(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】光熱変換基板、その製造方法、それを用いた赤外線センサおよび反応性基板
(51)【国際特許分類】
G01J 1/02 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
G01J1/02 C
(21)【出願番号】P 2021027354
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2023-11-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、「光と構造制御による温調機能の開拓」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】石井 智
(72)【発明者】
【氏名】長尾 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】村井 俊介
(72)【発明者】
【氏名】東野 真
(72)【発明者】
【氏名】田中 勝久
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-226891(JP,A)
【文献】特開2010-210293(JP,A)
【文献】特開2018-018920(JP,A)
【文献】国際公開第2021/024909(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/176157(WO,A1)
【文献】特開2021-026170(JP,A)
【文献】特開2013-208621(JP,A)
【文献】特開2020-124665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B82Y 5/00 - B82Y 99/00
F24S 10/00 - F24S 90/10
G01J 1/00 - G01J 1/60
G01J 5/00 - G01J 5/90
G01J 11/00
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G02B 5/20 - G02B 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の照射によって発熱する光熱変換基板であって、
前記光の波長λにおける複素誘電率の虚部が正である材料からなり、
表面に互いに独立したピラーからなるナノ構造を有し、
前記ピラーの周期は、前記波長λの2倍以下であり、
前記ピラーの幅に対する前記ピラーの高さの比は、
5以上
20以下であり、
前記ピラーの周期に対する前記ピラーの幅の比は、0.
3以上
0.7以下の範囲である、光熱変換基板。
【請求項2】
前記ピラーの幅に対する前記ピラーの高さの比は、15以下である、請求項1に記載の光熱変換基板。
【請求項3】
前記ピラーの周期に対する前記ピラーの幅の比は、0.6以下の範囲である、請求項1または2に記載の光熱変換基板。
【請求項4】
前記ピラーの周期は、前記波長λ×1.1以下である、請求項1~
3のいずれかに記載の光熱変換基板。
【請求項5】
前記ピラーは、角柱または円柱である、請求項1~
4のいずれかに記載の光熱変換基板。
【請求項6】
前記ピラーは、中空である、請求項
5に記載の光熱変換基板。
【請求項7】
前記材料は、半導体、遷移金属窒化物、遷移金属炭化物、金属酸化物、ホウ化物、有機物、ガラス、および、グラファイトからなる群から選択される、請求項1~
6のいずれかに記載の光熱変換基板。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれかに記載の光熱変換基板を製造する方法であって、
光の波長λにおける複素誘電率の虚部が正である材料からなる基板にフォトレジストを塗布し、パターニングすることと、
前記パターニングされた基板をエッチングすることと
を包含する、方法。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれかに記載の光熱変換基板を製造する方法であって、
シリコン基板にフォトレジストを塗布し、パターニングすることと、
前記パターニングされたシリコン基板をエッチングすることと、
前記エッチングされたシリコン基板に光の波長λにおける複素誘電率の虚部が正である材料を堆積することと、
前記材料が堆積したシリコン基板をエッチングすることと
を包含する、方法。
【請求項10】
表面上で熱化学反応させる反応性基板であって、
前記反応性基板は、請求項1~
7のいずれかに記載の光熱変
換基板である、反応性基板。
【請求項11】
前記熱化学反応は、一酸化炭素の無害化、メタンの水蒸気改質、および、ドライリフォーミングからなる群から選択される反応である、請求項
10に記載の反応性基板。
【請求項12】
赤外線吸収基板と感温抵抗変化膜とを備えた赤外線センサであって、
前記赤外線吸収基板は、請求項1~
7のいずれかに記載の光熱変
換基板である、赤外線センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光熱変換基板、その製造方法、それを用いた赤外線センサおよび反応性基板に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光は、最も有望な自然エネルギーの1つであり、その利用方法が世界中で研究されている。太陽エネルギーの利用方法の1つに、太陽光を吸収して熱に変える光熱変換が知られている。
【0003】
例えば、窒化チタン(TiN)ナノ粒子による光熱変換の利用がある(例えば、特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、TiNナノ粒子が光熱変換に優れていることから、汚水や海水にTiNナノ粒子を添加することによる太陽光蒸留、水にTiNナノ粒子を添加することによる太陽熱温水器が、可能となることが示唆される。
【0004】
例えば、太陽光を熱源とした太陽熱光起電力(TPV)発電装置が知られている(例えば、特許文献2、3を参照)。TPV発電装置では、高い光熱変換効率を有する光吸収材料が用いられる。特許文献2では、光吸収材料として、二次元配列された周期的な表面微細凹凸パターンを形成する多数のキャビティを有するタングステン、タングステン基合金、モリブデン又はモリブデン基合金を開示する。特許文献3では、光吸収材料として、2種の異なる材料を用いたマイクロキャビティを有する構造体を開示する。
【0005】
しかしながら、特許文献2および3のいずれのキャビティ構造であっても、光照射によっても十分な温度上昇が得られるとはいえず、さらなる改良が求められている。
【0006】
赤外光でも光熱変換は起こり、実際にボロメータや焦電体、サーモパイルを用いる赤外線センサでは、赤外光を熱に変換して赤外光を検出している。市販の赤外線センサの受光部には、赤外光を広帯域に吸収する材料が使われている。特許文献4のような波長選択性をもった微細構造と赤外光検出材料を組み合わせた赤外線センサも、非特許文献1に示すように実証されている。どちらの場合でも、光吸収部の熱伝導率を低下させる構造は検討されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6587170号
【文献】特開2003-332607号公報
【文献】特開2015-230831号公報
【文献】特許第6380899号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Thang Duy Daoら,Adv.Sci.2019,6,1900579
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上から、本発明の課題は、光熱変換効率を増大させた光熱変換用基板、その製造方法、それを用いた赤外線センサおよび反応性基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による光の照射によって発熱する光熱変換基板は、前記光の波長λにおける複素誘電率の虚部が正である材料からなり、表面に互いに独立したピラーからなるナノ構造を有し、前記ピラーの周期は、前記波長λの2倍以下であり、前記ピラーの幅に対する前記ピラーの高さの比は、0.5以上であり、
前記ピラーの周期に対する前記ピラーの幅の比は、0.1以上1未満の範囲であり、これにより上記課題を解決する。
前記ピラーの幅に対する前記ピラーの高さの比は、1.25以上20以下の範囲であってもよい。
前記ピラーの幅に対する前記ピラーの高さの比は、2以上20以下の範囲であってもよい。
前記ピラーの周期に対する前記ピラーの幅の比は、0.1以上0.9以下の範囲であってもよい。
前記ピラーの周期に対する前記ピラーの幅の比は、0.3以上0.7以下の範囲であってもよい。
前記ピラーの周期は、前記波長λ×1.1以下であってもよい。
前記ピラーは、角柱または円柱であってもよい。
前記ピラーは、中空であってもよい。
前記材料は、半導体、遷移金属窒化物、遷移金属炭化物、金属酸化物、ホウ化物、有機物、ガラス、および、グラファイトからなる群から選択されてもよい。
本発明による上記光熱変換基板を製造する方法は、光の波長λにおける複素誘電率の虚部が正である材料からなる基板にフォトレジストを塗布し、パターニングすることと、前記パターニングされた基板をエッチングすることとを包含し、これにより上記課題を解決する。
本発明による上記光熱変換基板を製造する方法は、シリコン基板にフォトレジストを塗布し、パターニングすることと、前記パターニングされたシリコン基板をエッチングすることと、前記エッチングされたシリコン基板に光の波長λにおける複素誘電率の虚部が正である材料を堆積することと、前記材料が堆積したシリコン基板をエッチングすることとを包含し、これにより上記課題を解決する。
本発明による表面上で熱化学反応させる反応性基板は、前記反応性基板が上記光熱変換用基板であり、これにより上記課題を解決する。
前記熱化学反応は、一酸化炭素の無害化、メタンの水蒸気改質、および、ドライリフォーミングからなる群から選択される反応であってもよい。
本発明による赤外線吸収基板と感温抵抗変化膜とを備えた赤外線センサは、前記赤外線吸収基板が上記光熱変換用基板であり、これにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0011】
本発明による光の照射によって発熱する光熱変換基板は、光の波長λにおける複素誘電率の虚部が正である材料からなる。これにより、当該光を吸収し、熱に変換できる。さらに、表面に互いに独立して位置するピラーからなるナノ構造を有する。このようなピラーからなるナノ構造であるため、実効的な熱伝導率が低くなり、照射部を効果的に昇温することができる。特に、ピラーの周期は、波長λの2倍以下となり、ピラーの幅に対するピラーの高さの比は、0.5以上であり、ピラーの周期に対するピラーの幅の比は、0.1以上1未満の範囲を満たすように設計されているので、効率的に吸収した光を熱に変換できるとともに、実効的な熱伝導率が異方性を有するため、熱の保持効果に優れる。この結果、光熱変換効率が増大した光熱変換用基板を提供できる。
【0012】
このような光熱変換用基板を用いれば、光照射による温度上昇を利用した一酸化炭素の酸化やメタンからの水素生成等の熱化学反応のための反応性基板を提供できる。また、光熱変換用基板表面に感温抵抗変化膜を付与することにより、より大面積な赤外線センサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本発明の光熱変換基板を製造する工程を示すフローチャート
【
図3】本発明の光熱変換基板を製造する別の工程を示すフローチャート
【
図5】本発明の反応性基板を備えた反応性チャンバを示す模式図
【
図6】例1で製造した光熱変換基板を模式的に示す図
【
図11】例1の試料1-1~試料1-4のレーザ強度と表面温度との関係を示す図
【
図12】例1の試料1-5~試料1-12のレーザ強度と表面温度との関係を示す図
【
図13】例2によるピラーからなるナノ構造を有するシリコン基板における種々のシミュレーションの結果を示す図
【
図14】例3で製造した光熱変換基板を模式的に示す図(A)および例3の試料のSEM像を示す図(B)
【
図15】例3の試料のレーザ強度と表面温度との関係を示す図
【
図16】例4で製造した光熱変換基板を模式的に示す図
【
図20】例4の試料4-1~試料4-3のレーザ強度と表面温度との関係を示す図
【
図21】例5によるホールからなるナノ構造を有するシリコン基板における種々のシミュレーションの結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の光熱変換用基板および製造方法を詳述する。
【0015】
図1は、本発明による光熱変換基板を示す模式図である。
【0016】
本発明による光の照射によって発熱する光熱変換基板100は、光の波長λにおける複素誘電率の虚部が正である材料からなり、表面に互いに独立して位置するピラー110からなるナノ構造120を有し、ピラー110の周期は、波長λの2倍以下であり、ピラー110の幅に対するピラーの高さの比は、0.5以上であり、ピラーの周期に対するピラーの幅の比は、0.1以上1未満の範囲である。本願発明者は、アスペクト比の大きな微細構造(ピラー110からなるナノ構造120)を形成することにより、高い光吸収と低い熱伝導とを両立できることを発見し、ピラー110が上述の特定の設計を満たすことにより、光熱変換効率を増大できることを見出した。各特徴について詳述する。
【0017】
光熱変換基板100は、光の波長λにおける複素誘電率の虚部が正である材料からなる。複素誘電率εは、次のように表される。
ε=ε1+iε2
ここで、ε1およびε2は、それぞれ、複素誘電率の実部と虚部と呼ばれる。上式において光の波長λに対して虚部ε2が正であることにより、光熱変換基板100を構成する材料は、波長を効率的に吸収できる。
【0018】
このような材料は、好ましくは、半導体、遷移金属窒化物、遷移金属炭化物、金属酸化物、ホウ化物、有機物、ガラス、および、グラファイトからなる群から選択される。
【0019】
例えば、入射する光が可視光(波長380nm以上780nm以下)である場合には、簡便には材料が目視にて不透明であるものを選択できる。このような材料には、例示的には、シリコンやInGaAs等の半導体、窒化チタン等の遷移金属窒化物、炭化チタン等の遷移金属炭化物、酸化鉄や酸化銅等の金属酸化物、六ホウ化ランタン等のホウ化物、および、グラファイトからなる群から選択される材料がある。
【0020】
例えば、入射する光が遠赤外(波長5.0μmより大きく10μm以下)である場合は、ホウケイ酸ガラス、ファイアガラスや石英ガラス等のガラス、あるいは、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂やエポキシ樹脂等の有機物がある。例えば、入射する光が紫外線(波長200nm以上380nm未満)である場合は、銀やクロム等の金属、シリコンやGaAs等の半導体、酸化チタンや酸化亜鉛等の金属酸化物がある。このような材料の選択は入射する光に応じて選択できる。参考までに、表1に種々の材料における複素誘電率の虚部の波長依存性を示す。ユーザであれば、所望の入射する光の波長λに対して、複素誘電率の虚部が正となる材料を適宜選択できる。なお、表1はあくまでも材料の一例を示すものであり、これに限らない。
【0021】
【0022】
光熱変換基板100は、表面にピラー110からなるナノ構造120を有する。本願明細書において、ナノ構造とは、ピラー110が周期的に配列した集合体を表す。ピラー110がナノ構造を構成することにより、ナノ構造の熱伝導率は材料本来の熱伝導率より低くなり、光の吸収によって発生した熱を効果的に保持できる。このような観点からピラー110は、互いに接触することなく、独立している。本明細書において、ピラー110が周期的に配列しているとは、ピラー110の全ての周期が同じである必要はなく、例えば、5本のピラー110に着目した際に、それらが周期的であり、上記条件を満たせばよい。
【0023】
ピラー110は、
図1に示す四角柱に限らず、三角柱、五角柱等の角柱、または、円柱、半円柱、楕円柱等の円柱であってよい。ピラー110は、
図1に示すように内部に空洞を有しないものに限らず、中空であってもよい。
【0024】
ナノ構造120を構成する材料の熱伝導率をk
0とすると、光熱変換基板100は、熱伝導率k
0の材料とピラー110間の空気との複合材料からなるとみなすことができる。特に、ピラー110とすることにより、光熱変換基板100において、
図1中のx方向およびy方向の実効熱伝導率は同じであるが、
図1中のz方向の熱伝導率のみ異ならせることができる。この結果、光熱変換基板100の熱伝導率は異方性を有し、特にx方向およびy方向の実効熱伝導率がk
0と比べて極めて小さくなることから、吸収した光から変換された熱を効率的に保持できる。
【0025】
光熱変換基板100において、ピラー110の周期Pは波長λの2倍以下を満たす(P≦λ×2)。周期PがP>λ×2となると、回折の影響が大きくなり、ピラー110による十分な光吸収が得にくくなる。周期Pの下限については特に制限はないが、50nm以上であれば、微細加工によりアスペクト比の大きなピラー構造を作製できるため好ましい。例えば、入射する光が可視光および近赤外(~1μm)である場合は、好ましくは、周期Pは、300nm以上2μm以下であり得る。この範囲であれば、効率的に光熱変換できる。より好ましくは、周期Pは、300nm以上1100nm以下であり得る。
【0026】
光熱変換基板100において、ピラー110の周期Pは、好ましくは、波長λの1.1倍以下を満たす(P≦λ×1.1)。これにより、ピラー110の光吸収率が高くなり、優れた光熱変換効率が得られる。
【0027】
ピラー110の幅Wに対するピラー110の高さHの比(H/W)は、0.5以上であり、ピラー110の周期Pに対するピラーの幅Wの比(W/P)は、0.1以上1未満の範囲を満たす。このような特定の設計を満たすことにより、ナノ構造120の実効的な熱伝導率の特にx成分とy成分がピラー材料に比べて極端に小さくなり、吸収した光を効率的に熱に変換できる。
【0028】
比(H/W)の下限が0.5未満になると、十分な光熱変換が生じない。比(H/W)の上限はナノ構造120が製造できる限り制限はない。例えば、入射する光の波長λがテラヘルツ(波長数百μm~数mm)である場合には、ピラー110の周期Pも十分に大きくなり、比(H/W)が200であっても製造可能である。歩留まりを考慮すると、比(H/W)の上限は30以下であればよい。
【0029】
比(H/W)は、好ましくは、1.25以上20以下の範囲を満たす。この範囲であれば、光熱変換効率を増大できる。比(H/W)は、より好ましくは、2以上20以下の範囲を満たす。この範囲であれば、光熱変換効率をさらに増大できる。比(H/W)は、なおさらに好ましくは、5以上20以下の範囲を満たす。
【0030】
比(W/P)は、好ましくは、0.1以上0.9以下の範囲を満たす。この範囲であれば、光熱変換効率を増大できる。比(W/P)は、より好ましくは、0.3以上0.7以下の範囲を満たす。この範囲であれば、ピラー110間に光が照射する確率が小さくなり、ピラー110による光吸収の効果が十分得られる。
【0031】
光の波長λが例えば500nmの場合、ピラー110の周期(P)は、好ましくは、300nm以上1000nm以下の範囲を満たし、ピラー110の幅(W)は、好ましくは、90nm以上900nm以下の範囲を満たす。これにより、上記比(H/W)および比(W/P)を満たす、光熱変換基板100を製造しやすい。ピラー110の幅は、さらに好ましくは、150nm以上700nm以下の範囲を満たす。これにより、上記効果を達成しつつ、歩留まりよく製造できる。
【0032】
ピラー110の高さ(H)は、好ましくは、375nm以上5000nm以下の範囲を満たす。これにより、上記比(H/W)および比(W/P)を満たす、光熱変換基板100を製造しやすい。ピラー110の高さは、より好ましくは、1000nm以上3300nm以下の範囲を満たす。これにより、上記効果を達成しつつ、歩留まりよく製造できる。
【0033】
次に、本発明の光熱変換基板100を製造する例示的なプロセスをシリコンの場合について説明する。
図2は、本発明の光熱変換基板を製造する工程を示すフローチャートである。
【0034】
波長約1100nm以下ではシリコンの複素誘電率の虚部は正であることが知られている。
図2では、シリコンそのものをエッチングし、光熱変換基板を得る場合の製造プロセスを示し、以下のプロセスを含む。
ステップS210:シリコン基板210にレジスト220を塗布し、パターニングをする。
ステップS220:パターニングされた基板をエッチングする。
【0035】
ステップS210において、基板210にレジスト220を塗布する。レジスト220は、光や電子線等によって現像液に対する溶解性が変化する組成物であり、ネガ型とポジ型とがある。ここでは、電子線照射によって現像液に対する溶解性が増大し、現像によって照射部が除去されるポジ型の電子線レジストであるものとする。
【0036】
レジスト220に、例えば電子線描画装置により正方形が四角格子状に配列したパターンを描画し、現像すると、電子線が照射された照射部のみが除去される。次いで、クロム、ニッケル等の金属膜230を蒸着する。レジストに応じた剥離液またはアッシングによって残ったレジストを除去する。この結果、格子状に配列した金属膜230からなるエッチングマスク240が形成され、パターニングされた基板が得られる。なお、格子状のパターンは、三角、矩形等の多角形のパターン、ドットパターンを含み、配列は六方最密充填格子を含む。
【0037】
ステップS220において、エッチングマスク240を介して基板210を垂直(厚さ)方向にエッチングする。このようなエッチングには、エッチング処理と側壁保護処理とを交互に繰り返した異方性エッチングとして公知のボッシュ法(ガスチョッピング法)を採用できる。エッチング処理は、六フッ化硫黄(SF6)等のフッ化硫黄系ガスを用いる。側壁保護処理は、CHF4やC4F8等のフッ化炭素系ガスを用いる。最後に金属膜230からなるエッチングマスク240を剥離液で除去すれば、光熱変換基板100が得られる。
【0038】
金属膜230からなるエッチングマスク240を用いたが、現像後のレジスト220をエッチングマスクに用いてもよい。シリコン基板210の場合を説明してきたが、ボッシュ法に代表される異方性エッチングが可能な複素誘電率の虚部が正である材料からなる基板も採用できる。
【0039】
図3は、本発明の光熱変換基板を製造する別の工程を示すフローチャートである。
【0040】
図3は、シリコン基板をテンプレートに用い、波長λにおける複素誘電率の虚部が正である材料を堆積し、光熱変換基板を得る場合の製造プロセスを示し、以下のステップからなる。
ステップS310:シリコン基板310にレジスト320を塗布し、パターニングする。
ステップS320:パターニングされた基板310をエッチングする。
ステップS330:エッチングされた基板310に波長λにおける複素誘電率の虚部が正である材料330を堆積する。
ステップS340:材料330の周りのシリコン基板をエッチングする。
【0041】
ステップS310は、
図2を参照して説明したステップS210と同じであるため、説明を省略する。
【0042】
ステップS320において、エッチングマスクを介してシリコン基板310を垂直方向にエッチングする。このようなエッチングには、ステップS220と同様に異方性エッチングを採用できる。剥離液またはアッシングによって残ったフォトレジストを除去する。
【0043】
ステップS330において、エッチングされたシリコン基板310をテンプレートに波長λにおける複素誘電率の虚部が正である材料330を、物理的気相成長法や化学的気相成長法によって堆積する。なお、
図3では、材料330はシリコン基板310のホール(エッチング除去された部分)を埋めるように堆積されているが、材料330の堆積時間を制御することにより、材料330を中空にすることもできる。堆積プロセルの終了後、最表面の材料330をエッチングにより除去する。このようなエッチングには、塩素系プラズマ、臭素系プラズマ等を用いたドライエッチングを採用できる。
【0044】
ステップS340において、堆積された材料330の周りのシリコン基板310をエッチングすれば、光熱変換基板100が得られる。ここでも、エッチングには、ステップS220と同様に異方性エッチングを採用できる。
【0045】
図2および
図3の製造プロセスは例示であって、本発明の光熱変換基板100は、既存の半導体の製造プロセスを適宜採用して製造されてよい。
【0046】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1で説明した本発明の光熱変換基板を用いた用途について説明する。
【0047】
【0048】
ボロメータ型の赤外線センサ400は、赤外線吸収基板410と、感温抵抗変化膜420とを備える。赤外線吸収基板410は、実施の形態1で説明した光熱変換基板100であるため、説明を省略するが、入射する光の波長λが赤外線である場合に熱に変換できるものである。感温抵抗変化膜420は、赤外線吸収基板410上に位置し、VO2、Ti、アモルファスシリコン等の既知の感温抵抗材料からなる薄膜である。感温抵抗変化膜420は、物理的気相成長法、化学的気相成長法によって赤外線吸収基板410上に成膜される。
【0049】
図示しないが、感温抵抗変化膜420の少なくとも一部にTi、Al等の電気伝導性材料からなる電極配線がなされ、感温抵抗変化膜420と電気的に接続される。電極配線は、外部電圧計または電流計(図示せず)に接続され、温度変化に伴う感温抵抗変化膜420の抵抗値の変化が測定できるようになっている。また、赤外線吸収基板410は、CMOS見出し回路等の集積回路を備えた半導体基板上に位置し、電気的に接続されてもよい。
【0050】
このような構造により、赤外線センサ400に赤外線が照射されると、赤外線吸収基板410が赤外線を吸収し、熱に変換する。赤外線吸収基板410は、
図1を参照して説明したように、光熱変換効率に優れるため、微弱な信号であっても、検出できる。
【0051】
従来のボロメータ型赤外線センサは、基板と赤外線吸収膜との間を熱分離するために、空間を設けている。このため、大面積化が困難であり、振動などの外部刺激に弱かった。しかしながら、赤外線吸収基板410を用いれば、このような熱分離のための空間を不要とするため、大面積化も可能であり、剛性に優れる。
【0052】
図5は、本発明の反応性基板を備えた反応性チャンバを示す模式図である。
【0053】
本発明の反応性基板510は、実施の形態1で説明した光熱変換基板100であるため説明を省略するが、ここでは、例えば、少なくとも可視光(380nm~730nm)の照射によって200℃以上の温度まで加熱され、保持するものとする。なお、光強度が弱くて十分に昇温しない場合は集光して光強度を高めることを妨げない。
【0054】
図5には、反応性基板510が、石英管等の反応性チャンバ520に配置され、一酸化炭素(CO)が導入されている様子が示される。反応性基板510には、白金、ニッケル等の触媒530が付与されている。
【0055】
図5に示すように、反応性基板510に太陽光が照射される。太陽光が反応性チャンバ520を介して反応性基板510に照射されると、反応性基板510は太陽光を効率的に吸収し、熱に変換する。反応性基板510は、光熱変換効率に優れるため、表面の温度は200℃以上で保持される。反応性基板510上では、次式により、一酸化炭素が二酸化炭素に変換され、無害化される。
CO+O
2→CO
2
このように、本発明の反応性基板510を採用すれば、外部電力を必要とすることなく、太陽光などのクリーンなエネルギーのみで熱化学反応を生じさせることができる。
【0056】
図5では、一酸化炭素を二酸化炭素に変換する例を示したが、これに限らない。例えば、メタンの水蒸気改質、ドライリフォーミング等も可能であることは言うまでもない。
【0057】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0058】
[例1]
例1では、シリコン基板を用い、
図6で模式的に示す試料1-1~試料1-12を製造し、レーザ光を照射した際の表面温度の変化を調べた。
図6は、例1で製造した光熱変換基板を模式的に示す図である。
【0059】
シリコン基板(0.38mm厚)に電子線リソグラフィ用レジスト(ZEP A520、日本ゼオン株式会社製)をスピンコート(ミカサ株式会社製、スピンコーターMS-B100)により塗布した。電子線描画装置(株式会社エリオニクス製、ELS-7500EX)により、種々の大きさおよび種々の周期の四角形が正方格子上に並んだパターンを描画し、現像した。次いで、電子線蒸着器(株式会社アルバック製、UEP-300-2C)でクロム(5nm)、ニッケル(100nm)の順に金属膜を蒸着した。レジストをRemover PG(KAYAKU ADVANCED MATERIALS製)により除去し、ボッシュプロセスによりシリコンを所定の深さまで深堀した。ボッシュプロセスには、SF6ガスおよびCH4ガスを用いた。最後にクロムエッチング溶液にシリコン基板を浸漬し、金属膜を除去した。表2に製造した試料1-1~試料1-12の一覧を示す。
【0060】
【0061】
得られた試料を走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社日立ハイテク製、SU8230)で観察した。観察結果を
図7~
図10に示す。レーザ光波長514nmの顕微ラマン分光装置(株式会社フォトンデザイン製、Jupiter)を用いて、得られた試料に種々の強度のレーザ光を照射し、その際のラマンスペクトルを測定し、520cm
-1付近のピークのピークシフトを求め、ピークシフトから表面温度を算出した。温調ステージでシリコン基板を加熱し、各温度のラマンスペクトルを測定し、中心周波数が約520cm
-1のピーク位置を温度に対してプロットすることで、ピークシフトと温度との関係を得た。結果を
図11および
図12に示す。
【0062】
図7は、例1の試料1-1のSEM像を示す図である。
図8は、例1の試料1-2のSEM像を示す図である。
図9は、例1の試料1-3のSEM像を示す図である。
図10は、例1の試料1-4のSEM像を示す図である。
【0063】
図7~
図10によれば、試料1-1~試料1-4は、シリコン基板の表面に角柱状のピラーからなるナノ構造を有し、表2に記載の周期Pおよびピラー幅Dを有することを確認した。また、試料1-1~試料1-4のピラーの高さHが表2に示す大きさを有することを、別の角度からとらえたSEM像にて確認した。図示しないが、試料1-5~試料1-12についても、表2に示すピラーからなるナノ構造を有することを確認した。シリコンの複素誘電率の虚部は、波長514nmにおいて0.52であり、正の値を有することを確認した。
【0064】
図11は、例1の試料1-1~試料1-4のレーザ強度と表面温度との関係を示す図である。
図12は、例1の試料1-5~試料1-12のレーザ強度と表面温度との関係を示す図である。
【0065】
図11および
図12には、それぞれ、ナノ構造を有しない平坦なシリコン基板のレーザ強度と表面温度との関係も併せて示す。なお、
図11と
図12ではシリコン基板の厚さが異なるため、表面温度の値は一致しないことに留意されたい。
図11および
図12によれば、入射する波長に対して複素誘電率の虚部が正である材料の表面にピラーからなるナノ構造を有することにより、平坦な表面に比べて、光熱変換効率が増大することが分かった。
【0066】
図12によれば、周期Pおよびピラー幅Wが一定であれば、比(P/W)が1.25以上で光熱変換効率が増大し、5以上で光熱変換効率がさらに増大することが分かった。
【0067】
[例2]
例2では、シリコン基板を用いた
図6に示す光熱変換基板において、有限要素法に基づく電磁場計算を用い、光吸収率、熱伝導率のxおよびz成分、および、表面温度のピラー幅/高さ依存性を調べた。
【0068】
まず、有限要素法に基づく電磁場計算により、ピラーの光吸収率を算出した。次いで、ナノ構造中のピラー1周期分に対して、x、yおよびz方向にそれぞれ温度差を与え、有限要素法により熱伝導方程式を解き、実効的な熱伝導率のx、y、z成分(k
x,k
y,k
z)を得た(有効媒質近似)。
図6の構造において、実効的な熱伝導率は一軸異方性を有するため、k
x=k
y≠k
zとなる。
【0069】
ここで、入射する光の波長を514nmとし、ピラーの周期P(400nm)、高さH(3200nm)、レーザ光強度等のパラメータを入力し、先に算出した光吸収率および実効的な熱伝導率を用いた伝熱計算を行い、レーザ光照射時のピラーの表面温度を求めた。これらの結果を
図13に示す。
【0070】
図13は、例2によるピラーからなるナノ構造を有するシリコン基板における種々のシミュレーションの結果を示す図である。
図13(A)~(C)は、ピラーの周期Pを400nm、高さH3200nmとし、ピラーの幅Wを20nm~380nmと変化させた場合の結果を示す。
図13(D)は、ピラーの周期Pを400nm、幅W80nmとし、ピラーの高さHを1μm~46μmと変化させた場合を示す。
【0071】
図13(A)によれば、光吸収率はピラー幅が大きくなるにしたがって一旦急な減少・増加し、その後は単調に減少することが分かった。
図13(B)によれば、実効的な熱伝導率は、x成分もz成分もピラー幅が小さいほど小さくなることが分かった。
図13(C)および(D)によれば、光照射部の表面温度は、ピラーの幅や高さによって、劇的に変化することが分かった。詳細には、光照射部の表面温度は、ピラー幅が小さいほど、ピラー高さが高いほど高温となった。
【0072】
このことからも、光の波長λにおける複素誘電率の虚部が正である材料からなり、表面にピラーからなるナノ構造を有し、ピラーの周期は波長λの2倍以下であり、ピラーの幅に対するピラーの高さの比は、0.5以上であり、ピラーの周期に対するピラーの幅の比は、0.1以上1未満の範囲を満たす基板は、光を吸収し、熱に効率的に変換する光熱変換基板として機能することが示された。
【0073】
[例3]
例3では、窒化チタン(TiN)を用い、
図14(A)で模式的に示す試料3を製造し、レーザ光を照射した際の表面温度の変化を調べた。
【0074】
図14は、例3で製造した光熱変換基板を模式的に示す図(A)および例3の試料のSEM像を示す図(B)である。
【0075】
深紫外(DUV)レジストとして、シリコン基板(600μm厚)に反射防止膜BARC(DUV42S-6)、ポジ型レジスト(KRF230Y)をスピンコートにより塗布した。BARCおよびレジストの厚さは、それぞれ、65nmおよび360nmであった。
【0076】
DUVステッパー(株式会社キヤノン製、FPA-3000EX4)によって、円(直径265nm)のパターンを感光し、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)で現像した。ボッシュプロセスによりシリコンを2360nmの深さまで深堀した。ボッシュプロセスには、SF6ガスおよびCH4ガスを用いた。残留するレジストをアセトンにより除去した。このようにしてホールを有するシリコン基板のテンプレートが得られた。
【0077】
次いで、原子層堆積装置(Picosun社製、R-200Advanced Plasma ALD)によりTiN膜をシリコン基板のホールに堆積させた。TiCl4およびNH3をプリカーサに用い、成膜温度は500℃で、厚さ90nmまで堆積させた。TiN膜が付いたシリコン基板をアニール炉(ATV Technologie社製、PEO-604)に入れ、N2フローをしながら900℃で1時間熱処理した。これによりTiN膜の結晶性を向上させた。塩素系プラズマを用いたドライエッチングにより、シリコン基板の最表面のTiN膜を除去した。
【0078】
次いで、SF
6ガスを用いたドライエッチングにより、シリコンホールをエッチングした。このようにして、
図14(B)に示すように、高さHが2360nm、周期Pが400nm、直径(幅)Wが265nmであるTiN膜のピラーからなるナノ構造が得られた。ピラーは、中空となっており、その壁厚は88nmであった。TiNの複素誘電率の虚部は、波長785nmにおいて7.65であり、正の値を有することを確認した。
【0079】
顕微ラマン分光装置(WITec製、α300)を用いて、例3の試料に種々の強度のレーザ光を照射し、その際のラマンスペクトルを測定し、565cm
-1付近のピークのピークシフトからレーザ強度と表面温度との関係を求めた。レーザ光の照射条件は、レーザ光の波長が785nmであり、対物レンズ後のレーザ強度は0.5mW以上30mW以下であった。結果を
図15に示す。
【0080】
図15は、例3の試料のレーザ強度と表面温度との関係を示す図である。
【0081】
図15には、比較のため、ナノ構造を有しない平坦なシリコン基板のレーザ強度と表面温度との関係も併せて示す。
図15によれば、入射する波長に対して複素誘電率の虚部が正である材料の表面に中空のピラーからなるナノ構造を有することにより、平坦な表面に比べて、光熱変換による温度上昇が約100倍増大することが分かった。また、例1~例2および例3から、本発明の光熱変換基板を構成する材料は、光の波長λにおける複素誘電率の虚部が正であればよいことが示された。
【0082】
[例4]
例4では、シリコン基板を用い、
図16で模式的に示す試料4-1~試料4-3を製造し、レーザ光を照射した際の表面温度の変化を調べた。
図16は、例4で製造した光熱変換基板を模式的に示す図である。
【0083】
例4では、例1~例3と異なり、ピラーではなくホールを有する点が異なる。シリコン基板(0.38mm厚)に電子線リソグラフィ用レジスト(ZEP A520、日本ゼオン株式会社製)をスピンコート(ミカサ株式会社製、スピンコーターMS-B100XCj)により塗布した。電子線描画装置(エリオニクス製、型番ELS-7500EX)により、種々の大きさの正方格子を描画し、現像した。次いで、電子線蒸着器(ULVAC製、型番UEP-300-2C)でクロム(5nm)、ニッケル(100nm)の順に金属膜を蒸着した。レジストをRemover PG(KAYAKU ADVANCED MATERIALS製)により除去し、ボッシュプロセスによりシリコンを所定の深さまで深堀した。ボッシュプロセスには、SF6ガスおよびCH4ガスを用いた。最後にクロムエッチング溶液にシリコン基板を浸漬し、金属膜を除去した。このようにしてホールを有するシリコン基板のテンプレートが得られた。表3に製造した試料4-1~試料4-3の一覧を示す。
【0084】
【0085】
例1と同様に、得られた試料をSEM観察し、ラマンスペクトルのピークシフトを求め、レーザ強度と表面温度との関係を調べた。結果を
図17~
図20に示す。
【0086】
図17は、例4の試料4-1のSEM像を示す図である。
図18は、例4の試料4-2のSEM像を示す図である。
図19は、例4の試料4-3のSEM像を示す図である。
【0087】
図17~
図19によれば、試料4-1~試料4-3は、シリコン基板にホールからなるナノ構造を有し、表3に記載の周期Pおよびホール幅Dを有することを確認した。
【0088】
図20は、例4の試料4-1~試料4-3のレーザ強度と表面温度との関係を示す図である。
【0089】
図20には、ナノ構造を有しない平坦なシリコン基板のレーザ強度と表面温度との関係も併せて示す。
図20によれば、ナノ構造がホールである場合には、光熱変換効率の顕著な増大は見られなかった。
【0090】
[例5]
例5では、シリコン基板を用いた
図16に示す光熱変換基板において、有限要素法に基づく電磁場計算を用い、光吸収率、熱伝導率のxおよびz成分、および、表面温度のホール幅依存性を調べた。
【0091】
例2と同様に、有限要素法に基づく電磁場計算により、ホールの光吸収率を算出した。次いで、ナノ構造中のホール1周期分に対して、x、yおよびz方向にそれぞれ温度差を与え、有限要素法により熱伝導方程式を解き、実効的な熱伝導率のx、y、z成分(k
x,k
y,k
z)を得た(有効媒質近似)。
図16の構造において、実効的な熱伝導率は一軸異方性を有するため、例2と同様に、k
x=k
y≠k
zとなる。
【0092】
ここで、入射する光の波長を514nmとし、ホールの周期P(400nm)、高さH(3200nm)、レーザ光強度等のパラメータを入力し、先に算出した光吸収率および実効的な熱伝導率を用いた伝熱計算を行い、レーザ光照射時のホールの表面温度を求めた。これらの結果を
図21に示す。
【0093】
図21は、例5によるホールからなるナノ構造を有するシリコン基板における種々のシミュレーションの結果を示す図である。
【0094】
図21(A)~(C)は、ホールの周期Pを400nm、高さH3200nmとし、ホールの幅Wを20nm~380nmと変化させた場合の結果を示す。
図21(A)によれば、光吸収率はホール幅が大きくなるにしたがって増加し、ホール幅が340nmを超えると、減少することが分かった。
図21(B)によれば、実効的な熱伝導率は、x成分もz成分もホール幅が大きいほど小さくなることが分かった。
図21(C)によれば、光照射部の表面温度は、ホール幅が大きくなるにつれて高くなるものの、例2で示したピラー幅の小さなピラー構造ほどは高くならないことが分かった。
【0095】
例2および例5から、同じシリコン基板であっても、例えば、特許文献2、3に代表されるキャビティ構造(ホール)と、ピラーからなるナノ構造とでは、光熱変換効率の特性が大きく異なることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の光熱変換基板は、高い光熱変換効率を有するので、赤外域では例えば赤外線センサ、可視・近赤外域では太陽光を用いた反応性基板を提供できる。
【符号の説明】
【0097】
100 光熱変換基板
110 ピラー
120 ナノ構造
210 基板
220、320 フォトレジスト
230 金属膜
240 エッチングマスク
310 シリコン基板
330 波長λにおける複素誘電率の虚部が正である材料
400 赤外線センサ
410 赤外線吸収基板
420 感温抵抗変化膜
510 反応性基板
520 反応性チャンバ
530 触媒