(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】水性分散物、積層体、ガスバリア剤、ガスバリア膜、コーティング剤、コーティング膜、接着剤、及びヒートシール剤
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20241126BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20241126BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241126BHJP
C09D 123/08 20060101ALI20241126BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20241126BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
C08L23/00
C08K3/34
C09D7/61
C09D123/08
C09D5/02
B32B27/32 Z
(21)【出願番号】P 2021100099
(22)【出願日】2021-06-16
【審査請求日】2023-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000104814
【氏名又は名称】クニミネ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 道也
(72)【発明者】
【氏名】窪田 宗弘
(72)【発明者】
【氏名】原 康祐
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-210347(JP,A)
【文献】特開2015-174236(JP,A)
【文献】特開2010-248396(JP,A)
【文献】特開平11-071109(JP,A)
【文献】国際公開第2006/057351(WO,A2)
【文献】特開2008-056775(JP,A)
【文献】国際公開第2019/221196(WO,A2)
【文献】特開2020-007420(JP,A)
【文献】特開2003-049035(JP,A)
【文献】特開2020-196259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00
C08K 3/34
C09D 7/61
C09D 123/08
C09D 5/02
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン構造を有し、かつ
酸性基
及びその塩を有するポリマーの粒子と、リチウム固定型スメクタイトとを含有
し、
前記ポリマー中に占める前記ポリオレフィン構造の割合が70質量%以上であり、
前記ポリマーが、α-オレフィンと酸性基を有する不飽和モノマーとを重合してなるポリマーを中和した構造のポリマー、又は、ポリオレフィンに酸性基を有する不飽和モノマーをグラフト重合してなるポリマーを中和した構造のポリマーである、水性分散物。
【請求項2】
前記リチウム固定型スメクタイトの陽イオン交換容量が1~70meq/100gである、請求項1に記載された水系分散物。
【請求項3】
前記水性分散物の固形分中、前記リチウム固定型スメクタイトの含有量が3~80質量%である、請求項1
又は2に記載の水性分散物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の水性分散物を用いて形成された層を有する積層体。
【請求項5】
ポリオレフィン構造を有し、かつ
酸性基
及びその塩を有するポリマーと、リチウム固定型スメクタイトとの複合体を含有する層を有
し、
前記ポリマー中に占める前記ポリオレフィン構造の割合が70質量%以上であり、
前記ポリマーが、α-オレフィンと酸性基を有する不飽和モノマーとを重合してなるポリマーを中和した構造のポリマー、又は、ポリオレフィンに酸性基を有する不飽和モノマーをグラフト重合してなるポリマーを中和した構造のポリマーである
、積層体。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の水性分散物からなるガスバリア剤。
【請求項7】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の水性分散物を用いて形成された層を有するガスバリア膜。
【請求項8】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の水性分散物からなるコーティング剤。
【請求項9】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の水性分散物を用いて形成された層を有するコーティング膜。
【請求項10】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の水性分散物からなる接着剤。
【請求項11】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の水性分散物からなるヒートシール剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性分散物、積層体、ガスバリア剤、ガスバリア膜、コーティング剤、コーティング膜、接着剤、及びヒートシール剤に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用粘土は増粘剤、粘結剤、レオロジー改質剤、無機バインダー、土木泥水、止水材、化粧品原料等、様々な分野で利用されている。
工業用粘土の一種としてスメクタイトが知られている。スメクタイトの一般的な結晶構造は、ケイ酸のネットワークが広がるケイ酸四面体シートがアルミナ八面体シートを挟んで存在する、2:1層構造の単位結晶層からなる。多くの場合、この結晶層中においてアルミナ八面体シートの中心原子であるアルミニウムの一部がマグネシウムに置換され、これにより結晶層は負に帯電し、この負電荷を中和する形で層間には陽イオンが取り込まれている。また、この陽イオンはイオン交換が可能であるため、スメクタイトは陽イオン交換性を示す。イオン交換可能な陽イオン量は陽イオン交換容量(CEC)と呼ばれ、スメクタイトの特性を示す指標の一つとなっている。
【0003】
スメクタイトを加熱処理に付すると、脱水に伴い層間の陽イオン(プロトン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、アンモニウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等)が固定化されることが知られている。陽イオンが固定化されると、水に対する分散安定性、増粘性、膨潤性、陽イオン交換性といったスメクタイトの基本的な特性が低下する。なかでもリチウムイオンは、200℃程度あるいはそれ以上の温度をかけることにより強固に固定化される。従って、層間にリチウムイオンを一定量以上含むスメクタイトは、上記加熱処理によって陽イオン交換性が大幅に低下し、水を加えても元の状態に戻らず水分散性が顕著に低下する。上記加熱処理によるリチウムイオンの固定化は、層間に存在するリチウムイオンがスメクタイト結晶の八面体シートの空席に移動することで生じると考えられている。この現象はHofmann-Klemen効果と呼ばれ、層電荷密度をコントロールするために利用されている(例えば、非特許文献1参照)。リチウムイオンが固定化されたリチウム型スメクタイト(リチウム固定型スメクタイト)は水との親和性が格段に低く、むしろ撥水性を示すことから、高耐水性を示す耐水膜の形成材料として応用が検討されている。
【0004】
リチウム固定型スメクタイトは水分散性が著しく低いため、その水性分散物(スラリー)を用いて粘土膜を形成することが困難である。他方、リチウム固定型スメクタイトの水分散性を高めることができれば、当該リチウム固定型スメクタイトのスラリーの調製が可能となり、このスラリーを塗布し、乾燥するだけで、耐水性に優れた粘土膜の形成が可能になる。そして実際に、リチウム固定型スメクタイトの水分散性を高める技術がいくつか報告されている。
例えば特許文献1には、陽イオン交換容量が50meq/100g以下のリチウム固定型モンモリロナイトと、アンモニアと、水と、ホルムアミド基を有する極性有機溶媒とを各特定量配合してなるスラリーが、リチウム固定型モンモリロナイトの分散安定性に優れることが記載されている。また特許文献2には、陽イオン交換容量が50meq/100g以下のリチウム固定型モンモリロナイトと、アンモニアと、水と、少なくともアセトニトリル及びメチルエチルケトンから選択される有機溶媒とを各特定量含有するスラリーが、リチウム固定型モンモリロナイトの分散安定性に優れることが記載されている。
一方、粘土膜を形成する場合、粘土鉱物単独で形成された膜では柔軟性に劣り、衝撃等により膜欠陥も生じやすく、その工業的な利用範囲には制約がある。そのため、スメクタイトのような粘土鉱物と樹脂とを組合せた複合膜が提案されている。例えば、特許文献3には、オルト配向芳香族ジカルボン酸等の多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合物である、カルボキシル基を有するポリエステルポリオールの中和物と、リチウム固定型スメクタイトとを含有する液状樹脂組成物を基材に塗工して得られた、酸素バリア性に優れる積層フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-147300号公報
【文献】特開2018-83728号公報
【文献】特開2020-7420号公報
【0006】
【文献】「粘土ハンドブック」,第三版,日本粘土学会編,2009年5月,p.125
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
工業製品等の包装材料、各種電子部材の筐体等には、内部の製品や電子部材等の機能の維持ないし安定化のために、酸素バリア性、水蒸気バリア性などが求められている。リチウム固定型スメクタイトは、このようなバリア機能を有する膜の形成材料として好適である。他方、工業的に汎用性、信頼性の高い膜を形成するためには、上述のようにリチウム固定型スメクタイトを樹脂等と複合化することが考えられる。しかし、本発明者らが検討を重ねたところ、リチウム固定型スメクタイトと樹脂とを複合化してなる膜では、リチウム固定型スメクタイトのガスバリア性を十分に引き出し、目的のガスバリア性を達成することが難しくなることがわかってきた。
【0008】
本発明は、リチウム固定型スメクタイトとポリマーとを含有する水性分散物であって、膜形成材料として用いることにより、得られる膜を、リチウム固定型スメクタイトが本来的に有するガスバリア性を十分に引き出しながら、柔軟性ないし耐衝撃性等の機械的物性にも優れたものとすることができる水性分散物を提供することを課題とする。さらに本発明は、上記水性分散物を用いて形成された層を有する積層体、上記水性分散物からなるガスバリア剤、上記水性分散物を用いて形成された層を有するガスバリア膜、上記水性分散物からなるコーティング剤、上記水性分散物を用いて形成された層を有するコーティング膜、上記水性分散物からなる接着剤、及び上記水性分散物からなるヒートシール剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
[1]
ポリオレフィン構造を有し、かつ極性基を有するポリマーの粒子と、リチウム固定型スメクタイトとを含有する、水性分散物。
[2]
上記リチウム固定型スメクタイトの陽イオン交換容量が1~70meq/100gである、[1]に記載された水性分散物。
[3]
上記極性基が酸性基又はその塩である、[1]又は[2]に記載された水性分散物。
[4]
上記水性分散物の固形分中、上記リチウム固定型スメクタイトの含有量が3~80質量%である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の水性分散物。
[5]
[1]~[4]のいずれか1つに記載の水性分散物を用いて形成された層を有する積層体。
[6]
ポリオレフィン構造を有し、かつ極性基を有するポリマーと、リチウム固定型スメクタイトとの複合体を含有する層を有する積層体。
[7]
[1]~[4]のいずれか1つに記載の水性分散物からなるガスバリア剤。
[8]
[1]~[4]のいずれか1つに記載の水性分散物を用いて形成された層を有するガスバリア膜。
[9]
[1]~[4]のいずれか1つに記載の水性分散物からなるコーティング剤。
[10]
[1]~[4]のいずれか1つに記載の水性分散物を用いて形成された層を有するコーティング膜。
[11]
[1]~[4]のいずれか1つに記載の水性分散物からなる接着剤。
[12]
[1]~[4]のいずれか1つに記載の水性分散物からなるヒートシール剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水性分散物は、リチウム固定型スメクタイトとポリマーとを含有し、膜形成材料として用いることにより、得られる膜を、リチウム固定型スメクタイトが本来的に有するガスバリア性を十分に引き出しながら、柔軟性、耐衝撃性等の機械的物性にも優れたものとすることができる。本発明の積層体、ガスバリア膜及びコーティング膜は、リチウム固定型スメクタイトが本来的に有するガスバリア性を十分に引き出しながら、柔軟性、耐衝撃性等の機械的物性にも優れる。また、本発明のガスバリア剤、コーティング剤、接着剤及びヒートシール剤は、いずれもリチウム固定型スメクタイトが本来的に有するガスバリア性を十分に引き出しながら、柔軟性、耐衝撃性等の機械的物性にも優れたガスバリア膜、コーティング膜、結着性部材ないし密閉性部材として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好ましい実施の形態について以下に説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外はこれらの形態に限定されるものではない。
【0012】
[水性分散物]
本発明の水性分散物は、ポリオレフィン構造を有し、かつ極性基を有するポリマーの粒子(以下、ポリマー粒子と称す。)と、リチウム固定型スメクタイトとを含有する。
本発明の水性分散物を構成する各成分について、以下に詳細に説明する。
【0013】
<ポリマー粒子>
本発明の水性分散物に含まれるポリマー粒子は、その構成ポリマーが、ポリオレフィン構造を有し、かつ極性基を有する。ポリマーがポリオレフィン構造を有するとは、ポリマーの一部が、オレフィン(エチレン性不飽和基を有する不飽和炭化水素)の単独重合体又は2種以上のオレフィンの共重合体からなる構造であることを意味する。ポリマー中に占めるポリオレフィン構造の割合は30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上であることも好ましい。ポリオレフィン構造として、例えば、ポリエチレン構造、ポリプロピレン構造、ポリブテン構造等のα-オレフィンの重合により得られる構造が挙げられ、ポリエチレン構造が好ましい。
【0014】
上記ポリマーが有する極性基は、ヘテロ原子(炭素原子以外の原子)を1つ以上含む基を意味する。なかでも酸性基又はその塩からなる基が好ましい。酸性基としては、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基、亜リン酸基等が挙げられ、なかでもカルボキシ基が好ましい。酸性基の塩として、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の塩、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属の塩、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノフェニルアミン、ジフェニルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン等の塩基性化合物の塩等が挙げられる。酸性基の塩は、なかでもアンモニウム塩が好ましく、カルボキシ基のアンモニウム塩が特に好ましい。
「酸性基又はその塩」以外の極性基としては、エステル基、エポキシ基、アミド基、カルボニル基、酸無水物基、チオール基、アルデヒド基、水酸基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
上記ポリマー粒子は、極性基により水性溶媒への親和性を有し、また、この極性基はリチウム固定型スメクタイトとの相互作用性にも寄与するものと考えられる。
【0015】
上記ポリマーは、水性媒体中への分散性をより高めるために、酸性基を有し、この酸性基の少なくとも一部が塩の形態を採ることが好ましい。より詳細には、上記ポリマーは、当該ポリマー中に含まれる酸性基及びその塩の総モル量に占める酸性基の塩の割合が、好ましくは30モル%以上であり、より好ましくは50モル%以上、更に好ましくは70モル%以上である。
【0016】
上記ポリマーの製造方法は、特定の製造方法に限定されない。上記ポリマーは、α-オレフィンと極性基を有する不飽和モノマーとを原料として、溶液重合、界面重合、乳化重合等の通常の重合反応により得ることができる。また上記ポリマーは、ポリオレフィン構造を有するポリマーに極性基を有する不飽和モノマーをグラフト重合させて得ることもできる。
【0017】
上記極性基は、ポリマーの合成において、オレフィンに加え、極性基を有するモノマーを用いることにより、ポリマー中に導入することが好ましい。例えば、極性基としてカルボキシ基を組み込む場合には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸等の不飽和カルボン酸をモノマーとして重合反応を行うことにより、ポリマー中にカルボキシ基を導入することができる。
極性基として酸性基を導入した場会には、重合反応後、アルカリ金属水酸化物などの中和剤を添加することにより、酸性基を中和して塩の形態とすることができる。
【0018】
上記ポリマーの重量平均分子量に特に制限はない。例えば、2000~200000程度の範囲内で適宜に調整することができる。
【0019】
上記ポリマー粒子は、上記ポリマー粒子が分散してなる水性分散液由来のものであってよい。すなわち、本発明の水性分散物は、ポリオレフィン水性ディスパージョン(ポリオレフィン水性分散物)を配合することによりポリマー粒子を含有させてもよい。このようなポリオレフィン水性ディスパージョンそれ自体は公知であり、市販もされている。市販品として、住友精化社製のザイクセンA等が挙げられる。
【0020】
本発明の水性分散物中の上記ポリマー粒子の粒子径は特定の範囲に限定されない。本発明の水性分散物中の上記ポリマー粒子の好ましい粒子径は10μm以下であり、より好ましい粒子径は2μm以下であり、更に好ましい粒子径は1μm以下である。本発明の水性分散物中の上記ポリマー粒子の粒子径の下限は通常0.1μmである。本発明において粒子径は体積基準のメディアン径を意味する。このメディアン径は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA-950V2、HORIBA社製)により決定することができる。
【0021】
本発明の水性分散物の固形分(水性媒体を除いた成分)中、ポリマー粒子の含有量は、20~97質量%が好ましく、30~95質量%がより好ましく、35~95質量%が更に好ましい。
【0022】
<リチウム固定型スメクタイト>
スメクタイトは、層構造を有するフィロケイ酸塩鉱物(層状粘土鉱物)である。スメクタイトの具体的な構造としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト、ソーコナイト等が知られている。本発明に用いるリチウム固定型スメクタイトは、リチウム固定型モンモリロナイトがより好ましい。
【0023】
保有する主要な陽イオンがリチウムイオンであるスメクタイトをリチウム型スメクタイトという。スメクタイトが有する陽イオンをリチウムイオンに交換する方法としては、例えば天然のナトリウム型スメクタイト又はカルシウム型スメクタイトの分散液に、水酸化リチウム、塩化リチウム等のリチウム塩を添加し、陽イオン交換させる方法、リチウムをイオン交換できる陽イオン交換樹脂にナトリウム型又はカルシウム型スメクタイトの分散液を流通させる方法等が挙げられる。分散液中に含有されるリチウムの量を調節することで、得られるリチウム型スメクタイトの浸出陽イオン量に占めるリチウムイオンの量を適宜に調節できる。
本発明ないし明細書において、「リチウム型スメクタイト」とは、スメクタイトの浸出陽イオン量(すなわち浸出陽イオンの総量、単位:meq/100g、以下同様)に占めるリチウムイオンの量(すなわち浸出リチウムイオン量、単位:meq/100g、以下同様)が60%以上のスメクタイトであり、好ましくは、浸出陽イオン量に占める浸出リチウムイオン量が70%以上、より好ましくは80%以上のスメクタイトである。リチウム型スメクタイトの浸出陽イオン量に占める浸出リチウムイオン量は100%でもよいが、通常は99%以下である。
リチウム型モンモリロナイトは商業的に入手することもできる。リチウム型モンモリロナイトの市販品として、例えば、クニピア-M〔(商品名、クニミネ工業社製〕が挙げられる。
【0024】
リチウム固定型スメクタイトは、リチウム型スメクタイトにおけるリチウムイオンの一部が八面体シートの空きサイト(空席)に固定化されたスメクタイトである。リチウム固定型スメクタイトは、例えばリチウム型スメクタイトの高温処理により、層間のリチウムイオンが八面体シート又は四面体の空きサイトに固定化されることで得られる。リチウムイオンが固定化されることで、スメクタイトの結晶層間が閉じた構造となり、親水性が大きく低下する。これは、リチウムイオンが粘土結晶の八面体シートの空席に移動して固定化されることで、粘土結晶が電気的に中和されて層間が密に閉じた状態になり、水分子が進入しにくくなる(層間陽イオンの水和が生じにくくなる)ためと考えられる。
【0025】
リチウムを固定する高温処理の温度条件は、リチウムイオンを少なくとも部分的に固定化できれば特に制限はない。後述するように、陽イオン交換容量(CEC:Cation Exchange Capacity)が小さいほど、リチウム固定型スメクタイトを含有する水性分散物を用いて形成された層の水蒸気バリア性及び酸素バリア性がより向上する傾向にある。そこで、リチウムイオンを効率的に固定化し、陽イオン交換容量を小さくする観点から、150℃以上で加熱することが好ましい。上記加熱処理の温度は、より好ましくは150~600℃であり、更に好ましくは180~600℃であり、特に好ましくは200~500℃であり、最も好ましくは250~500℃である。上記温度範囲で加熱することにより、CECをより効率的に低下させることができると同時に、スメクタイト中の水酸基の脱水反応等を抑えることができる。上記加熱処理は開放系の電気炉で実施することが好ましい。この場合、加熱時の相対湿度は5%以下となり、圧力は常圧となる。上記加熱処理の時間は、リチウムを固定できれば特に制限はない。上記加熱処理の時間は、生産の効率性の観点から、0.5~48時間とすることが好ましく、1~24時間とすることがより好ましい。
【0026】
リチウム固定型スメクタイトであるか否かは、X線光電子分光(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)分析によって判断できる。具体的には、XPS分析によって測定されるXPSスペクトルにおける、リチウムイオン由来の結合エネルギーのピーク位置を確認する。例えば、リチウム型モンモリロナイトを加熱処理等によりリチウム固定型モンモリロナイトとすることで、XPSスペクトルにおけるリチウムイオン由来の結合エネルギーのピーク位置が57.0evから55.4evへシフトする。したがって、55.4evの結合エネルギーピークを有するか否かによって固定型であるか否かを判断できる。
【0027】
リチウム固定型スメクタイトのCECは、本発明の水性分散物を用いて形成された層の水蒸気バリア性及び酸素バリア性(例えば高湿度下での酸素バリア性)を向上させる観点から、好ましくは70meq/100g以下であり、より好ましくは65meq/100g以下である。リチウム固定型スメクタイトのCECは、通常は1meq/100g以上であり、5meq/100g以上でもよく、7meq/100g以上でもよい。リチウム固定型スメクタイトのCECは、好ましくは1~70meq/100gであり、より好ましくは5~70meq/100gであり、更に好ましくは7~65meq/100gであり、さらに好ましくは7~63meq/100gである。
例えば、リチウム型スメクタイトは、通常、CECは80~150meq/100g程度であるが、高温処理によりリチウムイオンの少なくとも一部を固定化することでCECを70meq/100g以下とすることができる。
なお、本発明において、リチウム固定型スメクタイトのCECは、水性分散物中におけるリチウム固定型スメクタイトのCECを意味する。
【0028】
本明細書において「リチウム固定型スメクタイト」とは、その調製において原料として用いたリチウム型スメクタイト(上述のようにリチウム固定型スメクタイトはリチウム型スメクタイトを後述の加熱処理に付して得られる。)の浸出リチウムイオン量と、当該リチウム固定型スメクタイトの浸出リチウムイオン量との差(単位:meq/100g)が、上記の原料として用いたリチウム型スメクタイトの陽イオン交換容量(単位:meq/100g)に対して60%以上であることが好ましく、より好ましくは60~99%であり、更に好ましくは65~95%である。
また、上記リチウム固定型スメクタイトは、通常は、浸出陽イオンとしてリチウムイオン以外に、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)等を含んでいる。本発明に用いるリチウム固定型モンモリロナイトにおいて、Na+、K+、Mg2+及びCa2+の浸出イオン量は、総量で1~30meq/100gが好ましく、1~20meq/100gがより好ましく、1~10meq/100gが更に好ましい。
【0029】
スメクタイトのCECは、Schollenberger法(粘土ハンドブック第三版、日本粘土学会編、2009年5月、p.453~454)に準拠して決定することができる。より具体的には、日本ベントナイト工業会標準試験方法JBAS-106-77に記載の方法でCECを測定することができる。
スメクタイトの浸出陽イオン量は、スメクタイトの層間陽イオンをスメクタイト0.5gに対して100mLの1M酢酸アンモニウム水溶液を用いて4時間以上かけて浸出させ、得られた溶液中の各種陽イオンの濃度を、ICP発光分析や原子吸光分析等により測定し、算出することができる。
【0030】
本発明の水性分散物中において、リチウム固定型スメクタイトは、その粒子径が好ましくは10μm以下の状態で分散していることが好ましい。本発明の水性分散物を用いて形成した層の欠陥を防いで、水蒸気バリア性及び酸素バリア性等の機能性をより高める観点から、上記粒子径はより好ましくは9.0μm以下、更に好ましくは8.0μm以下、特に好ましくは7.0μm以下、最も好ましくは6.0μm以下である。上記粒子径は、好ましくは5.0μm以下、より好ましくは4.0μm以下であり、更に好ましくは3.0μm以下とすることもできる。また、本発明のスラリー中、リチウム固定型モンモリロナイトの粒子径の下限は特に制限されず、通常は1.0μm以上であり、1.2μm以上でもよく、1.5μm以上でもよく、1.8μm以上でもよい。
本発明においてスラリー中のリチウム固定型モンモリロナイトの「粒子径」は、上述の通り、体積基準のメディアン径である。
【0031】
本発明の水性分散物に含まれるポリマー粒子の粒子径に対する、リチウム固定型スメクタイトの粒子径の比の値は、0.05≦[リチウム固定型スメクタイトの粒子径]/[ポリマー粒子の粒子径]≦20が好ましく、0.075≦[リチウム固定型スメクタイトの粒子径]/[ポリマー粒子の粒子径]≦15がより好ましく、0.1≦[リチウム固定型スメクタイトの粒子径]/[ポリマー粒子の粒子径]≦10が更に好ましい。このような粒子径の関係とすることにより、リチウム固定型スメクタイトの積層配列を、より均一、平滑にすることで、本発明の水性分散物を用いて形成された層により高いバリア性能を発現させることができる。
【0032】
本発明の水性分散物の固形分中、リチウム固定型スメクタイトの含有量は、本発明の水性分散物を用いて形成された層のガスバリア性を向上させる観点から、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、更に好ましくは7質量%以上であり、特に好ましくは10質量%以上である。上記含有量の上限は、本発明の水性分散物の塗工特性、基材への密着性の観点から、好ましくは80質量%であり、より好ましくは60質量%であり、更に好ましくは40質量%であり、特に好ましくは30質量%である。上記含有量は、好ましくは5~50質量%であり、より好ましくは10~20質量%である。
【0033】
<水性媒体>
本発明の水性分散物を構成する水性媒体は水を含む。また、本発明の水性分散物を構成する水性媒体は水に対して相溶性の有機媒体(水溶性有機溶媒)を含有していなくても、含有していてもよい。上記有機媒体と水の総量に占める上記有機媒体の割合は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、更に好ましくは20質量%以下であり、10質量%以下であることも好ましい。本発明の水性分散物が、上記ポリオレフィン水性ディスパージョンを配合して調製される場合、ポリオレフィン水性ディスパージョン中の水性媒体は、本発明の水性分散物中の水性媒体を構成する。また、本発明の水性分散物中の水性媒体は、別途混合した水及び有機溶媒の少なくとも1種の液媒体を含んでいてもよい。
本発明の水性分散物に含まれる水性媒体に占める水の割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上であることも好ましく、水性媒体のすべてが水であることも好ましい。
【0034】
上記有機媒体として、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ジアセトンアルコール、メトキシプロパノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2-ブタノン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン、酢酸メチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の酢酸エステル、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、プロピレンカーボネート、メチルセルソルブ、エチルグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、これらの1種又は2種以上の混合溶媒等が挙げられる。
【0035】
<各種添加剤>
本発明の水性分散物は、上記の各成分以外の各種添加剤を含有していてもよい。各種添加剤として、架橋剤、上記ポリマー以外のポリマー等の有機フィラー、リチウム固定型スメクタイト以外の無機フィラー、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等)、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、着色剤、結晶核剤、酸素捕捉剤(酸素捕捉機能を有する化合物)、粘着付与剤、乳化剤、界面活性剤等を例示できる。
さらに各種添加剤として、分散剤、カップリング剤、レベリング剤、消泡剤、湿潤剤等が挙げられる。これらの添加剤は、リチウム固定型スメクタイトの濡れ性を向上させ、本発明の水性分散物中でのリチウム固定型スメクタイトの分散性を向上させる。また、本発明の水性分散物を用いて形成された膜の平滑性を高めたり、本発明の水性分散物中の泡を抑制することで、該膜の均一性を高めたりできる。
上記各種添加剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用される。
【0036】
本発明の水性分散物が、上記ポリオレフィン水性ディスパージョンを用いて調製される場合、上記添加剤はポリオレフィン水性ディスパージョン中に含有されていてよい。また、上記添加剤は別途混合されてもよい。
【0037】
架橋剤は上記ポリマー鎖間の架橋ネットワーク構造を形成する。これにより、本発明の水性分散物中のポリマー粒子の、水クラスターにより生じる膨潤が抑制され、本発明の水性分散物を用いて形成された層の耐水性が高まり、結果的にその水蒸気バリア特性が高められる場合がある。架橋剤としては、上記ポリマーが有する極性基と反応する化合物であれば特に制限はない。例えば、上記ポリマーがカルボキシ基を有する場合、架橋剤としてカルボジイミド化合物又はオキサゾリン化合物が好ましい。
【0038】
本発明の水性分散物中の架橋剤の含有量についても特に限定はない。上記ポリマーが有する極性基のモル数と、架橋剤中の該極性基と反応する官能基のモル数が近いことが好ましい。該極性基は一般的に水との反応性ないし親水性が高いが、架橋剤と反応した極性基が多いと、上記ポリマー粒子の水との反応性ないし親水性が低下して、本発明の水性分散物を用いて形成された層の水蒸気バリア性が向上すると考えられる。
【0039】
リチウム固定型スメクタイト以外の無機フィラーとしては、金属、金属酸化物、鉱物等の無機物及びこれらの複合物が挙げられる。無機フィラーの具体例としては、シリカ、アルミナ、チタン、ジルコニア、銅、鉄、銀、マイカ、タルク、アルミニウムフレーク、ガラスフレーク、及びリチウム固定型スメクタイト以外の粘土鉱物が挙げられる。これらの中でも、本発明の水性分散物を用いて形成された層の水蒸気バリア性及び酸素バリア性を向上させる観点から、リチウム固定型スメクタイト以外の粘土鉱物が好ましく、膨潤性無機層状化合物がより好ましい。
【0040】
上記膨潤性無機層状化合物としては、含水ケイ酸塩(フィロケイ酸塩鉱物等)、カオリナイト族粘土鉱物(ハロイサイト等)、リチウム固定型スメクタイト以外のスメクタイト族粘土鉱物(モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティーブンサイト等)、バーミキュライト族粘土鉱物(バーミキュライト等)などが挙げられる。これらの鉱物は天然粘土鉱物であっても合成粘土鉱物であってもよい。上記膨潤性無機層状化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用される。
【0041】
粘着付与剤としては、キシレン樹脂、テルペン樹脂、ロジン樹脂等が挙げられる。粘着付与剤は、本発明の水性分散物を用いて形成された層の粘着性を向上させる。粘着性付与剤の添加量は本発明の水性分散物100質量部に対して0.01~5質量部であることが好ましい。
【0042】
[水性分散物のpH]
本発明の水性分散物及び上記ポリオレフィン水性ディスパージョンのpHは、リチウム固定型スメクタイトの分散安定性を向上させる観点から、好ましくは7以上12未満である。
【0043】
[水性分散物の調製方法]
本発明の水性分散物の調製方法は、特定の方法に限定されない。本発明の水性分散物は、少なくとも上記ポリマー粒子と、リチウム固定型スメクタイトとを、水性媒体中に分散させて得ることができる。また、本発明の水性分散物は、上記ポリマーを界面活性剤、乳化剤等を用いて分散ないし乳化した後、リチウム固定型スメクタイト、及び必要に応じて上記添加剤を混合して得られてもよい。さらに、上記ポリマー粒子を含むポリオレフィン水性ディスパージョンと、リチウム固定型スメクタイトを含む水性分散液ないしペーストと、必要に応じて上記添加剤ないし水性媒体とを混合して得られてもよい。
【0044】
[水性分散物の用途]
基材上に本発明の水性分散物を用いて層を形成し、積層体を得ることができる。該積層体は、ポリオレフィン構造を有し、かつ極性基を有するポリマーと、リチウム固定型スメクタイトとの複合体を含有する層を有する。ここで該複合体は、上記ポリマーとリチウム固定型スメクタイトが一体化して水蒸気バリア性及び酸素バリア性を発揮するものである。
上記基材の材質は特に限定されない。上記基材として、木材、金属、ポリマー(樹脂)、紙、シリコン、又は変性シリコン等が挙げられる。上記基材は異なる素材を接合して得られた基材であってもよい。上記基材の形状は特に制限されない。上記基材は、平板、シート状、又は3次元形状全面に、若しくは一部に、曲率を有するもの等、目的に応じた任意の形状であってよい。また、上記基材の硬度、及び厚さにも制限はない。
【0045】
上記基材上に本発明の水性分散物を用いて層を形成する方法は制限されない。該形成方法は、直接塗工法又は直接成形法であってよい。直接塗工法として、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、ドクターブレード法、カーテンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法等が挙げられる。直接成形法として、インモールド成形、インサート成形、真空成形、押出ラミネート成形、プレス成形等が挙げられる。直接成形法では、未硬化(未乾燥)又は半硬化(半乾燥)の本発明の水性分散物の層を基材上に積層してから硬化(乾燥)させてもよく、本発明の水性分散物を硬化(乾燥)した硬化物層を基材上に積層してもよい。
【0046】
本発明の積層体は、本発明の水性分散物の硬化物に対して基材の前駆体を塗工して硬化させることで得てもよく、基材の前駆体及び本発明の水性分散物が未硬化若しくは半硬化の状態で接着させた後に、両者を硬化させることで得てもよい。基材の前駆体としては特に限定はなく、各種硬化性樹脂組成物等が挙げられる。また、本発明の水性分散物を接着剤として用いることで積層体を作製してもよい。
【0047】
本発明の水性分散物を用いて形成された層は、水蒸気バリア性及び酸素バリア性が優れているため、本発明の水性分散物はガスバリア剤として、ガスバリア膜の形成に好適に用いることができる。
【0048】
本発明の水性分散物は、コーティング剤として好適に用いることもできる。本発明のコーティング剤は、本発明の水性分散物からなる。本発明のコーティング剤のコーティング方法は特に限定されない。該コーティング方法として、ロールコート、グラビアコート等が挙げられる。また、コーティング装置についても特に限定されない。本発明の水性分散物をコーティングして得られるコーティング膜は、水蒸気バリア性及び酸素バリア性等のガスバリア性に優れている。それゆえ、本発明の水性分散物を用いて、優れたガスバリア性を有するコーティング膜を形成することができる。
【0049】
本発明の水性分散物は、接着剤としても好適である。本発明の接着剤の形態は特に限定されない。本発明の接着剤は液状又はペースト状であってよく、固形状であってもよい。本発明の接着剤を用いて部材等を接着ないし固定化することにより、当該接着部分にガスバリア性を付与することができる。
【0050】
本発明の水性分散物は、ヒートシール剤としても好適である。本発明のヒートシール剤の形態は特に限定されない。本発明のヒートシール剤は液状又はペースト状であってよく、固形状であってもよい。本発明の水性分散物を用いて形成された層はガスバリア性に優れているため、本発明のヒートシール剤を用いて部材等を接着ないし固定化することにより、当該ヒートシール部分にガスバリア性を付与することができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中、断りのない限り、「部」、「%」は質量基準である。
【0052】
(実施例1)
容積50mlのプラスチック容器に、リチウム固定型モンモリロナイトの水性分散物(クニミネ工業(株)製、商品名RC-E、CEC30meq/100g、水性分散物中のリチウム固定型モンモリロナイトの含有量10質量%、水性分散物中のリチウム固定型モンモリロナイトの粒子径2.0μm、以下、「分散物A」という。)10質量部、及びカルボキシル基がアンモニアで中和されたポリオレフィン水性ディスパージョン(住友精化(株)製、商品名ザイクセンA、該ポリオレフィン水性ディスパージョン中のポリマー粒子の含有量25質量%、ポリマー粒子の粒子径7.0μm、このポリマー粒子を構成するポリマーは、ポリエチレン構造を70質量%以上含有し、またカルボキシ基を有し、このカルボキシ基の70モル%以上がアンモニウム塩の形態である。)16質量部を加え、マグネティックスターラーで8時間攪拌を行い、ポリマー粒子とリチウム固定型モンモリロナイトとを含有する水性分散物を得た。得られた水性分散物を厚さ12μmのPETフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製、商品名エステルNS)上にバーコーターを用いて、乾燥後の塗工厚みが2μmとなるように塗工し、水性分散物を塗工したPETフィルムを120℃の乾燥機中で10分間直ちに加熱乾燥し、積層フィルムを得た。該積層フィルムの酸素透過量及び水蒸気透過量を下記に示す方法で測定した。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例2)
分散物Aに代えて、リチウム固定型モンモリロナイトの水性分散物(クニミネ工業(株)製、CEC9meq/100g、水性分散物中のリチウム固定型モンモリロナイトの含有量10質量%、水性分散物中のリチウム固定型モンモリロナイトの粒子径2.3μm、以下、「分散物B」という。)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得、該積層フィルムの酸素透過量及び水蒸気透過量を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例3)
分散物Aに代えて、リチウム固定型モンモリロナイトの水性分散物(クニミネ工業(株)製、CEC62meq/100g、水性分散物に対するリチウム固定型モンモリロナイトの含有量10質量%、水性分散物中のリチウム固定型モンモリロナイトの粒子径1.8μm、以下、「分散物C」という。)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得、該積層フィルムの酸素透過量及び水蒸気透過量を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
(実施例4)
分散物Aの使用量を10質量部から30質量部、上記ポリオレフィン水性ディスパージョンの使用量を16質量部から8質量部に代えたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得、該積層フィルムの酸素透過量及び水蒸気透過量を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
(実施例5)
分散物Aの使用量を10質量部から2.5質量部に、上記ポリオレフィン水性ディスパージョンの使用量を16質量部から19質量部に代えたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得、該積層フィルムの酸素透過量及び水蒸気透過量を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
(比較例1)
容積50mlのプラスチック容器に、層間イオンがナトリウムである天然モンモリロナイト精製品(クニミネ工業(株)製クニピアF、CEC108meq/100g)1質量部、蒸留水9質量部を順番に加え、その後、上記ポリオレフィン水性ディスパージョン16質量部を加え、マグネティックスターラーで8時間攪拌し、ポリマー粒子とナトリウム型モンモリロナイトとを含有する水性分散物を得た。得られた水性分散物を上述した厚さ12μmのPETフィルムにバーコーターを用いて、乾燥後の塗工厚みが2μmとなるように塗工した。次いで、120℃の乾燥機中で10分間直ちに加熱乾燥し、積層フィルムを得、該積層フィルムの酸素透過量及び水蒸気透過量を測定した。結果を表2に示す。
【0058】
(比較例2)
クニピアFに代えて、クニピアFの層間イオンをリチウムにイオン交換した、天然モンモリロナイトのイオン交換品(クニミネ工業(株)製クニピアM、CEC110meq/100g)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして積層フィルムを得、該積層フィルムの酸素透過量及び水蒸気透過量を測定した。結果を表2に示す。
【0059】
(比較例3)
上記分散物Aに代えて、蒸留水を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得、該積層フィルムの酸素透過量及び水蒸気透過量を測定した。結果を表2に示す。
【0060】
(比較例4)
上記ポリオレフィン水性ディスパージョン16質量部に代えて、アクリル系ポリマー粒子の水性ディスパージョン(積水化学工業(株)製エスダイン#7110、該水性ディスパージョン中のポリマー粒子の含有量50質量%、このポリマー粒子の構成ポリマーはポリオレフィン構造を有しない。)8質量部を用い、表2に示す使用量の蒸留水を使用したこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得、該積層フィルムの酸素透過量及び水蒸気透過量を測定した。結果を表2に示す。
【0061】
(比較例5)
上記ポリオレフィン水性ディスパージョン16質量部に代えて、水性ポリウレタンエマルジョン(三洋化成(株)製ユーコートUX-485、該水性ポリウレタンエマルジョン中のポリウレタン粒子の含有量35質量%、このポリウレタン粒子の構成ポリマーはポリオレフィン構造を有しない。)11.4質量部を用い、表2に示す使用量の蒸留水を使用したこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得、該積層フィルムの酸素透過量及び水蒸気透過量を測定した。結果を表2に示す。
【0062】
(比較例6)
上記ポリオレフィン水性ディスパージョン16質量部に代えて、水性ポリエステルエマルジョン(東亞合成(株)製アロンメルト1055A30、該水性ポリエステルエマルジョン中のポリエステル粒子の含有量30質量%、このポリエステル粒子の構成ポリマーはポリオレフィン構造を有しない。)13.3質量部を用い、表2に示す使用量の蒸留水を使用したこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得、該積層フィルムの酸素透過量及び水蒸気透過量を測定した。結果を表2に示す。
【0063】
(参考例)
上記で使用したPETフィルムの酸素透過量及び水蒸気透過量を表2に示す。
【0064】
<酸素透過量の測定方法>
各積層フィルムの酸素透過量を、モコン社製酸素透過率測定装置OX-TRANI/50を用いてJIS-K7126(等圧法)に準じ、23℃、90%RHで測定した。
【0065】
<水蒸気透過量の測定方法>
各積層フィルムの水蒸気透過量を、「防湿包装材料の透過湿度試験方法」JIS Z 0208に準じ、透湿カップを用いて、40℃、90%RHで測定した。
【0066】
【0067】
【0068】
なお、表1及び2において、水性分散物の固形分中のスメクタイトの含有量(%)=(水性分散物中のスメクタイトの含有量)/(水性分散物中のスメクタイトの含有量+水性分散物中のポリマー粒子の含有量)×100 である。
リチウム固定型スメクタイトを含有しない比較例1~3の積層フィルムの酸素透過量及び水蒸気透過量は高く、ガスバリア性に劣る結果となった。なお、ナトリウム型及びリチウム型スメクタイトは膨潤性が高く、1質量部以上配合すると、成膜が困難であった。また、本発明で規定するポリマー粒子以外のポリマー粒子を配合した比較例4~6の積層フィルムでも、酸素透過量及び水蒸気透過量は大きく、ガスバリア性に劣っていた。
一方、実施例1~6の積層フィルムの酸素透過量及び水蒸気透過量は非常に小さく、ガスバリア性に優れていた。