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7593759クレーンの旋回振れ止め装置およびこれを備えたクレーン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】クレーンの旋回振れ止め装置およびこれを備えたクレーン
(51)【国際特許分類】
   B66C 23/00 20060101AFI20241126BHJP
   B66C 13/22 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B66C23/00 C
B66C13/22 M
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020147475
(22)【出願日】2020-09-02
(65)【公開番号】P2021054655
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2019179384
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100178582
【弁理士】
【氏名又は名称】行武 孝
(72)【発明者】
【氏名】沢村 俊明
(72)【発明者】
【氏名】前川 智史
(72)【発明者】
【氏名】菅野 直紀
(72)【発明者】
【氏名】安和 薫広
(72)【発明者】
【氏名】福川 裕也
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-074579(JP,A)
【文献】特開平07-069584(JP,A)
【文献】国際公開第2019/007541(WO,A1)
【文献】特開平05-254784(JP,A)
【文献】YANG,MODELING OF SYSTEM DYNAMICS OF A SLEWING FLEXIBLE BEAM WITH MOVING PAYLOAD PENDULUM,MECHANICS RESEARCH COMMUNICATIONS,PERGAMON,2007年03月27日,V34 N3,P260-266
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 23/00 - 23/94
B66C 13/00 - 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部本体と、
前記下部本体に上下方向に延びる旋回中心軸回りに旋回可能に支持された上部本体と、
前記上部本体に水平な回転中心軸回りに起伏方向に回動可能なように支持され、起伏体基端部と、前記起伏体基端部とは反対の起伏体先端部とを含む起伏体と、
前記起伏体先端部から垂下され吊荷に接続される吊荷ロープと、
前記上部本体を前記旋回中心軸回りに第1旋回方向および前記第1旋回方向とは反対の第2旋回方向にそれぞれ旋回駆動することが可能な旋回駆動部と、
前記上部本体を旋回駆動するための操作を受け付ける旋回用操作部であって、前記上部本体を前記第1旋回方向および前記第2旋回方向にそれぞれ旋回させるための旋回用位置と前記上部本体の旋回を停止させるための中立位置との間で切換可能な、旋回用操作部と、
前記起伏体を前記回転中心軸回りに起伏方向に回動することが可能な起伏体駆動部と、
前記起伏体を起伏するための操作を受け付ける起伏用操作部であって、前記起伏体を起伏させるための起伏用位置と前記起伏体の起伏を停止させるための中立位置との間で切換可能な、起伏用操作部と、
前記吊荷ロープの巻き取りおよび繰り出しを行うことで前記吊荷を地面に対して相対的に昇降させることが可能な吊荷駆動部と、
前記吊荷を昇降させるための操作を受け付ける昇降用操作部であって、前記吊荷を昇降させるための昇降用位置と前記吊荷の昇降を停止させるための中立位置との間で切換可能な、昇降用操作部と、
を有するクレーンに搭載され、前記上部本体の旋回動作停止後に前記吊荷ロープに接続された前記吊荷が前記起伏体先端部を支点として前記上部本体の旋回方向に沿って振れる現象である吊荷の旋回振れを抑えることが可能なクレーンの旋回振れ止め装置であって、
前記起伏体基端部と前記起伏体先端部とを結ぶ方向である起伏体長手方向における当該起伏体の長さに対応する情報である起伏体長さ情報を取得し出力する起伏体長さ情報取得部と、
前記上部本体の前記旋回中心軸回りの旋回角を検出および出力する旋回角検出部と、
前記回転中心軸回りの前記起伏体の起伏角を検出および出力する起伏角検出部と、
前記起伏体先端部の前記旋回方向における変位である起伏体先端部変位を検出および出力する起伏体変位検出部と、
前記起伏体先端部の前記旋回方向における速度である起伏体先端部速度を検出および出力する起伏体速度検出部と、
前記起伏体先端部に対する前記吊荷の変位である吊荷変位を検出および出力する吊荷変位検出部と、
前記起伏体先端部に対する前記吊荷変位の単位時間あたりの変化量である吊荷速度を検出および出力する吊荷速度検出部と、
前記起伏体先端部と前記吊荷との間の前記吊荷ロープの長さに対応する情報であるロープ長さ情報を取得し出力するロープ長さ情報取得部と、
前記吊荷の重量に関する情報である吊荷重量情報を取得し出力する吊荷重量情報取得部と、
前記旋回用操作部が前記旋回用位置に設定されることに応じて前記旋回駆動部が前記上部本体を所定の旋回方向に旋回させたのち、前記旋回用操作部、前記起伏用操作部および前記昇降用操作部のすべての操作部が前記中立位置にそれぞれ設定されることで成立する旋回振れ止め制御開始条件が満たされているか否かを判断する制御開始条件判断部と、
前記制御開始条件判断部によって前記旋回振れ止め制御開始条件が満たされていると判断されると、前記吊荷変位、前記吊荷速度、前記起伏体先端部変位、前記起伏体先端部速度、前記旋回角を含む複数の状態量について、所定の目標位置において前記吊荷を少なくとも前記旋回方向において静止させるための目標状態量をそれぞれ設定する目標状態量設定部と、
前記起伏体長さ情報取得部から出力された前記起伏体長さ情報と、前記旋回角検出部から出力された前記旋回角と、前記起伏角検出部から出力された前記起伏角と、前記起伏体変位検出部から出力された前記起伏体先端部変位と、前記起伏体速度検出部から出力された前記起伏体先端部速度と、前記吊荷変位検出部から出力された前記吊荷変位と、前記吊荷速度検出部から出力された前記吊荷速度と、前記ロープ長さ情報取得部から出力された前記ロープ長さ情報と、前記吊荷重量情報取得部から出力された前記吊荷重量情報と、前記目標状態量設定部によって設定された前記複数の状態量の目標状態量とに基づいて、前記複数の状態量の現在値を演算する状態量演算部と、
少なくとも前記起伏体の弾性変形に対応する項を含む、予め設定された前記吊荷の挙動に関する状態方程式であって前記上部本体の旋回速度を変数とする状態方程式に基づいて、前記複数の状態量にそれぞれ対応する複数の制御ゲインを設定する制御ゲイン設定部と、
前記制御ゲイン設定部によって設定された前記複数の制御ゲインと、前記状態量演算部によって演算された前記複数の状態量の現在値とから、前記旋回速度の目標値である旋回目標速度を演算する旋回目標速度演算部と、
前記上部本体の旋回速度が前記旋回目標速度演算部によって演算された前記旋回目標速度となるように、前記旋回駆動部に対して前記旋回目標速度に対応する指令情報を出力する指令情報出力部と、
を備える、クレーンの旋回振れ止め装置。
【請求項2】
前記吊荷変位検出部は、前記上部本体の旋回動作における径方向に沿って見た場合の前記吊荷ロープの鉛直方向に対する振れ角度を前記吊荷変位として検出および出力するロープ振れ角度検出部を含み、
前記吊荷速度検出部は、前記吊荷ロープの前記振れ角度の単位時間あたりの変化量である振れ角速度を前記吊荷速度として検出および出力するロープ振れ角速度検出部を含む、請求項1に記載のクレーンの旋回振れ止め装置。
【請求項3】
前記起伏体先端部に装着され、前記吊荷に関連付けられた目標物を撮影するとともに撮影した画像情報を出力する撮影装置と、
前記撮影装置から出力された画像情報に基づいて、前記吊荷変位および前記吊荷速度をそれぞれ演算する演算部と、
を更に備え、
前記撮影装置および前記演算部は、前記吊荷変位検出部として前記吊荷変位を検出および出力し、前記吊荷速度検出部として前記吊荷速度を検出および出力する、請求項1に記載のクレーンの旋回振れ止め装置。
【請求項4】
前記起伏体先端部から垂下される前記吊荷ロープの先端部に接続されるジャイロセンサを更に備え、
前記吊荷変位検出部および前記吊荷速度検出部は、前記ジャイロセンサの出力に基づいて前記吊荷変位および前記吊荷速度をそれぞれ検出および出力する、請求項1に記載のクレーンの旋回振れ止め装置。
【請求項5】
前記目標状態量設定部は、前記制御開始条件判断部によって前記旋回振れ止め制御開始条件が満たされていると判断されると、前記クレーンの平面視において前記起伏体が弾性変形していないと仮定した場合における前記起伏体先端部の鉛直下方の位置を前記目標位置として前記旋回角、前記起伏体先端部変位および前記吊荷変位の前記目標状態量をそれぞれ設定し、更に、前記吊荷速度および前記起伏体先端部速度の前記目標状態量をそれぞれゼロに設定する、請求項1乃至4の何れか1項に記載のクレーンの旋回振れ止め装置。
【請求項6】
前記制御ゲイン設定部は、前記複数の状態量と前記旋回速度とを含む重み付き和の時間に対する積分値が最も小さくなるように前記複数の制御ゲインを設定する、請求項1乃至5の何れか1項に記載のクレーンの旋回振れ止め装置。
【請求項7】
前記クレーンは、
前記起伏体として、
前記上部本体に水平な第1回転中心軸回りに起伏方向に回動可能なように支持されたブーム基端部と、前記ブーム基端部とは反対のブーム先端部とを含む、ブームと、
前記ブーム先端部に前記第1回転中心軸と平行な第2回転中心軸回りに起伏方向に回動可能なように支持されたジブ基端部と、前記ジブ基端部とは反対のジブ先端部であって前記吊荷ロープが当該ジブ先端部から垂下されることを許容するジブ先端部とを含む、ジブと、
を有し、
前記起伏体駆動部として、
前記ブームを前記第1回転中心軸回りに起伏方向に回動することが可能なブーム駆動部と、
前記ジブを前記第2回転中心軸回りに起伏方向に回動することが可能なジブ駆動部と、
を有し、
前記起伏用操作部として、
前記ブームを起伏するための操作を受け付けるブーム起伏用操作部であって、前記ブームを起伏させるためのブーム起伏用位置と前記ブームの起伏を停止させるための中立位置との間で切換可能な、ブーム起伏用操作部と、
前記ジブを起伏するための操作を受け付けるジブ起伏用操作部であって、前記ジブを起伏させるためのジブ起伏用位置と前記ジブの起伏を停止させるための中立位置との間で切換可能な、ジブ起伏用操作部と、
有するものであって、
前記起伏体長さ情報取得部は、
前記ブーム基端部と前記ブーム先端部とを結ぶ方向であるブーム長手方向における当該ブームの長さに対応する情報であるブーム長さ情報を取得し出力するブーム長さ情報取得部と、
前記ジブ基端部と前記ジブ先端部とを結ぶ方向であるジブ長手方向における当該ジブの長さに対応する情報であるジブ長さ情報を取得し出力するジブ長さ情報取得部と、
を有し、
前記起伏体変位検出部は、前記ジブ先端部の前記旋回方向における変位を前記起伏体先端部変位として検出および出力し、
前記起伏体速度検出部は、前記ジブ先端部の前記旋回方向における速度を前記起伏体先端部速度として検出および出力し、
前記起伏角検出部は、
前記第1回転中心軸回りの前記ブームの起伏角を検出および出力するブーム起伏角検出部と、
前記第2回転中心軸回りの前記ジブの起伏角を検出および出力するジブ起伏角検出部と、
を有し、
前記目標状態量設定部は、前記制御開始条件判断部によって前記旋回振れ止め制御開始条件が満たされていると判断されると、前記吊荷変位、前記吊荷速度、前記ジブ先端部の前記旋回方向における変位である前記起伏体先端部変位、前記ジブ先端部の前記旋回方向における速度である前記起伏体先端部速度、前記旋回角の複数の状態量について、前記目標状態量をそれぞれ設定し、
前記状態量演算部は、前記ブーム長さ情報取得部および前記ジブ長さ情報取得部からそれぞれ出力された前記ブーム長さ情報および前記ジブ長さ情報と、前記旋回角検出部から出力された前記旋回角と、前記ブーム起伏角検出部から出力された前記ブームの起伏角と、前記ジブ起伏角検出部から出力された前記ジブの起伏角と、前記起伏体変位検出部から出力された前記起伏体先端部変位と、前記起伏体速度検出部から出力された前記起伏体先端部速度と、前記吊荷変位検出部から出力された前記吊荷変位と、前記吊荷速度検出部から出力された前記吊荷速度と、前記ロープ長さ情報取得部から出力された前記ロープ長さ情報と、前記吊荷重量情報取得部から出力された前記吊荷重量情報と、前記目標状態量設定部によって設定された前記複数の状態量の目標状態量とに基づいて、前記複数の状態量の現在値を演算する、請求項1乃至6の何れか1項に記載のクレーンの旋回振れ止め装置。
【請求項8】
下部本体と、
前記下部本体に上下方向に延びる旋回中心軸回りに旋回可能に支持された上部本体と、
前記上部本体に水平な回転中心軸回りに起伏方向に回動可能なように支持された起伏体基端部と、前記起伏体基端部とは反対の起伏体先端部とを含むラチス型の起伏体と、
前記起伏体先端部から垂下され吊荷に接続される吊荷ロープと、
前記上部本体を前記旋回中心軸回りに第1旋回方向および前記第1旋回方向とは反対の第2旋回方向にそれぞれ旋回駆動することが可能な旋回駆動部と、
前記上部本体を旋回駆動するための操作を受け付ける旋回用操作部であって、前記上部本体を前記第1旋回方向および前記第2旋回方向にそれぞれ旋回させるための旋回用位置と前記上部本体の旋回を停止させるための中立位置との間で切換可能な、旋回用操作部と、
前記起伏体を前記回転中心軸回りに起伏方向に回動することが可能な起伏体駆動部と、
前記起伏体を起伏するための操作を受け付ける起伏用操作部であって、前記起伏体を起伏させるための起伏用位置と前記起伏体の起伏を停止させるための中立位置との間で切換可能な、起伏用操作部と、
前記吊荷ロープの巻き取りおよび繰り出しを行うことで前記吊荷を地面に対して相対的に昇降させることが可能な吊荷駆動部と、
前記吊荷を昇降させるための操作を受け付ける昇降用操作部であって、前記吊荷を昇降させるための昇降用位置と前記吊荷の昇降を停止させるための中立位置との間で切換可能な、昇降用操作部と、
請求項1乃至7の何れか1項に記載のクレーンの旋回振れ止め装置と、
を備える、クレーン。
【請求項9】
前記起伏体の前記起伏体先端部には、複数のポイントシーブが幅方向に配列されたシーブブロックが設けられており、
前記吊荷ロープは、前記起伏体先端部から垂下されフックに連結される吊荷ロープであって、前記起伏体先端部の前記シーブブロックの前記ポイントシーブと、前記フックに設けられたシーブブロックのシーブとの間に掛け渡され、前記フックを介して吊荷に接続される、請求項8に記載のクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの旋回振れ止め装置およびこれを備えたクレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動式クレーンとして、下部走行体と、上下方向に延びる旋回中心軸回りに旋回可能なように下部走行体に支持された上部旋回体と、ブームやジブなどの起伏体と、を備えたものが知られている。起伏体は、水平な回転中心軸回りに起伏方向に回動可能なように上部旋回体の前部に取り付けられている。また、起伏体の先端部から垂下された吊荷ロープにはフックが装着されており、当該フックに吊荷が接続されることで、吊荷が吊り上げられる。このように吊荷が吊り上げられた状態で、上部旋回体が旋回すると、吊荷を旋回方向に移動させることができる。
【0003】
特許文献1には、伸縮ブームを有するクレーンにおいて、上部旋回体の旋回停止時に吊荷の振れ(旋回振れ)が発生している場合には、ブームの先端部を吊荷の鉛直上方の位置に移動させるように、上部旋回体の旋回動作を制御する技術が開示されている。ブームの先端部が吊荷に追従するように移動することで、やがて吊荷の振れが収束する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5087251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クレーンが旋回すると、起伏体に付与される慣性モーメントや吊荷の重さに応じて起伏体に撓み(弾性変形)が生じることがある。特許文献1に記載された技術では、このような起伏体の弾性変形が考慮されていないため、平面視で吊荷に追従するように移動される起伏体の先端部と吊荷との間に位置ずれが生じやすい。この結果、当該位置ずれによって吊荷の振れが助長されやすく、吊荷の振れが収まりにくいという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、クレーンの旋回動作によって生じる吊荷の旋回振れを安定して収束させることが可能なクレーンの旋回振れ止め装置およびクレーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に係るクレーンの旋回振れ止め装置は、下部本体と、前記下部本体に上下方向に延びる旋回中心軸回りに旋回可能に支持された上部本体と、前記上部本体に水平な回転中心軸回りに起伏方向に回動可能なように支持され、起伏体基端部と、前記起伏体基端部とは反対の起伏体先端部とを含む起伏体と、前記起伏体先端部から垂下され吊荷に接続される吊荷ロープと、前記上部本体を前記旋回中心軸回りに第1旋回方向および前記第1旋回方向とは反対の第2旋回方向にそれぞれ旋回駆動することが可能な旋回駆動部と、前記上部本体を旋回駆動するための操作を受け付ける旋回用操作部であって、前記上部本体を前記第1旋回方向および前記第2旋回方向にそれぞれ旋回させるための旋回用位置と前記上部本体の旋回を停止させるための中立位置との間で切換可能な、旋回用操作部と、前記起伏体を前記回転中心軸回りに起伏方向に回動することが可能な起伏体駆動部と、前記起伏体を起伏するための操作を受け付ける起伏用操作部であって、前記起伏体を起伏させるための起伏用位置と前記起伏体の起伏を停止させるための中立位置との間で切換可能な、起伏用操作部と、前記吊荷ロープの巻き取りおよび繰り出しを行うことで前記吊荷を地面に対して相対的に昇降させることが可能な吊荷駆動部と、前記吊荷を昇降させるための操作を受け付ける昇降用操作部であって、前記吊荷を昇降させるための昇降用位置と前記吊荷の昇降を停止させるための中立位置との間で切換可能な、昇降用操作部と、を有するクレーンに搭載され、前記上部本体の旋回動作停止後に前記吊荷ロープに接続された前記吊荷が前記起伏体先端部を支点として前記上部本体の旋回方向に沿って振れる現象である吊荷の旋回振れを抑えることが可能なクレーンの旋回振れ止め装置である。当該旋回振れ止め装置は、前記起伏体基端部と前記起伏体先端部とを結ぶ方向である起伏体長手方向における当該起伏体の長さに対応する情報である起伏体長さ情報を取得し出力する起伏体長さ情報取得部と、前記上部本体の前記旋回中心軸回りの旋回角を検出および出力する旋回角検出部と、前記回転中心軸回りの前記起伏体の起伏角を検出および出力する起伏角検出部と、前記起伏体先端部の前記旋回方向における変位である起伏体先端部変位を検出および出力する起伏体変位検出部と、前記起伏体先端部の前記旋回方向における速度である起伏体先端部速度を検出および出力する起伏体速度検出部と、前記起伏体先端部に対する前記吊荷の変位である吊荷変位を検出および出力する吊荷変位検出部と、前記起伏体先端部に対する前記吊荷変位の単位時間あたりの変化量である吊荷速度を検出および出力する吊荷速度検出部と、前記起伏体先端部と前記吊荷との間の前記吊荷ロープの長さに対応する情報であるロープ長さ情報を取得し出力するロープ長さ情報取得部と、前記吊荷の重量に関する情報である吊荷重量情報を取得し出力する吊荷重量情報取得部と、前記旋回用操作部が前記旋回用位置に設定されることに応じて前記旋回駆動部が前記上部本体を所定の旋回方向に旋回させたのち、前記旋回用操作部、前記起伏用操作部および前記昇降用操作部のすべての操作部が前記中立位置にそれぞれ設定されることで成立する旋回振れ止め制御開始条件が満たされているか否かを判断する制御開始条件判断部と、前記制御開始条件判断部によって前記旋回振れ止め制御開始条件が満たされていると判断されると、前記吊荷の前記旋回方向における変位である吊荷変位、前記吊荷の前記旋回方向における速度である吊荷速度、前記起伏体先端部変位、前記起伏体先端部速度、前記旋回角を含む複数の状態量について、所定の目標位置において前記吊荷を少なくとも前記旋回方向において静止させるための目標状態量をそれぞれ設定する目標状態量設定部と、前記起伏体長さ情報取得部から出力された前記起伏体長さ情報と、前記旋回角検出部から出力された前記旋回角と、前記起伏角検出部から出力された前記起伏角と、前記起伏体変位検出部から出力された前記起伏体先端部変位と、前記起伏体速度検出部から出力された前記起伏体先端部速度と、前記吊荷変位検出部から出力された前記吊荷変位と、前記吊荷速度検出部から出力された前記吊荷速度と、前記ロープ長さ情報取得部から出力された前記ロープ長さ情報と、前記吊荷重量情報取得部から出力された前記吊荷重量情報と、前記目標状態量設定部によって設定された前記複数の状態量の目標状態量とに基づいて、前記複数の状態量の現在値を演算する状態量演算部と、少なくとも前記起伏体の弾性変形に対応する項を含むように予め設定された前記吊荷の挙動に関する状態方程式であって前記上部本体の旋回速度を変数とする状態方程式に基づいて、前記複数の状態量にそれぞれ対応する複数の制御ゲインを設定する制御ゲイン設定部と、前記制御ゲイン設定部によって設定された前記複数の制御ゲインと、前記状態量演算部によって演算された前記複数の状態量の現在値とから、前記旋回速度の目標値である旋回目標速度を演算する旋回目標速度演算部と、前記上部本体の旋回速度が前記旋回目標速度演算部によって演算された前記旋回目標速度となるように、前記旋回駆動部に対して前記旋回目標速度に対応する指令情報を出力する指令情報出力部と、を備える。
【0008】
本構成によれば、制御ゲイン設定部は、起伏体の弾性変形を考慮した状態方程式に基づいて、各状態量の制御ゲインを設定する。また、旋回目標速度演算部は、状態量演算部によって演算された各状態量と、制御ゲイン設定部によって設定された各制御ゲインとに基づいて、旋回体の旋回目標速度を設定する。上記の状態量には、吊荷の変位および速度に加えて、起伏体先端部の変位および速度が含まれているため、吊荷ロープのロープ長さ情報とあわせることで、吊荷と起伏体先端部との相対位置が加味されながら、吊荷の旋回振れ制御を行うことができる。このため、旋回動作によって起伏体に付与される慣性モーメントや吊荷の荷重によって起伏体に撓みなどの弾性変形が生じている場合でも、吊荷の旋回方向における振れを安定して収束させることが可能となる。
【0009】
上記において、前記吊荷変位検出部は、前記上部本体の旋回動作における径方向に沿って見た場合の前記吊荷ロープの鉛直方向に対する振れ角度を前記吊荷変位として検出および出力するロープ振れ角度検出部を含み、前記吊荷速度検出部は、前記吊荷ロープの前記振れ角度の単位時間あたりの変化量である振れ角速度を前記吊荷速度として検出および出力するロープ振れ角速度検出部を含むものでもよい。
【0010】
また、前記起伏体先端部に装着され、前記吊荷に関連付けられた目標物を撮影するとともに撮影した画像情報を出力する撮影装置と、前記撮影装置から出力された画像情報に基づいて、前記吊荷変位および前記吊荷速度をそれぞれ演算する演算部と、を更に備え、前記撮影装置および前記演算部は、前記吊荷変位検出部として前記吊荷変位を検出および出力し、前記吊荷速度検出部として前記吊荷速度を検出および出力するものでもよい。
【0011】
また、前記起伏体先端部から垂下される前記吊荷ロープの先端部に接続されるジャイロセンサを更に備え、前記吊荷変位検出部および前記吊荷速度検出部は、前記ジャイロセンサの出力に基づいて前記吊荷変位および前記吊荷速度をそれぞれ検出および出力するものでもよい。
【0012】
上記の構成において、前記目標状態量設定部は、前記制御開始条件判断部によって旋回振れ止め制御開始条件が満たされていると判断されると、前記クレーンの平面視において前記起伏体が弾性変形していないと仮定した場合における前記起伏体先端部の鉛直下方の位置を前記目標位置として前記旋回角、前記起伏体先端部変位および前記吊荷変位の前記目標状態量をそれぞれ設定し、更に、前記吊荷速度および前記起伏体先端部速度の前記目標状態量をそれぞれゼロに設定することが望ましい。
【0013】
本構成によれば、制御開始信号が出力された時点での起伏体先端部の位置を基準として、吊荷の旋回振れを収束させるための目標位置が設定される。このため、起伏体の弾性変形を考慮することなく常に起伏体先端部を吊荷の上方の位置に移動させるように上部本体の旋回動作を制御する他の旋回振れ止め装置のように、起伏体先端部が吊荷の動きに後追いし旋回方向の切換えが頻繁に行われることがなく、最終的な目標位置に応じた旋回動作の制御によって吊荷の振れを早期に収束させることができる。
【0014】
上記の構成において、前記制御ゲイン設定部は、前記複数の状態量と前記旋回速度とを含む重み付き和の時間に対する積分値が最も小さくなるように前記複数の制御ゲインを設定することが望ましい。
【0015】
本構成によれば、吊荷の旋回振れを早期に収束させるための制御ゲインを短時間で設定することができる。
【0016】
上記の構成において、前記クレーンは、前記起伏体として、前記上部本体に水平な第1回転中心軸回りに起伏方向に回動可能なように支持されたブーム基端部と、前記ブーム基端部とは反対のブーム先端部とを含む、ブームと、前記ブーム先端部に前記第1回転中心軸と平行な第2回転中心軸回りに起伏方向に回動可能なように支持されたジブ基端部と、前記ジブ基端部とは反対のジブ先端部であって前記吊荷ロープが当該ジブ先端部から垂下されることを許容するジブ先端部とを含む、ジブと、を有し、前記起伏体駆動部として、前記ブームを前記第1回転中心軸回りに起伏方向に回動することが可能なブーム駆動部と、前記ジブを前記第2回転中心軸回りに起伏方向に回動することが可能なジブ駆動部と、を有し、前記起伏用操作部として、前記ブームを起伏するための操作を受け付けるブーム起伏用操作部であって、前記ブームを起伏させるためのブーム起伏用位置と前記ブームの起伏を停止させるための中立位置との間で切換可能な、ブーム起伏用操作部と、前記ジブを起伏するための操作を受け付けるジブ起伏用操作部であって、前記ジブを起伏させるためのジブ起伏用位置と前記ジブの起伏を停止させるための中立位置との間で切換可能な、ジブ起伏用操作部と、有するものである。また、前記起伏体長さ情報取得部は、前記ブーム基端部と前記ブーム先端部とを結ぶ方向であるブーム長手方向における当該ブームの長さに対応する情報であるブーム長さ情報を取得し出力するブーム長さ情報取得部と、前記ジブ基端部と前記ジブ先端部とを結ぶ方向であるジブ長手方向における当該ジブの長さに対応する情報であるジブ長さ情報を取得し出力するジブ長さ情報取得部と、を有し、前記起伏体変位検出部は、前記ジブ先端部の前記旋回方向における変位を前記起伏体先端部変位として検出および出力し、前記起伏体速度検出部は、前記ジブ先端部の前記旋回方向における速度を前記起伏体先端部速度として検出および出力し、前記起伏角検出部は、前記第1回転中心軸回りの前記ブームの起伏角を検出および出力するブーム起伏角検出部と、前記第2回転中心軸回りの前記ジブの起伏角を検出および出力するジブ起伏角検出部と、を有し、前記目標状態量設定部は、前記制御開始条件判断部によって前記旋回振れ止め制御開始条件が満たされていると判断されると、前記吊荷変位、前記吊荷速度、前記ジブ先端部の前記旋回方向における変位である前記起伏体先端部変位、前記ジブ先端部の前記旋回方向における速度である前記起伏体先端部速度、前記旋回角の複数の状態量について、前記目標状態量をそれぞれ設定し、前記状態量演算部は、前記ブーム長さ情報取得部および前記ジブ長さ情報取得部からそれぞれ出力された前記ブーム長さ情報および前記ジブ長さ情報と、前記旋回角検出部から出力された前記旋回角と、前記ブーム起伏角検出部から出力された前記ブーム起伏角と、前記ジブ起伏角検出部から出力された前記ジブ起伏角と、前記起伏体変位検出部から出力された前記起伏体先端部変位と、前記起伏体速度検出部から出力された前記起伏体先端部速度と、前記吊荷変位検出部から出力された前記吊荷変位と、前記吊荷速度検出部から出力された前記吊荷速度と、前記ロープ長さ情報取得部から出力された前記ロープ長さ情報と、前記吊荷重量情報取得部から出力された前記吊荷重量情報と、前記目標状態量設定部によって設定された前記複数の状態量の目標状態量とに基づいて、前記複数の状態量の現在値を演算するものでもよい。
【0017】
本構成によれば、ブームの先端部に起伏可能に支持されたジブの先端部から吊荷ロープが垂下されている構成において、旋回動作によってジブに付与される慣性モーメントや吊荷の荷重によってジブに撓みなどの弾性変形が生じている場合でも、吊荷の旋回方向における振れを安定して収束させることが可能となる。
【0018】
また、本発明の他の局面に係るクレーンは、下部本体と、前記下部本体に上下方向に延びる旋回中心軸回りに旋回可能に支持された上部本体と、前記上部本体に水平な回転中心軸回りに起伏方向に回動可能なように支持された起伏体基端部と、前記起伏体基端部とは反対の起伏体先端部とを含む起伏体と、前記起伏体先端部から垂下され吊荷に接続される吊荷ロープと、前記上部本体を前記旋回中心軸回りに第1旋回方向および前記第1旋回方向とは反対の第2旋回方向にそれぞれ旋回駆動することが可能な旋回駆動部と、前記上部本体を旋回駆動するための操作を受け付ける旋回用操作部であって、前記上部本体を前記第1旋回方向および前記第2旋回方向にそれぞれ旋回させるための旋回用位置と前記上部本体の旋回を停止させるための中立位置との間で切換可能な、旋回用操作部と、前記起伏体を前記回転中心軸回りに起伏方向に回動することが可能な起伏体駆動部と、前記起伏体を起伏するための操作を受け付ける起伏用操作部であって、前記起伏体を起伏させるための起伏用位置と前記起伏体の起伏を停止させるための中立位置との間で切換可能な、起伏用操作部と、前記吊荷ロープの巻き取りおよび繰り出しを行うことで前記吊荷を地面に対して相対的に昇降させることが可能な吊荷駆動部と、前記吊荷を昇降させるための操作を受け付ける昇降用操作部であって、前記吊荷を昇降させるための昇降用位置と前記吊荷の昇降を停止させるための中立位置との間で切換可能な、昇降用操作部と、上記の何れか1に記載のクレーンの旋回振れ止め装置と、を備える。
【0019】
本構成によれば、クレーンの旋回動作によって起伏体に付与される慣性モーメントや吊荷の荷重によって起伏体に撓みなどの弾性変形が生じている場合でも、吊荷の旋回方向における振れを安定して収束させることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、クレーンの旋回動作によって生じる吊荷の旋回振れを安定して収束させることが可能なクレーンの旋回振れ止め装置およびクレーンが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態に係るクレーンの側面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るクレーンの旋回振れ止め装置のブロック図である。
図3】本発明の第1実施形態に係るクレーンの旋回振れ止め制御を説明するための模式的な平面図である。
図4】本発明の第1実施形態に係るクレーンの旋回振れ止め制御のフローチャートである。
図5】本発明の第2実施形態に係るクレーンの側面図である。
図6】本発明の第2実施形態に係るクレーンの旋回振れ止め装置のブロック図である。
図7】本発明の第3実施形態に係るクレーンの旋回振れ止め装置のブロック図である。
図8】本発明の第3実施形態に係るクレーンのブームの先端部の拡大側面図である。
図9】本発明の第3実施形態に係るクレーンの吊荷変位検出部および吊荷速度検出部のブロック図である。
図10】本発明の各実施形態に係るクレーンの旋回振れ止め制御を説明するためのモデル図である。
図11】本発明の各実施形態に係るクレーンの旋回振れ止め制御を説明するためのモデル図である。
図12】本発明の各実施形態に係るクレーンの旋回振れ止め制御を説明するためのモデル図である。
図13】本発明の一実施形態に係るクレーンの旋回振れ止め制御と比較される他の旋回振れ止め制御における吊荷の旋回方向変位の推移を示すグラフである。
図14】本発明の一実施形態に係るクレーンの旋回振れ止め制御における吊荷の旋回方向変位の推移を示すグラフである。
図15】本発明の変形実施形態に係るクレーンの旋回振れ止め制御を説明するためのモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1実施形態>
以下、図面を参照しつつ、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係るクレーン10の側面図である。なお、図1には、「上」、「下」、「前」および「後」の方向が示されているが、当該方向は、本実施形態に係るクレーン10の構造および組立方法を説明するために便宜上示すものであり、本発明に係るクレーンの移動方向や使用態様などを限定するものではない。
【0023】
クレーン10は、走行体14(下部本体)と、走行体14に上下方向に延びる旋回中心軸回りに旋回可能に支持された旋回体12(上部本体)と、ブーム16(起伏体)と、マスト20と、を備える。また、旋回体12の後部には、クレーン10のバランスを調整するためのカウンタウエイト13が積載されている。また、旋回体12の前端部には、キャブ15が備えられている。キャブ15は、クレーン10の運転席に相当する。
【0024】
図1に示されるブーム16は、いわゆるラチス型であり、下部ブーム16A(起伏体基端部)と、一または複数(図例では3個)の中間ブーム16B,16C、16Dと、上部ブーム16E(前記起伏体基端部とは反対の起伏体先端部)とから構成される。具体的に、下部ブーム16Aは、旋回体12の前部に水平な回転中心軸(第1回転中心軸)回りに起伏方向に回動可能となるように支持される。中間ブーム16B,16C,16Dは、その順に下部ブーム16Aの先端側に着脱可能に継ぎ足される。上部ブーム16Eは中間ブーム16Dの先端側に着脱可能に継ぎ足される。下部ブーム16Aは、その下端部に備えられたブームフットピン16Sにおいて旋回体12に回動可能に軸支される。
【0025】
また、ブーム16は、アイドラシーブ34S、36Sを有する。アイドラシーブ34S、36Sは、下部ブーム16Aの基端部の後側面にそれぞれ回転可能に支持されている。
【0026】
ただし、本発明ではブームの具体的な構造は限定されない。例えば、当該ブームは、中間部材がないものでもよく、また、上記とは中間部材の数が異なるものでもよい。更に、ブームは、単一の部材で構成されたものでもよい。
【0027】
マスト20は、基端及び回動端を有し、その基端が旋回体12に回動可能に連結される。マスト20の回動軸は、ブーム16の回動軸と平行でかつ当該ブーム16の回動軸のすぐ後方に位置している。すなわち、このマスト20はブーム16の起伏方向と同方向に回動可能である。
【0028】
更に、クレーン10は、左右一対のブームバックストップ23と、左右一対のブーム用ガイライン24と、を備える。
【0029】
左右一対のブームバックストップ23はブーム16の下部ブーム16Aの左右両側部に設けられる。これらのブームバックストップ23は、ブーム16が図1に示される起立姿勢まで到達した時点で、旋回体12の前後方向の中央部に当接する。この当接によって、ブーム16が強風等で後方に煽られることが規制される。
【0030】
左右一対のブーム用ガイライン24は、マスト20の回動端をブーム16の先端部に連結する。この連結は、マスト20の回動とブーム16の回動とを連携させる。
【0031】
また、クレーン10は、各種ウインチを更に備える。具体的には、クレーン10は、ブーム16を起伏させるためのブーム起伏用ウインチ30と、吊荷の巻上げ及び巻下げを行うための主巻用ウインチ34及び補巻用ウインチ36とを備える。また、クレーン10は、ブーム起伏用ロープ38と、上部ブーム16Eから垂下され吊荷に接続される主巻ロープ50(吊荷ロープ)と、補巻ロープ60と、を備える。本実施形態に係るクレーン10では、主巻用ウインチ34および補巻用ウインチ36がブーム16の基端近傍部位に据え付けられる。また、ブーム起伏用ウインチ30が旋回体12に据え付けられる。これらのウインチ30,32,34,36の位置は、上記に限定されるものではない。
【0032】
ブーム起伏用ウインチ30は、ブーム起伏用ロープ38の巻き取り及び繰り出しを行う。そして、この巻き取り及び繰り出しによりマスト20が回動するようにブーム起伏用ロープ38が配索される。具体的には、マスト20の回動端部及び旋回体12の後端部にはそれぞれ複数のシーブが幅方向に配列されたシーブブロック40,42が設けられ、ブーム起伏用ウインチ30から引き出されたブーム起伏用ロープ38がシーブブロック40,42間に掛け渡される。従って、ブーム起伏用ウインチ30がブーム起伏用ロープ38の巻き取りや繰り出しを行うことにより、両シーブブロック40,42間の距離が変化し、これによってマスト20さらにはこれと連動するブーム16が起伏方向に回動する。
【0033】
主巻用ウインチ34は、主巻ロープ50による吊荷の巻き上げ及び巻き下げを行う。主巻ロープ50は、ブーム16の上部ブーム16Eから垂下され、吊荷に接続される。また、上部ブーム16Eには主巻用ガイドシーブ54が配置され、当該主巻用ガイドシーブ54に隣接する位置に複数の主巻用ポイントシーブ56が幅方向に配列された主巻用シーブブロックが設けられている。主巻用ウインチ34から引き出された主巻ロープ50が、アイドラシーブ34S、主巻用ガイドシーブ54に順に掛けられ、かつ、シーブブロックの主巻用ポイントシーブ56と、吊荷用の主フック57に設けられたシーブブロックのシーブ58との間に掛け渡される。従って、主巻用ウインチ34が主巻ロープ50の巻き取りや繰り出しを行うと、両シーブ56,58間の距離が変わって、ブーム16の先端から垂下された主巻ロープ50に連結された主フック57の巻き上げ及び巻き下げが行われる。この結果、吊荷の巻き上げ、巻き下げが可能となる。
【0034】
同様にして、補巻用ウインチ36は、補巻ロープ60による吊荷の巻き上げ及び巻き下げを行う。この補巻については、主巻用ガイドシーブ54と同軸に補巻用ガイドシーブ64が回転可能に設けられ、補巻用ガイドシーブ64に隣接する位置に不図示の補巻用ポイントシーブが回転可能に設けられている。補巻用ウインチ36から引き出された補巻ロープ60は、アイドラシーブ36S、補巻用ガイドシーブ64に順に掛けられ、かつ、補巻用ポイントシーブから垂下される。従って、補巻用ウインチ36が補巻ロープ60の巻き取りや繰り出しを行うと、補巻ロープ60の末端に連結された図略の吊荷用の補フックが巻き上げられ、または巻き下げられる。
【0035】
クレーン10は、更に、駆動制御部700と、駆動部700Aと、操作部700Bと、旋回振れ止め装置70と、を備える。図2は、本実施形態に係るクレーン10の旋回振れ止め装置70のブロック図である。
【0036】
駆動部700Aは、クレーン10の各部材を駆動させる。駆動部700Aは、旋回駆動部701と、起伏駆動部702(起伏体駆動部、ブーム駆動部)と、ウインチ駆動部703(吊荷駆動部)と、を有する。
【0037】
旋回駆動部701は、旋回体12を前記旋回中心軸回りに第1旋回方向および前記第1旋回方向とは反対の第2旋回方向にそれぞれ旋回させることが可能な駆動力を発生する。旋回駆動部701は、作動油の供給を受けることで旋回体12を旋回させる油圧式モータを含む。
【0038】
起伏駆動部702は、ブーム起伏用ウインチ30を回転させるための駆動力を発生し、ブーム16を前記回転中心軸回りに回動することが可能とされている。起伏駆動部702は、作動油の供給を受けることでブーム起伏用ウインチ30を回転させる油圧式モータを含む。
【0039】
ウインチ駆動部703は、主巻用ウインチ34を回転させるための駆動力を発生し、主巻用ウインチ34によって主巻ロープ50の巻き取りおよび繰り出しを行うことで前記吊荷を地面に対して相対的に昇降させることが可能とされている。ウインチ駆動部703は、作動油の供給を受けることで主巻用ウインチ34を回転させる油圧式モータを含む。
【0040】
操作部700Bは、キャブ15内に配置されており、オペレータによるクレーン10の各部材を駆動するための操作を受け付ける。操作部700Bは、旋回操作部704(旋回用操作部)と、起伏操作部705(起伏用操作部、ブーム起伏用操作部)と、ウインチ操作部706(昇降用操作部)と、を有する。
【0041】
旋回操作部704は、旋回駆動部701によって旋回体12を旋回駆動するための操作を受け付ける。旋回操作部704は、旋回体12を前記第1旋回方向および前記第2旋回方向にそれぞれ旋回させるための旋回用位置と旋回体12の旋回を停止させるための中立位置との間で切換可能とされている。
【0042】
起伏操作部705は、起伏駆動部702によってブーム16を起伏するための操作を受け付ける。起伏操作部705は、ブーム16を起伏させるための起伏用位置とブーム16の起伏を停止させるための中立位置との間で切換可能とされている。
【0043】
ウインチ操作部706は、ウインチ駆動部703によって前記吊荷を昇降させるための操作を受け付ける。ウインチ操作部706は、前記吊荷を昇降させるための昇降用位置と前記吊荷の昇降を停止させるための中立位置との間で切換可能とされている。
【0044】
駆動制御部700は、旋回操作部704、起伏操作部705およびウインチ操作部706が受け付ける操作の操作方向および操作量に応じた指令信号を旋回駆動部701、起伏駆動部702およびウインチ駆動部703にそれぞれ入力し、各駆動部を駆動する。
【0045】
旋回振れ止め装置70は、旋回体12の旋回動作停止後に主巻ロープ50に接続された前記吊荷が上部ブーム16Eの主巻用ポイントシーブ56を支点として旋回体12の旋回方向(回転方向)に沿って振れる現象である吊荷の旋回振れを抑えることが可能とされている。
【0046】
旋回振れ止め装置70は、情報取得部700Cと、検出部700Dと、制振制御部700Eと、を有する。
【0047】
情報取得部700Cは、ブーム長さ情報取得部708(起伏体長さ情報取得部)を有する。ブーム長さ情報取得部708は、制振制御部700Eが実行する吊荷の旋回振れ止め制御において使用されるブーム16の長さに関する情報(長さ情報)を取得する。すなわち、ブーム長さ情報取得部708は、ブーム16の基端部(起伏体基端部)と先端部(起伏体先端部)とを結ぶ方向であるブーム長手方向(起伏体長手方向)におけるブーム16の長さに対応する情報(起伏体長さ情報)を取得および出力する。当該ブーム長さ情報取得部708は、不図示の記憶部を有しており、当該記憶部からブーム16の長さ情報を取得する。なお、他の実施形態において、操作部700Bが不図示の入力部を有しており、オペレータが当該入力部を通じてブーム16の長さ情報を入力し、その情報をブーム長さ情報取得部708が取得する態様でもよい。
【0048】
検出部700Dは、旋回角検出部710と、ブーム起伏角検出部711(起伏角検出部)と、ブームトップ旋回方向変位検出部713(起伏体変位検出部)と、ブームトップ旋回方向速度検出部714(起伏体速度検出部)と、ロープ旋回方向振れ角検出部715(ロープ振れ角度検出部)と、ロープ旋回方向振れ角速度検出部716(ロープ振れ角速度検出部)と、ロープ長さ検出部717(ロープ長さ情報取得部)と、吊荷重量検出部718(吊荷重量情報取得部)と、を有する。
【0049】
旋回角検出部710は、ブーム16(旋回体12)の旋回中心軸回りの旋回角を検出および出力する。旋回角検出部710は、不図示のジャイロセンサと演算部とを含む。旋回角検出部710は、旋回体12の旋回中心軸まわりの角速度を前記ジャイロセンサで計測し、前記演算部が前記計測された角速度を時間に対して1回積分処理することで角度に換算し、当該角度を旋回角として出力する。
【0050】
ブーム起伏角検出部711は、ブーム16の前記回転中心軸回りの起伏角を検出および出力する。ブーム起伏角検出部711は、傾斜センサからなり、ブーム16の地面に対する相対角度(対地角)を検出する。なお、ブーム起伏角検出部711は、その他の対象物に対する相対角度を検出するものでもよい。
【0051】
ブームトップ旋回方向変位検出部713は、ブーム16の先端部(上部ブーム16E)の前記旋回方向における変位量(起伏体先端部変位)を検出および出力する。本実施形態では、ブームトップ旋回方向変位検出部713は、上部ブーム16Eに取り付けられた不図示の加速度センサと演算部とを含む。当該加速度センサが上部ブーム16Eの前記旋回方向における加速度を計測し、演算部が前記計測された加速度を時間に対して2回積分処理することで変位(変位量)に換算し、当該変位を出力する。
【0052】
ブームトップ旋回方向速度検出部714は、上部ブーム16Eの前記旋回方向における速度(起伏体先端部速度)を検出および出力する。本実施形態では、ブームトップ旋回方向速度検出部714は、ブームトップ旋回方向変位検出部713と共有する前記加速度センサと演算部とを含む。上部ブーム16Eに取り付けられた前記加速度センサによって計測された前記加速度を前記演算部が時間に対して1回積分処理することで速度に換算し、当該速度を出力する。
【0053】
ロープ旋回方向振れ角検出部715は、旋回体12の旋回動作における径方向に沿って見た場合の主巻ロープ50の鉛直方向に対する振れ角度を検出および出力する。ロープ旋回方向振れ角検出部715は、上部ブーム16Eに旋回方向にのみ揺動可能な不図示の治具と、当該治具に装着された傾斜センサとを含む。前記治具は主巻ロープ50に係止されており、傾斜センサはブーム16(鉛直方向)に対する主巻ロープ50の旋回方向の揺動角を振れ角度として検出および出力する。なお、ロープ旋回方向振れ角検出部715は、本発明の吊荷変位検出部を構成する。ロープ旋回方向振れ角検出部715は、ブーム16の先端部(上部ブーム16E)に対する吊荷の変位である吊荷変位として前記振れ角度を検出および出力する。
【0054】
ロープ旋回方向振れ角速度検出部716は、主巻ロープ50の前記振れ角度の単位時間あたりの変化量である振れ角速度を検出および出力する。ロープ旋回方向振れ角速度検出部716は、上記の治具に取り付けられたジャイロセンサを含み、当該ジャイロセンサが前記振れ角速度を検出および出力する。なお、他の実施形態において、ロープ旋回方向振れ角速度検出部716は上部ブーム16Eに取り付けられたカメラを含み、当該カメラによって撮影された主フック57の画像を取得し、主フック57(吊荷)の旋回方向における揺動角を前記振れ角度として検出および出力するとともに、前記揺動角を1回微分することで角速度を出力するものでもよい。なお、ロープ旋回方向振れ角速度検出部716は、本発明の吊荷速度検出部を構成する。ロープ旋回方向振れ角速度検出部716は、ブーム16の先端部(上部ブーム16E)に対する前記吊荷変位の単位時間あたりの変化量である吊荷速度として前記振れ角速度を検出および出力する。
【0055】
ロープ長さ検出部717は、ブーム先端部と前記吊荷との間の前記吊荷ロープの長さに対応する情報であるロープ長さ情報を取得し出力する。本実施形態では、上部ブーム16Eの主巻用ポイントシーブ56と主フック57(シーブ58)との間の距離をロープ長さとして検出する。ロープ長さ検出部717は、主巻用ウインチ34の回転量を検出可能な回転量検出部と、主巻用ウインチ34の外周面上における主巻ロープ50の巻き層数を検出する巻き層検出部とを含む。ロープ長さ検出部717は、主巻用ウインチ34のウインチ径、前記回転量検出部が検出するウインチ回転量に加え、前記巻き層検出部が検出する主巻ロープ50の巻き層から推定される主巻用ウインチ34から繰りだされる主巻ロープ50の繰り出し量と、主巻用ポイントシーブ56とシーブ58のシーブブロック間と間における主巻ロープ50の掛け数とから、前記距離を算出し出力する。
【0056】
吊荷重量検出部718は、主フック57に接続された前記吊荷の重量に関する情報(吊荷重量情報)を取得し出力する。本実施形態では、吊荷重量検出部718は、主巻ロープ50に接続された不図示の荷重検知器(ロードセル)を含み、主巻ロープ50の張力の歪の変化に基づいて前記吊荷の重量を検出する。なお、他の実施形態において、ブーム16を起伏する油圧回路内の圧力が不図示の圧力計によって検出され、当該圧力に基づいて前記吊荷の荷重が推定されても良い。
【0057】
制振制御部700Eは、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、CPUの作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)等から構成されている。制振制御部700Eは、前記CPUがROMに記憶された制御プログラムを実行することにより、制御判断部719(制御開始条件判断部)、制御目標量設定部720、制御量演算部700F、制御ゲイン設定部726、旋回目標速度演算部727および旋回操作目標演算部728を備えるように機能する。制振制御部700Eは、操作部700Bが受ける操作、情報取得部700Cが取得する情報および検出部700Dが検出する情報に基づいて、クレーン10の旋回動作停止時における吊荷の旋回振れ止め制御を自動で実行する。
【0058】
制御判断部719は、旋回操作部704が前記旋回用位置に設定されることに応じて旋回駆動部701が旋回体12を所定の旋回方向に旋回させたのち、旋回操作部704、起伏操作部705およびウインチ操作部706のすべての操作部が前記中立位置にそれぞれ設定されることで成立する旋回振れ止め制御開始条件が満たされることに対応して、旋回振れ止め制御(制振制御ともいう)を開始することを判断し、前記旋回振れ止め制御開始条件が満たされていると判断すると所定の制御開始信号を出力する。なお、各操作部が前記中立位置に設定されているか否かの判断は、各操作部が受ける操作量が予め設定された閾値よりも小さい場合に前記中立位置に設定されていると判断される。すなわち、このような状態は、旋回体12の旋回動作後にクレーン10の動作が停止した状態であり、主フック57に接続された吊荷が上部ブーム16E(主巻用ポイントシーブ56)の鉛直下方に位置することが望ましい状態である。なお、上記のように旋回動作後にクレーン10の動作が停止しているとともに、後記のように予めキャブ15内に配置された旋回振れ止め制御開始用のスイッチ(入力部)がオペレータによって押圧されている(ONされている)場合に、後述の振れ止め制御が開始されてもよい。
【0059】
制御目標量設定部720は、制御判断部719が旋回振れ止め制御の実行を判断し制御開始信号を出力した時点での各制御目標量(状態目標量)を設定する。具体的に、制御目標量設定部720は、吊荷旋回方向変位X1、吊荷旋回方向速度X2、ブーム先端旋回方向変位X3、ブーム先端旋回方向速度X4および旋回角X5を含む少なくとも5つ(複数)の制御量(状態量)について、所定の目標位置において前記吊荷を少なくとも前記旋回方向において静止させるための目標量を設定する。なお、吊荷旋回方向変位X1は、吊荷(主フック57)の前記旋回方向における変位であり、吊荷旋回方向速度X2は、吊荷の前記旋回方向における速度である。また、ブーム先端旋回方向変位X3は、上部ブーム16E(主巻用ポイントシーブ56)の前記旋回方向における変位であり、ブーム先端旋回方向速度X4は、上部ブーム16Eの前記旋回方向における速度である。更に、旋回角X5は、ブーム16(旋回体12)の旋回角である。
【0060】
図3は、本実施形態に係るクレーン10の旋回振れ止め制御を説明するための模式的な平面図である。
【0061】
図3を参照して、制御判断部719が旋回振れ止め制御の実行開始を判断し制御開始信号を出力した時点でのクレーン10の平面視において、旋回体12の旋回中心軸をゼロ点とするXY座標系に対して、ブーム16の仮想的な中心線が延びる方向をy方向、当該中心線と直交する方向をx方向としてxy座標系が示されている。当該xy座標系は、ブーム16が弾性変形していないと仮定した場合のブーム16の仮想的な中心線を基に設定されている。ブーム16は、図3の状態よりも前に停止された旋回体12の旋回動作における旋回方向の上流側に撓んでいる。また、ブーム16の先端部に接続された主巻ロープ50は、ブーム16の先端部よりも更に前記旋回方向上流側に向かって延びている。本実施形態に係る振れ止め制御が実行されない場合、図3の状態からブーム16の撓みが解消されるとともに、主巻ロープ50(主フック57)に接続された吊荷の振れ(旋回振れ)が発生する。
【0062】
制御目標量設定部720は、図3に示す状態において、xy座標系におけるゼロ点位置、すなわち、仮想的なブーム16の先端部を目標ブーム先端位置として設定し、その鉛直下方の位置を目標吊荷位置として設定する。したがって、旋回振れ止め制御を通じて、当該目標吊荷位置において少なくとも旋回方向における吊荷の変位がゼロになるように、旋回体12の旋回速度、旋回方向が自動的に制御される。なお、ブーム16の先端部および吊荷がそれぞれ上記の目標ブーム先端位置、目標吊荷位置に配置されるための、XY座標系における目標旋回角がθrefと定義される。換言すれば、制御目標量設定部720は、上記の目標旋回角θref、ブーム16の起伏角およびブーム16の長さから、上記の目標ブーム先端位置、目標吊荷位置を演算することができる。また、制御目標量設定部720は、上記の各制御量のうち速度の制御量については、吊荷を静止させることが目的であるため、その目標量をそれぞれゼロに設定する。なお、旋回速度については、左旋回方向の場合をプラス(正)の値と定義し、右旋回方向の場合をマイナス(負)の値と定義する。
【0063】
制御量演算部700Fは、吊荷旋回方向変位X1、吊荷旋回方向速度X2、ブーム先端旋回方向変位X3、ブーム先端旋回方向速度X4および旋回角X5の各制御量について、検出部700Dの各検出部が検出した検出値と、制御目標量設定部720が設定した目標量との間の偏差を演算する。より詳しくは、制御量演算部700Fは、ブーム長さ情報取得部708から出力されたブーム長さ情報と、旋回角検出部710から出力された前記旋回角と、ブーム起伏角検出部711から出力された前記起伏角と、ブームトップ旋回方向変位検出部713から出力されたブーム先端部変位と、ブームトップ旋回方向速度検出部714から出力されたブーム先端部速度と、ロープ旋回方向振れ角検出部715から出力された主巻ロープ50の振れ角度(吊荷変位検出部から出力された吊荷変位)と、ロープ旋回方向振れ角速度検出部716から出力された主巻ロープ50の振れ角速度(吊荷速度検出部から出力された吊荷速度)と、ロープ長さ検出部717から出力された前記ロープ長さ情報と、吊荷重量検出部718から出力された前記吊荷重量情報と、制御目標量設定部720によって設定された前記5つの状態量の目標状態量とに基づいて、前記5つの状態量の現在値を演算する。
【0064】
図3を参照して、吊荷旋回方向変位X1は,ブーム16の先端位置に対する吊荷の相対的な旋回方向における変位に、ブーム先端旋回方向変位X3を加えたものである。このため、吊荷旋回方向変位X1は、以下の式1によって演算することができる。
【0065】
【数1】
【0066】
なお、式1において、Lはブーム16の先端部と吊荷との間における主巻ロープ50の長さであり、ロープ長さ検出部717によって検出される。また、γlは主巻ロープ50の旋回方向における振れ角であり,ロープ旋回方向振れ角検出部715によって検出される。なお、式1に示すように、γl<<1の場合、sin(γl)=γlと近似することができる。
【0067】
同様に、吊荷旋回方向速度X2は、ブーム16の先端位置に対する吊荷の相対的な速度に、ブーム先端旋回方向速度X4を加えたものである。このため、吊荷旋回方向速度X2は、以下の式2によって演算することができる。
【0068】
【数2】
【0069】
なお、式2において、γl’は、主巻ロープ50の旋回方向における振れ角速度であり、ロープ旋回方向振れ角速度検出部716によって検出される。
【0070】
更に、ブーム先端旋回方向変位X3およびブーム先端旋回方向速度X4は、前述のブームトップ旋回方向変位検出部713およびブームトップ旋回方向速度検出部714によってそれぞれ検出される。
【0071】
また、旋回角X5は、刻々と変化する旋回体12(ブーム16)の旋回角と、前述の目標旋回角θrefとの偏差に相当し、以下の式3によって演算される。
【0072】
【数3】
【0073】
なお、式3において、integral(θ’)は、旋回角検出部710によって検出される旋回角を時間に対して積分処理した値である。また、目標旋回角θrefは前述のように制御目標量設定部720によって設定される。
【0074】
制御ゲイン設定部726は、ブーム16の弾性変形(撓み)の影響を考慮した制御モデルに基づいて、各制御量および入力量(旋回速度)の重み付き和の時間積分が最小化するように、各制御量の制御ゲインをそれぞれ設定する。具体的に、制御ゲイン設定部726は、制御量演算部700Fが演算した上記の各制御量X1、X2、X3、X4およびX5に対して、それぞれ制御ゲインG1、G2、G3、G4およびG5を設定する。この際、各制御ゲインは、制御量演算部700Fが演算した上記の各制御量X1、X2、X3、X4およびX5と、入力量に相当する旋回速度とが速やかにゼロに収束するように設定される。より詳しくは、制御ゲイン設定部726は、所定の制御モデルに基づいて、上記の各制御量及び入力量(旋回速度)の重み付き和の時間積分が最小化するように制御ゲインをそれぞれ設定する。本実施形態における当該制御モデルは、ブーム16の慣性モーメントにより発生する慣性力や吊荷振れによって発生する旋回方向の外力によって、ブーム16に生じる弾性変形の影響が考慮されている。なお、制御モデルとは、運動方程式などのように対象物の挙動を表す微分方程式が、制御系の安定性を評価しやすい標準の形に変形されたものであり、当該制御モデルを用いることで安定した制御系設計を行うことが可能となる。当該制御モデルは、ブーム16の弾性を表す式が組み合わされることで、ブーム16の弾性を考慮した状態空間表現を得ることができる。なお、本実施形態に係る制御モデルについては、後記で詳述する。
【0075】
旋回目標速度演算部727は、制御ゲイン設定部726によって演算された各制御量X1~X5と制御ゲイン設定部726によって設定された各制御ゲインG1~G5とに基づいて、以下の式4から旋回体12の旋回目標速度Vrefを演算する。
【0076】
【数4】
【0077】
更に、旋回操作目標演算部728は、旋回体12の旋回速度が旋回目標速度演算部727によって演算された旋回目標速度Vrefになるように、駆動制御部700に入力するための旋回操作目標指令値を演算する。具体的に、旋回操作目標演算部728は、旋回目標速度演算部727によって演算された旋回目標速度Vrefと旋回駆動部701における油圧特性に基づいて旋回操作目標量を演算する。そして、当該演算された旋回操作目標量が駆動制御部700に入力され、旋回駆動部701によって旋回体12の旋回速度および旋回方向が設定される。
【0078】
図4は、本実施形態に係るクレーン10の旋回振れ止め制御のフローチャートである。本実施形態では、旋回振れ止め制御が開始されるにあたって、予め制振制御部700E内の不図示の記憶部に、既知パラメータが設定、記憶されている(ステップS01)。当該既知パラメータには、ブーム16の長さ、ブーム16の弾性係数、ブーム16の慣性モーメントなどが含まれる。なお、前述のように、ブーム16の長さは情報取得部700Cのブーム長さ情報取得部708によって取得、参照される。なお、ブーム16の弾性係数およびブーム16の慣性モーメントは、後記の式17においてジブをブームに置き換えることで、Iおよびkθとしてそれぞれ含まれている。
【0079】
そして、制御判断部719は、キャブ15内に配置された旋回振れ止め制御開始用のスイッチ(入力部)が押圧されている(ONされている)か否かを判定する(ステップS02)。前記スイッチがONされている場合(ステップS02でYES)、制御判断部719は、図4に示されるフローチャートが繰り返される場合(図4のステップS10からS02への繰り返し)の一つ前のフローにおいて、前記スイッチがONされていたか否かを判定する(ステップS03)。前のフローにおいて前記スイッチがOFFされている場合(ステップS03でNO)、検出部700Dが、検出パラメータの更新を行う(ステップS04)。詳しくは、ブーム起伏角検出部711、ロープ長さ検出部717および吊荷重量検出部718が、それぞれ、ブーム16の起伏角、主巻ロープ50の繰り出し量および吊荷重量(負荷)を検出し、更新する。
【0080】
次に、制御目標量設定部720が、制御モデルのパラメータを設定する(ステップS05)。詳しくは、制御目標量設定部720が、前述のように各制御量の目標量を設定する。
【0081】
次に、制御ゲイン設定部726が、制御ゲイン(フィードバックゲイン)を決定する(ステップS06)。詳しくは、制御ゲイン設定部726は、前述のG1、G2、G3、G4およびG5をそれぞれ決定し、ステップS08に進む。
【0082】
なお、ステップS03において、前のフローにおいて前記スイッチがONである場合(ステップS03でYES)、ステップS04からステップS06の各パラメータ、ゲインについては前フローで取得した値を維持し(ステップS07)、ステップS08に進む。
【0083】
ステップS08では、制御量演算部700Fが状態パラメータの更新を行う。具体的に、制御量演算部700Fは、吊荷旋回方向変位X1、吊荷旋回方向速度X2、ブーム先端旋回方向変位X3、ブーム先端旋回方向速度X4および旋回角X5をそれぞれ演算する。
【0084】
次に、旋回目標速度演算部727が、旋回目標速度Vrefを演算する(ステップS09)。
【0085】
次に、旋回操作目標演算部728が、旋回駆動部701に指令信号を入力するための指令電流値の演算を行う(ステップS10)。具体的に、旋回操作目標演算部728は、前述のように、旋回体12の旋回速度が旋回目標速度演算部727によって演算された旋回目標速度Vrefになるように、駆動制御部700に入力するための旋回操作目標指令値を演算する。
【0086】
なお、ステップS02において、旋回振れ止め制御開始用のスイッチ(入力部)が押圧されていない場合(ステップS02でNO)、制振制御部700Eは、旋回振れ止め制御を目的とするクレーン10の自動制御を禁止する。
【0087】
そして、吊荷が、図3の目標吊荷位置で少なくとも旋回方向において停止する(略停止する)まで、図4に示されるフローが繰り返される。
【0088】
<第2実施形態>
図5は、本発明の第2実施形態に係るクレーン10の側面図である。図6は、本実施形態に係るクレーン10の旋回振れ止め装置70のブロック図である。なお、本実施形態では、先の第1実施形態との相違点を中心に説明し、共通する点の説明を省略する。
【0089】
図5を参照して、本実施形態に係るクレーン10は、図1のクレーン10と比較して、更に、ジブ18(起伏体)と、を備える。
【0090】
ジブ18は、ブーム16の先端部(ブーム先端部、上部ブーム16E)にブーム16の回転中心軸と平行な回転中心軸(第2回転中心軸)回りに起伏方向に回動可能に支持されたジブ基端部と、当該ジブ基端部とは反対のジブ先端部とを有する。本実施形態では、当該ジブ先端部から主巻ロープ50が垂下され吊荷に接続される。なお、ジブ18も、ブーム16と同様にその具体的な構造は限定されない。
【0091】
更に、クレーン10は、リヤストラット21と、フロントストラット22と、左右一対のストラットバックストップ25および左右一対のガイライン26と、左右一対のジブ用ガイライン28と、を備える。
【0092】
リヤストラット21は、ブーム16の先端部に回動可能に軸支される。リヤストラット21は、上部ブーム16Eの先端からブーム起立側(図1では左側)に張り出す姿勢で保持される。この姿勢を保持する手段として、リヤストラット21とブーム16との間に左右一対のストラットバックストップ25及び左右一対のガイライン26が介在する。ストラットバックストップ25は、中間ブーム16Dとリヤストラット21の中間部位との間に介在し、リヤストラット21を下から支える。ガイライン26は、リヤストラット21の先端部とブーム16の下部ブーム16Aとを接続するように張設され、その張力によってリヤストラット21の位置を規制する。換言すれば、左右一対のストラットバックストップ25及び左右一対のガイライン26は、クレーン10の使用状態において、ブーム16に対するリヤストラット21の相対的な回動を規制する。なお、リヤストラット21は、シーブブロック47、リヤストラットアイドラシーブ52、62を有する。シーブブロック47は、リヤストラット21の回動端部に配置され、幅方向に配列された複数のシーブを含む。リヤストラットアイドラシーブ52、62は、リヤストラット21の長手方向の中央部よりも基端部側に位置する部分に配置され、それぞれ幅方向に配列された複数のシーブを含む。
【0093】
フロントストラット22は、ジブ18の後方に配置されており、ジブ18と連動して回動するようにブーム16の先端部(上部ブーム16E)に回動可能に軸支されている。詳しくは、このフロントストラット22の先端部とジブ18の先端部とを連結するように左右一対のジブ用ガイライン28が張設される。従って、このフロントストラット22の回動駆動によって、ジブ18もフロントストラット22と一体的に回動駆動される。なお、前述のリヤストラット21は、図1に示すようにフロントストラット22の後側に配置され、フロントストラット22との間で略二等辺三角形形状を形成する。なお、フロントストラット22は、シーブブロック48と、フロントストラットアイドラシーブ53、63と、を有する。シーブブロック48は、フロントストラット22の回動端部に配置され、幅方向に配列された複数のシーブを含む。フロントストラットアイドラシーブ53、63は、フロントストラット22の長手方向の中央部よりも基端部側に位置する部分に配置され、それぞれ幅方向に配列された複数のシーブを含む。
【0094】
クレーン10は、ジブ18を起伏方向に回動させるためのジブ起伏用ウインチ32と、ジブ起伏用ロープ44と、を更に備える。
【0095】
ジブ起伏用ウインチ32は、リヤストラット21とフロントストラット22との間に掛け回されたジブ起伏用ロープ44の巻き取り及び繰り出しを行う。そして、この巻き取りや繰り出しによってフロントストラット22が回動するようにジブ起伏用ロープ44が配索される。具体的には、ジブ起伏用ウインチ32から引き出されたジブ起伏用ロープ44がアイドラシーブ32S、中間ブームシーブ46に掛けられ、更に、シーブブロック47,48間に複数回掛け渡される。従って、ジブ起伏用ウインチ32は、ジブ起伏用ロープ44の巻き取りおよび繰り出しを行うことで、両シーブブロック47,48間の距離を変え、リヤストラット21に対してフロントストラット22を相対的に回動させる。この結果、ジブ起伏用ウインチ32は、フロントストラット22と連動するジブ18を起伏させる。
【0096】
また、図6を参照して、本実施形態に係るクレーン10では、図2と比較して、操作部700Bがジブ起伏操作部705A(ジブ起伏用操作部)を更に有し、駆動部700Aがジブ起伏駆動部702A(ジブ駆動部)を更に有する。また、旋回振れ止め装置70の情報取得部700Cは、ジブ長さ情報取得部709を更に有し、検出部700Dはジブ起伏角検出部712を更に有する。また、検出部700Dは、図2のブームトップ旋回方向変位検出部713およびブームトップ旋回方向速度検出部714の代わりに、ジブトップ旋回方向変位検出部713A(起伏体変位検出部)およびジブトップ旋回方向速度検出部714A(起伏体速度検出部)を有する。
【0097】
ジブ起伏操作部705Aは、ジブ18を起伏させるためのジブ起伏用位置とジブ18の起伏を停止させるための中立位置との間で切換可能とされている。ジブ起伏駆動部702Aは、ジブ18を前記第2回転中心軸回りに起伏方向に回動することが可能とされている。ジブ長さ情報取得部709は、前記ジブ基端部と前記ジブ先端部とを結ぶ方向であるジブ長手方向におけるジブ18の長さに対応する情報であるジブ長さ情報を取得し出力する。ジブ起伏角検出部712は、前記第2回転中心軸回りのジブ18の起伏角を検出および出力する。ジブトップ旋回方向変位検出部713Aは、前記ジブ先端部の前記旋回方向における変位(ジブ先端部変位)を起伏体先端部変位として検出および出力する。ジブトップ旋回方向速度検出部714Aは、前記ジブ先端部の前記旋回方向における速度(ジブ先端部速度)を前記起伏体先端部速度として検出および出力する。
【0098】
また、制御量演算部700Fは、ブーム先端旋回方向変位X3およびブーム先端旋回方向速度X4に代えて、ジブ先端旋回方向変位X3Aおよびジブ先端旋回方向速度X4Aを演算する。ジブ先端旋回方向変位X3Aは、上記のようにジブ18の先端部の前記旋回方向における変位であり、ジブ先端旋回方向速度X4Aは、ジブ18の先端部の前記旋回方向における速度である。
【0099】
また、本実施形態では、図4のフローチャートにおいて、ステップS01では、ジブ18の長さ情報およびジブ18の弾性係数、ジブの慣性モーメントがそれぞれ不図示の記憶部に格納されている。また、ステップS04では、ジブ起伏角検出部712によってジブ18の起伏角が更に検出される。また、ステップS05では、制御目標量設定部720は、制御判断部719によって旋回振れ止め制御開始条件が満たされていると判断され前記制御開始信号が出力されると、吊荷旋回方向変位X1、吊荷旋回方向速度X2、ジブ先端旋回方向変位X3A、ジブ先端旋回方向速度X4A、旋回角X5の少なくとも5つ(複数)の制御量(状態量)について、前記目標状態量をそれぞれ設定する。更に、ステップS06では、制御ゲイン設定部726が、各制御ゲインG1~G5を設定し、ステップS08では、制御量演算部700Fが、ブーム長さ情報取得部708およびジブ長さ情報取得部709からそれぞれ出力された前記ブーム長さ情報および前記ジブ長さ情報と、旋回角検出部710から出力された前記旋回角と、ブーム起伏角検出部711から出力された前記ブーム起伏角と、ジブ起伏角検出部712から出力された前記ジブ起伏角と、ジブトップ旋回方向変位検出部713Aから出力されたジブ先端部変位と、ジブトップ旋回方向速度検出部714Aから出力されたジブ先端部速度と、ロープ旋回方向振れ角検出部715から出力された前記振れ角度と、ロープ旋回方向振れ角速度検出部716から出力された前記振れ角速度と、ロープ長さ検出部717から出力された前記ロープ長さ情報と、吊荷重量検出部718から出力された前記吊荷重量情報と、制御目標量設定部720によって設定された前記5つの状態量の目標状態量とに基づいて、ジブ先端旋回方向変位X3Aおよびジブ先端旋回方向速度X4Aを含む前記5つの状態量の現在値を演算する。
【0100】
すなわち、本実施形態においても、前述の第1実施形態の各式において、起伏体としてのブーム16がジブ18に置換されることで、ジブ18の先端部から垂下された主巻ロープ50に接続された吊荷(主フック57)の旋回振れ止め制御が実現される。
【0101】
<第3実施形態>
図7は、本発明の第3実施形態に係るクレーン10の旋回振れ止め装置70のブロック図である。図8は、本発明の第3実施形態に係るクレーン10のブーム16の先端部の拡大側面図である。図9は、本発明の第3実施形態に係るクレーン10の吊荷変位検出部715Aおよび吊荷速度検出部716Aのブロック図である。なお、本実施形態では、先の第1実施形態との相違点を中心に説明し、共通する点の説明を省略する。また、本実施形態に係るクレーン10の構造は、図2に示されるクレーン10と同様である。
【0102】
本実施形態では、先の第1実施形態と比較して、吊荷変位および吊荷速度を取得する構造が相違している。具体的に、本実施形態に係る旋回振れ止め装置70(図7)は、図2のロープ旋回方向振れ角検出部715の代わりに吊荷変位検出部715Aを有し、図2のロープ旋回方向振れ角速度検出部716の代わりに吊荷速度検出部716Aを有する。
【0103】
図8を参照して、旋回振れ止め装置70は、カメラ80(撮影装置)と、カメラ用治具80Sと、認識マーカ57S(目標物)と、を有する。カメラ80は、ブーム16の先端部(上部ブーム16E)に装着されたカメラ用治具80Sに支持されている。カメラ用治具80Sは、ブーム16のラチス(フレーム)にボルト等で締結されており、ブーム16の起伏角度が変化しても、カメラ80の撮影方向が下を向くようにカメラ80の姿勢を調整する機能を有している。なお、この調整機能はカメラ80自体が有するものでもよい。認識マーカ57Sは、フック57の一部に取り付けられている。この結果、認識マーカ57Sは、吊荷と一体で移動する。カメラ80は、このように吊荷に関連付けられた認識マーカ57S(目標物)を撮影するとともに撮影した画像情報を出力する。
【0104】
図9を参照して、吊荷変位検出部715Aおよび吊荷速度検出部716Aは、上記のカメラ80に加え、画像処理部81および検出量演算部82(いずれも演算部)を含む。
【0105】
画像処理部81および検出量演算部82は、カメラ80から入力された画像情報を画像処理することにより位置情報として取得し、不図示の有線ケーブルや無線通信を介して制御量演算部700Fに入力する。より具体的に、画像処理部81は、カメラ80により撮影され出力された画像情報に対して、公知のテンプレートマッチングやエッジ検出、コーナー検出等の画像処理を行い、当該画像処理後の情報を検出量演算部82に入力する。検出量演算部82は、受け付けた情報に含まれる認識マーカ57Sのピクセル単位での大きさと、予め取得されたカメラ80からマーカ57Sまでの距離情報とに基づいて、マーカ57Sの座標を取得する。この結果、マーカ57Sと一体で移動する吊荷の変位、特に、旋回方向における振れ角(揺動角)が取得される。更に、検出量演算部82は、上記の吊荷の変位(振れ角)を数値微分することで、吊荷の速度、特に、旋回方向における吊荷の振れ角速度を算出する。
【0106】
制御量演算部700Fは、先の第1実施形態と同様に、吊荷旋回方向変位X1、吊荷旋回方向速度X2、ブーム先端旋回方向変位X3、ブーム先端旋回方向速度X4および旋回角X5の各制御量について、検出部700Dの各検出部が検出した検出値と、制御目標量設定部720が設定した目標量との間の偏差を演算する。より詳しくは、制御量演算部700Fは、ブーム長さ情報取得部708から出力されたブーム長さ情報と、旋回角検出部710から出力された前記旋回角と、ブーム起伏角検出部711から出力された前記起伏角と、ブームトップ旋回方向変位検出部713から出力されたブーム先端部変位と、ブームトップ旋回方向速度検出部714から出力されたブーム先端部速度と、吊荷変位検出部715Aから出力された吊荷変位と、吊荷速度検出部716Aから出力された吊荷速度と、ロープ長さ検出部717から出力された前記ロープ長さ情報と、吊荷重量検出部718から出力された前記吊荷重量情報と、制御目標量設定部720によって設定された前記5つの状態量の目標状態量とに基づいて、前記5つの制御量(状態量)の現在値を演算する。
【0107】
本実施形態において、吊荷旋回方向変位X1は、ブーム16の先端部(上部ブーム16E)から見た場合の吊荷の旋回方向変位X1’にブーム先端旋回方向変位X3を加えたものであり、以下の式5で演算される。
【0108】
【数5】
【0109】
ここでX1’は吊荷変位検出部715Aによって取得された、ブーム16の先端部から見た吊荷変位である。一方、吊荷旋回方向速度X2は、ブーム16の先端部から見た場合における吊荷の旋回方向の速度X2’に、ブーム先端旋回方向速度X4を加えたものであり、以下の式6で演算される。
【0110】
【数6】
【0111】
なお、ブーム先端旋回方向変位X3、ブーム先端旋回方向速度X4および旋回角X5は、先の第1実施形態と同様に検出または演算される。更に、制御ゲイン設定部726、旋回目標速度演算部727および旋回操作目標演算部728による演算過程も同様である。
【0112】
以上のように、本実施形態では、ブーム16の先端部に取り付けられたカメラ80の画像情報に基づいて、吊荷旋回方向変位X1および吊荷旋回方向速度X2を取得することができる。このため、先の第1実施形態と比較して、主巻ロープ50(吊荷ロープ)に撓みが生じた場合であっても、吊荷に関連付けられた認識マーカ57Sの位置を直接的に検出することができるため、吊荷旋回方向変位X1および吊荷旋回方向速度X2を精度よく取得することが可能となる。
【0113】
<制御モデル作成からゲインの導出までの流れについて>
次に、上記の各実施形態に係る制振制御部700Eの演算において使用される制御モデルについて説明する。制御モデルの作成にあたって、クレーン10の挙動を後記のような運動方程式によって表現し、その運動方程式を下記の式7のような状態方程式に変形する。
【数7】
ここでxは状態量と呼ばれ、前述の各制御量(吊荷旋回方向変位X1、吊荷旋回方向速度X2、旋回角X5など)に相当する。一方、uは制御入力(旋回速度)に相当する。また、式5のA、Bはシステム行列であり、当該行列の中には、主巻ロープ50のロープ長やクレーン10の作業半径(平面視におけるブーム16の半径)のように、旋回振れ制御中に変化しないが、吊荷の挙動に影響を与えるパラメータが含まれている。
【0114】
なお、式7に含まれるxのように以後の数式中の文字の上にドットが付されているものは、時間微分を意味する。たとえば、xの上に1つのドットが付されていればxを1階時間微分したものであり、xの上に2つのドットが付されていればxを2階時間微分したものである。更に、数式以外の本文においては、記載の制約上、上記のドットの代わりにアポストロフィを付している。以後の他の数式および本文中の記載についても同様である。
【0115】
なお、このような制御系設計の手法にはさまざまなものが公知であるが、本実施形態では、最適制御方法と呼ばれ、評価関数を最小にするように対象(クレーン10)を制御する方法が用いられている。当該最適制御方法では、まず評価関数が以下の式8に示すように定義される。
【0116】
【数8】
式8において、xおよびuはベクトルまたはスカラーに相当し、xおよびuに付されている上付きのTは転置を意味する。また、QおよびRは行列またはスカラーに相当する。ここで、最適制御方法を解するには、上記の評価関数を最小にする入力(u=θ’m=Gx)に対応する行列Xを導出する(θ’mはθmの1階時間微分)。当該行列Xは以下の式9に示される公知のリッカチ代数方程式を解くことによって得ることができる。なお、θ’mおよびGxは上記の旋回目標速度Vrefと同等のものである。また、Gxは式4の右辺に相当する。
【0117】
【数9】
また、フィードバックゲインGは、以下の式10によって表すことができる。
【0118】
【数10】
従って、図4のステップS06において制御ゲイン設定部726は、上記の演算に基づいて、ゲインG1~G5を演算することができる。
【0119】
<クレーンにおける状態方程式の導出について>
次に、上記の式7において示される状態方程式の導出について説明する。図10図11は、本実施形態に係るクレーン10の旋回振れ止め制御を説明するためのモデル図である。なお、図10図11では先の第2実施形態に係るクレーン10を想定して、ブーム16にジブ18が支持されているが、第1実施形態に係るクレーン10では、図10図11のジブ18が存在しない、すなわち、ジブ18の長さがゼロと仮定することで、同様にその状態方程式を導出することができる。
【0120】
状態方程式の導出に際して、まず運動方程式を用いてクレーン10の制御モデルを導出する。図10図11に示すようにクレーン10はZ軸周りに旋回するとする。また吊荷の位置を、吊荷位置座標xt、yt、ztを用いて表している。この吊荷位置座標xt、yt、ztは前記制御開始信号が出力された瞬間(初期状態)の旋回初期角度を基準にして、ジブ18の振動および吊荷の振れが止まった時の吊荷位置の直下を原点とし、グローバル座標系のXYZ座標とXY平面を共有するようにyt軸が半径方向に延びるように設定され、xt軸は旋回方向に延びるように設定され、またzt軸はZ軸と同じ方向に設定される。ここで、旋回体12が初期状態から旋回した角度である旋回角度がθと定義される。旋回体12が旋回を開始した位置から制御開始信号が出力されるまでに旋回体12が旋回した角度がθtと定義される。またブーム16の長さがLB1、ジブ18の長さがLB2、ブーム16の起伏角がγ1、ジブ18の起伏角がγ2と定義されると、平面視における吊荷の旋回半径r0=LB1cosγ1+LB2cosγ2で表される。また、主巻ロープ50の振れ角をγlと定義する。この時、吊荷の運動エネルギTおよびポテンシャルエネルギUは以下の式11で表される。
【0121】
【数11】
ここでgは重力加速度である。また吊荷は主巻ロープ50によってその挙動を拘束されており、ジブ18の先端部から見て半径L(ロープ長)の球面上に拘束されているとみなすことができる。このため、以下の式12が成立する。なお、hはジブ18の先端部の高さを意味する。
【0122】
【数12】
この際、式13のようにφを定義する。
【0123】
【数13】
この結果、式13において、拘束条件はφ=0で表すことができるため、公知のLagrange方程式を導出すると、式13から式14が導かれる。
【0124】
【数14】
なお、式14において、μは未定乗数である。この式14を用いて、以下の式15を仮定すると、xtについて以下の式16を得ることができる。
【0125】
【数15】
【0126】
【数16】
ここで、λ=√(g/L)である。
【0127】
図12は、本実施形態に係るクレーン10の旋回振れ止め制御を更に説明するためのモデル図である。ジブ18(起伏体)の慣性は回転運動に対して直線運動における質量(動かしにくさ、回転しにくさ)として作用し、ジブ18の変形に寄与する力は油圧モータによる強制変位とジブ18にかかる主巻ロープ50の張力とであるため、ジブ18の捻れの変形が支配的である。このため、ジブ18の弾性を考えるときに、図12に示すようにバネ-質量系のアナロジーによってその運動方程式を得ることができる。ジブ18の慣性モーメントをI、ジブ18のねじり剛性をkθ、ジブ先端の角度をθと旋回モータの回転角度をθmとすると、式14のラグランジュの運動方程式から導出される以下の式17によって運動方程式を表すことができる。
【0128】
【数17】
【0129】
このように、式17には起伏体の弾性変形を考慮した項が含まれている。上記を踏まえて、状態方程式を示すために、状態xを以下の式18のように定義する。
【数18】
【0130】
そして、式16、式17および式18から、式7の状態方程式は以下の式19、式20で示される。
【数19】
【数20】
【0131】
すなわち、式19、式20によって示される状態方程式に基づいて、制御ゲイン設定部726は、制御ゲインG1~G5(フィードバックゲイン)を演算することができる。
【0132】
図13は、本実施形態に係るクレーン10の旋回振れ止め制御と比較される他の旋回振れ止め制御における吊荷の旋回方向変位の推移を示すグラフである。図13の破線は、クレーン10の旋回動作を停止した直後に旋回振れ止め制御を全く行わなかった場合の吊荷の旋回方向における変位を示しており、周期的な振れが続いていることがわかる。一方、図13の実線は、本発明の各実施形態と異なり起伏体(ブーム16)の弾性変形を考慮しない制御モデルによって制御ゲインG1~G5を演算した場合の結果である。図13に示すように、このような演算ではフィードバック制御が発散し、制御を行っていない破線の結果よりも吊荷が大きく振れる結果となっている。
【0133】
一方、図14は、本発明の各実施形態に係るクレーン10の旋回振れ止め制御における吊荷の旋回方向変位の推移を示すグラフである。破線は図13と同様である。図14に示すように、本発明の各実施形態のように起伏体(ブーム16)の弾性変形を考慮した制御モデルによって制御ゲインG1~G5を演算した場合、吊荷の振れが早期に収束していることが確認される。
【0134】
以上、本発明の各実施形態に係る旋回振れ止め装置70によれば、ブーム16、ジブ18などの起伏体を有するクレーン10において、制御ゲイン設定部726が、旋回体12の旋回動作および吊荷の荷重によるブーム16の弾性変形の影響を考慮した制御モデルに基づいて、各制御量(状態量)(吊荷旋回方向変位X1、吊荷旋回方向速度X2、ブーム先端旋回方向変位X3、ブーム先端旋回方向速度X4および旋回角X5)および入力量(旋回速度)の重み付き和の時間積分が最小化するように制御ゲインG1~G5を決定する。そして、旋回目標速度演算部727が、前記制御量と前記制御ゲインとに基づいて旋回目標速度を演算し、旋回操作目標演算部728が、上記の目標速度になるように旋回駆動部701を駆動するため、安定した吊荷の振れ止めを行うことが可能となる。
【0135】
特に、上記の第1、第2および第3実施形態では、制御ゲイン設定部726が、少なくとも起伏体(ブーム16、ジブ18)の弾性変形に対応する項を含むように予め設定された前記吊荷の挙動に関する状態方程式であって旋回体12(起伏体)の旋回速度を変数とする状態方程式に基づいて、前記5つの状態量にそれぞれ対応する5つの制御ゲインG1~G5を設定する。そして、旋回目標速度演算部727は、制御ゲイン設定部726によって設定された前記5つの制御ゲインと、制御量演算部700Fによって演算された前記5つの状態量の現在値とから、旋回体12の旋回速度の目標値である旋回目標速度を演算する。そして、旋回操作目標演算部728および駆動制御部700は、旋回体12の旋回速度が旋回目標速度演算部727によって演算された前記旋回目標速度(速度の大きさ、方向を含む)となるように、旋回駆動部701に対して前記旋回目標速度に対応する指令情報を出力する。
【0136】
このような構成によれば、制御ゲイン設定部726は、起伏体の弾性変形を考慮した状態方程式に基づいて、各状態量の制御ゲインG1~G5を設定する。また、旋回目標速度演算部727は、制御量演算部700Fによって演算された各状態量と、制御ゲイン設定部726によって設定された各制御ゲインとに基づいて、旋回体12の旋回目標速度Vrefを設定する。上記の状態量には、吊荷の変位および速度に加えて、起伏体先端部の変位および速度が含まれているため、吊荷ロープのロープ長さ情報とあわせることで、吊荷と起伏体先端部との相対位置が加味されながら、吊荷の旋回振れ制御を行うことができる。このため、旋回動作によって起伏体に付与される慣性モーメントや吊荷の荷重によって起伏体に撓みなどの弾性変形が生じている場合でも、吊荷の旋回方向における振れを安定して収束させることが可能となる。
【0137】
また、上記の第1、第2および第3実施形態では、制御目標量設定部720は、制御判断部719によって旋回振れ止め制御開始条件が満たされていると判断され前記制御開始信号が出力されると、クレーン10の平面視において起伏体が弾性変形していないと仮定した場合における前記起伏体先端部の鉛直下方の位置を前記目標位置として前記旋回角、前記起伏体先端部変位および前記吊荷変位の前記目標状態量をそれぞれ設定し、更に、前記吊荷速度および前記起伏体先端部速度の前記目標状態量をそれぞれゼロに設定する。
【0138】
このような構成によれば、制御開始信号が出力された時点での起伏体先端部の位置を基準として、吊荷の旋回振れを収束させるための目標位置が設定される。このため、起伏体の弾性変形を考慮することなく常に起伏体先端部を吊荷の上方の位置に移動させるように上部本体の旋回動作を制御する他の旋回振れ止め装置のように、起伏体先端部が吊荷の動きに後追いし旋回方向の切換えが頻繁に行われることがなく、最終的な目標位置に応じた旋回動作の制御によって吊荷の振れを早期に収束させることができる。
【0139】
更に、制御ゲイン設定部726は、前記5つの状態量と旋回体12の旋回速度とを含む重み付き和の時間に対する積分値が最も小さくなるように前記5つの制御ゲインG1~G5を設定する。このため、吊荷の旋回振れを早期に収束させるための制御ゲインを短時間で設定することができる。なお、この制御ゲインの設定の方法としては、いわゆる極配置法に基づく方法やH無限大制御に基づく方法を採用しても良い。本発明の各実施形態に係る制御ゲインの設定の方法は、いわゆるLQ最適制御(Linear Quadratic Optimal Control)(線形二次最適制御)に従ったものである。当該LQ最適制御は、上記の極配置法と比較して、制御系が外乱に対してロバストとなるように設計しやすい特徴がある。また、LQ最適制御は、H無限大制御と比較して制御系の設計が容易であるとともに、外乱の影響を受けてもその効果を発揮しやすいという特徴がある。
【0140】
また、上記の第2実施形態では、ブーム16の先端部に起伏可能に支持されたジブ18の先端部から主巻ロープ50が垂下されている構成において、旋回動作によってジブ18に付与される慣性モーメントや吊荷の荷重によってジブ18に撓みなどの弾性変形が生じている場合でも、吊荷の旋回方向における振れを安定して収束させることが可能となる。
【0141】
なお、本発明の各実施形態では、上記のように、クレーン10の作業半径を決定する起伏体の長さ、起伏体の起伏角、起伏体の弾性係数、主巻ロープ50の繰り出し量、起伏体の慣性モーメント、吊荷の重量(吊荷重)がフィードバックゲインを決定するための検出パラメータである。一方、吊荷旋回方向変位X1、吊荷旋回方向速度X2、ブーム先端旋回方向変位X3、ブーム先端旋回方向速度X4および旋回角X5が制御量(状態量)に相当する。
【0142】
以上、本発明の各実施形態に係る旋回振れ止め装置70およびこれを備えたクレーン10について説明した。なお、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。本発明は、例えば以下のような変形実施形態を取ることができる。
【0143】
(1)図15は、本発明の変形実施形態に係るクレーンの旋回振れ止め制御を説明するためのモデル図である。上記の各実施形態では、状態量として、吊荷旋回方向変位X1、吊荷旋回方向速度X2、ブーム先端旋回方向変位X3、ブーム先端旋回方向速度X4および旋回角X5を用いて説明したが、これらの状態量を他の検出部の検出結果から演算する態様でもよい。
【0144】
図15を参照して、ブーム先端旋回方向変位X3およびブーム先端旋回方向速度X4は、ブーム16のたわみ量θe=θ-θmを検出することで、旋回角度θ、旋回角速度dθ/dtから演算してもよい。また、ブーム16の先端部に対する吊荷の相対的な変位xmを検出することが可能であれば、当該検出結果からブーム16の先端部の位置θを演算し、制御量(状態量)として、吊荷旋回方向変位X1、吊荷旋回方向速度X2、吊荷旋回方向相対変位X3、吊荷旋回方向相対速度X4、旋回角X5を選択することも可能である。また、旋回体12に取り付けたカメラ、ブーム16の先端部に取り付けたカメラによって、吊荷旋回方向変位X1、吊荷旋回方向速度X2、吊荷旋回方向相対変位X3、吊荷旋回方向相対速度X4をそれぞれ計測してもよい。
【0145】
(2)また、上記の実施形態では、上記の各実施形態に係る旋回振れ止め装置70が適用されるクレーンの構造は、図1図5に示されるクレーン10に限定されるものではなく、他の構造を有するクレーンであってもよい。また、上記の制御量(状態量)および対応する制御ゲインの数は、5つに限定されるものではなく、少なくとも5つの制御量および制御ゲインが検出または演算されればよい。
【0146】
(3)更に、先の第3実施形態では、ブーム16の先端部に装着されたカメラ80の画像情報に基づいて、吊荷旋回方向変位X1および吊荷旋回方向速度X2がそれぞれ取得される態様にて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。フック57または吊荷に取り付けられたGPSによってグローバル座標系での吊荷位置が検出され、吊荷旋回方向変位X1および吊荷旋回方向速度X2がそれぞれ取得されてもよい。また、旋回振れ止め装置70は、ブーム16の先端部から垂下される主巻ロープ50(吊荷ロープ)の先端部に接続されるジャイロセンサ(IMU:Inertial Measurement Unit)を有するものでもよい。この場合、吊荷変位検出部715Aおよび吊荷速度検出部716Aは、当該ジャイロセンサの出力に基づいて前記吊荷変位および前記吊荷速度をそれぞれ検出および出力する。また、第3実施形態に係る吊荷変位検出部715Aおよび吊荷速度検出部716Aが第2実施形態に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0147】
10 クレーン
12 旋回体(上部本体)
13 カウンタウエイト
14 走行体(下部本体)
15 キャブ
16 ブーム(起伏体)
18 ジブ(起伏体)
20 マスト
30 ブーム起伏用ウインチ
32 ジブ起伏用ウインチ
34 主巻用ウインチ
38 ブーム起伏用ロープ
44 ジブ起伏用ロープ
50 主巻ロープ(吊荷ロープ)
57 主フック
70 旋回振れ止め装置
700 駆動制御部(指令情報出力部)
700A 駆動部
700B 操作部
700C 情報取得部
700D 検出部
700E 制振制御部
700F 制御量演算部(状態量演算部)
701 旋回駆動部
702 起伏駆動部(起伏体駆動部、ブーム駆動部)
702A ジブ起伏駆動部(起伏体駆動部、ジブ駆動部)
703 ウインチ駆動部(吊荷駆動部)
704 旋回操作部(旋回用操作部)
705 起伏操作部(起伏用操作部、ブーム起伏用操作部)
705A ジブ起伏操作部(起伏用操作部、ジブ起伏用操作部)
706 ウインチ操作部(昇降用操作部)
708 ブーム長さ情報取得部(起伏体長さ情報取得部)
709 ジブ長さ情報取得部(起伏体長さ情報取得部)
710 旋回角検出部
711 ブーム起伏角検出部(起伏角検出部)
712 ジブ起伏角検出部(起伏角検出部)
713 ブームトップ旋回方向変位検出部(起伏体変位検出部)
713A ジブトップ旋回方向変位検出部(起伏体変位検出部)
714 ブームトップ旋回方向速度検出部(起伏体速度検出部)
714A ジブトップ旋回方向速度検出部(起伏体速度検出部)
715 ロープ旋回方向振れ角検出部(吊荷変位検出部、ロープ振れ角度検出部)
715A 吊荷変位検出部
716 ロープ旋回方向振れ角速度検出部(吊荷速度検出部、ロープ振れ角速度検出部)
716A 吊荷速度検出部
717 ロープ長さ検出部(ロープ長さ情報取得部)
718 吊荷重量検出部(吊荷重量情報取得部)
719 制御判断部(制御開始条件判断部)
720 制御目標量設定部(目標状態量設定部)
726 制御ゲイン設定部(制御ゲイン設定部)
727 旋回目標速度演算部(旋回目標速度演算部)
728 旋回操作目標演算部(指令情報出力部)
80 カメラ(撮影装置)
80S カメラ用治具
81 画像処理部(演算部)
82 検出量演算部(演算部)
X1 吊荷旋回方向変位
X2 吊荷旋回方向速度
X3 ブーム先端旋回方向変位
X3A ジブ先端旋回方向変位
X4 ブーム先端旋回方向速度
X4A ジブ先端旋回方向速度
X5 旋回角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15