(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】コンクリート構造体
(51)【国際特許分類】
E04B 1/04 20060101AFI20241126BHJP
E04C 5/07 20060101ALI20241126BHJP
E04B 5/43 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
E04B1/04 Z
E04C5/07
E04B5/43 A
(21)【出願番号】P 2022065634
(22)【出願日】2022-04-12
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】399077054
【氏名又は名称】新和設計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 明彦
(72)【発明者】
【氏名】安達 和也
(72)【発明者】
【氏名】細谷 健介
(72)【発明者】
【氏名】子田 康弘
【審査官】齋藤 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-256377(JP,A)
【文献】特開2007-209207(JP,A)
【文献】特開2021-147791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/43
E04B 1/04
E04C 2/06
E04C 3/20
E04C 5/00 - 5/20
B28B 23/02
E02B 3/14
E02D 29/02
C04B 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート部と、
前記コンクリート部に埋設されたボイド形成材と
、
前記コンクリート部に埋設された補強筋とを備えるコンクリート構造体であって、
前記ボイド形成材は、竹の桿および少なくとも一つの節を有する竹筒からなり、
かつ、前記補強筋に固定されており、
前記ボイド形成材の内側に中空部が形成されており、
少なくとも一つの前記節が、前記コンクリート部のうち圧縮応力が発生する領域に配置されており、
前記ボイド形成材は、二つの竹筒からなり、
一方の前記竹筒内に他方の前記竹筒が挿入されている、ことを特徴とするコンクリート構造体。
【請求項2】
前記補強筋は、竹を棹の繊維方向に沿って切断してなる竹棒を備えていることを特徴とする請求項
1に記載のコンクリート構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造体の軽量化やコンクリート量の削減を目的とした技術として、例えば特許文献1には、コンクリート内に半カプセル状の樹脂製埋込材を配置した中空スラブが開示されている。コンクリート構造体の強度や耐久性に影響を及ばさない範囲で中空部を設ければ、軽量化やコンクリート量の削減を図ることができ、ひいては、施工時の省力化やコスト削減を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、持続可能な開発目標(SDGs)を実現するための取り組みが各分野で行われおり、コンクリート分野においても、環境負荷を低減する技術が望まれている。
このような観点から、本発明は、コンクリート構造体の軽量化やコンクリート量の削減を図りつつ、環境負荷低減にも繋がるコンクリート構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決する本発明は、コンクリート部と、前記コンクリート部に埋設されたボイド形成材とを備えるコンクリート構造体であって、前記ボイド形成材は、竹の桿および少なくとも一つの節を有する竹筒からなり、前記ボイド形成材の内側に中空部が形成されている、ことを特徴とするものである。
【0006】
本発明によれば、コンクリート構造体に中空部が形成されるため、軽量化やコンクリート量の削減を図ることができる。また、ボイド形成材自体も軽量であるため、取り扱いが容易となる。
本発明では、再生可能な資源である竹をボイド形成材とし、これをコンクリート部に埋設しているので、コンクリート構造体内に二酸化炭素を貯蔵(固定)することができ、ひいては、環境負荷低減にも貢献できる。さらに、竹を適宜な長さで切断するだけで竹筒を得ることができるので、部材製造時におけるエネルギー消費量(二酸化炭素排出量)の削減も見込める。また、生育が早く、入手も容易な竹を利用することで、材料費の削減を図ることができ、さらに、竹の流通拡大にも寄与できることから、荒廃した里山環境の復活にも貢献できる。
【0007】
前記コンクリート部に圧縮領域(圧縮応力が発生する領域)が存在する場合には、少なくとも一つの前記節を圧縮領域に配置することが好ましい。
このようにすると、コンクリート部に作用する圧縮応力(曲げ圧縮応力を含む)を節が負担するようになるので、コンクリート構造体の剛性低下を防ぐことができる。
【0008】
前記ボイド形成材を、二つの竹筒で形成してもよい。この場合には、一方の前記竹筒内に他方の前記竹筒を挿入することが好ましい。
このようにすると、ボイド形成材の長さを容易に調整できるので、現場での寸法調整が容易になる。
【0009】
コンクリート構造体が前記コンクリート部に埋設された補強筋を備えている場合には、前記ボイド形成材を前記補強筋に固定することが好ましい。
このようにすると、ボイド形成材の位置決めが容易になるとともに、コンクリート打設時におけるボイド形成材の位置ずれを防ぐことができる。
【0010】
前記補強筋は、竹を桿の繊維方向に沿って切断してなる竹棒であることが好ましい。
このようにすると、コンクリート構造体の更なる軽量化を図ることができるとともに、環境負荷の更なる低減に貢献することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コンクリート構造体の軽量化やコンクリート量の削減を図りつつ、環境負荷低減に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係るコンクリート構造体を示す断面図である。
【
図3】(a)(b)は補強筋の継手を示す斜視図である。
【
図4】(a)(b)は実施形態に係るコンクリート構造体の構築方法を示す図である。
【
図5】(a)(b)は実施形態に係るコンクリート構造体の変形例を示す断面図である。
【
図6】(a)は補強筋の変形例を示す断面図、(b)は補強筋の他の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係るコンクリート構造体Cは、切土のり面や自然斜面などに形成される法枠(フレーム)を構成するものであり、
図1に示すように、コンクリート部1と、コンクリート部1に埋設されたボイド形成材2および補強筋3とを備えるものである。法枠では、地山側から力を受けるため、中立軸よりも地山側が圧縮領域(圧縮応力が発生する領域)となる。
なお、本実施形態では、法枠に適用されるコンクリート構造体Cを例示するが、コンクリート構造体Cの用途や形状に制限はなく、棒状(梁や柱)の構造物のほか、版状(スラブや壁)やブロック状の構造物などにも適用できる。また、本実施形態では、場所打ちコンクリートでコンクリート構造体Cを形成する場合を例示するが、プレキャスト製のコンクリート構造体であってもよい。
【0014】
コンクリート部1は、セメント、骨材、混和材、減水剤などを含むコンクリートからなる。使用される材料の種類や配合に制限はない。
【0015】
ボイド形成材2は、竹筒20を備えている。ボイド形成材2の内側には、中空部Vが形成されている。
竹筒20の素となる竹の種類に制限はなく、真竹、孟宗竹、淡竹、女竹などを使用できるが、国内に広く分布し、調達コストを安価に抑えることが可能な真竹や孟宗竹が好適である。
竹筒20は、竹を輪切りにしたものであり、竹の桿21および少なくとも一つの節22を有する。節22は、孔あけ加工や切断加工を施さず、自然の状態でそのまま残置することが好ましい。一つの竹筒20に二つ以上の節22を残置してもよい。
【0016】
本実施形態のボイド形成材2は、二つの竹筒20,20からなる。本実施形態では、外径が異なる大小二つの竹筒20,20からなり、一方の竹筒20(
図1では下側の竹筒20)の桿21の中に他方の竹筒20(
図1では上側の竹筒20)が挿入されている。本実施形態では、他方の竹筒20の桿21のみが一方の竹筒20に挿入されており、一方の桿21の内周面と他方の桿21の外周面との間がコーキング材によりシールされている。なお、他方の竹筒20の節22を一方の竹筒20の内側に配置してもよい。また、他方の竹筒20の節22を一方の竹筒20の開口端に当接させてもよい。この場合には、一方の竹筒20の開口端と他方の竹筒20の節22との間をシールすることが好ましい。本実施形態では、外径が大きい竹筒20を下側に配置したが、外径が小さい竹筒20を下側に配置してもよい。
【0017】
本実施形態のボイド形成材2には、二つの節22,22が備わっている。一方の節22は、コンクリート部1のうち圧縮応力が発生する領域(本実施形態では、コンクリート構造体Cの中立軸よりも地山側の領域)に配置されている。
【0018】
ボイド形成材2の全長(全高)は、コンクリート構造体Cの寸法形状に応じて適宜設定する。ボイド形成材2の全長を現場で調節する場合には、桿21を切断するか、あるいは、一方の竹筒2に挿入する他方の竹筒20の挿入量を調節すればよい。
【0019】
補強筋3は、コンクリート部1に発生する引張応力を負担するものであり、
図2に示すように、竹棒3Aと、竹棒3Aに固定された竹片3Bとを備えている。補強筋3の素となる竹の種類に制限はなく、真竹、孟宗竹、淡竹、女竹などの中から、要求される引張強度に応じて適宜なものを選択すればよいが、国内に広く分布し、調達コストを安価に抑えることが可能な真竹や孟宗竹が好適である。
【0020】
竹棒3Aは、竹を棹の繊維方向(竹の長手方向)に沿って切断したものであり、棹部分である帯状部31と、節部分である凸部32を有する。帯状部31は、円筒状を呈する竹を縦割りにしたものであり、断面弧状を呈している。凸部32は、分割した竹に残った節をそのまま利用してもよいし、節の一部を切除するなどして適宜な形状に整形したものでもよい。
【0021】
竹片3Bは、補強筋3とコンクリートの付着強度を高める突起部材であり、竹棒3Aの帯状部31に接着されている。竹片3Bは、竹棒3Aの凸部32(節)から離れた位置に配置されている。竹片3Bは、隣り合う凸部32,32の間において、凸部32および他の竹片3Bから間隔をあけて配置されている。隣り合う凸部32,32の間(40~50cm程度)に配置される竹片3Bの数は、竹棒3Aに要求される付着強度に応じて適宜設定することが好ましい。
【0022】
竹片3Bは、竹の棹を細かく切断して形成する。本実施形態の竹片3Bは、板状を呈している。竹棒3Aの外側(棹の外周面側)に配置する竹片3Bは、その素となる棹の内周の円筒面を活かした形態(断面弧状)を呈しており、竹片3Bの繊維方向と竹棒3Aの繊維方向とを合わせた状態で、接着剤により竹棒3Aの外面(
図2では下面)に接着されている。また、竹棒3Aの内側(棹の内周面側)に配置する竹片3Bは、その素となる棹の外周の円筒面を活かした形態(断面弧状)を呈しており、竹片3Bの繊維方向と竹棒3Aの繊維方向とを合わせた状態で、接着剤により竹棒3Aの内面(
図2では上面)に接着されている。なお、竹棒3Aの接着面と竹片3Bの接着面の曲率が大きく異なる場合は、どちらか一方の表面を削って曲率を合わせてもよい。また、竹棒3Aの接着面および竹片3Bの接着面の少なくとも一方を研磨して平滑度を高めてもよい。
【0023】
二本の竹棒3A,3Aを長手方向に繋ぎ合わせる場合には、
図3の(a)および(b)に示すように、竹棒3A,3Aの端部同士をラップさせた重ね継手とすることが好ましい。重ね継手の長さは、竹棒3Bに作用する引張力の大きさ等に応じて適宜設定すればよい。二つ竹棒3A,3Aをラップさせただけの重ね継手でもよいが、
図3の(a)に示すように、一方の帯状部31の外面(棹の外周面)と他方の帯状部31の内面(棹の内周面)とを接着剤により接着するか、
図3の(b)に示すように、帯状部31,31の側端面同士を接着剤により接着してもよい。
【0024】
なお、コンクリート部1に配筋される総ての補強材を竹製の補強筋3としてもよいし、一部の補強材を鉄筋や鉄骨としてもよい。
【0025】
図4の(a)~(b)は、斜面補強用の法枠であるコンクリート構造体Cを現場で構築する場合の施工手順の一例である。コンクリート構造体Cを現場で構築する場合には、
図4の(a)に示すように、まず、地盤上に均しコンクリート4を形成する。均しコンクリート4を養生したら、均しコンクリート4の上に図示せぬ型枠を設置し、さらに、
図4の(b)に示すように、均しコンクリート4の上にボイド形成材2および補強筋3を設置する。ボイド形成材2および補強筋3を別々に設置してもよいが、複数のボイド形成材2,2,…を補強筋3に取り付けておき、これらを一括して設置してもよい。ボイド形成材2を補強筋3に取り付ける場合は、環境負荷低減の観点から、紐状に加工した竹皮など植物由来の紐を用いることが好ましいが、接着剤、番線等を用いてもよい。その後、ボイド形成材2の高さ調整や桿21,21の間をコーキング材によりシールする作業等を行い、
図4の(c)に示すように、図示せぬ型枠内に場所打ちコンクリートを打設する。
【0026】
このようにして構築されたコンクリート構造体Cには、中空部Vが形成されるため、軽量化やコンクリート量の削減を図ることができる。また、ボイド形成材2および補強材3も軽量であるため、搬入作業や設置作業が容易となる。
さらに、生育時に二酸化炭素を吸収する竹を利用してボイド形成材2および補強材3を形成しているので、コンクリート構造体Cに二酸化炭素を貯蔵(固定)することができる。さらに、竹を適宜な長さで切断するだけでボイド形成材2および補強材3の構成材(竹筒20、竹棒3A、竹片3B)を得ることができるので、部材製造時におけるエネルギー消費量(二酸化炭素排出量)の削減も見込める。また、生育が早く、入手も容易な竹を利用することで、材料費の削減を図ることができ、さらに、竹の流通拡大にも寄与できることから、荒廃した里山環境の復活にも貢献できる。
【0027】
本実施形態では、ボイド形成材2の少なくとも一つの節22をコンクリート部1の圧縮領域(圧縮応力が発生する領域)に配置しているので、コンクリート部1に作用する圧縮応力(曲げ圧縮応力を含む)を節22が負担するようになり、その結果、コンクリート構造体Cの剛性低下を防ぐことができる。
【0028】
ボイド形成材2は、手作業でも容易に加工できるので、製作や寸法調節が容易であり、さらに、二つの竹筒20,20の一方を他方に挿入する構成としているので、ボイド形成材2の全長を容易に調整できる。
【0029】
また、竹皮等を用いて補強筋3をボイド形成材2に取り付けておけば、ボイド形成材2の位置決めが容易になるとともに、コンクリート打設時におけるボイド形成材2の位置ずれを防ぐことができる。
【0030】
本実施形態の補強材3は、竹片3Bにより突起部が形成されるので、竹棒3Aのみからなる場合に比べて、補強筋3とコンクリートの付着強度(引抜抵抗力)を高めることができる。また、接着剤を使用して竹片3Bを竹棒3Aに接着しているため、釘やネジを用いて竹片3Bを竹棒に固定する場合に比べて、竹棒3Aや竹片3Bに割れ等が発生し難い。
【0031】
本実施形態では、二つの竹筒20,20を組み合わせてなるボイド形成材2を例示したが、
図5に示すように、一つの竹筒20からなるボイド形成材2を用いてもよい。
また、
図5の(a)に示すように、コンクリート部1を貫通するようにボイド形成材2を設けてもよい。
あるいは、
図5の(b)に示すように、ボイド形成材2の長さをコンクリート部1の厚さよりも小さくし、節22の上側にコンクリートを充填してもよい。コンクリート部1の下面のみにボイド形成材2を開口させれば、ボイド形成材2の内部に水や土砂などが溜まり難くなる。
【0032】
本実施形態では、補強筋3の付着強度を高める突起部材として板状の竹片3Bを例示したが、
図6の(a)に示すように、棒状の竹ピン3Cを固定してもよい。竹ピン3Cは、竹の棹を繊維方向に沿って切断して形成した棒状部材からなる。竹ピン3Cは、竹棒3Aの棹31に設けた透孔に嵌入し、棹31の内面および外面から突出させることが好ましい。竹ピン3Cを透孔に嵌入するにあたり、竹ピン3Cの周面または透孔の孔壁に接着剤を塗布してもよい。
本実施形態では、竹製の突起部材を例示したが、木製、樹脂製、鋼製など竹製以外の突起部材を使用してもよい。
【0033】
また、
図6の(b)に示すように、竹棒3Aに穴部31aを設けることで付着強度を高めてもよい。
図6の(b)では、隣り合う凸部32,32の間に穴部31aを一つだけ形成しているが、複数の穴部31aを形成してもよいし、突起部材と併用してもよい。
なお、
図6の(b)には、貫通孔からなる穴部31aを例示したが、有底穴からなる穴部でもよい。
【0034】
図示は省略するが、複数のボイド形成材2を束ねて(密集させて)配置してもよい。例えば、複数のボイド形成材2をハニカムコア状に配置すれば、コンクリート構造体Cに占める中空部の割合が大きくなるので、コンクリート構造体Cの軽量化を図ることができる。
【符号の説明】
【0035】
C コンクリート構造体
1 コンクリート部
2 ボイド形成材
20 竹筒
21 桿
21 節
3 補強筋
3A 竹棒
3B 竹片(突起部材)
3C 竹ピン(突起部材)
31a 穴部