(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】熱硬化型バインダー組成物及び無機繊維製品
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20241126BHJP
C08L 5/00 20060101ALI20241126BHJP
C08K 5/092 20060101ALI20241126BHJP
C08G 63/12 20060101ALI20241126BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20241126BHJP
D06M 13/192 20060101ALI20241126BHJP
D06M 15/03 20060101ALI20241126BHJP
D06M 101/00 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L5/00
C08K5/092
C08G63/12
C08K7/04
D06M13/192
D06M15/03
D06M101:00
(21)【出願番号】P 2020181557
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 裕昭
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-502199(JP,A)
【文献】国際公開第2019/202248(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
C08G63/00-64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素添加糖と架橋剤とを含み、
前記水素添加糖の総質量に対する
マルチトールの割合が1~75.6質量%、マルトトリイトールの割合が20
~94.4質量
%、四糖以上の水素添加糖の割合が0.8~16.7質量%である、熱硬化型バインダー組成物。
【請求項2】
前記架橋剤が、ポリカルボン酸、その塩及び酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の熱硬化型バインダー組成物。
【請求項3】
触媒をさらに含む、請求項1又は2に記載の熱硬化型バインダー組成物。
【請求項4】
無機繊維がバインダーで結合されてなる成形体を備える無機繊維製品であって、
前記バインダーが、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物の硬化物である、無機繊維製品。
【請求項5】
前記無機繊維が、グラスウール又はロックウールである、請求項4に記載の無機繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化型バインダー組成物及び無機繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、グラスウール、ロックウール、セラミック繊維等の無機繊維をバインダーで結合することにより成形した無機繊維製品が、断熱材、吸音材、その他各種成型品(自動車の屋根、ボンネットのライナー等)に用いられる。無機繊維製品は、一般的に、無機繊維に熱硬化性バインダーを付着させ、集積して目的の無機繊維製品の形状の集積体とした後、加熱し、熱硬化性バインダーを硬化することにより製造される。熱硬化性バインダーとしては、フェノール樹脂を主成分としたもの(以下、「フェノール樹脂系バインダー」とも記す。)が、比較的安価で、機械的強度等の性能に優れた製品が得られることから汎用される。
【0003】
しかし、フェノール樹脂系バインダーは、無機繊維製品等の製造工程でホルムアルデヒドが放散しやすい問題がある。その原因としては、フェノール樹脂の製造に際して原料として用いられたホルムアルデヒドが未反応のまま残留していること、フェノール樹脂系バインダーの熱硬化時にホルムアルデヒドが発生すること等が挙げられる。
そこで、ホルムアルデヒドを含む原料を使用していない、いわゆるノンホルムアルデヒドタイプのバインダーが検討されている。
【0004】
特許文献1には、単糖及び/又は多糖類と、分子量1000以下の有機ポリカルボン酸とを含むミネラルウール用サイズ剤組成物が提案されている。
特許文献2には、特定の水素添加糖と、非ポリマーの有機ポリカルボン酸等の多官能架橋剤とを含むミネラルウール用サイジング剤組成物が提案されている。
特許文献3には、特定の割合でマルチトールを含む水素添加糖混合物と、多官能性架橋剤とを含むミネラルウール用サイジング剤組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5575658号公報
【文献】特許第5694166号公報
【文献】特許第6141840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1~3の組成物は、フェノール樹脂系バインダーに比べ、ホルムアルデヒド放散量が低いものの、硬化性に劣る。例えば硬化温度を同じにした場合、特許文献1~3に記載された組成物の硬化時間は、フェノール樹脂系バインダーの硬化時間の1.5倍程度になる。また、特許文献1~3に記載された組成物を用いた無機繊維製品は、フェノール樹脂系バインダーを用いた無機繊維製品に比べ、機械的強度に劣ることがある。
【0007】
本発明は、ホルムアルデヒドを含む原料を使用せずとも良好なバインダー性能を発揮し、かつ硬化性に優れる熱硬化型バインダー組成物及びこれを用いた無機繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]水素添加糖と架橋剤とを含み、
前記水素添加糖がマルトトリイトールを含み、前記水素添加糖の総質量に対する前記マルトトリイトールの割合が20質量%以上である、熱硬化型バインダー組成物。
[2]前記架橋剤が、ポリカルボン酸、その塩及び酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記[1]の熱硬化型バインダー組成物。
[3]触媒をさらに含む、前記[1]又は[2]の熱硬化型バインダー組成物。
[4]無機繊維がバインダーで結合されてなる成形体を備える無機繊維製品であって、
前記バインダーが、前記[1]~[3]のいずれかの熱硬化型バインダー組成物の硬化物である、無機繊維製品。
[5]前記無機繊維が、グラスウール又はロックウールである、前記[4]の無機繊維製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ホルムアルデヒドを含む原料を使用せずとも良好なバインダー性能を発揮し、かつ硬化性に優れる熱硬化型バインダー組成物及びこれを用いた無機繊維製品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例6から9と比較例2のDMAチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔熱硬化型バインダー組成物〕
本発明の一態様に係る熱硬化型バインダー組成物(以下、単に「バインダー組成物」ともいう。)は、水素添加糖と架橋剤とを含む。
バインダー組成物は、触媒をさらに含んでいてもよい。
バインダー組成物は、水素添加糖、架橋剤及び触媒以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0012】
<水素添加糖>
「水素添加糖」とは、単糖、オリゴ糖(二糖~十糖)及び多糖からなる群から選ばれる少なくとも1種の糖の還元により生じる生成物及びそれらの生成物の混合物を意味する。
本態様において水素添加糖は、マルトトリイトールを含む。
マルトトリイトールは、マルトトリオースが還元されたものであり、4-O-(4-O-α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシル)-D-グルシトールともいう。
【0013】
水素添加糖は、マルトトリイトールのみからなるものであってもよく、マルトトリイトールと他の水素添加糖との混合物であってもよい。
他の水素添加糖としては、例えばエリトリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、セロビトール、パラチニトール及びデンプン加水分解物の水素化生成物が挙げられる。これら他の水素添加糖は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0014】
水素添加糖の総質量に対するマルトトリイトールの割合は、20質量%以上であり、35質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。マルトトリイトールの割合が20質量%以上であれば、バインダー組成物の硬化性、バインダー組成物を用いた無機繊維製品の機械的強度に優れる。
マルトトリイトールの割合の上限は特に制限されないが、水素添加糖がマルトトリイトールと他の水素添加糖との混合物である場合、入手の容易さの点では、水素添加糖の総質量に対するマルトトリイトールの割合は75質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
【0015】
マルトトリイトールと他の水素添加糖との混合物は、粘度の点では、他の水素添加糖として少なくともマルチトールを含むことが好ましい。
マルトトリイトールと他の水素添加糖との混合物の総質量に対するマルチトールの割合は、1~80質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましい。
【0016】
<架橋剤>
架橋剤は、水素添加糖を架橋する。
架橋剤は、典型的には、熱の作用下で水酸基と反応可能な官能基を2以上有する多官能化合物が挙げられる。熱の作用下で水酸基と反応可能な官能基としては、例えば、カルボキシ基、酸無水物基、ホルミル基が挙げられる。
架橋剤としては、例えば、ポリカルボン酸、その塩及び酸無水物、ポリアルデヒドが挙げられる。
【0017】
ポリカルボン酸は、カルボキシ基を2以上有する。
ポリカルボン酸はポリカルボン酸ポリマー又はポリカルボン酸モノマーであることができる。
バインダー組成物の粘度を低くする点から、ポリカルボン酸の数平均モル質量は50000以下が好ましく、10000以下がより好ましく、5000以下がさらに好ましい。
【0018】
ポリカルボン酸ポリマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、桂皮酸、2-メチルマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、2-メチルタコン酸、α,β-メチレングルタル酸及び不飽和ジカルボン酸モノエステル等の少なくとも1つのカルボキシ基を有するモノマーのホモポリマー及びコポリマーが挙げられる。コポリマーにおけるコモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、スチレン、アルキル基、水酸基、スルホニル基又はハロゲン原子により置換されたスチレン等のビニルモノマー;C1~C10アルキル(メタ)アクリレート(例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル及び(メタ)アクリル酸イソブチル)、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルモノマーが挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸はアクリル酸又はメタクリル酸を示し、(メタ)アクリレートはアクリレート又はメタクリレートを示す。(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミドも同様である。
【0019】
ポリカルボン酸モノマーとしては、例えば、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸が挙げられる。
ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リンゴ酸、酒石酸、タルトロン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、トラウマチン酸、ショウノウ酸、フタル酸及びその誘導体(例えば、少なくとも一つのホウ素原子又は塩素原子を含有するもの)、テトラヒドロフタル酸及びその誘導体(例えば、クロレンド酸等の少なくとも1つの塩素原子を含有するもの)、イソフタル酸、テレフタル酸、メサコン酸及びシトラコン酸が挙げられる。
トリカルボン酸としては、例えば、クエン酸、トリカルバリル酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、アコニット酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸及びトリメシン酸が挙げられる。
テトラカルボン酸としては、例えば、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸及びピロメリット酸が挙げられる。
ポリカルボン酸モノマーの数平均モル質量は、1000以下が好ましく、750以下がより好ましく、500以下がより好ましい。
【0020】
ポリカルボン酸の塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。
ポリカルボン酸の酸無水物としては、例えば、上記ジカルボン酸の無水物が挙げられる。
【0021】
ポリアルデヒドは、ホルミル基を2以上有する。
ポリアルデヒドとしては、例えば、グリオキサール、グルタルアルデヒド、1,6-ヘキサンジアール、1,4-テレフタルアルデヒド等のジアルデヒドが挙げられる。
【0022】
架橋剤としては、硬化速度の点では、ポリカルボン酸ポリマー、その塩及び酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、低粘度の点では、ポリカルボン酸モノマー、その塩及び酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0023】
<触媒>
触媒としては、例えば、ルイス塩基、ルイス酸、リンを含む化合物、フッ素及びホウ素を含む化合物が挙げられる。
ルイス塩基又はルイス酸としては、例えば、クレイ、コロイド状又は非コロイド状シリカ、有機アミン、第四級アンモニウム、金属酸化物、金属硫酸塩、金属塩化物、尿素硫酸塩、尿素塩化物及びケイ酸塩系触媒が挙げられる。
リンを含む化合物としては、例えば、アルカリ金属次亜リン酸塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属ポリリン酸塩、アルカリ金属リン酸水素塩、リン酸又はアルキルホスホン酸が挙げられる。アルカリ金属としては、ナトリウム又はカリウムが好ましい。
フッ素及びホウ素を含む化合物としては、例えば、テトラフルオロホウ酸又はその塩(例えば、ナトリウム又はカリウム等のアルカリ金属のテトラフルオロホウ酸塩、カルシウム又はマグネシウム等のアルカリ土類金属のテトラフルオロホウ酸塩、テトラフルオロホウ酸亜鉛及びテトラフルオロホウ酸アンモニウム)が挙げられる。
これらの中でも、特に無機繊維製品の色相を改善したい場合、還元作用により硬化物の色相をより淡くする効果がある点で、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウムが好ましい。
【0024】
<他の成分>
他の成分としては、熱硬化型バインダー組成物に配合し得る成分として公知なもののなかから適宜選択して使用でき、例えば、水、水素添加糖以外の糖質、界面活性剤、シランカップリング剤、撥水剤、発塵防止オイル、硬化調整剤、硬化促進剤、尿素、メラミン等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0025】
界面活性剤としては、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等が挙げられる。カチオン界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステルソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルポリグルコシド等が挙げられる。これらの界面活性剤はいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0026】
シランカップリング剤としては、アミノ基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、ビニル基含有シランカップリング剤、メタクリロイル基含有シランカップリング剤、アクリロイル基含有シランカップリング剤、ウレイド基含有シランカップリング剤、イソシアネート基含有シランカップリング剤等が挙げられる。アミノ基含有シランカップリング剤としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩等が挙げられる。エポキシ基含有シランカップリング剤としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。ビニル基含有シランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。メタクリロイル基含有シランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。アクリロイル基含有シランカップリング剤としては、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。ウレイド基含有シランカップリング剤としては、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。イソシアネート基含有シランカップリング剤としては、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤はいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0027】
撥水剤としては、シリコーン系撥水剤、フッ素系撥水剤、炭化水素系撥水剤等が挙げられる。これらの撥水剤はいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
発塵防止オイルとしては、鉱物油ベースのオイルエマルション等が挙げられる。
硬化調整剤としては、水溶性の高沸点溶剤が好ましく、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン(ジグリセロールともいう。)、ポリグリセリン等が挙げられる。これらの硬化調整剤はいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
硬化促進剤としては、リン酸化合物が好ましい。リン酸化合物としては、アルカリ金属の次亜リン酸塩、アルカリ金属の亜リン酸塩、アルカリ金属のポリリン酸塩、アルカリ金属のリン酸水素塩、アルキルリン酸塩等が挙げられる。アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩又はカリウム塩等が好ましく、例えば次亜リン酸ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、亜リン酸カリウム等が挙げられる。
【0028】
本態様のバインダー組成物は、ホルムアルデヒドを含む原料を使用せずとも良好なバインダー性能を発揮し得る。そのため、本態様のバインダー組成物は、ホルムアルデヒドを含む原料(例えばホルムアルデヒド、フェノール類とホルムアルデヒドとの反応により得られるフェノール樹脂)が配合されていないことが好ましい。バインダー組成物にホルムアルデヒドを含む原料が配合されていなければ、無機繊維製品の製造時や無機繊維製品からのホルムアルデヒド放散量を低減できる。
【0029】
<組成>
本態様のバインダー組成物において、水素添加糖と架橋剤との合計(100質量%)に対する水素添加糖の割合は、10~90量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、30~70質量%がさらに好ましい。水素添加糖の割合が前記下限値以上であれば、耐湿性がより優れ、前記上限値以下であれば、硬化性がより優れる。
【0030】
触媒の含有量は、水素添加糖と架橋剤との合計(100質量%)に対し、1~10質量%が好ましく、2~8質量%がより好ましく、3~7質量%がさらに好ましい。触媒の含有量が前記下限値以上であれば、バインダー組成物の硬化性がより優れ、前記上限値以下であれば、耐湿性がより優れる。
【0031】
バインダー組成物の固形分全体(100質量%)に対する水素添加糖と架橋剤と触媒との合計の割合は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
【0032】
バインダー組成物が水を含む場合、水の含有量は、バインダー組成物の固形分濃度に応じて設定される。
バインダー組成物の固形分濃度は、水素添加糖や架橋剤の溶解性、バインダー組成物の使用形態等を考慮して適宜設定できるが、例えば、バインダー組成物の総質量に対し、5~95質量%であってよい。
【0033】
バインダー組成物の固形分とは、不揮発分のことである。
不揮発分とは、135℃で60分間の乾燥処理後に残る残分である。
バインダー組成物の固形分濃度(質量%)は、バインダー組成物の総質量に対する不揮発分の質量の割合として算出される。詳しくは後述する実施例に記載のとおりである。
バインダー組成物の水分(質量%)は、100-固形分濃度(質量%)により算出される。
【0034】
本態様のバインダー組成物は、水素添加糖と、架橋剤と、必要に応じて触媒と、必要に応じて他の成分とを混合することにより調製できる。
各成分は一括で混合してもよく、順次混合してもよい。
【0035】
本態様のバインダー組成物は、加熱により硬化する熱硬化性を有する。
本態様のバインダー組成物の熱硬化機構としては、水素添加糖と架橋剤との反応(エステル化等)により高分子化する機構が考えられる。
【0036】
〔無機繊維製品〕
本発明の一態様に係る無機繊維製品は、無機繊維がバインダーで結合されてなる成形体を備える。このバインダーは、前記したバインダー組成物の硬化物である。
無機繊維としては、特に限定されず、例えばグラスウール、ロックウール、セラミック繊維等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。無機繊維としては、汎用性、断熱性能の点で、グラスウール又はロックウールが好ましい。
無機繊維製品は、前記成形体からなるものでもよく、前記成形体以外の他の部材をさらに備えるものであってもよい。該他の部材としては、例えば梱包のための表皮材等が挙げられる。
無機繊維製品は、例えば断熱材、吸音材、その他各種成型品(自動車の屋根、ボンネットのライナー等)等として利用できる。
【0037】
<無機繊維製品の製造方法>
無機繊維製品は、前記したバインダー組成物を用いて無機繊維を成形し、成形体を得る工程を有する製造方法により製造できる。
無機繊維製品の製造には、バインダーとして前記したバインダー組成物を用いる以外は、従来、無機繊維製品の製造に用いられている公知の方法が利用できる。
無機繊維製品の製造方法の一例として、無機繊維にバインダー組成物を付着させる工程(以下、付着工程)、前記バインダー組成物が付着した無機繊維を集積し、製造しようとする無機繊維製品に対応した形状の集積体とした後、前記集積体を加熱し、前記バインダー組成物を硬化させて成形体を得る工程(以下、成形工程)、を順次行う方法が挙げられる。以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0038】
(付着工程)
付着工程で使用する無機繊維としては、前記と同様のものが挙げられる。
無機繊維の繊維長や繊維径は、製造しようとする無機繊維製品に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。通常、繊維径が3~10μmの範囲内のものが用いられる。
無機繊維は、市販のものを用いてもよく、公知の方法により製造したものをそのまま用いてもよい。無機繊維は、一般的には、原料(廃ガラス、玄武岩、鉄炉スラグ等)を繊維化することにより製造される。繊維化方法としては、火炎法、遠心法等が挙げられる。これらの各種方法による繊維化は、対応する繊維化装置を用いて実施できる。
【0039】
無機繊維にバインダー組成物を付着させる方法としては、例えば、無機繊維に対し、スプレー装置等を用いてバインダー組成物を吹き付ける方法、無機繊維をバインダー組成物に含浸させる方法等が挙げられ、いずれの方法を用いてもよい。
無機繊維に付着させるバインダー組成物の量は、特に限定されないが、通常、無機繊維(100質量%)に対し、バインダー組成物の固形分として、0.5~20質量%の範囲内である。この量は、得られる成形体の物性(機械的強度等)に影響する。例えば無機繊維に付着させるバインダー組成物の量が多いほど、得られる成形体の機械的強度が高くなる傾向がある。
【0040】
(成形工程)
次に、バインダー組成物が付着した無機繊維を集積し、製造しようとする無機繊維製品に対応した形状の集積体とした後、前記集積体を加熱し、バインダー組成物を硬化させる。
成形工程は、公知の方法により実施できる。例えば、無機繊維製品として板状のものを製造する場合を例に挙げると、コンベア上に無機繊維を堆積し、この堆積物を、コンベアの上下方向から押圧して圧縮して集積体とし、この集積体を加熱炉(硬化炉)に送り、加熱してバインダー組成物を硬化させることにより板状の成形体が得られる。
【0041】
無機繊維の使用量(コンベア上に堆積させる無機繊維の量)や圧縮条件は、製造しようとする無機繊維製品の厚さ、嵩密度等に応じて設定される。
集積体の加熱条件(加熱温度、加熱時間)は、集積体中のバインダー組成物が硬化する範囲内であれば特に限定されないが、加熱温度は、200~300℃が好ましく、240~280℃がより好ましい。加熱温度が前記下限値以上であると、硬化に要する時間を短くでき、無機繊維製品の生産性に優れる。加熱温度が前記上限値以下であると、バインダー組成物の分解と、それに伴う歩留りの低下及び機械的強度の低下を抑制できる。加熱時間は、集積体の大きさ、加熱温度等によって異なり、特に限定されない。
【0042】
得られた成形体は、そのまま無機繊維製品としてもよく、必要に応じてさらに、切断、表皮材による梱包等の処理を施してもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。「部」、「%」はそれぞれ特に限定のない場合は「質量部」、「質量%」を示す。各例で用いた材料を以下に示す。
【0044】
<使用材料>
クエン酸:白色粉末状、磐田化学社製。
次亜リン酸Na:次亜リン酸ナトリウム、白色粉末状、日本化学工業社製。
水素添加糖A:物産フードサイエンス社製「スイートG3」。
水素添加糖B:マルチトール(粉末)、富士フィルム和光純薬社製。
水素添加糖C:マルトトリイトール(固形分33.1%水溶液、スイートG3をカラム分画)。
水素添加糖Aの特性(水分、固形分、粘度、pH、糖組成)を表1に、水素添加糖B及びCの糖組成を表2に示す。糖組成は、ソルビトール(G1)、マルチトール(G2)、マルトトリイトール(G3)、マルトテトラトール以上の糖類(G4以上)の比率である。
【0045】
【0046】
【0047】
表1中、水分は、カールフィッシャー水分計により測定した。
固形分は、100-水分(%)により算出した。
粘度は、E型粘度計(東機産業社製)を用いて、測定温度25℃にて測定した。
pHは、JIS K6910の5.4の規定に準じて、測定温度25℃にて測定した。
糖組成は、HPLC装置(日本ウォーターズ社製「Waters Alliance 2695」)を用いて、以下の測定条件により測定した。
カラム:ULTRON PS-80N(8mm×300mm):信和化工社製、
溶媒:超純水、
温度:60℃、
流速:0.6mL/min、
検出:RI。
【0048】
<実施例1~9、比較例1~2>
(1.バインダー組成物の調製)
表3及び表4に示す配合に従って、各材料を混合して糖バインダー組成物を得た。
【0049】
【0050】
【0051】
(2.基本特性の測定)
実施例1~5及び比較例1のバインダー組成物について、以下の特性を測定した。結果を表5に示す。
【0052】
「粘度」
バインダー組成物の粘度は、E型粘度計(東機産業社製)を用いて、測定温度25℃にて測定した。
【0053】
「pH」
バインダー組成物のpHは、JIS K6910の5.4の規定に準じて、測定温度25℃にて測定した。
【0054】
「固形分(不揮発分)濃度」
アルミ箔製皿(内径50mm、高さ15mm)の質量C1(g)を量り、そこに試料(バインダー組成物)1.5gを精秤し、当該試料の具体的な質量を乾燥前の試料質量S1(g)とした。このアルミ箔製皿を、予め135℃に保った恒温器に入れ、60分間の乾燥処理を行った後、デシケーター中にて放冷し、その質量C2(g)を量った。その結果から、次式(1)により乾燥後の試料質量D1(乾燥処理後にアルミ箔製皿上に残った試料の質量、不揮発分)(g)を算出し、次式(2)により固形分濃度を算出した。
D1=C2-C1 ・・・(1)
固形分濃度(%)=D1/S1×100 ・・・(2)
【0055】
「ゲル化時間」
バインダー組成物のゲル化時間は、JIS K6910の5.14.1(ゲル化時間A法)の規定に準じて、測定温度170℃にて測定した。
【0056】
【0057】
表5に示す中で、実施例1~5のバインダー組成物は、比較例1のバインダー組成部よりもゲル化時間が短かった。
【0058】
(3.硬化度の測定)
実施例1~5及び比較例1のバインダー組成物について、以下の手順で、硬化度を測定した。結果を表6に示す。
アルミ箔製皿(内径50mm、高さ15mm)の質量C1(g)を量り、そこに試料(バインダー組成物)1gを精秤した。このアルミ箔製皿を、150℃、10分間の条件にて加熱して試料を硬化させ、放冷し、その質量C2(g)を量った。その結果から、次式(3)により、硬化物の質量A(g)を算出した。
A=C2-C1 ・・・(3)
次いで、上記アルミ箔製皿に水約50gを入れ、室温で30分間静置した後、水を捨てた。このアルミ箔製皿を、予め135℃に保った恒温器に入れ、60分間の乾燥処理を行った後、デシケーター中にて放冷し、その質量C3を量った。その結果から、次式(4)により、水に溶解せずに残った硬化物の質量B(g)を算出し、次式(5)により硬化度を算出した。
B=C3-C1 ・・・(4)
硬化度(%)=100-(B/A×100) ・・・(5)
【0059】
【0060】
表6に示すとおり、実施例1~5のバインダー組成物は、比較例1のバインダー組成物に比べ、硬化度が高い傾向がみられた。
【0061】
(4.引張強度及び吸水率の測定)
実施例1~5及び比較例1のバインダー組成物について、以下の手順で試験片を作製し、引張強度(常態強度、耐湿強度)及び吸水率を測定した。また、求めた常態強度及び耐湿強度から、下記式により強度保持率を算出した。結果を表7に示す。
強度保持率(%)=耐湿強度(MPa)/常態強度(MPa)×100
【0062】
「試験片の作製」
ワットマン社製ガラスろ紙(GF/A)を90mm×25mmに裁断し、その質量E(g)を測定した。このガラスろ紙にバインダー組成物を含浸させ、余分なバインダー組成物はキムタオルで吸水除去した。パンチングメタルの上に離型紙を乗せ、その上に、バインダー組成物を含浸させたガラスろ紙を乗せ、100℃で30分間乾燥した。
次いで、乾燥したガラスろ紙を、150℃、15分間の条件で加熱硬化させた。硬化後のガラスろ紙の質量F(g)を測定し、F-Eによりバインダー付着量を算出した。本試験では、バインダーが75%程度になるようにした。
硬化後のガラスろ紙の両端を90mm×20mmとなるようにカッターでカットして試験片とした。
【0063】
各例のバインダー組成物を硬化させる際の条件1つ毎に6枚の試験片を作製した。
6枚の試験片の内、3枚は常態強度の測定に、残りの3枚は耐湿強度の測定に用いた。常態強度の測定に用いた試験片は吸水率の測定にも用いた。
耐湿強度用の試験片には、引張試験の前に、湿熱前処理を施した。湿熱前処理条件は温度60℃、湿度90%で6時間とした。湿熱前処理後、直ちに試験片の質量を測定した。
【0064】
「引張強度の測定」
引張試験機において、試験片(常態強度の場合は湿熱前処理が施されていないもの、耐湿強度の場合は湿熱前処理が施されたもの)の両端(20mm)をチャックに挟み、5mm/minで引張り、その時の強度(N)を測定した。測定結果から下記式により引張強度(常態強度又は耐湿強度)を算出した。式中、試験片の断面積は、本試験においては20mm×0.3mm=6mm2である。2つの試験片について引張強度を求め、平均値を算出した。
引張強度(MPa)=強度の実測値(N)/試験片の断面積(mm2)
【0065】
「吸水率の測定」
耐湿強度用の試験片の湿熱前処理前後の質量から下記式により吸水率を算出した。
吸水率(%)=湿熱前処理後の試験片の質量(g)/湿熱前処理前の試験片の質量(g)×100
【0066】
【0067】
表7に示すとおり、実施例1~5のバインダー組成物を用いた試験片は、比較例1のバインダー組成物を用いた試験片に比べ、常態強度、耐湿強度及び強度保持率に優れており、吸水率も低かった。
【0068】
(5.硬化速度の測定)
実施例6~9及び比較例2のバインダー組成物について、以下の手順で、動的粘弾性測定(DMA)用の試験片を作製し、以下の測定条件でDMA測定を行った。
【0069】
「DMA用試験片の作製」
ガラスペーパー(100g/m2)を10mm×50mmに裁断した。
バインダー組成物を固形分が5%となるように水で希釈し、得られた希釈液を上記ガラスペーパーに含浸させた。その後、室温で一昼夜乾燥させてDMA用の試験片とした。
【0070】
「DMA測定条件」
・測定機器:日立ハイテクノサイエンス社製 DMA7100、
・測定温度範囲:30~240℃、
・周波数:1Hz、
・昇温速度:4℃/min、
・モード:フィルムずりモード。
【0071】
図1に、実施例6~9及び比較例2のDMAチャートを示す。
DMAチャートにおける接線より、弾性率の立ち上がり(硬化開始)と収束(硬化収束)を求め、硬化時間を算出した。硬化開始温度、硬化収束温度、硬化開始温度と硬化収束温度との差ΔT、硬化時間、比較例2の硬化時間を100としたときの実施例6~9の相対硬化時間を表8に示す。
【0072】
【0073】
上記結果に示すとおり、実施例6~9のバインダー組成物は、比較例2のバインダー組成物に比べ、硬化収束温度(硬化終了温度)が低く、硬化時間が短かった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の熱硬化型バインダー組成物は、ホルムアルデヒドを含む原料を使用せずとも良好なバインダー性能を発揮する。例えば本発明の熱硬化型バインダー組成物を用いた無機繊維製品は、引張強度に優れる。
また、本発明の熱硬化型バインダー組成物は、硬化性に優れる。そのため、本発明の熱硬化型バインダー組成物を用いることで、無機繊維製品等の生産性を高めることができる。
【0075】
上記効果を奏することから、本発明の熱硬化型バインダー組成物は、無機繊維製品の製造用として有用である。
ただし本発明のバインダー組成物の用途はこれに限定されるものではなく、従来、フェノール樹脂系バインダー等の熱硬化型バインダーが使用されている各種用途に使用できる。例えば鋳造用、摩擦材用、砥石用、ろ紙用、成形材料用、合板加工用、化粧板用、積層板用等が挙げられる。