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特許7593641焼結体の製造方法および焼結体の製造装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】焼結体の製造方法および焼結体の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/64 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
C04B35/64
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021535377
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2020028994
(87)【国際公開番号】W WO2021020425
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019138645
(32)【優先日】2019-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019142722
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019236358
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和1年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛久
(72)【発明者】
【氏名】徳永 智春
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄大
(72)【発明者】
【氏名】倉地 剛志
(72)【発明者】
【氏名】田口 公啓
(72)【発明者】
【氏名】高橋 征也
(72)【発明者】
【氏名】梅村 亮佑
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】山本剛久ほか,酸化物系セラミックのフラッシュ焼結と今後の進展,まてりあ,2018年,第57巻 第8号,pp. 373-380
【文献】LIU Dianguang et al.,Effect of the applied electric field on the microstructure and electrical properties of flash-sintered 3YSZ ceramics,Ceramics International,2016年,Vol. 42,pp. 19075-19079
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック圧粉体に電界を印加しながら昇温する焼結体の製造方法であって、
焼結速度が一定となるように前記セラミック圧粉体に流れる電流を制御し、前記電流の制御は、前記セラミック圧粉体に流れる電流が所定の電流値に到達した後の少なくとも所定の時間において、焼結速度が一定となるように前記セラミック圧粉体に流れる電流を増加させることによって行われることを特徴とする焼結体の製造方法。
【請求項2】
セラミック圧粉体に電界を印加しながら昇温する焼結体の製造方法であって、
所定の値よりも大きな密度のセラミック焼結体を製造するように定められた電流プロファイルによって前記セラミック圧粉体に流れる電流を制御し、前記電流の制御は、前記セラミック圧粉体に流れる電流が所定の電流値に到達した後の少なくとも所定の時間において、焼結速度が一定となるように前記セラミック圧粉体に流れる電流を増加させることによって行われることを特徴とする焼結体の製造方法。
【請求項3】
セラミック圧粉体を焼結が開始する温度まで昇温する工程と、
焼結が開始する前記温度を保持することなく、昇温された前記セラミック圧粉体を所定温度以下の温度まで低下させる工程と、
温度が低下した前記セラミック圧粉体を所定の電界を印加しながら昇温する工程と、
を含み、
前記所定温度は、前記セラミック圧粉体に電界を印加しながら昇温した場合に該セラミック圧粉体に流れる電流が急激に増加するフラッシュ焼結温度であることを特徴とする焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記焼結が開始する温度は、800~1200℃であることを特徴とする請求項に記載の焼結体の製造方法。
【請求項5】
セラミック圧粉体を所定温度まで昇温する昇温工程と、
前記所定温度に到達するまでに前記セラミック圧粉体に所定の電界を印加する印加工程と、
前記電界を印加する工程で前記セラミック圧粉体に流れる電流が第1の電流値に到達してから、焼結速度が一定となるように前記セラミック圧粉体に流れる電流を制御する第1の電流制御工程と、
前記第1の電流制御工程を所定時間実行した後、前記セラミック圧粉体に流れる電流が前記第1の電流値よりも高い第2の電流値まで上昇させる第2の電流制御工程と、
を含むことを特徴とする焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記セラミック圧粉体の原料粉末は、酸化ジルコニウムを主成分とするものであることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の焼結体の製造方法。
【請求項7】
セラミック圧粉体を加熱するヒータと、
セラミック圧粉体に電圧を印加するための電極と、
前記セラミック圧粉体に所定の電流が流れるように前記電極に電圧を印加する電圧印加部と、
所定の値よりも大きな密度のセラミック焼結体を製造するように定められた電流プロファイルを記憶する記憶部と、
前記ヒータで前記セラミック圧粉体を昇温させながら、前記電流プロファイルに基づいて前記電圧印加部を制御する制御部と、
を備え
前記電流プロファイルは、前記セラミック圧粉体の焼結速度が一定となるように前記セラミック圧粉体に流れる電流を制御し、前記電流の制御は、前記セラミック圧粉体に流れる電流が所定の電流値に到達した後の少なくとも所定の時間において、焼結速度が一定となるように前記セラミック圧粉体に流れる電流を増加させることによって行われることを特徴とする焼結体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年7月29日に出願された日本国特許出願2019-138645号、2019年8月2日に出願された日本国特許出願2019-142722号及び2019年12月26日に出願された日本国特許出願2019-236358号に基づくものであって、その優先権の利益を主張するものであり、その特許出願の全ての内容が、参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は、焼結体に関する。
【背景技術】
【0003】
一般に、セラミックの焼結体は、原料粉末を圧粉・成型し、その成型体を高温下で熱処理することで作製される。熱処理温度(これを焼結温度と呼ぶ)は、セラミックの種類にも依存するが、1200℃~1500℃であり、焼結時間は、数時間程度である。焼結体の密度を向上させるためには、上記のような一般的な焼結法以外にも、外部から圧力をかける方法(ホットプレス法やHIP法など)など多様な方法が考案されている。
【0004】
また、近年では、セラミック圧粉体に電界を印加することで、従来よりも低温、かつ、短時間で焼結を終了できるフラッシュ焼結法が開発されている(非特許文献1参照)。この焼結法の特徴は、電界を印加しながらセラミック圧粉体を昇温していくと、ある温度で急峻に試料電流が上昇し(以下、この現象を「フラッシュ現象」と呼称することがある。)、焼結工程が瞬時に終了することである。また、電界強度を増加させると、焼結体の収縮が始まる温度が低下するとともに、収縮挙動がより急峻に変化することが明らかになっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Marco Cologna et al、「Flash Sintering of Nanograin Zirconia in <5 s at 850℃」、 Rapid Communications of the American Ceramic Society、2010、Vol. 93、No. 11、p. 3556-3559
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フラッシュ現象が生じるフラッシュ温度は、電界が一定であれば一義的に決まってしまう。一方、焼結体の最終的な密度をより高くするためには、フラッシュ温度が高い方が有利であると考えられるが、従来のフラッシュ焼結法では、フラッシュ温度を任意に制御できない。また、試料に投入する電力量が大きいと、試料に接している金属の電極が融解する場合がある。そのため、焼結工程の際にセラミック圧粉体に投入可能な電力量には制限がある。そのため、焼結体の密度(緻密化)の観点では更なる改良の余地がある。
【0007】
本開示はこうした状況に鑑みてなされており、その例示的な目的の一つは、焼結体の密度を向上する新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の焼結体の製造方法は、セラミック圧粉体に電界を印加しながら昇温する焼結体の製造方法であって、焼結速度が一定となるようにセラミック圧粉体に流れる電流を制御する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、従来のフラッシュ焼結法のみでは実現が困難な密度の高い焼結体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】各試料から焼結体を製造する過程における線収縮率の変化を示す図である。
図2】従来のフラッシュ焼結法やRate Control Flashによる試料電流の変化を示す図である。
図3】Ramping Flashを高速焼結に応用した場合の相対密度の変化を示す図である。
図4】ICEFASTと一般的なフラッシュ焼結法における試料電流の挙動を示す図である。
図5】各試料から焼結体を製造する過程における相対密度の変化を示す図である。
図6】実施の形態に係る焼結体の製造装置の概略構成を示す図である。
図7図7(a)は、フラッシュ焼結法により製造された焼結体の中心部の走査型電子顕微鏡写真を示す図、図7(b)は、フラッシュ焼結法により製造された焼結体の外周部の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図8図8(a)は、Rate Control Flashにより製造された焼結体の中心部の走査型電子顕微鏡写真を示す図、図8(b)は、Rate Control Flashにより製造された焼結体の外周部の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図9】Rate Control Flashにより製造された焼結体の透過型電子顕微鏡写真及び所定領域におけるイットリウムの組成分析の結果を示す図である。
図10図10(a)は、図9に示す透過型電子顕微鏡写真、図10(b)は、図10(a)に示す領域におけるEDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)によるジルコニウム元素のマッピングを示す図、図10(c)は、図10(a)に示す領域におけるEDSによるイットリウム元素のマッピングを示す図である。
図11】第3の実施の形態に係る製造方法の仮焼後にフラッシュ焼結法で製造した場合の試料の線収縮率と炉温との関係(ラインL12)を示すグラフである。
図12】仮焼の段階での粒子の再配列および不均一なネック形成を説明するための模式図である。
図13】第4の実施の形態に係る製造方法における線収縮率の変化を示すグラフである。
図14】第4の実施の形態に係る製造方法における試料電流の変化を示すグラフである。
図15】第5の実施の形態に係る各試料から焼結体を製造する過程における線収縮率の変化を示す図である。
図16】従来のフラッシュ焼結法やRate Control Flashによる試料電流の変化を示す図である。
図17】一対の電極間に設けられた直方体のセラミック圧粉体の概略を示す斜視図である。
図18】フラッシュ焼結法において電界の大きさが同じ直流電界と交流電界を印加した場合の相対密度の変化を示す図である。
図19】同じ電界および同じ制限電流値において、交流電界の周波数を変化させた場合の相対密度の変化を示す図である。
図20】周波数と制限電流値とが異なる交流電界を印加した場合の相対密度の変化を示す図である。
図21】断面積の異なるセラミック圧粉体試料に直流電界を印加した場合の相対密度の変化を示す図である。
図22】断面積の異なるセラミック圧粉体試料に交流電界を印加した場合の相対密度の変化を示す図である。
図23】フラッシュ現象における電界と試料電流の関係を定性的に説明するための図である。
図24】第6の実施の形態に係る焼結体の製造方法における交流制御の電圧および電流の波形の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示のある態様の焼結体の製造方法は、セラミック圧粉体に電界を印加しながら昇温する焼結体の製造方法である。この方法は、焼結速度が一定となるようにセラミック圧粉体に流れる電流を制御する。
【0012】
この態様によると、従来のフラッシュ焼結法のみでは実現が困難な密度の高い焼結体を比較的短時間で製造できる。なお、焼結速度は、セラミック圧粉体に流れる電流が所定の電流値に到達した後の少なくとも所定の時間において、一定であればよい。換言すると、セラミック圧粉体に電界を印加しながら昇温している間の全ての時間において焼結速度が一定である必要はない。
【0013】
本開示の別の態様もまた、焼結体の製造方法である。この方法は、セラミック圧粉体に電界を印加しながら昇温する焼結体の製造方法であって、所定の値よりも大きな密度のセラミック焼結体を製造するように定められた電流プロファイルによってセラミック圧粉体に流れる電流を制御する。
【0014】
この態様によると、従来のフラッシュ焼結法のみでは実現が困難な密度の高い焼結体を比較的短時間で製造できる。
【0015】
本開示の更に別の態様もまた、焼結体の製造方法である。この方法は、セラミック圧粉体に電界を印加しながら昇温した場合に該セラミック圧粉体に流れる電流が急激に増加するフラッシュ焼結温度までセラミック圧粉体に第1の電界を印加しながら昇温する第1の工程と、セラミック圧粉体に流れる電流が急激に増加し、所定の電流値まで到達してから、第1の電界よりも小さな第2の電界を印加しながら昇温する第2の工程と、を含む。
【0016】
この態様によると、従来のフラッシュ焼結法のみでは実現が困難な密度の高い焼結体を比較的短時間で製造できる。
【0017】
セラミック圧粉体の原料粉末は、酸化ジルコニウムを主成分とするものであってもよい。
【0018】
本開示の更に別の態様は焼結体の製造装置である。この装置は、セラミック圧粉体を加熱するヒータと、セラミック圧粉体に電圧を印加するための電極と、セラミック圧粉体に所定の電流が流れるように電極に電圧を印加する電圧印加部と、所定の値よりも大きな密度のセラミック焼結体を製造するように定められた電流プロファイルを記憶する記憶部と、ヒータで前記セラミック圧粉体を昇温させながら、電流プロファイルに基づいて電圧印加部を制御する制御部と、を備える。
【0019】
この態様によると、実験や計算から予め算出された電流プロファイルを記憶部に記憶させておくことで、フィードバック制御せずに所定の値よりも大きな密度のセラミック焼結体を製造できる。そのため、フィードバック制御のために焼結速度を把握するための検出装置や演算装置が不要となり、装置を簡素化できる。
【0020】
本開示の更に別の態様の焼結体の製造方法は、一対の電極間に設けられた所定形状のセラミック圧粉体に交流電界を印加しながら昇温する焼結体の製造方法であって、セラミック圧粉体に流れる電流が急激に増加するフラッシュ焼結温度までセラミック圧粉体に第1の交流電界を印加しながら昇温する第1の工程と、セラミック圧粉体に流れる電流が急激に増加し、所定の電流値まで到達してから、第1の交流電界よりも小さな第2の交流電界を印加しながら昇温する第2の工程と、を含む。
【0021】
この態様によると、従来のフラッシュ焼結法のみでは実現が困難な密度の高い焼結体を比較的低い電力で製造できる。
【0022】
第1の工程は、第1の交流電界の印加が電圧制御モードで実行され、第2の工程は、第2の交流電界の印加が電流制御モードで実行されていてもよい。これにより、フラッシュ現象が生じた後は、所定の電流値を超えないように電流制御できるため、試料への過大な電力の投入により電極が融解するといったことが低減される。なお、第2の工程は、第2の交流電界の印加が所定の電力値を超えないように電力制御モードで実行されていてもよい。
【0023】
セラミック圧粉体に流れる電流が所定の電流値まで到達したことを検出した場合に、所定の電流値を超えないように電圧制御モードから電流制御モードへ移行してもよい。
【0024】
第1の交流電界および第2の交流電界は、周波数が10Hz以上であってもよい。これにより、焼結体の密度をより向上できる。
【0025】
セラミック圧粉体は、焼結しやすい形状であることとは別に、焼結後に実用的な形状であることも重要である。そのため、所定形状のセラミック圧粉体は、直方体または柱状であってもよい。
【0026】
セラミック圧粉体の原料粉末は、酸化ジルコニウムを主成分とするものであってもよい。
【0027】
本開示の更に別の態様は、焼結体の製造装置である。この装置は、所定形状のセラミック圧粉体を加熱するヒータと、セラミック圧粉体に電圧を印加するための一対の電極と、一対の電極に電圧を印加する電圧印加部と、ヒータでセラミック圧粉体を昇温させながら、電圧印加部を制御する制御部と、を備える。制御部は、セラミック圧粉体に流れる電流が急激に増加するまでは電圧印加部を電圧制御し、セラミック圧粉体に流れる電流が急激に増加し、所定の電流値まで到達してからは電圧印加部を電流制御する。
【0028】
この態様によると、電極が融解しない程度の比較的低い電力でも、従来のフラッシュ焼結法のみでは実現が困難な密度の高い焼結体を製造できる。
【0029】
制御部は、セラミック圧粉体に流れる電流を検出する検出部を有してもよい。制御部は、検出部で所定の電流値を検出した場合に、所定の電流値を超えないように電圧印加部による電圧制御モードを電流制御モードへ移行してもよい。
【0030】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【0031】
以下、図面等を参照しながら、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本開示の範囲を何ら限定するものではない。
【0032】
本開示の焼結体の製造方法は、一般的な焼結法で使用される温度範囲より低い温度範囲で製造可能であり、かつ、製造時間を大幅に短縮させることができる技術である。特に着目した点は以下の点である。
【0033】
・フラッシュ焼結で得られる、より低温、より短時間での緻密化は、フラッシュ現象時に投入されるジュール熱に起因したセラミック圧粉体の実温度の上昇の寄与が大きい。
【0034】
・印加電界が大きくなると、フラッシュ温度は低温側に変化する。電界が大きいほどフラッシュ現象時に投入できるジュール熱量は増加するが、一方、フラッシュ温度は低下するために、電気炉からの加熱効果は減少する。
【0035】
本願発明者らは、これらの事実に着目しつつ、従来のフラッシュ焼結法のみでは実現が困難な密度の高い焼結体を実現すべく鋭意検討した結果、幾つかの新たな焼結体の製造方法に想到した。
【0036】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態に係る焼結体の製造方法は、制限電流量を制御して焼結速度を一定としながらフラッシュ焼結を実施する技術である。この技術は、フラッシュ焼結時に生じる急峻な試料電流の増加を制御しながら、圧粉体の緻密化速度を一定速度に調整し、最終的な到達密度を向上させる技術である。本実施の形態に係る焼結体の製造方法を用いると、一般的なフラッシュ焼結時に生じる急峻すぎる緻密化挙動に起因する緻密化状態や組織の不均一化を抑制でき、結果として、到達密度を向上できる。以下、この方法の名称をRate Control Flashと呼称する。
【0037】
(焼結体の製造方法)
本実施の形態に係る焼結体の製造方法では、セラミックの原料粉末として3mol%のイットリア(Y)を均一に分散固溶させたジルコニア(ZrO)粉末(TZ-3Y:東ソー株式会社製、以下「3YSZ」と称する場合がある。)を使用した。この原料粉末を圧粉し、一軸および静水圧成型により、長さ15mm、断面形状が3.5mm×3.5mmの直方体の試料(セラミック圧粉体)を作製した。試料成型後、試料の長手方向両端面に、電極として白金(Pt)箔をPtペーストにより固定した。
【0038】
次に、電極が固定された試料を、DCおよびAC電源を接続できるように改造を施した示差熱膨張計(Thermo plus EVO2 TMA8301:株式会社リガク製)に設置した。そして、この試料に電界を印加しながら炉内で昇温した。
【0039】
図1は、各試料から焼結体を製造する過程における線収縮率の変化を示す図である。図2は、従来のフラッシュ焼結法やRate Control Flashによる試料電流の変化を示す図である。
【0040】
図1に示すラインL1(比較例1)は、従来のフラッシュ焼結法での線収縮率の時間変化を示している。ラインL1に示すように、従来のフラッシュ焼結法では、試料に所定の強度の電界が印加されている状態で昇温していくと、試料に流れる電流はフラッシュ焼結温度に近づくと急激に大きくなり(図2のラインL1参照)、焼結が短時間で完了する。しかしながら、得られた焼結体の線収縮率は18%程度であり、改善の余地がある。
【0041】
一方、ラインL2,L2’,L3,L4(実施例1、実施例1’、実施例2、実施例3)は、Rate Control Flashでの線収縮率の時間変化を示している。Rate Control Flashでは、例えば、100V/cmの電界を試料に印加し、その電界でのフラッシュ焼結温度に近づくと、試料電流が急激に上昇する。その際、試料電流が初期電流制限値100mAに到達した段階で、その後の焼結速度(線収縮率)が一定となるように試料電流を制御しながら1200mAまで増加させている(図2参照)。なお、初期電流制限値は必ずしも100mAでなくてもよく、より低い値が好ましい。
【0042】
なお、ラインL2,L2’,L3,L4に示す実施例1、実施例1’、実施例2、実施例3に係る試料は、初期制限電流値に達した後に電流を増加させる速度(焼結速度)がそれぞれ異なるものである。図1のラインL2,L2’,L3,L4に示すように、Rate Control Flashにより製造された実施例1、実施例1’、実施例2、実施例3に係る焼結体の方が、通常のフラッシュ焼結により製造された比較例1に係る焼結体よりも、非常に高い密度が得られていることが分かる。特にラインL2’に示す実施例1’に係る焼結体は、今回の実施例の中で最も高い密度が得られている。
【0043】
なお、Rate Control Flashの焼結速度が一定であることは、図1の線収縮率の時間変化がほぼ直線(一定)であることから確認できる。ここで、焼結速度が一定であるというのは、数学的な厳密性が求められている訳ではなく、ある程度の誤差や制御遅延によるずれや振幅があっても発明の本質を損なうものではない。例えば、線収縮率(相対密度)の時間変化を示す各ラインの傾きが中心値±50%程度の範囲に含まれていれば、焼結速度が一定と見なしてもよい。
【0044】
このように、第1の実施の形態に係る焼結体の製造方法は、試料電流の増加速度を一定に制御するのではなく、焼結速度が一定となるようにセラミック圧粉体に流れる試料電流を制御する。このような制御では、図2に示すラインL1のような急峻な電流増加ではなく、ラインL2~L4に示すような緩やかな電流増加となっていることが分かる。
【0045】
また、第1の実施の形態の焼結体の製造方法を換言すれば、所定の値よりも大きな密度(例えば相対密度90%以上、線収縮率20%以上)のセラミック焼結体を製造するように定められた電流プロファイルによってセラミック圧粉体に流れる電流を制御する方法ということもできる。ここで、電流プロファイルとは、例えば、実験や理論的な検証により算出された通電時間と試料電流との関係を示すものであり、電流制御部が有する半導体メモリ等に予め記憶されていてもよい。この場合、線収縮率の時間変化の情報を取得して試料電流をフィードバック制御する必要がなくなり、線収縮率を検出する検出部の省略が可能となり、制御系を簡素化できる。
【0046】
以上のように、本実施の形態に係る焼結体の製造方法によると、従来のフラッシュ焼結法のみでは実現が困難な密度の高い焼結体を比較的短時間で製造できる。
【0047】
次に、Rate Control Flashのように焼結速度を必ずしも一定とできない場合には、フラッシュ焼結時の電流増加速度を一定としてもよい。このフラッシュ焼結法をRamping Flashと呼称する。Ramping Flashを高速焼結に応用した変形例について説明する。図3は、Ramping Flashを高速焼結に応用した場合の相対密度の変化を示す図である。変形例に係る製造方法では、昇温速度が50℃/minの急速昇温であり、電界は交流30V/cm、100Hz、試料電流が100mAから1000mA、最終の炉温は約1200℃である。一般に、ジルコニアセラミック(3YSZ)では1500℃程度の温度で数時間かかる焼結が、変形例に係る製造方法では、セラミック圧粉体の昇温開始から焼結終了まで僅か30分程度の時間で、ほぼ100%の相対密度が得られている。
【0048】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態に係る焼結体の製造方法は、ネックの初期形成を促して、より緻密化を促進させるフラッシュ焼結技術の1つである。この製造方法では、高い印加電界を焼結初期において印加し、ジュール加熱で圧粉体を一瞬加熱し、セラミック粉末粒子間にネック(接触部)を形成させる。このまま電界を印加し続けると(この状態は一般的なフラッシュ焼結と同じ)、低い温度でフラッシュ現象が進行してしまい、最終的に得られる到達密度は低くなる。
【0049】
これを防止するために、本実施の形態に係る製造方法では、一瞬フラッシュ現象が生じた直後に、電界を低下させて焼結を実施することが、この技術の主たる特徴である。以下、この方法の名称をICEFASTと呼称する。
【0050】
図4は、ICEFASTと一般的なフラッシュ焼結法における試料電流の挙動を示す図である。図4に示したICEFAST(ラインL5)の焼結条件は以下の通りである。まず、交流100V/cm、制限電流値を100mAとして昇温を開始する。試料温度が電界100V/cmの場合のフラッシュ温度(約800℃)において電流のスパイクが認められる。この温度は、100V/cmを印加した条件での一般的なフラッシュ焼結時のフラッシュ温度と一致する。そのため、試料電流は大きく上昇しようとするが、予め制限電流値を100mAに設定しているので、フラッシュ現象はこの電流値までで制限される。
【0051】
つまり、ICEFASTではフラッシュ温度での試料電流を100mAに制限しているために、一般的なフラッシュ焼結時のように大きく試料電流が増加することはない。このフラッシュ現象が生じた時点で印加電界を30V/cmに低下させ、引き続き昇温を続けていく。なお、図4に示すラインL6、L7は、電界が30V/cm、40V/cmの場合の従来のフラッシュ焼結法における試料電流の挙動を示している。
【0052】
図5は、各試料から焼結体を製造する過程における相対密度の変化を示す図である。
図5では、一般的な焼結(ラインL11:比較例7)、一般的なフラッシュ焼結(ラインL6~L10:比較例2~6)、および、ICEFAST(ラインL5:実施例4)の焼結曲線を示している。
【0053】
まず、比較例7の通常焼結では、1300℃程度まで昇温しても相対密度は70%程度であるのに対して、一般的なフラッシュ焼結(比較例2~6)ではいずれの電界でも到達密度が向上している。また、フラッシュ温度は印加電界が増加するにつれて低温側へ移行していることが確認できる。一般的なフラッシュ焼結において、印加電界が高いにもかかわらず到達密度が低下するのは、フラッシュ温度の違いに起因する。ジュール加熱量が高くても、炉温の影響により得られる到達密度は必ずしも高くなる訳ではないことが、この比較から理解できる。
【0054】
これに対して30V/cmのICEFAST(実施例4)では、セラミック圧粉体に電界を印加しながら昇温した場合に該セラミック圧粉体に流れる電流が急激に増加するフラッシュ焼結温度(約800℃)までセラミック圧粉体に電界100V/cmを印加しながら昇温する第1の工程と、セラミック圧粉体に流れる電流が急激に増加し、所定の制限電流値100mAまで到達してから、100V/cmの電界よりも小さな30V/cmの電界を印加しながら昇温する第2の工程と、を含む。
【0055】
これにより、本実施の形態に係る製造方法では、従来のフラッシュ焼結法のみでは実現が困難な密度の高い焼結体を比較的短時間で製造できる。
【0056】
[焼結体の製造装置]
上述の各実施の形態に係る焼結体の製造方法に適した製造装置について更に詳述する。図6は、実施の形態に係る焼結体の製造装置の概略構成を示す図である。製造装置10は、セラミック圧粉体を焼結する際に昇温するための電気炉12を有する装置本体14と、装置本体14での製造プロセスにおける各設定パラメータを制御する制御システム16と、を備える。
【0057】
装置本体14は、電気炉12に用いられるヒータ12aと、セラミック圧粉体からなる試料18と、試料18が載置される試料台20と、試料18の両端に配置され、試料18に電圧を印加するための電極22と、セラミック圧粉体の体積変化によって移動するロッド24と、ロッド24の動きから試料18の長さ(密度)を検出する検出器26と、を備える。検出器26は、例えば、熱膨張計が用いられる。
【0058】
制御システム16は、信号ラインS1を介して検出器26から試料18の長さ(密度)と相関のある情報を取得し、その情報に基づいてヒータ12aの出力を信号ラインS2を介して制御する制御信号を算出する第1の演算装置28と、一対の電極22間に電圧を印加し、試料18に流れる電流を信号ラインS3を介して制御する電源30と、信号ラインS4を介して検出器26から取得した情報に基づいて試料18の収縮率の速度を計算する第2の演算装置32と、を備える。第1の演算装置28および第2の演算装置32は、例えば、半導体メモリといった記憶部を有するパーソナルコンピュータである。
【0059】
第2の演算装置32は、算出した収縮率の速度(焼結速度)に基づいて信号ラインS5を介してセラミック圧粉体に印加する電圧や電流値を電源30で制御し、さらに、信号ラインS6を介して第1の演算装置28によって装置本体14の電気炉12の出力を制御する。
【0060】
本実施の形態に係る製造装置10は、上述のようなフィードバック制御により従来よりも大きな密度のセラミック焼結体を製造できる。加えて、セラミック焼結体を製造する際には、試料18に流す電流プロファイルや、試料18への加熱による適切な昇温プロファイル(昇温速度)の情報が作成されることになり、それらプロファイルを各演算装置の記憶部に記憶することが可能である。
【0061】
具体的には、電気炉12のヒータでセラミック圧粉体を昇温させながら、電源30を用いてセラミック圧粉体に電圧を印加し、検出器26でセラミック圧粉体の長さを検出するとともに、電源30において試料18に流れる電流を計測する。この際、試料18の長さの時間変化(収縮速度)を記憶部に記憶しておく。
【0062】
第2の演算装置32は、試料18の電流値が上昇を開始し、試料18の収縮速度が増加し始めたら、それらのデータに基づいて、収縮速度が一定となるように電源30を用いて試料18に流れる電流値の制限値を制御、もしくは、電圧値を制御、もしくは、電力値を制御する。さらには、第1の演算装置28を用いて、電気炉12の出力を制御する。
【0063】
上述のように、本実施の形態に係る焼結体の製造装置10は、セラミック圧粉体を加熱するヒータ12aと、セラミック圧粉体に電圧を印加するための電極22と、セラミック圧粉体に所定の電流が流れるように電極22に電圧を印加する電源30と、所定の値よりも大きな密度のセラミック焼結体を製造するように定められた電流プロファイルを記憶する記憶部と、ヒータ12aでセラミック圧粉体を昇温させながら、電流プロファイルに基づいて電圧印加部を制御する第1の演算装置28および第2の演算装置32と、を備える。
【0064】
その結果、製造装置10でセラミック焼結体を製造すると、製造の間の試料18の収縮速度、試料18の温度、試料18へ印加する電圧、電流、電力、電気炉の出力、温度などが、第1の演算装置28、電源30および第2の演算装置32の記憶部に記録される。
【0065】
このように、実験や計算から予め算出された電流プロファイルを記憶部に記憶させておくことで、フィードバック制御せずに所定の値よりも大きな密度のセラミック焼結体を製造できる。そのため、フィードバック制御のために焼結速度を把握するための検出装置や演算装置が不要となり、装置を簡素化できる。
【0066】
したがって、記憶部に記憶されている各プロファイルを用いることで、製造装置10は、その後はフィードバック制御せずに、各プロファイルに基づいて所定の値よりも大きな密度のセラミック焼結体を製造できることになる。あるいは、記憶部に記憶されている各プロファイルを他の製造装置で利用することで、フィードバック制御のための構成がない簡素な製造装置でも、所定の値よりも大きな密度のセラミック焼結体を製造できる。
【0067】
[Rate Control Flashにより製造した焼結体の組織]
次に、製造方法の違いが焼結体の組織や組成に及ぼす影響について説明する。図7(a)は、フラッシュ焼結法により製造された焼結体の中心部の走査型電子顕微鏡写真を示す図、図7(b)は、フラッシュ焼結法により製造された焼結体の外周部の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。図8(a)は、Rate Control Flashにより製造された焼結体の中心部の走査型電子顕微鏡写真を示す図、図8(b)は、Rate Control Flashにより製造された焼結体の外周部の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【0068】
フラッシュ焼結法により製造された焼結体の中心部の組織は、図7(a)の写真に示すように、結晶粒径dの平均値が2.25μmであり比較的大きい。一方、フラッシュ焼結法により製造された焼結体の外周部の組織は、図7(b)の写真に示すように、結晶粒径dの平均値が1.25μmであり、中心部の結晶粒径と比較して55%程度と小さい。
【0069】
これに対して、Rate Control Flashにより製造された焼結体の中心部の組織は、図8(a)の写真に示すように、結晶粒径dの平均値が0.60μmであり非常に小さい。また、Rate Control Flashにより製造された焼結体の外周部の組織は、図8(b)の写真に示すように、結晶粒径dの平均値が0.58μmであり、中心部の結晶粒径とほぼ同じである。つまり、Rate Control Flashにより製造された焼結体は、結晶粒径が非常に微細であり、焼結体の全体にわたって結晶粒径が均一である。
【0070】
次に、焼結体の組成分布について説明する。図9は、Rate Control Flashにより製造された焼結体の透過型電子顕微鏡写真及び所定領域におけるイットリウムの組成分析の結果を示す図である。図10(a)は、図9に示す透過型電子顕微鏡写真、図10(b)は、図10(a)に示す領域におけるEDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)によるジルコニウム元素のマッピングを示す図、図10(a)に示す領域におけるEDSによるイットリウム元素のマッピングを示す図である。
【0071】
図9の写真中に示す”4_Y 5.49”、”5_Y 6.41”、”6_Y 5.45”、”7_Y 6.60”、”8_Y 6.40”、”9_Y 6.22”、”10_Y 5.30”、”11_Y 7.08”、”12_Y 5.35”、”13_Y 6.10”、”14_Y 6.65”、”15_Y 6.37”は、写真に示す視野全体の多結晶組織におけるイットリウム(Y)の組成[at%]をEDS分析したものであり、分析を12回行ったことを示している。その平均値は6.12[at%]であり、Y換算すれば3.06[mol%]となる。そのため、図9に示す試料が、原料粉末として3mol%のイットリア(Y)を固溶させたジルコニア(ZrO)の組成とほぼ一致していることが分かる。また、図10(b)、図10(c)に示すように、図10(a)に示す写真の領域においては、ジルコニウムおよびイットリウムの分布の偏りが非常に少ないことが分かる。
【0072】
上述のように、Rate Control Flashにより製造した焼結体は、結晶粒の大きさの均一性や組成の均一性が非常に高く、従来の製造方法では達成が困難な密度や特性が得られる。
【0073】
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態に係る製造方法は、焼結体の最終的な密度に影響する焼結初期過程(例えば、3YSZの場合は800~1200℃程度の温度範囲で焼結が開始する。)で一度仮焼し、その後、低温まで温度を低下させてから、フラッシュ焼結法により焼結体を製造する方法である。図11は、第3の実施の形態に係る製造方法の仮焼後にフラッシュ焼結法で製造した場合の試料の線収縮率と炉温との関係(ラインL12)を示すグラフである。
【0074】
具体的には、3YSZの圧粉体を焼結が開始する温度(本実施の形態では1200℃)まで昇温し、その温度を特段保持することなく、昇温された3YSZの圧粉体を所定温度以下の温度まで低下させる。ここで、所定温度以下とは、例えば、フラッシュ焼結温度以下であり、本実施の形態では780℃以下の温度である。次に、温度が低下した3YSZの圧粉体を所定の電界(100V/cm,100Hz)を印加しながら昇温する。
【0075】
その結果、図11のラインL12に示すように、フラッシュ焼結法のみで製造した焼結体(ラインL13)と比較すると、フラッシュ焼結温度での線収縮率が大幅に向上している。その結果、本実施の形態に係る製造方法で製造した焼結体は、相対密度が99.6%という非常に高い値を示している。
【0076】
このように高密度な焼結体が得られた理由は、焼結初期過程で生じる原料粉末の再配列や粒子間に形成されるネック形成の不均一を解消する時間が、仮焼の段階で得られることが考えられる。図12は、仮焼の段階での粒子の再配列および不均一なネック形成を説明するための模式図である。
【0077】
図12の左図に示すように、原料粉末を圧粉しただけの段階では、複数の粒子Pが互いに引っ掛かり、内部に大きなボイドV1が形成されている。このように、複数の粒子Pが互いに引っかかっていることをブリッジングと称することもある。この状態で、1000℃前後の温度で仮焼すると、粒子Pの表面拡散が顕著となり、図12の右図のように粒子Pが少しずつその位置を変える。その結果、ブリッジングが外れて、それまで大きかったボイドV1が小さなボイドV2になり、焼結体の密度が高くなる一因であると考えられる。また、焼結初期の段階で生じるネック形成が均一に生じ、その結果、粒子径以上のボイドの形成が抑制される。
【0078】
[第4の実施の形態]
第4の実施の形態に係る製造方法は、第3の実施の形態に係る仮焼の工程を、前述のRate Control Flashで対応した点が特徴の1つである。例えば、本実施の形態に係る焼結体の製造方法は、セラミック圧粉体を所定温度まで昇温する昇温工程と、所定温度に到達するまでにセラミック圧粉体に所定の電界を印加する印加工程と、電界を印加する工程でセラミック圧粉体に流れる電流が第1の電流値に到達してから、焼結速度が一定となるようにセラミック圧粉体に流れる電流を制御する第1の電流制御工程と、第1の電流制御工程を所定時間実行した後、セラミック圧粉体に流れる電流が第1の電流値よりも高い第2の電流値まで上昇させる第2の電流制御工程と、を含む。
【0079】
図13は、第4の実施の形態に係る製造方法における線収縮率の変化を示すグラフである。図14は、第4の実施の形態に係る製造方法における試料電流の変化を示すグラフである。図13図14の横軸の時間(t1,t2,t3)は、互いに同じ時間に対応する。
【0080】
次に、第4の実施の形態に係る製造方法の具体例について説明する。はじめに、3YSZの圧粉体を、300℃/hの昇温速度で昇温し、約780℃に到達した時点(時間t1)で、100V/cm,100Hzの交流電界を印加する。この時点で、試料電流は一瞬100mAまで上昇する(この値は、予め設定してある制限電流値である。)。次に、時間t2において、焼結速度が一定となるように、5分程度Rate Control Flashを実施する(時間t3まで)。その後、時間t3において、一気に制限電流値を1200mAまで上昇させる。これにより、本実施の形態に係る製造方法で製造した焼結体は、非常に高密度な焼結体となる。
【0081】
[第5の実施の形態]
本実施の形態に係る焼結体の製造方法では、セラミックの原料粉末として8mol%のイットリア(Y)を均一に分散固溶させたジルコニア(ZrO)粉末(TZ-8Y:東ソー株式会社製、以下「8YSZ」と称する場合がある。)を使用した。以下では、第1の実施の形態と異なる条件について主に説明する。
【0082】
図15は、各試料から焼結体を製造する過程における線収縮率の変化を示す図である。図16は、従来のフラッシュ焼結法やRate Control Flashによる試料電流の変化を示す図である。
【0083】
図15に示すラインL14(比較例8)は、従来のフラッシュ焼結法での線収縮率の時間変化を示している。ラインL14に示すように、従来のフラッシュ焼結法では、試料に所定の強度の電界が印加されている状態で昇温していくと、試料に流れる電流はフラッシュ焼結温度に近づくと急激に大きくなり(図16のラインL14参照)、焼結が短時間で完了する。しかしながら、得られた焼結体の相対密度は80%程度であり、改善の余地がある。
【0084】
一方、ラインL15,L16,L17(実施例5、実施例6、実施例7)は、Rate Control Flashでの線収縮率の時間変化を示している。Rate Control Flashでは、例えば、50V/cmの電界を試料に印加し、その電界でのフラッシュ焼結温度に近づくと、試料電流が急激に上昇する。その際、試料電流が初期電流制限値100mAに到達した段階で、その後の焼結速度が一定となるように試料電流を制御しながら1200mAまで増加させている(図16参照)。なお、初期電流制限値は必ずしも100mAでなくてもよく、より低い値が好ましい。
【0085】
なお、ラインL15,L16,L17に示す実施例5、実施例16、実施例7に係る試料は、初期制限電流値に達した後に電流を増加させる速度(焼結速度)がそれぞれ異なるものである。具体的には、実施例5の焼結速度(線収縮率)が200μm/min、実施例6が120μm/min、実施例7が60μm/minである。図16のラインL15,L16,L17に示すように、Rate Control Flashにより製造された実施例15、実施例16、実施例17に係る焼結体の方が、通常のフラッシュ焼結により製造された比較例8に係る焼結体よりも、非常に高い密度が得られていることが分かる。
【0086】
なお、Rate Control Flashの焼結速度が一定であることは、図16の相対密度の時間変化がほぼ直線(一定)であることから確認できる。
【0087】
[第6の実施の形態]
研究や実験において作成される焼結体の形状は、作りやすいことが重要な要素であり、実用的な形状であることまでは考慮されていないことが多い。しかしながら、製造された焼結体として実用性を考慮すると、直方体や柱状であることが好ましい。図17は、一対の電極間に設けられた直方体のセラミック圧粉体の概略を示す斜視図である。
【0088】
図17に示すセラミック圧粉体からなる試料18は、縦D[mm]×横W[mm]×高さH[mm]の直方体であり、高さ方向の両端部に一対の電極22が設けられている。この場合、電界印加を行う電極22がセラミック圧粉体からなる試料18の端面に接しているため、この部分の耐熱性が低いと、試料18へ投入できる電力量が制限される。このため、電極を融解させない程度の低い投入電力で、焼結体の最終到達密度を高くできる技術が必要となる。
【0089】
本開示の焼結体の製造方法は、一般的な焼結法で使用される投入電力より低い投入電力で製造可能であり、電極の融解も低減できる。特に着目した点は、フラッシュ焼結法において交流電界を用いることで、直流電界を用いる場合と比較して、焼結密度の高い焼結体を製造できる点である。
【0090】
本願発明者らは、これらの事実に着目しつつ、従来のフラッシュ焼結法のみでは実現が困難な密度の高い焼結体を実現すべく鋭意検討した結果、新たな焼結体の製造方法に想到した。
【0091】
(焼結体の製造方法)
第6の実施の形態に係る焼結体の製造方法では、セラミックの原料粉末として3mol%のイットリア(Y)を均一に分散固溶させたジルコニア(ZrO)粉末(TZ-3Y:東ソー株式会社製、以下「3YSZ」と称する場合がある。)を使用した。この原料粉末を圧粉し、一軸および静水圧成型により、長さ15mm、断面形状が7mm×7mmの直方体の試料(セラミック圧粉体)を作製した。試料成型後、試料の長手方向両端面に、電極として白金(Pt)箔をPtペーストにより固定した。
【0092】
次に、電極が固定された試料を、DCおよびAC電源を接続できるように改造を施した示差熱膨張計(Thermo plus EVO2 TMA8301:株式会社リガク製)に設置した。そして、この試料に電界を印加しながら炉内で昇温した。
【0093】
図17に示す試料18は、電極22としてPt箔が直接セラミック圧粉体と接触している。そのため、電界印加時に投入可能な電力量は、電極に用いる金属(Pt)が融解する温度を超えない範囲に制限される。そこで、本願発明者らは交流電界について着目した。以下では、セラミック圧粉体の原料粉末として酸化ジルコニウムを主成分とするものを例に説明するが、他の化合物を原料粉末とした焼結体に対しても本開示の焼結体の製造方法を適用できることは言うまでもない。
【0094】
(直流電界と交流電界の効果の違い)
図18は、フラッシュ焼結法において電界の大きさが同じ直流電界と交流電界を印加した場合の相対密度の変化を示す図である。図18に示すラインL1は、交流電界(50V/cm、1Hz、制限電流値900mA)を印加したフラッシュ焼結法での相対密度の時間変化を示している。ラインL2は、直流電界(50V/cm、制限電流値900mA)を印加したフラッシュ焼結法での相対密度の時間変化を示した図である。なお、試料の断面は、縦Dが7mm、横Wが7mmである。以下、特に言及しない場合は同じ大きさの断面を有する試料である。
【0095】
図18に示すように、交流電界を印加した場合(ラインL1)の相対密度が高いことが分かる。その理由は以下の通りと考えられる。直流電界の印加では一方向にイオン流が生じるため、一対の電極のうち負極側に近いセラミック圧粉体から強還元されてしまい、大気中で窒化なども生じることがあり、緻密化が大きく阻害されてしまう。さらには、試料形状の不均一(変形)も生じる。一方、交流電界の印加では直流電界のようなイオン流の偏りは生じないため、緻密化がより均一に進行する。
【0096】
ここで、直流電界の場合に、焼結体の到達密度を向上させようとして、より高い電力を試料18に投入しようとすると、電極22に用いたPt箔が溶解してしまうことがある。そのため、直流電界では高い到達密度を得ることができない。融解の傾向は特にセラミック圧粉体の断面積が大きくなるほど顕著となる。
【0097】
(到達密度に及ぼす交流電界の周波数の影響)
図19は、同じ電界および同じ制限電流値において、交流電界の周波数を変化させた場合の相対密度の変化を示す図である。図19に示すラインL3~ラインL6は、それぞれ周波数が1Hz、10Hz、100Hz、1000Hzの場合である。図19から分かるように、交流電界の周波数が高くなるほど到達密度が増加する。
【0098】
(到達密度を向上させるために投入できる電力量に関する交流電界の周波数依存性)
焼結体の到達密度を向上させるためには、より高い電力を投入することが必要である。しかしながら、図17に示すような直方体のセラミック圧粉体を用いている場合、電極が融解しない温度範囲となるように電力量が制限される。
【0099】
そこで、本願発明者らは、交流電界の場合には、より高い周波数の方が電極の融解を抑えながらより高い電力を投入できることを見出した。図20は、周波数と制限電流値とが異なる交流電界を印加した場合の相対密度の変化を示す図である。ラインL7は、周波数10Hz、制限電流値900mAの交流電界を印加した場合であり、相対密度は85%未満である。また、周波数10Hz、制限電流値1000mAの交流電界を印加した場合、電極が融解し、十分な焼結が行えなかった。一方、周波数1000Hz、制限電流値900mAの交流電界を印加した場合(ラインL8)、焼結体の相対密度は85%を超えている。また、周波数1000Hz、制限電流値1100mAの交流電界を印加した場合(ラインL9)、電極は融解せず投入電力を高くできた結果、焼結体の相対密度は90%を超えている。このように、電極が直方体のセラミック圧粉体に接する試料では、より高い周波数の交流電界を用いることで、より高い電力を投入することができ、結果として焼結体の到達密度を向上させることができる。
【0100】
(セラミック圧粉体の断面積の影響)
フラッシュ焼結法における試料電流の挙動は、セラミック圧粉体の断面積に依存することが分かった。図21は、断面積の異なるセラミック圧粉体試料に直流電界を印加した場合の相対密度の変化を示す図である。ラインL10は、断面積が7×7mmの試料に、電界50V/cm、制限電流値900mAの直流電界を印加した場合、ラインL11は、断面積が5×5mmの試料に、電界50V/cm、制限電流値816mAの直流電界を印加した場合、ラインL12は、断面積が3.5×3.5mmの試料に、電界50V/cm、制限電流値400mAの直流電界を印加した場合の相対密度の変化を示している。これらの結果から、断面積が大きくなるほど、フラッシュ温度が低下することが分かる。
【0101】
図22は、断面積の異なるセラミック圧粉体試料に交流電界を印加した場合の相対密度の変化を示す図である。ラインL13は、断面積が7×7mmの試料に、電界50V/cm、周波数10Hz、制限電流値900mAの交流電界を印加した場合、ラインL14は、断面積が5×5mmの試料に、電界50V/cm、周波数10Hz、制限電流値816mAの交流電界を印加した場合、ラインL15は、断面積が3.5×3.5mmの試料に、電界50V/cm、周波数10Hz、制限電流値400mAの交流電界を印加した場合の相対密度の変化を示している。
【0102】
交流電界を印加したいずれの試料も、直流電界を印加した同じ試料と比較して、到達密度が大きくなっていることがわかる。一方、断面積が大きい試料ほど到達密度が低くなっている。そこで、断面積が大きいセラミック圧粉体試料の場合ほど、投入電力を向上させる必要があり、その方法としては、交流電界の周波数を高くすることが効果的である。
【0103】
(交流電界の制御について)
図23は、フラッシュ現象における電界と試料電流の関係を定性的に説明するための図である。図23に示すラインL16は、フラッシュ焼結法による焼結体の相対密度の変化を示し、ラインL17は、電界を印加しない通常の焼結法による焼結体の相対密度の変化を示している。また、ラインL18は、フラッシュ焼結法における電界の変化を示し、ラインL19はフラッシュ焼結法における試料電流の変化を示している。
【0104】
フラッシュ焼結法では、セラミック圧粉体に一定の電界を印加した状態で昇温させる。この際、予め試料電流値の上限である制限電流値が設定されている。電気炉の温度が上昇し、フラッシュ温度に達するとフラッシュ現象が生じ、それとともに相対密度が大きく増加する。
【0105】
図23に示すように、このフラッシュ現象の前後で電界と試料電流が大きく変化する。試料への電界の印加、試料電流の制御は、一般的に安定化電源が用いられる。フラッシュ温度より低い温度で一定の電圧を印加している範囲では、この電源の制御モードは、電圧制御モードである(図23のモード1)。図23に示すように、フラッシュ温度以下の温度範囲ではセラミック圧粉体の抵抗は高く、試料電流はほとんど流れない。その後、フラッシュ温度に達すると、試料の抵抗が大きく減少し、それとともに、試料電流値が急峻に増加する(ラインL19)。
【0106】
この試料電流は、予め設定しておいた制限電流値まで増加する。試料電流が制限電流値に達した時点で、安定化電源は、電圧制御モードから電流制御モード(図23のモード2)に自動で移行する。これ以降は、一定の電流値になるよう電源が制御を行うため、印加される電界は大きく低下しながら自動で制御される。なお、電気炉の温度は、このフラッシュ現象の発生温度で一定であってもよく、あるいは、更に昇温を続けてもよい。以下では、炉温が一定の場合について説明する。
【0107】
一般に、フラッシュ焼結法では、急峻な焼結(短時間での焼結)という現象が注目されていたために、上述したようなフラッシュ現象が生じた後に一定の温度で更に一定の電流を試料に流し続けるという発想がなかった。一方、前述のように、Pt箔のような電極が直接セラミック圧粉体と接した状態で焼結する場合、試料に投入できる電力量が制限されるため、フラッシュ現象時の緻密化だけでは十分な密度の焼結体が得られない。そのため、フラッシュ現象が生じた後での試料への通電の保持過程が重要となる。
【0108】
直流電圧を印加する場合、電源はフラッシュ現象時に生じる急峻な電流値の増加に追随でき、制御モードは自動で電圧制御モードから電流制御モードへと移行できる。一方、交流電界を印加する場合、電界、電流が正負で振動しているため、フラッシュ現象に伴う試料電流の増加が、そもそもの交流波形と混ざるため、通常の電源では追随できない。そこで、例えば、以下のような工夫をすることで、フラッシュ現象が発生する前後で電圧制御モードから電流制御モードへと移行できる。
【0109】
図24は、第6の実施の形態に係る焼結体の製造方法における交流制御の電圧および電流の波形の一例を示す図である。図24のフラッシュ現象発生より左側がフラッシュ温度以下の波形、右側がフラッシュ温度以上の波形を示す。波形W1,W2は電圧、波形W3,W4は電流の変化を示す。
【0110】
図24に示すように、フラッシュ温度以下では、電圧の波形W1はサイン波を描き、電流はほとんど流れないので、波形W3は僅かに振動しているだけである。一方、フラッシュ温度以上では、電流値が大きく増加する。このときに、制限電流値を超えた部分については、カットされるように電流値が制御される(波形W4)。この際、電圧の波形W2も電流値と同様の波形になる。
【0111】
この結果、電圧制御モードから電流制御モードへの移行過程、および、電流制御モードの過程において生じる試料の抵抗値減少に対応でき、電圧制御モードから電流制御モードへと自動で移行させることが可能となり、かつ、自動的に予め設定した制限電流値で制御することが可能となる。ここで、電流の波形W4の正の部分の最大値と負の部分の最大値はほぼ同じであることが好ましい。正負の最大値にずれが生じている場合、交流成分に直流成分が重畳されるため、直流電界を印加した時に生じるようなイオン流の偏りの影響が現れたり、電極の融解が生じたりする可能性がある。したがって、フラッシュ現象発生後の電圧の波形W2は、フラッシュ現象発生前の電圧の波形W1に対して、電圧の振幅の絶対値が正負のいずれも小さいとよい。
【0112】
このように、交流電界を制御する方法として、例えば、電源30に過負荷電流を検出する検出部を設け、その検出部がセラミック圧粉体に流れる制限電流値を検出した場合に、制限電流値を超えないように電源30による電圧制御モードを電流制御モードへ移行する。
【0113】
また、交流電界を制御する他の方法として、高速の電流計で試料を流れる電流を読み込んで利用してもよい。この際、数波長分のピーク電流値(最大電流値)が検出される。フラッシュ現象が生じると、この値は大きく増加する。そこで、コンピュータといった演算装置でこの電流値を読み込み、予め設定していた電流値となるように、信号ラインS5を用いて、安定化電源を制御してもよい。この場合、サイン波でも制御できる。また、後述の信号ラインS3(図6参照)に基準抵抗を入れて、その両端の電圧をコンピュータで読み込み、数波長分のピーク電圧値を読み込み、その値から最大電圧値を計算し、演算装置を用いて信号ラインS5により安定化電源の電圧を制御してもよい。
【0114】
上述のように、第6の実施の形態に係る焼結体の製造方法は、所定形状のセラミック圧粉体に交流電界を印加しながら昇温する焼結体の製造方法である。そして、図24に示すように、セラミック圧粉体に流れる電流が急激に増加するフラッシュ焼結温度までセラミック圧粉体に第1の交流電界(波形W1)を印加しながら昇温する第1の工程と、セラミック圧粉体に流れる電流が急激に増加し、図23に示す制限電流値まで到達してから、第1の交流電界よりも小さな第2の交流電界(波形W2)を印加しながら昇温する第2の工程と、を含む。
【0115】
これにより、図21に示したように、試料に直流電界を印加した従来のフラッシュ焼結法のみでは実現が困難な密度の高い焼結体を比較的低い電力で製造できる。
【0116】
また、図23に示すように、モード1は、第1の交流電界(波形W1)の印加が電圧制御モードで実行され、モード2は、第2の交流電界(波形W2)の印加が電流制御モードで実行されている。これにより、フラッシュ現象が生じた後は、図24に示すように、所定の電流値を超えないように電流制御できるため、試料への過大な電力の投入により電極が融解するといったことが低減される。換言すれば、セラミックス圧粉体の試料へより高い電力を投入できる結果、より緻密化された高密度の焼結体を製造できる。
【0117】
また、第1の交流電界(図24の波形W1)および第2の交流電界(図24の波形W2)は、図20に示す結果から周波数が10Hz以上であるとよい。これにより、焼結体の密度をより向上できる。
【0118】
このように、第6の実施の形態に係る製造方法では、従来のフラッシュ焼結法のみでは実現が困難な密度の高い焼結体を比較的短時間で製造できる。
【0119】
[製造装置]
第6の実施の形態に係る焼結体の製造方法に適した製造装置は、図6に示す製造装置10と同様であり、概略構成の説明を省略する。
【0120】
第6の実施の形態に係る製造装置10は、所定形状のセラミック圧粉体の試料18を加熱するヒータ12aと、セラミック圧粉体の試料18に電圧を印加するための一対の電極22と、一対の電極22に電圧を印加する電源30と、ヒータ12aでセラミック圧粉体を昇温させながら、電源30を制御する第1の演算装置28および第2の演算装置32と、を備える。第1の演算装置28および第2の演算装置32は、セラミック圧粉体に流れる電流が急激に増加するまでは電源30を電圧制御し、セラミック圧粉体に流れる電流が急激に増加し、所定の電流値まで到達してからは電源30を電流制御する。
【0121】
これにより、電極22が融解しない程度の比較的低い電力でも、従来のフラッシュ焼結法のみでは実現が困難な密度の高い焼結体を製造できる。
【0122】
以上、本開示を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本開示の焼結体の製造方法は、各種高温用セラミック部材、室温での構造用セラミック、電気炉などの炉心管、包丁、工具類、工業用の研磨・研削材、歯科用のセラミック材料、人工骨、電気導電性を利用した固体電解質膜材料、センサ用セラミック材料の製造に利用が可能である。
【符号の説明】
【0124】
10 製造装置、 12 電気炉、 12a ヒータ、 14 装置本体、 16 制御システム、 18 試料、 20 試料台、 22 電極、 24 ロッド、 26 検出器、 28 第1の演算装置、 30 電源、 32 第2の演算装置。
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