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特許7593648水頭症の予防又は治療薬及び水頭症の予防又は治療用医薬組成物
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  • 特許-水頭症の予防又は治療薬及び水頭症の予防又は治療用医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】水頭症の予防又は治療薬及び水頭症の予防又は治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/44 20060101AFI20241126BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
A61K31/44
A61P25/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021562592
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2020043818
(87)【国際公開番号】W WO2021111946
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-08-14
(31)【優先権主張番号】P 2019218835
(32)【優先日】2019-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 博中
(72)【発明者】
【氏名】植木 智志
(72)【発明者】
【氏名】北浦 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄治
(72)【発明者】
【氏名】村木 美子
(72)【発明者】
【氏名】計良 妙
(72)【発明者】
【氏名】ヒューバー ビンセント ジェイ
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150704(WO,A1)
【文献】特表2010-533655(JP,A)
【文献】FENG, Xuechao et al.,Sporadic Obstructive Hydrocephalus in Aqp4 Null Mice,J Neurosci Res.,2009年,Vol.87, No.5,p.1150-1155
【文献】CASTANEYRA-RUIZ, Leandro et al.,Aquaporin-4 expression in the cerebrospinal fluid in congenital human hydrocephalus,Fluids Barriers CNS,2013年,Vol.10, No.18,p.1-5
【文献】SKJOLDING, Anders D et al.,Hydrocephalus induces dynamic spatiotemporal regulation of aquaporin-4 expression in the rat brain,Cerebrospinal Fluid Research,2010年,Vol.7, No.20,p.1-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物、又はその薬学的に許容できる塩を有効成分として含有する、正常圧水頭症の予防又は治療薬。
【化1】
(式中、Rは置換基を有してもよい芳香族炭化水素基である。)
【請求項2】
前記Rがフェニル基、又は4-クロロフェニル基である、請求項1に記載の正常圧水頭症の予防又は治療薬。
【請求項3】
成人において、1日あたり0.1g以上4g以下の量を経口投与される、又は、1日あたり0.05g以上3g以下非経口投与される、請求項1又は2に記載の正常圧水頭症の予防又は治療薬。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の正常水頭症の予防又は治療薬及び薬学的に許容される担体を含有する、正常水頭症の予防又は治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水頭症の予防又は治療薬及び水頭症の予防又は治療用医薬組成物に関する。
本願は、2019年12月3日に、日本に出願された特願2019-218835号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
水頭症は、頭蓋内の髄液の循環障害により、脳室の拡張、脳実質の脳浮腫を伴う病態である。水頭症は、循環経路が閉塞される閉塞性水頭症、髄液吸収経路が広く傷害していると考えられるが、現時点では明らかなメカニズムが不明である非閉塞性水頭症に分けられる。前者は脳出血や脳外傷等に伴い、急激に障害が出現し、生命の危機を伴う。後者は特発性正常圧水頭症に代表され、高齢者の認知障害の一因となっている。現在の治療法はどちらも脳室にカテーテルを挿入し、髄液を頭蓋外へ逃がす外科療法(シャント術)が中心である。しかしながら、治療結果が一定せず、特に非閉塞性水頭症においては外科療法を行っても改善を見ない例が多い。このために、症状の軽減を図る内科的な根治療法の開発が急務である。
【0003】
一方、1993年に水輸送タンパク質であるアクアポリンが発見され、脳にはアクアポリン4が豊富に存在していることから、アクアポリン4(AQP4)が脳の水動態に関与していることが予想されている。近年、AQP4欠失マウスにおいて、重度の閉塞性水頭症様の症状がみられ、正常マウスよりも脳室拡大及び神経徴候が重篤化することが確認されている(例えば、非特許文献1参照)。AQP4が水頭症の発症に関与していることは明らかとなっているが、AQP4が保護作用を有しているのか、或いは有害作用を有しているかは依然不明である(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
発明者らは、これまでアクアポリン4の機能を直接促進する作用を有する化合物を開発している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/150704号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Feng X et al., “Sporadic Obstructive Hydrocephalus in Aqp4 Null Mice.”, J Neurosci Res., Vol. 87, Issue 5, pp. 1150-1155, 2009.
【文献】Mader S et al., Review, “Aquaporin-4 Water Channel in the Brain and Its Implication for Health and Disease.”, Cells, Vol. 8, Issue 2, 90; https://doi.org/10.3390/cells8020090, 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、水頭症の治療は上述した外科療法であるシャント術が主流であるが、侵襲を伴い、感染症等の危険がある上に、治療効果が不確かである。また、臨床的に有効な水頭症の薬物療法は存在しない。そのため、内科的な根治療法となり得る薬剤の開発が強く望まれている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、新規の水頭症の予防又は治療薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1態様に係る正常圧水頭症の予防又は治療薬は、下記一般式(1)で表される化合物、又はその薬学的に許容できる塩を有効成分として含有する。
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、Rは炭素数1以上10以下の置換基を有してもよい飽和脂肪族炭化水素基、脂環式複素環基、芳香族炭化水素基、又は芳香族複素環基である。)
【0012】
前記Rがメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、4-クロロフェニル基、2-ピロリジニル基、3-ピロリジニル基、2-テトラヒドロフラニル基、3-テトラヒドロフラニル基、2-ピロリル基、3-ピロリル基、2-フラニル基、又は3-フラニル基であってもよい。
成人において、1日あたり0.1g以上4g以下の量を経口投与される、又は、1日あたり0.05g以上3g以下非経口投与されてもよい。
【0013】
本発明の第2態様に係る正常圧水頭症の予防又は治療用医薬組成物は、上記第1態様に係る正常圧水頭症の予防又は治療薬及び薬学的に許容される担体を含有する。
【発明の効果】
【0014】
上記態様の水頭症の予防又は治療薬及び水頭症の予防又は治療用医薬組成物によれば、水頭症の症状を改善することができ、内科的な根治療法に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1におけるTGN-073投与群及びSaline投与群での神経スコアを示すグラフである。
図2】実施例1におけるTGN-073投与群及びSaline投与群での前臨床高磁場磁気共鳴イメージングのT2強調像である。
図3】実施例1におけるTGN-073投与群及びSaline投与群での脳室及び脳浮腫領域体積の測定結果である。
図4】実施例1におけるTGN-073投与群及びSaline投与群での皮質の脳血流量の測定結果である。
図5】実施例1におけるTGN-073投与群及びSaline投与群での白質の脳浮腫の測定結果である。
図6A】実施例1におけるTGN-073投与群及びSaline投与群での皮質の神経細胞密度の測定結果である。
図6B】実施例1におけるTGN-073投与群及びSaline投与群での白質の神経細胞密度の測定結果である。
図7A】実施例2におけるTGN-073投与群及びSaline投与群での前臨床高磁場磁気共鳴イメージングのT1強調像である。縦軸の時間は、非イオン性MRI造影剤であるガドペンテト酸ジメグルミン(GD)投与からの経過時間を示す。
図7B図7Aの画像を元に作成された脳実質組織へのGDの流入量及び速度を示すグラフである。
図8A】実施例3におけるTGN-073投与群及びSaline投与群での前臨床高磁場磁気共鳴イメージングの自由水含有量計算画像である。
図8B】実施例3におけるTGN-073投与群及びSaline投与群での大脳白質の自由水の量の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<アクアポリン4(AQP4)>
一般に、「アクアポリン4(AQP4)」は、水選択性のきわめて高いアクアポリンファミリーの一つであり、脳内の水の輸送に関与する主要なAQPである。また、AQP4は、脳、特に基底膜と接する星状膠細胞のエンドフィート(end-feet)膜に多く存在する。
なお、本明細書において、「AQP4の機能促進」とは、AQP4を介した水の輸送が促進されることを意味する。AQP4を介した水の輸送が促進されることにより、脳室中の脳脊髄液(cerebrospinal fluid;CSF)の流れ及びGlymphatic system(グリンパティックシステム)による排出機能を促進させることができる。
【0017】
<水頭症>
一般に、「水頭症」は、頭蓋内の髄液の循環障害により、脳室の拡張、脳実質の脳浮腫を伴う病態である。水頭症は、循環経路が閉塞される閉塞性水頭症、髄液吸収経路が広く傷害していると考えられるが、現時点では明らかなメカニズムが不明である非閉塞性水頭症に分けられる。閉塞性水頭症では、脳腫瘍等の病変で髄液の循環経路が塞がれることによって脳圧が高くなり、頭痛、嘔吐、意識障害等の症状が起こる。これらの症状は急性増悪することがあるため注意が必要である。一方、非閉塞性水頭症では、脳室拡大がみられるものの頭蓋内圧が軽度上昇又は正常範囲に保たれていることが多く、歩行障害、認知症、尿失禁等の症状が起こる。この頭蓋内圧が軽度上昇又は正常範囲に保たれている水頭症を正常圧水頭症とも呼ぶ。正常圧水頭症は、「続発性正常圧水頭症(Secondary Normal Pressure Hydrocephalus:sNPH)」と「特発性正常圧水頭症(idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus:iNPH」に分類される。くも膜下出血や頭部外傷等により二次的に発症する場合をsNPHといい、先行疾患や原因を特定できない高齢者に発症する場合をiNPHという。
本実施形態の水頭症の予防又は治療薬は、上記全てのタイプの水頭症に適用することができるが、中でも、非閉塞性水頭症に好適であり、特発性正常圧水頭症に特に好適である。
【0018】
<水頭症の予防又は治療薬>
本実施形態の水頭症の予防又は治療薬(予防薬又は治療薬)は、下記一般式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」と称する場合がある)、又はその薬学的に許容できる塩を有効成分として含有する。本明細書において、「有効成分として含有する」とは、治療的に有効な量の化合物(1)を含有することを意味する。なお、ここでいう「治療的に有効な量」とは、望ましい治療措置に従って投与したときに、医師、臨床医、獣医、研究者、又は他の適切な専門家が求める生物学的、医学的効果若しくは応答を誘発する化合物(1)の量、又は化合物(1)及び1種類以上の活性剤の組み合わせの量を意味する。好ましい治療的に有効な量は水頭症の症状を改善する量である。また、「治療的に有効な量」には、予防に有効な量、すなわち、疾患状態の予防に適する量が包含される。
【0019】
【化2】
【0020】
(式中、Rは炭素数1以上10以下の置換基を有してもよい飽和脂肪族炭化水素基、脂環式複素環基、芳香族炭化水素基、又は芳香族複素環基である。)
【0021】
本実施形態の水頭症の予防又は治療薬によれば、水頭症の症状を改善することができ、内科的な根治療法に有用である。
【0022】
後述する実施例に示すように、発明者らは、上記特許文献1において開発した化合物(1)を既存の水頭症モデルマウスに投与したところ、AQP4の機能を促進することで、水頭症の症状が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。これまで臨床的に有効な水頭症の薬物療法は存在しないことから、本実施形態の水頭症の予防又は治療薬は、世界初の内科的な根治療法となり得る薬剤である。
【0023】
<化合物(1)>
化合物(1)は、2-スルホンアミド-3-ベンジルオキシピリジン骨格を有する化合物であり、AQP4に直接結合する。
【0024】
【化3】
【0025】
(式中、Rは炭素数1以上10以下の置換基を有してもよい飽和脂肪族炭化水素基、脂環式複素環基、芳香族炭化水素基、又は芳香族複素環基である。)
【0026】
[R]
Rにおける前記炭素数1以上10以下の置換基を有してもよい飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基)は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、環状である場合、単環状及び多環状のいずれでもよい。そして、前記飽和脂肪族炭化水素基は、炭素数が1以上10以下であることが好ましく、1以上8以下であることがより好ましく、1以上6以下であることがさらに好ましく、1以上4以下であることが特に好ましい。
【0027】
直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基)としては、炭素数が1以上10以下であることが好ましく、前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
直鎖状のアルキル基は、炭素数が1以上10以下であることが好ましく、1以上8以下であることがより好ましく、1以上6以下であることがさらに好ましく、1以上4以下であることが特に好ましい。
【0028】
分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基)としては、炭素数が3以上10以下であることが好ましく、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、2,2-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、3,3-ジメチルペンチル基、3-エチルペンチル基、2,2,3-トリメチルブチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。
分岐鎖状のアルキル基は、炭素数が3以上10以下であることが好ましく、3以上8以下であることがより好ましく、3以上6以下であることがさらに好ましく、3以上4以下であることが特に好ましい。
【0029】
より具体的には、Rにおける直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基はメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基又はn-ヘキシル基であることが好ましい。
【0030】
環状の飽和脂肪族炭化水素基(シクロアルキル基)は、炭素数が3以上10以下であることが好ましく、前記シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、トリシクロデシル基等が挙げられ、さらに、これらシクロアルキル基の1個以上の水素原子が、ハロゲン原子、水酸基、又は直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基で置換されたものが挙げられる。ここで、水素原子を置換するハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。また、水素原子を置換する直鎖状、分岐鎖状又は環状の飽和脂肪族炭化水素基としては、Rにおけるアルキル基として例示した上記のものが挙げられる。
【0031】
シクロアルキル基は、単環状であることが好ましい。また、シクロアルキル基は、炭素数が3以上10以下であることがより好ましく、3以上8以下であることがより好ましく、3以上6以下であることがさらに好ましい。
【0032】
より具体的には、Rにおけるシクロアルキル基はシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基又はシクロヘキシル基であることが好ましい。
【0033】
Rにおける置換基を有してもよい脂環式複素環基は、炭素及びその他の元素(例えば、窒素、酸素、硫黄等)により構成される。前記脂環式複素環基は、単環状及び多環状のいずれでもよい。
【0034】
前記脂環式複素環基としては、例えば、窒素含有脂環式複素環基、酸素含有脂環式複素環基、硫黄含有脂環式複素環基、窒素及び酸素含有脂環式複素環基、窒素及び硫黄含有脂環式複素環基等が挙げられる。窒素含有脂環式複素環基としては、例えば、エチレンイミノ基、アザシクロブチル基、ピロリジニル基、ピペリジル基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、ヘキサメチレンイミノ基、ヘプタメチレンイミノ基、オクタメチレンイミノ基、ノナメチレンイミノ基、1,3,5,7-テトラアザアダマンチル基等が挙げられる。酸素含有脂環式複素環基としては、例えば、エポキシ基、トリメチレンオキシド基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、ヘキサメチレンオキシド基、ヘプタメチレンオキシド基、オクタメチレンオキシド基、ノナメチレンオキシド基、2,4,6,8,9,10-ヘキサオキサアダマンチル基等が挙げられる。硫黄含有脂環式複素環基としては、例えば、エチレンスルフィド基、トリメチレンスルフィド基、テトラヒドロチエニル基、テトラヒドロチオピラニル基、ヘキサメチレンスルフィド基、ヘプタメチレンスルフィド基、オクタメチレンスルフィド基、ノナメチレンスルフィド基、2,4,6,8,9,10-ヘキサチアアダマンチル基等が挙げられる。窒素及び酸素含有脂環式複素環基としては、例えば、モルホリノ基等が挙げられる。窒素及び硫黄含有脂環式複素環基としては、例えば、チオモルホリノ基等が挙げられる。さらに、これら脂環式複素環基の1個以上の水素原子が、ハロゲン原子、水酸基、又は直鎖状、分岐鎖状若しくは環状の飽和脂肪炭化水素基で置換されたものが挙げられる。ここで、水素原子を置換するハロゲン原子、又は直鎖状、分岐鎖状若しくは環状の飽和脂肪炭化水素基としては、上記シクロアルキル基において例示したものと同様のものが挙げられる。
【0035】
前記脂環式複素環基は、単環状であることが好ましい。また、前記脂環式複素環基は、環を構成する原子数が3以上10以下であることが好ましく、3以上8以下であることがより好ましく、3以上6以下であることがさらに好ましい。
【0036】
より具体的には、Rにおける脂環式複素環基は2-ピロリジニル基、3-ピロリジニル基、2-テトラヒドロフラニル基又は3-テトラヒドロフラニル基であることが好ましい。
【0037】
Rにおける置換基を有してもよい芳香族炭化水素基は、単環状及び多環状のいずれでもよい。
【0038】
前記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、アントラセニル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、オクタレニル基等が挙げられ、さらに、これら芳香族炭化水素基の1個以上の水素原子が、ハロゲン原子、水酸基、又は直鎖状、分岐鎖状若しくは環状の飽和脂肪炭化水素基で置換されたものが挙げられる。ここで、水素原子を置換するハロゲン原子、又は直鎖状、分岐鎖状若しくは環状の飽和脂肪炭化水素基としては、上記シクロアルキル基において例示したものと同様のものが挙げられる。
【0039】
前記芳香族炭化水素基は、単環状であることが好ましい。また、前記芳香族炭化水素基は、炭素数が6以上14以下であることが好ましく、6以上12以下であることがより好ましく、6以上10以下であることがさらに好ましい。
【0040】
より具体的には、Rにおける前記芳香族炭化水素基はフェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,3-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、2-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、4-フルオロフェニル基、2,4-ジフルオロフェニル基、3,5-ジフルオロフェニル基、2-(トリフルオロメチル)フェニル基、3-(トリフルオロメチル)フェニル基、4-(トリフルオロメチルフェニル基)、2-クロロフェニル基、3-クロロフェニル基、4-クロロフェニル基又は2,4-ジクロロフェニル基であることが好ましい。
【0041】
Rにおける前記芳香族複素環基は、炭素及びその他の元素(例えば、窒素、酸素、硫黄等)により構成される。前記芳香族複素環基は、単環状及び多環状のいずれでもよい。
【0042】
前記芳香族複素環基としては、例えば、窒素含有芳香族複素環基、酸素含有芳香族複素環基、硫黄含有芳香族複素環基、窒素及び酸素含有芳香族複素環基、窒素及び硫黄含有芳香族複素環基、酸素及び硫黄含有芳香族複素環基等が挙げられる。窒素含有芳香族複素環基としては、例えば、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジル基、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、インドリジニル基、インドリル基、イソインドリル基、インダゾリル基、プリニル基、キノジニル基、キノリル基、イソキノリル基、ナフチリジニル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、シンノリニル基、プテリジニル基、カルバゾリル基、β-カルボリニル基、フェナントリジニル基、アクリジニル基、ペリミジニル基、フェナントロリニル基、フェナジニル基、アンチリジニル基等が挙げられる。酸素含有芳香族複素環基としては、例えば、フラニル基(フリル基)、ピラニル基、ベンゾフラニル基、イソベンゾフラニル基、クロメニル基、イソクロメニル基、キサンテニル基等が挙げられる。硫黄含有芳香族複素環基としては、例えば、チエニル基、チオピラニル基、チオクロメニル基、イソチオクロメニル基、チオキサンテニル基、イソチオキサンテニル基、チアントレニル基等が挙げられる。窒素及び酸素含有芳香族複素環基としては、例えば、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、フラザニル基、フェノキサジニル基等が挙げられる。窒素及び硫黄含有芳香族複素環基としては、例えば、チアゾリル基、イソチアゾリル基、フェノチアジニル基等が挙げられる。酸素及び硫黄含有芳香族複素環基としては、例えば、フェノキサチイニル基等が挙げられる。さらに、これら芳香族複素環基の1個以上の水素原子が、ハロゲン原子、水酸基、又は直鎖状、分岐鎖状若しくは環状の飽和脂肪炭化水素基で置換されたものが挙げられる。ここで、水素原子を置換するハロゲン原子、又は直鎖状、分岐鎖状若しくは環状の飽和脂肪炭化水素基としては、上記シクロアルキル基において例示したものと同様のものが挙げられる。
【0043】
前記芳香族複素環基は、単環状であることが好ましい。また、前記芳香族複素環基は、炭素数が5以上14以下であることが好ましく、5以上12以下であることがより好ましく、5以上10以下であることがより好ましい。
【0044】
より具体的には、Rにおける前記芳香族複素環基は2-ピロリル基、3-ピロリル基、2-フラニル基又は3-フラニル基であることが好ましい。
【0045】
化合物(1)で好ましいものとしては、例えば、Rが炭素数1以上10以下の置換基を有してもよい飽和脂肪炭化水素基である場合、以下に示す化合物等が挙げられる。
なお、これら化合物は、好ましい化合物(1)の一例に過ぎず、好ましい化合物(1)はこれらに限定されない。
【0046】
【化4】
【0047】
化合物(1)で好ましいものとしては、例えば、Rが置換基を有してもよい脂環式複素環基である場合、以下に示す化合物等が挙げられる。
なお、これら化合物は、好ましい化合物(1)の一例に過ぎず、好ましい化合物(1)はこれらに限定されない。
【0048】
【化5】
【0049】
化合物(1)で好ましいものとしては、例えば、Rが置換基を有してもよい芳香族炭化水素基である場合、以下に示す化合物等が挙げられる。
なお、これら化合物は、好ましい化合物(1)の一例に過ぎず、好ましい化合物(1)はこれらに限定されない。
【0050】
【化6】
【0051】
化合物(1)で好ましいものとしては、例えば、Rが炭素数1以上10以下の置換基を有してもよい芳香族複素環基である場合、以下に示す化合物等が挙げられる。
なお、これら化合物は、好ましい化合物(1)の一例に過ぎず、好ましい化合物(1)はこれらに限定されない。
【0052】
【化7】
【0053】
本実施形態の水頭症の予防又は治療薬は、化合物(1)の薬学的に許容できる塩を含んでいてもよい。
【0054】
なお、ここでいう「薬学的に許容できる塩」としては、化合物(1)の非毒性の塩を意味し、一般に、その遊離酸を適切な有機又は無機塩基と反応させることによって調製することができる。化合物(1)の塩形態としては、例えば、酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化物、カルシウム、エデト酸カルシウム、カムシレート、炭酸塩、塩化物、クラブラネート、クエン酸塩、塩化二水素酸塩、エデト酸塩、エジシレート、エストレート、エシレート、フマル酸塩、グルセプテート、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニレート、ヘキシルレゾルシネート、ヒドラバミン、臭化水素酸塩、塩化水素酸塩、ヒドロキシナプトエート、ヨウ化物、イソチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオネート、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシレート、メチル臭化物、メチル硝酸塩、メチル硫酸塩、ムケート、ナプシレート、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、パルミチン酸塩、パントテン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ポリガラクツロネート、カリウム、サリチル酸塩、ナトリウム、ステアリン酸塩、サバステート、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクレート、トシレート、トリエチオダイド、吉草酸塩、及びそれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
<化合物(1)の製造方法>
化合物(1)は、例えば、所望のRを有する塩化スルホニルと、2-アミノ-3-ベンジルオキシピリジンとを、公知の反応を用いて縮合させることで製造できる。より具体的には以下のとおりである。
【0056】
化合物(1)は、例えば、下記一般式(1a)で表される化合物(以下、「化合物(1a)」と略記することがある。)と、下記一般式(1b)で表される化合物(以下、「化合物(1b)」と略記することがある。)と、を反応させて、化合物(1)を得る工程(以下、「化合物(1)製造工程」と略記することがある。)を有する製造方法により、製造できる。
以下、各工程について、詳細に説明する。
【0057】
【化8】
【0058】
(式中、Rは、上記と同じである。)
【0059】
[化合物(1)製造工程]
前記化合物(1)製造工程においては、化合物(1a)と化合物(1b)とを反応させて、化合物(1)を得る。
化合物(1)を得る前記反応は、公知の縮合反応である。
【0060】
(化合物(1a))
化合物(1a)は公知化合物である。
化合物(1a)において、Rが炭素数1以上10以下の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である場合、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基又はn-ヘキシル基であることが好ましい。
【0061】
また、Rが炭素数3以上10以下のシクロアルキル基である場合、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基又はシクロヘキシル基であることが好ましい。
【0062】
また、Rが炭素数3以上10以下の置換基を有してもよい脂環式複素環基である場合、2-ピロリジニル基、3-ピロリジニル基、2-テトラヒドロフラニル基又は3-テトラヒドロフラニル基であることが好ましい。
【0063】
また、Rが炭素数6以上10以下の置換基を有してもよい芳香族炭化水素基である場合、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,3-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、2-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、4-フルオロフェニル基、2,4-ジフルオロフェニル基、3,5-ジフルオロフェニル基、2-(トリフルオロメチル)フェニル基、3-(トリフルオロメチル)フェニル基、4-(トリフルオロメチルフェニル基)、2-クロロフェニル基、3-クロロフェニル基、4-クロロフェニル基又は2,4-ジクロロフェニル基であることが好ましい。
【0064】
また、Rが炭素数5以上10以下の置換基を有してもよい芳香族複素環基である場合、2-ピロリル基、3-ピロリル基、2-フラニル基又は3-フラニル基であることが好ましい。
【0065】
(化合物(1b))
化合物(1b)は公知化合物(2-アミノ-3-ベンジルオキシピリジン)である。化合物(1b)は、公知の方法を用いて合成してもよく、市販のものを用いてもよい。
【0066】
(反応条件)
化合物(1)製造工程においては、例えば、適当な有機溶媒、又は前記有機溶媒及び水の混合溶媒等の水性溶媒を反応溶媒として用いることが好ましい。
化合物(1)製造工程において使用可能な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、トリフルオロメチルベンゼン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、メチル-tert-ブチルエーテル等が挙げられ、これらに限定されない。
前記溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0067】
化合物(1)製造工程において、化合物(1a)の使用量は、例えば、化合物(1b)の使用量の0.5倍モル量以上2倍モル量以下であることが好ましく、1倍モル量以上1.5倍モル量以下であることがより好ましい。
【0068】
化合物(1)製造工程においては、さらに塩基を用いて反応を行うことが好ましい。
前記塩基としては、有機塩基であってもよく、無機塩基であってもよく、又は、有機金属塩であってもよい。有機塩基としては、例えば、ピリジン、2,6-ルチジン、2,6-ビス(tert-ブチル)ピリジン、トリエチルアミン、ジメチルイソプロピルアミン、N-メチルモルホリン等が挙げられる。無機塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、ナトリウムアミド等が挙げられる。有機金属塩としては、例えば、リチウムジイソプロピルアミド、ブチルリチウム等が挙げられる。
前記塩基は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
化合物(1)製造工程において、塩基の使用量は、例えば、化合物(1b)の使用量の1倍モル量以上5倍モル量以下であることが好ましく、2倍モル量以上4倍モル量以下であることがより好ましい。
【0069】
化合物(1)製造工程において、反応温度は、例えば、15℃以上40℃以下であることが好ましく、20℃以上30℃以下であることがより好ましい。
化合物(1)製造工程において、反応時間は、例えば、48時間以上96時間以下であることが好ましく、60時間以上84時間以下であることがより好ましい。
【0070】
化合物(1)製造工程においては、不活性ガスの雰囲気下で反応を行うことが好ましい。
前記不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が挙げられる。
【0071】
化合物(1)製造工程において、反応終了後は、公知の手法によって、必要に応じて後処理を行い、化合物(1)を取り出せばよい。すなわち、適宜必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて行い、濃縮、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により、化合物(1)を取り出せばよい。また、取り出した化合物(1)は、さらに必要に応じて、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、抽出、溶媒による結晶の撹拌洗浄等の操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて1回以上行うことで、精製してもよい。
【0072】
化合物(1)、化合物(1a)、化合物(1b)等の各化合物は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法、質量分析法(MS)、赤外分光法(IR)等、公知の手法で構造を確認できる。
【0073】
<水頭症の予防又は治療用医薬組成物>
本実施形態の水頭症の予防又は治療用医薬組成物(以下、単に「本実施形態の医薬組成物」と略記する場合がある)は、上記水頭症の予防又は治療薬及び薬学的に許容される担体を含有する。本実施形態の医薬組成物を投与することにより、水頭症の症状を改善することができる。
【0074】
本実施形態の医薬組成物は、経口的に使用される剤型であってもよく、非経口的に使用される剤型であってもよいが、非経口的に使用される剤型が好ましい。経口的に使用される剤型としては、例えば錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等が挙げられる。非経口的に使用される剤型としては例えば注射剤、軟膏剤、貼付剤等が挙げられる。
【0075】
薬学的に許容される担体としては、通常医薬組成物の製剤に用いられるものを特に制限なく用いることができる。より具体的には、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤;デンプン、結晶性セルロース等の賦形剤;アルギン酸等の膨化剤;水、エタノール、グリセリン等の注射剤用溶剤;ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等の粘着剤等が挙げられる。
【0076】
医薬組成物は添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン、マルチトール等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノール等の安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤等が挙げられる。
【0077】
医薬組成物は、上記水頭症の予防又は治療薬と、上記薬学的に許容される担体及び添加剤を適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0078】
医薬組成物は、他の疾患の治療薬と組合せて、使用してもよい。例えば、上記水頭症の予防又は治療薬を、認知症治療薬等と組み合わせて使用することで、水頭症の症状を改善しながら、認知症を予防又は治療することができる。
上記水頭症の予防又は治療薬と他の薬剤とは、同一の製剤にしてもよいし、別々の製剤にしてもよい。また、各製剤は、同一の投与経路で投与してもよいし、別々の投与経路で投与してもよい。更に、各製剤は、同時に投与してもよいし、逐次的に投与してもよいし、一定の時間乃至期間を空けて別々に投与してもよい。一実施態様において、上記水頭症の予防又は治療薬と他の薬剤とは、これらを包含するキットとしてもよい。
【0079】
<投与方法>
投与する対象としては、限定されるものではないが、例えば、ヒト、サル、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、及びそれらの細胞等が挙げられる。中でも、哺乳動物又は哺乳動物細胞が好ましく、ヒト又はヒト細胞が特に好ましい。
【0080】
患者への投与は、例えば、髄腔内注射、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、又は経口的に当業者に公知の方法により行うことができる。投与量は、患者の体重や年齢、患者の症状、投与方法等により変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。
【0081】
医薬組成物の投与量は、化合物(1)又はその薬学的に許容できる塩の量として、経口投与の場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.1g以上4g以下、好ましくは約0.5g以上2g以下、より好ましくは約1.0g以上1.5g以下程度を、1日1回、又は数回に分けて投与することが適切であると考えられる。
【0082】
非経口的に投与を行う場合は、例えば注射剤の形で一般的に成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.05g以上3g以下、好ましくは約0.3g以上2g以下、より好ましくは約0.5g以上1.5g以下程度を、1日1回、又は数回に分けて投与することが適切であると考えられる。
【0083】
<その他実施形態>
一実施形態において、本発明は、水頭症の予防又は治療薬の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、水頭症の予防又は治療方法を提供する。ここで、水頭症の予防又は治療薬のとしては、上述したものと同様のものが挙げられる。また、水頭症としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
【0084】
一実施形態において、本発明は、水頭症の予防又は治療のための、水頭症の予防又は治療薬を提供する。ここで、水頭症の予防又は治療薬としては、上述したものと同様のものが挙げられる。また、水頭症としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
【0085】
一実施形態において、本発明は、水頭症の予防又は治療剤を製造するための水頭症の予防又は治療薬の使用を提供する。ここで、水頭症の予防又は治療薬としては、上述したものと同様のものが挙げられる。また、水頭症としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
【実施例
【0086】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
[実施例1]
(水頭症モデルマウスを用いたTGN-073の水頭症改善効果の確認試験1)
1.TGN-073の合成
既報(特許文献1)に従い、TGN-073を合成した。具体的には、まず、2-アミノ-3-ベンジルオキシピリジン(1.50g、7.50mmol)を乾燥したジクロロメタン(35mL)を添加した50mL容量の丸底フラスコに加えた。続いて、2,6-ルチジン(2.62mL、22.5mmol)水溶液を、シリンジを用いて撹拌中の溶液に加え、反応容器にアルゴンを充填した。続いて、ベンゼンスルホニルクロリド(1.05mL、8.25mmol)を、シリンジを用いて撹拌中の溶液に加えた。続いて、72時間アルゴン雰囲気下、室温で撹拌しながら反応を行った。続いて、得られた黄色の溶液を、溶液の総質量に対して10質量%のクエン酸溶液(2×25mL)及び飽和炭酸ナトリウム溶液(2×25mL)で洗浄した。続いて、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、濾過し、水分を蒸発させることにより、暗赤色の半固体の結晶を得た。続いて、得られた暗赤色の結晶をヘキサンで洗浄した。続いて、シリカゲル(ワコーゲル300)を用いたフラッシュクロマトグラフィーカラムにより、溶液の総質量に対して33質量%の酢酸エチルを含有するヘキサン溶液で溶出し、白色の結晶(以下、「TGN-073」と称する場合がある)を得た(収量0.309g、収率13.5%)。
【0088】
得られたTGN-073の高速液体クロマトグラフィー(High performance liquid chromatography;HPLC)、高分解能質量分析(High-resolution mass spectra;HR-MS)及びH-NMRによる分析結果を以下に示す。
HPLC: rt = 1.72 min (DAD), purity >95% (DAD, ELSD).
HR-MS: anal calc'd for C18H17N2O3S+ (M+H+), 341.0955; found, 341.0932 (9.4 ppm).
1H NMR: δ5.14 ppm, s, 2H; 6.90 ppm, br-t, 1H; 7.29-7.41 ppm, m, 4H; 7.47-7.64 ppm, m, 6H; 7.96 ppm, br-d, J = 6.6 Hz, 2H.
【0089】
【化9】
【0090】
2.TGN-073の水頭症モデルマウスへの投与
既報に従い、体重約30gのマウス(生後2ヶ月齢)の脳槽からカオリン2.5mgを注入することにより、水頭症を惹起した。次いで、水頭症の惹起前後の30分に、濃度が200mg/マウス体重1kg(以下、「200mg/kg」と略記する)となるようにTGN-073を溶解した生理食塩水0.2mLを腹腔内投与した。さらに、200mg/kgのTGN-073を72時間皮下に埋め込んだ浸透圧ポンプ(Alzet 1003D、流速:1μL/時間)で持続投与した(TGN-073の合計投与量:344mg/kg)。対照群は、同量の生理食塩水(Saline)を同様のプロトコルで投与した。
【0091】
3.神経徴候の評価
72時間後に以下の評価基準に従った神経スコアにより神経徴候を評価した。結果を図1に示す。
【0092】
(評価基準)
1点:軽く押しても倒れない
2点:ふらつき、押すと倒れる
3点:歩行障害、回転運動
4点:自発運動なし、或いは、無動化
【0093】
図1に示すように、TGN-073投与群では、Saline投与群と比較して、神経徴候が軽減された(図1中、*:p<0.05、マン-ホイットニーのU検定(Mann-Whitney U Test))。
【0094】
4.磁気共鳴イメージング(magnetic resonance imaging;MRI)を用いたマウス脳内でのH 17Oの動態
次いで、20%H 17Oを含む通常の生理食塩水0.2mLを、TGN-073投与群及びSaline投与群の右大腿静脈に挿入されたPE10チューブを介して、0.04mL/秒の速度で自動注射器を用いて、投与した。次いで、前臨床高磁場磁気共鳴イメージング(magnetic resonance imaging;MRI)を用いて、各マウス群の脳内でのH 17Oの動態を8秒間隔の画像を、投与後70分後まで記録した。得られた画像を元に、脳室及び脳浮腫領域体積、皮質の脳血流量、白質の脳浮腫、並びに神経細胞密度を測定した。
【0095】
図2に各マウス群のMRIのT2強調像を示した。図3に各マウス群での脳室及び脳浮腫領域体積の測定結果を示した。TGN-073投与群では、Saline投与群と比較して、脳室及び脳浮腫領域体積の縮小が認められた(図3中、**:p<0.01、T検定)。
【0096】
図4に各マウス群での皮質の脳血流量の測定結果を示した。TGN-073投与群では、Saline投与群と比較して、皮質の脳血流低下の改善が認められた(図4中、*:p<0.05、T検定)。
【0097】
図5に各マウス群での白質の脳浮腫の測定結果を示した。TGN-073投与群では、Saline投与群と比較して、白質の脳浮腫の改善が認められた(図5中、**:p<0.001、T検定)。
【0098】
図6Aに各マウス群での皮質の神経細胞密度の測定結果を、図6Bに各マウス群での白質の神経細胞密度の測定結果を示した。TGN-073投与群では、Saline投与群と比較して、神経細胞密度の低下が抑制されていた(図6A中、**:0.01、図6B中、***:p<0.001、いずれもT検定)。
【0099】
これらのことから、TGN-073を全身投与することにより、脳内の水動態を制御し、水頭症を改善できることが明らかになった。TGN-073は、注射による投与のみならず、経口投与によっても脳に移行することが認められていることから、慢性的な病態では経口投与の効果も期待できる。
【0100】
[実施例2]
(水頭症モデルマウスを用いたTGN-073の水頭症改善効果の確認試験2)
1.TGN-073の水頭症モデルマウスへの投与
実施例1の「2.」に記載の方法と同様の方法を用いて、TGN-073投与群と、対照群(Saline投与群)を準備した。
【0101】
2.磁気共鳴イメージング(magnetic resonance imaging;MRI)を用いたマウス脳内でのMRI造影剤の動態
MRI造影剤として、ガドペンテト酸ジメグルミン(GD)(2mg/kg)を含む生理食塩水を、各マウスの右大腿静脈に挿入されたPE10チューブを介して、4mL/秒の速度で自動注射器を用いて、投与した。続いて、MRIを用いて、マウス脳内(皮質(Cortex)及び脳室(cerebrospinal fluid;CSF))でのGDの動態を8秒間隔の画像を、投与から120分後まで記録した。結果を図7Aに示す。また、図7Bは、図7Aの画像を元に作成した脳実質組織へのGDの流入量及び速度を示すグラフである。
【0102】
図7A及び図7Bに示すように、TGN-073投与群では、Saline投与群と比較して、脳実質組織へのGDの流入量及び速度をマーカーとして測定したときに、大脳の水はけ(Water clearance)を促進した。
【0103】
[実施例3]
(水頭症モデルマウスを用いたTGN-073の水頭症改善効果の確認試験3)
1.TGN-073の水頭症モデルマウスへの投与
実施例1の「2.」に記載の方法と同様の方法を用いて、TGN-073投与群と、対照群(Saline投与群)を準備した。
【0104】
2.磁気共鳴イメージング(magnetic resonance imaging;MRI)を用いたマウス脳内での自由水の含有量
前臨床高磁場磁気共鳴イメージング(magnetic resonance imaging;MRI)を用いて、水頭症惹起72時間後のマウス脳内での自由水含有量を107の測定条件の異なる拡散強調画像を撮像し、それらの画像から脳内の自由水含有量を計算した。結果を図8A(各マウス群の自由水含有量計算画像)及び図8B(大脳白質内の自由水の量の測定結果)に示す。
【0105】
図8A及び図8Bに示すように、TGN-073投与群は、Saline投与群と比較して、自由水の増加を抑制した。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本実施形態の水頭症の予防又は治療薬及び水頭症の予防又は治療用医薬組成物によれば、水頭症の症状を改善することができ、内科的な根治療法に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B