(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】補修装置および補修方法
(51)【国際特許分類】
F27D 1/16 20060101AFI20241126BHJP
F27D 25/00 20100101ALI20241126BHJP
B22D 41/02 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
F27D1/16 T
F27D25/00
B22D41/02 C
(21)【出願番号】P 2024546023
(86)(22)【出願日】2024-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2024010591
【審査請求日】2024-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2023048989
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391051326
【氏名又は名称】ヤマモトロックマシン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】小原 祐司
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真吾
(72)【発明者】
【氏名】日野 雄太
(72)【発明者】
【氏名】腰原 敬弘
(72)【発明者】
【氏名】矢田谷 嘉一
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-316614(JP,A)
【文献】特開平1-107091(JP,A)
【文献】特開昭53-104507(JP,A)
【文献】特開平8-189779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 1/16
F27D 25/00
B22D 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方に開口を有し、内面に耐火物層を有する容器の補修装置であって、
前記開口に掛け渡される支持フレームと、
前記支持フレームの下部に設けられた旋回駆動部と、
前記旋回駆動部の下部に設けられ、鉛直方向に延在する鉛直支持部材と、
前記鉛直支持部材に昇降可能に支持され、水平方向に延在する水平支持部材と、
前記水平支持部材を昇降させる昇降駆動部と、
前記水平支持部材の一方の端部に備えられ、破砕工具を先端に有する破砕装置と、
前記水平支持部材の他方の端部に備えられ、前記耐火物層と接する当接部材を先端に有する反力支持装置と、を備える、補修装置。
【請求項2】
前記破砕装置は、第1のアクチュエータを備え、
前記破砕工具は、前記第1のアクチュエータにより前記水平支持部材と平行方向に進退可能に構成されており、
前記反力支持装置は、第2のアクチュエータを備え、
前記当接部材は、前記第2のアクチュエータにより前記水平支持部材と平行方向に進退可能に構成されている、請求項1に記載の補修装置。
【請求項3】
前記第1のアクチュエータと前記第2のアクチュエータは、同じ油圧源に接続された同仕様の油圧シリンダであり、反対方向に同調動作するよう構成されている、請求項2に記載の補修装置。
【請求項4】
前記当接部材が軟質材料からなる、請求項1または2に記載の補修装置。
【請求項5】
前記当接部材が、少なくとも1方向に揺動可能に前記第2のアクチュエータに支持されている、請求項2または3に記載の補修装置。
【請求項6】
上方に開口を有し、内面に耐火物層を有する容器を、補修装置により補修する補修方法であって、
前記補修装置は、
水平方向に延在する水平支持部材と、
前記水平支持部材の一方の端部に備えられた破砕装置と、
前記水平支持部材の他方の端部に備えられた反力支持装置とを有し、
前記水平支持部材を回転方向および鉛直方向の一方または両方に、連続的または断続的に駆動し、
前記容器の対向する内面の一方の面に前記破砕装置を押し付け、
前記対向する内面の他方の面に前記反力支持装置を押し付け、
前記一方の面の耐火物層の少なくとも表層を前記破砕装置により破砕する、補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面に耐火物層(refractory material layer)を有する容器の補修装置に関する。また、本発明は、内面に耐火物層を有する容器の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温の内容物を保持するための容器には、内容物の熱から容器本体を保護するため、内面にライニングとしての耐火物層が設けられることが一般的である。このような耐火物層を有する容器としては、例えば、溶融金属を保持するための容器(以下、「溶融金属容器」という)が挙げられる。
【0003】
しかし、そのような容器を使用していると、高温の内容物と接触することによる損耗や、熱衝撃などに起因するスポーリング(き裂、剥離)のため、前記耐火物層が次第に劣化する。そのため、前記耐火物層の機能を維持するためには、定期的に補修を行う必要がある。
【0004】
耐火物層を補修する方法としては、不定形耐火物(monolithic refractory)を吹き付ける方法が一般的に用いられている。しかし、劣化した耐火物層の上に不定形耐火物を吹き付けた場合、補修後の耐火物層の内部に、劣化した耐火物層(以下、劣化層という)と新しい耐火物層の界面が残存することになる。また、劣化した耐火物層の表面には、ビルドアップと呼ばれる付着物が付着していることもある。このビルドアップは、主に、容器を使用していた際に付着した金属やスラグからなる。そのため、補修した後に容器を使用する中で、表面側の新しい耐火物層に亀裂が生じると、該亀裂を通じて劣化層およびビルドアップと新しい耐火物層との界面まで溶融金属などが侵入し、新しい耐火物層が剥離してしまうという問題がある。
【0005】
そこで、上記剥離を防ぐために、耐火物層の補修にあたっては、補修する箇所の表面をはつって、劣化層や、耐火物層の表面に付着したビルドアップを除去した後に、不定形耐火物を吹き付けることが行われている。
【0006】
劣化層を除去する方法としては、例えば、油圧ブレーカーなどの大型重機を用いる方法が挙げられる。しかし、そのような大型の重機を用いた場合、不定形耐火物の下地として設けられている定形耐火物(shaped refractory)(耐火レンガ)を損傷させてしまう場合がある。
【0007】
そこで、例えば、特許文献1では、溶融金属容器内面のライニングを吹き付け補修する際に、上述したような重機ではなく、破砕工具を備える補修装置により予め耐火物層表面の劣化層を全面にわたり除去・解体することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1で提案されている方法によれば、破砕工具を一定の力で押付けながら劣化層を除去することにより、一様に劣化層を破砕できるとされている。
【0010】
しかし、実際の構造物においては、耐火物層の表面に付着したビルドアップの厚さや、劣化層の厚さは必ずしも一定とは限らない。また、劣化した耐火物層の一部が剥離した結果、部分的に劣化層が薄くなっている場合もある。そのため、特許文献1に記載されているような方法で劣化層を除去すると、劣化していない健全な耐火物まで除去してしまうことになるため、結果的に補修に必要な不定形耐火物の使用量が増大し、補修費用に無駄が生じる。また、反対に、劣化層が厚い部分では、劣化層が完全に除去されずに残存してしまう場合もある。
【0011】
そこで、本発明者らは、上記の問題を解決するために、破砕工具によって耐火物層を除去する範囲(深さ)を精密に制御することに想到した。例えば、特許文献2で提案した方法では、構造物内面の3次元形状を測定し、得た3次元形状に基づいて耐火物層を除去する範囲を決定する。このような方法によれば、耐火物層表面に付着したビルドアップや劣化層を的確に除去するとともに、劣化していない耐火物層が除去される量を低減することができる。
【0012】
しかし、本発明者らがさらに検討を行ったところ、特許文献1に記載されているような従来の補修装置を用いた場合、特許文献2で提案したような手法を組み合わせたとしても、耐火物層を除去する範囲を正確に制御することが難しいと分かった。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、破砕装置により耐火物層を除去する際に、耐火物層を除去する範囲(深さ)を正確に制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために検討を行った結果、以下の知見を得た。
【0015】
(1)特許文献1に記載されているような従来の補修装置は、水平方向に延在する支持部材(以下、水平支持部材という)の両端に破砕工具が備えられている(特許文献1の
図4、5、7)。このような構造の場合、必然的に、容器内側の対向する面を同時に破砕することになる。しかし、実際の容器においては、対向する面の耐火物層の劣化状況が同じであるとは限らず、付着したスラグの厚みや劣化層の厚さは位置によってまちまちである。そのため、対向する面を同時に破砕する方法では、それぞれの位置の劣化状況に合わせて、耐火物層を除去する範囲を適切に制御することが難しい。
【0016】
(2)上記(1)の問題を解決するために、水平支持部材の一方の端部にのみ破砕工具を備える装置を用いることが考えられる。そのような装置によれば、容器内側の対向する面の一方のみを破砕するため、劣化状況に合わせて耐火物層を除去する範囲を適切に制御できるはずである。
【0017】
(3)しかし、水平支持部材部材の一方の端部にのみ破砕工具を備える装置では、破砕を行うために破砕工具を耐火物に押し付けると、反作用により反対向きの力(以下、反力という)が装置にかかる。その結果、装置が変形するため、破砕工具の位置がずれることとなり、耐火物層を除去する範囲を適切に制御することが難しい。
【0018】
(4)そこで、前記水平支持部材の他方の端部に反力を支持するための反力支持装置を設けることにより、反力による装置の変形と、それに起因する破砕工具の位置ずれを防止することができる。そして、その結果、耐火物層を除去する範囲を極めて正確に制御することが可能となる。
【0019】
本発明は上述の知見に基づいてなされたものであり、以下を要旨とするものである。
【0020】
1.上方に開口を有し、内面に耐火物層を有する容器の補修装置であって、
前記開口に掛け渡される支持フレームと、
前記支持フレームの下部に設けられた旋回駆動部と、
前記旋回駆動部の下部に設けられ、鉛直方向に延在する鉛直支持部材と、
前記鉛直支持部材に昇降可能に支持され、水平方向に延在する水平支持部材と、
前記水平支持部材を昇降させる昇降駆動部と、
前記水平支持部材の一方の端部に備えられ、破砕工具を先端に有する破砕装置と、
前記水平支持部材の他方の端部に備えられ、前記耐火物層と接する当接部材を先端に有する反力支持装置と、を備える、補修装置。
【0021】
2.前記破砕装置は、第1のアクチュエータを備え、
前記破砕工具は、前記第1のアクチュエータにより前記水平支持部材と平行方向に進退可能に構成されており、
前記反力支持装置は、第2のアクチュエータを備え、
前記当接部材は、前記第2のアクチュエータにより前記水平支持部材と平行方向に進退可能に構成されている、上記1に記載の補修装置。
【0022】
3.前記第1のアクチュエータと前記第2のアクチュエータは、同じ油圧源に接続された同仕様の油圧シリンダであり、反対方向に同調動作するよう構成されている、上記2に記載の補修装置。
【0023】
4.前記当接部材が軟質材料からなる、上記1~3のいずれか一つに記載の補修装置。
【0024】
5.前記当接部材が、少なくとも1方向に揺動可能に前記第2のアクチュエータに支持されている、上記2または3に記載の補修装置。
【0025】
6.上方に開口を有し、内面に耐火物層を有する容器を、補修装置により補修する補修方法であって、
前記補修装置は、
水平方向に延在する水平支持部材と、
前記水平支持部材の一方の端部に備えられた破砕装置と、
前記水平支持部材の他方の端部に備えられた反力支持装置とを有し、
前記水平支持部材を回転方向および鉛直方向の一方または両方に、連続的または断続的に駆動し、
前記容器の対向する内面の一方の面に前記破砕装置を押し付け、
前記対向する内面の他方の面に前記反力支持装置を押し付け、
前記一方の面の耐火物層の少なくとも表層を前記破砕装置により破砕する、補修方法。
【0026】
なお、本発明の別の実施形態における補修方法は、以下の通りとすることができる。
上方に開口を有し、内面に耐火物層を有する容器の補修方法であって、
上記1~5のいずれか1つに記載の補修装置を前記容器の開口に設置し、
前記旋回駆動部および前記昇降駆動部により前記水平支持部材を回転方向および鉛直方向に連続的または断続的に駆動しながら、
前記容器の対向する内面の一方の面に前記破砕装置を押し付けるとともに、前記対向する内面の他方の面に前記反力支持装置を押し付けて、
前記一方の面の耐火物層の少なくとも表層を前記破砕装置により破砕する、補修方法。
【発明の効果】
【0027】
破砕工具を押し付けた際の反力による装置の変形と、それに起因する破砕工具の位置ずれを防止することができる。そして、その結果、耐火物層を除去する範囲を極めて正確に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図2】本発明の一実施形態における補修装置の構造を示す模式図である。
【
図3】当接部材の支持構造の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。また、本明細書で言及していない要素については、従来の補修装置および補修方法と同様とすることができる。
【0030】
本発明の一実施形態における補修装置は、上方に開口を有し、内面に耐火物層を有する容器の補修装置であって、以下の要素を備える。
・前記開口に掛け渡される支持フレーム
・前記支持フレームの下部に設けられた旋回駆動部
・前記旋回駆動部の下部に設けられ、鉛直方向に延在する鉛直支持部材
・前記鉛直支持部材に昇降可能に支持され、水平方向に延在する水平支持部材
・前記水平支持部材を昇降させる昇降駆動部
・前記水平支持部材の一方の端部に備えられた破砕装置
・前記水平支持部材の他方の端部に備えられた反力支持装置
【0031】
前記反力支持装置を備えることにより、前記破砕装置を用いて破砕を行う際に生じる反力を支持し、それによって装置の変形と、それに起因する破砕工具の位置ずれを防止することができる。そして、その結果、耐火物層を除去する範囲を極めて正確に制御することが可能となる。
【0032】
次に、図面を参照しながら、本発明についてさらに具体的に説明する。なお、以下の説明は本発明の好適な実施形態の例について述べたものであり、本発明は以下に説明する実施態様に限定されるものではない。
【0033】
[容器]
本発明は、内面に耐火物層を有する容器を補修するためのものである。前記容器としては、上方に開口を有し、少なくとも内面に耐火物層を有するものであれば任意の容器を対象とできる。前記容器は、例えば、溶融金属用容器であってよい。前記溶融金属用容器としては、溶銑鍋(transfer ladle)、溶鋼の取鍋(molten steel ladle)、精錬容器(refining vessel)などが挙げられる。
【0034】
図1は、前記容器の構造の一例を示す断面模式図である。容器100は、金属製の容器本体部110と、容器本体部110の内面に設けられた耐火物層120を備えている。容器本体部110は、典型的には鋼製であり、鉄皮(iron skin)とも称される。また、耐火物層120は、内張(ライニング)とも称される。
【0035】
本発明は、任意の材質および構造を有する耐火物層に適用できる。したがって、耐火物層120は、耐火物で構成された層であれば任意の材質および構造であってよい。
【0036】
ライニングとしての耐火物層を、容器本体部の表面に設けられた定形耐火物層と、前記定形耐火物層の表面に設けられた不定形耐火物層とで構成することも一般的に行われている。定形耐火物層と不定形耐火物層からなる耐火物層を補修する場合には、通常、表面側に位置する不定形耐火物層の少なくとも一部のみを破砕、除去し、前記定形耐火物層は除去することなく再使用する。本発明は、そのような構造を有する耐火物層の補修にも好適に用いることができる。
【0037】
容器の形状は特に限定されないが、典型的には、水平断面が円形である容器であってよい。容器の水平断面が円形である場合、内径が一定である容器、すなわち円筒形状の容器であってもよい。また、
図1に示した容器100のように、開口から離れるほど(下方に行くにしたがって)内径が小さくなる形状の容器であってもよい。
【0038】
[補修装置]
図2は、本発明の一実施形態における補修装置1の構造を示す模式図である。補修装置1は支持フレーム10を備えており、支持フレーム10を容器100の開口に掛け渡すことにより容器100の上部に補修装置1が設置される。
【0039】
支持フレーム10の設置方法はとくに限定されず、任意の方法で容器100の上部に設置することができる。例えば、
図2に示すように容器100の上端部に支持フレーム10を載置してもよい。
【0040】
しかし、容器の上端部は、内容物(例えば、溶鋼)の熱や重量による変形の影響を受けやすい。また、内容物を出し入れした際に上端部に付着し、その結果、上端が平坦では無い場合もある。そのため、補修装置を安定して支持するという観点からは、容器の上端面以外の部分に支持フレーム10を載置することが好ましい。
【0041】
例えば、容器100が、搬送して使用される容器である場合、クレーン等で吊り下げる際に用いる複数の突起(トラニオン)を容器外周面に備えている場合がある。その場合、支持フレーム10を前記突起に係合させて設置してもよい。
【0042】
また、取鍋などの容器においては、容器の剛性を高めるためにスティフナーと称される環状の補強部材が容器の外周に設けられる場合がある。このスティフナーは、通常、容器の上端面よりも低い位置に、外側に張り出すように設けられているため、通常、内容物の影響による変形が生じにくく、また、内容物が付着することもない。そこで、このスティフナーの上端面に支持フレーム10を載置することも好ましい。
【0043】
さらに、補修装置を水平に、安定して取り付けるという観点からは、支持フレームは、独立して高さ調整が可能な複数の支持脚を備えることが好ましい。前記支持脚を介して支持フレームを容器上に設置することにより、補修装置全体の高さや傾きを微調整することが可能となり、その結果、補修精度をさらに向上させることができる。前記支持脚の数はとくに限定されず、2以上の任意の数であってよいが、3以上であることが好ましく、3~5であることがより好ましく、4であることがさらに好ましい。前記支持脚は、高さ調整のための油圧アクチュエータを備えることが好ましい。
【0044】
また、通常、補修装置はある程度の重量を有しているため、自重によってある程度固定される。しかし、破砕を行う際の反力が大きい場合には、補修装置がずれてしまう場合がある。これを避けるという観点からは、上述したように支持フレーム10をトラニオンに係合させるか、または、ピンやボルト等の固定具を用いて支持フレーム10を容器100に固定してもよい。したがって、支持フレーム10および容器100は、ピンやボルトを通して支持フレーム10を固定するための固定用孔部を備えることも好ましい。
【0045】
支持フレーム10の下部には旋回駆動部20が設けられており、旋回駆動部20の下部には鉛直支持部材30が設けられている。鉛直支持部材30は、鉛直方向(
図2における上下方向)に延在する部材であり、旋回駆動部20により回転可能に支持されている。
【0046】
鉛直支持部材30には、水平方向に延在する水平支持部材40が昇降可能に支持されており、水平支持部材40は、昇降駆動部50により上下方向(鉛直支持部材30の長手方向)に駆動される。
【0047】
(破砕装置)
水平支持部材40の一方の端部には、破砕工具61を先端に備えた破砕装置60が備えられている。破砕工具61を耐火物層120の表面に押し付けた状態で駆動することにより、耐火物層120の表面に存在する劣化層やビルドアップなどを除去することができる。破砕工具は、ビットとも称される。
【0048】
破砕装置60としては、耐火物層を破砕して除去できるものであれば任意のものを用いることができる。典型的には、耐火物層に接触した状態の破砕工具61に対して回転力および衝撃力の一方または両方を付与することにより耐火物層120を破砕する破砕装置が使用される。前記衝撃力を付与する際に、破砕工具61を耐火物層120の表面に対して前進、後進させる往復運動を行えばよい。破砕工具61としては、例えば、油圧ドリフターを好適に用いることができる。
【0049】
(反力支持装置)
水平支持部材40の他方の端部には、反力支持装置70が備えられており、反力支持装置70の先端には、耐火物層120と接する当接部材71が備えられている。破砕装置60で耐火物層120を破砕する際には、破砕される面と対向する側の耐火物層120の表面に当接部材71を当接させることにより、反力による補修装置1の変形が抑制され、破砕工具61の位置を正確に制御することが可能となる。
【0050】
特に、本実施形態の補修装置では、破砕装置60が水平支持部材40を介して鉛直支持部材30に支持されている。そのため、反力支持装置70がない場合、鉛直支持部材30に、旋回駆動部20との接続部を支点として矢印Aで示す方向に曲げモーメントがかかる。そこで、反力支持装置70によって反対方向(矢印B)に力を加えることで、前記曲げモーメントを打ち消すことができる。
【0051】
当接部材71としては、とくに限定されることなく、任意の部材を使用することができる。なお、当接部材の好ましい実施形態については後述する。
【0052】
(アクチュエータ)
上記補修装置は、破砕工具および当接部材の位置を調整するためのアクチュエータを備えることが好ましい。以下、アクチュエータを使用する場合の好ましい実施形態について説明する。
【0053】
破砕装置60は、破砕工具61の位置を調整するための第1のアクチュエータ62を備えることが好ましい。その場合、破砕工具61は、第1のアクチュエータ62により水平支持部材40と平行方向に進退可能に構成される。第1のアクチュエータ62を用いることにより、破砕工具61を水平方向に移動させ、所望の深さまで耐火物層を破砕することができる。
【0054】
同様に、反力支持装置70は、当接部材71の位置を調整するための第2のアクチュエータ72を備えることが好ましい。その場合、当接部材71は、第2のアクチュエータ72により水平支持部材40と平行方向に進退可能に構成されている。第2のアクチュエータ72を用いることにより、当接部材71を水平方向に移動させ、所望の強さで耐火物層に押し付けることができる。破砕を行う際には、破砕工具61を耐火物層に押し付けたことで生じる反力を打ち消すように、第2のアクチュエータを制御して、当接部材71を耐火物層へ押し付ければよい。
【0055】
上記第1および第2のアクチュエータとしては、破砕装置および反力支持装置を駆動できるものであれば任意のアクチュエータを使用することができるが、中でも油圧シリンダを用いることが好ましい。前記油圧シリンダとしては、ストローク計測用センサが付属しているタイプの油圧シリンダを用いることが好ましい。
【0056】
第1および第2のアクチュエータとして油圧シリンダを使用する場合、同仕様の油圧シリンダを用いることが好ましい。また、それら同仕様の油圧シリンダを同じ油圧源に接続し、反対方向に同調動作するよう構成することが好ましい。このような構造とすることにより、簡便な構造でありながら、破砕装置を耐火物層に押し付けたことで生じる反力と釣り合う力で反力支持装置を耐火物層へ押し付け、反力を相殺することができる。
【0057】
(当接部材)
次に、反力支持装置が備える当接部材の好ましい実施形態について説明する。
【0058】
・材質
上述したように、当接部材としては、とくに限定されず任意の部材を用いることができる。しかし、当接部材が硬い場合、当接した耐火物層の表面(支持面)を傷つけてしまうおそれがある。そこで、耐火物層の損傷リスクを低減するという観点からは、前記当接部材が、軟質材料からなることが好ましく、弾性材料からなることがより好ましい。前記軟質材料としては、例えば、樹脂およびゴムから選択される材料を用いることが好ましい。複数の軟質材料を組み合わせて用いることもできる。前記弾性材料としては、例えば、ゴムを用いることが好ましい。なお、ここで前記ゴムには、エラストマーも包含するものとする。
【0059】
・形状
前記当接部材の形状はとくに限定されず、任意の形状とすることができる。本発明の一実施形態における当接部材は、耐火物層と接する側の面(当接面)が平坦であることが好ましい。当接面が平坦であることにより、耐火物層の一点に力が集中することを防止しつつ、確実に反力を支持することができる。当接面が平坦である当接部材としては、例えば、ブロック状、シート状などの当接部材を用いることができる。
【0060】
前記当接面の形状についてもとくに限定されないが、典型的には、矩形または円形とすることができる。
【0061】
また、本発明の他の実施形態においては、当接部材として車輪を用いることもできる。先に述べたように、耐火物層の表面は、溶融金属やスラグなどが付着したり、耐火物層の一部が剥離したりすることによって形成された凹凸がある。しかし、当接部材が車輪であれば、当接部材を耐火物層の表面に当接させたままスムーズに移動させることができる。前記車輪は、回転自在であることが好ましい。また、前記車輪の回転面が、水平支持部材の長手方向を回転軸として、回転自在であることが好ましい。このような構造とすることにより、当接部材としての車輪を耐火物層に当接させたままで、あらゆる方向にスムーズに移動させることができる。
【0062】
・支持方法
既に説明したように、前記当接部材は、第2のアクチュエータにより水平支持部材と平行方向に進退可能であることが好ましい。その際、当接部材は任意の方法で第2のアクチュエータに取り付けることができるが、少なくとも1方向に揺動可能な状態で第2のアクチュエータに支持されることが好ましい。当接部材を揺動可能とすることにより、耐火物層の表面に傾斜や凹凸がある場合でも、安定して反力を支持することができる。
【0063】
図3(a)は、当接部材71を、1方向に揺動可能な状態で支持した場合の構造の一例を示す模式図である。この例では、回転の自由度が1である継手73を用いて当接部材71を支持しており、当接部材71は矢印で示すように一軸方向に揺動自在となっている。なお、
図3(a)では上下方向に揺動する場合を示したが、揺動方向はとくに限定されず、例えば、水平方向など任意の方向であってよい。また、当接部材71は、2方向に揺動可能であることがより好ましい。2方向に揺動可能とする方法としては、例えば、揺動方向の異なる1自由度の継手を2つ使用する方法が挙げられる。
【0064】
図3(b)は、当接部材71を支持する継手73としてボールジョイントを用いた場合の構造の一例を示す模式図である。この例では、ボールジョイントを使用することにより、3軸方向に自在に支持されている。すなわち、当接部材71は、図に矢印で示したように、上下方向および左右方向を初めとする任意の方向に揺動可能であることに加え、ボールジョイントの中心軸を回転軸として回転可能である。
【0065】
[補修方法]
本発明の一実施形態における補修方法は、以下の通りである。
上方に開口を有し、内面に耐火物層を有する容器を、補修装置により補修する補修方法であって、
前記補修装置は、
水平方向に延在する水平支持部材と、
前記水平支持部材の一方の端部に備えられた破砕装置と、
前記水平支持部材の他方の端部に備えられた反力支持装置とを有し、
前記水平支持部材を回転方向および鉛直方向の一方または両方に、連続的または断続的に駆動し、
前記容器の対向する内面の一方の面に前記破砕装置を押し付け、
前記対向する内面の他方の面に前記反力支持装置を押し付け、
前記一方の面の耐火物層の少なくとも表層を前記破砕装置により破砕する、補修方法。
【0066】
破砕装置で耐火物層を破砕する際に、破砕される面と対向する側の耐火物層の表面に反力支持装置を押し付けることにより、反力による補修装置の変形が抑制され、破砕する位置を正確に制御することが可能となる。
【0067】
上記補修方法の好適な実施形態の一例を以下に説明する。なお、以下に示す実施形態では、上述した支持フレーム、旋回駆動部、および鉛直支持部材を備える補修装置を用いているが、本発明の補修方法で用いる補修装置はこれに限定されない。
【0068】
上記補修装置を用いて容器の補修を行う際には、まず、
図2に示したように補修装置1を容器100の開口に設置する。その後、旋回駆動部20および昇降駆動部50により水平支持部材40を回転方向および鉛直方向に連続的または断続的に駆動しながら、破砕装置60により耐火物層120の少なくとも表面を破砕する。その際、容器100の対向する内面の一方の面に破砕装置60を押し付けるとともに、前記対向する内面の他方の面に反力支持装置70を押し付けることにより反力を相殺する。
【0069】
破砕装置の具体的な駆動方法は限定されない。例えば、破砕装置を耐火物層に押し付けて破砕を行った状態のまま、旋回駆動部および昇降駆動部の一方または両方を用いて、水平支持部材を駆動し、破砕装置を容器の内周方向(回転方向)および高さ方法の一方または両方に移動させてもよい。この方法によれば、連続的に耐火物層の破砕を行うことができる。
【0070】
しかし、先にも述べたように、実際の容器においては、対向する面の耐火物層の劣化状況が同じであるとは限らず、付着したスラグの厚みや劣化層の厚さは位置によってまちまちである。そのため、劣化層を確実に除去しつつ、劣化していない健全な耐火物が除去されることを防ぐためには、容器内面の位置ごとに耐火物層を破砕する深さを調整することが好ましい。前記観点からは、下記(1)~(3)の工程を繰り返すことによって容器の内周の耐火物を破砕することが好ましい。
(1)水平支持部材が停止した状態で破砕装置を耐火物層側へ前進させて耐火物層を破砕する。
(2)所望の深さまで耐火物層を破砕した後、破砕工具が耐火物層と接触しない位置まで破砕装置を後退させる。
(3)旋回駆動部および昇降駆動部の一方または両方を用いて、水平支持部材を駆動し、破砕装置を所定のピッチで容器の内周方向(回転方向)および高さ方法の一方または両方に移動させる。
【0071】
どのような方法で破砕を行う場合でも、反力支持装置は、反力を打ち消すように破砕装置の前進、後退と連動させて駆動すればよい。
【0072】
(破砕深さの制御)
上述したとおり、劣化層を確実に除去しつつ、劣化していない健全な耐火物が除去されることを防ぐためには、容器内面の位置ごとに耐火物層を破砕する深さを調整することが好ましい。そこで、本発明の一実施形態においては、補修装置が、容器内面の位置ごとに予め定められた目標破砕深さのデータに基づいて破砕装置を制御する制御装置を備えることが好ましい。また、本発明の一実施形態における補修方法においては、容器内面の位置ごとに予め定められた目標破砕深さまで耐火物層を破砕するよう、前記制御装置により破砕装置を制御することが好ましい。
【0073】
上記目標破砕深さは、特に限定されず、任意の方法で決定することができる。例えば、補修対象とする容器の使用履歴や、補修を行う時点における容器内面の耐火物層の状態などに基づいて、前記目標破砕深さを決定することができる。
【0074】
容器の使用履歴に関する情報としては、とくに容器内面の3次元形状を定期的に測定したデータを用いることが好ましい。例えば、前記測定データから、容器内面の各部における耐火物層の剥離の発生を判定するとともに、剥離した部位を特定することもできる。また、剥離が生じない場合、形成される劣化層のおおよその厚さを、容器の使用履歴(使用回数、仕様時間など)から推定することも可能である。したがって、前記目標破砕深さの決定においては、容器の使用履歴から推定される劣化層の推定厚さを使用することもできる。また、形成される劣化層の厚みはある程度(例えば、30~40mmなど)で飽和する傾向がある。そのため、既知の劣化層の飽和厚みを前記目標破砕深さの決定に使用することもできる。
【0075】
また、補修を行う時点における容器内面の3次元形状を測定し、前記目標破砕深さの決定に用いることもできる。
【0076】
(装置の変形を考慮した制御)
上述したように、反力支持装置を用いて反力を打ち消すことにより、補修装置、とくに鉛直支持部材にかかる曲げモーメントを相殺し、破砕深さを正確に制御することができる。
【0077】
しかし、さらに破砕深さの精度を向上させるという観点からは、補修装置の剛性を考慮して、目標破砕深さを補正することが好ましい。以下、その方法の一例について説明する。
【0078】
本発明の補修装置で耐火物層を補修する際には、容器の内面に破砕装置を押し付けた状態で破砕を行うが、耐火物層を破砕するためには、かなりの強さで工具を押し付ける必要がある。そして、その反力と釣り合うように、破砕装置を押し付けているのと反対側の面を反力支持装置で押す。したがって、補修装置、とくに破砕装置が設置されている水平支持部材には、両端から中央方向に向けて強い圧縮力が作用することになり、その結果、部材の剛性(ばね定数)に応じた弾性変形が生じる。
【0079】
この際、前記弾性変形による変形量xは、フックの法則により下記(1)式で表すことができる。
x=F/k ・・・(1)
ここで、下記記号の定義は次のとおりである。
x:変形量(mm)
F:装置に係る力(N)
k:ばね定数(N/mm)
【0080】
したがって、アクチュエータ(油圧シリンダ)を駆動して耐火物層の表面から深さ方向にストロークδd(mm)だけ押し込んだとしても、装置の変形の分、実際の破砕深さδは減少することになる。具体的には、実際の破砕深さδは、下記(2)式で表される。
δ=δd-F/k ・・・(2)
ここで、下記記号の定義は次のとおりである。
δd:油圧シリンダのストロークの合計量(mm)
F:装置に係る力(N)
k:ばね定数(N/mm)
なお、油圧シリンダのストロークは、破砕工具または当接部材が耐火物層の表面に最初に接触した時点を起点(0mm)とする。また、前記ばね定数は、破砕装置、第1のアクチュエータ、反力支持装置、第2のアクチュエータ、および水平支持部材などを含む系全体のバネ定数である。
【0081】
そこで、上記補修装置を用いて耐火物層を破砕する際には、上記(2)式を用いて、実際の破砕深さδが目標破砕深さとなるように制御を行うことが好ましい。これにより、装置の変形量を補償して、さらに高い精度で耐火物層の除去深さを制御することができる。
【0082】
なお、上記ばね定数kは、装置にかかる力Fと変形量xとの関係を予め測定することにより、実験的に求めることができる。
【0083】
また、装置にかかる力Fは、油圧シリンダに取り付けた圧力センサによりリアルタイムに測定することができる。すなわち、油圧シリンダの受圧面積は既知であるため、圧力センサで測定した圧力と受圧面積をかけることで力Fを求めることができる。
【符号の説明】
【0084】
1 摩擦係数測定用試料
10 支持フレーム
20 旋回駆動部
30 鉛直支持部材
40 水平支持部材
50 昇降駆動部
60 破砕装置
61 破砕工具
62 第1のアクチュエータ
70 反力支持装置
71 当接部材
72 第2のアクチュエータ
73 継手
100 容器
110 容器本体部
120 耐火物層
【要約】
破砕装置により耐火物層を除去する際に、耐火物層を除去する深さを正確に制御する。上方に開口を有し、内面に耐火物層を有する容器の補修装置であって、前記開口に掛け渡される支持フレームと、前記支持フレームの下部に設けられた旋回駆動部と、 前記旋回駆動部の下部に設けられ、鉛直方向に延在する鉛直支持部材と、前記鉛直支持部材に昇降可能に支持され、水平方向に延在する水平支持部材と、前記水平支持部材を昇降させる昇降駆動部と、前記水平支持部材の一方の端部に備えられ、破砕工具を先端に有する破砕装置と、前記水平支持部材の他方の端部に備えられ、前記耐火物層と接する当接部材を先端に有する反力支持装置と、を備える、補修装置。