(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】カルシウム除去剤、被処理水からのカルシウムイオンの除去方法、カルシウム除去剤の製造方法、並びに、重金属含有被処理水からの重金属イオン及びカルシウムイオンの除去方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20230101AFI20241126BHJP
C02F 1/62 20230101ALI20241126BHJP
C01F 11/18 20060101ALI20241126BHJP
C01B 25/32 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
C02F1/58 J
C02F1/62 C
C02F1/62 Z
C01F11/18 B
C01B25/32 P
(21)【出願番号】P 2021023202
(22)【出願日】2021-02-17
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】507027162
【氏名又は名称】DOWAテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】荻野 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】中塚 清次
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-030060(JP,A)
【文献】特開昭49-121359(JP,A)
【文献】特開2007-289817(JP,A)
【文献】特開2010-275212(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0020016(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58
C02F 1/62
C01F 11/18
C01B 25/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸イオン源及び炭酸イオン源を含むカルシウム除去剤
であって、
前記炭酸イオン源が炭酸のアルカリ金属塩であり、
銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種、硫酸イオン、カルシウムイオン及び水を含む被処理水からのカルシウムイオンの除去に用いられ、
前記被処理水中の硫酸イオンの含有量が300mg/L~60g/Lであり、
前記被処理水中の銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとの含有量の合計が10mg/L~200mg/Lである、
カルシウム除去剤。
【請求項2】
前記アルカリ金属がカリウムである、請求項
1に記載のカルシウム除去剤。
【請求項3】
リン酸イオンと、
炭酸のアルカリ金属塩をイオン源とした炭酸イオンと、金属イオンと、水とを含むカルシウム除去剤
であって、
銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種、硫酸イオン、カルシウムイオン及び水を含む被処理水からのカルシウムイオンの除去に用いられ、
前記被処理水中の硫酸イオンの含有量が300mg/L~60g/Lであり、
前記被処理水中の銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとの含有量の合計が10mg/L~200mg/Lである、
カルシウム除去剤。
【請求項4】
pHが8~15である、請求項
3に記載のカルシウム除去剤。
【請求項5】
前記カルシウム除去剤がカリウムイオンを含み、前記カルシウム除去剤中の炭酸イオンの含有量が130g/L~430g/Lである、請求項
3又は4に記載のカルシウム除去剤。
【請求項6】
前記カルシウム除去剤中のリン酸イオンの含有量が10g/L~200g/Lである、請求項
3~5のいずれかに記載のカルシウム除去剤。
【請求項7】
銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種、硫酸イオン、カルシウムイオン及び水を含む被処理水に、リン酸イオン、及び、
炭酸のアルカリ金属塩をイオン源とした炭酸イオンを供給する、被処理水からのカルシウムイオンの除去方法
であって、
前記被処理水中の硫酸イオンの含有量が300mg/L~60g/Lであり、
前記被処理水中の銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとの含有量の合計が10mg/L~200mg/Lである、
被処理水からのカルシウムイオンの除去方法。
【請求項8】
前記被処理水に、請求項1~
6のいずれかに記載のカルシウム除去剤を添加することにより、前記リン酸イオン及び炭酸イオンの供給を実施する、請求項
7に記載の除去方法。
【請求項9】
前記カルシウム除去剤が水を含み、前記被処理水1Lに対して前記カルシウム除去剤を2mL~100mL添加する、請求項
8に記載の除去方法。
【請求項10】
前記被処理水中のカルシウムイオンの含有量が50mg/L~1000mg/Lである、請求項
7~9のいずれかに記載の除去方法。
【請求項11】
前記被処理水のpHを8~14の範囲に保持しながら、前記リン酸イオン及び炭酸イオンの供給を実施する、請求項
7~10のいずれかに記載の除去方法。
【請求項12】
前記リン酸イオンの供給量が、前記被処理水中のカルシウムイオン1モルに対して0.2モル~3モルであり、
前記炭酸イオンの供給量が、前記被処理水中のカルシウムイオン1モルに対して0.3モル~10モルである、請求項
7~11のいずれかに記載の除去方法。
【請求項13】
リン酸イオン源と、炭酸イオン源
である炭酸のアルカリ金属塩とを混合する、カルシウム除去剤の製造方法で
あって、
前記カルシウム除去剤が、銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種、硫酸イオン、カルシウムイオン及び水を含む被処理水からのカルシウムイオンの除去に用いられ、
前記被処理水中の硫酸イオンの含有量が300mg/L~60g/Lであり、
前記被処理水中の銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとの含有量の合計が10mg/L~200mg/Lである、
カルシウム除去剤の製造方法。
【請求項14】
リン酸三ナトリウム水和物と炭酸カリウムと水とを混合する、カルシウム除去剤の製造方法
あって、
前記カルシウム除去剤が、銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種、硫酸イオン、カルシウムイオン及び水を含む被処理水からのカルシウムイオンの除去に用いられ、
前記被処理水中の硫酸イオンの含有量が300mg/L~60g/Lであり、
前記被処理水中の銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとの含有量の合計が10mg/L~200mg/Lである、
カルシウム除去剤の製造方法。
【請求項15】
前記リン酸三ナトリウム水和物、炭酸カリウム及び水の使用量がそれぞれ、5質量部~30質量部、5質量部~50質量部及び35質量部~90質量部である(リン酸三ナトリウム水和物、炭酸カリウム及び水の使用量の合計は100質量部)、請求項
14に記載のカルシウム除去剤の製造方法。
【請求項16】
銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種と、硫酸イオンと、カルシウムイオンと、銅イオン、ニッケルイオン及び亜鉛イオン以外の重金属イオンと、水とを含む重金属含有被処理水に水酸化物イオン源を添加して、重金属の水酸化物を含む沈殿を形成し、
得られた沈殿含有液を固液分離して、銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種、硫酸イオン、カルシウムイオン及び水を含むカルシウム含有水を得て、
該カルシウム含有水中の硫酸イオンの含有量が300mg/L~60g/Lであり、銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとの含有量の合計が10mg/L~200mg/Lであり、
前記カルシウム含有水を被処理水として、請求項
7~12のいずれかに記載の被処理水からのカルシウムイオンの除去方法を実施する、
重金属含有被処理水からの重金属イオン及びカルシウムイオンの除去方法。
【請求項17】
前記重金属含有被処理水中の、
銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンの含有量の合計が500mg/L~30g/Lであり、
硫酸イオンの含有量が300mg/L~60g/Lであり、
カルシウムイオンの含有量が50mg/L~1000mg/Lであり、
鉄イオンの含有量が0.2mg/L~200mg/Lである、請求項16に記載の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウム除去剤、被処理水からのカルシウムイオンの除去方法、カルシウム除去剤の製造方法、並びに、重金属含有被処理水からの重金属イオン及びカルシウムイオンの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃水には炭酸イオン、硫酸イオンやカルシウムイオンなどを含むものが存在し、これらの量が溶解度を超えると炭酸カルシウムや硫酸カルシウムとして沈殿し、いわゆるスケールを形成する。スケールは配管を閉塞させたり配管の熱伝導効率を低下させてしまう。産業廃水を放流したり再利用するためには、廃水中の有害な物質を除去することが必要であり、その除去プロセス等では廃水が濃縮されていくので、前記のスケール形成が起きやすくなっていく。
【0003】
更に、一般家庭の湯沸かし器や風呂の浴槽でも(炭酸カルシウムの)スケールの発生は問題となる。このようにスケールの発生は、幅広い分野で重要な問題となっている。
【0004】
特許文献1(特開2010-275212号公報)には、炭酸塩を必須成分とし、浴湯に溶解させた時にアルカリ性を示す入浴剤について、水道水(を加温した浴湯)にはカルシウムイオンが含まれており前記炭酸塩と沈殿を形成してスケールが形成し得るところ、それを抑制するために、前記入浴剤にリン酸三ナトリウムを配合することが開示されている。
【0005】
また特許文献2(特開2003-172593号公報)には、スケール付着防止をすることができる開放型循環式冷却水系の冷却水の処理方法として、前記冷却水中のカルシウム等の硬度成分を、炭酸カルシウム等を主成分とする種結晶を用いた晶析により除去することが開示されている。
【0006】
なお、炭酸カルシウムは塩酸等の酸により溶解除去することができ、スケールを形成しても比較的対処しやすい物質である。
【0007】
一方硫酸カルシウムのスケールは、酸などの薬剤により除去しきることは困難であり、削り取るなど物理的に除去することが必要である(例えば特許文献3(特開平6-269602号公報)には、ヒーティングエレメント内蔵型蒸発装置の硫酸カルシウムスケールを除去する方法において、(1)前記スケールを加熱乾燥し、(2)前記スケールおよびヒーティングエレメントを冷却し、(3)前記スケールを液体で洗浄し、ついで(4)ヒーティングエレメント端部に残着する前記スケールに、前記蒸発装置のヒーティングエレメント端部の側方に設けたノズルから高圧流体を吹き付けることからなる工程を1回以上行なうことを特徴とする硫酸カルシウムスケールの除去方法が開示されている)。そのため、硫酸カルシウムスケールの除去には多大な労力を要する。
【0008】
従って、硫酸カルシウムスケールは発生させないことが肝要である。例えば特許文献4(特開平7-155558号公報)には、被処理液中で硫酸カルシウムスケールが発生するのを防止するスケール防止剤として、水溶性有機ホスホネートとN-置換アクリルアミドポリマーを含むスケール防止剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-275212号公報
【文献】特開2003-172593号公報
【文献】特開平6-269602号公報
【文献】特開平7-155558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上説明した通り、硫酸カルシウムのスケールは除去が非常に困難な物質であり、その発生を防止することが非常に重要である。そのためには、廃水中のフリーのカルシウムイオンを捕捉して前記廃水(の液相)から除去することが考えられ、例えば特許文献4に記載の技術では、水溶性有機ホスホネートやN-置換アクリルアミドポリマーがカルシウムイオンを捕捉しているものと考えられる。
【0011】
前記技術では、硫酸カルシウムスケールの発生を十分に抑制したとのことであるが、使用する薬剤の費用が高く、コストの点で問題である。
【0012】
今般、本発明者はこのような硫酸カルシウムスケールを発生しうる廃水であって、更に銅イオンなどのアルカリ性領域で塩基性炭酸塩を形成する金属イオンを含有する廃水について、カルシウムイオンの除去を検討した。その結果、(安価な)炭酸イオン源(カルシウムイオンと反応して炭酸カルシウムを生成する)を多量に廃水に供給してもカルシウムイオンを十分には除去できなかった。このような廃水についても硫酸カルシウムスケールの発生を十分に防止することが望まれる。
【0013】
また、スケール防止剤が液体の形態であると、種々の廃水等への添加やハンドリングが容易であり望ましい。特にスケール防止剤が2種以上の成分からなる場合には、これらを別々の供給路から廃水等に均一に供給することは困難であり設備も複雑なものとなる(設備費が高くなる)ので、溶解して均一な状態となった液体の形態とするのが望ましい。また液体のスケール防止剤について、少量の添加で廃水等での硫酸カルシウムスケールの発生を十分に防止できるスケール防止剤であると、必要な液量が少ないので、貯蔵や運搬、廃水等の処理プロセスの設備にかける負荷の点で有利である。
【0014】
以上から本発明は、銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種(塩基性炭酸塩を形成する金属イオン)、硫酸イオン、カルシウムイオン及び水を含む被処理水中で硫酸カルシウムスケールが発生することを十分に抑制できるレベルまで被処理水中のカルシウムイオン量を低減させることができる、安価な方法及び当該方法の実施に好適なカルシウム除去剤を提供することを課題とする。また本発明は、望ましくは前記のカルシウム除去剤であって、液体の形態とする場合にはその液量を少なくすることができる、カルシウム除去剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の課題を解決するため本発明者らは鋭意検討した結果、リン酸イオンと炭酸イオンを前記被処理水に供給することで、前記被処理水中での硫酸カルシウムスケールの発生を十分に抑制することができるレベルまで被処理水中のカルシウムイオン量を安価に低減させられることを見出した。本発明者らは、このような方法の実施に、リン酸イオン源及び炭酸イオン源を含むカルシウム除去剤が好適であることを見出した。更に本発明者らは、前記炭酸イオン源として炭酸カリウムを用いた場合には、液体の形態とした場合にカルシウム除去剤の液量を少なくすることができることをも見出した。以上により、本発明者らは本発明を完成した。
【0016】
すなわち本発明は、以下の通りである。
[1]リン酸イオン源及び炭酸イオン源を含むカルシウム除去剤。
【0017】
[2]前記炭酸イオン源が炭酸のアルカリ金属塩である、[1]に記載のカルシウム除去剤。
【0018】
[3]前記アルカリ金属がカリウムである、[2]に記載のカルシウム除去剤。
【0019】
[4]リン酸イオンと、炭酸イオンと、金属イオンと、水とを含むカルシウム除去剤。
【0020】
[5]pHが8~15である、[4]に記載のカルシウム除去剤。
【0021】
[6]前記カルシウム除去剤がカリウムイオンを含み、前記カルシウム除去剤中の炭酸イオンの含有量が130g/L~430g/Lである、[4]又は[5]に記載のカルシウム除去剤。
【0022】
[7]前記カルシウム除去剤中のリン酸イオンの含有量が10g/L~200g/Lである、[4]~[6]のいずれかに記載のカルシウム除去剤。
【0023】
[8]銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種、硫酸イオン、カルシウムイオン及び水を含む被処理水からのカルシウムイオンの除去に用いられる、[1]~[7]のいずれかに記載のカルシウム除去剤。
【0024】
[9]銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種、硫酸イオン、カルシウムイオン及び水を含む被処理水に、リン酸イオン及び炭酸イオンを供給する、被処理水からのカルシウムイオンの除去方法。
【0025】
[10]前記被処理水に、[1]~[8]のいずれかに記載のカルシウム除去剤を添加することにより、前記リン酸イオン及び炭酸イオンの供給を実施する、[9]に記載の除去方法。
【0026】
[11]前記カルシウム除去剤が水を含み、前記被処理水1Lに対して前記カルシウム除去剤を2mL~100mL添加する、[9]又は[10]に記載の除去方法。
【0027】
[12]前記被処理水中の硫酸イオンの含有量が300mg/L~60g/Lである、[9]~[11]のいずれかに記載の除去方法。
【0028】
[13]前記被処理水中のカルシウムイオンの含有量が50mg/L~1000mg/Lである、[9]~[12]のいずれかに記載の除去方法。
【0029】
[14]前記被処理水中の銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとの含有量の合計が10mg/L~200mg/Lである、[9]~[13]のいずれかに記載の除去方法。
【0030】
[15]前記被処理水のpHを8~14の範囲に保持しながら、前記リン酸イオン及び炭酸イオンの供給を実施する、[9]~[14]のいずれかに記載の除去方法。
【0031】
[16]前記リン酸イオンの供給量が、前記被処理水中のカルシウムイオン1モルに対して0.2モル~3モルであり、
前記炭酸イオンの供給量が、前記被処理水中のカルシウムイオン1モルに対して0.3モル~10モルである、[9]~[15]のいずれかに記載の除去方法。
【0032】
[17]リン酸イオン源と炭酸イオン源とを混合する、カルシウム除去剤の製造方法。
【0033】
[18]リン酸三ナトリウム水和物と炭酸カリウムと水とを混合する、カルシウム除去剤の製造方法。
【0034】
[19]前記リン酸三ナトリウム水和物、炭酸カリウム及び水の使用量がそれぞれ、5質量部~30質量部、5質量部~50質量部及び35質量部~90質量部である(リン酸三ナトリウム水和物、炭酸カリウム及び水の使用量の合計は100質量部)、[18]に記載のカルシウム除去剤の製造方法。
【0035】
[20]銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種と、硫酸イオンと、カルシウムイオンと、銅イオン、ニッケルイオン及び亜鉛イオン以外の重金属イオンと、水とを含む重金属含有被処理水に水酸化物イオン源を添加して、重金属の水酸化物を含む沈殿を形成し、
得られた沈殿含有液を固液分離して、銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種、硫酸イオン、カルシウムイオン及び水を含むカルシウム含有水を得て、
該カルシウム含有水を被処理水として、[9]~[16]のいずれかに記載の被処理水からのカルシウムイオンの除去方法を実施する、
重金属含有被処理水からの重金属イオン及びカルシウムイオンの除去方法。
【0036】
[21]前記重金属含有被処理水中の、
銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンの含有量の合計が500mg/L~30g/Lであり、
硫酸イオンの含有量が300mg/L~60g/Lであり、
カルシウムイオンの含有量が50mg/L~1000mg/Lであり、
鉄イオンの含有量が0.2mg/L~200mg/Lである、[20]に記載の除去方法。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種、硫酸イオン、カルシウムイオン及び水を含む被処理水中で硫酸カルシウムスケールが発生することを十分に抑制できるレベルまで被処理水中のカルシウムイオン量を低減させることができる、安価な方法及び当該方法の実施に好適なカルシウム除去剤、並びにその関連技術が提供される。更に本発明の好ましい態様によれば、前記のカルシウム除去剤であって、液体の形態とする場合にはその液量を少なくすることができる、カルシウム除去剤及びその関連技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明のカルシウム除去剤及びその製造方法や、被処理水からのカルシウムイオンの除去方法等の実施の形態について詳細に説明する。
【0039】
[カルシウム除去剤]
本発明のカルシウム除去剤は、リン酸イオン源及び炭酸イオン源を含む。リン酸イオン源及び炭酸イオン源は安価な物質であるので、前記カルシウム除去剤は安価に提供することができる。このカルシウム除去剤は、銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種、硫酸イオン、カルシウムイオン及び水を含む被処理水からカルシウムイオンを除去するのに好適に使用される。
【0040】
前記リン酸イオン源の例としては、リン酸及びリン酸三ナトリウム水和物があげられ、リン酸三ナトリウム水和物が好ましい。なお、リン酸三ナトリウム水和物の例としては、12水和物が挙げられる。また、前記炭酸イオン源の例としては、炭酸の金属塩が挙げられる。前記金属としては、炭酸の金属塩のコストの観点からアルカリ金属が好ましく、これらのうちナトリウム及びカリウムがより好ましい。そして炭酸カリウムは水への溶解度が高く、本発明のカルシウム除去剤を液体の形態とする場合に後述する利点があり、特に好ましい。
【0041】
上記の被処理水に、本発明に係るカルシウム除去剤を添加すると、リン酸イオン源から生じたリン酸イオン、カルシウムイオン及び水酸化物イオン(水や水酸化物から供給される)が反応してヒドロキシアパタイト(以下、HAPともいう)が形成されるとともに、炭酸イオン源から生じた炭酸イオンとカルシウムイオンが反応して炭酸カルシウムが形成される。HAPと炭酸カルシウムは水に難溶性であるので、配管中などでスケールを形成し得るが、塩酸などの薬液により容易に除去することができる。本発明のカルシウム除去剤は、前記の通り被処理水中のカルシウムイオンを、スケールとなっても容易に除去できるHAPや炭酸カルシウムとして固定することにより、被処理水(の液相)から除去して、その後の処理工程(被処理水の濃縮が更に進む)において除去が困難な硫酸カルシウムスケールが形成されるのを防止するものである。
【0042】
なお、リン酸イオン源よりも炭酸イオン源の方が一般に安価であるので、炭酸イオン源単独でカルシウムイオンを十分に除去できるなら、リン酸イオン源は使用せずに、炭酸イオン源を単独使用すべきである。しかし本発明が対象とする、銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種(これらはアルカリ性領域において塩基性炭酸塩を生成し得る)を含む被処理水に対しては、前記単独使用では十分にカルシウムイオンを除去することはできず、リン酸イオン源の併用が必要である。被処理水中のカルシウムイオンを好適に除去する観点からは、カルシウム除去剤におけるリン酸イオン源と炭酸イオン源のモル数割合(リン酸イオン源:炭酸イオン源)は、1:1~1:15であることが好ましく、1:2~1:8であることがより好ましい。
【0043】
本発明のカルシウム除去剤を液体の形態(液剤)とする場合には、前記カルシウム除去剤は水を含む。液剤は被処理水への添加やハンドリングが容易であり好ましい。
【0044】
このような液剤であるカルシウム除去剤中では、リン酸イオン源からリン酸イオンが生じ、炭酸イオン源から炭酸イオンが生じている。更に炭酸イオン源は代表的には上述の通り炭酸の金属塩であるが、炭酸イオンのカウンターカチオンである金属イオンも、液剤であるカルシウム除去剤中で生じている。リン酸イオン源が金属塩の場合は、リン酸イオンのカウンターカチオンである金属イオンも生じている。
【0045】
カルシウム除去剤中のリン酸イオンの含有量は、好ましくは10g/L~200g/Lであり、より好ましくは15g/L~180g/Lであり、特に好ましくは25g/L~150g/Lである。このようにカルシウム除去剤中のリン酸イオン含有量を高くすると、被処理水を処理(カルシウムイオンを十分に除去)するのに必要なカルシウム除去剤の量が少なくて済み、液剤の貯蔵や運搬、被処理水の処理プロセスの設備にかける負荷の点で有利である。一方、薬剤コストの観点から、リン酸イオンの含有量は前記の通り200g/L以下であることが好ましい。
【0046】
また、炭酸イオン源が炭酸カリウムである場合、液剤であるカルシウム除去剤中では炭酸イオンとカリウムイオンが生じているが、カルシウム除去剤中の炭酸イオンの含有量は、好ましくは130g/L~430g/Lであり、より好ましくは140g/L~430g/Lであり、特に好ましくは150g/L~430g/Lである(炭酸カリウムとしての含有量は、好ましくは300g/L~1000g/L程度であり、より好ましくは320g/L~1000g/L程度であり、特に好ましくは350g/L~1000g/L程度である)。このようにカルシウム除去剤中の炭酸イオンの含有量を高くすると、被処理水を処理(カルシウムイオンを十分に除去)するのに必要なカルシウム除去剤の量が少なくて済み、液剤の貯蔵や運搬、被処理水の処理プロセスの設備にかける負荷の点で有利である。炭酸イオン源としての炭酸カリウムは水への溶解度が高いため、このような炭酸イオンの高含有量が実現できる。一方、炭酸イオン濃度が430g/Lを超えると炭酸カリウムの溶解度に近づいて析出の恐れがある。
【0047】
また、後述する通り本発明の被処理水からのカルシウムイオンの除去方法において、被処理水にカルシウム除去剤を添加して混合しているとき(HAPと炭酸カルシウムを生成させているとき)の混合液のpH(反応pH)は8~14であることが好ましいが、(液剤である)カルシウム除去剤自体のpHも類似範囲である8~15の範囲にあると、被処理水のpHを大きく変動させることが無く、また炭酸イオンも安定に存在できるので好ましい。カルシウムイオンの除去効率の観点から、カルシウム除去剤のpHは8.8~15であることがより好ましく、9.5~15であることが更に好ましく、10.5~15であることが特に好ましい。
【0048】
本発明のカルシウム除去剤は、以上説明した各成分の他に、例えば水酸化ナトリウムを含んでもよい。液剤であるカルシウム除去剤のpH調整のためである。
【0049】
[カルシウム除去剤の製造方法]
次に、本発明のカルシウム除去剤の製造方法を説明する。本発明のカルシウム除去剤は、有効成分であるリン酸イオン源及び炭酸イオン源を任意の方法で混合することにより、製造することができる。このときのリン酸イオン源と炭酸イオン源の使用量の割合(リン酸イオン源:炭酸イオン源)は、被処理水中のカルシウムイオンの除去効率の観点から、好ましくは3質量部~20質量部:80質量部~97質量部であり(両者の合計は100質量部である)、より好ましくは5質量部~15質量部:85質量部~95質量部である(両者の合計は100質量部である)。
【0050】
更に、カルシウム除去剤は液剤であることが好適である。この場合には、カルシウム除去剤へ更に水を混合することとなる。また上述の通り、炭酸カリウムは液剤であるカルシウム除去剤中の(炭酸イオンの)含有量を高くすることができ、本発明の、液剤であるカルシウム除去剤の製造方法においては、炭酸イオン源として炭酸カリウムを採用することが好ましい。
【0051】
液剤であるカルシウム除去剤の好適なpHは上記の通りアルカリ性の領域であるが、リン酸イオン源として例えばリン酸を使用した場合、リン酸は酸性物質であるから、pH調整のために水酸化ナトリウム等のアルカリ物質を添加することになる。その際には強い発熱反応が生じてしまい、カルシウム除去剤の工業規模での製造を考えると、安全面で懸念がある。
【0052】
そこで本発明では、リン酸に代えて、リン酸三ナトリウム水和物を使用することが好ましい。リン酸三ナトリウム水和物が水に溶解した場合、発熱反応は起こらず(若干の吸熱反応を起こす)、得られる混合液はアルカリ性である。この結果、pH調整をせずともカルシウム除去剤の好適pHの範囲となる。なお、リン酸三ナトリウム水和物の例としては12水和物等が挙げられる。
【0053】
また、リン酸三ナトリウム水和物の水への溶解度(25℃)はそれほど高くないが、加温(発熱反応は自発的に起きて制御できない可能性があるのに対して、加温の場合は昇温の程度を制御できる)することで溶解度が大きく高まる。そしてメカニズムは不明であるが、リン酸三ナトリウム水和物は一度溶解すると液温を低下させても析出は極めて起こりにくい。
【0054】
液剤であるカルシウム除去剤を製造する際のリン酸三ナトリウム水和物、炭酸カリウム及び水の使用量は、それぞれ、
5質量部~30質量部、5質量部~50質量部及び35質量部~90質量部であることが好ましく(三者の使用量の合計は100質量部である)、
10質量部~25質量部、10質量部~40質量部及び45質量部~80質量部であることがより好ましい(三者の使用量の合計は100質量部である)。
【0055】
三者の使用量をこのような範囲とすると、リン酸イオン及び炭酸イオンの含有量の高いカルシウム除去剤(液剤)が得られ、被処理水からのカルシウムイオンの除去効率、液剤の貯蔵や運搬の点で好ましく、また被処理水の処理プロセスの設備にかける負荷が小さい点でも好ましい。
【0056】
なお、カルシウム除去剤のpH調整のために、カルシウム除去剤にNaOHを追加してもよい。
【0057】
[被処理水からのカルシウムイオンの除去方法]
次に、本発明の被処理水からのカルシウムイオンの除去方法(以下、本発明の除去方法1ともいう)について説明する。前記被処理水は、銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種、硫酸イオン、カルシウムイオン及び水を含んでおり、硫酸カルシウムスケールを形成するおそれがあるものである。
【0058】
本発明の除去方法1では、被処理水にリン酸イオン及び炭酸イオンを供給することで、カルシウムイオンを除去する。リン酸イオン及び炭酸イオンは上記の通り安価に供給することができ、被処理水中の成分と反応して炭酸カルシウムやHAPを形成し、硫酸カルシウムの生成を防止する。リン酸イオンよりも炭酸イオンの方が安価に供給できるが、上述のとおり本発明が対象とする被処理水からカルシウムイオンを十分に除去するためには、リン酸イオンと炭酸イオンの併用が必要である。
【0059】
本発明の除去方法1が処理対象とする代表的な被処理水では、銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとの含有量の合計は例えば10mg/L~200mg/Lであり、好ましくは25mg/L~100mg/Lである。
【0060】
本発明の除去方法1が処理対象とする代表的な被処理水では、硫酸イオンの含有量は例えば300mg/L~60g/Lであり、好ましくは2000mg/L~30g/Lである。
【0061】
本発明の除去方法1が処理対象とする代表的な被処理水では、カルシウムイオン含有量は例えば50mg/L~1000mg/Lであり、好ましくは80mg/L~500mg/Lである。
【0062】
本発明の除去方法1が処理対象とする被処理水は、銅イオン、ニッケルイオン及び亜鉛イオン以外の重金属イオンを含有してもよい。前記重金属とは比重が4以上の金属のことであり、その具体例としてはスズ及び鉄が挙げられる。鉄イオンの被処理水中の含有量は、例えば0.01mg/L~50mg/L(好ましくは0.02mg/L~35mg/L)である。
【0063】
以上説明した被処理水の例としては、工場からの廃液を重金属処理(銅、ニッケル、亜鉛を含めた重金属イオンを水酸化物として沈殿させろ過等により除去する。)した後の、処理後液が挙げられる。
【0064】
本発明の除去方法1では、前記被処理水に本発明のカルシウム除去剤(好ましくは液剤の形態)を添加することで、リン酸イオン及び炭酸イオンの供給を好適に行うことができる。
【0065】
カルシウムイオンの除去効率の観点から、被処理水のpH(反応pH)をアルカリ性領域に保持しながらリン酸イオン及び炭酸イオンの供給を実施してHAP及び炭酸カルシウムを形成させることが好ましい。なお、pHを強アルカリ性領域にするには必要な薬剤の使用量が多く、そのような強アルカリ性領域にしてもカルシウムイオンの除去効率は飽和する。以上から、被処理水のpH(反応pH)の保持範囲は8~14であることが好ましく、8.8~13.5であることがより好ましく、9.5~13であることが更に好ましく、10.5~12.5であることが特に好ましい。
【0066】
また、カルシウムイオンの除去効率と薬剤コストの観点から、被処理水へのリン酸イオンの供給量は、被処理水中のカルシウムイオン1モルに対して0.2モル~3モルであることが好ましく、0.3モル~2モルであることがより好ましい。
【0067】
同様な観点から、被処理水への炭酸イオンの供給量は、被処理水中のカルシウムイオン1モルに対して0.3モル~10モルであることが好ましく、1モル~6モルであることがより好ましい。
【0068】
被処理水へのカルシウム除去剤(液剤の形態)の添加量は、被処理水1Lに対して2mL~100mLであることが好ましく、2mL~50mLであることがより好ましく、2mL~20mLであることが特に好ましい。液剤である本発明のカルシウム除去剤も、液量が多ければ被処理水の処理設備への負荷となり得る。しかし上述した通り炭酸イオン源として炭酸カリウムを採用すれば、カルシウム除去剤中の炭酸イオンの含有量を高くすることができるので、被処理水からのカルシウム除去のためのカルシウム除去剤の必要量が少なくなり、被処理水への添加量を少なくすることができる。
【0069】
なお、本発明の除去方法1において、被処理水に炭酸カルシウム等の種晶を添加した後に、カルシウム除去剤を添加してもよい。種晶の添加量は被処理水中のカルシウム1gに対して1g~20gであることが好ましい。
【0070】
<その後の処理プロセス>
本発明の除去方法1にて、リン酸イオン及び炭酸イオンを供給された被処理水中では固形分としてHAPと炭酸カルシウムが生じる。これらを固液分離により分離し、液体成分は例えば蒸発濃縮装置で濃縮し、固体成分は脱水機で脱水する。この濃縮過程で硫酸カルシウムのスケールが発生しやすいが、本発明ではその前段階で被処理水中のカルシウムイオンを十分に除去しているので、前記硫酸カルシウムのスケールの発生が防止される。なお、以上のプロセスを経て最終的に残った固形分は例えば産業廃棄物として廃棄し、固形分から分離された水は再利用したり放流したりすることができる。
【0071】
[重金属含有被処理水からの重金属イオン及びカルシウムイオンの除去方法]
本発明の除去方法1は、以下に記す除去方法のプロセスの一部として好適に利用することができる。
銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種と、
硫酸イオンと、
カルシウムイオンと、
銅イオン、ニッケルイオン及び亜鉛イオン以外の重金属イオンと、
水とを含む重金属含有被処理水から、重金属イオン及びカルシウムイオンを除去する方法(以下、本発明の除去方法2ともいう)。
【0072】
上述したように、前記重金属とは比重が4以上の金属のことであり、その具体例としてはスズ及び鉄が挙げられる。鉄イオンの重金属含有被処理水中の含有量は、例えば0.2mg/L~200mg/Lであり、好ましくは0.4mg/L~150mg/Lである。
【0073】
本発明の除去方法2が処理対象とする代表的な重金属含有被処理水では、銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンの含有量の合計は例えば500mg/L~30g/Lであり、好ましくは1000mg/L~25g/Lである。また、本発明の除去方法2が処理対象とする代表的な重金属含有被処理水では、硫酸イオンの含有量は例えば300mg/L~60g/Lであり、好ましくは2000mg/L~45g/Lである。また、本発明の除去方法2が処理対象とする代表的な重金属含有被処理水では、カルシウムイオンの含有量は例えば50mg/L~1000mg/Lであり、好ましくは80mg/L~500mg/Lである。
【0074】
本発明の除去方法2では、以上説明した重金属含有被処理水に水酸化物イオン源を添加して、重金属を水酸化物にして沈殿させる(マグネシウム等の水酸化物を形成しやすい非重金属のイオンが重金属含有被処理水に含まれている場合は、これらも水酸化物を形成して沈殿する。)。このとき銅イオン、ニッケルイオン及び亜鉛イオン(これらも重金属である。)も水酸化物を形成して沈殿する。前記水酸化物イオン源としては、薬剤コストの観点から水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が好適である。金属水酸化物の添加量は、例えば、重金属含有被処理水中の銅、ニッケル、亜鉛を含めた重金属の合計1gに対して0.8g~20gである。
【0075】
また、必要に応じて更にアニオン性凝集剤やノニオン性凝集剤等の凝集剤を添加して、重金属等の沈殿形成をより確実なものとしてもよい。凝集剤の添加量は例えば、重金属含有被処理水中の、添加された凝集剤の含有量が1~5mg/Lとなる量である。
【0076】
前記水酸化物イオン源(及び必要に応じて凝集剤)を添加して得られた沈殿含有液について、固液分離を行う。固形分については更に分離操作を行って有価金属を回収してもよい。一方液体成分は、銅イオンとニッケルイオンと亜鉛イオンとからなる群より選ばれる少なくとも一種、硫酸イオン、カルシウムイオン及び水を含むカルシウム含有水であり、これからのカルシウムイオンの除去には、上記で説明した本発明の被処理水からのカルシウムイオンの除去方法(本発明の除去方法1)が好適に適用できる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例及び比較例により本発明をより詳細に説明する。なお、以下において各種の評価は、以下の方法により実施した。
【0078】
<温度測定>
pH計(HORIBA製pH meter D-73)の温度計測機能を使用して液温を測定した。
【0079】
<pH測定>
pH値の測定にはHORIBA製pH meter D-73を使用し、測定時の温度が25℃の場合は実測定値を採用し、25℃でない場合はpH測定装置内蔵の校正機能により25℃でのpH値を求めた。
【0080】
<金属元素含有量の測定>
金属元素の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光装置(ICP-OES,日立製,SPS5100)により測定した。
【0081】
<硫酸イオン含有量の測定>
硫酸イオンの含有量は、イオンクロマトグラフィシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製,ICS-1600)により測定した。なお、溶離液として2.7M Na2CO3と0.3M NaHCO3の混合液を用い、分離カラムにDIONEX ionPac AS12Aを、サプレッサーにADRS600を使用した。
【0082】
[比較例及び参考例]
以下の表1の試験No.1に示す組成の廃水に対して炭酸ナトリウムを様々な量で添加して、廃水中のカルシウムイオンをどの程度除去できるかを評価した。試験No.2~6では水酸化ナトリウムを廃水に添加して、そのpHを10に調整した。試験No.3~6では(pHを10に調整した)廃水に炭酸ナトリウムを様々な量で添加して、15分撹拌混合した。試験No.7は試験No.4においてさらにリン酸を廃水に添加したものである。なお、試験No.3~7において廃水の撹拌混合中のpHは、水酸化ナトリウムの添加により10に維持した。なお表1における「1mmol/L」等の濃度の表記は、廃水1Lに対する炭酸ナトリウムの(炭酸イオンとしての)添加量である。
【0083】
【0084】
試験No.2~7においては薬剤の添加により沈殿が生成したので、それぞれ沈殿が生成した液をろ過して、ろ液中のカルシウムイオン及び銅イオンの量を測定した。その結果が表1に示されている。
【0085】
表1より、カルシウムイオンを除去するためには炭酸イオン源(炭酸ナトリウム)を一定量以上添加する必要があり、そのカルシウム除去効果は10mmol/Lで飽和してカルシウムイオン量を60mg/L以下には減らせないことがわかる。さらに試験No.7より炭酸イオン源とリン酸を併用することで、銅を含んだ廃水でもカルシウムイオンを十分に減らすことができたことがわかる。尚、炭酸ナトリウムの水への溶解度は22g/100g水(25℃)で、炭酸ナトリウムを液剤にしようとすると、最大の濃度は220g/Lである(炭酸イオンとしての含有量は約125g/Lである)。一般に溶媒の温度を上げれば溶質の溶解度は高くなるが、炭酸ナトリウムの場合は炭酸ガスが発生してしまう。
【0086】
[調製例1]
純水(pH7)70gに85質量%リン酸水溶液を8.6g添加し、混合した。得られた混合液のpHは1.83、温度は26.2℃だった。
【0087】
続いてこの混合液に48質量%の水酸化ナトリウム水溶液を9mL添加し、混合したところ、発熱して混合液の温度が51.5℃となった。またこのときの混合液のpHは10.21だった。
【0088】
混合液を自然放熱させて温度を25.1℃まで冷却し、混合液に炭酸カリウム50gを添加し混合してカルシウム除去剤を調製した。得られたカルシウム除去剤の温度は40℃、pHは12.3であった。これに水25gを添加して液量を125mLに調整した。最終的なカルシウム除去剤1(pHは12.3だった)中のリン酸含有量は58.5g/L(リン酸イオンの含有量は56.7g/L)、炭酸カリウム含有量は400g/L(炭酸イオンの含有量は174g/L)である。
【0089】
[調製例2]
純水(pHは7、温度は23℃)300gにリン酸三ナトリウム・12水和物(富士フィルム和光純薬製)114gを添加し混合した。吸熱反応が起こっており、得られた混合液の温度は19.9℃であった。また混合液のpHは14だった。なお、ここで添加したリン酸三ナトリウム・12水和物の量は水温20℃程度における水への溶解度を超えており、粉末の一部は溶解しなかった。
【0090】
この混合液に炭酸カリウム200gを添加し混合してカルシウム除去剤を調製した。得られたカルシウム除去剤のpHは15、温度は40.5℃だった。このときの発熱により溶解せず残存していたリン酸三ナトリウム・12水和物が完全に溶解した。
【0091】
前記の炭酸カリウムを添加し混合した液に水100gを添加して液量を500mLに調整した。最終的なカルシウム除去剤2のpHは14.6、温度は38.7℃、(リン酸三ナトリウム・12水和物由来の)リン酸イオン含有量は57g/L、炭酸カリウム含有量は400g/L(炭酸イオンの含有量は174g/L)だった。
【0092】
以降の実施例及び比較例では、カルシウム除去剤としてこのカルシウム除去剤2を用いた。
【0093】
[実施例1]
以下の表2の組成の工場廃液を原水(重金属含有被処理水)とした。この原水のpHは5.19だった。
【0094】
【0095】
この原水2.2Lに48質量%の水酸化ナトリウム水溶液を10.6mL添加したところ、原水のpHは11となり、沈殿(銅、ニッケル、亜鉛、その他重金属の水酸化物を含むと考えられる)が生じた。
【0096】
この原水をろ過して、ろ液に塩化カルシウムを添加した。これによりカルシウムイオン含有量を325mg/Lとしたろ液A(被処理水)を、カルシウム除去剤2のカルシウムイオン除去能力の評価に供した(ろ液Aの組成は後記表3に示した。)。
【0097】
前記ろ液Aに対してカルシウム除去剤2を、ろ液Aの容積に対するカルシウム除去剤2の容積の比率(カルシウム除去剤2/ろ液A)として6mL/L及び8mL/Lの割合で添加して混合し、カルシウムを炭酸カルシウムやヒドロキシアパタイトとして固定した。なお、この固定反応の間、混合液のpHを、必要に応じて48質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて12に保持した。
【0098】
炭酸カルシウム等の沈殿の生じた混合液をろ過して、得られたろ液Bについて、金属成分の含有量の測定を行った。ろ液Aの金属成分の含有量の測定結果とあわせて、下記表3に示す。なおろ液A及び、カルシウム除去剤2を8mL/Lの割合で添加して得られたろ液Bについては硫酸イオンの含有量を測定しており、その結果も表3に示した。
【0099】
【0100】
本発明のカルシウム除去剤の添加により、ろ液A中のカルシウムイオンが十分に除去されたことがわかる。
【0101】
[実施例2]
実施例1で用いた工場廃液を原水(重金属含有被処理水)とした。この原水1Lに48質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、原水のpHを8にした。結果、沈殿(重金属の水酸化物を含むと考えられる)が生じた。
【0102】
沈殿を生じた原水に更にアニオン性凝集剤(アコフロックA-150 MTアクアポリマー社)及びノニオン性凝集剤(アコフロックN-100 MTアクアポリマー社)をそれぞれ、原水中の含有量が2mg/Lになるように添加し混合して更に沈殿を生じさせた。
【0103】
この沈殿を生じた原水をろ過した。得られたろ液C(被処理水)中のカルシウムイオン含有量は129mg/Lだった。このろ液Cに、種晶としての炭酸カルシウムを、1Lのろ液Cに対して2gの割合で添加した。
【0104】
炭酸カルシウムを添加されたろ液Cの1Lに対して、カルシウム除去剤2を10mL添加した後、約250mL×4に分割し、pHをそれぞれ9、10、11、12に調整した上で、15分間反応させた。
【0105】
炭酸カルシウム等の沈殿の生じた混合液をろ過して、得られたろ液Dについて、カルシウムイオン含有量の測定を行った。ろ液Cのカルシウムイオン含有量の測定結果とあわせて、下記表4に示す。
【0106】
【0107】
本発明のカルシウム除去剤の添加により、ろ液C中のカルシウムイオンが十分に除去されたことがわかる。