(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N27/12 C
(21)【出願番号】P 2023502307
(86)(22)【出願日】2022-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2022005989
(87)【国際公開番号】W WO2022181400
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2021029146
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】真島 豊
(72)【発明者】
【氏名】ファン チョン トゥエ
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-526155(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0241386(US,A1)
【文献】特開2005-283578(JP,A)
【文献】特表2004-515782(JP,A)
【文献】特開2020-056643(JP,A)
【文献】YANG, F. et al.,The Surface Scattering-Based Detection of Hydrogen in Air Using a Platinum Nanowire,Nano Letters,2012年,Vol.12,p.2924-2930,ISSN 1530-6984
【文献】NEROWSKI, A. et al.,Bottom-up synthesis of ultrathin straight platinum nanowires: Electric field impact,Nano Research,2013年,Vol.6, No.5,p.303-311,ISSN 1998-0124
【文献】DING, M. et al.,Highly Sensitive Chemical Detection with Tunable Sensitivity and Selectivity from Ultrathin Platinum,small,2017年,Vol.13, No.1602969,p.1-7,ISSN 1613-6829
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁表面を有する基板と、
前記基板の前記絶縁表面上に形成された、第1パッド電極及び第2パッド電極と、
前記第1パッド電極と前記第2パッド電極とを連結し、前記基板の前記絶縁表面上に形成された、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、及びこれらの合金から選ばれた一種以上からなるナノワイヤと、
前記ナノワイヤと接触した、前記ナノワイヤを構成する金属とは異種の金属の酸化物の高抵抗半導体からなる酸化物層であって、(I)前記基板の前記絶縁表面と前記ナノワイヤとの間に位置し、前記ナノワイヤの下面と接触する、又は、(II)前記ナノワイヤ上に位置し、前記ナノワイヤの上面と接触する、の一方又は両方を少なくとも満たす酸化物層と、
を有し、
前記ナノワイヤの線幅が、5nm以上150nm以下であり、
前記第1パッド電極と前記第2パッド電極との間に電流を流し、前記第1パッド電極と前記第2パッド電極との間で検出される電気信号の変化に基づいて、ガスを検出するガスセンサ。
【請求項2】
絶縁表面を有する基板と、
前記基板の前記絶縁表面上に形成された、第1パッド電極及び第2パッド電極と、
前記第1パッド電極と前記第2パッド電極とを連結し、前記基板の前記絶縁表面上に形成された、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、及びこれらの合金から選ばれた一種以上からなるナノワイヤと、
前記ナノワイヤと接触した、前記ナノワイヤを構成する金属とは異種の金属の酸化物の高抵抗半導体からなる酸化物層であって、(I)前記基板の前記絶縁表面と前記ナノワイヤとの間に位置し、前記ナノワイヤの下面と接触する、又は、(II)前記ナノワイヤ上に位置し、前記ナノワイヤの上面と接触する、の一方又は両方を少なくとも満たす酸化物層と、
を有し、
前記ナノワイヤの厚さが、1nm以上20nm以下であ
り、
前記第1パッド電極と前記第2パッド電極との間に電流を流し、前記第1パッド電極と前記第2パッド電極との間で検出される電気信号の変化に基づいて、ガスを検出するガスセンサ。
【請求項3】
絶縁表面を有する基板と、
前記基板の前記絶縁表面上に形成された、第1パッド電極及び第2パッド電極と、
前記第1パッド電極と前記第2パッド電極とを連結し、前記基板の前記絶縁表面上に形成された、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、及びこれらの合金から選ばれた一種以上からなるナノワイヤと、
前記ナノワイヤと接触した、前記ナノワイヤを構成する金属とは異種の金属の酸化物の高抵抗半導体からなる酸化物層であって、(I)前記基板の前記絶縁表面と前記ナノワイヤとの間に位置し、前記ナノワイヤの下面と接触する、又は、(II)前記ナノワイヤ上に位置し、前記ナノワイヤの上面と接触する、の一方又は両方を少なくとも満たす酸化物層と、
を有し、
前記第1パッド電極と前記第2パッド電極との間に電流を流し、前記第1パッド電極と前記第2パッド電極との間で検出される電気信号の変化に基づいて、酸素ガスを検出するガスセンサ。
【請求項4】
前記ナノワイヤの長さが80nm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記酸化物層を構成する前記高抵抗半導体が、酸化セリウム、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化鉄、酸化ニッケル、セリウム-ジルコニウム酸化物、酸化チタン、酸化コバルト、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ロジウム、及び酸化ハフニウムから選ばれた一種以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記酸化物層の厚さが5nm以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記ナノワイヤと前記酸化物層とがオーミック接触している、請求項1~6のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記基板が、ガラス基板、アルミナ基板、ジルコニア基板、及び酸化シリコン膜が表面に形成されたシリコン基板のいずれかである、請求項1~7のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項9】
前記第1パッド電極及び前記第2パッド電極が、前記ナノワイヤと同種の金属からなる、請求項1~8のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の金属からなるナノワイヤと高抵抗半導体からなる酸化物とを組み合わせたガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、種々のガスセンサが、日常生活を支える電気器具、車両、船舶、航空機等で使用されている。例えば、自動車には、エンジンの燃焼効率を向上させ、排気ガスが環境基準を満たすようにするために、エンジンに供給する空気と燃料の混合比率を制御する必要があり、その制御システムの中で、例えば特許文献1に記載されるような、固体電解質(例えばジルコニア)を用いた酸素ガスセンサが用いられている。また、酸素ガスセンサとしては、特許文献2に記載されるような、酸化物半導体を用いた抵抗型酸素ガスセンサも知られている。
【0003】
また、非特許文献1には、ガラス基板上に、第1パッド電極及び第2パッド電極と、これらパッド電極を連結する白金ナノワイヤとを形成したガスセンサが記載されている。このガスセンサでは、第1パッド電極と第2パッド電極との間に定電圧を印加した状態で、第1パッド電極と第2パッド電極との間で検出される抵抗の変化に基づいて、水素ガスを検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-137998号公報
【文献】特開2003-149189号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】F. Yang et al., The Surface Scattering-Based Detection of Hydrogen in Air Using a Platinum Nanowire, Nano Lett. 12 (2012) 2924-2930
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるような、固体電解質を用いた酸素ガスセンサは、基準ガスを必要としており、酸素に対する感度が十分でなく、応答速度が遅い(応答時間が数十秒程度)という問題を有している。また、特許文献2に記載されるような、酸化物半導体を用いた抵抗型酸素ガスセンサも、動作温度が900℃や600℃といった非常に高温の場合には10秒以下の応答速度が得られるものの、動作温度が300℃程度の比較的低温の場合には応答時間が数百秒以上となり、応答速度が遅く、産業のニーズを満たしているとはいえない状況にある。
【0007】
また、非特許文献1に記載された白金ナノワイヤを用いたガスセンサでは、水素ガスを検出しており、酸素ガスを検出することは記載されていない。つまり、酸素ガスに対する応答速度や感度といったセンサ特性について、何ら検証されていない。
【0008】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、酸素ガスに対して応答速度が速く、感度が高いガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討し、以下の知見を得た。本発明者らは、白金(Pt)など特定の金属からなるナノワイヤと、特定の高抵抗半導体からなる酸化物層とを組み合わせたガスセンサを着想した。ナノワイヤと高抵抗半導体からなる酸化物層とを接触させて配置することにより、ナノワイヤ中をキャリア(酸素空孔、電子等)が通過する第1の伝導パスに加えて、キャリア(酸素空孔、電子等)がナノワイヤから酸化物層に注入され、酸化物層中を移動し、再びナノワイヤに戻る経路の第2の伝導パスが形成される。この2つの伝導パスの存在によって、酸素ガスに対して応答速度が速く、感度が高いという顕著な効果を得ることができることを本発明者らは見出した。
【0010】
以上の知見に基づいて完成された本発明の要旨構成は以下のとおりである。
[1]絶縁表面を有する基板と、
前記基板の前記絶縁表面上(on or above)に形成された、第1パッド電極及び第2パッド電極と、
前記第1パッド電極と前記第2パッド電極とを連結し、前記基板の前記絶縁表面上(on or above)に形成された、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、及びこれらの合金から選ばれた一種以上からなるナノワイヤと、
前記ナノワイヤと接触した、前記ナノワイヤを構成する金属とは異種の金属の酸化物の高抵抗半導体からなる酸化物層であって、(I)前記基板の前記絶縁表面と前記ナノワイヤとの間に位置し、前記ナノワイヤの下面と接触する、又は、(II)前記ナノワイヤ上(on)に位置し、前記ナノワイヤの上面と接触する、の一方又は両方を少なくとも満たす酸化物層と、
を有し、
前記第1パッド電極と前記第2パッド電極との間に電流を流し、前記第1パッド電極と前記第2パッド電極との間で検出される電気信号の変化に基づいて、ガスを検出するガスセンサ。
【0011】
[2]前記ナノワイヤの線幅が、5nm以上であり、かつ、150nm以下であり、好ましくは50nm以下であり、より好ましくは30nm以下である、上記[1]に記載のガスセンサ。
【0012】
[3]前記ナノワイヤの厚さが、1nm以上であり、かつ、20nm以下であり、好ましくは10nm以下である、上記[1]又は[2]に記載のガスセンサ。
【0013】
[4]前記ナノワイヤの長さが80nm以上であり、好ましくは400nm以上であり、かつ、1m以下である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【0014】
[5]前記酸化物層を構成する前記高抵抗半導体が、酸化セリウム、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化鉄、酸化ニッケル、セリウム-ジルコニウム酸化物、酸化チタン、酸化コバルト、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ロジウム、及び酸化ハフニウムから選ばれた一種以上である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【0015】
[6]前記酸化物層の厚さが5nm以上であり、好ましくは100nm以下である、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【0016】
[7]前記ナノワイヤと前記酸化物層とがオーミック接触している、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【0017】
[8]前記基板が、ガラス基板、アルミナ基板、ジルコニア基板、及び酸化シリコン膜が表面に形成されたシリコン基板のいずれかである、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【0018】
[9]前記第1パッド電極及び前記第2パッド電極が、前記ナノワイヤと同種の金属からなる、上記[1]~[8]のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【0019】
[10]前記ガスが酸素ガスである、上記[1]~[9]のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【発明の効果】
【0020】
本発明のガスセンサは、酸素ガスに対して応答速度が速く、感度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】本発明の一実施形態によるガスセンサ100の模式的な斜視図である。
【
図1B】ガスセンサ100の模式的な上面図である。
【
図2】(A)~(E)は、本発明の一実施形態によるガスセンサ100の製造工程を説明する図である。
【
図3】ナノワイヤの線幅W及び線長Lを種々の値としたガスセンサ上面のSEM像である。
【
図4】実験例1における電流Iの経時変化を示すグラフである。
【
図5】実験例2における電流Iの経時変化を示すグラフである。
【
図6】実験例3における電流Iの経時変化を示すグラフである。
【
図7A】実験例4における電流Iの経時変化を示すグラフである。
【
図7B】実験例4における電流Iの経時変化を示すグラフである。
【
図8A】実験例5における電流Iの経時変化を示すグラフである。
【
図8B】実験例5における電流Iの経時変化を示すグラフである。
【
図9】実験例6における電流Iの経時変化を示すグラフである。
【
図10】実験例7における電流Iの経時変化を示すグラフである。
【
図11】実験例8における電流Iの経時変化を示すグラフである。
【
図12】実験例9における電流Iの経時変化を示すグラフである。
【
図13】(A)及び(B)は、実験例10における電流Iの経時変化を示すグラフである。
【
図14】実験例11における電流Iの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(ガスセンサ)
図1A、
図1B、
図1C及び
図1Dを参照して、本発明の一実施形態によるガスセンサ100は、基板10と、第1パッド電極12A及び第2パッド電極12Bと、特定の金属からなるナノワイヤ14と、高抵抗半導体からなる酸化物層16と、を有する。第1パッド電極12A及び第2パッド電極12Bは、基板10上(on or above)に形成される。ナノワイヤ14は、第1パッド電極12Aと第2パッド電極12Bとを連結し、基板10上(on or above)に形成される。酸化物層16は、ナノワイヤ14と接触するように形成される。詳細な作用効果は後述するが、本実施形態では、このナノワイヤ14/酸化物層16の接触により、酸素ガスに対する高速応答及び高感度が実現される。なお、本明細書において「A formed on or above B」とは、B上に直接に、又は、間に別の層を介して間接的にAが形成されることを意味するものとする。
【0023】
[ガス検出の機構]
ガスセンサ100では、第1パッド電極12Aと第2パッド電極12Bとの間に電流を流し、第1パッド電極12Aと第2パッド電極12Bとの間で検出される電気信号の変化に基づいて、ガスを検出する。例えば
図1Bに示すように、第1パッド電極12Aと第2パッド電極12Bとの間に、直列に電源18及び電流計20を接続し、これと並列に電圧計22を接続する。この場合、電源18によって、第1パッド電極12Aと第2パッド電極12Bとの間に定電圧を印加した状態で、電流計20によって、第1パッド電極と第2パッド電極との間における電流の変化を検出し、検出される電流の変化に基づいて、ガスが検出される。あるいは、第1パッド電極12Aと第2パッド電極12Bとの間に定電流を流した状態で、第1パッド電極12Aと第2パッド電極12Bとの間で検出される電圧の変化に基づいて、ガスを検出することもできる。また、上記の電流又は電圧の変化に代えて、第1パッド電極12Aと第2パッド電極12Bとの間との間で検出される抵抗の変化に基づいて、ガスを検出することもできる。すなわち、上記の「電気信号」とは、電流、電圧、又は抵抗を意味する。本実施形態では、2端子でガスセンサの回路を構成できるので、配線や回路を増やすことがなく、ガスセンサを構築できる。本実施形態において検出されるガスの種類は特に限定されないが、本実施形態は酸素ガスを検出するのに好適である。
【0024】
[基板]
基板10は、第1パッド電極12A及び第2パッド電極12B、並びに、ガス検出部となるナノワイヤ14及び酸化物層16を支持する。基板10は、絶縁表面を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、ガラス基板、アルミナ基板、ジルコニア基板などの絶縁性基板や、酸化シリコン膜が表面に形成されたシリコン基板などのいずれかを用いることができる。基板10の形状及び寸法は特に限定されないが、主表面形状が矩形である基板を用いる場合、寸法は例えば、縦:10~300mm×横:10~300mm×厚さ:0.3~1.2mmの範囲とすることができる。
【0025】
[第1パッド電極及び第2パッド電極]
第1パッド電極12A及び第2パッド電極12Bは、ナノワイヤ14に電流を供給し、かつ、ガスの濃度変化に対応した電気信号の変化を検出するために必要な一対の電極である。第1パッド電極12A及び第2パッド電極12Bは、基板10の絶縁表面上(on or above)に形成される限り、その形状及び寸法は特に限定されないが、主表面の形状を矩形とする場合、寸法は例えば、縦:30~500μm×横:30~500μm×厚さ:10~500nmの範囲とすることができる。第1パッド電極12A及び第2パッド電極12Bを構成する金属は、特に限定されず、任意の金属であってよいが、プロセス簡易性の観点から、後述のナノワイヤと同種の金属であることが好ましい。
【0026】
[ナノワイヤ]
ナノワイヤ14は、第1パッド電極12Aと第2パッド電極12Bとを連結し、基板10の絶縁表面上(on or above)に形成される、ガス検出部を構成する要素の一つである。ナノワイヤ14は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、及びこれらの合金から選ばれた一種以上からなることが肝要であり、その中でも、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、及びこれらの合金から選ばれた一種以上からなることが好ましく、白金(Pt)及びこの合金から選ばれた一種以上からなることが最も好ましい。ナノワイヤ14に用いられるこれらの元素は、白金族元素であり触媒として機能する。触媒としての白金族元素は、ガスを活性化し、ガスの吸着及び酸化物とガスとの化学反応を促進させ、吸着する酸素量を増やして、酸素イオンを増大させる効果がある。これらの触媒効果により、ガス応答の感度が向上する。
【0027】
ナノワイヤ14の形状は特に限定されないが、
図1Dに示すように、ナノワイヤ14の延在方向に垂直な断面形状が矩形であることが好ましい。
【0028】
ナノワイヤ14の線幅Wは、nmオーダー(すなわち1μm未満)であれば特に限定されないが、酸素ガスに対する高速応答及び高感度をより十分に実現する観点から、150nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。また、ナノワイヤ14の線幅Wは、高速応答及び高感度の観点からは狭いほど好ましいため、その下限は特に限定されない。しかし、プロセス上の制約から、ナノワイヤ14の線幅Wは5nm以上であることが好ましい。
【0029】
ナノワイヤ14の厚さは、特に限定されないが、酸素ガスに対する高速応答及び高感度をより十分に実現する観点から、20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。また、ナノワイヤ14の厚さは、高速応答及び高感度の観点からは薄いほど好ましいため、その下限も特に限定されない。しかし、プロセス上の制約及びナノワイヤとしての電気伝導の観点から、ナノワイヤ14の厚さは1nm以上であることが好ましい。
【0030】
ナノワイヤ14の延在方向に垂直な断面積は、特に限定されないが、酸素ガスに対する高速応答及び高感度をより十分に実現する観点から、3000nm2以下であることが好ましく、1500nm2以下であることがより好ましく、1000nm2以下であることがさらに好ましく、600nm2以下であることがさらに好ましく、500nm2以下であることがさらに好ましく、300nm2以下であることがさらに好ましい。ナノワイヤ14の延在方向に垂直な断面積は、高速応答及び高感度の観点からは小さいほど好ましいため、その下限も特に限定されない。しかし、プロセス上の制約から、ナノワイヤ14の延在方向に垂直な断面積は、15nm2以上であることが好ましい。
【0031】
ナノワイヤ14の長さLは、特に限定されないが、酸素ガスに対する高速応答及び高感度をより十分に実現する観点から、80nm以上であることが好ましく、400nm以上であることがより好ましい。ナノワイヤ14の長さLは、高速応答及び高感度の観点からは長いほど好ましいため、その上限も特に限定されない。しかし、プロセス上の制約から、ナノワイヤ14の長さLは1m以下であることが好ましい。
【0032】
[酸化物層]
酸化物層16は、高抵抗半導体からなり、ナノワイヤ14と接触している。本実施形態は、このナノワイヤ14/酸化物層16の接触により、酸素ガスに対する高速応答及び高感度が実現される。ナノワイヤ14/酸化物層16の接触態様としては、酸化物層16が、(I)基板10の絶縁表面とナノワイヤ16との間に位置し、ナノワイヤ14の下面と接触する、又は、(II)ナノワイヤ14上(on)に位置し、ナノワイヤ14の上面と接触する、の一方又は両方を少なくとも満たすことが肝要である。
【0033】
図1Aに示すように、本実施形態は上記態様(I)に関し、基板10の絶縁表面上(on)に酸化物層16が位置し、当該酸化物層16上(on)に、第1パッド電極12A及び第2パッド電極12B並びにナノワイヤ14が位置する。ただし、本発明はこれに限定されず、上記態様(II)に関してもよく、例えば、基板10の絶縁表面上(on)に第1パッド電極12A及び第2パッド電極12B並びにナノワイヤ14が位置し、このナノワイヤ14上(on)に酸化物層16を形成してもよい。上記態様(I)及び(II)は、ナノワイヤ14が酸化物層16に埋設される場合や、酸化物層16がナノワイヤ14の上面、下面に加えて、側面にも接触する場合をも包含する。
【0034】
酸化物層16を構成する高抵抗半導体は、300℃における抵抗率が1Ω・m以上100000Ω・m以下の酸化物半導体であればよく、例えば、酸化セリウム(CeO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO3)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化ニッケル(NiO)、セリウム-ジルコニウム酸化物(CeZrO4)、酸化チタン(TiO2)、酸化コバルト(Co3O4)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ロジウム(Rh2O3)、及び酸化ハフニウム(HfO2)から選ばれた一種以上であることが好ましく、この中でも特に、酸化セリウム、酸化スズ及び酸化ジルコニウムから選ばれた一種以上であることが好ましい。なお、前記の酸化物半導体は、化学量論組成の酸化物のみでなく化学量論組成からずれた酸化物であってもよく、酸化数が異なる酸化物が含まれていてもよい。酸化物層16を構成する酸化物半導体の表面には、酸素が吸着している。吸着酸素は、酸化物半導体から電子を引き抜き、O-やO2-などの酸素イオンとなっている。酸素イオンO-やO2-は、負電荷を有するため、n型半導体の場合、表面を空乏化させ電気伝導度が減少し、p型半導体の場合、キャリア濃度を増大させ電気伝導度が増大する。表面に吸着している酸素イオンがガスと化学反応すると、酸素イオンが取り除かれ、酸素イオンに起因した表面電荷が消失する。これにより、酸化物半導体の電気伝導度が変化する。この酸化物半導体における電気伝導度の変化は、ナノワイヤと平行に流れる電気伝導度の変化となり、ガス応答の検出につながる。
【0035】
酸化物層16を構成する高抵抗半導体(酸化物半導体)は、ナノワイヤ14を構成する金属とは異種の金属の酸化物であることが重要である。上記のような酸素/酸素イオンの吸着、生成、消滅、さらには酸素空孔の生成、消滅には、それぞれの過程において活性化エネルギーが存在し、それらの活性化エネルギーは酸化物半導体に依存する。例えば、Pt/PtO2の組み合わせのように、酸化物半導体がナノワイヤ14を構成する金属の酸化物であると、上記活性化エネルギーが高く、ガスセンサの応答時間及び回復時間が遅くなり、感度が低くなる。これに対し、酸化物半導体がナノワイヤ14を構成する金属とは異種の金属の酸化物であると、上記活性化エネルギーが低いため、ガスセンサの応答時間及び回復時間が早くなり、感度が高くなる。
【0036】
酸化物層16の厚さは、特に限定されないが、酸素ガスに対する高速応答及び高感度をより十分に実現する観点から、5nm以上であることが好ましい。上記態様(I)の位置にある酸化物層16に関しては、その厚さの上限は特に限定されないが、厚さが過多でも本発明の効果は飽和するため、コストやプロセスタイムの観点から、酸化物層16の厚さは100nm以下とすることが好ましい。上記(II)の位置にある酸化物層16に関しては、その厚さの上限は特に限定されないが、厚さが過多であるとガス透過性が悪くなり、ナノワイヤ14へのガスの供給が不十分となるため、酸化物層16の厚さは100nm以下とすることが好ましい。
【0037】
[ナノワイヤと酸化物層との接触]
既述のとおり、本実施形態では、ナノワイヤ14と酸化物層16とが接触していること、具体的にはオーミック接触を形成していることが肝要である。これにより、ナノワイヤ14中をキャリア(酸素空孔、電子等)が通過する第1の伝導パスに加えて、キャリア(酸素空孔、電子等)がナノワイヤ14から酸化物層16に注入され、酸化物層16中を移動し、再びナノワイヤ14に戻る経路の第2の伝導パスが形成される。この2つの伝導パスの存在によって、酸素ガスに対して応答速度が速く、感度が高いという顕著な効果を得ることができる。
【0038】
本発明を限定するものではないが、本発明者らは、このような効果が得られるメカニズムを以下のように考えている。
【0039】
酸化物は、酸素濃度に依存して酸素欠損(酸素空孔)が生じ、酸素濃度が低いほど酸素欠陥密度は上がる。この酸素欠損サイトは、電子をトラップし、その電子を放出するドナーサイトとして働く。この酸素欠損から放出された電子は、伝導体に供給されキャリアとなりバンド伝導するか、あるいは、酸素欠損サイト間をホッピング伝導する。
【0040】
ナノワイヤを構成する金属(Pt、Pd等)は、触媒作用により、酸素欠陥を生成する活性化エネルギーの低減に寄与し、酸素欠陥が生じやすくする。さらに、金属と酸化物との界面の電子の授受(電荷注入)の活性化エネルギーを低くし、金属/酸化物間に存在するショットキー障壁の高さを低減する。また酸素欠陥は、界面近傍のキャリア密度を高めるため、ショットキー障壁の幅を数10nm以下に薄くすることに寄与する。触媒作用による障壁の高さ低減と、酸素欠陥によるキャリア密度増大のいずれも、金属と酸化物間のショットキー障壁に基づく抵抗を低減し、オーミックコンタクトを可能とする。オーミックコンタクトとなった界面では、界面における電界によらず抵抗はほぼ一定となり、金属/酸化物界面における電子の授受が阻害されにくくなる。
【0041】
酸化物と接触している金属(Pt、Pd等)の原子は、酸化物上への金属蒸着時、あるいは、数100℃のアニールで、比較的容易に酸化物中に拡散し、酸化物中に原子ドープされる。このように酸化物に金属原子ドープされると、触媒作用はバルク金属と比較して極めて高くなる。金属原子ドープされた酸化物では、ドープされていない酸化物と比較すると、高い触媒作用により、酸素欠陥が発生しやすくなり、障壁高さが低くなり、キャリア濃度の増大に起因して障壁幅が薄くなりやすくなる。これらの効果により、金属原子の酸化物へのドーピングは、酸素欠陥の発生のしやすさに起因したガスセンサ応答の向上と、オーミックコンタクトの形成ならびにオーミック抵抗の低減、酸化物中の電子の導電率の向上に寄与する。
【0042】
金属/酸化物界面におけるオーミックコンタクトを通じて、金属から酸化物に注入した電子は、酸化物中をバンド伝導あるいはホッピング伝導により流れ、オーミックコンタクトしているナノワイヤに戻ることができる。金属のナノワイヤと酸化物が接触しているナノワイヤ両端に電圧を印加すると、金属であるナノワイヤ内で金属における電子伝導が生じる。このワイヤ内の電子伝導に、金属から酸化物に注入した電荷が酸化物中を伝導し、金属に戻る伝導経路(バイパス回路)による電子伝導が加わることになる。この酸化物を通じたバイパス回路を流れる電流は、酸素欠陥濃度に強く依存するため、ガスセンサ応答が高感度化する。
【0043】
オーミックコンタクトでは、接触抵抗が電界に依存しないため、金属/酸化物間の電子注入頻度は、ワイヤ端に印加する電圧に依存しない。このことは、例えば数10mVの印加電圧においても、ガスセンサ応答が、高い印加電圧と同様に得られている本発明の結果を導いている。
【0044】
金属表面における金属の酸化は、金属伝導における表面散乱を増大させ、この表面散乱の多寡による伝導度の変化により、ガスセンサ応答を得ることが報告されている。酸化物に酸素欠損を生じさせる金属と酸化物が接している界面では、還元作用が働く。この還元作用は、表面が酸化している金属を還元する作用につながる。酸化物と接触している金属界面では、還元作用により金属が酸化しづらく、金属ワイヤ内の金属伝導における表面散乱を低減する作用がある。さらに、オーミックコンタクトの形成過程からも明らかなように、金属/酸化物の接触界面における表面散乱は、ショットキー界面の障壁高さと障壁幅を変化させる酸素欠陥濃度に依存するようになる。金属ナノワイヤの電気伝導の表面散乱頻度の変化を用いたガスセンサと、本発明は上記のように金属単体の表面における酸化に起因した表面散乱とは異なり、酸化物の酸素欠損が寄与する表面散乱となるため、電気伝導における表面散乱メカニズムが異なる。
【0045】
[効果]
以上のとおり、本実施形態のガスセンサ100によれば、酸素ガスに対して応答速度が速く(すなわち、応答時間が短く、回復時間が短い)、さらに、感度が高いとの効果を奏する。また、本実施形態のガスセンサ100は、動作温度が低くても(例えば60~300℃程度)酸素ガスが検出できるとの効果も有する。また、本実施形態のガスセンサ100は、酸素ガス濃度が低くても酸素ガスを検出可能であることから、検出可能な酸素ガス濃度の範囲が広いとの効果も有する。
【0046】
[ガスセンサの製造方法]
図2(A)~(E)を参照して、本実施形態のガスセンサ100を製造するための好適な方法を説明する。
【0047】
図2(A)を参照して、まず、基板10上に酸化物層16を形成する。具体的には、酸化物層16を構成する酸化物の前駆体溶液を調製し、この前駆体溶液を基板10上に塗布し、その後、基板10を熱処理に供する。例えば、酸化セリウム(CeO
2)層を形成する場合、プロピオン酸に酢酸セリウム水和物Ce(CH
3CO
2)
3・xH
2Oを溶解して、所定濃度の酸化セリウム(CeO
2)前駆体溶液を作製することができる。
【0048】
以下に、各酸化物を得るための前駆体物質を列挙する。これら前駆体物質の1種以上を用いることができる。
酸化セリウム(CeO2):酢酸セリウム水和物Ce(CH3CO2)3・xH2O;硝酸セリウム6水和物Ce[NO3]3・6H2O;セリウムアセチルアセトネート水和物Ce[C5H7O2]3・xH2O
酸化スズ(SnO2):無水塩化スズ(II)SnCl2:スズ(II)アセチルアセトネートC10H14O4Sn;スズ(IV)tert-ブトキシドSn[OC(CH3)3]4
酸化ジルコニウム(ZrO2):ジルコニウム(IV)ブトキシドZr(OC4H9)4;ジルコニウム(IV)イソプロポキシドイソプロパノール錯体Zr(OCH(CH3)2)4・(CH3)2CHOH;オキシ硝酸ジルコニウム(IV)水和物ZrO(NO3)2・xH2O
酸化亜鉛(ZnO):硝酸亜鉛6水和物Zn[NO3]2・6H2O;亜鉛(II)アセチルアセトネートC10H14O4Zn;酢酸亜鉛2水和物Zn[CH3COO]2・2H2O
酸化タングステン(WO3):塩化タングステン(VI)WCl6;タングステン(VI)エトキシドC12H30O6W
酸化鉄(Fe2O3):硝酸鉄9水和物Fe[NO3]3・9H2O;酢酸鉄(II)Fe[CO2CH3]2;鉄(III)アセチルアセトネートFe[C5H7O2]3
酸化ニッケル(NiO):ニッケル(II)アセチルアセトネートNi(C5H7O2)2;酢酸ニッケル(II)4水和物Ni[OCOCH3]2・4H2O;硝酸ニッケル(II)6水和物Ni[NO3]2・6H2O
セリウム-ジルコニウム酸化物(CeZrO4):酢酸セリウム水和物Ce(CH3CO2)3・xH2O;ジルコニウム(IV)ブトキシドZr(OC4H9)4
酸化チタン(TiO2):チタン(IV)イソプロポキシドTi[OCH(CH3)2]4;チタン(IV)ブトキシドTi(OCH2CH2CH2CH3)4
酸化コバルト(Co3O4):硝酸コバルト6水和物Co[NO3]2・6H2O;コバルト(II)アセチルアセトネートCo(C5H7O2)2;酢酸コバルト(II)[CH3CO2]2Co;塩化コバルト(II)CoCl2
酸化ニオブ(Nb2O5):塩化ニオブ(V)NbCl5;ニオブ(V)エトキシドNb(OCH2CH3)5;ニオブn-ブトキシドC20H45NbO5
酸化タンタル(Ta2O5):タンタル(V)エトキシドTa(OC2H5)5;タンタル(V)テトラエトキシド2,4-ペンタンジオネートC13H27O6Ta;塩化タンタル(V)TaCl5
酸化ロジウム(Rh2O3):酢酸ロジウム(II)ダイマーRh2(OOCCH3)4;硝酸ロジウム(III)水和物N3O9Rh・xH2O;ロジウム(III)アセチルアセトネート[CH3COCHCOCH3]3Rh
酸化ハフニウム(HfO2):塩化ハフニウム(IV)HfCl4;ハフニウム(IV)2,4-ペンタンジオネートC20H28O8Hf;硝酸ハフニウム(IV)Hf(NO3)4
【0049】
また、溶媒としては、プロピオン酸、2-メトキシエタノール(CH3OCH2CH2OH)、及び1-ブタノール(C4H9OH)から選ばれる1種以上を用いることができる。前駆体溶液の濃度は特に限定されないが、所望の膜厚に応じて0.05~0.5mol/kg程度とすることが好ましい。塗布方法は特に限定されないが、スピンコート法を好適に用いることができる。その場合の回転数は、所望の厚さに応じて適宜決定すればよいが、例えば1000~4000rpmの範囲とすることができる。酸化物層16には、電気伝導性とガス透過性という二つの機能が求められる。高い電気伝導性を得るためには伝導パスを形成する必要があり、グレインバウンダリーなどがあるとバウンダリーにおけるキャリアトラップにより応答が得にくい。一方、ガス雰囲気に対する酸化物における酸素空孔の増減をナノワイヤ近傍の酸化物で実現するためには、ガス透過性が良好なポーラス構造が望まれる。これら二つの機能を得る観点から、熱処理条件は、空気雰囲気下で、250~800℃の範囲の雰囲気温度に0.5~2時間保持する熱処理が好ましい。なお、塗布と熱処理の組み合わせを複数回行うことによって、酸化物層16の厚さを調整してもよい。
【0050】
次に、
図2(B)に示すように、酸化物層16上にレジスト膜30を形成する。レジスト膜30は、電子ビーム露光用のフォトレジスト組成物を酸化物層16上に塗布し、乾燥させることで形成することができる。塗布方法は特に限定されないが、スピンコート法を好適に用いることができる。レジスト膜30の厚さは、形成しようとするナノワイヤ14の厚みよりも厚くなるように(ナノワイヤ14とパッド電極12A、12Bを一括で形成する場合には、その両者よりも厚くなるように)適宜設定すればよい。
【0051】
次に、
図2(C)に示すように、レジスト膜30を現像して、所定形状のマスクパターン32を形成する。マスクパターン32は、レジスト膜30を電子ビームリソグラフィにより露光し、現像することによって作製される。マスクパターン32の形状は、形成しようとするナノワイヤ14の線幅W及び長さLに応じて適宜設定すればよい。
図2(C)~(E)に示すように、ナノワイヤ14とパッド電極12A、12Bを一括で形成する場合には、マスクパターン32の形状は、形成しようとするナノワイヤ14及びパッド電極12A、12Bの寸法に応じて決定すればよい。マスクパターン32においてレジスト膜が除去された部分では、酸化物層16が露出している。
【0052】
次に、
図2(D)に示すように、例えば電子ビーム蒸着法又はスパッタリング法によって金属膜34を形成する。このとき、金属膜の第一部分34Aはマスクパターン32上に形成され、金属膜の第二部分34Bは、マスクパターン32においてレジスト膜が除去された部分において、酸化物層16上に形成される。なお、金属膜34は、厚さ1~5nm程度のTi層と、その上に形成された、ナノワイヤ14及びパッド電極12A、12Bを構成する金属(例えばPt)からなる層と、を含むことが好ましい。なお、Ti層は、酸化物層16上にナノワイヤ14及びパッド電極12A、12Bを構成する金属からなる層を接着させるための接着層として機能する。接着層としては、Ti層に代えてCr層を用いてもよい。
【0053】
次に、
図2(E)に示すように、マスクパターン32を剥離して、その上に形成された金属膜の第一部分34Aを除去するリフトオフプロセスによって、酸化物層16上にナノワイヤ14及びパッド電極12A、12Bを形成する。本例では、
図2(C)~(E)に示すように、ナノワイヤ14とパッド電極12A、12Bを一括で形成した。しかし、上記のプロセスではナノワイヤ14のみを形成し、その後別途、例えば一般的なフォトリソグラフィ法を用いて、パッド電極12A、12Bを形成することでもよい。なお、Ti層又はCr層は、酸化物層16上にナノワイヤ14を接着させるための接着層として形成するものであるが、ナノワイヤ14を構成する金属の蒸着の過程でTi又はCrは当該金属層中に拡散して、Ti層又はCr層のほとんどの部分は消失する。酸化物層16とナノワイヤ14との間では、一部の箇所でTi又はCrが島状に残存するものの、ほとんどの箇所では酸化物層16とナノワイヤ14とが直接接しており、オーミック接触を形成している。
【0054】
以上の工程を経て、ガスセンサ100を作製することができる。なお、
図2(A)~(E)によって作製されるガスセンサ100は、ナノワイヤ14/酸化物層16の接触態様が上記(I)に関するものである。ナノワイヤ14と酸化物層16の形成順序を逆にする(つまり、
図2(A)の工程と
図2(B)~(E)の工程の順序を逆にする)ことによって、ナノワイヤ14/酸化物層16の接触態様が上記(II)であるガスセンサを作製することができる。ただし、この場合、パッド電極12A、12B上にも酸化物層16が形成される。そこで、パッド電極12A、12B上の酸化物層16は例えばアルゴンスパッタ、反応性イオンエッチング、物理的なスクラッチ等の方法で除去して、パッド電極12A、12Bから電気的コンタクトを取ることを可能とする必要がある。
【実施例】
【0055】
[実験例1]
<ガスセンサの作製>
以下の手順でガスセンサを作製した。まず、表層約1μmがSiO2からなるSi基板(縦:15mm×横:15mm×厚さ:0.5mm)を用意した。
【0056】
次に、プロピオン酸(和光化学株式会社製)に酢酸セリウム水和物Ce(CH3CO2)3・xH2O(シグマアルドリッチ社製、99.9%)を溶解して、0.4mol/kgの酸化セリウム(CeO2)前駆体溶液を作製した。混合後、前駆体溶液をホットプレート(110℃)上で、1000rpmで30分間撹拌して、透明かつ均一な溶液とした。その後、溶液を0.2μmのPTFEシリンジフィルタに通して、4℃で保管した。
【0057】
基板上に前駆体溶液を4000rpmのスピンコート法で塗布し、その後、急速熱処理装置(RTA)を用いて250℃で1時間熱処理することで、基板上に酸化セリウム(CeO2)層(厚さ:28nm)を形成した。なお、酸化セリウム(CeO2)の300℃における抵抗率は、200Ω・mである。
【0058】
続いて、電子線描写装置EBL(エリオニクス社製 ELS-7500EX)を用いて、CeO2層上にPtナノワイヤを形成した。具体的には、CeO2層上に電子線レジストZEP-520Aをスピンコート法で塗布し、その後、EBL装置で所定形状のマスクパターンを描いた。その後、電子ビーム蒸着法により、Ti層(厚さ:3nm)とその上のPt層(厚さ:10nm)を形成した。その後、マスクパターンを剥離するリフトオフプロセスを経て、CeO2層上にPtナノワイヤ(線幅W:8nm、線厚さ:10nm、線長L:416nm、線に垂直な断面形状:矩形)を形成した。なお、Ti層は、CeO2層上にPtナノワイヤを接着させるための接着層として形成するものであるが、Pt層の蒸着の過程でTiがPt層中に拡散して、Ti層のほとんどの部分は消失する。CeO2層とPtナノワイヤとの間では、一部の箇所でTiが島状に残存するものの、ほとんどの箇所ではCeO2層とPtナノワイヤとが直接接しており、オーミック接触を形成している。すなわち、CeO2層が基板とPtナノワイヤとの間に位置し、Ptナノワイヤの下面と接触している。
【0059】
続いて、一般的なフォトリソグラフィ法を用いて、各々Ti層(厚さ:5nm)とその上のPt層(厚さ:40nm)からなる第1パッド電極及び第2パッド電極(150μm×150μm)を作製した。このようにして、CeO2層とPtナノワイヤとを組み合わせたガスセンサを作製した。
【0060】
<酸素ガス検出試験>
酸素圧力可変の測定室に上記ガスセンサを置き、半導体パラメータ アナライザ システム(キーサイトテクノロジーズ社製 B1500A)を用いて、第1パッド電極と第2パッド電極との間に定電圧(V=1.0V)を印加した状態で、第1パッド電極と第2パッド電極との間で検出される電流Iの変化に基づいて、酸素ガスを検出する試験を行い、種々のセンサ特性を評価した。動作温度Tは300℃(573K)とした。酸素ガスON時には、酸素ガス圧力を10
-3Pa(真空)から5Paに変更し、酸素ガスOFF時には酸素ガス圧力を5Paから10
-3Pa(真空)に戻した。すなわち、酸素圧力P
O2は5Paとした。なお、測定室内にはキャリアガスは導入せず、酸素ガスのみを導入した。酸素ガスは0秒でONとし、300秒でOFFとした。
図4は、電流Iの経時変化を示すグラフである。
【0061】
ここで、センサ特性に関するパラメータを、以下のとおり定義する。
I :ある時刻での電流値
I0:初期電流値
I01:初期電流値(酸素ガスON時の電流値)
I02:初期電流値(酸素ガスOFF時の電流値)
Is:飽和電流値
Is1:飽和電流値(酸素ガスON後)
Is2:飽和電流値(酸素ガスOFF後)
ΔI1=I01-Is1
ΔI2=I02-Is2
感度S(%)=(ΔI1/I01)×100
応答時間tres:
電流値Iが初期電流値I01からΔI1の90%だけ変化するのに要する時間
回復時間trec:
電流値Iが初期電流値I02からΔI2の90%だけ変化するのに要する時間
なお、酸素ガスON又はOFF後300秒経過しても電流値が飽和しない場合には、酸素ガスON又はOFF後300秒経過時点での電流値を飽和電流値とみなす。
【0062】
本実験例では、応答時間tresが21秒、回復時間trecが20秒であり、酸素ガスに対して高速応答が実現できた。また、感度Sは2.4%であり、酸素ガスに対する高感度を実現できた。
【0063】
[実験例2]
Ptナノワイヤの線幅Wを、8nmに加えて、23nm、50nm、74nm、124nmの5水準(
図3左側参照)としたこと以外は、実験例1と同じ条件でガスセンサを作製した。そして、実験例1と同じ条件(印加電圧V=1.0V、動作温度T=300℃(573K)、酸素圧力P
O2=5Pa)で、酸素ガス検出試験を行った。酸素ガスは0秒でONとし、300秒でOFFとした。
図5は、各水準において電流Iの経時変化を示すグラフである。また、各水準におけるセンサ性能を表1に示す。
【0064】
【0065】
表1から明らかなように、線幅Wが狭くなるほど、酸素ガスに対して高速応答が実現できた。他方で、感度Sは線幅Wへの依存性が少なかった。
【0066】
[実験例3]
Ptナノワイヤの線長Lを、416nmに加えて、980nm、288nm、191nm、93nmの5水準(
図3右側参照)としたこと以外は、実験例1と同じ条件でガスセンサを作製した。そして、実験例1と同じ条件(印加電圧V=1.0V、動作温度T=300℃(573K)、酸素圧力P
O2=5Pa)で、酸素ガス検出試験を行った。酸素ガスは0秒でONとし、300秒でOFFとした。
図6は、各水準において電流Iの経時変化を示すグラフである。また、各水準におけるセンサ性能を表2に示す。
【0067】
【0068】
表2から明らかなように、線長Lが長くなるほど、酸素ガスに対して高速応答かつ高感度が実現できた。
【0069】
[実験例4]
実験例1と同じ条件でガスセンサを作製した。そして、印加電圧Vを種々の水準(0.01V、0.05V、0.1V、0.5V、1.0V、2.0V、2.5V、3.0V)としたこと以外は、実験例1と同じ条件(動作温度T=300℃(573K)、酸素圧力P
O2=5Pa)で、酸素ガス検出試験を行った。酸素ガスは100秒でONとし、500秒でOFFとした。
図7A及び
図7Bは、各水準において電流Iの経時変化を示すグラフである。また、各水準における感度Sをグラフ中に記載した。
【0070】
図7A及び
図7Bから、応答時間及び回復時間は、印加電圧Vには依存しないことが読み取れる。また、感度Sも印加電圧Vに依存せず、1.42~1.56%の間でほぼ同じ値となっている。また、印加電圧Vが10mVでも応答が観察されている。よって、本実験例のガスセンサは、ノイズを減らす対策をすれば、印加電圧が10mVといった低電圧であっても十分に動作する。このことは、低消費電力のガスセンサの実現に貢献する。
【0071】
[実験例5]
実験例1と同じ条件でガスセンサを作製した。そして、動作温度Tを種々の水準(303K、333K、363K、393K、423K、453K、543K、573K)としたこと以外は、実験例1と同じ条件(印加電圧V=1.0V、酸素圧力P
O2=5Pa)で、酸素ガス検出試験を行った。酸素ガスは0秒でONとし、300秒でOFFとした。なお、動作温度Tは、基板の裏面に設置したマイクロヒータの設定温度によって調整した。
図8A及び
図8Bは、各水準において電流Iの経時変化を示すグラフである。また、各水準におけるセンサ性能を表3に示す。
【0072】
【0073】
表3から明らかなように、動作温度Tが高いほど、酸素ガスに対して高速応答かつ高感度が実現できた。また、動作温度Tがほぼ室温の303Kにおいても応答が得られていることは、ガスセンサの動作時にセンサ温度を上げる必要が無いことを示唆している。このことから、本発明のガスセンサは、ヒータによる加熱無しで低消費電力駆動を実現できることが分かる。
【0074】
[実験例6]
実験例1と同じ条件でガスセンサを作製した。そして、酸素圧力P
O2を種々の水準(10Pa、5Pa、3Pa、0.1Pa)としたこと以外は、実験例1と同じ条件(印加電圧V=1.0V、動作温度T=300℃(573K))で、酸素ガス検出試験を行った。酸素ガスは0秒でONとし、300秒でOFFとした。
図9は、各水準において電流Iの経時変化を示すグラフである。また、各水準におけるセンサ性能を表4に示す。
【0075】
【0076】
表4から明らかなように、感度Sは酸素圧力に依存し、酸素圧力が高いほど、感度は上昇する。一方、応答時間及び回復時間は、酸素圧力にはあまり依存しない。また、酸素圧力が0.1Paでも応答が得られており、検出可能な酸素ガス濃度の範囲が広いことが分かる。
【0077】
[実験例7]
Ptナノワイヤの線厚さを、3nm、6nm、10nmの3水準としたこと以外は、実験例1と同じ条件でガスセンサを作製した。そして、実験例1と同じ条件(印加電圧V=1.0V、動作温度T=300℃(573K)、酸素圧力P
O2=5Pa)で、酸素ガス検出試験を行った。酸素ガスは0秒でONとし、以降は100秒ごとに、OFF/ONを切り替えた。
図10は、各水準において電流Iの経時変化を示すグラフである。
図10から計算した感度Sは、厚さ3nmで3.8%、厚さ6nmで2.5%、厚さ10nmで3.6%であった。このことから、感度Sは、Pt厚みにはあまり依存しないことが分かる。Ptナノワイヤの線厚さが1nm未満となると、Ptナノワイヤとしての電気伝導が得られなくなるため、線厚さは1nm以上であることが好ましい。
【0078】
[実験例8]
CeO
2層の厚さを28nm、56nmの2水準としたこと以外は、実験例1と同じ条件でガスセンサを作製した。そして、実験例1と同じ条件(印加電圧V=1.0V、動作温度T=300℃(573K)、酸素圧力P
O2=5Pa)で、酸素ガス検出試験を同時に行った。酸素ガスは0秒でONとし、以降は100秒ごとに、OFF/ONを切り替えた。
図11は、各水準において電流Iの経時変化を示すグラフである。
図11から、応答時間及び回復時間は、CeO
2層の厚さには依存しないことが読み取れる。また、
図11から計算した感度Sは、2水準とも2.5%であった。このことから、感度Sは、CeO
2層の厚さには依存しないことが分かる。
【0079】
[実験例9]
CeO2層とPtナノワイヤの形成順序を逆にしたこと以外は、実験例1と同じ条件でガスセンサを作製した。すなわち、まず、実験例1と同じく、表層がSiO2からなるSi基板を用意した。続いて、電子線描写装置EBL(エリオニクス社製 ELS-7500EX)を用いて、SiO2層上にPtナノワイヤを形成した。具体的には、SiO2層上に電子線レジストZEP-520Aをスピンコート法で塗布し、その後、EBL装置で所定形状のマスクパターンを描いた。その後、電子ビーム蒸着法により、Ti層(厚さ:3nm)とその上のPt層(厚さ:10nm)を形成した。その後、マスクパターンを剥離するリフトオフプロセスを経て、SiO2層上にPtナノワイヤ(線幅W:8nm、線厚さ:10nm、線長L:416nm、線に垂直な断面形状:矩形)を形成した。なお、Ti層は、SiO2層上にPtナノワイヤを接着させるための接着層として形成するものである。
【0080】
続いて、一般的なフォトリソグラフィ法を用いて、SiO2層上に、各々Ti層(厚さ:5nm)とその上のPt層(厚さ:40nm)からなる第1パッド電極及び第2パッド電極(150μm×150μm)を作製した。
【0081】
続いて、基板のSiO2層、Ptナノワイヤ、並びに第1パッド電極及び第2パッド電極を被覆するように、前駆体溶液を4000rpmのスピンコート法で塗布し、その後、急速熱処理装置(RTA)を用いて400℃で1時間熱処理することで、基板のSiO2層、Ptナノワイヤ、並びに第1パッド電極及び第2パッド電極を被覆するように、酸化セリウム(CeO2)層(厚さ:28nm)を形成した。この場合、PtナノワイヤはCeO2層に埋設している。すなわち、CeO2層は、Ptナノワイヤ上に位置し、Ptナノナノワイヤの上面と接触している。また、CeO2層はPtナノワイヤの側面とも接触している。CeO2層とPtナノワイヤとはオーミック接触を形成している。
【0082】
最後に、第1パッド電極及び第2パッド電極上のCeO2層を物理的にスクラッチする方法で除去して、第1パッド電極及び第2パッド電極から電気的コンタクトを取ることを可能とした。このようにして、CeO2層とPtナノワイヤとを組み合わせたガスセンサを作製した。
【0083】
そして、実験例1と同じ条件(印加電圧V=1.0V、動作温度T=300℃(573K)、酸素圧力P
O2=5Pa)で、酸素ガス検出試験を行った。酸素ガスは0秒でONとし、以降は100秒ごとに、OFF/ONを切り替えた。
図12は、電流Iの経時変化を示すグラフである。本実験例では、応答時間t
resが25秒、回復時間t
recが68秒以上であり、酸素ガスに対して高速応答が実現できた。また、感度Sは1.5%であり、酸素ガスに対する高感度を実現できた。
【0084】
[実験例10]
酸化物層を、CeO2層に代えて、SnO2層又はZrO2層としたこと以外は、実験例1と同じ条件でガスセンサを作製した。そして、実験例1と同じ条件(印加電圧V=1.0V、動作温度T=300℃(573K)、酸素圧力PO2=5Pa)で、酸素ガス検出試験を行った。
【0085】
SnO
2層の場合、酸素ガスは100秒でONとし、以降は約100秒ごとに、OFF/ONを切り替えた。
図13(A)は、電流Iの経時変化を示すグラフである。応答時間t
resが12秒、回復時間t
recが8秒であり、酸素ガスに対して高速応答が実現できた。また、感度Sは2.3%であり、酸素ガスに対する高感度を実現できた。
【0086】
ZrO
2層の場合、酸素ガスは0秒でONとし、600秒でOFFとした。
図13(B)は、電流Iの経時変化を示すグラフである。応答時間t
resが12秒であり、酸素ガスに対して高速応答できたが、回復時間t
recが2時間以上と長かった。また、感度Sは97%であり、酸素ガスに対する高感度を実現できた。
【0087】
なお、SnO2層の形成は、以下の手順で行った。プロピオン酸(和光化学株式会社製)にスズ(II)アセチルアセトネートC10H14O4Sn(シグマアルドリッチ社製、99.9%)を溶解して、0.4mol/kgの酸化スズ(SnO2)前駆体溶液を作製した。混合後、前駆体溶液をホットプレート(110℃)上で、1000rpmで30分間撹拌して、透明かつ均一な溶液とした。その後、溶液を0.2μmのPTFEシリンジフィルタに通して、4℃で保管した。
【0088】
基板上に前駆体溶液を3000rpmのスピンコート法で塗布し、その後、急速熱処理装置(RTA)を用いて、300℃で1時間熱処理することで、基板上に酸化スズ(SnO2)層(厚さ:30nm)を形成した。なお、酸化スズ(SnO2)の300℃における抵抗率は、10Ω・mである。
【0089】
なお、ZrO2層の形成は、以下の手順で行った。ZrO2からなるスパッタターゲットを用いて、Ar雰囲気下でスパッタリングを行い、基板上に酸化ジルコニウム(ZrO2)層(厚さ:30nm)を形成した。なお、酸化ジルコニウム(ZrO2)の300℃における抵抗率は、80000Ω・mである。
【0090】
[実験例11]
実験例1と同じ条件でガスセンサを作製した。そして、印加電圧V
dを0.1Vとし、測定室内にキャリアガスとして窒素ガス(流量:1000sccm)を流したこと以外は、実験例1と同じ条件(動作温度T=300℃(573K))で、酸素ガス検出試験を行った。酸素ガスは0秒でONとし、600秒でOFFとした。酸素ガス流量は50sccmとし、酸素濃度は5%である。
図14は、電流Iの経時変化を示すグラフである。本実験例から、キャリアガスが存在する環境下でも酸素ガスの検出が可能であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のガスセンサは、酸素ガスに対して応答速度が速く、感度が高いため、内燃機関の酸素センサ、呼気センサなどに適用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0092】
100 ガスセンサ
10 基板
12A 第1パッド電極
12B 第2パッド電極
14 ナノワイヤ
16 酸化物層
18 電源
20 電流計
22 電圧計
30 レジスト膜
32 マスクパターン
34 金属膜
34A 金属膜の第一部分
34B 金属膜の第二部分