(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】再生骨材
(51)【国際特許分類】
C04B 18/167 20230101AFI20241126BHJP
C04B 18/165 20230101ALI20241126BHJP
C04B 18/10 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
C04B18/167
C04B18/165
C04B18/10 Z
(21)【出願番号】P 2022095342
(22)【出願日】2022-06-13
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】500040067
【氏名又は名称】灰孝小野田レミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148138
【氏名又は名称】森本 聡
(72)【発明者】
【氏名】山内 和宏
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-149611(JP,A)
【文献】特開2000-128613(JP,A)
【文献】特開2005-139014(JP,A)
【文献】山本昌幸,下水汚泥の燃焼技術について,日本燃焼学会誌,2011年,Vol.53, No.164,PP.91-96,ISSN:1347-1864, DOI:10.20619/jcombsj.53.164_91
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 18/00-18/30
C02F 11/00-11/20
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生コンクリートを運搬するミキサー車の洗浄水に由来するスラッジケーキ
と、セメントと
、下水汚泥焼却灰
とを粒状に練り混ぜてなる再生骨材であって、
下水汚泥焼却灰は、下水汚泥と珪砂との混合物を焼成してなるものであり、
セメントは、普通・早強ポルトランドセメント、又は高炉・フライアッシュセメントであり、
下水汚泥焼却灰の配合量が、含水率45%のスラッジケーキに対して4重量%以上、30重量%以下の範囲にあり、しかもセメントの配合量が、含水率45%のスラッジケーキに対して2重量%以上、20重量%以下の範囲にあることを特徴とする再生骨材
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラッジを原料とする再生骨材に関する。
【背景技術】
【0002】
生コンクリートは、セメントと水と骨材などを混ぜ合わせて製造される。この生コンクリートは、製造後に硬化が進むという特性を有するため、工場で製造されると直ちに、これを打設する現場へミキサー車で運搬される。この運搬時間は1時間以内が目安とされている。一般にミキサー車は、生コンクリートの製造工場と打設現場を1日に数往復し、その最後に製造工場に戻って水で洗浄される。このときの洗浄水から出る汚泥がスラッジと呼ばれ、多くの場合は産業廃棄物として処分されている。ただし、このスラッジを資源として有効利用する試みも知られており、例えば特許文献1には、スラッジを利用した再生骨材の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、二酸化炭素による地球温暖化の進行が問題視されている中で、コンクリートの生産活動が気候変動の主要因の一つとして挙げられている。しかし、その一方で、コンクリートの表面には水酸化カルシウムが残存しており、これは二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムと水を生じる。つまりコンクリートには、二酸化炭素を吸収固定する能力(所謂「炭素スポンジ効果」)があることが、近年の研究で明らかとなっている。
【0005】
二酸化炭素の固定に寄与する水酸化カルシウムは、コンクリートを構成するセメントの水和反応により生成されるものである。一方、セメントと共にコンクリートを構成する骨材は、通常は二酸化炭素の固定に寄与するものではない。本発明者は、この骨材に二酸化炭素の固定能力を付与することについて検討を重ねた。加えて、その骨材を製造するのに特許文献1のようにスラッジを有効利用すれば、その廃棄コストの問題も同時に解決できると考え、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、スラッジの廃棄コストの問題を解決しながら、二酸化炭素の固定能力を有する再生骨材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る生成骨材は、生コンクリートを運搬するミキサー車の洗浄水に由来するスラッジケーキと、セメントと、下水汚泥焼却灰とを粒状に練り混ぜてなる。下水汚泥焼却灰は、下水汚泥と珪砂との混合物を焼成してなるものである。セメントは、普通・早強ポルトランドセメント、又は高炉・フライアッシュセメントである。下水汚泥焼却灰の配合量が、含水率45%のスラッジケーキに対して4重量%以上、30重量%以下の範囲にあり、しかもセメントの配合量が、含水率45%のスラッジケーキに対して2重量%以上、20重量%以下の範囲にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る再生骨材は、産業廃棄物として処分されることが多いスラッジケーキを原料とする。このスラッジケーキをコンクリート用の骨材へと再生する本発明によれば、スラッジケーキの廃棄コストの問題を解決しながら、有価物である再生骨材を得ることができる。さらに本発明では、再生骨材に下水汚泥焼却灰を含ませる。これによれば、再生骨材を多孔質化して、その表面積を大きくすることができる。つまり、再生骨材に二酸化炭素の固定能力を付与することができる。下水汚泥焼却灰もスラッジケーキと同様に、本来は廃棄物である。この下水汚泥焼却灰を利用することにより、再生骨材に二酸化炭素の固定能力を付与するためのコストを低く抑えることができる。
【0013】
本発明においては、下水汚泥に珪砂を混ぜたのちに焼成してなる下水汚泥焼却灰を用いることが有用である。珪砂の主成分は多孔性物質である二酸化ケイ素であるため、これを混ぜることで下水汚泥焼却灰のさらなる多孔質化を図って、再生骨材が持つ二酸化炭素の固定能力をさらに増進させることができる。
【0014】
下水汚泥焼却灰の配合量がスラッジケーキの4~30重量%であると、十分な強度を有する適正な粒径の再生骨材を得ることができる。下水汚泥焼却灰の配合量が4重量%を下回ると、再生骨材が適正に造粒されないおそれがあり、同配合量が30重量%を上回ると、再生骨材の強度が低下するおそれがある。
【0015】
セメントの配合量がスラッジケーキの2~20重量%であると、十分な強度を有する再生骨材を安価に得ることができる。早強ポルトランドセメントの配合量が2重量%を下回ると、得られる再生骨材の強度が不足するおそれがあり、同配合量が20重量%を上回ると、再生骨材の製造コストが高くつく不利が生じる。
【0016】
スラッジケーキを混練機で練り混ぜる解泥工程と、混練機にセメントを投入してスラッジケーキと練り混ぜる混錬工程と、スラッジケーキとセメントの混練物にさらに下水汚泥焼却灰を添加して練り混ぜる造粒工程とを順次行う再生骨材の製造方法によれば、形状・粒径・強度などが良好な再生骨材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】下水汚泥焼却灰の主成分を示す円グラフである。
【
図2】解泥前と解泥後のスラッジケーキを撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では、生コンクリートを運搬するミキサー車の洗浄水に由来するスラッジケーキを原料とし、さらにセメントと下水汚泥焼却灰を加えて再生骨材を製造する。スラッジケーキから再生骨材を得るまでの製造工程は、スラッジケーキの解泥、セメントとの混錬、下水汚泥焼却灰による造粒の3段階からなる。セメントとしては例えば普通・早強ポルトランドセメントまたは高炉・フライアッシュセメントを用いることができる。スラッジケーキの含水率を45%とすると、セメントの配合量はスラッジケーキの2~20重量%(2重量%以上20重量%以下)とすることが望ましい。セメントの配合量が2重量%を下回ると、得られる再生骨材の強度が不足するおそれがあり、同配合量が20重量%を上回ると、再生骨材の製造コストが高くつく不利が生じる。
【0019】
下水汚泥焼却灰とは、下水処理の過程で発生する下水汚泥を、乾燥後に焼却することで生成される灰のことである。下水汚泥中の80%程度を占める有機物は、焼却時に高温、高圧の条件下で消失し、無害の固形物質が下水汚泥焼却灰として焼却炉内に残存する。このようにして得られる下水汚泥焼却灰は、多孔性物質である二酸化ケイ素(SiO2)を主成分として含有することから、再生骨材を多孔質化するのに有用である。スラッジケーキの含水率を45%とすると、下水汚泥焼却灰の配合量はスラッジケーキの4~30重量%(4重量%以上30重量%以下)とすることが望ましい。下水汚泥焼却灰の配合量が4重量%を下回ると、再生骨材が適正に造粒されないおそれがあり、同配合量が30重量%を上回ると、再生骨材の強度が低下するおそれがある。
【実施例】
【0020】
(下水汚泥焼却灰)
まず下水汚泥焼却灰について説明する。本実施例で使用する下水汚泥焼却灰は、乾燥させた下水汚泥に珪砂を混ぜた後、これを700~1000℃の範囲で焼成して得られたものである。珪砂の主成分は多孔性物質である二酸化ケイ素であるため、これを混ぜることで下水汚泥焼却灰のさらなる多孔質化を図ることができる。
【0021】
この下水汚泥焼却灰の構成元素を把握するために蛍光X線分析を行った。蛍光X線とは、物質に一定以上のエネルギーを持つX線を照射したときに、該物質中の原子の内殻電子が励起され、それによって生じた空孔(ホール)に外殻電子が移る際に内殻と外殻のエネルギー差に対応して放出されるX線のことである。内殻と外殻のエネルギー差は元素ごとに固有であるため、蛍光X線のエネルギーも元素ごとに固有である。このことから、対象試料の蛍光スペクトルを見ることで構成元素の分析が可能となり、スペクトルの強度を測定すれば対象試料中の特定元素の濃度も知ることができる。
【0022】
下水汚泥焼却灰の蛍光X線分析の結果を表1および
図1に示す。含有量の多い成分から順に、五酸化二リン(P
20
5)が28.80%、酸化アルミニウム(Al
2O
3)が23.23%、二酸化ケイ素(Si0
2)が17.06%となっており、この3つで下水汚泥焼却灰の3分の2以上を占めている。この下水汚泥焼却灰は珪砂とともに焼却されたものであるため、珪砂の主成分である二酸化ケイ素を多く含んでいる。なお表1および
図1は、下水汚泥焼却灰の主成分の含有量を示すものであるため、その構成比の総和は100%とはならない。
【0023】
【0024】
(ミキサー車の洗浄工程)
工場で製造された生コンクリートは、これを搭載可能なミキサードラムを備えるミキサー車で打設現場へ運搬される。ミキサー車は、生コンクリートの製造工場と打設現場を1日に数往復し、その最後に製造工場に戻って水で洗浄される。この洗浄工程では、生コンクリートを含む洗浄水が排出される。
【0025】
(洗浄水の篩過工程)
洗浄工程で排出される洗浄水には、資源として利用可能な骨材(細骨材・粗骨材)が含まれている。そのため、洗浄水を篩にかけて骨材を回収する篩過工程が実施される。この篩を通過した液体を、本発明ではスラッジ水と呼称する。
【0026】
(スラッジ水の脱水工程)
スラッジ水は、各種の濾過装置、本実施例ではフィルタープレス(加圧濾過装置)を用いて脱水される。脱水後に残る固形物を、本発明ではスラッジケーキと呼称する。このスラッジケーキの含水率は約45%である。なお、この脱水工程でスラッジケーキと分離された上澄水は、生コンクリートの製造に再利用される。
【0027】
(スラッジケーキの解泥工程)
脱水されたスラッジケーキは、70mm程度の適度な大きさに破砕された後、混練機に投入されて練り混ぜすなわち解泥される。本実施例では、混錬機として日工株式会社製のPM-60を使用した。混錬機に投入するスラッジケーキは20kg、混練時間は6分間とした。スラッジケーキの解泥(混錬)前の状態を
図2(a)に、解泥後の状態を
図2(b)に示す。なお、他に使用可能な混錬機として光洋機械産業株式会社製のPUPPET50を挙げることができる。
【0028】
(セメントとの混錬工程)
次いで、混練機にセメントが投入されて、解泥されたスラッジケーキと混錬される。本実施例では普通・早強ポルトランドセメントを使用し、その投入量をスラッジケーキの10重量%、すなわち2kgとした。また混錬時間は2分間とした。
【0029】
(下水汚泥焼却灰による造粒工程)
最後に、混練機に下水汚泥焼却灰が投入される。スラッジケーキと早強ポルトランドセメントの混錬物は、下水汚泥焼却灰と混錬されることにより造粒化されて、コンクリートの製造に利用可能な再生骨材となる。本実施例では、下水汚泥焼却灰の投入量をスラッジケーキの14重量%、すなわち2.8kgとした。また混錬時間を2分30秒とした。また、この造粒工程と先の混錬工程および解泥工程において、混練機の自転速度は36rpm、公転速度は21.5rpm(周波数30Hz)に設定した。
【0030】
得られた再生骨材を撮影した写真を
図3(a)に示し、同骨材の断面を撮影した写真を
図3(b)に示す。この再生骨材は粒径が5~40mm程度であり、従ってコンクリート用の粗骨材として使用し得るものである。
【0031】
なお、造粒工程の後しばらくすると、再生骨材の表面から水分が染み出てくることがある。その場合は、再度セメントを添加することにより、水分を吸収して再生骨材の状態を安定させることができる。このセメントの添加は、水分の吸収だけでなく、再生骨材の粒径の拡大や下水汚泥焼却灰の溶質対策としても有効だと思われる。
【0032】
以上のように、本実施例に係る再生骨材は、産業廃棄物として処分されることが多いスラッジケーキを原料とする。このスラッジケーキをコンクリート用の骨材へと再生する本実施例によれば、スラッジケーキの廃棄コストの問題を解決しながら、有価物である再生骨材を得ることができる。さらに本実施例では、再生骨材に下水汚泥焼却灰を含ませる。これによれば、再生骨材を多孔質化して、その表面積を大きくすることができる。つまり、再生骨材に二酸化炭素の固定能力を付与することができる。下水汚泥焼却灰もスラッジケーキと同様に、本来は廃棄物である。この下水汚泥焼却灰を利用することにより、再生骨材に二酸化炭素の固定能力を付与するためのコストを低く抑えることができる。
【0033】
スラッジケーキを混練機で練り混ぜる解泥工程と、混練機にセメントを投入してスラッジケーキと練り混ぜる混錬工程と、スラッジケーキとセメントの混練物にさらに下水汚泥焼却灰を添加して練り混ぜる造粒工程とを順次行う再生骨材の製造方法によれば、形状・粒径・強度などが良好な再生骨材を得ることができる。