(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】立体構造編物を用いた衣類用生地、および衣類
(51)【国際特許分類】
D04B 21/14 20060101AFI20241126BHJP
D04B 21/10 20060101ALI20241126BHJP
A41D 27/00 20060101ALI20241126BHJP
A41D 27/28 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
D04B21/14 Z
D04B21/10
A41D27/00 Z
A41D27/28 Z
(21)【出願番号】P 2020175813
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】515159062
【氏名又は名称】松本 紘一
(74)【代理人】
【識別番号】230124763
【氏名又は名称】戸川 委久子
(72)【発明者】
【氏名】松本 紘一
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-152663(JP,A)
【文献】特開2008-075190(JP,A)
【文献】実開平01-136190(JP,U)
【文献】特開昭59-187655(JP,A)
【文献】特開2020-172721(JP,A)
【文献】国際公開第2001/044551(WO,A1)
【文献】特開2000-027057(JP,A)
【文献】特開2017-000094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 1/00-1/28
D04B 21/00-21/20
A41D 27/00-27/28
A41D 31/00-31/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏の地編組織が厚さ方向に平行に配置され、これら地編組織を連結糸で帯状に繋いだ二重編地から構成される立体構造編物を用いた衣類用生地であって、
少なくとも一方の地編組織は、六角形の網目孔が隣接する辺を共有して、当該辺に垂直な方向に並設された列と、
四角形の網目孔が隣接する頂点を共有して、前記六角形の網目孔の列と同一方向に並設された列とが、
前記六角形の網目孔における隣接する辺以外の辺と、前記四角形の網目孔における辺とが共通の辺として交互に並設されて構成される一方、
一方の地編組織と他方の地編組織とは同一の編組織からなり、
一方の地編組織と他方の地編組織とは、一方の地編組織の六角形の網目孔と他方の地編組織の四角形の網目孔とが対向する位置で配置され、
前記連結糸は、
一方の地編組織を上から見た状態において、上下の地編組織の辺同士或いは辺と頂点とが重なって見える部分では上下の地編組織間を略垂直になるように連結されており、その他の部分では辺同士或いは辺と頂点との間を斜めになるように連結されており、
前記表裏の地編組織の少なくともいずれか一方に、繊維が起毛していることを特徴とする立体構造編物を用いた衣類用生地。
【請求項2】
前記連結糸は、一方の地編組織の前記四角形の網目孔における隣接する頂点と、対向する他方の地編組織の前記六角形の網目孔における隣接する辺との間は略垂直に連結され、その他の部分は斜めに連結されていることを特徴とする請求項1に記載の立体構造編物を用いた衣類用生地。
【請求項3】
前記起毛は、地編組織を構成している繊維とは別の繊維から成ることを特徴とする請求項1または2に記載の立体構造編物を用いた衣類用生地。
【請求項4】
前記衣類用生地端部及び/又は任意の位置において、鎖編同士を地編組織の糸材又は挿入糸で結束することで固定された帯状部が形成されていることを特徴とする、請求項1~3の何れかに記載の立体構造編物を用いた衣類用生地。
【請求項5】
前記帯状部における前記表裏の地編組織の少なくともいずれか一方に、短冊状又はテープ状の布帛を縫合したことを特徴とする、請求項4に記載の立体構造編物を用いた衣類用生地。
【請求項6】
前記請求項1~5の何れかに記載の立体構造編物を用いた衣類用生地によって縫製された衣類であって、
前記六角形の網目孔及び四角形の網目孔の列の方向が胴回り方向及び腕回り方向、或いは腰回り方向及び太もも回り方向となるように縫製された衣類。
【請求項7】
前記請求項1~5の何れかに記載の立体構造編物を用いた衣類用生地によって縫製されたブラジャーであって、
前記六角形の網目孔及び四角形の網目孔の列の方向が胸回り方向となるように縫製されたブラジャー。
【請求項8】
前記請求項1~5の何れかに記載の立体構造編物を用いた衣類用生地によって縫製された帽子であって、
前記六角形の網目孔及び四角形の網目孔の列の方向が額回り方向となるように縫製された帽子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体構造編物を用いた衣類用生地、及びそれによって縫製された衣類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
保温性に優れた衣類用生地にフリース生地がある。フリース生地はポリエチレンテレフタレートから成る柔軟性のある起毛繊維素材であり、保温性が高いうえに通気性があり、軽量で肌触りが柔らかい等の特徴を持つ。
【0003】
しかし、一般的なフリース生地は、起毛した極細の化学繊維を生地の表面に起毛させたものであるが、起毛させた繊維自体が細いことに加え、両面パイル編みした後にシャーリングカットしてあるため、パイル網のループが一部切れており、きめ細かな触感を呈するものの、押圧に対するクッション性に欠けるという問題がある。
【0004】
また、フリース生地の保温性は、主に起毛した繊維間の空気層による断熱作用によるものであり、起毛の短いものは保温性が十分とは言えず、防寒用の生地としては問題があった。
【0005】
一方、従来においては、裏地の一部又は全部を構成する二重編地をレジャー用ベストの裏地として採用することにより、通気性に加えて、対衝撃吸収性にも優れたレジャー用ベストを提供する技術が知られている。この場合、裏地の二重網地と表地布帛との着脱が可能に結合した衣類の技術として開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかし、この技術では、表地を取り付けた状態においては保温性があるものの、通気性は低くなる一方、表地を取り外せば通気性は高くなるものの、保温性に欠ける。
【0007】
このように、裏地に通気性に優れた二重網地を採用したとしても、通気性に乏しい表地と組み合わせた使用を前提としているため、保温性と通気性を両立するものではなかった。しかも、冬季や夏季など季節ごとに、二重網地の裏地の着脱をしなければならず、通気性と保温性の両立のみならず、裏地着脱の不便さも問題となる。
【0008】
さらに、技術分野は「保温性、衝撃吸収性を兼備するレジャー用ベスト」であって、生地としての風合いや触感等については、何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、保温性と通気性を両立させるとともに、人の身体形状や動作に応じて柔軟に伸縮して着心地が良好であり、荷重がかかっても立体編地の構造が崩れない優れたクッション性を発揮する立体構造編物を用いた衣類用生地、及びそれによって縫製された衣類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を説明すれば、次のとおりである。
【0012】
本発明の立体構造編物を用いた衣類用生地(以下、「衣類用生地」)は、
表裏の地編組織と、
前記地編組織を連結する連結糸とからなり、
前記地編組織は、六角形の網目孔と四角形の網目孔が交互並設された構成(詳細後述)に編成され、
前記連結糸は、一方の地編組織と他方の地編組織との間で略垂直に連結される部分と斜めに連結される部分によって構成されること
を特徴とするとともに、
前記表裏の地編組織の少なくともいずれか一方に、繊維を起毛させて構成されていること
を特徴とする。
【0013】
(表裏の地編組織の網目構成)
ここで、前記裏表の地編組織は、六角形の網目孔と四角形の網目孔が交互併設された構成(以下「ハニカム・ダイヤ構造」)であり、その構成の詳細は以下のとおりである。
【0014】
前記ハニカム・ダイヤ構造の構成は、六角形の網目孔が隣接する辺を共有して、当該辺に垂直な方向に並設された列と、四角形の網目孔が隣接する頂点を共有して、前記六角形の網目孔の列と同一方向に並設された列とを有する構成である。
【0015】
さらに、前記六角形の網目孔における隣接する辺以外の辺と、前記四角形の網目孔における辺とを共有させることにより、前記六角形の列と四角形の列とを交互に並設して配列させる構成である。
【0016】
(地編組織・六角形の網目孔の構成)
前記六角形の網目孔は、六角形の網目孔における隣接する辺の長手方向(以下、「縦方向」)を縦向き、前記縦方向と垂直な方向(以下、「横方向」)を横向きとして地編組織を上から見たとき、縦方向に平行な二辺に対して、両辺の両端から所定角度傾いた辺を斜め方向に延設した六角形となるように構成されている。
【0017】
ここで、横方向に隣り合う六角形において、縦方向に平行な辺は隣り合う辺同士互いに共有する辺となっており、当該隣り合う辺を成す鎖編が線状に並んで結合したやや太く剛性のある辺となっている(以下、「共有隣接辺」)。
【0018】
また、その他の所定角度傾いた辺(以下、「斜辺」)は単独の鎖編によって辺を成し、前記共有隣接辺よりも曲げ剛性の低い辺となっている。このような構成により、六角形の網目孔は、縦方向に平行な辺を含むが、横方向に平行な辺は含まない構成となっている。
【0019】
(地編組織・四角形の網目孔の構成)
一方、前記四角形の網目孔について詳述すると、地編組織を上から見たとき、各頂点が上下左右に配置された菱形となるように配置されており、横方向に並ぶ隣り合う各頂点同士を互いに共有して横方向に並設されている(以下、「共有隣接点」)。この共有隣接点は横方向に隣り合う四角形の鎖編がごく少ない編目数で線状に並んで結合している部分であるが、略頂点とみなすことができる。
【0020】
また、四角形の各辺は、単独の鎖編が縦方向及び横方向のいずれに対しても所定の角度ずつ傾いて配置され、四角形の各辺は前記六角形の斜辺と共通の辺として配置されている。このような構成により、四角形の網目孔は、全ての辺が縦方向及び横方向のいずれにも平行ではない構成となっている。
【0021】
(裏表の地編組織の配置)
そして、一方の地編組織と他方の地編組織とは、同一の網目孔の編組織からなり、一方の地編組織と他方の地編組織とが、一方の地編組織の六角形の網目孔と他方の地編組織の四角形の網目孔とを対向する位置で配置している。このとき、他方の地編組織の共有隣接点は、一方の地編組織の共有隣接辺の中央部と重なって見える位置に配置するのが好ましい。
【0022】
(連結糸の配置)
本発明における連結糸は、一方の地編組織と他方の地編組織との間で略垂直に連結される部分と斜めに連結される部分とを有している。
詳述すると、連結糸は、一方の地編組織の六角形或いは四角形の辺を成す鎖編と、他方の地編組織の所定形状の網目孔の辺との間に挿入されることで、地編組織間を帯状に連結している。
【0023】
ここで、地編組織を上から見たとき、上下の地編組織の辺同士或いは辺と頂点とが重なって見える部分では、連結糸が上下の地編組織間を略垂直になるように配置されており、その他の部分では、辺同士或いは辺と頂点との間を連結糸が斜めに傾くように配置されている(以下「斜交傾斜連結構造」)。
【0024】
また、地編組織を上から見たときに、片方の地編組織の辺或いは頂点と、他方の地編組織の辺或いは頂点との離間距離が大きいほど連結糸の傾きが大きくなるように構成されている。
【0025】
そして、連結糸が略垂直に配置された部分から見た場合に、前記連結糸と隣り合う連結糸ごとに、表裏の地編組織を連結する連結糸の傾斜が垂直よりも漸増するとともに、傾斜が最大に達すると、その傾斜が漸減して再び垂直に近くなるように構成されている。
【0026】
すなわち、連結糸が垂直に配置されている部分のひとつ隣の連結糸は、垂直よりやや斜めに傾いた連結糸となっており、さらにその隣の連結糸は、前記傾いた連結糸よりもさらに斜めに傾いた連結糸となっている。このように、斜めに傾いている連結糸は、垂直に配置された連結糸の部分を起点に、傾きが最大となる部分まで、その傾きが漸次大きくなるように並んでいる。
【0027】
また、傾きが最大となった連結糸のさらに隣の連結糸は、今度は傾きがやや小さくなった連結糸となっており、そのさらに隣の連結糸は、前記傾きがやや小さくなった連結糸よりもさらに傾きが小さくなった連結糸となっている。このように、前記のとおり傾きが漸増して傾きが最大となった連結糸に続いて、傾きが再び垂直となる部分まで、その傾きが漸次小さくなるように並んでいる。
【0028】
(地編組織の起毛の構成)
このように構成された二重編地において、表裏の地編組織の少なくともいずれか一方には、繊維を起毛させている。この繊維は、地編組織を構成している糸材の繊維を毛羽立たせて起毛したものであってもよいが、静電気植毛加工によって別の繊維を固着させて起毛させることもできる。
【0029】
(地編組織の端部の構成)
他方、本発明では、前記構成の衣類用生地において、横方向の両端部或いはいずれか一方の端部や任意の位置を、複数の網目孔が折り畳まれるように縮めて、縮めたことで隣接した地編組織の鎖編同士を、地編組織を構成している糸材やモノフィラメント等から成る強度のある挿入糸で縛って固定する構成とすることもできる。
また、衣類用生地の六角形及び四角形の網目孔が大きい場合には縫合が難しいため、前記端部や任意の位置にストライプ状の地編部を設けて縫合することもできる。
さらに、前記帯状部には、短冊状又はテープ状の布帛を縫合する構成とすることもできる。
【0030】
(衣類用生地を用いた衣類・上着類の構成)
前記衣類用生地を用いた衣類として、ベストやアンダーシャツ等に縫製する場合には、前身頃及び後身頃を二重編地の横方向が胴回り方向となるように構成することが好ましく、袖を二重編地の横方向が腕回り方向となるように構成することが好ましい。
【0031】
(衣類用生地を用いた衣類・ズボン類の構成)
また、前記衣類用生地を用いてズボン等に縫製する場合には、二重編地の横方向が腰回り方向及び太もも回り方向となるように構成することも可能である。
【0032】
(衣類用生地を用いた衣類・ブラジャーの構成)
さらに、前記衣類用生地を用いてブラジャーに縫製する場合には、二重編地の横方向が胸回り方向となるように構成することも可能である。
【0033】
(衣類用生地を用いた衣類・帽子の構成)
加えて、前記衣類用生地を用いて帽子に縫製する場合には、二重編地の横方向が額回り方向となるように構成することも可能である。
【発明の効果】
【0034】
(地編組織にハニカム・ダイヤ構造を採用することによる効果)
本発明は、編みあげた衣類用生地を横方向に広げることで、ハニカム型やダイヤ型の網目孔を有する裏表の地編組織が連結糸によって離間して支持された立体構造(ハニカム・ダイヤ構造)が現れるという点に特徴がある。
かかるハニカム・ダイヤ構造を有する本発明の衣類用生地は、後述のような仕組みで伸縮することにより、人の身体の形状や動きに沿った伸縮性を発揮するため、衣類に仕立てた場合、着脱容易で動きやすい衣類を提供することが可能となる。
【0035】
(地編組織の伸縮の仕組み)
地編組織の伸縮の仕組みについて詳述すると、地編組織を横方向に引っ張った場合には、斜辺が角度を変化させるように変形する一方、共有隣接辺は、ほとんど変形することがない。これは、共有隣接辺と斜辺との交点及び共有隣接点を支点として斜辺が角度を変化させる作用による。斜辺が角度を変化させることによって地編組織が縦方向にやや縮んだ分、地編組織全体が横方向に伸長することとなる。
【0036】
一方、横方向に伸長した地編組織は、角度を変化させた斜辺が元の角度に戻ろうとすることにより地編組織全体が収縮して、元の状態に戻ろうとする。この収縮の仕組みは、共有隣接辺と斜辺との交点及び共有隣接点が、固定された支点であるため、斜辺が角度を変化させることによって一端が固定されたバネのように働く作用による。
【0037】
また、縦方向に引っ張った場合には、共有隣接辺が縦方向と平行であるため、引っ張り荷重に対して抵抗し、変形することがない。しかし、斜辺は、縦方向に対して所定角度傾斜しているため、引っ張り荷重を受けて共有隣接辺と斜辺との交点及び共有隣接点を支点として斜辺同士の角度を小さくする方向に角度が変化する。この角度の変化によって地編組織が横方向に縮んだ分、地編組織全体が縦方向に伸長することとなる。
【0038】
縦方向の伸長の場合も、横方向の場合と同様、縦方向に伸長した衣類用生地は斜辺が元の角度に戻ろうとすることにより、地編組織全体が収縮して、元の状態に戻ろうとする。
【0039】
さらに、斜め方向に引っ張った場合には、網目孔を構成している斜辺の一対が引っ張り方向に対して略平行になるため、引っ張り荷重に対して抵抗し、変形することがない。その一方で、共有隣接辺は引っ張り方向に対して角度を持ち、他の一対の斜辺は湾曲して緩むこととなる。
【0040】
そのため、縦方向に対して平行であった共有隣接辺は、引っ張り方向にやや傾斜することとなり、傾斜したことによる縦方向及び横方向の変位量だけ、地編組織全体に斜め方向に伸長させる力が働くこととなる。
【0041】
しかし、地編組織全体に斜め方向に伸長させる力が働いたとしても、六角形の網目孔の列と、四角形の網目孔の列とが交互に並設された構成(上記ハニカム・ダイヤ構造)としていることにより、縦方向に平行な共有隣接辺が六角形の網目孔の列にしか含まれず、傾斜する辺の数が少ないため、全体として斜め方向の伸びが少ないという特性を発揮する。
【0042】
これらのような特性を持つ二重編地であることにより、例えば二重編地の横方向を胴回り方向として上着に仕立てることにより、胴回り方向に広がって脱ぎ着しやすく、身体の形状や動きに沿って衣類用生地が伸縮するので、身体フィット性に優れている。
【0043】
また、袖の部分の縫製についても、二重編地の横方向が腕回り方向になるように仕立てることにより、生地が腕回り方向に広がるので、衣服の着脱の際に袖を通しやすくなる。
【0044】
また、二重編地が縦方向にも伸びることにより、上着やズボンにした場合に、腕や脚の屈伸の際に二重編地が縦方向に伸び、運動性が良くなる。
【0045】
さらに、二重編地を伸ばした状態において、各網目孔の列が均等に伸びるため、二重編地全体において網目孔が均一になり、保温性及び通気性において均一になる。
【0046】
(連結糸に斜交傾斜連結構造を採用したことによる効果)
また、連結糸については、連結糸に斜交傾斜連結構造を採用していることにより、外部から厚さ方向に圧力を受けた場合でも、連結糸が撓んで反発することにより、表裏の地編組織の間隔が潰れにくく、優れたクッション機能を発揮する。
【0047】
本発明の衣類用生地を衣服に仕立てた場合、例えば、上着にして着用した状態で荷物を背負ったり、壁等に寄りかかったりして、本発明生地の上着の一部に過重がかかったとしても、連結糸が撓んで反発することにより、表裏の地編組織の間隔が維持されるので、これがクッションとして機能することになる。
【0048】
また、運動時に衣類用生地が変形したとしても、前記地編組織の伸縮の作用や、斜交傾斜連結構造によって連結糸が反発し立体構造が復元する作用により、衣類の形態安定性に優れる。
【0049】
さらに、本発明の衣類用生地を畳んで収納する場合でも、かかるクッション機能により、広げて展開すれば、元の形状に復元することになるので、収納性と形状復元性を発揮することが可能となる。
【0050】
(表裏の地編組織を連結する連結糸の配置構成による効果:クッション性)
さらに、本発明の衣類用生地のクッション性について詳述すると、連結糸が垂直に配置された部分を有することで、垂直の連結糸が支柱のように垂直方向の荷重を支えるため、二重編地全体として潰れにくく強度をもたせることができる。また、連結糸が斜めに配置された部分を有することで、連結糸が撓んで反発することで二重編地の厚みを復元させ、形態を安定させることができる。
【0051】
ここで、外部からの圧力の原因によっては、外側の地編組織の一部が斜め方向の荷重を受ける場合もある。しかし、外側となる地編組織が斜め方向に変形しにくいことにより、前記連結糸が引っ張られにくくなり、倒れてクッション性を失うことがない。
【0052】
(表裏の地編組織を連結する連結糸の配置構成による効果:保温性)
かように連結糸が表裏の地編組織の間隔を維持するクッション機能を発揮させることから、本発明の衣類用生地は、二重編地の網目孔の各辺に沿って連結糸が配置されることにより、この連結糸によって区画された空間部分が形成されるので、その空間部分に空気層を保持する機能を発揮する。空気層が保持されることにより、優れた保温性を発揮することが可能となる。
【0053】
これに対して、連結糸の配置されていない網目孔の部分は通気性が良いため、衣類に仕立てた場合に蒸れにくく快適である。このように、本発明の衣類用生地は、連結糸の配置の有無によって、空気層を保持して保温性に優れた部分と、通気性が良く蒸れを防止する部分とが併存しており、保温性と通気性を両立することが可能な構成となっている。
【0054】
(地編組織の起毛による効果)
本発明の衣類用生地を衣類に仕立てた場合に、外気と触れる側の二重編地の繊維を起毛させることによって、起毛した繊維間にも空気層を形成させることが可能となるので、保温性がさらに向上する。しかも、衣類用生地の外表に微細な繊維が起毛していることによって、柔軟な触感が実現されるので、肌触りの良い触感の良い生地となる。
【0055】
かかる起毛は、肌に直接触れる内側の地編組織に設けても、起毛繊維間に空気層を形成することにより保温効果を発揮する。また、生地の裏側(人肌に触れる内側)に起毛させた場合には、肌触りの良さを着用者が体感可能となるとともに、起毛繊維間に汗が吸収されることにより、吸汗性も向上する。
【0056】
起毛については、地編組織を構成する糸材の繊維段階から起毛させる場合には、特殊な工程を要することなく、起毛させた糸材で地編組織を構成させれば足りるので、製造工程は容易である。
【0057】
また、地編組織に編成後に起毛させる場合には、起毛の繊維の長さや色、素材の繊維を任意に選択することが可能となる。特に静電気植毛加工によって起毛させる場合には、任意の長さや色、素材の繊維を選択することができ、装飾性や触感の選択の幅が広がる。
【0058】
このように、繊維を起毛させた衣類用生地の構成を採用することで、衣類用生地として柔らかで高級な質感を実現するとともに、衣類に仕立てた場合の着心地や装飾性を向上させることが可能となる。
【0059】
(端部の帯状部の効果)
他方、本発明の衣類用生地の端部に、他の衣類用生地と帯状部とを、鎖編同士を地編組織の糸材又は挿入糸で結束して結合した帯状部を設けることで、衣類に仕立てる場合の縫製作業を容易にする効果も発揮させることが可能となる。
【0060】
詳述すると、衣類用生地の端部は、裁断による繊維の解れが出やすく、その解れ部分から本発明衣類用生地の組織の崩壊を起こしやすい。また、かかる解れ部分は、生地の組織が弱くなっているため、縫製が難しい。
【0061】
そこで、端部の解れを防止するために、本発明の衣類用生地の端部を折り畳んで縫合した帯状部を設けるとともに、帯状部どうしを縫合して結合すれば、衣類に仕立てる場合にも、結合部の強度が高くなり、結合部を縫製して縫い合わせることにより、縫製作業もし易くなる。
【0062】
また、帯状部に短冊状またはテープ状の布帛を縫合して補強することで、他の衣類用生地と帯状部同士を縫合する際、ミシンで布帛に対しても糸を通して縫合することができるため、縫合作業がより容易になるのみならず、縫合部が丈夫になり、衣類に仕立てた場合の形態も安定する。さらに、本発明の衣類用生地をショールやストールに仕立てる場合には、端部の帯状部や布帛に、毛糸や編成した紐等を長手方向に縫合して、端部に房などの装飾部を設けることも可能となる。
【0063】
加えて、前記帯状部や布帛は、端部だけではなく、地編組織の任意の位置に縦方向に帯状部を設けることもでき、縦方向の伸びを抑えたり、任意の位置に縫合や接合する部分を作ったりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】本発明の実施例1における立体構造編物を用いた衣類用生地を表す概略断面図である。
【
図2】本発明の実施例1における表側の地編組織を表す概略平面図である。
【
図3】本発明の実施例1における表側の地編組織の横方向の引っ張りの様子を表す概略平面図である。
【
図4】本発明の実施例1における表側の地編組織の斜め方向の引っ張りの様子を表す概略平面図である。
【
図5】本発明の実施例1における立体構造編物を用いた衣類用生地を表す概略平面図及び概略斜視図である。
【
図6】本発明の実施例1における連結糸の傾きの様子を表す説明図である。
【
図7】起毛処理方法及びシャーリング加工の説明図である。
【
図9】本発明の実施例2における帯状部及び布帛設けた衣類用生地を表す概略平面図である。
【
図10】本発明の実施例2における上着を表す概略平面図及び概略断面図である。
【
図11】本発明の実施例3におけるズボンを表す概略平面図である。
【
図12】本発明の実施例4におけるショールを表す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
本発明の実施例を
図1~
図8に基づいて説明する。なお、本発明はこれらの図面に示す態様に限定されるものではない。
【0066】
『実施例1』
まず、本実施例の衣類用生地の基本構成について説明すると、
図1に示すように、表裏の紐状の地編組織1・2を厚さ方向に平行に配置して、これらを連結糸3で帯状に繋いだ二重編地から衣類用生地Tを構成している。この衣類用生地Tはダブルラッセル機によって編成することができるが、表側の地編組織1と、裏側の地編組織2とが同じ網目孔の配列を有する地編組織であり、裏表の地編組織1・2をずらして配置している(後述する)。
【0067】
ここで、裏表の地編組織1・2について説明すると、表側の地編組織1のみを抜き出した
図2に示すように、本実施例の裏表の地編組織1・2は六角形の網目孔H・H…と、四角形の網目孔S・S…とを有している。六角形の網目孔H・H…は、隣接する辺を共有した共有隣接辺11・11…を有し、共有隣接辺11・11…に垂直な方向(横方向)に並設された列を形成している。また、四角形の網目孔S・S…は、隣接する頂点を共有した共有隣接点12・12…を有し、六角形の網目孔H・H…の列と同一方向(横方向)に並設された列を形成している。
【0068】
そして、共有隣接辺11・11…以外の辺と、四角形の網目孔S・S…における辺とを共有して斜辺13・13…とし、六角形の網目孔H・H…の列と四角形の網目孔S・S…の列とを当該列に垂直な方向(縦方向)に交互に並設して構成している。
【0069】
共有隣接辺11・11…や斜辺13・13…は、ループを編み込んで編成された鎖編C・C…で構成されており、本実施例では鎖編C・C…に用いる糸材としてスパン糸を使用している。このスパン糸としては、繊維長が短く毛羽立ちのあるウール、綿、麻、アクリル等の短繊維の紡績糸を用いている。また、この糸の素材は、必要に応じてナイロンやポリエステル、ポリウレタン、炭素繊維、アラミド繊維等を用いたマルチフィラメント糸を適宜選択したり、ゴム等の弾性糸を一部に用いたりすることができる。場合によっては、緩めに編成した鎖編C・C…の間に弾性糸を挿入して構成することもできる。
【0070】
このような糸材から成る鎖編C・C…によって形成された共有隣接辺11・11…は、鎖編C・C…が線状に並んでループ同士を結合したやや太い辺となっている。また、共有隣接点12・12…は、鎖編C・C…がごく少ない編目数で線状に並んでループ同士を結合しており、略点状であるとみなすことができ、いずれも剛性が高く結合部が緩まないようになっている。
【0071】
斜辺13・13…は、六角形の網目孔H・H…と四角形の網目孔S・S…の辺を兼ねており、単独の鎖編C・C…が縦方向及び横方向のいずれに対しても所定の角度ずつ傾いて配置されている。本実施例では、斜辺13・13…は45度ずつ傾いた状態で編成しており、四角形の網目孔S・S…は正方形が45度傾いた菱形を成している。それ故、六角形の網目孔H・H…は正六角形ではなく、斜辺13・13…よりも共有隣接辺11・11…の方が長くなっている。なお、四角形の網目孔S・S…は、正方形に限定するものではなく、必要に応じて様々な四角形の網目孔とすることができる。
【0072】
以上のような網目孔を有する裏表の地編組織1・2は、六角形の網目孔H・H…の列と四角形の網目孔S・S…の列とを交互に並設して構成したことにより、縦方向及び横方向には柔軟に伸縮し、斜め方向には伸縮しにくい形状でありながら、伸ばした状態でも地編組織全体において網目孔が均一になるという特徴がある。
【0073】
図3に示すように、横方向に引っ張った場合には、共有隣接辺11・11…と斜辺13・13…との交点14・14…を支点として斜辺13・13…が共有隣接辺11・11…に対して垂直に近づく方向に角度を変化させる。また、共有隣接点12・12…を支点として斜辺13・13…同士が平行に近づく方向に角度を変化させる。このように斜辺13・13…が蛇腹のように角度を変化させることで、四角形の網目孔S・S…がプリーツのような働きをしている。このような作用により、四角形の網目孔S・S…が縦方向にやや縮んだ分、裏表の地編組織1・2全体が横方向に均等に伸びることで、網目孔が地編組織全体に亘って均一となる。
【0074】
また、縦方向に引っ張った場合には、前記横方向に引っ張った場合と逆の作用により縦方向に伸びることとなる。ここで、縦方向に引っ張る場合には、共有隣接辺11・11…が縦方向と平行であるため、引っ張り荷重に対して抵抗し、傾斜したり湾曲したりすることはない。しかし、斜辺13・13…は、縦方向に対して所定角度傾斜しているため、引っ張り荷重を受けて共有隣接辺11・11…と斜辺13・13…との交点14・14…及び共有隣接点12・12…を支点として斜辺13・13…同士の角度を小さくする方向に角度が変化する。この角度の変化によって地編組織が横方向に縮んだ分、裏表の地編組織1・2全体が縦方向に伸びることで、網目孔が地編組織全体に亘って均一となる。
【0075】
さらに、斜め方向に引っ張った場合には、
図4(a)に示すように、網目孔を構成している斜辺13・13…の一対が引っ張り方向に対して略平行になるため、引っ張り荷重に対して抵抗し、変形が少ない。その一方で、共有隣接辺11・11…は引っ張り方向に対して角度を持ち、他の一対の斜辺13・13…は湾曲して緩むこととなる。
【0076】
そのため、縦方向に対して平行であった共有隣接辺11・11…は、引っ張り方向にやや傾斜することとなり、傾斜したことによる縦方向及び横方向の変位量だけ、裏表の地編組織1・2全体が斜め方向に伸びることとなる。
【0077】
ここで、仮に、
図4(b)に示すように、地編組織の全体が六角形のハニカム状の網目孔の場合は、各列全てが六角形の網目孔H・H…であるため、共有隣接辺11・11…が六角形の網目孔H・H…の各列全てに含まれており、斜めに引っ張った場合には、各列全てにおいて共有隣接辺11・11…が傾斜することとなる。そのため、斜め方向の変位量が大きくなり、地編組織全体として斜め方向に大きく伸びることとなる。
【0078】
しかし、本実施例においては、六角形の網目孔H・H…の列と、四角形の網目孔S・S…の列とが交互に並設された構成としていることにより、縦方向に平行な共有隣接辺11・11…が六角形の網目孔H・H…の列にしか含まれず、傾斜する辺の数が少ないため、裏表の地編組織1・2全体として斜め方向の伸びが少ない。
【0079】
そして、
図5(a)に示すように、裏表の地編組織1・2を上から見たとき、表側となる一方の地編組織1における六角形の網目孔Hと、裏側となる他方の地編組織2の四角形の網目孔Sとが対向する位置としている。また、他方の地編組織2の共有隣接点12が、一方の地編組織1の共有隣接辺11の中央部と重なって見える位置に配置している。
【0080】
このような配置にすることで、
図5(b)に示すように、一方の地編組織1の共有隣接辺11・11…の中央部と他方の地編組織2の共有隣接点12・12…間とは、連結糸3が略垂直に配置されることになる。また、一方の地編組織1の共有隣接辺11・11…及び斜辺13・13…と他方の地編組織2の斜辺13・13…及び共有隣接辺11・11…間とは、連結糸3が斜め方向に傾いて配置されることになる。特に斜辺13・13…の中央部同士間を連結する連結糸の傾きは最大となる。
【0081】
連結糸3に使用する糸材については、本実施例ではマルチフィラメント糸を使用している。また、強度や張力、弾性等を考慮してナイロンやポリエステル、ポリウレタン、炭素繊維、アラミド繊維等の素材を適宜選択したり、ゴム等の弾性糸を用いたりすることができる。また表裏の地編組織1・2間の連結糸3の長さを変えることで、衣類用生地Tの厚さを適宜変更できる。
【0082】
図6では、
図5(a)のa~d、a’に示す部分の連結糸の傾きを、
図6の(a)~(d)、(a’)に対応させて示している。ここで、
図6では連結糸3の傾きの様子の説明のため便宜上直線的としているが、実際にはやや湾曲して適度な緩みを持たせてある。これにより、裏表の地編組織1・2がせん断方向に柔軟に動きやすくなり、外部からのせん断方向の衝撃を受けた場合に、湾曲していた連結糸3が伸びてバネのように働き、クッション性が向上する。
【0083】
連結糸の傾きについて詳述すると、
図6に示すように、aの位置においては、前記のとおり共有隣接辺11・11…の中央部と共有隣接点12・12…間とは、連結糸3が略垂直に配置されており、共有隣接辺11・11…の鎖編Cと共有隣接点12・12…の鎖編Cとに連結糸3を編み込んで連結している。
【0084】
bの位置においては、斜辺13が横方向に対して45度斜め方向に傾いているため、縦方向と平行な共有隣接辺11から徐々に離間している中途部分である。そのため、斜辺13の鎖編Cと共有隣接辺11の鎖編Cとに連結糸3を編み込んで連結することにより、連結糸3は厚さ方向に対して若干傾いて連結されることとなる。
【0085】
cの位置は、表裏の地編組織1・2の互いの斜辺13が平行に最大距離で離間した位置であり、斜辺13・13同士間の鎖編C・Cに連結糸3を編み込んで連結することにより、連結糸3は厚さ方向に対して大きく傾いて連結されることとなり、その傾き角度は最大となる。
【0086】
そして、dの位置は、cの位置を基準としてbの位置と対向する位置であり、連結糸3はbの位置の傾きと同程度傾いた状態となる。また、aの位置と対向する位置のa’の連結糸3においては、aと同様の傾きとなっている。
【0087】
このように、連結糸3は略垂直に配置されるaの位置から、b、cと徐々に隣り合う連結糸3の傾きが大きくなるようになっており、次いでc、dの位置を経て傾きは徐々に小さくなり、再度a’の位置で略垂直となる。これが横方向に連続して配置されることで、二重編地全体において連結糸3が垂直に配置される部分と傾いて配置される部分とがバランス良く配置されることになる。
【0088】
本実施例では、連結糸3が垂直に配置された部分を有することで、垂直の連結糸3・3…が支柱のように垂直方向の荷重を支えるため、二重編地全体として潰れにくく強度をもたせることができる。この垂直な連結糸3・3…は、荷重に屈して撓んだ場合には座屈現象のように反発力を失ってしまうことになる。しかし、連結糸3が斜めに配置された部分を有することで、垂直な連結糸3・3…が潰れた場合であっても、若しくは潰れていなかったとしても垂直な連結糸3・3…と傾斜した連結糸3・3…とが協働して、連結糸3・3…がワイヤーバネのような作用により二重編地の厚みを復元させ、形態を安定させることができる。
【0089】
また、外部からの衝撃は垂直方向だけでなく、斜め方向からの荷重がかかることもある。この場合、垂直な連結糸3のみでは容易に倒れてしまうが、傾斜した連結糸3・3…を有することにより、斜め方向の荷重もバネのように反発してクッションのように二重編地が潰れることを防止することができる。
【0090】
さらに、傾斜角度が垂直方向から最大傾斜まで徐々に変化する連結糸3・3…であることにより、あらゆる方向からの荷重を柔軟に受け止め、また二重編地全体に亘ってバランス良く配置されるため、どの場所に荷重が作用しても、クッション性を発揮することができ、強度も均等となる。
【0091】
加えて、表側の地編組織1が斜め方向に変形しにくいことにより、二重編地に斜め方向のせん断力が作用した場合であっても、他方の地編組織2に対して一方の地編組織1が斜め方向に変形しにくいため、表側の地編組織1や連結糸3に局所的な引っ張り応力が発生しにくくなり、二重編地全体として強度が向上する。
【0092】
またさらに、連結糸3・3…が密に配置されていることにより、連結糸3・3…間は空気が通りにくくなっており、連結糸3・3…が網目孔の各辺に沿って林立することで、所定の大きさに区画された部分とみなすことができる。その区画された部分は空気層を形成しており、特に傾いて配置された連結糸3・3…は外気に向かって狭まるように開孔しているため、肌或いは下着との間で空間を形成している。
【0093】
このように、連結糸3・3…が密に配置される部分と、傾斜した部分は傾きが漸増、漸減するように連続的に配置された部分とを有することにより、空気層を形成することができ、優れた保温効果を発揮する。
【0094】
最後に、本実施例では、このように編成した二重編地において、表側の地編組織1に対して起毛処理を施している。この起毛処理は、
図7(a)に示すように、針布等を巻いたパイルロールR
1やカウンターパイルロールR
2を回転させて、これらロールの回転方向に逆行する方向で前記二重編地を走らせ、表側の地編組織1の表面のスパン糸から繊維を引っかき出すことによって起毛4・4…を生成する。そして、
図7(b)に示すように、起毛4・4…を一定の長さに刈り込んで平滑にするシャーリングを行い起毛の長さを整える工程を有する。
【0095】
また、起毛処理は、繊維が起毛する方法であれば種々の方法によって処理することができ、表側の地編組織1に接着剤を塗布し、静電気によって繊維を植毛して前記接着剤を固化させる静電気植毛加工(所謂フロッキー加工)等を用いることもできる。
【0096】
フロッキー加工は
図8に示すように、約3万ボルトの電圧が掛かる電極間に植毛繊維P・P…を配置することで、植毛繊維P・P…が一方の電極に吸い寄せられてその電位に帯電した後、他方の電極に吸い寄せられて他方の電位に帯電し、再び一方の電極に吸い寄せられるという動作を繰り返している。表側の地編組織1に接着剤Aを塗布した後この電極間に二重編地を通すことで、接着剤Aの塗布されている表側の地編組織1にのみ植毛繊維P・P…が付着し、温風Wで乾燥することで起毛4・4…を有する衣類用生地Tとすることができる。この場合、使用する植毛繊維Pは毛糸や綿糸、アクリルなど種々の素材を用いることができ、繊維長の選択の幅も広がる。
【0097】
このように表側の地編組織1を起毛させることによって、起毛4・4…の繊維間にも空気層ができ、保温性がより向上する。そして、細かい繊維が起毛していることによって、触り心地も柔らかで、触感の良い生地となる。
【0098】
この起毛4・4…は、肌或いは下着と触れる内側の地編組織2に設けることもでき、この場合であっても前記作用により同様の保温効果を発揮すると同時に、着用者自身の肌触りが良くなり、吸汗性も良くなる。
【0099】
以上のように、本実施例における衣類用生地Tは、繊維が起毛しているため柔らかで高級な質感を有し、ショールやストールにした場合には巻いたり羽織ったりしやすく、暖かである。また、柔軟に伸縮するため、衣類にした場合には着やすく運動性もよい一方、斜め方向には伸びにくいため形態安定性が良い。
【0100】
また、クッション性に優れ二重編地が圧力で潰れにくいため、上着として着用した際、かばんを背負ったり、壁に寄りかかったりした場合等であっても、保温性と通気性を保つことができ、常に快適な着心地となる。さらに、ズボン等にした場合に、椅子に座った場合でも臀部がクッション性により痛くなりにくいという特徴もある。
【0101】
『実施例2』
本発明の実施例2について
図9及び
図10に基づいて説明する。本実施例では、実施例1同様の二重編地である衣類用生地Tを用いているが、その両端部に帯状部Bを形成している点が異なる。
【0102】
帯状部Bについて詳述すると、
図9(a)に示すように、実施例1同様の構成の衣類用生地Tにおいて、横方向の両端部を、複数の網目孔を折り畳むように縮めて、縮めたことで隣接した表裏の地編組織1・2の鎖編C・C…同士をモノフィラメント等から成る強度のある挿入糸I・I…を編成して結束することで帯状の無地組織を作り、安定した生地としている。なお、挿入糸の代わりに、鎖編C・C…を構成している地編組織の糸材を用いて結束するように編成してもよい。
【0103】
表裏の地編組織1・2は、六角形の網目孔H・H…や四角形の網目孔S・S…によって鎖編C・C…間が疎であるために、衣類用生地T同士やその他の布地と縫合する際には、ミシンの針が網目孔に入りやすく、縫合ができない問題がある。しかし、帯状部Bを形成することによって、表裏の地編組織1・2が折り畳まれて鎖編C・C…間が密になり、ミシンの針が鎖編C・C…に入りやすく、縫合が可能となる。また、帯状部Bを衣類用生地Tの任意の位置に編成することによって、生地と生地とを縫合またはその他の布帛を接合することもできる。
【0104】
そして、本実施例では、
図9(b)に示すように、帯状部Bの裏側の地編組織2側に短冊状の布帛Fを配置して縫合している。このような構成にすることで、帯状部Bに対してミシンの針が入りやすいため、生地同士がより縫合しやすくなるとともに、丈夫にもなる。また、布帛Fの剛性により縦方向に伸びにくくなり、衣類としての形態が安定する。
【0105】
以上のような構成である衣類用生地Tを、
図10(a)に示すように前記帯状部B或いは布帛F同士が重なるように2枚用いて筒状に配置することで、衣類における前身頃及び後身頃を形成することができる。また、
図10(b)に示すように1枚の衣類用生地Tを同様に筒状に縫合することで、袖を形成することができる。そして、これらを組み合わせて、
図10(c)に示すような上着Jとすることが可能となる。この場合、帯状部Bや布帛Fは上着Jの内側に隠れるため、外観側からは見えても違和感はない。
【0106】
また、横方向に伸縮しやすいことにより、前身頃及び後身頃は胴回り方向に良く伸びて着やすく、フィット性が良いと同時に、縦方向にも適度に伸びるため肘や肩を動かした場合でも運動性が良い。
【0107】
さらに、伸びた状態においても網目孔が二重編地全体において均一な網目孔であるため、保温性及び通気性において全体的に均一となる。
【0108】
『実施例3』
本発明の衣類用生地及び衣類は、上記実施例の形態に限定されるものではなく、例えば
図11に示すように、実施例2と同様の衣類用生地Tを用いて、ズボンZとすることもできる。
【0109】
この場合であっても、帯状部Bの裏側の地編組織2側に短冊状の布帛Fを配置して縫合しており、生地同士がより縫合しやすく丈夫であると同時に、布帛Fの剛性によりズボンZとしての形態が安定する。
【0110】
また、横方向によく伸縮するため、ウエスト部分にゴムを入れることでフィット感のよいズボンZとすることができる。
【0111】
『実施例4』
さらに、
図12に示すように、実施例2と同様の衣類用生地Tを用いて、ショールLとすることもできる。
【0112】
この場合、端部に縫合する布帛Fに柄のあるものや印刷の施されたものを用い、裏表の両側に設けることができる。また、端部の布帛Fや鎖編C・C…に毛糸やモール糸等の装飾糸Y・Y…を結束し、長手方向に縫合して装飾することもでき、その場合は、保温性やデザイン性をより一層高めることができる。
【0113】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、本発明は図示の実施例に限定されるものではなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であり、例えば、裏表の地編組織をニット地や不織布、織布、布地、フィルムシートで挟み込んで縫合或いは接合し、空気層を作出することでより保温性の高い衣類用生地とすることもできる。
【0114】
また、衣類用生地のクッション性と通気性を活かして、安全パッドや腰当てクッション、プロテクター、シンガード等に用いたり、頭部に装着するものとして帽子以外にも、ヘルメットやハチマキ等に用いたりすることもでき、いずれも本発明の技術的範囲に属する。
【0115】
なお、本発明の立体構造編物及びそれを用いた衣類用生地の用途に関しては、上着やズボン、ショール等に使用したりする以外にも、ハニカム・ダイヤ構造の諸機能を活用して、下記の諸用途に応用することもできる。
【0116】
すなわち、園芸ハウス、トンネルハウス、害鳥対策ネット、害獣対策ネット、防風・防砂ネット、落下防止ネット、遮光ネット等の農業資材や、宅地、グラウンド、造成地等の排水用ネットや吸水ネット、或いは法面の保護ネットや種子吹付け用ネット、土嚢、モルタル及び樹脂材の下地材等の土木資材用として幅広く利用できる。
【0117】
また、その他にも、医療用包帯、医療用ホットウォーマー等の医療用資材、ヘルメット、靴のインソール、椅子やベンチ、カーペットやベッドマット及びその芯材や下張り用クッション材等のクッション用途、ゴミ取り用または空気清浄用のフィルターや有菌浄化フィルター、エアコン用フィルター及び水の浄化フィルター等の各種フィルター、布団やマットの中綿やスペーサ、芯材、掛け布団、ブランケット等の寝装具、洗濯ネット、インテリア用カーテン、窓用保温カバー、手芸用品等の家庭用品、乗物用シートやアスファルト運搬トラックカバー等の車両用資材、その他蓄熱器のカバー、水槽のカバー、海苔網やバイオ基布、農林漁業用ネット、水抜き及び通気用ドレーン、グラスウール断熱、保温用運搬ボックス、防音材用基布、不織布の基布、合成樹脂複合資材の基布等の各種工業分野に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0118】
1 表側の地編組織
11 共有隣接辺
12 共有隣接点
13 斜辺
14 交点
2 裏側の地編組織
21 縦方向の辺
22 横方向の辺
23 格子節点
3 連結糸
4 起毛
B 帯状部
C 鎖編
F 布帛
H 六角形の網目孔
I 挿入糸
J 上着
L ショール
P 植毛繊維
R1 パイルロール
R2 カウンターパイルロール
S 四角形の網目孔
T 立体構造編物を用いた衣類用生地
W 温風
Y 装飾糸
Z ズボン