粒子によって形成されるコア部と、前記コア部の周囲に形成されたタンニン酸鉄を含む色素層と、を有し、前記構造色の波長に応じた粒径を有する色材粒子を含む混合液を得る第1工程と、
前記色材粒子を洗浄する第2工程と、
前記混合液のpHを7.0以上に調整することで、前記発色を調整する工程と、を備え、
前記発色を調整する工程は、前記第1工程の後、前記第2工程に先立って実行される、塗料用色材の製造方法。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の製造方法であって、
前記混合液において、前記コア粒子のモル数に対する前記Feのモル数の比が5.41×10
-4以上、かつ、前記コア粒子のモル数に対する前記タンニン酸のモル数の比が3.61×10
-4以上である、塗料用色材の製造方法。
【請求項4】
請求項
1から3のいずれか一項に記載の製造方法であって、
前記第2工程の後、Feを含む溶液に前記色材粒子が懸濁した液、および、タンニン酸を含む液を、水を主成分とする液に交互に投入して混合することによって、前記色材粒子の周囲に色素層を追加して形成する第3工程を備える、塗料用色材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗料用色材、及び、塗布物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料用色材に関して、光の吸収による色素色とは異なる、構造色を呈する色材が知られている。構造色は、一般に、色材の構造に起因する可視光の干渉や散乱によって生じる色である。そのため、構造色を呈する色材では、一般的な有機系の顔料や染料等と比較して太陽光による退色が生じにくく、一般的な有機系および無機系の顔料等と比較して環境負荷が生じにくい利点を有する。例えば、特許文献1には、コアシェル構造を有する粒子を含有し、構造色が発現した膜を形成可能な組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、構造色は様々な利点を有する。そのため、構造色を用いてこれまでにない新奇な発色を得ることができる技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
本開示の一形態によれば、色素色と構造色とによる発色を呈する塗料用色材の製造方法が提供される。この製造方法は、Feを含む溶液に粒径が揃ったコア粒子が懸濁した液、および、タンニン酸を含む液を、水を主成分とする液に交互に投入して混合することによって、前記コア粒子によって形成されるコア部と、前記コア部の周囲に形成されたタンニン酸鉄を含む色素層と、を有し、前記構造色の波長に応じた粒径を有する色材粒子を含む混合液を得る第1工程と、前記色材粒子を洗浄する第2工程と、前記第1工程で得られた前記混合液の液性を調整することで、前記発色を調整する工程と、を備える。前記発色を調整する工程において、前記発色を調整する工程において、青みが強くなるように前記発色を調整する場合に前記液性を酸性に調整し、赤みが強くなるように前記発色を調整する場合に前記液性を中性または塩基性に調整する。
本開示の一形態によれば、色素色と構造色とによる発色を呈する塗料用色材の製造方法が提供される。この製造方法は、Feを含む溶液に粒径が揃ったコア粒子が懸濁した液、および、タンニン酸を含む液を、水を主成分とする液に交互に投入して混合することによって、前記コア粒子によって形成されるコア部と、前記コア部の周囲に形成されたタンニン酸鉄を含む色素層と、を有し、前記構造色の波長に応じた粒径を有する色材粒子を含む混合液を得る第1工程と、前記色材粒子を洗浄する第2工程と、前記第1工程で得られた前記混合液のpHを7.0以上に調整することで、前記発色を調整する工程と、を備える。
前記発色を調整する工程は、前記第1工程の後、前記第2工程に先立って実行される。
【0006】
(1)本開示の第1の形態によれば、塗料用色材が提供される。この塗料用色材は、コア部と、前記コア部の周囲に形成されたタンニン酸鉄を含む色素層と、を有し、構造色の波長に応じた粒径を有する色材粒子を含有し、前記色素層と前記構造色とによる発色を呈する。
このような形態によれば、塗料用色材は、色素層と構造色とによる新奇な発色を呈する。
(2)上記形態の塗料用色材において、液部を更に含有し、前記発色が前記液部の液性によって調整可能であることを特徴としてもよい。このような形態によれば、塗料用色材は、液部の液性によって発色を調整可能な新奇な発色を呈する。
(3)本開示の第2の形態によれば、色素色と構造色とによる発色を呈する塗料用色材の製造方法が提供される。この製造方法は、Feを含む溶液に粒径が揃ったコア粒子が懸濁した液、および、タンニン酸を含む液を、水を主成分とする液に交互に投入して混合することによって、前記コア粒子によって形成されるコア部と、前記コア部の周囲に形成されたタンニン酸鉄を含む色素層と、を有し、前記構造色の波長に応じた粒径を有する色材粒子を含む混合液を得る第1工程と、前記色材粒子を洗浄する第2工程と、を備える。このような形態によれば、色素層の色素色と構造色とによる新奇な発色を呈する塗料用色材を製造できる。
(4)上記形態の製造方法において、前記混合液において、前記コア粒子のモル数に対する前記Feのモル数の比が5.41×10-4以上、かつ、前記コア粒子のモル数に対する前記タンニン酸のモル数の比が3.61×10-4以上であってもよい。このような形態によれば、コア粒子の周囲に色素層をより効果的に形成できる。
(5)上記形態の製造方法において、前記第2工程に先立って、前記混合液のpHを7.0以上に調整してもよい。このような形態によれば、塗料用色材の色素層による発色を調整し、かつ、塗料用色材の保存性を高めることができる。
(6)上記形態の製造方法において、前記第2工程の後、Feを含む溶液に前記色材粒子が懸濁した液、および、タンニン酸を含む液を、水を主成分とする液に交互に投入して混合することによって、前記色材粒子の周囲に色素層を追加して形成する第3工程を備えてもよい。このような形態によれば、色材粒子の色素層の厚みを増加させることができる。また、第3工程を実行する回数を調整することによって、色材粒子の色素層の厚みを調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態の塗料用色材の製造方法の一例を示す図。
【
図4】サンプル1およびサンプル3の塗布状態における反射スペクトルを示す図。
【
図5】サンプル2およびサンプル4の塗布状態における反射スペクトルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.実施形態:
本開示の塗料用色材は、コア部と、コア部の周囲に形成されたタンニン酸鉄を含む色素層と、を有し、構造色の波長に応じた粒径を有する色材粒子を含有している。これによって、塗料用色材は、色素層と構造色とによる発色を呈する。なお、構造色とは、色材の構造に起因する可視光の干渉や散乱によって生じる色である。そのため、構造色を呈する色材では、一般的な有機系の顔料や染料等と比較して太陽光による退色が生じにくい。
【0009】
塗料用色材に含まれる色材粒子は、色素層をシェル部とする、いわゆるコアシェル形状を有している。すなわち、コア部と、コア部の周囲に形成された色素層とが一体となることによって、この色材粒子が形成されている。本実施形態では、コア部として、粒径が揃った球状に形成されたシリカ(SiO2)粒子が用いられる。なお、コア部としては、低いHaze値を有する、透明または半透明の材料を用いると好ましい。なお、Haze値とは、材料の曇り度合いを示す指標であり、JISK7136に基づいて測定できる。
【0010】
色素層はタンニン酸鉄を含み、タンニン酸鉄に起因する色素色を呈する。色素色とは、ある物質において、ある波長領域の光が吸収され、吸収されなかった波長領域の光が反射されることによって生じる色である。一般的な有機系または無機系の顔料や染料等は、この色素色を呈する。なお、タンニン酸鉄は、例えば、塩化鉄(III)等の鉄塩とタンニン酸との反応によって生成することが知られている。また、タンニン酸鉄は、液性によって異なる発色を呈することが知られている。具体的には、タンニン酸鉄は、pHが3.0~6.0の条件下では二量化して青紫色を呈し、pHが7.0以上の条件下では三量化して赤褐色を呈する。これによって、色素層は、酸性条件下では青みが強い色を呈し、中性または塩基性条件下では赤みが強い色を呈する。
【0011】
色材粒子は、上述したように、構造色の波長に応じた粒径を有している。色材粒子は、例えば、塗料用色材が支持体に塗布された際に、支持体上で周期性を有して配列する。塗料用色材は、この色材粒子の配列によって、色材粒子の粒径に応じた波長の構造色を呈する。例えば、色材粒子が配列することによって、面心立方格子のコロイド結晶が形成されている場合、構造色の波長λと、コロイド結晶の平均の屈折率naと、色材粒子の粒径Dとは、以下の式(1)の関係をとる。
λ=1.633naD … (1)
平均の屈折率naは、コロイド結晶を構成する成分iの屈折率niと体積分率Φiによって、以下の式(2)のように定まる。
na
2=Σni
2Φi … (2)
なお、以下では、塗料用色材が支持体に塗布された状態のことを、「塗布状態」とも呼ぶ。
【0012】
色材粒子の粒径は、コア部の大きさと色素層の厚みとによって決定される。例えば、本実施形態では、色材粒子の粒径は、コア部を構成するシリカ粒子の粒径と、色素層の厚みとを、合計した値となる。従って、コア部の径や色素層の厚みを調整することによって、色材粒子の粒径を調整し、塗布状態において所望の構造色を発現させることができる。
【0013】
本実施形態のように、塗料用色材が、色材粒子の配列によって構造色を発現させる場合、構造色を発現させる部分の構造の周期が短くなり、色材の発色の角度依存性が低くなる。これに対して、例えば、色材が、一様な膜を有する薄膜状や多層膜状に形成された部分によって構造色を発現させる場合、構造色を発現させる部分の構造の周期が長くなる。この場合、構造色を発現させる部分の構造は、いわゆる薄膜干渉モデルや多層膜干渉モデルに近いものとなるため、色材の角度依存性が高くなる。なお、色材の角度依存性が高い場合、色材を見る角度や、色材への光の照射方向によって色材の色が異なって視認されやすい。
【0014】
塗料用色材は、上述した色材粒子に加え、液部を更に含有していてもよい。液部は、例えば、水等の任意の液体であってよいが、例えば、色材粒子や色素層との化学反応等によって塗料用色材の構造色や色素層の色素色を失わせない液体であると好ましい。塗料用色材が液部を含有している場合、液部の液性を変化させることで、上述した色素層に含まれるタンニン酸鉄の発色を変化させ、塗料用色材の発色を変化させることができる。また、塗料用色材は、例えば、塗料の保存性等を向上させるための添加剤を含んでいてもよい。
【0015】
塗料用色材は、支持体に塗布されて用いられる。例えば、液部を有する塗料用色材を、スピンコートによって支持体としてのガラス材料に塗布し、乾燥させることで、塗料用色材が支持体上に塗布された塗布物を得ることができる。なお、支持体としては、例えば、ガラス材料の他、セラミックス材料、金属材料、樹脂材料、紙、布等の種々の材質および形状のものを用いることができる。また、支持体への塗料用色材の塗布は、完成した塗布物が構造色を呈する方法であればよく、スピンコートの他、例えば、支持体への塗料用色材の滴下や噴霧によって行われてもよいし、筆や刷毛等を用いて行われてもよい。
【0016】
図1は、本実施形態の塗料用色材の製造方法の一例を示す図である。この製造方法では、まず、ステップS110にて、第1液と第2液とを準備する。第1液とは、溶質として鉄(Fe)を含む溶液に、コア部を形成するシリカ等のコア粒子が懸濁した懸濁液である。第2液とは、タンニン酸(TA)を含む溶液である。次に、ステップS120にて、第1液および第2液を、純水等の、水を主成分とする第3液に交互に投入して混合する。なお、ある組成物の主成分とは、その組成物の50質量%以上を占める成分のことをいう。ステップS120が実行されることによって、コア粒子の周囲に色素層が形成されて色材粒子が生成され、この色材粒子を含む混合液が得られる。なお、本実施形態では、ステップS120において得られる色材粒子および混合液を、それぞれ第1色材粒子および第1混合液とも呼ぶ。その後、ステップS130にて、ステップS120において得た第1色材粒子を洗浄する。ステップS130では、例えば、第1色材粒子に純水を加えたものを遠心分離し、遠心分離によって生じる上澄みを廃棄する操作を繰り返すことによって、第1色材粒子に付着した不純物を洗い流すことができる。
【0017】
更に、ステップS140にて、第4液と、第5液とを準備する。第4液とは、溶質としてFeを含む溶液に、色材粒子が懸濁した懸濁液である。第5液とは、第2液と同様にタンニン酸を含む溶液である。ステップS140では、具体的には、第4液として、ステップS130において洗浄された第1色材粒子がFeを含む溶液に懸濁した懸濁液を準備する。そして、ステップS150にて、第4液および第5液を、第3液と同様に水を主成分とする第6液に交互に投入して混合する。ステップS150が実行されることによって、第1色材粒子の周囲に色素層を追加して形成された第2色材粒子を含む第2混合液が得られる。その後、ステップS160にて、ステップS150において得た第2色材粒子を、ステップS130において第1色材粒子を洗浄するのと同様に洗浄する。なお、ステップS120を第1工程、ステップS130を第2工程、ステップS150を第3工程、ステップS160を第4工程と呼ぶこともある。
【0018】
なお、例えば、
図1に示したステップS140からステップS160までの工程を実行することなく、ステップS130を完了させた時点で、塗料用色材の製造を終了してもよい。この場合、塗料用色材に含まれる色材粒子の色素層の形成回数は1回である。また、ステップS160の完了後に、再度ステップS140からステップS160と同様の工程を繰り返すことによって、色材粒子の周囲に2回以上色素層を追加して形成してもよい。例えば、色材粒子の周囲に2回追加で色素層を形成した場合、色材粒子の色素層の形成回数は、計3回となる。この場合、再度実行されるステップS140と同様の工程における第4液として、例えば、第2色材粒子がFeを含む溶液に懸濁した懸濁液を準備することによって、第2色材粒子の周囲に更に色素層を追加して形成できる。
【0019】
ステップS120において得られる第1混合液において、コア粒子のモル数に対するFeのモル数の比が5.41×10-4以上であり、かつ、コア粒子のモル数に対するタンニン酸のモル数の比が3.61×10-4以上であると好ましい。従って、本実施形態では、第1混合液において、シリカのモル数に対するFeのモル数の比であるFe/SiO2が5.41×10-4以上であり、かつ、シリカのモル数に対するタンニン酸のモル数の比であるTA/SiO2が3.61×10-4以上であると好ましい。これによって、コア粒子の周囲に色素層をより効果的に形成できる。なお、第1混合液におけるFe/SiO2やTA/SiO2は、例えば、第1液におけるシリカのモル数およびFeのモル数、第2液におけるタンニン酸のモル数、および、第1液と第2液との混合量を調整することによって、調整できる。
【0020】
図1に示した製造方法では、ステップS130の第2工程に先立って、第1混合液のpHを7.0以上に調整してもよい。この場合、例えば、ステップS120の完了後等に、混合液に、水酸化ナトリウム等の塩基や、リン酸系のpH7.0緩衝液等を添加することによって第1混合液のpHを調整できる。ステップS130の第2工程後ではなく、ステップS130に先立って第1混合液のpHを調整することによって、塗布状態における色素層による発色を変化させつつ、塗料用色材の保存性を高めることができる。また、同様に、ステップS150の第4工程に先立って、第2混合液のpHを調整することによって、塗布状態における色素層による発色を変化させ、かつ、塗料用色材の保存性を高めることができる。
【0021】
以上で説明した本実施形態の塗料用色材は、コア部と、タンニン酸鉄からなる色素層とを含み、構造色の波長に応じた粒径を有する色材粒子を含有している。そのため、塗料用色材は、色素層と構造色とによる新奇な発色を呈する。また、本実施形態の塗料用色材は、色素層と構造色とによる発色を呈するため、例えば、一般的な有機系の顔料や染料等の色素色のみを発色する色材と比較して、太陽光等によって色を失いにくい。更に、色素層による発色は構造色と比較して太陽光等によって退色しやすいため、例えば、塗布物における発色の経年変化を楽しむことができる他、発色の経年変化を経年の指標とすることができる。加えて、コア部を形成する材料として、例えば、シリカ、あるいは、シリカを主成分とするガラス等の材料を用いることによって、一般的な有機系および無機系の顔料等と比較して色材による環境負荷を低減し、かつ、色材の新奇な発色を実現できる。
【0022】
また、本実施形態では、塗料用色材は、液部を含有し、発色が液部の液性によって調整可能である。そのため、塗料用色材は、液部の液性によって発色を調整可能な新奇な発色を呈する。
【0023】
また、本実施形態の塗料用色材の製造方法は、Feを含む溶液にコア部を形成するコア粒子が懸濁した第1液、および、タンニン酸を含む第2液を、水を主成分とする第3液に交互に投入して混合することによって、第1色材粒子を含む第1混合溶液を得る第1工程と、第1色材粒子を洗浄する第2工程とを備える。そのため、色素層と構造色とによる新奇な発色を呈する塗料用色材を製造できる。
【0024】
また、本実施形態の塗料用色材の製造方法では、第1混合液において、コア粒子に対するFeのモル比が5.41×10-4以上、かつ、コア粒子に対するタンニン酸のモル比が3.61×10-4以上である。そのため、コア粒子の周囲に色素層をより効果的に形成できる。
【0025】
また、本実施形態の塗料用色材の製造方法では、第1工程において、第1混合液のpHを7.0以上に調整する。そのため、塗料用色材の色素層による発色を調整し、かつ、塗料用色材の保存性を高めることができる。
【0026】
また、本実施形態の塗料用色材の製造方法では、Feを含む溶液に色材粒子が懸濁した第4液および、タンニン酸を含む第5液を、水を主成分とする第6液に交互に投入して混合することによって、色材粒子の周囲に色素層を追加して形成する第3工程を備える。そのため、色材粒子の色素層の厚みを増加させることができる。また、第3工程を実行する回数を調整することによって、色材粒子の色素層の厚みを調整できる。
【0027】
B.実験結果:
図2は、実施形態の効果を検証するための実験用に作製したサンプルを示す第1の図である。
図3は、実験用に作製したサンプルを示す第2の図である。
図2および
図3に示すように、実験用サンプルとして、サンプル1からサンプル24を作製した。
図2には、サンプル1からサンプル15について、コア部の粒径と、色素層の形成回数と、pHの調整方法と、混合工程におけるシリカのモル濃度、Feのモル濃度、タンニン酸のモル濃度、Fe/SiO
2、および、TA/SiO
2と、洗浄後のpHと、懸濁状態における色と、塗布状態における色とが、示されている。
図3には、サンプル16からサンプル24について、コア部の粒径と、色素層の形成回数と、pHの調整方法と、混合工程におけるシリカのモル濃度、Feのモル濃度、タンニン酸のモル濃度、Fe/SiO
2、および、TA/SiO
2と、洗浄後のpHと、懸濁状態における色とが、示されている。
【0028】
各サンプルを、以下の方法で作製した。コア粒子であるシリカ粒子の原料となるシリカ粒子水懸濁液としては、富士化学株式会社製のシリカ粒子水懸濁液を用いた。具体的には、サンプル1およびサンプル2の作製では、粒径268.3nmのシリカ粒子を26.3質量%含み、密度が1.168g/cm3であるシリカ粒子水懸濁液を、サンプル16およびサンプル17の作製では、粒径268.3nmのシリカ粒子を25.7質量%含み、密度が1.163g/cm3であるシリカ粒子水懸濁液を、サンプル5、サンプル9、サンプル10、サンプル13、サンプル14、および、サンプル24の作製では、粒径268.3n、のシリカ粒子を20.5質量%含み、密度が1.125g/cm3であるシリカ粒子水懸濁液を、サンプル6からサンプル8、サンプル11、サンプル12、サンプル15、および、サンプル18からサンプル23の作製では、粒径322.4nmのシリカ粒子を26.8質量%含み、密度が1.171g/cm3であるシリカ粒子水懸濁液を、それぞれ用いた。なお、これらのシリカ粒子の平均粒径は、動的光散乱法による粒度分布の測定結果に基づいて算出された。具体的には、動的光散乱法による測定結果から算出されるシリカ粒子のメディアン径(D50)を、平均粒径とした。また、各色材の作製に用いたシリカ粒子水懸濁液に含まれるシリカ粒子の平均粒径を、各色材のコア部の平均粒径とした。第2液としては、タンニン酸の原料としてのキシダ化学株式会社製のタンニン酸(分子量1701.19)に純水を加えて濃度調整したタンニン酸水溶液を用いた。
【0029】
サンプル1、サンプル2、および、サンプル7からサンプル24を、
図1に示した塗料用色材の製造方法に従って作製した。まず、塩化鉄(III)六水和物水溶液(分子量270.30)と、シリカ粒子水懸濁液とを、ボルテックスを用いて混合することによって、ステップS110の第1液を0.6ml準備した。なお、両者の混合に先立って、シリカ粒子水懸濁液に超音波を90分間照射することで、シリカ粒子水懸濁液におけるシリカ微粒子の分散性を向上させた。また、第2液を0.6ml準備した。次に、ステップS120にて、シリンジを用いて、第1液と第2液とを1滴(約0.03mL)ずつ交互に、それぞれ計0.6mLを、第3液としての純水に投入し、スターラーを用いて混合することによって、第1色材粒子を含む第1混合液を得た。その後、ステップS130において、まず、第1混合液を遠心分離し、遠心分離によって生じた上澄みを廃棄することによって、第1色材粒子を含む残渣を得た。次に、残渣に純水を加えたものをボルテックスによって混合し、混合によって得られた懸濁液を更に遠心分離し、遠心分離によって生じた上澄みを廃棄する操作を繰り返すことによって、第1色材粒子を洗浄した。サンプル1、サンプル2、および、サンプル7からサンプル24では、第1混合液におけるシリカのモル濃度、Feのモル濃度、タンニン酸のモル濃度、Fe/SiO
2、および、TA/SiO
2を、それぞれ、
図2および
図3に示したシリカのモル濃度、Feのモル濃度、タンニン酸のモル濃度、Fe/SiO
2、および、TA/SiO
2とした。また、色素層の形成回数が1回であるサンプル8からサンプル24では、ステップS130で得られた色材粒子を5.0mlの純水に懸濁させ、この懸濁液における色材粒子の色を目視で観測し、観測した色を
図2および
図3に示した「懸濁状態における色」とした。また、この懸濁液におけるpHを測定し、測定したpHを
図2および
図3に示した「洗浄後のpH」とした。
【0030】
サンプル2、サンプル14およびサンプル15の作製では、ステップS130に先立って、ステップS120で得られた第1混合液に1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液0.2mLを添加することによって、第1混合液のpHを調整した。水酸化ナトリウムを添加した直後のpHは、サンプル2およびサンプル14では8.0、サンプル15では8.1であった。サンプル13の作製では、ステップS130に先立って、ステップS120で得られた第1混合溶液に0.1mol/Lのリン酸pH7.0緩衝液を0.5ml添加し、撹拌することによって、第1混合液のpHを調整した。サンプル13では、緩衝液を添加した直後のpHは7.2であった。サンプル24の作製では、ステップS130後、上述した「洗浄後のpH」を測定するのに先立って、色材粒子の水懸濁液に0.1mol/Lのリン酸pH7.0緩衝液を0.5ml添加した。サンプル24では、緩衝液を追加した直後のpHは、7.2であった。なお、pH7.0緩衝液は、0.2mol/Lのリン酸水素二ナトリウム30.5mlと、0.2mol/Lのリン酸二水素ナトリウム19.5mlとを混合し、更に純水50mlを加えることによって調製した。
【0031】
色素層の形成回数が3回であるサンプル1、サンプル2およびサンプル7の作製では、更に、ステップS130において得られた第1色材粒子を水に懸濁させた懸濁液を調製し、調製した色材粒子の懸濁液と、ステップS110と同様の塩化鉄(III)六水和物水溶液とを、ボルテックスを用いて混合することによって、ステップS140の第4液を調製した。その後、ステップS120およびステップS130と同様に、ステップS150およびステップS160を行い、第1色材粒子の周囲に色素層を追加形成した。なお、第5液としては第2液と同様のタンニン酸水溶液を、第6液としては第3液と同様の純水を用いた。また、ステップS160後に、再度ステップS140からステップS160までと同様の工程を実行することによって、色素層を更に追加して形成し、合計の色素層の形成回数を3回とした。なお、サンプル2では、ステップS150、および、ステップS160後に再度実行したステップS150と同様の工程においても、ステップS120の完了後と同様に、混合液のpHを8.0に調整した。サンプル1、サンプル2およびサンプル7では、3回目の色素層の形成が完了した後に、得られた色材粒子を5.0mlの水に懸濁させ、懸濁液における色材粒子の色を目視で観測し、観測した色を
図2および
図3に示した「懸濁状態における色」とした。また、この懸濁液におけるpHを測定し、測定したpHを
図2および
図3に示した「洗浄後のpH」とした。
【0032】
サンプル3およびサンプル4を、塩化鉄(III)六水和物水溶液と第2液とを混合することによって作製した。具体的には、塩化鉄(III)六水和物の濃度が40g/Lの塩化鉄(III)六水和物水溶液0.05mlと、タンニン酸の濃度が13g/Lの第2液0.6mLとを、25mLの純水に投入し、スターラーを用いて撹拌して混合することによって、色材として、タンニン酸鉄液を得た。なお、
図2におけるサンプル3およびサンプル4のFeモル濃度およびTAモル濃度は、このタンニン酸鉄液におけるモル濃度を表している。サンプル4の作製では、混合液の調製が完了した後、混合液に濃度1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液0.2mLを添加することによって、タンニン酸鉄液のpHを8.0に調整した。サンプル3では、タンニン酸鉄液の色を目視で観測し、観測した色を
図2に示した「懸濁状態における色」とした。サンプル4では、pH調整後のタンニン酸鉄液の色を目視で観測し、観測した色を
図2に示した「懸濁状態における色」とした。
【0033】
サンプル5としては、粒径268.3nmのシリカ粒子を20.5質量%含み、密度が1.125g/cm
3であるシリカ水懸濁液を用いた。サンプル6としては、粒径322.4nmのシリカ粒子を26.8質量%含み、密度が1.171g/cm
3であるシリカ水懸濁液を用いた。サンプル5およびサンプル6では、シリカ水懸濁液におけるシリカ粒子の色を目視で観測し、観測した色を
図2および
図3に示した「懸濁状態における色」とした。
【0034】
サンプル1、サンプル7およびサンプル8に含まれる色材粒子の平均粒径を、コア部の平均粒径と同様の方法によって算出した。なお、測定した色材粒子の平均粒径から、コア部の粒径を差し引くことによって、コア部の周囲に形成された色素層の厚みを算出できる。
【0035】
サンプル1からサンプル15を純水に懸濁させた懸濁液を支持体に塗布し、乾燥させることによって、サンプル1からサンプル15の塗布物を得た。塗布物の作製において、色材の塗布量を調整することによって、異なる塗布厚を有する複数の塗布物を作製した。サンプル1からサンプル4では、支持体として、ニッカトー社製の白色の素焼き板を用いた。サンプル5からサンプル15では、支持体として、松波硝子工業社製の透明スライドガラスを用いた。各サンプルについて、塗布状態における色を目視によって観測した。
【0036】
サンプル1およびサンプル2の塗布厚を、塗布物の断面のSEM(走査型電子顕微鏡)像を用いて算出した。具体的には、塗布物ごとに4枚の断面SEM像を観測し、SEM像1枚ごとに2点ずつ、支持体を除いた部分の厚みを測定し、測定した計8点の厚みの平均値を算出することで、塗布物の塗布厚を算出した。
【0037】
塗布状態におけるサンプル1からサンプル4の反射スペクトルを、オーシャンオプティクス社製の小型ファイバー光学分光器USB2000 Miniature Fiber Optic Spectrometerを使用して測定した。具体的には、白色光を、サンプルに対して、その入射角が垂直となるように照射し、相対反射スペクトルを測定した。相対反射スペクトル測定におけるリファレンス試料としては、PTFEの標準白色板を用いた。白色光源としては、ハロゲンランプを使用した。
【0038】
サンプル1の色材粒子の平均粒径は286.7nmであった。サンプル7の色材粒子の平均粒径は373.6nmであった。サンプル8の色材粒子の平均粒径は338.6nmであった。サンプル1、サンプル7、サンプル8では、コア粒子であるシリカ粒子の周囲にタンニン酸鉄が吸着することによって、コア部の周囲にタンニン酸鉄を含む色素層が形成され、コア部の平均粒径よりも大きい平均粒径を有する色材粒子が形成されたと考えられる。また、サンプル7およびサンプル8の色材粒子の平均粒径は、サンプル1の色材粒子の平均粒径よりも大きかった。サンプル7およびサンプル8のコア部の平均粒径は、サンプル1のコア部の平均粒径と比較して大きいため、サンプル7およびサンプル8の色材粒子の平均粒径が大きかったと考えられる。
【0039】
更に、サンプル7の色材粒子の平均粒径は、サンプル8の色材粒子の平均粒径よりも大きかった。サンプル8の色素層の形成回数は1回であり、サンプル7の色素層の形成回数は3回であるため、サンプル7では、サンプル8と比較して色素層が厚く形成されたと考えられる。このように、色素層の形成回数を調整することによって、塗料用色材の色素層の厚みを調整することができる。また、色素層の厚みを調整することによって、色材粒子の粒径を調整することができる。
【0040】
図2に示すように、洗浄後のpHが7.0未満、すなわち、色材の液部の液性が酸性であるサンプル1、およびサンプル7からサンプル12では、懸濁状態における色は青紫色であった。タンニン酸鉄液の液性が酸性であるサンプル3の懸濁状態における色は、同様に青紫色であった。一方で、洗浄後のpHが7.0以上、すなわち、色材の液部の液性が中性または塩基性であるサンプル2、および、サンプル13からサンプル15では、色素層による発色は赤褐色や赤紫色といった赤みが強い色であった。タンニン酸鉄液の液性が塩基性であるサンプル4の懸濁状態における色は、同様に赤みが強い赤褐色であった。サンプル5およびサンプル6では、懸濁状態における色は白色であった。サンプル1、サンプル2、サンプル7からサンプル15では、懸濁状態において、液部の液性に応じた、色素層のタンニン酸鉄による色が観測されたと考えられる。サンプル5およびサンプル6は色素層を有していないため、懸濁状態において色素層による色を呈さなかったと考えられる。
【0041】
また、コア部の粒径が268.3nmであるサンプル1、サンプル2、サンプル9、サンプル10、サンプル13、および、サンプル14では、塗布状態における色は、懸濁状態における色と比較して、緑みが強い色であった。また、これらのサンプルでは、色材の塗布量が多いほど、塗布状態における色の緑みが強くなった。これに対して、コア部の粒径が322.4nmであるサンプル7、サンプル8、サンプル11、サンプル12、および、サンプル15では、塗布状態における色は、懸濁状態における色と比較して、赤みが強い色であった。また、これらのサンプルでは、色材の塗布量が多いほど、塗布状態における色の赤みが強くなった。サンプル5およびサンプル6では、塗布状態において、それぞれ、緑色および赤色を呈した。サンプル3およびサンプル4では、塗布状態において、それぞれ、懸濁状態における色と同様の、青紫色および赤褐色を呈した。
【0042】
サンプル1、サンプル2、サンプル7からサンプル15では、塗布状態において、色材粒子が周期を有して配列することによって、色素層による色素色に加え、構造色を呈したと考えられる。また、これらのサンプルでは、色材の塗布量が多いほど塗布厚が大きくなり、粒子が周期を有して配列した部分が厚み方向に増加し、色素色に対して、構造色を相対的により強く呈したと考えられる。サンプル5およびサンプル6は、色素層を有していないため、構造色のみを呈したと考えられる。サンプル3およびサンプル4は、色材粒子を含有していないため、塗布状態において構造色を呈さず、懸濁状態における色と同様の色を呈したと考えられる。
【0043】
また、上述したように、サンプル7およびサンプル8に含まれる色材粒子の粒径は、サンプル1に含まれる色材粒子の粒径よりも大きい。更に、サンプル1の作製方法とサンプル2の作製方法との相違点はpH調整の有無のみであるため、サンプル2の色材粒子の平均粒径は、サンプル1の色材粒子の平均粒径と同程度と考えられる。そのため、サンプル7およびサンプル8は、色材粒子の粒径に対応して、サンプル1やサンプル2の構造色と比較して、より長波長の赤色の構造色を呈したと考えられる。同様に、コア部の粒径が322.4nmである他のサンプルにおいても、コア部の粒径が268.3nmであるサンプルと比較して、色材粒子の粒径が大きいため、赤色の構造色を呈したと考えられる。従って、塗料用色材において、例えば、構造色の波長と色材粒子の粒径との関係を実験によって予め調べ、所望の構造色が発現するように色材粒子の粒径を調整することによって、所望の構造色を発現させることができる。
【0044】
なお、サンプル5およびサンプル6の塗布状態における色は、サンプル1、サンプル2、およびサンプル7からサンプル15の塗布状態における色と比較して、白みが強い色であった。サンプル5およびサンプル6は、色素層を有していないシリカ粒子のみを含有しているため、サンプル5およびサンプル6の塗布状態では、構造色の反射光が多重散乱し、かつ、色素層による発色がないため、白みが強い色が観測されたと考えられる。一方で、サンプル1、サンプル2、およびサンプル7からサンプル15は、色素層を有しているため、これらのサンプルの塗布状態では、構造色の反射光の多重散乱が抑制され、色素色の反射光と、サンプル5およびサンプル6と比較して強い構造色の反射光とによる発色が観測されたと考えられる。
【0045】
図4は、サンプル1およびサンプル3の塗布状態における反射スペクトルを示す図である。サンプル1では、各塗布厚において、波長555nm付近の位置に緑色の反射光が観測された。サンプル1およびサンプル3では、波長700nm~750nmの位置に、赤色ないし赤褐色の色素色の反射光が観測された。また、サンプル1では、サンプル3と比較して、波長700~750nm付近の赤色ないし赤褐色の反射光の強度が弱かった。
【0046】
図5は、サンプル2およびサンプル4の塗布状態における反射スペクトルを示す図である。サンプル2では、各塗布厚において、波長555nm付近の位置に緑色の反射光が観測された。また、サンプル2およびサンプル4では、波長480nm付近に青色の色素色の反射光と、波長700nm~750nmの位置に赤色ないし赤褐色の色素色の反射光とが観測された。また、サンプル2では、サンプル4と比較して、波長480nm付近の青色の反射光の強度と、波長700~750nm付近の赤色ないし赤褐色の反射光の強度とが弱かった。
【0047】
図4および
図5に示すように、サンプル1およびサンプル2では、塗布厚が大きいほど、色素色の反射光の強度に対して、構造色の反射光の強度が相対的に強くなった。また、サンプル1およびサンプル2では、塗布厚が大きいほど、目視によって確認した塗布状態における色の緑みが強かった。サンプル1およびサンプル2では、塗布厚が大きいほど、粒子が周期を有して配列した部分が厚み方向に増加し、色素色に対して、構造色を相対的により強く呈したと考えられる。
【0048】
図3に示すように、サンプル17からサンプル23では、懸濁状態における色は、青紫色であった。また、サンプル24では、懸濁状態における色は、赤紫色であった。これらのサンプルでは、懸濁状態において、
図2に示したサンプル1、サンプル2、およびサンプル7からサンプル15と同様に、コア部の周囲に形成された色素層による色素色を呈したと考えられる。
【0049】
サンプル16では、懸濁状態における色は白色であった。サンプル16の作製では、第1混合溶液におけるFe/SiO
2およびTA/SiO
2が、他のサンプルの場合と比較して小さかったために、コア粒子であるシリカ粒子の周囲に色素層が形成されにくかったと考えられる。
図3に示すように、コア粒子の周囲に効果的に色素層を形成するためには、Fe/SiO
2が5.41×10
-4以上、かつ、TA/SiO
2が3.61×10
-4以上であると好ましい。
【0050】
サンプル13の作製方法とサンプル24の作製方法とでは、上述したように、ともに緩衝液によってpH調整が行われた点では同様であるが、pH調整のタイミングがそれぞれ異なる。サンプル24では、洗浄後の懸濁状態における色は赤紫色であったが、時間経過によって徐々に色素層がコア部から剥離し、7日後に色材の色は白色となった。サンプル13では、サンプル24と同様に洗浄後の懸濁状態における色は赤紫であり、7日を経過しても、色材の色は赤紫色を保ったままであった。従って、塗料用色材の製造において、pHを調整する場合、塗料用色材の保存性を高めるために、第2工程に先立って、第1混合溶液のpHを調整すると好ましい。
【0051】
以上で説明した実験結果によれば、コア部と、コア部の周囲に形成されたタンニン酸鉄を含む色素層を有する粒子を含有する塗料用色材は、色素層と構造色とによる新奇な発色を呈することが確認できた。
【0052】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。