(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】フォトンカウンティングCT装置及び方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/42 20240101AFI20241126BHJP
A61B 6/03 20060101ALI20241126BHJP
A61B 6/06 20060101ALI20241126BHJP
G01T 7/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
A61B6/42 530W
A61B6/03 550G
A61B6/06 531
A61B6/42 530R
G01T7/00 A
G01T7/00 B
(21)【出願番号】P 2020171195
(22)【出願日】2020-10-09
【審査請求日】2023-07-20
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャオホイ ジャン
(72)【発明者】
【氏名】イ チャン
(72)【発明者】
【氏名】イェ ヂーホン
【審査官】佐藤 賢斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-127573(JP,A)
【文献】特開平08-154926(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0317869(US,A1)
【文献】特表2020-501760(JP,A)
【文献】特開2017-125692(JP,A)
【文献】特開2010-158377(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0258412(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - 6/58
G01T 7/00 - 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のピクセルが2次元配列されて構成され
、FOV(Field Of View)内に位置づけられるメイン検出器と、前記FOV外に位置づけられるリファレンス検出器とを備えるフォトンカウンティング検出器と、
前記フォトンカウンティング検出器に対応付けて配置され、散乱線を除去する散乱線除去グリッドと、
前記リファレンス検出器に含まれる複数のピクセルにて検出されるカウント数のうち、前記散乱線除去グリッドの影の影響を受ける第1のピクセルで検出される第1のカウント数と、前記散乱線除去グリッドの影の影響を受けない第2のピクセルで検出される第2のカウント数とに基づいて、X線管の焦点移動量を算出する算出部と、
を備える、
フォトンカウンティングCT装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記第1のカウント数と前記第2のカウント数とに基づいて、前記散乱線除去グリッドの影の長さを算出し、前記影の長さに基づいて前記焦点移動量を算出する、請求項
1に記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項3】
前記リファレンス検出器は、N(Nは3以上の整数)×Nパターンを有する少なくとも1つのグループのピクセルを備える、請求項1
又は2に記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項4】
前記散乱線除去グリッドは、前記メイン検出器をカバーする第1の散乱線除去グリッドと、前記リファレンス検出器をカバーする第2の散乱線除去グリッドとを備え、
前記第2の散乱線除去グリッドの高さは、前記第1の散乱線除去グリッドの高さよりも高い、
請求項1~
3のいずれか1つに記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項5】
前記第1の散乱線除去グリッドは、2次元の散乱線除去グリッドであり、
前記第2の散乱線除去グリッドは、2つの1次元の散乱線除去グリッドを備え、
前記2つの1次元の散乱線除去グリッドのうち、一方はチャネル方向に設置され、他方は列方向に設置される、請求項
4に記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項6】
X線管と前記リファレンス検出器との間に設けられた異なる減衰長を有する複数の放射線減衰部材を更に備える、請求項1~
5のいずれか1つに記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項7】
前記X線管の焦点移動量に基づいて、前記メイン検出器で検出されたカウント数を補正する補正部を更に備える、請求項
1に記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項8】
前記補正部は、前記メイン検出器で、チャネル方向の前記焦点移動量に基づいて検出されたカウント数及び列方向の前記焦点移動量に基づいて検出されたカウント数のそれぞれを補正する、請求項
7に記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項9】
前記影の長さは、前記X線管の焦点が第1の位置から第2の位置に移動した際に前記散乱線除去グリッドによって生じた影の長さの変化量を示す第1の長さであり、
前記算出部は、前記第1のカウント数、前記第2のカウント数、及び、前記焦点の位置が前記第1の位置である場合に前記散乱線除去グリッドによって生じた影の長さである第2の長さに基づいて、前記第1の長さを算出する、請求項
2に記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項10】
前記算出部は、前記影の長さ、及び、前記リファレンス検出器をカバーする散乱線除去グリッドの高さに基づいて、前記焦点移動量を算出する、請求項
2に記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項11】
前記リファレンス検出器で検出されたカウント数に基づいて、前記フォトンカウンティング検出器への入射線量の変化量を推定する推定部を更に備える、請求項1に記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項12】
前記推定された入射線量の変化量に基づいて、前記フォトンカウンティング検出器への入射線量を補正する補正部を更に備える、請求項
11に記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項13】
複数のピクセルが2次元配列されて構成され、FOV内に位置づけられるメイン検出器及び前記FOV外に位置づけられるリファレンス検出器を有するフォトンカウンティング検出器と、前記フォトンカウンティング検出器に対応付けて配置され、散乱線を除去する散乱線除去グリッドと、を備えるフォトンカウンティングCT装置が実行する方法であって、
前記リファレンス検出器に含まれる複数のピクセルにて検出されるカウント数のうち、前記散乱線除去グリッドの影の影響を受ける第1のピクセルで検出される第1のカウント数と、前記散乱線除去グリッドの影の影響を受けない第2のピクセルで検出される第2のカウント数とに基づいて、前記散乱線除去グリッドによって生じる影の長さを算出し、
前記影の長さに基づいてX線管の焦点移動量を算出する、方法。
【請求項14】
複数のピクセルが2次元配列されて構成され、FOV(Field Of View)内に位置づけられるメイン検出器と、前記FOV外に位置づけられるリファレンス検出器とを備えるフォトンカウンティング検出器と、
前記フォトンカウンティング検出器に対応付けて配置され、散乱線を除去する散乱線除去グリッドと、
前記リファレンス検出器で検出されたカウント数に基づいて、前記フォトンカウンティング検出器への入射線量の変化量を推定する推定部と、
を備える、
フォトンカウンティングCT装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、フォトンカウンティングCT装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なシンチレータ検出器ベースの従来のコンピュータ断層撮影(Computed Tomography:CT)システムイメージングでは、走査(スキャン)対象の被検体の一方の側のX線管は、被検体への曝露時に一定量の光子を放出し、走査対象の被検体の他方の側の検出器アレイは、放出された光子の数を計測(カウント)する。その計測値(カウント数)は、経路長に係る減衰を推定するため、走査対象の被検体を用いない同様のスキャン設定によるエアスキャンに正規化される。したがって、エアスキャンおよび被検体スキャンは異なる時間に実行されるため、タイムドメイン(時間領域)での入射X線ビームの変化(変量)は、良好な画質につながる正確な計測をするために、補正(較正)される必要がある。
【0003】
経時的なX線束の変化を良好に補正するため、一般的に、リアルタイムのX線束の変化を監視するためにシンチレータベースのエネルギー積分型検出器(Energy Integrating Detector:EID)がビーム出口の隣に設置され、スキャン間の正規化因子として用いられる。ただし、X線束の変化以外にも、X線管の種別に依存し、内部の電気的ステアリング変化およびアノード電極熱膨張、その他設計許容値により、経時的に多少は焦点(Focal Spot:FS)位置もドリフト(移動)する。このような位置の変動は通常、個々の検出器ピクセルに散乱線除去グリッド(Anti-Scatter-Grid:ASG)のシャドウプロファイルのランダムな変化を発生し、計測された強度を時々変化させ得る。非理想的ASG角度アライメントと組み合わせられたこのようなFS位置の変動は、検出器ピクセルに異なる強度のドリフト(偏差)を発生させ、結果として再構成された画像にリングアーチファクトを発生させ得る。一方、ASGは、高速回転による一定の変形を起こし、ピクセルに位置および回転速度依存の強度の変化を発生させる場合がある。
【0004】
こうした課題を解決するいくつかの方法がある。1)1つの方法は各ピクセルに一定の非アクティブ検出器領域を残し、強度の計測値に影響を与えることなくFS移動(
図1Bを参照)またはASGプレート偏向(
図1Aを参照)によるこのようなASGのシャドウ(影)の変動を可能にすること、2)ASGアライメントの正確さを改善し、ピクセル全体に良好な較正を可能にすることである(例えば、同一量による強度の増減)(
図2を参照)。
【0005】
図1A及び
図1Bはそれぞれ、ASGの角度の偏向またはFS移動によって発生する強度の変化を抑制するための非アクティブ領域が各ピクセルのエッジ(端部)に設けられた検出器設計の1種(1例)を示す。ただし、妥協として、本アプローチも幾何学的検出効率を低下させる。
【0006】
図2は、非アクティブ領域が設けられていない検出器ピクセル設計を示す。本図は、ASGシャドウがどのようにFS移動で変化するか、および公称角(基準角)に対する異なるASGプレート傾斜角による検出器ピクセルの強度の変化を示す。
【0007】
破線は、個々のASGプレートの公称焦点角を示す。実線は、チャネル方向に沿った2つの異なるFS位置による投影されたシャドウ境界を示す。ピクセル1及びピクセル2の計測された強度は、FSが位置0から位置1に移動する場合、減少するが、ピクセル4の強度は、シャドウ領域が反対方向に増加していくと増加し、ピクセル3は変化しない。
【0008】
適切な補正がないと、エアスキャンおよび被検体スキャンが異なるFS位置で行われる場合に、ピクセルのこれらの強度の変化は、個々のピクセルについて異なる正規化誤差を発生させる。これにより、画像にリングアーチファクトが生成される。
【0009】
半導体(CdTe/CZT)ベースの光子計数CT(Photon Counting CT:PCCT、フォトンカウンティングCT)では、一般的な検出器アレイ設計は通常、最大のエネルギー分解能性能を実現するための電荷共有(チャージシェアリング)効果とパルスパイルアップ効果とのトレードオフのため、従来のCT検出器と比較すると、はるかに小さいピクセルサイズを有する。一般的に、ピクセルピッチは1次元で250μmから500μmの間で選ばれ、これと比較して従来のピクセルピッチは1mm以下である。したがって、従来の検出器のピクセル領域は通常、PCCTにおけるN×Nグループのサブピクセルに相当し、ここでNは2から4の間をとり得る。高い線量効率を維持するために、ASG設計は通常、従来システムのピクセルピッチと同様のピッチ/間隔に保たれる(
図3を参照)。
【0010】
PCCTの1つの重要なアプリケーションはスペクトルイメージングである。良好な性能を実現するには、物質弁別問題を解決するための正確なX線管スペクトル情報が必要である。X線管側の現在のEID基準検出器は、X線束の合計しか監視しないので、X線管性能が変化する場合の経時的なスペクトルの変化を精度よく検出することができない。したがって、新しい基準検出器の設計が、入射スペクトルの監視や較正の用途にも必要である。
【0011】
小ピクセル化された光子計数検出器設計では、ASGプレートは通常、
図3に示すように、従来のCT設計と同様の間隔を保持する。例として3×3のサブピクセルの構成が用いられており、各サブピクセルは従来の検出器ピクセルサイズの1/3以下である。
【0012】
このような設計において、ASGシャドウは、各グループのサブピクセル1及びサブピクセル3のみに影響を及ぼし、中間のサブピクセル2は、上述したように、これらの効果の影響を受けない。したがって、完全なASGプレートアライメントによっても、サブピクセル読み出しは常に、FS移動方向に沿って検出器に正規化誤差を有し、このことは既存の装置が解決できないランダムな補正因子である。これにより、画像再構成にサブピクセルのレベルの読み出しを用いる高解像度画像にはリングアーチファクトが生じる。
【0013】
実際、ASGプレートは常に、位置精度および角精度の両方について一定の機械公差を有する。したがって、組み合わせた読み出し(例えば、3×3加算モード)にも、
図2に示すように、同様の問題があり、この効果が十分に重要である場合に、再構成に組み合わせたピクセル読み出しを用いる標準解像度画像に、リングアーチファクトを生じる。
【0014】
PCCTプロジェクト計測では、一般的に2から6のエネルギービンカウントを計測する。例として、検出器ピクセルiについて、測定された5ビンカウントは以下の式(1)及び式(2)に示すようにモデル化される。
【0015】
【0016】
N0iは、走査対象の被検体なしのエアスキャンを用いることによって決定される入射X線束である。S0i(E)は、N0iに対応する入射X線束のエネルギー分布である。D(E,E´)は、検出器応答で、エネルギーEのフォトンが入射した際にE´として検出される確率である。μj(E)は、物質jのエネルギーEに対する線減弱係数である。ljは、物質jの被写体中での長さである。X線束の変化はX線管側の基準検出器によって捕捉され補正され得る。しかし、エアスキャンのX線束の変化は、上述したように、焦点(FS)の移動でも生じ、これは、X線管側での基準検出器の読み出し(Ref)によって捕捉されることができないため、物質の経路長を推定するために以下の式(3)、式(4)及び式(5)に示すフォワードモデルを用いて誤差を導入する。
【0017】
【0018】
Nbi_refは、走査対象の被検体がある場合の、補正されたビンカウント計測値を読み出す基準であり、N0i_refは、補正されたエアスキャンを読み出す基準である。Refobj/airは、被検体スキャン/エアスキャンで基準検出器により読み取られた値である。X線管側での基準検出器により読み取られた値は、メイン検出器での焦点の移動関連のX線束の変化に敏感でない。
【0019】
さらに、上記のフォワードモデルは正確な入射スペクトルS0i(E)を既知の入力として要求し、このスペクトルの検知されない経時的なドリフトも、推定された路長に誤差を導入し、再構成された画像にバイアスを生じさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】米国特許出願公開第2004/0131158号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0121475号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0342554号明細書
【文献】米国特許出願公開第2018/0317869号明細書
【文献】中国特許出願公開第101002108号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、焦点移動量を精度よく算出することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置は、フォトンカウンティング検出器と、散乱線除去グリッドとを備える。フォトンカウンティング検出器は、複数のピクセルが2次元配列されて構成される。散乱線除去グリッドは、前記フォトンカウンティング検出器に対応付けて配置され、散乱線を除去する。フォトンカウンティング検出器は、FOV(Field Of View)内に位置づけられるメイン検出器と、前記FOV外に位置づけられるリファレンス検出器とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1A】
図1Aは、ASGの角度の偏向によって発生する強度の変化を抑制するための非アクティブ領域が各ピクセルのエッジ(端部)に設けられた検出器設計の一例を示す図である。
【
図1B】
図1Bは、FS移動によって発生する強度の変化を抑制するための非アクティブ領域が各ピクセルのエッジ(端部)に設けられた検出器設計の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、非アクティブ領域が設けられていない検出器ピクセル設計の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、小ピクセル化されたPCDを設けたASG設計の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、エッジ基準検出器設計の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、シンチレータベースのEIDの断面の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、エッジ基準検出器補正のワークフローの一例を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、1次元のASGによるシャドウであって、チャネル方向のFS移動により発生したシャドウの一例を示す図である。
【
図7B】
図7Bは、プレートがより高い1次元のASGによる、同様のFS移動により発生した
図7Aのシャドウに比較して大きいシャドウであって、チャネル方向のFS移動により発生したシャドウの一例を示す図である。
【
図8】
図8は、1次元のASGによってカバーされたエッジ基準検出器の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、非理想的ASG-FSアライメントによる、隣り合う2つのピクセルに及ぼすASGシャドウの影響の一例を示す図である。
【
図10B】
図10Bは、2つの1次元のASG及びエッジ基準検出器の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、2次元のASG及びエッジ基準検出器の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書全体を通しての「一実施形態」または「実施形態」への参照は、実施形態に関連して記載された特定の特性、構造、物質、または特徴が、本出願の少なくとも1つの実施形態に含まれているがすべての実施形態に存在するものではないことを、意味する。
【0025】
よって、本明細書全体を通してのさまざまな個所での「一実施形態において」または「実施形態において」という表現は、本出願の同様の実施形態を参照しているとは限らない。さらに、特定の特性、構造、物質、または特徴は、1つまたは複数の実施形態において好適な方法で組み合わせられてもよい。
【0026】
本実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置について、以下、説明する。フォトンカウンティングCT装置は、X線管と、フォトンカウンティング検出器(
図4参照)と、ASG(
図4参照)と、処理回路とを備える。
【0027】
フォトンカウンティング検出器(Photon Counting Detector:PCD)は、複数のピクセルが2次元配列されて構成される検出器である。フォトンカウンティング検出器は、メイン検出器と、エッジ基準検出器(エッジリファレンス検出器)とを備える。エッジ基準検出器は、リファレンス検出器の一例である。
【0028】
ASGは、フォトンカウンティング検出器に対応付けて配置され、散乱線を除去する。
【0029】
処理回路は、フォトンカウンティング検出器に接続されている。処理回路は、算出機能、推定機能及び補正機能を備える。算出機能は、エッジ基準検出器で検出されたカウント数に基づいて、X線管の焦点移動量(FS移動量)を算出する。推定機能は、FS移動量を用いてスキャンFOV内にあるメイン検出器のピクセルのシャドウ/信号の変化を推定する。そして、補正機能は、FS移動速度に依存して、推定された変化を各ビュー又はビューのグループについて補正する。すなわち、補正機能は、FS移動量に基づいて、メイン検出器により検出されたカウント数を補正する。
【0030】
本実施形態では、FSが移動することに加えて、フォトンカウンティング検出器及びASGが回転することにより、ASGの影の範囲が変動する。そして、ASGの影の範囲が変動することにより、フォトンカウンティング検出器への入射線量が変化する。また、何らかの熱的変動又は機械的変動でも、ASGの影の範囲が変動する。この場合、フォトンカウンティング検出器への初期入射線量が変化する。そこで、本実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置は、入射線量の変化量を推定し、推定された入射線量の変化量に基づいて、フォトンカウンティング検出器への入射線量を補正する。例えば、推定機能は、エッジ基準検出器で検出されたカウント数に基づいて、フォトンカウンティング検出器への入射線量の変化量を推定する。補正部は、推定された入射線量の変化量に基づいて、フォトンカウンティング検出器への入射線量を補正する。処理回路は、例えば、プロセッサにより実現される。算出機能は、算出部の一例である。推定機能は、推定部の一例である。補正機能は、補正部の一例である。
【0031】
図4には、FS移動で生じるASGシャドウの変化を監視し、それに関連した検出器のピクセル強度の変化を補正するために、エッジ基準検出器のピクセルの上面をカバーする拡張ASGを有する、新PCDベースのエッジ基準検出器の設計が示されている。拡張ASGは、エッジASGとも称される。
【0032】
エッジ基準検出器は、計測値がスキャニング経路長の変化に影響されないように、ファンビームの範囲内にあるが、スキャン有効視野(スキャン視野(Field Of View:FOV))の外にある必要がある。エッジ基準検出器は、N×Nパターンを有する少なくとも1つのグループのサブピクセルを備える。ここでNは3以上とする。したがって、中間ピクセルはASGシャドウ効果の影響を受けない。
【0033】
処理回路の算出機能は、ASGシャドウの下のエッジ基準検出器のピクセルの信号の変化を用いて、リアルタイムのFS移動を算出(推定)する。そして、処理回路の推定機能は、それ(FS移動)を用いてスキャンFOV内にあるメイン検出器のピクセルのシャドウ/信号の変化を推定する。
【0034】
そして、補正機能は、FS移動速度に依存して、推定された変化を各ビュー又はビューのグループについて補正する。補正は、サブピクセルのレベルの読み出し及び組み合わせたピクセルモードの読み出しの両方に適用される。すなわち、補正は、個々のピクセルの読み出し及び組み合わせられた複数のピクセルの読み出しの両方に適用される。
【0035】
メイン検出器についての2次元(2D)ASGの設計によれば、本補正をFS移動のチャネル方向および列方向の両方に適用できる。すなわち、補正機能は、メイン検出器で、チャネル方向のFS移動量に基づいて検出されたカウント数及び列方向のFS移動量に基づいて検出されたカウント数のそれぞれを補正する。
【0036】
PCDを用いて、明細書に開示されたエッジ基準検出器は、X線管スペクトルの変化を監視するためのマルチエネルギービン計測も行う。
【0037】
シンチレータベースのEIDを
図5に示す。シンチレータベースのEIDは、グリッド1を備える。グリッド1は、スリットまたはマトリックス状に交互に配置された放射線吸収部材(例えば鉛(Pb))11および放射線透過部材(例えばアルミニウム(Al))12を含む。放射線吸収部材11及び放射線透過部材12は、1次元または2次元であり得る。グリッド1は、シンチレータ2及び光電変換部3上に設置される。光電変換部3は、ピクセル101を有し、基板4上に配置される。
【0038】
エッジASGがエッジ基準検出器のピクセルの上面をカバーする、PCDベースのエッジ基準検出器の設計を
図4に示す。
【0039】
一実施形態において、
図4に示すように、PCDのピクセルの少しの部分が、メインPCDアレイのエッジに配置されている。すなわち、PCDは、スキャンFOV内に位置づけられるメイン検出器と、スキャンFOV外に位置づけられるエッジ基準検出器とを備える。ASGの少しの部分(エッジASG)は、メイン検出器上のASGと同様に、または異なり、N×N(Nは3以上)ピクセルグループピッチを用い、それらのエッジ基準検出器のピクセル上に設けられ、FSに焦点を合わせる。X線束の計測値をゆがめるパイルアップ効果を回避するために、エッジ基準検出器の計測値が低X線束の状態となるように、適切な減衰長の放射線減衰部材をビーム出口に追加する。放射線減衰部材は、Al、Cu、Tiなどの通常の減弱物質から作成されてよい。これは、メイン検出器にビームプロファイルを形成するボウタイフィルタの一部分または拡張であり得る。
【0040】
図4に示すように、PCDベースのエッジ基準検出器は、スキャンFOVの外部に設置され、X線管スペクトルの変化だけでなくFS移動のリアルタイム監視を提供する。メイン検出器をカバーするASGの拡張または別のASGが、エッジ基準検出器をカバーするために必要である。あるいは、2次元のASGがメイン検出器に用いられる場合、チャネル及び列方向の両方でFS移動を監視するため、検出器の異なる部分で異なるASGパターンを用いることができる。
【0041】
図6は、エッジ基準検出器補正のメインワークフローの一例を示す図である。
【0042】
スキャン時、エッジ基準検出器は常にメイン検出器と同時に読み出しを実行し、エッジ基準検出器から出力される信号及びメイン検出器から出力される信号は、処理回路によるデータ処理に用いられる。メイン検出器およびエッジ基準検出器の両方についてピクセル均一性マップを計測するためにASGスキャンは必要なく、処理回路がASGアライメントを推定するための個々のピクセルの正規化因子として、ASGスキャンは用いられない。その後、処理回路の算出機能は、スキャンの強度(例えば合計カウント)の変化を用いて、ASGシャドウの変化を推定(算出)する。その後、処理回路は、幾何学的情報を用いて、ASGプレート方向に直交する方向に沿ってFS移動を推定(算出)する。ここで、ASGプレート方向とは、例えば、ASGが延びる方向又はASGの長手方向等である。
【0043】
ASGシャドウの影響下にないピクセル(中央のピクセル)では、X線管側の従来のEID基準検出器(EIDリファレンス検出器)と同様に、X線束の変化を経時的に監視するために信号変化を用いることができる。マルチエネルギービン計測でX線管スペクトルの変化を監視することもできる。推定されたFS移動により、メイン検出器ピクセルのエアスキャンと被検体スキャンとのそれぞれの強度ドリフトを推定および補正することができる。
【0044】
エッジ基準検出器からFS移動を推定するために、各種の設計が選択されてよい。
【0045】
一実施形態では、エッジ基準検出器のASGの設計(高さL
ASG、厚さt、間隔)は、メイン検出器上のASGの設計と同様である(
図7A)。
【0046】
別の実施形態では、メイン検出器上のASGと同様の厚さと間隔を有し、高さがメイン検出器上のASGより高いエッジ基準検出器上のASG(ASGプレート)が、FS移動に対する計測感度を高めるために用いられる(
図7B)。メイン検出器上のASGは、第1の散乱線除去グリッドの一例であり、エッジ基準検出器上のASGは、第2の散乱線除去グリッドの一例である。チャネル方向への、推定されたFSのドリフト(偏差)D
fsは以下の式(6)で近似される。
【0047】
【0048】
L
ASGは、シャドウが投影されるエッジ基準検出器をカバーするエッジASGの高さである。また、L
SADは、
図7A及び
図7Bに示すように、チャネル方向と直交する高さ方向において、ASGのFS側の端からFSまでの距離である。すなわち、L
SADは、高さ方向におけるFSとASGとの距離である。また、L
shadowは、
図7A及び
図7Bに示すように、チャネル方向におけるシャドウの長さである。したがって、L
ASGが大きくなると、ピクセル強度の変化によって発生したシャドウはより重要になり、同様の計測統計値でより正確なFS移動の推定を与える。なお、L
shadowは、焦点の位置が第1の位置(初期状態又は理想状態)から第2の位置に移動した際にASGによって生じた影の長さの変化量を示す。L
shadowは、第1の長さの一例である。
【0049】
同様の概念が2次元のASG設計にも適用され、列方向のFS移動もまた、他の方向に沿った1次元のASGが用いられてFS移動を推定する場合に用いられる式(例えば、上記の式(6))と同様の式を用いて推定され得る。
【0050】
計測された強度、この場合、エッジ基準検出器のピクセルの合計カウントがLshadowを推定するために用いられる。例として1次元のASGを用いる場合、1つの方法は、隣り合うピクセル間の電荷共有/クロストークを無視した線形近似に基づく方法であり、以下の式(7)により示される方法である。
【0051】
【0052】
ここで、Lpixelをピクセルサイズ、xasgを理想的ASG-ピクセルアライメントによるt/2である初期ASGシャドウ、Lshadowを非理想的FS-ASGアライメント(この場合、FS移動)によって発生した追加シャドウとする。また、NをASGにカバーされたピクセルの正規化された強度、N0をカバーされていないピクセルの正規化された強度とする。例えば、Nは、ASGにカバーされたピクセルで検出されるカウント数の正規化されたカウント数であり、N0は、カバーされていないピクセルで検出されるカウント数の正規化されたカウント数である。
【0053】
式(6)及び式(7)に示すように、算出機能は、リファレンス検出器に含まれる複数のピクセルにて検出されるカウント数のうち、ASGの影の影響を受ける第1のピクセルで検出される第1のカウント数と、ASGの影の影響を受けない第2のピクセルで検出される第2のカウント数とに基づいて、X線管の焦点移動量を算出する。また、算出機能は、第1のカウント数と第2のカウント数とに基づいて、ASGの影の長さを算出し、影の長さに基づいて焦点移動量を算出する。また、算出機能は、第1のカウント数、第2のカウント数、及び、FS位置が上述した第1の位置である場合にASGによって生じた影の長さであるxasgに基づいて、焦点移動量を算出する。xasgは、第2の長さの一例である。また、算出機能は、影の長さ(Lshadow)、及び、エッジ基準検出器をカバーするASGの高さに基づいて、焦点移動量を算出する。
【0054】
実際、x
asgは、ASGアライメント許容値のため、また架台回転下の偏向のため、t/2から逸脱し得る(
図2)。このため、処理回路の算出機能は、ASG計測値(検出器均一性マップ)を用いない正規化の後の隣り合うピクセル間でのピクセル強度の差に基づいて初期シャドウx
asgを推定することができる。1つの方法は、以下の式(8)に示すように、ASGにカバーされたピクセルの正規化された強度を、カバーされていないピクセルの正規化された強度と比較して、x
asgを推定することである。
【0055】
【0056】
ここで、N
ASGをASGにカバーされたピクセルの正規化された強度、N
0をカバーされていないピクセルの正規化された強度とする。例えば、N
ASGは、ASGにカバーされたピクセルで検出されるカウント数の正規化されたカウント数であり、N
0は、カバーされていないピクセルで検出されるカウント数の正規化されたカウント数である。x
asgは、回転速度に依存し、この計測値は補正のためのあらゆる回転速度について取得される必要がある。チャネル方向に配備される1次元のASGの例は、
図8を参照されたい。ASGにカバーされたピクセルをAとし、カバーされていないピクセルをBとする。破線で描かれたボックスは、理想的ロケーション(実線のボックス)からのASGのずれを示す。
【0057】
ASGアライメント許容値の効果を最小化し、シャドウを推定する方法の変形例は、以下の式(9)に示すように、隣り合う2つのエッジピクセル間の電荷共有/クロストークを0として、ASGセプタの下にあるこれらのエッジピクセルの総和を用いることである。
【0058】
【0059】
ここで、NR
iをASGにカバーされたピクセル(第1ピクセル)の正規化された強度、NL
i+1をASGにカバーされたピクセルであって、チャネル方向において第1ピクセルに隣接するピクセル(第2ピクセル)の正規化された強度とする。例えば、NR
i及びNL
i+1のそれぞれは、ASGにカバーされたピクセルで検出されるカウント数の正規化されたカウント数である。
【0060】
上述した方法の変形例は、電荷共有/クロストークの効果は、ピクセル間の境界長に比例するとして、隣り合うピクセル間の電荷共有/クロストークの効果をさらに含み、推定精度をさらに改善することができる。
【0061】
新たな基準の正規化されたエアスキャンおよび被検体スキャンは以下の式(10)で示される。
【0062】
【0063】
ここで、f
i_shadowは、エッジ基準検出器の計測値から推定されたFSドリフトD
fsに基づいた、メイン検出器ピクセルiの追加シャドウの補正因子である。以下の式(11)で示されるように、アライメント因子m
iは、FS位置に対するASGプレートの初期方向を示すため追加され、0または1のいずれかである(
図9を参照)。処理回路は、FS位置範囲の全部をカバーする一連のエアスキャン同士の検出器強度の変化を比較することによって、m
iを決定することができる。
【0064】
【0065】
L
mainは、メイン検出器のサイズである。L
ASG(main)は、メイン検出器上のASGのサイズである。L
SAD(main)は、メイン検出器上のASGと焦点の距離である。
図9を参照すると、ASGシャドウは非理想的ASG-FSアライメントにより2つの隣り合うピクセルに影響を及ぼす。FS位置が0と1の間の場合、m
1=0、m
2=1となり、FS位置が0と2の間の場合、m
1=1、m
2=0となる。ASGプレートアライメントの変化により、0位置はASGの下のピクセルごとに異なる可能性があり、FS移動範囲の全部をカバーするいくつかのエアスキャンによって推定されることができる。
【0066】
この補正は、異なる回転速度でのメイン検出器のASG偏向の変化を含むエア正規化への追加補正として、異なる回転速度に適用されることができる。
【0067】
パルスのパイルアップによる煩雑さを回避するために確実にエッジ基準検出器が低X線束領域にあるようにするため、異なる減衰長を有する複数の放射線減衰部材設計を採用して、使用可能なX線束の範囲の全体をカバーすることができる。このような複数の放射線減衰部材は、X線管とエッジ基準検出器との間に設けられる。
【0068】
スキャンにmA(管電流)/kV(管電圧)設定が選択される場合、最適な放射線減衰部材が事前に選択され、それらのエッジ基準PCDの位置に配備され、計測が、正確な推定のため十分な統計値で低X線束条件を満足するようにする。
【0069】
低X線束条件は、nτ<0.05として定義されることができる。ここでnをピクセル計数率、τを1つの信号パルスを処理するためのASICデッドタイム(dead time)とする。放射線減衰部材の適切な長さは、物質の減弱係数およびシミュレートされたX線管スペクトルに基づき理論的に計算および設計されることができる。
【0070】
2次元のASG設計をメイン検出器で用いる場合(
図10A)、エッジ基準検出器は、2つの1次元のASGを用いることができ、一方をチャネル方向に、他方を列方向に、異なるロケーションに設置して、各方向についてFS移動を推定する(
図10B)。
【0071】
メイン検出器における2次元のASGの変形例は、エッジ基準検出器でも同様の又は異なる2次元のASG設計を用いることである。
【0072】
エッジ検出器の3×3サブピクセルグループの例において(
図11)、ピクセル2及びピクセル8は、列方向のASGシャドウの下だけにあるが、ピクセル4及びピクセル6はチャネル方向のASGの下だけにあり、したがって、それらは両方向でFS移動を推定するためにそれぞれ用いられることができる。
【0073】
従来のCTシステムでは、基準検出器は一般的にシンチレータベースのエネルギー積分型検出器であり、X線管側に設置される。本明細書に記載のPCDベースのエッジ基準検出器設計は、X線管スペクトル情報だけでなくFS位置情報を提供することができ、それらは小ピクセル化されたPCCT計測およびその結果として生じる画像にとってきわめて重要である。
【0074】
図1A及び
図1Bの設計において、すべてのピクセルに非アクティブ領域が導入されると、本明細書に記載の設計と比較して、X線量効率は妥協される。
【0075】
明らかに、本明細書に提示されている多くの変更および変形が上記の教示に照らして可能である。したがって、請求項の範囲内で、本開示を本書に特定的に記載された以外のやり方で、実施してもよいことが理解される。
【0076】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、若しくは、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、又は、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサは、フォトンカウンティングCT装置が備える記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。
【0077】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、焦点移動量を精度よく算出することができる。
【0078】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0079】
1 グリッド
2 シンチレータ
3 光電変換部
4 基板
11 放射線吸収部材
12 放射線透過部材