(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】燃料電池用の耐久性ハイブリッド電極触媒
(51)【国際特許分類】
H01M 4/90 20060101AFI20241126BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20241126BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20241126BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20241126BHJP
B01J 27/24 20060101ALI20241126BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20241126BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20241126BHJP
B01J 37/06 20060101ALI20241126BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H01M4/90 B
H01M4/86 B
H01M4/88 K
H01M4/90 M
H01M4/92
B01J27/24 M
B01J37/02 101Z
B01J37/04 102
B01J37/06 ZNM
B01J37/08
(21)【出願番号】P 2022546406
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(86)【国際出願番号】 IB2020000101
(87)【国際公開番号】W WO2021156644
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】598082547
【氏名又は名称】ザ・ホンコン・ユニバーシティー・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】The Hong Kong University of Science & Technology
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャオ,ミンフア
(72)【発明者】
【氏名】シャオ,フェイ
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-511927(JP,A)
【文献】国際公開第2015/141595(WO,A1)
【文献】特開2008-171659(JP,A)
【文献】特表2010-506822(JP,A)
【文献】特開2007-273371(JP,A)
【文献】ZENG, Xiaojun et al.,Single-Atom to Single-Atom Grafting of Pt1 onto Fe-N4 Center: Pt1@Fe-N-C Multifunctional Electrocatalyst with Significantly Enhanced Properties,ADVANCED ENERGY MATERIALS,Wiley,2017年09月04日,8,201701345
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/90
B01J 37/04
B01J 37/06
B01J 37/08
B01J 37/02
B01J 27/24
H01M 4/92
H01M 4/86
H01M 4/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を含むマトリックス構造体と、
前記マトリックス構造体を構成する第1の触媒の各原子が前記マトリックス構造体を構成する前記第1の触媒の他の原子から分離されるように、前記マトリックス構造体内に均一に分散された前記第1の触媒の複数の原子と、
前記マトリックス構造体を構成する第2の触媒の各原子が前記マトリックス構造体を構成する前記第2の触媒の他の原子から分離されるように、前記マトリックス構造体内に均一に分散された前記第2の触媒の複数の原子と、を含み、
前記第1の触媒は、非貴金属であり、
前記第2の触媒は、貴金属であり、
N原子が前記マトリックス構造体に存在するように、前記マトリックス構造体を構成する炭素は窒素(N)でドープされており、
前記マトリックス構造体を構成する前記第2の触媒の複数の原子の少なくとも一部が、前記マトリックス構造体を構成する前記N原子にそれぞれ直接結合している、燃料電池電
極触媒。
【請求項2】
前記第2の触媒は、白金(Pt)である、請求項1に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項3】
前記第1の触媒は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、又はマンガン(Mn)である、請求項1~2のいずれかに記載の燃料電池電極触媒。
【請求項4】
前記マトリックス構造体を構成する前記第1の触媒の前記複数の原子の少なくとも一部が、前記マトリックス構造体を構成するN原子にそれぞれ直接結合している、請求項1または2に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項5】
前記マトリックス構造体を構成する前記第1の触媒の原子の全てが、前記マトリックス構造体を構成するN原子にそれぞれ直接結合している、請求項1または2に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項6】
前記マトリックス構造体を構成する前記第2の触媒の原子の全てが、前記マトリックス構造体を構成するN原子にそれぞれ直接結合している、請求項1または2に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項7】
前記第1の触媒と前記第2の触媒との合金のナノ粒子をさらに含む、請求項1または2に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項8】
前記第2の触媒が、1平方センチメートル当たり0.1ミリグラム(mg/cm
2)以下で存在する、請求項1または2に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項9】
前記マトリックス構造体を構成する前記第1の触媒の原子の全てが、前記マトリックス構造体の第1の表面に存在する、請求項1または2に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項10】
前記マトリックス構造体を構成する前記第2の触媒の原子の全てが、前記マトリックス構造体の前記第1の表面に存在する、請求項9に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項11】
前記マトリックス構造体を構成する前記第2の触媒の原子の全てが、前記マトリックス構造体の第1の表面に存在する、請求項1または2に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の燃料電池電極触媒を含む、燃料電池。
【請求項13】
炭素及び第1の触媒を含む多孔質マトリックス構造体を形成し、
前記多孔質マトリックス構造体に第2の触媒を導入して燃料電池電極触媒を形成することを含み、
前記燃料電池電
極触媒は、前記第2の触媒の複数の原子が、前記多孔質マトリックス構造体内に均一に分散され、前記多孔質マトリックス構造体を構成する前記第2の触媒の各原子が前記多孔質
マトリックス構造体を構成する前記第2の触媒の各他の原子から分離されるように形成され、
前記第1の触媒は、非貴金属であり、
前記第2の触媒は、貴金属であり、
前記形成された多孔質マトリックス構造体を構成する炭素は、N原子が前記多孔質マトリックス構造体に存在するように、窒素(N)ドープされており、
前記形成された燃料電池電
極触媒において、前記多孔質マトリックス構造体を構成する前記第2の触媒の複数の原子の少なくとも一部が、前記多孔質マトリックス構造体を構成するN原子にそれぞれ直接結合している、
燃料電池電
極触媒を形成する方法。
【請求項14】
前記第2の触媒は、白金(Pt)である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の触媒は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、又はマンガン(Mn)である、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記形成された燃料電池電
極触媒において、前記第1の触媒の複数の原子が前記多孔質マトリックス構造体内に均一に分散されて、前記多孔質マトリックス構造体を構成する前記第1の触媒の各原子が前記多孔質マトリックス構造体を構成する前記第1の触媒の各他の原子から分離されるようにする、請求項13または14に記載の方法。
【請求項17】
前記
多孔質マトリックス構造体を構成する前記第1の触媒の前記複数の原子の少なくとも一部が、前記
多孔質マトリックス構造体を構成するN原子にそれぞれ直接結合している、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記
多孔質マトリックス構造体を構成する前記第1の触媒の原子の全てが、前記
多孔質マトリックス構造体を構成するN原子にそれぞれ直接結合している、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記
多孔質マトリックス構造体を構成する前記第2の触媒の原子の全てが、前記
多孔質マトリックス構造体を構成するN原子にそれぞれ直接結合している、請求項13または14に記載の方法。
【請求項20】
前記形成された燃料電池電極触媒が、前記第1の触媒と前記第2の触媒との合金のナノ粒子を含む、請求項13または14に記載の方法。
【請求項21】
前記形成された燃料電池電極触媒が、1平方センチメートル当たり0.1ミリグラム(mg/cm
2)以下の量で前記第2の触媒を含む、請求項13または14に記載の方法。
【請求項22】
前記多孔質マトリックス構造体を構成する前記第1の触媒の原子の全てが、前記多孔質マトリックス構造体の第1の表面に存在する、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
前記多孔質マトリックス構造体を構成する前記第2の触媒の原子の全てが、前記多孔質マトリックス構造体の前記第1の表面に存在する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記多孔質マトリックス構造体を構成する前記第2の触媒の原子の全てが、前記多孔質マトリックス構造体の第1の表面に存在する、請求項13または14に記載の方法。
【請求項25】
前記多孔質マトリックス構造体を形成することが、金属有機構造体(MOF)を前記多孔質マトリックス構造体のテンプレートとして使用することを含む、請求項13または14のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記多孔質マトリックス構造体を形成することが、
有機化合物を第1の溶媒に溶解して第1の溶液を形成し、
第1の触媒を含む化合物を第2の溶媒に溶解して第2の溶液を形成し、
前記第1の溶液と前記第2の溶液とを混合して第1の混合物を形成し、
前記第1の混合物を撹拌して懸濁液を形成し、
前記懸濁液を収集し、
前記懸濁液を乾燥させて乾燥懸濁液を得て、
前記乾燥懸濁液を熱処理して多孔質マトリックス構造体を得る
ことを含む、請求項13~25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記第1の溶媒は、前記第2の溶媒と同じである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記懸濁液を収集した後に、
前記懸濁液を乾燥する前に、前記懸濁液を、第3の溶媒で少なくとも1回洗浄する
ことをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記懸濁液を乾燥することが、真空雰囲気中で前記懸濁液を乾燥することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記乾燥懸濁液を熱処理することが、前記乾燥懸濁液を不活性雰囲気中で熱処理することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記懸濁液を収集することが、遠心分離によって前記懸濁液を収集することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記第1の溶液と前記第2の溶液とを混合することが、不活性雰囲気中で前記第1の溶液と前記第2の溶液とを混合することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
前記第1の混合物を撹拌することが、不活性雰囲気中で前記第1の混合物を撹拌することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
前記第2の触媒を前記多孔質マトリックス構造体に導入して、前記燃料電池電極触媒を形成することが、
第2の触媒含有材料を第4の溶媒中に均一に分散させて第3の溶液を形成し、
第4の溶液を前記第3の溶液に添加して第5の溶液を形成し、
前記多孔質マトリックス構造体を第5の溶液に添加して、第2の触媒含有懸濁液を形成し、
前記第2の触媒含有懸濁液を乾燥して、乾燥した第2の触媒含有懸濁液を得て、
前記乾燥した第2の触媒含有懸濁液をボールミリングして、ミリングされた第2の触媒含有懸濁液を得て、
前記ミリングされた第2の触媒含有懸濁液を熱処理して、燃料電池電極触媒を得ることを含む、請求項13または14に記載の方法。
【請求項35】
前記第4の溶液が窒素含有溶液である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記第2の触媒含有懸濁液を乾燥させることが、真空雰囲気中で前記第2の触媒含有懸濁液を乾燥させることを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記ミリングした第2の触媒含有懸濁液を熱処理することが、前記ミリングした第2の触媒含有懸濁液を不活性雰囲気中で熱処理することを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記乾燥した第2の触媒含有懸濁液をボールミリングすることが、前記乾燥した第2の触媒含有懸濁液をアルミニウム含有ボールでボールミリングすることを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
前記ボールは、Al
2O
3ボールである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記ミリングした第2の触媒含有懸濁液を熱処理することが、
NH
3雰囲気中で前記ミリングした第2の触媒含有懸濁液に第1の熱処理を行い、
前記第1の熱処理後に、不活性雰囲気中で前記ミリングした第2の触媒含有懸濁液に第2の熱処理を行う
ことを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項41】
前記ミリングした第2の触媒含有懸濁液を熱処理することが、
前記第2の熱処理後に、前記ミリングした第2の触媒含有懸濁液に洗浄工程を実施し、
前記洗浄工程後に、不活性雰囲気中で、前記ミリングした第2の触媒含有懸濁液に第3の熱処理を実施する
ことを含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記洗浄工程が、前記ミリングした第2の触媒含有懸濁液を酸で洗浄することを含む、請求項41に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)は、高効率で、環境汚染のほとんどない、又は全くないクリーンなエネルギー変換デバイスとして、かなりの注目を集めている。しかしながら、高い材料コスト及び低い耐久性のために、PEMFC技術の広範な商業化を達成することは、依然として大きな課題である。カソードでの酸素還元反応(ORR)の反応速度は、アノードにおける水素酸化反応(HOR)よりも6桁遅いので、合理的に良好な性能を達成するためには、カソードにおいて、白金(Pt)の充填量を増やす(例えば、正方形センチメートル当たり約0.4ミリグラムのPt(mgPt/cm2))ことが、既存の技術において不可欠である。Ptは、希少かつ高価な金属である(2019年時点で1オンス当たり850ドル(USD)以上のコスト)。従って、Ptよりも活性が高く、より安価なORR電気触媒が望まれる。
【0002】
Pt合金触媒のORR活性の向上は、主に、遷移金属からの電子及び圧縮歪み効果による。燃料電池試験は、Pt合金のPt質量活性がPtの約2倍であることを示し、すなわち、Pt充填量を約0.4mg/cm2から0.2mg/cm2に減らすことができる。しかしながら、表面原子のみが電気化学反応に関与するため、Pt原子の70%超が、PtとPt合金の両方についてナノ粒子の内部で無駄になる。
【0003】
炭素系非貴金属(NPM)触媒開発において達成された著しい進歩にもかかわらず、望ましくない耐久性(わずか数百時間)は、2025年までに5,000時間という目標から依然として遠い。典型的なNPM触媒では、Fe-N-CがPt系触媒よりも多くのH2O2を生成する。これは、触媒中の活性部位を酸化及び破壊するだけでなく、膜及びナフィオンイオノマーのラジカル酸化分解も引き起こすので、望ましくない。別の理由は、Fe-N-Cの厚い触媒層が、酸素質量輸送及び水管理に深刻な課題をもたらすことである。
【0004】
Fe-N-C触媒を改良するための試みが以前よりなされてきた。特許文献1は、熱分解性多孔質担体として、ゼオライトイミダゾール構造体-8(ZIF-8)を利用して、Fe-N-C触媒を使用し、1,10-フェナントロリン及び酢酸第一鉄と混合する。特許文献2は、細孔フィラーを活用して、異なる微孔性担体及び鉄系前駆体を介してFe-N-Cを使用する。特許文献3は、コバルト含有触媒担体及び鉄含有化合物の存在下でアニリンを重合してコバルト含有鉄結合ポリアニリン種を形成することにより、Fe-Coハイブリッド触媒を使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出段公開第2014/0099571号
【文献】米国特許出段公開第2011/0294658号
【文献】米国特許第8,709,295号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Qiao, B.; Wang, A.; Yang, X.; Allard, L. F.; Jiang, Z.; Cui, Y.; Liu, J.; Li, J.; Zhang, T., Single-Atom Catalysis of Co Oxidation Using Pt1/Feox. Nat. Chem. 2011, 3, 634.
【文献】Yang, S.; Kim, J.; Tak, Y. J.; Soon, A.; Lee, H., Single‐Atom Catalyst of Platinum Supported on Titanium Nitride for Selective Electrochemical Reactions. Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55 (6), 2058-2062.
【文献】Shen, R.; Chen, W.; Peng, Q.; Lu, S.; Zheng, L.; Cao, X.; Wang, Y.; Zhu, W.; Zhang, J.; Zhuang, Z., High-Concentration Single Atomic Pt Sites on Hollow Cusx for Selective O2 Reduction to H2O2 in Acid Solution. Chem 2019.
【文献】Cheng, N.; Stambula, S.; Wang, D.; Banis, M. N.; Liu, J.; Riese, A.; Xiao, B.; Li, R.; Sham, T.-K.; Liu, L.-M., Platinum Single-Atom and Cluster Catalysis of the Hydrogen Evolution Reaction. Nat. Commun. 2016, 7, 13638.
【文献】Zhang, Z.; Chen, Y.; Zhou, L.; Chen, C.; Han, Z.; Zhang, B.; Wu, Q.; Yang, L.; Du, L.; Bu, Y., The Simplest Construction of Single-Site Catalysts by the Synergism of Micropore Trapping and Nitrogen Anchoring. Nat. Commun. 2019, 10 (1), 1657.
【文献】Liu, J.; Jiao, M.; Lu, L.; Barkholtz, H. M.; Li, Y.; Wang, Y.; Jiang, L.; Wu, Z.; Liu, D.-j.; Zhuang, L., High Performance Platinum Single Atom Electrocatalyst for Oxygen Reduction Reaction. Nat. Commun. 2017, 8, 15938.
【文献】Li, T.; Liu, J.; Song, Y.; Wang, F., Photochemical Solid-Phase Synthesis of Platinum Single Atoms on Nitrogen-Doped Carbon with High Loading as Bifunctional Catalysts for Hydrogen Evolution and Oxygen Reduction Reactions. ACS Catal. 2018, 8 (9), 8450-8458.
【文献】Choi, C. H.; Kim, M.; Kwon, H. C.; Cho, S. J.; Yun, S.; Kim, H.-T.; Mayrhofer, K. J.; Kim, H.; Choi, M., Tuning Selectivity of Electrochemical Reactions by Atomically Dispersed Platinum Catalyst. Nat. Commun. 2016, 7, 10922.
【文献】Meng, H.; Larouche, N.; Lefevre, M.; Jaouen, F.; Stansfield, B.; Dodelet, J.-P., Iron Porphyrin-Based Cathode Catalysts for Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cells: Effect of Nh3 and Ar Mixtures as Pyrolysis Gases on Catalytic Activity and Stability. Electrochimica Acta 2010, 55 (22), 6450-6461.
【文献】Charreteur, F.; Jaouen, F.; Dodelet, J.-P., Iron Porphyrin-Based Cathode Catalysts for Pem Fuel Cells: Influence of Pyrolysis Gas on Activity and Stability. Electrochimica Acta 2009, 54 (26), 6622-6630.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態は、新規で有利な電極触媒、その形成方法、及びその使用方法を提供する。ハイブリッド電極触媒は、単一原子のアプローチを使用する白金(Pt)系触媒と炭素系非貴金属触媒との組み合わせである。このハイブリッド構造は、コストを削減し、触媒の活性を向上させる一方、燃料電池の耐久性も向上させる。非貴金属(例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn))を使用して、電極触媒中のPtの一部を置き換えることにより、カソード中のPt充填量を大幅に低減することができ、1平方センチメートル当たり0.1ミリグラム以下のPt(mgPt/cm2)という目標を実現することができる。同時に、Ptと、非貴金属触媒(Fe、Co、Mn)と、窒素(N)との相乗作用により、電子移動を促進し、H2O2の生成を最小限に抑えることができる。さらに、従来のFe-N-C触媒と比較してハイブリット構造中の活性部位の密度が増加するため、改善された容量活性を有する、より薄い触媒層を作製して、物質移動及び内部抵抗の問題を解決することができる。Pt系触媒層のために長年にわたって開発された膜電極接合体(MEA)最適化技術は、層が厚すぎるので、従来の非貴金属触媒には不適切であるが、そのような技術は本発明の実施形態のハイブリッド電極触媒に適用可能である。
【0008】
一実施形態において、燃料電池電極触媒は、炭素を含む担体と、構造体内の第1の触媒の各原子が構造体内の第1の触媒の他の原子から分離されるように、担体の構造体内に均一に分散された第1の触媒の複数の原子と、構造体内の第2の触媒の各原子が構造体内の第2の触媒の他の原子から分離されるように、担体の構造体内に均一に分散された第2の触媒の複数の原子とを含み、第1の触媒は、非貴金属であり、第2の触媒は、貴金属である。第2の触媒はPt、第1の触媒はFeとすることができる。N原子が担体の構造体内に存在するように、担体の炭素にNをドープすることができる。構造体内の第1の触媒の複数の原子の少なくとも一部(例えば、一部又は全部)は、構造体内のN原子にそれぞれ結合することができ、構造体内の第2の触媒の複数の原子の少なくとも一部(例えば、一部又は全部)は、構造体内のN原子にそれぞれ結合することができる。第1の触媒と第2の触媒との合金のナノ粒子が存在してもよい。構造体内の第1の触媒の原子の全て及び/又は構造体内の第2の触媒の原子の全ては、担体の第1の表面に存在することができる。
【0009】
他の実施形態において、燃料電池電極触媒を形成する方法は、炭素及び第1の触媒(例えば、Fe、Co、Mn)を含む多孔質担体を形成し、第2の触媒(例えば、Pt)を多孔質担体に導入して燃料電池電極触媒を形成することを含み、第2の触媒の複数の原子は、担体の構造体内に均一に分散され、構造体内の第2の触媒の各原子は、構造体内の第2の触媒の各他の原子から分離されるようにする。形成された燃料電池電極触媒は、本明細書に開示される特徴のいずれかを有する。多孔質担体の形成は、有機化合物を第1の溶媒に溶解して第1の溶液を形成し、第1の触媒を含む化合物を第2の溶媒に溶解して第2の溶液を形成し、第1の溶液と第2の溶液とを混合して第1の混合物を形成し、第1の混合物を撹拌して懸濁液を形成し、懸濁液を収集し、懸濁液を乾燥して乾燥懸濁液を得て、乾燥懸濁液を熱処理して多孔質担体を得ることを含む。第2の触媒を多孔質担体に導入して燃料電池電極触媒を形成することは、第2の触媒含有材料を第4の溶媒中に均一に分散して第3の溶液を形成し、第4の溶液を第3の溶液に添加して第5の溶液を形成し、多孔質担体を第5の溶液に添加して第2の触媒含有懸濁液を形成し、第2の触媒含有懸濁液を乾燥して乾燥した第2の触媒含有懸濁液を得て、乾燥した第2の触媒含有懸濁液をボールミリングして、ミリングした第2の触媒含有懸濁液を得て、ミリングした第2の触媒含有懸濁液を熱処理して燃料電池電極触媒を得ることを含む。さらなる実施形態において、ミリングした第2の触媒含有懸濁液の熱処理は、NH3雰囲気中でミリングした第2の触媒含有懸濁液に対して第1の熱処理を実施し、第1の熱処理後に不活性雰囲気中でミリングした第2の触媒含有懸濁液に対して第2の熱処理を実施することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1Aは、多面体形状を有する鉄ゼオライトイミダゾール構造体-8(Fe-ZIF-8)前駆体の透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
図1Bは、白い点として見られる(画像に加えられた円で部分的に示される)、均一に分散した鉄(Fe)単一原子の高角度環状暗視野STEM(HAADF-STEM)画像である。
図1Cは、
図1AのFe-ZIF-8前駆体に由来する多孔質炭素構造体のTEM画像である。
【
図2】
図2Aは、電流密度(1平方センチメートル当たりのミリアンペア(mA/cm
2))対電位(可逆水素電極に関するボルト(V対RHE))のプロットであり、Fe-N-C及びPt-Fe-N-Cについての酸素還元反応(ORR)活性の定常状態分極曲線を示す。Fe-N-C及びPt-Fe-N-Cの両方の触媒負荷は、1平方センチメートル当たり0.56ミリグラム(mg/cm
2)であった。0.6Vでx軸に近い曲線はFe-N-C、他方の曲線はPt-Fe-N-Cである。
図2Bは、電流密度(mA/cm
2)対電位(V対RHE)のプロットであり、0.1M HClO
4電解質中での初期と70,000サイクル後のPt-Fe-N-CについてのORR活性の定常状態分極曲線を示す。触媒充填量は、0.56mg/cm
2であった。0.6Vでx軸に近い曲線は初期値、他方の曲線は70,000サイクル後である。
【
図3】
図3Aは、PtとFe単一原子及び結晶性ナノ粒子の共存を示すPt-Fe-N-C触媒のHAADF-STEM画像である。
図3Bは、PtとFe単一原子及び結晶性ナノ粒子の共存を示すPt-Fe-N-C触媒のHAADF-STEM画像である。
図3Cは、
図3B中の小さい正方形における白金のエネルギー分散型X線分光画像である。
図3Dは、
図3B中の大きい正方形における鉄のエネルギー分散型X線分光画像である。
【
図4】
図4Aは、電流密度(mA/cm
2)対電位(V対RHE)のプロットであり、Fe-N-C、Pt-Fe-N-C、及びPt-Fe-N-C(NH
3)についてのORR活性の定常状態分極曲線を示す。0.6Vでx軸に最も近い曲線はPt-Fe-N-C(NH
3)であり、0.6Vでx軸から最も遠い曲線はPt-Fe-N-Cであり、0.6Vで中央の曲線はFe-N-Cである。触媒充填量は全て0.56mg/cm
2であった。
図4Bは、電流密度(mA/cm
2)対電位(V対RHE)のプロットであり、0.1M HClO
4電解液中で初期と40,000サイクル後のPt-Fe-N-C(NH
3)についてのORR活性の定常分極曲線を示す。触媒充填量は0.56mg/cm
2であった。0.6Vでx軸に近い曲線は初期値、他方の曲線は40,000サイクル後である。
【
図5】
図5Aは、Pt-Fe-N-C(NH
3)のHAADF-STEM画像である。
図5Bは、
図5Aの触媒についての白金の相対エネルギー分散X線分光画像である。
図5Cは、
図5Aの触媒についての鉄の相対エネルギー分散X線分光画像である。
図5Dは、Pt-Fe-N-C(NH
3)触媒のHAADF-STEM画像であり、PtとFe単一原子及び結晶性ナノ粒子の共存を示す。
図5Eは、Pt-Fe-N-C(NH
3)触媒のHAADF-STEM画像であり、PtとFe単一原子の共存を示す。
図5Fは、Pt-Fe-N-C(NH
3)のHAADF-STEM画像であり、結晶性ナノ粒子を示す。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係るハイブリッド電極触媒を示す模式図である。触媒は、炭素マトリックス中にPtとFe分離原子を含み、H
2O
2はPt分離原子でH
2Oに還元される。H
2OはFe-N-Cで(例えば、O
2から)生成される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態は、新規で有利な電極触媒、その形成方法、及びその使用方法を提供する。ハイブリッド電極触媒は、単一原子アプローチを使用するPt系触媒と炭素系非貴金属(NPM)触媒との組み合わせである。このハイブリッド構造は、コストを低減し、触媒の活性を向上させる一方で、燃料電池の耐久性も向上させる。NPM(例えば、Fe、Co、Mn)を使用して、電極触媒中のPtの一部を置き換えることにより、カソード中のPt充填量を著しく減少させることができ、1平方センチメートル当たり0.1ミリグラム以下のPt(mgPt/cm2)という目標を実現することができる。同時に、Pt、NPM触媒(例えば、Fe、Co、Mn)、Nの相乗作用により、電子移動を促進し、H2O2の生成を最小限に抑えることができる。さらに、従来のFe-N-C触媒と比較して、ハイブリット構造中の活性部位の密度が増加するため、改善された容量活性を有する、より薄い触媒層を作製して、物質移動及び内部抵抗の問題を解決することができる。Pt系触媒層のために長年にわたって開発された膜電極接合体(MEA)最適化技術は、層が厚すぎるので、従来の非貴金属触媒には不適切であるが、そのような技術は本発明の実施形態のハイブリッド電極触媒に適用可能である。
【0012】
Fe-N-C触媒によって引き起こされる課題のために、当該技術分野では、H
2O
2生成を低減し、さらに酸素還元反応(OR)活性を改善して、電極の厚さを低減する必要がある。非貴金属触媒(例えば、Fe-N-C)についてのPt系触媒の低いPt利用、不十分な活性及び安定性の問題に対処するために、本発明の実施形態は、担体(例えば、窒素ドープ炭素担体等の炭素担体)に均一に分散されたPtとFe単一原子(すなわち、分離原子)を有するハイブリッドORR電極触媒を利用する。
図6は、本発明の実施形態によるハイブリッド電極触媒を示す模式図である。触媒は、炭素マトリックス中にPtとFe分離原子を含み、H
2O
2はPt分離原子でH
2Oに還元される。H
2Oは、Fe-N-Cで(例えば、O
2から)生成される。特許文献1、特許文献2及び特許文献3における関連技術の触媒と比較して、本発明の実施形態のハイブリッド電極触媒は、二次Pt導入への多孔質担体として均一に分散された単一原子を有するFe-N-Cを有する。Fe、Pt、及びNは、相乗的に協働してORR反応速度を促進し、Ptはまた、電極触媒の耐久性も促進する。
【0013】
再び
図6を参照すると、窒素は、Pt-N結合及びFe-N結合をそれぞれ形成することによって、PtとFe単一原子を効率的に固定することができる。Fe及びPtマルチドーパントは、ORR反応速度を促進するために相乗的に協働する。このハイブリット構造において、最も活性な非貴金属触媒(Fe-N-C)をPt単一原子と組み合わせて、Pt利用を最大化することによってPt質量活性を最適化することができる。また、Fe-N-C部位で発生するH
2O
2は、
図6に示すように、近接する白金活性部位によってH
2Oにかなり還元される。従って、電極触媒の活性と耐久性が大幅に向上する。なお、
図6は、PtとFeのそれぞれ1つの原子のみを示しているが、これは例示の目的のためであり、実際には両方のタイプの原子が多数存在している。「単一」原子という用語は、担体内で、同じタイプの他の原子から分離されていることを示すために用いられる。
【0014】
Ptを含む不均一系触媒は、一酸化炭素酸化、選択的電気化学反応、及び水素発生反応に使用されてきた。関連技術の方法は、過酷な酸電解質におけるPt原子触媒の耐久性を考慮していない。また、ORR経路は、主に、担体中のドーパントのタイプに依存し、例えば、硫黄ドープ担体(Pt-S結合)に分散したPtは、H2O2を生成するための2電子反応経路においてORRを好む。本発明の多くの実施形態において、単一のFe原子は、過剰な窒素源を含む担体に分散させてから、Pt単一原子を導入することができる。含浸方法は、例えば、全体が参照により本明細書に援用される非特許文献5で用いられているものとすることができる。担体にPt源をより均一に分布させるために、ボールミリングを適用することができる。さらに、高温で熱処理を行うことができ、担体中のPt単一原子を安定化させ、強固なPt-N結合の形成を促進することもできる。本発明の実施形態のハイブリッド構造は、4電子経路を介した触媒ORRに対する電極触媒の性能及び耐久性を促進する。
【0015】
一実施形態において、非貴金属触媒原子(例えば、Fe原子)を、Nドープ炭素中に均一に分散させて、Pt単一原子の担体としてさらに使用することができる非貴金属含有担体を作製することができる。炭素中の遷移金属及び窒素ドーピングは、凝集のために熱分解工程中に正確に制御することが困難であり、活性部位の密度が低くなる。ORRに対して活性が低いFe粒子、硫化物、及び炭化物等の他の化合物は、熱分解中に副生成物として生成される。従って、低コストかつ単純な合成手順のため、金属有機構造体(MOF)を担体のためのテンプレートとして使用することができる。有機化合物(例えば、2-メチルイミダゾール)を、第1の溶媒(例えば、メタノール)に溶解して第1の溶液を形成することができ、非貴金属(例えば、Zn(NO)3・6H2O及び/又はFeSO4・6H2O)を含む化合物を、第1の溶媒と同じであっても異なっていてもよい第2の溶媒に溶解して第2の溶液を形成することができる。第1及び第2の溶媒は、別々の容器中にあってもよい。第1及び第2の溶液は、均一に混合されて(例えば、不活性雰囲気中(例えば、Ar中で1時間(h))バブリングした後)、混合物を形成することができる。次いで、混合物を撹拌して(例えば、40℃で10時間、Arの保護下等の不活性雰囲気下で)、懸濁液を形成することができる。懸濁液を(例えば、遠心分離によって)収集し、次いで、任意で、第3の溶媒(例えば、無水エタノール)で1回以上(例えば、数回)洗浄して、第1の中間生成物を得る。第1の中間生成物を、真空雰囲気中(例えば、真空オーブン中80℃で12時間)で乾燥すると、第2の中間生成物が得えられる。第2の中間生成物を熱処理(例えば、不活性雰囲気中、例えばAr雰囲気中、1000℃で1時間)すると、非貴金属含有担体(例えば、Fe-N-C担体)である最終生成物が得られる。
【0016】
任意でボールミリングを用いる含浸法を介して、Pt単一原子を非貴金属含有担体(例えば、Fe-N-C担体)に導入することができる。非貴金属及びPtを別々の工程で導入して、ハイブリッド触媒中のそれらの密度を最大にすることができる。例えば、PtとFeを同時にMOFに混合すると、それらは、所望のアンカー部位を求めて競合し、Pt-Fe合金粒子も形成する。白金化合物(例えば、白金(II)アセチルアセトナート)は、Pt溶液を形成するために溶媒中に均一に分散される。窒素含有溶液(例えば、1,10-フェナントロリン一塩酸塩一水和物エタノール溶液)を、Pt溶液に添加して、Pt/N溶液を形成することができる。非貴金属含有担体(例えば、Fe-N-C粉末等の非貴金属含有担体の粉末)をPt/N溶液中に分散させて、懸濁液(例えば、均一な懸濁液)を形成することができる。懸濁液を真空雰囲気中で乾燥(例えば、真空オーブン中60℃で12時間乾燥)して固体とし、固体を収集する。次いで、固体をボールミリング(例えば、アルミニウム含有ボールミリング等の金属含有ボールミリングを用いて(例えば、Al
2O
3ボール、350rpm、4時間))して、非貴金属含有担体にPtとN源を均一に分散させて粉末とする。固体/粉末は、Ptと非貴金属触媒単一原子を安定化させるために、(例えば、Arガス等の不活性雰囲気中、900℃で1時間)熱処理することができる。
図6に見られるような、Ptと非貴金属(例えば、Fe)の均一に分散された単一原子が得られる(上述したとおり、
図6には、例示の目的のために、PtとFeそれぞれ1つの原子のみが示されているが、実際には、多数の両方のタイプの原子が存在し、「単一」原子という用語は、担体内で、同じタイプの他の原子から分離されていることを示すために用いられる)。
【0017】
さらなる実施形態において、固体/粉末を、まず、NH3雰囲気中(例えば、900℃で15分間のNH3気体中)で熱し、次いで再度熱する(例えば、1000℃で1時間のAr雰囲気等の不活性雰囲気中)。熱処理後、得られた固体を洗浄(例えば、0.5M H2SO4等の酸で、60℃で2時間洗浄)し、次いで、任意で、不活性雰囲気中(例えば、Ar雰囲気中、1000℃で1時間)で再度熱処理することができる。NH3は、熱処理中、Fe-N-CのORR活性を増加させるのに重要な役割を果たし、NH3-雰囲気熱処理を行って、本発明の実施形態の電極触媒のORR活性をさらに改善することができる。これにより、C+NH3→HCN+H2、及びC+2H2→CH4の反応に従って炭素をエッチングし、炭素担体の一部を除去することで、Ptと非貴金属触媒(例えば、Fe)充填量の両方の増大がもたらされる。また、このようなエッチングの後に、第1の熱処理で形成された炭素膜で覆われた活性部位を露出させてもよい。
【0018】
以下に、本発明を実施するための手順を例示する。これらの実施例は限定とはみなされない。特に断りのない限り、パーセンテージは全て重量基準、溶媒混合比は全て容積基準である。
【0019】
実施例1-Fe-ZIF-8及びFe-N-Cテンプレートの調製
Fe及びNを含む担体を前駆体として調製し、それに白金を添加した。Nドープ炭素中に均一に分散したFe単一原子を合成するための一般的なプロトコルを用いた。炭素中の遷移金属及び窒素ドーピングは、凝集のために熱分解工程中に正確に制御することが難しく、その結果、活性部位の密度が低くなる可能性がある。ORRに対して活性が低いFe粒子、硫化物、及び炭化物等の他の化合物は、熱分解中に副生成物として生成される。この問題を解決するために、低コストかつ単純な合成手順のため、金属有機構造体(MOF)を、自己テンプレートとして使用することができる。詳細な合成工程は、以下の通りである。
8.21グラム(g)の2-メチルイミダゾールを、フラスコ中の200ミリリットル(ml)のメタノールに溶解して、第1の溶液とした。282.6ミリグラム(mg)のZn(NO)3・6H2O及び14mgのFeSO4・6H2Oを、別のフラスコ中の100mlのメタノールに溶解して、第2の溶液とした。
アルゴン(Ar)中で1時間(h)バブリングした後、2つの溶液を均一に混合した。次いで、混合物を、Arの保護下で40℃で10時間撹拌した。
懸濁液を遠心分離により収集し、次いで、無水エタノールで数回洗浄した。生成物を、真空オーブン中、80℃で12時間乾燥させた(Fe-ZIF-8と表示)。
次いで、生成物を、Ar雰囲気中、1000℃で1時間熱処理した(Fe-N-Cと表示)。
【0020】
結果は、Fe単一原子形成の成功を示すものであった。メタノール溶媒中のZn、Fe、及び2-メチルイミダゾールは、多面体形状を有する明確なFe-ZIF-8前駆体(
図1A参照)を形成した。熱分解中の高温(>907℃)でのZnの昇華は、多孔質Nドープ炭素構造体(
図1C参照)中に分散したFe原子のみを残した(
図1B参照)。
【0021】
実施例2-Pt-Fe-N-Cハイブリッド触媒の調製
実施例1の最適化されたFe-N-C担体に、含浸及びボールミリング法によって、Pt単一原子を導入した。別々の工程でFe及びPtを導入する理由は、ハイブリッド触媒中のそれらの密度を最大にするためである。PtとFeを同時にMOF中に混合すると、それらは、所望のアンカー部位で競合し、Pt-Fe合金粒子も形成する。Fe-N-C担体の合成(実施例1)において、Feドーピングは、MOF中のZnを置き換えることによって実現された。定義されたMOF構造は、「Znフェンス」からの閉じ込め効果と共に、高温熱分解中のFeの移動度を低下させる。しかしながら、この含浸工程において、Pt単一原子を均一にドープすることは非常に難しい。この問題は、Fe-N-C担体における階層的多孔質構造を利用することによって対処された。詳細な合成工程は、以下の通りである。
10mgの白金(II)アセチルアセトナートをエタノール溶媒中に均一に分散させ、超音波処理により5ミリモル(mM)溶液を形成した。
次いで、1,10-フェナントロリン一塩酸塩一水和物エタノール溶液(5.5グラム/リットル(g/L))をPt溶液に添加した(Pt配位のための十分な窒素源とする)。
Fe-N-C粉末400mgを、上記溶液に分散させて、均一な懸濁液を形成した。
真空オーブンで60℃で12時間乾燥した後、固体を収集し、ボールミリング(Al2O3ボールを用い、350回転/分、4時間)して、Fe-N-C担体にPtとN源を均一に分散させた。
ボールミリング後の粉末を、900℃で1時間Arガスで処理し、PtとFe単一原子を安定化した。
【0022】
0.85質量%のPtと2.8質量%のFeを含み、Ar雰囲気中で熱処理したハイブリッド電極触媒(Pt-Fe-N-Cと表示)を合成し、ORRを評価した。
図2Aに示すように、O
2飽和0.1M HClO
4溶液の定常分極曲線は、Fe-N-Cと同じであり、極端に低Pt充填量ではORR活性に、大幅な改善がないことが示された。意外にも、1秒当たり50ミリボルト(mV/s)で、0.6~1.0Vの範囲の電位サイクル時の耐久性は、元のFe-N-Cの耐久性よりも非常に良好である。
図2Bに示すように、Pt-Fe-N-Cは、70,000サイクル後に半波電位の顕著な減衰を示さなかった。比較のために、10,000サイクル後にのみ、Fe-N-C及びPt/Cの半波電位は、それぞれ16及び10mV低下した。従って、微量のPt原子の導入は、ORR活性をそれほど改善しなかったが、電極触媒の安定性を大幅に増加させた(Fe-N-C単独と比較して)。
【0023】
図3A及び
図3BのPt-Fe-N-CのHAADF-STEM画像を参照すると、Pt-Fe合金ナノ粒子がいくつか依然として存在していた。
図3Bの小さい正方形領域の白金(
図3C)と
図3Bの大きい正方形領域の鉄(
図3D)のエネルギー分散X線分光マッピング画像は、それぞれ、PtとFeの均一な分布を示している。
【0024】
実施例3-Pt-Fe-N-C(NH3)ハイブリッド触媒の調製
NH3は、熱処理中のFe-N-CのORR活性を増加させるのに重要な役割を果たすことが分かった。dPt-Fe-N-CのORR活性をさらに改善するために、NH3雰囲気中で第二熱処理を行って、C+NH3→HCN+H2、及びC+2H2→CH4により炭素をエッチングした。炭素担体の一部を除去すると、PtとFeの両方の充填量が増加する。また、このようなエッチングの後に、第1の熱処理で形成された炭素膜で覆われた活性部位を露出させてもよい。詳細な合成工程は、以下の通りである。
10mgの白金(II)アセチルアセトナートを、エタノール溶媒中に均一に分散させ、超音波処理により5mM溶液を形成した。
次いで、1,10-フェナントロリン一塩酸塩一水和物エタノール溶液(5.5g/L)をPt溶液に添加した(Pt配位のための十分な窒素源とする)。
400mgのFe-ZIF-8を上記溶液中に分散させて、均一な懸濁液を形成した。
真空オーブン中60℃で12時間乾燥した後、固体を収集し、ボールミリング(Al2O3ボールを用いて、350rpm、4時間)して、Fe-ZIF-8担体にPtとN源を均一に分散させた。
ボールミリング後の粉末を、まず900℃のNH3中で15分間処理し、次いで1000℃のAr雰囲気中で1時間二次熱処理を行った。
熱処理後、60℃で2時間、0.5M H2SO4中で酸で洗浄し、Ar雰囲気中1000℃で1時間、2回目の熱処理を行い、Fe微粒子を除去し、安定した炭素構造体を得た。最終的な触媒は、Pt-Fe-N-C(NH3)として示される。
【0025】
得られた触媒(Pt-Fe-N-C(NH
3)として示される)は、実施例2のPt-Fe-N-C(3質量%のPtと1.6質量%のFe)と比較して、Pt充填量の3倍の増大を示した。
図4Aを参照すると、NH
3処理試料は、半波電位を0.790Vから0.893Vにシフトさせることによって、大幅に改善されたORR活性を示した。0.9VでのPt-Fe-N-C(NH
3)のPt質量活性は、1ミリグラム当たり0.8アンペア(A/mg)に達し、これは市販のPt/C(TKK、TEC10E50E,0.18A/mg
Pt)の4倍以上である。高活性に加えて、Pt-Fe-N-C(NH
3)の耐久性も、Pt/Cのそれに匹敵する。0.6~1.0Vの範囲で40,000サイクルの電位サイクリングの後、その半波電位の変化は、約15mVであり(
図4B)、これはPt/Cのそれと同様である。
【0026】
図5Aは、Pt-Fe-N-C(NH
3)触媒のHAADF-STEM画像であり、
図5Bは、
図5Aの触媒の白金の相対エネルギー分散型X線分光画像であり、
図5Cは、
図5Aの触媒の鉄の相対エネルギー分散型X線分光画像であり、
図5D-5Fは、PtとFeの単一原子と結晶性ナノ粒子の共存を示すPt-Fe-N-C(NH
3)触媒のHAADF-STEM画像である。
図5A~5Cを参照すると、PtとFeは、炭素構造体全体に均一に分散していた。PtとFe単一原子に加えて、いくつかのPt-Fe結晶性ナノ粒子が依然として存在した(
図5D)。2.6オングストローム(Å)と1.94Åの格子空間を通して、ナノ粒子はPt
3鉄に割り当てられる(
図5F)。
【0027】
本明細書に記載した実施例及び態様は、例示のみを目的とし、当業者にはそれらに照らした様々な修正又は変更が示唆され、それらは、本明細書の趣旨及び範囲内に含まれるものとする。
【0028】
本明細書において言及又は引用された全ての特許、特許出願、仮出願、及び刊行物(「参考文献」のものを含む)は、それらが本明細書の明示的な教示と矛盾しない範囲で、全ての図面及び表を含むそれらの全体が参照により援用される。