(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】タワークレーンの吊荷の振れ止め装置、位置決め装置、振れ止め方法、及び、位置決め方法
(51)【国際特許分類】
B66C 23/00 20060101AFI20241126BHJP
B66C 13/08 20060101ALI20241126BHJP
B66C 13/22 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B66C23/00 C
B66C13/08 L
B66C13/22 R
(21)【出願番号】P 2020208031
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 琢志
(72)【発明者】
【氏名】稲井 慎介
(72)【発明者】
【氏名】市村 元
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信也
(72)【発明者】
【氏名】仁田 佳宏
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-163953(JP,A)
【文献】特開平10-258989(JP,A)
【文献】特開2020-063121(JP,A)
【文献】特表2020-503224(JP,A)
【文献】特開2019-069835(JP,A)
【文献】特開平08-333085(JP,A)
【文献】特開平07-267580(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0032140(US,A1)
【文献】特開2019-064814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 23/00
B66C 13/08
B66C 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タワークレーンの吊荷のジブ先端からワイヤで吊り下げられたコアコントロールユニットを介して吊荷を吊上げ、
人工衛星からの測位データと、前記ワイヤの角度データと、前記吊荷の加速度データと、前記吊荷の姿勢角データと、を受信して前記吊荷の荷振れ角を検出し、
前記荷振れ角に応じた推力をスラスタから発生させて前記吊荷の荷振れを制御し、
前記吊荷の現在位置と取付け位置との差異からスライド量を算出し、前記スラスタにより前記取付け位置に位置合わせ
し、
前記スラスタは、前記吊荷の荷振れを止める第1の制御と、前記吊荷を前記取付け位置に位置合わせする第2の制御とは、切替えスイッチにより自在に選択可能なこと特徴とするタワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置。
【請求項2】
請求項1
に記載のタワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置であって、前記スラスタは、前記吊荷の長手方向、及び直交方向に向け、少なくともそれぞれ1台ずつ設置されることを特徴とするタワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置。
【請求項3】
タワークレーンの吊荷のジブ先端からワイヤで吊り下げられたコアコントロールユニットを介して吊荷を吊上げ、
人工衛星からの測位データと、前記ワイヤの角度データと、前記吊荷の加速度データと、前記吊荷の姿勢角データと、を受信して前記吊荷の荷振れ角を検出し、
前記荷振れ角に応じた推力をスラスタから発生させて前記吊荷の荷振れを制御し、
前記吊荷の現在位置と取付け位置との差異からスライド量を算出し、前記スラスタにより前記取付け位置に位置合わせ
し、
前記スラスタは、前記吊荷の長手方向、及び直交方向に向け、少なくともそれぞれ1台ずつ設置されることを特徴とするタワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置。
【請求項4】
請求項1
乃至3のいずれか1項に記載のタワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置であって、前記人工衛星が測位した前記測位データと、前記ワイヤに設置された角度センサの前記角度データと、前記コアコントロールユニットに設置された加速度計による加速度データと、ジャイロセンサによる姿勢角データと、から前記吊荷の荷振れ角をリアルタイムに連続して検出し、前記荷振れ角に応じた推力をリアルタイムで連続して発生させることを特徴とするタワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のタワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置であって、前記スラスタには、ダクテッド、プロペラファン、又はエアタンクのうちいずれか1つが含まれることを特徴とするタワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のタワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置であって、前記スライド量は、衛星測位システムによる測位、又は、ステレオカメラ又は3Dライダによる計測から算出することを特徴とするタワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のタワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置を用いたタワークレーンの吊荷の振れ止め方法及び位置決め方法であって、
前記コアコントロールユニットは前記吊荷の前記荷振れ角を算定するステップと、
前記スラスタにより前記荷振れ角に応じた推力を発生させるステップと、
前記吊荷の現在位置と取付け位置との差異を算出するステップと、
前記スラスタにより前記取付け位置に位置合わせするステップと、
を備えることを特徴とするタワークレーンの吊荷の振れ止め方法及び位置決め方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タワークレーンの吊荷の振れ止め装置、位置決め装置、振れ止め方法、及び、位置決め方法に係り、特に、タワークレーンを旋回や起伏等させる際に発生する慣性力による吊荷の荷振れを制御して吊荷を所定の位置に移動させるタワークレーンの吊荷の振れ止め装置、位置決め装置、振れ止め方法、及び、位置決め方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場におけるタワークレーンの吊荷のオペレータの高齢化と人手不足を解消するために、タワークレーン作業の完全自動化が検討されつつある。そのため、コアコントロールユニットに各種センサやカメラ等を搭載して吊荷や周囲の状況を把握し、オペレータの経験や勘に頼らないタワークレーンの吊荷の自動制御を行うことが検討されている。
【0003】
図8に、建設現場40におけるタワークレーン1による吊荷3の取付け作業の搬送ルートを各ステージとして説明図で示す。なお、これらの取付け作業の第1ステージから第6ステージは、図中の丸数字1~6で示す。
図8に示すように、一般的に建設現場40における吊荷3の搬送ルートは、まず搬送トラック41により建設現場40に吊荷3が搬入され(ステージ1)、次に、タワークレーン1により荷取り位置42の上方の所定の高さまでフック4bにより持ち上げられ(ステージ2)、さらに、タワークレーン1により取付け位置43である建設物50の上部まで運搬される(ステージ3)。そして、吊荷3が所
望の取付け方向に向けられ(ステージ4)、その取付け方向を維持したまま下降して(ステージ5)、建設物50の所定の取付け位置43に設置される(ステージ6)。この吊荷3は、吊上げ治具47を介してタワークレーン1の下段ワイヤ7bにより持ち上げられる。そして、吊上げ治具47に接続するコアコントロールユニット2により吊荷3やその周辺の状況が認識され、吊荷3の位置及び方向の制御が行われる。このコアコントロールユニット2は、「制御ユニット」とも称され、タワークレーン1による吊荷3の搬送に関する計器やセンサが集約されている。なお、吊荷3は、搬送トラック41により建設現場40に搬入される吊荷3に限らず、他の重機等により建設現場40に持ち込まれた吊荷3でも良い。また、吊上げ治具47は他の形式でも良く、吊荷3の吊上げ方法は他の方法であっても良い。さらに、各ステージ1~6はこの順序に限らず他の搬入ルートによる順序であっても良い。
【0004】
特許文献1には、クレーンのフックに取り付けられた吊り荷の回転を防止する荷振れ防止装置が開示されている。ここでは、第1の平板部材と第2の平板部材とが平行に接続され、フックに取り付けられる荷振れ防止装置であって、第1の平板部材と第2の平板部材には、フックに挿通されるワイヤ接続部材を収納する凹部が形成されることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、吊荷の旋回および並進を抑制する吊荷の姿勢制御装置が開示されている。ここでは、吊荷の姿勢制御装置は、第1の方向に吊荷を吊り下げるための吊治具と、吊治具に設置され、第1の方向視での吊治具の中心点を中心とする吊治具の旋回を抑制するための旋回抑制手段とを備える。また、吊荷の姿勢制御装置は、吊治具に設置される、第1~第4のスラスタ群を備える。第1のスラスタ群は、第1のスラスタ群から発生するスラスタ推力の合力の方向が第1の仮想直線の一方向に、第2のスラスタ群は、第2のスラスタ群から発生するスラスタ推力の合力の方向が第1の仮想直線の他方向に、第3のスラスタ群は、第3のスラスタ群から発生するスラスタ推力の合力の方向が第2の仮想直線の一方向に、第4のスラスタ群は、第4のスラスタ群を構成するスラスタから発生するスラスタ推力の合力の方向が第2の仮想直線の他方向に一致するように配置されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-120975号公報
【文献】特開2019-151470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
タワークレーン等の起伏旋回動作に伴い、コアコントロールユニットに加減速が作用して吊荷等が大きく振れるという問題が発生する。特に、吊荷を取付け位置付近に接近させてタワークレーンにより目標とする取付け位置に制御する際に大きく揺れてしまうことがある。また、吊荷は風や地震等によっても大きく振れる場合があり、吊荷の取付けに時間がかかるという問題がある。
【0008】
このように吊荷やコアコントロールユニットが大きく振れると、吊荷が周辺の鉄骨躯体等に衝突し、吊荷にダメージが生じるだけではなく、最悪の場合人身事故が発生する危険性がある。さらに、現場においてはこのような事故が発生すると事故の後処理に手間取り、工程に影響が出てしまうという場合がある。
【0009】
また、タワークレーン等の起伏旋回動作により吊荷の揺れを制御すると、吊荷の現在位置と目標位置が大きく離れてしまう場合がある。その場合には、吊荷が静止してから吊荷を適切な位置に移動させなければならず、時間や手間がかかるという問題がある。
【0010】
本願の目的は、かかる課題を解決し、タワークレーン等の起伏旋回動作等に伴いコアコントロールユニットや吊荷に加減速が発生して揺れる場合があるが、このコアコントロールユニットや吊荷の揺れを制御するタワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置を提供し、さらに、これらの振れ止め装置及び位置決め装置を用いた振れ止め方法及び位置決め方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係るタワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置は、タワークレーンの吊荷のジブ先端からワイヤで吊り下げられたコアコントロールユニットを介して吊荷を吊上げ、人工衛星からの測位データと、前記ワイヤの角度データと、前記吊荷の加速度データと、吊荷の姿勢角と、を受信して吊荷の荷振れ角を検出し、荷振れ角に応じた推力をスラスタから発生させて吊荷の荷振れを制御し、吊荷の現在位置と取付け位置との差異からスライド量を算出し、スラスタにより取付け位置に位置合わせすることを特徴とする。
【0012】
上記構成により、本発明のタワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置は、吊荷の上部に振れ止め装置及び位置決め装置を有して吊荷の荷振れ制御を行うコアコントロールユニットを備える。すなわち、タワークレーンは、吊荷が設置場所に近接するとタワークレーンの吊荷のジブ先端を旋回や起伏により吊荷の高さや方向を調整して設置に備えるが、この際に、慣性力による荷振れが発生する場合がある。一旦、この荷振れが発生すると吊荷を静止させてから目標位置に移動させなければならず、時間及び手間をロスする結果となる。従って、コアコントロールユニットは、吊荷の荷振れ角を検出させ、スラスタに荷振れ角に応じた推力を発生させる。この荷振れ制御により時間及び手間をかけずに荷振れを抑え込み、タワークレーンの吊荷の作業を効率的に行わせることができる。
【0013】
そして、この荷振れ制御により、吊荷の現在位置と吊荷を設置すべき目標位置との「ずれ」が生じる場合がある。そこで、コアコントロールユニットは、吊荷の現在位置と吊荷を設置すべき目標位置との差異を検出させる。そして、上述した荷振れ制御で用いたスラスタを再度用いた位置決め制御により目標位置に位置合わせを行う。その結果、コアコントロールユニットは、荷振れ制御という動的な制御により吊荷の荷振れを減少させ、位置決め制御という静的な制御により吊荷を目標位置に迅速に位置合わせすることができる。
【0014】
また、タワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置は、人工衛星が測位した測位データと、ワイヤに設置された角度センサの角度データと、コアコントロールユニットに設置された加速度計による加速度データと、ジャイロセンサによる姿勢角データと、から吊荷の荷振れ角をリアルタイムに連続して検出し、その荷振れ角に応じた推力をリアルタイムで連続して発生させることが好ましい。
【0015】
また、タワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置は、スラスタが、吊荷の荷振れを止める第1の制御と、吊荷を取付け位置に位置合わせする第2の制御とを切替えスイッチにより自在に選択可能なことが好ましい。これにより、タワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置は、コアコントロールユニット又は吊荷の荷振れを抑えた後、吊荷を所定の位置に位置決めする際にも活用することができる。
【0016】
また、タワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置は、スラスタが、吊荷の長手方向、及び直交方向に向け、少なくともそれぞれ1台ずつ設置されることが好ましい。吊荷移動量は、衛星測位システムによる測位、ステレオカメラ、又は3Dライダによる計測が含まれ、これらの測位システムや計測システムにより、コアコントロールユニットや吊荷を目標位置に迅速に位置合わせすることができる。
【0017】
また、タワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置は、スラスタが、ダクテッド、プロペラファン、又はエアタンクのうちいずれか1つが含まれることが好ましい。これにより、既存のスラスタの技術をタワークレーンに応用することができる。
【0018】
また、タワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び位置決め装置は、スライド量が、衛星測位システムによる測位、又は、ステレオカメラ又は3Dライダによる計測から算出することが好ましい。これにより、各種の計測方法によりスライド量を確認できる。
【0019】
そして、タワークレーンの吊荷の振れ止め方法及び位置決め方法は、コアコントロールユニットは吊荷の荷振れ角を算定するステップと、スラスタにより荷振れ角に応じた推力を発生させるステップと、吊荷の現在位置と取付け位置との差異を算出するステップと、スラスタにより取付け位置に位置合わせするステップと、備える。そして、上述した荷振れ制御に用いたスラスタを活用した位置決め制御により目標位置に位置合わせを行なうことができる。その結果、コアコントロールユニットは、荷振れ制御という動的な制御により吊荷の荷振れを抑え込み、位置決め制御という静的な制御により吊荷を目標位置に迅速に位置合わせすることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明に係るタワークレーンの吊荷の振れ止め装置、位置決め装置、振れ止め方法、及び、位置決め方法によれば、タワークレーン等の起伏旋回動作等に伴いコアコントロールユニットに加減速が発生するが、このコアコントロールユニットの揺れを制御するタワークレーンの吊荷の振れ止め装置及び吊荷を所定の位置に戻す位置決め装置を提供し、さらに、これらの振れ止め装置及び位置決め装置を用いた振れ止め方法及び位置決め方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係るタワークレーンの吊荷のブームによる旋回作業及び起伏作業を示す、上部から見た平面図及び側面から見た立面図である。
【
図2】タワークレーンの吊荷の吊荷の振れ止め制御について側面から見た説明図、及び、タワークレーンの吊荷の吊荷の位置決め制御について上面から見た説明図である。
【
図3】タワークレーンとコアコントロールユニットと吊荷とによる測位システム及び計測システムを示す斜視図である。
【
図4】タワークレーンの吊荷のコアコントロールユニットの拡大した構成を示す斜視図である。
【
図5】タワークレーンの吊荷のコアコントロールユニットにおける吊荷の振れ止めの構成を示すブロック図である。
【
図6】タワークレーンの吊荷のコアコントロールユニットにおける吊荷の位置決めの構成を示すブロック図である。
【
図7】本発明に係るタワークレーンの吊荷の吊荷の振れ止め方法及び位置決め方法を示すフローチャートである。
【
図8】建設現場におけるタワークレーンによる吊荷の取付け作業のステージを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(タワークレーンの吊荷の旋回作業及び起伏作業)
図1(a)に、本発明に係るタワークレーン1のブーム4のジブ先端4a,4a´による旋回作業5aを上方から見た平面図で示す。ここで、符号4´は、旋回後のブーム4のジブ先端を示す。また、
図1(b)に、ブーム4の起伏作業5bを立面図で示す。これらのタワークレーン1の旋回作業5a及び起伏作業5bにより吊荷3,3´を取付け位置(又は目標位置)43に設置することができる(
図2参照)。しかし、この旋回作業5a及び起伏作業5bに伴って、タワークレーン1のコアコントロールユニット2が大きく揺れて加減速が作用する場合がある。特に、
図8に示す、取付け位置43近傍のステージ4、5及び6の作業時には、周辺に鉄骨躯体等があり、コアコントロールユニット2が大きく揺れると吊荷3,3´が鉄骨躯体等に衝突する危険性が高い。
図1(a)に示す“Δα”はブーム4の「横揺れ角」を示し、
図1(b)の示す“Δβ”はブーム4の「縦揺れ角」を示す。なお、本発明では、吊荷3,3´やコアコントロールユニット2の揺れの発生原因は、タワークレーン1のブーム4の旋回作業5a及び起伏作業5bのみならず、風力や地震力などの外力により発生する「揺れ」も含まれる。
【0023】
従来は、熟練したクレーンオペレータが目視での情報から感覚的にタワークレーン1を制御し、この「揺れ」を最小限にしていた。しかし、この作業は手間や労力がかかる。また、近年、熟練したクレーンオペレータが減少してきている。そこで、タワークレーン1を自動運転等とすることで、誰でも吊荷3,3´を制御できる装置とすることが望まれている。本発明は、タワークレーン1のジブ先端4aから上段ワイヤ7aで吊り下げられたコアコントロールユニット2を介して吊荷3,3´を吊上げ、コアコントロールユニット2に設けられた測位システム又は計測システムにより吊荷3,3´の「振れ止め制御12a」を行い、さらに、吊荷3,3´の「位置決め制御12b」を行う。
【0024】
(コアコントロールユニットの構成)
図2に、タワークレーン1の吊荷3の振れ止め制御12aについて側面から見た説明図で示し、及び、タワークレーン1の吊荷3の位置決め制御12bについて上面から見た説明図で示す。
図2(a)は、タワークレーン1の振れ止め制御12aを示し、
図2(b)は、タワークレーン1の位置決め制御12bを示す。また、
図3に、タワークレーン1とコアコントロールユニット2と吊荷3とによる測位システム及び計測システムを斜視図で示す。さらに、
図4にタワークレーン1のコアコントロールユニット2の拡大した構成を斜視図で示す。
【0025】
図2(a)に示すように、タワークレーン1の旋回作業5a及び起伏作業5b(
図1参照)により、コアコントロールユニット2及び吊荷3は、荷振れ方向と逆方向に推力Fを受ける。ここで、上段ワイヤ7aはコアコントロールユニット2を吊り下げ、コアコントロールユニット2と吊荷3とを結ぶ下段ワイヤ7bは数本によりコアコントロールユニット2と吊荷3とを連結する。この下段ワイヤ7bは、剛な部材でありコアコントロールユニット2と吊荷3との微細な動きの違いは無視できるものとする。従って、本願発明ではコアコントロールユニット2と吊荷3とは推力Fと連動して同様な動きをするものとする。このとき、荷揺れ方向への動的な揺れは、
図2(a)に示す揺動角(α)により表される。この揺動角(α)は、推力Fとは逆方向の動的な揺れとなる。このように、吊荷3の揺れの方向は推力Fとは逆方向の動的な傾きとなる。
【0026】
図3に、タワークレーン1とコアコントロールユニット2と吊荷3とによる測位システム及び計測システムを斜視図で示す。
図4に、タワークレーン1とコアコントロールユニット2との拡大した構成を斜視図で示す。
図4は、
図3の拡大した斜視図である。
図3に示すように、人工衛星11により測位されたコアコントロールユニット2又は吊荷3の位置情報は、コアコントロールユニット2に設けられたパラボラアンテナ14により受信される。本実施形態では、パラボラアンテナ14は、コアコントロールユニット2の下部架台13b上に2台が取り付けられる。コアコントロールユニット2の上部架台13aにはスラスタ8が搭載され、コアコントロールユニット2又は吊荷3が受けた揺れと逆方向の動的な推力Fを発生させてその揺れを制御する。また、コアコントロールユニット2又は吊荷3の揺れがスラスタ8によりキャンセルされた後に、吊荷3を現在位置10aから目標位置10bへと移動させる。
図5に示すように、コアコントロールユニット2には、「人工衛星測位16」、「ワイヤ振れ角度計測20」、「加速度エネルギ計測24」、及び「吊荷姿勢角計測」に関する各計測機器や制御機器が搭載され、スラスタ8を発生させることで吊荷3の「振れ止め制御12a」を行い、吊荷3を目標位置まで移動させるという「位置決め制御12b」を行う。ここで、「姿勢角」について説明する。3次元空間においてある物体をある場所に位置決めする場合には、基本的にある物体の位置と「姿勢」とを規定する必要がある。この「姿勢」は基本座標系からの3つの傾き角度で表され、それを「姿勢角」という。
【0027】
図3に示すように、コアコントロールユニット2は、これらの測位及び計測データを活用して吊荷3である鉄骨梁44を鉄骨柱45や鉄骨ブラケット46の間の所定の位置にタワークレーン1のオペレータの技量や経験値に頼らずに迅速にかつ正確に設置することが可能になる。
【0028】
(吊荷の振れ止めの構成)
図5に、タワークレーン1のコアコントロールユニット2における吊荷3の「振れ止め」の構成をブロック図で示す。ここで、吊荷3の「振れ止め」とは、吊荷3を所定の「取付け位置43」に設置する際に、上述したタワークレーン1の「旋回作業5a」又は「起伏作業5b」等の吊荷3の誘導時に吊荷3自体が動的に揺れるのを止めて静止状態にすることをいう。つまり、吊荷3を所定の「取付け位置43」に取り付けるには、この吊荷3自体の動的な揺れを止める必要がある。
【0029】
(吊荷の揺れ計測システム)
図5に示すように、人工衛星11は、コアコントロールユニット2又は吊荷3の測位データを衛星測位アンテナ18により測位し、衛星測位データ送信部17から衛星測位データ受信部19に送信する。コアコントロールユニット2の上部には、人工衛星11から発信されたデータを受信する2台のパラボラアンテナ14である衛星測位データ受信部19が設けられる。衛星測位アンテナ18は、コントロールユニット2の三次元位置(x,y,z)をリアルタイムに連続して計測する。このデータは、コアコントロールユニット2において吊荷位置データ28として記録される。また、角度計測部21は、タワークレーン1の下段ワイヤ7bに設置された下段ワイヤ7bの振れ角度計22により、下段ワイヤ7bの振れ角度データをリアルタイムで連続して計測し、コアコントロールユニット2の角度受信部23に送信する。このデータは、コアコントロールユニット2においてワイヤ振れ角度データ29として記録される。さらに、加速度エネルギ計測部25は、コアコントロールユニット2に設置された加速度計26により加速度エネルギ(E)をリアルタイムで連続して計測して記録し、コアコントロールユニット2の加速度エネルギ受信部27に送信する。このデータは、コアコントロールユニット2において加速度データ30として記録される。
【0030】
コアコントロールユニット2は、これらの人工衛星測位16による吊荷位置データ28、ワイヤ振れ角度計測20によるワイヤ振れ角度データ29、及び、加速度エネルギ計測24による加速度データ30から吊荷揺れ角計測データ31をリアルタイムで算出し、その結果から揺れを抑制する、2次元或いは3次元推力データ32を算出する。そして、2次元或いは3次元推力データ32に基づいてスラスタ8により揺れを制御する。
【0031】
なお、スラスタ8は、吊荷3の荷振れを止める第1制御と、吊荷3を取付け位置43に位置合わせする第2制御とをスイッチにより切り替えることができる。第1制御も第2制御もスラスタ8を用いることで共通しており、簡易な切替えにより連続して実施できる。
【0032】
(吊荷の位置決めの構成)
図6に、タワークレーン1のコアコントロールユニット2における吊荷3の「位置決め」の構成をブロック図で示す。ここで、吊荷3の「位置決め」とは、上述した「振れ止め」された吊荷3を静止状態のまま現在位置10aから目標位置10bに移動させることをいう。つまり、吊荷3を所定の「取付け位置43」に取り付けるには、この吊荷3自体の動的な揺れを止めた上で、吊荷3を目標位置10bに移動させなければならない。吊荷3の現在位置10aと目標位置10bとの座標値は、衛星測位アンテナ18により測位されてコアコントロールユニット2に送信される。
【0033】
このように、吊荷3の位置決めをするための現在位置10a及び目標位置10bは、人工衛星11による人工衛星測位16、立体カメラ36による立体距離計測34、3次元立体認識センサ35による3次元距離計測33等により測位又は計測される。これらの測位又は計測は、状況により単独又は複数により測位又は計測されても良い。立体カメラ36は、ステレオカメラとも称され、幅(W)だけ離された2個のカメラにより所定の吊荷3までの距離(L)を計測してその位置及び形状を認識する。3次元立体認識センサ35は、3Dライダとも称され、レーダーよりも短い波長の電磁波を用い、パルス状に発光するレーザ照射に対する散乱光を測定し、遠距離にある対象までの距離やその対象の形状を分析し、吊荷3の現在位置10a及び目標位置10bを計測する。3Dライダは、動いている対象物であってもスキャンして測定することができ、主として自動車の自動運転用のセンサ等に利用されているが、本願発明では、この技術を建設現場40におけるタワークレーン1に応用することができる。そして、これらのデータは、コアコントロールユニット2の衛星測位データ受信部19及び計測データ受信部15に送信される。コアコントロールユニット2のスライド量算出部37が、これらのデータからコアコントロールユニット2又は吊荷3の必要となるスライド量を算出する。そして、スラスタ8にデータを送信する。
【0034】
コアコントロールユニット2は、これらの吊荷位置データ28、ワイヤ振れ角度データ29、及び、加速度データ30又は姿勢角から吊荷揺れ角計測データ31をリアルタイムで算出し、その結果から揺れを抑制する2次元或いは3次元推力データ32を算出する。そして、2次元或いは3次元推力データ32に基づいてスラスタ8による揺れを制御する。
【0035】
吊荷3の「位置決め」についても上述した「振れ止め」と同様に、吊荷3に対してスラスタ8により「推力F」を加えることで達成される。但し、吊荷3の「振れ止め」は、動的な振動に対して逆方向の推力Fを加えることで動的な振動をキャンセルさせる方法である。それに対して、吊荷3の「位置決め」は、スラスタ8により吊荷3に静的な「推力F」を加えることで達成される。
【0036】
(振れ止め方法)
図7に、本発明に係るタワークレーン1の振れ止め装置及び位置決め装置を用いた吊荷3の振れ止め方法及び位置決め方法をフローチャートで示す。このフローチャートでは、各ステップはS1,S2・・・,S7と示す。まず、コアコントロールユニット2が、荷振れの程度を把握するため吊荷3の荷振れ角(Δα)を加速度計26又は姿勢角により算定する(S1)。この算定された荷振れ角(Δα)が規定値以内か否かが判断される(S2)。この規定値は、事前に決定される。荷振れ角(Δα)が規定値以上である場合(Noの場合)には、荷振れを抑えるために、コアコントロールユニット2により、算定された荷振れ角(Δα)を横振れ角(Δα
1)及び縦振れ角(Δα
2)に分解し、それぞれの振れ角(Δα
1,Δα
2)に応じた推力Fを発生させる(S3)。ここで、Δα
1は横方向の荷振れ角であり、Δα
2は縦方向の荷振れ角である。このとき、トータルの荷振れ角(Δα)は、Δα=((Δα
1)
2+(Δα
2)
2)
1/2で表される。荷振れ角(Δα)が規定値未満である場合(Yesの場合)には、揺れはほとんどなくスラスタ8による推力Fの発生は不要であると判断する。但し、荷振れ角(Δα)が規定値未満であっても吊荷3を回転させる必要がある場合には、スラスタ8による推力Fにより吊荷3を回転させても良い。これらの操作により、振れ止め制御12aが完了する。
【0037】
(位置決め方法)
以上の振れ止め制御12aに引き続き、位置決め制御12bが行われる。ただし、風や地震等により吊荷3又はコアコントロールユニット2の振れが止まらない場合には、無理をせず、風や地震等による振れが収まり静止するまで待たなければならない。そこで、吊荷3又はコアコントロールユニット2が静止したか否かが判断される(S4)。Noの場合には、Yesになるまでステップ4を繰り返す。そして、Yesの場合に、次のステップに進む。まず、吊荷3の現在位置10aと目標位置10bとの差異を算出する(S5)この位置の算定は、衛星測位データ受信部19が受信した人工衛星11により測位されたデータによる。或いは、3次元立体認識センサ35により計測された結果による。この算出された吊荷3の現在位置10aと目標位置10bとの差異が規定値以内か否かが判断される(S6)。そして、吊荷3の現在位置10aと目標位置10bとの差異が規定値以上であれば、この測位又は計測データに基づき、スラスタ8により目標位置10bに位置合わせが行われる(S7)。一方、吊荷3の現在位置10aと目標位置10bとの差異が規定値未満であれば、その差異は、スラスタ8を用いずにタワークレーン1の運転操作により目標位置10bに位置合わせが可能となる差異である。S5~S7のステップにより、吊荷3の位置決め制御12bが終了する。
【0038】
以上の実施形態で説明されたタワークレーン1の振れ止め装置、位置決め装置、及び、振れ止め方法、位置決め方法の構成、形状、大きさ、及び配置関係については、本発明が理解、実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。従って、本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 タワークレーン、2 コアコントロールユニット、3 吊荷、3´ (移動後の)吊荷、4 ブーム、4a,4a´ ジブ先端、4b フック、5a 旋回作業、5b 起伏作業、7a 上段ワイヤ、7b 下段ワイヤ、8 スラスタ、10a 現在位置(データ)、10b 目標位置(データ)、11 人工衛星、12a 振れ止め制御、12b 位置決め制御、13a 上部架台、13b 下部架台、14 パラボラアンテナ、15 計測データ受信部、16 人工衛星測位、17 衛星測位データ送信部、18 衛星測位アンテナ、19 衛星測位データ受信部、20 ワイヤ振れ角度計測、21 角度計測部、22 振れ角度計、23 角度受信部、24 加速度エネルギ計測、25 加速度エネルギ計測部、26 加速度計、27 加速度エネルギ受信部、28 吊荷位置データ、29 ワイヤ振れ角度データ、30 加速度データ、31 吊荷揺れ角計測データ、32 2次元(或いは3次元)推力データ、33 3次元距離計測、34 立体距離計測、35 3次元立体認識センサ、36 立体カメラ(ステレオカメラ)、37 スライド量算出部、40 建設現場、41 搬送トラック、42 荷取り位置、43 取付け位置、44 鉄骨梁、45 鉄骨柱、46 鉄骨ブラケット、47 吊上げ治具、50 建設物、α 揺動角、Δα 荷振れ角、Δα1 横振れ角、Δα2 縦振れ角、E 加減速エネルギ、
F 推力。