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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】着脱式跳ね上げ眼鏡
(51)【国際特許分類】
   G02C 9/00 20060101AFI20241126BHJP
   G02C 3/00 20060101ALI20241126BHJP
   G02C 5/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
G02C9/00
G02C3/00
G02C5/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021135261
(22)【出願日】2021-08-23
(65)【公開番号】P2023030235
(43)【公開日】2023-03-08
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】397038565
【氏名又は名称】株式会社エニックス
(74)【代理人】
【識別番号】230124763
【弁護士】
【氏名又は名称】戸川 委久子
(72)【発明者】
【氏名】山出 重克
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0135966(US,A1)
【文献】特開2004-325655(JP,A)
【文献】特開2011-053627(JP,A)
【文献】特開2018-180502(JP,A)
【文献】特開2009-244495(JP,A)
【文献】特開平11-119166(JP,A)
【文献】特開2002-268018(JP,A)
【文献】特開2007-309953(JP,A)
【文献】米国特許第06217170(US,B1)
【文献】特開2000-075253(JP,A)
【文献】米国特許第06848784(US,B1)
【文献】米国特許第06053611(US,A)
【文献】米国特許第06948807(US,B1)
【文献】特開平11-325074(JP,A)
【文献】中国実用新案第210573068(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右のテンプルと前記テンプルを各々回動自在に連結する一対の智部と前記智部同士を連結する連結部材とを少なくとも備える眼鏡フレームに前記眼鏡フレームとは別体のレンズが取り付けられたフロントフレームを着脱できる着脱式跳ね上げ眼鏡において、
前記フロントフレームには円筒形の第一の磁性体を備えるとともに前記眼鏡フレームには円筒形の第二の磁性体を備え、
前記第一の磁性体と前記第二の磁性体の両方は中空形状であるとともに円筒の高さ方向に磁化されており、
前記フロントフレームと前記眼鏡フレームとは前記第一の磁性体と前記第二の磁性体との磁力によって前記第一の磁性体と前記第二の磁性体とが引き合うことで固定可能であり、
前記フロントフレームと前記眼鏡フレームとが固定された状態において、前記第一の磁性体と前記第二の磁性体とが磁力によって固定された状態を維持しながら、前記第一の磁性体と前記第二の磁性体とによって合成された磁場における前記第一の磁性体及び前記第二の磁性体の内側を通る磁束線を回転基準として、軸及び軸受けを用いることなく、前記フロントフレームを回動して跳ね上げ可能であることを特徴とする、着脱式跳ね上げ眼鏡。
【請求項2】
前記第一の磁性体は前記フロントフレームの中央部に配置されるとともに前記第二の磁性体は前記連結部材の中央部に配置され、
前記第一の磁性体と前記第二の磁性体とは前記連結部材の長手方向が回転基準となるように配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の着脱式跳ね上げ眼鏡。
【請求項3】
前記第一の磁性体は前記フロントフレームの左右端にそれぞれ配置されるとともに前記第二の磁性体は前記智部にそれぞれ配置され、
前記第一の磁性体と前記第二の磁性体とは前記連結部材の長手方向が回転基準となるように配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の着脱式跳ね上げ眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者が装着する眼鏡フレームとは別体のレンズが取り付けられたフロントフレームを必要に応じて選択して着脱でき、さらに装着したフロントフレームを跳ね上げて使用することもできる着脱式跳ね上げ眼鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知の眼鏡には近視や遠視等の視力矯正用のレンズの他、日光や反射光を遮るレンズ、視認対象物を拡大するレンズ等の種々のレンズが取り付けられている。利用者は、自身の視力の具合や使用目的に応じてそれらレンズが取り付けられた眼鏡を適宜選択して装着する。しかし、視力の異常が複数ある場合や使用目的によっては最適なレンズが取り付けられた異なる眼鏡を頻繁に取り替えなければならない。そのため、利用者は普段から複数の眼鏡を携行しなければならないという不便を強いることがあった。
【0003】
このような不便を解消することができるものとして、利用者が装着する眼鏡フレームとは別体のレンズが取り付けられたフロントフレームを、眼鏡フレームに回動自在に固定した眼鏡が知られている。この眼鏡はいわゆる跳ね上げ眼鏡と呼ばれ、フロントフレームを跳ね上げたり降ろしたり(以下、何れの操作も「跳ね上げ」という)することで裸眼の状態とレンズを介した状態とを容易に切り替えて使用することができる。また、眼鏡フレームにあらかじめ別のレンズが取り付けられている場合には、例えば視力矯正用のレンズを介した状態と、それにサングラス用レンズが重ね合わさった状態とを切り替えて使用することができる。
【0004】
ところが、跳ね上げ眼鏡であっても、フロントフレームに取り付けたレンズの度数が合わなくなった場合や、サングラス用のレンズの色や偏光の具合が環境に合わないような場合には結局眼鏡全体を別のレンズが取り付けられた眼鏡と取り替えなければならない。そのため、跳ね上げ眼鏡であっても複数の眼鏡を携行しなければならない点には変わりなく、嵩張って不便であるという問題が残っていた。
【0005】
この点、従来においては、レンズが取り付けられたフロントフレームを眼鏡フレームに対して着脱自在に構成した跳ね上げ眼鏡の技術が開示されている。この着脱式跳ね上げ眼鏡であれば交換用のフロントフレームのみ携行すればよく、嵩張らないうえに経済的である。
【0006】
例えば特許文献1はフロントフレームを眼鏡フレームに着脱可能に構成した本出願人の以前の特許出願の公報である。特許文献1ではブローバー(眼鏡フレームに相当)の眉形部とインナー枠が固定された跳ね上げビーム(フロントフレームに相当)の両端部とを二点でヒンジ連結した跳ね上げ眼鏡の技術を開示している。
このように跳ね上げビームをブローバーに二点でヒンジ連結して構成したことにより、レンズの交換(着脱)をインナー枠ごと行うことができるためレンズの交換作業を専門の職人以外の一般の利用者でも簡単に行うことができるという効果を奏するものである。
【0007】
一方、特許文献2は磁気吸着によりフロントフレームを着脱可能とした跳ね上げ眼鏡に関する特許公報である。特許文献2では補助レンズを跳ね上げ可能に固定したホルダー部材(フロントフレームに相当)を眼鏡体(眼鏡フレームに相当)の連結部に嵌め入れて磁気吸着で安定的に保持できるようにした跳ね上げ眼鏡の技術を開示している。
【0008】
特許文献2の技術を概説すると、図11に示すように、該跳ね上げ眼鏡900は左右の目に対応する左右の枠部相互を連結してなる眼鏡体91と前掛け眼鏡92とからなる。前掛け眼鏡92にはホルダー部材93が固定されており、前掛け眼鏡92と眼鏡体91とはホルダー部材93を介して第一の磁性部94と第二の磁性部95とによって磁気吸着状態で着脱可能に取り付けられている。また、眼鏡体91に取り付けた前掛け眼鏡92は、ホルダー部材93に設けた付勢回動装置96を介して跳ね上げ可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-088539号公報
【文献】特開2013-064787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1の技術はフロントフレームを利用者自らが交換できるように構成されているとはいえ、ヒンジ連結されたフロントフレームを引っ張ることで連結部を弾性変形させて眼鏡フレームから取り外す構成となっている。弾性変形させる必要からフロントフレームの取り外しにはある程度の力が必要となる。そのため、この技術では利用者は跳ね上げ眼鏡そのものを破損させてしまうことを危惧して慎重にならざるを得ず、フロントフレームを容易に取り外すことができないという問題があった。
また、連結部を弾性変形させるため、繰り返しの着脱によって摩耗や変形を起こし、連結部が緩んでフロントフレームが使用中に外れてしまう可能性があるという問題もあった。
【0011】
一方、特許文献2の技術は磁気吸着の作用によってフロントフレームと眼鏡フレームとを着脱可能に固定することができるものである。フロントフレームを眼鏡フレームから取外す際に一部を弾性変形させる必要が無いため、利用者は安心してフロントフレームを引っ張って取り外すことができる。
ところが、フロントフレームの着脱は容易であっても、フロントフレームの跳ね上げにおいてはその回動軸となる付勢回動装置が磁気吸着部とは別に設けられている。そのため、眼鏡体や前掛け眼鏡における正面の視認されやすい部分が大きくなって目立つようになり外観が損なわれるという問題があった。
また、跳ね上げの回動は回転軸の摺動に依存するところ、軸と軸受の摩耗によって徐々に回動の抵抗が失われて跳ね上げたフロントフレームが使用中に降下してきたり、逆に軸受の変形によって抵抗が増して滑らかに跳ね上げできなくなったりするという問題もあった。
【0012】
本発明は、上記のような問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、任意のレンズが取り付けられたフロントフレームを確実に眼鏡フレームに固定できるうえ、その着脱は利用者自身が極めて容易に行うことができる着脱式跳ね上げ眼鏡を提供することにある。また、固定したフロントフレームの跳ね上げ操作を繰り返し行ったとしても一定の抵抗感で跳ね上げることができる着脱式跳ね上げ眼鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を以下に説明する。
本発明の着脱式跳ね上げ眼鏡(以下、単に「眼鏡」という)は、利用者が頭部あるいは顔面に装着する眼鏡フレームに前記眼鏡フレームとは別体のレンズが取り付けられたフロントフレームを着脱できるものである。前記眼鏡フレームは、左右のテンプルと前記テンプルを各々回動自在に連結する一対の智部と前記智部同士を連結する連結部材とを少なくとも備える。なお、前記眼鏡フレームには、前記フロントフレームに取り付けられたレンズとは異なるレンズが取り付けられていてもよい。
【0014】
前記フロントフレームには円筒形の第一の磁性体を備えるとともに前記眼鏡フレームには円筒形の第二の磁性体を備えている。ここでいう磁性体とは、磁性を帯びることができる物質のうち、磁石と十分な力で引き合ったり反発しあったりすることができるいわゆる強磁性体を指し、保磁力の大小を問わない。また、前記第一の磁性体と前記第二の磁性体の両方は磁化されている。ここでいう磁化とは、あらかじめ磁性体に外部磁場を印加することにより磁性体が磁気的に分極している状態をいう。
【0015】
前記フロントフレームと前記眼鏡フレームとは前記第一の磁性体と前記第二の磁性体とが磁力によって固定可能である。
この点について詳述すると、まず前記フロントフレームと前記眼鏡フレームとは磁力が引き合うことによって固定可能である。すなわち、磁化した一方の磁性体が他方の磁性体と磁気的に引き合って一定の力で吸着しつづけることで眼鏡フレームとフロントフレームとが一体化される。この状態が維持されることで固定可能としている。
【0017】
このように固定された前記フロントフレームは、前記第一の磁性体と前記第二の磁性体とが磁力によって固定された状態を維持しながら前記フロントフレームを回動して跳ね上げ可能である。
ここで、磁力によって固定された状態とは、前記第一の磁性体と前記第二の磁性体とが常に一定の磁力を作用させた状態に限定されることなく、相互に磁力の影響を及ぼしている状態であれば、跳ね上げの過程で相互に作用している磁力が変動する状態も含まれる。また、跳ね上げとは上方に回動して跳ね上げるもの以外にも、下方に回動するものも含めるものとする。
【0018】
上記構成の作用について詳述する。まず、フロントフレームと眼鏡フレームとが第一の磁性体と第二の磁性体との磁力によって固定可能であることにより、フロントフレームを眼鏡フレームに着脱する場合に何れかの部分を弾性変形させることなく着脱できる。
また、磁力が引き合って固定される場合には、磁性体同士の距離が近づくにつれて加速するように吸着する。
このように、フロントフレームと眼鏡フレームとの着脱の際には部分的な変形を伴うことがないうえ、取り付けの際には固定位置に自然に案内されるようになるため取り付けにおいて慎重な操作を強いることなく容易に取り付けることができる。
【0019】
跳ね上げ操作における抵抗感については、フロントフレームの回動における摩擦力は摩擦係数と抗力(摩擦面に働く力)の積によって求められる。ここで、抗力について着眼すると、従来の軸と軸受けによる回動においては、軸受けが軸を挟み込む力が抗力となるところ、軸受けが摩耗して軸受けの内径が拡大されると抗力が急激に減少する。また、軸受けが変形すると軸受けの内径が局所的に軸に強く接触して抗力が急激に増大する。このように、従来の軸と軸受けによって跳ね上げの回動を構成した場合には、経時的に摩擦力が変動して跳ね上げの抵抗力が維持できない。
【0020】
しかし、第一の磁性体と第二の磁性体とが磁力によって固定された状態を維持しながらフロントフレームを回動する場合には、摩擦面に作用する抗力は磁力によって作用する。磁力は、摩耗によって低下することはなく、磁性体を固定している周辺部が変形した場合であってもそれによって磁力が直ちに局所的に強い抗力を生じさせることはない。
このように、第一の磁性体と第二の磁性体とが磁力によって固定された状態を維持しながらフロントフレームを回動する構成とすることで、軸と軸受けによる構成と比較して抗力の経時的な変動を抑制することができる。
【0021】
ここで、フロントフレームを跳ね上げる場合には、フロントフレームを磁性体同士の吸着方向を回転基準として回動させる力のほか、手で操作するために前記回転基準とは異なる方向の力も作用してしまう。このとき、磁力によって固定されている第一の磁性体と第二の磁性体とが吸着方向とは異なる方向にずれようとする力が作用する。
しかし、第一の磁性体と第二の磁性体とが磁力によって固定された状態を維持しながらフロントフレームを回動する構成であることによって、第一の磁性体と第二の磁性体とが吸着方向とは異なる方向にずれようとしても、安定する位置に磁力によって引き戻される。そのため、跳ね上げ操作の前後にわたって回転基準が安定し、跳ね上げを円滑にすることができる。
【0022】
本発明による課題を解決するための手段のうち、基本的な構成によるものについては上記のとおりであるが、本発明においては、下記の手段を用いることも可能である。
前記第一の磁性体と前記第二の磁性体の両方が中空形状であり、磁化方向を円筒の高さ方向とすることも可能である。
【0023】
一般的に例えば円柱形状等の中実形状の磁性体を高さ方向に磁化した場合、端面においては、外周部の表面磁束密度が最も強く、中心部に向かうほど表面磁束密度は弱くなる傾向を示す。すなわち、外周部のほうがより強く引き合ったり反発したりする。これは例えば円筒形状等の中空形状の磁性体を高さ方向に磁化した場合であっても同様である。
磁力による吸着力は表面磁束密度の自乗に比例するため、表面磁束密度が高いほど強く吸着する。そのため、磁性体同士を近づけると外周面同士が強く吸着あるいは反発することになる。
【0024】
表面磁束密度の端面における分布について着目すると、中実形状においては外周部から中心部に向かって徐々に減少する分布を示す。ところが、中空形状においては中空部を除いた面では外周部から内側に向かって徐々に減少し、内周部において再度上昇する分布を示す。しかし、中空部の特に中心部では磁束の向きは外周部とは逆方向となるため表面磁束密度は急激に低下する。したがって、外形の大きさが共通であれば、中空形状の磁性体を用いた場合には中空部を除いた端面である部分によって吸着あるいは反発することとなる。
【0025】
ここで、磁性体同士が引き合って固定された状態でフロントフレームを跳ね上げる場合に上記表面磁束密度の分布の違いが与える影響について詳述する。前述のように、フロントフレームを跳ね上げる場合に回転基準とは異なる方向の力が作用すると、磁力によって固定されている第一の磁性体と第二の磁性体とが吸着方向とは異なる方向にずれようとする力が作用する。
【0026】
磁性体が中実形状の場合には、一方の磁性体が吸着方向と異なる方向にずれようとした場合、表面磁束密度の大小はあるものの端面全体にわたって表面磁束密度が分布しているため、端面の外周部同士が引き合おうとする力とともに、一方の磁性体の外周部と他方の磁性体の内面部とが引き合おうとする力も発生する。すなわち、端面の外周部同士が引き合おうとする力が、一方の磁性体の外周部と他方の磁性体の内面部とが引き合おうとする力によって減殺される。そのため、回転基準を強固に保持しようとする力が弱まり、回転基準がぶれやすくなって跳ね上げ操作の円滑性が失われる可能性がある。
しかし、磁性体が中空形状の場合には、引き合おうとする極性の表面磁束密度は中空部を除く端面に分布する。そのため、一方の磁性体が吸着方向と異なる方向にずれようとした場合、端面の外周部同士及び内周部同士はそれぞれ互いに引き戻そうとする。一方、中空部は表面磁束密度が極端に小さいため、中空部に向かって引き合おうとする力はほとんど作用しない。これにより、各磁性体の位置を一定に保持しようとする力がより強く働くことによりフロントフレームの跳ね上げの途中に回転基準がぶれにくくなるため跳ね上げ操作がより円滑になる。
【0028】
ところで、前記フロントフレームと前記眼鏡フレームとは前記第一の磁性体と前記第二の磁性体とが引き合うことによって固定可能とする場合には、前記フロントフレームと前記眼鏡フレームとが固定された状態において前記第一の磁性体と前記第二の磁性体とによって合成された磁場における前記第一の磁性体及び前記第二の磁性体の内側を通る磁束線を回転基準として、軸及び軸受けを用いることなく、前記フロントフレームを回動して跳ね上げ可能とする構成とすることもできる。
このように、第一の磁性体と第二の磁性体とが引き合う状態においては、各々の磁場は合成されることとなる。このとき、第一の磁性体と第二の磁性体が異なる形状であったりずれて配置されたりすると合成された磁場における磁性体の内側を貫く磁束線が歪んでしまう。ここで、多少歪んだ状態であっても、第一の磁性体と第二の磁性体とが磁力によって固定された状態を維持しながら前記フロントフレームを回動することは可能である。しかし、合成された磁場の磁性体の内側を貫く磁束線が直線状となるように配置することで、前記第一の磁性体及び前記第二の磁性体の内側を通る直線状の磁束線を回転基準としてフロントフレームをぶれることなくより円滑に回動して跳ね上げ可能とすることができる。なお、直線状の磁束線による回転基準は、必ずしも軸である必要はなく、磁束線が並列した円筒面に沿って回転する基準であってもよい。
【0029】
また、前記フロントフレームと前記眼鏡フレームとは前記第一の磁性体と前記第二の磁性体とが引き合うことによって固定可能とする場合には、前記第一の磁性体と前記第二の磁性体とは少なくとも各々の一部が接触した状態のまま前記フロントフレームを回動して跳ね上げ可能とすることもできる。
このように、磁性体同士が接触した状態で回動することにより、接触による摩擦を一定に保つことができる。そのため、跳ね上げ操作の抵抗感が一定となる。
【0030】
磁性体の配置については、前記第一の磁性体は前記フロントフレームの中央部に配置されるとともに前記第二の磁性体は前記連結部材の中央部に配置され、前記第一の磁性体と前記第二の磁性体とは前記連結部材の長手方向が回転基準となるように配置して構成することも可能である。
各磁性体を中央部に配置することにより、眼鏡フレームにおけるブローバー等の連結部材の外観への影響を最小限とすることができる。
【0031】
また、前記第一の磁性体は前記フロントフレームの左右端にそれぞれ配置されるとともに前記第二の磁性体は前記智部にそれぞれ配置され、前記第一の磁性体と前記第二の磁性体とは前記連結部の長手方向が回転基準となるように配置して構成することも可能である。
各磁性体を左右端に配置することにより、使用中に装着したフロントフレームの左右端がぶれることを防止することができる。また、跳ね上げの際に一方のレンズを指で挟んで跳ね上げ操作する場合に、回転基準が指で挟んだ力点の位置に近くなるため円滑に跳ね上げることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明では、フロントフレームと眼鏡フレームとが第一の磁性体と第二の磁性体との磁力によって固定され、その固定された状態を維持しながらフロントフレームを回動して跳ね上げ可能としている。このような構成としたことにより、フロントフレームを眼鏡フレームに着脱する場合に何れかの部分を弾性変形させる必要がない。
また、磁力が引き合って固定される場合には、磁性体同士の距離が近づくにつれて加速するように吸着する。一方、磁力が反発して固定される場合には、第一の磁性体と第二の磁性体とが互いの磁力がつり合う位置に互いに配置されることで互いに反発する磁力に支えられてその位置を保持しようとする。
これらにより、取り付けの際には固定位置に自然に案内されるようになるため取り付けにおいて慎重な操作を強いることなく容易に取り付けることができる。そのため、任意のレンズが取り付けられたフロントフレームを確実に眼鏡フレームに固定できるうえ、その着脱は利用者自身が極めて容易に行うことができるという効果がある。
【0033】
加えて、第一の磁性体と第二の磁性体とが磁力によって固定された状態を維持しながらフロントフレームを回動して跳ね上げ可能としたことにより、回動における磁性体同士に働く抗力の経時的な変動を抑制することができる。
これにより、眼鏡フレームに固定したフロントフレームの跳ね上げ操作を繰り返し行ったとしても一定の抵抗感で跳ね上げることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の着脱式跳ね上げ眼鏡を表す正面図及び部分平面図である。
図2】本発明の眼鏡フレームとフロントフレームの部分平面図である。
図3】本発明のフロントフレームを跳ね上げる様子を表す断面図である。
図4】本発明の第一の磁性体と第二の磁性体の合成磁場の磁束線を表す説明図である。
図5】円柱形状と円筒形状の磁性体の表面磁束密度を表す説明図である。
図6】本発明の参考例の眼鏡フレームとフロントフレームの部分平面図である。
図7】本発明の参考例の第一の磁性体と第二の磁性体の合成磁場の磁束線を表す説明図である
図8】本発明の変形例1の眼鏡フレームとフロントフレームの部分平面図である。
図9】本発明の変形例2の眼鏡フレームとフロントフレームの部分平面図である。
図10】本発明の変形例3の眼鏡フレームとフロントフレームの部分平面図である。
図11】特許文献2の従来例を表す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明を実施するための形態について、図1図5に基づいて以下に説明する。
なお、図4における磁束線や図5における表面磁束密度の分布図は説明のために模式的に簡略記載されている点に留意が必要である。
【0036】
本発明の着脱式跳ね上げ眼鏡100(以下、前記同様に「眼鏡」という)は、図1に示すようにフロントフレーム1と、フロントフレーム1を取り付ける眼鏡フレーム2とから構成されている。
フロントフレーム1は樹脂製の跳ね上げ部材12に一体型の樹脂レンズ11が取り付けられている。跳ね上げ部材12は背面側に突出した部分を有し、先端には第一の磁性体13が固定されている。
第一の磁性体は例えば中空形状である円筒形状のネオジム磁石であるが、それ以外にもその他の種類や形状の磁石であってもよいし、磁化していない磁性体である金属部品であってもよい。なお、前記レンズ11は一体型に限らず左右別々のレンズとしてもよい。
【0037】
眼鏡フレーム2は、テンプル21・21’と、テンプル21・21’を折りたたみ可能に回動自在に連結する智部22・22’と、智部22・22’同士を水平に連結するブローバーである連結部材23と、連結部材23から背面下方に垂下する鼻当て部24・24’とから構成されている。これらの素材は樹脂製であることが好ましいが、金属で構成する場合には第一の磁性体13及び第二の磁性体25・25’への磁気的な影響を防止するために磁性の弱いものが好ましい。
また、連結部材23の中央部には一対の第二の磁性体25・25’が第一の磁性体13の横幅と同程度の距離を隔てて取り付けられている。この第二の磁性体25・25’は第一の磁性体13同様の円柱形状のネオジム磁石を用いることができるが、第一の磁性体13に磁石を用いる場合には、第二の磁性体25・25’は磁化していない磁性体である金属部品であってもよい。
【0038】
これら第一の磁性体13と第二の磁性体25・25’を何れも磁石とした場合には、第二の磁性体25・25’は向かい合う面が異なる極性となるように配置される。また、第一の磁性体13は、第二の磁性体25・25’の間隙に挿入された際に相対する面同士が異なる極性となるように配置される。
【0039】
眼鏡フレーム2にフロントフレーム1を取り付ける場合には、図2に示すように、眼鏡フレーム2の第二の磁性体25・25’の間隙にフロントフレーム1の第一の磁性体13を挿入するように近づける。徐々に近づけて所定の距離となると、第一の磁性体13と第二の磁性体25・25’の異なる極性の対向面同士が引き合う。その結果、図1のようにフロントフレーム1と眼鏡フレーム2とが固定された状態で保持される。
このとき、フロントフレーム1の第一の磁性体13を第二の磁性体25・25’の間隙とはややずれた位置に近づけたとしても、第一の磁性体13と第二の磁性体25・25’とが引き合うことにより第一の磁性体13が自然に第二の磁性体25・25’の間隙に吸引される。そのため、利用者はフロントフレーム1を容易に眼鏡フレーム2に固定させることができる。
【0040】
磁力によって眼鏡フレーム2に固定されたフロントフレーム1は、図3に示すように、第一の磁性体13及び第二の磁性体25・25’を回転基準として跳ね上げることができる。
ここで、第一の磁性体13及び第二の磁性体25・25’は磁性体の形状の中心軸が揃うように配置されている。また、回動中であっても第一の磁性体13と第二の磁性体25・25’とは端面同士が磁力によって引き合い密着固定された状態である。この状態においては、第一の磁性体13及び第二の磁性体25・25’はそれぞれの磁場が合成され、図4に示すような磁束線が表す磁場となる。
【0041】
このように第一の磁性体13と第二の磁性体25・25’とが密着固定した状態では、合成された磁場における第一の磁性体13と第二の磁性体25・25’との内側を貫く直線状の磁束線が生じる。この直線状の磁束線は円周方向に均等に生じているため円柱状になる。フロントフレーム1を跳ね上げる場合には、この直線状の磁束線による円柱状の磁束線を回転基準として回動する。すなわち、磁束線による円柱の円周面に沿って回動する。
この直線状の磁束線は、第一の磁性体13と第二の磁性体25・25’とが相対的に回動したとしても維持され、回転基準がずれようとすると磁力が磁性体を引き戻そうとするため、回転基準がぶれることなく円滑な跳ね上げが可能となる。
【0042】
ここで、中実形状である円柱形状の磁石3と同一外径及び同一高さの中空形状である円筒形状の磁石4とを高さ方向に磁化した場合、端面における表面磁束密度の分布は一般的に図5(a)(b)のようになる。
円柱形状においては、図5(a)に示すように、外周部31の表面磁束密度が最も高く、中心部32に向かって徐々に減少する。一方、円筒形状においては、図5(b)に示すように、外周部41の表面磁束密度が最も高いのは同様であるが、内周部43に向かって徐々に減少するものの内周部43において再度上昇する分布を示す。しかし、中空部42の特に中心部32では磁束の向きは外周部41とは逆方向となるため表面磁束密度は急激に低下する。ここで、磁石の大きさが同一で残留磁束密度も同一である場合には、円柱形状よりも円筒形状の方が表面磁束密度のピークの値は低くなる。しかし、図5(b)に示すように円筒形状の磁石を用いた場合には中空部42を除いた端面である部分に引き合う方向の極性の表面磁束密度が分布することとなる。
【0043】
このような特性の円筒形状の磁石4を第一の磁性体13及び第二の磁性体25・25’に用いた場合には、跳ね上げの際に吸着方向とは異なる方向にずれようとする力が作用すると、端面の外周部41・41同士及び内周部43・43同士は引き戻そうとする反面、中空部42は表面磁束密度が極端に小さいため、中空部42に向かって引き合おうとする力はほとんど作用しない。これにより、フロントフレーム1の跳ね上げの途中に回転基準がぶれにくくなるため跳ね上げ操作がより円滑になる。
【0044】
参考例1』
次に、本発明の眼鏡の参考例について、図6及び図7に基づいて説明する。なお、以降の説明においては同一の部分については同一の符号を用い、重複する説明は割愛する。また、図7における磁束線は説明のために模式的に簡略記載されている点に留意が必要である。
【0045】
参考例では、フロントフレーム1及び眼鏡フレーム2の基本構成は図1の形態と同様である。しかし、第一の磁性体13は第二の磁性体25・25’よりも直径が小さい点が異なる。また、第一の磁性体13は、第二の磁性体25・25’の間隙に挿入された際に相対する面同士が同一の極性となるように配置される点も異なる。第一の磁性体13をこのように配置すると、第一の磁性体13と第二の磁性体25・25’とは反発することとなる。
【0046】
眼鏡フレーム2にフロントフレーム1を取り付ける場合には、図6に示すように、眼鏡フレーム2の第二の磁性体25・25’の間隙にフロントフレーム1の第一の磁性体13を挿入するように近づける。徐々に近づけて所定の距離となると、第一の磁性体13と第二の磁性体25・25’のそれぞれ同一の極性の対向面同士が反発し、近づけるほどその反発力はさらに強くなる。しかし、その反発力に抗って第一の磁性体13を第二の磁性体25・25’の間隙に押し込むと、第一の磁性体13の直径が第二の磁性体25・25’の直径よりも小さいうえ、後述のように中空部の表面磁束密度は内周部43・43の表面磁束密度の高い部分に挟まれて谷のように分布しているため、第二の磁性体25・25’の間で収まってその位置が保持される。
なお、この形態では磁力のつり合いが崩れやすいため、眼鏡フレーム2と跳ね上げ部材12とを部分的に当接させて跳ね上げの前後にわたって常に位置出しされる形状にしておくのが好ましい。
【0047】
このとき、図7に示すように、第一の磁性体13が発する磁束線は第二の磁性体25・25’が発する磁束線の間で反発しながらつり合うことになる。すなわち、図5(b)における内周部43の部分で磁性体同士が反発して磁力がつり合っている。
このつり合った状態において跳ね上げの際に反発方向とは異なる方向にずれようとする力が作用すると、磁性体同士の同士が近づいて反発力が強くなり、押し返されることとなる。これにより、フロントフレーム1の跳ね上げの途中に回転基準がぶれにくくなるため跳ね上げ操作がより円滑になる。
【0048】
変形例1
本発明の眼鏡の他の変形例について、図8に基づいて説明する。
本変形例では、フロントフレーム1には2つの第一の磁性体13・13’が設けられており、眼鏡フレーム2には2つの第二の磁性体25・25’が設けられている。ここで、正面視左側の第一の磁性体13と第二の磁性体25は互いに引き合うように異なる極性が対面するように配置されている。また、正面視右側の第一の磁性体13’と第二の磁性体25’も互いに引き合うように異なる極性が対面するように配置されている。
【0049】
第一の磁性体13・13’及び第二の磁性体25・25’は何れも円筒形状のネオジム磁石が用いられているが、中空部の一方の稜線部には皿ねじ取付け用の面取りが施されている。この面取りには皿ねじが挿入される。すなわち、第一の磁性体13・13’には皿ねじ14・14’が挿入されてフロントフレーム1にねじ固定され、第二の磁性体25・25’には皿ねじ26・26’が挿入されて眼鏡フレーム2にねじ固定される。
【0050】
このように、第一の磁性体13・13’及び第二の磁性体25・25’に円筒形状のネオジム磁石を用いる場合には、その中空部をねじ固定に用いることで、第一の磁性体13・13’とフロントフレーム1あるいは第二の磁性体25・25’と眼鏡フレーム2を確実に固定することができる。なお、皿ねじ14・26には磁場に影響を与えない樹脂ねじを用いるのが好ましい。
【0051】
変形例2
本発明の眼鏡の他の変形例としては、図9に示すように、眼鏡フレーム2の第二の磁性体25・25’に立方体ないし直方体のネオジム磁石を用いたものも挙げられる。立方体ないし直方体の第二の磁性体25・25’は眼鏡フレーム2の中央部背面側に設けられた挿入溝に挿入されて接着固定される。
【0052】
第二の磁性体25・25’が円筒形状あるいは円柱形状であると、フロントフレーム1の跳ね上げの際に磁気吸着力によっては第一の磁性体13とともに第二の磁性体25・25’が供回りしてしまい、使用中に第二の磁性体25・25’が脱落してしまう可能性がある。
しかし、立方体ないし直方体のネオジム磁石を用いる事で、フロントフレーム1を繰り返し跳ね上げたとしても立方体ないし直方体の角部分が眼鏡フレーム2の挿入溝の角に係止して供回りを防止することができる。
【0053】
変形例3
さらに本発明の眼鏡の他の変形例を挙げると、図10に示すように、2つの第一の磁性体13・13’がフロントフレーム1の左右端に設けられ、2つの第二の磁性体25・25’が左右の智部22・22’に設けられたものが挙げられる。この場合も正面視左側の第一の磁性体13と第二の磁性体25は互いに引き合うように異なる極性が対面するように配置されている。また、正面視右側の第一の磁性体13’と第二の磁性体25’も互いに引き合うように異なる極性が対面するように配置されている。
【0054】
このように第一の磁性体13・13’と第二の磁性体25・25’とを左右端に設けることで、ブリッジ回りに複雑な構造物を配置する必要がなく、外観が良好となる。
また、跳ね上げの際には一方の手の指でレンズ11・11’の何れかを摘まんで跳ね上げる。そのため、回転基準となる各磁性体が左右端に設けられていた方が、指で摘まんだ力点に支点である回転基準が近くなり、より円滑に跳ね上げ操作を行うことができる。
【0055】
本発明は以上の実施形態に限られず、例えば磁性体の周辺に磁気誘導のためのヨークを配置して磁力を集中させてより強固に固定させたり、磁気を不要に放射しないように磁気シールドしたりしても良い。また、第一の磁性体と第二の磁性体は、中央部や左右端のみならず、左右レンズの中央上部に配置するようにしてもよい。
さらに、第一の磁性体と第二の磁性体を下部に配置して回転基準とし、フロントフレームを下方に回動するようにしてもよい。
加えて、第一の磁性体及び第二の磁性体をそれぞれ1つずつで構成し、磁力で吸着あるいは反発している面とは反対側の面はフロントフレームまたは眼鏡フレームの一部に押し当てて固定するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0056】
100 着脱式眼鏡
1 フロントフレーム
11 レンズ
12 跳ね上げ部材
13 第一の磁性体
14 皿ねじ
2 眼鏡フレーム
21 テンプル
22 智部
23 連結部材
24 鼻当て部
25 第二の磁性体
26 皿ねじ
3 円柱形状の磁石
31 外周部
32 中心部
4 円筒形状の磁石
41 外周部
42 中空部
43 内周部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11