(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】複合成形品の製造方法、成形型、複合成形品及びスペーサ
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20241126BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20241126BHJP
F02F 1/14 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/26
F02F1/14 D
(21)【出願番号】P 2020121469
(22)【出願日】2020-07-15
【審査請求日】2023-06-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】牧野 耕治
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-012388(JP,A)
【文献】特開2016-128256(JP,A)
【文献】特開平10-109327(JP,A)
【文献】特開2020-104463(JP,A)
【文献】特開平06-126773(JP,A)
【文献】特開2007-276203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 33/00-33/76
F02F 1/00- 1/42
F02F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するシート体と、前記シート体の一方の面に一体的に成形されるとともに前記シート体側とは反対側に突出する凸条部を有した樹脂製の成形体とを備えた湾曲形状の複合成形品の製造方法であって、
前記成形体の前記凸条部を形成する凹所及び該凹所よりも突出して設けられ
、その一部が前記凹所と交差して形成されている凸所を有する第1型と、前記シート体が設置される凸曲状の湾曲面を有する第2型とを備え、前記第1型及び前記第2型が接離自在に構成された成形型を準備する準備工程と、
前記シート体を前記第2型の前記湾曲面に配置するシート配置工程と、
前記凸所によって前記シート体を押圧し前記凹所と前記シート体との接触を阻止しつつ前記第1型と前記第2型とを相対的に近接させて型閉めを行う型閉工程とを備え、
前記型閉工程において、前記第1型は、前記湾曲面上に配置された前記シート体の前記湾曲面の曲面に沿う方向の一方の端部側から前記第2型に向けて、且つ前記第1型の移動に伴い前記凸所が前記シート体の前記端部側から近接して徐々に当接するように移動することを特徴とする複合成形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記凸所は、前記湾曲面に沿う方向に延出して形成されていることを特徴する複合成形品の製造方法。
【請求項3】
請求項1
又は請求項2において、
前記凸所は、少なくとも一部が、前記型閉工程の際に、前記凹所よりも先に前記シート体の端部に接触する位置に形成されていることを特徴とする複合成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項1~請求項
3のいずれか1項において、
前記シート体の端部に最初に接触する前記凸所の一方端部は、前記シート体に対して徐々に近接するように傾斜して形成され、
前記型閉工程では、前記シート体が前記一方端部に沿って押圧されることを特徴とする複合成形品の製造方法。
【請求項5】
可撓性を有するシート体と、前記シート体の一方の面に一体に成形されるとともに前記シート体側とは反対側に突出する凸条部を有した樹脂製の成形体とを備えた湾曲形状の複合成形品の製造に用いる成形型であって、
相対的に接離自在とされた第1型と第2型とを含み、
前記第1型は、前記成形体の前記凸条部を形成する凹所と、該凹所よりも突出して設けられた凸所とを有し、
前記第2型は、前記シート体が配置される凸曲状の湾曲面を有しており、
前記凸所は、その一部が前記凹所と交差して形成されていることを特徴とする、成形型。
【請求項6】
可撓性を有するシート体と、前記シート体の一方の面に湾曲形状に一体的に成形される樹脂製の成形体とを備え、
前記成形体は、前記シート体側とは反対側に突出するとともに前記シート体の一方の端部側に形成された凸条部と、前記凸条部に対して交差するとともに前記シート体側に向かって凹んで形成された凹条部とを有していることを特徴とする、複合成形品。
【請求項7】
請求項
6に記載の複合成形品は、内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲むように設けられた冷却水流路内に配置されるスペーサであり、
前記シート体は、所定の外的要因が付加されたことを契機として、圧縮された状態から膨大化する多孔質体であることを特徴とするスペーサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合成形品の製造方法、成形型、複合成形品及びスペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シート体と樹脂製の成形体とを備えた複合成形品をインサート成型により製造することが知られている。そして、下記特許文献1では、成形型に突起(特許文献1・
図15(a)参照)を設け、樹脂の射出圧等によりシート体が移動しないように、射出成形時には、突起によってシート体を押さえることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような複合成形品は、複合成形品を所定の位置に固定する等の各種用途のために、シート体の端部に対応する位置にシート体側とは反対側に突出した凸条部が成形体に設けられる場合がある。この場合、例えば成形体に横長の凸条部を形成するためには、成形型には横長状の凹所が必要となる。ところが、凸条部を備えた湾曲形状の成形体を製造しようとすると、成形型の型閉時にシート体を湾曲させることになるため、成形型にセットしたシート体が湾曲する際、成形型にセットしたシート体の端部が、凹所に引っ掛かって、捲れあがったり、撓んだり、折れ曲がる等の問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、シート体の引っ掛かりを抑制し成形不良の低減を図ることができる複合成形品の製造方法、成形型、複合成形品及びスペーサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る複合成形品の製造方法は、可撓性を有するシート体と、前記シート体の一方の面に一体的に成形されるとともに前記シート体側とは反対側に突出する凸条部を有した樹脂製の成形体とを備えた湾曲形状の複合成形品の製造方法であって、前記成形体の前記凸条部を形成する凹所及び該凹所よりも突出して設けられ、その一部が前記凹所と交差して形成されている凸所を有する第1型と、前記シート体が設置される凸曲状の湾曲面を有する第2型とを備え、前記第1型及び前記第2型が接離自在に構成された成形型を準備する準備工程と、前記シート体を前記第2型の前記湾曲面に配置するシート配置工程と、前記凸所によって前記シート体を押圧し前記凹所と前記シート体との接触を阻止しつつ前記第1型と前記第2型とを相対的に近接させて型閉めを行う型閉工程とを備え、前記型閉工程において、前記第1型は、前記湾曲面上に配置された前記シート体の前記湾曲面の曲面に沿う方向の一方の端部側から前記第2型に向けて、且つ前記第1型の移動に伴い前記凸所が前記シート体の前記端部側から近接して徐々に当接するように移動することを特徴とする。
上記構成によれば、型閉めの際に第1型の凸所がシート体を押圧することによって、第2型に配置されたシート体が第1型の凹所と接触することを阻止することができる。これにより、シート体と成形体とを一体的に成形する際に、成形体の凸部を形成するための成形型の凹所にシート体が引っ掛かることを抑制する。そして、シート体の端部が捲れあがったり、シート体が撓んだ状態で成形体と一体に成形されたりする問題を回避でき、成形不良の低減を図ることができる。
また上記構成によれば、成形型の構造を複雑な構造にしなくても、突部を有した湾曲形状の複合成形品を製造することができる。
【0007】
また本発明に係る複合成形品の成形型は、可撓性を有するシート体と、前記シート体の一方の面に一体に成形されるとともに前記シート体側とは反対側に突出する凸条部を有した樹脂製の成形体とを備えた湾曲形状の複合成形品の製造に用いる成形型であって、 相対的に接離自在とされた第1型と第2型とを含み、前記第1型は、前記成形体の前記凸条部を形成する凹所と、該凹所よりも突出して設けられた凸所とを有し、 前記第2型は、前記シート体が配置される凸曲状の湾曲面を有しており、 前記凸所は、その一部が前記凹所と交差して形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る複合成形品は、可撓性を有するシート体と、前記シート体の一方の面に湾曲形状に一体的に成形される樹脂製の成形体とを備え、前記成形体は、前記シート体側とは反対側に突出するとともに前記シート体の一方の端部側に形成された凸条部と、前記凸条部に対して交差するとともに前記シート体側に向かって凹んで形成された凹条部とを有していることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る複合成形品は、内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲むように設けられた冷却水流路内に配置されるスペーサであり、前記シート体は、所定の外的要因が付加されたことを契機として、圧縮された状態から膨大化する多孔質体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上記した構成とされているため、シート体の引っ掛かりを抑制し成形不良の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る製造方法の一工程例を説明するための図であり、(a)はここで用いられる成形型等を示す模式的部分断面図であり、(b)は(a)のX部を示す部分拡大斜視図である。
【
図2】(a)及び(b)は同実施形態に係る製造方法の一工程例を説明するための図であり、いずれも型閉工程における成形型等を示す模式的部分断面図である。
【
図3】(a)及び(b)は同実施形態に係る製造方法の一工程例を説明するための図であり、(a)は型閉工程後の状態を示す模式的部分断面図、(b)はキャビティに樹脂を供給した状態を示す模式的部分断面図である。(c)は成形型から脱型して得られた複合成形品を示した模式的部分断面図である。
【
図4】同実施形態に係る製造方法によって得られた複合成形品の模式的全体斜視図であり、スペーサとして用いられる例を説明するための図である。
【
図5】(a)及び(b)は同実施形態に係る製造方法によって得られた複合成形品を説明するための図であり、(a)はシート体側から見た複合成形品の模式的部分斜視図であり、(b)は成形体側から見た複合成形品の模式的部分斜視図である。
【
図6】(a)及び(b)は同複合成形品の変形例を示す模式的部分斜視図である。
【
図7】(a)及び(b)は同複合成形品の変形例を示す模式的部分斜視図である。
【
図8】(a)及び(b)は本発明の第2実施形態に係る製造方法を説明するための図であり、いずれも成形型の模式的部分断面図であり、(c)は成形型から脱型して得られた複合成形品を示した模式的部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照しながら本発明の一実施形態について説明する。なお、一部の図では、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。
本実施形態に係る複合成形品の製造方法は、可撓性を有するシート体2と、シート体2側とは反対側に突出する凸条部30を有した樹脂製の成形体3とを備えた湾曲形状の複合成形品1の製造方法として適用される。本実施形態では、複合成形品1の一例として、自動車用エンジン等の内燃機関におけるシリンダブロック12に設けられた冷却水流路11内に配置されるスペーサSに用いられる例について詳述する。
【0013】
<第1実施形態>
まず
図1~5を参照しながら、第1実施形態について説明する。
図4に示すとおり、スペーサSは、内燃機関のシリンダブロック12に設けられた冷却水流路11内に配置されている。スペーサSは、内燃機関の作動に伴い昇温するシリンダボア壁13を冷却する冷却水の流れを規制し過冷却を防止するものである。ここに示すスペーサSは、別々に形成された複合成形品1,1’を組み合わせてひとつのスペーサとして使用される。具体的には、スペーサSは、一方の複合成形品1の端部に形成された凸条部30に、他方の複合成形品1’の端部に形成された係止部31を引っ掛けるように係合させることで一体とし、冷却水流路11内の全周に配されて使用される。
【0014】
スペーサSを構成する複合成形品1は、可撓性を有する長方形のシート体2と、シート体2と一体的に成形される樹脂製の成形体3とを備えている。成形体3は、複数の円弧部3cと、隣り合う円弧部3c,3c同士を接続する接続部3dとを備えている(
図4参照)。成形体3は、シート体2側とは反対側に突出するとともに、シート体2の長手方向端部2a側にシート体2の短手方向(図では短手方向端部を2bで示す)に沿って形成された凸条部30と、凸条部30に対して直交するとともにシート体2側に向かって凹んで形成された凹条部32(
図5(b)参照)とを有している。
【0015】
シート体2は可撓性のあるものであれば、その形状、素材等は、特に限定されないが、本実施形態では、上述のとおり、薄状の正面視において長方形のものが採用される。シート体2は、例えば、所定の外的要因が付加されたことを契機として圧縮された状態から溝状の冷却水流路11の幅方向(
図4の矢印a参照)に膨大化する特性を有したセルロース系スポンジを用いてもよい。セルロース系スポンジは、加圧した状態で乾燥させるとセルロース分子間が水素結合して圧縮状態に維持される一方、この状態から水分に晒されると水分子がセルロース分子間の水素結合を解離して圧縮状態から復元する特性を有するため、シート体2として好適である。この場合、前記所定の外的要因は冷却水であり、シート体2に冷却水が接することにより、シート体2に外的要因が付加されたことになる。よって、この複合成形品1をスペーサSに用いた場合に、スペーサSを冷却水流路11内に組み付ける際には、シート体2が膨大化していないコンパクトな状態であるので、冷却水流路11の開口からスペーサSを挿入しやすい。一方、スペーサSを冷却水流路11内に組み付けた後には、シート体2が膨大化するので、シート体2により冷却水の流れを規制できる。
【0016】
成形体3に用いられる樹脂の種類は、特に限定されない。例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、ABS、アクリル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂としてもよい。合成樹脂としては、種々の添加剤が添加されたものでもよく、また、例えば、炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を含む繊維強化樹脂でもよい。
【0017】
本実施形態における複合成形品1は、
図5(b)に示すように凹条部32が成形体3の長手方向に沿って形成されている。なお、成形体3の長手方向とは、複数の円弧部3cと複数の接続部3dとが並べられた配列方向である(
図4参照)。複合成形品1は、この凹条部32によって分断されて2つの凸条部30,30が成形体3の短手方向に沿って形成されている。凹条部32と凸条部30とは、互いに交差し直交して形成されている。凸条部30,30は、シート体2の長手方向の端部2a近傍に形成されていることになり、複合成形品1’の係止部31が係止されやすい角度で成形体3から突出した状態になるように形成されている(
図4参照)。
【0018】
<成形型>
次に本実施形態に係る凸条部30を有した複合成形品1の製造方法を説明する。
図1(a)及び
図1(b)に示すように成形型5としては、成形体3の凸条部30を形成する凹所60及び該凹所60より突出して設けられた凸所61を有する第1型6と、シート体2が設置される湾曲面70を有する第2型7と、ゲートとなる樹脂射出部63を有する固定型としての第3型8とを備えたものを用いる。本実施形態では、第1型6と第2型7とが可動型として、第3型8が固定型として構成される。第1型6と第2型7とは第3型8へ向けて相対的に接離自在に構成されている。第1型6は第2型7とも相対的に接離自在に構成されている。具体的には、第1型6は、型閉めの際、図示の横方向(第2型7の移動方向とは直交する略水平方向)から第2型7へ向けて移動するとともに(
図1(a)・Y1矢印方向参照)、第3型8へも向けて移動自在に構成されている(
図1(a)・Y2矢印方向参照)。また第2型7は、型閉めの際、第3型8へ向けて移動自在に構成されている(
図1(a)・Z矢印方向参照)。第1型6と第2型7とは、同時に第3型8へ向けて移動し、成形型5は、型閉めされたときに成形体3を模る円弧状のキャビティ50(
図3(a)参照)が区画されるように構成されている。なお、第1型6は、第2型7を挟むようにして、対称に2個設けられたものとしてもよいが、不図示の第1型に凹所60がなければ、凸所61は不要である。
【0019】
図1(b)等に示すように第1型6は、成形体3の凸条部30を形成する凹所60と、凹所60より突出して設けられた凸所61を有している。凹所60の形成位置、形状は、成形体3に形成される凸条部30の形状に対応して設けられる。本実施形態の例では、
図5(b)に示すように複合成形品1の複数の凸条部30,30が成形体3の長手方向の端部3a側且つ短手方向に沿って略長方形状に形成されているので、これに応じて第1型6に凹所60が設けられている。よって、凹所60は凸条部30の突出寸法に応じた深さ寸法の溝状に形成されている。
図3(a)及び
図3(b)等に示すように第1型6の対向面62は、型閉時に第2型7の湾曲面70に対向するとともにキャビティ50を構成し、成形体3の外側面3bを形成する。
【0020】
凸所61は、型閉工程の際に凸所61によってシート体2を押圧し凹所60とシート体2との接触を阻止しつつ第1型6と第2型7とを相対的に近接させて型閉めを行えるように設けられている。すなわち、凸所61は、凹所60及び対向面62よりも突出し、湾曲面70の曲面に沿う方向に延出して形成されている。凸所61は、少なくとも一部が、型閉工程の際に、凹所60よりも先にシート体2の端部2aに接触する位置に形成されている。具体的には、凸所61は、凸所61の一部が凹所60と交差して形成され、
図1(b)に示すように本実施形態の例では凹所60の長手方向における略中央位置に設けられている。これにより成形体3に複数の所望する凸条部30を形成することができる。
【0021】
さらに具体的には、本実施形態の凸所61は、第1型6の一部として構成され、突出部61aと基部61bとを有する。基部61bは、凹所60に没入するように形成され、これにより、突出部61aが凹所60から突出した状態に形成される。突出部61aは、略方形の片状に形成され、第3型8側の一方端部61aaと、その反対側の他端部61abと、シート体2の一方の面20を押さえつける押さえ部61acとを備えている。凸所61の一方端部61aaの配置位置は、第1型6の移動方向や第2型7に配置されたシート体2の位置関係を考慮し、型閉工程においてシート体2の端部2aに最初に接触する位置に設けられる。また凸所61の一方端部61aaは、シート体2に対して徐々に近接するように傾斜して形成されており、型閉工程では、シート体2の端部2aが、一方端部61aaの傾斜面に沿って徐々に湾曲面70側に押圧されるように構成されている(
図2(a)参照)。さらに凸所61は、
図1(b)に示すように、必ずしも凹所60の略中央位置でなくてもよいが、型閉工程において凹所60とシート体2との接触を阻止するように、シート体2を湾曲面70に向けて押さえるように機能することを要する。
【0022】
第3型8は、
図3(b)に示すように溶融樹脂9をキャビティ50内に導入するためのゲートとなる樹脂射出部63を有している。
第2型7は、シート体2が配置される凸曲状の湾曲面70と、湾曲面70の最も突出した位置(凸曲面の頂部)に形成された位置決め突起71とを有している。湾曲面70は、冷却水流路11の形状に合わせて断面視において半円形状に形成されている。位置決め突起71は、湾曲面70の最も突出した位置に複数設けられている。位置決め突起71は、シート体2に複数形成された貫通孔21(
図5(a)等参照)が挿通されるように円筒形状に形成されている。シート体2の貫通孔21は、位置決め突起71の個数、形状に対応して形成されている。
【0023】
<製造方法>
<準備工程>
まずは準備工程を行う。所定の形状にカットされたシート体2を準備する。シート体2の略中央部位には、第2型7の位置決め突起71に挿通される円形の貫通孔21が複数並列に形成されている。よって貫通孔21の大きさ、形状は、位置決め突起71の大きさ、形状に合わせて形成される。 そして上述の成形型5を準備する。
【0024】
<シート配置工程>
次にシート配置工程を行う。シート配置工程では、成形型5を型開きし、成形型5の第2型7の位置決め突起71にシート体2の貫通孔21を挿入してシート体2を第2型7の湾曲面70に配置する。
【0025】
<型閉工程>
続いて型閉工程を行う。第1型6及び第2型7を第3型8に向けて移動させる(
図1(a)参照)。
図2(a)に示すように、型閉めが開始されると、第1型6が、シート体2の端部2a側から接近してくるため、シート体2の端部2aは、最初に凸所61の一方端部61aaに当接する。これにより、凸所61の一方端部61aaが、型閉工程の際に、凹所60よりも先にシート体2の端部2aに接触するので、凹所60とシート体2との接触を確実に阻止することができる。そして第1型6の移動に伴い、一方端部61aaは、シート体2に対して徐々に近接するように傾斜して形成されているので、
図2(b)に示すようにシート体2が一方端部61aaに沿って徐々に押圧される。その後、シート体2は、傾斜した一方端部61aaに誘導され、押さえ部61acへ案内され、この押さえ部61acによって、シート体2は
図3(a)に示すように徐々に撓って湾曲した状態でキャビティ50内にセットされる。
【0026】
上述のように、本実施形態に係る製造方法によれば、シート体2を、凸所61によって押圧し、凹所60とシート体2との接触を阻止しつつ第1型6と第2型7とを相対的に近接させて型閉めを行う型閉工程を備えている。したがって、型閉めの際に凸所61がシート体2を押圧することによって、第2型7に配置されたシート体2が凹所60と接触することを阻止できる。これにより、シート体2と成形体3とを一体的に成形する際に、成形体3の凸条部30を形成するための凹所60にシート体2が引っ掛かることを抑制することができる。また、凸所61によって、シート体2を押さえながら型閉めできるので、シート体2が捲れあがったり、シート体2が撓んだ状態で成形されたりする等の問題を回避できる。
【0027】
また凸所61は、
図3(a)等に示すように湾曲面70の曲面に沿う方向に延出して形成されているので、シート体2を押圧する際にシート体2が凹所60に引っ掛かることなく、シート体2を湾曲面70の曲面に沿って撓ませることができる。さらに凸所61は、
図1(b)に示すようにその一部が凹所60と交差して略十字状に直交して設けられているので、第1型6の移動により、凹所60の形成位置にシート体2の端部2aが配されても、凸所61によってシート体2が押さえられ、凹所60とシート体2との接触を確実に阻止することができる。また凸所61の一方端部61aaが傾斜して形成されているので、シート体2に徐々に押圧力を付加できるため、シート体2の撓み、しわの発生を抑制しながらシート体2をスムースに湾曲させることができる。
【0028】
<樹脂射出工程>
型閉工程を行った後、溶融樹脂9を樹脂射出部63から成形型5のキャビティ50内に射出し、シート体2に樹脂の成形体3を一体にインサート成型する。シート体2は、
図3(b)に示すように溶融樹脂9の射出圧を受け、湾曲面70上に隙間なく円弧状に湾曲し、溶融樹脂9はキャビティ50及び凹所60内の全域に行き渡る。その後、キャビティ50内を保圧状態で冷却し溶融樹脂9を固化させたら、型開きして脱型する。脱型後、
図3(c)示すように樹脂射出部63から射出されたゲート残り部4をカットすれば、凸条部30を有した複合成形品1を得ることができる(
図5(a)及び
図5(b)参照)。
【0029】
この樹脂射出工程において、樹脂射出部63から溶融樹脂9を射出する際、シート体2は、高圧な射出圧を受けるが、位置決め突起71に貫通孔21が貫通した状態で保持され且つ凸所61によって第2型7の湾曲面70側に押えられるので、シート体2が位置ずれすることを抑制しながら、インサート成型を行うことができる。
【0030】
上述のしたとおり、本実施形態によれば、型閉工程の際に、成形体3の凸条部30を形成するための成形型5の凹所60にシート体2が引っ掛かることを抑制することができる。よって、シート体2の端部2aが捲れあがったり、シート体2が撓んだ状態で成形されたりする等の問題を回避でき、複合成形品1の成形不良の低減を図り、製品として精度・外観のよい複合成形品1を提供できる。また本実施形態によれば、成形型5の構造を複雑にしなくても、凸条部30を有した湾曲形状の複合成形品1を製造することができる。具体的には、例えばシート体2を押さえつけた後に第1型6を閉める場合、型構造が複雑になってしまうが、本実施形態によれば、可動型として構成される成形型の型閉め順序にかかわらず、凸所61によってシート体2が凹所60に接触しないように製造することができる。また本実施形態によれば、シート体2を成形型5内に配置する前に、シート体2を湾曲状にプリフォームしなくとも、シート体2を湾曲させた状態で成形体3と一体に成形することができる。したがって、シート体2をプリフォームする工程が追加されることはないため、工数の増加を抑制しつつ湾曲状のシート体2を成形体3と一体に成形することができる。
【0031】
<変形例>
次に
図6、
図7を参照しながら、複合成形品1の変形例について説明する。上記実施形態と共通する点には共通の符号を付し、それぞれの変形例について、異なる点を中心に説明する。
図6及び
図7に示す複合成形品1A~1Dにおいても、
図5に示す複合成形品1と同様に成形体3のうちシート体2の端部2aに対応する位置に凸条部30が形成されている。したがって、上記製造方法、成形型5の基本構成が好適に採用される。
【0032】
図6(a)に示す複合成形品1Aは、成形体3の短手方向に延びる4つの凸条部30が凹条部32を挟んで間隔を空けて並んで形成されている。複数の凹条部32は、それぞれ隣接して配置された凸条部30と凸条部30との間に形成されている。すなわち、凹条部32は、隣接する凸条部30,30の間に凸条部30と凹条部32とが交差するように形成されるとともに、凹条部32が短手方向に間隔を空けて概ね平行に並んで設けられている。このように凹条部32が複数形成されたものの場合、型閉工程でシート体2の長手方向の端部2aだけでなく、短手方向の端部2bもよりしっかりと押さえることができる。
【0033】
図6(b)に示す複合成形品1Bは、
図6(a)に示す複合成形品1Aとは、シート体2の長手方向に延びる3つの凹条部32が形成されている点は共通するが、中央に配された凹条部32のみがその両サイドに配された凸条部30,30の一部と交差する構成である点で異なる。このように凸条部30と凹条部32とがすべて交差していなくても、上述の製造方法、成形型5の基本構成を適用することができる。
【0034】
図7(a)に示す複合成形品1Cは、
図5及び
図6に示すものと比べて凹条部32が小さく形成され、凸条部30が複数でなく、成形体3の短手方向に向けて長方形に延出形成されている点で異なる。このように凸条部30を長尺で且つ凹条部32の成形体3の長手方向端部3a側に配される場合でも、上述の製造方法、成形型5の基本構成を適用することができる。
【0035】
図7(b)に示す複合成形品1Dは、凸条部30が
図7(a)と同様に長尺に形成されている点で共通するが、凹条部32,32が凸条部30を挟んで若干間隔を空けて概ね平行して並んで形成されている点で異なる。このように凸条部30が延びる方向と凹条部32,32が延びる方向とが交差しているものの、凸条部30及び凹条部32,32自体が交差せずに形成されたものも、上述の製造方法、成形型5の基本構成を適用することができる。
【0036】
<第2実施形態>
図8を参照しながら、第2実施形態に係る複合成形品の製造方法について説明する。
上述の第1実施形態と共通する部位には共通の符号を付し、共通の効果を奏する点の説明は省略し、異なる点を主に説明する。
本実施形態は、成形型5として第3型8を備えておらず、第1型6が固定型、第2型7が可動型として構成される点、第1型6に成形体3の補強リブとして機能するリブ突起33を形成するリブ凹所64が設けられている点が上述の実施形態と異なる。また凸条部30の形成位置に重なるようにシート体2の端部2aが配され且つ成形体3の長手方向の両端部3a,3aに凸条部30が複数形成される点でも異なる。さらに製造される複合成形品10は、シリンダブロック12に設けられた冷却水流路11内に配置されるスペーサSであるが、
図4に示すような2つの複合成形品1,1’を組み合わせて使用する半割スペーサではなく、冷却水流路11の一部に配置される部分スペーサである点でも相違する。
【0037】
図8(a)及び
図8(b)に示す成形型5の第2型7は、第1実施形態と概ね同様の構成である。第1型6は、複数の凸条部30(
図8(c)参照)を形成するための複数の凹所60と、凹所60より突出して設けられた凸所61と、複数のリブ突起33を形成するための複数のリブ凹所64と、成形体3を形成する樹脂を注入するための樹脂射出部63とを有する。型閉工程の際、凸所61は、シート体2を押圧し凹所60とシート体2と の接触を阻止することができるように、凹所60に対して 交差するように設けられている。具体的には凸所61は、凹所60の開口部の一部を塞ぐとともに、凹所60の長手方向における略中央位置に隣接して設けられている
これによれば、本実施形態のように凹所60の形成位置にシート体2の端部2aが配されていても、型閉工程の際に、凹所60よりも凸所61が先にシート体2の端部2aに接触する位置に形成されているので、凸所61によってシート体2を押圧し、凹所60とシート体2との接触を確実に阻止することができる。
【0038】
以上、第1実施形態及び第2実施形態を説明したが、上述の例に限定されるものではなく、第1実施形態及び第2実施形態に示すシート体2、成形体3、複合成形品1(1A~1D),10、スペーサS、成形型5の構成、形状、構造は図例に限定されるものではない。シート体2としては、可撓性があれば、上述のセルロース系スポンジに限定されず、皮革、布、織物、木皮、塩化ビニル等の樹脂製シート等を用いることができる。また複合成形品1としては、スペーサSに限定されず、自動車の内装ドアトリムやピラーガーニッシュ等の他、産業機械、電子機器、建築資材等において、断熱性、緩衝性及び防音性が求められる構成部材の製造にも採用できる。
シート体2の形状、大きさ等は図例に限定されず、切り欠き部分があってもよいし、縁が丸くトリミングされていてもよい。成形体3の凸条部30,凹条部32の形状、個数はもちろん、成形体3自体の形状も図例に限定されるものではない。これに伴い、成形型5に設けられる凹所60、凸所61も図例に限定されず、凸所61とは別にシート体2の浮きを押さえる押さえピンが設けられていてもよい。成形型5の型構造も図例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0039】
1(1A~1D),10 複合成形品
2 シート体
3 成形体
30 凸条部
32 凹条部
S スペーサ
5 成形型
6 第1型
60 凹所
61 凸所
61aa 一方端部
7 第2型
70 湾曲面