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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】反応装置及び反応方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/461 20230101AFI20241126BHJP
   C02F 11/08 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
C02F1/461 101A
C02F11/08 ZAB
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021017362
(22)【出願日】2021-02-05
(65)【公開番号】P2022120455
(43)【公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】清川 達則
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-093974(JP,A)
【文献】特表2012-505733(JP,A)
【文献】特開2009-158426(JP,A)
【文献】国際公開第2010/143634(WO,A1)
【文献】特開2019-186032(JP,A)
【文献】韓国登録特許第1318331(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0031206(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46 - 1/48
C02F 3/28 - 3/34
C02F 11/00 - 11/20
H01M 8/00 - 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極間にイオン交換体を配置した反応部を備える反応装置であって、
前記反応部のカソード側に導入されるカソード溶液に電解質を添加する電解質供給手段と、
前記カソード溶液の電解質濃度を測定する測定部と、
前記測定部の測定結果に基づき、前記カソード溶液への電解質の添加量を制御する制御部と、を備え、
前記反応部のアノード側に導入されるアノード溶液の電気伝導度が10000μS/cm以下であり、
記カソード溶液の電解質濃度が、前記アノード溶液の電解質濃度よりも高いことを特徴とする、反応装置。
【請求項2】
前記反応部は、前記カソード溶液を循環させる循環流路を有することを特徴とする、請求項1に記載の反応装置。
【請求項3】
前記アノード溶液は、被処理水を嫌気処理して得られた処理水であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の反応装置。
【請求項4】
電極間にイオン交換体を配置した反応部による反応方法であって、
前記反応部のカソード側に導入されるカソード溶液に電解質を添加する電解質供給工程と、
前記カソード溶液の電解質濃度を測定する測定工程と、
前記測定工程の測定結果に基づき、前記カソード溶液への電解質の添加量を制御する制御工程と、を備え、
前記反応部のアノード側に導入されるアノード溶液の電気伝導度が10000μS/cm以下であり、
前記カソード溶液の電解質濃度が、前記アノード溶液の電解質濃度よりも高いことを特徴とする、反応方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応装置及び反応方法に関するものである。より詳しくは、本発明は、電極反応を用いた反応装置及び反応方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被処理物の処理に際しては、様々な反応方法が知られている。このような処理は、被処理物に含まれる成分や、排出される処理水の量などのように、被処理物自体に係る物性上の特徴や、処理効率とコストのバランスなどのように、処理を実施するための設備や運用に係る特徴などを考慮し、反応方法が選択されている。
また、処理においては、異なる反応方法を複数組み合わせることで、処理の効率化を図ることが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、有機物を含む被処理水の処理として、被処理水中に一対の電極を浸漬し、電気化学処理を行った後、被処理水を生物処理する処理について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-330182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるように、電気化学処理と生物処理とを組み合わせた処理においては、それぞれの処理ごとに反応効率のよい反応を進行させ、処理全体としての処理効率を向上させることが可能となる。その一方で、一般的に、電気化学処理は電力消費に係るランニングコストの負担が大きいという課題がある。特許文献1に記載された処理では、電気化学処理単独よりはランニングコストの低減が可能とされている。しかしながら、特許文献1に記載された処理では、処理の系外から電気化学処理及び生物処理に係るエネルギーを供給する必要がある。したがって、処理時における更なる省エネルギー化が求められている。
【0006】
近年、処理時における設備駆動電力を抑え、省エネルギー化に優れるものとするために、処理の工程上でエネルギーの回収・利用が可能な技術が検討されている。
このような技術の一つとしては、処理工程上に電極を設け、直接電気エネルギーを回収することが挙げられる。このとき、処理工程上の水溶液(被処理水や処理水)をアノード側に供給し、電極反応に供する電子供与体として処理工程上の水溶液中に含まれる還元性物質を利用することで、電極反応によるエネルギー回収と同時に、被処理水や処理水に対する電気化学処理を行うことができ、処理の効率向上と省エネルギー化の実現が期待できる。
本発明者らは、特に、嫌気処理に伴い発生する硫化水素を電子供与体として用いることにより、併せて処理水の脱硫処理も可能となることを既に見出している。
【0007】
一方、処理工程上の水溶液中に含まれる還元性物質を用いた電極反応においては、処理工程の種類や処理対象物の成分・性質等により、処理工程上の水溶液中に含まれる電解質濃度が、一般的な電極反応における電解質濃度よりも大幅に低くなることがある。このため、電解質濃度が大幅に低い溶液を電極反応に供した場合においても、電極反応を安定して行うことができる技術が求められている。また、電極反応の進行に係るランニングコストを抑制する技術も併せて求められる。
【0008】
本発明の課題は、電極反応において、アノード側に導入するアノード溶液の電解質濃度が大幅に低い場合に、安定した電極反応を低コストで行うことができる反応装置及び反応方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、電極間にイオン交換体を配置した反応部において、特定の電気伝導度(電解質濃度)以下となるアノード溶液と、アノード溶液よりも電解質濃度が高いカソード溶液とを導入することで、低コストで安定した電極反応を行うことが可能となることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の反応装置及び反応方法である。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の反応装置は、電極間にイオン交換体を配置した反応部を備える反応装置であって、反応部のアノード側に導入されるアノード溶液の電気伝導度が10000μS/cm以下であり、反応部のカソード側に導入されるカソード溶液の電解質濃度が、アノード溶液の電解質濃度よりも高いという特徴を有する。
【0011】
一般に、電極反応を行う場合、アノード溶液とカソード溶液の電解質濃度は略同程度となるよう調整される。しかし、どちらか一方の溶液(例えば、アノード溶液)の電解質濃度が大幅に低い場合、両溶液の電解質濃度を略同程度に調整するためには、電解質濃度が低い溶液に対し、大量の電解質を供給することになるため、ランニングコスト増につながるという問題があった。
一方、本発明者らは、特定の電気伝導度以下のアノード溶液を用いる電極反応において、アノード溶液とカソード溶液の電解質濃度を略同程度に調整するのではなく、電極間にイオン交換体を配置し、アノード溶液の電解質濃度とカソード溶液の電解質濃度の間に差分が存在することで電極反応が効率的に進行することを見出した。
この知見に基づく本発明の反応装置は、上述したように、電極間にイオン交換体を配置した反応部を備え、電気伝導度が一定値以下のアノード溶液と、アノード溶液の電解質濃度よりも高い電解質濃度を有するカソード溶液を用いるものである。この反応装置により、電解質濃度が低い溶液を用いた電極反応において、アノード溶液とカソード溶液の電解質濃度を略同程度に調整するために大量の電解質を供給する必要がなく、安定した電極反応を低コストで行うことが可能となる。
特に、本発明の反応装置により、処理工程上の水溶液(被処理水や処理水)のように、電解質濃度が低い溶液をアノード側に供給し、電極反応に供する電子供与体として処理工程上の水溶液中に含まれる還元性物質を利用した電極反応を安定して進行させることができる。また、本発明の反応装置によって処理工程上の水溶液を用いた電極反応を行うことで、設備を大型化することなく、効率的な発電を実施し、エネルギーの回収・利用が可能となる。さらに、電極反応によるエネルギー回収と同時に、被処理水や処理水に対する電気化学処理を行うことができ、処理の効率向上と省エネルギー化の実現が期待できる。例えば、処理工程上の水溶液中に含まれる還元性物質として硫黄成分を含む場合、本発明の反応装置により、脱硫処理のための設備を別途設けることなく、効率的な脱硫処理を実施することが可能となる。
【0012】
また、本発明の反応装置の一実施態様としては、カソード溶液に電解質を添加する電解質供給手段を備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、カソード溶液の電解質濃度を調整することができ、アノード溶液の電解質濃度との濃度差を制御することが可能となる。これにより、電極反応の進行を安定して継続させることが可能となる。
【0013】
また、本発明の反応装置の一実施態様としては、カソード溶液の電解質濃度を測定する測定部と、測定部の測定結果に基づき、電解質供給手段を制御する制御部と、を備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、カソード溶液の電解質濃度に応じ、電解質の添加量を制御することができ、カソード溶液の電解質濃度とアノード溶液の電解質濃度との濃度差をより適切に制御することが可能となる。これにより、電極反応を高効率化するとともに、安定して継続させることが可能となる。
【0014】
また、上記課題を解決するための本発明の反応方法としては、電極間にイオン交換体を配置した反応部による反応方法であって、反応部のアノード側に導入されるアノード溶液の電気伝導度が10000μS/cm以下であり、反応部のカソード側に導入されるカソード溶液の電解質濃度が、アノード溶液の電解質濃度よりも高いという特徴を有する。
本発明の反応方法は、電極間にイオン交換体を配置した反応部に対し、電解質濃度が一定値以下のアノード溶液と、アノード溶液の電解質濃度よりも高い電解質濃度を有するカソード溶液とを導入して反応させるものである。この反応方法により、電解質濃度が低い溶液を用いた電極反応において、アノード溶液とカソード溶液の電解質濃度を略同程度に調整するために大量の電解質を供給する必要がなく、安定した電極反応を低コストで行うことが可能となる。
特に、本発明の反応方法により、処理工程上の水溶液(被処理水や処理水)のように、電解質濃度が低い溶液をアノード側に供給し、電極反応に供する電子供与体として処理工程上の水溶液中に含まれる還元性物質を利用した電極反応を安定して進行させることができる。また、本発明の反応方法によって処理工程上の水溶液を用いた電極反応を行うことで、設備を大型化することなく、効率的な発電を実施し、エネルギーの回収・利用が可能となる。さらに、電極反応によるエネルギー回収と同時に、被処理水や処理水に対する電気化学処理を行うことができ、処理の効率向上と省エネルギー化の実現が期待できる。例えば、処理工程上の水溶液中に含まれる還元性物質として硫黄成分を含む場合、本発明の反応方法により、脱硫処理のための設備を別途設けることなく、効率的な脱硫処理を実施することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電極反応において、アノード側に導入するアノード溶液の電解質濃度が大幅に低い場合に、安定した電極反応を低コストで行うことができる反応装置及び反応方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施態様における反応装置の概略説明図である。
図2】本発明の第1の実施態様における反応装置の別態様を示す概略説明図である。
図3】本発明の第2の実施態様における反応装置の概略説明図である。
図4】本発明の第3の実施態様における反応装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る反応装置及び反応方法の実施態様を詳細に説明する。本発明における反応方法は、本発明における反応装置の作動の説明に置き換えるものとする。
なお、実施態様に記載する反応装置及び反応方法については、本発明に係る反応装置及び反応方法を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0018】
本発明の反応装置は、溶液中に配した電極により電極反応を行う装置である。また、本発明の反応装置は、電極反応に起因して生成するものや電極反応に伴う処理工程を利用した各種装置として活用することが可能である。このような装置としては、例えば、電極反応によるエネルギー回収を行う発電装置や、溶液中に含まれる成分除去を行う処理装置などが挙げられる。
【0019】
本発明の反応装置には、アノード側とカソード側にそれぞれ溶液が導入される。このとき、アノード側に導入されるアノード溶液とカソード側に導入されるカソード溶液は異なる物性(電解質濃度など)を有するものが対象となる。
ここで、本発明の反応装置に導入されるアノード溶液及びカソード溶液中に含まれる電解質は、溶液に溶解して電流を流す能力を有する物質であればよく、具体的な成分の種類や数は特に限定されない。
このため、本発明の反応装置に導入されるアノード溶液及びカソード溶液については、個々の電解質成分ごとに係る電解質濃度だけではなく、溶液全体として電流を流す能力を示す電気伝導度も指標として用いる。
【0020】
特に、本発明の反応装置に導入されるアノード溶液は、一般に電気分解等の電極反応に適用される電解質濃度(電気伝導度)よりも低い電解質濃度(電気伝導度)を有するものである。
具体的には、電気伝導度が10000μS/cm以下となる溶液をアノード溶液とする。このようなアノード溶液としては、自然界における汽水湖、河川水、地下水、雨水などのほか、被処理物の処理により排出される処理水が挙げられる。
【0021】
本発明におけるアノード溶液としては、被処理物の処理により排出される処理水を用いることが好ましい。特に、被処理物の処理を経ることで生成された電極反応が可能な物質を含む処理水を、アノード溶液とすることが好ましい。これにより、処理水中の成分を活用したエネルギー回収などが可能となる。なお、電極反応が可能な物質としては、例えば、還元性物質が挙げられる。
このとき、本発明の反応装置と、被処理物の処理を行う処理手段とを直接接続し、処理手段から排出される処理水をアノード溶液として本発明の反応装置に導入するものとしてもよい。これにより、反応装置に対し、処理水を連続的にアノード溶液として導入することが容易となる。
【0022】
本発明において、処理手段による処理対象である被処理物とは、処理後の処理水中に電極と反応する還元性物質が含まれるものであれば特に限定されず、固体あるいは液体のいずれであってもよい。なお、還元性物質は、処理前の被処理物に含有されているものであってもよく、処理経過に伴って生成され、処理水中に存在するものであってもよい。
具体的な被処理物の例としては、例えば、食品工場、化学工場、紙パルプ工場等の各種工場から排出される工業排水や、下水などの生活排水などのような排水(廃水)が挙げられる。また、被処理物の他の例としては、例えば、家庭や各種工場から排出する生ごみや食品廃棄物、木などバイオマスのほか、各種工場から排出される工業排水や下水などの生活排水を処理した後の余剰汚泥などのような固体廃棄物が挙げられる。ここで、被処理物が固体である場合、処理後の処理水とは、固体分を除去した濾液を指すものである。
なお、以下の実施態様においては、被処理物として、処理を経ることで処理水中に還元性物質が存在する排水(以下、「被処理水」と呼ぶ。)について主に説明するが、これに限定されるものではない。
【0023】
また、本発明において、処理水中に含まれる還元性物質とは、電子供与体として機能するものであればよく、特に限定されない。ある物質が電子供与体として機能するか否かは、電子受容体として機能する物質(以下、単に「電子受容体」と呼ぶ)との組み合わせによって相対的に決まるものである。つまり、本発明における還元性物質は、電子受容体よりも電子を放出しやすいもの、すなわち電子受容体よりも酸化還元電位が低いものとすることが挙げられる。例えば、電子受容体として酸素を用いた場合、本発明における還元性物質は、酸素よりも酸化還元電位が低いものであればよく、このような還元性物質としては、硫化水素、水素、アンモニアなどが挙げられる。
【0024】
〔第1の実施態様〕
図1は、本発明の第1の実施態様における反応装置の構造を示す概略説明図である。
本実施態様における反応装置1Aは、図1に示すように、反応部3と、電解質供給手段4とを備えるものである。
また、本実施態様における反応装置1Aに対し、アノード溶液として被処理物の処理により排出される処理水を導入するために、被処理物の処理手段である処理槽2を接続している。
【0025】
ここで、本実施態様においては、処理手段(処理槽2)において処理対象となる被処理物が、嫌気処理を経ることで処理水中に還元性物質が存在する排水(以下、「被処理水W」と呼ぶ。)である場合について説明する。
すなわち、本実施態様における反応装置1A及び処理槽2の接続においては、図1に示すように、処理槽2に被処理水Wを導入する導入配管L1と、処理槽2と反応装置1A(反応部3)を接続し、処理槽2で被処理水Wが処理された後の処理水W1を反応部3に供給する接続配管L2と、電極反応後の処理水W2を反応部3から排出する排出配管L3とが配置されている。
【0026】
まず、本実施態様における反応装置1Aに接続し、反応装置1Aに対してアノード溶液としての処理水W1を供給する処理槽2の構造について説明する。
(処理槽)
処理槽2は、被処理水Wに対して処理を行うための槽である。
処理槽2で行う処理は、被処理水W中に含まれる処理対象に合った処理であり、処理後の処理水W1中に還元性物質を含むものであれば、特に制限されない。例えば、嫌気的な環境下での生物処理(嫌気処理)として、酸生成菌及びメタン生成菌によるメタン発酵や、脱窒菌により硝酸・亜硝酸の還元を行う脱窒処理や、硫酸還元菌により硫酸の還元を行う硫酸還元処理等が挙げられる。さらに、処理コストや生成ガスの有用性の観点から、メタンを生成するメタン発酵が特に好ましい。なお、処理槽2は、単一槽であってもよく、複数の槽からなるものであってもよい。例えば、処理槽2で行う処理がメタン発酵である場合、酸生成槽とメタン発酵槽のように複数槽の組み合わせを処理槽2として用いること等が挙げられる。
【0027】
処理槽2において、嫌気処理のうち、特にメタン発酵を行う場合、被処理水Wを処理した後の処理水W1中には、メタンのほか、硫化水素、水素、アンモニア等が生成する。なお、これら生成物は、本発明における還元性物質に相当するものである。
【0028】
処理槽2で処理された被処理水Wは還元性物質を含有する処理水W1となる。この処理水W1を反応装置1Aにおけるアノード溶液とし、接続配管L2を介して、反応装置1Aにおける反応部3に導入する。
【0029】
次に、本実施態様における反応装置1Aの構造について説明する。
(反応部)
反応部3は、処理水W1をアノード溶液とし、処理水W1中の還元性物質を電子供与体とした電極反応を行うためのものである。また、反応部3では、この電極反応によって発電や脱硫処理を行うことができる。
以下、本実施態様の反応部3の構造について、発電に係る観点から説明する。なお、本実施態様の反応部3による脱硫処理の詳細については後述する。
【0030】
本実施態様の反応部3は、図1に示すように、処理槽2の後段に設けられ、第1のセル31a及び第2のセル31bと、セル31a、31bの間を仕切るように設けられたイオン交換体35と、セル31a、31bにそれぞれ配置された電極33a、33bとを備えている。ここで、第1のセル31aは、処理槽2から接続配管L2を介して導入された処理水W1が電極33aに接触するように形成されており、第1のセル31aに配置された電極33aはアノードとして機能する。一方、第2のセル31bは、電子受容体を貯留ないしは供給するように形成されており、第2のセル31bに配置された電極33bはカソードとして機能する。また、電極33a、33bは導線により外部回路と接続されている(不図示)。これにより、反応部3において、還元性物質が電子供与体として作用することで発生する電気エネルギーの回収及び利用が可能となる。
【0031】
第1のセル31aは、電極33aを備え、処理水W1が電極33aに接触するように形成されているものであればよく、特に素材や形状は問わない。例えば、図1に示すように、接続配管L2を介して処理水導入口32aから導入された処理水W1を一時的に貯留可能なスペースを有し、電極33aに接触した後の処理水W2を処理水排出口32bから排出するための排出配管L3を備えるものとすること等が挙げられる。これにより、処理水W1中の還元性物質は電子供与体として電極33aに電子を供与した後、排出配管L3を介して速やかに排出される。
なお、接続配管L2及び/又は排出配管L3に、バルブ等の流量調整機構を設けるものとしてもよい。これにより、電極33aに接触させる処理水W1の量及び流速を調整し、電極33aに対する物質移動速度を制御することが可能となる。
【0032】
排出配管L3を介して排出された処理水W2は、河川及び海洋などへの放流が可能な水質を満たすものであれば、そのまま放流することが可能である。また、排出配管L3の後段に、処理水W2を更に処理するための処理設備を設け、処理水W2を処理した後、系外へ排出するものとしてもよい。このような処理設備としては、処理水W2が系外あるいは河川及び海洋などへの放流が可能な水質となるように処理できるものであれば特に限定されない。例えば、曝気槽やpH調整槽などが挙げられる。
【0033】
第2のセル31bは、電極33bを備え、処理水W1中の還元性物質に対する電子受容体を貯留するように形成されているものであればよく、特に素材や形状は問わない。
【0034】
ここで、本実施態様における電子受容体の具体的な例については、例えば、溶存酸素を含む溶液や、フェリシアン化カリウム水溶液や酸化マンガン水溶液のような酸化剤の水溶液等が挙げられる。なお、電極反応効率を向上させるという観点からすると、電子受容体としては、フェリシアン化カリウム水溶液を用いることが特に好ましい。
【0035】
また、第2のセル31b内に導入される溶液(カソード溶液)は、アノード溶液よりも電解質濃度が高いものとする。これにより、アノード溶液中の電解質濃度とカソード溶液中の電解質濃度に差分が生じ、反応部3における電極反応を効率的に進行させるという効果が得られる。なお、アノード溶液中の電解質濃度とカソード溶液中の電解質濃度との差分による効果については後述する。
【0036】
第2のセル31bとしては、例えば、図1に示すように、第2のセル31bに、液体を貯留可能なスペースを設け、電子受容体供給口34a及び電子受容体排出口34bとして、それぞれ電子受容体の溶液の供給及び反応後の溶液の排出が可能なものを設けることが挙げられる。
これにより、電極33aからの電子を、電極33bを介して電子受容体が受け取ることができ、電極33aと電極33bの間に電流が流れて発電が行われる。また、反応後の電子受容体は電子受容体排出口34b及び配管L4を介して速やかに反応部3の外部に排出される。
なお、電子受容体供給口34a及び/又は電子受容体排出口34bにバルブ等の流量調整機構を設け、第2のセル31bにおける電子受容体の濃度を調整できるものとしてもよい。さらに、電極33aにおける反応により生成した電子量に応じた電子受容体濃度が維持されるように流量調整機構を制御する制御機構を設けるものとしてもよい。これにより、電極33a及び電極33b間の電子移動に係る反応効率の低下を抑制し、電極反応効率の低下を抑制することが可能となる。
【0037】
図1において、電子受容体供給口34a及び電子受容体排出口34bは、それぞれ1つずつ設けたものを示しているが、これに限定されるものではない。例えば、電子受容体供給口34a及び電子受容体排出口34bを複数設けるものとしてもよい。
【0038】
イオン交換体35は、イオンを透過することのできる公知の構成であればよく、特に限定するものではない。特に、電極33a(アノード側)で発生する水素イオンを透過することのできる陽イオン交換膜とすることが挙げられる。これにより、電極33a(アノード側)から電極33b(カソード側)へ水素イオンが移動することで、電極33bでの電子受容体の反応効率を高めることができ、電極反応効率を向上させることができる。また、イオン交換体35は、酸素透過性が低いものとすることがより好ましい。これにより、電極33b(カソード側)に供給される電子受容体(特に酸素)が電極33a側に移動することを抑制し、電極33aにおける電子供与体の反応効率が酸素により低下することを抑制することが可能となる。
なお、図1において、イオン交換体35は、電極33a及び電極33bと別体として設けるものを示しているが、これに限定されるものではない。例えば、イオン交換能を有する材料と電極33a及び/又は電極33bを一体とすること等が挙げられる。これにより、反応部3全体を小型化することが可能となるとともに、メンテナンス作業に係る時間短縮が可能となる。
【0039】
電極33aは、処理水W1中の還元性物質から電子を回収する電極であり、いわゆるアノードとして機能するものである。また、本実施態様における電極33aは、処理槽2で処理された後の処理水W1と接触するように第1のセル31a内に配置されている。
【0040】
電極33aとしては、アノードとして機能するものであればよく、材質及び形状については特に限定されない。電極33aの材質及び形状については、材料調達や加工に係るコスト、電極33aにおける還元性物質の反応効率などを鑑みて、適宜選択することができる。電極33aの材質の例としては、例えば、電気化学分野で電極材料として広く用いられている炭素や金属(ステンレス、白金、銅等)が挙げられる。また、電極33aの形状の例としては、例えば、平板状、棒状、メッシュ状などが挙げられる。
特に、本実施態様の電極33aとしては、電極反応効率を鑑み、多孔質体からなるものを用いることが好ましい。例えば、電極33aとしては、多孔質体であるカーボンペーパーやカーボンクロスのような炭素繊維を用いることのほか、発泡金属、多孔質金属、金属メッシュを用いることが挙げられる。
【0041】
電極33bは、電極33aの対極であって、電子受容体へ電子を受け渡す電極であり、いわゆるカソードとして機能するものである。また、本実施態様における電極33bは、第2のセル31b内に配置されている。
【0042】
電極33bとしては、カソードとして機能するものであればよく、材質及び形状については特に限定されない。電極33bの材質及び形状については、材料調達や加工に係るコスト、電極33bにおける電子受容体の反応効率などを鑑みて、適宜選択することができる。電極33bの材質の例としては、例えば、電気化学分野で電極材料として広く用いられている炭素や金属(ステンレス、白金、銅等)が挙げられる。また、電極33bの形状の例としては、例えば、平板状、棒状、メッシュ状などが挙げられる。
特に、本実施態様の電極33bとしては、電極反応効率を鑑み、多孔質体からなるものを用いることが好ましい。例えば、電極33bとしては、多孔質体であるカーボンペーパーやカーボンクロスのような炭素繊維を用いることのほか、発泡金属、多孔質金属、金属メッシュを用いることが挙げられる。
【0043】
以下、図1に基づき、本発明の第1の実施態様の反応装置における電極反応に係る反応及び工程を説明する。
本実施態様の反応装置1Aにおける電極反応に係る反応及び工程は、被処理水Wを嫌気処理することで生成した還元性物質を電子供与体として用い、酸素や酸化剤を含む溶液を電子受容体として用いるものについて説明するものである。
なお、図1に基づく反応及び工程に係る説明は、本実施態様における電極反応の一例について示すものであり、これに限定されるものではない。また、以下の説明は、処理槽2から反応部3に係る反応及び工程について述べたものであり、その他の構成(導入配管L1、排出配管L3など)に係る反応及び工程については説明を省略している。さらに、反応R1~R4及び工程S1~S3の表記については、説明のために番号を付したものであり、反応及び工程順序を特定するものではない。
【0044】
図1に示すように、処理槽2に導入された被処理水Wは、処理槽2内の嫌気性微生物(酸生成菌及びメタン生成菌)により嫌気処理され、処理水W1となる(工程S1)。このとき、メタンのほかに、還元性物質(水素、硫化水素、アンモニア等)が生成する。また、一般に嫌気処理においては微生物への影響を考慮し、高い塩濃度となる条件下では処理が行われない。このため、嫌気処理後の処理水W1中には、電解質となる成分があまり含まれておらず、処理水W1の電気伝導度は10000μS/cm以下となる。
【0045】
処理槽2で処理され、還元性物質を含む処理水W1は、接続配管L2を介して反応部3における第1のセル31a内に導入される(工程S2)。ここで、還元性物質(水素、硫化水素、アンモニア等)が電極33aに接触することで、還元性物質が電子供与体として機能し、電極33aへ電子が供与される。このとき、電子供与体として機能する還元性物質として、硫化水素を例にとると、電極33aにおける反応(反応R1)は、以下の反応式(式1)で示される。
【数1】
【0046】
また、硫化水素の一部は硫化水素イオンとして反応する。このときの反応は、以下の反応式(式2)で示される。
【数2】
【0047】
式1及び式2で示されるように、反応R1において、処理槽2で処理された後の処理水W1に含まれる硫化水素は電極33aに電子を供与するとともに、硫化水素自身は酸化処理されることで無害化、無臭化する。このため、本実施態様の反応装置1Aは、発電とともに、脱硫処理・脱臭処理が可能となる。なお、硫化水素以外の有害物質・臭気物質である還元性物質(アンモニア等)についても、同様に電子供与体として機能し、反応が進行することで、無害化・無臭化が可能になる。
【0048】
式1及び式2に示された反応式に基づき、電極33aにおける反応が進行した後、電子は電極33aから導線を介して電極33bへ移動する(反応R2)。なお、このとき、電極33aにおける反応で生成した水素イオンは、イオン交換体35を介して第2のセル31b側へ移動する(反応R3)。
【0049】
一方、第2のセル31bには、電子受容体供給口34aから電子受容体(溶液)を導入する(工程S3)。ここで、反応R2により、電極33aから電極33bに移動した電子を、電極33bを介して電子受容体が受け取る。また、このとき、反応R3により、イオン交換体35を介して第2のセル31b側に移動した水素イオンも電子受容体と反応する。このときの電極33bにおける反応(反応R4)は、以下の反応式(式3)で示される。なお、式3における酸素が、電子受容体に相当する。
【数3】
【0050】
上述した反応R1~R4及び工程S1~S3に基づき、電極33aと電極33bの間に電流が流れる。これにより、被処理水W中の還元性物質(処理水W1に含まれる還元性物質)を電子供与体とする反応が進行し、本実施態様の反応装置1Aにおける発電及び脱硫処理が行われる。
また、発電により得られた電気エネルギーは、電極33a及び電極33bに接続した外部回路を通じて回収・利用することができる。なお、電気エネルギーの利用については、特に限定されない。例えば、反応装置の設備駆動に用いるものであってもよく、反応装置外で利用するものであってもよい。
【0051】
本実施態様の反応装置1Aにおける電極反応では、イオン交換体35を介してアノード溶液からカソード溶液側に水素イオンが移動する一方、カソード溶液からアノード溶液側に電解質の陽イオン(ナトリウムイオン等)が移動する。このとき、通常の電解質濃度(電気伝導度)を有するアノード溶液を用いた従来の電極反応では、このイオン移動が電極反応に対する抵抗となる。一方、本実施態様の反応装置1Aに導入されるアノード溶液は、特定の電解質濃度(電気伝導度)以下であり、かつ、カソード溶液の電解質濃度がアノード溶液の電解質濃度よりも高いため、カソード溶液側からのイオン移動がスムーズに進行し、反応部3における溶液抵抗が低減するという現象が生じる。このため、アノード溶液とカソード溶液の電解質濃度を略同程度に調整することなく、電極反応を効率的に進行させることが可能となる。
【0052】
また、本実施態様における反応装置1Aでは、カソード溶液の電解質濃度が常にアノード溶液の電解質濃度よりも高くなるように維持する必要がある。このため、本実施態様における反応装置1Aには、カソード溶液に対し、電解質を供給する手段を設けるものとする。
【0053】
(電解質供給手段)
電解質供給手段4は、カソード溶液に対し、電解質を供給することができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。例えば、反応部3内に貯留されたカソード溶液に対して電解質を供給するものであってもよく、反応部3に導入する前のカソード溶液に対して電解質を供給するものであってもよい。
【0054】
また、電解質供給手段4により供給される電解質の形態や種類については特に限定されない。例えば、電解質は固体あるいは液体のいずれであってもよい。
【0055】
電解質としては、薬品として市販されるものを用いることのほか、他の処理工程・処理場などから排出された排出物を利用することが挙げられる。これにより、より低コストで反応装置1Aによる電極反応を行うことが可能となる。
また、入手の容易性及び低コストの観点から、電解質として、海水のように自然界に存在するものを用いるものとしてもよい。
例えば、電解質として海水を用いる場合、海水の供給源(以下、「海水源」と呼ぶ)は、特に限定されない。例えば、自然環境(海洋)を海水源とし、海洋から直接電解質供給手段4に対して海水を導入するものとしてもよく、二酸化炭素の海洋貯留処理や船舶のバラスト水として用いられる海水のように他の用途で使用されたものや、貯蔵タンク内に収容した海水など、人為的に一時貯留された海水を海洋源として用いるものとしてもよい。
なお、海水の原料調達にかかるコストは、主として海水の搬送に係るコストとなる。例えば、本発明の反応装置1Aを海に近い陸地あるいは海上に設置することにより、最小限の搬送コストで電解質供給手段4により供給する電解質として海水を利用することが可能となる。
【0056】
以下、本実施態様における電解質供給手段4の具体例について説明する。なお、以下に示す電解質供給手段4に係る説明は、本実施態様における電解質供給手段4の一例について示すものであり、これに限定されるものではない。
【0057】
図1に示すように、電解質供給手段4としては、反応部3における第2のセル31bに接続した配管40と、電解質を貯留した貯留槽41とを備えるものが挙げられる。そして、貯留槽41内の電解質を、配管40を介して第2のセル31b内に導入し、電解質とカソード溶液とを混合する。なお、第2のセル31b内に導入された電解質は、電子受容体排出口34b及び配管L4を介し、系外に排出される。
【0058】
配管40及び貯留槽41は電解質の供給・貯留に用いるものであるため、耐腐食性を有する材質からなることが好ましい。これにより、電解質による劣化を抑制し、装置の長寿命化が可能となる。
【0059】
電解質供給手段4により、カソード溶液に電解質を供給することで、カソード溶液の電解質濃度を調整することができ、アノード溶液の電解質濃度との濃度差を制御して、カソード溶液の電解質濃度をアノード溶液の電解質濃度よりも高く維持することが可能となる。これにより、電極反応の進行を安定して継続させることが可能となる。
【0060】
ここで、特に、電解質供給手段4により供給する電解質を海水とした場合、被処理水Wを嫌気処理して得られた処理水W1(アノード溶液)と海水とを比較すると、海水中に含まれる電解質濃度のほうが、相当程度大きい。したがって、処理水W1中の電解質濃度の変動が生じても、海水中に含まれる電解質濃度のほうが大きいので、反応部3においてカソード溶液の電解質濃度をアノード溶液の電解質濃度よりも高く維持することが容易となる。また、電極反応は海水中に含まれる電解質濃度に応じて高効率化する。これにより、高効率の電極反応を安定して継続することが可能となる。
【0061】
図2は、本実施態様における反応装置1Aの別態様を示す概略説明図である。
図2に示すように、反応部3に対し、配管L6、配管L7、反応部3内の溶液(カソード溶液と電解質の混合液)を貯留する貯留タンクTを設け、循環流路を形成するものとしてもよい。これにより、電解質供給手段4により供給された電解質とカソード溶液との混合が促進され、反応部3における電極反応効率を向上させることが可能となる。
【0062】
上述したように、本実施態様における反応装置1Aは、被処理水W中の還元性物質を電子供与体として用い、電気化学反応(電極反応)により発電を行い、エネルギーを回収・利用するものである。一般に、電気化学反応を行う場合、実際に電気化学反応を行う箇所(反応部3)以外へ電子が移動することで、電気化学反応の効率が低下するという問題が生じる。したがって、本実施態様における反応装置1Aに対し、処理槽2のような他の手段を接続する場合、電気化学反応を行う箇所(反応部3)以外を絶縁処理することが好ましい。絶縁処理の具体例としては、例えば、処理槽2を絶縁体の上部に設置することのほか、処理槽2の外壁あるいは内壁を絶縁体で構成することや、処理槽2の外壁あるいは内壁を絶縁材料でコーティングすることなどが挙げられる。また、導入配管L1、接続配管L2及び排出配管L3の絶縁処理としては、例えば、それぞれの配管を絶縁体からなるものとすることや、それぞれの配管に絶縁材料をコーティングすること等が挙げられる。
【0063】
以上のように、本実施態様の反応装置1A及び反応装置1Aを用いた反応方法により、電解質濃度(電気伝導度)が低い溶液を用いた電極反応において、アノード溶液とカソード溶液の電解質濃度を略同程度に調整するために大量の電解質を供給する必要がなく、安定した電極反応を低コストで行うことが可能となる。
特に、本実施態様の反応装置1A及び反応装置1Aを用いた反応方法により、処理工程上の水溶液(被処理水や処理水)のように、電解質濃度が低い溶液をアノード側に供給し、電極反応に供する電子供与体として処理工程上の水溶液中に含まれる還元性物質を利用した電極反応を安定して進行させることができる。また、本実施態様の反応装置1A及び反応装置1Aを用いた反応方法によって処理工程上の水溶液を用いた電極反応を行うことで、設備を大型化することなく、効率的な発電を実施し、エネルギーの回収・利用が可能となる。さらに、電極反応によるエネルギー回収と同時に、被処理水や処理水に対する電気化学処理を行うことができ、処理の効率向上と省エネルギー化の実現が期待できる。例えば、処理工程上の水溶液中に含まれる還元性物質として硫黄成分を含む場合、本発明の反応装置により、脱硫処理のための設備を別途設けることなく、効率的な脱硫処理を実施することが可能となる。
【0064】
〔第2の実施態様〕
図3は、本発明の第2の実施態様における反応装置を示す概略説明図である。
第2の実施態様に係る反応装置1Bは、第1の実施態様における反応装置1Aにおいて、カソード溶液の電解質濃度を測定する測定部5と、測定部5の測定結果に基づき電解質供給手段4を制御する制御部42を設けるものである。なお、図3における一点破線の矢印は、データの入出力及び制御可能となるよう接続されていることを示すものである。また、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0065】
本実施態様の反応装置1Bは、測定部5と、測定部5の測定結果に基づき電解質供給手段4を制御する制御部42を設け、電解質の供給量を調整することで、カソード溶液の電解質濃度を変化させることができる。これにより、カソード溶液の電解質濃度とアノード溶液の電解質濃度との濃度差をより適切に制御することが可能となる。
【0066】
測定部5は、カソード溶液の電解質濃度を測定することができるものであればよく、公知の分析装置やセンサーを用いることが挙げられる。また、測定部5としては、電気伝導度を測定する測定装置を用いるものとしてもよい。
また、測定部5の設置箇所は特に限定されない。例えば、図3に示すように、第2のセル31b内に測定部5の検出部を設けることや、貯留タンクT内に測定部5の検出部を設けること等が挙げられる。また、反応装置1Bに導入される前のカソード溶液の電解質濃度を測定するため、反応装置1B外に測定部5を設けるものとしてもよい。
【0067】
制御部42は、測定部5の測定結果に基づき電解質の供給量を調整することができるものであればよい。例えば、図3に示すように、電解質供給手段4として、配管40上に供給量調整機能43を設け、この供給量調整機能43を制御部42で制御することで、配管40から反応部3(第2のセル31b)に供給する電解質の量を調整することが挙げられる。
ここで、供給量調整機能43としては、配管40から反応部3に供給する電解質の量を調整できるものであればよく、例えば、流量調整弁やバルブなどが挙げられる。
【0068】
本実施態様における制御部42は、供給量調整機能43の開閉動作に係る制御を行うものである。また、制御部42は、測定部5から得られたカソード溶液の電解質濃度に係るデータ取得を行うデータ取得部と、データ取得部で取得したデータに基づき電解質の供給量や供給のタイミングを演算する演算部を備えることがより好ましい。これにより、供給量調整機能43の制御を、精度高く、好適なタイミングで実行することが可能となる。
なお、制御部42のデータ取得部で取得するデータの種類としては、測定部5で得られるカソード溶液の電解質濃度以外に、反応部3における電極反応の反応効率(出力)に係るデータを取得するものとしてもよい。このようなデータとしては、例えば、電極33a及び33b間の電位差や電流量、アノード溶液の電解質濃度(電気伝導度)などが挙げられる。
【0069】
以上のように、本実施態様における反応装置1B及び反応装置1Bを用いた反応方法は、カソード溶液の電解質濃度に応じ、電解質の添加量を制御することができ、カソード溶液の電解質濃度とアノード溶液の電解質濃度との濃度差をより適切に制御することが可能となる。これにより、電極反応を高効率化するとともに、安定して継続させることが可能となる。
【0070】
本発明の反応装置に対して導入されるアノード溶液は、被処理水Wのような液体成分を処理槽2において嫌気処理した処理水に限定されない。また、本発明の反応装置に接続される処理手段は、嫌気処理を行う処理槽2に限定されるものではない。
以下、本発明の反応装置に導入されるアノード溶液の別態様として、被処理物がバイオマスなどの固体成分からなるものを処理した後の処理水を用いるものについて例示する。
【0071】
〔第3の実施態様〕
図4は、本発明の第3の実施態様における反応装置を示す概略説明図である。
第3の実施態様に係る反応装置1Cは、図4に示すように、処理槽2と反応部3の間に、固液分離部6を備え、さらに電解質供給手段4を備えるものである。
また、反応装置1Cは、処理槽2に被処理物Sを導入する導入配管L20、処理槽2と固液分離部6を接続する接続配管L21、固液分離部6で分離された処理水W4を反応部3に導入する導入配管L22、固液分離部6で分離された固形物を系外に排出する排出配管L23、反応部3から処理水W2を系外に排出する排出配管L24を備えている。
【0072】
図4に示した反応装置1Cでは、被処理物Sに対して処理槽2による嫌気処理を行い、固液分離部6において嫌気処理を経た後の排出物(処理液W3)を処理水W4(濾液)と固形物に分離し、処理水W4をアノード溶液として反応部3に導入する。これにより、被処理物Sの嫌気処理後の排出物を活用し、より効率的なエネルギーの回収・利用あるいは脱硫処理が可能となる。
以下、反応装置1Cの構成について説明する。
【0073】
(処理槽)
本実施態様における処理槽2は、バイオマスなどの固体成分に対して嫌気処理を行うものである。
本実施態様における処理槽2で行う嫌気処理としては、処理コストや生成ガスの有用性の観点から、メタンを生成するメタン発酵が特に好ましい。したがって、処理槽2は、被処理物Sの消化を行う消化設備として機能する構造を有することが好ましい。より具体的には、処理槽2は、消化槽として公知の構造を有することが好ましく、消化槽に係る具体的な構造については特に限定されない。
【0074】
処理槽2において、嫌気処理のうち、特にメタン発酵を行う場合、被処理物Sを処理した後の排出物(処理液W3)中には、メタンのほか、硫化水素、水素、アンモニア等が生成する。なお、これら生成物は、本発明における還元性物質に相当するものである。
【0075】
処理槽2で処理された被処理物Sは還元性物質を含有する排出物(処理液W3)となり、接続配管L2を介して、固液分離部6へ導入される。
【0076】
(固液分離部)
固液分離部6は、処理槽2から導入された処理液W3を、固形物と処理水W4に分離処理するためのものである。
ここで、固液分離部6で分離処理される処理液W3は、処理槽2で嫌気処理された後の排出物であり、余剰汚泥などの泥状物を含む固液混合物(スラッジ)である。また、処理液W3中には、メタン発酵により生成した還元性物質が含有されている。
したがって、固液分離部6で処理液W3を固液分離し、還元性物質を含有する処理水W4を回収して後段の反応装置(反応部3)に導入することで、還元性物質を電子供与体とする反応を進行させることが可能となる。
【0077】
固液分離部6としては、処理液W3中に含まれる固形物と処理水W4とを分離することができるものであればよく、特に限定されない。例えば、凝集沈殿槽、沈殿槽のような沈降分離式によるものや、遠心分離機を備える遠心分離式によるもののほか、ベルトプレス脱水機やスクリュープレス脱水機のような加圧濾過装置を備えるものなどが挙げられる。
【0078】
固液分離部6で分離された処理水W4は、還元性物質を含有する処理水(アノード溶液)として導入配管L22を介し、反応装置1Cにおける反応部3(第1のセル31a)へ導入される。一方、固液分離部6で分離された固形物は、排出配管L23を介して系外に排出される。このとき、排出配管L23の後段に、固形物を処理する処理設備を設けるものとしてもよい。
【0079】
そして、本実施態様における反応装置1Cでは、処理水W4が第1のセル31aに導入された反応部3において、上述した処理水W1を用いた場合と同様に、処理水W4中の還元性物質を電子供与体として発電を行うとともに、処理水W4中の還元性物質のうち、硫化水素などの硫黄含有化合物を電子供与体とすることで、脱硫処理を行うことも可能となる。
【0080】
以上のように、本実施態様の反応装置1C及び反応装置1Cを用いた反応方法により、固体成分からなる被処理物の嫌気処理から排出され、固液分離された後の濾液をアノード溶液として用い、発電による効率的なエネルギーの回収・利用や脱硫処理を行うことが可能となる。特に、嫌気処理後の排出物を固液分離した濾液中に含まれる還元性物質を用いた電極反応を可能とすることで、嫌気処理で用いる微生物による物質移動の阻害などがなく、発電効率や脱硫処理効率の向上が可能となる。
【0081】
なお、上述した実施態様は、反応装置及び反応方法の一例を示すものである。本発明に係る反応装置及び反応方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る反応装置及び反応方法を変形してもよい。
【0082】
例えば、本実施態様における反応装置は、絶縁機構を設けるものとしてもよい。絶縁機構は、反応部3で反応する処理水W1以外の処理水(処理水W2)を絶縁することができるものであればよく、特に限定されない。
絶縁機構による絶縁手段としては、例えば、反応部3の電極33aと処理水W2との電気的な接触(液絡)の解消あるいは液絡時間の短縮が挙げられる。このような液絡解消手段又は液絡時間の短縮手段の例としては、処理水W2の流れを不連続(断続的)とする手段や、処理水W2に空気などの絶縁体を介在させる手段、あるいはこれらの手段を組み合わせるもの等が挙げられる。これにより、反応部3で生成した電子が電極33a及び電極33bの間以外に流れることを防ぎ、電極反応効率を向上させるものである。
なお、本実施態様における反応装置は、第1の実施態様に示したような反応装置に接続する構造物(処理槽や配管)に係る絶縁を併せて行うものとしてもよい。これにより、より一層の絶縁効果を得ることができ、反応部3における電極反応効率を向上させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の反応装置及び反応方法は、電解質濃度(電気伝導度)が低い溶液をアノード溶液とした電極反応に利用される。また、本発明の反応装置及び反応方法は、被処理物の処理により還元性物質が発生する処理手段と組み合わせて利用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1A,1B,1C 反応装置、2 処理槽、3 反応部、31a 第1のセル、31b 第2のセル、32a 処理水導入口、32b 処理水排出口、33a,33b 電極、34a 電子受容体供給口、34b 電子受容体排出口、35 イオン交換体、4 電解質供給手段、40 配管、41 貯留槽、42 制御部、43 供給量調整機能、5 測定部、6 固液分離部、L1,L20 導入配管、L2,L21 接続配管、L3,L23 排出配管、L4~L7 配管、S 被処理物、T 貯留タンク、W 被処理水、W1~W4 処理水(処理液)
図1
図2
図3
図4