(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】車両用アンダーカバー
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20241126BHJP
B62D 35/02 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B62D25/20 N
B62D35/02
(21)【出願番号】P 2021005134
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【氏名又は名称】江口 基
(74)【代理人】
【識別番号】100147854
【氏名又は名称】多賀 久直
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴史
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0103171(US,A1)
【文献】国際公開第2018/230538(WO,A1)
【文献】特開2012-071662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
B62D 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂部と、前記樹脂部で区画される開口部分を塞ぐように該開口部分に設けられた吸音部とを備える車両用アンダーカバーであって、
車両用アンダーカバーの側縁部を構成する前記樹脂部に、上方へ突出する堰部が
前後方向に延びるように設けられ、
前記堰部は、下方へ開口して上方へ張り出す凸状堰部を備えて
おり、
前記車両用アンダーカバーの前縁部を構成する前部分には、前記堰部よりも高い立壁部が設けられている
ことを特徴とする車両用アンダーカバー。
【請求項2】
樹脂部と、前記樹脂部で区画される開口部分を塞ぐように該開口部分に設けられた吸音部とを備える車両用アンダーカバーであって、
車両用アンダーカバーの側縁部を構成する前記樹脂部に、上方へ突出する堰部が
前後方向に延びるように設けられ、
前記吸音部は、多孔質材であ
り、
前記車両用アンダーカバーの前縁部を構成する前部分には、前記堰部よりも高い立壁部が設けられている
ことを特徴とする車両用アンダーカバー。
【請求項3】
樹脂部と、前記樹脂部で区画される開口部分を塞ぐように該開口部分に設けられた吸音部とを備える車両用アンダーカバーであって、
車両用アンダーカバーの側縁部を構成する前記樹脂部に、上方へ突出する堰部が設けられ、
前記堰部は、
下方へ開口して上方へ張り出す凸状堰部と、
前記凸状堰部から立ち上がる板状堰部と、を備えている
ことを特徴とする車両用アンダーカバー。
【請求項4】
樹脂部と、前記樹脂部で区画される開口部分を塞ぐように該開口部分に設けられた吸音部とを備える車両用アンダーカバーであって、
車両用アンダーカバーの側縁部を構成する前記樹脂部に、上方へ突出する堰部が設けられ、
前記樹脂部において左右方向に隣り合う前記吸音部の間にて前後方向に延びる縦枠部に、上方へ突出する規制部が設けられ、
前記規制部は、
下方へ開口して上方へ張り出す凸状規制部と、
前記凸状規制部から立ち上がる板状規制部と、を備えている
ことを特徴とする車両用アンダーカバー。
【請求項5】
車両用アンダーカバーの側縁部に設けられ、下方へ開口して上方へ張り出す凸状堰部と、
前記凸状堰部から立ち上がる板状堰部と、を備えている
ことを特徴とする車両用アンダーカバー。
【請求項6】
前記樹脂部および/または前記吸音部に、上下に貫通する水抜き孔が設けられている請求項1または2に記載の車両用アンダーカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンアンダーカバーなどの車両用アンダーカバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両におけるエンジンの下側には、エンジン音を低減するために、エンジンアンダーカバーが設置されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両が冠水路を走行した場合、エンジンアンダーカバーの上に多量の水が溜まってしまうと、エンジンアンダーカバーが外れてしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、従来の技術に係る前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、外部から水が入り難い車両用アンダーカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係る車両用アンダーカバーは、
樹脂部と、前記樹脂部で区画される開口部分を塞ぐように該開口部分に設けられた吸音部とを備える車両用アンダーカバーであって、
車両用アンダーカバーの側縁部を構成する前記樹脂部に、上方へ突出する堰部が設けられていることを要旨とする。
【0007】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、別の本発明に係る車両用アンダーカバーは、
車両用アンダーカバーの側縁部に設けられ、下方へ開口して上方へ張り出す凸状堰部と、
前記凸状堰部から立ち上がる板状堰部と、を備えていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る車両用アンダーカバーによれば、堰部によって外部から水が入り難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る車両用アンダーカバーを斜め上側から見た概略斜視図である。
【
図2】第1実施形態の車両用アンダーカバーを斜め下側から見た概略斜視図である。
【
図3】第1実施形態の車両用アンダーカバーを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明に係る車両用アンダーカバーにつき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。なお、実施例では、車両用アンダーカバーとして、エンジンアンダーカバーを例示している。
【実施例】
【0011】
(第1実施形態)
図1~
図3に示すように、第1実施形態に係る車両用アンダーカバー10(以下、単にアンダーカバーという。)は、樹脂部12と、樹脂部12で区画される開口部分14を塞ぐように開口部分14に設けられた吸音部16とを備えている。アンダーカバー10は、樹脂部12と吸音部16とが、樹脂部12の成形時に一体化したり、接着剤で接着したり、熱等により溶着したりするなどによって互いに接続されている。アンダーカバー10では、吸音部16よりも硬質な樹脂部12によって、剛性が主に担保されている。アンダーカバー10は、樹脂部12に設けられた取付部分を用いて、自動車等の車両の車体に取り付けられる。なお、アンダーカバー10は、樹脂部12および/または吸音部16に、上下に貫通する水抜き孔(図示せず)を設けてもよい。
【0012】
樹脂部12は、合成樹脂の射出成形等による成形品である。合成樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン (ABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)などを用いることができる。
【0013】
図1~
図3に示すように、第1実施形態の樹脂部12は、車体への取付部分が形成された外周部18と、この外周部18の内側において前後左右方向へ延びる格子状に形成された枠部20,22とを備えている。樹脂部12には、開口部分14が、4本の枠部20,22、あるいは外周部18および枠部20,22に囲まれて形成されている。第1実施形態では、複数の開口部分14が、樹脂部12において前後左右に並ぶように配置されている。
【0014】
図1に示すように、外周部18においてアンダーカバー10の前縁部を構成する前部分には、吸音部16の上面よりも上方へ張り出す立壁部24が設けられている。立壁部24は、下方へ開口して上方へ張り出す凸形状に形成されている。アンダーカバー10は、立壁部24に設けられた取付部分でも車体の下面に取り付けられて、立壁部24によって前側から水がアンダーカバー10上に侵入することを防いでいる。また、アンダーカバー10は、外周部18の後部分が車体に連なるように取り付けられている。なお、第1実施形態のアンダーカバー10において、外周部18の横端および後端に設けられた低い突起12aは補強のためのものである。
【0015】
図1に示すように、外周部18においてアンダーカバー10の側縁部を構成する横部分には、吸音部16の配置面よりも上方へ突出する堰部26が設けられている。堰部26は、立壁部24よりも低く形成されている。また、堰部26は、外周部18の横端にある突起12aよりも高く形成されている。堰部26は、左右方向外側に位置する吸音部16の横側に沿って、突起12aよりも内側に配置されている。堰部26は、前部が立壁部24に繋がって、アンダーカバー10の前後に亘って延びるように形成されている。堰部26の高さは、アンダーカバー10の側縁部と車体との間に形成される隙間の上下寸法に合わせて設定するとよい。
【0016】
図4に示すように、堰部26は、下方へ開口して上方へ張り出す凸状堰部26aと、凸状堰部26aから立ち上がる板状堰部26bとを備えている。凸状堰部26aは、山形に屈曲する板で形成されて、吸音部16の配置面よりも上方へ張り出している。板状堰部26bは、凸状堰部26aにおける上面の左右方向中央部から上方へ突出する板状片である。
【0017】
図1および
図3に示すように、アンダーカバー10には、樹脂部12における枠部20,22のうち、左右方向に隣り合う吸音部16の間にて前後方向に延びる縦枠部20に、上方へ突出する規制部28が設けられている。規制部28は、立壁部24および堰部26の高さ以下で形成するとよい。
図4に示すように、規制部28は、下方へ開口して上方へ張り出す凸状規制部28aと、凸状規制部28aから立ち上がる板状規制部28bとを備えている。凸状規制部28aは、山形に屈曲する板で形成されて、吸音部16の配置面よりも上方へ張り出している。板状規制部28bは、凸状規制部28aにおける上面の左右方向中央部から上方へ突出する板状片である。なお、第1実施形態の規制部28は、凸状規制部28aの吸音部16からの張り出し高さが凸状堰部26aと同じであり、板状規制部28bの凸状規制部28aからの突出高さが、板状堰部26bの凸状堰部26aからの突出高さと同じである。
【0018】
図1に示すように、アンダーカバー10は、樹脂部12における枠部20,22のうち、前後方向に隣り合う吸音部16,16の間にて左右方向に延びる横枠部22が、規制部28よりも低く形成されている。
図5に示すように、横枠部22は、平板部22aと、平板部22aの前後中央部より上方へ突出する横リブ22bとを備えている。第1実施形態のアンダーカバー10は、横枠部22の横リブ22bが、縦枠部20の凸状規制部28aよりも低く形成されている。
【0019】
吸音部16は、多数の空隙を有する不織布や発泡体などの多孔質材で構成することができる。アンダーカバー10は、多数の空隙を有する吸音部16によって、エンジン音や走行音などの車外騒音を抑えている。吸音部16を構成する不織布としては、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維などからなるものを用いることができる。また、吸音部16を構成する発泡体としては、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリスチレン系などの発泡体を用いることができる。
【0020】
図4に示すように、凸状堰部26aおよび凸状規制部28aは、対向する一対の縦壁が上から下へ向かうにつれて互いに離れるように傾斜している。この場合、縦壁の傾斜下端に近接した位置に水抜き孔を設けると、傾斜した縦壁によって水を水抜き孔に案内でき、水を円滑に排水することができるので好ましい。
【0021】
アンダーカバー10は、吸音部16となるシート材をセットした成形型において樹脂部12を成形するインサート成形によって得ることができる。インサート成形では、シート材の端部を、樹脂部12をなすキャビティに臨ませた状態で、樹脂部12を射出成形する。インサート成形時の型締めにより、シート材から分割して得られる吸音部16の端部(一部)が、樹脂部12の内側に入り込んだ状態で溶着し、吸音部16の端部と樹脂部12とが一体化される。各吸音部16は、樹脂部12で区画される開口部分14毎に分割されて設けられてもよい。また、アンダーカバー10は、樹脂部12を成形した後、吸音部16を樹脂部12に接着剤で接着したり、吸音部16を樹脂部12に超音波等により溶着したりすることなどによっても得ることができる。
【0022】
第1実施形態のアンダーカバー10は、その側縁部を構成する樹脂部12の外周部18に、上方へ突出する堰部26が設けられている。これにより、車体とアンダーカバー10との間の隙間を、堰部26で塞ぐことができ、例えば冠水路を走行した場合であっても、横側からアンダーカバー10上に水が浸入し難くすることができる。従って、アンダーカバー10の上に多量の水が溜まることを防いで、冠水路などを走行しても、アンダーカバー10が車体から外れることや、吸音部16が樹脂部12から外れることなどを回避できる。しかも、堰部26によって吸音部16の水濡れを防止できるので、吸音部16が含水することによる吸音性能の悪化や、水が凍ることによる吸音部16の劣化などを防ぐことができる。
【0023】
例えば、堰部26における凸状堰部26a単体あるいは板状堰部26b単体を高く設定しようとすると、型抜きの都合上、凸状堰部26aの幅を広くしたり、板状堰部26bの板厚を厚くしたりする必要が生じるなど制約がある。第1実施形態のアンダーカバー10は、堰部26が、下方へ開口して上方へ張り出す凸状堰部26aと、凸状堰部26aから立ち上がる板状堰部26bとを備えているので、凸状堰部26aと板状堰部26bとに振り分けて堰部26の高さを確保することができる。従って、第1実施形態のアンダーカバー10によれば、堰部26が前述した制約の影響を受け難く、水の浸入を防止し得る適切な堰部26を設定できる。
【0024】
アンダーカバー10は、樹脂部12において左右方向に隣り合う吸音部16,16の間にて前後方向に延びる縦枠部20に、上方へ突出する規制部28が設けられている。これにより、仮に堰部26を乗り越えて水が浸入してきた場合であっても、規制部28によって左右方向中央側へ浸水を阻むことができる。従って、アンダーカバー10の上に多量の水が溜まることを防いで、冠水路などを走行しても、アンダーカバー10が車体から外れることや、吸音部16が樹脂部12から外れることなどを回避できる。しかも、規制部28によって吸音部16の水濡れを防止できるので、吸音部16が含水することによる吸音性能の悪化や、水が凍ることによる吸音部16の劣化などを防ぐことができる。しかも、規制部28によって、アンダーカバー10の上を流れる空気を整えることができ、例えば整えた空気流によってエンジンを冷却できるなど様々な利点がある。
【0025】
堰部26と同様に、例えば規制部28における凸状規制部28a単体あるいは板状規制部28b単体を高く設定しようとすると、型抜きの都合上、凸状規制部28aの幅を広くしたり、板状規制部28bの板厚を厚くしたりする必要が生じるなど制約がある。第1実施形態のアンダーカバー10は、規制部28が、下方へ開口して上方へ張り出す凸状規制部28aと、凸状規制部28aから立ち上がる板状規制部28bとを備えているので、凸状規制部28aと板状規制部28bとに振り分けて規制部28の高さを確保することができる。従って、第1実施形態のアンダーカバー10によれば、規制部28が前述した制約の影響を受け難く、適切な高さの規制部28を設定できる。
【0026】
アンダーカバー10は、樹脂部12において前後方向に隣り合う吸音部16,16の間にて左右方向に延びる横枠部22が、規制部28よりも低く形成されている。このようにすることで、横枠部22がアンダーカバー10上を前後へ流れる空気の邪魔をし難くなり、規制部28による整流作用を適切に行うことができる。
【0027】
堰部26および規制部28は、前述した機能だけでなく、アンダーカバー10の剛性を確保するための形状としても機能する。
【0028】
(第2実施形態)
第1実施形態では、樹脂部12と、樹脂部12で区画される開口部分14を塞ぐように該開口部分14に設けられた吸音部16とを備えるアンダーカバー10を例示したが、例えば、合成樹脂や、不織布または発泡体などの多孔質シートの単層または複層でアンダーカバーを構成してもよい。より具体的には、アンダーカバーを合成樹脂単層で構成したり、合成樹脂からなるアンダーカバーに吸音材としての多孔質シートを積層したり、多孔質シートを成形してアンダーカバーを構成したりするなどが挙げられる。このような第2実施形態のアンダーカバーであっても、その側縁部に設けられて、下方へ開口して上方へ張り出す凸状堰部と、凸状堰部から立ち上がる板状堰部とを備えているとよい。なお、第2実施形態においても、堰部および規制部の形状を第1実施形態と同じにすることができる。
【0029】
第2実施形態のアンダーカバーは、車体とアンダーカバーとの間の隙間を、堰部で塞ぐことができ、例えば冠水路を走行した場合であっても、横側からアンダーカバー上に水が浸入し難くすることができる。従って、アンダーカバーの上に多量の水が溜まることを防いで、冠水路などを走行しても、アンダーカバーが車体から外れることを回避できる。例えば、堰部における凸状堰部単体あるいは板状堰部単体を高く設定しようとすると、型抜きの都合上、凸状堰部の幅を広くしたり、板状堰部の板厚を厚くしたりする必要が生じるなど制約がある。第2実施形態であっても、堰部が、下方へ開口して上方へ張り出す凸状堰部と、凸状堰部から立ち上がる板状堰部とを備えているので、凸状堰部と板状堰部とに振り分けて堰部の高さを確保することができる。従って、第2実施形態のアンダーカバーによれば、堰部が前述した制約の影響を受け難く、水の浸入を防止し得る適切な堰部を設定できる。
【0030】
(変更例)
前述した事項に限らず、例えば以下のように変更してもよい。なお、本発明は、実施例および以下の変更例の具体的な記載のみに限定されるものではない。
(1)横枠部は、縦枠部の凸状規制部と同様の形状であってもよい。
(2)本発明の車両用アンダーカバーは、例えば、エンジンアンダーカバー、フロアアンダーカバー、フェンダーライナーなどの車両外装部材に適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
10 アンダーカバー(車両用アンダーカバー),12 樹脂部,14 開口部分,
16 吸音部,20 縦枠部(枠部),22 横枠部(枠部),26 堰部,
26a 凸状堰部,26b 板状堰部,28 規制部,28a 凸状規制部,
28b 板状規制部