(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/22 20160101AFI20241126BHJP
【FI】
H02P21/22
(21)【出願番号】P 2024554241
(86)(22)【出願日】2024-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2024017490
【審査請求日】2024-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2023082835
(32)【優先日】2023-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】鯉沼 英孝
(72)【発明者】
【氏名】菅原 孝義
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-63265(JP,A)
【文献】国際公開第2020/158350(WO,A1)
【文献】特開2023-167187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵系に付与する操舵補助力を発生させるモータと、
前記モータの駆動電流を制御するための電流指令値を演算する電流指令値演算部と、
前記電流指令値に対する前記モータの駆動電流の測定値の電流偏差に基づいて第1電圧指令値を出力する電流制御部と、
前記モータの回転速度に応じた第1ゲインを設定する第1ゲイン設定部と、
前記第1電圧指令値を前記第1ゲインで制限して得られる第2電圧指令値に第1遅延要素の出力を加算して第3電圧指令値を演算するとともに、前記第3電圧指令値を前記第1遅延要素に入力する外乱電圧抑制部と、
前記第3電圧指令値に基づいて前記モータを駆動する駆動回路と、
を備えることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記第1ゲイン設定部は、前記モータの回転速度の変化に対して遅れて変化する第1成分と、前記モータの回転速度の変化に応じて変化する第2成分のうちより大きな一方の成分に応じて第1ゲインを設定することを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記第2成分は、前記第1成分の遅延よりも小さな遅延で前記モータの回転速度の変化に応じて変化することを特徴とする請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記第1ゲイン設定部は、
前記モータの回転速度に基づいて前記操舵系が保舵状態であるか否かに応じて第2ゲインを設定する第2ゲイン設定部と、
前記第2ゲインの変化速度を制限して前記第1成分として出力するレートリミッタと、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記第2ゲイン設定部は、前記操舵系の状態が、前記保舵状態でない状態から前記保舵状態に変化した場合に、前記第2ゲインの変化を遅らせることを特徴とする請求項4に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
前記第1ゲイン設定部は、前記モータの回転速度をローパスフィルタ処理することにより前記第1成分を出力するローパスフィルタを備えることを特徴とする請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
前記第1ゲイン設定部は、
前記モータの回転速度に応じた第3ゲインを設定する第3ゲイン設定部と、
前記第1成分と前記第3ゲインのうちより大きな一方を前記第1ゲインとして選択する選択器と、
を備えることを特徴とする請求項2~6のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
前記第1ゲイン設定部は、
前記第1成分と前記第2成分のうち大きな一方を選択して出力する選択器と、
前記選択器の出力に応じたゲインを前記第1ゲインとして設定するゲイン設定部と、
を備えることを特徴とする請求項2~6のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項9】
前記電流制御部は、前記電流偏差の積分に比例する積分成分を含んだ前記第1電圧指令値を出力し、前記第1ゲインによって前記積分成分を抑制することを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項10】
前記電流制御部は、
前記電流偏差と第2遅延要素の出力との和に前記第1ゲインに応じたゲインを乗算して前記電流偏差の積分値を演算するともに、前記積分値を前記第2遅延要素に入力する積分器と、
前記積分器の出力に第4ゲインを乗算して前記積分成分を演算する乗算器と、
を備えることを特徴とする請求項9に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置は、操舵補助力を発生させる操舵補助モータを備え、車両の操舵軸に対して加えられている操舵トルクに基づいて電流指令値を設定し、操舵補助モータの駆動電流の検出値と電流指令値との間の電流偏差に基づいて操舵補助モータを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の操舵系に操舵補助力を付与する電動パワーステアリング装置においては、制御信号に含まれるノイズによって音や振動などが発生することがある。操舵角を殆ど変化させない保舵状態では、音や振動の発生が目立ち易くなるためノイズの影響を抑制することが好ましい。例えば、操舵補助モータの駆動電流のフィードバック制御器の前段や後段にノイズ低減フィルタを配置することで、このようなノイズの影響を抑制できる。
【0005】
一方で、通常の操舵時には電動パワーステアリング装置の制御の応答性が高いことが要求される。上記のようなノイズ低減フィルタを設けると、通常の操舵時と保舵状態との間でフィルタ特性の切替が必要となる。この結果、制御が複雑になるとともにフィルタ特性の適合に要する時間と労力が大きくなる。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、通常の操舵時における電動パワーステアリング装置の制御の応答性と保舵状態におけるノイズの影響の抑制の両立を簡易に実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様による電動パワーステアリング装置は、車両の操舵系に付与する操舵補助力を発生させるモータと、モータの駆動電流を制御するための電流指令値を演算する電流指令値演算部と、電流指令値に対するモータの駆動電流の測定値の電流偏差に基づいて第1電圧指令値を出力する電流制御部と、モータの回転速度に応じた第1ゲインを設定する第1ゲイン設定部と、第1電圧指令値を第1ゲインで制限して得られる第2電圧指令値に第1遅延要素の出力を加算して第3電圧指令値を演算するとともに、第3電圧指令値を第1遅延要素に入力する外乱電圧抑制部と、第3電圧指令値に基づいてモータを駆動する駆動回路と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、通常の操舵時における電動パワーステアリング装置の制御の応答性と保舵状態におけるノイズの影響の抑制の両立を簡易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の電動パワーステアリング装置の一例の概要を示す構成図である。
【
図2】
図1に記載されるコントローラの機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】保舵ゲイン設定部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】(a)及び(b)は保舵ゲイン設定部の動作例の説明図である。
【
図5】回転速度感応ゲインの特性の一例の模式図である。
【
図6】電流制御部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図7】外乱電圧抑制部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図8】実施形態の電動パワーステアリング装置の制御方法の一例のフローチャートである。
【
図9】(a)及び(b)は、変形例の保舵ゲイン設定部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
(構成)
図1は、実施形態の電動パワーステアリング装置の一例の概要を示す構成図である。ステアリングホイール(操向ハンドル)1の操舵軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は減速機構を構成する減速ギア(ウォームギア)3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a、6bを経て、更にハブユニット7a、7bを介して操向車輪8L、8Rに連結されている。
【0011】
ピニオンラック機構5は、ユニバーサルジョイント4bから操舵力が伝達されるピニオンシャフトに連結されたピニオン5aと、このピニオン5aに噛合するラック5bとを有し、ピニオン5aに伝達された回転運動をラック5bで車幅方向の直進運動に変換する。
操舵軸2には操舵トルクThを検出するトルクセンサ10が設けられている。また、操舵軸2には、ステアリングホイール1の操舵角θhを検出する操舵角センサ14が設けられている。
【0012】
また、ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介して操舵軸2に連結されている。電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)装置を制御するコントローラ30には、バッテリ13から電力が供給されるとともに、イグニション(IGN)キー11を経てイグニションキー信号が入力される。
なお、操舵補助力を付与する手段は、モータに限られず、様々な種類のアクチュエータを利用可能である。
【0013】
コントローラ30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと、車速センサ12で検出された車速Vhと、操舵角センサ14で検出された操舵角θhに基づいてアシスト制御指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧指令値Vrefによってモータ20に供給する電流を制御する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。
なお、操舵角センサ14は必須のものではなく、モータ20の回転軸の回転角度を検出する回転角度センサから得られる回転角度に、トルクセンサ10のトーションバーの捩れ角を加えて操舵角θhを算出してもよい。
また、操舵角θhに代えて、操向車輪8L、8Rの転舵角を用いてもよい。例えばラック5bの変位量を検出することにより転舵角を検出してもよい。
【0014】
コントローラ30は、例えば、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含むコンピュータを備えてよい。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
以下に説明するコントローラ30の機能は、例えばコントローラ30のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0015】
なお、コントローラ30を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、コントローラ30は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。例えばコントローラ30はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0016】
次に、
図2を参照してコントローラ30による操舵補助機能の機能構成の一例を説明する。コントローラ30は、電流指令値演算部40と、フィルタ41及び44と、角速度変換部42と、保舵ゲイン設定部43と、電流制御部45と、電圧指令値制限部46と、外乱電圧抑制部47と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部48と、インバータ(INV)49と、を備える。
【0017】
電流指令値演算部40は、少なくとも操舵トルクThと車速Vhとに基づいて、モータ20の駆動電流を制御するための電流指令値である基本電流指令値Irefを演算する。
フィルタ41は、基本電流指令値Irefをフィルタ処理することにより、基本電流指令値Irefに含まれるノイズが低減された電流指令値Iref1を出力する。フィルタ41は例えばローパスフィルタであってよい。
【0018】
角速度変換部42は、モータ20の回転軸の回転角度を検出する回転角度センサ21から回転角度θmを取得する。角速度変換部42は、回転角度θmの時間的変化に基づいてモータ20の回転速度ωを算出する。
保舵ゲイン設定部43は、モータ20の回転速度ωに基づいて保舵ゲインG1を設定して、電流制御部45と電圧指令値制限部46に保舵ゲインG1を出力する。保舵ゲインG1は、特許請求の範囲に記載の「第1ゲイン」の一例である。
【0019】
図3は、保舵ゲイン設定部43の機能構成の一例を示すブロック図である。保舵ゲイン設定部43は、絶対値演算部(abs)50と、保舵判定部51と、ゲイン設定部52と、レートリミッタ53と、回転速度感応ゲイン設定部54と、選択器55とを備える。
絶対値演算部50は、モータ20の回転速度の絶対値|ω|を算出する。
保舵判定部51は、モータ20の回転速度の絶対値|ω|に基づいて、車両の操舵系が保舵状態であるか否かを判定する。
【0020】
保舵状態とは、ステアリングホイール1や操舵軸2の操舵角θhを殆ど変化させない状態である。例えば保舵判定部51は、モータ20の回転速度の絶対値|ω|が判定閾値ωth未満である場合に操舵系が保舵状態であると判定し、絶対値|ω|が判定閾値ωth以上である場合に操舵系が保舵状態でないと判定してよい。モータ20の回転角度θmに替えて操舵角θhを用いて回転速度ωを求めてもよい。
ゲイン設定部52は、保舵判定部51の判定結果に応じた保舵判定ゲインG2を設定する。保舵判定ゲインG2は、特許請求の範囲に記載の「第2ゲイン」の一例である。
【0021】
例えばゲイン設定部52は、操舵系が保舵状態であると判定された場合に、操舵系が保舵状態でないと判定された場合に比べてより小さな保舵判定ゲインG2を設定してよい。すなわちゲイン設定部52は、操舵系が保舵状態であると判定された場合には保舵判定ゲインG2を第1値G21に設定し、操舵系が保舵状態でないと判定された場合には第1値G21よりも大きな第2値G22に保舵判定ゲインG2を設定してよい。例えばゲイン設定部52は、操舵系が保舵状態であると判定された場合に保舵判定ゲインG2を値「0」に設定し、操舵系が保舵状態でないと判定された場合に保舵判定ゲインG2を値「1」に設定する。
【0022】
またゲイン設定部52は、操舵系が保舵状態でないと判定される状態から保舵状態であると判定される状態に変化した場合に、操舵系の状態の変化に対して保舵判定ゲインG2の変化を遅延させてもよい。また、操舵系が保舵状態であると判定される状態から保舵状態でないと判定される状態に変化した場合には、操舵系の状態が変化すると直ちに保舵判定ゲインG2を変化させてもよい。
【0023】
例えば、操舵系が保舵状態でないと判定される状態から保舵状態であると判定される状態に変化した時点から所定の遅延時間T0が経過した時点で、保舵判定ゲインG2を第2値G22から第1値G21に変化させてもよい。また、操舵系が保舵状態であると判定される状態から保舵状態でないと判定される状態に変化すると、直ちに保舵判定ゲインG2を第1値G21から第2値G22に変化させてもよい。
【0024】
レートリミッタ53は、保舵判定ゲインG2の変化速度を制限する。例えばレートリミッタ53は保舵判定ゲインG2の変化速度の絶対値が、所定の上限値以下となるように変化速度を制限する。レートリミッタ53は、変化速度が制限された保舵判定ゲインG2aを選択器55に入力する。
図4(a)及び
図4(b)を参照して、保舵判定ゲインG2aの一例を説明する。
図4(a)はモータ20の回転速度ωの時間的変化のタイムチャートである。
図4(b)の一点鎖線は保舵判定ゲインG2aの時間的変化のタイムチャートである。
【0025】
時点t1より前の期間ではモータ20の回転速度ωは判定閾値ωth以上であるため、保舵判定部51は、操舵系が保舵状態でないと判定する。このためゲイン設定部52は、保舵判定ゲインG2を値「1」に設定する。この結果、保舵判定ゲインG2aも値「1」に設定される。
時点t1において回転速度ωが判定閾値ωth未満に変化すると、保舵判定部51は、操舵系が保舵状態であると判定する。ゲイン設定部52は、時点t1から所定の遅延時間T0が経過した時点t2が到来するまで保舵判定ゲインG2を値「1」に維持し、時点t2において保舵判定ゲインG2を値「0」へ変化させる。変化速度が制限された保舵判定ゲインG2aは、時点t2から減少を開始して、制限された変化速度で減少して時点t3で値「0」に到達する。
【0026】
時点t4において回転速度ωが判定閾値ωth以上に変化すると、保舵判定部51は、操舵系が保舵状態でないと判定する。ゲイン設定部52は、保舵判定ゲインG2を直ちに値「1」に設定する。変化速度が制限された保舵判定ゲインG2aは、時点t4から増加を開始して、制限された変化速度で増加して時点t5で値「1」に到達する。
【0027】
このように、ゲイン設定部52が保舵判定ゲインG2を遅延時間T0が経過してから値「1」から値「0」へ変化させるため、保舵判定ゲインG2aは、モータ20の回転速度の変化に対して遅れて変化する。またレートリミッタ53が保舵判定ゲインG2aの変化速度を制限していることにより、保舵判定ゲインG2aは、モータ20の回転速度の変化に対して遅れて変化する。したがって保舵判定ゲインG2aは、特許請求の範囲に記載の「モータの回転速度の変化に対して遅れて変化する第1成分」の一例である。
【0028】
図3を参照する。回転速度感応ゲイン設定部54は、モータ20の回転速度の絶対値|ω|に応じて変化する回転速度感応ゲインG3を設定する。回転速度感応ゲインG3は特許請求の範囲に記載の「第3ゲイン」の一例である。
図5は、回転速度感応ゲインG3の特性の一例の模式図である。回転速度感応ゲインG3は、絶対値|ω|が大きい場合に比べて小さい場合により小さくなる特性を有する。例えば回転速度感応ゲインG3は、絶対値|ω|が小さいほどより小さくなる特性を有していてよい。例えば回転速度感応ゲインG3は、絶対値|ω|が判定閾値ωth以上の範囲では一定値を維持する特性を有していてよい。
【0029】
図5の回転速度感応ゲインG3の例では、回転速度の絶対値|ω|が値「0」の場合に回転速度感応ゲインG3は値「0」に設定され、絶対値|ω|が値「0」よりも大きくなると回転速度感応ゲインG3は「0」よりも大きな値に設定される。絶対値|ω|が「0」以上かつ判定閾値ωth未満の範囲では、絶対値|ω|が大きくなるほど回転速度感応ゲインG3も大きくなる。
【0030】
回転速度感応ゲインG3は、絶対値|ω|の変化に対して非線形に変化してもよく、絶対値|ω|に比例してもよい(すなわち線形的に変化してもよい)。
絶対値|ω|が判定閾値ωth以上の範囲では、一定値「1」に維持される。
回転速度感応ゲインG3は、特許請求の範囲に記載の「モータの回転速度の変化に応じて変化する第2成分」の一例である。
【0031】
回転速度感応ゲインG3には、保舵判定ゲインG2aのような遅延時間T0が与えられず、またレートリミッタによって変化速度が制限されていない。このため、モータ20の回転速度の変化に対する回転速度感応ゲインG3の変化の遅延は非常に少ない(理想的には遅延がない)。したがって回転速度感応ゲインG3は、保舵判定ゲインG2aの遅延よりも小さな遅延でモータ20の回転速度ωの変化に応じて変化する。
【0032】
図3を参照する。選択器55は、保舵判定ゲインG2aと回転速度感応ゲインG3のうちより大きな一方を選択して、保舵ゲインG1として出力する。
図4(b)の破線は回転速度感応ゲインG3を示し、実線は保舵ゲインG1を示している。モータ20の回転速度ωが判定閾値ωth以上である状態から判定閾値ωth未満の状態に変化した直後は、ある程度の時間長が経過するまで保舵判定ゲインG2aが回転速度感応ゲインG3よりも大きいため、保舵判定ゲインG2aが保舵ゲインG1として出力される。
【0033】
したがって保舵ゲインG1は、モータ20の回転速度ωが判定閾値ωth未満の状態に変化した時点からある程度の時間長が経過するまでモータ20の回転速度の変化に対して遅れて変化する。このため、回転速度ωが一時的に判定閾値ωth未満となっても、ある程度の大きさの保舵ゲインG1を維持できる。
保舵状態では、回転速度ωが判定閾値ωth未満に維持される。このため、保舵判定ゲインG2aは、ゲイン設定部52が設定した保舵判定ゲインG2の値「0」に追従して徐減する。保舵判定ゲインG2aが回転速度感応ゲインG3よりも小さくなると、回転速度感応ゲインG3が保舵ゲインG1として出力される。すると保舵ゲインG1は、回転速度ωの変化に対して小さな遅れで変化する(もしくは回転速度ωに対して遅れなく変化する)。したがって、運転者が操舵を開始して回転速度ωが増加すると、直ちに保舵ゲインG1は増加する。
【0034】
図2を参照する。フィルタ44は、モータ電流検出器22で検出されたモータ20の駆動電流の測定値Imをフィルタ処理することにより、測定値Imに含まれるノイズが低減された測定値Im1を出力する。フィルタ44は例えばローパスフィルタであってよい。
電流制御部45は、電流指令値Iref1に対する駆動電流の測定値Im1の電流偏差ΔI=(Iref1-Im1)に基づいて基本電圧指令値Vref0を演算する。
【0035】
例えば電流制御部45は、電流偏差ΔIに基づく比例制御(P制御)、積分制御(I制御)又は微分制御(D制御)の少なくとも1つ又はこれらの組合せによって、基本電圧指令値Vref0を演算する。すなわち電流制御部45は、電流偏差ΔIに基づくフィードバック制御によって基本電圧指令値Vref0を演算する。基本電圧指令値Vref0は、特許請求の範囲に記載の「第1電圧指令値」の一例である。
【0036】
図6は、比例積分微分(PID)制御により基本電圧指令値Vref0を演算する場合の電流制御部45の機能構成の一例を示すブロック図である。電流制御部45は、減算器45aと、ゲイン乗算部45b、45d及び45fと、近似微分部45cと、積分器45eと、加算器45gを備える。
減算器45aは、電流指令値Iref1に対する駆動電流の測定値Im1の電流偏差ΔI=(Iref1-Im1)を算出する。
【0037】
ゲイン乗算部45bは、電流偏差ΔIと比例ゲインKpの乗算結果を加算器45gへ出力する。
近似微分部45cは、電流偏差ΔIの微分値を演算する。例えば近似微分部45cは、微分演算とローパスフィルタとを組み合わせた伝達関数s/(Ts+1)を電流偏差ΔIに乗算することにより微分値を演算してよい。ゲイン乗算部45dは、電流偏差ΔIの微分値と微分ゲインKdの乗算結果を加算器45gへ出力する。
【0038】
積分器45eは、電流偏差ΔIの積分値を演算する。ゲイン乗算部45fは、電流偏差ΔIの積分値と積分ゲインKiの乗算結果を加算器45gへ出力する。積分ゲインKiは特許請求の範囲に記載の「第4ゲイン」の一例である。
加算器45gは、電流偏差ΔIと比例ゲインKpの乗算結果と、電流偏差ΔIの微分値と微分ゲインKdの乗算結果と、電流偏差ΔIの積分値と積分ゲインKiの乗算結果の和を、基本電圧指令値Vref0として出力する。
【0039】
積分器45eは、遅延要素45e1と、加算器45e2と、ゲイン乗算部45e3を備える。
遅延要素45e1は、積分器45eの出力を遅延させてから加算器45e2に入力する。すなわち遅延要素45e1は、積分器45eの出力の過去値(前回値)を加算器45e2に入力する。遅延要素45e1は、特許請求の範囲に記載の「第2遅延要素」の一例である。
【0040】
加算器45e2は、電流偏差ΔIと遅延要素45e1の出力の和を出力する。ゲイン乗算部45e3は、保舵ゲインG1に応じたゲインと加算器45e2の出力の乗算結果を、積分器45eの出力として算出する。
ゲイン乗算部45e3が加算器45e2の出力に乗算するゲインは、例えば保舵ゲインG1が大きい場合に比べて小さい場合により小さな値を有するゲインであってよい。例えば保舵ゲインG1が小さいほど小さな値を有するゲインであってよい。例えばゲイン乗算部45e3は、加算器45e2の出力に保舵ゲインG1そのものを乗算してもよい。
【0041】
図2を参照する。電圧指令値制限部46は、基本電圧指令値Vref0を保舵ゲインG1で制限することにより、中間電圧指令値Vref1を算出する。例えば電圧指令値制限部46は、保舵ゲインG1が大きい場合に比べて小さい場合に、より小さな中間電圧指令値Vref1を算出する。
例えば電圧指令値制限部46は、基本電圧指令値Vref0と保舵ゲインG1との積を中間電圧指令値Vref1として算出する乗算器であってよい。中間電圧指令値Vref1は、特許請求の範囲に記載の「第2電圧指令値」の一例である。
【0042】
外乱電圧抑制部47は、逆起電圧やその他の外乱電圧が中間電圧指令値Vref1に及ぼす影響を抑制することにより電圧指令値Vrefを算出する。電圧指令値Vrefは、特許請求の範囲に記載の「第3電圧指令値」の一例である。
図7は、外乱電圧抑制部47の機能構成の一例を示すブロック図である。外乱電圧抑制部47は、加算器47aと、フィルタ47bと、遅延要素47cを備える。遅延要素47cは、特許請求の範囲に記載の「第1遅延要素」の一例である。
【0043】
加算器47aは、中間電圧指令値Vref1と遅延要素47cの出力の和を出力する。
フィルタ47bは、中間電圧指令値Vref1と遅延要素47cの出力の和をフィルタ処理することによりノイズを低減する。例えばフィルタ47bは、ローパスフィルタであってよい。フィルタ47bの出力は、電圧指令値Vrefとして外乱電圧抑制部47から出力されるともに遅延要素47cに入力される。
遅延要素47cは、フィルタ47bの出力(すなわち電圧指令値Vref)を遅延させてから加算器47aに入力する。すなわち遅延要素47cは、電圧指令値Vrefの過去値(前回値)を加算器47aに入力する。
【0044】
図2を参照する。電圧指令値VrefはPWM制御部48に入力され、更にインバータ49を介してモータ20がPWM駆動される。モータ20の駆動電流はモータ電流検出器22で検出され、フィルタ44を経由して電流制御部45の減算器45aにフィードバックされる。
なお、コントローラ30は、電流指令値Iref1としてトルク発生用成分であるq軸電流指令値と磁界発生用成分であるd軸電流指令値とを演算し、q軸のモータ電流検出値とq軸電流指令値との偏差と、d軸のモータ電流検出値とd軸電流指令値との偏差に基づいて電圧指令値を生成するベクトル制御を行ってもよい。
【0045】
(作用)
次に、実施形態の電動パワーステアリング装置の作用について説明する。保舵ゲイン設定部43により設定される保舵ゲインG1は、
図4(b)に示すように、モータ20の回転速度の絶対値|ω|が大きい場合に比べて小さい場合により小さくなる特性を有する。このため、通常の操舵時に比べて保舵状態では保舵ゲインG1がより小さな値に設定される。電圧指令値制限部46は、基本電圧指令値Vref0を保舵ゲインG1で制限することにより、中間電圧指令値Vref1を算出する。
【0046】
このため保舵状態では中間電圧指令値Vref1が小さくなる。したがって、中間電圧指令値Vref1に含まれるノイズが電圧指令値Vrefに影響するのを抑制できる。この結果、保舵状態では、電動パワーステアリング装置の制御信号に含まれるノイズの影響を抑制できる。これにより、通常の操舵時と保舵状態との間でフィルタ41やフィルタ44のフィルタ特性を切り替えなくても、保舵状態におけるノイズの影響を抑制できる。
【0047】
ここで、電圧指令値制限部46の後段に設けられた外乱電圧抑制部47は、中間電圧指令値Vref1を電圧指令値Vrefの過去値に加算するため、中間電圧指令値Vref1を蓄積する積分機能を有する。このため、操舵系の状態が保舵状態に変化することにより中間電圧指令値Vref1が小さくなっても、外乱電圧抑制部47の積分機能によって保舵に必要な操舵補助力を発生させる電圧指令値Vrefを維持できる。
【0048】
また、モータ20の回転速度の絶対値|ω|が小さくなったときに単純に保舵ゲインG1を小さくすると、通常の操舵における切り返し操舵で回転速度の絶対値|ω|が0になる度に中間電圧指令値Vref1が小さくなるため、操舵補助力が小さくなって運転者は引っかかり感を感じてしまう虞がある。
そこで
図4(b)に示すように、モータ20の回転速度ωが判定閾値ωth未満に変化しても、変化直後にある程度の時間長が経過するまで保舵ゲインG1の大きさを維持する。これにより、切り返し操舵で引っかかり感が発生するのを防止できる。
【0049】
その後は、回転速度ωの変化に対して小さな遅れで保舵ゲインG1を変化させる。これにより、ステアリングホイール1や操舵軸2の操舵に応じて保舵ゲインG1を増加させることができる。この結果、保舵中に小さな操舵を行っても操舵補助力を出力できる。また、保舵状態から通常の操舵状態に戻ったときに直ちに操舵補助力の出力を再開できる。
【0050】
なお、
図6に示すように電流制御部45によるフィードバック制御が積分制御を含む場合には、電流制御部45が出力する基本電圧指令値Vref0が保舵ゲインG1で制限されることにより電流偏差ΔIが残存するため、積分器45eから出力される電流偏差ΔIの積分値が増大(蓄積)する。
このため、ゲイン乗算部45e3が保舵ゲインG1に応じたゲイン(または保舵ゲインG1そのもの)を電流偏差ΔIの積分値に乗算する。これにより積分器45eの積分値の増大(蓄積)を抑制できる。
【0051】
(動作)
図8は、実施形態の電動パワーステアリング装置の制御方法の一例のフローチャートである。
ステップS1においてトルクセンサ10、車速センサ12、モータ電流検出器22及び回転角度センサ21は、それぞれ操舵トルクTh、車速Vh、モータ20の駆動電流Im及び回転角度θmを検出する。
ステップS2において電流指令値演算部40は、基本電流指令値Irefを演算する。フィルタ41は、基本電流指令値Irefのノイズを低減することにより電流指令値Iref1を出力する。
【0052】
ステップS3において角速度変換部42は、回転角度θmの時間的変化に基づいてモータ20の回転速度ωを算出する。
ステップS4において保舵ゲイン設定部43は、モータ20の回転速度ωに基づいて保舵ゲインG1を設定する。
ステップS5においてフィルタ44は、モータ20の駆動電流の測定値Imに含まれるノイズを低減することにより駆動電流の測定値Im1を算出する。電流制御部45は、電流指令値Iref1に対する駆動電流の測定値Im1の電流偏差ΔIに基づいて基本電圧指令値Vref0を演算する。
【0053】
ステップS6において電圧指令値制限部46は、基本電圧指令値Vref0を保舵ゲインG1で制限することにより、中間電圧指令値Vref1を算出する。
ステップS7において外乱電圧抑制部47は、外乱電圧が中間電圧指令値Vref1に及ぼす影響を抑制することにより電圧指令値Vrefを算出する。
ステップS8においてPWM制御部48とインバータ49は、電圧指令値Vrefに基づいてモータ20を駆動する。その後に処理は終了する。
【0054】
(変形例)
図9(a)及び
図9(b)は、変形例の保舵ゲイン設定部43の機能構成の一例を示すブロック図である。保舵ゲイン設定部43は、モータ20の回転速度ωを遅延させた遅延回転速度信号とモータ20の回転速度ωとを比較して、これら回転速度のうちより高い回転速度に応じたゲインを保舵ゲインG1として設定してもよい。
例えば
図9(a)の保舵ゲイン設定部43は、絶対値演算部(abs)50と、ローパスフィルタ(LPF)60と、選択器61と、回転速度感応ゲイン設定部62を備えている。
【0055】
絶対値演算部50は、モータ20の回転速度の絶対値|ω|を算出して、ローパスフィルタ60と選択器61に入力する。
ローパスフィルタ60は、回転速度の絶対値|ω|にローパスフィルタ処理する。ローパスフィルタ60は、フィルタ処理後の回転速度信号ω1を選択器61に入力する。ローパスフィルタ60は、回転速度の絶対値|ω|を遅延させる遅延要素として作用する。
【0056】
選択器61は、回転速度の絶対値|ω|と回転速度信号ω1のうちいずれか大きい方を選択して回転速度感応ゲイン設定部62に入力する。
回転速度感応ゲイン設定部62は、選択器61の出力に応じた保舵ゲインG1を設定する。回転速度感応ゲイン設定部62が設定する保舵ゲインG1の特性は、例えば
図5を参照して説明した回転速度感応ゲインG3と同様の特性であってよい。
【0057】
また例えば
図9(b)の保舵ゲイン設定部43は、絶対値演算部(abs)50と、保舵判定部51と、遅延要素63と、レートリミッタ64と、選択器61と、回転速度感応ゲイン設定部62を備えている。
保舵判定部51は、モータ20の回転速度の絶対値|ω|が判定閾値ωth未満であるか否かに基づいて、車両の操舵系が保舵状態であるか否かを判定する。
【0058】
遅延要素63は、操舵系が保舵状態でないと判定される状態から保舵状態であると判定される状態に変化した場合に、回転速度の絶対値|ω|を遅延させた回転速度信号ω2を出力する。
例えば遅延要素63は、操舵系が保舵状態でないと判定される状態から保舵状態であると判定される状態に変化した場合に、操舵系の状態が保舵状態に変化した時点の出力値を所定の遅延時間T0の間だけ維持してよい。
【0059】
レートリミッタ64は、回転速度信号ω2の変化速度を制限する。例えばレートリミッタ53は回転速度信号ω2の変化速度の絶対値が、所定の上限値以下となるように変化速度を制限する。レートリミッタ53は、変化速度が制限された回転速度信号ω3を選択器61に入力する。
選択器61は、回転速度の絶対値|ω|と回転速度信号ω3のうちいずれか大きい方を選択して回転速度感応ゲイン設定部62に入力する。
回転速度感応ゲイン設定部62は、選択器61の出力に応じた保舵ゲインG1を設定する。回転速度感応ゲイン設定部62が設定する保舵ゲインG1の特性は、例えば
図5を参照して説明した回転速度感応ゲインG3と同様の特性であってよい。
【0060】
(実施形態の効果)
(1)車両の操舵系に付与する操舵補助力を発生させるモータと、モータの駆動電流を制御するための電流指令値を演算する電流指令値演算部と、電流指令値に対するモータの駆動電流の測定値の電流偏差に基づいて第1電圧指令値を出力する電流制御部と、モータの回転速度に応じた第1ゲインを設定する第1ゲイン設定部と、第1電圧指令値を第1ゲインで制限して得られる第2電圧指令値に第1遅延要素の出力を加算して第3電圧指令値を演算するとともに、第3電圧指令値を第1遅延要素に入力する外乱電圧抑制部と、第3電圧指令値に基づいてモータを駆動する駆動回路と、を備える。
【0061】
これにより、保舵状態では第1電圧指令値を第1ゲインで制限するだけで、第1電圧指令値に含まれるノイズが操舵補助力に影響するのを抑制できる。このため、通常の操舵時における電動パワーステアリング装置の制御の応答性と保舵状態におけるノイズの影響の抑制の両立を簡易に実現できる。
また、外乱電圧抑制部が第2電圧指令値を積分する機能を有することにより、保舵に必要な操舵補助力を維持できる。
【0062】
(2)第1ゲイン設定部は、モータの回転速度の変化に対して遅れて変化する第1成分と、モータの回転速度の変化に応じて変化する第2成分のうちより大きな一方の成分に応じて第1ゲインを設定してよい。例えば、第2成分は、第1成分の遅延よりも小さな遅延でモータの回転速度の変化に応じて変化する成分であってもよい。
これにより、切り返し操舵において引っかかり感が発生するのを防止できるとともに、保舵中における小さな操舵に対して操舵補助力を出力できる。また、保舵状態から通常の操舵状態に戻ったときに、直ちに操舵補助力の出力を再開できる。
【0063】
(3)第1ゲイン設定部は、モータの回転速度に基づいて操舵系が保舵状態であるか否かに応じて第2ゲインを設定する第2ゲイン設定部と、第2ゲインの変化速度を制限して第1成分として出力するレートリミッタと、を備えてもよい。
これにより、モータの回転速度の変化に対して遅れて変化する第1成分を生成できる。
【0064】
(4)第2ゲイン設定部は、操舵系の状態が、保舵状態でない状態から保舵状態に変化した場合に、第2ゲインの変化を遅らせてもよい。
これにより、モータの回転速度の変化に対して遅れて変化する第1成分を生成できる。
【0065】
(5)第1ゲイン設定部は、モータの回転速度をローパスフィルタ処理することにより第1成分を出力するローパスフィルタを備えてもよい。
これにより、モータの回転速度の変化に対して遅れて変化する第1成分を生成できる。
【0066】
(6)第1ゲイン設定部は、モータの回転速度に応じた第3ゲインを設定する第3ゲイン設定部と、第1成分と第3ゲインのうちより大きな一方を第1ゲインとして選択する選択器と、を備えてもよい。
または、第1ゲイン設定部は、第1成分と第2成分のうち大きな一方を選択して出力する選択器と、選択器の出力に応じたゲインを第1ゲインとして設定するゲイン設定部と、を備えてもよい。
これにより、モータの回転速度の変化に対して遅れて変化する第1成分と、モータの回転速度の変化に応じて変化する第2成分のうちより大きな一方の成分に応じて第1ゲインを設定できる。
【0067】
(7)電流制御部は、電流偏差の積分に比例する積分成分を含んだ第1電圧指令値を出力し、第1ゲインによって積分成分を抑制してもよい。例えば電流制御部は、電流偏差と第2遅延要素の出力との和に第1ゲインに応じたゲインを乗算して電流偏差の積分値を演算するともに、積分値を第2遅延要素に入力する積分器と、積分器の出力に第4ゲインを乗算して積分成分を演算する乗算器と、を備えてもよい。
これにより、電流制御部が出力する第1電圧指令値が第1ゲインで制限されることにより電流指令値に対するモータの駆動電流の測定値の電流偏差が残存しても、積分器の積分値の増大(蓄積)を抑制できる。
【符号の説明】
【0068】
1…ステアリングホイール、2…操舵軸、3…減速ギア、4a、4b…ユニバーサルジョイント、5…ピニオンラック機構、5a…ピニオン、5b…ラック、6a、6b…タイロッド、7a、7b…ハブユニット、8L、8R…操向車輪、10…トルクセンサ、11…イグニションキー、12…車速センサ、13…バッテリ、14…操舵角センサ、20…モータ、21…回転角度センサ、22…モータ電流検出器、30…コントローラ、40…電流指令値演算部、41、44、47b…フィルタ、42…角速度変換部、43…保舵ゲイン設定部、45…電流制御部、45a…減算器、45b、45d、45e3、45f…ゲイン乗算部、45c…近似微分部、45e…積分器、45e1、47c、63…遅延要素、45e2、45g、47a…加算器、46…電圧指令値制限部、47…外乱電圧抑制部、48…PWM制御部、49…インバータ、50…絶対値演算部、51…保舵判定部、52…ゲイン設定部、53、64…レートリミッタ、54、62…回転速度感応ゲイン設定部、55、61…選択器、60…ローパスフィルタ
【要約】
通常の操舵時における電動パワーステアリング装置の制御の応答性と保舵状態におけるノイズの影響の抑制の両立を簡易に実現する。電動パワーステアリング装置は、車両の操舵系に付与する操舵補助力を発生させるモータ(20)と、モータ(20)の駆動電流を制御するための電流指令値を演算する電流指令値演算部(40)と、電流指令値に対するモータの駆動電流の測定値の電流偏差に基づいて第1電圧指令値を出力する電流制御部(45)と、モータ(20)の回転速度に応じた第1ゲインを設定する第1ゲイン設定部(43)と、第1電圧指令値を第1ゲインで制限して得られる第2電圧指令値に第1遅延要素の出力を加算して第3電圧指令値を演算するとともに、第3電圧指令値を第1遅延要素に入力する外乱電圧抑制部(47)と、第3電圧指令値に基づいて前記モータを駆動する駆動回路(48、49)と、を備える。