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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】ヘモグロビン微粒子及び人工酸素運搬体
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/805 20060101AFI20241126BHJP
   A61K 38/42 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20241126BHJP
   A61K 47/59 20170101ALI20241126BHJP
【FI】
C07K14/805
A61K38/42
A61K47/64
A61K47/59
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020034372
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134199
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 治
(72)【発明者】
【氏名】小松 晃之
(72)【発明者】
【氏名】岡本 航
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/117688(WO,A1)
【文献】特表2006-516994(JP,A)
【文献】特表2003-515533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/00 - 14/825
A61K 38/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア-シェル型のヘモグロビン微粒子であり、
互いに架橋された複数のヘモグロビンを含むコア微粒子と、前記コア微粒子の表面の少なくとも一部を被覆し、メルカプト基を有する複数のシェル分子を含むシェル材とを有し、
前記シェル分子は、前記メルカプト基で前記コア微粒子に結合しており、
前記ヘモグロビンの分子表面には、マレイミド基が導入されており、
前記ヘモグロビンの架橋が、2つ以上のメルカプト基を有する架橋分子を介して形成されており、
前記ヘモグロビンの前記マレイミド基と、前記架橋分子の前記メルカプト基とが結合しており、
前記メルカプト基を有するシェル分子が、血清アルブミン、組換え血清アルブミン、組換え血清アルブミン変異体、末端メルカプト-ポリエチレングリコール、及び末端メルカプト-ポリオキサゾリンからなる群から選択される少なくとも1種を含む
ことを特徴とする、ヘモグロビン微粒子。
【請求項2】
前記ヘモグロビンにおける前記マレイミド基が導入されている部位が、リシン及び/又は蛋白質末端の1級アミンである、請求項1に記載のヘモグロビン微粒子。
【請求項3】
前記ヘモグロビンの前記マレイミド基が、マレイミド基導入剤に由来するものであり、
前記マレイミド基導入剤が、下記一般式(1)で表される、二官能性の化合物である、請求項1又は2に記載のヘモグロビン微粒子。
【化1】
(一般式(1)中、Rは水素原子又はSO Naを表し、Rは下記一般式(2)若しくは(3)又は下記化学式(1)若しくは(2)のいずれかを表す。)
【化2】
(一般式(2)中、nは1~10の整数を表す。)
【化3】
【化4】
【化5】
(一般式(3)中、nは、2、4、6、8、10又は12の整数を表す。)
【請求項4】
前記2つ以上のメルカプト基を有する架橋分子が、両末端にメルカプト基を有する、二官能性の化合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載のヘモグロビン微粒子。
【請求項5】
前記両末端にメルカプト基を有する二官能性の化合物が、ジチオトレイトール、ジチオエリトリトール、ジメルカプトコハク酸、又は下記一般式(4)で表される180~20,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有する化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項4に記載のヘモグロビン微粒子。
【化6】
(一般式(4)中、nは1~450の整数を表す。)
【請求項6】
前記2つ以上のメルカプト基を有する架橋分子が、分子表面のリシン及び/又は蛋白質末端の1級アミンに2つ以上のメルカプト基が導入されているメルカプト基導入ヘモグロビンである、請求項1~3のいずれか一項に記載のヘモグロビン微粒子。
【請求項7】
前記コア微粒子を構成するヘモグロビンが、ヒトヘモグロビン、ウシヘモグロビン、ウマヘモグロビン、ブタヘモグロビン、ウサギヘモグロビン、イヌヘモグロビン、ネコヘモグロビン、組換えヘモグロビン、組換えヘモグロビン変異体、及び分子内架橋ヘモグロビンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のヘモグロビン微粒子。
【請求項8】
前記コア微粒子を構成するヘモグロビンには、リシン及び/又は蛋白質末端の1級アミンにマレイミド基が導入されており、
前記コア微粒子における前記メルカプト基を有するシェル分子との結合部位が、前記リシン及び/又は蛋白質末端の1級アミンに導入されているマレイミド基である、請求項1~7のいずれか一項に記載のヘモグロビン微粒子。
【請求項9】
前記メルカプト基を有するシェル分子が、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ウマ血清アルブミン、ブタ血清アルブミン、ウサギ血清アルブミン、イヌ血清アルブミン、ネコ血清アルブミン、遺伝子組換えアルブミン、及び遺伝子組換えアルブミン変異体からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のヘモグロビン微粒子。
【請求項10】
前記メルカプト基を有するシェル分子が、下記一般式(5)で表される500~100,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有する化合物を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のヘモグロビン微粒子。
【化7】
(一般式(5)中、nは9~2,270の整数を表す。)
【請求項11】
前記メルカプト基を有するシェル分子が、下記一般式(6)で表される500~100,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有する化合物を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のヘモグロビン微粒子。
【化8】
(一般式(6)中、nは2~1,000の整数を表し、mは1~10の整数を表す。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、又はイソプロピル基のいずれかを示す。)
【請求項12】
前記メルカプト基を有するシェル分子が、下記一般式(7)で表される500~100,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有する化合物を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のヘモグロビン微粒子。
【化9】
(一般式(7)中、nは2~1,000の整数を表し、mは1~10の整数を表す。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のいずれかを示す。)
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のヘモグロビン微粒子を含むことを特徴とする、人工酸素運搬体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘモグロビン微粒子及び人工酸素運搬体に関する。
【背景技術】
【0002】
事故や災害、更には外科的手術等により大量出血した場合、できるだけ早く輸血治療を施し、体内における酸素輸送機能を回復する必要がある。まずは、生理食塩水等を輸液することで循環血液量を回復する処置が優先するが、血液成分の中で酸素輸送の役割を担っているのは赤血球であることから、赤血球製剤の投与がきわめて重要となる。赤血球(長径:約8マイクロメートル)の中には約2億5000万分子のヘモグロビン(ヘムを活性中心とする分子量約64,500の酸素結合能を有するヘム蛋白質)が、約35%という高濃度で内包されている。肺で酸素を結合した赤血球内のヘモグロビンは末梢で酸素を放出し、体組織細胞へ酸素を供給する。多くの医療先進国においては、献血及び輸血の体制が整っているため、赤血球製剤が保管されている医療施設内や赤血球製剤を短時間で輸送可能な地域であれば、輸血治療を問題なく行うことができる。ウイルス検査も済んでいるため、輸血に伴う既知ウイルス感染のリスクはほとんどない。
しかし、輸血治療(特に、赤血球製剤の投与)がかかえる普遍的な課題も潜在し、具体的には次のような懸念がある。(1)赤血球製剤を投与する前に行う血液型の確認(クロスマッチ)に約40分を要するため、救急患者への治療に間に合わない場合がある。(2)赤血球の保存期間は4℃で21日間と短いため、長期間の備蓄ができない。そのため、大規模災害や大震災が発生して一度に大勢の患者が発生した場合、一度に大量の輸血液が必要となっても充分量を確保することができない。(3)未知ウイルスに対しては、感染リスクを完全に排除することはできない。更に今後の社会情勢の変化に伴い、深刻な問題が生じることも予想される。(4)少子高齢化が加速し、輸血の必要な高齢者の数が増え続け、若年層の血液提供者(ドナー)数が減少すると、通常医療における輸血液の安定供給でさえ困難になる。以上のような背景から、現在、人工血液、特に赤血球の代替物となる人工酸素運搬体の開発に大きな期待が集まっている。
【0003】
1980年代から、血液型が存在せず(従って、全ての血液型に対応可能)、ウイルス感染・細菌感染のリスクがなく、長期保存が可能で、必要時にいつでもどこでも使用できる人工酸素運搬体の開発が、欧米、日本を中心に展開されてきた。
例えば、日本では、リン脂質分子が水中で自己組織化して形成する二分子膜小胞体(リポソーム)の内水相にヘモグロビンを封入した細胞型人工酸素運搬体が開発されている(例えば、特許文献1参照)。この細胞型人工酸素運搬体には大きな副作用もなく、実用化が待望されているが、高度な調製技術や高い初期コスト等から、臨床試験には至っていない。
一方、米国でも、人工酸素運搬体として、ヘモグロビンを分子内架橋した分子内架橋ヘモグロビン(例えば、特許文献2参照)、ヒトヘモグロビンを架橋剤で結合したヘモグロビン重合体(例えば、特許文献3参照)、ウシヘモグロビンを架橋剤で結合したヘモグロビン重合体(例えば、特許文献4参照)、ヒトヘモグロビンの分子表面に水溶性高分子であるポリエチレングリコールを結合させたポリエチレングリコール結合ヘモグロビン(例えば、特許文献5参照)等が開発され、臨床試験が実施されてきた。これらの人工酸素運搬体は、サブユニット間を架橋したり、分子サイズ(分子量)を大きくしたりして、ヘモグロビンが腎排泄されるのを回避する構造に設計されている。しかし、血管収縮による血圧亢進、心毒性等の副作用が生じる、人工酸素運搬体投与群と生理食塩水投与群との間に効果の差が少ない等の理由から、食品医薬品局(FDA)に認可された製剤はない。
また、本発明者らは、ヘモグロビンの分子表面に血漿蛋白質であるヒト血清アルブミンを結合した人工酸素運搬体、つまり(ヘモグロビン-アルブミン)クラスターを合成し、それが安全性、有効性に優れた赤血球代替物として機能することを明らかにした(例えば、特許文献6参照)。現在、実用化に向けた評価試験を進めている。この(ヘモグロビン-アルブミン)クラスターは実現性の高い製剤として注目されているが、更に理想的な人工酸素運搬体とするためには、分子サイズの改良が重要であることもわかってきた。(ヘモグロビン-アルブミン)クラスターの粒径は15nmであるため、肝臓においては類洞血管内皮細胞の小孔(孔径約50~150nm)を通過し、徐々に類洞外空間へ拡散する可能性がある。漏出した(ヘモグロビン-アルブミン)クラスターによって血管弛緩因子である一酸化炭素が捕捉されると、類洞血管の収縮が惹起し、肝機能障害が起きる懸念がある。つまり、(ヘモグロビン-アルブミン)クラスターが類洞血管内皮細胞の小孔を通過しにくい粒径を有することが好ましく、血中滞留性の延長も期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-307404号公報
【文献】特開平10-306036号公報
【文献】特表平11-502821号公報
【文献】特表2006-516994号公報
【文献】特表2005-515225号公報
【文献】特許第6083674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、生体適合性が高く、安全性が高く、かつ調製(合成)が容易である、ヘモグロビン微粒子及び人工酸素運搬体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のヘモグロビン微粒子は、コア-シェル型のヘモグロビン微粒子であり、互いに架橋された複数のヘモグロビンを含むコア微粒子と、前記コア微粒子の表面の少なくとも一部を被覆し、メルカプト基を有する複数のシェル分子を含むシェル材とを有し、前記シェル分子は、前記メルカプト基で前記コア微粒子に結合していることを特徴とする。
【0007】
本発明のヘモグロビン微粒子においては、前記ヘモグロビンの分子表面には、マレイミド基が導入されており、前記ヘモグロビンの架橋が、2つ以上のメルカプト基を有する架橋分子を介して形成されており、前記ヘモグロビンの前記マレイミド基と、前記架橋分子の前記メルカプト基とが結合していることが望ましい。
【0008】
本発明のヘモグロビン微粒子においては、前記ヘモグロビンにおける前記マレイミド基が導入されている部位がリシン及び/又は蛋白質末端の1級アミンであることが望ましい。
【0009】
本発明のヘモグロビン微粒子においては、前記ヘモグロビンの前記マレイミド基が、マレイミド基導入剤に由来するものであり、前記マレイミド基導入剤が、下記一般式(1)で表される、化合物であることが望ましい。
【化1】
(一般式(1)中、Rは水素原子又はSO Naを表し、Rは下記一般式(2)若しくは(3)又は下記化学式(1)若しくは(2)のいずれかを表す。)
【化2】
(一般式(2)中、nは1~10の整数を表す。)
【化3】
【化4】
【化5】
(一般式(3)中、nは、2、4、6、8、10又は12の整数を表す。)
【0010】
本発明のヘモグロビン微粒子においては、前記2つ以上のメルカプト基を有する架橋分子が、両末端にメルカプト基を有する、二官能性の化合物(ジチオトレイトール、ジチオエリトリトール、ジメルカプトコハク酸、又は下記一般式(4)で表される180~20,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有する化合物)、又は分子表面のリシン及び/又は蛋白質末端の1級アミンに2つ以上のメルカプト基が導入されているメルカプト基導入ヘモグロビンからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【化6】
(一般式(4)中、nは1~450の整数を表す。)
【0011】
本発明のヘモグロビン微粒子においては、前記コア微粒子を構成するヘモグロビンが、ヒトヘモグロビン、ウシヘモグロビン、ウマヘモグロビン、ブタヘモグロビン、ウサギヘモグロビン、イヌヘモグロビン、ネコヘモグロビン、組換えヘモグロビン、組換えヘモグロビン変異体、及び分子内架橋ヘモグロビンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが望ましい。
【0012】
本発明のヘモグロビン微粒子においては、前記コア微粒子を構成するヘモグロビンには、リシン及び/又は蛋白質末端の1級アミンにマレイミド基が導入されており、前記コア微粒子における前記メルカプト基を有するシェル分子との結合部位が、前記リシン及び/又は蛋白質末端の1級アミンに導入されているマレイミド基であることが望ましい。
【0013】
本発明のヘモグロビン微粒子においては、前記メルカプト基を有するシェル分子が、メルカプト基を有する蛋白質、具体的には、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ウマ血清アルブミン、ブタ血清アルブミン、ウサギ血清アルブミン、イヌ血清アルブミン、ネコ血清アルブミン、遺伝子組換えアルブミン、遺伝子組換えアルブミン変異体、下記一般式(5)~(7)で表される500~100,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有する化合物、メルカプトエタノール、メルカプト脂肪酸、システイン、システインメチルエステル、システインエチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインメチルエステル、及びホモシステインからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが望ましい。
【化7】
(一般式(5)中、nは9~2,270の整数を表す。)
【化8】
(一般式(6)中、nは2~1,000の整数を表し、mは1~10の整数を表す。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のいずれかを示す。)
【化9】

(一般式(7)中、nは2~1,000の整数を表し、mは1~10の整数を表す。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のいずれかを示す。)
【0014】
本発明の人工酸素運搬体は、本発明のヘモグロビン微粒子を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生体適合性が高く、安全性が高く、かつ調製(合成)が容易である、ヘモグロビン微粒子及び人工酸素運搬体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るヘモグロビン微粒子の一例を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係るヘモグロビン微粒子の製造方法を示すフローチャートである。
図3】実施例1及び5で得られたヘモグロビン微粒子、及び精製ウシヘモグロビン(HbBv)の酸素解離曲線グラフである。
図4】実施例1で得られたヘモグロビン微粒子の安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、必要に応じて図面を参照して具体的に例示説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0018】
<ヘモグロビン微粒子>
本実施形態のヘモグロビン微粒子は、コア-シェル型であり、少なくとも、互いに架橋された複数のヘモグロビンを含むコア微粒子と、コア微粒子の表面の少なくとも一部を被覆し、メルカプト基を有する複数のシェル分子を含むシェル材とを有する、コア-シェル型構造の微粒子であり、更に必要に応じて、その他の部位を有する。前記メルカプト基を有するシェル分子は、前記メルカプト基で前記コア微粒子(を構成するヘモグロビン)に結合(共有結合)している。
【0019】
図1は、本実施形態のヘモグロビン微粒子の一例を示す図である。ヘモグロビン微粒子10は、互いに架橋された複数のヘモグロビン1からなるコア微粒子2と、メルカプト基を有する複数のシェル分子3(メルカプト基は図示せず)を含むシェル材4とからなる。シェル材4がコア微粒子2の表面の少なくとも一部を被覆し、コア-シェル型構造を形成している。
【0020】
ヘモグロビン微粒子の粒径は、肝臓において類洞血管内皮細胞の小孔を通過しにくいことから、50~500nmであることが好ましく、製剤化にあたって除菌のために滅菌フィルターに通すことを考慮すると、50~200nmであることがより好ましく、60~160nmであることが更に好ましい。
ヘモグロビン微粒子の粒径の調整する方法としては、例えば、コア微粒子の粒径を調整する方法、シェル分子の重量平均分子量を調整する方法等が挙げられる。
【0021】
本実施形態のヘモグロビン微粒子において、メルカプト基を有するシェル分子によるコア微粒子の被覆率は、特に限定されず、少なくとも一部が被覆されていればよい。当該被覆率は、ヘモグロビン微粒子のサイズや目的に応じて適宜調整してよいが、60%以上であることが好ましく、より好ましくは65%以上、更に好ましくは70%以上である。
なお、上記被覆率の測定・算出方法としては、例えば、血清アルブミンをシェル材とするヘモグロビン微粒子の場合、円偏光二色性(CD)スペクトルの測定からヘモグロビン微粒子を構成するヘモグロビンと血清アルブミンのモル比を算出し、シェル材を構成する血清アルブミン数をコア微粒子の表面を構成するヘモグロビン数で割る方法等が挙げられる。
【0022】
[コア微粒子]
本実施形態のヘモグロビン微粒子に含まれるコア微粒子は、互いに架橋された複数のヘモグロビンを含む。
ヘモグロビンの架橋は、2つ以上のメルカプト基を有する架橋分子のメルカプト基と、例えば、マレイミド基導入剤等により、ヘモグロビンの分子表面に導入されたマレイミド基とが結合して形成されていることが好ましい。言い換えれば、前記互いに架橋された複数のヘモグロビンは、マレイミド基が導入されたヘモグロビン(以下、単に「マレイミド基導入ヘモグロビン」ともいう)が、2つ以上のメルカプト基を有する架橋分子で架橋(重合)されたヘモグロビンの重合体であることが好ましい。
マレイミド基導入ヘモグロビンと2つ以上のメルカプト基を有する架橋分子とによる架橋構造であることの利点としては、マレイミド基がメルカプト基に選択的に結合することから効率がよい点、選択により架橋以外の機能も有する機能分子を架橋分子として用いることも可能な点、ヘモグロビン微粒子の粒径が制御しやすい点等が挙げられる。
前記コア微粒子は、互いに架橋された複数のヘモグロビン(ヘモグロビンの重合体)の他に、ヘモグロビン微粒子の目的等に応じて、機能蛋白質、薬剤等の機能分子を更に結合することができる。
【0023】
前記コア微粒子の粒径は、特に限定されず、ヘモグロビン微粒子のサイズや目的に応じて適宜調整してよいが、肝臓において類洞血管内皮細胞の小孔を通過しにくいヘモグロビン微粒子を得るという観点からは、30~480nmであることが好ましく、ヘモグロビン微粒子を滅菌のために滅菌フィルターに通すことを考慮すると、30~180nmであることがより好ましく、40~140nmであることがより好ましい。
【0024】
[[ヘモグロビン]]
前記ヘモグロビンは、4つのヘモグロビンサブユニットから構成され、分子量は、例えば、約64500ダルトンである。
前記ヘモグロビンの各サブユニットは、それぞれ1つのプロトヘムを有する。該プロトヘム内の鉄原子に酸素分子が結合する。即ち、1つのヘモグロビンには、4つの酸素分子が結合する。
【0025】
前記ヘモグロビンは、少なくとも1つのヘモグロビンサブユニットに、架橋分子を介して別のヘモグロビンが結合していればよい。例えば、4つ全てのヘモグロビンサブユニットに架橋剤を介して別のヘモグロビンが結合していてもよいし、架橋剤を介して別のヘモグロビンが結合していないヘモグロビンサブユニットが含まれていてもよい。
また、前記ヘモグロビンは、4つ全てのヘモグロビンサブユニットにメルカプト基を有するシェル分子が結合していてもよいし、メルカプト基を有するシェル分子が結合していないヘモグロビンサブユニットが含まれていてもよい。
【0026】
前記ヘモグロビンとしては、特に制限はなく、ヒトを含む脊椎動物由来の赤血球から精製したもの等が挙げられ、目的に応じて適宜選択することができる。前記ヘモグロビンとしては、例えば、ヒトヘモグロビン、ウシヘモグロビン、ウマヘモグロビン、ブタヘモグロビン、ウサギヘモグロビン、イヌヘモグロビン又はネコヘモグロビン等が挙げられる。また、蛋白質合成(培養)により製造できる組換えヘモグロビン又は組換えヘモグロビン変異体、であってもよい。更に、分子内架橋ヘモグロビン等であってもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
-ヒトヘモグロビン-
前記ヒトヘモグロビンとしては、ヒト由来の赤血球から精製したものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
-ウシヘモグロビン-
前記ウシヘモグロビンとしては、ウシ由来の赤血球から精製したものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0029】
-ウマヘモグロビン-
前記ウマヘモグロビンとしては、ウマ由来の赤血球から精製したものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0030】
-ブタヘモグロビン-
前記ブタヘモグロビンとしては、ブタ由来の赤血球から精製したものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0031】
-ウサギヘモグロビン-
前記ウサギヘモグロビンとしては、ウサギ由来の赤血球から精製したものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0032】
-イヌヘモグロビン-
前記イヌヘモグロビンとしては、イヌ由来の赤血球から精製したものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0033】
-ネコヘモグロビン-
前記ネコヘモグロビンとしては、ネコ由来の赤血球から精製したものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる
【0034】
-組換えヘモグロビン-
前記組換えヘモグロビンとしては、通常の遺伝子組換え操作、培養操作により産生したものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0035】
-組換えヘモグロビン変異体-
前記組換えヘモグロビン変異体としては、通常の遺伝子組換え操作、培養操作により産生したものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0036】
-分子内架橋ヘモグロビン-
前記分子内架橋ヘモグロビンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヘモグロビンにおけるサブユニットが架橋剤を介して互いに結合されたヘモグロビン等が挙げられる。
前記分子内架橋ヘモグロビンの具体例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Diaspirin架橋ヘモグロビン(物質名:DCLHb、バクスターヘルスケア社)等が挙げられる。
【0037】
[[マレイミド基導入剤]]
前記マレイミド基導入剤としては、ヘモグロビンにマレイミド基を導入可能な試薬である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、反応効率及び水溶性の観点から、下記一般式(1)で表される、一方の末端がスクシンイミジル基(活性エステル基)であり、他方の末端がマレイミド基である二官能性の化合物等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【化10】
(一般式(1)中、Rは水素原子又はSO Naを表し、Rは下記一般式(2)若しくは(3)又は下記化学式(1)若しくは(2)のいずれかを表す。)
【化11】
(一般式(2)中、nは1~10の整数を表す。)
【化12】
【化13】
【化14】
(一般式(3)中、nは2、4、6、8、10又は12の整数を表す。)
【0038】
前記マレイミド基導入剤におけるスクシンイミジル基(活性エステル基)と、ヘモグロビンのリシン残基のアミノ基(NH基)や蛋白質末端の1級アミンのアミノ基(NH基)とがアミド結合(共有結合)を形成することにより、リシン残基のアミノ基(NH基)や蛋白質末端の1級アミンのアミノ基(NH基)にマレイミド基が導入される。
前記マレイミド基導入剤によるヘモグロビンへのマレイミド基導入率は、特に限定されないが、低すぎるとサイズの大きいコア微粒子やヘモグロビン微粒子のきれいなコア-シェル構造が形成されにくくなり、高すぎるとヘモグロビンが変性するため、ヘモグロビン微粒子の目的やサイズに応じて適宜調整することが好ましい。好ましくは、ヘモグロビン1分子あたり5~8個のマレイミド基を導入するのがよい。
【0039】
前記マレイミド基をヘモグロビンに導入してマレイミド基導入ヘモグロビンを得るための方法としては、例えば、ヘモグロビンとマレイミド基導入剤を5~30℃で30分~24時間攪拌すること等が挙げられる。
【0040】
[[2つ以上のメルカプト基を有する架橋分子]]
前記2つ以上のメルカプト基を有する架橋分子としては、マレイミド基導入ヘモグロビンを架橋(重合)できる分子である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、両末端にメルカプト基を有する二官能性の化合物が好ましい。
両末端にメルカプト基を有する二官能性の化合物としては、例えば、ジチオトレイトール、ジチオエリトリトール、ジメルカプトコハク酸、又は、下記一般式(4)で表される180~20,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有する化合物等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【化15】
(一般式(4)中、nは1~450の整数を表す。)
【0041】
更に、前記2つ以上のメルカプト基を有する架橋分子としては、分子表面のリシン及び/又は蛋白質末端の1級アミンに2つ以上のメルカプト基が導入されているメルカプト基導入ヘモグロビン等であってもよい。メルカプト基の導入は、例えば、イミノチオラン等のメルカプト基導入剤により行うことができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
前記2つのメルカプト基を有する架橋分子と、マレイミド基導入ヘモグロビンの分子表面にあるマレイミド基とは、スルフィド結合(共有結合)を形成する。これにより、ヘモグロビン同士が架橋結合される。
【0043】
前記コア微粒子を得るための方法としては、例えば、マレイミド基導入ヘモグロビンと2つのメルカプト基を有する架橋分子を5~30℃で10分~12時間攪拌すること等が挙げられる。
【0044】
[シェル材]
前記シェル材は、コア微粒子の表面の少なくとも一部を被覆し、メルカプト基を有する複数のシェル分子を含む。
【0045】
前記シェル材の厚みは、特に限定されず、ヘモグロビン微粒子のサイズや目的に応じて適宜調整してよい。例えば、血清アルブミンを用いた場合には、シェル材の厚みは約8nmとなる。
また、前記シェル材の層数は、特に限定されないが、1層であることが好ましい。1層であると、シェル分子同士の架橋が生じにくく、メルカプト基を有するシェル分子によるコア微粒子の被覆率を制御しやすいことから、ヘモグロビン微粒子の粒径及び形状の制御が容易になる。
[[メルカプト基を有するシェル分子]]
前記メルカプト基を有するシェル分子としては、メルカプト基を有する分子である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、血清アルブミン、蛋白質合成(培養)により製造することができる組換え血清アルブミン、組換え血清アルブミン変異体等、メルカプト基を有する合成高分子、例えば、末端メルカプト-ポリエチレングリコール、末端メルカプト-ポリオキサゾリン等、メルカプト基を有する低分子、例えば、メルカプトエタノール、メルカプト脂肪酸、システイン、システインメチルエステル、システインエチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインメチルエステル、ホモシステイン等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、血清アルブミン、末端メルカプト-ポリエチレングリコール、及び末端メルカプト-ポリオキサゾリンは、生体適合性が高い点で好ましく、また、メルカプト基を有する低分子は、コストが低い点で好ましい。
前記メルカプト基を有するシェル分子におけるメルカプト基の数は、特に限定されず、ヘモグロビン微粒子のサイズや目的等に応じて適宜調整してよいが、形成されるシェル材を1層にする観点からは、1つであることが好ましい。
また、前記メルカプト基を有するシェル分子は、ヘモグロビン微粒子の目的等に応じて、薬剤等の機能分子を更に結合することができる。
【0046】
前記メルカプト基を有するシェル分子と、前記コア微粒子のマレイミド基導入ヘモグロビンの分子表面にあるマレイミド基とは、スルフィド結合(共有結合)を形成する。これにより、ヘモグロビン微粒子のコア-シェル構造が形成される。
【0047】
-血清アルブミン-
前記血清アルブミンは、分子量は、例えば、約66500ダルトンである。
前記血清アルブミンは、一本鎖ポリペプチドからなる単純蛋白質であり、35個のシステイン残基を有するが、34番目の位置に存在するシステイン(システイン34)以外の34個は17対のジスルフィド結合を形成しているため、システイン34のみが還元型として活性を示す(メルカプト基を有する)。
【0048】
前記血清アルブミンは、血液中ではコロイド浸透圧調整を主な役割とするが、栄養物質やその代謝産物(例えば、脂肪酸)あるいは薬物等の輸送蛋白質としても機能し、その他、pH緩衝作用、エステラーゼ活性等を有する。また、前記血清アルブミンは、血漿蛋白質であるため、生体への適用、特に、赤血球代替物としての利用に関して格段に有利である。
前記血清アルブミンの等電点は7よりも低く、生理条件では分子表面が強く負に帯電しているため、血管内皮細胞の外側にある基底膜(負に帯電)との静電反発により、血管外に漏れ出しにくい。
【0049】
前記血清アルブミンとしては、ヒトを含む脊椎動物由来の赤血球から精製したもの等、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ウマ血清アルブミン、ブタ血清アルブミン、ウサギ血清アルブミン、イヌ血清アルブミン、ネコ血清アルブミン等が挙げられる。また、蛋白質合成(培養)により製造できる組換え血清アルブミン、組換え血清アルブミン変異体、であってもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
前記血清アルブミンのメルカプト基と、前記コア微粒子のマレイミド基導入ヘモグロビンの表面にあるマレイミド基とは、スルフィド結合(共有結合)を形成する。これにより、ヘモグロビン微粒子のコア-シェル構造が形成される。
前記血清アルブミンを前記コア微粒子のマレイミド基導入ヘモグロビンの表面に結合させる方法としては、例えば、5~30℃で1~96時間攪拌すること等が挙げられる。
【0051】
-末端メルカプト-ポリエチレングリコール-
ポリエチレングリコール(PEG)は、エチレンオキシドのアニオン開環重合で合成できる非イオン性の水溶性高分子であり、化学、薬学、及び医学用途で広く使用されている。分子量の範囲が広く、多種多様な末端基を付与できる特徴を有する。ポリエチレングリコールは免疫応答を誘発しないため(ステルス性)、生物学的用途に適している。例えば、蛋白質からなる医薬品に結合すると、蛋白質の分解を抑制する効果もあるため、薬効を延長したり副作用を軽減したりすることができる。
【0052】
前記末端メルカプト-ポリエチレングリコールは、ポリエチレングリコールの末端にメルカプト基を導入してなる高分子である。前記末端メルカプト-ポリエチレングリコールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(5)で表される500~100,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有する化合物等が挙げられる。重量平均分子量が上記範囲であると、適度な厚みのシェル材が得られるためヘモグロビン微粒子の凝集が生じにくく、また、代謝・分解上の問題も生じにくい傾向にある。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【化16】
(一般式(5)中、nは9~2,270の整数を表す。)
【0053】
前記末端メルカプト-ポリエチレングリコールのメルカプト基が、前記コア微粒子のマレイミド基導入ヘモグロビンの分子表面にあるマレイミド基とスルフィド結合(共有結合)を形成する。これにより、ヘモグロビン微粒子のコア-シェル構造が形成される。
前記末端メルカプト-ポリエチレングリコールを前記コア微粒子のマレイミド基導入ヘモグロビンの表面に結合させる方法としては、例えば、5~30℃で1~96時間攪拌すること等が挙げられる。
【0054】
-末端メルカプト-ポリオキサゾリン-
ポリオキサゾリンは、生体適合性、非免疫原性を有し、疑似ポリペプチド構造を持った非イオン性の水溶性高分子である。大量合成が可能で、様々な官能基を導入でき、動物実験により安全性が確認されている。ポリエチレングリコールが持つ優れた性質を多く示しながら、その欠点のいくつかを回避できるため、薬学や医学に利用されている。例えば、蛋白質、リポソーム、ミセルに結合すると、ポリエチレングリコールと同様のステルス機能を発揮し、これまで動物モデルでは欠点は見られない。更に、ポリオキサゾリンは体内組織に蓄積することなく、腎臓から排出されることが放射性標識実験により示されている。
【0055】
前記末端メルカプト-ポリオキサゾリンは、ポリオキサゾリンの末端にメルカプト基を導入してなる高分子である。前記末端メルカプト-ポリオキサゾリンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(6)又は(7)で表される500~100,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有する化合物等が挙げられる。重量平均分子量が上記範囲であると、適度な厚みのシェル材が得られるためヘモグロビン微粒子の凝集が生じにくく、また、代謝・分解上の問題も生じにくい傾向にある。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【化17】
(一般式(6)中、nは2~1000の整数を表し、mは1~10の整数を表す。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、又はイソプロピル基のいずれかを示す。)
【化18】
(一般式(7)中、nは2~1000の整数を表し、mは1~10の整数を表す。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、又はイソプロピル基のいずれかを示す。)
これらの中でも、下記一般式(6)又は(7)において、mが2であるもの及び/又はRがエチル基であるものが好ましい。
【0056】
前記末端メルカプト-ポリオキサゾリンのメルカプト基が、前記コア微粒子のマレイミド基導入ヘモグロビンの分子表面にあるマレイミド基とスルフィド結合(共有結合)を形成する。これにより、ヘモグロビン微粒子のコア-シェル構造が形成される。
前記末端メルカプト-ポリオキサゾリンを前記コア微粒子のマレイミド基導入ヘモグロビンの表面に結合させる方法としては、例えば、5~30℃で1~96時間攪拌すること等が挙げられる。
【0057】
-メルカプト基を有する低分子-
前記メルカプト基を有する低分子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メルカプトエタノール、メルカプト脂肪酸、システイン、システインメチルエステル、システインエチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインメチルエステル、及びホモシステイン等が挙げられる。前記メルカプト基を有する低分子のメルカプト基は、低分子の末端に位置していても、側枝に位置していてもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0058】
前記メルカプト基を有する低分子のメルカプト基が、前記コア微粒子のマレイミド基導入ヘモグロビンの分子表面にあるマレイミド基とスルフィド結合(共有結合)を形成する。これにより、ヘモグロビン微粒子のコア-シェル構造が形成される。
【0059】
前記メルカプト基を有する低分子を前記コア微粒子のマレイミド基導入ヘモグロビンの表面に結合させる方法としては、例えば、5~30℃で10分~12時間攪拌すること等が挙げられる。
【0060】
[[その他の部位]]
本実施形態のヘモグロビン微粒子に必要に応じて含まれる前記その他の部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヘモグロビンに結合された蛋白質等が挙げられる。
【0061】
本実施形態のヘモグロビン微粒子の酸素親和性(P50)(37℃)は、3~80Torrが好ましく、6~35Torrがより好ましい。
【0062】
本実施形態のヘモグロビン微粒子は、酸素結合部位がヘモグロビンであるため、安定な酸素化体(オキシ体)を形成することが可能であり、体組織に効率良く酸素を供給することができる。また、本実施形態のヘモグロビン微粒子は、表面がメルカプト基を有する複数のシェル分子を含むシェル材で覆われているので、免疫原性はなく、腎排泄、血管内皮細胞からの漏出もない。特に、メルカプト基を有するシェル分子として用いることができる血清アルブミン、ポリエチレングリコール、ポリオキサゾリンは水溶性が高く、代謝性に優れる。更に、本実施形態のヘモグロビン微粒子は、合成工程数やカラム精製回数が少ない等、調製がきわめて容易であるため、量産に好適である。
以上より、本実施形態のヘモグロビン微粒子は、生体適合性、安全性、生産性を併せ持つため、人工酸素運搬体への適用に好適といえる。
【0063】
[ヘモグロビン微粒子の製造方法]
本実施形態のヘモグロビン微粒子を得るための方法としては、例えば、互いに架橋された複数のヘモグロビンを含むコア微粒子と、メルカプト基を有するシェル分子とを5~30℃で1~96時間攪拌すること等が挙げられる。
図2は、本発明の一実施形態に係るヘモグロビン微粒子の製造方法を示すフローチャートである。図2のヘモグロビン微粒子10の製造方法には、ヘモグロビン1にマレイミド基導入剤によりマレイミド基を導入してマレイミド基導入ヘモグロビン11を得るマレイミド基導入ヘモグロビン作製工程と、マレイミド基導入ヘモグロビン11を2つ以上のメルカプト基を有する架橋分子を用いて架橋させてコア微粒子2を作製するコア微粒子作製工程と、コア微粒子2にメルカプト基を有するシェル分子3を結合させて粗ヘモグロビン微粒子を作製する粗ヘモグロビン微粒子作製工程と、粗ヘモグロビン微粒子を精製してヘモグロビン微粒子10を得る精製工程とが含まれる。
【0064】
<人工酸素運搬体>
本実施形態の人工酸素運搬体は、上記実施形態のヘモグロビン微粒子を含むことを特徴とする。なお、前記人工酸素運搬体とは、酸素分子を運搬可能な物質であり、生体に投与した場合には、赤血球の代替物として機能するものである。また、本実施形態のヘモグロビン微粒子の溶液はコロイド浸透圧を持たないので、人工酸素運搬体として使用する場合、コロイド浸透圧を生理条件に近づけることを目的として、アルブミン製剤、ヒドロキシエチルデンプン(HES)製剤、デキストラン製剤などを適宜混合して使用してもよい。
上記人工酸素運搬体は、例えば、ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ等の脊椎動物の赤血球の代替物として用いることができる。
【実施例
【0065】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
ヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)
[調製]
ナス型フラスコ(50mL容量)に精製ウシヘモグロビン(HbBv)のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液(1.0mM)15mLを入れ、N-Succinimidyl 3-maleimidopropionate(SMP、Mw:266.21、富士フィルム和光純薬社)のジメチルスルホキシド(DMSO)(富士フィルム和光純薬社)溶液(150mM)1.5mLをゆっくり滴下した([SMP]/[HbBv]=15(mol/mol)。滴下中はマグネティックスターラーを用いてHbBv溶液を250rpmで攪拌した。滴下終了後、ナス型フラスコ上部に径違い管をつけ、セプタムラバーで密栓し、フラスコ内部に一酸化炭素ガスを通気した。溶液は200rpmで攪拌した。その後、室温・遮光下で更に30分間撹拌した。反応溶液をポリエ-テルスルホン膜フィルター(Millex-GPフィルター、孔径0.22μm、Millipore社、以下、「Millexフィルター」という)でろ過し、ろ液をゲル濾過クロマトグラフィー(Sephadex G-25 Superfine、2.5cm×20cm、流速:3mL/min、PBS溶液)にかけ、未反応のSMPを除去した。得られたマレイミド基導入HbBv(MA-HbBv)溶液を45mLに定容した(0.33mMとなる)。
ナス型フラスコ(200mL容量)にMA-HbBv溶液45mLを入れ、架橋分子となるDithiothreitol(DTT、Mw:154.25、富士フィルム和光純薬社)のPBS溶液(8.3mM)4.7mLをゆっくり滴下した([DTT]/[HbBv]=2.6(mol/mol)、攪拌速度:250rpm)。その後、室温・遮光下で更に20分間攪拌した。この溶液33μLとPBS1.97mLを二面石英セルに入れ([HbBv]=5μM)、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(ELSZ-2000ZS、大塚電子社)を用いた動的光散乱(DLS)法により粒径を測定した。粒径が75nmに満たない場合は再度DTTのPBS溶液(8.3mM)を滴下し、室温・遮光下で10分間攪拌後、粒径測定を行った。この操作を粒径が75~80nmになるまで繰り返した([DTT]/[HbBv]=2.8~3.00(mol/mol))。
続いて、ヒト血清アルブミン(HSA、日本製薬社、献血アルブミン25%静注12.5g/50mL「ニチヤク」)のPBS溶液(1.76mM)25.5mLを滴下した([HSA]/[HbBv]=3(mol/mol)、攪拌速度:300rpm)。室温・遮光下で72時間攪拌し(攪拌速度:250rpm)、ヒト血清アルブミン被覆ヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)を調製した。
【0067】
[精製]
平膜型循環型限外ろ過(TFF)カプセル(Pellicon(登録商標)XL Cassette、Biomax(登録商標)300kDa、Millipore社)をリザーバー及びペリスタポンプ(Masterflex、ヤマト科学社)と接続し、上記で得たヒト血清アルブミン被覆ヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)(約75mL)をリザーバーに移した。冷蔵・遮光下で循環型限外ろ過(流速:10mL/min、溶出速度:1mL/min)を14時間行うことにより未反応HSAを除去し、HSA-HbBv微粒子を単離した。その後、約10mLになるまで濃縮し、メスシリンダーに回収した。TFFカプセル回路内のHSA-HbBv微粒子は、最少量(約10mL)のPBS溶液で回収した。
得られたHSA-HbBv微粒子のPBS溶液を遠心限外ろ過器(VIVA SPIN、MWCO:50kDa)を用いて[HbBv]=6.25g/dLに濃縮した。収率は75%であった。
そのHSA-HbBv微粒子のPBS溶液10μLとPBS1.99mLを二面石英セルに入れ([HbBv]=5μM)、DLS法による粒径測定を行うと、平均粒径は約84nmであった。
【0068】
(実施例2)
ヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)
[調製]
実施例1における[調製]で、N-Succinimidyl 3-maleimidopropionate(SMP、富士フィルム和光純薬社)の代わりに、N-Succinimidyl 4-(maleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate(SMCC、富士フィルム和光純薬社)を用い、更にDithiothreitol(DTT、富士フィルム和光純薬社)の代わりに、Dithioerythritol(DTE、富士フィルム和光純薬社)を用いた以外は、実施例1における[調製]と同様な方法に従って、ヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)を調製した。
【0069】
[精製]
実施例1における[調製]で得たヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)の代わりに、実施例2における[調製]で得たヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)を用いた以外は、実施例1における[精製]と同様な方法に従って、ヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)を単離した。収率は74%であった。
DLS法による粒径測定を行うと、平均粒径は約85nmであった。
【0070】
(実施例3)
ヒト血清アルブミン被覆ヒトヘモグロビン微粒子(HSA-HbA微粒子)
[調製]
実施例1における[調製]で、ウシヘモグロビン(HbBv)の代わりに、ヒトヘモグロビン(HbA)を用いた以外は、実施例1における[調製]と同様な方法に従って、ヒト血清アルブミン被覆ヒトヘモグロビン微粒子(HSA-HbA微粒子)を調製した。
【0071】
[精製]
実施例1における[調製]で得たヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)の代わりに、実施例3における[調製]で得たヒト血清アルブミン被覆ヒトヘモグロビン微粒子(HSA-HbA微粒子)を用いた以外は、実施例1における[精製]と同様な方法に従って、ヒト血清アルブミン被覆ヒトヘモグロビン微粒子(HSA-HbA微粒子)を単離した。収率は78%であった。
DLS法による粒径測定を行うと、平均粒径は約85nmであった。
【0072】
(実施例4)
ウシ血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(BSA-HbBv微粒子)
[調製]
実施例1における[調製]で、ヒト血清アルブミン(HSA)の代わりに、ウシ血清アルブミン(BSA)を用いた以外は、実施例1における[調製]と同様な方法に従って、ウシ血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(BSA-HbBv微粒子)を調製した。
【0073】
[精製]
実施例1における[調製]で得たヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)の代わりに、実施例4における[調製]で得たウシ血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(BSA-HbBv微粒子)を用いた以外は、実施例1における[精製]と同様な方法に従って、ウシ血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(BSA-HbBv微粒子)を単離した。収率は72%であった。
DLS法による粒径測定を行うと、平均粒径は約85nmであった。
【0074】
(実施例5)
ポリエチレングリコール被覆ウシヘモグロビン微粒子(PEG(5k)-HbBv微粒子)
[調製]
実施例1における[調製]で、ヒト血清アルブミン(HSA)の代わりに、末端メルカプト-ポリエチレングリコール(重量平均分子量5,000Da、SH-PEG(5k)(一般式(5)の化合物))を用いた以外は、実施例1における[調製]と同様な方法に従って、ポリエチレングリコール(重量平均分子量5,000Da)被覆ウシヘモグロビン微粒子(PEG(5k)-HbBv微粒子)を調製した。
【0075】
[精製]
実施例1における[調製]で得たヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)の代わりに、実施例5における[調製]で得たポリエチレングリコール(重量平均分子量5,000Da)被覆ウシヘモグロビン微粒子(PEG(5k)-HbBv微粒子)を用いた以外は、実施例1における[精製]と同様な方法に従って、ポリエチレングリコール(重量平均分子量5,000Da)被覆ウシヘモグロビン微粒子(PEG(5k)-HbBv微粒子)を単離した。収率は72%であった。
DLS法による粒径測定を行うと、平均粒径は約90nmであった。
【0076】
(実施例6)
ポリオキサゾリン被覆ウシヘモグロビン微粒子(POx(5k)-HbBv微粒子)
[調製]
実施例1における[調製]で、ヒト血清アルブミン(HSA)の代わりに、末端メルカプト-ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da、SH-POx(5k)(一般式(7)(m=2の化合物))を用いた以外は、実施例1における[調製]と同様な方法に従って、ポオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)被覆ウシヘモグロビン微粒子(POx(5k)-HbBv微粒子)を調製した。
【0077】
[精製]
実施例1における[調製]で得たヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)の代わりに、実施例6における[調製]で得たポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)被覆ウシヘモグロビン微粒子(POx(5k)-HbBv微粒子)を用いた以外は、実施例1における[精製]と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)被覆ウシヘモグロビン微粒子(POx(5k)-HbBv微粒子)を単離した。収率は76%であった。
DLS法による粒径測定を行うと、平均粒径は約89nmであった。
【0078】
(実施例7)
ポリオキサゾリン被覆ウシヘモグロビン微粒子(POx(10k)-HbBv微粒子)
[調製]
実施例1における[調製]で、ヒト血清アルブミン(HSA)の代わりに、末端メルカプト-ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da、SH-POx(10k)(一般式(7)(m=2の化合物))を用いた以外は、実施例1における[調製]と同様な方法に従って、ポオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da)被覆ウシヘモグロビン微粒子(POx(10k)-HbBv微粒子)を調製した。
【0079】
[精製]
実施例1における[調製]で得たヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)の代わりに、実施例7における[調製]で得たポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da)被覆ウシヘモグロビン微粒子(POx(10k)-HbBv微粒子)を用いた以外は、実施例1における[精製]と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da)被覆ウシヘモグロビン微粒子(POx(10k)-HbBv微粒子)を単離した。収率は75%であった。
DLS法による粒径測定を行うと、平均粒径は約93nmであった。
【0080】
(実施例8)
ポリエチレングリコール被覆ヒトヘモグロビン微粒子(PEG(5k)-HbA微粒子)
[調製]
実施例5における[調製]で、ウシヘモグロビン(HbBv)の代わりにヒトヘモグロビン(HbA)を用いた以外は、実施例5における[調製]と同様な方法に従って、ポリエチレングリコール(重量平均分子量5,000Da)被覆ヒトヘモグロビン微粒子(PEG(5k)-HbA微粒子)を調製した。
【0081】
[精製]
実施例5における[調製]で得たポリエチレングリコール(重量平均分子量5,000Da)被覆ウシヘモグロビン微粒子(PEG(5k)-HbBv微粒子)の代わりに、実施例8における[調製]で得たポリエチレングリコール(重量平均分子量5,000Da)被覆ヒトヘモグロビン微粒子(PEG(5k)-HbA微粒子)を用いた以外は、実施例5における[精製]と同様な方法に従って、ポリエチレングリコール(重量平均分子量5,000Da)被覆ヒトヘモグロビン微粒子(PEG(5k)-HbA微粒子)を単離した。収率は70%であった。
DLS法による粒径測定を行うと、平均粒径は約86nmであった。
【0082】
(実施例9)
ポリオキサゾリン被覆ヒトヘモグロビン微粒子(POx(5k)-HbA微粒子)
[調製]
実施例6における[調製]で、ウシヘモグロビン(HbBv)の代わりにヒトヘモグロビン(HbA)を用いた以外は、実施例6における[調製]と同様な方法に従って、ポオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)被覆ヒトヘモグロビン微粒子(POx(5k)-HbA微粒子)を調製した。
【0083】
[精製]
実施例6における[調製]で得たポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)被覆ウシヘモグロビン微粒子(POx(5k)-HbBv微粒子)の代わりに、実施例9における[調製]で得たポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)被覆ヒトヘモグロビン微粒子(POx(5k)-HbA微粒子)を用いた以外は、実施例6における[精製]と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン(重量平均分子量5,000Da)被覆ヒトヘモグロビン微粒子(POx(5k)-HbA微粒子)を単離した。収率は74%であった。
DLS法による粒径測定を行うと、平均粒径は約86nmであった。
【0084】
(実施例10)
ポリオキサゾリン被覆ヒトヘモグロビン微粒子(POx(10k)-HbA微粒子)
[調製]
実施例7における[調製]で、ウシヘモグロビン(HbBv)の代わりにヒトヘモグロビン(HbA)を用いた以外は、実施例7における[調製]と同様な方法に従って、ポオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da)被覆ヒトヘモグロビン微粒子(POx(10k)-HbA微粒子)を調製した。
【0085】
[精製]
実施例7における[調製]で得たポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da)被覆ウシヘモグロビン微粒子(POx(5k)-HbBv微粒子)の代わりに、実施例10における[調製]で得たポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da)被覆ヒトヘモグロビン微粒子(POx(10k)-HbA微粒子)を用いた以外は、実施例7における[精製]と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン(重量平均分子量10,000Da)被覆ヒトヘモグロビン微粒子(POx(10k)-HbA微粒子)を単離した。収率は79%であった。
DLS法による粒径測定を行うと、平均粒径は約83nmであった。
【0086】
(実施例11)
組換えイヌ血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(rCSA-HbBv微粒子)
[調製]
実施例1における[調製]で、ヒト血清アルブミン(HSA)の代わりに、組換えイヌ血清アルブミン(rCSA)を用いた以外は、実施例1における[調製]と同様な方法に従って、組換えイヌ血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(rCSA-HbBv微粒子)を調製した。
【0087】
[精製]
実施例1における[調製]で得たヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)の代わりに、実施例11における[調製]で得た組換えイヌ血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(rCSA-HbBv微粒子)を用いた以外は、実施例1における[精製]と同様な方法に従って、組換えイヌ血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(rCSA-HbBv微粒子)を単離した。収率は77%であった。
DLS法による粒径測定を行うと、平均粒径は約85nmであった。
【0088】
(実施例12)
組換えネコ血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(rFSA-HbBv微粒子)
[調製]
実施例1における[調製]で、ヒト血清アルブミン(HSA)の代わりに、組換えネコ血清アルブミン(rFSA)を用いた以外は、実施例1における[調製]と同様な方法に従って、組換えネコ血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(rFSA-HbBv微粒子)を調製した。
【0089】
[精製]
実施例1における[調製]で得たヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)の代わりに、実施例12における[調製]で得た組換えネコ血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(rFSA-HBv微粒子)を用いた以外は、実施例1における[精製]と同様な方法に従って、組換えネコ血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(rFSA-HbBv微粒子)を単離した。収率は73%であった。
DLS法による粒径測定を行うと、平均粒径は約86nmであった。
【0090】
(実施例13)
ヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン(メルカプト基導入HbBvを架橋剤とする)微粒子(HSA-HbBv(SH-HbBv)微粒子)
[調製]
ナス型フラスコ(50mL容量)に精製ウシヘモグロビン(HbBv)のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液(1.0mM)10mLを入れ、N-Succinimidyl 3-maleimidopropionate(SMP、Mw:266.21、富士フィルム和光純薬社)のジメチルスルホキシド(DMSO)(富士フィルム和光純薬社)溶液(150mM)1mLをゆっくり滴下した([SMP]/[HbBv]=15(mol/mol)。滴下中はマグネティックスターラーを用いてHbBv溶液を250rpmで攪拌した。滴下終了後、ナス型フラスコ上部に径違い管をつけ、セプタムラバーで密栓し、フラスコ内部に一酸化炭素ガスを通気した。溶液は200rpmで攪拌した。その後、室温・遮光下で更に30分間撹拌した。反応溶液をMillexフィルターでろ過し、ろ液をゲル濾過クロマトグラフィー(Sephadex G-25 Superfine、2.5cm×20cm、流速:3mL/min、PBS溶液)にかけ、未反応のSMPを除去した。得られたマレイミド基導入HbBv(MA-HbBv)溶液を25mLに定容した(0.40mMとなる)。
ナス型フラスコ(50mL容量)に精製ウシヘモグロビン(HbBv)のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液(1.0mM)10mLを入れ、2-Iminothiolane Hydrochloride(IMT、Mw:137.63、富士フィルム和光純薬社)のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液(80mM)1mLをゆっくり滴下した([IMT]/[HbBv]=8(mol/mol)。滴下中はマグネティックスターラーを用いてHbBv溶液を250rpmで攪拌した。滴下終了後、ナス型フラスコ上部に径違い管をつけ、セプタムラバーで密栓し、フラスコ内部に一酸化炭素ガスを通気した。溶液は200rpmで攪拌した。その後、室温・遮光下で更に1時間撹拌した。反応溶液をMillexフィルターでろ過し、ろ液をゲル濾過クロマトグラフィー(Sephadex G-25 Superfine、2.5cm×20cm、流速:3mL/min、PBS溶液)にかけ、未反応のIMTを除去した。得られたメルカプト基導入HbBv(SH-HbBv)溶液を25mLに定容した(0.40mMとなる)。
ナス型フラスコ(200mL容量)にMA-HbBv溶液25mLを入れ、架橋分子となるSH-HbBvのPBS溶液(0.40mM)25mLをゆっくり滴下した([SH-HbBv]/[HbBv]=1(mol/mol)、攪拌速度:250rpm)。その後、室温・遮光下で更に20分間攪拌した。この溶液33μLとPBS 1.97mLを二面石英セルに入れ([HbBv]=5μM)、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(ELSZ-2000ZS、大塚電子)を用いた動的光散乱(DLS)法により粒径を測定した。続いてヒト血清アルブミン(HSA、日本製薬社、献血アルブミン25%静注12.5g/50mL「ニチヤク」)のPBS溶液(1.76mM)25.5mLを滴下した([HSA]/[HbBv]=3(mol/mol)、攪拌速度:300rpm)。室温・遮光下で72時間攪拌し(攪拌速度:250rpm)、ヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン(メルカプト基導入HbBvを架橋剤とする)微粒子(HSA-HbBv(SH-HbBv)微粒子)を調製した。
【0091】
[精製]
実施例1における[調製]で得たヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBvの代わりに、実施例13における[調製]で得たヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン(メルカプト基導入HbBvを架橋剤とした)微粒子(HSA-HbBv(SH-HbBv)微粒子)を用いた以外は、実施例1における[調製]と同様な方法に従って、ヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン(メルカプト基導入HbBvを架橋剤とした)微粒子(HSA-HbBv(SH-HbBv)微粒子)を単離した。収率は74%であった。
DLS法による粒径測定を行うと、平均粒径は約84nmであった。
【0092】
(酸素結合能測定)
実施例1で得たヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液(pH7.4)の一酸化炭素雰囲気下における紫外可視吸収スペクトルは、λmax:420nm、538nm、569nmを示し、ウシヘモグロビンの一酸化炭素化体(カルボニル体)のスペクトルパターンと一致したことから、ヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)のへモグロビンが一酸化炭素を結合していることがわかった。
このヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液(pH7.4)をナス型フラスコに入れ、セプタムラバーで密栓後、光照射しながら酸素を通気すると、紫外可視吸収スペクトルは、λmax:415nm、541nm、577nmを示し、ウシヘモグロビンの酸素化体(オキシ体)のスペクトルパターンと一致したことから、ヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)のへモグロビンが酸素を結合していることがわかった。
続いて、このヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液(pH7.4)に窒素を通気すると、紫外可視吸収スペクトルは、λmax:430nm、555nmを示し、ウシヘモグロビンの脱酸素化体(デオキシ体)のスペクトルパターンと一致したことから、ヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)のへモグロビン部位が脱酸素化していることがわかった。
なお、上記紫外可視吸収スペクトルの測定は、紫外可視分光光度計(Agilent社、8454)を用いて190nm-700nmで測定した。
【0093】
また、酸素解離結合曲線記録装置(TSC社、ヘモックスアナライザー)を用いて、異なる酸素分圧に対する紫外可視吸収スペクトル変化から、酸素親和性の指標であるP50(酸素解離曲線グラフにおいて酸素結合率が50%の時の酸素分圧)を算出したところ、実施例1で得たヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)及び実施例5で得たポリエチレングリコール被覆ウシヘモグロビン微粒子(PEG(5k)-HbBv微粒子)のP50は、いずれも9Torr(37℃)であり、協同性を示すHill係数nは、いずれも1.4であった。
図3に酸素解離曲線グラフを、また、表1にP50及びHill係数nの結果を示す。比較として、同様に測定したヒト血液及び実施例1及び5で原料として用いた精製ウシヘモグロビン(HbBv)での測定結果も示す。原料HbBvに比べて実施例1及び5のヘモグロビン微粒子の酸素親和性が上昇していることが明らかとなった。
また、他の実施例においても同様に酸素結合能を有することがわかった。
【0094】
(ヘモグロビン微粒子の安定性)
実施例1で得たヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液(pH7.4)を4℃で保存し、0、1、3、7、14、28日目にDLS法による粒径測定を行った。
図4に測定結果を示す。28日後まで粒径及び粒径の分散性(PDI)に変化は見られず、本実施例のヒト血清アルブミン被覆ウシヘモグロビン微粒子(HSA-HbBv微粒子)は、1カ月以上安定に保たれていることが明らかとなった。
また、他の実施例においても同様に安定であることがわかった。
【0095】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のヘモグロビン微粒子を有効成分とする人工酸素運搬体は、生体内に投与する場合も安全性の高い赤血球代替物として利用できる。対象は人間に限ることはなく、動物(イヌやネコ等のペット、家畜等)にも投与可能な人工酸素運搬体となる。加えて、本発明のヘモグロビン微粒子を有効成分とする人工酸素運搬体は、移植臓器又は組織の保存液や灌流液、再生組織の培養液、腫瘍の抗癌治療増感剤、術前血液希釈液、人工心肺等の体外循環回路の補填液、虚血部位への酸素供給液(心筋梗塞、脳梗塞、呼吸不全等)慢性貧血治療剤、液体換気の灌流液としての利用も期待できる。
【符号の説明】
【0097】
10 ヘモグロビン微粒子
1 ヘモグロビン
2 コア微粒子
3 メルカプト基を有するシェル分子
4 シェル材
11 マレイミド基導入ヘモグロビン
図1
図2
図3
図4