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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】産業用ロボット及び診断方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/06 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
B25J19/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020164678
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056757
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 隆之
(72)【発明者】
【氏名】田辺 智樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 一樹
(72)【発明者】
【氏名】志村 芳樹
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-314242(JP,A)
【文献】特開2013-244564(JP,A)
【文献】特開2016-173110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
H01L 21/67-21/687
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節部に設けられた減速機と、
前記減速機の測定温度を取得する温度センサと、
前記関節部の駆動速度を算出し、当該駆動速度の減速による発熱量を算出し、当該発熱量に基づいて前記減速機の想定温度を算出し、前記温度センサで測定された前記減速機の測定温度と前記想定温度とを比較し、前記測定温度と前記想定温度との差分が高温閾値以上の場合に警告する制御部とを備え、
前記制御部は、
稼働開始からの経過期間が想定稼働期間以上の場合、前記減速機の経年劣化により発熱したと推測し、
稼働開始からの経過期間が想定稼働期間未満の場合、前記関節部を冷却する媒体の流量が必要量未満のため発熱したと推測する
ことを特徴とする産業用ロボット。
【請求項2】
前記媒体の流量を測定する流量計を更に備え、
前記制御部は、
前記流量計により測定された前記流量が前記必要量未満であった場合も、前記媒体の流量が必要量未満のため発熱したと推測する
ことを特徴とする請求項1に記載の産業用ロボット。
【請求項3】
前記温度センサは、
前記減速機のグリス封入部の外部に設けられ、
前記制御部は、
前記差分が低温閾値未満であり、前記経過期間が前記想定稼働期間よりも短い初期稼働期間以内であった場合、前記グリス封入部へのグリス封入量が既定量以下であると推測する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の産業用ロボット。
【請求項4】
前記制御部は、
ライン稼働時の前記減速機の前記測定温度を記録し、前記発熱量に応じた特定時間の統計値から前記高温閾値を算出する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の産業用ロボット。
【請求項5】
産業用ロボットの診断方法であって、
前記産業用ロボットは、
関節部に設けられた減速機と、前記減速機の測定温度を取得する温度センサとを備え、
前記関節部の駆動速度を算出し、当該駆動速度の減速による発熱量を算出し、当該発熱量に基づいて前記減速機の想定温度を算出し、前記温度センサで測定された前記減速機の測定温度と前記想定温度とを比較し、前記測定温度と前記想定温度との差分が高温閾値以上の場合に警告し、
稼働開始からの経過期間が想定稼働期間以上の場合、前記減速機の経年劣化により発熱したと推測し、
稼働開始からの経過期間が想定稼働期間未満の場合、前記関節部を冷却する媒体の流量が必要量未満のため発熱したと推測する
ことを特徴とする診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、減速機を備える産業用ロボット、及び産業用ロボットの診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、産業用ロボットの減速機の故障等の診断方法が開示されている。たとえば、特許文献1には、減速機の摩耗に起因するグリスの鉄粉濃度を基にグリスのサンプリングから減速機の故障診断を行う方法が記載されている。この方法では、減速機の所定の負荷状態でのモータの積算回転量に対応する仕事量と、鉄粉濃度との関係を規定する磨耗進行特性とを作成する。そして、増加する複数段階の仕事量範囲W1~W3に対して減速機の交換に至る保守作業の内容を規定する複数段階の保守レベルを磨耗の進行度に応じて指示し得るように、磨耗進行特性を基に鉄粉濃度の許容値上限値をそれぞれ規定する保守レベル指示データを作成する。この上で、定期的にグリスをサンプリングした時点の仕事量に対する鉄粉濃度が、許容上限値を上廻るか否かを判断することにより、所属の仕事量範囲W1~W3の保守レベルを指示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-226488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、定期的にグリスのサンプリングを行わなければならず、それまでに故障が発生した場合に早期発見できないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消し、減速機に対する問題の早期発見が可能な産業用ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の産業用ロボットは、関節部に設けられた減速機と、前記減速機の測定温度を取得する温度センサと、前記関節部の駆動速度を算出し、当該駆動速度の減速による発熱量を算出し、当該発熱量に基づいて前記減速機の想定温度を算出し、前記温度センサで測定された前記減速機の測定温度と前記想定温度とを比較し、前記測定温度と前記想定温度との差分が高温閾値以上の場合に警告する制御部とを備え、前記制御部は、稼働開始からの経過期間が想定稼働期間以上の場合、前記減速機の経年劣化により発熱したと推測し、稼働開始からの経過期間が想定稼働期間未満の場合、前記関節部を冷却する媒体の流量が必要量未満のため発熱したと推測することを特徴とする。
このように構成することで、減速機に対する問題を早期発見できる。また、機器的な消耗に対する発熱を推測できる。
【0009】
本発明の産業用ロボットは、前記媒体の流量を測定する流量計を更に備え、前記制御部は、前記流量計により測定された前記流量が前記必要量未満であった場合も、前記媒体の流量が必要量未満のため発熱したと推測することを特徴とする。
このように構成することで、媒体流量不足による発熱を正確に推測できる。
【0010】
本発明の産業用ロボットは、前記温度センサは、前記減速機のグリス封入部の外部に設けられ、前記制御部は、前記差分が低温閾値未満であり、前記経過期間が前記想定稼働期間よりも短い初期稼働期間以内であった場合、前記グリス封入部へのグリス封入量が既定量以下であると推測することを特徴とする。
このように構成することで、初期稼働時のグリス封入量の不足を推測できる。
【0012】
本発明の産業用ロボットは、前記制御部は、ライン稼働時の前記減速機の前記測定温度を記録し、前記発熱量に応じた特定時間の統計値から前記高温閾値を算出することを特徴とする。
このように構成することで、より適切な高温閾値を算出できる。
【0013】
本発明の診断方法は、産業用ロボットの診断方法であって、産業用ロボットの診断方法であって、前記産業用ロボットは、関節部に設けられた減速機と、前記減速機の測定温度を取得する温度センサとを備え、前記関節部の駆動速度を算出し、当該駆動速度の減速による発熱量を算出し、当該発熱量に基づいて前記減速機の想定温度を算出し、前記温度センサで測定された前記減速機の測定温度と前記想定温度とを比較し、前記測定温度と前記想定温度との差分が高温閾値以上の場合に警告し、稼働開始からの経過期間が想定稼働期間以上の場合、前記減速機の経年劣化により発熱したと推測し、稼働開始からの経過期間が想定稼働期間未満の場合、前記関節部を冷却する媒体の流量が必要量未満のため発熱したと推測することを特徴とする。
このように構成することで、減速機に対する問題を早期発見できる。また、機器的な消耗に対する発熱を推測できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、関節部の動作量に基づいて減速機の想定温度を算出し、温度センサで測定された減速機の測定温度と想定温度とを比較し、測定温度と想定温度との差分が高温閾値以上の場合に警告することで、減速機に対する問題の早期発見が可能な産業用ロボットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る産業用ロボットの制御構成を示すブロック図である。
図2図1に示す産業用ロボットの概略断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る診断処理のフローチャートである。
図4図3に示す診断処理の概念図である。
図5】本発明の他の実施の形態に係る産業用ロボットの制御構成を示すブロック図である。
図6】本発明の他の実施の形態に係る診断処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施の形態>
〔産業用ロボット1の構成〕
図1により、本発明の実施の形態に係る産業用ロボット1の制御構成について説明する。本実施形態の産業用ロボット1は、例えば、ガラス等の基板を搬送する産業用ロボットである。産業用ロボット1は、例えば、各種フラットパネルディスプレイの製造ライン等に設置されて使用される。
産業用ロボット1は、制御部10、記憶部11、駆動部12、減速機13、温度センサ14を含んで構成される。
【0017】
制御部10は、管理者の指示の情報に応じて、産業用ロボットの制御を行う情報処理部である。制御部10は、例えば、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Processor、特定用途向けプロセッサー)等で構成される。
具体的には、制御部10は、記憶部11に記憶された制御プログラムを読み出して実行することで、機能手段として動作させられる。
加えて、制御部10は、稼働している時間をクロックにより測定するタイマを備えている。または、別途、リアルタイムタイマが制御部10に接続されていてもよい。
【0018】
記憶部11は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の半導体メモリー、HDD(Hard Disk Drive)等の一時的でない記録媒体である。
記憶部11には、制御プログラム、OS(Operating System)、各種データが格納されている。
【0019】
駆動部12は、アーム3(図2)を駆動させるモータ等の駆動機構及びエンコーダ等を含む。このモータ等は、関節毎に複数備えられていてもよい。
【0020】
減速機13は、関節部4に設けられた減速機構である。本実施形態の減速機13は、駆動部12のモータの回転を減速してアーム3に伝達する。この減速機13は、例えば、特開2020-69576号公報に記載されたような、プーリー等を用いる減速機構を備えていてもよい。
【0021】
温度センサ14は、減速機13の温度を測定し、測定温度として取得するセンサである。温度センサ14は、例えば、熱電対や赤外線センサ等とA/D(Analog to Digital)コンバータとを用いて、所定範囲の温度値を出力する。温度センサ14は、減速機13の外部から減速機13の温度をリアルタイム(実時間)で測定することが可能である。
【0022】
さらに、産業用ロボット1は、産業用ネットワークにより、製造ライン上の他の産業用ロボット1、PLC(Programmable Logic Controller)やDCS(Distributed Control System)等(以下、単に「PLC等」という。)、制御用の上位装置と接続されていてもよい。
【0023】
次に、図2により、本実施形態に係る産業用ロボット1の外観について説明する。
図2(a)によれば、本実施形態に係る産業用ロボット1が水平多関節型のロボットである例について説明する。産業用ロボット1は、ガラス基板が搭載されるハンド2と、ハンドが先端側に回動可能に連結されるアーム3と、アーム3の基端側が回動可能に連結される関節部4と、関節部4を格納する本体部5とを備えている。図2(a)では、駆動部12が本体部5に設けられ、減速機13がアーム3と本体部5との連結部に軸着されている例を示している。詳細は説明しないものの、本体部5には、本実施形態の関節部4及び駆動部12の冷却用の媒体である空気を流入させるチューブと、排出させるチューブとが接続されている。
【0024】
図2(b)により、減速機13の詳細について説明する。
本実施形態に係る減速機13は、径方向の中心に貫通孔が形成された中空減速機13である例について説明する。具体的には、減速機13は、中空波動歯車等により軸の回転を減速させる減速機構が備えられている。本実施形態においては、この減速機構はグリス封入部Gに浸透されて、潤滑される。グリス封入部Gには、磁気流体シール等でグリスが封入されている。このグリスは、工場出荷時等にグリス封入部Gに注入される。このうち、余分なグリスは、グリス封入部Gに接続されたチューブ(図示せず)を介して、本体部5の外部に設けられたグリス受けに排出される。
【0025】
ここで、本実施形態においては、温度センサ14は、減速機13のグリス封入部Gの外部に設けられている。図2(b)の例では、温度センサ14は、グリス封入部Gを保持する金属製の部材に着設されている。このため、減速機構による軸の減速に伴う摩擦熱は、グリスを介して伝導され、温度センサ14で間接的に測定される。
【0026】
次に、再び図1を参照して、産業用ロボット1の減速機13の診断についての機能構成について説明する。
【0027】
本実施形態において、制御部10は、関節部4の動作量に基づいて減速機13の想定温度を算出する。この上で、制御部10は、温度センサ14で測定された減速機13の測定温度を取得する。そして、制御部10は、この測定温度と想定温度とを比較し、測定温度と想定温度との差分が高温閾値以上の場合に警告する。
【0028】
具体的には、制御部10は、稼働開始からの経過期間が想定稼働期間以上の場合、経年劣化により発熱したと推測し、これを警告時に通知する。一方、制御部10は、経過期間が想定稼働期間未満の場合、空気の流量が必要量未満のため発熱したと推測し、これを警告時に通知する。
【0029】
また、制御部10は、測定温度と想定温度との差分が低温閾値未満であり、経過時間が初期稼働期間以内であった場合、グリス封入部へのグリス封入量が既定量以下であると推測して警告することも可能である。これは、グリスが少ないと、減速機構への熱伝導率が低下するためである。
【0030】
加えて、制御部10は、ライン稼働時の減速機13の測定温度を温度記録情報210に記録する。この上で、制御部10は、動作に応じた特定時間の統計値から高温閾値を算出することが可能である。
【0031】
閾値稼働情報200は、各種閾値のテーブル等である。閾値稼働情報200は、想定温度、高温閾値、及び低温閾値を算出するための一次式のパラメータ等の各値を含む。本実施形態においては、この一次式は、動作量と温度との関係についての関係を示す式である例について記載する。すなわち、例えば、高温閾値を求めるため、y=a×x+bのような式として、yは温度、aは動作量と温度との関係を示すパラメータ、xは動作量、bは産業用ロボット1周囲の温度を示すようなものを用いることが可能である。なお、この「一次式」は、必ずしも上記例のような直線(リニア)の式でなくてもよい。
【0032】
ここで、本実施形態に係る高温閾値は、減速機13が稼働する際に、想定の温度上昇以上であることを算出するための閾値である。低温閾値は、減速機13が稼働する際に、想定の温度上昇未満であることを算出するための閾値である。本実施形態においては、低温閾値は、高温閾値よりも低く設定される。
【0033】
加えて、閾値稼働情報200は、工場出荷時時点やメンテナンス終了時点(以下、「稼働開始時点」という。)から産業用ロボット1が稼働している期間(以下、単に「稼働期間」という。)を記録している。さらに、閾値稼働情報200は、稼働開始時点からメンテナンスが必要になる期間である想定稼働期間の値も含んでいてもよい。この想定稼働期間は、例えば数ヶ月~数年のような期間が、産業用ロボット1の構成や動作頻度の見込み等に応じて設定される。さらに、閾値稼働情報200は、稼働開始時点からの初期不良が想定される期間である初期稼働期間の値も含んでいてもよい。この初期稼働期間は、想定稼働期間よりも短い期間の値が設定される。
【0034】
温度記録情報210は、稼働期間、関節部4の動作量、ライン稼働時の減速機13の測定温度等を記録した履歴のデータベース等である。
【0035】
なお、制御部10の各機能手段は、プログラマブルロジック回路、FPGA等で回路的に構成されてもよい。
【0036】
〔減速機13の診断処理〕
次に、図3図4により、本発明の実施の形態に係る診断処理の説明を行う。本実施形態に係る診断処理では、減速機13の診断を行う。このため、本実施形態の診断処理では、関節部4の動作量に基づいて減速機13の想定温度を算出する。そして、温度センサ14で測定された減速機13の測定温度と想定温度とを比較する。この上で、測定温度と想定温度との差分が高温閾値以上の場合に警告する。
本実施形態の診断処理は、主に制御部10が、記憶部11に記憶された制御プログラム(図示せず)を、各部と協働し、ハードウェア資源を用いて実行する。
以下で、図3のフローチャートにより、本実施形態に係る診断処理の詳細について、ステップ毎に説明する。
【0037】
(ステップS100)
まず、制御部10が動作取得処理を行う。
まず、図示しない制御用の上位装置からの指示を基に、PLC等から動作の指示を行うコマンド等が産業用ネットワーク等へ出力される。
制御部10は、このコマンド等をPLC等から取得し、これに応じて駆動部12を駆動させる。これにより、例えば、ライン上でガラス等が把持され、移動される。これに伴い、減速機13も減速機構を動作させ、発熱が生じる。
【0038】
(ステップS101)
次に、制御部10が想定温度閾値算出処理を行う。
まず、制御部10は、関節部4の動作量に基づいて減速機13の想定温度を算出する。具体的には、制御部10は、例えば、上述のコマンド等から駆動部12による関節の駆動速度を算出し、この駆動速度から減速による発熱量を算出する。さらに、減速しない場合の時間経過による冷却量、すなわちマイナスの発熱量を算出する。
この上で、制御部10は、この発熱量と冷却量との差分を基に所定の一次式に当てはめて温度上昇度を算出し、現在の気温にこの温度上昇度を累積したものを、現時点の想定温度として算出する。
【0039】
この上で、制御部10は、高温閾値及び低温閾値を算出する。
制御部10は、閾値稼働情報200を参照し、想定温度から第一特定割合だけ高い温度に基づいて高温閾値の温度設定する。この第一特定割合は、例えば、減速機13の経年劣化に伴うベアリングの摩耗により上昇する割合等を基に設定されてもよい。
一方、制御部10は、想定温度から第二特定割合だけ低い温度に基づいて低温閾値の温度設定する。この第二特定割合は、グリス封入部Gのグリス量が不足する際に測定温度が低下する割合等を基に設定されてもよい。
【0040】
図4(a)(b)の例では、それぞれ、算出された想定温度Pを一点鎖線で示す。この各グラフでは、横軸が経過時間tを、縦軸が温度℃を示している。これらの例では、アームが動作すると、減速機13も動作するため、想定温度Pが上昇している。
また、図4(a)では、右端の時間tの想定温度Pに対して高温閾値hHが反映された温度の例を二点鎖線で示している。一方、図4(b)では、右端の時間tの想定温度Pに対して低温閾値hLが反映された温度の例を二点鎖線で示している。
【0041】
(ステップS102)
ここで、制御部10が、測定温度取得処理を行う。
制御部10は、温度センサ14により測定された減速機13の測定温度を取得する。
図4(a)(b)の例では、それぞれ、測定温度Mを実線で示している。図4(a)の例では、アームが動作すると、測定温度Mが想定温度Pよりも高くなっている。一方、図4(b)では、アームが動作してもと、測定温度Mが想定温度Pよりも低くなっている。
【0042】
(ステップS103)
次に、制御部10が、測定温度と想定温度との差分は高温閾値以上であるか否かを判定する。制御部10は、測定温度と想定温度とを比較し、測定温度と想定温度との差分を算出する。この上で、制御部10は、算出された測定温度と想定温度との差分が高温閾値以上であった場合に、Yesと判定する。制御部10は、それ以外の場合には、Noと判定する。
図4(a)では、右端の時点で、測定温度Mが高温閾値hHの反映された温度を超えている例を示す。
Yesの場合、制御部10は、処理をステップS104に進める。
Noの場合、制御部10は、処理をステップS107に進める。
【0043】
(ステップS104)
測定温度と想定温度との差分が高温閾値以上の場合、制御部10が想定稼働期間未満であるか否かを判定する。
制御部10は、閾値稼働情報200を参照し、産業用ロボット1が稼働してからの期間が想定稼働期間未満であった場合に、Yesと判定する。制御部10は、それ以外の場合、すなわち想定稼働期間以上であった場合には、Noと判定する。
Yesの場合、制御部10は、処理をステップS105に進める。
Noの場合、制御部10は、処理をステップS106に進める。
【0044】
(ステップS105)
稼働期間が想定稼働期間未満であった場合、制御部10が、流量不足推測処理を行う。
制御部10は、冷却用の媒体の流量が必要量未満のため発熱したと推測する。本実施形態においては、この媒体として空気の流量が不足していると推測する。
その後、制御部10は、処理をステップS110に進める。
【0045】
(ステップS106)
稼働期間が想定稼働期間以上であった場合、制御部10が、経年劣化推測処理を行う。
制御部10は、発熱の原因は、想定稼働期間以上の稼働による、ベアリングの摩耗等の経年劣化により発熱したと推測する。
その後、制御部10は、処理をステップS110に進める。
【0046】
(ステップS107)
測定温度と想定温度との差分が高温閾値未満の場合、制御部10が低温閾値未満であるか否かを判定する。制御部10は、測定温度と想定温度との差分が低温閾値未満である場合に、Yesと判定する。制御部10は、それ以外の場合には、Noと判定する。
図4(b)では、右端の時点で、測定温度Mが温閾値hLの反映された温度未満である例を示す。
Yesの場合、制御部10は、処理をステップS108に進める。
Noの場合、制御部10は、処理をステップS112に進める。
【0047】
(ステップS108)
測定温度と想定温度との差分が低温閾値未満である場合、制御部10が初期稼働期間以内であるか否かを判定する。制御部10は、閾値稼働情報200を参照し、産業用ロボット1が稼働してからの期間が初期稼働期間以内であった場合に、Yesと判定する。制御部10は、それ以外、すなわち、初期稼働期間よりも長い期間であった場合には、Noと判定する。
Yesの場合、制御部10は、処理をステップS109に進める。
Noの場合、制御部10は、処理をステップS112に進める。
【0048】
(ステップS109)
初期稼働期間以内の場合、制御部10が、グリス封入量不足推測処理を行う。
制御部10は、グリス封入部Gへのグリス封入量が既定量以下であると推測する。すなわち、制御部10は、グリスが少ないため、減速機13の動作に伴い発生した熱がグリス封入部Gの外部に設けられた温度センサ14に十分伝達(到達)していないと推測する。
その後、制御部10は、処理をステップS110に進める。
【0049】
(ステップS110)
ここで、制御部10が、警告処理を行う。
制御部10は、PLC等や制御用の上位装置に対して、産業用ネットワークにて、異常信号による警告を送信する。この際、上述の推測の内容により、異常箇所、測定温度等も付加する。また、制御部10は、温度記録情報210に、この警告を記録する。
【0050】
(ステップS111)
次に、制御部10がロボット停止等処理を行う。
制御部10は、警告が所定期間継続した場合、産業用ロボット1のLED等にてエラーを報知し、産業用ロボット1の動作をサーボオフ又は停止させる。この際、ブザー音等を出力してもよい。また、制御部10は、温度記録情報210に、停止状態になった旨を記録する。
その後、制御部10は、本発明の実施の形態に係る診断処理を終了する。
【0051】
(ステップS112)
ここで、制御部10が、温度記録処理を行う。
制御部10は、稼働期間、測定温度、動作量、測定温度等の値を温度記録情報210のデータベースに記録する。ここで、上述の警告が必要ない状態では、測定温度と想定温度との差分が低温閾値以上で高温閾値未満であることが記録される。または、低温閾値未満であっても初期稼働期間を過ぎている場合は、空気量が十分以上であると推測されるため、その旨も記録される。
【0052】
(ステップS113)
次に、制御部10が動作終了か否かを判定する。
制御部10は、コマンド等による駆動部12の駆動が終了した場合に、Yesと判定する。制御部10は、それ以外の場合には、Noと判定する。
Yesの場合、制御部10は、処理をステップS100に戻して、次のコマンド等の取得を待つ。この間に、時間経過に応じて、空気により減速機13は冷却され、測定温度が低下していく。
Noの場合、制御部10は、処理をステップS102に戻して、測定温度の取得を続ける。この場合は、減速機13の発熱が続く。
以上により、本発明の実施の形態に係る診断処理を終了する。
【0053】
〔本実施形態の主な効果〕
以上のように構成することで、以下のような効果を得ることができる。
従来、産業用ロボットでは、減速機13外形やモータにバイメタルのセンサを設けていることがあった。つまり、バイメタルのセンサで、閾値を越えた温度が検出された際に、温度異常のエラーによりロボットを停止、サーボオフする。そのため、温度異常になるまでは、状態確認ができなかった。
これについて、特許文献1に記載されたような減速機13の摩耗に起因するグリスの鉄粉濃度を基にグリスのサンプリングから減速機13の故障診断を行う技術では、定期的にグリスのサンプリングを行わなければならない。このため、それまでに故障が発生した場合に早期発見できないという問題があった。
【0054】
これに対して、本発明の産業用ロボット1は、関節部4に設けられた減速機13と、減速機13の測定温度を取得する温度センサ14と、関節部4の動作量に基づいて減速機13の想定温度を算出し、温度センサ14で測定された減速機13の測定温度と想定温度とを比較し、測定温度と想定温度との差分が高温閾値以上の場合に警告する制御部10とを備えることを特徴とする。
【0055】
このように構成し、産業用ロボット1の動作量から減速機13の想定温度を算出し、常時温度監視を行って比較することで、減速機13及びグリスの状態を推定し、問題となりそうな状態の場合には警告することが可能となる。すなわち、減速機13、グリスの状態、及び動作状況を推測して警告することができる。また、想定温度と比較することで、温度異常になる前に警告を発することが可能となる。このため、減速機13に対する問題を早期発見することができる。すなわち、製造ライン内の産業用ロボット1に対して本実施形態の診断を行うことで、問題を早期発見できる。このため、製造ラインの停止時間を短縮し、損失を最小限に抑えることが可能となる。
【0056】
本発明の産業用ロボット1では、制御部10は、稼働開始からの経過期間が想定稼働期間以上の場合、経年劣化により発熱したと推測することを特徴とする。
【0057】
このように構成することで、動作量に対して減速機13の測定温度が高い場合、想定稼働期間を超えた後の機器的な消耗、例えば、ベアリングの摩耗等による発熱を推測して警告することができる。これにより、産業用ロボット1を適切な時期にメンテナンスさせることができ、より長く稼働させることができる。加えて、ラインの停止等を少なくして、メンテナンスを容易とすることができる。
【0058】
本発明の産業用ロボット1では、制御部10は、稼働開始からの経過期間が想定稼働期間未満の場合、冷却用の媒体の流量が必要量未満のため発熱したと推測することを特徴とする。
【0059】
このように構成することで、測定温度が高いものの、想定稼働期間以前の場合、空気等の冷却用の媒体流量が必要量に達していないと推測できる。よって、発熱によるトラブル発生を事前に防ぐことが期待できる。
【0060】
また、従来、作業ミス等によりグリス封入量が既定よりも少ない場合、減速機13の外部には熱が充分に伝わらず低い温度となるため、異常が検出できないことがあった。
これに対して、本発明の産業用ロボット1では、温度センサ14は、減速機13のグリス封入部の外部に設けられ、制御部10は、差分が高温閾値よりも低い低温閾値未満であり、経過時間が想定稼働期間よりも短い初期稼働期間以内であった場合、グリス封入部へのグリス封入量が既定量以下であると推測して警告することを特徴とする。
【0061】
このように構成することで、初期稼働時に、グリス封入部Gのグリス封入量が規定量より少ないと推測して、警告することが可能となる。これにより、グリス不足によるトラブルを事前に防止することができる。よって、減速機13内部の発熱によるトラブル発生を事前に防ぐことができる。一方、初期稼働期間を過ぎた場合は、減速機13のグリスは流出しづらいため、グリス封入量不足によるトラブル発生は生じにくいと考えられる。このため、無用な警告を抑制して、メンテナンスをし易くすることができる。
【0062】
〔他の実施形態〕
なお、上述の実施の形態においては、空気等の冷却用の媒体の流量不足を温度にて推測する例について説明した。
しかしながら、図5によれば、本発明の他の実施形態に係る産業用ロボット1bとして、媒体の流量を測定する流量計15を更に備えてもよい。この流量計15は、媒体の流量を数値として取得可能であってもよい。
ここで、図5の産業用ロボット1bにおいては、流量計15以外の構成は、図1の産業用ロボット1と同様である例を示す。
【0063】
図6は、このような産業用ロボット1bにおける減速機13の診断処理の例を示す。この例では、図3のステップS104の後にステップS120が追加されており、他は図3と同様である。下記で、このステップS120の詳細について説明する。
【0064】
(ステップS120)
制御部10は、流量計15により測定された流量を取得する。制御部10は、この流量が必要量未満であった場合、Yesと判定する。一方、制御部10は、流量が必要量以上であった場合は、Noと判定する。
Yesの場合、制御部10は、処理をステップS105に進める。これにより、ステップS105の流量不足推測処理が実行される。よって、この場合、経過期間が想定稼働期間以上であるにも関わらず、媒体の流量が必要量未満のため発熱すると推測される。
Noの場合、制御部10は、処理をステップS106に進める。これにより、経年劣化推測処理が実行される。
【0065】
このように構成することで、稼働期間が想定稼働期間以上であっても、経年劣化ではなく冷却用の媒体の流量不足について推測し、警告することができる。よって、より正確なメンテナンスを実現できる。また、流量不足の警告により冷却用の媒体の流量を増やすことで、経年劣化した状態でも、より長期間、減速機13をメンテナンスせずに用いることも可能となる。
【0066】
なお、上述の実施形態においては、冷却用の媒体として、空気を用いる例について記載した。しかしながら、空気以外の水、不凍液、アルコール、オイル、イオン液体やフッ素樹脂系の冷却用化合物、液体金属、その他の各種の冷却用の媒体を用いることも可能である。
【0067】
上述の実施形態においては、閾値稼働情報200に、高温閾値、低温閾値が既に設定されている例について記載した。
しかしながら、本発明の他の実施形態に係る産業用ロボットとして、制御部10は、ライン稼働時の減速機13の測定温度を記録し、動作量に応じた特定時間の統計値から高温閾値を算出することを特徴としてもよい。
【0068】
具体的には、上述したように、温度の変化が温度記録情報210に記録されている。制御部10は、この温度記録情報210から、例えば、特定期間として、前回の稼働開始から想定稼働期間までの期間についての統計値を算出してもよい。より具体的には、制御部10は、特定期間内の動作量と測定温度の上昇度との関係について平均や標準偏差等の統計値を算出し、これに基づいて高温閾値を算出する。具体的には、例えば、動作毎に特定時間の平均値+σ(標準偏差)又は平均値+2×σを診断のための高温閾値としてもよい。または、制御部10は、温度記録情報210から、発熱量と冷却量とを統計推定して、これを基に高温閾値を算出してもよい。
【0069】
すなわち、温度記録情報210から、動作量に応じた特定時間の統計値を算出し、これを基に高温閾値を算出して用いることが可能である。この場合、温度記録情報210に十分な統計値を算出可能な値がなかった場合は、初期値を設定してもよい。
【0070】
さらに、特定期間としては、初期稼働期間と、想定稼働期間を過ぎた期間を用いて、これらの統計値を算出して平均化することも可能である。逆に、稼働期間により、異なる高温閾値を用いることも可能である。
これらのように構成することで、より適切な高温閾値を算出可能となる。
【0071】
また、上述の例では、単独の産業用ロボット1において、高温閾値を算出する例について記載したものの、これを他の類似機種の高温閾値を基に算出してもよい。
すなわち、本発明の他の実施形態に係る産業用ロボットとして、制御部10は、近傍のライン内の類似機種と動作量の差も考慮しつつ比較し、当該比較の結果により警告を行うことを特徴としてもよい。
このように構成することで、より適切な警告を行うことが可能となる。
【0072】
より具体的に説明すると、産業用ロボット1のレイアウト等により、動作の量や規模の見積もりが可能である。このため、ライン内の類似機種において、上述の動作量と温度との関係についての一次式により高温閾値をそれぞれ算出することが可能である。通常、同じ製造ラインでは同様の機種を複数台用いて基盤のハンドリングを行うことが多いため、必ずしも完全に同一機種でなくても、同様の産業用ロボットであれば、類似する高温閾値が算出され得る。よって、同じ製造ライン内の類似機種と、自装置の高温閾値の値とを統計検定等して比較し、動作量等の差を考慮しつつ、自己診断を行うことも可能である。これにより、より確実な警告を行うことができ、メンテナンスコストを低減可能となる。
【0073】
上述の実施形態においては、製造ライン上の産業用ロボット1について診断を行う例について記載した。しかしながら、同様の減速機13を備える単独の産業用ロボット、その他の動作量と減速機13との関係を算出可能な装置等にも適用可能である。
【0074】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0075】
1、1b 産業用ロボット
2 ハンド
3 アーム
4 関節部
5 本体部
10 制御部
11 記憶部
12 駆動部
13 減速機
14 温度センサ
15 流量計
200 閾値稼働情報
210 温度記録情報
A アーム
G グリス封入部
図1
図2
図3
図4
図5
図6