(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】電流検出装置
(51)【国際特許分類】
G01R 15/20 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
G01R15/20 C
G01R15/20 D
(21)【出願番号】P 2020159002
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】595176098
【氏名又は名称】甲神電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093861
【氏名又は名称】大賀 眞司
(74)【代理人】
【識別番号】100129218
【氏名又は名称】百本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】三甲野 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】新地 信幸
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/133621(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0191835(US,A1)
【文献】特開2014-115114(JP,A)
【文献】特開2010-175474(JP,A)
【文献】特開2013-170878(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115472(WO,A1)
【文献】特開2007-107972(JP,A)
【文献】特開2005-195427(JP,A)
【文献】特開2012-108147(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0333380(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定電流が
それぞれ印加される
複数の導体と、
前記被測定電流によって前記導体の周囲に発生する磁束をそれぞれ検出する少なくとも一対の磁気検出素子を有し、前記一対の磁気検出素子から得られる検出信号に基づいて前記被測定電流を検出する回路部と、
を備え、
複数の前記導体のそれぞれには、異なる相の前記被測定電流が流れ、
前記一対の磁気検出素子は、
複数の前記導体のそれぞれに対して、前記導体に形成された屈曲部又はクランク部に近接する位置であって、前記導体の断面中心を避け、かつ前記断面中心からの距離が互いに異なる非対称位置に
それぞれ配置されて
おり、
任意の相に対応する前記一対の磁気検出素子の中心位置と、当該相に対応する前記導体に隣接して配置された前記導体の前記屈曲部又は前記クランク部の中心位置とは、前記導体の延伸方向において一致する、
電流検出装置。
【請求項2】
前記一対の磁気検出素子は、前記断面中心からの距離が等しい対称位置から所定の偏移距離だけ偏移して配置されている、
請求項1に記載の電流検出装置。
【請求項3】
前記偏移距離は、前記一対の磁気検出素子がそれぞれ同一方向の前記磁束を検出する配置、及び、前記一対の磁気検出素子のどちらか一方が前記磁束を検出しない配置を避けるように決定される、
請求項2に記載の電流検出装置。
【請求項4】
前記導体は、所定の延伸方向に延在し、前記延伸方向に垂直な断面が板厚方向よりも幅方向に長い長板形状を有しており、
前記一対の磁気検出素子は、前記導体の前記幅方向または前記板厚方向に並べて配置されている、
請求項1~3の何れか一項に記載の電流検出装置。
【請求項5】
前記回路部は、前記一対の磁気検出素子を固定する基材を有し、
前記一対の磁気検出素子は、前記基材を介して前記非対称位置に配置されている、
請求項1~4の何れか一項に記載の電流検出装置。
【請求項6】
複数の前記導体は、互いに隣接する相の前記屈曲部又は前記クランク部における前記被測定電流の向きの差が略90度となるように、互いにずらして配置されている、
請求項
1~5の何れか一項に記載の電流検出装置。
【請求項7】
前記磁気検出素子は、ホール素子、MR素子、GMR素子、又はTMR素子である、
請求項1~
6の何れか一項に記載の電流検出装置。
【請求項8】
前記導体は、所定の延伸方向に延在し、前記延伸方向に垂直な断面が板厚方向よりも幅方向に長い長板形状を有しており、
前記一対の磁気検出素子は、前記導体の前記板厚方向に並べて配置されており、
前記導体は、前記延伸方向の所定範囲において、前記幅方向の中心に、前記導体を前記板厚方向に貫通するスリットを有し、
前記一対の磁気検出素子の一方は、少なくともその一部が前記スリット内に配置されており、
前記一対の磁気検出素子の他方は、前記スリット外であって、前記板厚方向から見たときに前記一対の磁気検出素子の一方と重なる位置に配置されている、
請求項1~3の何れか一項に記載の電流検出装置。
【請求項9】
前記導体は、前記板厚方向に屈曲した前記屈曲部を有し、
前記スリットは、前記屈曲部を含む範囲に形成されている、
請求項8に記載の電流検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気検出素子を用いた電流検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のインバータ等に使用する電流検出装置には、つぎのことが求められる。インバータの高速スイッチングに対応するため、第1の要望として、周波数特性が高周波域まで良好に伸びていること、すなわち検出対象の電流の周波数が高い領域でも感度が低下しないことが求められる。ところが、通常の集磁コア(以下、「コア」と略す)と磁気検出素子を使用した電流検出装置では、コアの鉄損の影響により、高周波域では磁束密度(感度)が低下する。
【0003】
また、近年のモータ駆動用インバータ等に使用する電流検出装置は、三相での使用形態が一般的であり、複雑な配線構造を有する等の理由から、隣相のバスバー同士が非常に近い位置に配置されることがある。それに対応するため、第2の要望として、外部磁界の影響を受け難いことが求められる。
【0004】
上記の要望を満たす電流検出装置を実現するため、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1に開示されている電流測定装置では、電流計測の対象とする1本のバスバーに穿設されたスリットで分流された2系統の被測定電流導体に、2系統の被測定電流が流れることで、同方向に貫通する2種類の磁場が発生する。このスリットから突出するように2個1対の磁気検出素子を所定の位置に配置し、各磁気検出素子で得られた検出信号の差を取ることで、周囲の磁場の影響をキャンセルし、被測定電流の大きさを正確に測定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、上述した第1の要望を満足させるには不十分である。特に、被測定電流の周波数が高くなると、表皮効果の影響で導体の周囲に発生する磁束の分布が変化するため、高周波域では感度が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、外部磁界の影響を抑制し、周波数特性が高周波域まで良好なコアレスタイプの電流検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明による電流検出装置は、被測定電流がそれぞれ印加される複数の導体と、前記被測定電流によって前記導体の周囲に発生する磁束をそれぞれ検出する少なくとも一対の磁気検出素子を有し、前記一対の磁気検出素子から得られる検出信号に基づいて前記被測定電流を検出する回路部と、を備え、複数の前記導体のそれぞれには、異なる相の前記被測定電流が流れ、前記一対の磁気検出素子は、複数の前記導体のそれぞれに対して、前記導体に形成された屈曲部又はクランク部に近接する位置であって、前記導体の断面中心を避け、かつ前記断面中心からの距離が互いに異なる非対称位置にそれぞれ配置されており、任意の相に対応する前記一対の磁気検出素子の中心位置と、当該相に対応する前記導体に隣接して配置された前記導体の前記屈曲部又は前記クランク部の中心位置とは、前記導体の延伸方向において一致する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、外部磁界の影響を抑制し、周波数特性が高周波域まで良好なコアレスタイプの電流検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る電流検出装置の原理を説明する磁力線図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る電流検出装置の原理を説明する磁力線図である。
【
図3】
図1と
図2の磁気検出素子による磁束密度の検出結果を示した表である。
【
図4A】長板状の導体に対する磁気検出素子の配置例を示す断面図である。
【
図4B】
図4Aの配置例において磁気検出素子が検出する磁束密度の減衰率の周波数特性を示す表とグラフである。
【
図5A】
図4Aとは異なる形状の長板状の導体に対する磁気検出素子の配置例を示す断面図である。
【
図5B】
図5Aの配置例において磁気検出素子が検出する磁束密度の減衰率の周波数特性を示す表とグラフである。
【
図6A】スリットが設けられた長板状の導体に対する磁気検出素子の配置例を示す斜視図及び断面拡大図である。
【
図6B】
図6Aの配置例において磁気検出素子が検出する磁束密度の減衰率の周波数特性を示す表とグラフである。
【
図7A】スリットが設けられ、かつ屈曲した長板状の導体に対する磁気検出素子の配置例を示す斜視図及び断面拡大図である。
【
図7B】
図7Aの配置例において磁気検出素子が検出する磁束密度の減衰率の周波数特性を示す表とグラフである。
【
図8A】スリットが設けられ、かつ屈曲した長板状の導体に対する磁気検出素子の別の配置例を示す斜視図及び断面図である。
【
図8B】
図8Aの配置例において磁気検出素子が検出する磁束密度の減衰率の周波数特性を示す表とグラフである。
【
図9A】クランク部が設けられた長板状の導体に対する磁気検出素子の配置例を示す正面図である。
【
図9B】
図9Aの配置例において磁気検出素子が検出する磁束密度の減衰率の周波数特性を示す表とグラフである。
【
図10】本発明の実施形態に係る電流検出装置の回路構成を示すブロック図である。
【
図11】本発明の第1の実施形態に係る電流検出装置の外観斜視図である。
【
図12】本発明の第1の実施形態に係る電流検出装置の回路部の配置を説明する図である。
【
図13A】本発明の第1の実施形態に係る電流検出装置におけるU相のバスバーとV相のバスバーの拡大斜視図である。
【
図13B】本発明の第1の実施形態に係る電流検出装置におけるU相の磁気検出素子及びバスバーとV相のバスバーの拡大正面図である。
【
図13C】隣相から影響を受ける磁束密度のグラフである。
【
図14A】本発明の第2の実施形態に係る電流検出装置の外観斜視図である。
【
図14B】本発明の第2の実施形態に係る電流検出装置の回路部の配置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1~
図3では、本発明の電流検出の原理を説明する。
図4A~
図9Bでは、磁気検出素子の配置と検出磁束密度の周波数特性の関係を説明する。
図10~
図14Bでは、本発明を適用した電流検出装置の実施形態を説明する。
【0012】
(電流検出の原理)
図1、
図2は、本発明の実施形態に係る電流検出装置における電流検出の原理を説明する磁力線図である。
図1、
図2では、複数の磁力線Lにより、一対の磁気検出素子1,2が配置された長板状の導体20に、被測定電流として直流電流と100kHzの交流電流をそれぞれ印加したときの、導体20の断面方向におけるY方向の磁束のみを抽出した磁束密度の例を示している。ここで、
図1、
図2では、紙面に垂直な延伸方向に延在する長板形状の導体20を、磁気検出素子1,2を含む面で切断したときの断面を示している。これらの断面図において、導体20は板厚方向よりも幅方向に長い断面形状を有している。また、導体20の幅方向、すなわち紙面の横方向をX軸と定義し、導体20の板厚方向、すなわち紙面の縦方向をY軸と定義している。
【0013】
図1、
図2において、磁気検出素子1,2は、符号aと符号bにそれぞれ示す位置の組み合わせ、又は符号cと符号dにそれぞれ示す位置の組み合わせの何れかに配置されるものとする。以下では、位置aの磁気検出素子1、位置bの磁気検出素子2、位置cの磁気検出素子1、位置dの磁気検出素子2について、磁気検出素子a~磁気検出素子dとそれぞれ略称して各素子、及びそれらの配置を説明する。
【0014】
磁気検出素子a,bは、導体20の幅方向(X軸方向)の中心線Hからの距離が等しい対称な位置に配置されている。このとき、導体20の断面中心Eから磁気検出素子a,bまでの距離S,Tは等しい。一方、磁気検出素子c,dは、磁気検出素子a,bからX軸方向に偏移距離Gだけそれぞれ偏移した位置、すなわち中心線Hからの距離が互いに異なる非対称な位置に配置されている。また、磁気検出素子a~dは、Y軸方向の磁束に対して検出感度を有する向きにそれぞれ配置されている。これにより、磁気検出素子a,bの組み合わせ、及び磁気検出素子c,dの組み合わせは、導体20を流れる電流が導体20の周囲に発生する磁束のうち、互いに逆方向のY方向と-Y方向の磁束をそれぞれ検出するようになっている。
【0015】
図3は、
図1と
図2の磁気検出素子1,2による磁束密度の検出結果を示した表である。
図3の表では、
図1、
図2の場合において磁気検出素子a~dがそれぞれ検出した磁束密度の検出値と、これらの検出値から求められた磁気検出素子1,2の差動演算値、すなわち磁気検出素子aと磁気検出素子bの組み合わせにおける検出結果の差分値、及び磁気検出素子cと磁気検出素子dの組み合わせにおける検出結果の差分値を表している。
【0016】
図2の磁力線Lは、導体20を流れる電流の周波数が高くなることに応じた表皮効果の増大によって、
図1と比較して導体20の端部に集中している。そのため、
図3の表において、導体20の端部よりも中心側に配置されている磁気検出素子a,b,cでは、
図1よりも
図2の場合の方が磁束密度の検出値が減少する。一方、導体20の端部よりも外側に配置されている磁気検出素子dでは、
図1よりも
図2の場合の方が磁束密度の検出値が増加している。また、導体20に電流を印加したときの磁束密度は、
図1、
図2共に導体20の中心線Hに対して線対称となっている。
【0017】
つまり、導体20の幅方向の中心線Hに対して等距離の対称位置a,bに一対の磁気検出素子1,2が配置された場合、導体20を流れる電流の周波数が高くなると、それに応じた表皮効果の増大によって、磁気検出素子1,2を通過する磁束がともに減少する。そのため、磁気検出素子1,2から得られる差動演算値が減少し、電流の測定精度が低下してしまうという問題が生じる。
【0018】
一方、導体20の幅方向の中心線Hに対して不等距離の非対称位置c,dに一対の磁気検出素子1,2が配置された場合、導体20を流れる電流の周波数が高くなると、それに応じた表皮効果の増大によって、磁気検出素子1を通過する磁束は減少し、磁気検出素子2を通過する磁束は増大する。そのため、磁気検出素子1,2から得られる差動演算値は減少せず、電流の測定精度の低下を防ぐことができる。
【0019】
以上説明したように、一対の磁気検出素子を用いた差動演算により電流測定を行う場合、非対称配置の磁気検出素子c,dを適用することにより、周波数特性を高周波域まで良好にし、高周波域での測定精度の低下を防ぐことができる。
【0020】
なお、
図1及び
図2では、導体20の幅方向の中心線Hを基準に、一対の磁気検出素子1,2が対称な位置(位置a,b)または非対称な位置(位置c,d)に、導体20の幅方向に並べて配置されている場合を説明したが、これらの位置関係の基準は中心線Hに限らない。例えば、導体20の板厚方向の中心線を基準に、一対の磁気検出素子1,2を対称または非対称な位置に、導体20の板厚方向に並べて配置した場合でも、
図3の表で説明したのと同様に、非対称配置の方が電流測定結果において良好な周波数特性を得ることができる。あるいは、導体20の幅方向、板厚方向の何れでもない方向に、一対の磁気検出素子1,2を非対称な位置に並べて配置しても、上記と同様の効果を得ることができる。すなわち、何れの場合であっても、導体20の断面中心Eからの距離S,Tを不等距離とすることで、一対の磁気検出素子1,2を非対称に配置することが可能となる。このとき、導体20の断面中心は磁束密度が低く、差動演算による検出感度の増加が望めないことから、磁気検出素子1,2が導体20の断面中心を避けて配置されるようにすることが好ましい。また、中心線Hを基準に左右どちらか一方に磁気検出素子1,2が共に配置されていると、磁気検出素子1,2でそれぞれ得られる検出信号が同一方向の磁束の検出信号となり、検出感度の増加が望めないことから、中心線Hを基準に磁気検出素子1,2を左右に分けて配置することが好ましい。これらの条件を満たすため、対称位置a,bに対する非対称位置c,dの偏移距離Gは、磁気検出素子1,2がそれぞれ同一方向の磁束を検出する配置、及び、磁気検出素子1,2のどちらか一方が磁束を検出しない配置を避けるように決定されることが好ましい。その結果、磁気検出素子1,2を用いた電流測定の周波数特性を高周波域まで良好にし、高周波域での測定精度の低下を防ぐことができる。
【0021】
(磁気検出素子の配置と検出磁束密度の周波数特性の関係)
つぎに、
図4A~
図9Bを用いて、磁気検出素子の配置とそれによって検出される磁束密度の周波数特性との関係を説明する。
【0022】
図4Aは、長板状の導体20に対する磁気検出素子1,2の配置例を示す断面図である。
図4Aにおいて、導体20は、断面が2mm×0.8mmの長方形であり、同一性能の2個一対の磁気検出素子1,2が導体20に近接して配置されている。これら一対の磁気検出素子1,2の配置は、
図4Aに示した位置aと位置bの組み合わせ、又は位置cと位置dの組み合わせであり、これは
図1及び
図2に示した位置a,b,c,dと同様である。すなわち、磁気検出素子1,2は、導体20の幅方向に対して対称な位置a,bの組み合わせ、又は導体20の幅方向に対して非対称な位置c,dの組み合わせの何れかに配置されている。また、一対の磁気検出素子1,2を結ぶ直線は、導体20の幅方向に対して平行となっている。
【0023】
ここで
図4Aの配置における各部分の寸法を以下のように規定する。一対の磁気検出素子1,2の間隔は、D=2.5mmである。また、位置c,dは、位置a,bよりも導体20の幅方向に偏移距離G=1.1mmだけ偏移している。この偏移距離Gは、前述の条件を満たすように決定されていれば良い。また、位置a~dを結ぶ直線と導体20の間は、1.0mm離れている。
【0024】
図4Bは、
図4Aの配置例において磁気検出素子1,2が検出する磁束密度の減衰率の周波数特性を示す表とグラフである。
図4Bに示すように、一対の磁気検出素子1,2は、対称位置a,bの場合よりも、偏移距離G=1.1mmだけ偏移して配置された非対称位置c,dの場合の方が、100kHz以上の高周波域で検出される磁束密度の減衰率が少なく、フラットな周波数特性を維持できることが分かる。
【0025】
図5Aは、
図4Aとは異なる形状の長板状の導体20に対する磁気検出素子1,2の配置例を示す断面図である。
図5Aにおいて、導体20は、断面が4mm×0.8mmの長方形であり、同一性能の2個一対の磁気検出素子1,2が導体20に近接して配置されている。これら一対の磁気検出素子1,2の配置は、
図5Aに示した位置aと位置bの組み合わせ、又は位置cと位置dの組み合わせであり、これも
図1及び
図2に示した位置a,b,c,dと同様である。すなわち、磁気検出素子1,2は、導体20の幅方向に対して対称な位置a,bの組み合わせ、又は導体20の幅方向に対して非対称な位置c,dの組み合わせの何れかに配置されている。また、一対の磁気検出素子1,2を結ぶ直線は、導体20の幅方向に対して平行となっている。
【0026】
ここで
図5Aの配置における各部分の寸法を以下のように規定する。一対の磁気検出素子1,2の間隔は、D=2.5mmである。また、位置c,dは、位置a,bよりも導体20の幅方向に偏移距離G=1.0mmだけ偏移している。また、位置a~dを結ぶ直線と導体20の間は、1.0mm離れている。
【0027】
図5Bは、
図5Aの配置例において磁気検出素子1,2が検出する磁束密度の減衰率の周波数特性を示す表とグラフである。
図5Bに示すように、一対の磁気検出素子1,2は、対称位置a,bの場合よりも、偏移距離G=1.0mmだけ偏移して配置された非対称位置c,dの場合の方が、100kHz~1MHzの高周波域で検出される磁束密度の減衰率が少なく、フラットな周波数特性を維持できることが分かる。
【0028】
図6Aは、スリット29が設けられた長板状の導体20に対する磁気検出素子1,2の配置例を示す斜視図及び断面拡大図である。
図6Aにおいて、導体20は、断面が10mm×2mmの長方形であり、その中心部に導体20を板厚方向に貫通するスリット29が穿設されている。スリット29の大きさは、幅2mm、長さ10mm程度である。
【0029】
導体20のスリット29が設けられた部分では、導体20を流れる電流がスリット29によって2分割されることで、同一方向の2つの電流経路が並存している。その2つの電流経路に直交する断面において、スリット29を貫通する方向に並べて、同一性能の2個一対の磁気検出素子1,2が配置されている。これら一対の磁気検出素子1,2の配置は、
図6Aに示した位置aと位置bの組み合わせ、又は位置cと位置dの組み合わせである。
【0030】
なお、
図6Aに示した位置a,b,c,dは、
図1及び
図2において磁気検出素子1,2を導体20の板厚方向に並べて配置した場合の位置a,b,c,dに相当する。すなわち、磁気検出素子1,2は、導体20の板厚方向に対して対称な位置a,bの組み合わせ、又は導体20の板厚方向に対して非対称な位置c,dの組み合わせの何れかに配置されている。また、一対の磁気検出素子1,2を結ぶ直線は、導体20の板厚方向に対して平行となっている。
【0031】
ここで
図6Aの配置における各部分の寸法を以下のように規定する。一対の磁気検出素子1,2の間隔は、D=2.5mmである。また、位置c,dは、位置a,bよりも導体20の板厚方向に偏移距離G=1.2mmだけ偏移している。なお、この偏移距離Gも
図4Aや
図5Aの場合と同様に、前述の条件を満たすように決定されていれば良い。
【0032】
図6Bは、
図6Aの配置例において磁気検出素子1,2が検出する磁束密度の減衰率の周波数特性を示す表とグラフである。
図6Bに示すように、一対の磁気検出素子1,2は、対称位置a,bの場合よりも、偏移距離G=1.2mmだけ偏移して配置された非対称位置c,dの場合の方が、100kHz~1MHzの高周波域で検出される磁束密度の減衰率が僅かながら少なく、比較的良好な周波数特性を維持できることが分かる。
【0033】
図7Aは、スリット29が設けられ、かつ屈曲した長板状の導体20に対する磁気検出素子1,2の配置例を示す斜視図及び断面図である。
図7Aにおいて、導体20は、折り曲げ線24に沿って板厚方向に折り曲げられた屈曲部を有しており、その屈曲部に
図6Aと同様のスリット29が穿設されている。
【0034】
導体20の屈曲部では、導体20を流れる電流がスリット29によって2分割されることで、同一方向の2つの電流経路が並存している。その2つの電流経路に直交し、かつ屈曲部の折り曲げ角度を2分割する方向に沿った断面において、スリット29を貫通する方向に並べて、同一性能の2個一対の磁気検出素子1,2が配置されている。これら一対の磁気検出素子1,2の配置は、
図7Aに示した位置aと位置bの組み合わせ、又は位置cと位置dの組み合わせである。
【0035】
なお、
図7Aに示した位置a,b,c,dも、
図6Aと同様に、
図1及び
図2において磁気検出素子1,2を上記の断面における板厚方向に並べて配置した場合の位置a,b,c,dに相当する。すなわち、磁気検出素子1,2は、導体20の板厚方向に対して対称な位置a,bの組み合わせ、又は導体20の板厚方向に対して非対称な位置c,dの組み合わせの何れかに配置されている。また、一対の磁気検出素子1,2を結ぶ直線は、導体20の板厚方向に対して平行となっている。
【0036】
ここで
図7Aの配置における各部分の寸法を以下のように規定する。一対の磁気検出素子1,2の間隔は、D=2.5mmである。また、位置c,dは、位置a,bよりも導体20の板厚方向に偏移距離G=1.0mmだけ偏移している。
【0037】
図7Bは、
図7Aの配置例において磁気検出素子1,2が検出する磁束密度の減衰率の周波数特性を示す表とグラフである。
図7Bに示すように、一対の磁気検出素子1,2は、対称位置a,bの場合よりも、偏移距離G=1.0mmだけ偏移して配置された非対称位置c,dの場合の方が、100kHz~1MHzの高周波域で検出される磁束密度の減衰率が少なく、概ねフラットに近い周波数特性を維持できることが分かる。
【0038】
図8Aは、スリット29が設けられ、かつ屈曲した長板状の導体20に対する磁気検出素子1,2の別の配置例を示す斜視図及び断面図である。
図8Aでは、
図7Aで説明した配置例に対して、導体20と磁気検出素子1,2の位置関係を変えた配置例を示している。
【0039】
図8Aでは、スリット29による2つの電流経路に直交し、かつ屈曲部から外れた位置の断面において、スリット29を貫通する方向に並べて、同一性能の2個一対の磁気検出素子1,2が配置されている。これら一対の磁気検出素子1,2の配置は、
図8Aに示した位置aと位置bの組み合わせ、又は位置cと位置dの組み合わせである。
【0040】
なお、
図8Aに示した位置a,b,c,dも、
図6Aや
図7Aと同様に、
図1及び
図2において磁気検出素子1,2を上記の断面における板厚方向に並べて配置した場合の位置a,b,c,dに相当する。すなわち、磁気検出素子1,2は、導体20の板厚方向に対して対称な位置a,bの組み合わせ、又は導体20の板厚方向に対して非対称な位置c,dの組み合わせの何れかに配置されている。また、一対の磁気検出素子1,2を結ぶ直線は、導体20の板厚方向に対して平行となっている。
【0041】
ここで
図8Aの配置における各部分の寸法を以下のように規定する。一対の磁気検出素子1,2の間隔は、D=2.5mmである。また、位置c,dは、位置a,bよりも導体20の板厚方向に偏移距離G=1.0mmだけ偏移している。
【0042】
図8Bは、
図8Aの配置例において磁気検出素子1,2が検出する磁束密度の減衰率の周波数特性を示す表とグラフである。
図8Bに示すように、一対の磁気検出素子1,2は、対称位置a,bの場合よりも、偏移距離G=1.0mmだけ偏移して配置された非対称位置c,dの場合の方が、10kHz~1MHzの高周波域で検出される磁束密度の減衰率が少なく、フラットに近い周波数特性を維持できることが分かる。
【0043】
図9Aは、クランク部が設けられた長板状の導体20に対する磁気検出素子1,2の配置例を示す正面図である。
図9Aにおいて、導体20は、幅方向に複数回折り曲げられたクランク部を有している。クランク部における導体20の幅と間隔は、それぞれ3mmである。このクランク部において導体20に近接した位置に、同一性能の2個一対の磁気検出素子1,2が、導体20の幅方向に並べて配置されている。これら一対の磁気検出素子1,2の配置は、
図9Aに示した位置aと位置bの組み合わせ、又は位置cと位置dの組み合わせである。
【0044】
なお、
図9Aに示した位置a,b,c,dは、
図4Aや
図5Aと同様に、
図1及び
図2に示した位置a,b,c,dに相当する。すなわち、磁気検出素子1,2は、導体20の板厚方向に対して対称な位置a,bの組み合わせ、又は導体20の板厚方向に対して非対称な位置c,dの組み合わせ何れかに配置されている。また、一対の磁気検出素子1,2を結ぶ直線は、導体20の板厚方向に対して平行となっている。
【0045】
ここで
図9Aの配置における各部分の寸法を以下のように規定する。一対の磁気検出素子1,2の間隔は、D=2.5mmである。また、位置c,dは、位置a,bよりも導体20の幅方向に偏移距離G=1.1mmだけ偏移している。
【0046】
図9Bは、
図9Aの配置例において磁気検出素子1,2が検出する磁束密度の減衰率の周波数特性を示す表とグラフである。
図9Bに示すように、一対の磁気検出素子1,2は、対称位置a,bの場合よりも、偏移距離G=1.1mmだけ偏移して配置された非対称位置c,dの場合の方が、10kHz以上の高周波域で検出される磁束密度の減衰率が少なく、フラットに近い周波数特性を維持できることが分かる。
【0047】
以上説明したように、
図4A,5A,6A,7A,8A,9Aの何れの場合においても、一対の磁気検出素子1,2を非対称位置c,dに配置することで、導体20を流れる電流に応じて発生する磁束密度を検出したときの周波数特性を向上させることができる。したがって、このような磁気検出素子の配置を電流検出装置において採用することで、外部磁界の影響を抑制しつつ、周波数特性が高周波域まで良好なコアレスタイプの電流検出装置を提供できることが分かる。
【0048】
(回路構成)
つぎに、
図10を用いて、本発明の実施形態に係る電流検出装置の回路構成について説明する。
図10は、本発明の実施形態に係る電流検出装置の回路構成を示すブロック図である。
図10に示す回路部10は、導体20に対して所定の位置に取り付けて用いられることで、上述した原理を適用した電流検出装置を構成するものである。この回路部10は、一対の磁気検出素子1,2、駆動部3、制御部4、第一の増幅部5、第二の増幅部6、差動演算部7、出力部8、及び記憶部9を備える。
【0049】
磁気検出素子1と磁気検出素子2は、導体20に対して、上述の各配置例における非対称位置c,dに、相互に対向する方向に感度を有するような向きでそれぞれ配置される。これらの磁気検出素子は、駆動部3から供給される電圧又は電流を用いて動作し、導体20を流れる被測定電流によって発生する磁束を検出する。そして、磁束の検出結果に応じた検出信号を、第一の増幅部5と第二の増幅部6へそれぞれ出力する。
【0050】
なお、磁気検出素子1,2は、例えばホール素子、MR素子、GMR素子、又はTMR素子等を用いて構成される。MR素子とは、磁気抵抗効果(Magneto Resistive Effect)を利用して磁束を検出する素子である。GMR素子とは、巨大磁気抵抗効果(Giant Magneto Resistive Effect)を利用して磁束を検出する素子である。TMR素子とは、トンネル磁気抵抗効果(Tunnel Magneto Resistance Effect)を利用して磁束を検出する素子である。これ以外にも、磁束を検出してその検出結果に応じた検出信号を出力できるものであれば、任意の素子を磁気検出素子1,2として用いることが可能である。
【0051】
第一の増幅部5と第二の増幅部6は、磁気検出素子1,2からそれぞれ出力される検出信号を増幅し、差動演算部7へ出力する。差動演算部7は、第一の増幅部5と第二の増幅部6からそれぞれ出力された検出信号に基づいて、各検出信号が表す測定値の差分を求める差動演算を行い、その演算結果を出力部8へ出力する。出力部8は、差動演算部7により求められた差分値に応じた電流を、出力端子13を介して負荷抵抗14へ出力する。例えば出力部8は、差動演算部7からの出力信号を電流増幅して負荷抵抗14へ出力する。これにより、導体20を流れる被測定電流の値に応じた電圧を負荷抵抗14の両端間に発生させ、被測定電流の測定結果を得ることができる。なお、回路部10は、正電源と負電源をそれぞれ供給するための正電源端子11及び負電源端子12を備えている。負荷抵抗14は、一端側が出力端子13に接続され、他端側が負電源端子12に接続されている。
【0052】
制御部4は、例えば集積回路やマイクロコンピュータを用いて構成され、駆動部3が磁気検出素子1,2へ供給する電圧又は電流と、第一の増幅部5、第二の増幅部6及び差動演算部7のそれぞれの増幅率とを調整する機能を有する。制御部4が調整時に利用する増幅率その他の設定値は、記憶部9に保存される。
【0053】
基材15は、例えばシリコン基板やガラスエポキシ基板等を用いて構成され、上述した回路部10の各構成部品を所定の配置でそれぞれ固定するとともに、各構成部品同士を電気的に接続する。基材15に各構成部品が搭載された回路部10は、樹脂によるモールドパッケージ等が施された後、導体20に対して所定の位置に取り付けられる。これにより、導体20に対して一対の磁気検出素子1,2を、基材15を介して前述の非対称位置に配置及び固定することができる。
【0054】
なお、駆動部3は、磁気検出素子1と磁気検出素子2のそれぞれに対して、互いに逆極性の電圧又は電流を供給してもよい。この場合、差動演算部7では、第一の増幅部5と第二の増幅部6からそれぞれ出力される検出信号を加算演算することで、差動演算を行うことができる。
【0055】
(第1の実施形態)
つぎに、
図11を用いて、本発明の第1の実施形態に係る電流検出装置の全体的な構成を説明する。
図11は、本発明の第1の実施形態に係る電流検出装置30Aの外観斜視図である。この電流検出装置30Aは、三相分の導体20として、板厚方向(Y軸方向)にU字形に曲げ加工することで形成された屈曲部にスリット29がそれぞれ設けられたバスバー20U,20V,20Wを有する。バスバー20U,20V,20Wのスリット29のそれぞれには、
図10の回路構成を有する回路部10が配設される。これにより、バスバー20U,20V,20Wの屈曲部にそれぞれ近接して、一対の磁気検出素子1,2が設置される。
【0056】
バスバー20U,20V,20Wは、ケース部26にそれぞれ取り付けられて固定される。バスバー20UにはU相電流、バスバー20VにはV相電流、バスバー20VにはW相電流がそれぞれ流れる。このように、スリット29を有する長板状の導体20をU字形に曲げ加工して屈曲部を形成したバスバーと回路部10の組み合わせを電流検出装置30Aが3組備えることで、電流検出装置30Aにおいて、各相に設けられた磁気検出素子1,2を用いて三相の電流を検出できるようにしている。
【0057】
図11の電流検出装置30Aでは、互いに隣接する相の回路部10が、バスバー20U,20V,20Wに対して異なる位置にそれぞれ配置されている。この点について、以下に
図12、
図13A、
図13B及び
図13Cを参照して説明する。
【0058】
図12は、本発明の第1の実施形態に係る電流検出装置の回路部の配置を説明する図である。
図12では、各相の回路部10の配置を見易くするため、
図11に示したバスバー20U,20V,20WをY軸方向にずらして並べ換え、回路部10とともにZ軸方向から見たときの正面図を示している。
【0059】
図12において、バスバー20Vの屈曲部の中心位置を表す基準線Jと、バスバー20U,20Wの屈曲部の中心位置を表す基準線Kとは、X軸方向で互いに偏移距離Mだけずれている。また、バスバー20U,20V,20Wのスリット29にそれぞれ嵌入固定された回路部10は、バスバー20U,20V,20Wに対して、一対の磁気検出素子1,2が前述の非対称位置、すなわち
図6A,7A,8Aでそれぞれ説明した位置c,dに相当する位置となるように取り付けられている。
【0060】
図12では、バスバー20Vに取り付けられている回路部10の中心位置、すなわちV相に対応する磁気検出素子1,2の中心位置と、バスバー20Vに隣接して配置されたU相、W相のバスバー20U,20Wの屈曲部の中心位置を表す基準線Kとが、バスバー20U,20V,20Wの延伸方向であるZ軸方向において一致するように、これらの位置関係が定められている。同様に、バスバー20U,20Wに取り付けられている回路部10の中心位置、すなわちU相及びW相に対応する磁気検出素子1,2の中心位置と、バスバー20U,20Wに隣接して配置されたV相のバスバー20Vの屈曲部の中心位置を表す基準線Jとが、バスバー20U,20V,20Wの延伸方向であるZ軸方向において一致するように、これらの位置関係が定められている。これを換言すると、互いに隣接する相、すなわちU相とV相、及びV相とW相の回路部10における磁気検出素子1,2の中心間の偏位距離は、バスバー20U,20V,20Wの屈曲部間の偏移距離Mと同一である。これにより、各相の一対の磁気検出素子1,2から得られる検出信号の差動演算値において、隣相の磁束密度による検出値をキャンセルすることができる。したがって、隣相の磁束密度の影響を低減できる効果が得られる。
【0061】
図13Aは、本発明の第1の実施形態に係る電流検出装置におけるU相のバスバー20UとV相のバスバー20Vの拡大斜視図である。
図13Aでは、
図11の電流検出装置30Aにおいて隣相の磁束密度の影響を低減できることを説明するために、U相とV相のバスバー20U,20Vのみを抜き出して、模式的に拡大して示している。
【0062】
図13Aにおいて、符号24に示す折り曲げ線は、バスバー20U,20Vの屈曲部の両端に形成されている折り曲げ部分のうち、スリット29が形成されている側の曲げ中心をそれぞれ示している。
図13Aから、バスバー20U,20Vには回路部10がX軸方向で互いにずれた位置に取り付けられているため、これらの回路部10が有する一対の磁気検出素子1,2から得られる差動演算値が隣相から受ける影響を低減できることが推測できる。
【0063】
図13Bは、本発明の第1の実施形態に係る電流検出装置におけるU相の磁気検出素子1,2及びバスバー20UとV相のバスバー20Vの拡大正面図である。
図13Bでは、
図13Aに示したバスバー20U,20VとU相の磁気検出素子1,2との位置関係を説明するため、U相の磁気検出素子1,2のみを透視して示している。
図13Bにおいて、一点鎖線で示した位置Oは、U相の磁気検出素子1,2から等距離の位置を表している。
【0064】
図13Cは、隣相から影響を受ける磁束密度のグラフである。
図13Cのグラフでは、U相の磁気検出素子1,2に対するバスバー20Vの屈曲部の中心位置と、U相の磁気検出素子1,2の差動演算値が隣相から影響を受ける磁束密度の大きさとの関係を表している。
図13Cから、U相の磁気検出素子1,2に対してバスバー20Vの屈曲部の中心位置が0mmの場合、すなわち、
図13Bの位置Oとバスバー20Vの屈曲中心位置が重なる場合に、U相の磁気検出素子1,2の差動演算値において、V相の磁束密度の影響が打ち消されて0となることが分かる。
【0065】
このようにして、電流検出装置30Aは、隣相の磁束密度の影響を低減できる。その結果、電流検出装置30Aを適用する三相インバータ等の動作精度が高められる。
【0066】
(第2の実施形態)
つぎに、
図14Aを用いて、本発明の第2の実施形態に係る電流検出装置の全体的な構成を説明する。
図14Aは、本発明の第2の実施形態に係る電流検出装置30Bの外観斜視図である。この電流検出装置30Bは、三相分の導体20として、幅方向(Y方向)にU字形をなすクランク部がそれぞれ形成されたバスバー23U,23V,23Wを有する。バスバー23U,23V,23Wのクランク部のそれぞれには、
図10の回路構成を有する回路部10が配設される。これにより、バスバー23U,23V,23Wのクランク部にそれぞれ近接して、一対の磁気検出素子1,2が設置される。
【0067】
各相の回路部10は、バスバー23U,23V,23Wのクランク部とともにケース部27に収納される。バスバー23UにはU相電流、バスバー23VにはV相電流、バスバー23VにはW相電流がそれぞれ流れる。このように、長板状の導体20にクランク部を形成したバスバーと回路部10の組み合わせを電流検出装置30Bが3組備えることで、電流検出装置30Bにおいて、各相に設けられた磁気検出素子1,2を用いて三相の電流を検出できるようにしている。
【0068】
図14Bは、本発明の第2の実施形態に係る電流検出装置の回路部の配置を説明する図である。
図14Bでは、各相の回路部10の配置を見易くするため、
図14Aに示したバスバー23U,23V,23WをY軸方向にずらして並べ換え、回路部10とともにZ軸方向から見たときの正面図を示している。
【0069】
図14Bにおいても、第1の実施形態で説明した
図12と同様に、バスバー23Vのクランク部の中心位置を表す基準線Jと、バスバー23U,23Wのクランク部の中心位置を表す基準線Kとは、X軸方向で互いに偏移距離Mだけずれている。また、バスバー23U,23V,23Wにそれぞれ配置された回路部10は、バスバー23U,23V,23Wに対して、一対の磁気検出素子1,2が前述の非対称位置、すなわち
図9Aで説明した位置c,dに相当する位置となるように取り付けられている。
【0070】
図14Bでは、バスバー23Vに取り付けられている回路部10の中心位置、すなわちV相に対応する磁気検出素子1,2の中心位置と、バスバー23Vに隣接して配置されたU相、W相のバスバー23U,23Wのクランク部の中心位置を表す基準線Kとが、バスバー23U,23V,23Wの延伸方向であるZ軸方向において一致するように、これらの位置関係が定められている。同様に、バスバー23U,23Wに取り付けられている回路部10の中心位置、すなわちU相及びW相に対応する磁気検出素子1,2の中心位置と、バスバー23U,23Wに隣接して配置されたV相のバスバー23Vのクランク部の中心位置を表す基準線Jとが、バスバー23U,23V,23Wの延伸方向であるZ軸方向において一致するように、これらの位置関係が定められている。これを換言すると、互いに隣接する相、すなわちU相とV相、及びV相とW相の回路部10における磁気検出素子1,2の中心間の偏位距離は、バスバー23U,23V,23Wのクランク部間の偏移距離Mと同一である。これにより、第1の実施形態と同様に、各相の一対の磁気検出素子1,2から得られる検出信号の差動演算値において、隣相の磁束密度による検出値をキャンセルすることができる。したがって、隣相の磁束密度の影響を低減できる効果が得られる。
【0071】
ここで、第1、第2の実施形態における上述の効果、すなわち隣相からの磁束の影響の低減効果を得るための最良の構成について説明する。例えば、第1の実施形態で説明したようなU字形の屈曲部を有するバスバー20U,20V,20W、及び、第2の実施形態で説明したようなU字形のクランク部を有するバスバー23U,23V,23Wにおいて、これらのU字形の始点から終点までの間には、各バスバーの向きがY軸方向で180度変化する。このようなバスバーの向きの変化は、各バスバーに流れる相電流の向きの変化に相当する。すなわち、各バスバーでは、屈曲部やクランク部において相電流の向きがY軸方向に180度変化する。こうした前提条件において、第1、第2の実施形態で説明した電流検出装置30A,30Bでは、互いに隣接する相のバスバーにおける屈曲部又はクランク部の位置に関して、相電流の向きの差が略90度となるように、互いにずらして配置することが好ましい。このようにすれば、隣相からの磁束の影響の低減効果を十分に得ることができる。
【0072】
本発明の実施形態に係る電流検出装置30A,30B(以下、まとめて「電流検出装置30」ともいう)は、つぎのように総括できる。
【0073】
[1]電流検出装置30は、被測定電流が印加される導体20(バスバー20U,20V,20W及びバスバー23U,23V,23W)と、被測定電流によって導体20の周囲に発生する磁束をそれぞれ検出する少なくとも一対の磁気検出素子1,2を有し、一対の磁気検出素子1,2から得られる検出信号に基づいて被測定電流を検出する回路部10と、を備える。一対の磁気検出素子1,2は、導体20の断面中心Eを避け、かつ断面中心Eからの距離が互いに異なる非対称位置c,dに配置されている。このようにしたので、外部磁界の影響を抑制し、周波数特性が高周波域まで良好なコアレスタイプの電流検出装置を提供できる。
【0074】
[2]上記[1]に記載の電流検出装置30において、一対の磁気検出素子1,2は、導体20の断面中心Eからの距離が等しい対称位置から所定の偏移距離Gだけ偏移して、非対称位置c,dに配置されている。この偏移距離Gは、一対の磁気検出素子1,2がそれぞれ同一方向の磁束を検出する配置、及び、一対の磁気検出素子1,2のどちらか一方が磁束を検出しない配置を避けるように決定されることが好ましい。このようにすれば、外部磁界の影響を抑制しつつ、高周波域まで良好な周波数特性を実現することができる。
【0075】
[3]上記[1]に記載の電流検出装置30において、導体20は、所定の延伸方向に延在し、その延伸方向に垂直な断面が板厚方向よりも幅方向に長い長板形状を有している。一対の磁気検出素子1,2は、この導体20の幅方向または板厚方向に並べて配置されている。このようにしたので、長板形状の導体20に対して、一対の磁気検出素子1,2を非対称位置に確実に配置することができる。
【0076】
[4]上記[1]に記載の電流検出装置30において、回路部10は、一対の磁気検出素子1,2を固定する基材15を有する。一対の磁気検出素子1,2は、基材15を介して非対称位置c,dに配置されている。このようにしたので、導体20に対して一対の磁気検出素子1,2を正確に位置決めし、非対称位置に確実に配置することができる。
【0077】
[5]上記[1]に記載の電流検出装置30において、一対の磁気検出素子1,2は、導体20に形成された屈曲部又はクランク部に近接して配置されている。さらに、電流検出装置30は、バスバー20U,20V,20W又はバスバー23U,23V,23Wとしての導体20を複数有し、この複数の導体20のそれぞれには、異なる相の被測定電流が流れる。一対の磁気検出素子1,2は、複数の導体20のそれぞれに対して、非対称位置に配置されている。また、
図12,14Bでそれぞれ説明したように、任意の相に対応する一対の磁気検出素子1,2の中心位置と、当該相に対応する導体20に隣接して配置された導体20の屈曲部又はクランク部の中心位置とは、導体20の延伸方向において一致する。このようにしたので、複数相の電流を検出可能な電流検出装置30において、隣相からの磁束の影響を抑制することができる。
【0078】
[6]上記[5]に記載の電流検出装置30において、複数の導体20は、互いに隣接する相の屈曲部又はクランク部における被測定電流の向きの差が略90度となるように、互いにずらして配置されていることが好ましい。このようにすれば、隣相からの磁束の影響の低減効果を十分に得ることができる。
【0079】
[7]上記[1]に記載の電流検出装置30において、磁気検出素子1,2は、ホール素子、MR素子、GMR素子、又はTMR素子が好適である。このようにすれば、所望の検出性能を有する磁気検出素子を容易かつ確実に実現できる。
【0080】
なお、以上説明した各実施形態において、一対の磁気検出素子1,2に加えて、さらに任意の個数の磁気検出素子を配置しても良い。その場合、各磁気検出素子の配置は、対称位置a,b又は非対称位置c,dとしても良いし、他の位置としても良い。少なくとも一対の磁気検出素子1,2を有し、その磁気検出素子1,2の配置が上述のような特徴を満たすものであれば、任意の個数及び配置で磁気検出素子を有する電流検出装置において本発明を適用することができる。
【0081】
また、以上説明した各実施形態では、被測定電流が流れる導体として、所定の延伸方向に延在する長板形状の導体20を説明したが、他の形状の導体としても良い。例えば、所定の延伸方向に延在する丸棒状、角棒状または線状の導体などを用いることが可能である。その場合でも、少なくとも一対の磁気検出素子1,2を有し、その磁気検出素子1,2の配置が上述のような特徴を満たすことで、本発明を適用した電流検出装置を実現できる。
【0082】
本発明は、上記の実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の特徴を損なわない限り、本発明の技術思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、上述の複数の実施形態を組み合わせた構成としてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1,2 磁気検出素子、3 駆動部、4 制御部、5 第一の増幅部、6 第二の増幅部、7 差動演算部、8 出力部、9 記憶部、10 回路部、11 正電源端子、12 負電源端子、13 出力端子、14 負荷抵抗、15 基材、20 導体、20U,20V,20W,23U,23V,23W バスバー、24 折り曲げ線、29 スリット、30A,30B 電流検出装置