(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】診断システム
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20241126BHJP
F16H 1/00 20060101ALI20241126BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20241126BHJP
G01M 13/023 20190101ALI20241126BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
F16H1/00
G05B23/02 V
G01M13/023
(21)【出願番号】P 2023517181
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2022014951
(87)【国際公開番号】W WO2022230530
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2021073845
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501397920
【氏名又は名称】旭光電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】和田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】安藤 清
(72)【発明者】
【氏名】白田 卓也
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-146885(JP,A)
【文献】特開2020-169097(JP,A)
【文献】国際公開第2015/159597(WO,A1)
【文献】特開2008-279886(JP,A)
【文献】特開2002-332772(JP,A)
【文献】特開平09-325090(JP,A)
【文献】特開2019-100729(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102563361(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0254357(US,A1)
【文献】特開平06-281541(JP,A)
【文献】特開平03-110436(JP,A)
【文献】特開昭63-131953(JP,A)
【文献】特開2017-015609(JP,A)
【文献】特開2018-142814(JP,A)
【文献】特開2002-059822(JP,A)
【文献】特開2004-360254(JP,A)
【文献】特開2010-156428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00~13/023
G01M 99/00
F16H 1/00
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達経路の上流に設置された第1センサの検知結果と、前記動力伝達経路の下流に設置された第2センサの検知結果とを取得するセンサデータ取得部と、
前記第1センサの検知結果と前記第2センサの検知結果とに基づいて、前記第1センサと前記第2センサ間の前記動力伝達経路の状態を推定する推定部と、
アクチュエータ指令取得部と、
を備え、
前記第2センサは、前記動力伝達経路により伝達される動力によって動作するアクチュエータに設置され、
前記アクチュエータ指令取得部は、前記アクチュエータの動作を開始制御するアクチュエータ動作指令を取得し、
前記推定部は、前記アクチュエータ動作指令を取得したことに応じて、前記動力伝達経路の状態を推定
し、
前記動力伝達経路は、バルブにより制御された流体が流れるパイプであり、
前記推定部は、前記第1センサの検知結果と第2センサの検知結果とに基づいて、前記パイプの状態を推定する
診断システム。
【請求項2】
前記第1センサと前記第2センサのそれぞれは、センサ設置位置の振動、および、センサ設置位置の温度の少なくともいずれか1つを検知するためのセンサである
請求項1に記載の診断システム。
【請求項3】
前記第1センサと前記第2センサのそれぞれは、センサ設置位置の前記パイプ内部に流れる流体の速度、および、センサ設置位置の前記パイプ内部に流れる流体の圧力、の少なくともいずれか1つを検知するためのセンサである
請求項
1または2に記載の診断システム。
【請求項4】
前記第1センサと前記第2センサは、前記パイプ内部に流れる流体の速度を検知するためのセンサであり、
前記推定部は、前記第1センサの検知結果から得られた前記第1センサ設置箇所の流体の速度と、前記第2センサの検知結果から得られた前記第2センサ設置箇所の流体の速度とを比較することによって、前記パイプ内の状態を推定する
請求項
3に記載の診断システム。
【請求項5】
前記第1センサと前記第2センサは、前記パイプ内の流体に向かって超音波または電波を照射して、当該流体による反射を取得するセンサである
請求項
4に記載の診断システム。
【請求項6】
前記推定部は、前記第2センサの検知結果から得られた前記第2センサ設置箇所の振動、流体の速度、または、流体の圧力が、前記第1センサの検知結果から得られた前記第1センサ設置箇所の振動、流体の速度、または、流体の圧力より小さい場合、前記第1センサと前記第2センサの間の前記パイプに詰まりまたは漏れがあると推定する
請求項
1から5のいずれか1項に記載の診断システム。
【請求項7】
前記推定部により前記パイプに詰まりまたは漏れがあると推定される場合に、前記パイプに流れる流体を制御するバルブの開き度合いを大きくするバルブ制御部をさらに備える
請求項
6に記載の診断システム。
【請求項8】
前記第1センサは、前記バルブに設置され、
前記バルブが開放状態または閉鎖状態である場合の、前記第2センサの検知結果の正常値を記憶する記憶部をさらに備え、
前記推定部は、前記第1センサの検知結果に基づいて、前記バルブが前記開放状態または前記閉鎖状態であるか否かを推定し、前記バルブが前記開放状態または前記閉鎖状態であると推定される場合、前記第2センサの検知結果の値と、前記記憶部に記憶された正常値とを比較することにより、前記第1センサと前記第2センサ間の前記パイプの状態を推定する
請求項
1から7のいずれか1項に記載の診断システム。
【請求項9】
前記バルブを開放状態または閉鎖状態にするためのバルブ動作指令を取得するバルブ指令取得部をさらに備え、
前記第1センサは、前記バルブに設置され、
前記推定部は、前記バルブ動作指令を取得したことに応じて、前記第1センサの検知結果と前記第2センサの検知結果とに基づいて、前記第1センサと前記第2センサ間のパイプの状態を推定する
請求項
1から7のいずれか1項に記載の診断システム。
【請求項10】
前記流体は圧縮空気であり、
前記第1センサは、前記バルブに設置され、
前記第2センサは、前記バルブから前記パイプを介して伝達された前記圧縮空気の圧力を駆動源として鉄道車両の車輪を制動する空気ブレーキシリンダに設置され、
前記推定部は、前記バルブと前記空気ブレーキシリンダの間の前記パイプの状態を推定する
請求項
1から9のいずれか1項に記載の診断システム。
【請求項11】
前記流体は圧縮空気であり、
前記第1センサは、前記バルブに設置され、
前記第2センサは、前記バルブから前記パイプを介して伝達された前記圧縮空気の圧力を駆動源として鉄道車両のドアを開閉するための空気式ドアに設置され、
前記推定部は、前記バルブと前記空気式ドアの間の前記パイプの状態を推定する
請求項
1から9のいずれか1項に記載の診断システム。
【請求項12】
前記流体は作動油であり、
前記第1センサは、前記バルブに設置され、
前記第2センサは、前記バルブから前記パイプを介して伝達された前記作動油の圧力により駆動される油圧アクチュエータに設置され、
前記推定部は、前記バルブと前記油圧アクチュエータ間の前記パイプの状態を推定する
請求項
1から9のいずれか1項に記載の診断システム。
【請求項13】
動力伝達経路の上流に設置された第1センサの検知結果と、前記動力伝達経路の下流に設置された第2センサの検知結果とを取得するセンサデータ取得部と、
前記第1センサの検知結果と前記第2センサの検知結果とに基づいて、前記第1センサと前記第2センサ間の前記動力伝達経路の状態を推定する推定部と、
アクチュエータ指令取得部と、
を備え、
前記第2センサは、前記動力伝達経路により伝達される動力によって動作するアクチュエータに設置され、
前記アクチュエータ指令取得部は、前記アクチュエータの動作を開始制御するアクチュエータ動作指令を取得し、
前記推定部は、前記アクチュエータ動作指令を取得したことに応じて、前記動力伝達経路の状態を推定
し、
前記第1センサと前記第2センサは、センサ設置位置の振動を検知するセンサであり、
前記推定部は、前記第1センサの検知結果から得られた前記第1センサの設置位置の振動と、前記第2センサの検知結果から得られた前記第2センサの設置位置の振動との差が所定の範囲内である場合、前記動力伝達経路全体で振動が発生していると推定し、前記動力伝達経路は正常であると推定する
診断システム。
【請求項14】
動力伝達経路の上流に設置された第1センサの検知結果と、前記動力伝達経路の下流に設置された第2センサの検知結果とを取得するセンサデータ取得部と、
前記第1センサの検知結果と前記第2センサの検知結果とに基づいて、前記第1センサと前記第2センサ間の前記動力伝達経路の状態を推定する推定部と、
を備え、
前記第1センサは、前記動力伝達経路により伝達される動力によって動作するアクチュエータに対して、上流側に設置され、
前記第2センサは、前記動力伝達経路により伝達される動力によって動作するアクチュエータに対して、下流側に設置され、
前記第1センサと前記第2センサは、前記動力伝達経路の温度を検知するセンサであり、
前記推定部は、前記第1センサの検知結果と、前記第2センサの検知結果とに基づいて、前記アクチュエータの異常を推定し、前記第1センサの検知結果が示す温度が前記第2センサの検知結果が示す温度よりも高い場合に、前記アクチュエータが異常であると推定する
診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、データ処理技術に関し、特に診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械において、クーラントの吐出/停止情報、および、当該工作機械の各所に設置した温度センサの測定結果を利用して、温度センサを設置していないタレット(工具設置回転台)の温度を推定し、刃先位置を補正する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の技術は、熱伝導に関する理論式でセンサ非設置箇所の温度を推定するものであり、動力伝達経路の状態を診断することへの適用は難しい。
【0005】
本発明は本発明者の上記課題認識に基づいてなされたものであり、1つの目的は、動力伝達経路の状態を効率的に診断する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の診断システムは、動力伝達経路の上流に設置された第1センサの検知結果と、動力伝達経路の下流に設置された第2センサの検知結果とを取得するセンサデータ取得部と、第1センサの検知結果と第2センサの検知結果とに基づいて、第1センサと第2センサ間の動力伝達経路の状態を推定する推定部と、を備える。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を、装置、方法、コンピュータプログラム、コンピュータプログラムを格納した記録媒体などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、動力伝達経路の状態を効率的に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施例の診断システムの構成を示す図である。
【
図2】第1実施例のセンサ装置の機能ブロックを示すブロック図である。
【
図3】第1実施例の診断装置の機能ブロックを示すブロック図である。
【
図4】第2実施例の診断システムの構成を示す図である。
【
図5】第2実施例の診断装置の機能ブロックを示すブロック図である。
【
図6】変形例の診断装置の機能ブロックを示すブロック図である。
【
図7】第3実施例の診断システムの構成を示す図である。
【
図8】第4実施例の診断システムの構成を示す図である。
【
図9】第5実施例の診断システムの構成を示す図である。
【
図10】第5実施例の診断装置の機能ブロックを示すブロック図である。
【
図11】第6実施例の診断システムの構成を示す図である。
【
図12】第6実施例の診断装置の機能ブロックを示すブロック図である。
【
図13】第7実施例の診断システムの構成を示す図である。
【
図14】第8実施例の診断システムの構成を示す図である。
【
図15】第9実施例の診断システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施例の概要を説明する。油圧、空圧、電力等を用いる動力伝達システムでは、半年等の期間を置いて定期的に、配管漏れ、フィルタ劣化、ベルト劣化等の有無を点検している。これまでも、動力伝達システムの出力を監視して、出力に異常がある場合にアラートを上げることは行われてきた。しかし、動力伝達システムのいずれの部位に異常があるかを判別するには、熟練したエンジニアによって分解調査する必要があり、多くのコストが掛かっていた。以下の実施例では、動力伝達経路の上流と下流のそれぞれに設置されたセンサの検知結果に基づいて、センサ間の動力伝達経路の状態を推定することにより、動力伝達経路の異常を効率的に診断する技術を提案する。
【0011】
<第1実施例>
図1は、第1実施例の診断システム10の構成を示す。診断システム10は、機器における動力伝達システムの状態を診断する。第1実施例および他の実施例の診断システム10は、機器における動力伝達システムとは独立して構築された傍系のシステムであり、既存の動力伝達システムに対して後から付加することが可能である。
【0012】
図1の動力伝達システムは、パイプ12、バルブ14、アクチュエータ16、バルブ制御装置18を備える。パイプ12は、上流側のバルブ14により制御された、動力伝達媒体としての流体が流れる動力伝達経路である。流体は、種々の液体または気体であってよく、例えば作動油であってもよく、圧縮空気であってもよい。バルブ14は、パイプ12を流れる流体の流量や圧力を調節するために、開閉状態が制御される電磁弁である。
【0013】
パイプ12の下流側には、アクチュエータ16が設置される。アクチュエータ16は、動力伝達経路により伝達される動力によって動作する機械要素であり、第1実施例では、バルブ14からパイプ12を介して伝達された流体の圧力により駆動される機械要素である。バルブ制御装置18は、アクチュエータ16に実行させるべき動作態様に応じて、制御信号をバルブ14へ送信してバルブ14の開閉状態を制御することにより、パイプ12を介して伝達される流体の圧力を制御する。
【0014】
診断システム10は、第1センサ装置20a、第2センサ装置20b、診断装置22を備える。第1センサ装置20aは、動力伝達経路としてのパイプ12の上流に設置されるセンサ装置である。第1実施例の第1センサ装置20aは、バルブ14近傍のパイプ12の表面に設置される。第2センサ装置20bは、動力伝達経路としてのパイプ12の下流に設置されるセンサである。第1実施例の第2センサ装置20bは、アクチュエータ16近傍のパイプ12の表面に設置される。第1センサ装置20aと第2センサ装置20bを総称する場合、「センサ装置20」と呼ぶ。
【0015】
診断装置22は、不図示のアクセスポイントやスイッチ、ルータ等により構成される無線通信網および有線通信網を介して、第1センサ装置20a、第2センサ装置20bと接続される情報処理装置である。診断装置22は、第1センサ装置20aの検知結果と、第2センサ装置20bの検知結果とに基づいて、パイプ12の状態を推定する。
【0016】
図2は、第1実施例のセンサ装置20の機能ブロックを示すブロック図である。同図は、第1実施例のセンサ装置20が備える機能ブロックの一例を示している。本明細書のブロック図で示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのプロセッサ、CPU、メモリをはじめとする素子や電子回路、機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0017】
センサ装置20は、銘板として、所定の物理構造を有する物品(以下「対象物」とも呼ぶ。)の表面に取り付けられる。対象物は、様々な種類の電子機器、電気機器、機械装置、部品または完成品であってもよい。第1実施例の対象物は、動力伝達経路としてのパイプ12である。センサ装置20は、検知部30、処理部32、環境発電部34、蓄電部36、アンテナ38を備える。
【0018】
センサ装置20は、銘板として、外側の面(
図2の印字面)に対象物に関する様々な情報を表示する。また、センサ装置20において、
図2に示す各機能ブロックに対応する部材はシート状に一体に設けられる。シート状とは、センサ装置20の厚み方向の長さが、センサ装置20の縦方向の長さと横方向の長さのいずれよりも短いことを意味する。例えばセンサ装置20の縦方向の長さと横方向の長さが数センチメートルであるときに、センサ装置20の厚み方向の長さが5ミリメートル以下である。また望ましくはセンサ装置20の厚み方向の長さが1ミリメートル以下である。
【0019】
検知部30は、対象物に接触または近接するよう設けられ、対象物に関する状態(物理量とも言える)を計測する。第1センサ装置20aの検知部30は、パイプ12における第1センサ装置20a設置位置、すなわちパイプ12におけるバルブ14の近傍位置に関する物理状態を計測する。第2センサ装置20bの検知部30は、パイプ12における第2センサ装置20b設置位置、すなわちパイプ12におけるアクチュエータ16の近傍位置に関する物理状態を計測する。第1実施例では、検知部30は、センサ設置位置(センサ設置箇所とも言える)の振動を計測する。検知部30は、計測結果(検知結果)に基づく信号(「検知信号」とも呼ぶ。)を処理部32へ出力する。
【0020】
検知部30により計測される対象物に関する状態は、対象物そのものの状態(対象物の内部または表面のいずれか一方または両方の状態)と対象物の周囲(言い換えれば対象物を取り巻く環境)の状態のいずれか一方、または両方であってもよい。また、対象物に関する状態は、1つの種類の物理的状態または物理量であってもよく、複数の種類の物理的状態または物理量の組合せであってもよい。例えば、対象物に関する状態は、振動(例えば3軸加速度)および/または温度であってもよい。また、対象物に関する状態は、パイプ12内の流体の速度および/または圧力であってもよく、これらは、超音波または電波の反射強度をもとに計測されてもよい。
【0021】
処理部32は、検知部30の計測結果であり、実施例では検知部30から出力された検知信号をもとにアンテナ38から出力される情報(以下「センサデータ」とも呼ぶ。)を生成する。処理部32は、検知部30から出力された検知信号をもとに所定の演算(例えば各種フィルタ処理や、人工知能機能による異常診断処理等)を実行し、その演算結果を含むセンサデータを生成してもよい。
【0022】
アンテナ38は、出力部として、検知部30の計測結果に基づくデータであり、実施例では処理部32が生成したセンサデータを外部へ出力する。アンテナ38は、通信部として、Wi-Fi(登録商標)、BLE(Bluetooth Low Energy(登録商標))またはNFC(Near Field Communication)等を利用して、センサデータを外部装置へ送信してもよい。実施例では、センサ装置20のアンテナ38から送信されたセンサデータは、無線通信網および有線通信網を介して診断装置22へ伝送される。
【0023】
環境発電部34は、センサ装置20の周囲の環境に存在するエネルギーを電力に変換(いわゆる環境発電)し、発電した電力を、センサ装置20の各機能ブロックを動作させるための電力として供給する。環境発電部34は、温度、湿度、Wi-Fi等の電波、センサ装置20の周囲からの電磁波(放射線や宇宙線を含み、電動モータ等から発せされる電磁ノイズも含む)、振動、音(超音波含む)、光(可視光、赤外光、紫外線を含む)、流体や粉体の流れ(風や波など)のうち少なくとも1つのエネルギーをもとに公知の環境発電を行ってもよい。なお、アンテナ38は、環境発電部34の機能を含んでもよく、この場合、アンテナ38は、データ通信と環境発電を時分割で実行してもよい。
【0024】
蓄電部36は、環境発電部34により発電された電気を蓄積し、蓄積した電力を、センサ装置20の各機能ブロックを動作させるための電力として供給する。実施例では、センサ装置20の検知部30、処理部32、アンテナ38は、環境発電部34から供給された電力をもとに動作可能であり、蓄電部36から供給された電力によっても動作可能である。蓄電部36は、キャパシタ(電気二重層コンデンサを含む)であってもよく、二次電池(例えばリチウムイオン電池、固体リチウムイオン電池、空気電池)であってもよい。
【0025】
図3は、第1実施例の診断装置22の機能ブロックを示すブロック図である。診断装置22は、制御部40、記憶部42、通信部44を備える。制御部40は、動力伝達経路の診断に関する各種データ処理を実行する。記憶部42は、制御部40により参照または更新されるデータを記憶する。通信部44は、所定の通信プロトコルにしたがって外部装置と通信する。第1実施例では、制御部40は、通信部44を介して、バルブ14、第1センサ装置20a、第2センサ装置20bとデータを送受信する。
【0026】
記憶部42は、診断情報記憶部46を含む。診断情報記憶部46は、動力伝達経路(第1実施例ではパイプ12)の状態に関する推定結果を示す診断情報を記憶する。診断情報は、診断結果としてのパイプ12の状態を示す情報と、診断対象となったパイプ12の位置を示す情報とを含む。パイプ12の状態を示す情報は、正常または異常を示す情報であってもよい。診断対象となったパイプ12の位置を示す情報は、第1センサ装置20aと第2センサ装置20bの組み合わせにより識別される位置を示す情報であってもよく、第1センサ装置20aと第2センサ装置20bの組を示す情報であってもよい。
【0027】
制御部40は、センサデータ取得部50、状態推定部52、診断情報提供部54、バルブ制御部56を含む。これら複数の機能ブロックの機能が実装されたコンピュータプログラムは、所定の記録媒体に格納されてもよく、その記録媒体を介して診断装置22のストレージにインストールされてもよい。また、上記コンピュータプログラムは、通信網を介してダウンロードされ、診断装置22のストレージにインストールされてもよい。診断装置22のCPUは、上記コンピュータプログラムをメインメモリに読み出して実行することにより、各機能ブロックの機能を発揮してもよい。
【0028】
センサデータ取得部50は、第1センサ装置20aから送信された、第1センサ装置20aの検知結果に関する第1センサデータを取得する。また、センサデータ取得部50は、第2センサ装置20bから送信された、第2センサ装置20bの検知結果に関する第2センサデータを取得する。第1実施例の第1センサデータは、第1センサ装置20aの設置位置の振動の大きさ(言い換えれば振幅)を示す。第1実施例の第2センサデータは、第2センサ装置20bの設置位置の振動の大きさ(言い換えれば振幅)を示す。
【0029】
状態推定部52は、センサデータ取得部50により取得された第1センサデータと第2センサデータとに基づいて、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間の動力伝達経路(第1実施例ではパイプ12)の状態を推定する。
【0030】
第1実施例では、状態推定部52は、第1センサデータをもとに、第1センサ装置20aの設置位置の振動の大きさを識別する。また、状態推定部52は、第2センサデータをもとに、第2センサ装置20bの設置位置の振動の大きさを識別する。
【0031】
状態推定部52は、第2センサ装置20bの設置位置の振動が、第1センサ装置20aの設置位置の振動より小さい場合、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12に異常があると推定する。具体的には、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12(典型的にはパイプ12の内部)に詰まりまたは漏れがあると推定する。第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12に詰まりまたは漏れがある場合、第2センサ装置20bの設置位置に該当するパイプ12内部の流体の流量が、第1センサ装置20aの設置位置に該当するパイプ12内部の流体の流量より小さくなり、その結果、第2センサ装置20bの設置位置の振動が、第1センサ装置20aの設置位置の振動より小さくなるからである。
【0032】
なお、状態推定部52は、第2センサ装置20bの設置位置の振動が、第1センサ装置20aの設置位置の振動より小さく、かつ、第1センサ装置20aの設置位置の振動の大きさと、第2センサ装置20bの設置位置の振動の大きさとの差が所定の閾値以上の場合に、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12に詰まりまたは漏れがあると推定してもよい。この閾値は、診断システム10の開発者の知見や、診断システム10を用いた実験(例えば、詰まりまたは漏れがあるパイプ12と、詰まりまたは漏れがないパイプ12のそれぞれを用いた実験等)により適切な値が決定されてよい。
【0033】
状態推定部52は、動力伝達経路(第1実施例ではパイプ12)の状態の推定結果と、推定日時とを含む診断情報を診断情報記憶部46に格納する。例えば、状態推定部52は、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12に詰まりまたは漏れがあると推定した場合、そのことを示す内容を含む診断情報を診断情報記憶部46に格納してもよい。診断情報提供部54は、外部からの要求に対する応答として、または定期的に、診断情報記憶部46に記憶された診断情報を不図示の外部装置(例えば保守者の端末等)へ送信する。
【0034】
バルブ制御部56は、状態推定部52による推定結果に応じて、バルブ14の開閉状態を制御するための制御信号をバルブ14へ送信する。第1実施例では、バルブ制御部56は、状態推定部52によりパイプ12に詰まりまたは漏れがあると推定された場合、バルブ14の開き度合いを大きくすることにより、パイプ12における流体の流量および圧力を増加させる。例えば、バルブ制御部56は、バルブ14の開き度合いを、パイプ12に詰まりまたは漏れがあると推定された際の開き度合いより大きくしてもよい。また、バルブ制御部56は、バルブ14の開き度合いを予め定められた設定値以上に変更してもよく、または、バルブ14の開き度合いを設定可能な最大値に変更してもよい。
【0035】
以上の構成による診断システム10の動作を説明する。
第1センサ装置20aの検知部30は、定期的に、パイプ12における当該センサ設置位置の振動を検知する。第1センサ装置20aのアンテナ38は、検知部30による検知結果を示す第1センサデータを診断装置22へ送信する。これと並行して、第2センサ装置20bの検知部30は、定期的に、パイプ12における当該センサ設置位置の振動を検知する。第2センサ装置20bのアンテナ38は、検知部30による検知結果を示す第2センサデータを診断装置22へ送信する。
【0036】
診断装置22のセンサデータ取得部50は、第1センサ装置20aから送信された第1センサデータと、第2センサ装置20bから送信された第2センサデータとを取得する。診断装置22の状態推定部52は、第1センサデータが示す振動の値と、第2センサデータが示す振動の値とを比較して、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12の状態(異常の有無)を推定する。診断装置22のバルブ制御部56は、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12の状態に応じて、バルブ14の開閉状態を制御する。診断装置22の診断情報提供部54は、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12の状態を示す診断情報を外部装置へ提供する。
【0037】
第1実施例の診断システム10によると、動力伝達経路上のセンサ未設置の箇所についても異常の有無等を把握することができ、動力伝達経路の状態を効率的に診断することができる。また、診断システム10によると、動力伝達経路としてのパイプ12に詰まりがある場合に詰まりを解消することができ、また、パイプ12に漏れがある場合に漏れの影響を低減することができる。
【0038】
変形例1-1:
第1実施例に関する変形例を説明する。第1実施例の第1センサ装置20aと第2センサ装置20bのそれぞれは、センサ設置位置の振動を検知したが、変形例として、第1センサ装置20aと第2センサ装置20bのそれぞれは、振動に代えて、または振動とともに、センサ設置位置の温度(例えばパイプ12の表面温度)を検知してもよい。
【0039】
前提としてパイプ12内の流体の温度がパイプ12の周囲の温度より高い場合、診断装置22の状態推定部52は、第2センサ装置20bの設置位置の温度が、第1センサ装置20aの設置位置の温度より低い場合に、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12に異常があると推定してもよく、具体的には、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12に詰まりまたは漏れがあると推定してもよい。第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12に詰まりまたは漏れがある場合、第2センサ装置20bの設置位置に該当するパイプ12内部の流体の圧力が、第1センサ装置20aの設置位置に該当するパイプ12内部の流体の圧力より小さくなり、その結果、第2センサ装置20bの設置位置の温度が、第1センサ装置20aの設置位置の温度より小さくなるからである。
【0040】
なお、状態推定部52は、第2センサ装置20bの設置位置の温度が、第1センサ装置20aの設置位置の温度より低く、かつ、各センサの設置位置の温度差が所定の閾値以上の場合に、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12に詰まりまたは漏れがあると推定してもよい。
【0041】
変形例1-2:
第1変形例に関する別の変形例を説明する。第1センサ装置20aと第2センサ装置20bのそれぞれは、センサ設置位置のパイプ12内部に流れる流体の速度、および、センサ設置位置のパイプ12内部に流れる流体の圧力、の少なくともいずれか1つを検知してもよい。
【0042】
例えば、第1センサ装置20aの検知部30と、第2センサ装置20bの検知部30は、パイプ12内の流体に向かって超音波または電波を照射し、当該流体による超音波または電波の反射強度を計測するセンサであってもよい。第1センサ装置20aの処理部32と、第2センサ装置20bの処理部32は、検知部30により計測された反射強度に基づいて、公知の手法により、パイプ12内の流体の速度と圧力の少なくとも一方を導出してもよい。
【0043】
診断装置22の状態推定部52は、第1センサ装置20aの検知結果から得られた第1センサ装置20aの設置箇所の流体の速度(すなわち第1センサデータが示す流体の速度)と、第2センサ装置20bの検知結果から得られた第2センサ装置20bの設置箇所の流体の速度(すなわち第2センサデータが示す流体の速度)とを比較することによって、パイプ12内の状態を推定してもよい。例えば、状態推定部52は、第2センサデータが示す流体の速度が、第1センサデータが示す流体の速度より小さい場合、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12に詰まりまたは漏れがあると推定してもよい。
【0044】
同様に、診断装置22の状態推定部52は、第1センサ装置20aの検知結果から得られた第1センサ装置20aの設置箇所の流体の圧力値と、第2センサ装置20bの検知結果から得られた第2センサ装置20bの設置箇所の流体の圧力値とを比較することによって、パイプ12内の状態を推定してもよい。例えば、状態推定部52は、第2センサデータが示す流体の圧力値が、第1センサデータが示す流体の圧力値より小さい場合、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12に詰まりまたは漏れがあると推定してもよい。
【0045】
変形例1-3:
第1実施例に関するさらに別の変形例を説明する。第1センサ装置20aの検知部30と、第2センサ装置20bの検知部30は、センサ設置位置の振動を検知してもよい。診断装置22の状態推定部52は、第1センサ装置20aの検知結果から得られた第1センサ装置20a設置位置の振動の値と、第2センサ装置20bの検知結果から得られた第2センサ装置20b設置位置の振動の値との差が所定の範囲内である場合、動力伝達経路としてのパイプ12全体で振動が発生していると推定してもよい。
【0046】
この場合、状態推定部52は、第1センサ装置20aの検知結果が示す振動の値と、第2センサ装置20bの検知結果が示す振動の値の少なくとも一方に基づいて、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12の状態が異常であると推定される場合であっても、パイプ12全体で振動が発生していると推定した場合には、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12の状態は正常であると推定してもよい。すなわち、パイプ12全体で生じている振動を加味して、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12の状態の推定結果を変更してもよい。本変形例によると、動力伝達経路の異常の誤検知を回避でき、言い換えれば、動力伝達経路の状態の推定精度を高めることができる。
【0047】
<第2実施例>
本発明の第2実施例について、上記の実施例と相違する点を中心に説明し、共通する点の説明を適宜省略する。第2実施例の特徴は、上記の実施例および変形例の特徴と任意の組合せが可能であることはもちろんである。第2実施例の構成要素のうち上記の実施例の構成要素と同一または対応する構成要素には適宜、同一の符号を付して説明する。
【0048】
図4は、第2実施例の診断システム10の構成を示す。第2実施例の診断システム10は、動力伝達経路の上流に設置される第1センサ装置20aが、パイプ12ではなく、バルブ14に設置される点で第1実施例の診断システム10と異なる。
【0049】
図5は、第2実施例の診断装置22の機能ブロックを示すブロック図である。第2実施例の診断装置22は、第1実施例の診断装置22の機能ブロックに加えて、正常値記憶部48をさらに備える。
【0050】
正常値記憶部48は、バルブ14が開放状態または閉鎖状態である場合の、第2センサ装置20bの検知結果の正常値を記憶する。第2実施例では、第1センサ装置20aと第2センサ装置20bのそれぞれは、センサ設置位置の振動を検知する。そのため、第2実施例では、正常値記憶部48は、バルブ14が開放状態である場合の、第2センサ装置20bの検知結果の正常値としての振動の値を記憶する。正常値としての振動の値は、振動の振幅と周波数の少なくとも一方の正常範囲であってもよい。なお、第1実施例とその変形例でも説明したように、第1センサ装置20aと第2センサ装置20bのそれぞれは、振動以外の物理量を検知してもよい。正常値記憶部48は、第1センサ装置20aと第2センサ装置20bが検知する物理量の種類に関する正常値を記憶する。
【0051】
状態推定部52は、第1センサ装置20aの検知結果(第1センサデータ)に基づいて、バルブ14が開放状態であるか否かを推定する。例えば、記憶部42は、バルブ14が開放状態である場合の第1センサ装置20a設置位置の振動の値(例えば振幅と周波数の少なくとも一方の範囲)を記憶してもよい。状態推定部52は、第1センサ装置20aの検知結果が示す振動の値が、記憶部42に記憶された、バルブ14が開放状態である場合の第1センサ装置20a設置位置の振動の値に整合する場合、バルブ14が開放状態であると推定してもよい。
【0052】
状態推定部52は、バルブ14が開放状態と推定される場合に、第2センサ装置20bの検知結果(第2センサデータ)の値と、正常値記憶部48に記憶された正常値とを比較することにより、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12の状態を推定する。状態推定部52は、第2センサ装置20bの検知結果が示す振動の値が、正常値記憶部48に記憶された正常値に整合する場合に、パイプ12の状態が正常であると推定してもよい。状態推定部52は、第2センサ装置20bの検知結果が示す振動の値が、正常値記憶部48に記憶された正常値に不整合の場合、パイプ12の状態が異常であると推定してもよい。
【0053】
また、正常値記憶部48は、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12に詰まりまたは漏れがない場合の、第2センサ装置20bの検知結果を正常値として記憶してもよい。状態推定部52は、第2センサ装置20bの検知結果が示す振動の値が、正常値記憶部48に記憶された正常値に不整合の場合、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12に詰まりまたは漏れがあると推定してもよい。パイプ12に詰まりまたは漏れがあると推定された場合、第1実施例と同様に、バルブ制御部56は、バルブ14の開き度合いを大きくしてもよい。
【0054】
第2実施例の診断システム10によると、第1実施例の診断システム10が奏する効果に加えて、動力伝達経路上のセンサ未設置の箇所についての異常の有無等を一層精度よく推定することができる。
【0055】
変形例2-1:
第2実施例に関する変形例を説明する。正常値記憶部48は、バルブ14が開放状態である場合の、第2センサ装置20bの検知結果の正常値としての振動の値に代えて、またはその値とともに、バルブ14が閉鎖状態である場合の、第2センサ装置20bの検知結果の正常値としての振動の値を記憶してもよい。
【0056】
状態推定部52は、第1センサ装置20aの検知結果(第1センサデータ)に基づいて、バルブ14が閉鎖状態であるか否かを推定する。例えば、記憶部42は、バルブ14が閉鎖状態である場合の第1センサ装置20a設置位置の振動の値(例えば振幅と周波数の少なくとも一方の範囲)を記憶する。状態推定部52は、第1センサ装置20aの検知結果が示す振動の値が、記憶部42に記憶された、バルブ14が閉鎖状態である場合の第1センサ装置20a設置位置の振動の値に整合する場合に、バルブ14が閉鎖状態であると推定してもよい。
【0057】
状態推定部52は、バルブ14が閉鎖状態と推定される場合に、第2センサ装置20bの検知結果(第2センサデータ)の値と、正常値記憶部48に記憶された正常値とを比較することにより、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12の状態を推定する。状態推定部52は、第2センサ装置20bの検知結果が示す振動の値が、正常値記憶部48に記憶された正常値に整合する場合に、パイプ12の状態が正常であると推定してもよい。状態推定部52は、第2センサ装置20bの検知結果が示す振動の値が、正常値記憶部48に記憶された正常値に不整合の場合、パイプ12の状態が異常であると推定してもよい。この変形例の診断システム10においても、第2実施例の診断システム10と同様の効果を奏する。
【0058】
変形例2-2:
第2実施例に関する別の変形例を説明する。
図6は、変形例の診断装置22の機能ブロックを示すブロック図である。変形例の診断装置22は、第1実施例の診断装置22の機能ブロックに加えて、バルブ指令取得部58をさらに備える。
【0059】
診断装置22のバルブ指令取得部58は、バルブ制御装置18からバルブ14へ送信された制御信号であって、かつ、バルブ14を開放状態または閉鎖状態にするための制御信号であるバルブ動作指令をバルブ14から取得する。変形例として、バルブ指令取得部58は、バルブ制御装置18からバルブ14へ送信されたパイプ動作指令を、バルブ制御装置18から取得してもよく、バルブ制御装置18とバルブ14の通信を中継する中継装置(不図示)から取得してもよい。
【0060】
診断装置22の状態推定部52は、バルブ指令取得部58によりバルブ動作指令が取得されたことに応じて、言い換えれば、バルブ動作指令が取得されたことを契機に、第1センサ装置20aの検知結果と、第2センサ装置20bの検知結果とに基づいて、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間のパイプ12の状態を推定する。本変形例の診断システム10によると、バルブ制御装置18からバルブ14へバルブ動作指令が送信されたタイミングでパイプ12の状態を診断する、これにより、動作伝達経路としてのパイプ12が異常である場合に、そのことを精度よく検出することができる。
【0061】
<第3実施例>
本発明の第3実施例について、上記の実施例と相違する点を中心に説明し、共通する点の説明を適宜省略する。第3実施例の特徴は、上記の実施例および変形例の特徴と任意の組合せが可能であることはもちろんである。第3実施例の構成要素のうち上記の実施例の構成要素と同一または対応する構成要素には適宜、同一の符号を付して説明する。
【0062】
図7は、第3実施例の診断システム10の構成を示す。第3実施例の診断システム10は、鉄道車両の動力伝達システムとしての鉄道ブレーキシステム60の状態を診断する。鉄道ブレーキシステム60は、パイプ12、空気タンク61、ブレーキ弁62、空気ブレーキシリンダ63、制輪子64、ブレーキ制御装置65を備える。
【0063】
空気タンク61には、圧縮空気が充填され、圧縮空気を出力する。ブレーキ弁62は、動力伝達経路としてのパイプ12の上流側に設置され、パイプ12内を流れる圧縮空気の流量を調整するバルブである。空気ブレーキシリンダ63は、ブレーキ弁62からパイプ12を介して伝達された圧縮空気の圧力を駆動源として動作するアクチュエータである。空気ブレーキシリンダ63には、制輪子64が連結される。ブレーキ制御装置65は、ブレーキ弁62の開閉状態を制御してパイプ12内を流れる圧縮空気の流量を調整することにより、空気ブレーキシリンダ63および制輪子64の動作を制御する。これにより、ブレーキ制御装置65は、鉄道車両の車輪を制動する。
【0064】
第1センサ装置20aは、パイプ12の上流に設置され、第3実施例では、ブレーキ弁62に設置される。第2センサ装置20bは、パイプ12の下流に設置され、第3実施例では、空気ブレーキシリンダ63に設置される。
【0065】
第3実施例の診断装置22は、第1センサ装置20a、第2センサ装置20b、ブレーキ弁62と通信する。第3実施例の診断装置22は、既述の実施例または変形例の診断装置22が備える機能ブロックを備えてもよい。例えば、第3実施例の診断装置22は、
図3に示した第1実施例の診断装置22の機能ブロックを備えてもよい。
【0066】
診断装置22の状態推定部52は、第1センサ装置20aの検知結果と、第2センサ装置20bの検知結果とに基づいて、ブレーキ弁62と空気ブレーキシリンダ63の間のパイプ12の状態を推定する。状態推定部52による推定方法と推定内容は、既述の実施例または変形例に記載した推定方法と推定内容が適用されてよい。第3実施例の診断システム10によると、上記実施例の診断システム10に対応する効果を奏し、例えば、鉄道ブレーキシステム60における動力伝達経路の状態を効率的に診断することができる。
【0067】
<第4実施例>
本発明の第4実施例について、上記の実施例と相違する点を中心に説明し、共通する点の説明を適宜省略する。第4実施例の特徴は、上記の実施例および変形例の特徴と任意の組合せが可能であることはもちろんである。第4実施例の構成要素のうち上記の実施例の構成要素と同一または対応する構成要素には適宜、同一の符号を付して説明する。
【0068】
図8は、第4実施例の診断システム10の構成を示す。第4実施例の診断システム10は、鉄道車両のドアの開閉に関わる空気式ドアシステム70の状態を診断する。空気式ドアシステム70は、パイプ12、空気タンク71、電磁弁72、空気式ドア73、ドア制御装置76を備える。空気式ドア73は、開閉シリンダ74とドアリーフ75を含む。
【0069】
空気タンク71には、圧縮空気が充填され、圧縮空気を出力する。電磁弁72は、動力伝達経路としてのパイプ12の上流側に設置され、パイプ12内を流れる圧縮空気の流量を調整するバルブである。開閉シリンダ74は、電磁弁72からパイプ12を介して伝達された圧縮空気の圧力を駆動源として動作するアクチュエータである。開閉シリンダ74は、ドアリーフ75を開放または閉鎖する。ドア制御装置76は、電磁弁72の開閉状態を制御してパイプ12内を流れる圧縮空気の流量を調整することにより、開閉シリンダ74の動作を制御する。これにより、ドア制御装置76は、空気式ドア73(ドアリーフ75)の開閉を制御する。
【0070】
第1センサ装置20aは、パイプ12の上流に設置され、第4実施例では、電磁弁72に設置される。第2センサ装置20bは、パイプ12の下流に設置され、第4実施例では、空気式ドア73の開閉シリンダ74に設置される。
【0071】
診断装置22は、第1センサ装置20a、第2センサ装置20b、電磁弁72と通信する。第4実施例の診断装置22は、既述の実施例または変形例の診断装置22が備える機能ブロックを備えてもよい。例えば、第4実施例の診断装置22は、
図3に示した第1実施例の診断装置22の機能ブロックを備えてもよい。
【0072】
診断装置22の状態推定部52は、第1センサ装置20aの検知結果と、第2センサ装置20bの検知結果とに基づいて、電磁弁72と空気式ドア73(開閉シリンダ74)間のパイプ12の状態を推定する。状態推定部52による推定方法と推定内容は、既述の実施例または変形例に記載した推定方法と推定内容が適用されてよい。第4実施例の診断システム10によると、上記実施例の診断システム10に対応する効果を奏し、例えば、空気式ドアシステム70における動力伝達経路の状態を効率的に診断することができる。
【0073】
<第5実施例>
本発明の第5実施例について、上記の実施例と相違する点を中心に説明し、共通する点の説明を適宜省略する。第5実施例の特徴は、上記の実施例および変形例の特徴と任意の組合せが可能であることはもちろんである。第5実施例の構成要素のうち上記の実施例の構成要素と同一または対応する構成要素には適宜、同一の符号を付して説明する。
【0074】
図9は、第5実施例の診断システム10の構成を示す。第5実施例の診断システム10により診断対象となる動力伝達システムは、動力伝達経路としてのパイプ12、バルブ14、アクチュエータ16、バルブ制御装置18、アクチュエータ制御装置19を備える。
【0075】
第5実施例では、パイプ12内部を作動油が流れる。アクチュエータ16は、バルブ14からパイプ12を介して伝達された作動油の圧力により駆動される油圧アクチュエータである。アクチュエータ制御装置19は、アクチュエータ16の動作を制御する装置であり、アクチュエータ16の動作を開始または終了させるための制御信号(以下「アクチュエータ動作指令」とも呼ぶ。)をアクチュエータ16へ送信する。
【0076】
第5実施例の診断システム10では、第1センサ装置20aは、動力伝達経路(パイプ12)の上流に設けられたバルブ14に設置される。第2センサ装置20bは、動力伝達経路の下流に設けられたアクチュエータ16に設置される。
【0077】
図10は、第5実施例の診断装置22の機能ブロックを示すブロック図である。診断装置22の状態推定部52は、第1センサ装置20aの検知結果と、第2センサ装置20bの検知結果とに基づいて、バルブ14とアクチュエータ16間のパイプ12の状態を推定する。状態推定部52による推定方法と推定内容は、既述の実施例または変形例に記載した推定方法と推定内容が適用されてよい。
【0078】
また、第5実施例の診断装置22は、第1実施例の診断装置22の機能ブロックに加えて、アクチュエータ指令取得部80をさらに備える。アクチュエータ指令取得部80は、アクチュエータ制御装置19からアクチュエータ16へ送信されたアクチュエータ動作指令をアクチュエータ16から取得する。変形例として、アクチュエータ指令取得部80は、アクチュエータ制御装置19からアクチュエータ16へ送信されたアクチュエータ動作指令をアクチュエータ制御装置19から取得してもよく、アクチュエータ制御装置19とアクチュエータ16の通信を中継する中継装置(不図示)から取得してもよい。
【0079】
状態推定部52は、アクチュエータ指令取得部80によりアクチュエータ動作指令が取得されたことに応じて、言い換えれば、アクチュエータ動作指令が取得されたことを契機に、第1センサ装置20aの検知結果と、第2センサ装置20bの検知結果とに基づいて、第1センサ装置20aと第2センサ装置20b間の動力伝達経路の状態を推定する。第5実施例では、状態推定部52は、バルブ14とアクチュエータ16間のパイプ12の状態を推定する。
【0080】
第5実施例の診断システム10によると、アクチュエータ制御装置19からアクチュエータ16へアクチュエータ動作指令が送信されたタイミングでパイプ12の状態を診断する、これにより、動作伝達経路としてのパイプ12が異常である場合に、そのことを精度よく検出することができる。なお、アクチュエータ動作指令の取得を契機に、動力伝達経路の状態を診断する第5実施例の構成は、他の実施例または変形例と任意の組み合わせが可能である。
【0081】
<第6実施例>
本発明の第6実施例について、上記の実施例と相違する点を中心に説明し、共通する点の説明を適宜省略する。第6実施例の特徴は、上記の実施例および変形例の特徴と任意の組合せが可能であることはもちろんである。第6実施例の構成要素のうち上記の実施例の構成要素と同一または対応する構成要素には適宜、同一の符号を付して説明する。
【0082】
図11は、第6実施例の診断システム10の構成を示す。第6実施例の診断システム10により診断対象となる動力伝達システムは、動力伝達経路としてのパイプ12、アクチュエータ16、バルブ制御装置18を備える。アクチュエータ16は、パイプ12により伝達される動力によって動作する。パイプ12内部を流れる流体が作動油の場合、アクチュエータ16は、作動油の圧力により駆動される油圧アクチュエータであってもよい。
【0083】
第1センサ装置20aは、アクチュエータ16に対して、動力伝達経路の上流に設置される。第2センサ装置20bは、アクチュエータ16に対して、動力伝達経路の下流に設置される。
図11の例では、第1センサ装置20aと第2センサ装置20bは、パイプ12上に設置され、また、アクチュエータ16を挟んだ位置に設置される。
【0084】
図12は、第6実施例の診断装置22の機能ブロックを示すブロック図である。第6実施例の診断装置22は、
図10に示した第5実施例の診断装置22の機能ブロックを備えるが、バルブ制御部56を備えない。診断装置22の状態推定部52は、第1センサ装置20aの検知結果と、第2センサ装置20bの検知結果とに基づいて、アクチュエータ16の異常の有無を推定する。
【0085】
例えば、第1センサ装置20aの検知部30と第2センサ装置20bの検知部30はともに、動力伝達経路としてのパイプ12の温度を検知してもよい。診断装置22は、第1センサ装置20aの検知結果が示す温度が、第2センサ装置20bの検知結果が示す温度よりも高い場合、アクチュエータ16が異常であると推定してもよい。また、第1センサ装置20aの検知部30と第2センサ装置20bの検知部30はともに、パイプ12内部を流れる流体の圧力を検知してもよい。診断装置22は、第1センサ装置20aの検知結果が示す圧力値が、第2センサ装置20bの検知結果が示す圧力値よりも高い場合、アクチュエータ16が異常であると推定してもよい。これは、アクチュエータ16が、正常時に、動力伝達経路の下流側の温度を上昇させるよう動作するものである場合や、動力伝達経路の下流側の圧力を上昇させるよう動作するものである場合に好適である。
【0086】
第6実施例の診断システム10によると、動力伝達経路上に設置されたアクチュエータであって、かつ、センサ未設置のアクチュエータの状態を診断することができる。
【0087】
<第7実施例>
本発明の第7実施例について、上記の実施例と相違する点を中心に説明し、共通する点の説明を適宜省略する。第7実施例の特徴は、上記の実施例および変形例の特徴と任意の組合せが可能であることはもちろんである。第7実施例の構成要素のうち上記の実施例の構成要素と同一または対応する構成要素には適宜、同一の符号を付して説明する。
【0088】
図13は、第7実施例の診断システム10の構成を示す。第7実施例の診断システム10は、動力伝達経路90の状態を診断する。動力伝達経路90には、電動機91、アクチュエータ92、伝達機構93が設置される。電動機91は、動力伝達経路90の上流に設置され、電気エネルギーを回転運動等の力学的エネルギーに変換する機器である。アクチュエータ92は、動力伝達経路90の下流に設置され、電動機91から出力された動力で駆動される機械要素である。伝達機構93は、電動機91から出力された動力をアクチュエータ92に伝達する機械要素である。伝達機構93は、例えばギアを含んでもよい。
【0089】
第1センサ装置20aは、電動機91に設置される。第2センサ装置20bは、アクチュエータ92に設置される。第7実施例の診断装置22は、既述の実施例または変形例の診断装置22が備える機能ブロックを備えてもよい。例えば、第7実施例の診断装置22は、
図5に示した第2実施例の診断装置22の機能ブロックのうち、診断情報記憶部46、正常値記憶部48、センサデータ取得部50、状態推定部52、診断情報提供部54を備えてもよい。
【0090】
診断装置22の状態推定部52は、第1センサ装置20aによる検知結果と、第2センサ装置20bによる検知結果とに基づいて、電動機91とアクチュエータ92間の伝達機構93の状態を推定する。第7実施例の診断システム10によると、センサが未設置の伝達機構93の状態を診断することができる。
【0091】
例えば、診断装置22の正常値記憶部48は、伝達機構93の状態が正常である場合の、第1センサ装置20aによる検知結果(例えば振動の値)と、第2センサ装置20bによる検知結果(例えば振動の値)とを対応付けた組を正常値として記憶してもよい。診断装置22の状態推定部52は、第1センサ装置20aから送信された検知結果に対応する第2センサ装置20bによる検知結果の正常値と、第2センサ装置20bから送信された検知結果(すなわち現在の計測結果)とを比較し、その差が所定の閾値以上の場合に伝達機構93が異常であると推定してもよい。この閾値は、診断システム10の開発者の知見や、診断システム10を用いた実験(例えば、正常な伝達機構93と異常な伝達機構93のそれぞれを用いた実験等)により適切な値が決定されてよい。
【0092】
<第8実施例>
本発明の第8実施例について、上記の実施例と相違する点を中心に説明し、共通する点の説明を適宜省略する。第8実施例の特徴は、上記の実施例および変形例の特徴と任意の組合せが可能であることはもちろんである。第8実施例の構成要素のうち上記の実施例の構成要素と同一または対応する構成要素には適宜、同一の符号を付して説明する。
【0093】
図14は、第8実施例の診断システム10の構成を示す。第8実施例の診断システム10は、第7実施例の動力伝達経路90に対応する動力伝達経路90の状態を診断する。第8実施例の動力伝達経路90は、ロボットアームに設けられた動力伝達経路である。動力伝達経路90には、電動機91、アクチュエータ92、減速機94、第1伝達機構95、第2伝達機構96が設置される。減速機94、第1伝達機構95、第2伝達機構96の組は、第7実施例の伝達機構93に対応する。
【0094】
アクチュエータ92は、減速機94から出力された動力をもとに駆動するアームである。第1伝達機構95は、電動機91から出力された動力を減速機94に伝達する機構である。第1伝達機構95は、ギア(例えばベベルギア)であってもよい。減速機94は、第1伝達機構95を介して入力された動力の回転速度を減じて出力する装置である。第2伝達機構96は、減速機94から出力された動力をアクチュエータ92に伝達する機構である。
【0095】
第1センサ装置20aは、電動機91に設置される。第2センサ装置20bは、減速機94に設置される。第8実施例の診断装置22は、既述の実施例または変形例の診断装置22が備える機能ブロックを備えてもよい。例えば、第8実施例の診断装置22は、
図5に示した第2実施例の診断装置22の機能ブロックのうち、診断情報記憶部46、正常値記憶部48、センサデータ取得部50、状態推定部52、診断情報提供部54を備えてもよい。
【0096】
診断装置22の状態推定部52は、第1センサ装置20aによる検知結果と、第2センサ装置20bによる検知結果とに基づいて、電動機91と減速機94間の第1伝達機構95の状態を推定する。第8実施例の診断システム10によると、ロボットアームにおいて動力を伝達する伝達機構であって、センサが未設置の第1伝達機構95(例えばギア)の状態を診断することができる。
【0097】
例えば、診断装置22の正常値記憶部48は、第1伝達機構95の状態が正常である場合の、第1センサ装置20aによる検知結果(例えば振動の値)と、第2センサ装置20bによる検知結果(例えば振動の値)とを対応付けた組を正常値として記憶してもよい。診断装置22の状態推定部52は、第1センサ装置20aから送信された検知結果に対応する第2センサ装置20bによる検知結果の正常値と、第2センサ装置20bから送信された検知結果(すなわち現在の計測結果)とを比較し、その差が所定の閾値以上の場合に第1伝達機構95が異常であると推定してもよい。この閾値は、診断システム10の開発者の知見や、診断システム10を用いた実験(例えば、正常な第1伝達機構95と異常な第1伝達機構95のそれぞれを用いた実験等)により適切な値が決定されてよい。
【0098】
<第9実施例>
本発明の第9実施例について、上記の実施例と相違する点を中心に説明し、共通する点の説明を適宜省略する。第9実施例の特徴は、上記の実施例および変形例の特徴と任意の組合せが可能であることはもちろんである。第9実施例の構成要素のうち上記の実施例の構成要素と同一または対応する構成要素には適宜、同一の符号を付して説明する。
【0099】
図15は、第9実施例の診断システム10の構成を示す。第9実施例の診断システム10は、自動ドア100における動力伝達経路101の状態を診断する。動力伝達経路101には、電動機102、従動プーリ103、タイミングベルト104が設置される。従動プーリ103は、ベルト伝動において、動力を消費する側となる従動軸に取り付けられたプーリである。タイミングベルト104は、電動機102から出力された動力を従動プーリ103に伝達するベルトである。タイミングベルト104には、ドアハンガー105を介してドアリーフ106が取り付けられており、電動機102がタイミングベルト104を動作させることにより、ドアリーフ106が開閉する。
【0100】
第1センサ装置20aは、電動機102に設置される。第2センサ装置20bは、従動プーリ103に設置される。第9実施例の診断装置22は、既述の実施例または変形例の診断装置22が備える機能ブロックを備えてもよい。例えば、第9実施例の診断装置22は、
図5に示した第2実施例の診断装置22の機能ブロックのうち、診断情報記憶部46、正常値記憶部48、センサデータ取得部50、状態推定部52、診断情報提供部54を備えてもよい。
【0101】
診断装置22の状態推定部52は、電動機102と従動プーリ103の間のタイミングベルト104の状態を推定する。第9実施例の診断システム10によると、自動ドアにおいて動力を伝達する伝達機構であって、センサが未設置のタイミングベルト104の状態(例えば歪みの有無等)を診断することができる。
【0102】
例えば、診断装置22の正常値記憶部48は、タイミングベルト104の状態が正常である場合の、第1センサ装置20aによる検知結果(例えば振動の値)と、第2センサ装置20bによる検知結果(例えば振動の値)とを対応付けた組を正常値として記憶してもよい。診断装置22の状態推定部52は、第1センサ装置20aから送信された検知結果に対応する第2センサ装置20bによる検知結果の正常値と、第2センサ装置20bから送信された検知結果(すなわち現在の計測結果)とを比較し、その差が所定の閾値以上の場合にタイミングベルト104が異常であると推定してもよい。この閾値は、診断システム10の開発者の知見や、診断システム10を用いた実験(例えば、正常なタイミングベルト104と異常なタイミングベルト104のそれぞれを用いた実験等)により適切な値が決定されてよい。
【0103】
以上、本発明を第1~第9実施例をもとに説明した。各実施例は例示であり、各実施例に記載の構成要素や処理プロセスの組合せにはいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0104】
上記実施例のセンサ装置20は、銘板としてのセンサ装置としたが、変形例として、センサ装置20は、銘板でなくてもよく、対象物に容易に貼り付け可能なシート型またはコイン型のセンサ装置であってもよい。
【0105】
本明細書で開示した実施例のうち、複数の機能が分散して設けられているものは、当該複数の機能の一部又は全部を集約して設けても良く、逆に複数の機能が集約して設けられているものを、当該複数の機能の一部又は全部が分散するように設けることができる。機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【0106】
上述した実施例および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施例および変形例それぞれの効果をあわせもつ。また、請求項に記載の各構成要件が果たすべき機能は、実施例および変形例において示された各構成要素の単体もしくはそれらの連携によって実現されることも当業者には理解されるところである。
【0107】
なお、実施例および変形例に記載の技術は、以下の態様によって特定されてもよい。
[項目1]
動力伝達経路の上流に設置された第1センサの検知結果と、前記動力伝達経路の下流に設置された第2センサの検知結果とを取得するセンサデータ取得部と、
前記第1センサの検知結果と前記第2センサの検知結果とに基づいて、前記第1センサと前記第2センサ間の前記動力伝達経路の状態を推定する推定部と、
を備える診断システム。
この診断システムによると、動力伝達経路におけるセンサ未設置箇所の状態を推定でき、動力伝達経路の状態を効率的に診断することができる。
[項目2]
前記第1センサと前記第2センサのそれぞれは、センサ設置位置の振動、および、センサ設置位置の温度の少なくともいずれか1つを検知するためのセンサである
項目1に記載の診断システム。
この診断システムによると、動力伝達経路におけるセンサ設置位置の振動または温度に基づいて、動力伝達経路におけるセンサ未設置箇所の状態を推定でき、動力伝達経路の状態を効率的に診断することができる。
[項目3]
前記動力伝達経路は、バルブにより制御された流体が流れるパイプであり、
前記推定部は、前記第1センサの検知結果と第2センサの検知結果とに基づいて、前記パイプの状態を推定する
項目1または2に記載の診断システム。
この診断システムによると、動力伝達経路としてのパイプにおけるセンサ未設置箇所の状態を推定でき、動力伝達経路の状態を効率的に診断することができる。
[項目4]
前記第1センサと前記第2センサのそれぞれは、センサ設置位置の前記パイプ内部に流れる流体の速度、および、センサ設置位置の前記パイプ内部に流れる流体の圧力、の少なくともいずれか1つを検知するためのセンサである
項目3に記載の診断システム。
この診断システムによると、センサ設置位置のパイプ内部における流体の速度または圧力に基づいて、当該パイプにおけるセンサ未設置箇所の状態を推定でき、動力伝達経路としてのパイプの状態を効率的に診断することができる。
[項目5]
前記第1センサと前記第2センサは、前記パイプ内部に流れる流体の速度を検知するためのセンサであり、
前記推定部は、前記第1センサの検知結果から得られた前記第1センサ設置箇所の流体の速度と、前記第2センサの検知結果から得られた前記第2センサ設置箇所の流体の速度とを比較することによって、前記パイプ内の状態を推定する
項目4に記載の診断システム。
この診断システムによると、センサ設置位置のパイプ内部における流体の速度差に基づいて、当該パイプにおけるセンサ未設置箇所の状態を推定でき、動力伝達経路としてのパイプの状態を効率的に診断することができる。
[項目6]
前記第1センサと前記第2センサは、前記パイプ内の流体に向かって超音波または電波を照射して、当該流体による反射を取得するセンサである
項目5に記載の診断システム。
この診断システムによると、センサ設置位置のパイプ内部における流体の速度差に基づいて、当該パイプにおけるセンサ未設置箇所の状態を推定でき、動力伝達経路としてのパイプの状態を効率的に診断することができる。
[項目7]
前記推定部は、前記第2センサの検知結果から得られた前記第2センサ設置箇所の振動、流体の速度、または、流体の圧力が、前記第1センサの検知結果から得られた前記第1センサ設置箇所の振動、流体の速度、または、流体の圧力より小さい場合、前記第1センサと前記第2センサの間の前記パイプに詰まりまたは漏れがあると推定する
項目3から6のいずれか1項に記載の診断システム。
この診断システムによると、動力伝達経路としてのパイプに詰まりまたは漏れがある場合、そのことを精度よく検出することができる。
[項目8]
前記推定部により前記パイプに詰まりまたは漏れがあると推定される場合に、前記パイプに流れる流体を制御するバルブの開き度合いを大きくするバルブ制御部をさらに備える
項目7に記載の診断システム。
この診断システムによると、動力伝達経路としてのパイプに詰まりがある場合に、その詰まりを解消することができ、また、パイプに漏れがある場合に、その漏れの影響を低減することができる。
[項目9]
前記第1センサは、前記バルブに設置され、
前記バルブが開放状態または閉鎖状態である場合の、前記第2センサの検知結果の正常値を記憶する記憶部をさらに備え、
前記推定部は、前記第1センサの検知結果に基づいて、前記バルブが前記開放状態または前記閉鎖状態であるか否かを推定し、前記バルブが前記開放状態または前記閉鎖状態であると推定される場合、前記第2センサの検知結果の値と、前記記憶部に記憶された正常値とを比較することにより、前記第1センサと前記第2センサ間の前記パイプの状態を推定する
項目3から8のいずれか1項に記載の診断システム。
この診断システムによると、この診断システムによると、動力伝達経路におけるセンサ未設置箇所の状態を精度よく推定できる。
[項目10]
前記バルブを開放状態または閉鎖状態にするためのバルブ動作指令を取得するバルブ指令取得部をさらに備え、
前記第1センサは、前記バルブに設置され、
前記推定部は、前記バルブ動作指令を取得したことに応じて、前記第1センサの検知結果と前記第2センサの検知結果とに基づいて、前記第1センサと前記第2センサ間のパイプの状態を推定する
項目3から8のいずれか1項に記載の診断システム。
この診断システムによると、バルブ動作指令の取得を契機として、第1センサと第2センサ間のパイプの状態が異常である場合に、そのことを効率的に検出することができる。
[項目11]
前記流体は圧縮空気であり、
前記第1センサは、前記バルブに設置され、
前記第2センサは、前記バルブから前記パイプを介して伝達された前記圧縮空気の圧力を駆動源として鉄道車両の車輪を制動する空気ブレーキシリンダに設置され、
前記推定部は、前記バルブと前記空気ブレーキシリンダの間の前記パイプの状態を推定する
項目3から10のいずれか1項に記載の診断システム。
この診断システムによると、鉄道車両のブレーキシステムにおける動力伝達経路の状態を効率的に診断することができる。
[項目12]
前記流体は圧縮空気であり、
前記第1センサは、前記バルブに設置され、
前記第2センサは、前記バルブから前記パイプを介して伝達された前記圧縮空気の圧力を駆動源として鉄道車両のドアを開閉するための空気式ドアに設置され、
前記推定部は、前記バルブと前記空気式ドアの間の前記パイプの状態を推定する
項目3から10のいずれか1項に記載の診断システム。
この診断システムによると、鉄道車両のドアシステムにおける動力伝達経路の状態を効率的に診断することができる。
[項目13]
前記流体は作動油であり、
前記第1センサは、前記バルブに設置され、
前記第2センサは、前記バルブから前記パイプを介して伝達された前記作動油の圧力により駆動される油圧アクチュエータに設置され、
前記推定部は、前記バルブと前記油圧アクチュエータ間の前記パイプの状態を推定する
項目3から10のいずれか1項に記載の診断システム。
この診断システムによると、油圧駆動システムにおける動力伝達経路の状態を効率的に診断することができる。
[項目14]
前記第2センサは、前記動力伝達経路により伝達される動力によって動作するアクチュエータに設置され、
前記アクチュエータの動作を開始制御するアクチュエータ動作指令を取得するアクチュエータ指令取得部をさらに備え、
前記推定部は、前記アクチュエータ動作指令を取得したことに応じて、前記動力伝達経路の状態を推定する
項目1から13のいずれか1項に記載の診断システム。
この診断システムによると、第1センサと第2センサ間の動力伝達経路の状態が異常である場合に、そのことを効率的に検出することができる。
[項目15]
前記第1センサは、前記動力伝達経路により伝達される動力によって動作するアクチュエータに対して、上流側に設置され、
前記第2センサは、前記動力伝達経路により伝達される動力によって動作するアクチュエータに対して、下流側に設置され、
前記推定部は、前記第1センサの検知結果と、前記第2センサの検知結果とに基づいて、前記アクチュエータの異常を推定する
項目1に記載の診断システム。
この診断システムによると、動力伝達経路上のアクチュエータであって、かつ、センサ未設置のアクチュエータの状態を診断することができる。
[項目16]
前記第1センサと前記第2センサは、前記動力伝達経路の温度を検知するセンサであり、
前記推定部は、前記第1センサの検知結果が示す温度が前記第2センサの検知結果が示す温度よりも高い場合に、前記アクチュエータが異常であると推定する
項目15に記載の診断システム。
この診断システムによると、センサ設置位置で検知された温度差に基づいて、センサ未設置のアクチュエータの状態を診断することができる。
[項目17]
前記動力伝達経路には、電動機と、前記電動機から出力された動力で駆動されるアクチュエータと、前記電動機から出力された動力を前記アクチュエータに伝達する伝達機構とが設けられ、
前記第1センサは、前記電動機に設けられ、
前記第2センサは、前記アクチュエータに設けられ、
前記推定部は、前記伝達機構の状態を推定する
項目1または2に記載の診断システム。
この診断システムによると、センサ未設置の伝達機構の状態を診断することができる。
[項目18]
前記動力伝達経路には、電動機と、前記電動機から出力された動力を伝達するギアと、前記ギアを介して入力された動力の回転速度を減じて出力する減速機とが設けられ、
前記第1センサは、前記電動機に設置され、
前記第2センサは、前記減速機に設置され、
前記推定部は、前記ギアの状態を推定する
項目1または2に記載の診断システム。
この診断システムによると、センサ未設置のギアの状態を診断することができる。
[項目19]
前記第1センサと前記第2センサは、センサ設置位置の振動を検知するセンサであり、
前記推定部は、前記第1センサの検知結果から得られた前記第1センサの設置位置の振動と、前記第2センサの検知結果から得られた前記第2センサの設置位置の振動との差が所定の範囲内である場合、前記動力伝達経路全体で振動が発生していると推定し、前記動力伝達経路は正常であると推定する
項目1に記載の診断システム。
この診断システムによると、動力伝達経路の異常を誤検知することを回避でき、言い換えれば、動力伝達経路の状態の推定精度を高めることができる。
[項目20]
前記動力伝達経路は、自動ドアにおける動力伝達経路であり、
前記動力伝達経路には、電動機と、従動プーリと、前記電動機から出力された動力を前記従動プーリに伝達するベルトとが設けられ、
前記第1センサは、前記電動機に設置され、
前記第2センサは、前記従動プーリに設置され、
前記推定部は、前記ベルトの状態を推定する
項目1または2に記載の診断システム。
この診断システムによると、自動ドアにおいて動力を伝達するベルトの状態を推定することができる。
[項目21]
前記動力伝達経路は、ロボットアームにおける動力伝達経路であり、
前記動力伝達経路には、電動機と、減速機と、前記電動機から出力された動力を前記減速機に伝達する伝達機構とが設けられ、
前記第1センサは、前記電動機に設置され、
前記第2センサは、前記減速機に設置され、
前記推定部は、前記伝達機構の状態を推定する
項目1または2に記載の診断システム。
この診断システムによると、ロボットアームにおいて動力を伝達する伝達機構の状態を推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本開示の技術は、診断システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0109】
10 診断システム、 12 パイプ、 14 バルブ、 16 アクチュエータ、 20a 第1センサ装置、 20b 第2センサ装置、 22 診断装置、 46 診断情報記憶部、 48 正常値記憶部、 50 センサデータ取得部、 52 状態推定部、 56 バルブ制御部、 58 バルブ指令取得部、 80 アクチュエータ指令取得部。