(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】砥粒とダイヤモンドウェハ基板界面との摩擦化学反応の検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/46 20060101AFI20241126BHJP
C30B 29/04 20060101ALI20241126BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20241126BHJP
B24B 49/12 20060101ALI20241126BHJP
G01N 21/65 20060101ALI20241126BHJP
G01Q 80/00 20100101ALI20241126BHJP
G01N 3/56 20060101ALI20241126BHJP
G01N 13/00 20060101ALI20241126BHJP
H01L 21/304 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
G01N3/46
C30B29/04 W
C23C14/34 N
B24B49/12
G01N21/65
G01Q80/00 111
G01N3/56 J
G01N13/00
H01L21/304 622B
(21)【出願番号】P 2023547419
(86)(22)【出願日】2021-12-31
(86)【国際出願番号】 CN2021143449
(87)【国際公開番号】W WO2022199193
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-08-04
(31)【優先権主張番号】202110323147.4
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202110323211.9
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521319258
【氏名又は名称】華僑大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】徐 西鵬
(72)【発明者】
【氏名】陸 静
(72)【発明者】
【氏名】羅 求発
(72)【発明者】
【氏名】呉 躍勤
(72)【発明者】
【氏名】穆 徳魁
(72)【発明者】
【氏名】薛 志萍
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第113084694(CN,A)
【文献】特開平10-132731(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0344166(US,A1)
【文献】特開2011-232177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/46
C30B 29/04
C23C 14/34
B24B 49/12
G01N 21/65
G01Q 80/00
G01N 3/56
G01N 13/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒とダイヤモンドウェハ基板との界面摩擦化学反応の検出方法であって、
(1)マグネトロンスパッタリング法を用いて,ナノインデンテーションのダイヤモンド圧子の先端表面に、活性金属砥粒層または金属酸化物砥粒層を被覆するステップと、
(2)活性金属砥粒層を有するダイヤモンド圧子をナノインデンテーションに装着し、該ダイヤモンド圧子にダイヤモンドウェハ基板の表面で引っ掻かせ、引っ掻き後のウェハ基板を取得するステップと、
(3)前記引っ掻き後のウェハ基板を走査プローブ顕微ラマン分光計に放置し、引っ掻き後のウェハ基板の引っ掻き傷領域に対して化学成分検出を行うステップと、を含むことを特徴とする砥粒とダイヤモンドウェハ基板との界面摩擦化学反応の検出方法。
【請求項2】
前記マグネトロンスパッタリング法のターゲットは、鉄、コバルト、クロムおよびチタンを含み、前記ダイヤモンド
圧子の表面に金属酸化物砥粒層を被覆することを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記マグネトロンスパッタリング法のターゲットは、銅、鉄、亜鉛、コバルト、ニッケル、マンガンを含み、導入される反応ガスが酸素ガスであり、前記ダイヤモンド
圧子の表面に金属酸化物砥粒層を被覆することを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【請求項4】
前記マグネトロンスパッタリング法において、作業チャンバー内に固定された前記ダイヤモンド圧子を300~600℃に加熱し、スパッタリング時間は4~6分間であることを特徴とする請求項2または3に記載の検出方法。
【請求項5】
前記引っ掻きにおける潤滑媒体は温度40~90℃の脱イオン水であることを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【請求項6】
前記引っ掻きにおける温度は50℃であることを特徴とする請求項4に記載の検出方法。
【請求項7】
前記引っ掻きにおいて、前記ダイヤモンド圧子の押し込み荷重が1~30mNであり、引っ掻き速度が1~10μm/sであることを特徴とする請求項4に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハの超精密加工の分野に属し、特に、活性金属砥粒とダイヤモンドウェハ基板界面との摩擦化学反応の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子情報時代の到来は半導体産業の発展を大いに推進しており、半導体材料の世代が電子情報産業の継続発展の鍵となっている。従来の単結晶シリコンに代表される半導体パワー素子は、その材料開発の限界に近づき、高周波、高温、高出力、高エネルギー効率、耐環境性、小型軽量化の半導体デバイスに対する新たな要求に応えることが困難になってきている。炭化ケイ素、窒化ガリウム、ダイヤモンドなどに代表される新しい半導体材料は、その優れた性質から、将来の半導体デバイスの開発の主力となっている。
【0003】
しかしながら、これらの新しい半導体材料は、硬度が高く、脆性が大きく、化学的に安定であるという特性を有しており、代表的な難加工材として知られている。超精密研磨技術は、従来のシリコンウェハの研磨方法、すなわち化学機械研磨技術をそのまま踏襲している。これらの新しい半導体材料からなるウェハは、シリコンウェハに比べて硬度が非常に高いため、加工効率が低く、加工コストが高く、ウェハの表面品質が満足できるものとはならない。したがって、砥粒とウェハとの界面作用過程を深く分析するのは、新しい半導体ウェハの砥粒研磨除去メカニズムの把握に役立ち、さらに新しい半導体材料製のウェハの効率的な超精密無損傷加工を実現する。
【0004】
現在の界面摩擦化学反応の対策設計及び検出は、マクロ接触系における異なる物質の相互作用を主に対象としている。例えば、CN112147040Aは、水和物モノマーと堆積物との間の界面摩擦を検出するための装置及び方法を開示しており、CN104677783Aは、アルミニウムと炭素との反応後のAl4C3生成物を検出して、アルミニウム-炭素界面反応の程度を定量するための電気化学的方法を開示しており、「Chemical modification of the interfacial frictional properties of vanadium carbide through ethanol adsorption」(炭化バナジウム界面の摩擦特性に対するエタノール吸着の化学的修飾)は、エタノール吸着条件下での炭化バナジウム界面の摩擦特性の変化を検出するための原子間力顕微鏡を利用することを開示している。上記従来技術の試験方法は、(1)検討された界面摩擦化学反応が全てマクロ条件下で発生し、原子レベルで発生する界面摩擦作用を分析することが困難であり、(2)特定の材料間で発生する界面摩擦化学反応のみを検出することができ、汎用性がなく、(3)界面摩擦化学反応が非常に弱い場合、上記方法が失敗する可能性があるといった問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来技術の欠点を克服し、活性金属砥粒とダイヤモンドウェハ基板界面の摩擦化学反応を検出する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
砥粒とダイヤモンドウェハ基板との界面摩擦化学反応の検出方法であって、
(1)、マグネトロンスパッタリング法により、前記ナノインデンテーションのダイヤモンド圧子の先端表面に、活性金属砥粒層又は金属酸化物砥粒層を被覆するステップと;
(2)活性金属砥粒層を有するダイヤモンド圧子をナノインデンテーションに装着し、ダイヤモンド圧子にダイヤモンドウェハ基板の表面で引っ掻かせ、引っ掻き後のウェハ基板を取得するステップ;
(3)前記インデント後の基板を走査プローブ顕微ラマン分光計に放置し、引っ掻き後のウェハ基板の引っ掻き傷領域の化学成分検出を行うステップと、を含む砥粒とダイヤモンドウェハ基板との界面摩擦化学反応の検出方法。
【0007】
本発明の好ましい実施形態では、マグネトロンスパッタリング法のターゲットは、鉄、コバルト、クロムおよびチタンを含み、金属砥粒層を形成する。
【0008】
本発明の好ましい実施形態では、マグネトロンスパッタリング法のターゲットは、銅、鉄、亜鉛、コバルト、ニッケルおよびマンガンを含み、導入される反応ガスが酸素ガスであり、金属酸化物砥粒層が形成される。
【0009】
さらに好ましくは、マグネトロンスパッタリング法において、チャンバー内に固定されたダイヤモンド圧子を300~600℃に加熱し、スパッタ時間が4~6分間である。
【0010】
本発明の好ましい実施形態において、引っ掻きにおける潤滑媒体は、温度40~90℃の脱イオン水である。
【0011】
さらに好ましくは、前記引っ掻きにおける温度は50℃である。
【0012】
さらに好ましくは、前記引っ掻きにおいて、前記ダイヤモンド圧子の押し込み荷重が1~30mNであり、引っ掻き速度が1~10μm/sである。
【0013】
本発明の好ましい実施形態では、前記ダイヤモンド圧子の曲率半径が1~50μmである。
さらに好ましくは、前記ダイヤモンド圧子の曲率半径は25μmである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、マグネトロンスパッタリング法により、ナノインデンテーションのダイヤモンド圧子の表面に、均一な厚さで活性金属砥粒又は金属酸化物のシェルを被覆し、ダイヤモンドウェハ基板とのインデント実験により、砥粒とウェハとの間の界面作用関係を制御し、走査プローブ顕微ラマン分光計により、ダイヤモンドウェハ基板の表面の相互作用領域に対して化学成分検出を行うことで、活性砥粒とウェハ基板との界面摩擦化学反応のメカニズムを明らかにする。その操作が簡単であり、半導体ウェハ基板の効率的超精密加工分野に良好な応用の見込みを有し、産業上の実用性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1における活性金属砥粒層を有するダイヤモンド圧子の模式図と走査型電子顕微鏡写真である。
【
図2】本発明の実施例1及び比較例1~3における活性金属砥粒のダイヤモンドウェハ基板表面の引っ掻き傷の模式図である。
【
図3】本発明の実施例1における、活性金属砥粒のダイヤモンドウェハ基板表面の引っ掻き傷箇所の検出結果である。
【
図4】本発明の比較例1における異なる付着形態の活性金属砥粒の引っ掻き結果である。
【
図5】本発明の実施例1における活性金属酸化物砥粒層を有するダイヤモンド圧子の模式図と走査型電子顕微鏡写真である。
【
図6】本発明の実施例1及び比較例1~3における活性金属酸化物砥粒のダイヤモンドウェハ基板表面の引っ掻き傷の模式図である。
【
図7】本発明の実施例1におけるダイヤモンドウェハ基板の表面の引っ掻き傷における酸化銅砥粒のラマン検出結果を示す図である。
【
図8】本発明の実施例1におけるダイヤモンドウェハ基板の表面の非引っ掻き傷における酸化銅砥粒のラマン測定結果を示す図である。
【
図9】本発明の実施例1におけるダイヤモンドウェハ基板の引っ掻き傷箇所のXRD測定結果である。
【
図10】本発明の比較例1における異なる付着形態の活性金属酸化物砥粒の引っ掻き傷の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
<実施例1>
(1)ダイヤモンド圧子の先端表面に、マグネトロンスパッタリング法を用いて金属チタンの活性砥粒を被覆する。具体的には、純度99.99%の単体金属チタンをターゲットとして選択し、曲率半径25μmのダイヤモンド圧子をチャンバー内に固定し、マグネトロンスパッタホイラーの基底圧を6.0×10
-5Pa、ターゲットとダイヤモンド圧子の間隔を5cmとする。次に、ダイヤモンド圧子を450℃に加温し、無線周波電力100W、スパッタリング時間5分に設定した。これにより、ダイヤモンド圧子の表面に金属チタンの活性砥粒が均一な厚さで被覆され、金属チタンの砥粒のシェルが被覆されたダイヤモンド圧子の形状は
図1に示すようになる。
【0018】
(2)上記(1)で得られた金属砥粒のシェルが被覆されたダイヤモンド圧子をナノインデンテーション装置(KLA、型式:Nano Indenter G200)に取り付け、押し込み荷重が10mNであり、引っ掻き速度が5μm/sであり、引っ掻きの潤滑条件として、pH7且つ温度80℃の中性脱イオン水を潤滑媒体とする。以上のパラメータで、
図2を参照して、ダイヤモンドウェハ基板に対して引っ掻き試験を行う。
【0019】
(3)引っ掻き試験終了後、ダイヤモンドウェハ基板を取り外し、ダイヤモンドウェハ基板の表面の引っ掻き傷領域を走査プローブ顕微ラマン分光計(WITEC、原子間力顕微鏡とラマン分光器が一体化した装置)を用いて化学成分を測定する。
図3に示すように、ラマンスペクトルにおいて、1331cm
-1箇所のダイヤモンドピーク以外に、248、345、430、609cm
-1箇所に明確な特性ピークが現れることが発見され、TiCの存在が確認された。これにより、活性金属砥粒であるチタンとダイヤモンドウェハ基板とが機械的な力によって誘導される摩擦化学反応を起こし、金属チタンとダイヤモンドが化合反応を起こしてTiCが生成されたことは証明された。
【0020】
当業者であれば、他の金属研磨材(鉄、コバルト、クロム)もチタンとダイヤモンドと同様に化合反応を起こし、同一及び類似の技術的効果が得られることが分かる。
【0021】
<比較例1>
(1)ナノインデンテーション(実施例1と同じ)自体の光学顕微鏡を用い、502コロイド水で活性金属砥粒を曲率半径25μmのダイヤモンド圧子に付着させ、502コロイド水をスライドガラス上に均一に少量滴下し、スライドガラスをテーブルに固定し、少量のコロイド水をダイヤモンド圧子の表面に付着させるようにテーブルを移動させた後、さらに砥粒位置に移動させ、圧子の高さを調整して砥粒を付着させ、5秒接触の後に圧子を上昇させて、活性金属砥粒が貼り付けられたダイヤモンド圧子を取得する。前記活性金属砥粒は直径50μmの活性金属チタン砥粒である。
【0022】
(2)工程(1)で得られた活性金属砥粒が貼り付けたダイヤモンド圧子で、ダイヤモンドウェハ基板を引っ掻き、押し込み荷重が10mNであり、引っ掻き速度が5μm/sであり、引っ掻きの潤滑条件として、pH7且つ温度80℃中性の脱イオン水を潤滑媒体とする。以上のパラメータで、
図2を参照して、ダイヤモンドウェハ基板の引っ掻き試験を行う。しかし、試験においては、付着した砥粒が力を受けて脱落しやすくなり、ダイヤモンドウェハ基板に対する効果的な引っ掻き試験ができないことがわかった。主因は、
図4に示すように、活性金属砥粒をのりで貼り付けるという結合手段が、活性金属砥粒とダイヤモンド圧子との結合強度が低くすぎるため、より信頼性の高い結合強度を有する結合手段を見出すことが必要である。実施例1のマグネトロンスパッタリング法を用いてダイヤモンド圧子の表面に活性金属砥粒のシェルを被覆する方法は、信頼性が高く実用的である。
【0023】
<比較例2>
(1)曲率半径25μmのダイヤモンド圧子を5個用意し、異なるスパッタ温度で、ダイヤモンド圧子の表面に金属チタン活性砥粒を被覆する。純度99.99%の単体金属チタンをターゲットとして選択し、ダイヤモンド圧子をチャンバー内に固定し、マグネトロンスパッタホイラーの基底圧を6.0×10-5Pa、ターゲットとダイヤモンド圧子の間隔を5cmとする。ダイヤモンド圧子5個をそれぞれ280、300、450、600、620℃に加温し、無線周波電力100W、スパッタリング時間5分とする。すなわち、スパッタ温度を変えた5組の金属チタン砥粒が被覆されたダイヤモンド圧子を取得する。
【0024】
(2)工程(1)で得られた5組の活性金属砥粒がスパッタされた圧子でダイヤモンドウェハ基板を引っ掻き、押し込み荷重が10mNであり、引っ掻き速度が5μm/sであり、引っ掻きの潤滑条件として、pH7且つ温度80℃の中性脱イオン水を潤滑媒体とする。以上のパラメータで、
図2を参照して、ダイヤモンドウェハ基板の引っ掻き試験を行う。引っ掻き試験終了後、280℃でダイヤモンド圧子の表面に金属チタンの砥粒のシェルの一部が剥がれる現象が見られ、この温度で砥粒のシェルとダイヤモンド圧子との界面の結合強度が不十分であり、引っ掻き中に砥粒のシェルが力を受けて剥がれやすくなることを提示する。スパッタリング温度が300℃の場合、ダイヤモンド圧子の表面に殻剥離現象が見られず、スパッタリング温度の下限値であることを提示する。スパッタリング温度が450℃及び600℃の場合、ダイヤモンド圧子の表面でシェルの剥離現象が見られず、シェルとダイヤモンド基材との界面結合が良好であることを提示する。スパッタ温度が620℃の場合、ダイヤモンドの圧子表面に被覆層が大面積で剥がれ、それは高温(600℃を超える温度)環境下で、ダイヤモンドが熱的ダメージを受け、ダイヤモンド表面と砥粒被覆層との界面結合強度が低下するからである。複数組の実験により、ダイヤモンド圧子に金属チタン砥粒のシェルをスパッタするのに適した温度範囲は300~600℃であることが確定された。
【0025】
<比較例3>
(1)曲率半径25μmのダイヤモンド圧子を5個用意し、同じスパッタ温度でダイヤモンド圧子表面に金属チタン活性砥粒を被覆する。純度99.99%の単体金属チタンをターゲットとして選択し、ダイヤモンド圧子をチャンバー内に固定し、マグネトロンスパッタホイラーの基底圧を6.0×10-5Pa、ターゲットとダイヤモンド圧子の間隔を5cmとする。次に、ダイヤモンド圧子を450℃に加温し、無線周波電力100W、スパッタリング時間5分に設定した。すなわち、同一スパッタ温度での金属チタン砥粒が被覆されたダイヤモンド圧子を5組取得する。
【0026】
工程(1)で得られた5組の同じく活性金属砥粒がスパッタリングされたダイヤモンド圧子で、ダイヤモンドウェハ基板を引っ掻き、押し込み荷重が10mNであり、引っ掻き速度が5μm/sであり、引っ掻きの潤滑条件として、pH7且つ温度をそれぞれ35℃、40℃、50℃、90℃、95℃とする中性の脱イオン水を潤滑媒体とする。以上のパラメータで、
図2を参照して、ダイヤモンドウェハ基板の引っ掻き試験を行う。しかし、潤滑媒体温度が35℃である場合、引っ掻き傷領域のラマンスペクトルにダイヤモンドのピーク(1331cm
-1)のみ見られ、この潤滑媒体温度が活性金属砥粒とダイヤモンドとの化学反応を促進させることが困難であることを提示する。潤滑媒体の温度が40℃である場合、引っ掻き傷領域のラマンスペクトルに微弱なTiC信号(248、345、430、609cm
-1)が検出され、この温度で活性金属チタンがダイヤモンドと化学的に反応できるが、反応性が低いことを提示する。潤滑媒体温度が50℃及び90℃の場合、引っ掻き傷領域のラマンスペクトルに、明らかなTiC特性ピークが現れるが、潤滑媒体温度が95℃の場合、潤滑液が揮発しやすく、一定の安全性が懸念される。多数組の実験により、40~90℃の潤滑媒体温度が適切なインデント温度区間であることが確定された。
【0027】
<実施例2>
(1)マグネトロンスパッタリング法を用いて、ダイヤモンド圧子の先端表面に酸化銅の活性砥粒を被覆する。具体的には、純度99.99%の単体金属銅をターゲットとして選択し、曲率半径25μmのダイヤモンド圧子をチャンバー内に固定し、マグネトロンスパッタホイラーの基底圧を6.0×10
-5Pa、導入される反応ガスを純度99.99%の酸素ガス、作動ガス圧を0.5Pa、ターゲットとダイヤモンド圧子との間隔を5cmとする。次に、ダイヤモンド圧子を450℃に加温し、無線周波電力100W、スパッタリング時間5分に設定した。これにより、ダイヤモンド圧子の表面に均一な厚さの酸化銅砥粒が被覆され、酸化銅砥粒のシェルで被覆されたダイヤモンド圧子の形状は
図5に示すようになる。
【0028】
(2)上記(1)で得られた酸化銅砥粒のシェルが被覆されたダイヤモンド圧子をナノインデンテーション装置(KLA、型式:Nano Indenter G200)に装着し、押し込み荷重が10mNであり、引っ掻き速度が5μm/sであり、引っ掻きの潤滑条件として、pH7且つ温度80℃の中性脱イオン水を潤滑媒体とする。以上のパラメータで、
図6を参照して、ダイヤモンドウェハ基板の引っ掻き試験を行う。
【0029】
(3)引っ掻き試験終了後、ダイヤモンド基板を剥離し、走査プローブ顕微ラマン分光計(WITEC、原子間力顕微鏡とラマン分光器が一体化した装置)を用いて、ダイヤモンド基板表面の引っ掻き傷領域と非引っ掻き傷領域の化学組成を検測する、
図7及び
図8に示すように、ラマンスペクトルから、引っ掻き傷領域に明らかな特性シグナルがなく、非引っ掻き傷領域に明らかなダイヤモンド特性ピークが観察された(1331cm
-1)ことが分かる。その主因は、酸化銅砥粒とダイヤモンドウェハ基板とが機械的な力による摩擦化学反応を起こし、酸化銅とダイヤモンドが置換反応を起こし、反応により生じた金属単体銅が引っ掻き傷領域に付着し、金属単体がラマン特性ピークを持たず、且つ他のシグナルピークを隠蔽することが同業者にとって一般的常識である。さらに、
図9に示すように、引っ掻き傷領域の化学物質をXRD分析したところ、銅元素やダイヤモンド元素の顕著な信号ピークが検出され、ラマン結果の分析精度が確認された。
【0030】
当業者であれば、他の酸化物砥粒(酸化鉄、酸化亜鉛、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化マンガン)も、酸化銅とダイヤモンドの反応形態と同じく置換反応するようになり、ラマンスペクトルの検出結果が近く、いずれも同じまたは近い効果が得られる。
【0031】
<比較例4>
(1)ナノインデンテーション(実施例1と同じ)を用いて、502コロイド水で酸化銅砥粒を曲率半径25μmのダイヤモンド圧子に付着させ、502コロイド水をスライドガラス上に均一に少量滴下し、スライドガラスをテーブルに固定し、少量のコロイド水をダイヤモンド圧子の表面に付着させるようにテーブルを移動させた後、さらに砥粒位置に移動させ、圧子の高さを調整して砥粒を付着させ、5秒接触の後に圧子を上昇させて、活性金属砥粒が貼り付けたダイヤモンド圧子を取得する。前記酸化銅砥粒の直径が50μmである。
【0032】
(2)工程(1)で得られた酸化銅砥粒が付着したダイヤモンド圧子で、ダイヤモンドウェハ基板を引っ掻き、押し込み荷重が10mNであり、引っ掻き速度が5μm/sであり、引っ掻きの潤滑条件として、pH7且つ温度80℃の中性の脱イオン水を潤滑媒体とする。以上のパラメータで、
図6のように、ダイヤモンドウェハ基板の引っ掻き試験を行う。しかし、付着した砥粒は実験中に力を受けて脱落しやすくなり、ダイヤモンドウェハ基板に対する効果的な引っ掻き試験を行うことができないことが発見される。
図10に示すように、主因は、酸化銅砥粒をのりで貼り付けるという結合手段が、酸化銅砥粒とダイヤモンド圧子との結合強度が低くすぎることであるため、より信頼性の高い結合強度を有する結合手段を見出すことが必要である。実施例2のマグネトロンスパッタリング法を用いてダイヤモンド圧子の表面に酸化銅砥粒のシェルを被覆する方法は、信頼性が高く実用的である。
比較例5
【0033】
(3)曲率半径25μmのダイヤモンド圧子を5個用意し、異なるスパッタリング温度で、ダイヤモンド圧子の表面に酸化銅活性砥粒を被覆する。ターゲット材として、純度99.99%の単体金属銅を選択し、ダイヤモンド圧子をチャンバー内に固定し、マグネトロンスパッタホイラーの基底圧を6.0×10-5Pa、導入される反応ガスを純度99.99%の酸素ガス、作動ガス圧を0.5Pa、ターゲットとダイヤモンド圧子の間隔を5cmとする。ダイヤモンド圧子5個をそれぞれ280、300、450、600、620℃に加温し、無線周波電力100W、スパッタリング時間5分とする。すなわち、異なるスパッタリング温度で酸化銅砥粒が被覆されたダイヤモンド圧子を5組取得する。
【0034】
(4)工程(1)で得られた5組の酸化銅砥粒が被覆されたダイヤモンド圧子で、ダイヤモンドウェハ基板を引っ掻き、押し込み荷重が10mNであり、引っ掻き速度が5μm/sであり、引っ掻きの潤滑条件として、pH7且つ温度80℃の中性脱イオン水を潤滑媒体とする。以上のパラメータで、
図6を参照して、ダイヤモンドウェハ基板の引っ掻き試験を行う。引っ掻き試験終了後、280℃でダイヤモンド圧子の表面に酸化銅の砥粒のシェルの一部が剥がれる現象が見られ、この温度で砥粒のシェルとダイヤモンド圧子との界面の結合強度が不十分であり、インデント中に砥粒のシェルが力を受けて剥がれやすいことを提示する。スパッタリング温度が300℃の場合、ダイヤモンド圧子の表面に殻剥離現象が見られず、スパッタリング温度の下限値であることを提示する。スパッタリング温度が450℃及び600℃の場合、ダイヤモンド圧子の表面でシェルの剥離現象が見られず、シェルとダイヤモンド基材との界面結合が良好であることを提示する。スパッタ温度が620℃の場合、酸素雰囲気下(600℃を超える高温)でダイヤモンドが熱的ダメージを受け、ダイヤモンド表面と砥粒の被覆層との界面結合強度が低下するため、ダイヤモンド圧子表面に大面積のシェルの剥離が発見される。複数組の実験により、ダイヤモンド圧子に酸化銅砥粒のシェルをスパッタリングするのに適した温度範囲は、300~600℃であることが確認された。
【0035】
<比較例6>
(2)曲率半径25μmのダイヤモンド圧子を5個用意し、同じスパッタ温度でダイヤモンド圧子表面に酸化銅活性砥粒を被覆する。ターゲット材として純度99.99%の単体金属銅を選択し、ダイヤモンド圧子をチャンバー内に固定し、マグネトロンスパッタホイラーの基底圧を6.0×10-5Pa、導入される反応ガスを純度99.99%の酸素ガス、作動ガス圧を0.5Pa、ターゲットとダイヤモンド圧子の間隔を5cmとする。次に、ダイヤモンド圧子を450℃に加温し、無線周波電力100W、スパッタリング時間5分に設定した。すなわち、同じスパッタ温度で酸化銅砥粒が被覆されたダイヤモンド圧子を5組取得する。
【0036】
工程(1)で得られた同一スパッタリング温度で酸化銅砥粒層が被覆された5組のダイヤモンド圧子により、ダイヤモンドウェハ基板を引っ掻き、押し込み荷重が10mNであり、引っ掻き速度が5μm/sであり、インデント潤滑条件として、pH7且つそれぞれ35℃、40℃、50℃、90℃、95℃に設定した中性脱イオン水を潤滑媒体とする。以上のパラメータで、
図6のようにダイヤモンドウェハ基板の引っ掻き試験を行う。しかし、潤滑媒体温度が35℃の場合、引っ掻き傷領域のラマンスペクトルに、非常に明らかなダイヤモンド信号を示し、酸化銅とダイヤモンドが置換反応しないこと提示する。潤滑媒体の温度が40℃、50℃、90℃の場合、引っ掻き傷領域のラマンスペクトルに顕著な特性ピークがないが、非引っ掻き傷領域のラマンスペクトルに顕著なダイヤモンドの特性ピークが現れるようになり、酸化銅とダイヤモンドが置換反応を起こし、反応により生じた金属銅が引っ掻き傷領域のダイヤモンド表面に付着するため、ラマンスペクトルに顕著な信号がないことを提示する。潤滑媒体温度が95℃の場合、潤滑液が揮発しやすく、一定の安全性が懸念される。多数組の実験により、40~90℃の潤滑媒体温度が適切なインデント温度区間であることが確認された。
【0037】
以上の説明は、本発明の好ましい実施例に過ぎず、従って、本発明の実施範囲をこれらによって限定することはできず、即ち、本発明の特許請求の範囲及び明細書の内容に基づく等価な変更及び修飾は、いずれも本発明の包括的な範囲内に属する。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、活性金属又は金属酸化物砥粒とダイヤモンドウェハ基板との界面摩擦化学反応の検出方法を開示し、マグネトロンスパッタリング法により、ナノインデンテーションのダイヤモンド圧子の表面に、均一な厚さで活性金属砥粒又は金属酸化物のシェルを被覆し、ダイヤモンドウェハ基板との引っ掻き試験により、砥粒とウェハとの間の界面作用関係を制御し、走査プローブ顕微ラマン分光計により、ダイヤモンドウェハ基板の表面の相互作用領域に対して化学成分検出を行うことで、活性砥粒とウェハ基板との界面摩擦化学反応のメカニズムを明らかにする。その操作が簡単であり、半導体ウェハ基板の効率的超精密加工分野に良好な応用の見込みを有し、産業上の実用性を有する。